本稿は長野県上田市の真言宗智山派獨股山前山寺所蔵の聖教についての調査研究の成果の一部を報告するものである。
前山寺は近世に信州四箇檀林の一つとして数えられ、多くの学僧が研鑽した歴史を有していることから、前山寺に所蔵される聖教・文書(以下、史料)の調査から、地方檀林としての活動や、当時における本山智積院との関わり、そして地域における役割など、近世地方寺院の様相を明らかにしたいと考えている。
前山寺史料の整理分類の結果、その数量は文書箱にして五十箱、点数にして約二千五百点を数えることが判明した。文書箱の第一箱には前山寺史に関わる貴重と思われる写本(十部四十八点)を収めており、その中には中世史料も含まれている。本稿では、この第一箱の史料について紹介しつつ、奥書から窺われる前山寺史を明らかにする上で興味深い情報について示した。また、史料紹介の便宜上、前山寺の開基縁起を記した巻子本『起立書』を翻刻し掲載している。
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