日本畜産学会報
Online ISSN : 1880-8255
Print ISSN : 1346-907X
ISSN-L : 1880-8255
79 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
一般論文
  • 井上 慶一, 庄司 則章, 小林 正人
    2008 年 79 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種の筋肉内脂肪の脂肪融点(以下,融点),脂肪酸組成および枝肉形質間の遺伝的な関連性を明らかにするため,肥育牛5,314頭のデータを用いて遺伝的パラメータを推定した.融点,脂肪酸組成および不飽和度の遺伝率は,中程度から高い値が推定された (0.31~0.73).これらの形質とBMS(No)との遺伝相関は18 : 2を除いて弱く(-0.09~0.15),枝肉形質との相関も弱かった(-0.11~0.14).血縁係数を用いてクラスター分析で分類した種雄牛グループ間で,BMS,融点および不飽和度の育種価に有意な差が認められた.種雄牛グループの順位は,不飽和度(および融点)とBMSで傾向が異なっていた.これらから,BMSや枝肉形質と融点および脂肪酸組成との間には遺伝的に独立した関係が認められ,融点や不飽和度が新たな肉質改良の指標として利用可能であることが示唆された.
  • 増田 豊, 鈴木 三義
    2008 年 79 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    乳牛の各泌乳ステージにおける検定日乳量に関して,環境効果の大きさおよび遺伝的パラメータを推定し,各要因の泌乳パターンへの寄与について調査した.データは(社)北海道酪農検定検査協会により1989年1月から2006年7月までに集積された初産および2産牛からの検定日記録,ならびに日本ホルスタイン登録協会北海道支局が保持する血縁情報であった.泌乳ステージは分娩後6日から30日間隔で設定した.牛群・分娩年は乳期を通して泌乳量の変動を最も説明したが,分娩月齢および分娩年月による変動は相対的に小さかった.遺伝率は初産において0.19から0.35,2産において0.12から0.29の範囲にあった.牛群・分娩年および分娩年月による泌乳曲線を説明するには,高次の多項式関数が必要であった.相加的遺伝曲線を説明するには,両産次とも2次のLegendre多項式で十分であったが,泌乳パターンは産次によって異なることが示された.
  • 山口 倫子, 美川 智, 林 武司, 中根 崇, 神山 佳三, 粟田 崇
    2008 年 79 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    日本の肉豚の多くはランドレース(L)種と大ヨークシャー(W)種のF1(LW)母豚を用いデュロック(D)種をとめ雄として生産された三元交雑(LWD)種である.本研究ではブタのトレーサビリティシステムに利用できる親子判定法の確立を目的とし,D種を父,LW交雑種を母としたときにより有効なマイクロサテライト(MS)マーカーの選定を行った.既報のMSマーカーから725個をスクリーニングし,10マーカーで総合父権否定確率が0.9999(父母子),0.9976(父子)となるセットを得た.実証試験では,父子関係のある35の組合せすべてにおいて父子関係が確認された.父子関係のないサンプルを用いた場合は1,116組中3組で父子関係を否定できなかったが,総合父権否定確率は0.9973(父子)であり,推測値とほぼ等しい結果となった.選定した10マーカーについてはプライマーを再設計し,1チューブでのマルチプレックス化が可能となった.
  • 谷川 珠子, 大坂 郁夫, 川本 哲, 原 悟志
    2008 年 79 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    とうもろこしサイレージ(CS)の熟期の違いが乳牛の養分利用性に及ぼす影響を検討した.乳熟期,黄熟期および完熟期に設定切断長9 mmで調製したCSを用い,飼料全体のCP含量が14%となるように,それぞれのCSに大豆粕を混合し(乳熟区,黄熟区,完熟区),ルーメンおよび十二指腸カニューレを装着したホルスタイン種乾乳牛3頭に給与した.乾物摂取量は区間に差がなかったが,乳熟区より黄熟区および完熟区はデンプン摂取量が多く,NDF摂取量が少なかった(P < 0.05).ルーメン内のデンプン消化率は登熟に伴い低下し,NDF消化率は乳熟区が他の区より高かった(P < 0.05).登熟に伴い十二指腸への菌体タンパク質移行量が減少し(P < 0.05),完熟区で菌体タンパク質合成効率が低い傾向にあった.総消化管におけるデンプン消化率は区間に差がなかったが,NDF消化率は乳熟区より黄熟区および完熟区で低く(P < 0.05),TDN含量は登熟に伴い低下した(P < 0.05).以上より,黄熟期以降のCSではルーメン内の炭水化物の消化率を高める必要があると考えられた.
