日本畜産学会報
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79 巻, 4 号
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総説
  • 杉浦 勝明
    2008 年 79 巻 4 号 p. 445-458
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    飼料の品質の保全を目的として1953年に制定された「飼料の品質改善に関する法律」は,その後飼料の生産,流通を取り巻く環境が変化する中で,1975年に「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)」に改名され,飼料の安全確保に関する規定が追加された.飼料安全法に基づき,飼料の製造業者,販売業者などは飼料の安全確保のための一定の義務が課せられ,これらの義務の履行を確保するために,農林水産省,独立行政法人農林水産消費安全技術センター,都道府県などにより監視・指導が行われている.21世紀に入りわが国で最初の牛海綿状脳症(BSE)感染牛が確認されるとともに,遺伝子組換えトウモロコシのスターリンク問題が発生した.これらの問題および食品中に残留する農薬などのポジティブリスト制度の導入に対処するため,肉骨粉などの飼料用利用の禁止,遺伝子組換え飼料の混入の許容基準の設定,飼料中の農薬などの残留基準の設定がそれぞれ行われた.今後は,飼料の製造工程への適性製造基準(GMP)の導入,いわゆるエコフィードの安全性の確保,飼料のトレーサビリティの推進,抗菌性飼料添加物などの飼料による薬剤耐性菌のリスク管理,ペットフードの安全性の確保が課題となっている.
  • 撫 年浩
    2008 年 79 巻 4 号 p. 459-466
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種の改良は肉質のみならず枝肉構成の改良が必要である.枝肉構成は品種などの遺伝的要因により影響を受ける.飼養管理の影響では肥育開始後の飼養管理の違いは,最大成長が早期である骨には影響がなく,次いで最大成長となる筋肉では若干の影響が見られ,最大成長が遅い脂肪では,大きな影響が見られた.さらに,出荷月齢を延長した場合は,筋肉より脂肪が増加することを示している.枝肉構成の簡易推定技術では,これまでの成果から枝肉重量と枝肉切開面の脂肪に関する画像情報を取り込むことで,推定精度が向上する.また,より正確な枝肉構成を予測するためには品種および雌雄ごとに検討する必要がある.さらに,今後,超音波診断技術等からの生体情報と枝肉構成の推定技術と併せることで,生体において高精度で牛枝肉構成を推定することが可能となり,より効率的に肉用牛の枝肉構成に関する育種改良や飼養管理技術の改善が進むとしている.
一般論文
  • 永井 宏平, 吉廣 卓哉, 井上 悦子, 池上 春香, 園 陽平, 川路 英哉, 小林 直彦, 松橋 珠子, 大谷 健, 森本 康一, 中川 ...
    2008 年 79 巻 4 号 p. 467-481
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    我々は,黒毛和種肥育牛の枝肉形質に関連するバイオマーカーの同定を目的とする大規模プロテオーム解析に特化した統合情報管理システムを構築した.この統合情報管理システムを利用することで,血統情報や枝肉形質の情報など43項目におよぶ肥育牛の生物情報とプロテオーム解析で得られる数百から数千個におよぶタンパク質スポットの発現量データを一元的に管理することができ,柔軟な検索機能を有したデータ管理・検索インタフェースを介して,様々な統計解析やデータマイニング解析に必要なデータ群を簡便に抽出することが可能になった.本稿では,本システムの概要を示すとともに,現在までに蓄積されている黒毛和種肥育牛の枝肉形質・血統データ,および腎周囲白色脂肪組織におけるタンパク質発現データを用いてシステムを稼働・実施することで,(1)種雄牛BとCの産子の枝肉重量の比較,(2)二代祖(母の父)が,種雄牛Dの産子の枝肉形質に与える影響の解析,(3)バラの厚さの高い群と低い群の間での十個のタンパク質スポットの発現量の比較(4)エネルギー生産に関わるタンパク質であるF1 ATPsynthase chain Fの発現量と枝肉形質との相関解析などの解析を行い,本システムの有効性を実証した.
