理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 大沼 剛, 中村 綾子, 加藤 仁志, 柴 喜崇, 二見 俊郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 25
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに]
     近年,高齢者の転倒が問題視され,転倒が骨折や寝たきりなど,身体への障害を与えることからも転倒を予防することは重要とされている.転倒を回避するために必要となる反応として姿勢制御反応が注目されており,歩行時の姿勢制御反応についての研究がなされてきた.姿勢制御の神経機構は,感覚入力,中枢,出力(筋の発動)の3つに分けられるが,中枢での処理過程がblack boxとされている.そこで我々は,足底感覚が姿勢制御反応に影響を与えるのではないかと考えた.
    [方法]
    整形学的及び神経学的疾患を有さない健常大学生9名(平均年齢21.3±1.3歳,身長168.1±9.4cm,体重59.6±8.2kg)を対象とした.対象者には測定前に書面及び口頭にて本研究の内容を説明し,承諾を得た.足底感覚の指標として左足底踵部の2点識別覚を同一検者にて2回測定した.筋電計はNeuropack8(MEB-4208,日本光電社製)を用い,電極を両側の大腿二頭筋,内側広筋,腓腹筋,前脛骨筋に貼り付け,サンプリング周波数1000Hzにて記録した.また踵接地時を同定するために両側の靴の踵部にフットスイッチ(荷重スイッチシステム:PH-450,DKH社製)を取り付け,筋電計・フットスイッチの信号を同期させた.測定方法は,被検者を両側分離型トレッドミル(PW-21:日立製作所)上で,手すりにつかまらず前方を注視するように指示し,時速3kmにて1分間歩行した.トレッドミル歩行中,左側のベルトを500m秒間50%減速させ,身体を不意に後方に動揺させる外乱刺激を踵接地時に,計5回与えた.外乱刺激を与える時間は任意とした.このときの刺激側の筋電波形について,RMS処理を行い,筋反応潜時を算出した.筋反応潜時は,外乱刺激前2秒間の筋電振幅の平均に標準偏差の3倍を加算した値を閾値とし,その値を超えるまでの時間とした.統計処理はSpearmanの2変量の相関を用い,危険率5%にて検定した.
    [結果及び考察]
     2点識別覚距離の平均は,1.55±0.29cmであった.各筋の筋反応潜時を算出し,各被験者の2点識別覚距離の平均との相関をみた結果,非刺激側の内側広筋においてのみ相関があった(r=-.764,p=.046).しかし,その他の筋反応潜時との相関は得られなかったことから,足底感覚の指標である2点識別覚距離は筋反応潜時に影響を受けないといえる.本研究では,足底感覚に異常のない者を対象としたため,十分な結果が得られなかった.しかし,足底感覚のみに障害をうけた者を被験者として集めることは難しく,振動を与えるか氷で冷やすなどして擬似的に足底感覚の異常をおこさなければならなかったと考えられる.
  • ―荷重量の変化による検討―
    藤本 将志, 渡邊 裕文, 蔦谷 星子, 大沼 俊博, 三好 裕子, 赤松 圭介, 中道 哲朗, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 26
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】端座位での一側手支持は、起き上がり動作などにおいて必要な能力である。脳血管障害片麻痺患者において、一側手支持への荷重を用いた運動療法は体幹筋の緊張のコントロールを目的に用いられることが多い。今回、端座位での側方への一側手支持における荷重量の変化が、腹斜筋群・外腹斜筋・内腹斜筋・腰背筋群の筋活動に与える影響について検討したので報告する。
    【対象と方法】健常男性7名(平均年齢28.8歳)を対象とし、筋電計ニューロパック(日本光電社)を用い、座位での両側腹斜筋群重層部位・外腹斜筋単独部位・内腹斜筋単独部位・腰背筋群の筋積分値を10秒間、3回測定した。次に両足底が非接地の端座位で、側方に座面の高さと同じ体重計を置き、その上に体重の20%荷重となる一側手支持を保持させた。この時両肩は水平位、頭部は正中位とし、支持側上肢が床に対して垂直になるように支持側体幹の伸張を伴う側屈位とした。また大転子部から手関節部までの距離は手長の長さにした。この状態から測定課題を体重の20%荷重より、上記姿勢を変化させず15%、10%、5%、0%へ荷重を減少させ、同様に筋積分値を測定した。荷重量を減少させるための非支持側骨盤の挙上は許可した。対象者には本研究の目的・方法を説明し了解を得た。
    【結果】支持側において、腹斜筋群・腰背筋群の筋積分値は20%荷重時に座位時より増加し、荷重量の減少に伴って減少傾向を認めた。外腹斜筋の筋積分値は20%荷重時に座位時より増加し、荷重量を20%から5%まで減少させると減少傾向を認めた。また0%での筋積分値は5%より増加傾向であった。内腹斜筋では荷重量を増減させても筋積分値に変化はなかった。非支持側において、腹斜筋群・内腹斜筋・腰背筋群の筋積分値は荷重量の減少に伴って座位時より増加傾向を認め、5%、0%荷重時に座位時より増加し、外腹斜筋では荷重量を増減させても筋積分値に変化はなかった。
    【考察】支持側体幹筋の働きは、腹斜筋群・腰背筋群の筋積分値から、支持側体幹の伸張位での保持に関与していると考えられる。また外腹斜筋が5%より0%荷重時に増加傾向を示すのは、渡邊らはリーチ動作での姿勢保持では外腹斜筋が上部体幹の安定に関与すると報告しており、非荷重位での上部体幹・胸郭の固定に関与したと考えられる。さらに内腹斜筋の働きは、Ngらは内腹斜筋の筋線維方向が骨盤内では水平方向であると報告しており、上記の体幹伸張位の姿勢保持には関与しにくかったと考えられる。一方、非支持側体幹筋の働きは、佐藤らは座位での側方移動時における体幹と骨盤の連結には反対側体幹筋が関与すると報告しており、今回の荷重量減少時における骨盤の挙上に作用すると考えられる。また外腹斜筋の働きは、三浦らは第8肋骨下縁の外腹斜筋単独部位では体幹回旋時の求心性収縮の作用に関与すると報告しており、筋線維方向からも今回の骨盤挙上には関与しにくかったと考えられる。
  • 福村 憲司, 菅原 憲一, 田辺 茂雄, 門馬 博, 鶴見 隆正, 牛場 潤一, 富田 豊
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 27
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
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    【はじめに】
    脳卒中患者の麻痺手機能回復は,随意運動障害のリハビリテーションにおいて重要な課題の一つである.近年,麻痺手機能回復を目的におこなう訓練法としてミラーセラピーが注目されている.これは,鏡に映る非麻痺側上肢の動きによって,あたかも麻痺側の上肢が動いているように見えるという錯覚を利用した訓練法である.国内でも幾つかの試行報告が見られるものの,訓練効果に対する神経生理学的な検証はされていない.そこで,ミラーセラピーの運動促通効果に焦点を当て,経頭蓋磁気刺激(TMS)の単発刺激によって誘発される運動誘発電位(MEP)を指標に運動野の興奮性を検討したので報告する.
    【対象】
    健常な成人4名(平均年齢25.8歳)を対象に,ヘルシンキ宣言に基づき研究の目的,方法,危険性について十分に説明し,同意を得ておこなった.
    【方法】
    右手を検査側とし,検査側は能動的に動かさないよう指示した.非検査側の上肢を鏡に映し,非検査側上肢手関節の屈曲・伸展運動をメトロノーム音に合わせて1Hzのリズムでおこなった.TMSにはMagstim200と8字型コイルを用い,MEPの記録は検査側の橈側手根屈筋(FCR)の筋腹中央に置いた表面電極により導出した.刺激部位は,目的とするFCRからMEPが最も低い刺激強度で誘発される点とした.刺激強度は閾値の1.1倍,刺激頻度は0.1Hzとした.TMSによって生じたMEPは,増幅後4kHzでAD変換し記録した.刺激前100msの背景筋電図とMEP振幅を測定し,10回加算平均処理した.実験は以下の各課題でおこなった.1.鏡を使用せず検査側を見続け,非検査側の運動に合わせて検査側の動作意思を持つ課題,2.鏡に映っている非検査側を見続け,非検査側の運動に合わせて検査側の動作意思を持つ課題,3.非検査側の運動に合わせて検査側を他動的に動作させ,かつ検査側の動作意思を持つ課題.各課題間には十分な休憩を設けた.なお,課題1で動作意思を持たない課題を全体のControlMEPとした.さらに,検査側の動作意思を持たないで課題2,3をおこなった際のMEPを測定し比較検討した.
    【結果】
    課題2において動作意思を持った場合,同課題で持たない場合と比較して全ての対象者でMEP振幅値が増加する傾向が認められ,うち3名で有意差が認められた(P<0.05).また,動作意思の有無に関わらず,課題3では3名の対象者においてMEP振幅値が顕著に増加した.
    【考察】
    鏡を用いることにより,動作意思との相乗効果が認められた.これは,非検査側の運動が鏡によって効果的にフィードバックされ,検査側を動かすイメージの具現化に寄与したものと考えられる.また,課題4では他の課題と同じ背景筋電図であるにも関わらずMEP振幅値が顕著に増加したことから,受動的な感覚刺激が訓練効果に大きく影響することが示唆された.
  • 武藤 久司, 野田 友和, 川崎 仁史, 岸田 知子, 石井 伸久, 上倉 洋人, 久下沼 元晶, 渡辺 聡美, 小柳 貴, 田中 繁, 鈴 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 28
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
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    【目的】
    1.はじめに
    近年、パワーリハに代表されるように機器を用いた運動療法あるいは運動学習に注目が集まっている。免荷トレッドミル訓練(Body Weight Support treadmill training:BWSTT)も機器を用いるもので、トレッドミル上での歩行において、体重をハーネス等を用いた機構により免荷することにより、その訓練効果を上げようとする課題特異的なトレーニングである。
     この種の装置は市販されているが、安価な部品を組み合わせることによりこれを自作した。そして、この自作装置を用いて、健常者にBWSTTを応用し免荷量と歩行率の変化について調べた。これにより、自作装置の有用性について確認し、今後予定している片麻痺での計測の基礎的データの一つとする。
    【方法】
    用いた装置、被験者、計測条件は次のとおりであった。そして、BWSTTでの歩行を行った。
    免荷装置:用いた免荷装置は自作したもので、免荷には滑車機構を用いて、その一方に吊具(メーカーと開発中)を介して被験者を吊し、他方には砂袋を吊す方法で行った。
    計測機器:トレッドミル(フクダ電子社製MAT6000-c)はリハビリテーションでの歩行訓練用のもので、データの計測はデジタルビデオの記録から行った。
    被験者:神経学的・整形外科的障害のない健常男性1名(身長170cm、体重63kg、年齢23歳)。
    免荷量:体重に対し0%、10%、20%、30%、40%、50%とし、まず0から50%まで増加していき、その後0%まで減少させた
    歩行速度:事前に確認した被験者の通常歩行速度(4.7km/h)とその半分の速度(2.4km/h)とした。
    【結果】
    免荷量の増大に伴い歩行率は増加傾向を示した。免荷量0%に対し50%での歩行率は、速さが4.7km/hのとき15%の増加(120から138へ)、速さが2.4km/hのときは24%の増加(102から126へ)を示した。その後免荷量を減少させると歩行率も減少するが、免荷量0%に戻しても元の歩行率には戻らず、速さが4.7km/hのときは5%増加(126)、速さが2.4km/hのときは12%増加(114)したままだった。
    【考察】
    自作したBWSTTは有効に機能することが確認され、現在メーカーと開発中の吊具と共に今後の研究に用いていくこととする。
    今回は、被験者が1名でありデータについて深く検討することはできない。しかし、重要な示唆も与えられた。片麻痺に対する今後の計測においては、免荷量と歩行訓練の効果の関係を知ることが重要な要素となる。今回免荷量変化の順が歩行状態に影響することが分かったので、実験計画の中で免荷量の指定順については十分に検討していくこととする。
  • ―背臥位と座位による検討―
    赤松 圭介, 渡邊 裕文, 蔦谷 星子, 大沼 俊博, 三好 裕子, 藤本 将志, 中道 哲朗, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 29
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】臨床においてShy-Dragre症候群の症例を担当する機会を得た。本症例は背臥位から座位になることで呼吸困難感を訴え、理学療法評価では胸郭可動域制限を認め吸気時に頸部呼吸筋の過活動を認めた。上記の経験から胸郭可動域制限を有する場合吸気時の頸部呼吸筋活動と呼吸困難感には関連があると考えた。また肢位の変化が頸部呼吸筋活動に影響を及ぼすのではないかと考えた。そこで今回健常者を対象に胸郭を固定した状態での背臥位と座位の違いが呼吸、特に吸気時の頸部呼吸筋に与える影響について検討したので報告する。
    【対象と方法】対象は整形外科・神経学的に問題のない健常男性7名(両側)、平均年齢は28.8歳であった。測定肢位は背臥位と座位とした。それぞれの肢位にて筋電計ニューロパック(日本光電社)を用いて安静呼吸時の斜角筋群・胸鎖乳突筋・板状筋・僧帽筋上部線維の筋電図を10秒間、3回測定した。次いで流量型呼吸筋訓練器(トリフローII)を用いて10秒間に2回の呼吸を実施し、この際の吸気時には、600cc/sec及び900cc/secを1秒間保持するよう指示し、呼気は自然呼気とした。この2種類の呼吸について同様に筋電図を測定した。次に上部胸郭固定・下部胸郭固定の2つの条件下にて上記と同様に筋電図を測定した。胸郭の固定はバストバンドを用いて、上部胸郭は腋窩レベル、下部胸郭は第10肋骨レベルで行った。筋電図の分析は各筋電図波形及び筋積分値変化により検討した。なお対象者には本研究の目的・方法を説明し了解を得た。
