日本畜産学会報
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80 巻, 4 号
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総説
  • 杉浦 勝明
    2009 年 80 巻 4 号 p. 419-428
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    近年,飼料を原因とする食品安全を脅かす事故や事件が相継いで世界で発生し,飼料の安全確保が注目されている.ダイオキシン,カビ毒,重金属,有害微生物など飼料の安全性を脅かす様々な危害要因から飼料および飼料原料の安全を守るために,コーデックス委員会による適正動物飼養規範の作成など,国際機関により様々な活動が行われている.この適正動物飼養規範の実施の度合は,国により異なるが,飼料の製造工程への適正製造基準(GMP),危害分析重要管理点(HACCP)などの導入が欧米諸国を中心に進みつつある.飼料および飼料原料の安全性の評価については,国際的なガイドラインなどは作成されておらず,食品を対象として開発された基準が準用されている.また,飼料安全に関する国際的な情報交換システムはなく,食品安全または動物衛生関係の情報ネットワークの中で情報交換が行われているにすぎない.今後は,飼料製造工程へのGMPなどの導入のさらなる推進,飼料原料や飼料添加物の安全性の評価の国際基準の作成,簡易な飼料の分析法の開発,飼料の安全性に関する国際的な情報ネットワークの構築,新たな飼料原料の安全管理が課題となっている.
一般論文
  • 高橋 和裕, 木村 信熙, 田中 実, 大久保 武
    2009 年 80 巻 4 号 p. 429-435
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    本研究では黒毛和種の成長ホルモン受容体(GHR)遺伝子のプロモーター領域に見いだされたLINE-1多型と黒毛和種肥育牛の枝肉形質との関連について香川県内で肥育された348頭の枝肉評価の成績を元に解析を行った.遺伝子頻度はLINE-1反復配列を有するL型0.529,LINE-1反復配列を欠失するS型0.471であった.遺伝子型と枝肉形質との関連については,胸最長筋面積およびバラ厚についてはL型ホモ(LL)がヘテロ型(LS)およびS型ホモ(SS)に対して有意に優れていた.また歩留基準値は,LLがSSに対して有意に高かった.しかしながら脂肪交雑基準は遺伝子型による差は認められなかった.以上の結果,黒毛和種のGHR遺伝子のLINE-1多型は黒毛和種の筋肉量と関連し,L型遺伝子の導入が肉量増加に有効であることが示唆された.
  • 南條 正昭, 村澤 七月, 中橋 良信, 浜崎 陽子, 口田 圭吾
    2009 年 80 巻 4 号 p. 437-441
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    北海道内の枝肉市場に上場された黒毛和種(n = 4,343),ホルスタイン種(n = 174)およびホルスタイン種に黒毛和種を交配した交雑種 (n = 3,343)の枝肉格付形質および画像解析形質を比較し,ヘテローシスの影響を調査した.枝肉格付形質において,他の品種と比較して黒毛和種のロース芯面積(56.5 cm2)は大きく,BMSナンバー(5.09)も最も高い値を示した.一方,ホルスタイン種は枝肉重量(474.5 kg)で最も重く,歩留基準値(69.54)やBMSナンバー(2.29)は最も低く,他の枝肉格付形質においても低い値が多かった.交雑種は皮下脂肪厚(2.66 cm)を除く全ての形質で両純粋種の中間の値となった.BMSナンバーに大きく影響を与えるロース芯脂肪割合は,交雑種で32.45%と黒毛和種(41.67%)およびホルスタイン種(23.69%)の中間値に近かったものの,BMSナンバーは黒毛和種(5.09)およびホルスタイン種(2.29)の中間値(3.69)より低く評価された(3.02).ロース芯脂肪割合の両親平均ヘテローシス(APH)はほぼ両純粋種の中間値(-0.7)であったにも関わらず,交雑種のBMSナンバーは低く(3.02)評価された.この要因として交雑種のあらさ指数(12.96)が黒毛和種(11.61)とホルスタイン種(13.27)の中間値(12.44)よりも高く,あらい脂肪交雑粒子の存在が格付員の判断に変化を生じさせたことが考えられた.
  • 小橋 有里, 石黒 智子, 若松 純一, 奥村 朋之, 高萩 陽一, 岩渕 修, 飯村 裕二, 川島 知之, 小林 泰男, 服部 昭仁, 村 ...
