地理科学
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77 巻, 3 号
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遠隔化と必修化を見据えた地理教育のミライ――コロナ禍中の「地理総合」導入前夜を迎えて――
論文
  • 杉本 智彦
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 113-120
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    筆者は,地形の可視化を目的として,パソコン用ソフトウェア「カシミール 3D」や,スマートフォンのアプリとして,カシミール 3D と同等の機能をもつ「スーパー地形」アプリを開発してきた。本稿では,これらのソフトウェアの開発経緯や,地理学習・地理教育で活用できると考えられる機能を紹介する。これらのソフトウェアでは,地理院地図などの地図,標高データを重ねることができる。また,地形段彩図,地形断面図,等高線などを自由に作成できる。近年ではスマートフォンの拡張現実機能を活用して,立体地形模型を目の前に提示し,複数人で共用できる「AR地形模型」アプリを開発した。

  • 谷 謙二
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 121-131
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    本稿は,新旧の地形図を並べて表示する「今昔マップ」について,システムの開発の経緯と利用について報告するものである。今昔マップは2005年にWindows版「時系列地形図閲覧ソフト 今昔マップ(首都圏編)」を開発したことに始まる。当初はDVDで配布していたが,2008年にインターネットからダウンロードできる「今昔マップ2」を公開した。2013年に地図タイル形式を採用したWeb版「今昔マップ on the web」,2015年にWindows版「今昔マップ3」を公開した。2019年には「地理総合」での利用を見越して全都道府県庁所在地を収録し,2021年12月末現在,52地域4,644図幅分の旧版地形図を収録している。

    今昔マップの利用例としては,旧街道のまち歩きや廃線探索など趣味的なものから,学術,教育,地歴調査,不動産関連の業務など広範にわたる。「地理総合」など地理教育で使う場合は,地図・GIS,防災,地域調査などでの利用が想定される。利用する際は,地図記号の変化や戦時改描に留意し,また,災害危険性の伝え方に工夫が必要である。

    今昔マップの収録範囲は一部に限られる。多様な需要に応えるため,国土地理院によるインターネットでの旧版地形図の詳細な画像の公開が求められる。

  • 研川 英征
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 132-137
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    国土地理院は,標高に関する情報や,地形分類情報や自然災害伝承碑の情報といった防災地理情報について整備すると共に,地理空間情報プラットフォームである地理院地図を通してこれらを提供している。地理院地図はGIS機能を実装しており,標高データに基づいた陰影起伏図や,任意で色を割り当てられる色別標高図のほか,防災地理情報を組み合わせて表示できる。さらには断面図の作成機能なども組み合わせることで,土地の成り立ちや地域の理解にも繋がる。また,「地理総合」の学習指導要領解説(令和3年8月一部改訂)において求められている地理的技能の習熟するに当たり,地理院地図の活用例も示されている。本論では,地理院地図に格納している防災地理情報をはじめとする多様な情報やGIS機能,実際の災害における地形分類情報との比較事例,ウェブサイトによる利活用事例の提供について紹介した。

  • 熊原 康博, 番匠谷 省吾, 岩佐 佳哉
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 138-145
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    著者らは,COVID-19の感染拡大により,高校地理で扱う地形を中心にオンラインで学べる地形学習の教材を,2020年7月から作成してきた。この教材は,web版のGoogle Earth上で独自の解説を作成できるGoogle Earth Project機能を活用したものであり,「空から見る日本の地形」として公開している。トップ画面でマーカーをクリックすると,Google Earth画像や地理院地図を用いた解説,地理院地図のリンク,地形図作業の課題などを見て,地形について学習することができる。現在,国内を中心に約120地域の地形を扱い,高校で学ぶべき地形について網羅している。2022年度から始まる必履修科目「地理総合」に対応するため,火山・地震・土石流の災害についても充実を図った。

  • 小森 次郎
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 146-155
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    地理学・地球科学における巡検を「ジオ巡検」として,その重要性とオンラインによる取り組みの変遷,参加者の反応を含む事例紹介,およびリアルな巡検との比較を試みた。巡検そのものは,地理総合の必履修化のほか,気候変動による極端現象の増加や社会インフラの老朽化といった背景から,その重要性は一段と高まったと考えられる。1980年代からおこなわれるようになった同期型のオンライン授業は,特に2020年春以降,新型コロナウィルスの感染拡大の影響で事例が増え,オンラインによる巡検も同様に増加,多様化した。筆者は大学の90~100分の授業の中で,首都圏周辺の3か所のほか,北アルプス,京都,沖縄,富士山,甲府盆地,および福島県浜通り地方の合計9回のオンライン・ジオ巡検を実施した。このうち2件を除いて,一人体制でスマートフォンからZoomを使って配信したが,いずれの巡検も学生の反応は好評であった。オンラインでは実物に触れられないなど,リアルな巡検と比べて劣る点がある一方で,夜でも開催できることや,移動を伴わないことなど,時間と空間の面で利点が認められる。携帯電話の電波の確認,ジンバルの使用,参加者が行う現在位置確認の補助,YouTube生配信の併用,現地での測定値を参加者と共有する取り組みなど,巡検をリアルに近づける工夫を試みた。

  • 土居 晴洋, 小山 拓志
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 156-166
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    新設される「地理総合」の実施にあたって,地理を専門とする教員の不足が懸念されている。本稿では,社会科の見方・考え方を踏まえたうえで,「海」をキーワードとして,地域や社会,自然現象を「海からの視点」,「海への視点」で読み解くことの意味を考察した。

    本稿で提示した「海」をキーワードとすることは,陸上にある事象ばかりに目を向けるのではなく,視点の多角化を狙ったものである。「歴史総合」においても,取り上げる個々の出来事の背景や要因として,「海」との関連が見いだされる箇所は多い。陸から海に目を向けることによって,あるいは海から陸を見ることによって,考察する事象について,景観として捉えられる様子や,事象に関わる歴史的な経緯や自然環境などを捉える。また,それらを手がかりとして,事象の背景や要因,関連する事象などを把握することで,学習指導要領が求める思考力の育成につなげることが期待される。

  • 柴田 祥彦
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 167-170
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    高校では地理を専門とする教員が少ないため,2022年4月からの地理総合の必履修化時には地理を専門としない教員が受け持つことが予想される。そのような教員に地理教材を無料で提供したいと考えていた。本稿では,ウェブサイトを通じて地理教材を提供する地理教材共有サイトを公開するまでの経緯と,本サイトの運営,現状を述べた。

  • ――「広げる」・「深める」・「身に付ける」場面での工夫――
    鈴木 映司
    原稿種別: 論文
    2022 年 77 巻 3 号 p. 171-178
    発行日: 2022/10/28
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル フリー

    本稿では,ICTの活用を軸とした高校地理の授業における取り組みを紹介する。知識を広げる,認知を深める,学習を身につけるといった視点から,これまで約30の取り組みを行ってきた。さらに,認知を深める活動の一つである「問いを作る」授業の意図や進め方,生徒からの感想を提示した。これらの授業カリキュラムは,2022年4月から始まる必履修科目「地理総合」でも参考となるだけでなく,生徒の将来をふまえたキャリア教育にも資すると考える。

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