    【結果と考察】背臥位において斜角筋群の筋活動は胸郭固定の有無に関わらず吸気量の増加により増加傾向を示した。また斜角筋群以外の3筋について胸郭固定の有無に関わらず著明な活動を認めず、吸気量の増加によっても筋活動に変化はなかった。座位では背臥位と比べ斜角筋群の筋活動は増加する傾向を示し、胸郭を固定することで著明となった。特に上部胸郭固定で斜角筋群の筋活動は固定なし時より増加し、さらに吸気量が増加すると斜角筋群以外の3筋についても活動を認めた。また下部胸郭固定では上部胸郭固定時より頸部呼吸筋の活動は減少した。今回、背臥位での吸気時における斜角筋群の筋活動が座位と比べ減少した理由として、背臥位では吸気時における上位肋骨挙上が重力の影響を受けにくいからであると考える。宮川らによると、吸気時に横隔膜が収縮して胸腔内圧が陰圧となることで肋骨には内方への力がかかる。これに対して外肋間筋・斜角筋群・内肋間筋前部線維は肋骨の固定・挙上に関与すると報告している。また吸気肋間筋は上部胸壁に多く存在すると報告している。このことから座位での上部胸郭固定時は肋間筋による胸郭拡張作用が低下し、斜角筋群が代償的に肋骨の挙上・固定に関与したと考えた。さらに下部胸郭固定では胸郭拡張作用は上部胸郭固定時より低下せず、斜角筋群の代償的な活動が減少したと考える。
  • 塚本 晋也, 肥田 朋子, 山田 崇史, 和田 正信
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 30
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     慢性疼痛患者では疼痛回避のため、運動制限、ADLやQOLの低下が生じる。したがってROMの維持、筋力低下の防止などが理学療法の目的となるが、その効果は検証されていない。
     近年、慢性痛のメカニズム解明のため、神経部分損傷動物モデルが多数報告されてきた。その一つである慢性絞扼(以下CCI)ラットは、痛覚過敏を生じるほか歩行や姿勢の異常についても報告されている。しかし、筋力低下や萎縮の程度など、筋に関する報告はほとんどない。そこで今回CCIラットを作成し、疼痛の有無を確認するとともに、筋の機能について調べた。
    【方法】
     本実験は名古屋大学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て実施した。7週令のSD系雄ラット10匹をCCI群(5匹)とコントロール群(CON群、5匹)に分けた。CCI群は麻酔下にて左後肢大腿部で坐骨神経を剖出し、坐骨神経に腸糸を1mm間隔で4本緩く縛った。CON群は坐骨神経を剖出した後、縫合した。
     疼痛評価にはVon Frey Hair変法(以下VFH法)を用い、CCI手術前1週から術後6週まで継続した。
     手術6週後、麻酔下にて長指伸筋(以下EDL)、ヒラメ筋(以下SOL)、腓腹筋浅層(以下GS)を摘出し、直ちにEDL、SOLの筋湿重量を測定した。筋張力測定にはEDLを、ミオシン重鎖(以下MHC)アイソフォーム分析および筋小胞体Ca2+取り込み速度測定(以下SR速度)にはSOL、GSを用いた。
     統計処理にはt検定(筋張力)、二元配置分散分析(VFH法)、一元配置分散分析(筋湿重量、MHCアイソフォームおよびSR速度)を用い、Bonferroni法で多重比較した。
    【結果】
     VFH法の触刺激に対する閾値は、CCI群で有意に低下した(p<0.01)。痛み刺激に対する閾値は、CCI群では施行3から5週後に低くなり(p<0.05)、CON群と比して有意に低下した(p<0.01)。
     筋湿重量はCCI群の実験側で有意に減少した(p<0.01)。
     筋張力はCCI群の実験側で有意に減少した(p<0.05)。
     MHCアイソフォーム分析はSOLではCCI群実験側でMHC1dが発現した。GSでは実験側でMHC2bがMHC2dに移行した。
     SR速度はSOL、GSともにCCI群実験側で有意に減少した(SOL:p<0.01、GS:p<0.05)。
    【考察】
     疼痛評価の結果からアロディニアや痛覚過敏が生じていることが確認できた。
     筋張力は低下し、GSで遅筋化が生じ、SR速度も低下したことは、疼痛回避姿勢の保持による持続的な筋収縮環境に置かれることで生じた変化と考えられた。一方、遅筋であるSOLの速筋化、筋萎縮や張力低下には神経損傷が影響していると考えられた。
     本モデルは疼痛や筋萎縮、筋力低下などを示しており、今後は理学療法の効果を検討していきたいと考える。
  • 大道 裕介, 張本 浩平, 橋本 辰幸, 櫻井 博紀, 吉本 隆彦, 江口 国博, 山口 佳子, 熊澤 孝朗
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 31
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
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    【はじめに】末梢の組織傷害が完全に治癒しているにもかかわらず、慢性的な疼痛を訴える病態がある。このような疾患を慢性痛症と分類しているが未だ決定的な治療法はない。慢性痛症は神経切断などの重篤な外傷のみならず、打撲などの軽微な外傷またギプス固定による不動化など軟部組織の傷害がトリガーとなり発症することが知られている。症状は痛覚増強やアロデニアなどの感覚障害を主とし、浮腫・発汗異常・皮膚血流変化などの自律神経障害が見られる。これらは神経系の可塑的変化の結果生じると考えられている。治療法の確立にはモデル動物の開発が重要であるが、これまで神経損傷モデルが主流であり、軟部組織傷害由来のものは報告が少ない。そこで今回われわれは、ギプス固定による発症が多いとされる慢性痛症のメカニズムの解明・治療法の開発を目的として、下肢不動化を誘引とした軟部組織傷害性モデル動物の作成を試みた。
    【対象および方法】ラット(SD系、オス、9~11週齡)を用いた。左側後肢をstanding positionにて石膏ギプス固定し、2週間の不動状態にした。ギプス除去後、痛み行動の指標として、固定部位とは関連のない足底部に対するvon Frey filament(以下VFF)刺激による足引っ込め反応、固定部位にあたる下腿内側部のpush-pull gauge(以下PPG)による圧迫に対する逃避反応を処置側と非処置側で経時的に測定した。さらに浮腫・腫脹の指標として足部の厚み・足根部の周径、筋萎縮の指標として下腿最大膨隆部の横幅、固定後の関節可動域制限の変化を捉えるため股・膝・足関節の可動域を測定した。その他、足底部の皮膚温を測定した。
    【結果と考察】ギプス固定による下肢不動化をトリガーとして、足底部へのVFF刺激による痛み行動は、ギプス除去後、長期にわたり亢進を示した。またこの痛み行動は、下腿幅の減少、関節可動域制限、足部厚み・足根周径の増加、足底部皮膚温上昇が回復した後に亢進する傾向にあった。以上、ギプス固定により影響された組織の変化が回復した後に、VFFに対する反応が長期に亢進したことから、ギプス固定による不動化が誘引となり慢性痛症が発現することが示唆された。今後の課題として神経系の可塑的変化に焦点をあて、慢性病態時における痛み系と自律系との関連を自律神経機能テストにより明らかにするとともに、末梢および中枢神経系における組織学的検討を進める。
  • 張本 浩平, 橋本 辰幸, 櫻井 博紀, 大道 裕介, 吉本 隆彦, 江口 国博, 山口 佳子, 鈴木 重行, 熊澤 孝朗
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 32
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    末梢組織傷害の治癒後に傷害と関連のない部位に疼痛が持続的に誘発される。このような病態を慢性痛症と分類しているが、いまだに治療法は確立されていない。慢性痛症の病態解明のために、様々な神経因性疼痛モデルラットが開発されてきたがCRPS-typeIに代表されるような慢性痛症においては、軟部組織の損傷が原因の1つとして重要視されている。にもかかわらず軟部組織損傷モデルに関する報告は少ない。演者らは、これまでの研究でラット腓腹筋へのlipopolysaccharide(LPS:L)による炎症性要因と高張圧食塩水(6%NaCl:N)による侵害性要因の複合投与によって長期に渡る痛み行動の発現を確認している。今回、我々は慢性痛症発現に関わる要因の詳細な検討を行った。

    【方法】
    実験にはラット(SD系、雄、30匹)を用いた。炎症性要因としてLPS、侵害性要因として6%NaClを用いて、それらを左腓腹筋内側頭に注入することで以下の4群を作製した。またそれらの群と比較するために無投与のcontrol群の合計5群を作製した。単体投与群として1. LPS(2μg/kg)100μl投与(L群)、2. 6%NaCl 100μlを90分間隔で5回投与(N群)、複合投与群として3. LPS投与後6%NaClを3回投与(LN3群)、4. LPS投与後6%NaClを5回投与(LN5群)とした。痛み行動の指標としてvon Frey filament(以下VFF)を用い、ラットの傷害部位とは異なる足底部を5回刺激した際の足引っ込め反応回数を計測した。VFFは投与前(pre)から投与後6週まで経時的に計測した。push-pull gauge(PPG)を用いて傷害部である腓腹筋の圧痛閾値を測定した。また、浮腫・腫脹の指標として同部位の下腿周径も測定した。

    【結果】
    LN5群において、PPGによる圧痛閾値と下腿周径は投与後1週以内でpreの値に戻ったが、VFFの反応回数はpreの値と比較し長期間の亢進がみられた。また、VFFの反応回数では、control群と比べLN5群のみで亢進を示し、単体投与群のL群・N群と複合投与群のLN3群では、反応の亢進が認められなかった。

    【まとめ】
    今回、作製した群の中でLN5群においてのみ局所の傷害治癒後でも、傷害部と関連のない足底部に長期的なVFFの反応の亢進がみられ慢性痛症の発現が認められた。炎症性要因もしくは侵害性要因の単体投与群(L群・N群)と複合投与群のLN3群ではVFFの反応の亢進はみられなかった。これにより、単体投与では慢性痛症の発現は認められず、複合要因投与でも、ある一定以上のレベルの侵害刺激入力がないと慢性痛症発現は認められなかった。そのため慢性痛症の発現には、炎症性と侵害性の両方の因子の関わりが重要であるが侵害性刺激の一定以上の入力も関与している可能性が示唆された。
  • 山崎 俊明, 立野 勝彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 33
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】長期臥床や術後免荷などでみられる廃用性筋萎縮の進行抑制は、理学療法分野における重要な課題のひとつである。臨床では対照研究が倫理上難しいことから、我々は廃用性筋萎縮の効果的予防法を動物実験にて各種条件下で検索してきた。その結果、間欠的荷重(intermittent weight bearing: IWB)により萎縮の進行抑制が可能であった。しかし、間欠的荷重のみで萎縮を完全に予防することは困難なことから、昨年の本学術大会では、筋肥大効果が報告されているタンパク同化剤clenbuterol(Cb)を導入し、荷重との併用による萎縮抑制効果を、筋形態および収縮機能面から報告した。本研究では対象数を倍増し、筋タンパク量および水分量を検討項目に加え、廃用性筋萎縮に及ぼす荷重およびCb投与の影響を検索した。
    【方法】8週齢のWistar系雄ラット79匹を使用し、ヒラメ筋を被験筋とした。廃用性筋萎縮は、装具を使用した後肢懸垂法により作製した。ラットを以下の6群:1. 通常飼育(Con)、2. 通常飼育+Cb投与(Con+Cb)、3. 後肢懸垂(HS)、4. 後肢懸垂+間欠的荷重(HS+IWB)、5. 後肢懸垂+Cb投与(HS+Cb)、6. 後肢懸垂+荷重+Cb投与(HS+IWB+Cb)に分けた。実験期間は2週間とし、荷重は毎日(1時間/日)実施した。Cbは皮下注射(1mg/kg/day)とし、Cb投与を実施しない群には生理食塩液を同条件で投与した。なお、本研究計画は本学動物実験委員会において承認された(承認番号031668号)。分析項目は、筋湿重量、筋長、筋周径、筋線維断面積、水分量、収縮張力、筋総タンパク量および筋原線維タンパク量とした。
    【結果】筋湿重量、筋線維断面積および収縮張力は、先行研究とほぼ同様な結果を示した。筋長は懸垂処置群で短縮傾向を認め荷重が効果的であった。筋周径はCb投与群が大きい傾向を示した。筋長・周径ともに、HS群よりHS+IWB群が有意に大きかった。水分量は、HS群が他群より有意に少なく、荷重and/or Cb投与による介入効果を認めた。筋原線維タンパク量の平均値は、Con+CB>Con>HS+IWB+CB>HS+CB>HS+IWB>HS群の順で大きく、Con+CbとCon群間およびHS+IWB+CbとHS+Cb群間を除き、有意差を認めた。
    【考察】Cb投与は、筋周径および筋原線維タンパク量に効果を示したが、筋長および筋張力に関しては、荷重が効果的と考えられた。結論として、1)Cb投与は形態面(断面積、周径)およびタンパク量には効果を示すが、機能面(張力)の効果を伴わないこと、2)理学療法手段としての間欠的荷重が機能面で有用であること、3)間欠的荷重は、Cb投与との併用により高い萎縮抑制効果を期待できることが示唆された。
  • 榊間 春利, 吉田 義弘, 坂江 清弘, 森本 典夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 34
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床的に骨折後の固定はよく行われるが、しばしば固定により筋萎縮、筋柔軟性の低下、関節可動域制限などの二次的な障害を生じる。このような二次的な障害に対する理学療法は長期化する事が多く、中には1週間に1日あるいは数日の外来理学療法を継続している患者もいる。筋力増強に対する運動頻度に関して、古くはHettingerやMuellerの報告がある。しかしながら、細胞レベルで廃用性筋萎縮に対する運動頻度の影響を調べた報告はない。今回、異なった頻度のトレッドミル走行が固定によって生じた廃用性筋萎縮と関節可動域制限の回復に及ぼす影響を組織学的に調べた。
