地理科学
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74 巻, 3 号
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シンポジウム:システム思考をはぐくむ地理学習――ESD で問われているもの――
論文
  • ――新学習指導要領等の検討から――
    阪上 弘彬
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 107-115
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,新学習指導要領における「地理総合」を中心に,他国の地理カリキュラムおよびユネスコ等が示す国際的なESDに関する指針の検討を踏まえ,地理学習における「システム(思考)」の観点について報告するものである。

    地理学習の目標として,「持続可能な社会づくりの担い手づくり」を視野に入れ,地理的事象を人文と自然の観点からシステム的に捉える地理学習が目指されている。さらに,ESDへの取り組みを視野に入れた場合,システム思考の育成も同時に学習目標に位置づけることができる。

    上述の学習目標に対応した学習において学習内容の中心となるのが,自然システムと社会―経済システムに関するものである。そして,その理解に基づいた持続可能性に関する,あるいはSDGsに関連する諸問題の解決に向けた学習活動である。地理的な見方や考え方,その中でも人間と自然環境との相互依存関係,空間的相互依存作用に着目して地理的事象を捉えて,考察するという学習過程の中に,「システム(思考)」の観点が含まれていると考えられる。すなわち,システム思考の育成という学習目標からみた場合,地理学習の過程ではシステム思考を育み活用できる土壌があると考えられる。

  • ――「人間―地球」エコシステムが提起すること――
    梅村 松秀
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 116-126
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    「国連持続可能な開発のための10年」に示された行動計画に対して,国際地理学連合・地理教育委員会(IGU/CGE)は,2007年に「持続可能な開発のための地理教育に関するルツェルン宣言」(ルツェルン宣言)を公表する形で対応した。「ルツェルン宣言」は,共有善とされる「持続的な開発」に基づいた価値志向の地理学習のために,「人間―地球」エコシステム概念,ならびにその方法論と技法としてシステムアプローチを提起した。本稿は,「地理教育国際憲章」において,系統地理学習の1つとして提起されたシステムアプローチ学習が,ESDのための地理学習案として提起された「ルツェルン宣言」において,どのようなシステム観のもと,どのような学習方法として提起されたかについて再読を試みるとともに,持続可能な開発に関連したホリスティック・ビジョン,環境教育プログラムにおけるシステムアプローチの動向を明らかにした。結果として,地理学本来の特徴とされる「架橋性」の再確認,あわせて「人間―地球」エコシステム概念にもとづく学習方法および技法の提起に対して,地理教育・社会科教育関係者によるさらなる対応の必要性を確認することとなった。加えて,「人間―地球」エコシステム概念は,地域という一定の空間をシステムとしてとらえ,かつ思考ツールとしてのシステムアプローチを適用するにあたっての指針となることを明らかにした。

  • ――実証試験問題の分析――
    山本 隆太
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 127-137
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,地理システムコンピテンシーモデルの実証試験に用いられた試験問題を分析し,その結果と考察について報告するものである。

    地理教育におけるコンピテンシーの議論は1970年代の教育学でのRothのコンピテンシー議論を受けて始まっているといえる。地理教育においてはKöckを端緒として,当初は目標論として始まったコンピテンシー議論であった。2000年代以降は,Weinertのコンピテンシー定義に基づき測定可能な能力論として実証研究を伴って展開している。Rempflerらはこのコンピテンシー実証研究の方式に則り,地理システムコンピテンシーを開発した。この開発研究において大きな役割を果たしたのが試験問題である。

    地理システムコンピテンシーを測定する試験問題を分析した結果,比較構文などを用いた文章表現や,フロー図やネットワーク図といった図的表現において地理システムコンピテンシーとしての特性が見出された。こうした特性をコンピテンシーモデルと参照することで,要素数のおおよその数が得られるとともに,モデルの想定する具体的な能力像を得ることができたため,そこから学習方法についても若干の考察を加えた。

  • ――地理教育の実践に向けて――
    藤澤 誉文
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 138-147
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    近年,教育界での研究の成果や経済界からの要請等により,日本国内でも国際バカロレア教育への関心が高まっている。平成29年3月告示の中学校学習指導要領では,これまでよりも生徒が実生活や社会とつながる学びが求められており,そこで活用することのできる知識理解や思考力・判断力・表現力等を育成することを重視したものとなっている。この点は,国際バカロレアの学びと重複するものになっていると考えられる。

    本稿では,国際バカロレアの地理授業において,システム思考はどのように育成するのか,これまでの授業実践事例とどのように異なるのかについて,国際バカロレアの中等教育プログラムである,MYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)の教科「個人と社会」の実践事例をもとにして考察した。

    明らかになったのは,以下のことである。国際バカロレアは生徒にシステムコンピテンシーの一部を習得させるのではなく,探究活動を通してシステムコンピテンシーのプロセスを追随させる。また,形成的評価によって一人一人のコンピテンシーを高めていく。このような学習を他の教科でも行うことにより,生徒が生活や社会の様々な場面で転用可能な知識やコンピテンシーを獲得することができる。

