地理科学
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平成30年7月豪雨災害から学ぶ――西日本各地の調査報告と防災教育への手がかり――
論文
  • ――平成30年7月豪雨による広島県南部を事例に――
    竹内 峻, 後藤 秀昭
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 90-99
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    平成30年7月豪雨により,広島県南部の広範囲で多数の斜面崩壊が発生した。広域的に発生した斜面崩壊について,微地形分類を基に斜面崩壊地形を系統的に検討した研究はこれまで行われていない。そこで本稿では,平成30年7月豪雨による斜面崩壊が多発した広島県南部を対象に斜面崩壊の微地形分類を行い,地理情報システム(GIS)を用いて斜面崩壊の地域差とその要因について考察した。

    対象地域の東部では規模の小さい斜面崩壊が多く,西部では大小様々な規模の斜面崩壊が混在しており,50万m2 以上の大規模なものもみられた。また,斜面崩壊が高密度に分布する場所が数カ所で認められ,場所により微地形の違いが観察された。それらの要因を検討するために,地形や岩質が異なる3つの地域(広島市南東部周辺,野呂山北東麓周辺,三原市本郷町西部)を取り上げ,崩壊の流下長,幅について検討した。微地形の違いは主に岩質によって説明でき,花崗岩類では斜面崩壊の幅が狭く,流下長のばらつきが大きい一方で,流紋岩類は斜面崩壊の幅が広く,ばらつきが小さいことが解った。また,緩斜面で多数の小規模な崩壊が分布する三原市本郷町西部では,風化物質の有無が崩壊の分布と微地形に影響している可能性がある。

  • 後藤 秀昭, 山中 蛍
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 100-108
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    地域社会の持続的な発展のためには,自然災害に遭いにくい場所に居住することがあるべき方向性の1つと考えられる。本研究では,2018年7月西日本豪雨によって生じた広島県南部の土砂災害の被災建物に焦点を絞り,地理学的な分析から土砂災害が生じた背景と対策の問題を検討した。

    災害前後の空中写真から認識できる土砂災害による被災建物は7,500軒あり,災害後に建物が消失した全壊建物は212軒,半壊建物は91軒であった。被災建物のほとんどがDID以外であり,DID以内に分布するものは都市の発展とともに内包されたものである。被災建物の建築年代別では,1969年までに建築されていたものが143軒を占めるが,その後のわずか10年の間に62軒が建築された。高度経済成長期末期以降,DID以外でも山麓の災害リスクの高い場所に住宅建設が進んだものと考えられる。警戒区域との関係では,被災建物は約79%が区域指定のある場所に位置し,そのうち警戒区域外で被災した建物は73軒,警戒区域内では132軒,特別警戒区域で被災した建物はわずか35軒であった。被災建物の大多数が含まれる警戒区域は,土地利用制限などがある特別警戒区域と同等に被災しうる場所であり,その主旨が正しく伝わっているか,多面的な検証が必要である。人口減少社会のなかで長期的には安全な場所へ居住地を誘導することが望ましく,世代を跨ぐ程度の時間スケールで対策を講じていく必要があると考える。

  • 岩佐 佳哉, 熊原 康博
    原稿種別: 論説
    2020 年 75 巻 3 号 p. 109-116
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    1945年9月に発生した枕崎台風は,広島県において明治以降に発生した災害の中で最も大きな被害をもたらしたが,その詳細は一部地域を除いて不明である。本研究では広島県東広島市を対象に,枕崎台風に伴って発生した土石流の分布を復元し,死者の分布と数を報告する。さらに,土石流の発生履歴を図示することの防災・減災における意義を示す。

    空中写真判読の結果,対象地域において811カ所で土石流が発生し,少なくとも13人の死者があったことが明らかになった。また,西日本豪雨の土石流分布と比較すると,2度の土石流の崩壊源は異なる谷に存在し,下流部ではこれらが集まることで土石流による被害を繰り返し受けてきたと考えられる。

    枕崎台風の土石流による被害を空中写真判読と水害碑や石仏,「学校沿革誌」を用いて復元し,西日本豪雨の土石流と重ねて図示した。これらは住民の防災・減災意識の向上に資する資料となりうると考える。

