地球環境
Online ISSN : 2758-3783
Print ISSN : 1342-226X
26 巻, 1-2 号
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序文
論文
  • 澤 庸介
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 3-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

     気象庁では世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)/全球大気監視(Global Atmosphere Watch: GAW)計画に基づき,温室効果ガスの変動を把握するため,世界の監視ネットワークの一環として温室効果ガスの観測及びこれに関わる業務を実施している。国内3 地点(綾里(岩手県大船渡市),南鳥島(東京都小笠原村),与那国島(沖縄県与那国町))において,地上付近の温室効果ガス濃度を観測しており,海洋気象観測船では,日本周辺海域及び北西太平洋における洋上大気及び海水中の二酸化炭素等の観測を実施している。さらに,2011 年から北西太平洋において航空機による上空の温室効果ガス観測を行っている。気象庁は自ら観測を実施するだけでなく,GAW 計画の中で国際的なセンター業務を担当しており,WMO 温室効果ガス世界資料センター(World Date Centre for Greenhouse Gases: WDCGG),全球大気監視較正センター(World Calibration Cntre:WCC),品質保証科学センター(Quality Assurance/Science Activity Centre: QA/SAC)を運営し,観測データの品質を向上させる活動や,世界の温室効果ガス観測データの収集と提供を行っている。

  • 笹川 基樹, 町田 敏暢
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 13-26
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    国立環境研究所 ( 国環研 ) は , 地球規模の大気環境の変化を長期にモニタリングするために , 沖縄県八重山郡竹富町波照間島と北海道根室市落石岬に地上観測局を設営し維持している。温室効果ガス観測は現場測定を基本にしているが,並行して現場で採取した大気試料を国環研の温室効果ガス測定装置により分析している。大気中の温室効果ガスの測定には基準となる標準ガスの利用が必要とされ,長期モニタリングの為にはその管理が重要となる。本稿では,国環研による温室効果ガスモニタリングに必須な基盤環境である,上述の地上観測局・温室効果ガス測定装置・標準ガスに関しての歴史と現状と課題を紹介する。地上観測局に関しては,設立の経緯・設備の概要・観測項目の歴史を示した。温室効果ガス測定装置に関しては,装置の概要・分析手順・濃度計算の詳細を示した。標準ガスに関しては,その調製過程・濃度確定の手順・ス ケールの維持方法・濃度範囲を示した。最後に,これらの基盤環境を利用して得られた成果の中で,論文として発表した内容をいくつか紹介した。国環研内に設立された地球環境研究センターは,所内外の研究者の協力を得て地球環境モニタリングを推進することを使命としており,ここで紹介した基盤環境を利用した新たなモニタリングや共同研究の提案を広く受け容れている 。

  • 中岡 慎一郎, 高尾 信太郎
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 27-36
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    国立環境研究所 ( 国環研 ) では,民間貨物船舶の協力を得て,北太平洋航路,オセアニア航路,東南アジア航路で大気・海洋温室効果ガス観測を実施している。大気観測では,温室効果ガスの大規模排出による影響が少ないバックグラウンド大気中の温室効果ガス濃度推移を把握し,泥炭・森林火災や油井・ガス井からの温室効果ガス放出量を評価した。さらに,温室効果ガス観測技術衛星による温室効果ガス観測データの検証も行っている。海洋観測では北太平洋の二酸化炭素(CO2 )分圧等の分布を再現して気候変動による応答を明らかにするとともに,日本の都市内湾における CO2 吸収量と海洋生物活動による寄与を評価した。国環研は海洋 CO2 観測データベースに観測データを提供するとともに,北太平洋域の責任機関として観測データを品質認定する役割を果たしており,本データベースを基に Global Carbon Budget 年次レポートにも貢献し,海洋の CO2 吸収が増加していることを明らかにした。

  • 町田 敏暢
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 37-46
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    大気中の温室効果ガスの観測における航空機の利用について,国立環境研究所の地球環境研究センターが航空機モニタリングとして実施しているシベリア上空の観測と,日本航空が運航する民間航空機を利用した CONTRAIL プロジェクトについて紹介する。シベリアでの観測は 1990 年代の観測黎明期に始まりロシアならではの苦労も多くあったが,それゆえに今に至っても周辺には他の観測が存在せず,世界の温室効果ガス観測網の中で極めて重要な位置付けになっている。チャーター機を使ったシベリアでの観測は頻度に限界があったが,民間航空機は観測回数と観測範囲を飛躍的に向上することができる,世界に先駆けた研究プロジェクトである。本稿は両プロジェクトの歴史や成果の一部を簡潔にまとめたものである。

  • 松永 恒雄, 谷本 浩志, 大山 博史
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 47-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    気候変動の影響を抑えるためには大気中の温室効果ガス濃度を早期に安定化させる必要があるが,そのためにも必要な温室効果ガス濃度の地上観測点の数は十分ではなく,地理的にも偏在している。地球観測衛星による温室効果ガスの全球観測は,このような問題の影響を軽減する上で非常に重要である。我が国は温室効果ガス観測の専用衛星であるGOSATシリーズの運用を2009 年に開始し,観測と無償データの公開を行ってきたが,それも2022年4月でまる13 年となる。また,GOSAT シリーズのデータを使った研究が世界各国で推進されている。さらに,同種の衛星が米国や欧州においても開発・運用されるようになっている。一方,GOSAT シリーズによる観測を今後も継続するため,3号機の開発が2023年度の打上げを目指して進められている。3号機では新たに開発する回折格子を利用した分光計により,温室効果ガス濃度の広域面分布の観測に取り組む。また,パリ協定に基づいて各国が国連に提出する温室効果ガス排出インベントリやグローバルストックテイクにおける利活用についても期待されている。さらに,高空間分解能観測が可能な衛星を用いた施設レベルの温室効果ガス排出量の推定についても研究開発が活発に行われている。特に,民間企業を中心に小型温室効果ガス観測衛星コンステレーションを構築する動きが近年加速している。