    2009 年 80 巻 4 号 p. 443-450
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    乳業工場から排出された液状ホエーを通常飼料に付加的に給与し,豚肉生産試験を行った.9腹の離乳豚66頭を通常飼料のみで飼育した対照区(CN区)と通常飼料に液状ホエーを付加的に給与したホエー区(Whey区)に母豚効果を配慮して分けた.Whey区には試験期間を通して267 L/頭の液状ホエーを給与した.両区は経時的に体重測定を行い,出荷直前に採血をして自然免疫の状態を比較した.平均体重は65日齢と173日齢でWhey区の方が有意に高かった(P < 0.05).日増体量はWhey区の方が生後29-65日の期間(P < 0.01)と105-173日の期間(P < 0.05)で有意に高かった.また,枝肉成績およびロース肉の理化学的特性はWhey区とCN区とで有意差は認められず,自然免疫状態についても有意差がなかった.以上の結果から,液状ホエー給与は枝肉成績および肉質に影響を与えることなくブタの出荷日齢を短縮する傾向にあり,生産性向上に有効であることが示された.
  • 安藤 哲
    2009 年 80 巻 4 号 p. 451-456
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    夏期の放牧時の暑熱対策として,ひ陰舎の防暑効果を明らかにすることを目的として,放牧地に遮光率51%, メツシュ1×1 mmの黒色寒冷紗を2枚重ねたひ陰舎を設置した. 環境温度として乾球温度(DBT),湿球温度(WBT),黒球温度(GT)を日射下とひ陰下で測定した.ウシの生理指標として直腸温(RT),平均体温(Tb),呼吸数(RR)などを日射下とひ陰下で,黒毛和種繁殖雌牛について,3日間ずつ測定した.環境温度についてはGTが日射区とひ陰区とで大きく異なり,日射を考慮した体感温度ET(DBT, GT)に有意差が認められた.生理指標は,日射区とひ陰区間でRTは差がはっきりしない場合があったのに対して,Tbは常に1%水準で有意差が認められた.また,ひ陰区ではRRの上昇が抑制されており,日射区で認められたパンティングが認められなかった.以上のことから,寒冷紗を用いたひ陰舎は,夏期の放射熱を防ぎ,黒毛和種繁殖雌牛の暑熱防止に有効であると考えられた.
技術報告
  • 宮地 慎, 大下 友子, 青木 康浩, 中村 正斗, 青木 真理, 上田 靖子, 西浦 明子, 田鎖 直澄, 伊藤 文彰
    2009 年 80 巻 4 号 p. 457-463
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    自由採食下での泌乳初期初産牛の反芻胃容積,消化管部位の内容量,発酵様相,内容物滞留時間を調べた.ホルスタイン種初産牛6頭に分娩後37日から牧草サイレージ,トウモロコシサイレージ,大豆粕,配合飼料からなる混合飼料を自由採食させ,分娩後47日に屠殺し,消化管を10部位に分割し,各組織と内容物を採取した.注水法で測定した反芻胃容積は131.9 Lで,反芻胃容積に対する内容物量は,総量,乾物量,液量でそれぞれ511.1,84.1,427.0 g/Lであった.総VFA濃度は,反芻胃で148.9 mmol/L, 後腸前部位(盲腸から円盤結腸)で84.6-87.3 mmol/L, 後腸後部位(遠位結腸以降)は73.1-74.2 mmol/Lであった.滞留時間は,反芻胃が26.0時間で全消化管(34.1時間)の76.1%を占めたのに対し,第三胃および後腸部位(盲腸以降)では2.7(7.9%)および3.3時間(9.8%)であった.以上の結果から,泌乳初期の初産牛の反芻胃内容量は,泌乳前期以降あるいは泌乳初期の経産牛のそれと比べ少ないこと,また後腸内の内容物滞留時間は短く,泌乳初期牛においては後腸内発酵の寄与が小さいことが示唆された.
