理学療法学Supplement
Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
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運動学
  • 水中免荷歩行との比較
    尼岸 正行, 黒木 裕士, 中村 哲治, 長澤 明子, 森永 敏博
    セッションID: CP658
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】我々は空気圧を利用して部分荷重できる加圧式免荷トレッドミル装置を開発している.今回,この歩行と水中トレッドミル歩行との違いを検討することを目的として、歩行中の酸素摂取量および心拍数を測定して文献との比較を行った。【対象】呼吸循環器系に異常のない健常成人8名(平均年齢26.3±2.5歳、平均身長164.9±5.4cm、平均体重59.6±7.5kg)を被験者とした。被験者には十分な説明の上同意を得た。【方法】同一被験者に対して加圧式免荷トレッドミル装置を用いて、免荷なし(全荷重)・体重の50%免荷・体重の70%免荷(30%部分荷重)のそれぞれで歩行を実施し、前野らによって報告されている水中トレッドミル歩行での結果と比較した。プロトコルは前野の方法と同様に、速度を3km/hから開始し2分毎に6km/h、9km/hと上げ、9km/hの一定速度を11分間とした。酸素摂取量の測定には呼気ガス装置(ミナト製AE-280)を、心拍数の測定には心拍数測定装置(ミナト製EBP-300)を用いた。実測値/(220-年齢)×100を算出して%最大心拍数とした。比較にはt検定を用いた。【結果】酸素摂取量は、50%免荷では開始2分では11.8±1.5ml/min/kgであり,2分以降すべてにおいて報告した水中歩行より有意に低かった(p<0.05)。また70%免荷では開始3分では14.0±2.05ml/min/kgであり,同様に3分以降は有意に低かった(p<0.05)。%最大心拍数は、50%免荷では開始3分では55.0±3.6%であり、70%免荷では開始5分では59.0±5.9%であった。いずれもそれ以降プロトコル終了まで、水中歩行より有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】今回の実験から、同一プロトコルで加圧式トレッドミル歩行を行うと呼吸循環器系への影響は水中よりも少ないことが示唆された。これは、この歩行では、水の運動抵抗は受けないので下肢を前方へ振り出すための筋活動はほとんど生じないことや、空気圧によって骨盤帯が固定されて体幹が安定しバランス保持のための上肢筋活動がほとんど生じないことなどが原因であると推察される。酸素摂取量と%最大心拍数が有意に低いことから、本装置は下肢疾患に対する部分荷重歩行以外にも、呼吸循環器系への負荷を軽減しながら歩行する目的で使用し得ると考えられる。患者における測定は今後の課題である。
  • 森岡 彩, 間部 千加恵, 森岡 周, 宮本 省三
    セッションID: CP659
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】 我々は第37回本学会にて,バランス機能において視覚と体性感覚フィードバックを与え,両側性転移が起こるかを検討した。その結果,運動転移に対する体性感覚の重要性が示唆された。しかし,KR付与において条件設定を行っておらず,このことは少なからず学習に影響を及ぼす可能性が考えられた。今回は,KRの付与のデザインを設定し前回の結果と比較検討した。 【方法】 健常女性12名を被験者とした。 課題は,被験者の軸足を支持脚とし,対側の非支持脚下にボールと体重計を設置した片脚立位保持とした。この時,非支持脚の荷重量を体重の10%に設定し閉眼にて課題肢位をとらせた。被験者をトレーニングI群(I群)6名,トレーニングII群(II群)6名に分け,2人1組にて課題を1日10秒×10回,4週間行った。なお,I群では10秒間の課題遂行の際,パートナーが言語的フィードバックを与えそれを保持することを目標としたものである。II群では10秒間の課題遂行時, パートナーからのフィードバックは与えず3秒間のKR遅延,5秒間のKR付与,5秒間のKR後遅延の計13秒の試行間間隔を設定し,これを1セットとした。また,KR付与は直接体重計を見せ,体重の10%を確認させた。また,学習効果の持続を確認するため訓練終了から4週後に保持テストを実施した。 効果は,トレーニング前後,4週後に左右片脚立位時の重心動揺測定(各10秒間)により判定した。なお,測定は開眼,閉眼両条件で行い,パラメータは総軌跡長,矩形面積とした。トレーニング前の値を基準として減少率を算出し,トレーニング前後の比較を行った。またトレーニング後と保持テストの値を比較し,学習保持の程度を確認した。統計処理は対応のあるT-testを用いた。 【結果】 1)トレーニング前後での減少率の比較:I群とII群を比較すると, 閉眼時の支持脚,非支持脚片脚立位の総軌跡長(p<O.01), 矩形面積(p<O.05)両者ともにI群の有意な減少が認められた。開眼時の支持脚片脚立位の矩形面積ではII群の有意な減少が認められた(p<O.05)。 2)トレーニング後と保持テストの比較:両群共にすべての項目で有意差は認められず,ある程度学習が保持されていると考えられた。しかし,II群においてはトレーニング後より保持テストの重心動揺の方が減少しており,通常の運動学習のパターンと異なる結果となった。 【考察】 結果では4週間のトレーニングでI群で支持脚,非支持脚片脚立位時において重心動揺は減少し両側性運動転移が認められた。しかし同様にII群でも閉眼にて課題を遂行することで体性感覚フィードバックを利用したにもかかわらず両側性転移は認められなかった。この結果は視覚情報に基づくKR付与がパフォーマンスの向上を阻害した可能性が示唆された。
  • 若年者と高齢者の比較
    藤井 菜穂子, 河原 育美, 小竹 康一, 矢野 桂子, 横小路 吉美
    セッションID: CP660
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    (はじめに)最大歩行は、運動能力を把握する一つの評価として臨床的にも用いられている。今回我々は、最大歩行におけるその速度や歩幅などをはじめとする歩行の時間、空間因子が健常な若年者と高齢者でどのような相違があるか検討した。また、最大歩行に影響を及ぼすと推察される因子として動的バランス能力を取り上げ、両群でそれらがどのように関与しているかについて検討したのでここに報告する。(対象)対象は若年者と高齢者の2群とした。若年者群は健常成人18名(男性9名、女性9名)、平均年齢21.2±2.1 歳 平均身長166.0±7.5cm 平均体重61.3±9.2kgであった。高齢者群は特にADL上支障なく屋外活動も可能な健常高齢者22名(男性16名、女性6名)で、平均年齢69.4±3.4歳、平均身長159.9±8.7cm 平均体重63.1±10.0kgであった。実験に際し被験者の同意を得て実験を行った。(方法)最大歩行の計測:被験者は踵部にインクを染ませたフェルトを取り付けた指定の運動靴を着用した。その後被験者は、前後に助走部を設けた10mのロール紙上の歩行路を最大速度にて歩行を行った。その所要時間をストップウオッチにて計測し、また、ロール紙上のインクの痕跡から10m歩行中の歩幅の平均値を算出した。 動的バランス能力の計測:被験者は重心動揺計上に閉眼閉脚で立位し前後左右にできるだけシフトするクロステストを行った。パラメータとして矩形面積を算出した。(結果)歩行速度、歩幅について2群を比較したところ、いずれも高齢者群で若年者群より有意に低値を示したp<0.01)。歩幅は、高齢者群で79.0±8.3cm、若年者群では95.0±9.0cmであった。また、2群において、歩幅を従属変数、身長、体重、矩形面積を独立変数とした逐次重回帰分析を行ったところ、高齢者群では、有意な因子として身長と矩形面積が抽出された。その重回帰式は、歩幅=-2.859+.483×(身長)+.059×(矩形面積) (r2=.56、F=11.97、p<0.01)であった。式全体の寄与率は55.8%であり、そのうち身長の寄与率は30.5%、矩形面積のそれは25.3%であった。若年者群では、身長のみが有意な因子として抽出され、重回帰式は、歩幅=-30.241+.753×(身長) (r2=.40、F=10.56、p<0.01)であった。(考察)最大歩行時の歩幅において、若年者群では身長が大きく関与し、高齢者群では身長と矩形面積が同程度に影響を及ぼしていることが確認された。このことは、高齢者群では、身長のみならず、高い動的バランス能力を有することが歩幅の延長を生み出すことにつながっていることを示唆している。今後、動的バランス能力に関与するものとして足指筋力などからの検討も必要と考えられる。
  • 健常者と高齢者の知覚システム機能について
    鎌田 理之, 松尾 善美, 井上 悟, 米田 稔彦, 篠原 英記
    セッションID: CP661
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】前回の報告では、若年女性を対象に段の高さという環境特性を下肢長という身体特性で割った比率πが‘昇り’のアフォーダンスを特定する情報のひとつとして知覚されることを示した。πは知覚システムにより選択され、昇段動作制御にとって昇ることができるという意味を示し、かつ実際に昇ることができるという価値を有する情報として知覚されると考えられる。本研究は昇段動作を課題とし、πをもとに高齢者と若年者の知覚システムを比較することを目的とした。【対象と方法】対象は健常成人女性53名(22.7±3.2歳)、 健常高齢女性48名(71.5±6.0歳)とし、下肢長、昇段知覚最大高(台に昇ることができると答えた最大の高さ)、昇段動作最大高(実際に昇段可能な最大の高さ)を測定した。昇段知覚最大高を下肢長で割った値をπPとし、昇段動作最大高を下肢長で割った値をπAとした。また、昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値の正負を調べた。πPの高齢、若年群の比較にはunpaired Student-t test、各群のπP、πAの比較にはpaired Student- t testを行い、有意水準は5%未満とした。また、昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値の正負の割合を2群で比較するため、Fisherの直接確率計算法を用いた。【結果】πPの2群間比較では、πPは若年群で0.85、高齢群で0.86となり両群で差を認めなかった。若年群のπPとπA の比較では、πPは0.85、πAは0.93となりπPがπAよりも有意に小さくなった。高齢群のπPとπA の比較では、πPは0.86、πAは0.68となり若年群とは逆にπPがπAよりも有意に大きくなった。昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値は、若年群では44名が正、9名が負の値を取り、高齢群では6名が正、42名が負の値を取った。Fisherの直接確率計算法ではp<0.01となり、若年群に比べ高齢群で有意に負の値を取る割合が大きくなった。【考察】πPの群間比較により、若年女性と高齢女性では、昇ることができるという意味を知覚する情報には差がないことが判明した。πPはπAを若年群では下回り、高齢群では上回った。また昇段動作最大高から昇段知覚最大高を引いた値は、若年群より高齢群で負の値をとる割合が大きかった。πPがπA、昇段知覚最大高が昇段動作最大高を上回ることは、できると知覚した動作が実際には遂行できない可能性を示している。以上より若年女性では昇段動作制御において知覚システムが価値ある情報を選択しており、高齢女性では知覚システムの機能が低下している可能性が示唆された。
  • 地域在住の中高年者を対象とした検討
    岡藤 直子, 加藤 仁志, 三上 晃生, 大渕 修一, 清水 忍
    セッションID: CP662
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】歩行中に不意の外乱刺激を与えることができる両側分離型トレッドミルを用いて、転倒に対する耐容能と下肢筋力の関係について検討した。【対象】K大学市民講座に出席した地域在住の中高年者のうち。除外基準に該当せず、研究に対する同意を得られた25名(年齢65.9±4.5歳、男性14名、女性11名)を対象とした。【方法】使用機器は両側分離型トレッドミル(PW-21:日立製作所)、ハーネス(アンウェイシステム:BIODEX社)、筋力測定機器(MYORET RZ-450、川崎重工社製)であった。被験者はハーネスを装着し、両側分離型トレッドミル上で手すりにつかまらずに前方を注視して歩行した。転倒と判断された場合(手すりにつかまる、両側分離型トレッドミルの安全装置が作動する)は測定を終了し、転倒に対する耐容能力をレベル判定した。外乱刺激は歩行中左立脚期に対し、左のベルトを急速に500msecの間停止させ、その後元の速度に戻すというものを3回ずつ任意に与えた。 下肢筋力は、MYORETを用いて膝関節屈曲・伸展、足関節底屈・背屈についてそれぞれ等尺性筋力および角速度60deg/sec、120deg/sec、240deg/secを測定した。統計解析はSpearmanの相関係数を用いて有意水準は5%とした。【結果】転倒レベルとの相関が認められた筋力は、等尺性膝関節伸展筋力(r=0.401、p<0.05)、および角速度が240deg/secでの足関節背屈筋力(r=0.441、p<0.05)、足関節底屈筋力(r=0.522、p<0.01)であった。【考察】我々は、転倒と下肢筋力の関係を明らかにすることを目的に歩行時の外乱刺激に対する耐容能と下肢の等速度筋力を調べた。その結果、転倒に対する耐容能力が高いものほど下肢筋力が高い傾向が認められ、特に足関節の高速度の筋力との相関が有意に高かった。 この転倒刺激に対する回避反応は、足関節を中心として起こると報告されており(酒井ら、2002)、足関節の早い反応は転倒回避のために重要であると考えられ、我々の結果と一致する。一方、膝関節では等尺性筋力に有意にな相関が認められているが、転倒刺激が加えられた時期は膝の完全伸展期に当たり、等尺性収縮によって膝折れを防いでいるものと考えられ、足関節と膝関節ではその役割が異なることが示唆される。 転倒予防のトレーニングとして太極拳が有効であると報告されているが、太極拳の動きは緩やかであり、さらに大きな効果を上げるためには、特に足関節周りの早い運動のトレーニングを加える必要があるのではないかと示唆された。
  • 地域在住中高年者を対象とした検討
    加藤 仁志, 三上 晃生, 岡藤 直子, 大渕 修一, 柴 喜崇, 酒井 美園, 上出 直人
    セッションID: CP663
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】  転倒を再現し,転倒に対する耐容能力と姿勢制御,特に筋の反応について検討することを目的とした.【対象】  K県S市およびZ市市民大学に出席した地域在住の中高年者のうち,研究に対する同意を得られた23名(年齢66.0±5.0歳,男性12名,女性11名)を対象とした.【方法】  転倒は左右の歩行ベルトが分離したトレッドミル(以下,両側分離型トレッドミル,PW-21:日立製作所)を用いて片側のベルトを急激に停止させることで再現した.転倒の定義は両側分離型トレッドミルの手すりに掴まった場合,トレッドミルの安全装置が作動して両側分離型トレッドミルが停止した場合,ハーネスに体重が15kg以上かかった場合とした.2km/hから歩行を開始し,3回の外乱刺激にて転倒しなかった場合は3km/h,4km/h,5km/hと速度を上げていき,3回の外乱刺激のうち1回でも転倒した場合はその場で測定を終了とした.2km/hで歩行不可能であった場合をレベル1,2km/hから5km/hで転倒した場合をそれぞれレベル2からレベル5,5km/hでも転倒しなかった場合をレベル6と段階づけた.対象にハーネスを装着し,両側分離型トレッドミル上を歩行させ,左立脚相に対して500msecの間ベルトを停止させる外乱刺激を任意に3回ずつ与えた.歩行中に左側の腹直筋,脊柱起立筋,内側広筋,大腿二頭筋および両側の前脛骨筋,腓腹筋の表面筋電図をサンプリング周波数1000Hzにて測定した.また荷重センサー式フットスイッチを左踵部に貼り付けた.外乱刺激,筋電計,フットスイッチのデータは同期してパーソナルコンピュータに取り込んだ.筋電図は2km/h歩行時のものを全波整流し,筋の潜時および外乱刺激前後の筋活動パターンをレベル3とレベル5の間で比較検討した.【結果】  レベル1は0名,レベル2は3名,レベル3は5名,レベル4は5名,レベル5は6名,レベル6は4名であった.レベル3と5の間の2km/h歩行時の外乱刺激に対する筋反応の潜時には特異的な傾向は認められなかったが,レベル5はレベル3と比べて,刺激側・非刺激側ともに伸筋群の活動による屈筋群の相反抑制が起こる傾向にあった.【考察】  外乱刺激に対する姿勢制御反応を筋の潜時から比較すると,転倒回避能力の高い者と低い者の間で差が認められなかったが,伸筋群の活動に対する屈筋群の相反抑制という観点から比較すると,転倒回避能力が高い者では前脛骨筋の活動中に下腿三頭筋の相反抑制がみられているものの,低い者では前脛骨筋と下腿三頭筋の同時収縮がみられ,しなやかな転倒回避反応を阻害していることが示唆された.
