本研究の目的は,黒毛和種直接検定記録を用いて予測窒素排泄量,予測リン排泄量および予測メタン関連形質(環境負荷関連形質)の育種価および遺伝的パラメータを推定し,これら環境負荷関連形質と既存の4種の余剰飼料摂取量(RFI)との関係を調べることであった.環境負荷関連形質の予測には,検定開始時および終了時の体重,平均日増体量,可消化養分総量(TDN),粗タンパク質(CP),濃厚飼料と粗飼料の摂取量を用いた.環境負荷関連形質の遺伝率は中程度(0.40~0.59)であり,予測窒素排泄量および予測リン排泄量と予測メタン排出量との間には中~高程度の正の望ましい推定育種価間の相関があった.また,メタン関連形質とTDNに基づくRFI, および予測窒素排泄量とCPに基づくRFIの間にも,正の望ましい推定育種価間の相関があった.以上の結果からRFIによる選抜によって環境負荷の低減が期待できることが示唆された.
北海道内一箇所の枝肉市場に出荷された黒毛和種2,871頭を用いて,脂肪酸組成が枝肉単価に及ぼす影響を調査した.GC法で筋間脂肪の脂肪酸組成を測定し,分析の際は一価不飽和脂肪酸(MUFA)%を55未満,55~60,60~65,65以上に区分した.MUFA%との表型相関で最も高い値を示した形質はBFS No.であった(r=0.20:P<0.01).市場開催日におけるMUFA%の最小二乗平均値は季節による変動を伴って年々減少した.市場開催日,月齢区分,性別およびMUFA%区分を母数効果,農家を変量効果として肉質等級別に算出した枝肉単価の最小二乗平均値は2,3および4等級でMUFA%の増加に伴って上昇し(3等級:P<0.01),5等級で低下した(P<0.01).各MUFA%区分におけるBMS No.の出現率については,MUFA65%以上においてBMS No. 12の有意な出現率減少を確認した(P<0.01).以上から,MUFA%は脂肪色に関与し,性や月齢,年次などの複数の要因で変化すること,枝肉単価は低等級においてMUFA%が高いと上昇するが,5等級においてその関係性が変化することが示された.
消費者のアニマルウェルフェアに関する認知や世界的に深刻化する食糧問題の認識について,国際的水準での比較を目的として日本とスイス,中国の3ヵ国の25歳以上65歳未満の消費者492名を対象にインターネット調査を行い検討した.日本はスイス,中国と比べアニマルウェルフェア認知度,肉用牛の飼育環境や飼料への関心,アニマルウェルフェア普及啓発への関心,食糧問題の意識が低いことが明らかとなった.またアニマルウェルフェア普及啓発と消費者の牛肉選択と食糧問題の認識との間に関連性が確認された.この結果から,アニマルウェルフェア普及啓発が日本の消費者の購買行動に影響を与えるとは結論づけることはできないものの,持続可能な発展と畜産の両立ができる環境整備に繋げるために,家畜のアニマルウェルフェアに配慮した飼育方法について学校教育・リカレント教育の場などで教育的介入が重要であると考えられた.
乳用雌牛の泌乳曲線における分娩後早期の予測について,牛群ごとの毎日乳量を用いた機械学習による手法を試行した.各個体の日乳量,両親の乳量および泌乳持続性の推定育種価の平均,産次および分娩月を特徴量として,分娩後305日までの日乳量予測モデルを牛群ごとに構築した.モデルは,予測日直近10日分の日乳量を特徴量として各予測日の予測誤差を最小とするモデル(モデル1),および予測開始日の直近10日分の日乳量を特徴量として予測開始日~分娩後305日の予測誤差を最小とするモデル(モデル2)を用いた.2牛群の489乳期および664乳期の記録を用い,分娩後60日時点の予測精度を評価した.両親の育種価は予測精度向上への寄与が認められなかった.予測乳量の絶対平均誤差は,モデル1で2.08~6.69 kg, モデル2で2.87~5.71 kgだった.モデル1は,モデル2よりも予測開始日に近い期間の予測精度が高い傾向があった.
破砕粒度の異なる籾米サイレージを含む部分的混合飼料(PMR)が乳牛の飼料摂取量,泌乳成績,血液成分およびルーメン内液性状に及ぼす影響を検討した.供試した籾米サイレージは,ダブルローラ式破砕機を用いて破砕ロール間隔を1.0 mmまたは0.2 mmに設定し破砕し,それぞれ粗びき区または粉砕区とした.供試籾米サイレージの粒度について,2 mmのふるいを通過した籾米サイレージの割合は粗びき区で13.5%,粉砕区で54.2%であった.それぞれの籾米サイレージを乾物で18%含むPMRを調製し,泌乳牛6頭を用いてクロスオーバー法による飼養試験を行った.供試牛の乾物摂取量,乳量および乳成分には両区で差は認められなかった.供試牛の血液成分およびルーメン内液性状にも両区で有意な差は認められなかった.