解説記事
  • 寺田 文典
    2009 年 80 巻 4 号 p. 465
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    日本学術会議は,「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議」と題する国際コンファレンスを2003年から毎年一度ずつ,議論の焦点を移動させて開催してきた.これまでに開催された6回の会議では,«エネルギー»,«アジアの巨大都市»,«アジアのダイナミズム»,«グローバル・イノベーション・エコシステム»,«国際開発協力»,«持続可能な福祉»をそれぞれ議論の焦点に据え,持続可能な社会の制度と政策の在り方を巡って,国内外から招聘した専門科学者を交えて検討を重ねてきた.そして今回は«食料のグローバルな安全保障»をテーマに開催した.食料問題に関する議論ではそれぞれの国の国益を第1義的に重視する食料安全保障が焦点とされることが多いが,今回は地球全体の,あるいは人類全体の«食料のグローバルな安全保障»を焦点として,世代間の衡平性,ならびに同時代を生きる人間同士の衡平性を軸として検討を行った.
    会議は基調講演,セッション1 : 畜産の持続可能な発展,セッション2 : 海洋生態系と水産食資源の持続可能性,セッション3 : 食料安全保障と持続的作物生産,そして総括討論からなり,活発な討議がなされた.
    本解説記事では,会員の参考になるよう,セッション1 : 畜産の持続可能な発展について,セッションの趣旨紹介と演者4名の要旨を掲載することとした.
    掲載にあたって御尽力いただいた独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所川島知之研究チーム長に深謝の意を表する.
    なお,会議のプログラム(発表資料,英文アブストラクトを含む)は次のURLに掲載されている.
    http : //www.scj.go.jp/ja/int/kaisai/jizoku2009/ja/program.html
  • 川島 知之
    2009 年 80 巻 4 号 p. 466
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    持続可能な農業の基本的な概念は,地域的にも世代間でも衡平に食料供給を可能とすることとも言われている.BRICsを代表とするような開発途上国における経済発展に伴い,畜産物の需要を満たすため,そのような国々で家畜生産が急速に伸びている.このことにより,動物タンパク質摂取に関する南北差が小さくなり,地域的な差が解消されつつあると言えるが,急速な畜産の進展により環境破壊が生じ,将来における生産性を低減してしまう恐れがあり,その結果として世代間の衡平性を失ってしまうかもしれない.
    開発途上国における畜産の持続可能な発展と畜産物の安定供給はグローバルな食料安全保障にとって重要な課題である.畜産の進展によるリスクをコントロールするための技術革新とその技術の適切な使用が求められている.そのようなリスクとしては,耕地の劣化,水質汚濁などの家畜生産に伴う地域的な課題,地球温暖化に関わるグローバルな課題,家畜衛生に関わる課題,畜産物の品質や安全性に関わる課題,飼料や畜産物の貿易に関わる行政的な課題などが存在する.一方,畜産の振興により,土地の集約的利用や畜産物の加工による高付加価値化を通して,雇用の創出や収入の増加なども期待される.
    わが国は飼料自給率が26%に過ぎない資源の乏しい国であるが,技術立国を標榜している.畜産の持続可能な発展と題するセッション1においては,開発途上国における持続可能な畜産の発展のための科学技術的な,あるいは社会経済学的な課題について検討を加えるとともに,持続可能性について日本の科学者がいかに貢献できるかについても考えたい.
  • SIMPSON James R.
    2009 年 80 巻 4 号 p. 467
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    中国における畜産物に対する需要,必要とされる家畜頭羽数,人の食料と家畜飼料の需要を満たしうる中国の能力について,2010年,2020年,2030年の予測を示す.水産物の国内需要と水産物輸出の影響についても同様に予測を示す.なぜ中国は畜産物や水産物の自給率を現在の水準で維持できるのかについて,その正当性を示したい.中国はエネルギー飼料については要求量を十分に満たすことができるが,タンパク質飼料については引き続きそして今以上の輸入国となるであろう.しかし,経済的な見通しから,これらの輸入は作物の輸出と特に水産物の輸出と相殺されうる.
    中国における飼料の種類とその栄養価,ならびにその使用方法の多様性のため,本研究において予測のためのプログラム作成については代謝エネルギーと粗タンパク質をベースとしてすべての家畜(魚の養殖も含む)要求量と利用性の計算を行った.この800の変数と2200以上のパラメータを用いた非決定性シミュレーションのスプレッドシートプログラムによる予測はこれまでに実際に起こったことと極めて近い値を示していることからその妥当性が示されている.また,技術開発とその生産への影響の詳細な分析も可能にしている点は特筆できる.