  • 相馬 正之, 吉村 茂和, 寺澤 泉
    セッションID: CP664
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】転倒の原因は内的要因と外的要因に分けることができる。地域や在宅高齢者の転倒発生率はおよそ20%であり、主に歩行中に起こると報告されている。歩行時における転倒の原因の1つにつまずきが挙げられ、このことから最小拇趾・床間距離などの内的要因が影響していることが考えられる。今回我々は、高齢者のつまずきに対するアンケート調査を実施した。アンケート結果から非つまずき群とつまずき群に分類し、両群の基本的歩行データおよび最小拇趾・床間距離との関係について検討したので報告する。【対象および方法】対象は高齢者15名(平均66歳)、アンケートの質問項目は_丸1_最近(1ヵ月)のつまずきの有無、_丸2_つまずき予防で気をつけていること、_丸1_で有と答えた人に対して_丸3_つまずきによる転倒の有無_丸4_つまずき時の状況の4項目である。最小拇趾・床間距離を測定するため、被検者に安静立位にて赤外線発光ダイオード(以下、LED)から床までの垂直距離とLEDから拇趾先端までの距離が等しくなるようにLEDを左下肢拇趾背側皮膚上に貼付した。これにより、拇趾背側皮膚上のLEDを中心とする半径の円周上に拇趾先端や足底があるため、計測肢のswing時に拇趾がどの位置にあっても、安静時立位の拇趾背側皮膚上のLED高を差し引くことより求められる。運動課題は被検者自身の快適歩行とした。床反力計の上で数回の歩行練習を行った後、歩行開始4歩目のつま先離れから踵接地までの遊脚相について10回計測を行った。測定項目は歩行速度などの基本的データと最小拇趾・床間距離などとした。使用器具は大型床反力計と三次元動作解析装置で行なった。統計処理は、10回施行の平均を代表値として対応のないt検定を用いた。【結果】アンケート結果から、非つまずき群10名、つまずき群5名となり、つまずき群においても転倒体験がなかった。つまずき時の状況は、平地歩行中2名、段差1名、階段昇降時2名であった。つまずき予防は6名(つまずき群4名、非つまずき群2名)が何らかに気をつけていた。その予防対策は、階段昇降時や疲れている時に意識して足を高く上げるなどであった。非つまずき群とつまずき群間で基本的データの値は、有意差が認められなかった。最小拇趾・床間距離は、非つまずき群が1.55±0.3cm、つまずき群が1.46±0.4cmであり、有意差が認められなかった(p>0.05)。【考察】今回の結果から、高齢者15名のうち3割弱がつまずき体験があり、つまずき体験のある人は何らかのつまずき予防対策をしている傾向があることが明らかになった。つまずきと最小拇趾・床間距離の関係では、つまずき群における最小拇趾・床間距離の低下は認めらなかったことから、最小拇趾・床間距離はつまずきに直接的な影響を与えるのではなく、間接的に他の要因と複合的に重なることでつまずきが起こる可能性が考えられた。
  • 柴 喜崇, 大渕 修一, 酒井 美園, 色川 亜美, 渡辺 修一郎, 柴田 博
    セッションID: CP665
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【研究背景及び目的】  静的バランス機能と動的バランス機能は独立している(Owing TM, 2000)。静的バランス機能に特異的なトレーニングとして姿勢を保持するトレーニングがある。しかし、動的バランス機能、特に歩行時の動的バランス機能に特異的なトレーニング方法は明らかにされていない。臨床においては、歩行障害に対して近監視及び介助歩行が行われているが、これが動的バランス機能に特異的なトレーニングであるかは明らかでない。近年、体幹をハーネスで釣り下げ、トレッドミル上を歩行する、トレッドミル免荷歩行(PBWST)トレーニングが開発された。脳血管障害者においては効果が明らかである点から(Visintin M, 1998)、本トレーニングが歩行時の動的バランス機能に影響を与えていることが推測される。本研究の目的は、地域在住健常高齢者を対象に免荷有無における動的バランス機能を、歩行時に左右2つのベルトの速度を変えられ、外乱刺激を与えることが可能な装置(以下、両側分離型トレッドミル)を用いて調べることである。【参加者】  整形外科疾患、神経疾患がなく研究に同意が得られた、相模原市在健常高齢者30名(男性13名、女性17名、年齢69.3±0.74歳)である。【方法】  両側分離型トレッドミルの左側ベルトのみ速度を急激に減速させて外乱刺激を身体に加える。動的バランス機能は、外乱刺激から各筋の筋活動開始までの潜時・骨盤加速度最大値までの時間をもとに判断する(上出, 2002)。第2仙骨部に3軸加速度計、両側の前脛骨筋・腓腹筋に表面電極、踵部にフット・スイッチを貼り付けた。免荷の有(10%, 20%)無(0%)の3種類で、各々3分間実施し、後半2分間に任意な外乱刺激を5回与えた。【観測変数】  1)外乱刺激側・非刺激即各々の外乱刺激から筋活動が開始するまでの潜時(msec)。2)外乱刺激から左右・前後方向最大加速度(G)及び最大加速度に至るまでに要する時間(msec)。【結果】  前脛骨筋の潜時は免荷なし(0%)、免荷あり(10%, 20%)の3群間に差はなかった(n.s.)。骨盤加速度が最大値に至るまでの時間でも3群間に差はみられなかった(n.s.)。骨盤左右加速度範囲、前後加速度範囲は免荷なし(0%)群が、免荷あり(10%, 20%)群に比べて有意に高値を示した(P<0.05)。【考察】  免荷有無の比較において、外乱刺激側・非外乱刺激側共に前脛骨筋潜時に差はみられなかった。さらに骨盤加速度が最大値に至るまでの時間においても差がなかった。免荷の有無にかかわらず筋活動反応に違いはなかったといえる。骨盤加速度範囲においては、免荷なし(0%)群が、免荷あり(10%, 20%)群に比べて高値であった。脳血管障害者においては免荷歩行トレーニングが歩行能力の改善に効果があることが明らかな点から(Visintin M, 1998)、PBWSTトレーニングは、身体重心に加わる力を低値で制御可能な歩行トレーニングであるといえる。
骨・関節疾患(整形外科疾患)
  • 石川 理佳, 江口 壽榮夫, 河村 顕治, 日高 正巳, 齋藤 圭介, 小幡 太志, 佐藤 三矢, 弓岡 光徳, 平上 二九三
    セッションID: DO039
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】変形性膝関節症(膝OA)に対する疼痛評価は、主訴である動作時痛をいかに捉えるかが重要である。疼痛評価としては様々な尺度が開発され検討されてきたが、一般的な疼痛評価としてVisual Analogue Scale (VAS) が用いられることが多い。膝OAは進行性退行性疾患であることから、治療介入においては疼痛の経時的変化とその特徴および能力低下との関連を適切に評価する必要がある。膝OAの疾患特異性を考慮してRejeskiら (1995年) が開発したKnee Pain Scale (KPS) は、VASにみられる疼痛の強度に加えて動作時の疼痛頻度を測定しうる尺度である。そこで我々は、膝OAにおける理学療法の効果検証としての示唆を得ることをねらいとし、KPSの信頼性と妥当性の検証、ならびにKPSがVASよりも疼痛の変動傾向を反映しうるかを発症後期間との関連から比較検討したので報告する。【方法】対象は膝OAと診断され外来通院している325名のうち、欠損値のない245名(男性82名、女性163名、平均年齢72.0±8.3歳)であった。調査項目は、身長、体重、診断名、発症後期間、障害側、日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準、VAS、KPSであった。解析は、KPSの構成概念妥当性を検討するために開発者が提起した4因子斜交モデルを措定し、確証的因子分析により適合度を検討した。次に疼痛の変動傾向を反映しうるかを検討するために発症後期間を1年未満、1から3年、3から5年、5年以上の4群に分け、VASならびにKPS各因子の標準化得点について一元配置分散分析(ANOVA)を行った。【結果】KPS4因子斜交モデルの適合度指標はCFIが.984、TLIが.979と統計的な許容水準を満たした。4つの下位疼痛尺度(頻度/起居、頻度/歩行・階段、強度/起居、強度/歩行・階段)のクロンバックα信頼性係数は.83から.89であった。ANOVAの結果ではVAS得点と発症後期間との間に統計的な有意差は認められなかったものの、KPS4因子の得点と発症後期間との間には、強度/歩行・階段を除く3因子において有意差が認められた(p<.05)。発症後の4期間ごとに各因子の得点を比較した結果、5年以上で統計的な有意差が認められ(p<.05)、多重比較の結果、強度/歩行・階段よりも頻度/起居が有意に高かった(p<.05)。【考察】開発者であるRejeskiらのCFIは.91であるが、今回の確証的因子分析の結果においてはむしろ高い適合度を示したことから、KPSが本邦でも使用可能であることが示唆された。また疼痛と発症後期間との検討から、KPSは現在汎用されているVASに比べ、疼痛の変動傾向をより反映する可能性が示唆され、また5年以上で疼痛の強度より疼痛頻度の変動が大きいことが示された。以上の事から、KPSは膝OAにおける理学療法の効果検証において有効な指標になりうると考えられた。
  • 松岡 繁生, 近藤 志保, 川辺 直子, 石川 理佳, 日高 正巳, 齋藤 圭介, 小幡 太志, 佐藤 三矢, 弓岡 光徳, 横田 忠明, ...
    セッションID: DO040
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】The Timed“Up & Go”Test(TUG)は、立ち上がり、歩く、向きを変える、腰掛けるという動作で構成されている。しかし変形性膝関節症患者(膝OA)では膝の屈伸時痛、立ち上がり時痛、歩行開始時痛、階段の昇降時痛が問題となり、膝OA特有の動作障害をより反映させたパフォーマンステストで評価する必要がある。そこで治療台に5分間以上の長座位をとった後、端座位から足底を接地し、立ち上がり、3mの歩行中に高さ10cmの台を昇降する動作を盛り込んだTUGのOA版(TUG-OA)を考案した。本研究では、このTUG-OAの有用性を検討することをねらいとし、医学的属性、機能障害、能力低下との関連性をTUGとの比較から検討することを目的とした。【方法】対象は外来通院している膝OA33例(男性5例、女性28例、平均年齢75.1±7.9歳)であった。調査項目として医学的属性は、BMI、発症後期間、X線によるFTA立位とFTA臥位および重症度分類とした。機能障害は、MMTによる伸展筋力と屈曲筋力、伸展と屈曲のROM、5段階評定による疼痛強度とした。能力低下は、日本整形外科学会OA膝治療成績判定基準(JOA得点)とその中の疼痛歩行能と疼痛階段昇降能の各得点、装具は杖の使用有無、老研式活動能力指標(TMIG)ならびに運動能力指標(Kinugasaら、1995年)とした。解析では、TUGならびにTUG-OAについて級内相関係数(ICC)を算出し再現性を検討するとともに、各評価項目との関連性をSpearmanの順位相関と対応のあるt検定を用い検討した。【結果】ICCは、TUGが.926、TUG-OAが.940で共に高い再現性が確認された。各評価項目との関連性についてみると、TUG-OAのみ伸展筋力(rs =-.38, p<.05)、屈曲筋力(rs =-.39, p<.05)、疼痛強度(rs=.37, p<.05)、疼痛歩行能(rs=-.38, p<.05)の4項目に相関が認められた。杖の使用有無は、TUG-OA(t=2.50, p<.05)のみ有意差がみられた。一方、TUGおよびTUG-OA共に、 BMI、FTA立位、FTA臥位、伸展ROM、屈曲ROM、JOA得点、疼痛階段昇降能の各項目では相関が認められず、発症期間、X線分類、TMIG、運動能力指標では相関が認められた。【考察】TUG は、治療効果を反映する指標として感度の問題が指摘されていることから、膝OA特有の動作障害を考慮し長坐位から運動を開始する事でより膝の屈伸時痛を強調し、合せて歩行中に台を昇降させる動作をTUGの課題の中に盛り込んだTUG-OAを考案しTUGと同時に適用した。その結果、機能障害の中で筋力と疼痛強度についてTUGでは相関が認められないもののTUG-OAで高い相関が認められた。また能力低下では杖の使用有無と歩行疼痛能でTUG-OAは相関を示しTUGでは相関を示さなかった。このことからTUG よりTUG-OAが膝OAの疾患特異性をより反映したパフォーマンステストである可能性が示唆された。
  • 丸山 孝樹, 嶋田 智明, 澤田 豊, 大久保 吏司, 戎 健吾, 木田 晃弘, 佐浦 隆一, 松井 允三, 角田 雅也, 黒坂 昌弘
    セッションID: DO041
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】運動療法および物理療法により、変形性膝関節症(以下膝OA)の疼痛および能力低下を軽減させることが諸家により報告されている。一般に温熱療法後の膝関節可動域(以下ROM)運動やSLRを用いた大腿四頭筋等尺性運動(以下SLR)やエルゴメーター等の運動療法が推奨されている。そこで今回我々は、膝OA患者に対して通常の運動療法にモビライゼーションやストレッチング等の徒手療法をさらに加えることが、従来の方法より効率的であるか否かを検討した。【対象と方法】膝OA患者(24人、女性22名、男性2名)を無作為に運動療法群(54歳から81歳、平均70.5歳)と徒手療法併用群(66歳から81歳、平均73.7歳)に分類した。運動療法群は温熱療法後、下肢筋力運動として反対側の膝関節を軽度屈曲した状態でSLR20回を1から3セットとエルゴメーター10から15分を行った。またROM運動として大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の自動運動も指導した。一方、徒手療法併用群は運動療法群のプログラムに理学療法士による膝関節と仙腸関節、股関節、足関節などの隣接関節のモビライゼーションや膝周囲筋のストレッチング等を併用した。治療は両群とも2ヶ月、2回/週の割合で通院で実施され、その他は指導した運動を自宅で行った。臨床評価には日本整形外科学会膝疾患評価点(JOAスコア)、 西オンタリオ・マクマスター変形性関節症指数(WOMACスコア)、6分間の歩行距離、膝ROM、膝関節の伸筋、屈筋の筋力測定等で行い、治療前と治療開始から2ヵ月後で評価し比較・検討した。筋力はバイオデックスシステム3にて求心性収縮角速度60度/秒の等速性最大トルクや膝屈曲60度での等尺性最大トルクを測定し、体重で除した値を筋力とした。【結果】運動療法群、徒手療法併用群ともに治療前と比べると、JOAスコア、WOMACスコア、6分歩行、等速性膝伸展筋力、膝ROM等において有意な改善を示した。両群ともWOMACスコアの内訳では、疼痛と身体機能において治療前と比べ有意に改善されていた。改善度で比較すると徒手療法併用群のWOMACスコア、等速性膝伸展筋力そして膝ROMが運動療法群に比べ有意に改善していた。【考察】大腿四頭筋訓練が膝OAの保存的治療に関して有効であるといわれる根拠はいまだ十分立証されていない。短期間で筋力が増加したと考えるよりは、むしろ滑膜・関節軟骨・関節包・軟骨下骨などが複雑に関係した除痛を支持する報告が多い。徒手療法併用群は、さらに関節モビライゼーションやストレッチング等を加えることにより膝関節の疼痛が軽減し、臨床症状が改善されたものと思われる。本研究により膝OAに対して、従来の運動療法に関節モビライゼーションやストレッチングなどの徒手療法を加えることは有効であることが示唆された。
  • 高橋 昭彦, 木俣 信治, 市村 幸盛, 香川 真二, 津村 暢宏, 平田 総一郎
    セッションID: DO042
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】 整形外科系の運動器疾患を対象に,認知的側面を含めた姿勢制御機能について検討した報告は皆無である.本研究では,これまで関節位置覚などの体性感覚低下が指摘されながらも,筋力低下や可動域制限といったバイオメカニカルな要素のみが注目されてきた変形性膝関節症(以下,膝OAと略す)の姿勢制御機能について,知覚・注意などの認知過程から検討することを試みた.【対象と方法】 対象は,当院に手術目的で入院した術前内側型膝OA16例(以下,膝OA群と略す)で,男性3例,女性13例,年齢は70.8±6.4歳であった.また比較対照群として健常高齢者12例(以下,健常群と略す),年齢は66.6±3.9歳,男性3例,女性9例に同様の検査を実施した.全ての対象者には,研究の趣旨を説明し同意を得た.測定には,アニマ社製ツイングラビコーダG-6100を用いた.サンプリングタイムは20msecとし,各条件において20秒間の立位を記録した.肢位は両踵部間を8cm,開脚60°とした.静止立位時の自動化のレベルを調べるために対象者には単一の注意要求課題と同時発生の注意要求課題が与えられた.単一の注意要求課題として出来るだけ左右対称で立つように指示した.このとき視覚に対する注意は与えなかった.同時発生の注意要求課題としてはこれにStroop testが加えられた.Stroop testでは,約86(幅) cm×62(高さ) cmのサンプルを目の高さでスクリーンに映しだした.25文字(5字×5行,1字約8cm×8cmの大きさ)の色と読みが一致しない色つき文字を提示した.対象者は立位の左右対称性を維持しながら文字を読む強い傾向を抑制しつつ,左から右へ出来るだけ速く文字の色を読み進めるように求められた.【結果】 膝OA群における単一課題遂行時の重心動揺距離は215.4±124.7mmに対し,同時発生の注意要求課題時の重心動揺距離は303.5±107.4mmであり,両課題の間に有意な差を認めた(p<0.05).健常群では,それぞれ181.8±42.9mmと212.5±51.4mmであり有意な差を認めなかった.【考察】 今回の結果から,膝OA群と健常群では注意要求の同時性によって姿勢制御機能に及ぼす影響が異なることが明らかとなった.健常群では同時発生した注意要求課題を遂行しながらも姿勢動揺は大きく変化しないが,膝OAにおいては姿勢動揺の大きな変化を示し,両群の姿勢制御方略の質的・量的な差違を反映していると考えられた.すなわち健常者では,立位を保持するための方略が状況に応じ自動的に選択されるのに対して,膝OAでは変更可能な方略が乏しく,注意のフィルターが感覚情報以外に向けられた時,姿勢制御機能は大きく破綻し,立位という日常的な動作であっても自動化のレベルが低いことが推測された.本研究によって,膝OAの病態をバイオメカニカルにのみ捉えるこれまでの観点では不十分であり,認知過程の異常から観察される必要性が示された.
