本稿では福建省の1農村を取り上げ,出稼ぎ労働の特性について出稼ぎ労働者の増加過程,就業地の分布と就業特性から考察した。2001年以降,農村から都市への移動が緩和されたため,出稼ぎ労働者は1990年代の10歳代,20歳代など若年層から幅広い年齢層に及んだ。最近の30歳代,40歳代の世帯主の出稼ぎは集落の農業に一定の負の影響を与えているが,現段階では,農業経営の不採算や耕作条件の悪さの方がより大きな負の影響を与えていると考えられる。また,対象集落では農外就業機会が限られているため,就農経験の少ない10歳代,20歳代の出稼ぎ労働者は都市での長期滞在と安定的な収入が得られる業種に志向する傾向がある。出稼ぎ労働者の就業地は一貫して沿海開放都市が中心であった。ただし,彼らの多くは主に省内で就業しており,特に省内の少数の都市に集中する傾向がある。出稼ぎ労働者の就業業種は主に製造業や飲食・宿泊業に集中していたが,2000年代に入って,若年層出稼ぎ労働者の一部を中心にサービス業への就業も増加している。また,就業地・就業業種の変更は主に20歳代,30歳代の一部にみられ,彼らは製造業への就業を避け,製造業発達地域から離れる傾向がみられる。このことは出稼ぎ労働者にとって,沿海部の製造業の魅力が低下していることを示唆している。
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