本稿では,平成28年熊本地震の発生に伴い,肉牛生産に利用される牧野においてどのような被害が発生し,それらの牧野を利用し維持・管理する牧野組合においてどのように復旧対応がなされたかということを,熊本県阿蘇郡旧長陽村及び旧白水村の11牧野組合を事例として明らかにした。
牧野組合での被害内容は,肉牛生産に直結する牛の死亡等よりも,牧野における土砂崩壊や道路被害が大きく,各牧野組合で受け入れられた外部組織による補助事業費もそれらに関するものが主であった。
土砂崩壊や道路被害が大きくなると,補助事業費も大きくなる牧野組合がみられる一方で,被害が小さいにもかかわらず補助事業費が大きい牧野組合や,被害が大きいにもかかわらず補助事業費が小さい牧野組合もみられた。背景には,各牧野組合の牧野の維持・管理作業の在り方の違いがあると考えられる。
前者の牧野組合では,近隣地区での野焼き事故の発生により,地震発生以前から野焼きが実施されていなかった。ただし,条件が整い次第野焼きを再開する意向が示されており,行政による復旧支援も充実したと考えられる。
後者の牧野組合では,地震以前から牧野の維持・管理作業が実施しやすいように独自に恒久防火帯を整備していた場合と,放牧地に対して牛の放牧頭数が多いことから野焼きによる牧野の維持・管理を必要としないと考えられていた場合とがあり,復旧支援も抑えられたと考えられる。
本稿は,北アメリカ(アメリカ合衆国及びカナダ)の地理学において「場所の構築(場所づくり)」を扱った8つの研究事例の主張や考察内容を検討し,それを通して「場所の構築」という地理的過程の特質を考察したものである。各事例で提示された「場所」は,そこに住む人々にとって自らの生活空間,領域であると同時に,彼らのアイデンティティ,エートス,価値感,ヘリテージと結び付く何らかのイメージや象徴的意味が付与された空間でもある。この「場所」を構築する具体的過程は,ほとんどの事例で景観(ランドスケープ)の形成過程として描かれる。「場所の構築」は,フィジカルかつ象徴的な方法で自らの領域を創り上げることであり,同時に特定の文化的文脈の下での理念的景観創出の過程でもある。場所の構築にあたっては,社会(コミュニティ,階級)や文化(レース概念,エスニック・アイデンティティなど)もともに構築され,両者は相互に支え合う。場所の構築を引き起こす主要な力は,それを担う人々の行動・活動など実体的諸行為に加えて言説・表現などの表象行為が重要になるが,外から働くまなざし,認知的表象,メディア的表象も一定の役割を演ずる。なお,場所の構築過程が進行する際の背景や文脈,主体の行為を規定するパラメータが各事例に個性を与えている。