地理科学
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74 巻, 1 号
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研究ノート
  • ――石川県能美市寺井地区を事例に――
    佐野 遼平, 𠮷田 国光
    原稿種別: 研究ノート
    2019 年 74 巻 1 号 p. 1-22
    発行日: 2019/04/28
    公開日: 2020/04/04
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,九谷焼産地を事例に,伝統的技術が継承されてきた仕組みを明らかにすることである。九谷焼は日用品や芸術品といった様々な役割が付与されているが,赤・黄・緑・紫・紺青の「五彩(ごさい)」と呼ばれる絵付けが共通する特徴の1つとされる。「五彩(ごさい)」に特徴付けられる九谷焼の共通技術が習得されていくプロセスを,とくに個人の修学・就業プロセスに注目して分析する。具体的には,教育機能を有する外部機関の運営状況と,九谷焼生産に関わる個人の独立に至るまでの修学・就業動向を事業所の経営形態ごとに分析した。各外部機関が修学者の技術習得にどのような役割を果たしているのかを考察することから明らかにした。

    その結果,修学者の修学プロセスとして3つのタイプを析出できた。まず第1のタイプは,修学者が金沢美術工芸大学を卒業した後,実家の見習いとして働いた後に独立するものである。第2のタイプは,研修所で修学した後,作家か大規模事業所で見習いとして働き,九谷焼の振興に向けた公的助成金を利用し独立するものである。第3のタイプは,見習いとして働くことがないか,もしくは短期間で独立するものであった。実家が九谷焼生産の事業所である場合には,生産の技術は各事業所で習得されてきた。一方,実家が九谷焼生産の事業所でない場合,彼・彼女らは公的支援や機関が技術習得の機会を利用していた。立場に応じて,様々な技術習得の機会が利用され,九谷焼生産の技術が継承されてきた。

展望
  • 前田 竜孝
    原稿種別: 展望
    2019 年 74 巻 1 号 p. 23-39
    発行日: 2019/04/28
    公開日: 2020/04/04
    ジャーナル フリー

    本研究では,日本の漁業地理学において生態学的方法が導入された経緯と,その後の展開を考察する。生態学的方法は,水域で行われる漁業活動と潮汐,潮流,風力,風向,海底地形など自然環境との関係性を明らかにしようとする調査手法である。これは,1980年代,漁業に関する生態人類学的研究と漁業地理学における文化地理学的研究から影響を受けた地理学者の田和正孝によって導入された。この手法には,現地調査において出港・帰港時刻,漁場での活動時間,漁船数や漁具の個数,漁獲物の重量あるいは体長などの計測より得られたファストハンドのデータを重視するという特徴がある。この手法を通して,漁業者による共時的な漁場利用の形態が解明された。1990年代以降は,生態学的方法が事例研究へ積極的に応用された。その過程では,新たな調査手法も開発された。一方で,2000年以降の漁業に関する生態人類学的研究では,漁業者の環境利用を通時的に捉えるアプローチが一般的になっている。こうした研究動向,並びに近年の漁業をめぐる状況の変化を考慮すると,今後は生態学的方法を通して収集した共時的なデータを,通時的な変化のなかに位置づけていくことが重要になる。

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