本稿では,石川県金沢市の用水路の水音を対象に,地域住民が音をどのように聞き取り,特徴づけているのかを明らかにした。まず,対象とする音を定量的に把握するため,音圧レベル測定と音聞き調査を行った。その結果,環境省の定める騒音レベルを超える大きな音が堰から鳴っていることが明らかとなった。また,街路や建物など,街の形状によって音の聞こえる範囲が異なっていること,流量の変化により季節で音の範囲が変わることが示された。次に,住民の音環境の認識を明らかにするため,アンケート調査とグループインタビュー調査を行った。その結果,住民らは意識的に用水路の音は聞いていないが,無意識下で評価をくだしていた。これは,住民らにとって用水路の音が基調音となっていることを示唆している。また,音の評価は,住民の生活との関わりの中で行われていることが明らかとなった。
地方圏の機械系中小企業は近年活発にイノベーション活動に取り組んでいる。本研究は,地方圏の1つである熊本県内のイノベーション活動に取り組む機械系中小企業を事例に,イノベーション活動の存立基盤とその空間的特性を明らかにした。
事例企業は,技術的特性と発展過程に基づいて,基盤的技術型企業,部品組立型企業,製造装置生産型企業の3類型に分類された。イノベーションの技術志向はそれぞれの企業が蓄積してきた技術的特性に規定されていた。
事例企業の開発プロセスに注目すると,大企業からの支援と濃密な産学官連携ネットワークの存在の2つが,イノベーションを支える地域的な基盤となっていた。また,イノベーションのためのネットワークは熊本県内という狭い空間スケールを中心に構築されていた。
熊本県内では産業支援主体である公設試や大学などが熊本都市圏に集中していた。熊本都市圏から遠い地域に立地する企業は,イノベーションの創出のための支援を受けることが困難であった。そのため,これらの企業は産業支援機能を享受するため,熊本都市圏内に拠点を立地させていた。つまり,事例企業は,イノベーティブな活動を通して,熊本都市圏への集中傾向を強めていた。