  • 平野 高司
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 57-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    森林を中心とした陸域生態系は,総一次生産(Gross Primary Production: GPP)による吸収と生態系呼吸(Ecosystem Respiration: RE)による放出の差として,人為的に排出される二酸化炭素(CO2)の約30%に相当する量を固定している。GPPとREの環境応答は異なり,また,森林のタイプによってもそれらの環境応答は異なる。そのため,環境変動に対するGPPとRE の変化を理解するとともに,将来における気候の変化を予測するには,様々な気候帯の異なる森林生態系における観測結果に基づいたモデル化や広域化が不可欠である。本稿では,まず陸域生態系と大気の間の物質(CO2,水蒸気,メタン(CH4)などの気体)及び熱の交換速度(フラックス)を直接測定する方法である渦相関法について説明する。渦相関法で測定されるCO2フラックスは正味の生態系CO2交換量(Net Ecosystem Exchange(NEE)=RE-GPP)であるが,経験的な方法によりGPP とRE に分離することができる。さらに,全球的に展開されている渦相関法による観測ネットワーク(FLUXNET)について説明するとともに,データベースを利用して得られた成果などを概説する。また,RE の主要成分である土壌からのCO2 放出(土壌呼吸)に関するデータベースや観測ネットワークについても触れる。

  • 西廣 淳, 辻本 翔平
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 69-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    気候変動は社会・経済だけでなく,自然生態系にも影響を及ぼしている。生態系を構成する生物種の分布,個体数,季節性に対する気候変動の影響を明らかにするためには,広域・多点における長期的なモニタリングによって得られたデータが有用である。本稿では,陸域生態系,陸水域生態系,湿地生態系を対象に,気候変動による影響の解析・検出に活用できるデータの状況と,今後のモニタリングにおける課題について解説する。自然生態系が成立している空間は,土地の所有や管理形態,管轄する行政機関が多様であり,データを取得・管理している主体も多岐にわたる。整理の結果,草原や湿地などいくつかの生態系において,体系的なモニタリングが不足していることがわかった。今後は,体系的なモニタリングの充実だけでなく,個別の論文や報告書等の情報の統合も重要である。

  • 白井 知子
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 79-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    国立環境研究所(National Institute for Environmental Studies; NIES)は,発足以来,時代の動きに合わせて組織を編成しながら広範囲の環境研究を学際的かつ総合的に進めている。地球環境研究センター(Center for Global Environmental Research; CGER)は,地球環境研究の中核的機関を目指し1990年に発足したが,その事業の一環として「地球環境データベース」が立ち上がり,CGER のデータ基盤としての役割を果たしてきた。本稿では,情報通信技術(ICT)が飛躍的に発展・普及したこの30年余,気候変動をはじめとする地球環境研究の必要性が高まる中で,地球環境データベースが,そのデータ収集・管理・公開・利活用促進等のために,どのように変遷・発展してきたかを振り返るとともに,近年のオープンサイエンスの流れに対応した現在の取組,課題や将来展望について述べる。

  • 佐藤 啓市, 池田 恒平, 寺尾 有希夫, 山下 陽介, 町田 敏暢, 谷本 浩志
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 89-100
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    現在既に進行している気候変動に対して人類としてできるだけ迅速に効果的な緩和策を実施するためには,大気中の二酸化炭素など長寿命の温室効果ガス(Greenhouse gas: GHG)の排出量を抑制するばかりでなく,メタン,オゾン,黒色炭素といった短寿命気候強制因子(Short-Lived Climate Forcers: SLCF)の大気中での循環や発生・消滅メカニズムを定量的に理解して排出量削減に結びつける必要がある。また,GHGの人為排出量はこれまで経済統計値が正しいとされて各国の報告にも使われてきたが,パリ協定で定められた排出削減目標の客観的検証の手段として,大都市でのGHG観測の必要性が近年急速に高まっている。本章では将来の地球観測への期待としてこれら2つの観測研究に関連して,SLCFの観測,SLCFのモデル研究,大都市GHGの観測,大都市GHG のモデル研究の4つの視点から解説を行った。

  • 羽島 知洋, 伊藤 昭彦, 野口 真希
    2021 年 26 巻 1-2 号 p. 101-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/02/15
    ジャーナル フリー

    温暖化予測や地球環境変動の理解に向けて開発されている地球システムモデルは,気候に関わる物理的過程をモデル化した気候モデルを中心に,陸域や海洋における生態系・物質循環過程も加えられたものである。気候-炭素循環過程の予測では,特に,炭素循環に関わる全球観測情報が近年得られるようになり,地球システムモデルの炭素循環過程の検証・評価の可能性が飛躍的に高まっている。しかし,モデルで扱われる多種多様な過程,特に,炭素循環や生態系過程を多角的に検証するための全球情報は十分であるとは言えず,予測精度の向上において長期・広域の観測情報の発展は,今後とも必要不可欠である。

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