日本畜産学会報
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92 巻, 3 号
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総説
  • 川﨑 淨教
    2021 年 92 巻 3 号 p. 265-278
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    近年,新たな動物性タンパク質源として昆虫の飼料化が世界的に検討されている.本総説では,飼料用昆虫に関する海外や日本国内の動向を紹介し,ニワトリやブタを対象とした先行研究をまとめて検討した.飼料用昆虫の価格は高価であり,法律も未整備な点が多く,その両方が飼料用昆虫の大量使用を阻害する大きな要因となっていることを示した.一方,ニワトリやブタでは飼料用昆虫は魚粉や大豆粕などの従来のタンパク質源と代替可能であり,家畜の腸内環境の改善や免疫を賦活する可能性が示された.今後は飼料用昆虫の給餌が家畜に及ぼす影響の作用メカニズムの解明と飼料用昆虫が社会に受容されるための法整備,安全性の確立が必要になると考えられた.

一般論文(原著)
  • 矢崎 夏実, 上本 吉伸, 小川 伸一郎, 佐藤 正寛
    2021 年 92 巻 3 号 p. 279-284
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    選抜における比の形質の影響を検討するため,比の形質を選抜形質に含めた場合と含めない場合における経済的な利益を比較した.ブタにおける飼料要求率を構成する増体重および飼料摂取量についてモンテ・カルロ法によるコンピュータシミュレーションにより,第0世代から第3世代までの6,550頭分の継代記録を発生させ,増体重,飼料摂取量および飼料要求率における遺伝的パラメーターを推定した.次に,基礎集団の記録(雌雄各10,000頭)を発生させ,飼料要求率の直接選抜,増体重と飼料摂取量の相対希望改良量による指数選抜および増体重と飼料摂取量の総合育種価を最大にする選抜を行った.飼料要求率の直接選抜による利益は,他の選抜方法よりも小さくなる傾向にあった.一方,選抜形質に飼料要求率が含まれる場合,改良量の期待値と実現値との間に差のみられる場合が多く,結果として利益の期待値と実現値との間に大きな差がみられた.したがって,比の形質である飼料要求率の直接選抜は利益を最大化する改良には適しておらず,増体重と飼料摂取量に改良目標がある場合には構成形質による選抜が望ましいことが示唆された.

  • 小山 秀美, 今村 清人, 坂元 信一, 西 和隆, 河邊 弘太郎, 岡本 新, 本多 健, 大山 憲二, 下桐 猛
    2021 年 92 巻 3 号 p. 285-291
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    子牛の死廃事故の1つである死産は,産子および繁殖雌牛の死亡による収入の減少や母体の損傷による繁殖性の低下を引き起こすことから,繁殖農家にとって経済的損失となる.本研究では,鹿児島県産黒毛和種213,261頭のフィールドデータを使って死産の発生状況を調査し,単形質閾値父親-母方祖父モデルを用いて死産の遺伝的パラメータを推定した.その結果,死産率は2.0%であり,死産の直接遺伝率および母性遺伝率は,それぞれ3.2%±1.1%および3.5%±1.7%と推定されたことから,遺伝的な要因が関連しているものの,その影響は小さいことが示唆された.また,冬期の分娩や近交係数の上昇,雌子牛よりも雄子牛で死産になりやすいことが示された.