    【方法】8週齢雌ラットの右後肢を2週間ギプス固定し、固定除去後、無作為に2週間のギプス固定群(IM群)、ギプス固定後自由飼育群(FR群)、低頻度運動群(1日/週、LFR群)、中頻度運動群(3日/週、MFR群)、高頻度運動群(6日/週、HFR群)に分けた。運動は小動物用トレッドミル装置を用いて6週間行った。運動時間と速度はそれぞれ、10分間から開始して6週後には40分間、10°の傾斜で12 m/minから開始して6週後には24 m/minに徐々に増加した。実験終了時に両側のヒラメ筋と腓腹筋を採取して凍結固定した。さらに両側の足関節の関節可動域を測定した。筋は凍結切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色、ATPase染色(pH10.3、4.3)、NADH-reductase 染色を行い、筋線維タイプ構成、筋線維タイプ別横断面積、abnormalな筋線維数を計測した。
    【結果】2週間の固定によりヒラメ筋と腓腹筋のタイプI線維とタイプII線維の横断面積、足関節の可動域は有意に減少し、ヒラメ筋と腓腹筋のタイプII線維の割合と病理学的な変化を示した筋線維の数は有意に増加した。これらの変化はFR群では改善しなかった。LFR、MFR、HFR群では明らかに改善を示し、特にMFR群やHFR群は筋萎縮の回復に有効であった。しかし、MFR群とHFR群の間には有意な違いは見られなかった。関節可動域はFR群と比較してLFR、MFR、HFR群で有意に改善を認めたが、運動頻度による違いは見られなかった。
    【考察】これらの結果よりトレッドミル走行は固定によって生じた筋線維の病理学的変化や関節可動域制限を改善させることが分かった。また、1週間に3日あるいは6日の運動は、非運動や1週間に1日の運動と比較して筋萎縮や可動域制限の回復に有効であった。
    【まとめ】関節固定後の筋萎縮や関節可動域制限の回復には1週間に3日以上の運動頻度が必要であることが組織学的に示唆された。
  • 中野 治郎, 沖田 実, 坂本 淳哉, 吉村 俊朗
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 35
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     多発性筋炎は筋力低下を主症状とする骨格筋の炎症疾患であり、その重度例は、筋痛のため通常の筋力トレーニングすら行えず、運動機能障害はさらに深刻となる。一方、従来から筋力増強や筋萎縮の予防を目的に電気刺激療法が広く行われている。随意的な筋収縮を要さず筋線維肥大効果が得られることに着目すると、電気刺激は多発性筋炎患者の筋力トレーニング法として利用できるとも思える。しかし、これまで炎症を伴う骨格筋に対する電気刺激の影響については知見が少なく、電気刺激が筋病態を悪化させることも懸念される。そこで今回我々は、筋炎モデルラットの骨格筋に対する電気刺激の影響を組織病理学的に検討した。
    【方法】
     8週齢のLewis系雌ラット10匹を5匹ずつ筋炎群、対照群に振り分けた。筋炎群に対しては、起炎剤としてラミニン・フロイント完全アジュバント(CFA)混合液を隔週3回皮内注射し、筋炎を惹起させた。対照群にはCFAのみを同様に皮内注射した。そして、3回目の起炎剤注射の翌日から2週間、各群の右側下腿前面に対して経皮的に電気刺激(4mA、10Hz)を毎日20分間行った(刺激側)。また、各群の左側下腿は電気刺激を行わず、各群の比較対照に用いた(非刺激側)。実験期間終了後は、1%エバンスブルー溶液を尾静脈から注入し、24時間後に両側の前脛骨筋、長趾伸筋を摘出した。そして、連続凍結横断切片を作成し、HE染色、ATPase染色を行い、壊死線維と再生線維の出現頻度ならびに筋線維直径について検討した。なお、今回の壊死線維は細胞浸潤の有無にかかわらず、蛍光顕微鏡下でエバンスブルーによって標識された筋線維とした。
    【結果】
     対照群の前脛骨筋、長趾伸筋では、刺激側、非刺激側とも壊死線維はほとんど認められず、非刺激側に比べ刺激側の各筋線維タイプの平均筋線維直径は有意に高値を示した。一方、筋炎群の前脛骨筋、長趾伸筋では、細胞浸潤を伴う壊死線維、再生線維など筋炎所見が認められ、加えて、刺激側では細胞浸潤を認めないものの、エバンスブルーで標識される筋線維が出現していた。また、筋炎群の刺激側と非刺激側で壊死線維と再生線維の出現頻度を比較すると、両筋とも刺激側が有意に高値を示し、両筋の各筋線維タイプの平均筋線維直径は、非刺激側と刺激側の間に有意差は認められなかった。
    【考察】
     今回の結果によると、対照群の刺激側では筋線維損傷はなく、筋線維肥大効果が認められた。一方、筋炎群の刺激側では細胞浸潤を伴わなくてもエバンスブルーで標識される筋線維が出現し、この所見は筋線維壊死の初期段階であると推察される。そして、筋炎群の刺激側では壊死線維、再生線維が増加し、筋線維肥大効果も認められなかった。したがって、筋炎モデルラットの骨格筋に対する今回の電気刺激の条件では、筋線維肥大効果は得られず、逆に筋病態を悪化させる可能性があることが示唆された。
  • 藤野 英己, 上月 久治, 田崎 洋光, 武田 功, 近藤 浩代, 石田 寅夫, 梶谷 文彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 36
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋の毛細血管は筋線維上を蛇行や吻合をしながら走行するが,筋萎縮に伴って毛細血管密度は増加し,capillary to muscle fiber ratio(C/F比)は減少する.これらの毛細血管の変化は筋萎縮に伴う毛細血管の退行化と考えられる.一方,Kirbyらは極短期間の運動により,後肢懸垂中の筋タンパク質の減少を予防することが可能であることを示唆し,分子シャペロンの存在が培養血管内皮細胞のアポトーシスを予防することが報告されている.本研究では筋萎縮による毛細血管の3次元構造変化と血管内皮細胞のTUNEL陽性細胞の検出を行い,廃用性萎縮の予防対策として,寡動前のトレッドミル走行よる萎縮予防の効果を筋内毛細血管網の変化とheat shock protein(HSP)との関連から検証した.
    【方法】雄性Wistarラット(9週齢)を用いて,Morey法で2週間の後肢懸垂による廃用性萎縮群(HS),HS前にトレッドミル走行(20m/min, 傾斜20°,25分間)を行った群(ExHS),および対照群(CONT)の3次元毛細血管構造,血管内皮TUNEL陽性細胞,およびHSP72濃度を測定した.3次元毛細血管構造は走査共焦点レーザー顕微鏡を使用して,骨格筋中100オm厚の毛細血管を可視化し,毛細血管径,吻合毛細血管や血管蛇行性の測定をした.血管内皮TUNEL陽性細胞はvWF抗体で免疫染色し,TUNEL法でDNA断片化を標識した.HSP72はSDS-PAGE(10%)法により分子重量で分離し,immunoblotting法でHSP72(モノクロナール抗体,stressgen)を標識し,ECL法で可視化した.得られた各群の測定値は分散分析により検定した.また,post-hoc(Bonferroni検定)で特定の2群間の比較を行い,有意差を判定した(P<0.05).
    【結果および結論】Morey法による2週間のHSで,筋線維断面積,筋原線維タンパク質量,およびslow typeミオシン重鎖アイソフォームの減少が観察され,有意な筋萎縮がみられた.また,毛細血管の構造変化が観察され,特に吻合毛細血管の著明な減少を示した.血管内皮のTUNEL陽性細胞も有意に増加し,HSP72も減少した.一方,寡動前運動を行ったExHSではHSと比較して,毛細血管の構造が保持され,血管内皮のTUNEL陽性細胞も低値を示した.HSP72はCONTより有意に高値を示した.寡動前の運動は分子シャペロンの増加を背景とし,これらの変化の進行を緩慢にさせたものと考えられる.これらの結果から寡動前の運動は2週間の後肢懸垂で生じる骨格筋の急速な萎縮進行を予防できる可能性を示唆した.しかし,この結果は期間特異性とも考えられるため,継時的な変化も観察する必要があると思われた.
  • ―下腿三頭筋の収縮課題前後における検討―
    谷埜 予士次, 大工谷 新一, 西守 隆, 高崎 恭輔, 金井 一暁, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 37
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     長潜時反射(LLR)とは、末梢神経への電気刺激により、その支配筋より記録できる長潜時の反射性筋電図波形である。LLRは上位中枢からの筋緊張制御に関する研究、あるいは運動制御のメカニズム解明などを目的に臨床応用されている。筆者らはこれまでにヒラメ筋を対象に筋疲労課題と脊髄神経機能の興奮性について検討してきた。今後は先行研究からの展開として、LLRも指標に加え、筋疲労中の脊髄より上位中枢の神経機能についても検討したいと考えている。しかし、下肢の一般的なLLR検査では足関節部刺激による足底の筋からの導出であり、膝窩部刺激によるヒラメ筋導出に関する報告はみられない。そこで、本研究ではLLRを用いた筋疲労研究の前段階として、1被験者を対象に下腿三頭筋の収縮課題前後でのLLR出現様式について検討することを目的とした。

    【対象と方法】
     35歳の健常男性1名(身長168cm)を本研究の対象とした。被験者には本研究の趣旨を説明し、同意を得た上で実験を行った。
     本研究では下腿三頭筋の収縮課題前後での立位保持中に、非利き脚のヒラメ筋からLLRを記録した。電気刺激は膝窩部にて脛骨神経に行った。刺激条件として、持続時間は0.2ms、強度はM波出現閾値、そして頻度は1.0Hzとした。記録回数は30回で、それらを加算平均した。収縮課題は非利き脚のカーフレイズ(CR)を行った。CRは1Hzの頻度で行い、足関節の底屈が十分にできなくなった時点で終了とした。実験は計3回行い、間隔については1回目と2回目の間は2日、2回目と3回目の間は1日と一定にしなかった。

    【結果】
     本研究で得られたLLRの頂点潜時の平均は65.0(63.2-66.2)msで、変動係数は2.4%であった。CR後では平均63.6(62.0-64.6)msで、変動係数は2.2%であった。また、頂点間振幅の平均は0.028(0.025-0.031)mVで、変動係数は11.0%であった。CR後では平均0.019(0.015-0.024)mVで、変動係数は23.3%であった。

    【考察】
     下肢のLLRは70-80msで出現するといわれている。しかし、本研究では一般的なLLR検査で行われる足関節部刺激ではなく、膝窩部刺激によるヒラメ筋からのLLR導出のため70msよりも早期に出現した。また、潜時の変動係数は各々2.4と2.2%であり、この結果より再現性良くLLRを導出できていたと考えられた。振幅の変動係数はCR後に大きくなったが、これについては下腿三頭筋の疲労度の違いなどが影響したと考えられた。
     本研究では、筋疲労中の立位制御に関わる反射動態などを明確化するための基礎的研究として、ヒラメ筋導出のLLRについて検討した。本結果より、被験者の身長や下肢長も考慮する必要があるが、ヒラメ筋導出では約65ms前後でのLLR波形を分析する必要があると考えられた。
  • 吉崎 邦夫, 遠藤 敏裕, 宇都宮 雅博, 黒岩 千晴, 藤原 孝之, 山本 巌
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 38
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋のストレッチは理学療法において日常よく用いられる手技である.効果的に筋を伸張するためには,持続的伸張やPNFにおけるホールドリラックス,同名筋の最大収縮後弛緩等が用いられている.これらの筋伸張により期待される効果について生理学的には筋組織の粘弾性と中枢神経系の関与により説明されている.後者についてはヒラメ筋H反射により先行研究がなされているが,それらは同側ヒラメ筋H反射の変動をみており,足関節の角度を変化させることにより刺激条件が変化している可能性が否定できない.ヒラメ筋H反射の変動をみるための条件として刺激条件を一定にすることが重要であり,今回はストレッチを行う下肢の対側ヒラメ筋H反射の変動について検討した.
    【方法】対象は説明して書面で合意を得た健康成人8名(男4女4平均年齢23歳)とし,腹臥位で軸足の下腿背側を皮膚インピーダンス5kΩ以下となるように前処置し,電極間距離3.0cmで直径8mmの銀/塩化銀表面電極を貼付した.ヒラメ筋の誘発筋電図は,電気刺激装置H-0745 (日本光電社製)を用い1sec間隔で1msecの刺激幅の方形波を用いて脛骨神経を膝窩部で電気刺激し,周波数特性3.5kHzの特製筋電アンプにて増幅し導出した. A/Dカード(コンテック製)よりノートパソコンにサンプリングレート1kHzで取り込み,誘発電位研究用プログラムEPLYZER II(キッセイコムテック社製)を用いて16回加算平均した結果を保存した.電気刺激の強さはM波が出現せずH反射が最大となる強度をモニターして決定したのち固定して用いた.プロトコールは,対照としてストレッチ前のH反射を測定した後,熟練したセラピストが対側下肢の膝関節を30度屈曲位にして下腿三頭筋のストレッチを30秒間行い,その最中及び1,3,5,10,15分後のH反射を測定した.H反射の最大振幅はEPLYZER IIのピーク検出により電圧を読み取り,対照により正規化した.
    【結果】H反射の正規化した振幅を平均すると,ストレッチ中は対照にくらべ82%まで減少し,ストレッチを中止することにより3分後にはほぼ回復するが,15分後までの観察では減少傾向にあった.
    【考察】本研究の結果に限局していえば,筋のストレッチにより対側のヒラメ筋H反射に弱い抑制の影響を与える傾向が示唆された.よって筋のストレッチ中に相反神経支配による対側における拮抗抑制がおきるが,その程度はあまり強くないことが推察された.また,個々のケースについてみると筋硬度が低い女性4名の場合ではH反射への影響はほとんど見られず,筋硬度が高くストレッチしたときに筋性抵抗を強くセラピストが感じたときには対側H反射の減少がみられる傾向があり,筋の粘弾性の要因を除外することはできないと考えられる.今後は更に方法を検討し対象を広げて研究を深めていきたい.