  • 岡野 寛治, 西本 有紀子, 宇佐川 智也
    2008 年 79 巻 4 号 p. 483-490
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    シイタケ培養によるバガスの消化性改善に及ぼす菌株と培養条件の影響を検討した.試験1 : バガスにシイタケの4菌株,K, IFO 6654, USP(No. 456)およびTMI-1256を,26℃で8週間培養した.試験2 : バガス・米ぬか(9 : 1)培地にUSPを,26℃で4週間培養した後,25℃または30℃で4週間培養した.試験3 : バガス・米ぬか培地にTMIを,28℃で8週間または12週間,および28℃と32℃でそれぞれ4週間培養した.試験1 : 培養後のバガスのin vitro有機物(OM)消化率(in vitro OM digestibility ; IVOMD)はKおよびIFOに比べてUSPおよびTMIが高かった(P < 0.05).TMIを培養したバガスのリグニン含量が4菌株の中で最も低かった.試験2 : USPを25℃と30℃で培養した培地のIVOMDおよび48時間のin vitroガス生産量(in vitro gas production ; IVGP)の間には差が見られなかった.しかし,24時間のIVGPおよびin vitro NDF消化率(in vitro NDF digestibility ; IVNDFD)は,30℃が25℃より高かった(P < 0.05).試験3 : TMIを28℃で12週間培養した培地のIVOMD,48時間のIVGPおよびIVNDFDは,8週間培養したものより高かった(P < 0.05).しかし,8週間培養した培地のIVOMD, 48時間のIVGPおよびIVNDFDには,培養温度による差は認められなかった.USPを26℃と30℃でそれぞれ4週間培養する条件が最も効果的であった.
  • 竹之山 愼一, 井本 貴典, 林 ひとみ, 河原 聡, 岩切 正芳, 来間 太志, 吉元 誠, 六車 三治男
    2008 年 79 巻 4 号 p. 491-496
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,カンショ茎葉の有効利用とそれらの有する機能性成分を活かした家畜飼料の開発を目的とし,肉用豚の産肉性および肉質に及ぼすカンショ茎葉添加飼料給与の影響について調査した.三元交雑種(ニューハマユウW×L×D)に肥育前期(30 kg~)より出荷まで,市販飼料(対照区)にカンショ茎葉乾燥5%添加した飼料(試験区)を給餌し,その間の成育状況(肥育日数,飼料摂取量,飼料要求率など),産肉性(一日増体重,背脂肪厚,ロース断面積など),肉質(ビタミンE, 脂質含量,脂肪酸組成など),内臓検査所見について調べた.カンショ茎葉飼料の嗜好性は良好であり,発育性は両区で大きな差は認められず,内臓検査所見では試験区が良い傾向にあった.肉質は脂質含量や脂肪酸組成には有意差は認められなかったが,脂肪組織中のビタミンEは試験区が有意に高い値を示した.カンショ茎葉が肉用豚の飼料として有効利用可能であり,食肉の付加価値を高められる可能性が示唆された.
  • 石塚 譲, 西岡 輝美, 大谷 新太郎, 入江 正和
    2008 年 79 巻 4 号 p. 497-506
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種,交雑種および乳用種149,288頭の食肉市場データを用い,シコリ発生割合に及ぼす年度,品種,性,体重,月齢の影響,その他の格付項目等の影響を検討した.黒毛和種と交雑種のシコリ発生割合は,乳用種より高く(P < 0.01),1998-2003年で増加傾向がみられた.シコリの発生は僧帽筋で高く,ロース部位では背半棘筋で高く,必ずしも両側に見られなかった.黒毛和種および交雑種の発生率は,品種×部位,部位×性の交互作用が認められた(P < 0.01).シコリの発生率は,黒毛和種と交雑種(雌)では肉質等級の高いもの,黒毛和種(去勢)と交雑種では皮下脂肪厚の薄いもの.去勢(黒毛和種,交雑種)では体重の小さいもの,雌(黒毛和種,交雑種)では脂肪交雑の高いもの,黒毛和種去勢では月齢の高いものが各々高かった(P < 0.05またはP < 0.01).また,発生割合は農家間で異なった.以上から,シコリ発生割合は,近年増加し,乳用種よりも交雑種や黒毛和種で多く,瑕疵部位の中では僧帽筋に多いこと,性,体重,月齢および生産農家などの条件で異なることが判明した.
  • 前原 正明, 村澤 七月, 中橋 良信, 日高 智, 加藤 貴之, 口田 圭吾
    2008 年 79 巻 4 号 p. 507-513
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種572頭のロース芯から得た脂肪交雑の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより分析した.ロース芯を画像解析した値と,各脂肪酸との関連性を調査した.モノ不飽和脂肪酸(MUFA)割合の平均値は57.0%(去勢 : 56.4%,メス : 58.3%),ロース芯脂肪割合の平均値は44.4%(去勢 : 45.6%,メス : 41.6%)であった.MUFA%は出荷月齢およびBFSナンバーと正の相関を示した(それぞれ0.27,0.25 : P < 0.01).BMSナンバーと有意な相関を示した脂肪酸はステアリン酸(-0.11 : P < 0.01)のみであった.MUFA%はあらさ指数(0.16)および最大あらさ指数(0.11)と正の,細かさ指数(-0.17)と負の相関係数を示した(P < 0.01)が,ロース脂肪割合(0.04)とはほぼ無関係であった.脂肪交雑の平均階調値はMUFA%と負(-0.38)の,パルミチン酸と正(0.43)の相関係数を示した(P < 0.01).
