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発症後期間別改善率の分析
深町 秀彦, 太田 正彦, 市村 健, 春日 信, 柳沢 利和, 武田 忠和, 栗原 かおる, 市川 彰, 萩原 将一, 丸山 陽一, 大江 ...
セッションID: AO001
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【目的】 演者は、平成12年鹿児島学会において所属施設に入院していた脳卒中患者138名を対象に、発症から入院までの期間別にリハビリの効果を調査し報告した。今回、同調査を長野県下4500の病床を抱える厚生連11病院に入院した脳卒中患者に対象を拡大して行った。この結果および前回の調査結果との比較も含めて検討したので報告する。 【対象・方法】 調査対象者は、平成13年9月からの1年間に長野県厚生連11病院に入院し理学療法を受けた脳卒中患者で、入院時、退院時の機能評価を行い得た537例である。性別は男性305例、女性232例で平均年齢は72.2才であった。調査項目は、性別、入院時年齢、発症から各病院入院時までの期間(発症後期間)、入院時と退院時のブルンストロームステージ(Br.Sと略す)、Barthel Index(BI)、寝たきり老人の日常生活自立度(寝たきり度)、各種移動動作14項目について、その改善の程度を調査した。各調査項目の改善度は、入院時から退院時までに1段階あるいは1点でも改善があった者(少しでも改善した者)の人数比率である単純改善率(%)を求め検討した。改善率の比較には、自由度1のχ
2検定を用い統計分析を行った。【結果】 発症後期間によって1群:30日以内(242例)、2群:90日以内(115例)、3群:6ヶ月以内(33例)、4群:1年以内(25例)、5群:1年以降(122例)の5群に分けた。各群の平均年齢に有意差はなかった。Br.S(下肢)の改善率は1群36.3%、2群22.6%,3群9.1%、4群8%、5群6.6%であり、BIの改善率は1群64.9%、2群59.1%、3群33.3%、4群16.0%、5群27.0%となっていた。共に発症後期間が長くなるにつれ改善率も低下していた。この傾向はその他の調査項目にも同様に認められ、全ての調査項目において1・2群と3・4・5群の間(90日以前、以降)で改善率に有意差を認めた(P<0.01)。次に、BIの10項目と14の移動動作項目に関して、3群(90日)以降でも改善を示した項目のうち、改善率の比較的高かった動作項目は、階段昇降・屋外歩行・マット上立ち座り動作(12.9%)、ベッド・車椅子からの立ち上がり(11.8%)、乗り移り動作(10.7%)、BIの移動(10.5%)、車椅子駆動・エレベーター昇降動作(10.1%) であった。【考察】 脳卒中患者における発症後期間別のリハビリの効果を分析した結果、やはり早期に入院しリハビリを開始した者ほど改善率は高かった。ただし、前回調査で改善率に有意差を示したのが6ヶ月以前と以降の群の間であったのに対し、今回その期間が90日以前、以降となっていた。また、前回6ヶ月以降の移動動作項目の改善率は20から30%は保たれていたのに対し、今回の調査では、90日以降で既に10%台と低下していた。このことから、社会的に早期リハビリの充実、徹底がなされ、改善のピークがより早期の時期に移行していることが伺えた。一方、日常生活の総合能力としてのBIおよび寝たきり度の改善率が15から25%保たれていることも、慢性期リハビリの効果として重視すべきである。
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第2報
庄本 康治, 嶋田 智明, 佐浦 隆一, 肥田 光正, 代 智恵子, 福島 祐子, 岡 真由美
セッションID: AO002
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】肩関節亜脱臼は片麻痺患者の80%に発生し、発症後3週以内で起こるという報告もある。亜脱臼位で組織が伸張されると機能障害が生じる可能性があり、予防が重要と考える。神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:NMES)による亜脱臼改善の報告もあるが、予防を目的にした研究は少ない。我々は無作為臨床研究を実施中であり、その途中経過を報告する。【対象と方法】12段階片麻痺回復グレ-ドが5以下の脳卒中症例を対象とした。重度の痴呆、心疾患、NMESを拒否する症例をはずし、症例を層化無作為割付けでNMES群(8症例)とコントロ-ル群(8症例)に割り当てた。NMES群は通常のPTにNMESを実施、コントロ-ル群は通常のPTを実施した。クロスオ-バ-可能であったのは4症例であり、2症例をNMES群から開始し、途中でNMESを中止した。残りの2症例はコントロ-ル群から開始し、途中でNMESを追加した。1.NMESミナト医科学社製Dynamid DM2500とAXELGAARD社製電極PALSを使用した。三角筋後部線維と棘上筋の運動点を探索し、運動点と筋の停止部に電極を設置した。搬送周波数2500Hz、治療周波数40から75Hz、通電時間10sec、休止時間2secで1日に5時間、週5日実施し、亜脱臼が整復される最小の出力で実施した。2.測定(1)亜脱臼:X線透視下撮影で症例を坐位にし、上腕骨頭の頂点と関節窩下縁との垂直距離(RX2D)を測定した。(2)運動麻痺:12段階片麻痺回復グレ-ドで測定した。(3)筋緊張:肘屈筋をModified Ashworth Scaleで測定した。(4)ROM:ゴニオメ-タ-で屈曲、外旋、外転を測定した。亜脱臼は2,4,6,7,8,10週目に各々測定し、その他は週1回測定した。(5)筋萎縮:メジャ-で腋窩から上腕骨長軸に対して垂直に上腕周径を測定し、非麻痺側から麻痺側を引いた値を測定した。【結果】ROMとRX2DはNMES群で有意に大きく、筋萎縮はNMES群で有意に小さかった。運動麻痺、筋緊張の有意差はなかった。また、NMES群から開始し、NMESを中止すると亜脱臼が出現した。コントロ-ル群から開始し、NMESを追加すると進行しつつある亜脱臼が改善した。クロスオ-バ-前後での運動麻痺、ROM、筋萎縮の目立った変化はなかった。【考察】亜脱臼、ROM、筋萎縮については2群間に有意差があり、NMESによってアライメントが保たれ、筋収縮が維持され効果的に作用したと考える。クロスオ-バ-群における変化からも亜脱臼改善に効果的に作用したことが示唆された。しかし、亜脱臼を改善しても、すぐにはROMは改善されなく、初期からの亜脱臼予防の重要性が示唆されたと考える。
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急性期・慢性期介入群と急性期対照群との盲検比較
吉田 剛, 前原 康雄, 佐藤 豊, 廣田 寿江, 川田 路子, 山崎 友美, 伯耆田 聡子, 高野 由喜恵, 丹羽 光子, 熊谷 真由子, ...
セッションID: AO003
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】脳血管障害の40から60%は嚥下障害を伴うと報告されているが、急性期理学療法の場面で積極的に嚥下障害に対する理学療法をおこなっている報告は少ない。我々は、第8回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会において、嚥下運動障害を表す指標として舌骨上・下筋群の伸張性と収縮性および喉頭位置を提唱し、嚥下障害重症度との関連について報告した。今回は、研究に対する同意が得られた嚥下運動障害を有する脳血管障害者について、これらの指標の経時的変化を測定し、指標の改善を目的とした理学療法介入の効果を検証したので報告する。【方法】対象は平成14年8月から10月にM病院に入院し脳血管障害を発症して1ヶ月以上経過しても嚥下運動障害を有していた急性期介入群11例(平均年齢70.5歳、男女比6:5)と同時期にA施設に入所していた慢性期介入群11例(平均年齢81.5歳、男女比4:7)とした。対照群はM病院に入院し、介入研究開始前に経過を追うことができた急性期非介入群16例(平均年齢68.7歳、男女比12:4)であった。 比較項目は、運動麻痺の程度・NTPステージ・頸部可動域(4方向)・反復唾液嚥下テスト(以下RSST)・改訂版水飲みテスト(以下MWST)・食物テスト(以下FT)・嚥下障害重症度分類(才藤による)・舌骨上筋伸張性(GT)・舌骨下筋伸張性(TS)・舌骨上、下筋群収縮性(GSグレード)・喉頭位置(GT/GT+TS)の11項目とした。 介入方法は、肩甲帯のリラクゼーション・頸部筋の伸張・舌骨上、下筋群の伸張・舌骨上筋に抵抗を加えた筋再教育・頭部挙上位保持練習・座位で体幹の分節的活動促通の6項目を症例に合わせて選択し、1回20分、2週間で8から10回の介入を行った。介入群は、介入前後と介入終了2週間後の3回、非介入群は通常(嚥下障害以外)の理学療法を行い平均19.2日間の前後2回で各項目の変化を比較した。 前後の差の解析は、Wilcoxonの符号付順位検定で修正後のP値を求め、各群の各指標の変化について分析した。【結果】対照群で統計学的有意差がみられた指標は、NTPステージ(P=0.03)のみであった。急性期介入群の介入前後では、GT(P=0.01)、RSST(P=0.02)、MWST(P=0.04)、嚥下障害重症度(P=0.03)、NTPステージ(P=0.02)に有意な改善がみられた。介入後と2週間後では頸部屈曲(P=0.03)のみが変化し、介入前と介入終了2週間後では介入前後と同じ項目において有意差がみられた。慢性期介入群の介入前後では、頸部ROM4方向とMWSTに、介入後と2週間後では頸部回旋・側屈とRSSTに有意差がみられた。介入前と介入終了2週間後では回旋とMWSTのみに有意差がみられた。【考察】急性期介入群では、嚥下運動障害に対して理学療法介入効果がみられ、この時期に理学療法士がこれらの指標を改善するよう介入することの意義を示すことができた。慢性期介入群では、介入効果が一過的な傾向もみられるが、水分嚥下については介入効果が得られ、施設においても理学療法士が嚥下障害に果たせる役割があると考えられた。
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内山 靖, 臼田 滋, 新谷 和文, 吉田 剛, 後閑 浩之, 鶴埜 益巳, 落合 久幸, 鶴見 麻里子, 樽石 麻紀, 伊東 有紀子
セッションID: AO004
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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<目的>科学的根拠に基づく理学療法が推奨される中で、特に回復過程にある脳血管障害後片麻痺(以下:片麻痺)に対する介入効果を検証することは重要な課題である。 本研究では、多施設間の無作為化割付比較対照試験(RCT)による片麻痺のバランス介入効果を科学的手法によって検証したので、その第1次集計結果を報告する。<方法>協力の得られた6施設に入院中の片麻痺患者のうち、上肢の支持を含めて1分以上立位保持が可能な例を対象とした。なお、介入内容を十分に理解できない高度の痴呆、純粋なパーキンソニズムおよび小脳性運動失調を呈する者は対象から除外した。 担当の理学療法士および患者に十分な説明を行い、文書で同意の得られた場合のみ研究に参加した。介入か対照かは各施設のコーディネータが封筒法またはカルテ番号により無作為に割付け、担当理学療法士に選択権はなかった。 介入は、通常の理学療法に加えて1日1回15分のバランス練習を2週間実施した。介入内容は、不安定な足底面(フォームラバー)上での立位で、姿勢保持、リーチ、外乱応答、随意運動を行った。対照群は、足底を接地した座位で、姿勢保持、リーチ、外乱応答、随意運動を同じ期間実施した。 評価は、介入前、介入2週後、4週後に実施した。評価者は他施設から派遣された理学療法士が行い、評価者は対象者が介入群か対照群であるのかがわからないようにした(盲検)。評価項目は、床面上およびフォームラバー上での開閉眼時の立位保持時間、TUG(3m最速)、FAC(歩行自立度)、10m最速歩行時間(歩行速度、重複歩距離、ケイデンスを算出)、FMS(機能的動作尺度)とした。また、麻痺側、発症からの期間、病巣、合併症、補装具の使用状況および関節可動域、麻痺機能、体性感覚、視空間認知を調査した。 2週間の介入が完了して全てのデータを測定できた例を介入群と対照群に分類し、介入前の基本属性に対してカイ二乗、t検定を行い、群ごとに介入前後の平均値を対応のあるt検定で比較した。<結果および考察>抄録提出時に全てのデータが揃ったのは46例であった。そのうち介入群が26名(平均65.5歳、右麻痺10例・左麻痺16例)、対照群が22名(平均66.0歳、右麻痺11例・左麻痺11例)であった。介入前の両群間では全ての属性および歩行、FMSで有意差を認めなかったが、開眼立位保持時間は介入群で有意に低値を示した。 介入前後の平均値の比較では、対照群ではFMSと歩行速度に有意な改善を認めた。一方、介入群では、FMS、歩行速度に加えて、重複歩距離、床面上での開眼時立位保持時間、フォームラバー上での開閉眼時立位保持時間に有意な改善を認めた(p<0.05)。<結論>本結果から、回復過程にある片麻痺に対する1日15分の2週間にわたるバランス練習は、立位保持時間および重複歩距離を有意に改善させる可能性が示唆された。さらに、大数による後層別での比較検証を続ける必要がある。
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網本 和, 柳沢 健, 金子 誠喜, 池田 由美, 神尾 博代, 渡邊 修
セッションID: AO005
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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はじめに:近年リハビリテーション医療において、対象となる症例の障害はますます多様になり重度重複化をきたしていることは周知のことである。なかでも脳血管障害や頭部外傷などの脳損傷例に伴う高次神経機能障害は評価治療の困難さから、その対応が焦眉の課題となっている。しかし様々な高次神経機能障害例に対してどのような治療対応がなされているかについては、必ずしも充分に明らかではない。Evidenceに基づいた効果的治療を開発提供するためにはまずどのような治療が実施されているかを把握することが重要である。そこで今回われわれは本邦における高次神経機能障害例に対する理学療法の実態を把握することを目的として全国調査を実施したので報告する。調査対象:全国の理学療法士協会会員データベースから、会員が5名以上在籍する1872施設を対象とした。調査期間は平成14年9月から10月である。調査方法:往復はがきによる郵送法にて、対象施設の取り扱い疾患、主な治療対象となる高次神経機能障害の種類、それらのうち対応に苦慮している症状について調査した。結果:1872施設中回答が得られたのは998施設、回収率は53.3%であった。これらのうち教育機関、小児関連施設を除いた921施設を分析対象とした。取り扱い疾患(重複回答)は脳血管障害が701件(76.1%)と最も多く、次いで整形外科疾患672件(73.0%)、パーキンソン121件(13.1%)、関節リウマチ99件(10.7%)、呼吸器疾患90件(9.8%)であった。主な治療対象となる高次神経機能障害の種類(重複回答)は、治療対象となる頻度が高いものの順に、痴呆556件(60.4%)、失語症238件(25.8%)、半側空間無視115件(12.5%)、失行症35件(3.8%)、その他27件(2.9%)であった。対応に苦慮している症状として挙げられた症状は、痴呆395件(56.9%)、失語症101件(10.9%)、半側空間無視164件(17.8%)、失行症115件(12.4%)、その他154件(16.7%)であった。その他の症状の内容は、注意障害が32件と最も多く、Pusher現象23件、前頭葉症状15件、記憶障害14件、意識障害12件、右半球症状8件などであり上記症状の重複を指摘する報告も認められた。考察:理学療法の治療過程において最も頻度が高く対応に苦慮している症状は痴呆でありその困難性が描出されたものといえよう。また半側空間無視、失行症は頻度が比較的低いにもかかわらず、苦慮している事が多く、これらの症状が存在した場合には理学療法治療での課題があるものと推察された。その他の症状の内容分析からは、注意障害を中心として行動にかかわる症状が多く指摘されており、この点についても対応の工夫が求められていると考えられた。以上の調査に加え、現在詳細な2次調査を施行中であり、それらの結果についても報告する予定である。
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-機能障害とADLの治療効果ついて-
森 美香, 永井 将太, 園田 茂, 青木 哲也, 川北 美奈子, 才藤 栄一
セッションID: AO006
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】我々は2000年12月より新しいリハビリテーション(以下,リハビリ)システム,FIT programを実施している.FIT programは,訓練室と病棟を同じフロアに配置し,医療情報をLANによりスタッフ間で共有するという高度に統合された環境下で毎日,そして一日中リハビリを行うシステムである.我々はこれまで,このFIT programが短期間でより大きなADLの改善を示すことを報告してきた.今回は,機能障害の治療成績を加えてFIT programの有効性を検討した.【対象】2000年12月から2002年3月までに入・退院し,FIT programの治療を受けた脳卒中片麻痺患者(以下,FIT群)を対象とした.また,FIT program開始以前に入・退院し,土日祝日を休みとした週5日の従来リハビリを受けた脳卒中片麻痺患者(以下,pre群)を対照群とした.両群間の患者特性を均一化するため,初回発作でテント上に一側性の病変を持ち,訓練に支障をきたす重篤な併存症の無い,入院時発症後期間(以下、発症後期間)が90日以内の患者とした.これらの条件に合うFIT群 121名,pre群101名にて比較,検討を行った. 評価項目は,機能障害評価としてStroke Impairment Assessment Set運動項目(以下,SIAS-M)を使用し,SIAS-M 5項目(上肢近位・手指・股・膝・足)とその合計点を測定した.ADL評価としてFunctional Independence Measure運動項目(以下,FIM-M)の合計点を測定した.【結果】年齢,性別,診断名,麻痺側,発症後期間は,両群間に有意差を認めなかった.平均在院日数はFIT群71.1日,pre群が80日であり,FIT群が有意に短かった. 入院時SIAS-M 5項目において,両群間で有意差は認められなかったものの,退院時のSIAS-M股と膝においてFIT群が有意に高値を示した.SIAS-M合計点は,入院時がFIT群11.3点,pre群10.2点,退院時がFIT群14.2点,pre群12.9点であり,入・退院時ともに両群間に有意差は認められなかった.FIM-M合計点は,入院時がFIT群55.1点,pre群57.1点,退院時がFIT群75.4点,pre群71.8点であり,退院時においてのみFIT群が有意に高値を示した. SIAS-MとFIM-M各々に対し,入・退院時の合計点を散布図にて視覚的に検討すると,SIAS-Mは両群ともに入院時得点に関わらず退院時に0点から11点の改善と広く散布したが,FIM-MはFIT群で退院時に満点近くに散布する天井効果の傾向が顕著であった.【考察】SIAS-Mを項目別に見ると股・膝においてFIT群で退院時に有意に高値を示したことから,高頻度の訓練は下肢近位の機能改善に効果的であると示唆された.合計点に関しては,SIAS-Mと比較し,FIM-MはFIT群にて天井効果の傾向が顕著であったことから,ADLに関してはより短期間でより大きな改善が得られており,FIT programは機能障害よりも,ADLにより効果的であると示唆された.