    一人当たりの消費量に関する予測は中程度の好景気時期をベースとしている.飼料の要求量や利用性に関する予測はバイオテクノロジーが作物や家畜生産に好影響を与えるであろうという比較的控えめなものである.パラメータは,作物の生産性や家畜生産に関して中国や海外においてすでに知られているか,実際に採用されている技術に基づいて設定されている.作物生産や飼料生産に影響する,水の利用性や気候変動を含む,中国の天然資源に関する制限要因についても考慮してある.
    肉と卵の消費量は2000年から2030年の30年間にそれぞれ40%と24%増加すると予想された.しかしながら,畜産と水産における構造的な変化と生産性の向上のため,ブタと家禽の数は2000年に比べて2030年には減少すると予想されている.役用の大型家畜は2000年の数値の25%ほどになり,そのために用いられていた飼料は他の目的に利用できるようになる.一人当たりの牛乳消費量は30年間で7 kgから40 kgに増加するが,乳牛1頭あたりの牛乳生産量は引き続き低く,乳牛の頭数は現在の水準をやや超える程度である.
    肉牛の生産性は2000年から2030年に向けて75%増加すると予測される.しかし,1 kgの牛肉を生産するのに必要とされる飼料はやや減少するだけで,結果として実質的な飼料要求量は増加する.政府はトウモロコシ茎葉のような処理をした粗飼料のような,低・未利用資源の飼料利用を推進しており,政策は牛肉生産にとって非常に重要なものとなっている.これらの低未利用飼料資源は反芻家畜用飼料として利用されるものであり,もしバイオエタノール生産のためのエネルギー源としてセルロース資材の利用を政策が推進するならば,タンパク質の輸入に大きな影響を与えかねない.
    水産養殖は中国における飼料用タンパク質要求量の25%を占める.生産面積のさらなる拡大はタンパク質飼料の実質的な輸入を促進する.肉牛や水産養殖における飼料の使用量の変化が適度であれば,大豆の輸入(タンパク質源としての輸入の大多数を占める)は現在の約3500万トンから2020年には約6000万トンになる.
    中国の畜産と水産養殖に関する飼料利用を参考にすると,日本は食料の自給率を向上できると思われる.予測のモデルに中国のバイオエタノール生産のプログラムを組み込むことから一つの例を示すことができる.スウィートソルガムは主要なエネルギー原料であり,莫大な生産量を示す(1 haあたり約70トンの茎と4トンの穀実).その潜在的な影響力を検討するため,日本における耕作放棄地の問題(耕作可能地の約10%)を取り上げたい.反芻家畜の優れた飼料であり,世界中で広く利用されているスウィートソルガムを耕作放棄地の半分に植え付けるならば,栄養学的に日本の肉牛生産すべてに必要な飼料のかなりの部分を補うことができる.
    一方,警告として,中国は農産物や水産物について輸出振興策をとり,機会に応じてその生産量を調整する能力を持っている.もし日本がWTO貿易交渉のドーハラウンドや将来のラウンド,あるいは二国間の条約において関税の削減を強いられるならば,中国は日本の食料輸入量のシェアを拡大するに違いない.
  • LENG Ron A.
    2009 年 80 巻 4 号 p. 468
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    現在世界は,相互に関係し,作用しうる次の3つの危機に直面している : 気候変動,ピークオイル(安価なエネルギーの終末),そしてグローバルな資源枯渇.バランスの良い食事を心がけることはもちろんのこと,予想される将来の世界の人口に対しての食事を供給するために大きな変革が必要であることは言うまでもない.
    エネルギーに関連して,食料との関係を理解しなければならない.近代的な農業はエネルギー集約的な産業であり,エネルギー価格の高騰により影響を受けやすい.肥料の主要な原料は天然ガス(窒素肥料生産コストの70-90%)であり,生産資材の中で肥料は最大のエネルギーを使用する.安価な化石燃料により,食料や飼料(穀類がその80%を占める)は安価に生産することができた.しかし,原油は枯渇するに従って価格が上昇し,このような状況は大きく変化する.その結果,人の食料や企業的な畜産のための飼料の入手に大きな混乱を招きかねない.同時に食料や飼料生産のための肥沃な土地は多くの複合した問題のため収量の減少とともになくなりかねない.これらの問題とは : 気候変動による破壊的効果,農業用水の減少,土地の利用性と肥沃土の減少,バイオエタノール生産のための原料作物のための土地利用の拡大.ピークオイルの最悪の影響は気候変動による最悪の影響より早急に生じ,多くの国々における将来の畜産戦略に影響する主要な要因となりうる.