  • 関節可動域の変化と筋力の関係
    渡辺 博史, 粟生田 博子, 蕪木 武史, 菅原 治美, 濱辺 政晴, 古賀 良生, 大森 豪, 遠藤 和男, 田中 正栄, 長崎 浩爾
    セッションID: DO043
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性膝関節症(膝OA)に対する疫学調査の結果から、股関節及び膝関節の可動域変化と膝伸展筋力の関連について縦断的検討を行ったので報告する。【対象と方法】新潟県松代町の膝検診は1979年を初回とし、以後7年ごと(1986年、1993年、2000年)に計4回実施された。検診内容は、整形外科医の問診、視触診、身体計測、股・膝関節可動域、体脂肪率等の測定および立位膝前後X線撮影を実施した。4回目の検診では、膝伸展筋力を追加しアルケア社製QH-302で測定した。また、X線の膝OA病期評価は、Kellgrenの分類を参考にして5段階とした。今回は、この検診をすべて受診した女性373名中、初回検診時X線の膝OA病期評価でgradeが0、1であった353名(平均年齢:70.4±5.5歳)を対象とし、右膝について検討した。対象を4回目のgradeが0、1のまま変化がなかった群(不変群)とgradeが2以上に変化した群(悪化群)の2群に分け、股関節内外旋可動域の中央値(中央値)、膝伸展可動域(伸展角度)について検討した。さらに初回の伸展角度を過伸展群と伸展0°の正常群に分け、可動域の変化と膝伸展筋力との関連について検討した。統計学的処理はt-検定、およびχ2検定を行い、5%を有意水準とした。【結果】中央値(外旋域を+とした)の初回と4回目の比較ついて、不変群は3.3±6.1°から5.7±5.7°、悪化群は3.5±5.7°から6.2±6.0°と共に有意な増加を認めた。両群間の比較では有意差を認めなかった。伸展角度については、不変群1.2±2.9°から0.1±3.0°、悪化群1.8±3.4°から-2.3±5.2°と共に有意な減少を認めた。両群間の比較では、悪化群が有意に低く屈曲拘縮を認めた。また4回目に拘縮に変化した割合について、過伸展群は41.2%(85名中35名)で、正常群の17.9%(268名中48名)に比べ有意に高かった。筋力については、過伸展群15.9±5.9kg、正常群18.0±5.6kgで、過伸展群が有意に低かった。【考察とまとめ】我々は、膝OAの悪化因子の横断的検討において、膝OAの進行と股関節内旋可動域の低下が関連することを報告した。今回も中央値が外旋方向に変化し同様の結果が得られた。しかし、悪化群、不変群の両群間に有意差はなく、股関節の可動域は加齢による影響が大きいと考えられた。膝屈曲拘縮は悪化群のみ認められ、膝OAの悪化因子として示唆された。さらに屈曲拘縮の原因として若年時の膝の過伸展が示唆され、高齢化に伴い筋力が低かった。長期経過における膝の過伸展と膝伸展筋力の関連が膝OAの発生に影響を及ぼすのではないかと考えられた。そして、膝伸展筋力の維持は重要で継続した運動療法の必要性を認識した。今後は、他の悪化因子との関連や股関節の筋力なども検討する。
  • 石井 亮, 石井 義則, 松田 芳和, 高橋 賢, 木賀 洋
    セッションID: DO044
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】人工膝関節置換術後の理学療法を行う上で膝関節可動域の獲得は重要な要素の1つである。今回、我々は人工膝関節置換術後の屈曲可動域に影響を及ぼす因子の中から、矢状面のLaxityに注目し、屈曲可動域の獲得に及ぼす影響を検討した。【対象】1998年2月から2002年4月の4年2ヶ月間に当院でセメントレス人工膝関節置換術を施行し、術後6ヶ月以上経過した症例44例53関節。獲得した屈曲可動域により、70度から95度をA群(7例)、96度から105度をB群(13例)、106度から119度をC群(10例)、120度以上をD群(22例)の4つのグループに分類した。機種はDepuy社のモービルベアリング型LCS人工膝関節システムを使用し、臨床上愁訴のない症例を対象とした。なお術後のプロトコールは、術後1週まではダングリングなどの自動関節運動を行い、2週以降は理学療法士による他動的関節可動域訓練を行った。【方法】メドメトリック社製ニーアースロメーターKT2000を使用し、測定肢位は背臥位にて膝屈曲30度及び75度を指定角度とし、前方133Nの前方引出し力及び後方89Nの後方引出し力を加えた。それぞれ3回ずつ測定を行い、前後方向総変位量(total A-P displacement、以下TD)の平均を比較検討した。測定誤差は0.5mm以内であった。なお統計学的解析にはScheffe法を用いた。【結果】30度におけるTDの平均値はそれぞれA群6.8、B群6.8、C群10.3、D群8.2、であり、75度におけるTDの平均値はA群5.9、B群4.7、C群6.5、D群6.0、(単位はmm)であり、4群間において有意な差は認められなかった。(P>0.05)【考察】人工膝関節置換術後の関節可動域に影響を及ぼす因子として、術前可動域や軟部組織のテンションバランス、インプラントのデザインなどが挙げられている。その中で、矢状面でのLaxityは、膝関節可動域に大きく影響すると言われているroll-backを反映すると考え検討を行った。しかし、今回の結果からモービルベアリング型インサートを用いた人工膝関節置換術後において矢状面でのLaxityの屈曲可動域への直接的な影響は認められなかった。このことから術後の後療法において、前後のLaxityに対するアプローチは可動域獲得には直接つながらず、むしろむやみに前後のLaxityを大きくすることは、関節の不安定性を引き起こす危険性があると考える。今後はPCL温存・切除の影響や内外反のLaxity、術前の可動域や個体差を考慮した検討も加えていきたい。【結論】モービルベアリング型インサートを用いた人工膝関節置換術後において矢状面でのLaxityは、術後屈曲可動域に直接影響を与えないことが示唆された。
  • 葉 清規, 川波 賢一, 平木 強志, 古岡 智子, 楫野 允也, 村瀬 正昭, 畠山 英嗣
    セッションID: DO045
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】今回肩関節多方向性不安定症で、動作時に亜脱臼を呈するため、スポーツ活動のみならず、ADLにおいても著明な障害をきたしていた症例を経験し、理学療法を施行した結果、早期にADL障害を回復し得たので文献的考察を加え報告する。【症例】16歳男性高校2年生、野球部右投げ。中学時代投手で、トレーニングは200球程度投げ込み、腕立伏せ・ベンチプレスなど行い、時折投球時右肩痛を感じていたが続けていた。高校入学前、投球時に疼痛と共に亜脱臼するのを感じ始、その後症状増強し不変のため当科受診。【初診時所見右側】理学所見は、前・後・下方への不安定感を認め、肩挙上70°程度で不随意性に亜脱臼を呈した。自覚症状で動作時痛・夜間痛・亜脱臼時上肢へしびれ、視診で棘下筋萎縮・肩甲骨下方回旋位・内側浮き上がり、触診で大胸筋に強い圧痛、JOAscore(JS)50点であった。画像所見は、下方ストレス撮影で遠藤の分類よりII型・下降率60%、挙上位撮影でslipping陽性・FSHangle(FA)135°であり、前後撮影・MRIで明らかな器質的問題はなかった。【理学療法経過】肩甲胸郭関節機能訓練、腱板機能訓練、肩挙上自動介助運動より開始。挙上は90°程度まで仰臥位で大胸筋に、90°以上は腹臥位で広背筋・大円筋を徒手的に圧迫し、肩甲骨上方回旋の誘導を加え施行。18日目、ADLでは洗髪などのover head動作可能となるが、不意な動作、他動運動、回旋を加えると亜脱臼を呈した。60日後、下方への不安定感を認めたが、前・後方へは認めず、JS90点で、動作時亜脱臼を呈することはなく、ADL障害は消失した。画像所見は、下方ストレス撮影で下降率48%、挙上位撮影でFA85°であった。120日後、JS95点となったが、仰臥位他動挙上では亜脱臼を呈した。【考察】井樋は肩不安定症の病態を関節内圧異常と筋協調運動異常とし、後者は前者の結果生じる可能性が高いとしている。本症例は元来肩が緩く、outer muscle中心のトレーニングによる骨頭剪断力増加と、overuseによる関節内組織への繰り返す微小損傷により、関節包拡大し、肩甲上腕・胸郭関節機能不全を呈したと考えた。伊藤は随意性肩関節脱臼で、筋電学的に脱臼時方向別で個々の筋活動増加を報告している。本症例は随意性ないが筋活動により剪断力が増加していると考え、挙上角度別に筋に圧迫を加え抑制を図ると挙上可で、他動・圧迫なしの挙上で亜脱臼を呈した。これらのことから、選択的な筋の抑制を考慮し、回旋筋腱板・肩甲骨周囲筋を促通することで、動作時の亜脱臼を予防できると考えた。肩不安定症の自然経過は病態変化や自然治癒など報告されている。本症例は動作時亜脱臼を呈さなくなり、ADL障害改善したが、他動運動での不安定感は残存していることから、理学療法により良好な経過が得られたと考える。
  • 武富 由雄, 有澤 修, 米田 稔
    セッションID: DO046
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】肩腱板広範囲断裂に対しての腱板再建には外科的治療が第一選択となる。今回、高齢者で右不全片麻痺と右肩甲上腕関節脱臼の既往歴があり、加えて明らかなdrop arm sign のある右肩腱板広範囲断裂の症例に対しあえて外科的手術を施行せず、運動療法を選択し実施したところ患側上肢の垂直挙上と下降時の随意的保持が可能となる良好な成績を得たので検討を加え報告する。【対象】対象はMRIで右側腱板広範囲断裂と診断された電気工事職の男性、61歳。運動療法開始4年前の8月5日、被殻出血に因り右不全片麻痺の後遺症。片麻痺発症後の2年3ヵ月後には転倒により右肩甲上腕関節脱臼し無麻酔下で整復。脱臼発症後1年6ヵ月目には高所より転落し右手を地面に突いた。その後右肩甲上腕関節の挙上困難、下降時の上腕保持不可能となった。高齢と合併症の既往歴により術後の機能回復の予後を懸念し運動療法の処方が出され、転落受傷3ヵ月後に運動療法を開始した。腱板断裂判定基準評価(Wolfgang)では、1.疼痛2点、2.外転可動域1点、3.外転筋力1点、4.機能1点、5.満足度-1点と計4点であった(5.項目の満足度を除いて、各項目評点4点が正常、計17点が満点)。椅座位、腹臥位での右肩甲上腕関節の屈曲と外転の随意運動を試みたところ肩甲胸郭結合上での肩甲骨の運動のみを認めた。【方法】患側の上腕骨頭が肩甲骨関節窩で安定下での可動性を得るために、まず肩甲胸郭結合上において肩甲上腕リズムに重要な機能を発揮する上部僧帽筋、前鋸筋、下部僧帽筋を特定した運動療法を設定した。上部僧帽筋に対しては椅座位で、前鋸筋に対しては仰臥位で、下部僧帽筋に対しては腹臥位で徒手抵抗運動を週3回繰り返し実施し肩甲胸郭結合上での肩甲骨の外転、上方回旋の筋力回復、増強を図った。【結果】運動療法開始3ヵ月後、右肩甲上腕関節の挙上と外転位での保持が可能となった。判定基準評価の結果(Wolfgang)は以下の通りであった。1.疼痛3点、2.外転可動域4点、3.外転筋力3点、4.機能3点、5.満足度1点、計13点であった。運動療法開始時の計4点が13点に増加、満点に近接し、excellent・優の結果を得た。【考察】肩腱板広範囲断裂例が運動療法により良好な成績を得た要因は、1)肩甲骨の外転と上方回旋にforce coupleとして作用する3つの動筋に対する徒手抵抗運動により、これら筋群の筋力増強が得られ、肩甲骨の肩甲胸郭結合上での安定性が増し、その結果肩甲骨関節窩上に上腕骨頭が求心位に先ず保持することができたと考える。その後、2)肩甲上腕関節のouter muscleである三角筋の筋活動に導かれ、三角筋の筋力回復によって患側上肢は90度外転位保持と坑重力下でも患側上肢は下降することなく健側肢と同様なレベルまで挙上と空間での保持が可能となったと考えられる。この種の症例に対してはforce coupleの筋群の重要性とこれら筋群に対する運動療法が有用であることが示唆されよう。
  • 高松 敬三, 諫武 稔, 前田 鎮男
    セッションID: DO047
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】高齢者は壮年者に比べ活動性が低く、且つ日常生活を送る上で肩関節を動かす範囲が比較的狭い。そのため肩腱板断裂を起こした場合に保存的療法にて対処することが多く、肩関節の手術適応はかなり限定される。今回職場復帰への意欲が高かった症例に対して手術を施行し、その術後療法を経験したのでここに報告する。【症例紹介】80歳男性。右腱板横断裂。職業は清掃業務<現病歴>平成14年7月、自転車から転倒し右肩を強打する。主訴は肩を動かした時の疼痛。X線所見にて右肩峰骨頭間距離5mm。【術前及び術後経過】術前評価において右肩挙上・結帯動作時に三角筋中部線維に痛みあり(VAS:10/10)。ROMでは右肩挙上70°、水平内転50°、結髪・結帯動作不可。MMTでは右肩挙上及び内外旋が2レベル。同月29日、右肩関節形成術(Mc Laughlin法)を施行する。術直後よりベッド上にて牽引を実施。術後1週目からZero positionにてギプス固定。理学療法は術後4日目より開始し、3週間後にギプス除去。その後、約10日かけて徐々に肩下垂位獲得練習を実施。その際、ROM exと筋力増強exは痛みや疲労を起こさないよう特に注意し、その日の本人の状態に応じ運動量を日々調整しながら少量頻回で行った。その結果、術後5週目でのROMは肩挙上140°、内転-20°、2nd内旋35°、術後8週目では右肩挙上160°、2nd内旋50°、水平内転115°、結帯動作可能。筋力は右肩挙上・外旋4、内旋4-レベルまで改善した。痛みは術前に比べ著明に軽減し(VAS:3/10)、日常生活動作に支障を来たすことが少なくなった。術後9週で自宅退院し、現在は元の職場に復帰している。【考察】一般的に高齢者は自らの仕事や身内の介護、スポーツ活動等で上肢を使わざるを得ない場合を除いて肩関節に負担のかかることは比較的少ないと思われる。その為、壮年者と比べ手術の適応が限定されると推察できるが、本症例においては職場復帰への意欲が非常に高く、その為手術に至ったものと言える。逆に、本人が単に日常生活レベルでの改善を目標としていたならば今回のような手術を行わなかったかもしれない。日本人の平均寿命が伸びる中、高齢者が仕事や配偶者の介護等において壮年層と同様に身体を使う機会が多くなってきていることも予想される。それ故、高齢者の腱板断裂に対する手術も今後増えていくのではないかと推察される。しかし、高齢者の腱板断裂の形状は広範囲・大断裂で筋自体の退行変性が進んでいることも多く、関節可動域・筋力獲得の運動方法に関しては壮年層に行う理学療法に比べ、よりきめ細やかな配慮が必要と考えられる。【まとめ】高齢者の手術においても本症例のように可動域が増大し、疼痛が顕著に軽減することが示唆された。高齢者では活動性が低いという理由から保存療法に限定するのではなく、症例の要望やニードを十分に把握した上で手術を検討していくことも必要と考える。
  • 後藤 誠, 鈴木 國夫, 嶋田 智明, 椿野 稔, 山田 裕次郎, 山田 稔晃
    セッションID: DO048
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】腱板断裂は、肩関節の痛みと機能不全をもたらす疾患であり、その臨床症状は腱板断裂の程度、経過期間、年齢、社会的活動性など多様な訴えから成り、意見の一致が得られていない。そこで本研究では観血的に腱板断裂修復術を受けた症例に焦点を置き、術後発生し得るだろう様々な臨床症状に影響する因子をより明確に把握し、術後の生活指導の目安にするため、アンケートと機能評価の二つの側面から、肩運動機能(疼痛、活動レベル、患者の主観的満足度、関節可動域、筋力など)を追跡調査し検討したので報告する。【方法】対象は、肩腱板断裂の観血的再建術後、日常生活や労働に復帰していると思われる術後半年から十年ほど経過した124名(男性88名,女性36名;平均年齢61.9±8.6歳)であった。対象者は完全腱板断裂と診断され、McLaughlin法に準じた修復術を受けた者とした。アンケート調査は、妥当性・信頼性の性質がすでに検証済みの質問票を流用し、手術からの期間、活動レベル、痛みの状態、日常生活や家事動作、仕事・作業の形態、関節の可動性、満足度などを多肢選択法で行い、痛みや機能レベルの変数測定にビジュアルアナログスケールも使用した。また、満足度の項目で不満足・疑わしいと答え、直接評価が可能だった15名に対し、ハンドヘルドダイナモメーター(J tech Medical社製Power Track II)を使い肩関節周囲筋筋力の評価を行った。統計処理にはSPSS-Windows版Ver10.0Jを使用し、χ2検定とt検定で解析し、有意水準を5%とした。【結果】満足群は67人(54.1%)、不満足群は22人(17.7%)であり、普通群を含めると術後成績良好群は102人(82.3%)であった。性別・年齢はあまり影響せず、受傷からの期間・疼痛・活動レベルが関与し、特に主観的満足度が強く影響していた。満足群は現職復帰がもっとも多い一方、不満足群の男性は何も出来ない状態、女性では家事労働者が主となっていた。痛みに関して女性に家事・着替え時の痛みが残存している症例が多かった。また、腱板を含めた患側の筋力低下(特に屈筋・外転筋・外旋筋)と、軽度の関節可動域制限の残存が明らかになった。【考察】術後の安静期間中に健常上肢による動作の習慣化と、痛みや再断裂への不安感が、消極的な患肢の使用・機能回復の遅延につながることが考えられる。腱板断裂修復術後患者のQOL向上には、反対の脇を洗う・頭上の棚の物に手を伸ばすなどの頻繁に使用する日常生活動作、患者の主観的満足度、経時的関節可動域・肩周囲筋力の評価を、対象患者の性差、生活・作業環境を含めてフォローアップしていく必要性があり、特に女性は三角筋や残存する腱板など影響のない構造の働きがもともと弱いことに加え、筋損傷からの回復力が低い傾向が見られた。
  • 転帰を左右する因子の検討
    山岸 茂則, 若宮 一宏, 坂口 雄司, 前角 滋彦, 山岸 幸恵
    セッションID: DO049