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無作為化比較対照試験
糸数 健, 柴 喜崇, 大渕 修一, 上出 直人, 酒井 美園
セッションID: AO007
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】 固有受容器強調トレーニング(Enhanced Proprioception Training: EPT)は動作時のバランス機能向上を目的としているにもかかわらず静的バランスについてのみが報告されてきた。そこで我々は歩行時のバランス機能を測定する装置を用いて、EPTが動的バランス機能に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。【対象】 下肢に整形外科的疾患の既往がなく、日常的に運動習慣のない健常大学生20名(平均年齢19.1±0.55歳,男性10名,女性10名)として事前に実験協力に同意を得た。【トレーニング内容】 5段階の異なる難易度の不安定板を用意した。被験者が遂行可能なレベルに応じて不安定板を選択し難易度レベルを上げた。板上で1分間5セット、片脚立位制動を左側のみをトレーニングさせた。【方法】 対象者を無作為にEPT群と対照群に分け、EPT群(n=10)にのみEPTによる介入を週3回の頻度で1ヶ月間の計12回実施した。対照群には研究期間中運動習慣を変えないように指示した。EPT群、対照群ともに介入前,介入後,介入終了3ヵ月後の計3回評価を行った。評価項目は足関節背屈最大等尺性筋力、歩行時の外乱刺激から前脛骨筋(Tibial Anterior; TA)が反応するまでの時間をTA反応潜時とした。外乱刺激は、左右の歩行ベルトが分離したトレッドミルを用いて2km/hで歩行中に片側ベルトのみを急激に停止させ、500msec後に2km/hに戻すことで発生させた。左ベルト停止時の左TA反応潜時と右ベルト停止時の右TA反応潜時をそれぞれ測定した。統計処理は、EPT群、対照群の介入前における潜時、足関節背屈筋力の検定には対応のないt検定を用い、EPT群、対照群それぞれに対して被験者と評価時期の2要因による分散分析を用いた。【結果】 EPT群は非トレーニング側TA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はみられなかったが(n.s.)、その一方でトレーニング側TA反応潜時においては介入前と比して介入後に反応時間短縮され(P<.01)、3ヶ月後でもその効果が有意に持続していた。対照群においては左右ともにTA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はなかった(n.s.)。尚、EPT群、対照群の介入前のTA反応潜時、足関節背屈筋力には差がなかった(n.s.)。【考察】 トレーニング側の足関節背屈筋力に有意な差はなかったが、トレーニング側のTA反応潜時には即時効果が認められた。さらに即時効果だけでなく3ヵ月後も効果が持続することが明らかになった。 我々は外乱刺激側にみられるTA反応潜時は、動的バランス機能である立ち直り反応と相応することを報告している。EPTは立位、歩行における立ち直り反応に関与する神経回路に特異的に作用し、即時的かつ長期的な効果を及ぼすトレーニングであることが明らかになった。
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EBM実践で利用する情報の伝達方法についての検討
松崎 仁志
セッションID: AO008
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】EBMで利用する情報の有用性には,労力,関連性,妥当性の3要素があるが,今回は労力に着目した。労力にはその情報を得る労力と,その情報を解釈する労力とがある 。EBM初学者にとっては, EBMの手引書にある典型的な研究論文(以下「典型的な論文」)は解釈しやすく,有用な情報である。今回,理学療法士にとって入手しやすい雑誌である「理学療法学」において,典型的な論文がどの程度含まれているかを調査し,「理学療法学」がEBM初学者にとって有用な情報源となりうるかを検討した。【方法】対象は「理学療法学」第25巻第1号から第29巻第6号(1998から2002)で,特別号は除外した。全ての論文を読み,内容をデータベース化した。その際,日本理学療法士協会発行のデータベースを利用した。「典型的な論文」の抽出は今回作成したデータベースでの検索により行った。「典型的な論文」の条件を挙げる。1)治療が研究の直接的な目的である。治療が研究背景にある場合は条件に含めなかった。2)患者立脚型研究である。これは,患者を対象にして介入の効果を検証し,アウトカムが患者中心である研究を指す。患者中心とは,例えばADLの改善であり,生化学データ値の改善は患者中心ではない。3)研究デザインがランダム化比較試験 (以下RCT),比較臨床試験 (以下CCT),システマティックレビューのいずれかである。4)結果要約の方法が定量的である。具体的には,相対リスク,相対リスク減少,絶対リスク減少,治療必要数,効果サイズのいずれかを採用しているもの。ここでの結果は介入結果を指し,研究全体を考察した結果ではない。以上4項目全てを満たすものを「典型的な論文」とした。【結果】総論文数は339本で,研究論文であるものは179本であった。治療に関する論文は47本で,そのうち患者立脚型研究は25本であった。RCTは2本,CCTは9本,システマティックレビューは0本であった。さらに結果要約の方法が相対リスク,相対リスク減少,絶対リスク減少,治療必要数,効果サイズのいずれかであるものは0本であった。【考察】本調査の範囲では,「理学療法学」には「典型的な論文」は含まれておらず,EBM初学者にとって有用な情報源ではないことが分かった。RCTやCCTでの患者立脚型研究はあったが,定量的な結果要約の方法を採用していなかった。結果要約の方法とは情報の作り方ではなく情報の伝え方に関わることである。RCTは実施すること自体が難しいが,結果要約の方法は簡単に変更できる。例えば,介入群と対照群各々の事象発生率の差を検定し,「有意差あり」としている論文では,対照群事象発生率から介入群事象発生率を減算すれば絶対リスク減少の値を報告できる。論文の結果要約の方法を検討することにより,「理学療法学」はEBM初学者にとって有用な情報源になりうる。
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骨盤傾斜に対する動的EMG周波数特性と中殿筋組織形態の関係
加藤 浩, 神宮司 誠也, 高杉 紳一郎, 吉村 理, 新小田 幸一
セッションID: AO009
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】股関節疾患治療の最終目的は股関節機能の改善とそれに伴う歩行能力の回復である.特に慢性疾患では手術治療のみではその目的を十分に達することはできない.罹病期間が長い為にしばしば股関節周囲筋の機能低下を伴い,筋の量的・質的回復に向けた後療法が必要となる.しかし,適切な後療法を行うための運動中における質的筋機能の客観的評価方法は乏しい.この方法として,近年我々はwavelet変換を用いた表面筋電図(EMG)周波数解析で,歩行時の動的質的筋活動評価が可能となることを報告した.今回,三次元動作解析,EMG周波数解析,そして中殿筋筋組織の形態解析を同時に行い,筋の機能的側面から歩行時の跛行評価を行った.【対象および方法】対象は当院で外科的手術(THA,骨切り術)予定の股関節疾患患者5症例(平均年齢58歳)とした.まず,術前評価として術側中殿筋に電極,および踵部にフットスイッチセンサーを貼付しEMG歩行解析を行った.得られた信号はMyosystem1200を用いてコンピュータに取り込み,積分筋電図(IEMG)解析,wavelet変換を用いた時間周波数解析を行い,歩行時立脚期の平均周波数(MPF)を算出し,踵接地前後のMPF変化量(MPFR)を求めた.また,反射マーカーを両上前腸骨棘に貼付し,三次元動作解析装置Motus2000を用いて歩行時立脚期の骨盤傾斜角(踵接地後からの角度変化)をEMGと同期して測定した.コントロール群として健常者10症例(平均年齢53歳)のデータも同様に測定した.次にインフォームドコンセント後,承諾の得られた患者に対し,術中に中殿筋組織を採取した.得られた組織小片は急速凍結し,クリオスタットを用いて10
-6m厚で連続横断切片を作製した.組織学的評価としては,ATP染色を用いて筋線維をtype1,type2線維に分類し,画像解析ソフトによりタイプ別の筋線維径を計測した. そして,歩行時の骨盤傾斜角に対するMPFR,筋組織形態との関連性について検討した.【結果および考察】症例1:Duchenneタイプの跛行で骨盤傾斜角は8度.EMGの時間的遅延は認めなかった(IEMGのピークが踵接地時とほぼ同時).MPFRは16Hz.type2線維径は38*10
-6mであった.症例2:Trendelenburgタイプの跛行で骨盤傾斜角は1度.EMGの時間的遅延が認められた(IEMGのピークは踵接地時より遅延).MPFRは15Hz.type2線維の線維径は35*10
-6mであった.健常者の骨盤傾斜角は約3度であり,股関節疾患患者はこれら至適角度から明らかに逸脱していた.しかし,骨盤傾斜角は,MPFR,type2線維径と統計学上,高い相関傾向は示さなかった.股関節疾患患者の跛行は,筋機能以外に関節変形,拘縮,疼痛,脚長差などが関与した複合障害であり,これらの因子を加味した多次元的解析が必要と考えられた.
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高柳 清美, 青木 光広, 吉村 理
セッションID: AO010
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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[目的]井原,三輪,高柳らはヒトの膝前十字靭帯(以下ACL)の完全断裂でも,脛骨の前方動揺を制動する特殊な膝装具と運動療法により完全に治癒することをはじめて明らかにした.追加研究がなされ,日本での関心が最も高いにもかかわらず, ACLの治癒力を促進する積極的な保存療法は選択されていない.欧米においては現在でも,膝内側側副靭帯の保存治療と比較し,解剖学的相違,生化学的要素の相違,生体力学的相違などの要因を挙げ,ACLの保存治療は成功しないとされる.保存治療によってACLが治癒する要因として,1)関節運動,2)生理的範囲での適切な力学情報の必要性が示唆された.本研究の目的は,ヒトの新鮮ACL損傷の装具療法に基づいた,保存療法の動物モデルを作製し,膝関節の前方制動と運動療法によって断裂ACLがどのように変化するかを観察することである.[方法]週齢30週,日本白色家兎30羽を対象とした.ACL切断とサイム切断により免荷を行った群(PW群:n=6),ACL切断後人工靭帯補強を行い,3週間の関節固定後に関節運動を自由にした群(Fx群:n=12),ACL切断後人工靭帯補強を行い,術直後より自由にした群(Fr群:n=12)の3群を作製した.ACLの切断は,膝前方より皮切・侵入し,大腿骨付着部でACLを完全に切離した.人工靭帯補強では,大腿骨顆部後方と脛骨粗面近傍に骨孔をあけ,人工靱帯を用いてウサギACLの走行に一致させ内・外側側副靱帯を再建し,脛骨の前方引出しと回旋を制動させた.平均12週経過後屠殺し,靭帯の連続性が確認されたものに対し,正常ACLの走行に沿って切片を作成しHE染色・アザン染色を行った.[結果]PW群では6例全例で靭帯が退縮していた.Fx群では10例に断裂したACL周辺の癜痕組織形成と連続性が確認され,1例にinfection,1例に変形性関節症が生じていた.Fr群では6例に断裂したACL周辺の癜痕組織形成と連続性が確認され,2例にinfection,3例に変形性関節症,1例に脱臼と変形性関節症が生じていた.[考察] O’donoghueらは犬,Heftiらはウサギを用いた実験で,ACLを切断し放置,あるいはギプス固定すると,膝の前後方向の不安定性,ACLの退縮,変形性関節症が生じたとした.下肢の免荷と自由な関節運動を意図したPW群では靭帯の再生は起こらず,膝関節の前後方向の制動と運動を行なったFx群,Fr群で靭帯再生が認められた.特に靭帯修復過程のinflammatory期に膝関節の安静を計ったFx群で好成績となった.今後,ACL完全断裂に対して保存治療により組織学的,免疫組織化学的に靭帯再生を証明し,運動療法の有効性を明らかにすることで,ACL断裂に対する保存療法を世界に向けて発信することが可能だと考える.
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機能評価とヴァリアンス検討を通して
鐘司 朋子, 相澤 孝一郎, 鍋城 武志, 蘭 康昭, 飯田 哲, 丹野 隆明
セッションID: AO011
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】昨年より当院整形外科のセメントレスまたはハイブリッドTHA患者に対し、片側罹患例は術後3週間、両側罹患または術前歩行不能例は術後4週間を退院目標とした術後早期全荷重のクリニカルパス(以下CP)を試行してきた。今回その機能評価とCPを逸脱したヴァリアンスの検討を行いその効果と問題点を考察し報告する。【対象と方法】対象は平成13年5月から14年10月に当院でTHAを受け退院または転院した患者41名。年齢は43歳から87歳の平均64歳、女性38名男性3名。疾患は変形性股関節症40名、骨頭壊死1名。手術は前外側侵入でセメントレス19名ハイブリッド22名。使用機種はデピューまたはジンマー社製を使用した。41名中3週退院目標患者は15名、4週退院目標患者は26名。術前と退院予定時にJOAスコアにて評価を行った。プログラム達成群(以下T群)とヴァリアンス群(以下V群)の術前、退院予定時評価結果の比較及びそれぞれの術前と退院予定時の間の比較を行い、ヴァリアンスの内容を検討する。統計処理はWilcoxonの符号付き順位和検定とMannWhitney検定を使用、5%有意水準とした。【プログラム】入院初日より評価とADL、筋力トレーニング指導を行う。術翌日よりベットサイドにてPT開始。術後3から4日で病棟にて車椅子乗車、全身状態が許せば全荷重許可で平行棒内から歩行訓練開始。以後杖歩行、応用動作と進め3週で退院となる。4週目標患者は杖歩行開始以降が3から4日 遅れるが流れは同様である。【施行結果】3週退院目標患者うちT群は13名V群は2名。87%が目標退院。4週退院目標患者うちT群は16名V群は10名。62%が目標退院。V群総数12例中8例は目標退院遅延して自宅退院、4例は転院した。【評価結果】合計点数および疼痛、可動域、ADLにおいて両群とも術前と退院予定時に有意差がみられた。両群間においては合計点及び歩行、ADLの退院予定時の値がT群に有意に高値を示した。【ヴァリアンスとなる誘因】V群が退院水準に及ばなかった誘因の内訳は術後全身状態不良4名、脱臼2名、脚長差1名、家庭環境問題2名、精神不安3名がある。【考察】当CPにおいて関節可動域の早期獲得および退院水準のADL獲得も可能であり、平均在院日数がCP以前の78日から36日に減少した事をふまえると術後早期全荷重の当CPが早期退院に関して有効である事が示唆される。V群においては退院水準のADL値迄の改善は困難であった。その誘因の家庭環境と精神不安評価は術前に可能であり、退院時に向けて他職種と連携して環境整備とADL指導および本人と家族の早期退院への理解を徹底することでよりCPを有効にしていくことができると思われる。術後誘因の全身状態の不良、脱臼、脚長差に関しては状態が落ち着き次第カンファレンスを行い今後の治療目標と期間を決定することが重要である。
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杉元 雅晴, 出口 清喜, 浜岸 利夫, 灰田 信英
セッションID: AO012
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】 超音波療法は、温熱効果と非温熱効果が考えられている。連続モード照射では組織温の上昇により、温熱効果が得られる。パルスモード照射では、機械的な微細振動により、組織細胞の機能亢進、創傷治癒の促進効果などがあると考えられている。そこで、パルスモード超音波照射による創傷治癒の生物学的効果を生化学的に検討した。【方法】7週齢Wistarラット44匹を実験に供した。これらを麻酔下で背部を縦切して、30μlの生理食塩水をしみ込ませたペーパーディスク(以下ディスク:直径8mm,厚さ1.5mm)を皮下に埋入し、創を縫合した。ラットを対照群(11匹)と超音波照射群(33匹)に無作為に分け、後者をさらに3群に分け、超音波を照射した。照射時間10分、時間率20%は同一条件とし、それぞれ0.25(低出力群)、0.50(中出力群)、1.00W/cm
2(強出力群)で7日間超音波を照射した。実験終了後、麻酔下で肉芽組織に被われたディスクを摘出した。その後、ディスクを取り囲んでいる組織を剥離し、湿重量を測定した。組織を細切した後、上清液と沈渣とに遠心分離した。上清液中のヘモグロビン量をヘモグロビンBテストワコー試薬を用いて比色定量(OD.540nm)した。また、沈渣は凍結乾燥させ、組織の乾燥重量を測定した。尚、実験動物の取り扱いに関しては、本学の定める「動物実験に関する基本指針」(金沢大学宝町地区動物実験指針)を遵守していると承認されたものである。【統計】一元配置分散分析後、Tukey-Kramer検定で有意差を検定した。【結果】対照群および周波数3MHz、時間率20%の共通条件下の超音波照射群(低、中、強出力)のヘモグロビン含量は、平均2.091mg/ml、2.736mg/ml、3.482mg/ml、4.258mg/mlであった。対照群に比較し、超音波照射強出力群のヘモグロビン含量が有意に増加した。対照群および超音波照射群(低、中、強出力)の肉芽湿重量は、平均239.51mg、238.06mg、258.10mg、297.63mgであった。対照群に比較し、超音波照射強出力群の湿重量が有意に増加した。また、対照群および超音波照射強出力群の肉芽乾燥重量は平均8.09mg、9.81mgで、肉芽組織の増殖傾向が確認できた。【考察】超音波照射により組織中のヘモグロビン含量が増加し、組織中の循環血液量の増加が推測された。ペーパーディスク周囲の組織重量増加とともに、顕微鏡下で組織像を観察した結果、血管新生や肉芽組織が増殖していた。超音波照射時間率20%では、湿重量、乾燥重量も出力強度が高いほど増加しており、肉芽組織の増殖促進効果が認められた。これらの所見より、パルスモード照射による超音波には、創傷治癒を促進する生物学的効果があると結論づけられる。
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加速度センサを用いた解析
弓削 千文, 木藤 伸宏, 菅川 祥枝, 奥村 晃司, 吉用 聖加
セッションID: AO013
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】膝関節の運動機能の客観的評価として関節可動域・筋力・筋持久力の測定が一般的には行われているが、滑らかさを定量的に評価することは臨床的に重要な意味を持つ。そこで今回我々は、膝関節運動の滑らかさに着目し数学的解析を行い、臨床に役立つ指標として活用するため、加速度センサと電気角度計を用い、膝関節屈伸運動の滑らかさを定量化する試みを行った。【方法】対象は、膝関節疾患・中枢神経疾患の既往のない健常者男性5名、女性5名とし、年齢27.6±3.9歳、身長165.7±9.3cm、体重59.7±12.3kgであった。膝関節屈伸運動を他動運動と自動運動とで比較した。他動運動では、被験者の脛骨粗面直下に圧電型の3軸加速度センサ(MA3-04Acマイクロストーン(株))を固定。膝関節外側面にBiometrics社製2軸ゴニオメータ(SG150型)を貼付した後、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動をCYBEX CPMモード90・180 deg/secにて各10回施行した。自動運動では、座位にてメトロノーム使用し、膝関節屈曲0から120°までの屈伸運動を2000・4000msecの速さで各10回施行した。評価パラメータとして(1)膝関節屈曲30から60°の矢状面で生じる加速度を一次微分し躍度を算出、この算出値を動作の滑らかさを表す指標(jerk)として用い、(2)膝関節屈伸運動時の躍度波形より振幅値・Movement Unit(加速度の微分が0を通る回数)(以下、MU)を求め、各試行の平均値を算出した。サンプリング周波数は4000Hzとし、統計処理はStatView-J 5.0を用い、一元配置分散分析(Scheffe)を行い有意水準は5%未満とした。【結果】膝関節屈曲-伸展運動とでは有意差は認められなかった。躍度波形での最大-最小振幅値の差(Max-Min)、MUの平均値は、他動伸展運動ではMax-Min;(緩) 290±93/s
