フィリピン・ルソン島北西側にはマニラ海溝が発達し,そこではユーラシアプレートがルソン島の下へもぐりこんでいる。プレート収束帯の陸側(上盤側)の海岸部には,西南日本外帯においても見られるように,海成段丘が発達する場合が多い。ルソン.島北西部のハンガシナン州ボリナオ市付近は,マニラ海溝に最も近接する地域の一つであり,隆起サンゴ礁からなる海成段丘が広く発達している。著者らは,本地域の段丘地形を記載し,後期更新世の地殻変動様式を知る目的で,1991年1月下旬から2月上旬にかけてこの地域に発達する海成段丘の現地調査を行った。ボリナオ付近に発達する海成段丘は大きく7段に区分され,それらを上位からボリナオI面(B-I)〜VII面(B-VII)とした。最上位のボリナオI面は160m以下の高度に分布し,段丘面の発達が最も顕著である。また,最下位の段丘面であるボリナオVII面は,高度9m以下に分布する。ボリナオII而以下の隆起サンゴ礁段丘は,ボリナオI面の内側をふちどるように分布している。これらの段丘は,ほとんどがサンゴ石灰岩からなっており,段丘而上には礁嶺や礁湖などの微地形や,ドリーネなどのカルスト地形が発達している。海成段丘の旧汀線高度は,調査地域中央部のカトゥデイ,マカビットあたりで最も高く,それより南北方向には高度を減ずる傾向がある。また,海溝軸から遠くなる東方向にも段丘面の高度が低くなる。このような変形は三マニラ海溝陸側斜面に発達する活断層の活動に伴う変動が累積した結果,形成された可能性が考えられる。ボリナオ1面を最終間氷期最盛期に形成されたものと仮定すると,平均隆起速度は最大1.3mm/yとなる。この平均隆起速度から単純に計算すると,ボリナオVII面はその分布高度から完新世に形成されたものと推定される。各段丘の放射年代や段丘面変形のプロセスなどについては,今回の調査では具体的なデータが得られなかった。今後の検討課題としたい。
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