  • 増子 孝義, 相馬 幸作, 王 鵬, 山田 和典, 山田 清太郎, 蔡 義民, 新部 昭夫
    2008 年 79 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    北海道根室支庁管内における5地域の酪農家5戸の牧草地から,チモシー1番草を8時(朝刈り)に刈取り13時まで予乾(昼予乾区),15時(夕刈り)に刈取り翌日9時まで予乾(夜予乾区)した.予乾後それらの予乾草を乳酸菌製剤添加(添加区)および無添加(無添加区)によりパウチ法でサイレージを調製した.夕刈り原料草は朝刈りに比べて可溶性炭水化物(WSC)含量は2.9%DM, 単・少糖類含量は1.9%DM高かった.昼予乾区と夜予乾区のWSCおよび単・少糖類含量はともに減少し,その減少量は夜予乾区が昼予乾区よりもそれぞれ約9倍,約2倍高く,サイレージ調製時のWSC含量は夜予乾区がわずかに低かった.予乾草でサイレージを調製し,発酵品質を比較すると,添加区は昼予乾区ではすべての地域で発酵品質が改善されたが,夜予乾区では予乾草の糖含量が低い地域において改善が不十分であった.無添加区は地域にかかわらず昼予乾区と夜予乾区のすべてが低品質になった.予乾草の糖含量はサイレージ発酵中に大きく減少した.
  • 浅井 英樹, 中村 豊, 喜多 一美
    2008 年 79 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    乾乳牛において,1.5または6時間間隔で採取した部分尿から1日の尿中カリウム排泄量を推定する際に,尿の採取時間間隔の違いが尿中カリウム排泄日量の推定精度に及ぼす影響について調べた.供試牛として非妊娠乾乳牛8頭を用い,これらにカリウム濃度が1または2%に調整された飼料を給与した.尿は1日間の全尿採取を実施し,6 : 00~18 : 00においては1.5時間間隔で採取した.これら尿について,カリウムおよびクレアチニン濃度を測定した.その結果,1.5時間間隔で採取した部分尿のカリウムとクレアチニンの濃度比に関しては,各時間帯において有意差は認められず(P>0.05),ほぼ同じ値で推移した.1.5または6時間間隔で得られた部分尿から求めた1日の尿中カリウム排泄量の推定値と実測値との関係を検討したところ,それぞれの相関係数は0.83(P<0.001)および0.89(P<0.001)であり,部分尿として用いる尿の採取時間間隔が短い場合,尿中カリウム排泄日量の推定精度はやや低くなることが示唆された.
  • 山田 真希夫, 櫻井 由美, 小林 正和, 井口 明浩, 神辺 佳弘, 笠井 勝美, 飯島 知一, 矢口 勝美, 浅田 勉, 林 征幸, 甫 ...
    2008 年 79 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    丸粒トウモロコシの給与が肥育後期の産肉性に及ぼす影響を調べるために,19ヵ月齢の黒毛和種去勢牛42頭を供試して,39週間の肥育試験を実施した.丸粒トウモロコシ給与区(丸粒区 : 13頭),挽割り大麦給与区(挽麦区 : 15頭),加熱圧片大麦給与区(圧麦区 : 14頭)の3試験区を設定し,試験穀類を濃厚飼料中に各30%ずつ配合し,濃厚飼料と粗飼料(切断稲ワラ)の比率が92 : 8の混合飼料として給与した.飼料摂取量は,丸粒区が挽麦区より多かった(9.7 kg, 8.7 kg P < 0.01).終了時体重は圧麦区が最も重い傾向を示した.枝肉重量と皮下脂肪の厚さは圧麦区が高かった(P < 0.05).肉質等級は丸粒区が挽麦区や圧麦区より優れていた(4.2,3.7,3.2 P < 0.01).肉質分析では,丸粒区の総色素量がやや低い傾向を示した.屠畜後の内臓所見では,丸粒区は他の2区より第一・二胃壁の異常が少なかった(P < 0.05).以上の結果,丸粒トウモロコシを濃厚飼料中に30%混合給与すると圧片大麦や挽割り大麦給与より,第一・二胃壁の異常が少なく,肉質等級の高い牛肉が生産されることが明らかになった.
  • 高田 良三, 山崎 信, 杉浦 俊彦, 横沢 正幸, 大塚 誠, 村上 斉
    2008 年 79 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    わが国における肥育豚の飼養成績に及ぼす地球温暖化の影響を各地域の月平均気温の変動予測シナリオから推定した.肥育去勢豚(開始体重42.1±5.5kg)を用いて環境制御室において温度と飼養成績との関係を求めたところ,23℃時の日増体量に対して5%,15%,30%低下する時の気温はそれぞれ24.5℃,27.3℃,30.4℃であることが示された.同様に日飼料摂取量に対してはそれぞれ25.9℃,30.3℃,33.8℃であった.6~9月について,その気温域に該当する区域を日本地図上に図示するプログラムにより,肥育豚の日増体量に及ぼす地球温暖化の影響を解析した.「気候温暖化メッシュデータ(日本)」を将来の気候予測データとして用い,約10×10km単位のメッシュで解析を行った.その結果,2030年,2060年と年代の経過と共に日増体量の低下する地域が拡がり,また低下する程度もより厳しくなることが予測された.8月においては現時点ですでに西日本の沿岸部を中心に日増体量の低下が認められるが,2060年になると北海道の一部および標高の高い山間部を除いた大半の地域で日増体量の低下が予測され,特に関東以西では15~30%の厳しい日増体量低下が予測された.以上の結果から,今後予測される地球温暖化の加速化がわが国の養豚生産に大きく影響を与えることが明らかとなった.