3、(速)679±397/s
3、MU;(緩) 46±6.9回、(速)20±5.3回となった。自動伸展運動ではMax-Min;(緩) 98±50/s
3、(速)136±91/s
3、MU;(緩)27±11回、(速)17±6.7回となった。他動屈曲運動Max-Min;(緩) 225±54/s
3、(速)456±116/s
3、MU;(緩) 44±7.7回、(速)20±4.6回となった。自動屈曲運動Max-Min;(緩) 102±60/s
3、(速)135±79/s
3、MU;(緩) 27±11回、(速)19±4.8回となった。Max-Min・MUともに、他動運動での(緩-速)と、(速)での他動-自動運動で有意差が認められた(p<0.001)。【まとめ】Max-Minが小さければ動作は滑らかであることから考えると、他動より自動運動の方が、(速)より(緩)の方が滑らかであることが認められた。また、MUの増大はフィードバック調節が頻繁に行われていることを示しているため、自動運動では(緩)の方がフィーバック調節が頻繁に行われていることが認められた。本研究により、躍度波形の解析は膝関節運動の滑らかさの指標として有用であることが確認できた。
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市橋 則明, 大畑 光司, 竹村 俊一, 森永 敏博
セッションID: AO014
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】日常生活やスポーツ活動における不意な外力や床面の急激な変化に対して下肢筋は敏速に反応する必要がある。このような神経筋の協調性を高めるためには、身体の各種固有受容器からの的確な情報入力に対する敏速な筋出力に基づくフィードバック制御と可能な限りのフィードフォワード制御の観点からのトレーニングが重要である。本研究の目的は、筋力トレーニングと協調性トレーニングを併せ持った動的関節安定性トレーニングが膝屈伸筋力とバランス能力の向上にどのような効果があるのかを明らかにすることである。【対象と方法】対象は下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性13名(平均年齢24.7±3.6歳)とした。トレーニング方法はRisbergらが紹介したBalance Reach ArmとBalance Reach Legとした。これらはバランスマット上で片脚立位をし、STAR(ビニールテープ8本を45度間隔で放射線状に床面に貼ったもの)と呼ばれる床面に描かれたベクトル図に沿って最大に手や足をリーチするトレーニングである。トレーニングは右下肢に週3-4回、4週間にわたって行わせ左下肢をControlとした。トレーニング時間はBalance Reach Arm1分間、Balance Reach Leg2分間とし、メトロノームを用い、2秒で最大リーチを行い、2秒で開始肢位へ戻り、次の方向のリーチ動作へと移行した。 トレーニング効果の評価として以下の4項目を測定した。1)膝屈伸最大トルクは、MYORET(川崎重工製RZ450)を用い角速度60,180,300deg/secにおいて測定した。2)脚伸展最大トルクの測定にはStrengthergo(三菱電機製)を用いた。回転速度は60,100rpmの2種類とした。3)バランス能力は、重心動揺計(アニマ社製G-5500)を使用し、開・閉眼での30秒間の片脚立位時とCross Test時の重心動揺を測定した。4)Balance Reach Leg最大距離は、STARの中心点での片脚立位を開始肢位とし、第一趾を床面に示されたSTARの方向(5方向)に向けて最大までリーチさせた時の距離を測定した。【結果と考察】60deg/secと300deg/secにおける等速性膝伸展トルクは、トレーニング側(以下TR側)で有意に増加したが膝屈曲筋力は有意な変化を示さなかった。Control側は膝屈伸筋力共に有意な変化を示さなかった。脚伸展最大トルクは、TR側において増加したが有意な変化を示したのは60rpmのみであった。Control側は有意な変化を示さなかった。片脚立位時の総軌跡長は、TR側とControl側において開眼、閉眼ともに有意に減少し、静的バランスの向上がみられた。Cross Test においては、実効値面積、X方向最大振幅、Y方向最大振幅において有意な増加がみられた。Balance Reach Leg最大距離は、TR側では5方向すべてにおいて有意に増加した。Control側においても、3方向において有意な増加がみられた。本研究結果より動的関節安定性トレーニングであるBalance Reach ArmとBalance Reach Legは膝伸筋の筋力と下肢の動的・静的バランス能力を高める有効なトレーニングであることが示唆された。
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有限要素法を用いた立位姿勢解析の試み
松原 誠仁, 松原 仁
セッションID: AO015
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】 近年,コンピューターの発展はデータ処理を容易にした。また,人体の複雑な動きを記述し,力学的要素を加えた情報の定量化を推定出来るようになった。今回,我々は有限要素法を用いた立位姿勢解析を試みた。その中で,各関節に加わる荷重率や各関節に加わるモーメント,各関節に加わる床反力を算出することが可能であった。なお,本解析においては,1次元要素としては理論的に最も精度の高い梁要素(3次関数にて変位を仮定し,複雑動作を表現可能)を用い,人体の離散化を行った。さらに,興味深い点は有限要素法で使用するデータをデジタルカメラなどで撮影したデジタル画像から作成し,簡単に数値化できるという点であり,1台のパソコン以外設備・資本を必要とせず,現在膨大な費用や時間を費やしている解析方法とは比較にならないほどの有用性を示す。よって,今後本手法ソフトが大きく展開を示すと考えられる。【条件設定】 身体各部に加わる外力(荷重・モーメント)・変位などの力学的変量を求めるために,条件設定を行った。体表より触知出来るランドマークにマーキングを行う。それらの点を結び,人体のモデル化とする。そのモデルに接点を76個設け要素を75個持たせて離散化を行った。これを人体基本モデルとした。モデル化した身体を剛体としてとらえるのではなく,外力によってその形状が変化すると仮定し,剛性マトリックスを条件設定した。この剛性マトリックスとしては,骨の弾性率を条件として与えた。モデル化した身体に条件設定を行い,力学的要素を算出するために支配方程式としてフックの法則を利用した。この式を用いて身体モデルに外力としての等分布荷重,集中荷重が作用し,身体モデルに応力が生じるとし,更に内部仮想仕事と外部仮想仕事は等しいと見なした。【方法】 理学療法の効果を判定するために,理学療法試行前の立位姿勢と理学療法試行後の立位姿勢をデジタルカメラにて撮影し,本解析ソフトを用いて各関節に加わるモーメント・各関節に加わる荷重率を算出し,対比させる事によって評価・効果判定を行った。【結果】 本解析ソフトを用い,アライメント変化を的確に表現することは可能であった。更に,そのアライメントの変化を力学的要素の変化としてモーメントと荷重率の二つを数値化することが可能であった。【まとめ】 梁要素とは1次元要素としては理論的に最も精度が高く座標点の変化を演算し,その座標点の位置変化の力学的特性を表出する。今回,理学療法効果判定を目的に本ソフトを作成し数値化した。今後3次元解析まで発展させて行きたいと考えている。
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村田 伸, 忽那 龍雄
セッションID: AO016
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】超高齢社会を迎える我が国にとって、高齢者の転倒発生要因の解明や予防は重要な課題である。高齢者の転倒の発生要因については様々な報告があり、身体機能と転倒との関連性について示した報告も多い。しかし、足部機能との関連を示したものは少ない。そこで今回、在宅障害高齢者の足部機能、特に足把持力に焦点を当て、身体能力との関係や、転倒との関連性を検証した。【対象と方法】3カ所の通所リハビリテーション施設を利用している介護度が要支援から要介護3までの在宅障害高齢者137名の内、1)女性であること、2)重度の痴呆がないこと{Mini-Mental State Examination(以下MMS)2桁以上}、3)自力歩行が可能であること、4)脳血管障害の利用者では下肢の麻痺が軽度なこと(Brunnstrom stage V以上)の条件を満たす92名、年齢69から97歳(平均年齢82.7歳±6.1)を調査対象とした。但し、転倒の有無による比較の対象は、転倒歴の信頼性を期すため、MMSが20点以上の68名とした。調査項目は、1)転倒歴、2)MMS、3)Barthel Index(以下BI)、4)体重測定、5)足把持力測定、6)大腿四頭筋及びハムストリングの筋力測定、7)片足立ち保持時間測定、8)重心動揺測定、9)歩行速度測定を実施した。【結果】足把持力と動作能力との関係は、片足立ち保持時間r=0.71(p<0.001)及び歩行速度r=0.54(p<0.001)との間に有意な正の相関が認められ、重心動揺r=-0.46(p<0.001)との間に有意な負の相関が認められた。大腿四頭筋及びハムストリング筋力は、片足立ち保持時間とそれぞれr=0.31(p<0.05)、r=0.28(p<0.05)及び歩行速度r=0.61(p<0.001)、r=0.49(p<0.001)との間に有意な正の相関が認められ、重心動揺との間に相関は認められなかった。 転倒歴群(18名)と非転倒歴群(50名)の2群間の比較において、有意差が認められたのは足把持力、片足立ち保持時間、重心動揺、歩行速度の4項目であり、転倒歴群が非転倒歴群より有意に劣っていた。その他の項目(年齢、体重、大腿四頭筋筋力、ハムストリング筋力、MMS、BI)については有意差を認めなかった。さらに、転倒歴の有無を目的変数、その他の調査項目を説明変数としたロジスティック回帰分析の結果は、足把持力のオッズ比が有意で、2.55(95%信頼区間1.04-6.28)であった。【考察】以上の結果から足把持力は、立位姿勢保持や歩行などの立位動作に重要な役割を果たしており、その弱化は、転倒を引き起こす危険因子となることが明らかとなった。またこのことは、足把持力の客観的評価の重要性を示し、高齢者の足把持力を高めることで転倒を予防する可能性のあることを示唆した。
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小松 泰喜, 上内 哲男, 黒柳 律雄, 奥泉 宏康, 武藤 芳照, 太田 美穂, 朴 眩泰, 上岡 洋晴, 岡田 真平, 木村 貞治
セッションID: AO017
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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[目的] 骨粗鬆症を基礎疾患として、転倒、転落により骨折を来たし、特に大腿骨頚部骨折の場合には寝たきりによる廃用症候群等の原因となることが少なくない。当院の健康管理センターに開設した「転倒予防教室」(以下、教室)では、一般検診にて骨量評価を行い、参加者への運動・生活指導の基礎資料の一部に使用している。今回は骨量評価をもとに身体機能、特に転倒回避能力との関連性について検討をしたので報告する。[対象] 教室参加者375名のうち、何らかの理由で修了できなかった者と体重や年齢と骨密度との関係から80歳以下で体格指数BMI25.0以下、また参加者の殆どが女性であることから男性を除いた190名を対象とした。その内訳は、平均年齢は69.3±5.1歳、身長151.6±11.3 cm、体重49.7±6.0kg、BMI21.3±2.2である。[方法] 大腿骨頚部骨密度(Hologic社製QDR2000)によりYAM比にて骨粗鬆症(以下、A群)51名、骨量減少(以下、B群)73名、正常(以下、C群)66名の3群に分けた。転倒回避能力には、健脚度(10m全力歩行、最大1歩幅、40cm踏台昇降の可否)とバランス能力としての開眼単脚直立時間等を採用し、運動・生活指導介入前の教室初回時と教室修了時の介入後での転倒回避能力と骨密度との関連性を検討した。また、転倒を生活習慣病と捉え、脂質代謝の指標(動脈硬化指数、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪等)についても検討を加えた。統計処理はKruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ二乗検定を用い、有意水準5%以下を有意とした。[結果]介入前後で転倒回避能力と身体機能ではA群にて他群と比較し、身体機能の低下を認めたが、統計学的有意差は認められなかった。しかし、介入後ではB群とA群の最大1歩幅/下肢長(左)と、開眼単脚直立時間(両側)でのC群とB群、AとB群において統計学的有意差を認めた(P<0.05)。また、骨密度と動脈硬化指数等との関連性は認められなかった。[考察]Cummingsらは転倒予防には骨量増加が必要であると述べているが、教室では、Whippleらが提唱するバランスチャレンジをもとに生活指導を行い、転倒の主要因をバランス能力の低下と位置づけ、リズム運動などの運動指導を実践している。しかし、B群やA群でバランス能力の低下が認められたことや転倒群ではバランス能力に著しい低下がある(第37回本学会)ことから個人に合った転倒予防プログラムの必要性が急務であることが推察された。 [結語]大腿骨頚部の骨密度により骨量低下のある者と転倒回避能力、とくに開眼単脚直立時間のようなバランス能力との間に関連が認められたことは、それらを考慮したより個別的で工夫された安全で有効な運動・生活指導の立案・実践が重要であることが考えられた。
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無作為化比較対照試験
新井 智之, 柴 喜崇, 大渕 修一, 逸見 治
セッションID: AO018
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】これまで高齢者の転倒予測に関する研究では,最大歩行速度や筋力など,加齢に伴う量的な変化が注目されてきた.しかし近年,量的な加齢変化というよりはむしろ,歩幅のばらつき(Maki BE, 1997)、1歩行周期時間のばらつき(Hausdroff JM, 2001)といった質的な加齢変化が転倒に関連すると報告されている。しかし、この質的な変化が可逆的であるのかどうかの検討はなされていない.そこで我々は,地域在住高齢者を対象に歩行のリズム調節をトレーニングする機器 (以下、両側分離型トレッドミル,PW-21:日立製作所)を用い、1ヶ月間トレーニングを行い,1歩行周期時間のばらつきの変化を検討した。【対象】地域在住健常高齢者24名を無作為に介入群(69.4±6.2歳)とコントロール群(67.1±2.6歳)に分けた。【介入内容】両側分離型トレッドミルは片側のベルトを急激に減速させることで歩行中にリズムをみだすことが可能な装置である。全ての対象者は週2回・1ヶ月間(計8回)15分間歩行した。介入群にのみ歩行中に時間及び左右各々ランダムに転倒刺激を加えた。転倒刺激は最初の2週間は初期速度の20%減速、3週目は40%、4週目は60%と強度を増加させた。【測定方法】1ヶ月間の介入の前後で1歩行周期時間を測定した。1軸加速度計を対象者の左踵部に装着し、1周40mの円を快適速度で20分間連続歩行させた。その間の加速度データはテレメーターシステムを介しデータレコーダーに記録し、その後1歩行周期ごとに抽出し、20分間歩行時の1歩行周期時間のCV値(標準偏差/平均値×100)を求めた。測定は両側分離型トレッドミルを用いた転倒予防トレーニングの前後で行った。統計解析はMann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%に設定した。【結果】トレーニング前のCV値の平均は介入群で3.3±0.03%、コントロール群で1.7±0.02%であった。トレーニング後にはそれぞれ2.0±0.02%、2.5±0.02%に変化したが有意差は認められなかった(n.s.)。 転倒歴のある者のCV値の平均は4.1±1.2%と報告されており(Hausdroff JM.1997)、このことからトレーニング前にCV値が2.9%以上である対象者は1歩行周期時間のばらつきが大きいと考えられる。そこでトレーニング前に介入群中のCV値が2.9%以上の対象者6人に関して解析すると、Wilcoxon符号付き順位検定において有意な減少を示した(P<.05)。【考察】本研究では,地域在住高齢者を対象に無作為化比較対象試験により、リズム調節を促すトレーニングが1歩行周期時間のばらつきを少なくするかどうか検討した。その結果、介入群中のリズム調節に異常のあるものでは、トレーニング後にCV値が有意に低下した。このことは、リズム調節を促すトレーニングは,歩行の質的加齢変化に対して可逆的な効果をもたらすといえ、地域在住高齢者の転倒を予防する可能性を示唆すると考える。
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無作為化比較対照試験
大渕 修一, 柴 喜崇, 上出 直人
セッションID: AO019
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】 我々は歩行時の動的バランス機能を改善することを目的に転倒刺激付きトレッドミルを開発した。この機器は、両側分離型トレッドミルの一側の歩行ベルトを瞬時間減速したり加速したりすることによって、転倒の主要な起因である、つまずきやすべりをシミュレートするものである。この研究では、この転倒刺激付きトレッドミルによるトレーニングが地域在住高齢者のバランス機能を改善するかどうか検討することを目的とした。【方法】 65歳以上の高齢者32名を地域から募集した。すべての被験者は、研究に対する説明を受け書面により実験参加の意志が確認された。初回評価により3名の被験者が高血圧、急性の心疾患あるいは重篤な糖尿病により除外された。29名の被験者は無作為に2群に分けられ、両群とも時速2kmで週2回15分間のトレッドミル歩行を行った。介入群は、トレーニング中に転倒刺激を左右無作為に132回(中間11分間を5秒の間隔で無作為に)加えられ、コントロール群には転倒刺激を加えなかった。転倒刺激は一側の歩行ベルトを500 ms減速することによって加え、減速量は1週毎に歩行速度の20%, 40%, 60%と増加させた。バランス機能は片足立ち時間、ファンクショナルリーチ、Timed Up & Go Test、10 m最大歩行速度、転倒刺激後の下肢筋の反応潜時、転倒刺激後の骨盤の前後加速度で検討した。統計解析には繰り返しのある分散分析と2元配置分散分析を用いた。危険率は5%とした。【結果】 1名の被験者が最終評価のみ受けることができなかったが、すべての被験者が1ヶ月間の介入を終了した。介入群ではファンクショナルリーチ、Timed Up & Go、下肢筋の反応潜時、骨盤の加速度などの動的なバランス測定で有意な改善を認めた(P<.01)。一方、コントロール群ではTimed Up & Goのみに有意な改善を認めた(P<.01)。2元配置分散分析で介入方法と介入前後の交互作用を認めた項目はファンクショナルリーチ、下肢筋の反応潜時、骨盤の加速度であった(P<.05)。【考察】 転倒刺激付きトレッドミルトレーニングがバランス機能を改善するかどうかを調べることを目的に地域在住高齢者を対象に無作為化比較対照試験を行った。その結果、転倒刺激付きトレッドミルトレーニングを行った群では、有意に動的なバランス機能改善効果が見られ、このトレーニングが有効であることがわかった。一方、通常のトレッドミル歩行だけではバランス機能の改善効果は限られており、一般の転倒予防教室に見られる歩行機能改善を主体とした介入だけでは効果が限られることが考えられた。転倒の主要な起因である、つまずきやすべりに特異的な介入が必要であると思われる。