  • 浅野 早苗, 梶原 綾菜, 樋口 明香里, 舛田 紬, 劉 春艶, 角 英樹, 高橋 慶, 梶川 博
    2021 年 92 巻 3 号 p. 293-300
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    カットフルーツの主原料であるパイナップルの加工過程で発生する外皮や芯を圧搾・脱水した物の栄養価および粗飼料因子,通過速度および給与したヤギのルーメンや血液の性状,酸化ストレスマーカーに及ぼす影響を評価した.去勢ヤギ4頭に基礎飼料としてヘイキューブを,試験飼料として基礎飼料の30%(乾物)を脱水パイナップル残渣に置換したものを給与し,全糞採取法による消化試験を行った.脱水パイナップル残渣のNDFは乾物中割合:60%以上,消化率:約80%とどちらも高く,TDN含量は73.4%となった.粗飼料因子は試験飼料で有意に高かった.一方,脱水パイナップル残渣給与により,ルーメン内で乳酸の検出とプロピオン酸割合の低下が認められた.脱水パイナップル残渣は良質な粗飼料として期待できる半面,ルーメンアシドーシスのリスクが懸念され,多給する場合には充分に飼料の馴致期間を設ける必要があると考えられる.

  • 河内 大介, 西村 慶子, 高橋 俊浩, 川島 知之
    2021 年 92 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    発酵TMR(混合飼料)の調製過程で,発酵により揮発性成分が生成する.発酵TMRを用いた消化試験において,化学成分の分析のために試料を加熱乾燥すると,揮発性成分が消失するため栄養価に反映されない.そこで揮発性成分を考慮した精確な栄養価を評価するため,発酵TMRを給与する消化試験を2回行い,揮発性成分の加味の有無が栄養価に及ぼす影響を検討した.消化試験のうち1回目は約5%のビール粕を含むか,含まないか(5%BTMR, CTMR1),2回目は約8%のビール粕を含むか含まないか(8%BTMR, CTMR2),それぞれ2種類の発酵TMRを用いた.本研究に用いた発酵TMR中のエタノール,乳酸,酢酸,酪酸およびVBNの加熱乾燥による揮発率の平均は,それぞれ99.4,12.4,74.4,83.5,78.4%だった.乾物消化率については揮発性成分を考慮すると考慮しない場合と比較して平均1.5ポイント高かった.

  • 小平 貴都子, 奥村 寿章, 齋藤 薫, 佐久間 弘典, 中山 佐智雄, 大橋 史恵, 佐藤 進司, 松本 和典, 入江 正和
    2021 年 92 巻 3 号 p. 309-318
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    国内消費者が好む豚肉の脂肪交雑の程度(食味と外観)を明らかにするため,筋肉内脂肪含量の異なる豚肉を用いた消費者型官能評価と,豚肉の脂肪交雑外観などに対する消費者意識を調査した.官能評価には,筋肉内脂肪含量3.6%,6.0%と8.0%の胸最長筋を焼き肉法で調理し供試した.318名の消費者型官能評価結果から,筋肉内脂肪を6.0%以上含む豚肉は3.6%の豚肉より「やわらかさ」,「多汁性」と「風味」の各要因で高く評価され,「総合的なおいしさ」も高かった(P<0.05).一方,筋肉内脂肪含量6.0%と8.0%の豚肉では「総合的なおいしさ」にほとんど差はなかった.意識調査では,7割以上の回答者が筋肉内脂肪含量4%と6%に相当する脂肪交雑外観を2%や10%相当よりも好んだ.以上から,脂肪交雑のある豚肉は外観,食味ともに国内消費者に好まれ,胸最長筋の筋肉内脂肪含量は6.0%程度まででよいことが示された.

  • 金谷 圭太, 横田 朋佳, 柴 伸弥, 村元 隆行
    2021 年 92 巻 3 号 p. 319-325
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    牛肉の塩漬には一般的にNaClが用いられる.ここで,塩漬剤としてのNaClへのMgCl2, MgSO4, またはCaSO4の添加が牛肉の理化学特性,ミネラル含量,およびドリップのグルタミン酸濃度に及ぼす影響について検討を行った.筋肉サンプル(100 g)に添加量の異なるMgCl2, MgSO4, またはCaSO4(筋肉重量あたり2%,4%,または6%)を添加したNaCl(筋肉重量あたり6%)を添加して24時間の塩漬を行った.塩漬後,ドリップロス,最大荷重,凝集性,付着性,ガム性荷重,Na含量,Mg含量,およびドリップのグルタミン酸濃度を測定した.NaClにMgSO4を添加した塩漬で最もドリップロスが高かった.しかし,塩漬剤としてのNaClへのMgSO4の添加はテクスチャー特性およびドリップのグルタミン酸濃度に影響を及ぼさなかった.塩漬剤としてのNaClへのMgSO4の添加は塩漬後の牛肉のNa含量を低下させ,Mg含量を増加させた.したがって,塩漬剤としてのNaClへのMgSO4の添加は牛肉の水分活性を低下させ,保存性を高めることが示された.