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では肩腱板損傷に対しては、まず保存的治療を行い、成績不良例に対して外科的治療を選択している。今回保存療法の成績を左右する因子を検討することで、保存療法としての理学療法を進める上での若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】平成9年5月から平成14年9月までに当院で保存的に理学療法を施行した肩腱板損傷38肩37名(男性13名・女性24名、平均年齢65.7±11.8歳)を対象とした。理学療法は、安楽肢位や生活指導、リラクゼーション、筋硬結治療、関節モビライゼーション、関節可動域・腱板機能運動などで、外来にて週に1-3回施行された。全例に消炎鎮痛作用を持つ外用薬が処方された。 治療成績判定は、日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下、JOA-score)の疼痛および日常生活動作(以下、ADL)の項目を利用した。検討因子は、理学療法開始時及び終了時の肩MMT(内外旋は第一肢位で測定)、年齢、性別、損傷原因、不全・小・大断裂の別、関節内注射の有無である。JOA-scoreで疼痛が20点(ADLで疼痛無し)以上かつADLが9点(90%)以上を成績優良群(以下、A群)とし、それ未満の成績不良群(以下、B群)との間で、各因子の有意差を求めた。【結果】68.4%(26肩26名)はA群であり、26-134日(平均98日)の期間で患者の主観的満足が得られ、理学療法を終了している。うち1名は職業が重労働であり、その後就労時痛を訴え腱板修復術施行されている。B群は24-192日(平均112日)の期間理学療法が施行され、うち5名に修復術施行された。両群ともに重労働時の疼痛が消失した者は1人も存在しなかった。 有意差の検定では、MMT(Mann-Whitney U-test)のうち理学療法終了時の外旋のみ有意にA群が高かった(p<0.01)。外旋MMTがA群では5が12名、4が12名、3が2名であったのに対し、B群では5が1名、4が6名、3が4名、2が1名であった。年齢(Unpaired t-test)はA群が有意に高かった(p<0.05)。性別、損傷原因、不全・小・大断裂の別、関節内注射の有無(カイ二乗検定)は有意差がなかった。【考察】今回の結果、腱板損傷の保存療法としての理学療法において、肩外旋筋力の回復が重要な意義を持つことを示唆した。棘上筋腱損傷後にfunctional unitとしての腱板作用が低下し、棘下筋への依存が高まるためと推察される。しかし棘下筋断裂の確定診断が困難な症例も多く、棘下筋損傷の合併が影響を及ぼすことも否定できず、今後症例を増やして詳細な検討が必要である。年齢においてA群の方が有意に高かったが、これは高齢者ほど活動性も低く日常生活において肩へのストレスが少ないので、疼痛が生じにくい為と思われる。
  • 上腕骨結節間溝を用いての評価
    木賀 洋, 石井 義則, 松田 芳和, 高橋 賢, 石井 亮
    セッションID: DO050
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】いわゆる肩関節周囲炎はその病因の一つとして腱板と三角筋との不均衡の結果、肩甲上腕関節に不合理な動きが生じることが指摘されている。また、拘縮が出現した後の代償動作として上腕二頭筋を働かせることもあり、その病変によって二次的に疾患を助長し、病態を複雑化していることがある。そこで今回、非侵襲性である超音波画像的アプローチ(以下、エコー)で計測可能な上腕骨結節間溝(以下、結節間溝)に着目し、臨床的に結びつく特徴について検討した。【対象】肩関節周囲炎と診断された患者、29名(男性10名、平均年齢59.7±7.2歳 女性19名、平均年齢56.7±6.7歳)31肩関節(右10関節、左21関節)を対象とした。また、肩関節に現病歴、既往歴のない11名22関節(右11関節、左11関節、男性5名、平均年齢60±5.2歳 女性6名、平均年齢51.4±5.8歳)を対照群とした。【方法】上腕下垂位、肘関節屈曲90度、前腕回内外中間位でプローブを結節間溝に水平にあて、大小結節の高さが等しくなる最頂点、最低部にプロットを行った。その頂点間を幅として、両頂点を結ぶ直線から最低部までの距離を深さとして測定し、罹患側群、非罹患側群、対照群の3群間について、それぞれScheffe法で比較検討した。なお、超音波画像診断装置は、フクダ電子製UF-5500、プローブはリニア型、周波数7.5MHzを使用した。測定値の誤差については、1mm以内であった。【結果】幅、深さの平均値については、罹患側群が1.3±0.28cm、0.4±0.09cm、非罹患側群が1.2±0.2cm、0.4±0.1cm、対照群が1.3±0.27cm、0.4±0.12cmであった。また、幅、深さについて3群間に有意差は認められなかった。(P>0.05)【考察】結節間溝については性別、上腕骨頭直径に関係なく様々な形態があり、幅が広ければ上腕二頭筋腱長頭が偏位しやすく、逆に狭ければ圧迫による炎症が起きる可能性があると報告されている。今回の結果についても超音波画像診断で様々な形態が確認されたが、いわゆる肩関節周囲炎について特徴的な結節間溝は認められなかった。一方、これまでの形態学的な肩関節へのアプローチとしてはレントゲン、CT、MRI等が主であるが、今回使用したエコーについては非侵襲性だけではなく、我々、理学療法士でも取り扱いが可能であることが利点である。そこで、今回の結果より明らかな骨性要因が認められなかったが、今後、腱板等を含めた軟部組織の形態学的特徴も評価し、可動域、治療期間など臨床的な予後予測の可能性も検討していきたい。
  • コラーゲン線維とヒアルロン酸について
    沖田 実, 吉村 俊朗, 中野 治郎, 本村 政勝, 江口 勝美
    セッションID: DO408
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】 細胞外マトリックス(Extracellular matrix、ECM)とは、細胞と細胞もしくは細胞群と細胞群の間隙を埋める充填物質であり、骨格筋においては筋膜がそれにあたる。そして、ECMの主要構成成分はコラーゲン線維であり、これが網目状の構造を成す筋膜は弾性に富んでいる。また、コラーゲン線維は水分やムコ多糖類より成る基質の中に存在しているが、基質の性状は粘稠性が高く、これはムコ多糖類の一種であるヒアルロン酸の影響によるところが大きい。そして、ヒアルロン酸は個々のコラーゲン線維の滑剤として機能している可能性があり、筋膜の弾性にも関与していると考えられる。一方、骨格筋は不動によってその弾性が低下することはよく知られているが、その弾性を司る筋膜の変化については不明な点も多い。そこで本研究では、筋膜の弾性に関与すると考えられるコラーゲン線維とヒアルロン酸について不動による変化を検索した。【材料と方法】 8週齢のWistar系雄ラット100匹を50匹ずつ実験群と対照群に分け、実験群は、ギプスを用い両側足関節を最大底屈位の状態で1、2、4、8、12週間(各10匹)不動化した。各不動期間終了後は、両側ヒラメ筋を摘出し、右側ヒラメ筋は組織固定後に細胞消化法を施し、筋内膜コラーゲン線維網の形態を走査電子顕微鏡で観察した。一方、左側ヒラメ筋の一部の試料から凍結横断切片を作製し、I・III 型コラーゲン抗体ならびにヒアルロン酸結合タンパクを用いた免疫組織化学染色を実施した。また、一部の試料はホモジナイズし、サンドイッチバインディング法にてヒアルロン酸含有量を測定した。【結果】 筋内膜コラーゲン線維網の形態は、不動1、2週後は対照群と同様で、筋線維の長軸方向に対して縦走するコラーゲン線維が多数認められたが、不動4週後以降は横走するコラーゲン線維が増加していた。一方、免疫組織化学染色像では、不動1、2週後にIII型コラーゲンとヒアルロン酸の強い反応が認められ、ヒアルロン酸含有量は不動1週後から対照群より有意に増加していた。【考察】 今回の結果から、筋内膜コラーゲン線維網の形態変化は不動4週後以降に認められ、この変化はコラーゲン線維の滑走性低下に伴う筋内膜の弾性低下を示唆している。しかし、コラーゲンやヒアルロン酸の増加は筋内膜コラーゲン線維網の形態変化よりも早期に認められたことから、これらの変化がコラーゲン線維の滑走性低下に直接影響しているかどうかは不明である。ただ、先行研究では、コラーゲンの増加は組織の線維化につながり、ヒアルロン酸の増加は組織内の水分移動を減少させると報告されている。したがって、これらの変化も骨格筋の弾性低下に影響している可能性が高いと思われる。
  • 従来の自動運動との比較
    千鳥 司浩, 今渕 雅之, 平井 達也, 村田 薫克, 藤川 小百合, 木村 伸也
    セッションID: DO409
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝関節可動域(ROM)制限を有する患者に対し,硬度を識別させる知覚運動課題を用いた治療の介入が有効であるかを2症例のシングルケース・デザインにて検討した.【症例紹介】対象は58歳男性,脛骨高原骨折(症例1),63歳男性,膝蓋骨開放性骨折及び足部脱臼骨折(症例2)である.それぞれ3週間,4週間の術後固定を行った後, ROM練習を開始した.2症例とも膝屈曲運動時の疼痛,防御的収縮が強く生じていた.ROM練習開始後,それぞれ1週,4週経過した時点でROMの改善が認められなかった.【方法】本人のインフォームド・コンセントを得た上で,基礎水準期と操作導入期を交互に繰り返すAlternative treatment designを用いた治療介入を開始することとした.基礎水準期(B期)では温熱療法,mobilization及び自動運動を行った.操作導入期(C期)では自動運動に代わり,知覚課題としてスポンジの硬度を膝関節の自動屈曲により,下腿後面で弁別させた.各治療期はランダムに5日間とし,計10日間のデータを収集した.独立変数は硬度弁別課題の効果とし,従属変数を膝関節ROMとした.各治療前後に側方からデジタルカメラにて自動・他動運動による膝最大屈曲を撮影し,その角度を求めた.またVisual Analogue Scale(VAS)によりROM練習時の疼痛強度を調査した.各治療の前後における自動・他動屈曲のROM差を比較するためにランダマイゼーション検定を用い,有意水準を5%とした.【結果】症例1では自動運動における治療前後の差はB期で平均3度,C期で7.7度であり,他動運動の差はそれぞれ平均2.2度,6.7度であった.症例2では治療前後の自動運動の差はB期で平均3.5度,C期で4.9度であり,他動運動の差はそれぞれ平均2.1度,4.4度であった.両症例とも自動・他動運動においてC期で統計学的に有意なROMの増加が認められた.VASの値は各期において両症例とも3から4の少ない疼痛であり,有意差は認められなかった.【考察】疼痛の強い患者に対し,他動的なROM練習を行うと反射性交感神経ジストロフィーなど二次的合併症が発生しやすい.そのため疼痛の強い時期には自動運動によるROM練習が原則とされている.しかし通常行なわれる自動運動では疼痛の生じる角度以上に可動範囲を拡大させることは困難である.知覚課題を用いた自動運動は従来の自動運動に比べROMの改善が大きかった.その理由として触・圧覚に注意を払うことによる上位からの変調作用,C線維系への干渉作用など皮質へ入力される侵害刺激の量が変調され,鎮痛効果があったと考えられる.患者自身も硬度を知覚するために積極的に自動屈曲運動を行えたものと推察する.以上より知覚課題を用いるROM練習の方法は疼痛の強い時期に有効であると考えられた.
  • 小林 文子, 青柳 秀城, 渡辺 彩子, 白瀬 歩, 浅野 晴子, 宮井 舞, 篠原 豊, 小川 大介, 中野 清
    セッションID: DO410
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】橈骨遠位端骨折患者の関節可動域における、橈骨手根関節と手根中央関節可動角度および運動割合を健常者と比較、検討した。その制限因子を靭帯の働き、手根骨の運動性に着目し考察を試みた。【対象と方法】対象は橈骨遠位端骨折患者8例(男性2名、女性6名、平均年齢67.3歳。保存的療法4名、創外固定4名。発症より5週以上経過した者)とした。方法は、対象に対し手関節最大背屈および最大掌屈位を側面(橈側)よりX線撮影を行なった。角度の測定は1.橈骨手根関節(橈骨関節面に対する月状骨の角度変化:計測は橈骨遠位関節面の掌側端-背側端を結ぶ線および月状骨同点を結ぶ線によりなす角度)(以下radiocarpal joint:RCJ)2.手根中央関節(月状骨に対する有頭骨の角度変化:計測は月状骨遠位関節面の掌側端-背側端を結ぶ線に対する有頭骨同点を結ぶ線によりなす角度)(以下midcarpal joint:MCJ)とし、それぞれの角度変化およびその運動割合について計測した。比較対照群として健常成人10例(男性3名、女性7名、平均年齢28.7歳)について同様の計測を行なった。【結果】1.最大背屈および最大掌屈位におけるRCJ、MCJの角度変化および運動割合について1)最大背屈位でのRCJ対MCJの角度変化(割合)は疾患群で27.9°(61.1%):17.0°(38.9%)、対照群で30.5°(44.4%):38.7°(55.6%)であり、疾患群および対照群のMCJの角度で有意な差を認めた(p<0.01)。 運動の割合についてはRCJおよびMCJで差を認めた(p<0.05)。2)最大掌屈位でのRCJ対MCJの角度変化(割合)は疾患群で13.0°(36.3%):23.6°(63.7%)、対照群で23.4°(36.5%):43.4°(63.5%)であり、両者のRCJおよびMCJの角度で差を認めた(p<0.05)。2.1)および2)からみる手関節可動域においては疾患群背屈44.9°、掌屈36.6°、対照群では69.2°、66.8°であり疾患群でのROMの低下を認めた。【考察】橈骨遠位端骨折後の関節拘縮は、橈骨手根関節および手根中央関節についての運動性を考慮する必要がある。正常運動における両者の可動原理は複雑であり、多くの関節運動が関与する。本研究における結果では最大背屈・最大掌屈の際、RCJ に比しMCJでその制限の要素を多く示した。背屈および掌屈における遠位手根列間に至る力源は、橈骨月状骨靭帯・舟状骨月状骨靭帯・背側橈骨手根靭帯らを通じて、また手根骨の形態学的特性を介して近位手根列間へ伝達される。これらの運動性リズムの破綻が関節運動性低下を誘起したと考えられる。
  • 甲斐 直美, 上原 和広, 山本 圭子, 福田 英一, 広山 智一, 中里 哲夫, 越前谷 達紀, 依田 有八郎
    セッションID: DO411
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】橈骨遠位端骨折は頻繁に見られる骨折の一つであるが、遅発性に長母指伸筋腱(以下EPL)の断裂が発生する場合がある。その発生率は1%未満と比較的稀であり、中年以降の女性に多いと報告されている。今回、橈骨遠位端骨折後にEPL断裂が生じた3症例の理学療法を経験する機会を得たので、その発生率及び理学療法における問題点について報告する。【対象および経過】平成11年1月から平成14年7月の間に当院にて橈骨遠位端骨折の診断、治療、理学療法を行ったのは121名であった。そのうち3症例にEPL断裂が認められ、発生率は2.4%であった。(症例1)50歳男性、転落による右橈骨遠位端骨折。5週のギプス固定後、理学療法施行。受傷後8週を経過して母指伸展不全に気付きEPL断裂と診断。(症例2)74歳女性、転倒による右橈骨遠位端骨折。他院にて4週のギプス固定後、理学療法施行。受傷後14週を経過して母指伸展不全に気付き、当院にてEPL断裂と診断。(症例3)54歳女性、転倒による左橈骨遠位端骨折。他院にてギブス巻行後、2週を経過して母指が急に動かなくなり、当院にてEPL断裂と診断。以上、3症例に対し固有示指伸筋腱(EIP)を用いた腱移行術を施行し、4週間のギプス固定を行った。理学療法は術後5週目より渦流浴内での自動運動を開始し、6週目より他動運動及び筋力増強運動を追加した。結果、症例1、2は母指IP関節の伸展は完全であったが、軽度のMP関節伸展不全が残存した。症例3はいずれの関節も伸展は良好であった。又、3症例について年齢、性別、発生時期、骨折型等について分析したが、EPL断裂が生じやすい特定の要因や傾向については断定できなかった。【考察】EPL断裂の発生率は、今回の結果では2.4%と過去の報告と比較するとやや高い傾向を示した。これは、母指の巧緻動作がEPLの作用が無くても、短母指伸筋や母指内在筋の作用によってある程度可能であることから、断裂例が見逃されている可能性も考えられた。又、橈骨遠位端骨折後のEPL断裂の発生機序については不明な点が多いが、血行障害による腱の変性、脆弱、骨片や仮骨による機械的摩擦、自家筋力による磨耗等が原因であるといわれている。今回の3症例においては、骨折型や転位の有無に関わらず、EPL断裂が発生しており、断裂時期も幅広いことから、その予測は現時点では困難であると考える。よって、橈骨遠位端骨折後の理学療法を行う際は、遅発性にEPL断裂を生じる可能性があることを、常に念頭に置く必要がある。そして、母指のMP、IP関節の伸展力の変化やEPL断裂の生じやすいリスター結節部の痛み、腫脹等に留意して関節可動域運動及び筋力増強運動を進めていく必要がある。
  • 山本 圭子, 上原 和広, 福田 英一, 甲斐 直美, 広山 智一, 中里 哲夫, 越前谷 達紀, 依田 有八郎
    セッションID: DO412
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】末梢神経損傷は、切創、骨折などによる断裂や圧迫、手根管症候群に代表されるような絞扼などで生じる。臨床症状は感覚障害及び運動障害であり、理学療法を行う上で、麻痺の回復過程を把握することは重要である。しかし、長期経過を報告したものは少ない。今回、切創により正中神経麻痺を呈した一症例に対し、麻痺の回復過程について長期的な経過観察を行い、興味ある所見が得られたので報告する。【症例及び経過】15歳男性、ドアのガラス片にて左手首受傷。左正中神経完全断裂及び左浅指屈筋腱部分断裂の診断で、神経縫合及び腱縫合術が施行され、術後3週で理学療法開始となった。 理学療法では渦流浴を併用しての関節可動域運動より開始し、その後筋力増強運動、さらに廃用性萎縮の予防、筋再教育を目的とした低周波治療を行った。また、感覚機能の改善を目的に、表在知覚が徐々に回復してきた2ヵ月頃より、Dellonの提唱するSensory Re-Education(感覚再教育)を取り入れた。方法は、サイコロやコイン、ビー玉等の材質や形状の異なる材料を予め記憶してもらい、閉眼でその材料を識別してもらう。この時、正中神経支配領域の母指、示指、中指での3点つまみ動作により行った。<知覚神経の回復経過>知覚神経線維の軸索再生を示すTinel徴候は、術前で手首創部、術後7週で手掌中央、10週でMP近位部、13週でPIP部、4ヵ月で指尖部へと経時的に末梢へと伸びていった。表在知覚に関しては、健側を100%としたときの患側の触覚の回復経過を観察した。開始時、正中神経支配領域で完全脱出、術後8ヵ月で70から90%、その後は緩徐な改善傾向を示した。物体識別感覚の回復については、Sensory Re-Educationの際の正答率を調べた。結果、術後2ヵ月では正答率0%、8ヵ月で60%、12ヵ月で80%、その後の回復は緩徐であった。<運動機能の回復経過>開始時いわゆる“猿手”を呈していたが、術後4ヵ月で短母指外転筋がMMT2レベル、7ヵ月で4レベル、1年4ヵ月で5レベルまで回復した。握力は1年7ヵ月で健側33kgに対し30kgであった。【考察】軸索の再生を表すTinel徴候は1日1から1.5mmと報告されており、本症例もほぼ同様の傾向を示した。また、物体識別感覚は表在感覚の回復よりも改善に時間を要した。つまり、知覚神経の回復様式は、まずTinel徴候の進展、そして単純な表在感覚の改善、最後に物体識別感覚の回復であることが示された。日常生活動作において、触覚による物体識別感覚は、視覚を補う大切な複合感覚であり、hand rehabilitationの最終目標の1つと言える。今回行った経過観察では、物体識別覚の回復は運動機能の回復と共に、予想外に長期間を要した。末梢神経損傷における理学療法期間に関しては、損傷の部位や程度により異なるが、知覚・運動両機能の回復度が緩徐になる約8ヵ月から1年頃までは、根気よく続ける事が大切であると思われる。