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Randomized Controlled Trialによる分析
島田 裕之, 大渕 修一, 柴 喜崇, 加倉井 周一, 矢部 規行, 太田 雅人, 藤本 勉
セッションID: AO020
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【目的】高齢者における転倒予防のための運動介入が種々行なわれてきたが、施設利用高齢者に対する効果的な運動内容は明らかとなっていない。本研究では介護老人保健施設を利用する高齢者を対象として、両側分離型トレッドミルを用いて転倒刺激である滑り様刺激を連続的に加えた歩行練習を行なった。この練習が転倒の危険因子である下肢筋力、バランス機能、歩行機能、反応時間の改善に寄与するかを無作為化比較試験にて検討した。【方法】対象は介護老人保健施設を利用する高齢者32名(年齢66-98歳)であった。対象者を無作為に通常練習群(14名)とトレッドミル練習群(18名)とに分類した。トレッドミル練習群は、通常練習に加え6か月間のトレッドミル歩行練習を行なった。トレッドミル練習は、無作為に片側のベルトが減速する外乱刺激下にて行い、漸増的に歩行速度や減速刺激の負荷を増大させた。全プログラムは600分であり、6ヶ月間で運動が終了するように計画したが、600分に到達しなかった者も6ヶ月間で介入を終了した。練習頻度は週1から3回であった。また、両群ともに実験前に実施していた理学療法は継続して行なった。測定項目は筋力検査として膝伸展と股屈曲の等尺性筋力をハンドヘルドダイナモメーターにて測定した。バランス機能は重心動揺検査、片脚立ち保持時間、Functional Reach Test、Functional Balance Scaleを測定した。重心動揺検査は開眼、閉眼、フォーム上での開眼、フォーム上で閉眼の4条件で行なった。歩行機能は10m歩行速度、Timed Up and Go Test、Dynamic Gait Index、Shuttle Stamina Testを測定した。10m歩行速度、Timed Up and Go Test、Shuttle Stamina Testは、できる限り速く歩くように指示し、検査を実施した。反応時間の測定は、1000Hzの聴覚刺激を行ったときの上肢反応時間を計測した。最初は静止立位にて行い(静止)、次にトレッドミル上で最大歩行速度の50%の速度で歩行を行いながら同様に検査した(歩行)。最後には、最大歩行速度の50%の速度で歩行中に左右片側のベルトを無作為に60%減速させる滑り様刺激を、平均5秒間に1回の割合で加えた状態で歩行しながら検査した(外乱)。統計解析は介入前後の機能を比較するためWilcoxon検定を用いて通常練習群とトレッドミル練習群のそれぞれで分析した。【結果】両群ともに3名が介入後の検査を受けることができなかった。以降の分析は、それらの対象を除いた結果である。トレッドミル練習群は6ヶ月間の介入後に下肢筋力、片脚立ち、Functional Reach Test、10m歩行速度、Timed Up and Go Test、Dynamic Gait Index、反応時間(静止、歩行、外乱)において機能の有意な向上が認められた。一方,通常練習群においては10m歩行速度、Timed Up and Go Test、Shuttle Stamina Testにおいて有意な機能の低下が認められた。【結論】トレッドミルを用いた外乱歩行練習は、施設利用高齢者の下肢筋力、バランス機能、歩行機能、反応時間といった多様な要素の身体機能の改善に有効であった。
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佐野 裕子, 久保 晃, 畠 しのぶ, 丸山 仁司
セッションID: AO021
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】今回,正常人に運動トレーニングをする際の処方負荷量の決定に際し,各段階における呼吸困難度が客観的換気パラメータに対し,どのように影響を与えるかを検討した。【対象】対象は本研究の趣旨,内容,被験者への負担などを十分に説明し,同意の得られた健常成人47名(男性28名,女性19名),年齢21.5±4.2歳,身長167.3±8.6cm,体重58.5±10.2kgであった。【方法】トレッドミル(Wood way社製車椅子用トレッドミルSPR-7050)による歩行での運動負荷をおこなった。まず「安静坐位」3分,そしてトレッドミルにて「楽である」「ややきつい」「きつい」と感じる3段階の速度を被験者の身体能力に合わせてあらかじめ被験者自身に決定してもらう。各段階4分間の負荷を設定し,漸増させる合計15分の実験をおこなった。各段階の個人強度は実験に先立ち被験者自身に決めてもらった速度である。呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製エアロモニターAE-280S)にてブレスバイブレスで測定し,30秒間ずつの平均値を算出した。安静時においては平均値を代表値とし,各強度では3分から3分半の30秒間を代表値とした。心拍数については心電図モニタ(フクダ電子社製ダイナスコープDS-3300)CM5誘導にて,各強度とも開始3分半経過した時点での値を採用した。実際の運動時の主観的運動強度はBorg scaleを使用し,安静時においては2分半経過時,各強度では開始3分半経過した時点で聴取した。測定項目は体重あたりの酸素摂取量(VO
2/W),1回換気量(VT),分時換気量(VE),呼吸数(RR),心拍数(HR)および主観的運動強度(Borg scale)である。【結果】各段階においてVO
2/W,VT,VE,RRともに右上がりの直線的増加傾向にあった。Borg scaleにおける各段階の平均値±SDは「安静時」6.7±1.0,「楽である」9.3±1.3,「ややきつい」12.9±1.4,「きつい」15.9±1.8と右上がりの増加傾向を認め,これは主観的運動強度が実際のBorg scaleではそれぞれ「very,very light」,「very light」,「somewhat hard」,「hard」とほぼ対応していた。HRとBorg scaleの関係において主観的運動強度が強くなるにしたがいHRは上昇し,y=8.4x+35.7 r=0.85 p<0.01と相関関係を示した。VO
2/WとBorg scaleとの関係においてもy=3.0x‐14.8 r=0.93 p<0.01と相関関係にあった。【考察】一般的にBorg scaleは個人の体力レベルなどを考慮したうえでわかりやすい指標として用いられており,特に運動中のHRとの関係においてはBorg scaleを10倍したものがおおよその運動レベルでのHRに相当すると言われている。今回の実験により主観的運動強度の指標としてBorg scaleは有益といえる。さらにVO
2/Wにおいてもひとつの指標となりうることが考えられた。
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磯野 靖夫, 白井 敏博, 佐野 明美, 庄司 陽介, 佐野 幸, 若林 美佳
セッションID: AO022
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【目的】本研究の目的は呼吸リハビリテーションの長期効果を明らかにすることである.【対象】GOLDに基づきCOPDと診断された患者のうち,呼吸リハビリテーションを実施した24名を対象(Pulmonary Rehabilitation,PR群)とし,呼吸リハビリテーションを実施していない8名を対照群(Control,CR群)とした.年齢はPR群73.0歳(57‐85)CR群75.8歳(69‐85),%FEV1.0はPR群52.3%(stage1:1名,stage2A:11名,stage2B:11名,stage3:1名)CR群65.2%(stage2A:7名,stage2B:1名),喫煙指数(喫煙年数×1日喫煙本数)はPR群1688 CR群1580であり両群間に有意差を認めなかった.【方法】PR群に対して1週間に1回合計10回の外来通院による呼吸リハビリテーションを実施した.内容は歩行訓練・上下肢筋力強化訓練等の運動療法を主軸としたもので,他に患者教育・在宅自己訓練の指導を重視した.プログラム終了後は定期的な外来通院により在宅自己訓練の継続を支援した.プログラム導入に伴いPR群とCR群の2年間にわたる肺機能検査値・体重・6MD・ADL(千住らの方法)・BDI・QOL(木田らの方法)の変化を比較した.また導入前後2年間の入院日数並びに救急受診回数を比較した.さらに面接により得られた在宅自己訓練の実施状況をもとに,PR群を2年間在宅自己訓練を実施した14名(A群)と途中中断した10名(B群)に分類し効果を比較した.統計処理はWilcoxonの符号付順位検定(vs Baseline),反復測定分散分析(vs Control)にて分析し危険率5%未満を有意と判断した.【結果】6MD・ADL・BDI・QOLはPR群において6ヶ月から18ヶ月まで有意に増加し,その後低下傾向を示したが,CR群と比較すると2年間の変化に6MD・BDI・QOLで有意差を認めた.一方A群の変化は18ヶ月以上においても有意に増加し,B群と比較して長期的に効果が持続した.体重はPR群において変化を認めなかったが,CR群と比較すると2年間の変化に有意差を認めた.A群とB群の変化には有意差を認めなかった.肺機能検査値・前後2年間の入院日数・救急受診回数に有意差を認めなかった.【考察】COPDに対する外来通院による呼吸リハビリテーションは長期的に効果が期待できると考えられた.加えて在宅自己訓練の有無が長期効果を左右する要因として考えられた.
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対照群との比較において
小川 智也, 渡辺 文子, 鈴村 賢一, 磯村 百合子, 谷口 博之, 近藤 康博, 西山 理
セッションID: AO023
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】間質性肺炎患者に対する外来呼吸リハビリテーション(以下、外来呼吸リハ)の効果に関しての報告は少ない。今回は間質性肺炎患者を対象とし、COPD患者と同様の外来呼吸リハプログラムを施行した群(呼吸リハ実施群)と呼吸リハを実施しなかった群(対照群)の2群にわけ、前後評価により間質性肺炎患者に対する外来呼吸リハの有効性を検討した。【対象と方法】対象は当院外来通院中の間質性肺炎患者26例で、この内呼吸リハ実施群13例(平均年令67.2歳、%VC 63.8%、%FEV1 69.3%、3例はHOT施行中)と対照群13例(平均年令67.7歳、%VC 68.8%、%FEV1 76.3%、1例はHOT施行中)の 2群に分け検討した。呼吸リハ実施群は週2回、10週間の外来呼吸リハを施行し、対照群は特に何も行わず2群とも同じ期間において前後評価を行った。外来呼吸リハの方法はトレッドミルや自転車エルゴメーターを主とした運動療法を主軸とし、呼吸訓練、胸郭可動域訓練、上肢筋力訓練を行い、吸気筋トレーニング(Thresholdを使用しPImaxの30%で訓練)、呼吸筋ストレッチ体操(昭和大学、本間ら)を併用した。評価項目は動脈血液ガス分析、肺機能検査、呼吸困難(BDI)、呼吸筋力(PEmax、PImax)、6MD、ADL(千住ら)、健康関連QOL(HRQOL)に関してはSt. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ:京大胸部研、西村浩一訳)を用い前後で評価した。【結果及び考察】呼吸リハ実施群と対照群での2群間における前値の比較では年令、%VC、%FEV1、動脈血液ガス分析において有意差を認めなかった。対照群の前後期間での変化は、肺機能、BDI、6MD、呼吸筋力(PEmax)、ADL、SGRQにおいて有意差を認めなかった。呼吸リハ実施群では呼吸リハ前後で、BDIは6.5±0.4(平均値±標準誤差)→6.8±0.3と有意な変化は認めなかったが、6MDは368.4±33.9→409.4±27.0mと有意(p=0.0192)な改善を認めた。呼吸筋力はPImaxが71.2±9.7→81.6±10.0cmH2O(p=0.0019)とPEmaxが76.7±9.0→94.9±12.7cmH2O(p=0.0131)と有意な改善を認めた。SGRQ(Total score)は49.8±4.4→45.2±4.7と有意(p=0.0342)な改善を認めた。また、肺機能検査で%VCは63.8±3.8→66.9±4.1%と有意(p=0.0329)な改善を認めたが、%FEV1に有意な変化は認めなかった。また、呼吸リハ実施群と対照群の2群間において前後期間における変化量(平均値)を検討したところ、6MD:41.0m vs -14.0m(呼吸リハ実施群vs対照群) (p=0.0138)、SGRQ(Total score):-3.3 vs 3.1(p=0.0223)、%VC:2.6% vs -2.8%(p=0.0276)と2群間において前後期間で有意な変化量の差を認めた。呼吸リハ実施群は対照群と比較し6MD、SGRQ(Total score)、%VCにおいて有意な改善を認めたため、間質性肺炎患者に対しても外来呼吸リハは有効であると示唆された。
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systematic overview
小島 肇, 柳田 俊次, 山田 拓実, 那須 英紀, 蝶名林 直彦
セッションID: AO024
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者へのリハビリテーション(リハ)は、短期的効果として運動耐用能・QOLについて確立されてきている。 しかし、リハプログラムの内容・長期効果については議論の多いところである。 そこで、COPD患者に対する外来リハプログラムの長期効果に関して、systematic overviewを試みることにした。【方法】 1992から2002年10月31日までの10年間についてMEDLINEとCochrane Library(CDSR・DARE・CCTR)、ACP Journal Clubを電子的に調べた。 研究デザインはランダム化比較試験(RCT)のみとし、外来患者を対象とした論文を検索した。 検索された論文の質を評価し、妥当な論文のみ採用した。 検索された論文の参考文献についても関連論文がないか調べた。 また、呼吸器疾患とリハに関する主要な臨床雑誌-JAMA・Ann Intern Med・N Engl J Med・Lancet・Chest・Thorax・Eur Respir J・Phy Ther・Arch Phy Med Reh・Physiotherapy-の索引をハンドサーチした。 対象は一秒率70%以下で、安静時酸素飽和度が90%以上の経過が安定した患者で、心疾患がなく運動療法を行ううえで骨関節疾患が問題とならない症例であることとした。 そして、介入後1年時に運動耐用能とQOLをoutcomeとして評価している文献のみを採用した。【結果】 電子的手段によって10件の論文が検索された。 また、これらの参考文献からさらに5件が追加され、合計15件の論文を吟味することにした。 そして論文の質・テーマに合致した4つの文献を最終的に採用した。 これらによると、運動耐用能を6分間歩行テストで調べた3件の論文では対照群に比較して歩行距離が40から90m延長し、統計学的有意な改善を認めたと報告している。 他の1件はShuttle walk testで評価し、同様に外来リハの効果を指摘している。 QOLではSGRQもしくはCRDQを指標とし、4件のうち3件に効果を認めた。【考察】 医療環境が厳しくなるなか、入院期間の抑制などコスト削減が求められている。 COPD患者への呼吸リハも外来が主体となりつつある。 外来では医師・看護師・理学療法士などの専門職が系統だった指導を監視下で行うことが出来ることもリハ効果をあげる上で重要であろう。 COPD患者への呼吸リハは、肺機能の改善は認められないものの運動耐用能・QOLには効果があるといわれるが、外来リハに関しても同様のことが確かめられた。 今後は、一年以上の長期効果を維持・向上するための工夫を含めたプログラムの整理・開発、費用効果分析が必要であろう。【まとめ】 COPD患者への外来リハの長期効果について、過去十年にわたりsystematic overviewを試みた。 採用した4件のRCTsから運動耐用能・QOLに関して効果が認められた。
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筋出力パフォーマンスと経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位からの検索
金子 文成, 木塚 朝博, 山田 洋, 横井 孝志, 増田 正
セッションID: AO025
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】 我々がこれまでに報告してきた身体不活動が筋出力能力(最大筋力,筋出力調節能力,筋持久力)に及ぼす影響に関する研究では,1週間のギプス固定によりMRIで計測した筋断面積が変化しなかったにも関わらず,最大随意収縮筋力(MVC)は20%程度低下していた。したがって,その主な原因として末梢の筋量以外の原因が考えられた。諸家らの筋出力能力低下の予防に関する報告では,MVCの低下を予防する観点から,高負荷を与えた効果を検討したものがほとんどである。そこで本研究は,低負荷の運動でも神経系機能に刺激を与えるような課題を用いれば,ある程度の筋出力能力低下を予防できるのではないかとの視点から,平均で20%MVC負荷の筋出力調節運動(LowEx)が廃用性筋出力能力低下を予防できるかどうかを明らかにするために行った。【方法】 対象は本研究に参加することを十分な説明の後に同意した健康な成人男性12名であった。足部から大腿部までを7日間ギプス固定された群6名(固定群)と,固定群と同様にギプス固定を実施したが毎日30分間のLowExを実施した群6名(低負荷運動群)の2群に分け,以下の測定はギプス固定の前後(固定前,固定後)に行なった。下腿三頭筋から筋電図を導出し,足関節底屈のMVCと低負荷の一定筋出力による軌跡追従課題(追従課題)を行なわせた。安静時に後脛骨神経の電気刺激を行ない最大上M波と単収縮筋力を計測した。また,安静時と5%MVCの筋出力中に経頭蓋磁気刺激を実施し,運動誘発電位(MEP)を計測した。MEPは運動閾値の0.95倍,1.05倍,1.10倍,1.15倍の強度で誘発した。一連の測定終了後にMRIを撮影し,筋断面積を計測した。【結果】 固定後のMVCおよびMVC発揮中の筋電図二乗平均平方根(MVCrms)は,固定群で有意に低下していた。低負荷運動群では固定前後で有意差がなかった。追従課題での力曲線のばらつきは,固定群で有意に大きかったが低負荷運動群では変化しなかった。MEPは安静時には両群共に有意に変化しなかった。5%MVC中のMEPは,固定群では固定後に有意に増加しており,かつ刺激強度に応じて増加するようになった。しかし,低負荷運動群では固定前後で有意な変化はなかった。筋断面積は両群共に固定前後で有意な変化はなかった。【考察と結論】 本研究では,1週間のギプス固定期間中にLowExを実施することによって,1)MVCの低下,および 2)低負荷の筋出力調節能力低下,を予防できた。すなわち,LowExは筋出力調節能力低下に対してのみならず,MVC低下予防にも効果があった。また,固定群で検出されたMEPの変化もLowEx により予防することができた。これらのことから,廃用性筋出力能力低下で筋量の原因以外で引き起こされている部分については,LowExで予防できるものと考えた。