  • 西原 賢, 二見 俊郎, 久保田 章仁, 井上 和久, 田口 孝行, 丸岡 弘, 磯崎 弘司, 原 和彦, 藤縄 理, 高柳 清美, 江原 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 39
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】筋線維伝導速度(MFCV)の算出は,処理方法が確立されていないことやその臨床的意義がはっきりしないなどの理由から神経伝導速度のように広く臨床利用されていない。しかも,既存のMFCV算出法は元々規則的な波形を数学的に定義するために考案されたものであり,運動単位によるMFCVのばらつきのような生理学的な現象の推定は困難である。そこで本研究では,臨床応用を目指して我々が開発した正規化ピーク平均法(Normalized peak-averaging technique:NPAT)を用いてMFCVの算出を行った。さらに計算機シミュレーションを用いて,これまで中程度筋収縮の表面筋電図では困難であった一度の収縮で動員される運動単位のMFCV分布を推定した。さらに,算出したMFCV値の妥当性の検証も試みた。これによって,表面筋電図はより詳細な臨床評価に活用できるようになる。
    【方法】等尺性肘屈曲運動中の健常者10人から表面電極列で得た筋電図を,電極の位置が神経筋接合部付近の筋電図データ1と神経筋接合部から充分離れた筋電図データ2に分けた。なお,神経筋接合部の推定法は昨年の本学会で紹介した。各被験者から1分ずつ記録した筋電図データを筋活動10秒後から5秒毎に区切って10区間を処理した。MFCVは昨年の本学会で紹介した正規化ピーク平均法のうちのCC-NPATを用いて算出した。運動単位の活動電位が様々な伝導速度を持っているものとして波形を合成する手法で計算機シミュレーションを行いMFCVの分布を推定した。
    【結果】筋電図データ1と筋電図データ2共に800から1,300のパルスを検出して平均した。全被験者において筋電図データ1と筋電図データ2は,1分間に及ぶ持続的な肘屈曲運動と共にMFCVの低下がみられた。筋電図データ1上のMFCVは,筋電図データ2のそれよりも大きい値を示した。計算機シミュレーションにおいて,合成の比較平均パルスと実際の比較平均パルスとはかなり高い相関を示した。推定したMFCV分布の標準偏差は,筋電図データ1が45.2±12.9%に対して筋電図データ2が29.0±8.5%と有意に小さかった(図5,p<0.05)。
    【考察】筋電図データ1と筋電図データ2は,かなり異なるMFCV値を示しているが,先行研究の同じ上腕二頭筋のMFCV値と比較して,筋電図データ1のMFCV値は異常に大きい。一方,MFCVのばらつきは,筋電図データ1が筋電図データ2より異常に大きいことが明らかになった。筋電図データ1には一部神経筋接合部によるMFCV値の大きい成分が含まれていることが考えられる。これは算出したMFCVの信頼性判定の目安になり得る。本法は筋疾患やスポーツ医学などにおいて筋活動の様式を詳細に調べることで,理学療法の効果判定に用いられる可能性を示唆した。
  • 江西 一成, 坂野 裕洋, 梶原 史恵
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 40
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】理学療法において抗重力肢位は必須であり、その際の循環動態を知ることは重要である。しかし、臨床現場では慎重に段階的他動立位のような変換を行う一方で、生活場面では車いす座位や移乗時立位などが無造作に行われる現状もあり、一定の見解は示されていない。そこで、重力負荷として「車いす坐位」「自動立位」が、他動傾斜立位(Head-Up Tilt; HUT)のどの程度に相当するかを確認したので報告する。
    【方法】健常男性6名(22±4歳、身長172±2.3cm、体重64.5±3.8kg)を被験者とした。重力負荷は、車いす坐位・自動立位の他に15・30・45・60度HUTとし、それぞれ20分以上の安静臥床後ランダムに肢位変換し5分間保持した。循環指標としてインピーダンス法による一回拍出量(日本光電AI-601G)、心拍数、血圧を安静時、肢位変換後1・3・5分時に測定し、心拍出量・平均血圧は計算で求めた。これら測定値の安静時からの変化、各肢位間の変化量を比較した。なお本研究は各被験者への十分な説明と同意の下に行った。
    【結果】安静時の一回拍出量、 心拍数、心拍出量、平均血圧は、それぞれ109.4±8.7ml、55.8±1.2bpm、6.0±0.5l/min、76.3±3.3mmHgであり、各肢位への変換と同時に一回拍出量減少、心拍数上昇、心拍出量減少、平均血圧上昇の有意な変化を示した。また車いす座位1・5分時の一回拍出量減少-25.1±6.4、-29.2±3.6ml、心拍数上昇10.0±5.0、11.0±4.5bpm、心拍出量減少-0.74±0.25、-0.87±0.30l/min、平均血圧上昇9.3±2.9、10.9±3.7mmHgに対して、一回拍出量・心拍出量の変化は30度HUTにほぼ相当していた。さらに、自動立位1・5分時の一回拍出量減少-47.3±9.2、-53.8±7.3ml、心拍数上昇21.3±5.5、25.3±5.4bpm、心拍出量減少-1.46±0.38、-1.74±0.38l/min、平均血圧上昇10.5±1.7、13.0±3.5mmHgは最も大きな変化量だった。
    【考察・まとめ】生体は骨格を筋・皮膚が囲む柔軟な構造であり、重力負荷によって血液は下肢方向へ移動する。その結果、静脈還流量・心拍出量の減少を生じ低血圧が惹起される。これらの刺激は圧受容器に感知され、そこから迷走神経抑制・心臓交感神経促進を介した心拍数上昇による心拍出量回復、さらに交感神経を介した血管収縮による総末梢血管抵抗上昇によって血圧を維持することが知られている。今回の結果から、重力負荷として車いす座位は30度HUTに相当し、自動立位は最大負荷であることが分かった。また同時に、心拍応答・心拍出量回復機能は他動立位よりも活発に作動しており、血圧維持という点では有用である可能性も示唆された。
  • 小澤 拓也, 金原 高志, 中岡 孝太, 本田 真弓, 金谷 佳和, 安川 純一, 岩田 充浩, 新 友維, 松本 伊代, 竹口 裕成, 加 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 71
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、大腰筋が立位時の重心安定に関与するとの報告が散見される。しかし、立位時の重心の安定性は様々な因子により規定されることが考えられ、大腰筋と重心動揺の直接的な関連について明らかにした報告は少ない。今回我々は、大腰筋と重心動揺との関係について、その断面積と重心動揺との関係を検討したので報告する。
    【目的】
    大腰筋の断面積と重心動揺との関係を検討する。
    【対象】
    下肢・体幹に問題を有しない健常成人10名、男性7名、女性3名、平均年齢27.4±4.7歳を対象とした。
    【方法】
    大腰筋の断面積をMRIにて評価した。MRIはTOSHIBA製FLEXART0.5Tを使用した。撮影条件はT2強調画像(TR=4200・TE=120)で行い、仰臥位、水平断で第1腰椎から第1仙椎までの各椎体および椎間板の中央部を撮影した。MRI画像上の左右の大腰筋をコンピューター上でマーキングし筋の断面積を測定した。測定した各スライスの断面積の総和を算出した。
    またアニマ社製グラビコーダを使用し、重心動揺検査を行った。閉眼・自然立位を取らせ、サンプリングタイムは30秒とした。
    大腰筋の筋断面積総和と重心動揺検査の各パラメーターとの関係をピアソンの相関係数検定を用いて検討した。危険率は5%水準をもって有意とした。
    【結果】
    筋断面積総和の平均は、大腰筋が225.2±63.7cm2であった。重心動揺検査の各パラメーターとの関係は、重心線の前後移動距離の平均値および重心線の前後移動距離の中間値とで有意な相関関係(p<0.05)を認め、相関係数はそれぞれ0.71・0.68であった。
    【考察】
    今回の検討では、大腰筋の断面積総和と重心の前後方向への動揺との間で相関関係が認められ、大腰筋の断面積総和が大きくなるにつれ、重心の前後方向への動揺が少なくなるという結果となった。このことは大腰筋が姿勢制御に関して重要な規程因子であり、特にその前後方向に限定した姿勢制御を行うものであると考えられる。
    【まとめ】
    1)MRIを用いて計測した大腰筋の断面積総和と重心動揺検査の各パラメーターについてその相関を検討した。
    2)大腰筋の断面積総和と重心線の前後移動距離の平均値および重心線の前後移動距離の中間値との間に有意な相関が認められた。
    3)大腰筋は身体重心前後方向の制御因子として重要であると考えられる。
  • 岩下 篤司, 市橋 則明, 南角 学, 山口 哲史, 高木 泰宏
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 72
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】スポーツ活動における膝関節の靭帯損傷発生機序について、非接触時における単独での発生率が高いことが報告されている。それは主に急激な方向転換やジャンプ後の接地時において膝関節伸展と下腿回旋および外反の組み合わせが高いストレスを与える影響によるとされている。これらの報告は動作解析による運動学的検討であり、筋電図学的検討はほとんど行われていない。そこで本研究の目的は、toe-in、toe-outでの片脚立位にて踵挙げ動作と膝屈伸動作における筋活動特性を明確にし比較・検討を行うことである。
    【方法】対象は健常成人8名(年齢25.0±2.7歳、身長164.8±6.7cm、体重56.0±7.9kg)とした。筋電図の測定筋は右側の大腿直筋、前脛骨筋、腓腹筋内側頭、腓腹筋外側頭の4筋とした。表面筋電図を導出するため電極中心間距離20mmのプリアンプ内臓電極(直径8mm)を筋線維の走行に沿って貼付した。また電気角度計を踵挙げ動作時には足関節に、膝屈伸動作時には膝関節に装着した。Data LINK(Biometrics社製)を用い,筋活動を50msec毎の二乗平均平方根(Root Mean Square)により平滑化し,サンプリングデータの平均値(以下,RMSとする)を求めた.3秒間の最大等尺性収縮を100%として振幅を正規化し%RMSを算出した.足部位置について、右側片脚立位にて足長軸を身体の矢状軸に合わせたものを中間位とし、それから30゜外旋および内旋した位置をそれぞれ外旋位、内旋位と設定した。踵挙げ動作は足関節角度を0゜~最大底屈位の範囲で、膝屈伸動作は膝屈曲角度を90゜~0゜の範囲で、それぞれ反復速度60回/分で行った。各動作での安定したRMSを測定し、電気角度計を基準に3周期分の筋活動量をデータとして用いた。統計処理には反復測定一元配置分散分析及び、Fisher's PLSDの多重比較を用いて、各動作においてtoe-in、toe-outさせたときの影響を分析した。
    【結果及び考察】(1)踵挙げ動作(2)膝屈伸動作時の%RMSは、大腿直筋は(1)14.9~28.5%(2)19.8~34.6%、前脛骨筋は(1)28.2~37.6%(2)20.3~26.8%、腓腹筋内側頭は(1)73.4~82.9%(2)17.2~26.0%、腓腹筋外側頭は(1)73.1~94.5%(2)24.9~39.0%の筋活動量を示した。足部位置の変化により、大腿直筋は両動作共に外旋位で有意に筋活動量は増加し、前脛骨筋は踵挙げ動作時に外旋位で筋活動量は増加した。腓腹筋内側頭は両動作共に足位置の変化による影響を受けなかったが、腓腹筋外側頭は両動作共に内旋位で有意に筋活動量は増加した。今回の結果、腓腹筋内側頭は足部位置の変化による影響を受けにくく、反対に大腿直筋と腓腹筋外側頭は足部位置による影響を受けやすく、さらに相反するように活動量が変化することが示唆された。
  • ―注目している部位を明確にする―
    渡会 昌広, 金子 誠喜, 仲 貴子, 柳田 俊次, 小島 肇, 清水 陽子, 林 謙司, 岡村 大介, 高田 健司, 田口 春樹, 石井 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 73
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    理学療法士の臨床における技術は,経験的な学習過程を経て獲得されるものが多い.その中でも歩行分析・観察の技術は,経験の少ない理学療法士にとって難しさを感じる技術のひとつである.その理由としては, 歩行分析・観察の学習過程が認知科学的に理解されていないこと,経験のある理学療法士にとっても学習で非言語化されたものを説明することが難しいことなどが考えられる.そこで理学療法士が歩行観察時に注目している部分を明確にするため本研究を行う.
    【対象と方法】
    (実験1)理学療法士7名に,7名の歩行1往復(あらかじめ録画したもの)を観察してもらい,歩行の特徴について出来るだけ挙げてもらった.観察後に歩行の特徴について被験者自身が用紙に記述し,それを検者が分類し頻度を数えた.
    (実験2)対象は臨床経験10年以上の理学療法士2名と理学療法士養成校学生2名とした.課題は,実験1と同じ歩行1往復(録画)を観察し,歩行の特徴について出来るだけ挙げるということとした.その際に被験者の注視点を眼球運動計測装置(EMR-8B:株式会社ナックイメージテクノロジー社製)を用いて眼球運動から測定した.注視点の軌跡,停留点,停留順序について分析を行った.
    本研究では,被験者や歩行撮影に協力していただく対象者の権利に配慮するとともに,秘密保持を厳守し,実験,研究発表することとした.
    【結果】
    (実験1)記述された歩行の特徴で頻度の高かったものを順に挙げると,(1)重心位置・移動(18回),(1)骨盤挙上・下制(18回),(3)上肢の緊張・振り動作減少(16回),(4)体幹傾斜(15回),(5)肩挙上・下制(13回)などで,骨盤,肩,下肢関節に関するものが多かった.
    (実験2)歩行観察における注視点の軌跡,停留の傾向として,(1)観察開始初期は注視点が停留せず多くの部位を動くが,次第に停留し始める.特に理学療法士は停留を始める時期が早い(2)停留する点は,骨盤,肩,足部の周囲が多いという傾向があった(3)理学療法士は停留する順序がある程度決まっていて,観察に繰り返しがみられる,などが挙げられた.
    【考察と今後の課題】
    歩行観察など対象の特徴を認知する過程では,注視点解析が行われる.注視点解析とは,大まかな観察から特徴を示す注視点の探索がまず行われ,次に発見された注視点の重点的な解析が行われることをいう.本研究では実験1,2より骨盤や肩など理学療法士が重視しやすい注視点の存在が明確になった.また実験2より観察初期には注視点を発見する過程が存在し,また経験によってその発見までの時間が短い傾向が示された.臨床経験による観察の学習が注視点を発見するまでの時間を短縮していると示唆される.単に局所的な観察は,全体を捉えて局所間の関連性を理解することができない.前情報としての予備知識も注視点の早期発見,注視点解析の効率を良くさせていると考えられる.
    今後は被験者数を増やし,グループ化を行い,歩行観察における経験の差を報告したい.
