地球環境
Online ISSN : 2758-3783
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21 巻, 1 号
火山が生態系に与える影響
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 北山 兼弘
    2016 年21 巻1 号 p. 1-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    本特集をまとめるに当たって,まず日本生態学会の例会において,「火山と陸域生態系」と題するシンポジウムを企画した。生態学において火山噴火はかく乱要因としてしか認識されていない問題を指摘し,さらに,陸域生態系の維持要因としての火山の重要性を指摘することが本シンポジウムの目的であった。このシンポジウムは日本生態学会62回大会(2015年3月 鹿児島大学)において開催され,本特集に寄稿して下さった,井村隆介氏,渡邉哲弘氏,上條隆志氏,そして私が講演を行った。シンポジウム企画中に,奇しくも御嶽山において噴火が起こった。噴火が自然災害として取り扱われている最中でのシンポジウムであったが,シンポジウムの趣旨はよく理解され,盛会であった。本特集は,シンポジウムで発表された4つの話題に加え,加藤和弘氏,平舘俊太郎氏,吉野正敏氏に更に論文を執筆していただくことによって,より多面的な視点から火山と生態系を論じたものである。

    本特集をまとめるに当たって,私たちが火山から受けている恩恵を強調することを心掛けた。平舘氏論文を読んでいただくと,日本の農業が噴火から実に多様で大きな恩恵を受けていることを分かっていただけると思う。しかし,読者の皆さんには,まず最初に井村氏の論文を読んでいただきたい。過去10万年の間に大きな規模の噴火が度々起こり,日本列島の自然環境は噴出物によって大きな影響を受けていることが説得力を持って示されている。「考え方が変わった」という思いを持たれる読者もおられるかもしれない。地質学分野の論文は,短い時間スケールで物事を見がちな私のような者に大局的な視点を与えてくれる。渡邉論文では,火山灰土壌の生成過程や特徴について平易に説明していただいた。一般的に,日本の畑作などの農業にとって火山灰土壌はリン欠乏を引き起こす問題の多い土壌として捉えられることが多い。しかし,渡邉氏の論文では,火山灰土壌の肥沃性がよく解説されている。上條ほか論文と加藤・樋口論文では,主に三宅 島を例にとり,溶岩原において生物群集がどのように発達(遷移)していくのかを解説していただいた。溶岩流上の遷移は一次遷移の代表例として知られ多くの研究例があるが,特に栄養塩や食物を介在した生物間の複雑な相互作用として遷移が進んで行く様子を解説していただいた。溶岩流上の一次遷移は一様に進行する,という教科書的な見方への反証になっているはずである。吉野論文では,火山噴出物がどのように気象や気候に影響を与えるのかを概説していただくと同時に,風土や文明史といった側面にも触れていただいた。噴火が農作物の冷害を引き起こし,歴史的に人々の暮らしに影響を与えてきたことがつづられている。最後に,私の担当章では,火山砕屑物が森林生態系維持に及ぼす効果を厚いデータを示して解説しようと試みたが,関連する論文をあまり捜すことができなかった。特に,日本においてはそれが顕著で,日本の森林生態系に火山灰などの砕屑物がどのような影響を与えてきたのかを明らかにした研究例は非常に少なかった。井村氏の論文は「今後は火山学者と生態学者が協力して研究を進めていく必要があろう」と締めくくられている。本特集がその契機となることを期待したい。さらに,災害と恩恵を調和的に考えるような新たな概念の形成につながることを,本特集の担当者として切望する。

  • 井村 隆介
    2016 年21 巻1 号 p. 3-9
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    日本には多くの火山があり、それらが繰り返し噴火をしてきた。噴火の規模には、周辺環境に対してほとんど影響を与えないような小規模なものから、地球規模の環境変化を引き起こす巨大噴火まで、大きな幅がある。噴火による周辺環境への影響の大きさは、噴火現象の違いによっても異なる。現在見られる日本の環境は、これらの噴火活動による影響・攪乱を大きく受けて成立したものであると言える。

  • 渡邉 哲弘
    2016 年21 巻1 号 p. 11-20
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    土壌は生態系において、植物に水や養分を供給し、また系(土壌)から流出する水の量や質に影響を与える。火山灰土壌は、火山砕屑物を主な材料として生成した土壌であり、黒く軽しょうで透水性と保水性に優れ、有機物やリンを良く吸着するという性質を持っている。これらの性質は、火山灰土壌に含まれる極めてサイズの小さいアロフェン、イモゴライト、フェリハイドライト、有機Al(Fe)複合体の反応性に起因している。これらは、高い反応性より活性Al・Feと呼ばれる。火山砕屑物の風化により生成するこれらの活性Al・Feは、時間とともに減少し、火山灰土壌はより風化・生成の進んだ非火山灰土壌へと変化する。しかし、火山帯の土壌は非火山性土壌へと生成が進んだ後も、近隣の土壌と比べて活性Al・Feを多く含んでおり、より大きな有機物蓄積やリンの吸着のポテンシャルを有している。自然および農業生態系の基盤である土壌に対して火山砕屑物が与える影響を考慮することは、より正確な自然の理解と適正な利用につながる。