  • 徒手的圧刺激と中周波通電刺激の皮膚温及び自律神経活動に与える影響の比較検討
    西山 保弘, 佐藤 義則
    セッションID: DO413
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】第37回本学術大会にて軟部組織の徒手的アプローチ、「痛覚系末梢受容器刺激法(PRS)」を報告した。PRSは、四肢の軟部組織における痛覚過敏領域に的確に物理的刺激を加える方法である。この内、PRS徒手法(PRS刺激)は、筋間隙や骨筋間隙より母指や手指の末端を使い加圧刺激を骨や組織横断面の中心部に垂直並びに直角方向に連続的に加える手法である。我々は、関節リウマチ(RA)の軟部組織に対するPRS刺激が関節炎症に与える影響として、刺激後の皮膚温並びに自律神経活動の経時的反応を検討した。更に、同対象に中周波通電刺激を施行し同反応の比較検討を試みたので報告する。【方法】対象は両膝関節に関節熱感と疼痛を伴うRA患者2例。症例1は、24歳女性、RA、stage3、class2、C反応性タンパク(CRP)3.04mg/dl、薬物はプレドニゾロン5mg/日、アザルフィジンEN4錠/日、リウマトレックス4カプセル/週を服用中。症例2は、61歳女性、RA、stage3、class2、CRP2.3mg/dl、薬物はアザルフィジンEN5002錠/日、ロキソニン60mg錠3錠/日を服用中。刺激方法は、PRS刺激については両下肢痛の覚過敏域にPRS刺激を実施した。中周波刺激は、CHUO製WYMOTON WY-5を用い膝直上に施行した。刺激強度は、心地よいよりやや強い程度とした。自律神経活動指標の測定は、20分以上安静臥位後と刺激20分後のCVR-R(CV),RR50をフクダ電子製dynaScopeより出力した心電図波形のRR間隔をタブレット上で計測して算出した。皮膚温の熱画像検査(熱画像)はNEC三栄製サーモトレーサTH3107を使用し,室温26±1℃,湿度60%以下の室内で被検者に膝関節を露出した状態で20分間安静臥位保持後撮影した。熱画像データは,座標温度を34℃以上(関節周囲を含む範囲),34.5℃以上(関節範囲のみ)に分類し,刺激前を100%と換算し算出処理をした。熱画像測定は、無変化状態を追跡撮影の終了とした。【結果】症例1の熱画像は、中周波10分後に軽度増加を認めたが34℃以上は0%増であった。PRS刺激は20分後最大で30.3%増加した。症例2は、中周波10分後に34℃以上が-45.2%減、20分後に-24.8%減、PRS刺激は、刺激後40分以上も皮膚温の増加傾向が持続し44.3%増を認めた。自律神経指標であるCVとRR50の変化は、症例1のCVは中周波9.73から7.22、PRS刺激6.64から7.64、RR50は中周波24から27、PRS刺激30から27となり著変は認めなかった。症例2ではPRS刺激のCV8.64から4.19と低下した。RR50は変化を認めなかった。【考察】ケース検討での報告ではあるが、PRS刺激は中周波刺激より、血管拡張或いは血液循環促進効果が、優れ持続性が高い傾向にあった。またそれは、心血管系の副交感神経活動とは今回の測定範囲では関係が薄い可能性が示唆された。
  • 白取 洋子, 山田 伸, 今 達利, 松本 茂男, 江西 一成, 秋元 博之
    セッションID: DO414
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】股関節外転筋は歩行時の骨盤安定に関与し、特に股関節疾患患者においては重要な筋の一つである。しかし人工股関節置換術の術後早期において、外転筋筋力がどの時点でどの程度回復するかについての報告は少ない。そこで我々は、術前および術後早期からの外転筋筋力を測定し、THA後の筋力回復過程について検討したので報告する。【対象と方法】対象は当院で初回THAを施行した変形性股関節症患者12名(男性2名、女性10名)であり、平均年齢62.0±8.7歳、体重54.8±10.0kg、身長150.3±4.6cmであった。手術は全例後側方アプローチで行い、大転子の切離は行わなかった。日整会股関節機能判定基準に従い疼痛、可動域を術前、術後6週に評価した。さらにKIN-COMを用いて両下肢の外転筋等尺性最大筋力を術前、術後2、4、6週に測定した。なお外転筋筋力は、骨盤部を固定した背臥位で5秒間の最大収縮を外転角度0度と5度で3回繰り返し測定した。術後リハプログラムは、1週目はベッド上、術後2週目よりリハ室で筋力強化、ROM訓練および歩行訓練を行った。荷重時期はセメント使用群では術後2週目より全荷重、セメント非使用群は術後3週目より部分荷重開始とした。【結果】術後、疼痛(中央値:10→35)および外転可動域(中央値:2→8)は著明に改善した。術前の外転筋筋力は、手術側0度29.6±10.6N、5度27.4±16.4N、非手術側0度38.2±13.8N、5度37.1±17.7Nであった。術後2週の時点で術前の外転筋筋力より下回った者は少数であり、外転筋筋力は術後経過と共に手術側、非手術側とも増加した。術後6週時の増加率は、手術側外転0度では114%(p<0.01)、手術側外転5度が190%(p<0.05)、非手術側0度が58%(p<0.05)、非手術側5度が47%であった。外転筋筋力増加率の計測角度によるに違いは、非手術側では認めなかったが、手術側では、統計学的に有意差はなかったものの外転5度の方が大きい傾向にあった。【考察】術後の股関節外転筋筋力は、ほとんどの例において術後2週時点で術前を上回っていた。これは術前の疼痛が自発痛を伴うものであったのに対して術後は自発痛が消失していること、および関節可動域の改善とが関連していたと考えられる。従って、少なくとも術後2週時点では手術侵襲による外転筋機能不全の影響は少ないと考えられる。しかし術後2週未満の外転筋筋力における手術侵襲や疼痛などの影響は不明であり、今後の検討課題である。また外転筋筋力の増加率が外転角度5度において大きかった原因としては、手術による骨頭中心の内方化、大転子引き下げによる中殿筋機能の効率化などが考えられた。
  • 鈴木 樹里, 対馬 栄輝, 蛯子 智子, 武田 さおり, 片野 博, 一戸 美代子, 齊藤 千恵美, 平山 優子
    セッションID: DO415
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】人工股関節全置換術(THA)後脱臼は,治療上しばしば問題となる。理学療法においても脱臼を起こしやすい例の特徴を把握し,予防的な観点を持つ必要がある。この調査の目的はTHA術後脱臼例を対象として,脱臼の起こった時期,動作・肢位,脱臼回数などを調査し,それらの特徴,関連性を検討することである。【対象と方法】'91年から'01年の間にTHAを施行(全例とも後方侵入)された股関節疾患患者のうち,当院にて理学療法を受け,入院中または退院後に脱臼した15例(平均年齢67.5±9.0歳;男4例,女11例)を対象とした。対象者の手術状況(インプラントの設置など),手術から脱臼までの期間(複数回脱臼例は初回脱臼まで),脱臼動作・肢位,脱臼方向・回数,THA側の股関節可動域(ROM)と股関節周囲筋力(MMT)を調査した。なお,ROMとMMTは入院中の脱臼例と退院後脱臼例が混在しているため,退院時の評価とした。まず,各項目の基本統計を求めて特徴を把握し,次に脱臼時期や脱臼動作・肢位,脱臼回数,ROM,MMT間の関連性を各々解析した。【結果】明らかなインプラントの設置不良例は3例存在した。脱臼までの平均期間は15.9ヵ月(0から55ヵ月)で,2ヵ月以内が7例,6ヵ月以上が8例であった。後方脱臼は11例で,脱臼肢位・動作は,しゃがみ込み(和式トイレでの動作,立ち上がり時),椅座位での体幹前屈(冷蔵庫内の物品の出し入れ,床のものを拾うなど)が圧倒的に多く,他には,何らかの作業中に股関節屈曲,内転,内旋肢位を強いられた時,転倒,靴の着脱が挙げられた。前方脱臼は4例で、脱臼肢位・動作は急激な体幹の伸展や転倒であった。脱臼回数は10回が1例,4回が3例,2から3回が5例,1回が6例であった。平均ROMは屈曲99.3°,伸展9.3°,外転25.7°,内転8.1°で,MMTは内外旋,外転が低い傾向にあるものの,平均的に4から5レベルで,低下の著しい症例は存在しなかった。 脱臼期間を2ヵ月以内の群と6ヵ月以上の群に分けると,2ヵ月以内の群では,しゃがみ動作や椅座位での動作時に脱臼する者が有意に多かった(Fisherの正確確率検定;p<0.01)。前方脱臼例は全て2回以上脱臼を繰り返していた。その他については,統計的に有意な関連性はみられなかった。【考察】脱臼動作・肢位は,後方アプローチの禁忌である過度の股関節屈曲を伴う動作が多かった。特に術後2ヵ月以内の症例が椅座位で体幹前屈するなどの比較的軽微な屈曲動作で脱臼するのは,軟部組織の修復が不完全であるためと考えた。複数回脱臼例は本人の不注意が主な原因だろうが,前方脱臼例は腰椎・骨盤のアライメントの異常も影響していると推測する。全体的にROMやMMTは良好であったため,身体活動が高く不注意度も増すのかもしれない。このような特徴を踏まえて,術前または術後早期から脱臼予防の指導を行い,術後期間別に指導内容を変えたり,前方脱臼の可能性がある例では特別な配慮が必要がある。
  • 鈴木 由佳理, 岡田 誠, 寺西 利生, 才藤 栄一, 小松 真一, 加藤 正樹, 池上 久美子, 林 ひろみ, 阿部 友和
    セッションID: DO416
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    はじめに 股関節疾患患者は疼痛,関節変形,筋力低下などが要因となり跛行を呈することが多い.当院ではそのような股関節疾患患者で手術適応となったものに対し,術後早期からリハビリテーションがスムーズに実施できるよう整形外科外来受診時に,理学療法士による術前評価及び訓練指導を行っている.その際,歩行能力の評価として床反力計内蔵型トレッドミル(ADAL 3D Treadmill)を使用し,客観的かつ定量的に分析を行うことで,トレッドミルによる術前評価が術後リハビリテーションを進めていく上で有用であると考えられたので報告する.対象及び方法 当院整形外科にて,股関節疾患で手術適応とされた症例47名を対象とし,術前・術後の歩行分析を行った.内訳は変形性股関節症42名,大腿骨頭壊死4名,慢性関節リウマチ1名であり,一側性(以下,A群)が25名(56.5±15.0歳,20-78歳),両側性(以下,B群)19名(57.9±12.0歳,42-81歳),多関節性(以下,C群)3名(62.7±17.0歳,43-73歳)であった.術式は人工股関節全置換術40名,人工骨頭置換術2名,寛骨臼回転骨切り術4名,人工骨頭置換術+外反骨切り1名であった.術前評価は整形外科外来受診時とし,術後評価は退院時とした.術前・術後の評価項目には下肢MMT,下肢ROM,日整会変股症判定基準(以下,JOAスコア),歩行評価として多数歩かつ3成分(垂直・前後・左右成分)の床反力が計測可能な床反力計内蔵型トレッドミルを用いた.歩行速度はトレッドミル上で歩行した時の快適歩行速度とし,普段補助具を使用している症例には手すりの使用を許可した.結果及び考察 JOAスコアの術前・術後を比較すると,術前の術側においてA_から_Cの3群ともに疼痛の得点で低値を示したが,術後には疼痛の改善が著明であり合計点に大きな変化を示した.歩行能力の項目ではA群で術前より高得点を示し,術前から術後の変化が10.6点から11.7点であったのに対し,B群,C群では7.6点から9.0点,5.0点から10.0点であった.このような術前に歩行能力が低下していた症例の床反力波形は垂直成分の1峰性化,前後成分の制動期・駆動期の消失,側方成分の左右差がみられたのに対し,術後には重心移動がスムーズとなり,前後成分で制動期・駆動期の出現,側方成分の左右均等化,ばらつきの減少を認め,正常波形に近づく傾向を示した.また,床反力計内蔵型トレッドミルは左右を視覚的に比較することが容易であり,股関節疾患に特有の逃避性跛行や手すりの有無による歩容の変化を波形から捉えることが可能であった.このように,術前からトレッドミル歩行分析を導入することで主観的な観察では判断し難い術側への重心移動が的確に把握でき,術後の正常歩行獲得のための治療プログラム立案に有用なものになると思われた.
  • 山崎 貴峰, 久保 秀一, 松井 知之, 畠中 泰彦, 長谷 斉, 井上 重洋, 久保 俊一
    セッションID: DO417
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】前期、初期の変形性股関節症(以下変股症)患者は、末期変股症患者などと違い極度の跛行などは認めず、その歩行状態は比較的良好である場合が多い。そのため、寛骨臼回転骨切り術(Rotational Acetabular Osteotomy以下RAO)など、変性進行防止目的に行われる手術を拒む患者も少なくない。 今回、我々はRAO施行目的に入院した初期変股症患者の歩行を解析し、術前,術後理学療法の問題点を検討したので報告する。【対象】片側RAO術直前患者(右施行予定4例、左施行予定1例)女性5名(平均年齢38.6±7.8歳、体重55.4±8.7kg、身長157.6±4.4cm)、全例とも初期変股症患者である。また、RAO施行予定側を患側、対側を健側とした。【方法】被検者の体表上(両側の肩峰、大転子、膝関節裂隙、足関節外顆、第5中足骨頭)に赤外線反射マーカーを貼り、床反力計(Kisler;9281B11)を設置した7mの歩行路を自由歩行させた。同時に、左右斜め前方及び後方45度に各2台、正面に1台設置した赤外線カメラにて撮影し、三次元動作解析装置(BTS;ELITE Plus)に取り込み動作解析を行った。測定した歩行データから床反力、関節角度、関節モーメントを計算し健側患側間検討した。さらに、遊脚側の骨盤前方移動量、大腿骨前傾角度についても検討した。検定には2群間に対応のあるT-testを用い、危険率5%で検討した。【結果】床反力、関節モーメントでは一定の傾向を認めなかった。立脚期後期における股関節最大伸展角度は、患側6.6±5.1°,健側12.0±0.7°と患側でより低い傾向を示した。大腿骨前傾角度は、患側82.9±5.1°,健側77.0±3.3°と有意に高値を示し (P<0.05),健側に比べ大腿骨はより垂直であった。また、骨盤の前方移動量は,患側立脚期2.8±1.1cm,健側立脚期4.9±1.7cmと患側立脚期において、遊脚側骨盤移動量は低い傾向を示した。【考察】変股症の初期症状は、関節列隙の狭少化や運動時痛など比較的軽微な変化である。歩容も極度の跛行などはなく、良好である場合が多い。そのため、床反力や関節モーメントの結果からは、一定の傾向を認めなかった。しかし、立脚後期の骨盤と股関節の運動を分析すると、患側立脚期に骨盤の前方移動量の低下傾向,股関節伸展制限傾向を認めた。また、立脚後期の骨盤と股関節の複合した運動である大腿骨前傾角度では、患側は健側に比べ優位に垂直位であった。これらから、その歩行状態はいわゆる「骨盤が引けた状態」であると推察した。 よって、初期変股症患者の歩行であっても、患側は既に跛行を呈しており、RAO術前あるいは術後の後療法においても外転筋トレーニングだけでなく、股関節伸展,回旋の複合的な側面を考慮したアプローチが必要であると考えた。
  • 田中 尚喜, 小松 泰喜, 吉野 直美, 矢部 裕一朗
    セッションID: DO418
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】疼痛性踵部パッド(Painful Heel Fat Pad)と、同じ踵部の痛みを主訴とする足底腱膜炎とは基本的に疼痛部位と出現場面が異なる。しかし、解剖学的な位置関係から診断上混同されることが多く、この病態に対する報告や社会的認知は非常に少ない。今回、当院足外来で疼痛性踵部パッド症と診断された複数の患者の加療の機会を得、本疾患の特徴に即した簡便なテーピングを考案したので報告する。【病態】疼痛の出現部位は踵部後・外側から中央部であり、出現場面は荷重時、特に踵接地期に多い。慢性期では、疼痛を回避する歩行を習得するに従い、起床時や歩行開始第1歩目に出現しやすい。ジャンプなどの着地や肥満老人に多いとの報告もあるが、年齢・性別および体重に関する一定の傾向や踵部への過度のストレスや踵部の外傷の既往はない。しかし、足部の計測によって得られた足囲(width)では、全ての症例がC以下と非常に細い足を有していた。さらに、前医で処方された衝撃吸収用装具などでも症状を改善するには至らなかった。 したがって、これらの患者では自前の衝撃吸収機構としての踵部パッド自体が扁平化し、十分機能していないため側方から圧迫して、これを補助する必要がある。しかし、これらの患者では非常に細い足囲のため、十分な側方からの圧迫力を有する履物を購入することが困難なため、テープによる側方からの圧迫を試みた。【方法】アンダーラップを設置した後、38mmホワイトテープを用い、アンカーを設置。踵部を側方より圧迫するようにアンカー内側より外側へ2重にテープを設置した後、再びアンカー部をロックにて固定した。【結果】テープ設置直後より荷重痛・圧痛ともに消失した。同意を得られた1症例のテープ設置前・後の床反力計での歩行解析では、歩行速度の上昇、ストライド長の延長、踵接地期における鉛直・前後分力の上昇が認められた。また、指導した全ての症例において、疼痛が沈静化するまでの間、自力にてテープを設置、疼痛のコントロールが可能であった。【考察】疼痛性踵部パッドの治療には、ヒールカップ装具や衝撃吸収装具の着用が一般的であったが、市販の履物の着用、疼痛出現場面としての起床時への対応が困難であった。しかし、今回考案したテーピングは、非常に簡便であり、自力にてこれらの問題にも対応可能であり、本疾患の治療には有効であると考えられた。
  • 転倒方向による転倒パターンの違いについて
    島 浩人, 岡 正典, 中村 孝志, 依岡 徹, 吉本 和徳, 神先 秀人, 吉岡 照雄
    セッションID: DO419
