デリー首都圏の工業化は,自動車系と軽工業系(アパレル,繊維など)の雇用を大きく拡大させたが,前者では非正規化が顕著に進行したのに対して,後者でその水準は低く留まる。本稿は,ハリヤーナー州最大の工業団地IMTマネサールでの調査結果により,自動車系の非正規ワーカーと軽工業系のワーカーは,出身地や賃金水準を同じくしており,基本的には同一の労働市場にあることを導き出す。両者の間には差異も認められる。それは,自動車系においては企業側が労働力を若く,新しい状態に保ちたい意向をもつため,軽工業系よりも入れ替わりが激しいことにより生じている。経済生活面では,ワーカーは住居費や食料費を抑制し,手取り収入の40%程度をウッタル・プラデーシュ州やビハール州の農村部に住む家族へ送金していることが注目される。送金は家族の生活費のみならず,教育費や耐久消費財の購入にも充てられ,彼らが置かれている条件不利性を軽減する可能性も有していると考えられる。制約がある中で,インド工業化の恩恵を引き出そうとするワーカーの営為が明らかとなった。
「平成の大合併」において,国は市町村の行政能力の向上を目的に合併を推進した。しかしそれ以前に,国は同じ目的で,中心都市と周辺農山漁村で構成された広域市町村圏を設置している。すなわち「平成の大合併」によって,市町村の行政能力向上の手段が広域市町村圏から合併に変化したといえる。
本稿では,広域市町村圏ごとに算出した市町村数減少率と中心市町合併寄与率を用いて,広域市町村圏と合併市町村との空間的整合度の地域差を分析した。市町村数減少率は,「平成の大合併」の期間中にその広域市町村圏で減った市町村の割合を表し,中心市町合併寄与率は,中心市町村と合併した周辺市町村の割合を表す。これらの指標に基づき,広域市町村圏を3つに類型化して地図上に示した。類型ごとの分布傾向をまとめると以下のようになる。第1に,合併市町村とよく整合する(高い市町村数減少率と高い中心市町合併寄与率を示す)広域市町村圏は,県の縁辺部にみられる。第2に,市町村合併がほとんど行われなかった(低い市町村数減少率を示す)広域市町村圏は,北海道,東北地方および大都市圏の近くに位置する。第3に,中心市町が市町村合併から排除された(高い市町村数減少率と低い中心市町合併寄与率を示す)広域市町村圏は,北陸,四国南部や,東京・大阪の半径 100 km圏内に位置している。