中国語学
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2009 巻, 256 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
特集:書評 曹志耘主编《汉语方言地图集》
研究論文
  • 陳 薇
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 47-66
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿は中国語において、「敲、闪」を代表とする一回的動詞を活動動詞から独立させ、新たな動詞タイプを設ける必要があるかについて検討する。筆者は動詞分類を行う際に、意味の違いでなく明確な文法的振る舞いの違いを求めるべきだという立場で、浙江省嵊州方言を中心に、標準語との比較を兼ねて考察を行った。嵊州方言に関しては、「记」を用いた活動動詞と一回的動詞を区別できる三つの文法テストを提示する。嵊州方言の「记」は一回的アスペクトマーカーとみなすことができ、嵊州方言では一回的動詞というタイプを立てる根拠も十分であると主張する。しかし、標準語ではそうしたテストは有効ではない。たとえば、「记」に対応する形式である、動詞の前に置かれる「一」は動詞との共起制限を示さない。従って、標準語では一回的動詞を独立した動詞タイプとして立てる根拠が不十分であると結論づける。

  • ―楚地出土竹簡を中心に―
    野原 将揮
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 67-85
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿は上古中国語音韻体系に於けるT-typeとL-type声母の仮説について分析を加えることを目的とする。この仮説は中古で端・知・章組(一部)の声母が上古では2類に分類されるという仮説である。これは諧声系列の分布に基づく再構で、上古音体系の中でも比較的広く認められた仮説のひとつである。本稿で対象とするのは戦国楚地出土の楚簡に見える通仮字である。考察の結果、楚簡の通仮字にT-typeとL-typeの区別が見られることが明らかとなった。これは諧声系列から得られたT-type/L-typeの再構を支持する証であるだけでなく、戦国楚地(他地域を含む可能性もある)にT-type/L-typeの区別が存在していたことを示すものである。また「当時の音を反映していると思われる通仮字にT-type/L-typeの区別が見られる」という仮定を前提とすれば、諧声系列上ではT-typeかL-typeかを判断しかねる文字の音声の由来についても明らかにできるものと考える。

  • 梁 淑珉
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 86-105
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、中国語における「どれくらいの時間(時量)」かを問う疑問代詞を通時的に取り上げ、これらの表現の近世から現代に亘る歴史的変化の推移をあとづけ、その用法に分析を加えたものである。まず、比較的古い表現である“几时”における時点義と時量義の未分化の問題を考察した。次に、“几多时、多少时”など、時量のみを問う疑問代詞の出現に伴い、“几时”の意味が時点義に偏っていく文法化過程、さらにはそのような表現の多様化から生じた“多少+N”と“多大+N”の地域差について確認した。ところが現代中国語においては新興の表現である“多长时间”がその地域差を越えて優勢である。それには内在する時間概念の変化が考えられる。

  • 長谷川 賢
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 106-121
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿では、北京口語を対象に、仮定接続詞“如果”、“要是”を用いた2つの条件文について、プロトタイプ理論の観点から、それらの典型的用法と周辺的用法を考察し、併せてその用法の拡張過程について分析する。分析の過程で以下のことを明らかにする。“如果”文、“要是”文は、実現不確定な事態や反事実的事態の仮定を表す典型的用法から、習慣的事態や時間関係を表す条件提示の用法へと拡張する。条件提示の条件文の前節は、現実世界で起こり得る2つの事態から1つの事態が選ばれて提示される〈条件選択性〉を有する。さらに“要是”文については、条件提示用法から、メタファーによる話題提示の用法への拡張がみられる。話題提示の条件文の前節は、談話世界における2つ以上の話題から1つの話題が選ばれて提示される〈話題選択性〉を有する。その話題には、時間表現が多いという特徴がみられる。