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大畑 光司, 市橋 則明, 竹村 俊一
セッションID: AO026
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】変形性膝関節症に対する初期から進行期の治療法として、足底挿板療法が多く用いられる。鎮痛剤を中心とした治療と比較して、外側ウェッジの方が疼痛、歩行能力に効果的とされ、自覚症状の74%が改善したとの報告もある。しかし足底挿板の運動学的機序が明確であるとは言い切れず、運動学的解析については散見されるが、筋電図学的解析についてはほとんど行われていない。本研究の目的は足底挿板が歩行にあたえる運動学的、筋電図学的影響について明らかにすることである。
【対象と方法】健常成人10名(男6名、女4名、平均年齢23.9±3.4歳)を対象とした。被験者にトレッドミル上を時速3kmで歩行させ、足底挿板の有無により歩行に生じる変化を測定した。足底挿板にはソルボセイン製の中足部までの外側ウェッジを用い、傾斜角度を4度、8度の二通りとした。足底圧の測定はパロテックメディカルテクノロジー社製足圧解析装置を用い、歩行時の接床圧、重心軌跡を記録した。さらに歩行時の前額面上での骨盤の位置変化をデジタルビデオカメラで記録し、トリウム社製空間座標算出ソフトMP1000を用いて、2次元座標を算出した。筋電図はトリウム社製筋電計TH-M008を用いて、ADI社製Power LabにてAD変換を行った。被験筋は、中殿筋、大内転筋、半膜様筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、内側腓腹筋、外側腓腹筋、長腓骨筋の8筋とした。足底圧は接床圧と重心位置の変化を算出し、二次元歩行解析では骨盤の位置変化を算出した。筋電図は立脚期の平均Root Mean Square値を、最大等尺性収縮を100%としたときの割合で表した。統計処理は反復測定二元配置分散分析を用い、有意水準は5%とした。
【結果】接床圧は歩行周期の10%と20%で外側ウェッジ歩行のほうが有意に高い値を示した。重心軌跡は歩行周期の40%までの有意な側方変位が認められ、歩行周期の90%から有意な前方変位が生じていた。二次元歩行解析では歩行時の側方への骨盤移動量に変化を認めなかった。筋電図解析では内側腓腹筋の外側ウェッジによる有意な低下が生じた。筋活動比では前脛骨筋/腓骨筋比が有意に低下した。
【考察】外側ウェッジが歩行に与える影響として、膝内反モーメント及び膝内側コンパートメント荷重量の減少、重心軌跡の外側変位があげられる。本研究において骨盤の側方移動量に変化がないにもかかわらず、足底での重心軌跡は外側に変化しており、筋活動は回内運動を強めていた。外側ウェッジによる効果は身体重心の変化により説明されることが多いが、今回の結果からは、身体重心の変化より、足圧中心の変化に大きく影響を受けているのではないかと考えられた。
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烏野 大, 藤原 孝之, 千賀 富士敏, 諸角 一記, 遠藤 敏裕, 山本 巌
セッションID: AO027
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】TENSの作用機序として,ゲートコントロール理論が挙げられる.この理論は不十分な箇所を指摘されているが,現在でも臨床上有用な理論である.TENSは,細い神経線維からの情報を遮断すると考えられているが,それに関する定量的な研究は少ない.本研究では,自律神経系に対するTENSの効果を,筋内での血流動態を自律神経系の1つの活動指標として定量的な分析を行った. 【目 的】本研究の目的は,自律神経系が関与する筋内の血流動態に対するTENSの影響を明らかにすることである.実験には近赤外線分光法(NIRS)を用いて,筋内組織の総ヘモグロビン(Total-Hb)を測定し,その変動を血流動態とした. 【方 法】実験の同意を得た被験者から,上肢に障害の既往,筋肉痛や冷え症などの訴えがあった3名を除いた健常成人13名(男性5名,女性8名)を対象とした.被検者の年齢は19-58歳,身長は151-171cm,体重は42-85kgであった.測定上肢(右7肢,左6肢)は無作為に振り分けた.NIRS(浜松ホトニクス社製,NIRO300A)のプローブを前腕部(尺側手根屈筋)の筋腹中央に配付した.測定肢位は椅子坐位とし,肘関節90度屈曲位となる様に台を設置した.TENS使用時(E群)と未使用時(C群)を同一被検者に対して実施した.測定開始より5分間にTENS(出力10mA,周波数100Hz,パルス幅100μsec;伊藤超短波社製,ES-420)を実施し,未使用時では安静とした.その後の1分間の安静後,他動的に肘関節軽度屈曲位,肩関節約160度まで挙上し20秒間保持した後,元の肢位にて安静を取らせた.さらに再び挙上運動を繰り返し,合計3回の挙上運動と安静を行い,10分間の計測を行った.挙上後1分間の安静時のTotal-Hbを,解析ソフトBIMUTAS-E ver. E2.20を用いて解析した.次の挙上動作前の10秒間より各波形の基線を再算出後に3回分を加算平均化し,安静開始時から20秒間毎の3区間(T1,T2,T3)に分けて積分処理を行った.統計処理は,SPSS ver.11Jを用いた. 【結 果】3区間の積分値の平均値は,C群では,271.4μM・sec ,49.1μM・sec ,7.1μM・secであり,E群では,276.7μM・sec ,68.5μM・sec ,11.5μM・secであった.両者とも時間経過と伴に有意に積分値が減少した(p<0.01).T2(p<0.01)とT3(p<0.05)の区間の積分値では,E群が有意に高値を示した.再算出された基線と交差するまでの時間の平均値は,C群で40.3sec,E群で47.9secであり,有意に遅延した(p<0.05). 【考 察】積分値の低下は,血流が目標である定常状態に近づくことを示している.基線と交差するまでの時間においても,C群に比べE群では遅延し,T2とT3の積分値においても差が認められた.これらの結果から,前腕部の筋内の血流を回復させる為に働いている自律神経系に対して,TENSは抑制的な影響を及ぼしたと考えられる.しかしながら,T1での血流変動において,C群とE群での差が確認出来なかった.今後は,TENSの実施時間を長くし,また動脈血の指標となる酸化ヘモグロビンの動態などについても分析を行いたい.
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古川 公宣, 下野 俊哉
セッションID: AO028
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】慢性腰痛症は,日常の理学療法場面でも頻回に遭遇する疾患であり,アメリカではこの疾患に対する保健医療でのコストの増大が非常に重要かつ問題視されている.今まで我々は,この疾患の発生要因の一つとされるリフティング動作の解析を健常者に対して表面筋電図を用いて行ってきたが,今後この疾患を有する患者に対する臨床治験を施行する前段階として,表面筋電図を用いた慢性腰痛症の評価とこの疾患に対する最近の考え方を調査したので,考察を加えて報告する.
【方法】1965年から2002年10月までに医学情報検索サイト「MEDLINE」に収載されている英語医学論文のうち,一次検索条件を「SEMG,”surface EMG”,”surface electromyography”」とし「clinical trial,controlled clinical trial,randomized controlled trial」に該当する条件で検索,該当した142件に対して二次検索条件「”low back pain” OR “back pain” OR backache OR lumbago」を適用した結果16件が抽出された.これらの論文を入手し,本研究目的に該当すると判断される13件を検討対象とした.3件の論文の除外条件は,マニピュレーション等の特異的な治療方法による効果を検討したもの,直接的に研究対象を腰痛にしていないものとした.また,現在進行している研究が収載されている”Cochrane Library Trial Resister(CLTR)”(2002 issue 4)より慢性腰痛症に対する表面筋電図を用いた研究にどのようなものがあるかも参考にした.
【結果およびまとめ】腰痛症患者と健常者に対する特定運動課題での介入効果の判定を無作為化比較試験で行い,その有効性を証明したものが1件あり,研究のデザインと結果からエビデンスのレベルはGrade Bに相当すると判断されるが,複数の論文が存在しなかったためメタ分析には至らなかった.その他は,特定運動課題の決定のために健常者を用いて筋の選択的動員の可能性を調査したものが2件,単純な動作あるいは静的課題を用いて健常者と腰痛患者の筋活動特性を調べたものが6件,周波数特性を扱うものが3件,腰痛治療器具の効果を判定するものが1件であった.器具の判定を行った以外の12件はすべて1997年以降の論文であり,そのうち3件が特定の運動課題として脊柱の安定化機構に焦点を合わせたものであった. CLTRにもこの点に着眼した研究が数件あることから,慢性腰痛に対する今後の理学療法として,筋の選択的動員を目的とした運動介入方法と表面筋電図の使用法が確立されていくものと考えられた.いずれの研究においても,表面筋電図によるデータ収集の信頼性,再現性が高いとの結果が報告されていたが,標準化手順として最大筋力に対する割合を使用することが腰痛症患者において困難であるという問題提起もあり,適切な解析方法の検討も必要であると思われた.
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肺活量やADLの回復の観点から
有薗 信一, 高橋 哲也, 熊丸 めぐみ, 畦地 萌, 横澤 尊代, 安達 仁, 金子 達夫, 谷口 興一
セッションID: AO029
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】心臓外科手術後の肺活量(VC)は,手術直後は手術前の50%未満にまで低下し,その後は1週間で手術前の約70%,2週間で約80%に回復するといわれている.一方,VCの経時的変化に対する呼吸理学療法介入の影響を検討した報告はなく,手術後のVCが呼吸理学療法介入によっていかに変化するかについては不明である.そこで,本研究では心臓外科手術後のVCの経時的変化やその後のADLに及ぼす呼吸理学療法の効果を検討した.【対象】対象は心臓外科手術患者60例(男性36例,女性24例)で,平均年齢は65.9(30-85)歳.対象の内訳は冠動脈バイパス術28例,弁置換術25例,その他7例であった.手術前のVCは平均2.93±0.86Lで,全例呼吸器疾患の合併症はなかった.全対象に手術前から本研究の目的,方法,有益性,リスクなどを十分に説明し,研究参加の同意を得た.【方法】研究デザインは無作為化比較対照試験を採用した.手術に先立ち,対象を無作為に2群に振り分けた.コントロール群(C群):手術前より可及的早期からの呼吸理学療法の重要性を説明し,手術後は通常の離床理学療法プログラムと必要に応じて咳嗽練習を行い,その他は自主的に1時間毎に10回程度の深呼吸を行うように指示した.インセンティブスパイロメータ群(IS群):C群のプログラムに加えて,インセンティブスパイロメータ(ボルダイン2500)を用いた深呼吸練習を行った.インセンティブスパイロメータを用いた深呼吸練習は,最初はゆっくりと呼気を行い,その後ゆっくりと吸気を始め最大吸気位で3から5秒間保持することを10回1セットとして行った.手術後1日目の午前から開始し,午前午後に少なくとも1セットずつ7日間行った.VCの測定は手術前,手術後7日目,14日目に行い,手術前のVCに対する7日目と14日目のVCの割合(%VC)を算出した.さらに,2群間の手術前VC,年齢,身長,体重,体外循環時間,麻酔時間,抜管までの時間,7日目と14日目の%VC,呼吸器合併症の有無,ADL自立までの期間を比較した.【結果】手術前VCや年齢,手術状況は両群間で差を認めなかった.7日目の%VCはC群で69.9±10.8%,IS群で73.1±14.8%で,両群間で有意な差は認めず,14日目の%VCはC群で79.9±9.6%,IS群で78.3±12.4%で,両群間で有意な差は認めなかった.呼吸器合併症は,C群で0例,IS群で1例(無気肺),病棟ADL自立までの期間は,C群で7.9±3.5日,IS群で7.4±1.2日で,有意な差は認めなかった.【まとめ】心臓外科手術後患者に対するインセンティブスパイロメータを用いた呼吸理学療法は,VCの回復や呼吸器合併症,ADL自立などに効果を認めなかった.より詳細な効果判定のため,今後は介入量の違いによる検討が必要である.
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最大酸素摂取量と換気効率からの検討
高橋 哲也, 鶴谷 英樹, 安達 仁, 熊丸 めぐみ, 有薗 信一, 大島 茂, 谷口 興一, 奈良 勲
セッションID: AO030
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】最高酸素摂取量(peak VO
2)は心疾患患者の予後予測因子の一つであることが知られている.しかし,運動負荷試験で心疾患患者を最高レベルまで運動させることができたかどうかの判定は難しく,また,予後予測のためのpeak VO
2の基準値は10から18ml/kg/minと研究者の中でも一定しない.近年,心疾患患者の予後予測の指標として二酸化炭素排出量(VCO
2)に対する分時換気量(VE)の割合(VE-VCO
2 slope)が注目されているが,邦人を対象とした検討は少ない.そこで本研究では心疾患患者の予後予測因子としてのVE-VCO
2 slopeの有用性を検討した.【対象と方法】1996から1999年に当院にて心肺運動負荷試験を受けた心疾患患者215例(平均年齢59.5(12-85)歳,虚血性心疾患89例,拡張型心筋症38例,弁疾患37例,高血圧性心疾患33例,その他18例)を対象に,心肺運動負荷試験後3年間の心イベント(心臓死と心不全などによる再入院)発生率を調査した.対象215例をpeak VO
2を指標とした場合は14ml/kg/min以上と未満の2群に分け,VE-VCO
2 slopeを指標とした場合は36以上と未満の2群に分けて,2群間の3年間の心イベント発生率を比較した.心イベント発生率の比較検定にはKaplan-Meier法を用いた.【結果と考察】観察期間中,43件の心イベントがあり,4人が死亡し,39人が再入院した.peak VO
2を指標とした場合,2群間で3年間の心イベント発生率に差を認めなかったが,VE-VCO
2 slopeを指標にした場合は,VE-VCO
2 slopeが36以上の群では3年間の心イベント発生率が38.6%であったのに対して,VE-VCO
2 slopeが36未満の群では18.1%と有意に低い値であった.また,peak VO
2が14ml/kg/min以上の患者のみを抽出しても,VE-VCO
2 slopeが36以上の患者と36未満の患者では3年間の心イベント発生率に有意な差を認めた.運動負荷試験でpeak VO
2を求める場合,異常心電図や目標心拍数以外にも被験者の主観的疲労度で運動を終了する場合があり,最高レベルまで運動させることができたかどうかの判定は難しい.一方,VE-VCO
2 slopeは肺内での換気血流不均衡に影響され,被験者の意思によって調節することができない(再現性のよい)換気効率の指標である.心疾患患者の換気血流不均衡は心不全を起源としているために,peak VO
2が比較的高い心疾患患者でも,VE-VCO
2 slopeが高値を示す場合は潜在的な心不全(換気血流不均衡)を有し,予後に影響する可能性があると考えられた.【まとめ】VE-VCO
2 slopeは心疾患患者の予後予測に重要な指標である.
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田畑 稔, 中川 晋, 宇井 進, 木村 満, 廣谷 隆, 新井 保久, 松本 徹, 河野 円士, 瀬城 亜也子, 本山 歩, 家護谷 知子 ...
セッションID: AO031
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】現在、心疾患リハビリテーション(心リハ)料は急性冠動脈症候群(ACS)と開心術(OPE)後の心疾患患者のみに診療報酬請求が認められている。しかし、心疾患患者を扱っている多くの病院では集中治療室や循環器病棟において、急性心不全(CHF)の患者も混在して心リハが行われている。そこで今回は、CHF患者に対する急性期心リハの効果に差違があるのかを判定するため、心リハ料適応疾患群とCHF患者群に対して心リハの到達度や心リハ期間の相違について統計学的に検討を加えて考察する。【対象】1999年1月から2002年9月までの3年9ヶ月間に当院循環器センターに入院し心リハを行った1092例(男性756例、女性336例)(平均年齢67.4±11.9歳)を対象とした。【方法】対象群をACS群436例(男性310例、女性126例)(平均年齢67.4±11.4歳)、OPE群276例(男性202例、女性74例)(平均年齢64.8±9.6歳)、CHF群380例(男性244例、女性136例)(平均年齢70.9±11.8歳)に分け、さらにCHF群は起因(不整脈群48例、冠動脈群95例、腎不全群12例、心筋症群144例、弁膜症群81例)ごとに分類した。心リハ到達度については負荷試験可能群(A群)階段昇降可能群(B群)病棟内歩行可能群(C群)身辺動作可能群(D群)院内死亡群(S群)に分類した。検定方法は、各心疾患群間とCHF群は起因ごとに、心リハ到達度及び平均心リハ期間についてχ
2検定及び分散分析を用いて検討した。【結果】心疾患群間の心リハ期間はACS群14.9±14.3日、CHF群20.6±19.5日、OPE群31.1±31.8日であり、各々に有意差(P<0.001)を認めた。心リハ到達度はACS群(A群279例、B群36例、C群98例、D群17例、S群6例)CHF群(A群145例、B群51例、C群164例、D群16例、S群4例)OPE群(A群221例、B群13例、C群33例、D群7例、S群2例)χ
2=129.6で有意差(P<0.0001)を認めた。また、CHFの起因別による心リハ期間は不整脈群18.7±12.8日、冠動脈群19.6±16.1日、腎不全群28.4±25.3日、心筋症群21.6±22.7日、弁膜症群19.9±19.7日であり、有意差を認めなかった。心リハ到達度は不整脈群(A群18例、B群4例、C群21例、D群2例、S群3例)冠動脈群(A群33例、B群11例、C群46例、D群5例、S群0例)腎不全群(A群5例、B群0例、C群7例、D群0例、S群0例)心筋症群(A群66例、B群22例、C群52例、D群4例、S群0例)弁膜症群(A群23例、B群14例、C群38例、D群5例、S群例)χ
2=28.9で有意差(P<0.05)を認めた。【考察】既知の通りCHF患者は病前から運動耐用能が低下しているため、心リハ料適応群と比べると急性期心リハの到達度に差を認めるものの心リハ期間はOPE群より短期間に急性期心リハを終了可能なことが判明した。また、CHFの起因による心リハ期間に差はないが、心リハ到達度は若干の差を認めたが、心リハ期間からみた急性期心リハの効果はCHF患者においても相違ないものと考える。
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日常生活の自立に向けた下肢筋力目標値の検討
神谷 健太郎, 松永 篤彦, 齊藤 正和, 岩松 秀樹, 遠原 真一, 幸田 誠, 小倉 彩, 岩村 貴美, 高橋 由美子, 笠原 酉介, ...