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】大腿骨頚部骨折の発生機転としては大部分が転倒であり、五十嵐らは530症例の受傷機転を調べたところ、89%が転倒であると報告している。しかし、転倒研究の多くは運動機能、生活環境、薬物等との関連などの内的、外的要因について調査されているが、転倒動作の分析についての報告しているものは少ない。大転子の衝撃により大腿骨頸部骨折が起こるとされているが、転倒方向の違いや転倒時の防御反応により、接地する身体部位や大転子への衝撃にも違いがあると考えられる。今回、我々は被検者を転倒させる装置を開発し、それを用いて転倒方向による転倒パターンの違いについて検討したので報告する。【方法】転倒装置については幅1m、長さ2.5mの底にキャスターついた台の端に被検者に立ってもらい、その台がスプリング(バネ係数:2kgf/cm)の作用により、急激に動き出し被検者が転倒するという仕組みである。安全対策としては転倒方向に厚さ30cmのマットレスを敷き詰めた。対象は本研究の趣旨、目的に同意した形態異常や運動器疾患を有さない健常女性4名、平均年齢38.5±15.9才(22から58才)であった。被検者には身体の部位が特定しやすいように伸縮性のある素材で身体にフィットするスーツきてもらい、体表面にマーカをつけた。被検者に転倒装置に立ってもらい、何の警告もなしに台を動かし転倒させ、その転倒シーンを250frame/sのハイスピードカメラ(PHOTRON製FASTCAM-PCI)2台で撮影した。台に立つ方向としては、各方向に転倒できるように、台の進行方向に対して前方、斜前方、側方、斜後方、後方とし5方向に転倒させ、接地部位の順序と大転子の衝撃に着目した。【結果】1)前方への転倒:3例では膝→手が接地し、1例では両膝、両手が同時に接地し、四つ這い位をとった。2)斜前方の転倒:3例では前方(マット側)の膝→大転子、1例では手→膝を接地して四つ這いとなった。3)側方への転倒:2例では先に膝→大転子が接地し、他の2例では大転子から接地した。大転子から接地した2例についてはsteppingといった防御反応が認められなかった。4)斜後方への転倒:3例では大転子から接地し、1例では手掌(マット側)と大転子と坐骨間が同時に接地した。4例とも接地する瞬間の股関節は外旋していた。5)後方への転倒:3例では坐骨→手が接地し、1例では手→坐骨と接地した。【考察】前方、後方転倒では大転子の接地はなく、斜前方転倒においては先に膝が接地し、大転子への衝撃を分散されていると考えられる。側方転倒においては足部のsteppingがある場合は膝が先に接地し、大転子の衝撃を分散させているが、それがない場合は大転子から接地し、さらに転倒方向が斜後方になるとsteppingの有無にかかわらず、大転子から接地する率が高くなり、かつ股関節が外旋していることも加え、大転子に加わる応力が強まるのではないかと考えられる。よって、斜後方への転倒が大腿骨頸部骨折を引き起こしやすい最も危険な転倒ではないかと考えられる。
  • 大迫 信哉, 山下 導人, 牛ノ濱 政喜, 園田 昭彦
    セッションID: DO442
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉変形性股関節症(以下変股症)及び股関節全置換術(以下THA)等は、構築学的、病理組織学的、外科的侵入時等の多因子による股関節周囲筋、特に外転筋群の機能低下がみられる。近年インプラント、ならびに手術手技の改良により早期荷重、早期ADL獲得の傾向にある。今回THA術前術後の外転筋力の短、中期経過を調査したので術後7年目までの50例50股の経過報告を行う。〈対象・調査期間〉調査期間:H14年5月からH14年10月までの6ヶ月。症例は全て女性50例。原疾患:変股症。平均年齢:67.9歳。手術時平均年齢:63.9歳。術後1年:12例。3年:13例。5年:13例。7年:12例。健常群は全て女性10例。平均年齢:64.2歳。〈方法〉測定肢位は股関節外転10°、足関節外果部でIsometricにて測定。術後1年群、3年群、5年群、7年群の術前後を比較。さらに50症例全てを術前と手術後1年未満、1年から3年未満、3年から5年未満、5年から7年に区分し、比較した。また各々の経過期間を健常群(60歳代)と比較。測定は3ヶ月ごとに計測し、それぞれの群間を比較検討した。〈結果〉単位:(Nm)群間比較)1術前筋力:全ての群において有意差なし。2術後筋力:平均1年群75.8、3年群63.6、5年群72.6、7年群55.9。術後1年群と7年群、3年群と7年群、5年群と7年群とに有意差有り。経過期間比較)平均術前40.12、術後1年未満75.8、1年から3年未満73.6、3年から5年未満72.6、5年から7年55.9、健常群75.8であった。術前は全てに対して有意差がみられた。術後1年未満、1年から3年未満、3年から5年未満、健常群間では有意差はなく、5年から7年では全て有意差がみられた(p<0.05)。〈考察〉今回、変股症に対する外転筋力の推移を検討した。術前から術後5年間は筋力に差はなく、5年から7年で有意な差が生じた。また健常群との比較においても同様の結果であった。術後1年ではトルク値が最大値を示し、その後5年まで変化なく経過し、術前レベル以上ではあったものの、5年以降低下する傾向がみられた。蟹江によると、術後筋力は約2年まで上昇して、その後低下すると述べている。当院では入院期間3ヶ月でプログラムを行っているが、退院時において杖歩行レベルは若干名のみで、十分な結果が得られている。今回の調査において術後1年で筋力が健常者と同程度に達し、その後5年間にわたり筋力が健常群と同様の値で維持できたことは蟹江らと比較しても満足のいく結果となった。また術前より術後5年まで有意差がなかったことは、5年後までは50症例全てほぼ同一の経過を辿ると予想することができる。したがって外転筋力推移調査で最大値を示した術後1年までは、筋力強化に最も重要な期間であると共に、他の時期よりも訓練効果の期待できる期間であり、5年以降の筋力低下期間がより注意を要する期間であることが推察できる。今後は引き続き術後1年以内の筋力強化と5年以内のADL指導並びに家庭内訓練の再確認と5年以降の症例の再評価を行っていき、今後の経過を観察したいと考える。
  • 長田 康弘, 辻村 康彦, 荻原 圭三, 高田 直也, 山田 邦雄, 今泉 司
    セッションID: DO443
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】高齢者に多発する大腿骨頚部骨折の治療は,できる限り早期からのリハビリテーションが必須である.そのために患者の能力に応じた術後プログラムの作成を考える際,術前術後を通し一貫した下肢機能を把握し得る評価表の必要性が感じられた.当院では,機能上最も重要と思われるADLに着目し,術前の状態をも評価し得る独自の評価表を作成し,臨床応用してきたのでの紹介する.【小牧式下肢ADL評価表】この評価表の特徴は全て問診により評価が可能であり,またその項目はいずれも基本動作を中心に,日常生活に必要な一般的身体動作の中から特に下肢機能に関する動作のみを選択したことにある.動作内容を3つの項目に分類,さらに全26項目に細分し総点100点とした.第1項目は起居・移動動作20項目で86点を満点とし,中でも歩行に関しては特に重要と考え40点を配した.第2項目は更衣・整容動作4項目で10点を,第3項目は排泄動作2項目で4点を配した.また排泄動作については可能,不可能により高齢者の満足度が大きく異なるため自立度を重視し,トイレの様式についても同時にアンケートできるようにした.評点は健常人を満点の100点とし,ADL上全く機能のないものを0点とした.ちなみに我々は本評価表で60点を獲得する事が洋式生活の自立レベルと判断している.【対象及び方法】平成12年1月より平成14年4月までに大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術(セメント)またはガンマネイル法を施行し,経時的評価が可能であった44例を対象とし,小牧式下肢ADL評価表を用い,その成績の推移につき検討した.また,評価する検者間の誤差を検討するため,各症例ごと二検者による評価を行い比較した.【結果】小牧式ADL評価表を用いての術後成績の推移は平均値で術前83.7点,術後1カ月月66.4点,3カ月71.7点,6カ月76.6点であり,ほとんどの症例において術後1カ月で洋式生活自立レベルに達しており,その後もADL能力の向上がみられた.また,検者間による誤差は最大で4点,平均1.2点であり,統計的有意差は認められなかった.【考察】大腿骨頚部骨折に対し小牧式下肢ADL評価表を用いた際の利点は1)術前の能力評価も可能であり,リハビリテーションのゴール設定に有用である2)日常動作をよく反映しており,実践的で下肢能力を的確に評価できる3)外来で比較的簡便に使用でき,高齢者にも理解しやすいことなどに要約される.この評価表を用いることにより短時間で容易に術前能力を知ることが可能となり,能動的なリハビリテーションを施行することに結びついた.ただ漫然と治療を行うのではなく,個々の能力や退院後の生活様式に応じた指導をしていくことが必要である.当院では術前のADL評価点数を参考に,退院時の目標設定や退院後の社会生活の指導を行っている.これらの点で有用な評価表であると思われる.
  • 藤田 博暁, 荒畑 和美, 内山 覚, 森 隆之, 吉羽 誠治, 栗原 美智, 庭野 ますみ, 国分 江美佳, 山口 勇, 太田 隆, 石橋 ...
    セッションID: DO444
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】大腿骨頸部骨折は高齢者に多く,脳血管障害,痴呆とともに寝たきりの主要要因となり,機能予後が生命予後にも影響を与えると言われている。一方,手術方法や術後管理の改善と理学療法の進め方により,骨折後も高いADLを維持している高齢者も少なくない。しかし,骨折後の高齢者の運動能力を調査した報告は少なく,運動能力とADLとの関連も不明である。今回我々は,退院後の大腿骨頸部骨折患者の ADL調査と運動能力測定を行い,両者の相関を検討したので報告する。【対象と方法】1999年1月から2001年5月までに,東京都老人医療センター整形外科にて大腿骨頸部骨折治療を受けた372例(男性68例,女性304例,平均年齢84.2±7.9歳)を対象とし,ADLに関するアンケート調査を行った。退院後調査までの期間は3.9ヶ月から34ヶ月,平均19.1ヶ月である。調査内容は,歩行能力(歩行不可,屋内のみ,屋外30分以内,30分以上の4段階),BADL,IADL,及び要介護度である。また,自立歩行可能な症例のうち44例(男性6例,女性38例,平均年齢81.0±7.0歳)については,運動能力測定を行った。測定項目は,下肢ROM,膝伸展筋トルク,握力,10m歩行時間,Timed Up & Go Test,Functional Reach Test,重心動揺計による重心動揺距離,ロンベルグ率,及びMMSEである。【結果】372例中191例でアンケート調査の回答が得られた。これにより,BADLはIADLと歩行能力,要介護度との間で高い相関を認め,IADLは歩行能力,要介護度の間で高い相関を認めた。運動機能測定を行った44名の結果では,BADLはいずれの項目とも相関は見られなかった。IADLと相関が高かったのは膝関節屈曲拘縮,膝伸展筋トルク,握力,10m歩行時間,Timed Up & GoTest,MMSEであった(p<0.0001)。一方,重心動揺距離,ロンベルグ率,Functional Reach TestはIADLとの相関は低かった。【考察】大腿骨頸部骨折の生命予後に関して,退院時のADLが重要な規定因子であるといわれている。今回我々が調査した運動能力は,IADLとの関連が深いことがわかった。特にIADLと関連が深かった筋力や関節可動域,歩行能力は,退院後も継続したトレーニングにより改善が可能な項目である。今回用いた運動機能評価は,大腿骨頸部骨折患者の退院後のADL維持・改善を図る指標として有効であることが示唆された。【結語】大腿骨頚部骨折後の高齢者において,IADLスコアは,膝関節屈曲拘縮,膝伸展筋力,握力,歩行速度,痴呆の程度と高い相関があった。
  • 大腿骨頚部骨折に対するアプローチ
    筧 重和, 恒川 俊彦, 服部 秀次, 沈 寿代, 近藤 達也
    セッションID: DO445
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】高齢者に対するリハビリテーション(以下リハ)は、介護保険施行後重要となっている。高齢者のリハの目的は、介護予防・自立支援・日常生活の範囲拡大などである。高齢者のリハの方法の1つとして、アクティブ・アプローチ・コンンセプト(以下ACC)がある。ACCは、スリングを用いたスリング・エクササイズ・セラピー(以下SET)、空圧トレーニングマシーンを使用したアプローチにて高齢者リハ行うものである。今回我々は、高齢者大腿骨頚部骨折に対してSETを行う事により、股関節外転可動域拡大に良好な結果を得たので報告する。
    【対象】対象は、デイケアに通っている大腿骨頚部骨折既往歴のある5名とした。男性1名、女性4名。70歳代4名、80歳台1名。発症より6ヶ月から1年未満2名、1年以上3名。杖による自立歩行可能1名、介助杖歩行2名、歩行不可2名である。
    【方法】今回、インターリハ製スリングを使用しSETにて股関節外転運動を行った。対象者は、背臥位にて両股関節90度屈曲位、膝関節90度屈曲位とした。最初に、このポジションで5分間保持し、その後股関節10度屈曲位、膝関節伸展位にて股関節外転運動を自動運動にて行った。
    【結果】SETを使用し股関節外転を行った結果、SETを使用せずに行った場合より、5度から10度の自動運動可動域拡大がみられた。また、股関節外転時の痛みについても軽減された。
    【考察】今回、SETを使用し股関節90度屈曲位、膝関節90度屈曲位にて5分間保持することにより、股関節周囲の筋肉をリラクゼーションさせることができ、結果として自動運動による股関節外転運動の拡大につながったのではないかと考る。自動運動を行う場合の阻害因子の1つとして、痛みがある。この痛みを取り除くことは、高齢者のリハを行う上で重要な問題となる。痛みにより、リハに対するモチベーションの低下につながる要因となるからである。また、SETにより股関節10度屈曲位、下肢伸展位にて外転運動を行う時、下肢が少し浮いた状態となり、抗重力位での運動となることからより自動運動を行いやすいポジションであることも考えられる。徒手で股関節外転運動を行うと、自動運動のスピードとタイミングの難しさ、水平移動の難しさがあるが、SETにおいては自分のタイミング、自分のスピード、水平移動が容易となる。これらのことより、高齢者大腿頚部骨折におけるSETは有効ではないかと考える。今後、ACCを行うことにより日常生活の範囲拡大につなげれるか考え、今後の課題として検討したい。
  • 満園 育生, 山下 導人, 内野 潔
    セッションID: DO446
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    <はじめに> 踵骨骨折は、着床時に最も衝撃を受けやすい部位であり、ベーラー角の消失、踵骨の横経増大などの骨折の変形治癒や、長期にわたって疼痛や機能障害を残す難治性骨折の1つである。今回、短期間ではあるが検討する機会を得たので若干の考察を加えて報告する。<対象症例> H11年からH14年まで当院で治療した追跡可能な症例、11例15足を対象とした。男性7例9足(右1例、左4例、両側2例)、女性4例6足(右1例、左1例、両側2例)、年齢26から60歳(平均47.5歳)、追跡調査期間は平均6.5ヶ月(最短3ヶ月、最長12ヶ月)であった。<検査項目> Laasonenの評価法、Arnesenの分類、ベーラー角、横経増大の有無の計測と疼痛の有無、職場復帰までの期間を調査した。<結果> Laasonenの評価法excellent3足、good8足、fair4足、poor0足、Arnesenの分類、関節外骨折2例、tomgue-type7例、depression-type6例、保存療法9足(以下A群)、内観血的整復6足(以下B群)であった。ベーラー角は受傷時平均A群23.6度、B群13.1度、最終評価時平均A群23.3度、B群21.2度、横経増大は受傷時A群2例平均4.5mm、B群6例5.8mm、最終評価時A群2例3.5mm、B群5例3.3mmであった。疼痛は、最終評価時A群5例、B群4例で外足部痛が主であった。受傷前の有職者7例中、職場復帰6例、復帰までの期間平均4.2ヶ月であった。<考察> 今回、踵骨骨折11例15足の追跡調査を行った。踵骨骨折後の後遺症として長期間の疼痛があげられた。原因として変形治癒に伴う距骨下関節症、外側骨皮質膨隆による狭窄性腓骨筋腱腱鞘炎、扁平足、下腿三頭筋筋力低下等が考えられる。大橋らは、圧迫骨折時に生じた踵骨外側の膨隆が整復後も残存し、腓骨筋腱を刺激し疼痛を誘発してると報告している。今回、我々の調査においても横経増大が十分整復されないものに疼痛が残存している症例が多かった。和田山らは、外足部痛は、横経増大と関連しており、横経増大が十分整復されないものに成績不良例が多く、予後を左右する因子として重要であると報告している。職場復帰においては、事務職者は疼痛の有無に関わらず早期に復帰しており、肉体労働者は復帰までに長期間を費やし復帰後も仕事に制限のある例もあった。今回短期間であったが今後さらに追跡調査行い経過観察していきたい。
  • 佐々木 晴香, 藤本 久子, 井町 仁美, 橋本 康子, 永井 栄一, 吉尾 雅春
    セッションID: DO447
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】今回、複合性局所性疼痛症候群(CRPS)慢性期患者に対して理学療法を行う機会を得たので報告する。
    【症例】21歳男性。H13.4.30交通事故にて右大腿骨・右前腕骨折、脳挫傷にて約1ヵ月間意識障害持続。意識回復後、右足関節より遠位に疼痛・発汗異常、浮腫などを認め、CRPSと診断。H14.2.12腰部交感神経切除術を施行。疼痛は若干減弱、発汗異常は解消するも、依然として疼痛、関節可動域(ROM)制限、血行障害が残存。H14.4.10当院での理学療法開始となった。
    【理学療法開始時所見】右足関節遠位部にアロディニア(異痛症)・痛覚過敏を認め、足尖にかけてより著明になる。患肢の足底接地・荷重は困難。座位時にも常に股・膝・足関節を屈曲し足底を接地しないようにしている状態であった。ROM制限は股関節伸展R-20°膝関節伸展R-45°L-40°足趾の屈曲拘縮は著明であった。また、患部に血流・皮膚温低下、色調変化を来し、両上肢・左下肢の末端にも異常発汗が認められた。
    【active中心の理学療法経過】まずactiveに足関節のROMexを行うことから開始した。疼痛を引き起こさない範囲で足関節の底背屈運動を行い、前脛骨筋の過剰な緊張を落とした。足関節背屈位保持により起こる腱の固定作用をゆるめることで、足趾の伸展を引き出した。約1ヵ月後、足関節の動きが出て来たことで動脈への圧迫を解消、血流が改善した。特に踵部での改善を認め、座位では意識的に踵接地することが可能となる。荷重能力は不十分で、立位時患肢への荷重はわずかであるにもかかわらず痛みの訴えが持続していた。しかし、さらに血流が改善するにつれ疼痛の訴えは減少し、約2ヵ月後交互式四脚歩行器にて歩行可能となる。この際患肢踵部が軽く接地するのみで荷重はされていなかった。
    【passive中心の理学療法経過】アロディニアは減少してきていたものの、わずかな刺激により下肢の屈曲反射が出現していた。そのため 4ヵ月後より塩酸モルヒネの服用により疼痛を管理しpassiveなROMexを開始した。その結果ROM制限は膝関節R-15°L-20°へ改善、足趾の屈曲拘縮の改善がみられた。足底〜足趾にかけてのアロディニアも減少し、触刺激に対応できるようになり、両松葉杖での歩行が可能となった。座位では足尖の接地可能。立位では踵部の荷重が主体であるが疼痛はなく、6ヵ月にて片松葉杖にて歩行可能となった。