  • 村元 隆行, 角田 智哉, 吉田 英生
    2021 年 92 巻 3 号 p. 327-330
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    異なる品種(軽米,五戸,月山,および一才)のサルナシの果汁の塗布が日本短角種牛肉(n=7)のテクスチャー特性および保水性に及ぼす影響について検討を行った.サルナシ果汁を塗布した筋肉サンプルを40°Cで1時間貯蔵してドリップロスを測定し,次に60°Cで3分間の湯浴を行ってクッキングロスを測定した.また,最大荷重,ガム性荷重,凝集性,および付着性を測定した.サルナシの果汁を塗布した筋肉サンプルのドリップロスはサルナシの品種による有意な影響を受けなかった.軽米または五戸の果汁を塗布した筋肉サンプルは月山または一才の果汁を塗布したものに比較して,クッキングロスが有意に高く,また最大荷重およびガム性荷重が有意に低かった.本研究の結果から,軽米または五戸の果汁を塗布した牛肉は月山または一才の果汁を塗布したものに比較して,加熱時の保水性は低くなるものの,軟化効果は高くなることが示された.

  • 村元 隆行, 渡辺 亮平, 柴 伸弥, 横田 朋佳, 中村 泰生
    2021 年 92 巻 3 号 p. 331-334
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    黒毛和種去勢牛の枝肉(n=21)の第6から第7肋骨間の切開面に位置する胸最長筋のオレイン酸割合とインピーダンスとの関係について検討を行った.接触型電極を装着したLCRメータを用い,電極対の距離を1cmまたは3cmとして胸最長筋の表面に接触させ,1Hz, 120Hz, 1kHz, および100kHzにおけるインピーダンスを測定した.また,ガスクロマトグラフィー法により胸最長筋のオレイン酸割合を分析した.電極対の距離を1cmとした測定では,胸最長筋の1kHzにおけるインピーダンスとオレイン酸割合との間に有意な正の相関が得られた.電極対の距離を3cmとした測定では,胸最長筋の120Hz, 1kHz, および100kHzにおけるインピーダンスとオレイン酸割合との間に有意な正の相関が得られた.本研究の結果から,電極対の距離を3cmとしてインピーダンス測定することにより,枝肉肋骨間の切開面に位置する胸最長筋のオレイン酸割合を広い範囲の周波数で推定できることが示された.

  • 村元 隆行, 中井 瑞歩, 鈴木 結子, 井上 朔実, 石田 光晴, 木下 一成, 平田 滋樹
    2021 年 92 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    筋肉のpHが22頭の野生ニホンジカ(Cervus Nippon)の胸最長筋(M. longissimus thoracis)の保水性,遊離アミノ酸含量,硬さ,色調,酸化,脂肪酸組成,および抗酸化物質含量に及ぼす影響について検討を行った.鹿肉のpHはドリップロス,水分含量,剪断力価,飽和脂肪酸割合,一価不飽和脂肪酸割合,および多価不飽和脂肪酸割合に有意な影響を及ぼさなかった.鹿肉のpHとクッキングロス,L*値,a*値,b*値,メトミオグロビン割合,チオバルビツール酸価,およびα-トコフェロール含量との間に有意な負の相関がみられた.鹿肉のpHと遊離アミノ酸総含量との間に有意な正の相関がみられた.本研究の結果から,鹿肉はpHが高くなるのに伴って,明度,赤色度,黄色度は低くなるものの,加熱中の保水性が高くなり,酸化が抑制され,また呈味成分である遊離アミノ酸の総含量が高くなることが示された.