セッションID: AO032
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【背景と目的】我々は、虚血性心疾患患者が軽スポーツの再開を希望する際の筋力トレーニング目標値として、膝伸展筋力体重比55%を提案している。本研究の目的は、日常生活に支障をきたさないレベルの運動耐容能を目指す心疾患患者において、達成すべき下肢筋力の目標値を明らかにすることである。【対象と方法】回復期の急性心筋梗塞患者84名(男性71名、女性13名、年齢:61.2±10.4歳、身長:163.3±7.0cm、体重:64.2±11.4kg)を対象とした。トレッドミルによる運動負荷試験(Bruce法またはmodified Bruce法)を行い、運動耐容能の指標として速度と傾斜から推計されるMETsを記録した。下肢筋力の測定は、hand-held dynamometer (μTas MT-1,ANIMA)をNKテーブルに固定し、椅子座位、膝関節90°屈曲位の測定肢位で等尺性膝関節伸展筋力を測定し、筋力値は体重比(%BW)で表した。統計解析は、説明変数として年齢、性別(男=1、女=0)来院時の左室駆出率(LVEF)、Peak CK-MB、3枝病変の有無(有=1、無=0)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(200pg/dl以上=1、以下=0)、300m歩行開始病日および下肢筋力を用い、目的変数である7METsの到達可否に影響する因子をロジスティック回帰分析により解析した。また、下肢筋力目標値は、感度と偽陽性率(1-特異度)からROC曲線を描き決定した。【結果と考察】7METsの到達可否を目的変数としたロジスティック回帰分析において、下肢筋力のみが有意な説明変数であった(オッズ比=1.134、P=0.007)。ROC曲線の感度と偽陽性率による目標値の検討では、45%BWがcutoff pointとして最も有用な値であった(感度=0.724、偽陽性率=0.125、精度=0.738)。7METsの運動耐容能を有する患者では、その70%相当の5METsレベルの労作を持続的に行うことが可能であり、休息をとりながらの階段昇降も可能なレベルと判断される。即ち、日常生活に支障のない運動耐容能は7METsであり、高度の心機能低下症例を除き達成すべき水準と思われる。一般に、運動耐容能を6METs以下から7METsに向上させると死亡のリスクが著しく減少することが知られ、さらに7METsの運動耐容能は米国心肺リハビリテーション学会のリスク層別化基準では低リスク群に分類されている。そこで、運動耐容能が7METsを下回る症例においては、日常生活の自立に際して、下肢筋力45%BWを目指すことが臨床的に有用と思われた。【結語】日常生活に支障をきたさないレベルの運動耐容能を目指す心疾患患者において、下肢筋力の目標値は45%BWであることが示された。
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若年層と壮年層の比較
三浦 雄一郎, 鈴木 俊明
セッションID: BO454
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】Ngらの解剖学的研究成果に基づいて筋電図測定することで個々の体幹筋の歩行時における筋活動パターンを把握することが可能となった。今回、我々は若年層および壮年層を対象として歩行時における体幹筋の筋活動を測定し、加齢が体幹筋の筋活動パターンに与える影響について検討したので報告する。【方法】対象は若年健常者5名(男性3名、女性2名、平均年齢26±3.1歳)、壮年健常者5名(男性2名、女性3名、平均年齢56±3.8歳)とした。筋電計はマイオシステム(NORAXON社製)を用いた。測定筋は腹直筋、外腹斜筋(単独)、内腹斜筋(単独)、内外腹斜筋重層部位、多裂筋、最長筋、腸肋筋とした。筋電図波形の解析はマイオリサーチを用いた。なお、周波数帯域は10から500Hzとした。歩行は自由歩行とし、一歩行周期を100%とし時間で正規化した。歩行周期を立脚初期(HC後10%)、立脚中期(立脚期中間10%)、立脚終期(TO前10%)、遊脚期(遊脚期中間10%)に区別した。一歩行周期における各筋の平均振幅値を100%とし、各区間に占める平均振幅値を求めた。【結果】若年健常者:腹直筋の平均振幅値は立脚期初期と終期において立脚期中期と遊脚期と比較して有意に増大した(p<0.01)。内腹斜筋は立脚期初期と中期において立脚期終期、遊脚期と比較して有意に増大した(p<0.01)。また、立脚期中期においては初期と比較しても有意に増大していた(p<0.05)。内外腹斜筋重層部位は遊脚期において有意に増大した。多裂筋、最長筋、腸肋筋は立脚期初期と終期において立脚中期、遊脚期と比較して有意に増加した(p<0.01)。壮年健常者:腹直筋は若年健常者と同様であった。内腹斜筋の平均振幅値は立脚期初期と中期において遊脚期と比較して有意に増大した(p<0.05)。しかし、立脚期中期は初期と比較しても有意差は認められなかった。内外腹斜筋重層部位の平均振幅値は若年健常者で増大していた遊脚期において有意差は認められなかった。多裂筋、最長筋、腸肋筋の平均振幅値は立脚期初期と終期において立脚中期、遊脚期と比較して有意に増大した(p<0.01)。【考 察】全体を通して壮年層と若年層では腰背筋群において筋活動パターンは類似していたが、腹筋群においては個々の筋において若干の相違を認めた。内腹斜筋において壮年層と若年層では筋活動パターンがほぼ同様であった。しかし、若年層が立脚期中期において初期と比較しても有意差が認められたが壮年層においては認められなかった。また内外腹斜筋重層部位の筋活動パターンは若年層において遊脚期(中期)で有意に増大していたが、壮年層ではその時期の筋活動増加は少なく、遊脚期終期への遅延が観察された。歩行時の体幹筋筋活動パターン、特に腹筋群においては加齢に伴い質的に機能低下を生じる可能性があることが示唆された。また腰背筋群及び腹直筋においては壮年層でも健常であれば若年者と相違がないことを確認した。
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母指内転筋斜頭を貫く神経の存在
荒川 高光, 関谷 伸一, 寺島 俊雄
セッションID: BO455
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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はじめに:ヒト足の母指内転筋は個体発生、系統発生学的に興味深い筋であるが、その詳細な解剖学的報告は乏しい。母指内転筋は斜頭と横頭が存在する。われわれは第37回日本理学療法学術大会にてヒト、アカゲザル、チンパンジーの当筋両頭の起始、停止、筋重量を調査し、ヒト母指内転筋両頭の起始部の変異について考察を加え報告した(荒川ら, 2002)。ヒトの骨格筋の形態変異について考察する際には支配神経から筋を同定することが重要である。なぜなら、支配神経と筋の間には発生過程を反映する何らかの安定的な関係が存在すると考えられているからである(木田,1995)。今回われわれはヒト足の母指内転筋、中でもその斜頭を支配する外側足底神経が、斜頭を貫いた後に内側足底神経と交通する例を2例観察した。よって所見の詳細に加え、ヒト足の母指内転筋の形態形成を考察して報告する。
対象と方法:対象は平成14年度神戸大学医学部解剖学実習における実習体2体2足である。両標本ともに外科的既往はとくになく、足底の筋が欠除することはなかった。外側足底神経と内側足底神経をその支配する筋とともに骨から取り外し、ゴムボード上に固定し、水浸させた。そして手術用双眼実体顕微鏡(オリンパス社製)を使用して、標本の神経上膜を取り除き、周膜レベルでの線維解析と母指内転筋両頭の支配神経の筋内分布を検索した。
結果:2例のうち1例から得られた所見をまとめる。母指内転筋斜頭の支配神経は斜頭内で大きく3つの枝に分かれ、各枝の間には交通が見られなかった。3つの枝は、浅層(足底側)の内・外側の2つの筋束、および深層の筋束に分布した。従って神経支配の筋内分布から、母指内転筋斜頭を3つの要素に分けることができた。内側足底神経との交通枝は、斜頭の深層の筋束と浅層の外側部筋束の間から斜頭に進入し、浅層の2つの筋束の間を貫いて足底側へ出て、内側足底神経の短母指屈筋に至る筋枝と交通していた。線維解析した結果、交通枝は外側足底神経由来の成分からなり、内側足底神経の短母指屈筋に至る筋枝と合流後に短母指屈筋に入ることが明らかになった。
考察:以上の結果から、母指内転筋斜頭は3つの筋要素から構成され、短母指屈筋と近縁関係にある可能性が示唆された。とくに、浅層の内・外側2つの筋束は発生過程において別の要素であった可能性が高い。ヒト胎児の組織学的研究によりヒトの足底の筋の個体発生を調査したCihak(1969,1972)は、母指内転筋斜頭は3つの要素からなることを示唆している。しかし、今回のわれわれの所見は、母指内転筋斜頭の形態形成について、さらに短母指屈筋との関係についても考察する必要性があることを示している。
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山崎 重人
セッションID: BO456
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】筋力強化においては、主動作筋を主として強化されることが一般的であるが、筋力発揮には主動作筋がより筋力を効率よく発揮するために固定筋の作用も重要である。そこで今回、筋力強化において、主動作筋だけでなく、固定筋を同時に強化することが関節可動域にどのような影響を及ぼすのかについて検討を行った。【対象】2002年4月現在、当院に通院中の患者で、研究の趣旨に同意が得られた肩に既往がない男性15名、15肩とした。【方法】対象を平均年齢、BMIで同程度に分類し、筋力強化方法で、A群:固定筋と主動作筋の強化群、B群:主動作筋のみの強化群、C群:固定筋のみの強化群の3群に分類した。運動は肩関節90°外転、主動作筋は三角筋(中部線維)、棘上筋、固定筋は僧帽筋(上部線維)と前鋸筋である。筋力強化期間は、8週間。週3回以上の頻度とした。筋力強化前の肩甲棘と上腕角(S-H角)と8週間後のS-H角を分度器で角度測定し、肩甲上腕関節のみの可動域で3群を比較した。ただし患者の同意を得るために、今回X線フィルムでの解析ではなく、リハビリ室で、上半身裸体状態、デジタルカメラ使用での、背面より撮影したフィルムの解析とした。統計処理として、独立した3群の差は、Bartlett testで検定、その後、一元配置分散分析法を用いて、危険率5%で検定した。【結果】筋力強化前のS-H角の平均値は122.2±3.5°であった。筋力強化後のA群(5例)のS-H角の平均値;131±2°。B群(5例)のS-H角の平均値;120±7.2°。C群(5例)のS-H角の平均値;123±4.1°であった。Bartlett testでは、3群の分散は等しく、一元配置分散分析法を用いた。結果、3群間で差を認めたため(p<0.05)、多重比較検定(Fisher's PLSD)により更なる検定を実施し、A群とB群間、A群とC群間において、有意差を認めた(p<0.05)。B群とC群間では有意差を認めなかった。【考察】今回の結果から、A群が、肩関節90°外転運動での肩甲上腕関節の可動域改善に3群間で最も効果を認めた。従って、主動作筋のみならず、固定筋の強化も同時に行うことで、筋力だけでなく可動域改善にもつながることが示唆された。
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新野 浩隆, 島岡 秀奉, 神谷 晃央, 内田 成男, 大田 哲生, 田辺 茂雄, 村岡 慶裕, 榊 泰輔
セッションID: BO457
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】脳卒中片麻痺患者における麻痺側下肢の痙縮は、歩行等のADL自立の阻害因子となる。その治療は薬物療法や神経ブロックだけでなく、理学療法においても数々の治療手段があり、特に筋の持続的伸張は頻繁に利用されその効果が報告されている。我々は過去の関連学会において腓腹筋の痙縮に対する連続的他動運動の有用性を報告したが、持続的伸張との妥当性のある比較は不十分であった。そこで今回、足関節の他動的底背屈運動を自由に設定でき、足関節トルクを記録できる治療装置(足関節用Therapeutic Exercise Machine、以下足TEM)を用いて、腓腹筋の持続伸張と連続的他動運動が足関節トルクに及ぼす影響を比較したので、若干の考察を加え報告する。【対象】対象は脳卒中片麻痺患者3名(男性2名、女性1名、平均年齢61.3±5.6歳、発症後期間456±487日)であり、痙縮評価スケールModified Ashworth Scaleは2が2名、3が1名であった。【方法】安静背臥位膝関節伸展位にて足TEMに麻痺側足関節を装着し、治療A(最大背屈位において持続伸張・20Nm・15分)と治療B(最大背屈位から底屈45°・連続的他動運動・20Nm・10deg/sec・15分)の2種類の治療を行った。各治療の直前と直後で、評価(最大背屈位から底屈45°・連続的他動運動・20Nm・40deg/sec)を行い、5往復分の足関節背屈最大トルクと腓腹筋の表面筋電を測定した。足関節背屈最大トルクは、三元配置分散分析にて統計処理を行い、表面筋電はMEGA社製ME3000P8を使用し、サンプリング周波数1000Hzにて導出し、PCにて積分値を算出した。なお、各治療は24時間以上の間隔を空け、治療順序は対象毎にランダムとした。【結果】平均足関節最大トルクは、治療後において治療Aでは22.3%、治療Bでは21.7%減少しており、ともに治療後で有意に減少した。(P<0.001)さらに治療Aの方が治療Bよりも有意に減少していた。(P<0.001)表面筋電測定により評価施行中の腓腹筋の筋活動電位は2例に認められ、1例は各治療後で積分値の減少を認め、他の1例では治療後の積分値が治療Aでは減少し、治療Bでは大きな変化を認めなかった。【考察】今回の実験により、治療A・治療Bとも足関節トルクの減少が見られた。治療Aの持続伸張は、Golgi腱器官-Ib線維興奮によりα運動ニューロンの興奮性が抑制されたことと、軟部組織の伸張による非反射性要素が改善し、足関節トルクの減少が生じたものと考えられる。一方、治療Bでの足関節トルク減少は、Ib抑制による効果が期待しにくいため持続伸張に比べ足関節トルクの減少が少なかったと思われた。今後、症例数を増やし、最大背屈位での持続伸張と連続的他動運動を合わせたプロトコルを導入するなど、痙縮緩和に対するさらなる検討を進めていきたい。
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南澤 忠儀, 鈴木 克彦, 山口 峻司
セッションID: BO458
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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[目的] 転倒は外乱によって誘発される場合と姿勢制御系の破綻によって誘発される場合が考えられる。本研究では後者すなわち制御系の破綻によって起こる転倒について筋電図学的及び運動学的解析をおこなった。 [方法]対象は健常成人5名(22_から_38歳)。被験者の身体に反射テープを張り(部位:第五中足骨・踵骨隆起・腓骨外果・大転子・肩峰・耳垂)、身体側面からビデオ撮影(30コマ/秒)を行い、その画像の各点を直線で結びスティックピクチャー図を作成した。また、表面筋電図法により、前脛骨筋(TA)・腓腹筋内側頭(GM)・腓腹筋外側頭(GL)・ヒラメ筋(SO)・大腿二頭筋(BL)・大腿直筋(RF)から筋活動を計測した。被験者はフォースプレート上に置かれた半径90_mm_、高さ100mmのロッキングプラットフォーム(以下、シーソー)上で閉眼立位姿勢をとり、可能な限り転倒せずに姿勢を維持するように指示した。実験は、はじめに開眼で15秒間4回を行い、次いで閉眼で15秒間4回の実験をおこなった。姿勢の維持が困難になり左右のどちらかの下肢がシーソーから離れて床面に着地した時点を転倒としその時点までの運動と筋電図を解析した。[結果]シーソーから前方あるいは後方へ転倒する時の下肢の踏み出しは左下肢を踏み出す場合が多かった(4名の被験者で138回中125回)。前方に転倒する直前では、両下肢のGM・GLが筋活動を示した。その大きさは支持下肢のほうが踏み出し下肢に比べて高かった。支持下肢ではSOにも強い筋活動が観察された。姿勢が維持されている状態から転倒に移行する時期では、踏み出し下肢のGMの活動が目立っていたが、GL及びSOには強い筋活動は見られなかった。[考察]支持下肢での強いGL・GMとSOの筋収縮は関節を安定させることで崩れようとする姿勢を安定させるための対応と考えられる。その後、踏み出し下肢が前方へ着地しようとした際もやはり同様にGM・GLとSOの強い筋活動が観察された。これも同様の理由によるものと考えられる。姿勢を崩す前の段階ではのちの踏み出し下肢はすでにのちの支持下肢ほどGL及びSOの筋活動が見られず、これは不安定な状況に対して転倒を予測して予めどちらかの下肢に重心をかけて踏み出し下肢を決めて準備をしていたのではないかと考える。
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松尾 善美, 淺井 義之, 野村 泰伸, 水庫 功, 井上 悟, 佐藤 俊輔, 米田 稔彦, 三木 明徳, 阿部 和夫
セッションID: BO459
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】我々はパーキンソン病(PD)患者の下肢協調運動障害を脊髄レベルでのcentral pattern generator(CPG) modelより解析し、運動障害の分類を試み、報告してきた。今回は失調症での下肢協調運動障害に対する理学療法の介入方法について検討する目的で、左右独立駆動型エルゴメーター(三菱電機社製ストレングスエルゴ240、以下SE)による回転数の左右位相差を下肢協調運動障害の指標とし、我々がこれまでに報告したPDにおけるクラスタ分類との異同について検討した。
【対象・方法】失調症患者13名(OPCA7名、DRPLA2名、MJD・SCAtype8・アルコール性失調症・不明各1名、男性7名、女性6名、平均年齢52.8±16.7歳)に対してSEを用いた40回転/分の左右独立アシストモードでの6分間の運動を行った。運動開始直後と運動終了直前を除く24データの全左右回転数より振幅変調の分散、位相差の平均と分散、左右回転速度間の単回帰直線の傾きの平均と分散の5指標を算出し、PDから得た5次クラスタ空間へ配置した。さらに各指標がクラスタ分類の適否に与える影響についてノンパラメトリック検定を行った。
【結果】クラスタ分類より、常に左右の振幅は一定し、180°の位相差を示す健常者群と同じ第1クラスタに12データが、90°の位相差を示す第2クラスタに2データが分類された。左右の位相差が0°から360°まで変動するクラスタ3、あるいは両側の振幅が同期し位相差が棘波状に不規則に変調するクラスタ4、などPDでは見られたクラスタに分類されたデータは存在しなかった。しかし、位相差の分散はPD群より大きい傾向が認められた(p<.006)。
【考察】位相差が特徴的に不規則に変化するが第3および第4クラスタに分類されるデータがPDでは存在するのに対して、失調症では存在しなかったことより、PDと失調症では運動の不安定となる原因が異なることを示唆している。さらにデータを増やし、失調症の協調運動障害の特徴を特定することが今後課題である。
【結語】失調症の協調運動障害はPDとは異なり、位相差が不規則に変化することはないが、位相差の分散が大きいことが特徴であることが示された。
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西原 賢, 久保田 章仁, 井上 和久, 田口 孝行, 丸岡 弘, 磯崎 弘司, 原 和彦, 藤縄 理, 江原 晧吉, 細田 多穂, 熊井 ...