  • 丸山 雄大, 松多 信尚, 後藤 秀昭, 中田 高, 田中 圭
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 117-126
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    平成30年7月豪雨により高梁川支流の小田川およびその支流が各所で破堤し,倉敷市真備地区は一面湖のようになり,甚大な被害が生じた。この外水氾濫は,大河川とそれに合流する中小河川の合流部付近で洪水流がどのように影響しあうのかを考察するうえで貴重な経験となると思われるが,浸水の経緯やその水位の変化など不明な点が多い。そこで,本研究では現地調査により湛水時の痕跡を観察し,建物などに残された痕跡の標高(痕跡高)と浸水域の山麓での汀線の標高(遡上高)を計測して,その結果を基に浸水の様子を推定した。その結果,本流および支流の連続堤防により囲まれたそれぞれの堤内地で痕跡高は,ほぼ一定の高さを示すところがほとんどであり,それぞれ独立した区画として水位が変化したと考えられることが示された。区画ごとに推定された水位の標高は上流ほど高く,氾濫時も小田川には上流から下流に向かい一定の水位差が生じていたと考えられる。また,湛水を示す痕跡が複数のレベルで認められる区画もあり,他の地域の破堤などの影響を受けて湛水水位が変化した可能性があることがわかった。

  • 石黒 聡士, 川瀬 久美子
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 127-135
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    平成30年7月豪雨時,愛媛県では主に肱川の氾濫による浸水と斜面崩壊が発生した。肱川の氾濫により野村盆地および大洲盆地において,大規模な浸水被害が生じた。野村盆地においては,沖積低地に立地する集落や公共施設等に大きな被害が生じ,一部では低位段丘面上の家屋も浸水した。大洲盆地は西部の一部を除き,大規模に浸水した。

    斜面崩壊については航空写真判読により判読し,その範囲内で少なくとも3,410箇所の斜面崩壊を確認した。斜面崩壊は偏在しており,特に宇和島市吉田町周辺において極めて多数の斜面崩壊が発生していた。斜面崩壊が多発したのは,48時間積算降水量が概ね 260 mm以上,崩壊開始地点の傾斜が20度以上で,砂岩,泥岩の岩質の場所であった。

  • 楮原 京子
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 136-145
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    平成30年7月豪雨の際,山口県では大雨特別警報の発令に至らないまでも7月5日から8日にかけて断続的に激しい雨が降った。同期間の県東部での総降水量は下松,玖珂,岩国で 450 mmを超え,これに伴って土砂災害や浸水害が発生した。本研究では,国土地理院撮影の空中写真「岩国地区」の判読に基づき,斜面崩壊と地理的条件との関係を検討した。その結果,斜面崩壊は累積雨量が概ね 400 mm以上の領域に集中し,地形的には標高 300 m以下,40度前後の傾斜をもつ斜面で多く発生していた。崩壊地の岩種は花崗岩類であることが多く,山腹を切る林道や植林まもない樹林地など,人為的影響により斜面崩壊が多発した地域もみられた。雨量指数R’からみると,岩国地区は7月5日頃から斜面崩壊が発生しやすい状況が続いており,長期の先行雨量が多い地域では土石流が,短期的な強い雨が降った地域では表層崩壊が多発する傾向となった。

  • 黒木 貴一
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 146-154
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    本研究では平成30年7月豪雨による福岡県の被害状況に関して整理した。福岡県は,その被害数は他県と比較して少なく,西日本豪雨被害域の縁辺にある。そこで現地では,中心に加え縁辺にも注目し空間理論を構築する地理の基本的な手法を念頭に置き被害調査を行った。本稿では氾濫被害が報道された4地域の調査結果を報告する。筑前町中牟田では人工的に築造された溜池の決壊による氾濫水が小学校の被害を増した。久留米市北野町では旧河道にある宅地の十分な盛土が浸水被害を少なくした。久留米市東合川では,ポンプ施設の不十分な排水能力が元水田地帯の宅地の被害を増した。久留米市城島町では,水門閉鎖とポンプ施設の不十分な排水能力が宅地の被害を増した。このように福岡県では,生活の利便性や安全性向上を目指す人間活動が,被害の増減に影響を与えている姿が縁辺故に鮮明となった。

  • 小山 拓志, 土居 晴洋, 古賀 精治
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 155-163
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,大分県に立地する特別支援学校の防災教育の現状と,教職員の防災・減災意識を把握することを目的として,県内全特別支援学校の教職員を対象にアンケート調査を実施した結果を分析したものである。また,各学校の災害リスクを地理情報システム(GIS)によって解析し,アンケート結果とクロス集計することで課題を抽出した。調査の結果,特別支援学校において防災・減災教育やそれに関連した取り組みを実施したことがあるか,という問いに対しては,46.6%の教職員が「有る」と答えた。また,避難が必要なレベルの自然災害が勤務中に発生した場合,適切に幼児児童生徒を避難させる自信があるか,という問いに対しては,40.0%の教職員が「あまり自信がない」と答えた。次に,GISを活用して各学校の災害リスクを検証し,その結果を基にアンケート結果を再集計した。その結果,勤務校周辺においてどのような自然災害が起こる可能性があるか知っているか,との問いに対する結果を分析したところ,勤務校の災害リスクを正しく認識していない教職員が多数いることが明らかとなった。

