地理科学
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73 巻, 3 号
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シンポジウム:現代インドの空間構造―2017年度秋季学術大会シンポジウム―
論文
  • ――2011年国勢調査を用いた就業機会の地区類型――
    鍬塚 賢太郎
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 93-113
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,インドの空間構造を明らかにするために,統計的手法を用いてインド全体から就業機会の分布について検討を加えることである。その際に,2011年国勢調査のBシリーズを用いるとともに,県を単位地区として分析を行った。

    まず労働力状態,産業別就業者,従業上の地位といった就業機会にかかわる34変数をとりあげ632地区を行とする地理行列を作成した。これをもとに主成分分析を行った結果,6つの主成分を見出すことができ,それぞれに次のような名称を与えた。すなわち,第1主成分「大都市の多様な就業機会」,第2主成分「公的な部門に支えられた就業機会」,第3主成分「農業および製造業での安定的な就業機会」,第4主成分「農村部の限定的で不安的な就業機会」,第5主成分「短期の就業機会」,第6主成分「鉱業及び採石業に支えられた就業機会」である。

    加えて,固有値の大きな第1主成分から第4主成分の主成分得点についてクラスター分析を行い,5つの地区類型を見出した。特に,大都市を示す類型を明確に見出すことができ,それは,岡橋が仮説的に提示した「メガ・リージョン」と整合性をもった分布を示す。今後,集積の経済との関連においてその内部構造について検討を重ねていく必要があるだろう。

  • 後藤 拓也
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 114-126
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,1990年代以降のインドにおける農業空間構造の変化を示す事例として,「ピンクの革命」と称されるほど急速な発展を遂げているブロイラー養鶏産業に着目し,その産地形成プロセスを考察した。インドのブロイラー養鶏産業は,多くの大手養鶏企業が立地する南インドで先行的に産地形成が進むなど,伝統的に「南高北低」の地域性を特徴としてきた。しかし1990年代後半以降,それまで養鶏産業の立地が進まなかった北インドにおいて急速な産地形成が認められる。そこで,北インドのなかでも新興産地の代表例であるハリヤーナー州において現地調査を行った。その結果,調査対象地域では1990年代以降,多くの農家がブロイラー養鶏に新規参入し,大規模な「2階建て鶏舎」を相次いで建設するなど,従来の穀倉地帯が大きく変容していることが確認された。しかし調査対象地域におけるほとんどの農家は,ブロイラー養鶏を始めるに当たって,ハード面(鶏舎の建設資金)およびソフト面(飼養技術の習得)において十分な政策的サポートを受けていないことが判明した。そのため,調査対象地域におけるブロイラー養鶏農家の技術的水準は総じて低く,鶏病などの疫病リスクに対して脆弱な産地構造をもっているという課題が明らかとなった。

  • 宇根 義己
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 127-141
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,インド繊維・アパレル産業の空間構造を,産業構造の特性,主要産地の発展過程と企業の取引関係および労働者の供給圏から明らかにした。

    主要工程の空間的特徴を分析したところ,紡績工程はタミル・ナードゥ州が群を抜いて高い拠点性を有していること,織布工程はマハーラーシュトラ州,タミル・ナードゥ州,グジャラート州が中心であり,州内には複数の織布産地が形成されていること,縫製(アパレル)工程は比較的分散傾向を示すことがそれぞれ確認された。紡績産地であるコインバトールと織布産地であるスーラトの事例から,産地間および企業間の取引においては,仲介業者や卸売業者が発注者と受注者を結びつけ,これらが工程間および産地間の取引を媒介し,斯業の地域間工程間分業を可能としていることが明らかになった。労働者の供給圏については,2000年代以降に南インドにおいて北・東インドからの移動労働者を大量に受け入れていることが確認され,斯業における現業労働力は全国的に北・東インドの移動労働者に依存する構造となっている。

  • 由井 義通
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 142-149
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    インドでは,農村地域から大都市圏地域への大量の人口移動は,未曽有の住宅需要を生み出し,さらに大都市郊外地域での住宅開発は道路整備や公共交通の発達をもたらせ,このような利便性の向上はさらなる住宅開発を引き起こしている。

    本研究は,1990年代以降のインドにおける都市の郊外開発のうち住宅開発の特徴と都市開発の課題を明らかにすることを目的とする。現地調査をもとに検討を試みた結果,デリー大都市圏における都市発展とデリー首都圏地域整備計画の変化を概観した。インドの大都市圏では高層住宅が急増しており,通勤限界地となる遠距離郊外地域においてさえも絶え間ない住宅開発が行われている。一方,開発地では建設を中断した高層住宅やアーバン・ビレッジなどの課題を生じている。また,転売された土地について民間不動産会社による都市開発が十分にコントロールされておらず,次々に進む都市開発は持続性の面からみて課題をかかえている。