  • 前田 貴司, 広田 桂介, 志波 直人, 中島 義博, 西村 繁典, 梅津 祐一, 永田 見生, 田川 善彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 74
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性股関節症の主な跛行には患側立脚期に反対側の骨盤が下方へ落ちるTrendelenburg歩行と患側立脚期に同側の骨盤が下方へ落ちるDuchenne歩行があり、これらは外転筋力の低下が原因とされている。そこで三次元動作解析装置を用いて歩行解析を行い、各跛行の立脚期での股関節外転モーメントを計測し比較検討したので報告する。
    【方法】対象は変形性股関節症と診断され骨切り術を施行した8名(男性1名、女性7名、22歳から50歳、平均40歳)。
     方法は三次元動作解析装置と床反力計を用い自由歩行時の歩行解析を行った。得られた結果より立脚期の前額面での骨盤の動きと股関節内外転角度よりTrendelenburg歩行を呈する3名とDuchenne歩行を呈する5名とに分類し、立脚期の股関節外転モーメントを求め、体重で補正を行い術側と非術側でその値を比較した。
    【結果】立脚期の外転モーメントの体重比は、Trendelenburg歩行の非術側で平均0.84Nm/Kg、術側0.87Nm/Kg。Duchenne歩行の非術側で平均0.81Nm/Kg、術側0.4Nm/Kgである。Trendelenburg歩行は術側の値が非術側の値より大きく、Duchenne歩行は非術側の値が術側の値より大きくなった。
    【考察とまとめ】立脚期の外転モーメント体重比において、Trendelenburg歩行は術側の値が大きく、Duchenne歩行は非術側の値が大きくなった点について、立脚期の股関節角度から検討すると、Trendelenburg歩行は術側立脚期に反対側骨盤が下方へ落ちるため術側は内転位になり、Duchenne歩行は術側立脚期に同側骨盤が下方へ落ちるため術側は外転位になる。これらより、Trendelenburg歩行の床反力ベクトルが股関節中心よりも内側へ移動し、レバーアームが大きくなるため外転モーメントは大きくなり、Duchenne歩行は床反力ベクトルが股関節中心に近づくためレバーアームが小さくなるため外転モーメントは小さくなると考えられる。このように、Trendelenburg歩行においては、立脚期の外転モーメントは非術側より大きな値を示し、跛行の原因が一概に外転筋力低下とは言い難い。また、変形性股関節症の跛行に関する報告によると、Trendelenburg歩行やDuchenne歩行は、筋力低下だけが原因ではなく、疼痛や関節可動域制限、脚長差なども原因に考えられると言われ、今後更なる検討が必要と思われる。
  • 松井 知之, 久保 秀一, 瀬尾 和弥, 加藤 直樹, 畠中 泰彦, 長谷 斉, 渡辺 伸佳, 久保 俊一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 75
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     われわれは、第37回本学術集会にて、健常人の階段下り動作を分析し、freeパターンは立脚初期に床反力、関節角度、関節モーメントが増大し、slowパターンは立脚後期に床反力以外のパラメータが増大すること、また関節モーメントの最大値は両者に有意差がなかったことを報告した。今回は角速度、パワーのパラメータを加え、膝関節機能の評価、訓練遂行に役立つ指標の一つとして検討したので報告する。
    【対象および方法】
    対象は健常成人10名。平均年齢25.7±5.4歳、身長171.4±8.6cm、体重64.6±12.1kgであった。床反力計(Kistler社:9281B1)上に高さ20cmの段差を4段作製した。被検者の体表に左右10個の反射マーカーを貼り、5台の赤外線カメラにて撮影し、三次元動作解析装置(ELITE PLUS)にて解析した。動作スピードは自由に下りたfreeパターンと、メトロノームに合わせたケイデンス60のslowパターンとした。比較パラメータは膝関節における角速度、パワーとし、統計処理は2群間に対応のあるT検定を用い、危険率1%で検定した。
    【結果】
     角速度は、freeパターンが立脚初期と後期に増大する二峰性の波形となり、立脚初期にピークを示した。slowパターンは立脚後期にピークを示す波形であった。各々のパワー最大時の角速度を比較するとfreeパターンが220±28deg/sec、slowパターンは157±32deg/secとfreeパターンが有意に高い値を示した。パワーは、freeパターンが角速度同様に二峰性の波形を示し、立脚初期にピークとなった。一方slowパターンは立脚中期以降にマイナスの値が増大し、立脚後期にピークを示した。パワーの最大値はfreeパターンが-17754±3471Nm・deg/sec、slowパターンが-13390±3450 Nm・deg/secであり、freeパターンが有意に高い値を示した。
    【考察】
     前回の研究結果では、関節モーメントの最大値に両者の有意差は認めなかったが、今回の結果より、力のみならず、速度という要素を考慮する必要があると考えた。freeパターンの機能は、接地直後に角速度・パワーが大きな値を示し、膝関節伸展筋群の瞬時な遠心性収縮により衝撃を吸収していると考えた。一方slowパターンの機能は、パワーが立脚中期から後期にかけて増大するため、この時期に持続的な遠心性収縮により、重心下降を制御し、反対側下肢の接地時の衝撃発生を予防していると考えた。このように動作パターンの違いにより膝関節の機能は異なるが、いずれも遠心性収縮であり、角速度はslowパターンでも約150deg/secということから、円滑な階段交互昇降には、早い速度での遠心性収縮の訓練が必要であると考えた。
  • ―第二報―
    勝木 秀治, 田中 龍太, 今屋 健, 園部 俊晴
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 76
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我々は、第31回日本肩関節学会で同時開催された肩の運動機能研究会において、体幹肢位と肩甲骨の運動との関係を調べ、骨盤後傾位の姿勢では、体幹回旋動作に伴う肩甲骨の運動が制限されることを示し、投球動作など上肢動作を伴う体幹運動では、適度な骨盤前傾位を保つことが重要であると報告した。しかし、被験者によっては骨盤前傾位で肩甲骨の運動が少ない場合もあり、その関係には不明な部分も多かった。そこで今回は、さらに検討を加えて、体幹回旋角度と肩甲骨の運動量との関係について検討した。
    【対象及び方法】対象は肩関節や体幹に既往のない健常成人男性8名・16肩(年齢26.9±5.0歳)。測定姿勢は端坐位とし、体幹肢位を変化させるため斜面台を用いて骨盤の傾斜を変化させ、自然肢位、骨盤前傾位、骨盤後傾位の3肢位にて各計測を行った。計測項目は、(1)体幹回旋角度、(2)第3胸椎棘突起から肩峰後角までの距離(肩峰距離)とし、(1)については頭頂より撮影した画像を用いて、(2)については、メジャーにて各肢位での安静時、体幹の前方回旋時の値をそれぞれ計測した。尚、計測は前方回旋側の肩甲骨とし、全対象両側計測した。また、前方回旋時と安静時における肩峰距離の差を求め、これを肩峰移動距離とし、肩甲骨の外方移動の指標とした。統計処理には、ピアソンの相関係数を用いて、各肢位における体幹回旋角度と肩峰移動距離との関係を検討した。
    【結果】各肢位での体幹回旋角度は、自然肢位で39.1±7.2度、骨盤前傾位で41.5±6.0度、骨盤後傾位で40.3±8.7度であり、統計上有意差はなかったが骨盤前傾位で大きい傾向にあった。また、肩峰移動距離は、自然肢位で0.97±0.55cm、骨盤前傾位で0.96±0.54cm、骨盤後傾位で0.51±0.50 cmであった。体幹回旋角度と肩峰移動距離との関係では、自然肢位、骨盤後傾位では共に相関関係を示さなかったが、骨盤前傾位では、体幹回旋角度と肩峰移動距離は正の相関を示した{r=0.54(n=16),p<0.05}。つまり、骨盤前傾位では体幹回旋角度が増加すると肩甲骨の外方移動量が大きくなった。
    【考察】臨床において、上肢のリーチ運動後に体幹回旋角度が増加し、体幹の運動がスムースに行えるようになる場面を経験するが、今回の結果は、臨床で経験するこのような現象を裏付ける結果となった。体幹の回旋角度は骨盤前傾位で大きい傾向にあるが、症例によっては、体幹の回旋動作に対してアプローチする場合、単に骨盤を前傾位に誘導するだけでは体幹の回旋角度を増加させるには不十分であるといえる。つまり、本研究結果を踏まえると、骨盤前傾位で肩甲帯の運動を引き出すことが、体幹の回旋運動を引き出すポイントの一つといえる。体幹運動と肩甲骨の運動に関する本研究の臨床的意義は大きく、今後も研究を継続していきたい。
  • ―経験者と学生との比較:肩関節外旋・内旋筋力測定時―
    井上 和久, 原 和彦, 丸岡 弘, 鈴木 智裕, 細田 昌孝, 久保田 章仁, 田口 孝行, 西原 賢, 磯崎 弘司, 藤縄 理, 高柳 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 77
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】把持筋力計(hand-held dynamometer、以下HD)の筋力評価について、これまでその信頼性および固定方法の違いについて検討を行い、検者の固定方法の違い(肘関節伸展位法:以下EE法、肘関節30°屈曲位法:以下EF法)が筋トルク値に大きく影響する可能性があるということを報告した。そこで今回、HD使用経験のある理学療法士とHD経験の少ない学生の筋力測定結果からその測定値の信頼性に与える影響について検討したので報告する。
    【方法】対象は、若年健常女性10名(平均年齢22±0.5歳)で、骨・関節系の既往歴がない被験者であった。検者は経験年数9年の理学療法士1名を検者Aとし、また学生2名(4年生)をそれぞれ検者B・Cとしてランダムに測定を行った。測定機器は、HD(アニマ社製μTas MT-1)を使用し、左右の肩関節外旋筋力および肩関節内旋筋力を徒手筋力検査法に準じ腹臥位で測定した。測定は、メイクテスト法を使用して、各筋力の5秒間等尺性最大筋力を左右それぞれ3回測定し、また検者の固定方法の違い(EE法・EF法の2種類)において各3回測定を行った。但し、3回の測定の平均を筋トルク値とした。解析データは、測定誤差({最大値-最小値=誤差}÷平均値×100)および筋トルク値とした。統計処理は、SPSS Ver.12.0を使用し、分散分析・t検定を行い、有意水準は危険率5%未満とした。なお、本研究はヘルシンキ宣言に則り被験者に同意を得た上で実施した。
    【結果】測定誤差(%)の比較は、肩関節外旋のEE・EF法ともに検者間に何ら有意な差は認められなかったが、肩関節内旋のEE法において検者A<検者B、検者A<検者Cの検者間に有意差が認められ、EF法においては検者A<検者B、検者C<検者Bの検者間に有意差が認められた。筋トルク値(N)の比較は、肩関節外旋のEE・EF法ともに検者A>検者B・Cの検者間に有意差が認められ、肩関節内旋のEE・EF法ともに検者A>検者B・C、検者C>検者Bの検者間に有意差が認められた。
    【考察】本研究結果からHD使用経験者である検者Aは、学生検者B・Cより有意に被験者のもつ筋トルク値を測定していたことが示唆され、また、HD使用経験の少ない学生検者の場合では、被験者のもつ筋トルク値を過少評価する傾向があると思われる。さらに学生検者が実施する肩関節内旋筋力測定には、学生検者間に有意な差が認められ、学生間の固定方法の熟練度や技能の違いが影響していると考えられた。肩関節内旋筋力測定時の測定誤差については、学生検者より有意に検者Aの測定誤差が低く信頼性の高い測定であることが示唆された。以上の結果より、これまで把持筋力計の測定についての報告同様、一定以上の経験年数や技能を有する検者において、その信頼性は比較的高いことが再認識された。
  • 山崎 貴博, 水津 和子, 杉山 英樹, 有吉 亨, 大島 剛
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 78
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】腰痛症患者では、諸家により健常群に比し体幹深層筋であるローカル筋(以下、LMと略す)の筋収縮不全や筋力の低下等が報告されている。しかし、腰痛経験者で現在、症状のない者(以下、腰痛歴群とする)を対象とした調査報告は少ない。そこで今回、腰痛歴群では、なんらかの体幹筋筋力低下、特にLMに差異があるのではないかと予測し、グローバル筋(以下、GMと略す)とLMに焦点を当て、腰痛経験の有無により体幹筋の筋収縮率の相違を比較検討した結果、若干の知見を得たのでここに報告する。
    【方法】本研究の対象者は17名とし、過去に全く腰痛経験がないものを健常群9名(26.7±7.8歳)、腰痛経験があるものを腰痛歴群8名(24.8±3.0歳)とした。なお、対象者には本研究の概要を説明し、本人の参加意思を確認後、同意を得た。使用装置は超音波画像診断装置(アロカ社製SSD-2000)を使用し、縦断像法にて筋厚を測定した。被験筋は、左右の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、多裂筋、胸最長筋、腰方形筋の7筋(14部位)とした。運動肢位は、背臥位での頭部挙上による腹筋運動と、四つ這い位での上下肢の対角挙上運動とした。
    【結果】健常群と腰痛歴群の各筋収縮率の結果は、背臥位運動では健常群と腰痛歴群の各筋収縮率を比較したところ、健常群の腹横筋と腹直筋が有意に筋収縮率が高いことが認められた(p<0.01)。内腹斜筋と外腹斜筋に対して有意差は認められなかった。四つ這い位運動 では健常群と腰痛歴群の各筋収縮率を比較し、多裂筋に有意差が認められた(p<0.01)。その他6筋には有意差が認められなかったが、腹横筋に関して、健常群は腰痛歴群より筋の収縮率が高い傾向がみられた。筋の左右差に関して、健常群および腰痛歴群ともに、7筋すべてにおいて有意差は認められなかった。背臥位・四つ這い位運動を含め、両群の筋収縮率を比較すると、有意に健常群の筋収縮率が高いことが認められた(p<0.001)。
    【考察】背臥位運動では、腹筋群において、全体的に健常群の筋収縮率が高いことが示唆された。過去に腰痛を経験することで、LMおよびGMがともに低下することが考えられる。近年、腰痛に関与するといわれる腹横筋を代表としたLMの収縮不全だけではなく、腹筋群全体の筋力低下も要因の一つとしてあげることができる。確かに、本研究でも、腹横筋の筋収縮率低下が認められたが、LMである腹横筋の低下によって、脊椎の安定性が低下し、GMである腹直筋の効率的な筋収縮を阻害している可能性も考えられる。四つ這い位運動では、回旋制御を伴うような、いわゆるバランスを保持する運動において、量的な筋力というよりも質的な筋力である協調的な働きを示すLMのみ、筋収縮不全 が見られ、脊柱の安定性を低下させ、腰背筋への負担を増大させていると考えられる。
  • 高柳 清美, 拝師 智之, 門間 正子, 藤井 博匡, 武田 秀勝, 大山 陽平, 細田 昌孝, 久保田 章仁
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 79
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     足アーチの機能特性に関する研究は,新鮮遺体を用いた物性試験が多くを占めている.しかし,足アーチは個人差が大きいため,立位荷重状態で足アーチを支持する足底腱膜や足底筋群の形態的特長を内部情報によって定量的に把握することが障害予防の観点から必要不可欠と考える.また,変形性関節症や靱帯不全者における荷重位での膝関節の詳細な3次元情報は少なく,運動学的・解剖学的に未解明な点が多い.荷重位での足底腱膜や足底筋群,膝関節に関する運動学的・解剖学的な知見は理学療法士にとって必要不可欠であると考える.今回我々は世界的にみても実施例の少ない立位状態で計測可能なコンパクトMRI装置の開発を行った.

