本稿では,東京大都市圏の低徴収率地域として検出された埼玉県南東部の4市(川口市,草加市,八潮市,三郷市)を事例に,低徴収率地域における社会経済的(非裁量)要因の地域差が,自治体の徴税施策に与える影響を明らかにすることを目的として,徴収率の推移,非裁量要因の特徴,低徴収率や非裁量要因への認識,徴税施策の導入と展開などに着目して検討した。本稿の分析により得られた主な知見は次の2点である。
第1に,非裁量要因の地域差が4市の政策的対応に影響を与えたことである。具体的には,4市の平均年収や人口流動率などの非裁量要因の違いが徴収率に影響し,4市が低徴収率とその規定要因を認識した時期に違いをもたらし,徴税施策の内容と導入時期に違いが生じた。
第2に,政策課題を認識する契機の違いが4市の政策的対応に影響を与えたことである。具体的には,国からの指示・指導,市議会議員からの指摘,低徴収率に問題認識をもつ市長の就任,市長や担当部局の自己分析といった異なる外的要因と内的要因が,異なる時期に契機となることで4市は政策課題を認識し,徴税施策の導入時期と展開に違いが生じた。
上海市を事例にして,中国の歴史的な民族衣装である漢服の復興と活動状況について検討しながら,漢服着用者たちの活動空間がどのように形成されているのか明らかにした。漢服は2003年から本格的な復興活動が始まった民族衣装である。そのため,正式なデザインや着用作法等が不明になっている面もある。そのため調査対象となった着用者では,「真正」な漢服の着用のあり方を追求している人もいる一方で,愛好歴が短い若い世代の人が多いこともあり,正式な形式や作法にこだわらない自由な着用方法やアレンジを許容する人が多くみられる。漢服の着用をめぐっては,歴史的装束としての「真正性」を追求することと民族衣装を「普及」させたいという2つの目標を両立することが課題になる中で,調査対象者である漢服着用者間でも,着用する漢服のデザインや着用方法をめぐって意識の違いがある。復興されて間もない民族衣装であるという漢服の特徴は,着用者の活動空間のあり方にも反映されている。つまり活動空間としては,一般の人々から奇異な目で見られることが少なく,漢服を着用するにふさわしいとみなされる歴史的な観光地等が選択される傾向がある。このような活動空間の分析からは,活動空間に制約があり,歴史的観光地等においての着用が中心になっている一方で,漢服着用者の存在が観光地のイメージ形成や観光客の誘致に一定の役割を果たしている可能性もあるといえる。