    【考察】慢性期CRPS患者に対しactiveな運動を行っていくことで患部の血流・ROMの改善を図ることができた。さらに薬剤による疼痛コントロール下で積極的にROMex、荷重練習をすすめることにより、不動、循環障害、交感神経の異常反射、疼痛への恐怖という悪循環からの離脱を促進させることができ、歩行能力の獲得につながった。
  • 開運動連鎖と閉運動連鎖での比較
    松尾 高行, 岡田 育子, 神尾 昌利, 藤田 慎也, 森本 哲史, 阿部 信寛, 河村 顕治
    セッションID: DO448
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】前十字靱帯(以下 ACL )再建術後の競技復帰は早期化している。ACL 再建術後における膝関節周囲筋の筋萎縮は早期競技復帰に大きな影響をあたえる。また術前の患側/健側比が術後の筋力回復に影響を与えるという報告もある。今回、 ACL 再建術前に開運動連鎖(以下 OKC )および閉運動連鎖(以下 CKC )での筋力評価を行い患側/健側比の比較を行い、 さらにCKC の筋出力特性について検討した。【対象および方法】対象は ACL 損傷者9人(男性2人、女性7人)であり、年齢は 22.9 ± 11.1歳である。OKCはデュアルシンパッドを装着した CYBEX NORMを用いて、健側および患側の膝関節伸展、屈曲筋群の等速性筋力測定を行った。 CKC は閉運動連鎖型評価訓練機(オージー技研特注)を用いて、健側および患側の下肢伸展筋力を測定した。この閉運動連鎖型評価訓練機はサイクロイド曲線を利用し背臥位で足部が緩やかな円弧を描く運動が可能であり、あらかじめプログラムされたスピードでアームが動くので等速性運動が行える。フットプレートを押す力(以下、足部出力)を計測するためフットプレートの下に 3 軸ロードセルLSM-B-5KNSA15(共和)を設置した。センサインタフェース PCD-300A (共和)を用いて3 方向の出力をパソコンに同時に記録し、これらの分力より実際の足部の矢状面での出力とその方向を計算で求めた。被験者は股関節、膝関節屈曲位から下肢伸展方向へフットプレートを最大筋力で蹴り続けるように指示された。運動はデジタルビデオカメラで側面から撮影し NIH Image Ver. 1.62 で解析を行った。最大足部出力値をとった時について計算より求めた出力とその方向から股、膝、足関節のモーメントを算出した。【結果】OKC における伸展筋群では健側 1.78 Nm / kg 、患側 1.31 Nm / kg であり、屈曲筋群では健側 1.02 Nm / kg 、患側 0.71 Nm / kg であった。CKC では健側 3.2 Nm / kg 、患側 2.29 Nm / kg であった。患側/健側比はOKC の伸展筋群で 0.74 、屈曲筋群で 0.74 、CKC で 0.77 であり、それぞれ有意差は認められなかった。CKC における出力方向は健側では股関節と膝関節との中間点から足部に向かって出力されており、患側では健側に比べ膝関節に近い点から足部に向かって出力されていた。【考察】OKC および CKC の結果より膝伸展筋群、屈曲筋群の筋力低下が CKC における筋出力に影響を与えると考えられる。先行研究において CKC の設定で大腿四頭筋とハムストリングの同時収縮が起こるのは股関節と膝関節に挟まれた部位から足部に向かって出力するときであることが判っている。CKC の出力方向の違いは、患側が健側より膝伸展トルクを減少させ股関節伸展筋とハムストリングをより優位に収縮させて下肢を伸展させていると考えられる。すなわち ACL 損傷患者においては膝伸展時に脛骨を前方移動させないため、よりハムストリングを使った運動を行っていると考えられる。
  • 中村 光一郎, 山下 導人, 岸本 浩
    セッションID: DO449
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】近年、歩行分析は高度な機器が使用されつつある。今回、人工膝関節置換術(以下TKA)後と変形性膝関節症(以下OA)の歩行能力の調査を目的に、簡易な方法を用い調査を試みた。【対象】TKA群:両側TKA患者10名、20膝、全例OA。65から79歳。平均71歳。OA群:両側OA患者12名24膝。67から80歳。平均72歳。対象群:過去1年間下肢痛、外傷、疾患の既往がなく、独歩可能な高齢者7名、14膝。64から80歳。平均71.3歳。尚、全て女性を対象とした。【調査項目】1)歩行時間(10m最大努力)2)一歩幅(最大)3)膝屈曲・伸展角度4)JOA-S(疼痛)5)JOA-S(総計)。2)は、一歩幅/下肢長×100を値とし、対象群は1)、2)のみ調査した。【方法】A)TKA群において、1)から5)それぞれの相関関係。B)OA群において、1)から5)それぞれの相関関係。C)TKA群・OA群・対象群間の比較・検討。【調査結果】数値はTKA群、OA群、対象群の順に平均値を示す。1)歩行時間〔秒〕6.9、14.4、6.3。2)一歩幅〔cm〕右112.0、65.6、133.3。左110.2、66.1、135.4。3)膝屈曲角度〔°〕右118.4、144.6。左116.7、154.4。膝伸展角度〔°〕右-0.7、-7.5。左-2.9、-8.8。4)JOA-S(疼痛)〔点〕右28.5、16.3。左28.5、15.8。5)JOA-S(総計)〔点〕右84.1、60.0。左82.7、60.0。【検定結果】相関性。A)歩行時間と屈曲角度〔右r=-0.74、左r=-0.58〕。歩行時間と伸展角度〔右r=-0.79、左r=-0.62〕。歩行時間とJOA-S(総計)〔右r=-0.88、左r=-0.71〕。一歩幅と屈曲角度〔右r=0.8〕。一歩幅と伸展角度〔右r=0.97、左r=0.83〕。一歩幅とJOA-S(総計)〔左r=0.73〕。B)歩行時間とJOA-S(疼痛)〔右r=-0.72、左r=-0.79〕。一歩幅とJOA-S(疼痛)〔右r=0.78、左r=0.77〕。C)歩行時間:有意差あり。(対象群<TKA群<OA群、p<0.01)。一歩幅:有意差あり。(対象群>TKA群>OA群、p<0.01)。また、年齢、歩行時間、一歩幅間それぞれにに相関性あり。【考察】両側TKA群において、膝屈曲・伸展角度と歩行時間、一歩幅間に相関を認めた。これは、TKA後の良好な可動域の獲得は、膝関節動的機能を向上させるという、飯盛らの報告と一致し、JOA-S(総計)が高い程、歩行能力が優れていると予測された。OA群において、JOA-S(疼痛)と歩行時間・一歩幅間に相関を認めた。生島らは、OA患者は疼痛と歩行能力間に深い関係があると述べており、我々も疼痛が強い程歩行能力が劣るという、同様の結果が得られた。TKA後は、良好な膝関節可動域を獲得し、OA患者は疼痛を取り除く事が、より良い歩行へ繋がると予想された。また、TKA群の歩行能力は、対象群と比べ劣り、OA群より優れている事も予想された。【終わりに】今回は歩行時間・一歩幅を用いた。この評価は広い空間を用いず、簡易に評価でき、運動療法の動機づけへ利用しやすい。今後、症例数を増やし、更なる調査に役立てたい。
  • 西村 文江, 石田 崇, 伊勢 眞樹
    セッションID: DO450
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    人工膝関節全置換術後のクリティカルパス改正への取り組みについて【はじめに】当院では、早期離床・早期退院を目標に1998 年より当リハビリテーション科(以下リハ科)の理学療法プログラムが整形外科TKA(セメント使用)クリティカルパス(以下パス)に取り入れられた。しかし、現行のTKAパス・理学療法プログラムは病棟スタッフ、リハビリスタッフがそれぞれ単独で作成しパスの効果が十分には得られていなかった。今回は、パスの標準化を目標に当院でパスの改正を行ったのでその紹介を行う。【対象と方法】対象は平成13年4月から平成14年4月に変形性膝関節症または慢性関節リウマチによりTKAを施行した43例であった。整形外科医師、整形外科病棟・外来看護師、医療ソーシャルワーカー(以下MSW)、理学療法士(以下PT)、作業療法士(以下OT)が医療チームを編成し、2002年5月より月一回の割合でパス検討会を開催した。PT・OTではバリアンス分析を行い、それをもとに各職種間で現行パスの内容について見直しを行った。調査項目は1)術後在院日数、2)歩行耐久性、3)膝関節屈曲可動域、4)日常生活動作(更衣・排泄・入浴動作自立)とした。マイナーバリアンスとして土日を考慮し±3日とした。【結果】・術後在院日数(平均 術後30日)28日以内;56.4% 29日以上;43.6% ・歩行耐久性120m獲得(平均 術後20日)22日以内;48.8% 25日以内;67.4% ・膝関節屈曲可動域90°獲得(平均 術後15日)22日以内;69.7% 25日以内;83.7% ・日常生活動作自立(平均 術後14日)22日以内;79.0% 25日以内;95.3% 上記の結果から以下の点においてパスの改正を行った。1)日数の修正_丸1_入院日;3から4日前から前日へ_丸2_術後在院日数;29日から22日へ_丸3_院内歩行可;15から21日目から8から14日目へ_丸4_階段昇降可;22から28日目から15から21日へ 2) PT・OTによる術前・術後バリアンス評価の導入 3)パスの内容をチェック項目式に変更 ・入院前外来にて諸検査、PT・OT術前評価、術前後バリアンス評価を行うことにより入院日は前日に変更可能となった。術前・術後8日目にリハ科のバリアンス判定を行い主治医に報告する。抜糸後10日目に主治医がリハ科、看護師、家族からの情報をもとに総合的判断を行い転院又は退院の最終決定を下し、転院の場合は速やかにMSWが転院先との交渉を開始する流れとなった。【まとめ】パスの改正に当たって医療チームを編成して検討会を開催したのは整形外科部門において初めての試みであった。これまではパスを作成することに主眼が置かれパスの適正を検討するところまでは至っていなかったが、今回の取り組みによりチーム医療の連携を強化するとともにエビデンスにもとづいたパスの改正を行うことができた。
  • スポーツ復帰した再建術後患者の筋力,筋萎縮及び周波数特性の関係
    山田 英司, 加藤 浩, 田中 聡, 森田 伸, 田仲 勝一, 宮本 賢作, 真柴 賛, 五味 徳之, 乗松 尋道
    セッションID: DO451
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】前十字靭帯(以下ACL)再建術後患者では,筋断面積のみでなく神経因子も筋力に影響を及ぼしていると考えられている.臨床においても,筋力にほとんど左右差を認めないにもかかわらず,筋萎縮が残存する症例も多く,正常筋と比較すると,筋線維の動員様式や発火頻度などの活動パターンが異なっていると考えられる.そこで今回我々はスポーツ復帰が可能となったACL再建術後患者の筋活動パターンの特徴を明らかにすることを目的とし,等速性運動時の表面筋電図をwavelet変換を用いて動的周波数解析を行い,筋力,筋萎縮との関係について検討したので報告する.【対象及び方法】当院にて半腱様筋・薄筋腱による鏡視下ACL再建術を施行され,スポーツ活動が可能となったACL再建術後患者10例(手術から測定までの期間:平均38か月±31か月)を対象とした.方法はCybex770を用いて,角速度 60deg/secで最大努力による膝伸展運動を3回施行し,同時に内側広筋の表面筋電図を測定した.表面筋電図の測定にはMyosystem1200sを使用し,A/D変換後,MATLAB Ver.6.1に取り込み,連続wavelet変換による周波数解析を行った.そして,ピークトルク(以下PT)発揮時の平均周波数(以下peak MePF)の平均値を算出した.また,超音波装置を用いて,安静時及び最大等尺性収縮時(膝伸展位)の電極貼付部位の筋厚を測定した.分析として,健側と患側のPT,筋厚及びpeak MePFを比較した.次に,peak MePFの健側と患側の差とPTの健側に対する患側の割合(以下健側比)との関係について検討した.また,患側のpeak MePFが健側の値に対して高い群と低い群に分類し,PTの健側比,筋厚の差を比較した.なお,有意水準は5%とした.【結果】健側と患側の比較では,PTは有意に健側が高く,安静時及び収縮時の筋厚も有意に健側の方が大きかったが,peak MePFには有意差を認めなかった.peak MePFの差とPTの健側比との間には,有意な負の相関を認めた(R=0.688, p=0.028).2群間の比較では,高い群においてPTの健側比が有意に高く,収縮時の筋厚の差も有意に少なかったが,安静時の筋厚の差には有意差を認めなかった.【考察】今回の結果,患側の有意なPTの低下と筋萎縮を認めたが,peak MePFの差とPTの健側比との関係では,PTの差が大きいほどpeak MePFの健側との差も大きく,患側のPTの値が健側に近づくに伴いpeak MePFの差が減少し,健側比が90%以上の症例では,逆に患側のpeak MePFの方が高かった.このことから,健患比の高い症例では,運動単位の発火頻度を上昇させることにより筋萎縮を補っていると考えられ,正常の筋とは異なった筋活動パターンが起こっていることが示唆された.
  • 足底圧中心軌跡から得られた微分波形に着目して
    城下 貴司, 河野 弘, 額谷 一夫, 高橋 秀寿
    セッションID: DO452
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【はじめに】歩行中の床反力作用点の軌跡いわゆるElftmanのあおり歩行は健常者等でよく検討されてきた。今回は変形性膝関節症(以下膝OA)患者の歩行の特徴をTKA施行、未施行および健常者で比較検討する事を目的に上記の軌跡波形を独自に算出し、それを微分解析し検討した。
    【対象及び方法】対象は膝OA患者2名。対照群として健常者10足を測定した。膝OA患者は1名(S)は両膝ともTKA(total knee arthroplasty)未施行の、年齢70歳、女性、グレードIIであった。他の1名(T)、年齢75歳、女性は、1996.5.23に左膝、1999.8.31に右膝のTKAを施行している。双方とも治療経過は良好であった。健常群は膝の明らかな疼痛や機能障害を認めない健常者10足(男性5足:女性5足)平均年齢27.8歳であった。被験者に「自然な速さで歩くように」と指示し屋内平地10steps歩かせた。足底圧分布測定装置(Parotec-Systemヘンリージャパン)を使用。被験者は裸足でセンサーを足底にアンダーラップで固定した。全体の圧値に対するそれぞれのセンサーの位置データにかかる圧で重み付けをして足圧中心軌跡データを算出し解析した。
    【結果】健常者の軌跡波形は前後方向成分で共通しているのは2回緩やかになる時期が共通して認められた。微分波形からは、歩行周期の約21%と73%の2回に極小値が、歩行周期の約45%に極大値が認められた症例Sでは約14%で極大値、約70%で極小値が、症例Tでは約55%で極小値、約91%で極大値が認められた。
    【考察】軌跡データーの微分は速度データーであることを考えると健常者では、立脚中に制動、駆動、そして再び制動した。TKA未施行の症例Sでは立脚初期の制動は認められずに駆動と1回の制動のみが認められる。TKA施行の症例Tでは逆に立脚初期から中期にかけての1回の制動とその後の駆動がみとめられるのみで2回目の制動は認められなかった。症例Sの立脚初期(1回目)の制動が認められずに駆動してしまうのは多数の先行研究があるように立脚初期にthrust現象が起こる事によることからかもしれない。それに対してTKAを施行した症例Tでは立脚後期(2回目)の制動が認められないのは立脚後期になにかしらの機能障害があることを示唆していると思われた。以上から、TKA未施行の症例では立脚初期に、TKA施行後の症例では立脚後期に着目して治療する必要があると思われる。今後は症例数を増やし上述の2回の制動の運動学的な役割を解析していく必要がある。
  • 村田 薫克, 千鳥 司浩, 尾関 和子, 加藤 文之, 橋詰 玉枝子, 木村 伸也, 宮本 浩秀, 佐藤 啓二
    セッションID: DO453
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)施行患者に対するクリニカルパス(以下,CP)のバリアンスを分析し,理学療法スケジュールとの関連性を検討した.【理学療法スケジュール】術後1日より病棟で座位練習,筋力強化,可動域運動を開始する.車椅子へ移乗後リハ室にて立位,歩行練習を進め,遅くとも術後14日までに杖歩行練習を開始し,術後28日で退院となる.退院基準は杖歩行の自立である.【対象】2001年1月から2002年7月までに当院整形外科にてTKAを施行した37症例を対象とした.原疾患は変形性膝関節症26症例,関節リウマチ11症例,平均年齢はそれぞれ71.4歳,61.4歳であった.【検討項目】術後から杖歩行開始までの日数(以下,杖開始日数),杖歩行開始から杖歩行自立までの日数(以下,杖自立日数),術後から退院までの日数(以下,退院日数)を検討した.【結果】_丸1_杖開始日数は平均13.5日,杖歩行が開始できなかったバリアンスは,12例(32.4%)であり,疼痛や不安による体重支持困難,深部静脈血栓症の発症が原因であった.杖自立日数は,杖歩行を14日までに行った症例が平均3.2日,15日以上の症例は平均4.3日であり,差はみられなかった._丸2_退院日数は平均31.1日であった.当院では目標退院日を術後28日としているが,日柄の良い日に退院を希望する症例が多く,術後35日を目標退院日とすると,29例(78.4%)の症例がCPに適応していた.バリアンスは8例(21.6%)であり,他部門との連携の悪さ,家族の都合,歩行に対する不安が原因であった._丸3_杖開始日と退院日のバリアンスは同一症例であっても原因が異なっていた.【考察】退院日においてバリアンスを生じた8症例について検討を行った. 4症例は医療チーム要因によるもので,術後既往症を続けて治療することとなり,他部門との円滑な連携がとれなかったためで,医師間の連絡の強化や十分な患者の把握が必要と考えられる. 1症例は社会的要因によるもので,予定退院日に家族が迎えにこれないためで,術前より家族を含めた充分なスケジュール説明が必要であると考える. 3症例は患者要因によるもので,歩行に対する自信の低下(不安)により退院日が延長したためで,リハ室や病棟において安全に歩行練習ができる環境を整え,看護師との情報交換や病棟での日常生活指導を行う必要があると考える.今回の検討から,杖開始日のバリアンスの多くは,疼痛や自信の低下などが要因であったが,それが必ずしも退院日のバリアンスに直接結びつくわけではなかった。退院時のバリアンスは医療チーム要因や社会的要因の影響が大きい事が明らかになった.以上より,これらの要因に事前に対処することで,CPに適応する症例が増えるのではないかと考える.