    【機器】
     開発した装置は,0.22T型磁気回路(NEOMAX製;U型2本柱)のスペックで,共鳴周波数;9,339MHz,サイズ;約80cm立法,重量;約540Kg,ギャップ;170mm,静磁場均一度;53ppm@120mmDSV,勾配磁場効率(mT/m/A);GX=GY=GZ=1.3,5G漏れ磁場半径;中心より約70cm,電源;AC100Vであった.RFコイルは足場撮影では立位での荷重に耐え,膝部撮像では方向を変えて用いるように設計した.コンパクトで移動を可能にするために,ポリエステルを基材として銀でコーティングした特殊布で測定部をシールドした.

    【評価】
     ベビーオイルファントムとベビーオイルを満たした約7cmのプラスティック球により撮像の再現性,歪みについて評価した.また,男性2名,女性2名の足部についても繰り返し撮影を行い,再現性,歪みについて評価した.被験者については事前に研究の目的,方法,実験の危険性などについて説明し同意を得た.

    【結果および考察】
     X,Y,Z方向によって多少差異は認められたものの磁場中心の約10cm球の範囲であれば,比較的安定した撮像が可能であったが,画像の歪の補正の必要性が認められた.足アーチ形状と障害との関連から,これまでにフットプリント,アーチ高率,三次元計測など体表面から得られる形態外部情報,単純X線,CT,MRIなど形態内部情報に関する研究が数多く報告されてきた.外部情報では内部構造をどこまで反映しているかが不明であり,X線撮影では軟骨や軟部組織の判別や複数の骨の重複により骨構造の判別がそれぞれ困難である. CTやMRIでは立位の計測が困難なため,臥位で肩や腰部にベルトを掛けて膝や足部に重力方向の模擬的な圧力が加わる器具を用いた方法も試みられてきた.また,立位で膝・足関節の動的撮像(キネマチックMRI)可能な特殊MRI装置は存在すが,立位でないため前屈などの無理な姿勢でしか撮影できず,得られる結果は一般的な立位像とは考えにくい.今回開発したMRI装置は安静立位での撮影が可能で,三次元撮像による新たな膝関節・足部の研究が可能となった.
  • ―Star-Excursion Test変法を用いて―
    岩本 久生, 木下 めぐみ, 浦辺 幸夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 80
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者の日常生活に障害をきたす原因として転倒があげられる。転倒要因の一つに末梢からの感覚入力の低下があげられ、それによるバランス能力の低下が転倒を誘発することがいわれている。バランス能力の評価には様々な方法があるが、今回膝関節損傷者に対するバランス能力の評価に使用されているStar-Excursion Test(Kinzeyら、1998、以下SET)を修正して使用し、これに末梢からの感覚入力を評価する膝固有受容感覚測定の結果を加味し、バランス能力と固有受容感覚の関連性を明らかにすることを目的とした。仮説として健常者において固有受容感覚がよければバランス能力が高いと推測した。
    【方法】対象は下肢に疾患のない健常者20名(男性15名、女性5名)とした。平均年齢(±SD)は63.3±6.0歳、身長は160.7±8.2cm、体重は58.2±11.6kgであった。固有受容感覚の測定は、Lephartら(1992)の方法を参考に独自に製作したコンピュータ制御装置(固有運動覚・固有位置覚測定装置、センサー応用社.日本)を用いた。膝位置覚は、端座位にて膝屈曲90°を開始角度とし、設定角度は膝屈曲20°、40°の2種類とした。10°/secで他動的に下腿を伸展させ設定角度を記憶した後、同速度にて他動的に同側下腿で角度を再現してもらった。この時の角度を再現角度とし、設定角度からの誤差角度を記録した。膝運動覚は、端座位にて膝関節屈曲15°と45°を開始角度とし、屈曲、伸展方向に0.5°/secで他動的に下腿を動かした。下腿が動いたと感じた時点でスイッチを押してもらい、開始角度からスイッチを押すまでに動いた角度を誤差角度として記録した。SET変法の測定は自作した装置の中点に軸足をおき、8方向へバランスを崩さず戻ることができる最大リーチ距離を測定し、身長で除して補正した。統計学的分析にはStatView5.0(SAS Institule Inc.)を用い、8方向のSET変法のリーチと位置覚、運動覚についてピアソンの相関係数を求め検定を行った。
    【結果】SET変法と位置覚の間では有意な相関が認められなかった(r=-0.43~0.46)。SET変法と運動覚の間でも有意な相関が認められなかった(r=-0.31~0.43)。
    【考察】SET変法と位置覚や運動覚と相関がなかったことから健常者においてバランス能力と固有受容感覚に関連性がないことがわかり仮説とは異なる結果となった。健常者におけるバランス能力は固有受容感覚以外の要因が大きく関与していると考えられた。今後は高齢者や片麻痺者など運動障害や歩行障害を伴っている者を対象として、SET変法と固有受容感覚の関係を明らかにし運動療法に役立てていきたい。
  • 坂光 徹彦, 浦辺 幸夫, 山本 圭彦, 堀内 賢, 福原 千史
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 81
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者の体力維持・健康増進は重要で、特に体幹の愁訴は全身の機能低下をきたす深刻な問題となる。我々は体幹筋力の維持・強化が、高齢者の健康増進につながると考えている。しかし、体幹屈曲筋力を鍛えるエクササイズはセラピストが対象の上肢を介助した上体起こし動作が主で、客観的な筋力の評価が行い難く、高齢者がひとりで練習することが困難なことが多い。そこで、青木ら(2001)の考案したTilt Table上で傾斜をつけて行う上体起こし動作(Tilt Sit Up)を用い、独力で起き上がり可能な最低角度(Tilt角度)を測定し、評価やエクササイズに使用してきた。本研究では、上体起こし動作に要した介助量とTilt角度との関連について検討した。
    【方法】対象は、本院に外来通院している患者で、本研究の趣旨に同意を得られた65歳以上の高齢者である。重度な高次脳機能障害、体幹疾患の急性期、測定を遂行する際に急性増悪の可能性のある者を除く20名(男性6名、女性14名)で測定を行った。平均年齢(±SD)は77.7±7.1歳(65から92歳)、体重は51.3±12.4kg(33から76kg)であり、主な疾患は変形性膝関節症(7名)、変形脊椎症(5名)、肩関節周囲炎(4名)などであった。対象をTilt角度と上体起こし動作に要する上肢介助の負荷量を体重で徐したもの(単位:N/kg、以下上肢介助量)の両者について比較した。上肢介助量は両端に一本の紐をつけた30cmのバーを把持させ、平らなベッド上での背臥位からの上体起こし動作に必要になった力を徒手筋力検査装置(J TECH MEDICAL社製 Power Track 2)にて測定した。
    【結果】上肢介助量の平均値(±SD)は1.4±0.5N/kg、Tilt角度は14.6±6.2°となった。上肢介助量とTilt角度の間にr=0.84の有意な正の相関がみられた。また疾患ごとにおいても有意な相関がみられた。
    【考察】Tilt Sit Upでは、Tilt Tableの傾斜角度により上半身に加わる重力を減少させることができ、水平面では何らかの介助が必要な高齢者でも独力で上体起こし動作が可能になる。今回の研究では、上肢介助量とTilt 角度の間に有意な正の相関が認められ、上体起こし動作の能力をTilt角度から推測できるという可能性を再確認できた。これまで上体起こし動作の能力は評価方法やエクササイズの効果に対して、十分吟味されておらず、臨床現場においても曖昧であった。Tilt Tableを用いるエクササイズでは、1°単位での傾斜角度の設定が可能であり、効果判定や本人へのフィードバックが容易で、モチベーションの向上にもつながる。Tilt Tableを用いた上体起こし動作は、高齢者の体幹に対する運動療法における一手段、一評価法として臨床現場では容易で有意な手段として施行できると考える。
  • ―関節角度の変化による筋活動の比較―
    田仲 勝一, 田中 聡, 山田 英司, 森田 伸
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 82
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    下肢伸展挙上運動(SLR)は簡便で,安全性にも優れており臨床現場のみならず,ホームエクササイズとしても用いられている大腿四頭筋筋力強化運動の一つである.しかし,臨床的に大腿四頭筋の筋力低下を認める症例においては,膝関節軽度屈曲位での下肢挙上運動となっている場面が多い.そこで本研究は表面筋電図を用いて,膝関節完全伸展位と膝関節軽度屈曲位での下肢挙上運動時の大腿四頭筋筋活動の違いを明らかにすることを目的とした.
    【対象と方法】
    対象は本研究の目的を説明し,同意の得られた健常成人男性11名の22肢で,平均年齢25.1±4.5歳,平均身長173.5±5.3cm,平均体重68.1±9.2kgであった.なお全例において筋・骨格系に障害を有するものはいなかった.
    表面筋電図の測定にはMyoSystem1200s(Noraxon社製)を使用し,被検筋は大腿直筋,内側広筋,外側広筋とした.測定肢位は仰臥位にて,両股関節中間位から,一側下肢の挙上運動を股関節屈曲角度が20度(股20度)と45度(股45度)の2種類,膝関節角度が膝完全伸展位,膝10度屈曲位(膝10度),膝20度屈曲位(膝20度)の3種類の,計6種類の下肢挙上運動を行わせた.関節角度は徒手によりゴニオメーターで計測した.なお足関節角度は任意とした.各関節角度位置での下肢挙上運動を6秒間保持させ,波形の安定した3秒間の積分筋電図を時間で除した平均積分値を求めた.これを膝完全伸展位,股20度の平均積分値を100%として正規化し,平均積分値比として算出した.
    統計処理は一元配置分散分析を用いて,各筋の各関節角度における平均積分値比を比較した.
    【結果】
    各筋の各関節角度での筋活動は,大腿直筋では,股20度・膝10度が71±34.8%,股20度・膝20度が69.3±25.6%,股45度・膝10度が68.3±39.4%と有意に低値となった(p<0.05).内側広筋では,股20度・膝10度が23.1±19%,股20度・膝20度17.4±14.7%,股45度・膝10度が33.6±31%,股45度・膝20度が33±31.4%と有意に低くなった(p<0.01).外側広筋では,股20度・膝10度が11.3±15.3%,股20度・膝20度が5.4±9%,股45度・膝10度が21.7±17.4%,股45度・膝20度が11.6±10.7%と有意に低値となった(p<0.01).
    【考察】
    膝関節完全伸展位に比べ,膝関節軽度屈曲位では大腿四頭筋筋活動が低下し,特に膝関節の動的安定機構である内側広筋,外側広筋の筋活動が著明に低下した.SLRは大腿直筋優位の筋力強化運動との報告もあり,大腿四頭筋の筋力強化を目的とするならば,Quad settingなど広筋群優位の筋力強化方法も同時に処方する必要があると考える.
  • ―バランス機能との関連―
    中村 綾子, 佐藤 春彦, 柴 喜崇, 大渕 修一, 二見 俊郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 83
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】高齢者では頭部の前方変位を伴った体幹の前屈姿勢が特徴的であり、これまで骨粗鬆症など脊柱の圧迫骨折による脊柱の構築的な変化が原因とされてきた。しかし、骨粗鬆症や脊椎骨折数と脊柱変形は関連がないとの報告もあり、加齢による前屈姿勢は脊柱の構築的な変化がなくても起こりうると考えられる。Cunhaらの仮説によると、高齢者では安定性の低下に対して体幹前屈や膝屈曲を呈して重心を下げる代償を用いており、この代償が長期的に継続した結果、前屈姿勢につながっている可能性が考えられる。そこで今回、歩行時の安定性低下により前屈姿勢を呈するか否か、安定性低下による姿勢変化とバランス機能に関連があるのか、を検討することを目的とした。
    【方法】対象は健常若年者8名(21.5±1.3歳)と健常高齢者17名(平均年齢69.1±2.9歳)とし、両側分離型トレッドミル(PW2;日立製作所製)上にて定常歩行と不安定歩行を行った。外後頭隆起、第7頸椎、第8胸椎、左右肩峰、仙骨部に赤外線発光マーカーを貼付し、三次元画像解析装置 (OPTOTRAK3020;Northern Digital社製)を用いて位置を測定した。姿勢として骨盤に対する頭頸部の前方距離、骨盤に対する体幹角度、鉛直線に対する体幹角度を算出し、Friedman検定を用いて定常歩行と不安定歩行で比較した。バランス機能は快適歩行速度、10m最大歩行速度、ファンクショナルリーチ、Timed Up & Go Testとし、姿勢変化との関係をSpearmanの相関係数を用いて検討した。
    【結果】骨盤に対する頭頸部の前方距離と骨盤に対する体幹前屈角度は、若年者、高齢者とも定常歩行と不安定歩行で変化は認められなかったが、鉛直線に対する頭頸部、体幹の前屈角度は高齢者のみ定常歩行に比べ不安定歩行で有意に増加した(p<.01)。また高齢者の定常歩行では、静止立位では認められなかった鉛直線に対する体幹の平均前屈角度とファンクショナルリーチ(r=-0.75,<.01)、Timed Up & Go Test(r=0.53,<.05)について有意な相関が認められ、定常歩行に対する不安定歩行での最小前屈角度増加とファンクショナルリーチについても有意な相関(r=0.49,p<.05)が認められた。
    【考察】歩行時の安定性低下により、頭頸部が前方変位した姿勢は若年者、高齢者とも呈さなかったが、骨盤前傾と頭頸部、体幹を前方変位させた前屈姿勢は高齢者にのみ認められた。よって、高齢者では歩行時の安定性低下に対し股関節上方の重心位置を前方に変位させている可能性がある。また、静止立位では認められなかった動的バランス機能と前屈姿勢の有意な相関が定常歩行では認められたことから、動的バランス機能は歩行時の姿勢と関連があると考えられる。バランス機能と定常歩行に対する不安定歩行での前屈角度増加量が正の相関を示したのは、バランス機能が低いほど定常歩行において既に前屈姿勢を呈しており、不安定歩行において明らかな姿勢変化が生じなかったためと考えられる。
  • ―ホリゾンタルレッグプレス運動と立ちあがり・歩行動作と比較して―
    塚田 鉄平, 小島 由紀, 高橋 浩史, 佐々木 健史, 伊藤 俊一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 84
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】『21世紀における国民健康づくり運動』の中で高齢者の筋力トレーニングは積極的に勧められ、各地域で行われている。その中でマシントレーニングを主体としたリハビリテーションとしてパワーリハビリテーション(以下パワーリハ)が注目されている。パワーリハによる効果についての報告は多くみられるが、マシン使用時の筋活動量を調べた基礎的研究は少ない。そこで今回,パワーリハ設定によるマシン使用時の筋活動量を計測し、立ち上がり・歩行動作と比較,検討したので報告する。
    【対象】健常成人20名(男性:10名、女性:10名、平均年齢25.6±8歳)
    【方法】Compass社製ホリゾンタルレッグプレス(以下HLP)を用い、測定動作は(1)歩行(2)立ちあがり(3)HLP運動(ボルグ指数11:楽である負荷)とした。導出筋は内側広筋(VM)、内側ハムストリングス(Ham)、腓腹筋(Gas)、前脛骨筋(TA)で全て左側とした。表面筋電図はメガ社製ME-3000Pを用い、動作中の筋活動量は積分値を加算平均(3回)したピーク値とした。得られた値を%MVCに換算し、各筋をHLPと歩行・立ち上がりで比較した。統計にはKruskal-wallis H-test後に多重比較としてMann-Whitney U-testwith Bonferroni補正を用い、有意水準5%未満とした。
    【結果】筋活動量について、歩行では平均でVM20.1%、Ham12.5%、Gas45%、TA29.5%。立ち上がりでは平均でVM36.1%、Ham7.2%、Gas13.5%、TA25.8%。HLP運動では平均でVM18.9%、Ham4.2%、Gas9.1%、TA4.3%であった。
    1)歩行とHLP運動の比較:Ham・Gas・TAで有意にHLP運動が低かった。2)立ち上がりとHLP運動の比較:4筋全て有意にHLPが低かった。
    【考察】パワーリハ設定におけるHLP運動は筋活動量が20%MVC以下と低く、筋力・筋量向上を目指すのではなく、筋持久力・フォーム・運動の習得に適し、継続して行う事のできる運動と考えられた。また歩行・立ち上がりよりも筋活動量が低いことから、関節や内科的なリスクのある虚弱高齢者に対して導入し易く、歩行・立ち上がりが困難である方に対しても前段階の練習として安全かつ有効的に使用できると考えられた.