  • 上條 隆志, 田村 憲司, 廣田 充, 西村 貴皓, 東 亮太, 藤井 美央
    2016 年21 巻1 号 p. 21-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    火山噴火は、陸上生態系に対する最も強い攪乱の1つである。その強度が高い場合には土壌までも破壊され、破壊された土地に侵入した生物による環境形成作用がその後の生態系発達に強く影響する。また、火山噴出物にはリン等は含まれるが、大気を起源とする窒素は含まれず、窒素が生態系発達の初期制限要因となる。本稿では、これらの火山遷移に関する研究成果を解説する。さらに、著者らが行ってきた2000年に大噴火した三宅島の火山灰堆積地における研究から、火山灰の広域的影響とその後の回復過程、遷移初期植物の窒素の獲得特性と環境形成作用に焦点を当てた研究成果の一部を紹介する。

  • 加藤 和弘, 樋口 広芳
    2016 年21 巻1 号 p. 33-42
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    噴火が鳥類に及ぼす影響は、火山噴出物、生息場所の消失、植生の破壊、生物間関係の変化、人間生活の変化などからもたらされる。三宅島2000年噴火では、噴火直後に鳥類の種類と個体数は一時減少したが、その原因として、鳥類が他島を含め遠方に移動した可能性が考えられる。翌年以降、鳥類の種の豊富さや個体密度は樹木植被率と正の相関を示し、植生が回復していない場所では種の豊富さ、個体密度ともに小さかった。この相関関係は噴火後終始一定であったわけではなく、2006年には植被が少ない場所でもある程度の鳥類個体が記録された。2002年と2009年以降には、そうしたことは見られなかった。この変化は、腐朽木や衰退木からの昆虫発生量の変化から説明可能と考えられる。さらに、常緑広葉樹林を好む種の個体が減少し、林縁や草地を好む種の個体が増える傾向も示された。減少しつつある種には三宅島に特徴的な種や亜種が複数含まれており、植生の自然な再生を図りつつこれらの種の保全を図るための対策の策定が急がれる。

  • 北山 兼弘, 和頴 朗太
    2016 年21 巻1 号 p. 43-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    火山から放出される溶岩や火山灰には窒素以外の必須元素が一次鉱物として含まれていることから、森林を含む陸上生態系にとって、火山がこれら必須元素の究極的な供給源になる。特に、全ての生物の遺伝や代謝を担う生元素であるリン(P)は、火山放出物の風化を通して陸上生態系に加入し、その後、火山放出物上に発達する森林生態系に数十万年レベルで長く留まって純一次生産を支える。陸上生態系の長期動態モデルでは、風化がさらに進むとPは風化産物である二次鉱物との物理化学的結合により難溶化し、やがては森林生態系の生産を律速する、とされる。このように、老齢化した森林生態系においては、大気降下物によって新たに追加されるPが大きな生態系維持効果をもつことが知られている。日本列島では、火山灰やスコリアなどの火山砕屑物が地質年代スケールで頻繁に、かつ広範囲に降り注ぐので、森林生態系にPなどの施肥効果をもたらしている可能性がある。本稿では、大気を通して加入する火山砕屑物に着目し、森林生態系におけるその施肥効果を考察した。

  • 平舘 俊太郎
    2016 年21 巻1 号 p. 55-66
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    火山は、噴火直後は農業に対して負のインパクトを与えるものの、火山由来物質の風化および土壌化が始まると、そのプロセスにおいて放出される物質や新たに生成される物質およびそれらの機能を介して、農業に恩恵をもたらすようになる。これらの恩恵は、土壌環境を介してもたらされるものが多く、生態系サービスとの関係で整理できるものも多い。たとえば、植物の生育に必須な無機栄養元素の供給や火山灰土壌という独特の環境に適応した遺伝資源の供給は供給サービスに、土壌溶液中の無機栄養元素濃度やpHなどの変化を小さく抑える土壌の緩衝作用は調整サービスに、水や無機栄養元素の循環を支える恩恵は基盤サービスに相当する。また、火山活動によって形成された地形が農業にもたらす恩恵もある。本稿では、これら火山が農業にもたらす恩恵を整理した。

  • 吉野 正敏
    2016 年21 巻1 号 p. 67-76
    発行日: 2016年
    公開日: 2025/08/27
    ジャーナル フリー

    火山噴出物は大気圏に放出された後、大気圏内で重いものほど火口近くに落下し、軽いものほど遠くまでとばされる。その過程で雨滴によって洗われ、火山灰が多くなる。成層圏に達した墳煙柱の上部ではエーロゾルが卓越する。エーロゾルの増加によって、さまざまな光化学変化、オゾンの減少、日射による過熱量の変化が発生する。成層圏におけるエーロゾルの増加は地表面の気温を低下させる。大爆発の場合、その効果は1~3年に及ぶ。クラカトア火山の1883年8月27日の場合、噴煙高度は40km以上、硫酸塩エーロゾルの量は5×1010kgに達した。このような大気過程について、これまでの研究結果をまとめた。最後に人間活動におよぼす影響について、農林業などの生産活動、人間の生理・衛生、心理・精神・思考過程などの問題点を、特に歴史的な観点からまとめた。一例として日本の豪雪地域に伝わる民話「雪女」における「赤い雪」と火山灰などとの関連を述べた。

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