  • 小嶋 美由紀
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 122-140
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    “玩儿他个痛快”のような、非指示的な3人称代名詞を含む拡張的二重目的語構文が非現実文のみに生起し、現実事態の叙述には使用されないというムード制約を有することはすでに指摘されてきた。しかし、その要因についてはまだ十分な説明がされていない。本稿は構文文法(Construction Grammar)の枠組みを用いて、当該構文に見られるムード制約が二重目的語構文の授与意が有する強い意志性と、構文の拡張過程で起こる3人称代名詞の非指示化の両方に動機付けられていることを主張する。

  • 卢 建
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 141-157
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    迄今汉语学界对于给予义双及物句法结构式的历史衍生路径存在着较大的分歧。本文遵循共时平面所呈现出来的横向分布状况体现了语言的纵向自我分化过程的历史语法理念,凭借东南方言丰富的双及物构式语料,用“构式空缺规则”来揣拟句式动态的历时演化,进而推演和再现句式的衍生路径。文章认为汉语的给予义双及物构式存在着两条不同的衍生路径,即“动+直+介l+间 → 动+直+间”和“动+直+介p+间 → 动+介p+间+直 → 动+间+直”,而诱引和促发了句式朝不同方向演进的导航标是构式中的介词,正是介词的语义性质决定了句式的衍生路径。

  • ─グラウンディング機能を担う一形式─
    島津 幸子
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 158-177
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    複合的時点表現“A时候”は文への導入に際し、時に“在”を伴い、時に“在”を伴わない。時間詞が通常“在”を伴わないことから、一般には“A时候”が“在”を伴うか否かは全くの任意と捉えられてきたが、実際は決してそうではない。本稿はまず、場所表現と“在”の共起状況の観察から、“A时候”は存在の「場」、“在A时候”は出来事の「場」と捉えられていると推察する。さらに実例を通して、“A时候”は時間と事柄を一対一に結びつける述べ方に対応し、“在A时候”は事柄を出来事の「場」として展開された時間に位置づけるという述べ方に対応することを観察する。事柄の実存性を時間の側面から支える役割を果たす“在”はグラウンディング機能を有すると考えることができる。最後に“在”がグラウンディング機能をもつと考えることで“在A时候”が閉じた領域として焦点化されやすく対比性が生じやすい理由を説明できることを示す。

  • 渡辺 昭太
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 178-197
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    “V过”と「Vたことがある」はいずれも経験を表す表現であるが、両者の振る舞いは同じではない。これは、日中両言語の経験の捉え方の違いに由来する。日本語では、経験とは今の自分に存在するものと捉えられるため、経験表現に存在文が使用される。故に、イベントを具体的な過去時に位置づけ特定する作用を持つ時間詞とは共起困難となる。中国語では、経験とは過去時に主体が乗り越えたものと捉えられるため、経験表現に“V过”が使用される。故に、イベントを具体的な過去時に位置づけ特定する作用を持つ時間詞とも共起可能となる。両者の意味機能の差異は、連体修飾節の被修飾要素を特定できるか否かにも反映される。ただし、現在の話者の視点から過去全体を見渡し、その中で主体がある動作行為を越えて今に至るという見方をする場合、“V过”も「Vたことがある」と同様、主体の属性描写機能を担うようになる。

  • ―市場経済と新語受容の関係―
    赤平 恵里
    2009 年 2009 巻 256 号 p. 198-218
    発行日: 2009/10/24
    公開日: 2025/05/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、近年定着した新語“人气”の誕生までの来歴を明らかにすることによって、中国語新語定着の一社会的要因を解明し、語の発生・定着と社会現象の相関関係を実証せんとするものである。“人气”は、以前は偶発的な複合語として存在しており、語義も一様でなかったが、1990年代に入り株式市場で頻繁に用いられ、使用範囲を広げて多用されるまでになった。この株式用語より一般語化するという定着パターンは実は台湾で既に起きていた現象であり、株式用語という共通点によって、日本、台湾、中国という新語“人气”の誕生経路が浮かびあがった。この誕生経路は各国・地域の市場経済化の順序と重なるものであり、市場経済化が新語の誕生・定着および日中間の言語交流に関与していることを論証した。

第58回全国大会招待講演及びシンポジウム報告
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