  • ――枕崎台風と西日本豪雨で被災した江田島市切串地区を事例に――
    番匠谷 省吾, 岩佐 佳哉, 熊原 康博
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 164-173
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,1945年枕崎台風と2018年西日本豪雨の土石流被害を受けた広島県江田島市切串地区を対象として,2022年度より始まる「地理総合」で実施可能な防災や現地調査に関する授業を実践した。

    この授業は,事前調査と現地調査,事後調査の3つに分けられ,事前調査では空中写真を用いた土石流のマッピング,被災写真の撮影位置の特定などを行った。現地調査では,被災写真と同じ画角の写真を撮影し,住民への聞き取り調査や被災した地物の観察に基づき,土石流の被害を把握した。事後作業では,現地調査の整理,ポスター発表を行った。

    授業で行った活動は,「地理総合」で生徒に身につけさせるべき知識・能力のすべてをカバーできている。また,生徒らの授業後の感想からは,過去の甚大な被害を知ることで避難の重要性や事前の対策を行う必要性に気づく意見などがあり,本稿で行った授業は「地理総合」で行う内容としてふさわしいと判断される。

  • ――平成30年7月西日本豪雨で被災した広島市安芸区矢野を事例に――
    小山 耕平, 岩佐 佳哉, 熊原 康博
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 174-183
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    日本は地震や土砂災害などの自然災害が多発する国であり,ハードとソフトの両面からの対策が進められている。ソフトの対策の1つとして防災教育があげられる。現在,中等教育における防災教育の実践報告はあるが,2022年度からはじまる必修科目「地理総合」における防災教育の実践報告はみられない。

    本研究では,平成30年7月豪雨の被災地域である広島市安芸区矢野を事例として「地理総合」を視野に入れた防災教育の実践報告を行う。本実践の目的は,次期学習指導要領における3つの要素と対応させた。すなわち,①防災に活用できる知識・技能を習得させること,②安全な避難経路を立案し,根拠に基づいて説明できること,③防災を主体的に学ぶ態度を育成することである。

    本実践では地形図の読み取り,避難経路を考えるDIG(Disaster Imagination Game)や理想の避難場所の構想といった活動を取り入れた。DIG作業の過程では,ハザードマップや豪雨時の浸水域の提示により,避難経路を修正させた。また,理想の避難場所とはどんな場所かを,避難後の生活などを踏まえて構想し,現実的であるかどうかを考察させることを狙いとしている。

    本実践は「地理総合」で求められる,①知識及び技能の習得,②思考力・判断力・表現力等の育成,③学びに向かう力,人間性等の育成・涵養の3点を満たし,「地理総合」における防災教育のモデルの一例となりうると考える。

  • ――歴史学の視角をふまえて――
    弘胤 佑
    原稿種別: 論文
    2020 年 75 巻 3 号 p. 184-194
    発行日: 2020/12/28
    公開日: 2021/01/26
    ジャーナル 認証あり

    本実践の目的は,水害碑の内容やその変遷に注目することで,①水害碑のもつ社会へもたらす効能・効果や歴史的意義について考察し,さらに,②本実践を通して生徒たちが今後の歴史学習へとつながる問いをもつようになることである。 近年,水害碑への注目度が高まっている。しかし,専ら地域の災害伝承や防災という側面が重視されている。そこで,本実践では,近・現代史の導入として水害碑を位置づけた実践を行った。

    授業実践は,2つの授業目標を達成するだけでなく,様々な学びをも生み出した。生徒は,水害碑のもつ重層的な社会的効能・効果についての理解を深めながら,地域の構造物から地形の特徴が読み取れることにも気づき始めた。さらに,多くの生徒から今後の歴史学習に対する意欲の高まりが感じられた。このように,水害碑という個別事象の「内容」のみならず,多様な社会的事象の認識に応用できる「見方・考え方」にまで踏み込んだ学びをみせた。

    歴史授業で水害碑を扱うことは,水害碑という教材がもつ魅力を最大限活かしながら,生徒を深い学びへと導くために大変有効な方法である。しかし,水害碑は地理・歴史という社会科の枠組みに収まるものではない。他教科で,あるいは教科横断型で扱える汎用性をもつ教材である。

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