  • 齋藤 通子, 伊藤 秀一, 植竹 勝治, 江口 祐輔, 田中 智夫
    2008 年 79 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    中小家畜の感覚能力を測定することを目的としたオペラント行動解析システムを試作し,柴犬を用いてその有効性を検討した.試作したシステムは,3つの刺激提示窓(24cm×24cm),光電管センサーを備えた2つの返答穴(5cm×5cm)と給餌口を備えたオペラントボックス(120cm×120cm×90cm),制御および記録用コンピューター,刺激投影用プロジェクターと報酬飼料自動給餌器から構成され,刺激の提示,正否の判断から報酬飼料の給餌まで全自動で行うことを可能とした.制作した装置の試用として,視覚刺激を用いた見本合わせ課題を2頭の柴犬に対して行った.見本あわせ課題は,中央に提示される見本刺激と同一の図形を,左右の比較刺激から選択すると正答となる選択型同一見本合わせ課題を用いた.提示した視覚刺激は,黒く塗りつぶされた円形,三角形および四角形で縦の長さはいずれも6cmとし,液晶プロジェクターを用いて提示した.予備訓練では,1セッション(30試行)を通じて同じ図形を見本刺激として中央に提示し,比較刺激の位置を無作為に変更した.予備訓練終了後に1セッションの中で円形,三角形および四角形の3種類を正刺激としてランダムに用いる見本合わせ課題を行った.予備訓練と見本合わせ課題ともに1セッションあたり21試行(70%)以上の正解(P<0.05,χ2検定)が3セッション連続した時点で弁別可能とした.予備訓練において,個体1は三角形,円形,および四角形について,それぞれ3セッション,4セッション,および8セッションで弁別基準に達したが,個体2は円形のみ3セッションで基準に達したものの,四角形では基準に達しなった.そこで,個体1を用いて見本合わせ課題を行ったが,その学習成立までには至らなかった.見本合わせ法による弁別学習の成立には至らなかったが,予備訓練が成立したことから,試作した全自動オペラント行動解析システムは,中小家畜における認知研究を行う上で有用となる可能性が確認された.
  • 小針 大助, 小迫 孝実, 笈川 久美子, 深澤 充, 塚田 英晴
    2008 年 79 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    ウシの電気牧柵からの脱柵様式について検討した.黒毛和種牛5頭を使用した.放牧地内の8×26mを電気牧柵で囲い,試験区とした.7日間の試験期間中,電気牧柵は初日と最終日以外,非通電とした.試験前日からウシを試験区に導入し,試験期間中に毎日,柵外採食痕を計測した.試験では飼料を柵外に提示し,その時の電気牧柵との非接触・接触摂食距離,接触頻度・時間,前屈・脱柵の発現までの時間を計測した.柵外採食痕の到達距離は日数経過に伴い増加し,4日目以降は有意に長くなった(P < 0.05).接触摂食距離,頻度,時間は姿勢変化,漏電日数経過に伴い増加し,接触頻度は5日目に有意に増加した(P < 0.05).前屈は非通電直後から,脱柵は非通電24時間後から確認され,それらの発現までの時間は日数経過に伴い縮まった.電気牧柵の心理的効果は非通電24時間後には低下すると同時に,前屈は脱柵の指標行動となると考えられた.
  • 田端 祐介, 大石 風人, 熊谷 元, 広岡 博之
    2008 年 79 巻 1 号 p. 79-88
    発行日: 2008/02/25
    公開日: 2008/08/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,肉牛肥育—水稲作複合システムにおける栄養素収支と内部循環の関係について検討を試みた.事例農家における窒素,リンフローの調査データを用い,肉牛肥育—水稲作複合システムにおける栄養素フローモデルを構築し,肉牛飼養密度の増減に伴う窒素とリンの収支および循環を示した.その結果,システムの栄養素利用効率(搬出量/搬入量)に影響を及ぼす要因としては,肉牛飼養密度,家畜生産と作物生産の生産物/搬入比,堆肥搬出の影響が大きく,内部循環はこれらの要因より影響が小さいことが示唆された.また,事例農家のシステムでは,内部循環は,窒素とリンのロス量(搬入量—搬出量)を低減させるが,システム全体の利用効率を窒素では増加,リンでは逆にやや減少させることが示された.さらに,肉牛飼養密度の増減に伴う内部循環とシステム全体の窒素とリンの収支の関係を示した結果,内部循環と栄養素収支との関係性には一定の傾向がみられなかった.
feedback
Top