  • 西岡 輝美, 石塚 譲, 安松谷 恵子, 久米 新一, 入江 正和
    2008 年 79 巻 4 号 p. 515-525
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種の枝肉単価に対する枝肉形質や脂肪の理化学的特性の影響を調べた.市場出荷枝肉1326頭の格付情報を利用し,うち144頭の皮下および筋間脂肪の脂肪酸組成を測定した.単価を目的変数,格付項目を説明変数とする重回帰分析では,標準偏回帰係数が「BMS」,次いで「締まり」で高かった.脂肪の「光沢と質」と「脂肪色」は変動が小さく,標準偏回帰係数は小さかった.一方,脂肪の脂肪酸組成は個体差が大きかった.説明変数に皮下脂肪の脂肪酸組成を加えた重回帰分析から,モノ不飽和脂肪酸割合は単価に僅かに負の影響を与えることが示されたが,その影響はBMSナンバーにより異なった.格付結果からの単価推定値に比べ単価の高い枝肉は,皮下脂肪でモノ不飽和脂肪酸割合が低かった(P < 0.05).以上から,今日でも黒毛和種の枝肉単価にBMSナンバーが大きく影響するが,脂肪の脂肪酸組成も影響を与えることが明らかになった.
  • 中橋 良信, 村澤 七月, 奥村 寿章, 波田 瑞乃, 藤嶋 吉宏, 山内 健治, 日高 智, 口田 圭吾
    2008 年 79 巻 4 号 p. 527-533
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    黒毛和種骨格筋の複数の部位を用いてモノ不飽和脂肪酸(MUFA)割合の推移ならびに第6-7胸椎間ロース芯と他の骨格筋のMUFA割合の関連性について調査した.由来個体2頭の体細胞クローン牛5頭から6部位(半膜様筋,大腿四頭筋および大腿筋膜張筋,棘上筋,大腰筋,中臀筋および大腿二頭筋近位部,最長筋)を取り出し,頭側から2 cm間隔でスライスした.それらのスライス肉の筋断面の表面から脂肪サンプルを採取し,ガスクロマトグラフィーによって脂肪酸組成を分析した.MUFA割合の推移は骨格筋によって異なり,また由来個体によって影響されることが示された.由来個体および骨格筋にはMUFA割合に対して交互作用があり,由来個体によってMUFA割合が高くなりやすい部位が存在することが示唆された.第6-7胸椎間ロース芯と各骨格筋間の相関は非常に強く(r = 0.92~0.99),また骨格筋同士の関連性も強かったことから,第6-7胸椎間ロース芯におけるMUFA割合は枝肉を代表することができると推察された.
  • 深澤 充, 小針 大助, 小迫 孝実, 笈川 久美子, 塚田 英晴
    2008 年 79 巻 4 号 p. 535-541
    発行日: 2008/11/25
    公開日: 2009/05/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,電気牧柵を利用した放牧における脱柵発生までの行動過程について検討した.実験1では電気牧柵に通電している状態で放牧を行い,摂食行動および電牧線への接触回数を記録した.実験2では電気牧柵に通電していない状態で放牧を行い,その間の電牧線から2 m以内に滞在した柵前滞在時間と試験区の外側の草を食べる柵外摂食時間を記録した.実験1では2日目から電牧線の下から試験区外側の草を摂食する行動がみられた.その際に頸部への電牧線の接触見られ,放牧の進行に伴い増加した.しかし脱柵は発生しなかった.実験2では柵前滞在時間および柵外摂食時間は放牧の進行に伴って増加し,柵外摂食の際に電牧線に接触している状態も観察された.脱柵は放牧地内の草量が維持量を下回った時に発生した.したがって放牧牛は放牧中にも電牧線に触れることでその存在を確認しており,通電していない場合に,電牧線への接触を繰り返すことで忌避レベルが低下していくことが考えられた.また,脱柵は忌避レベルが放牧地外の誘因レベルを下回ることにより発生すると考えられた.
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