セッションID: BO526
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】前回,筋疲労や筋疾患の評価を目的として,筋線維伝導速度(以下MFCV)の新しい算出法である正規化ピーク平均法を提案した。それは,(1)アレイ電極列から記録した基準筋電図と比較筋電図を計算機に保存(2)基準筋電図から閾値以上のピークを検出して一定な振幅に正規化し,その前後区間を含めて重ね合わせ平均(3)比較筋電図の同区間も平均(4)算出された基準平均パルスと比較平均パルスの時間遅れを調べる方法,であった。今回は複数の被験者から取り込んだ筋電図を用いて,この正規化ピーク平均法によるMFCV値と,現在最も一般的に用いられ信頼性も高い相互相関法(以下CCT)によるMFCV値を比較して両値の相関と大小関係を調べ,さらに CCTでは調べられないMFCV分布の算出可能性についても検討した。【対象と方法】28歳から53歳(41±7.7歳)の健常成人男性4名,女性3名に双極アレイ電極4対を左上腕二頭筋の神経筋接合部より1cm遠位部から末梢方向へ筋線維走行に沿って取り付けた。この際,電極が腱と充分離れていることを触診で確認した。肘屈曲30°,最大筋力の50%で等尺性肘屈曲運動を70秒間行った。筋電図データの処理方法は,まず,生体アンプで増幅した筋電図波形を4chの8,000 samples/secのサンプリングレートでAD変換し,計算機のハードディスクに保存した。次に,保存した筋電図を神経筋接合部に近い基準筋電図と遠い比較筋電図を1対にして5秒ずつ区切り,CCTと正規化ピーク平均法で基準筋電図と比較筋電図の時間遅れからMFCVを算出した。基準筋電図と比較筋電図の時間遅れを調べる方法として平均パルス波形のピーク時点の時間遅れを調べる方法(以下P-NPAT)と,平均パルス波形の相互相関を調べる方法(以下CC-NPAT)を用いた。基準筋電図と比較筋電図それぞれの平均パルス波形の時間幅を調べるために拡散率も算出した。【結果】P-NPATとCC-NPATによるMFCVはCCTによるMFCVと高い相関を示した。CCTによるMFCV と比べて,P-NPATによるMFCVは有意に高い値を示したが,CC-NPATによるMFCVは有意差がなかった。平均パルス波形の拡散率は1.11±0.08とほぼ一定な値を示した。【考察】正規化ピーク平均法によるMFCVは,CCTによるMFCVと相関が高く,CCTと同様にMFCVの算出に用いられると考えられる。平均パルス波形の相互相関であるCC-NPATと,筋電図の原波形のCCTであるCCTとの有意差がないことから,複雑な干渉波の原波形よりも単純化された平均パルス波形を用いることにより両波形の時間遅れの様子を確認できることが示唆された。P-NPATによるMFCVとCC-NPATによるMFCVの値の差と拡散率を調べることでMFCV分布の偏りと拡散の程度が推定でき,臨床応用が可能と考えられる。
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組織学及び電気生理学的所見からの検討
田村 将良, 水野 雅康, 塚越 卓, 谷本 正智, 磯山 明宏
セッションID: BO527
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【はじめに】 近年,末梢神経損傷に対する早期リハビリテーションアプローチとしては,二次的損傷の予防を目的とした電気刺激,装具の使用,他動的関節可動域訓練(以下p-ROMex.),マッサージなどが一般的に施行されている。しかし,いずれの手技においても直接神経再生に及ぼす効果について記載した文献は散見される程度である。そこで今回,演者らはp-ROMex.の末梢神経損傷後の神経再生に対する効果を検討する目的で,以下の研究を行ったので報告する。【対象と方法】 対象はWistar系雄ラット15匹(平均体重343.0±11.0g)とした。このうち5匹は健常群として扱い,残りの10匹は,ネンブタールにて腹腔内麻酔をした後,それぞれの右大腿部後面より坐骨神経を露出させそれを手術用持針器にて3分間圧挫し創を閉鎖した。その後,無作為に術後訓練群(訓練群)5匹,術後無処置群(無処置群)5匹に振り分けた。訓練内容は,術直後よりp-ROMex.を右膝関節に対し1セットfull range5回,1日昼・夕の2セットとし,週5日の頻度で4週間継続実施した。訓練終了後,3群共に再び坐骨神経を露出し,それぞれの坐骨神経の神経線維径とハムストリングスの筋線維径,さらにMizunoの方法によるハムストリングスにおける単一筋線維筋電図(SFEMG)の活動電位の振幅(AMP),潜時(LAT),持続時間(DUR)を測定し,比較検討を行った。【結果】 SFEMG所見の比較について,AMPでは無処置6.55mVに対し訓練群13.6mVと有意に増加(p<0.01)を認め健常群18.0mVに近い値を示した。LATでは無処置1.54msecに対し訓練群1.34msecと有意に短縮(p<0.01)を認め,健常群1.20msec に近い値を示した。DURでも同様に無処置群3.19msecに対し訓練群では2.40msecと有意に短縮(p<0.01)を認め,健常群2.05msecに近い値を示した。なお,坐骨神経・ハムストリングス組織の結果は,現在集計中であり,当日発表する予定である.【考察】 今回の結果から,無処置群に比べ訓練群では,AMPの増大,LAT・DURの短縮が認められ,より健常群に近い値となった。Hakanssonらによると,筋線維の活動電位の振幅はその筋線維径に比例するとされており,まだ筋線維径のデータは集計中であるが,AMPの増大は筋線維径の増大を推測させる。また,筋線維の伝導速度はDUR,神経・筋の伝導速度はLATに反映されていると考えられ,LAT・DURの短縮は神経・筋の伝導性の改善を推測させる。 一般的に,p-ROMex.の効果は,関節拘縮や筋萎縮,浮腫の予防,運動感覚の入力などが挙げられる。一方,今回の研究結果より,新たにp-ROMex.の効果として,脱神経筋に対する神経再支配を促通し,筋活動と神経伝導性の改善を来す可能性が示唆された。
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中野 治郎, 友利 幸之介, 沖田 実, 吉村 俊朗, 本村 政勝, 江口 勝美
セッションID: BO528
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】 慢性関節リウマチ(RA)患者の多くは、炎症による痛みのために身体活動が減少し、廃用性筋萎縮が頻発している。そのため、理学療法では炎症を抑えつつ、廃用性筋萎縮の進行を予防することが重要であるが、効果的な手段については明らかではない。一方、近年の先行研究では熱刺激が廃用性筋萎縮の予防に有効であることが報告されており、RA患者にも応用可能な手段と思われる。ただ、熱刺激が炎症の増悪や関節炎の進行を招く可能性も否定できない。そこで今回我々は、RAの実験モデルであるアジュバント関節炎ラットの後肢に対し熱刺激を負荷し、ヒラメ筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を検討するとともに、炎症や関節炎におよぼす影響を検討した。【材料と方法】 8週齢のLewis系雌ラットを1)対照群(C群)、2)熱刺激を負荷する群(H群)、3)アジュバント関節炎群(A群)、4)アジュバント関節炎に熱刺激を負荷する群(AH群)に振り分けた。A群、AH群には、起炎剤としてフロイント完全アジュバント(3ml)を皮下注射により投与し、関節炎を惹起させた。また、H群、AH群には起炎剤投与7日目から2週間、麻酔下で約42度の温水浴を後肢全体に負荷し、これを1日1時間、週5回の頻度で行った。実験期間中は、足関節の腫脹の程度を評価するため足部幅を測定し、起炎剤投与3週後に麻酔下で尾静脈から採血を行い、炎症の指標である血沈速度、血清シアル酸値を測定した。また、両側のヒラメ筋と足関節を採取し、筋は急速凍結の後に横断切片を作製、ルーチンATPase染色を施し、タイプI・II線維の筋線維直径を測定した。足関節は固定、脱灰後、パラフィン包埋し、その縦断切片をHE染色し、検鏡した。【結果】 1)足部幅:A群、AH群は、起炎剤投与10日目から急激に増大し、C群の約140%に達した時点でピークとなった。また、この2群の足部幅の推移、程度に有意差はなかった。2)血沈速度と血清シアル酸値:両指標ともA群、AH群はC群やH群より有意に増加していたが、A群とAH群に有意差は認められなかった。3)平均筋線維直径:タイプI・II線維ともA群、AH群はC群やH群より有意に小さかったが、A群とAH群を比較するとAH群は有意に大きかった。4)足関節組織:A群、AH群には、滑膜細胞や線維芽細胞の増殖、滑膜・腱周囲の浮腫が認められた。また、AH群の一部に骨破壊像が認められた。【考察】 今回の結果から、足部幅、血沈速度、血清シアル酸値はA群とAH群に有意差を認めず、平均筋線維直径はA群よりAH群が有意に大きかった。したがって、熱刺激による炎症の増悪はなく、廃用性筋萎縮の進行抑制効果も伺えた。しかし、AH群の一部には骨破壊像が認められ、熱刺激は関節炎の病態進行に悪影響を与える可能性が高い。そのため、今後は熱刺激の温度条件や刺激方法を再検討する必要があると考える。
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藤野 英己, 武田 功, 田崎 洋光, 近藤 浩代, 石田 寅夫, 上月 久治, 重藤 史行, 清岡 崇彦, 平松 修, 梶谷 文彦
セッションID: BO529
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【目的】骨格筋が萎縮すると筋を構成する筋線維や筋膜などに形態的な変化が現れ,機能低下が生じることが知られている.骨格筋に栄養素や酸素を供給する毛細血管(以下,CV)も種々の病態において,その重要性は明らかである.しかし,CVは非常に微小であることや特異的マーカーをもたないことから,通常の組織切片を用いた二次元的観察ではその同定が困難であり,CVに関する知見,特に骨格筋における知見の集積はいまだ極めて乏しい.そこで,共焦点レーザー顕微鏡を使用して,ラットヒラメ筋のCV構造を3次元に観察することを試み,筋萎縮の病態におけるCVの3次元構造の変化について解析をおこなった.【対象および方法】対象としてWistar系雄ラット(10週齢から12週齢)を使用した.Moreyの方法により非侵襲的に後肢を2週間懸垂し,筋萎縮を作成した(以下,HS).対照ラット(以下,CONT)とHSともに2週間の飼育後,pentobarbital sodium(50mg/kg,
i.p.)で麻酔し,開腹した.腹大動脈にカニューレを挿入して,ヘパリン溶液およびcontrast mediumを注入し,ヒラメ筋を摘出した.摘出筋は液体窒素で急速凍結をおこないクライオスタットにて縦断および横断面で200から250μmの切片を作成した.共焦点レーザー顕微鏡(Fluoview, Olympus)で,筋切片中50から100μmに存在するCVの3次元構造について解析をおこなった.また,同時に切片の透過像についても測定し,筋線維とCVの関係について検討した.測定したCVの3次元構造から,筋線維周囲のCV径(以下,CV径)およびCV面積(以下,CV面積),筋線維短径(以下,FD),筋線維に対するCV数(以下,C/F比)の計測をおこなった.【結果および考察】Moreyの後肢懸垂法により,ヒラメ筋の筋湿重量は減少し,FDはHSで48.2μmとなり,CONTの66.1μmと比較して低下した.HSにより骨格筋が萎縮し,筋線維の縮小化が生じたことが観察された.C/F比は CONT,HSともに6から8になり,両者の間の差は観察されなかった.CVの構造を解析すると,CV径はCONTで4.6μm,HSで6.0μmとなり,筋萎縮によりCV径が拡張していることが明らかとなった.CV面積はCONTで2507.1μm
2であったが,HSでは1418.4μm
2となり,筋線維周囲のCV面積が低下を示した.また,CV面積をFDから算出した筋線維面積で除した指数が,CONTおよびHSともに同じ傾向にあることから,筋線維の縮小に伴いCVも順応したものと考えられる.これらの結果から,筋萎縮により毛細血管も筋細胞に適応した構造に変化したものと示唆される.
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小峰 秀彦, 松川 寛二, 土持 裕胤, 村田 潤
セッションID: BO530
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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[目的]運動は様々なリハビリテーション場面や競技で行われ,理学療法と関わり深いものであるが,運動時の循環調節は解明されていない問題が数多く存在する.動脈血圧反射は動脈血圧を一定値に保つためのネガティブフィードバック機構であり,安静時に動脈血圧が上昇すると,この反射により心拍数は減少する.しかし,運動時には心拍数および動脈血圧は同時に上昇することが知られている.この事実は運動時の動脈血圧反射特性が変化していることを示唆するが詳細は明らかでない.我々は動脈血圧反射が運動中動的に変化し,特に運動開始時の動脈血圧反射は随意運動に伴って生じる高位中枢コマンドによって抑制され,心拍数と動脈血圧を同時に上昇させるという仮説を考えた.そこで動物を用いて動脈血圧反射の求心路の一つである大動脈神経に双極電極を埋め込み,自発運動中様々な時間経過でこれを一定電圧で刺激し,得られる反射応答の変化を調べた.この動脈血圧反射応答は中枢内の反射回路の特性を表しており,それが自発運動でどのような影響を受けるか検討した.[方法]実験に先立ち,ネコを訓練して20-40秒間の前肢によるレバー押し運動を習得させた.運動習得後,ハロセン麻酔下で左大動脈神経に双極電極を埋め込み,左頚動静脈にカテーテルを挿入した.手術から回復後,安静時,レバー押し運動中,および運動後に大動脈神経に埋め込んだ双極電極を一定電圧で刺激して人工的に血圧反射を誘発し,心拍数と動脈血圧の変化を記録した.特に高位中枢コマンドの影響を調べるために,活動筋からの求心性入力がない運動開始直前においても大動脈神経を刺激し,反射応答を調べた.[結果]安静時に大動脈神経を刺激すると血圧反射応答として徐脈と降圧が見られた.この徐脈応答は運動開始時に安静時応答の62 ± 4 %まで一時的に抑制された.徐脈応答の抑制はレバーを押す直前,およびレバーを押す前の前肢挙上直前でも見られた.運動後半の徐脈応答は有意ではないが抑制される傾向がみられた.運動終了時にレバーから上肢を戻す時再び強い徐脈応答の抑制が見られた.一方,大動脈神経刺激による降圧応答は運動による影響を受けなかった.[考察]以上の結果から,大動脈神経刺激で誘発される血圧反射性徐脈は,動的にかつ短い時間経過で運動中に変化することを明らかにした.特に,運動開始時の徐脈応答は活動筋からの求心性入力ではなく運動に伴って生じる高位中枢コマンドによって抑制されることを明らかにした.大動脈血圧受容器反射は血管運動と心律動を調節する経路に分かれ,高位中枢コマンドは血管運動を調節する経路は抑制せず,心律動を調節する経路を抑制することが示唆された.この大動脈受容反射の抑制が運動初期の心拍数上昇に関与すると考えられた.したがって運動時,特に運動開始時の循環調節には高位中枢が重要な役割を果たすと考えられる.