  • 中村 南美子, 冨永 輝, 石井 大介, 松元 里志, 稲留 陽尉, 塩谷 克典, 赤井 克己, 大島 一郎, 中西 良孝, 髙山 耕二
    2021 年 92 巻 3 号 p. 343-349
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    3色覚であるヒトの色覚異常(2色覚)のうち,Protanopia(P),Deuteranopia(D)およびTritanopia(T)型の場合にはそれぞれ赤と青緑,赤紫と緑および青と緑の色が識別困難とされる.本研究では生理学的に2色覚とされるニホンジカ(Cervus nippon;以下,シカ)がこれらを識別可能か否かについてオペラント条件付けにより検証した.シカ2頭(推定3歳:オス・メス各1頭)を試験に用いた.1セッションを20試行とし,正刺激として提示した色パネルの選択率80%以上(χ2検定,P<0.01)が3セッション連続でみられた場合,シカは2つの色を識別可能と判定した.オスは18,5および3セッション目,メスは12,14および4セッション目でそれぞれの色の組み合わせを識別できた.以上より,供試したシカはP, DおよびT型のヒトで区別し難い色の組み合わせをすべて識別可能であり,行動学的手法によって導き出されたシカの色識別能力はヒトの2色覚と一致しないことが示された.

  • 小林 萌友, 齊藤 朋子
    2021 年 92 巻 3 号 p. 351-359
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    北海道和種馬における母子間距離と母子の行動を調査した.生産牧場にて,2018年12月~2019年9月に生まれた北海道和種馬の子馬22頭およびその母馬を対象とし,ドローンで2019年5月~10月に映像撮影した.記録対象は0~8ヵ月齢の子馬とその母馬とし,映像より母子間距離と母子の行動を記録した.ウマは,高度30 mからのドローン撮影に対して警戒行動を示すことはなかった.月齢ごとの母子間距離の分布は正規分布せず,幾何分布で良く近似(R2=0.919)できることが明らかとなった.月齢ごとの母子間距離の中央値は4ヵ月齢と5ヵ月齢の間で変化しており0~4ヵ月齢では月齢に伴って有意(P<0.01)に増加していたが,5~8ヵ月齢では減少していた.さらに,0~4ヵ月齢の子馬において食草行動と母子間距離の間には直線的な有意(P<0.01)な相関がみられたが,5ヵ月齢以降は有意な相関はみられなかった.

技術報告
  • 清水 祐哉, 大石 風人, 園田 裕太, 荻野 暁史, 長田 隆, 広岡 博之
    2021 年 92 巻 3 号 p. 361-369
    発行日: 2021/08/25
    公開日: 2021/10/08
    ジャーナル フリー

    本研究では,汚水処理システムのどのような属性を養豚農家が重要視しているかを定量評価するため,4道県の養豚農家を対象にアンケート調査による離散型選択実験を行った.汚水処理システムに対し,「水質の改善度」「臭気の除去力」「技術の難易度」「費用」に加え,温室効果ガス(GHG)削減効果を示す「GHG削減量」の5属性を設定して選択セットを作成し,農家に提示した.その結果,「水質の改善度」が最も大きな選好の値となり,予想通り農家は水質汚濁防止法による暫定排水基準を強く意識していることが示された.また現状では規制対象外の「GHG削減量」に対しても,わずかではあるものの正の選好を示すことが明らかとなった.今後,環境改善に関する汚水処理システムの属性に対し農家の支払意志をより向上させるには,環境改善の重要性をさらに農家に周知し,その具体的な取り組み方策を提示することが重要であると示唆された.

解説記事
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