  • ――デリー首都圏における2農村の事例から――
    森 日出樹
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 150-163
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,デリー首都圏に位置する2つの郊外農村の事例をもとに,アーバン・ビレッジ化した農村の変化を,土地収用の影響,経済活動・就業構造の変化などから考察する。両村ともに,初回調査から追跡調査までの間に,開発目的による大規模な農地の収用が行われた。その結果,農地所有世帯の減少(土地なし世帯の急増),農業の衰退が顕著にみられた。しかしその一方で,補償金を活用し,賃貸目的で土地を購入したり,家屋を増改築したりする世帯も目立った。新住民の流入は,村内での賃貸業や店舗経営を後押しした。その結果,村内でもともと経済的に優位にあった比較的規模の大きな土地所有層が,土地収用後も依然経済的な優位を保ち続けている。住民の多様化,職業の多様化,格差の維持による社会の分断化が懸念される。村内では従来の農村家屋に代わり,高層の住宅が立ち並ぶようになったが,行政の空白によりインフラの整備は遅れたままである。アーバン・ビレッジとも呼べる村の居住地区は,大都市の都市計画から除外され,低開発状態に置かれているといえる。しかしその一方で,そうした村は新住民の労働者などに安価な宿を提供するなど,大都市の労働力の再生産に大きく貢献しているのである。

  • 岡橋 秀典
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 164-176
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,インド経済の成長の下でのヒマラヤ山岳地域の近年の構造変化について,工業および農業の開発を中心に解明し,さらに開発問題について「周辺化」や持続可能性の観点から検討しようとするものである。主に対象としたのは,インドヒマラヤの西部に位置するウッタラーカンド(UK)州とヒマーチャル・プラデーシュ(HP)州である。両州は,その山岳地域としての条件不利性に起因する,アクセスの悪さ,雇用不足,労働力の流出といった低開発性に悩まされてきた。

    しかしながら,近年は経済成長が顕著で,インドでもその発展が注目されている。2000年代のそのような経済成長は,主にパンジャーブ・デリーメガリージョンへの良好な位置による大規模工業化に帰せられる。それはまた,インド政府により法制化された特別カテゴリーの州における新工業政策に依存している。しかしながら,2000年以前には両州の間に工業化過程における差異がみられる。HPの方が,山岳地域工業化の試みが失敗したUKよりも工業開発に成功していた。農業開発では,HP州が山岳農民の経済状況改善に貢献したリンゴ生産で大きな成果を収めたのに対し,UK州は茶生産の発展やビジョンとしてのオーガニック州のアピールに向けて努力してきたがみるべき成果を得ていない。

    この2州にこのような経済発展の差異をもたらした要因は何であろう。ここでは,州の成立時期,既存の産業集積との近接性,都市化の程度を仮説的に提示した。また,持続可能性の観点から開発問題を検討すると,水資源開発,生物多様性,保護とツーリズムの間の葛藤の重要性が指摘された。

    今日のインドの山岳州は,近年の経済成長の下で,発展のビジョンや戦略における葛藤が増大していると結論することができる。

  • ――地域間格差と工業立地――
    友澤 和夫
    原稿種別: 論文
    2018 年 73 巻 3 号 p. 177-192
    発行日: 2018/10/28
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    インド経済の高度成長は,地域間格差の拡大を伴っている。本稿では,まず1人当たり州内純生産に南北格差と東西格差があることを見出す。同値が高い州は同国西部に位置し,その分布はバナナの形を呈するため,これを「インドのバナナ」とする。一方,1人当たり州内純生産が低位な州は,BIMARUと呼ばれてきた同国東北部に位置する。こうしたインドの経済空間的パターンと類似しているのが,デリー首都圏,マハーラーシュトラ州西部,チェンナイ=バンガロールを結んだ範囲に組立工場やサプライヤーが集まる自動車工業の立地パターン=「オート・クレセント」である。さらに,同国を代表する自動車工業集積・デリー首都圏をみると,そこには2つの空間的方向性がある。第1の方向性は,工業集積の外延的拡大=「オート・コリドー」の形成であり,国道48号に沿って面的な拡大が続いている。第2の方向性は,労働力供給地のデリー首都圏からの分離=「請負ワーカー・ベルト」の形成である。当地の労働力供給は,デリー首都圏から遠く離れたビハール州やウッタル・プラデーシュ州東部に負っている。同時に,それは労働力の非正規化・インフォーマル化を伴い,低賃金や雇用の不安定化の問題も孕んでいる。第1の方向性は,デリー首都圏に経済的恩恵をもたらすが,第2の方向性は「請負ワーカー・ベルト」を低賃金労働力供給地の地位に押しとどめる作用を有すると考えられる。自動車工業の産業空間の形成は,労働市場を介して,インド経済の空間構造にも影響を与えている可能性を提起し得る。

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