    畜産革命は,穀類の輸出国において発展したことと同様に,ブタや家禽,そして反芻家畜の生産をさせるために工業国から開発途上国に輸出される世界の余剰な(それ故安価な)穀類に基礎を置いている.しかしながら,もし人口が67億から90-100億に増加するならば,人が必要とする穀類(食料と工業原料)に対して余剰となるものは現在の発展シナリオとは異なるものとなり,家畜生産に利用しうる世界の穀類の量は高度に制限されると予想され,世界中における企業畜産の減少に繋がる.
    草食動物(主に反芻動物とウサギ)を基盤とする畜産業は,食料やバイオ燃料生産に使用されない幅広い農業副産物やバイオマスを活用することができるため,広範囲な発展が求められる.バイオマスの主要な資源として穀類のわらがある.これらは処理をすることで消化率を向上することができ,適正な栄養の添加により反芻家畜による利用性を高めることができる.
    人口が集中地に近いところで多様な産物を生産する地域毎に多様化した農業が将来の食料生産にとって最適と思われる.養分や水をリサイクルさせながら作物生産とともに反芻家畜と水産養殖の統合したシステムを開発しなければならない.投入資材と生産物が地元で加工されることが不可欠である.リグニンを多く含む副産物の処理のための省エネ型工場や高タンパク質副産物からバイパスタンパク質の地元での生産がそのような副産物をベースにした反芻家畜による肉生産や乳生産に必須である.
    作物の残さにより反芻家畜やウサギ,草食魚を飼育する統合システムが将来の動物性タンパク質生産として最も効率が良いと思われる.そのシステムは人口密度に応じて小規模農家あるいは大規模生産に適応させれば良い.
    反芻家畜の放牧は,農業副産物による家畜生産と同様の技術導入により生産を拡大しうる.また,環境にやさしい放牧管理技術の開発により土地の荒廃を解決しうる上,土壌中有機物として炭素固定を最適化しうる.
    反芻家畜生産の欠点として温室効果ガスであるメタンの排出がある.飼料の処理や,放牧草や副産物に補助飼料を加えることにより生産性を高めることができ,生産された畜産物あたりメタン産生を低減化できる.加えて,ルーメンにおける消化過程でのメタン産生を制限しうる研究も進められており,将来反芻家畜からのメタン産生を抑制することも可能かもしれない.
  • 村上 洋介
    2009 年 80 巻 4 号 p. 469
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    多くの国際機関の連携により,偶蹄類において伝染性の強いウイルス病である牛疫の根絶プログラムが2010年の達成を目標に進められている.この疾病はかつてアフリカ-ユーラシア大陸において猛威をふるい,多くの国で膨大な数のウシを死亡させた.牛疫は家畜生産を阻害するのみならず,耕作や輸送のための役畜を失うことで作物生産にも大打撃を与えた.その結果,牛疫は伝播した地域において農業全体に壊滅的なダメージを与えた.長い戦いの結果,この悪性伝染病はまもなく根絶されようとしている.
    牛疫の根絶の例のように,家畜衛生分野における科学技術の進歩が家畜疾病を防除し,ひいては畜産の発展に貢献しうることは間違いない.しかし,将来とも人類はすべての深刻な家畜疾病を克服できるだろうか.統計によると,畜産物の需要拡大に向けて,世界の畜産は急速に進展している.世界の畜産は北から南に向けて,あるいは温暖な地域から亜熱帯や熱帯地域に拡大している.それらの地域は十分な家畜衛生対策がとられておらず,疾病発生のリスクが高い.このような環境の中,近年の輸送手段の発展のために家畜や畜産物の国際間貿易が増大している.その結果,人獣共通感染症としての牛海綿状脳症あるいは高病原性鳥インフルエンザや,家畜疾病としての口蹄疫や豚コレラのような,新興・再興感染症を含む越境性動物疾病(TADs)が世界中の畜産業に大きな脅威をもたらしており,世界の食料安全保障を脅かしている.さらに近年の気候変動はアルボウィルス感染症であるブルータングや西ナイル熱のような節足動物媒介性感染症の流行地域の拡大を促進している.それゆえ,これらの疾病の防除は,世代や地域を越えて食料の安定供給を確保するための畜産の持続可能な発展を維持するために極めて重要である.