  • ――地域調査の実践を通して――
    小河 泰貴
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 148-157
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,地理の授業において地域調査におけるフィールドワークにシステム思考を導入することの効果について考察することである。ESDに関する学習方法として,近年日本で注目されているのがシステムアプローチである。地域調査を行うにあたり,システム思考でもって地域的諸課題をみることで,自らが挙げた解決策が地域へどのような影響を及ぼすのかまで思考を進めることが可能となる。一方,システム思考を導入しない場合には,短絡的かつ特定の地域にみられる各アクターの関連性を考慮しないものの見方・考え方で思考が止まる可能性がある。本稿では,まず,地域調査の手法としてのフィールドワークを,その分類を踏まえて地理的技能の観点から概観する。次に,対象地域と授業実践例について報告し,新学習指導要領における位置づけや参加生徒を対象とした質問紙の分析を行った。それらの結果,新学習指導要領の「地理総合」において,システムアプローチの一連の研究成果が寄与しうることが明らかになった。また,地域調査における課題発見・解決の展開にシステム思考を導入することは,持続可能な社会づくりを構築する際の視点の提供を可能とするため,ESDに対する寄与が大きい地理においても有効な手段であることが確認された。

  • ――地域での危険回避を扱う単元「防災」と「防犯」の開発と実践――
    中村 光則
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 158-170
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    「持続可能な開発のための教育(ESD)」の理念の重要性が教育振興基本計画に明記されて10年が経過した。2018年に告示された高等学校学習指導要領地理歴史科の新科目「地理総合」にも,ESDの理念が大きく継承されている。

    筆者はこれまで高校地理において,ESDの視点を取り入れ,地域的諸課題である自然災害について考察させる防災地理や,犯罪の発生しにくいまちづくりを地理的に考察させる防犯地理といった授業を実践してきた。ESDの視点を取り入れた防災・防犯まちづくりの授業では,人間活動と自然環境/生活環境を,それぞれ組み合わせて考察する視点(システマティック)と,社会や生活全体を広く俯瞰して考察する視点(システミック)から考察する「システム思考」を育成できると考える。そして,こうして育成した「システム思考」を,他の事象に活用していくことにより,実生活における思考力や判断力を伸ばすことができると考える。

    本稿では,これらの授業実践をとおしてみえてきた成果と課題を明らかにし,今後の地理教育におけるESDによるシステム思考の育成および活用の留意点や方向性について提案した。今後は,リスク・トレードオフの視点など,ある場所での取組による変化の影響をもっと広い範囲での因果関係で捉えさせるようなシステム思考を働かせて現状を捉え,全体としてリスクが最小限となるような改善案を考察させる単元開発が必要であると考える。

  • ――オゾンホールを題材とした地理授業実践――
    河合 豊明
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 171-179
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    従来から,高校地理において地球環境問題として,オゾンホールが取り上げられてきた。そこでは,南極域で発生すること,紫外線量が多くなること,オゾンホールを生み出す原因となる特定フロンが先進国や新興国といった国々で多く排出されていたことを取り上げてきた。一方,どうして原因物質の大部分が北半球の中緯度地域で排出されているにも関わらず,被害を受ける地域が南半球の極地なのかについては,これまで積極的に取り上げられてこなかった。そこで,特定フロンの排出からオゾンホールの出現までをシステム思考の手法で捉えることによって,大地形や大気循環といった諸現象を絡めた課題探究学習を実践することが可能となる。そこで本実践では,「地理総合」における「地球的課題と国際協力」の学習単元と位置づけた。実践の結果,課題探究学習として立てた4つの目標を達成することはできたが,評価方法が論述かキーワードの並べ替えかに限定されるという課題が残った。さらに,文化や宗教といった事象は,システム思考を用いることが適切なのかどうか,今後検討していく必要があることが示された。

  • ――単元「チョコレートから世界が見える」を通して――
    泉 貴久
    原稿種別: 論文
    2019 年 74 巻 3 号 p. 180-191
    発行日: 2019/10/28
    公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,高校地理における地球的諸課題の解決と社会参加を目指した単元「チョコレートから世界が見える」の授業実践プランの提案とそれに基づく実践報告を行った。

    具体的には,開発コンパスと関係構造図というシステム思考のツールを活用することで,生徒がチョコレートを媒介に世界諸地域間の空間的相互依存関係を認識し,原料生産国が抱える諸課題の発見・解決,そして社会参加へと至る探究プロセスを重視する授業展開を試みた。その結果,以下の点が明らかとなった。

    分析対象生徒の「システム思考に関わる5段階の能力」から地球的諸課題への意識を考察した場合,「問題を全体的にとらえる能力」「問題の解決策を見出す能力」「自分自身と社会との関連性を見出す能力」「個人の変容を促す能力」については,小単元が進むにつれて諸能力の獲得が見られたが,「社会の変容を促す能力」については,その獲得が不十分な状態にあった。

    今後の課題として,「科学的認識と総合的な見地に立脚した社会参画を見据えた課題解決型の地理教育」の確立を目指すべく,「社会の変容を促す能力」の育成に重点を置いた授業プランの開発とともに,その成果を検証するための授業実践を継続的に行っていきたい。

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