本稿では,日刊建設工業新聞社の「業者別土木完成工事高データ」を体系的に収集・整理し,建設業全体の完成工事高データでは実態を把握することが困難であった,戦後における全国土木業者の編成過程とその後の展開について分析した。分析の結果,以下の3点が明らかになった。1)戦時中の1944年時と2001・2002年度平均時の完成工事高を比較すると,最上位15社の土木業者の顔ぶれは変化していない。しかし,高度経済成長期における官民双方からの旺盛な土木需要の中で,8社が大きく完成工事高を伸長させ,完成工事高・ランクの両面において,これらの業者へのキャッチアップを果たす。その理由は,(1)政策的に国が大規模土木事業を担うことができる新規業者の育成を図った,(2)日本を代表する企業グループが自ら土木業に進出するようになった,(3)市場の拡大の中で,特殊な技術を持つ業者に成長の余地が生まれた,という3点による。戦時中に15社に続く規模であった土木業者の成長もあり,1970年代半ばまでに全国土木業者は約30社に増加した。2)高度経済成長の終焉によって,民間の大規模設備投資が急減すると,こうした事業において競争力を持っていた土木最大手の鹿島建設,大成建設,熊谷組の完成工事高が1970年代後半に大きく落ち込む。これらの業者の市場シェアにおける卓越性は失われ,全国土木業者間の規模格差は大幅に縮小する。3)高度経済成長期に急成長を遂げ全国土木業者の仲間入りを遂げた業者は,その後も市場シェアを保ち,完成工事高の面では,全国土木業者の地位を維持している。しかし,それは安値受注等によって実現したものと思われ,利益率は著しく低下する。一方,地方圏に本店を置く大規模な地場土木業者は,地盤地域中心の受注を維持することによって,その多くが高度経済成長期と遜色ない利益率を維持している。
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