  • 第3報
    山谷 佳世子, 唐沢 豊, 北目 南, 長谷川 睦, 秋山 典彦
    セッションID: DO825
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
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    【目的】第33・35回本学会にて、外来腰痛症患者のPT効果について報告した。デニスのペインスケール(以下Pスケールとする)を評価指標とし、あわせて自覚的総合評価として、PT施行前と比べ体の調子が良くなったかどうか(以下体調の変化とする)を調査した。今回、さらに症例数を増やしてPT効果を調査した。【対象と方法】対象は、平成8年8月から平成13年7月に整形外科からPT処方が出された、腰部に器質的疾患のない外来腰痛症患者473名中、追跡調査が可能であった115名。男性44名、女性71名、平均年齢36±15歳、平均経過観察期間27±13日であった。 PTは患者に個別に対応し、評価、体操指導とADL指導を行った。 調査項目は、_丸1_PT施行前後のPスケールの変化、_丸2_PT施行前後の体調の変化である。【結果】_丸1_PT施行前後のPスケールの変化は、初診時はP1が3名、P2が62名、P3が42名、P4が8名、P5が0。再診時はP1が40名、P2が64名、P3が10名、P4が0、P5が1名。改善率は、全体が58.3%、P2が40.3%、P3が83.3%、P4が87.5%。P2とP3では、危険率1%レベルで有意の差があった。P2とP4では、危険率5%レベルで有意の差があった。_丸2_PT施行前後の体調の変化は86名が追跡調査可能であった。P1は3名中、改善1名、不変2名、悪化0。P2は47名中、改善40名、不変5名、悪化2名。P3は29名中、改善24名、不変5名、悪化0。P4は7名中、改善5名、不変2名、悪化0。P5は0。改善率は、全体が81.4%、P1が33.3%、P2が85.1%、P3が82.8%、P4が71.4%であった。【考察】Pスケールを評価指標とした改善率は58.3%で、他文献報告例に比べて低かった。なかでもP2の改善率が40.3%と有意に低く、前回の報告と同様に軽症腰痛症患者の治療が困難であった。腰痛の原因がさまざまであることが、その原因であると考える。一方、P3以上の改善率が84%とP2より有意に高いことから、P3以上の重度腰痛症患者には確実に治療の効果を認めた。 体調の変化の改善率は全体で81.4%、Pスケールでは改善率の低いP2でも85.1%であり、他の自己評価を評価指標とした報告とほぼ同様の結果となった。【まとめ】1.Pスケールを指標とした改善率は、全体が58.3%、P2が40.3%、P3が83.3%、P4が87.5%であった。P2の改善率が有意に低かった。2.体調の変化でみると、改善率は81.4%であった。
  • 蛯子 智子, 対馬 栄輝, 武田 さおり, 齊藤 千恵美, 鈴木 樹里, 三戸 明夫
    セッションID: DO826
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】腰椎椎間板ヘルニア(ヘルニア)患者では,一般に下肢伸展位での腰椎前屈により神経根が伸張され疼痛が出現する。さらに,下肢屈曲位での腰椎前屈や腰椎後屈で疼痛が起こる症例も多い。これらの現象別に病態や症状の特徴を理解することは理学療法においても有益な情報となる。そこで,下肢屈曲位での腰椎前屈または腰椎後屈における疼痛の有無と,他の臨床症状,ヘルニアの部位・病型の間で,どのような関係があるか検討した。【対象と方法】対象は手術適応となったヘルニア患者18名(男性12名,女性6名,平均年齢27.7±7.5歳)であった。術式は全てLOVE法であった。高位はL4/5,L4/S1,L5/6,L5/S1とした。50歳以上の者,腰椎すべり,変性,不安定性を合併している者,2椎間以上にヘルニアがある者は除外した。 対象が手術を受ける前に,腹臥位でon hands(後屈)及び端坐位で体幹を前屈(前屈)させた時における疼痛の有無と部位を確認し,後屈で疼痛がある者(後屈群)と前屈で疼痛がある者(前屈群),更に後屈及び前屈共に疼痛がある者・ない者(その他の群)の3つに分類した。臨床症状として,安静時の腰痛の程度,安静時の下肢痛又はシビレ(下肢痛)の程度と部位,疼痛が出現してからの期間,SLRの角度,下肢の筋力(前脛骨筋,長母趾伸筋,腓骨筋,腓腹筋のMMT)と知覚障害(pin prick法)を評価した。腰痛,下肢痛の程度は日整会腰痛疾患治療成績判定基準に基づいて4段階に,SLRは30から70°,30°未満の2段階に分類した。下肢痛の部位は久野木ら(1993)の区分を参考に下肢を8領域に区分した。術前のMRI又は手術記録から,ヘルニアの部位と病型を詳細に確認した。ヘルニアの部位は正中,傍正中,傍正中から神経根直下,神経根直下,腋窩に,病型はsubligamentous extrusion,transligamentous extrusion,sequestrationに分類した。統計的解析にはKruskal Wallis検定とχ2検定を適用した。【結果】後屈群7名,前屈群7名,その他の群4名で,性別,年齢,ヘルニアの高位には有意差はなかった。臨床症状の項目については,安静時の疼痛又はシビレの部位が前屈群で有意に腰部と大腿外側に多かった(p<0.05)。その他の項目については全て有意差はなかった。【考察】前屈群では腰痛と大腿外側痛又はシビレが有意に多かったのは,ヘルニアによる硬膜嚢又は神経根への圧排が強いためと推測するが,ヘルニアの部位及び神経学的所見とは有意な関連はなかった。腰痛については神経根のみでなく交感神経を介した疼痛や筋,椎間関節の影響もあるためと考える。腰椎の運動痛にはヘルニアと神経根の位置関係や後縦靭帯の張力の影響だけでなく,腰椎の可動性や腰背筋の筋内圧などの影響も混在すると考え,今後,対象数を増やし,引き続き検討を行う必要がある。
  • 青木 一治, 木村 新吾, 友田 淳雄, 上原 徹, 鈴木 信治
    セッションID: DO827
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】腰椎椎間板ヘルニア(以下,HNP)患者の下肢の筋力低下は日常よく経験する。しかし,術後それらの筋力の回復過程に関する報告は少なく,そもそも筋力低下が回復するかどうか,どの程度の筋力低下なら実用段階まで回復の望みがあるのかなど,患者への説明に苦慮するのが現状であろう。今回,HNP患者の術後筋力回復経過を調査し,若干の知見を得たので報告する。【対象】手術目的で入院し,下肢筋力が徒手筋力テスト(以下,MMT)で4レベル以下であったHNP患者で,術後経過を観察できた35名(男30名,女5名)37肢,平均年齢40.7歳を対象とした。障害HNP高位はL4/5:25名,L5/S1:10名であった。HNPのタイプは,subligamentous extrusion(以下,SLE)10名,transligamentous extrusion(以下,TLE)17名,sequestered(以下,SEQ)8名であった。手術は全て顕微鏡下椎間板摘出術を行った。【方法】筋力測定は全てMMTで,各被験者につき同一検者が行い,前脛骨筋(以下,TA),長母指伸筋(以下,EHL),腓腹筋(以下,GC)および長母指屈筋(以下,FHL)の何れかに低下があるもので,術後筋力の推移をみた。追跡期間は最長6年で,平均11.1ヵ月であった。【結果】それぞれの筋で経過をみると,TAでは,3,4レベルのものは1ヵ月から6ヵ月の間に多くが回復していた。1,2レベルでは6ヵ月頃までには3,4レベルまで回復するが,その後5まで回復するものは少なかった。また,0の症例では1年経っても1レベルであったが,その後回復を始め,6年後には3レベルまで回復していた。EHLでも同様の傾向があり,1,2レベルのものは1年ほど経過を見ても3,4レベルの回復であった。GCでは,2レベルが境になっているようで,5まで回復するものと,大きな回復を見ないものがいた。FHLもGC同様の傾向であった。このように筋力の回復は,3,4レベルでは術後3ヵ月以内に回復するものが多いが,1,2レベルのものでは6ヵ月から1年の経過を要し,ある程度実用段階まで回復するが,長期間を要する。筋力の回復をHNPのタイプで比較すると,TA,EHLではSEQのもので著明な筋力低下を来しているものが多く,TLEでは0,1のものは予後が悪かった。一方GC,FHLはSEQでも術後の回復は良い傾向にあったが,GCの1,2レベルのものは筋力の回復をみないものもあった。【結語】術前の筋力と比較すると,何らかの回復をみたものが多かった。筋力の回復経過では,術前3レベル以上のものは数ヵ月で回復が期待できることが分かった。1,2レベルのものは,中には4,5レベルに回復するものもいるが,多くは4レベル未満の傾向が強く,完全な実用段階の回復ではなかった。
  • 重心動揺からの分析
    山本 尚司, 大藤 晃義, 大場 弘, 紅林 格, 本多 直人, 野田 直子
    セッションID: DO828
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】仙腸関節機能不全(以下SIJD)は、抹消関節の痛みや可動性のみならす、立位荷重バランスにも影響を及ぼしており(第20回関東甲信越理学療法士学会にて報告)、下肢筋力や柔軟性などの運動機能そのものを反映している(第37回日本理学療法学術大会にて報告)。今回、我々はSIJDと重心動揺との関係について調査し、その姿勢制御について興味ある知見を得たので報告する。【対象】被験者は、健常成人29名(男性17名、女性12名、年齢30.6±17.9歳、身長166.7±10.1cm、体重62.8±9.0g)であった。【方法】1)仙腸関節機能不全の評価は、Dejungの方法に順じ、片脚立位における左右の上後腸骨棘(PSIS)の上下降をパルペーションにて確認し、下降がみられない固定側をSIJDとした。2)重心動揺:前方を注視した閉足直立位にて、重心動揺計(木更津高専製)を用い、開眼および閉眼の順に30秒間測定した。次に、閉眼にて順後不同にて前後左右へ最大体重移動を行った位置でそれぞれ30秒間測定を行った。データ分析は、X(左右)方向Y(前後)方向の平均値(mm)を求めた。3)データ処理:開閉眼直立位間および閉眼直立位からの前後左右体重移動時の差について、左右のSIJD群に分け比較検討した。統計にはt検定を用い、危険率5%以下を有意差ありとした。【結果】右側にSIJDがみられたものは12名、左側は15名であり、2名についてはSIJDが認められなかったので除外してデータ処理を行った。開閉眼直立位における前後左右値に、有意な差はみられなかった。閉眼直立位からの体重移動時の差については、右側SIJDを基準とした場合、左への体重移動時に有意に前方への動揺がみられた(p<0.05)。また、前後体重移動において左側動揺が有意に、右側体重移動でさらに右側への動揺がつよくなる傾向がみられた(p<0.05)。【考察】我々はPI腸骨側では荷重しやすく下肢筋力も強くなる傾向がみられることを報告してきた。今回の結果では、視覚的に遮断した状態での直立位においては、前後体重移動時にSIJD側と反対方向への動揺がつよくなることが示された。静的な状態では仙腸関節の正常側に荷重傾向がみられるが、動的にはSIJDが壁となって体重移動を妨げているものと考えられる。また、左右への体重移動においてはX方向で対応しきれなかった動揺については、前後の動きにて制御していることが考えられる。また、他の姿勢制御の方法としてY方向に動揺を逃がすのではなく、SIJD側にあえて乗り上げて姿勢制御していることも推測される。これは、直立位での左右荷重バランスの比率にって変わってくるものと考えられる。今後さらに、荷重バランスと姿勢制御との関係について検討しいきたい。
  • 腹筋と大殿筋の筋力に着目して
    坂本 親宣
    セッションID: DO829
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]腰椎前彎が増強することが、腰痛出現の原因となることは諸家により報告されている。ところが現代の日常生活のなかには腰椎前彎を増強させる要因は数多く存在し、ハイヒールを履いての持続歩行を長時間にわたって行うこともその一つである。そこで今回、腰椎前彎の増強を抑制する働きを持つ腹筋と大殿筋に着目し、ハイヒールを履いて持続歩行を行うことが、これらの筋の筋力に与える影響について検討を行った。[対象]現在腰痛がなく、かつ日常的にハイヒールを履くことがほとんどない健常女性14名を対象とした。平均年齢は23.1歳(20-35歳)、平均身長は161.2cm(156-171cm)、平均体重は55.1kg(45-70kg)であった。[方法]測定は、A)安静背臥位を30分間とらせた後(以下、安静背臥位後)、B)ヒールの高さがほとんどないスニーカーを履いての歩行を30分間持続させた後(以下、スニーカー歩行後)、C)ヒールの高さが7cmのハイヒールを履いての歩行を30分間持続させた後(以下、ハイヒール歩行後)に行った。ただし、それぞれの測定の間には30分間の休息をとらせた。1)腹筋の筋力評価:米国ロレダン社製リドバックシステムを用いて、角速度60度/sec下における体幹前屈運動を後屈位10度から前屈位60度の間で行わせ、腹筋の筋力のピークトルク値を測定した。そして、各被検者の安静背臥位後の筋力を1と仮定したときのスニーカー歩行後およびハイヒール歩行後の筋力を算出して、指標とした。2)両大殿筋の筋力評価:徒手筋力検査を用いて行った。[結果]1)腹筋の筋力:スニーカー歩行後の平均は0.95±0.01であった。また、ハイヒール歩行後の平均は0.80±0.07であった。スニーカー歩行後とハイヒール歩行後の間において有意差がみられた(p<0.01)。2)両大殿筋の筋力:安静背臥位後およびスニーカー歩行後は全対象者ともに筋力5であった。だがハイヒール歩行後は筋力4に低下した被検者が6名、筋力3に低下した被検者が7名であった。残り1名は筋力5のままであった。[考察]腹筋や大殿筋の筋力が低下することにより腰椎前彎が増強するため、椎間関節や椎間板組織、諸靭帯にストレスがかかる。そして、このようなストレスの蓄積が、腰痛の発症へと結び付いていくと考えられる。さて今回、たとえ30分間であったにしろ、ハイヒールを履いて持続歩行を行うことにより、腹筋や大殿筋の筋力が歩行前やスニーカー歩行後に比べて低下することが明らかになった。これは、ハイヒールを履いて長時間にわたる持続歩行を行うことが、自ら腰痛症を発症させる状況を作っていることに等しいことを示唆するものである。だが職場や職業によっては、どうしてもハイヒールを履かなければならない場面が存在する。そこで職務上のTPOを考慮した靴を選択するように指導や教育を行うことが重要と思われた。
  • 猪原 康晴, 宮本 重範, 青木 光広
    セッションID: DO830
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/03/19
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]1990年代以降頚椎に対する関節モビライゼーションの自律神経への影響についてVicenzino等の報告がある。しかし、胸椎に対する関節モビライゼーションの影響についての報告はない。本研究では、健常者を対象に中位胸椎(Th4-Th8)に対し関節モビライゼーションを加え、心電図を用いて心拍変動を調べ、低周波(以下LF)成分、高周波(以下HF)成分、低周波成分/高周波成分比(以下LF/HF)を解析し胸椎に対する関節モビライゼーションが躯幹の自律神経系に及ぼす影響について検討した。[対象および方法]被験者は健康な20代の男女20名(男性10名、女性10名、平均22.6歳)である。交通事故の既往歴がある者、薬物治療とダイエットを行っているものは除外した。実験に先立ち被験者に対して実験に関する十分な説明を行い、書面にて承諾を得た。実験前日の運動、午後9時から実験終了までのアルコール類・カフェイン類の摂取および喫煙を避け、実験当日の朝食・昼食は軽く摂り、実験開始2ー3時間前までに済ませるように被験者に指示した。実験は室温が23-26度に保たれた薄明かりの静かな部屋で、午後2時から6時の間に実施した。実験は、1、胸椎椎間関節(Th4- Th8)に対するモビライゼーション手技群、2、1の部位の皮膚上に指を当てるのみのプラセボ手技群、3、体位変換のみを行わせ徒手的接触を行わないコントロール群の3群について同一被験者で異なる日に実施した。被験者は15分間仰臥位をとり安静臥床の後、心電図、周波数解析装置の電源を入れ、メトロノームを用いて0.25Hzのリズムで呼吸を行った。7分間仰臥位で測定した後、被験者は腹臥位となり、モビライゼーション手技或いはプラセボ手技を施行し、その後、仰臥位に戻り約30分間その姿勢を保った。統計処理は3群それぞれにおいて、15分間安静臥床後の5分間平均を基準とした。腹臥位から仰臥位への体位変換直後、体位変換5分後、体位変換15分後(以下15分後)、体位変換25分後(以下25分後)の5分間平均および体位変換5分後の20分間平均(以下20分平均)の資料を対応のあるt検定を用いて行った。[結果]3群共に計測時のいずれの時間においてもHF成分には有意な差は認めなかった。LF成分、LF/HFはモビライゼーション手技群、プラセボ手技群で15分後、25分後、20分平均で有意に増加していた(P<0.05)。[考察]本結果から中位胸椎椎間関節に対するモビライゼーション手技は、20才代の健常者のHF成分つまり心臓迷走神経に影響を及ぼさないことが明らかにされた。プラセボ群・モビライゼーション群は共にLF成分、LF/HFつまりβ系交感神経に対して影響を及ぼし、体位変換のみのコントロール群では影響を及ぼさなかった。このようなβ系交感神経活動の亢進は、主に皮膚刺激によってもたらされたと考えられる。頚椎の先行研究を考慮に入れると、モビライゼーション手技施行時間を延長することにより、より大きな交感神経刺激効果が期待される。
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