    一方,高齢者の筋力増強は骨代謝の増大や心肺機能の向上などに効果があるとしている。そのため高齢者のマシントレーニングにおいて、パワーリハ設定の負荷だけではなく、リスクを考慮した上での高負荷を設定し、効率良い筋力トレーニングを行うことで筋力・筋量を向上していく事も必要であると考えられる。
    今後は対象・負荷・肢位・回数を変化させることでトレーニング効果の違い検討し、またHLPだけではなく他の機種についても明らかにしていきたいと考える。
  • 酒井 美園, 柴 喜崇, 佐藤 春彦, 二見 俊郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 85
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】これまでに我々は、高齢者の転倒要因を検討する上で歩行時の外乱刺激に対する姿勢制御反応の重要性に着目し、加齢が姿勢制御反応に及ぼす影響について研究を行ってきた。そして、高齢者と若年者の筋反応パターンの差異を明らかにした。これは、若年者、高齢者それぞれが、有する身体機能に合った反応を示すために生じる差異とも考えられ、高齢者の反応を若年者に近づけることが必ずしも適しているとはいいきれない。高齢者が、適した姿勢制御反応を得るためには、繰り返しの練習による運動学習によって模索し獲得していくことが有効と考えられる。本研究の目的は、両側分離型トレッドミルを用い、歩行中に繰り返しの外乱刺激を与えることで、歩行時の外乱刺激に対する姿勢制御反応の運動学習過程を明らかにすることとした。
    【方法】地域在住高齢者10名(男性5名、女性5名、平均年齢69.3±2.3歳)を対象とした。表面電極を、右側の体幹、大腿、下腿の前面・後面筋、計6筋に設置し、筋活動を測定した。また、仙骨部には加速度計を取り付け、前後方向の加速度を測定した。被験者は両側分離型トレッドミル上(PW21:日立製作所)を2km/hにて5分間歩行した。5分間歩行時に右側の歩行ベルトを500msecの間急激に1km/hまで減速し身体が後方へ動揺する外乱刺激をランダムに20回与え、この時の姿勢制御反応を調べた。骨盤加速度データは前後方向最大振幅値、筋電データは筋潜時と振幅について解析した。初めの5回分のデータを運動学習前、後の5回分のデータを運動学習後、中の10回分のデータを運動学習期とし、運動学習前・後の比較を行った。統計は、二元配置の分散分析を用い、危険率は5%とした。
    【結果】運動学習前に、4名には、身体前面筋が遠位から近位に向かって反応する足関節戦略がみられ、運動学習後も筋反応パターンに変化はみられなかった。残り6名には、身体前面筋と身体後面筋が反応する戦略がみられたが、その内4名は運動学習後に、身体後面筋反応が減弱し前面筋の反応が主になる筋反応パターンへと変化を示し、2名は、運動学習後も変化はみられなかった。骨盤加速度の前後方向最大振幅値は、運動学習前と比べ、運動学習後の方が小さくなる傾向がみられた。身体後面筋潜時は、運動学習後の潜時が、運動学習前と比較して有意に長かった(p<0.05)。
    【考察】運動学習後は、身体前面筋反応のみで外乱刺激に適応できる個人が運動学習前と比較して増えた。また、筋潜時では、運動学習後の方が身体後面筋潜時が有意に長かった。これまでの我々の研究で、身体が後方へ動揺する外乱刺激を与えた場合、身体前面筋のみで外乱刺激に適応できない場合は前面筋のみではなく後面筋反応がみられることが明らかになっている。以上のことから、繰り返しの歩行時外乱刺激によって、姿勢制御反応戦略を変化させ、適した姿勢制御を行うような運動学習過程がみられたと考えられる。
  • 岩本 浩二, 本間 道介, 杉本 寿司, 高橋 正知, 山根 日出勝, 福田 公孝, 吉尾 雅春
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 86
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)を用いた立位保持能力評価指標(以下,評価指標)を考案し,第39回学術大会において報告した。そこでは健常者と脳血管障害患者を対象とし,級内相関係数を用いて評価指標の再現性および,下肢Brunnstrom stage,10m歩行所要時間との関連性を示し,信頼性と妥当性を検証した。今回,評価指標の基準関連妥当性を確認するため,すでに妥当性が確認されているバランス能力評価法であるBergらによるFunctional Balance Scale(56点満点,以下,FBS)や,TinettiらによるPerformance-Oriented Mobility Assessment(28点満点,以下,POMA)を妥当性の基準とし,検討を加えたので報告する。
    【方法】脳血管障害,腰痛,変形性膝関節症などを伴う患者,または加齢によりバランス能力の低下を示す者40名を対象とした。男性18名,女性22名,平均年齢74.3±10.1歳,平均体重55.4±10.6kgであった。本研究は被検者が十分な説明を受けた後,十分な理解の上,被検者本人の自由意志による同意が得られた後実施した。HHDはアニマ社製徒手筋力測定器μTas MT-01を用いた。評価指標の測定は同一検者が行った。被検者の測定肢位は上肢を体側に下垂位とし,足部は内側を平行に10cm離した立位姿勢とした。測定は理学療法室内で行い,履物は,普段履いている運動靴を使用した。また測定時はできるだけ倒れないように垂直位を保持するよう指示を与えた。抵抗は,被検者の腸骨稜に側方から,上前腸骨棘に前方から,上後腸骨棘に後方から,各部へ床面に対し水平にHHDを当て,徐々に力を加えた。床面から足底の一部が床から離れたところで圧迫を止め,その時の最大値を体重で除して測定値とした。前後左右無作為に6部位で各部位にて3回測定し,その平均値を採用した。同時にFBSとPOMAの検査を行った。評価指標の妥当性を検討するために,6部位での測定値の合計とFBSまたはPOMAとの関連性をスピアマンの順位相関係数を指標に検討した。さらにPOMAとの関連は,バランススコアと歩行スコアに分けて対応を評価した。
    【結果】評価指標測定値は0.37±0.13kg/W,FBSは33.38±14.91点,POMAは16.73±9.66点であった。評価指標測定値はFBS測定値と正の相関(r=0.867),評価指標測定値とPOMA測定値とも正の相関(r=0.795),FBS測定値とPOMA測定値とにおいても正の相関(r=0.892)を示した。評価指標測定値とPOMAにおけるバランススコアとは正の相関(r=0.817),歩行スコアとも正の相関(r=0.699)を示した。バランススコアと歩行スコアとでは正の相関(r=0.803)を示した。
    【考察】FBS,POMAとの相関係数結果より,高い関連性を示し,HHDを用いた立位保持能力評価指標の測定値の基準関連妥当性が認められた。
  • ―リンクモデルを利用した関節粘弾性の推定―
    石田 水里, 対馬 栄輝, 佐川 貢一, Dragomir N. Nenchev
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 87
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】立位をとった人に外力を与えて,姿勢を保持するときの制御特性を動力学的に解析したい。このとき,人の関節運動を剛体リンクと仮定してモデル化すると,定量的な解析の指標を得られると考える。姿勢制御に要する変数の一つに,関節の粘弾性がある。これを数値表現できれば,人の姿勢制御に関する指標として役立つはずである。
     そこで,立位となった人にいくつか条件を変えて外力を与えたときの下肢関節運動から,モデル運動方程式を基に下肢関節の粘弾性係数を推定し,シミュレーションを行って実際の関節運動と比較することを目的とした。
    【方法】立位姿勢制御特性の解析に利用するために,足関節と股関節を持つ2次元倒立二重振り子モデルを作成した。モデルは,各リンクの支点部分で関節角度に比例したトルクを発生させるバネと,角速度に比例したトルクを発生させる粘性減衰性ダンパが,与えられた外力に対して姿勢を倒立状態に保持するように作用する構造とした。モデルの運動に関して,動力学的な解析手法であるLagrange法を用いて運動方程式を導出した。
     次に健常女性1名を対象として,背後から重りを衝突させる外力負荷実験を行った。外力を加える方法は,2種類の重り(3kg,5kg)と作用部分(肩,腰)を組み合わせた4条件とし,各条件ごとに5回ずつ繰り返し重りを衝突させた。これら全ての測定を矢状面方向からデジタルビデオカメラで撮影し,パソコンに取り込み,画像から足関節と股関節の角度を測定した。角度の微分計算によって,角速度と角加速度も求めた。
     運動方程式に最小自乗法を適用して,全条件20試行の各関節での粘弾性係数(バネ定数と粘性減衰係数)を推定した。さらに重りに付けた加速度計から身体に作用する力を測定した。これらを運動方程式に代入し,シミュレーションにより関節運動を確認した。全ての数値計算にはMaTX(プログラム言語)を用いた。
    【結果】シミュレーションの値と実測値を比較すると,1試行分で概ね一致した。ただし角速度・角加速度は外力負荷直後でばらつきが生じた。
    【考察】結果から,外力負荷直後の値にばらつきが生じており,身体と重りを剛体どうしの衝突として近似し難いと考える。また,測定画像のサンプリング周期が低いためにデータが平滑化されてしまった可能性もある。今後はデータ取得方法やモデルの妥当性をさらに検討して,より詳細な立位姿勢制御特性の解析を行っていくことが課題となる。
  • 中川 哲朗, 中島 あつこ, 田川 維之, 石元 泰子, 竹田 俊也, 有木 隆太郎, 冨岡 貞治, 小林 裕和, 福山 支伸
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 415
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】投球動作はスピードが0であるボールに対して,1秒にも満たない時間で100km/hを超える速度を持たせる動作であり,投手はそれに必要なエネルギーを全身を利用して発生させている.そのメカニズムは,重心移動や下肢筋力にて発生させたエネルギーを体幹回旋や肩関節内旋にて増幅させ,上肢を経て,最後にボールへと伝達させていくと言われており,全身の運動連鎖が重要であるとされている.今回我々はこの投球動作の中で重要な役割を担う体幹の運動に着目し,その体幹の上方に位置する頭部の位置が投球動作における体幹機能に何らかの影響を及ぼすのではないかと考え,体幹に対する頚部の傾きが投球動作に及ぼす影響について研究を行った.
    【対象及び方法】対象は某高校硬式野球部に所属している高校生9名(右投手6名,左投手3名,全例オーバースロー)とした.被験者には3回の投球を行わせ,そのフォームを2台のビデオカメラ(60Hz)を用いて撮影した.球種はストレートのみとし,最も理想的なフォームに近かったと思われる投球を投手本人に選ばせ,解析を行った.撮影した映像は三次元動作解析システム(America PEAK社製)にて解析し,投球初速度(km/h),コッキング期及び加速期における頚部傾斜角度平均値(deg)及び体幹回旋速度最大値(deg/sec)を算出し,危険率5%における相関関係の有無を調べた.
     頚部傾斜角度は両側大転子中点と両側肩峰中点とを結ぶ線分と両側肩峰中点と頭頂とを結ぶ線分がなす角とした.体幹回旋速度は両側大転子を結ぶ線分と両側肩峰を結ぶ線分が水平面上でなす角の角速度のとした.
    【結果】投球初速度,頚部傾斜角度,体幹回旋速度それぞれの平均値は112.3±6.6km/h,24.9±11.9deg,589.8±172.0deg/secであった.頚部傾斜角度と体幹回旋速度との間では負の相関(r=-0.701)を認めたが,頚部傾斜角度と投球初速度との間には相関関係を認めなかった(r=-0.420).
    【考察】今回の研究では,体幹に対する頚部の傾斜が小さいと体幹の回旋速度が上昇するという結果となった.これは,体幹の回旋運動の軸となる脊柱に対して,頚部が傾斜することより頭部の位置のずれが生じ,軸回旋の効率が低下したのではないかと考えられる.しかしながら,頚部傾斜角度と投球初速度との間には相関関係がみられず,頚部傾斜角度が投球初速度に与える影響について証明するには至らなかった.