    TADsの発生は,気候変動,都市化,森林破壊,野生生物の分布等の環境要因に影響を受けやすい農業生態系における生物多様性と関連しており,TADsとの戦いには,さらなる獣医学の進展に加えて,学際的研究の推進が求められる.加えて,TADsの発生に関する早期警告を通じて疾病の拡大を防止するため,国際協力の強化は必須である.高度な疾病防除戦略に裏付けられた国際機関の役割は国際的な活動を強化するためにますます重要なものとなっている.
  • 柴田 正貴
    2009 年 80 巻 4 号 p. 470
    発行日: 2009/11/25
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    開発途上国における人口増加と収入増加は畜産物の需要拡大を引き起こす.畜産物の消費増加は動物性タンパク質の摂取量がまだ低い人々に対して栄養の改善をもたらす.さらに畜産は収入を増加させ農家の経済安定性を高める.そのことからDevendraとThomasは畜産は小規模な混合農業において「換金作物」としての役割を持つと述べている.しかしながら,畜産の急速な拡大は地球規模あるいは地域レベルでの環境問題を引き起こしかねない.日本の農業は畜産の発展過程でこのような問題を経験してきた.本報告はこれらの環境問題を取り上げるとともに,日本の経験に基づいて,そのような問題の解決に向けた最近の技術開発を紹介するものである.
    食品残さの家畜飼料としての利用
    都市化は地域的な栄養蓄積のバランスを崩す.大量の養分が食品残さ等として都市部に蓄積する一方,地方の家畜については低栄養が問題となっている.食品残さの家畜飼料としての利用に関する技術開発は食料自給率の向上に貢献し,バランスの悪い養分蓄積を修正しうる.このことにより畜産をより持続可能なものとしうる.食品残さの飼料化技術は大きく次の三つの方法に分類される : 乾燥,サイレージ,リキッドフィーディング.日本においては食品残さを活用した発酵リキッドフィーディングが注目を浴びている.これは食品関連企業から収集した残さを分別,混合,加熱処理,乳酸菌スタータの添加,培養の過程を経て調製する技術である.発酵リキッド飼料を給与されたブタは通常の配合飼料給与と同等の発育を示すことがわかっている.
    家畜排泄物処理技術の発展
    畜産物の需要を満たすための開発途上国における急速な畜産の発展は,地域的なそして地球規模の環境問題を引き起こしかねない.これは家畜排泄物負荷と農地の処理能力とのアンバランス,また,不適切な排泄物処理により引き起こされるもので,悪臭,害虫,水質汚染,富栄養化,温室効果ガスの発生などがある.一方,家畜排泄物は貴重な資源でもある.家畜排泄物の再利用は脊薄土壌における農業の持続可能な開発においてカギとなりうる.適切な処理により,窒素,リン,その他のミネラルのような養分に限らず,熱や二酸化炭素のような資源も回収しうる.吸引通気式堆肥化システム,豚舎汚水からのリン酸アンモニアマグネシウムとしてのリン回収,上向流嫌気性汚泥床(UASB)法によるメタン発酵のような日本で開発された家畜排泄物処理に関わる新しい技術を紹介する.
    気候変動に関する技術開発
    地球温暖化が注目を集めている.農業は温室効果ガスの発生の原因となる一方,気候変動は農業生産に影響を与えている.畜産においても,反芻家畜はメタン発生の主要な原因の一つとも言われている一方で,家畜の生産性は環境温度に影響を受ける.気候変動メッシュデータ(日本)と呼ばれるデータベースと環境温度と食肉生産の関係に関するデータの組み合わせにより,日本における気候変動の地理的差異が肉生産にどのような影響を与えるかの解析事例が示されている.異なる環境と飼養管理下において反芻家畜からのメタン産生について解析がなされるとともに,地球温暖化による家畜生産性の低下を防ぐ技術開発や温室効果ガスの発生を削減するための技術開発がなされている.反芻家畜の生産性を改善することが単位畜産物あたりのメタン産生量を削減する最も効果的な手段であることも示されている.タイ畜産局と日本の国際農林水産業研究センターとの共同研究により,タイにおける肉用牛の養分要求量が求められている.このことは肉用牛飼養の精密化および生産性の改善と,結果として牛肉生産あたりのメタン削減に貢献するものである.
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