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石井 禎基, 黄 珍麗, 和足 孝之, 土屋 禎三
セッションID: BO531
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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[はじめに
]骨格筋の力学的性質は今まで単一筋線維を用いて詳しく調べられてきたが、神経-筋標本を用いた骨格筋の力学的性質についての詳細な研究は非常に少ない。そこで、われわれは神経-筋接合を介した骨格筋の収縮特性について研究を行っている。前回の大会において以下のことを報告した。まず、神経-筋接合部の刺激伝達には温度依存性があること、そして神経刺激において急速な伸長を標本に与えると単収縮張力増強現象が観察されたことを示した。本研究では、この筋伸長によって起こる単収縮張力増強現象が伸長の速度に依存するかどうかについて収縮張力を測定し検討した。
[対象と方法
]ダルマガエル(Rana brevipoda)より大腿二頭筋(m. iliofibularis)全筋の神経-筋標本を作成し、等尺性収縮張力を測定した。筋節長(自然長2.2μm)をHe-Neレーザーを用いて回折像を測定することにより確認した後、標本を実験装置に固定した。標本に神経刺激または直接刺激(刺激時間1ms)を与え張力を発生させ張力計を用いて張力測定を行った。筋に急速(ステップ時間5mS以下)な伸長および低速な伸長(ステップ時間10s)を与える場合は、サーボモーター(制御張力範囲0-120g)を用いて行った。実験はすべて4℃の温度条件下にて行い10sから15s間隔で単収縮を発生させた。神経刺激において張力が安定した後、急速な伸長および低速な伸長の2種類の伸長(筋長の約7%)を加えて、そのときに発生する張力を測定しその発生張力を比較した。なお、研究に際しては大学の「動物実験に関する指針」に従った。
[結果
]前回の結果では、神経刺激による単収縮張力は、高温(22℃)では直接刺激による張力とほとんど変わらないが、低温(4℃)では直接刺激による張力より著しく低下した。低温において神経刺激により連続単収縮を発生させ、急速な伸長を標本に与えると単収縮張力が増大し、いわゆる収縮増強現象が観察された。この現象は標本に与える伸長程度が大きくなるにつれて顕著になった。今回の結果では、神経刺激による単収縮張力において、急速な伸長と低速な伸長による発生張力の間には張力波形およびその大きさについてほとんど変化がなく、単収縮の立ち上がりから弛緩までの時間にも差はなかった。
[考察
]神経-筋接合部において興奮は、伝達物質であるアセチルコリンにより神経終末から筋終板部へ伝達される。前回の結果から、骨格筋においては伝達物質の分泌は温度に著しく影響を受け、温度が低下するにしたがい抑制されるが、これとは逆に筋の急速な伸長によりその分泌は促進されると考えられる。さらに、今回の結果より、この分泌は筋伸長の速度には関係なく、ただ筋伸長という物理的状態に置かれたときのみ引き起こされる現象であることが示唆された。
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榊間 春利, 吉田 義弘, 森本 典夫, 鈴木 秀作
セッションID: BP111
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】筋重量の減少は老化現象の一つである。さらに、筋線維数や断面積の減少、特にタイプII(速筋)線維が減少するという報告されている。今回、老化促進マウス(senescence-accelerated mouse: SAM)を使用しトレッドミル走行が下肢の抗重力筋であるヒラメ筋に及ぼす影響を組織化学的に検討した。【対象と方法】SAMP系統は、正常マウスに比べ比較的若齢期より活動性の低下、脱毛、脊椎前後彎の増強などを示し寿命が短い。今回の実験には雄のSAMP1を使用した。最初に、4、12、24、40、50、56週齢(各5匹)の両側下肢よりヒラメ筋を採取し、SAMヒラメ筋の加齢による変化を調べた。対象としてICRマウスの12、30、50、56週齢(各3匹)のヒラメ筋を採取した。さらに、運動による影響を調べるために、50週齢のSAMとICRマウス(各3匹)に6週間のトレッドミル走行を行い、6週後にヒラメ筋を採取した。運動強度は最初の1週間は10°の傾斜で10 m/min、10分2回行い、6週後には10°の傾斜で20 m/min、20分2回に徐々に強度を上げていった。採取したヒラメ筋は筋湿重量を測定後、凍結固定した。切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色、ATPase染色(pH10.3、4.3)、NADH-reductase 染色を行い、筋線維タイプ構成、筋線維タイプ別横断面積、異常な筋線維数を測定した。【結果】SAMヒラメ筋の筋湿重量は24週齢(36 mg)まで増加し、その後50週齢(37 mg)まで大きな変化は見られず、56週齢には29mgに減少した。SAMのタイプI線維の横断面積は24週齢まで有意に増加し、その後56週齢まで大きな変化は見られなかった。タイプII線維の横断面積も同様に増加したが、40週齢と比較して56週齢では有意に減少した。SAMヒラメ筋のタイプII線維の割合をATPase染色で調べると4週齢52%、12週齢44%、24週齢43%、40週齢42%、50週齢40%、56週齢36%であった。週齢による異常な筋線維数の変化は見られなかった。運動によりICRマウスの筋線維横断面積はタイプI、II線維ともに有意な増加が見られたが、SAMの筋線維横断面積にはタイプI、II線維ともに有意な増加は見られなかった。また、運動によるタイプII線維の割合に大きな変化は見られなかった。異常な筋線維数は運動群のSAMにおいて中心核線維やmoth-eaten fiberなどの異常な筋線維数が非運動群と比べ有意に増加していた。【考察】今回の結果より56週齢においてSAMヒラメ筋湿重量やタイプII線維の割合の減少、有意なタイプII線維の横断面積の減少が観察された。これはSAMのヒラメ筋において、加齢による変化が起きていると考えられた。また、トレッドミル走行により、ICRマウスのヒラメ筋では運動負荷に対する適応能力があり、筋線維の肥大が生じ、SAMでは運動負荷に対して適応が不十分であり、筋線維に障害を生じたと考えられた。今後、老化骨格筋に対する運動強度、頻度などの設定を検討する必要がある。
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岡本 眞須美, 中居 和代, 友利 幸之介, 豊田 紀香, 片岡 英樹, 中野 治郎, 沖田 実, 吉村 俊朗, 辻畑 光宏
セッションID: BP112
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
会議録・要旨集
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【目的】 ヒトの骨格筋の多くは遅筋・速筋線維が混在した混合筋であり、一つの筋内でも部位によって筋線維タイプの分布は異なっている。そのため、電気刺激によってすべての部位の各タイプの筋線維を肥大させるためには周波数の設定が重要と考えられる。一般に、低周波は遅筋線維の、高周波は速筋線維の筋線維肥大に有効とされているが、この見解は主に神経を直接刺激した結果に基づいており、経皮的に骨格筋を刺激した際の基礎データは不足している。また、臨床では一つの骨格筋に周波数を変えて刺激することは治療効率から考えても困難なことが多い。そこで、本研究では、すべての部位の各タイプの筋線維を効率よく肥大させる周波数を明らかにする目的で、その基礎実験として10Hzと50Hzの周波数での経皮的電気刺激によるラット前脛骨筋の筋線維肥大効果を筋内深度別、筋線維タイプ別に検討した。【材料と方法】 実験動物には、8週齢のWistar系雄ラット7匹を用い、麻酔下で右側前脛骨筋(以下、刺激側)に10Hz(n=4)と50Hz(n=3)の周波数で経皮的電気刺激を行った。具体的には、右側前脛骨筋の近位部と遠位部に位置する皮膚に表面電極を貼付した後、電気刺激装置トリオステム300を用い、パルス巾250μm、電流4mAで通電した。通電時間は1日30分間とし、週5回の頻度で、延べ2週間行った。なお、左側前脛骨筋には電気刺激は行わず、非刺激側とした。実験終了後は、麻酔下で両側前脛骨筋を摘出し、急速凍結させた後にその連続横断切片をH&E染色、ATPase染色(pH 4.2、4.5、10.5)した。そして、前脛骨筋を浅層と深層に区分し、各部位の筋線維直径をタイプ別に計測した。【結果】 前脛骨筋の筋線維タイプの分布状況は、浅層はタイプIIB線維のみで構成され、深層はタイプI、IIA、IIB線維が混在していた。タイプIIB線維の平均筋線維直径を非刺激側と刺激側で比較すると、10Hz、50Hzどちらも刺激側が増大しており、有意差を認めた。そして、この結果は、浅層、深層とも同様であった。しかし、深層のみに存在するタイプIIA・I線維の平均筋線維直径を非刺激側と刺激側で比較すると、10HzではタイプI線維のみに、50HzではタイプIIAのみに有意差を認め、刺激側が増大していた。【考察】 今回の結果から、経皮的電気刺激による筋線維肥大効果は、筋内深度の影響はなかったと考えられる。一方、刺激周波数の影響を見ると、10HzではタイプI・IIB線維に、50HzではタイプIIA・IIB線維に筋線維肥大効果を認めた。すなわち、神経を電気刺激した諸家の報告と同様に、経皮的電気刺激においても遅筋線維であるタイプI線維には低周波、速筋線維であるタイプII線維には高周波が有効と思われた。しかし、遅筋・速筋線維の中間型であるタイプIIA線維が10Hzの周波数で筋線維肥大を認めなかった要因は定かではなく、加えて、混合筋に含まれるすべてのタイプの筋線維を効率よく肥大させる周波数の設定は今後さらに検討が必要と考える。
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松本 路子, 松原 貴子, 田崎 洋光, 三木 明徳
セッションID: BP113
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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〔はじめに〕骨格筋の断裂,いわゆる肉離れは,理学療法の対象疾患の1つであるが,その修復・再生過程は十分に解明されておらず,治療法も確立されていない。骨格筋線維の壊死は一般的に局所的に生じ,その際に壊死と非壊死領域間に境界膜が形成されることが先行研究で報告されている。しかしながら,境界膜の形成に関する先行研究は非常に少なく,また臨床的な損傷原因とはかけ離れた薬物や冷却による損傷動物モデルが使用されている場合もある。そこで本研究では,より臨床的な骨格筋裂傷動物モデルとして骨格筋線維を切断し,断端付近に起こる形態的変化を光学・電子顕微鏡を用いて経時的に観察した。〔材料と方法〕10-11週齢のddy系雄マウス18匹を用い,ネンブタールを腹腔内に投与して麻酔し,左下腿前外側部を剃毛した後,皮膚に縦切開を加えて前脛骨筋を露出し,脛骨粗面の遠位4mmでカミソリ刃を用いて横切断した。横切断は,前脛骨筋のほぼ全幅,約2/3の深さにわたって行った。筋切断後ただちに4-0シルク糸で皮膚を2針で縫合した。筋切断から1,3,6,12時間,1,2,3,5,7日後に各2匹ずつマウスを麻酔し,4%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドの混液で灌流固定し,左前脛骨筋を取り出して,さらに24時間浸漬固定した。その後,切断付近を細切して,1%四酸化オスミウムで後固定,アルコール系列による脱水を経て,エポキシ系樹脂に包埋した。準薄切片を作製し,1%トルイジンブルーで染色して光学顕微鏡で観察した。また,同部位を電子顕微鏡で観察した。〔結果〕(1)光学顕微鏡学的観察:1時間後,筋線維の空胞化は観察されたが,明白な壊死領域は観察されなかった。3時間後,筋線維は壊死領域を有し,一部の筋線維では非壊死領域との分離,あるいは境界が観察された。6時間後では,多数の筋線維において,壊死と非壊死領域の分離,境界が観察された。(2)電子顕微鏡学的観察:3時間後から壊死領域と筋フィラメントが残存している非壊死領域の間に,球形のミトコンドリアが多数集積していた。さらに,ミトコンドリア集積部と非壊死領域との境界の一部では,膨化した筋小胞体が複数観察された。また,壊死領域と非壊死領域の境界部に,すでに細胞膜が形成されている筋線維も観察された。〔考察〕損傷された骨格筋では断端付近のアクチン・ミオシン細糸は消失し,代わって多数のミトコンドリアが集積してくる。これは損傷部を最小限にとどめようとする防御反応である可能性がある。また,ミトコンドリア集積部とアクチン・ミオシン細糸の間に境界膜が形成されるようであり,これは筋小胞体に由来する可能性がある。
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椿 淳裕, 田中 正二, 立野 勝彦
セッションID: BP114
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】部分脱神経筋には残存神経からの側副発芽が生じるが,この発芽を生じた残存神経が運動負荷の有無によりどのように変化するのか一定した見解が得られていない.今回,ラットの第5腰髄神経根を切断し部分脱神経を生じさせ,後肢懸垂することによって無荷重としたときの脛骨神経の変化を明らかにすることを目的として研究を行った.【対象】実験材料には12週齡のウィスター系雌ラット15匹を用いた.これらを第5腰髄神経根を切断した群(DEN)と第5腰髄神経根を切断したのち後肢懸垂した群(DEN+SUS)とに分けた.DEN群,DEN+SUS群はそれぞれ6匹,9匹であった.【方法】手術操作は腹臥位にて行った.麻酔の後腰部より侵入し,右第5腰椎横突起を露出し切除した.第5腰髄神経根を同定し,ナイロン糸で結紮した後,結紮部より末梢でこれを切断した.DEN群は通常の飼育を行い,DEN+SUS群は手術後ジャケットを装着させ,後肢懸垂を行った.いずれも餌および水の摂取は自由とした.両群ともに2週間後に右の脛骨神経を標本として採取した.採取した神経は直ちに25%グルタールアルデヒド溶液中で固定し,さらに4%オスミウム酸溶液中で後固定した後,パラフィンで包埋した.観察しやすくするため,さらにズダン黒B染色を施した.神経組織は光学顕微鏡で観察し,コンピュータ上で髄鞘内横断面積を測定した.【結果】両群ともに変性を起こした神経に混じって,神経線維が残存していた.これらの神経の髄鞘内横断面積は,DEN群では16.5±12.1(平均値±標準偏差)μm
2であり,DEN+SUS群では10.0±9.3μm
2であった.またヒストグラムを作成すると,DEN+SUS群は左方へ偏位していた.【考察】側副発芽によって筋が再支配を受けるとき,1本の運動ニューロンとその支配筋線維群である運動単位は通常の4倍から7倍となる.しかし後肢を懸垂した場合,運動負荷が著しく減少するため,神経線維に対しても負荷が減少し,残存神経の髄鞘内横断面積の減少あるいは分布の左方への偏位としてあらわれたと考えられる.また廃用性筋萎縮によって生じる,軸索流によるタンパク質の移動の変化もこれに関与していると推察される.今後は筋との相互作用あるいは経時的な変化についても検討していく必要がある.
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宮下 崇, 弓削 類, 大久保 敦子, 元安 左矢加, 雲野 康紀, 浜本 しのぶ, 浦辺 幸夫
セッションID: BP115
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】筋萎縮に対する電気刺激療法は,整形外科疾患,スポーツ理学療法等の臨床現場で一般に使用されている。しかし,この電気刺激療法の効果に関する細胞レベルでの研究報告は少ない。そこで本研究では,培養筋芽細胞に電気刺激を行い,筋芽細胞の分化の経時的変化を形態学的,分子生物学的に検討した。【材料と方法】培養細胞は,ラット骨格筋由来の筋芽細胞株L6を用い,正常培養した対照群と,電気刺激を行った電気刺激群の二群に分け,培養開始24時間後から3週後まで経時的に検討した。電気刺激条件は,矩形波,刺激頻度0.5 pulse /sec,持続時間2 msec,電圧50 V,刺激時間5 分/日行った。培養開始6日後でコンフルーエント(細胞が培養皿いっぱいに密になった状態)に達した時点(set 0)から,1,3,5,7日後に電気刺激を行い,その後は刺激を施行せず培養を行った。電気刺激による筋芽細胞の分化の程度を,形態学的観察,単位面積当たりの筋管細胞の発生数,western blot法によるmyogeninタンパク質の発現等を用いて解析した(培養開始1,3,5,7,10,12,14,18,21日後)。なお筋管細胞数の統計検定には,一元配置分散分析を用いた。【結果】(1) 形態学的変化:7日後以降,電気刺激群では,対照群よりも太い筋管細胞が認められた。さらに17日後では,電気刺激群でのみ筋管細胞の自動収縮が観察された。(2) 単位面積あたりの筋管細胞数:10日後(電気刺激後4日目)及び12日後(電気刺激後7日目)で,電気刺激群の筋管細胞数が増加した(P<0.02)。(3) western blot法:対照群では7日後にmyogeninの発現がピークに達し,その後は徐々に発現が弱まった。電気刺激群では,対照群と同様に7日後に発現のピークに達し,10日,12日後も強い発現を保ちその後減少した。【考察】myogeninの発現は,両群とも7日後にピークを迎え,電気刺激群では10日,12日後とその発現を維持していた。そして,培養開始10日後(電気刺激後4日目)と12日後(電気刺激後7日目)で電気刺激群の筋管細胞数が増加した。myogeninは,筋特異的転写調節因子であるMyoDファミリーの1つで,筋管細胞への分化を調整するタンパク質であり,外界からの電気刺激によってmyogeninの発現が活性化され,筋芽細胞から筋管細胞への分化が促進したものと考えられる。また,筋管細胞の成長過程においてmyogeninは,筋の機能を果たすために必要なタンパク質を合成蓄積していく役割の一端を担っており,その関与が示唆されているものに,リアノジン受容体やCa
2+ ポンプなどの筋小胞体遺伝子の転写の調節,アセチルコリン受容体サブユニットの発現等がある。このような筋の機能性にもあずかるmyogeninの発現が増加したことで,本来ならば収縮の起こらないL6が収縮能を備えた筋管細胞へ分化した可能性が示された。
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高速液体クロマトグラフィーによる検討
中 徹, 秋山 純一, 中嶋 正明
セッションID: BP116
発行日: 2003年
公開日: 2004/03/19
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【はじめに】 ヒアルロン酸(HA)は結合組織における細胞間物質に分布する酸性ムコ多糖類であり、結合組織の弾粘性に関わっているとされている。HAはその分子構造から種々の分子量ものが種々の組織に存在しているが、高分子のものほど組織に弾粘性を付与する性質が高いとされている。これまで、関節液中HAは分子量の分布は報告されているが筋結合組織中HAの分子量分布は報告されていない。今回、ラットを用いて実験的に足関節不動化により作製した萎縮筋組織中HAを高速液体クロマトグラフィーにより分析し検討した。【対象と方法】 10週齢雄Wistar系ラット6匹を使用し、足関節底屈位固定群3匹(G群)および対照群3匹(C群)とした。G群は麻酔下にて片側の後肢足関節を底屈位でギプス固定し、ヒラメ筋を短縮位固定し後肢懸垂により飼育した。C群には麻酔処理のみを行った。2週間後に麻酔下でヒラメ筋を摘出し、筋組織を筋腹中央部より切り出し0.1MpH7.4リン酸緩衝液中にてHAを抽出して試料とした。各試料を前処理濾過し高速液体クロマトグラフィー(日立L-7000シリーズ、以下HPLC)により分析した。HPLC測定条件は高分子分析用のカラムOHpak SB-806M HQ(昭和電工)をカラム温度40℃で用い、移動相は0.1M硝酸ナトリウムとし検出器には示差屈折計 (日立L-7490)を用いた。なお、分子量マーカにはプルラン(昭和電工)、標準HAはヒト臍帯由来の精製品(ナカライテスク)を用いた。また別に、筋組織中のHA含有量をELISA法により定量した。【結 果】 分子量はピーク(分布%)で示すと、C群では約1.9万(15%)、約3.1万(39%)、約4.3万(46%)であったが、G群では約1.9万(14%)、約3.1万(37%)、約4.3万(48%)、約9.3万(1%)で前者の3つのピークは共通していた。一方、HA酸含有量ではG群86.68±13.15ng/mg、C群103.48±8.43ng/mgとG群で減少していた。【考 察】 検出されたピークの全てがHAと厳密に同定はできないが、高分子の糖類を分離できるカラムを用いた高分離能のHPLCという今回の方法と標準HAのピーク、およびHAが多様な分子量で存在することを考えると、ピークは全てHA、またはHAと他のムコ多糖類と考えるのが適当である。ピークが全てHAであると仮定すると、短縮位で不動におかれ生じた萎縮筋では、何らかの原因でHA含有量が減少するという中でも高分子のHA存在率が増加してしまい、そのことによって筋膜の粘性が高まり筋の伸張性が低下するというメカニズムが考えられる。この考察は短縮位で不動におかれたことによって生ずる萎縮筋の伸張性が低いという臨床的経験を生化学的に説明することを可能にしている。今後はHPLCにより筋膜中のHAを始めとしたムコ多糖類を厳密に同定し、分子量分布を検索し筋の伸張性との関連を検討することが求められる。
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