     今後は,他の要素についても考慮しながら,より詳細な解析を行っていきたいと考える.
     本学会において,更に考察を加え詳細について報告する.
  • 大塚 智文, 宮下 智, 村上 貴秦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 416
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     我々は、スポーツ選手のコンディショニング作りにスリングエクササイズ(以下、SET)を導入し、ローカルマッスル(以下、LM)及びグローバルマッスル(以下、GM)に対してのトレーニングを行っている。スポーツ選手は特に、視覚情報に対し即座に運動が対応できることが重要な要素となる。我々の先行研究では、通常トレーニングにLMトレーニングを加えることにより、視覚入力に対する体幹運動の正確性が増したことを報告した。これは、LMにより体幹の安定性が保障されたことで動作の正確性が増したと考えることができる。本研究は、LMトレーニングに加え、GMの高いレベルの課題を与えた場合、体幹運動の正確性が、全身運動反応に、どのような効果をもたらすのかについて明らかにするものである。
    【対象】
     関東大学アイスホッケーリーグ1部に所属する部員、男子28名 平均年齢19.5±1.0。
    【方法】
    1.SET課題は、1)立位にてスリングロープを両足にかけ、(空中で不安定になる)両手を放して姿勢を安定させる。2)身体を左にねじる。3)正面に戻す。4)身体を右にねじる。5)正面に戻す。以上の事を、上肢を使わないままで試行可能(成功者)か否か(失敗者)判定した。
    2.MRシステム(Index社製MR Low Back Extension IP-M4000)による体幹伸展運動の筋協調テストを行い、求心性および遠心性収縮で、視覚入力に対する運動出力の誤差を測定した。
    3.視覚運動反応時間はSenoh社製全身反応測定装置LC9700を使用し測定した。
     統計処理は、SET課題成功群と失敗群に分類し、t-検定を用い、危険率5%で検討した。
    【結果】
     課題成功者は9名で、運動出力の誤差平均は求心性収縮が8.47±2.1cm、遠心性収縮が7.83±1.5cm、平均反応時間は0.32±0.14秒であった。失敗者は19名、求心性収縮が7.21±1.5cm、遠心性収縮が6.86±0.6cm、平均反応時間は0.34±0.29秒であった。両群は反応時間において有意差が見られた(p<0.05)。
    【考察】
    本課題では、非常に不安定な状態での感覚‐運動系による姿勢制御を行いながら運動を行うことが要求される。まず課題遂行によりフィードバック制御による運動学習が起き、学習がさらに進むことでフィードフォワード制御が発達し、課題を成功させることが出来ると説明できる。課題成功者の視覚運動反応時間が速いことから、動的な姿勢・運動制御を行える者は視覚情報に対応した筋の素早い反応が可能であることが示唆された。また有意差は無いが、課題成功者の運動出力誤差は少なくなる傾向から、LMトレーニングにより体幹の安定性を得た者が、効果的にGMを強化することで、様々な環境に適した姿勢・運動制御の効率が向上することが示唆された。
  • ―ポジション別の比較―
    西村 純, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 417
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】ラグビー選手にとって、筋力と持久力はパフォーマンスに直結する非常に重要な要素である。スクラム、ダッシュなどポジションによって求められる能力は異なるものの筋力は、競技の中で常にパフォーマンスに影響する。持久力の指標には、最大酸素摂取量などが用いられるが、実際の競技では有酸素性能力だけではなく、無酵素性能力を維持する能力も重要となる。そこで今回我々は、筋力測定と無酵素能力の持久力を測定する間歇的ペダリングテストを行い、ポジション別に比較・検討し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象および方法】対象はラグビー部(関西大学Bリーグ)に所属する男子学生30名(平均年齢20.6±1.2歳)とした。間歇的ペダリングテストには自転車エルゴメーター(コンビ社製のPOWER MAX V)を用い、ペダリングの負荷は被験者の体重の7.5%(kp)とした。合計12回、5秒間の全力ペダリングを行い、最初3回の最大値を体重で除した値を最大パワーとした。また、最後3回の平均値を体重で除した値を持久パワーとした。さらに、最大パワーと持久パワーの差を最大パワーで除した値を低下率とした。12回のペダリング間で、最初2度の休憩は十分に取り(5分以上)、その後9度の休憩は20秒とした。筋力測定には等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、角速度60、180、300deg/secでの等速性膝関節屈伸筋力を測定した。3回の膝屈伸動作の最高値をピークトルクとして求め、トルク体重比(ピークトルク/体重)を測定した。分析は30名をポジション(フォワード17名、バックス13名)に分け、ポジション間で最大パワー、持久パワー、低下率、トルク体重比を比較した。また、持久パワーの高かった順に15名ずつのグループに分け、両グループ間で低下率、最大パワーを比較した。
    【結果および考察】膝屈伸筋力のポジション間の比較では、膝伸展筋力はすべての角速度で有意な違いがみられなかったが、膝屈曲筋力においてはバックス(BK)はフォワード(FW)に比べ180(BK:1.64 Nm/kg、FW:1.42 Nm/kg)、300(BK:1.38 Nm/kg、FW:1.20 Nm/kg)deg/secにおいて有意に高い値を示した。ペダリングでの最大パワー、持久パワーには有意な違いはみられなかったが、低下率はBKの方が有意に高かった(BK:25%、FW:19%)。また、持久パワーの高かった順でグループに分けた場合には、持久パワーが高かったグループは、低かったクループに比べ、低下率(高かったグループ:16%、低かったグループ:28%)が有意に低かったが、最大パワー(高かったグループ:11.3 W/kg、低かったグループ:11.7 W/kg)に有意差は見られなかった。持久パワーは、無酸素能力の持久力を測定する指標として重要であることが示唆された。
  • 時田 幸之輔, シャーマ バンネヘカ, 鈴木 了, 宮脇 誠, 千葉 正司, 熊木 克治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 418
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
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    【はじめに】錐体筋支配神経の起始分節、走行経路、分布について前下腹壁・側腹壁の構成との関係に注意して精査した。
    【対象と方法】平成14から16年度までの新潟大学医学部解剖学実習解剖体のうち十分な調査が可能であった34体52側について主として肉眼解剖学的に観察を行った。
    【結果】側腹筋の3層の腱膜が癒合して腹直筋鞘を作るが、錐体筋が存在する前下腹壁では腹直筋鞘後葉を欠き、腹直筋後面は横筋筋膜に被われている。腹直筋鞘前葉は3層の側腹筋腱膜が癒合してできるが、第1層の外腹斜筋腱膜は容易に剥離でき、第2層の内腹斜筋腱膜も浅・深の2葉に分離できた。そして第3層の腹横筋腱膜は内腹斜筋腱膜深葉に強く癒合していた。また、錐体筋は内腹斜筋腱膜の浅葉と深葉の間(第2層浅-深間)に存在していた。次に、錐体筋支配神経の走行経路は4型に分類できた。A(6側):側腹壁で終始内腹斜筋と腹横筋の間(第2-3層間)を走行し、腹直筋外側縁より腹直筋鞘内に進入、腹直筋の表面を走行し腹直筋の小部分をかすめるように貫く。ここで腹直筋鞘前葉を貫く前皮枝を分枝し、筋枝はしばらくそのまま腹直筋表面を走行し、錐体筋外側縁近傍で内腹斜筋腱膜深葉を貫き浅層へ向かい、第2層浅-深間に入り、上方より錐体筋外側縁から筋に進入した。また進入する部位は比較的停止部に近かった。B(40側):第2-3層間を走行した後、外腹斜筋と内腹斜筋の間(第1-2層間)へ移行し、腹直筋鞘に入らず、浅鼠径輪近くで外腹斜筋腱膜と内腹斜筋腱膜浅葉の間(第1-2層浅葉間)に移行し、外腹斜筋腱膜を貫く皮枝を分枝する。筋枝はそのまま第1-2層浅葉間を走行し、第2層浅葉を貫き深層へ向かい第2層浅-深間に入り錐体筋の外側縁近くで筋表面より進入した。進入位置はAより幾分低い。C(4側):Bと同様に第2-3層間より第1-2層間へ移行し、浅鼠径輪を通り外陰部に向かう皮枝を分枝し、筋枝は浅鼠径輪を通過直前で分枝し、第1-2層浅葉間をやや上方に向かって走り、 第2層浅葉を貫き筋の表面より筋に進入した。進入部位はBよりやや低く起始部に近く内側で正中線に近い。D(2側):鼠径靱帯近くで腹横筋を貫き、鼠径管を通りCと同様に浅鼠径輪通過直前で分枝し、第1-2層浅葉間で恥骨結節上縁近傍を通過し、B・C同様の経路で筋に進入していた。進入部位は錐体筋の起始部近くでCよりもさらに内側で正中線に近かった。また、A、B、C、Dそれぞれの経路を取るときの皮枝を含めた錐体筋支配神経の起始分節はA:Th12またはTh12+L1(ただしL1の成分はわずか)、B:L1またはTh12+L1(Th12成分はわずか)、C:L1、D:L1+L2であった。
    【考察】錐体筋支配神経の起始分節が尾側方向へ変化するとその走行経路もより尾側方向の経路を取り、筋枝の進入部位もより下内方へ変化し、起始分節が頭側へ変化すると経路は頭側へ、進入部位はより上外方へ変化することが示唆された。
  • 重田 暁, 阿部 均
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 419
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年、整形外科疾患、中枢神経疾患を問わず、運動学習を含む様々な運動制御に関する理論が理学療法に応用され、行為と知覚の循環プロセスや環境との相互作用をふまえた治療が重要視されている。実際の臨床場面では、機能障害や機能的制限のみならず姿勢・動作分析の評価や治療における様々な環境(場面、場所)での運動課題に則した的確なフィードバックが必要とされる。
     しかし、従来の観察による動作分析は、我々の経験に左右されやすく、客観性に欠ける。また、三次元動作解析装置などの機器は高価で、場所の制約を受ける。あるいはフィードバックに関しても、口頭指示やハンドリング、鏡、ビデオなどを用いる方法はそれぞれ時間・空間的なずれが生じやすいなどの問題を有している。
     今回、我々は臨床で簡便に使用可能かつ、動作分析、評価の精度を向上させること。また、患者自身が能動的に運動することを通じて、自己の姿勢や身体の動きと環境との関係に対する気づきを得て、より多様性をもった活動が遂行できるようにすることを目的として、コルセット型の器具を開発し、若干の知見を得たので報告する。
    【構造】腰仙椎型の硬性コルセットを、左右の骨盤部と軟性ポリエチレンによる殿部含む仙骨部の3つに分けて、ベルクロとベルトにより連結しており、脊柱や各下肢の動きを反映しやすいように工夫した。また、両側骨盤部の上前腸骨棘(ASIS)近傍に、身体の前方に向かって伸縮する棒(基準棒)を取り付けた。この棒は矢状面、前額面、水平面の各方向に対して調整可能な構造となっている。
    【使用方法】基本的な使用方法は、頭部・体幹を鉛直位にした座位または立位において下腹部に本器具を装着し、2本の基準棒を矢状面、前額面、水平面の各方向に対して、棒の伸長する長さ、地面に対する向きが垂直や平行となるように調整し、その後に立ち上がりや歩行など任意の動作を遂行する。
    【考察】これまでの臨床での使用経験より、患者自身は基準棒を介した能動的な活動から、身体と環境との関係を知覚していると思われる。その方法は、個々によって異なっており、例えば視覚を利用する場合でも、単に基準棒と一方向の壁のなす角度との比較だけではなく、床面の格子状のタイルの線や前方にある机の水平線との関係を利用していたりする。また、基準棒と壁との接触の有無のような場合では、身体の延長としてのdynamic touchと呼ばれる種類の触覚や固有受容感覚を利用して、身体と環境との関係や情報を探索している。動作分析や評価する際に、観察者である我々は、こうして得られた情報を患者とともに共有し、フィードバックやフィードフォワードに用いることでより治療の効果が図れると思われる。
    【まとめ】今後、患者はどのような情報を知覚し、どのような場合に治療効果があるのか、さらに検討を加えたいと考えている。
  • 谷口 圭吾, 片寄 正樹, 乗安 整而, 吉尾 雅春
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 420
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】運動機能障害を分析し治療を行う際に筋の機能および解剖を熟知することは、効果的な理学療法の実践に不可欠である。近年、多くの骨格筋が神経筋コンパートメントと呼ばれる要素から構成され、これらの筋区画は機能的な要求に応じて選択的に活動することが確認されつつある。猫の長腓骨筋を観察して筋電図学的に検討した結果、2つの筋区画が長腓骨筋内に存在することが認められている。ヒトの長腓骨筋を用いた研究では、それを支配する浅腓骨神経から起こる筋枝の筋内分布様式をもとに筋を分割した報告があるが、筋内コンパートメントの形態特性の観点から筋の区画化を試みた研究はみられない。一方、筋の形状特性は筋機能に深く関わることが一般的に知られている。本研究では、ヒト長腓骨筋において支配神経の分岐様式から同定される神経筋区画を確認した上で、筋内コンパートメントにおける形状特性を肉眼解剖学的に明らかにすることを目的とした。
    【方法】筋標本は本学解剖実習用固定屍体の下腿8肢を研究材料として使用した。形状特性として筋線維の走行方向、羽状角と呼ばれる腱・腱膜と筋束がなす角度および腱組織の位置関係を筋の浅層と深層の両面から分析した。また、長腓骨筋を支配する浅腓骨神経から分岐する筋内の神経枝パターンも観察した。筋形態の描写および計測は、標本の関心領域をデジタルカメラに取り込みそのデジタル画像をコンピューターに転送後、画像処理・解析ソフトを用いて行った。
    【結果】長腓骨筋は4つの明確な区画、anterior superficial (AS), posterior superficial (PS), anterior deep (AD) and posterior deep (PD) portionsを有することが認められた。筋内の浅部および深部区画は遠位の停止腱から続く腱膜によって分離された。さらに、これらの両筋区画の各々が筋線維の走行により前部と後部区画に区分された。AS、PSおよびADの筋区画間では羽状角に有意な差は認められないが、PD区画の羽状角は他の3つの筋区画に比して有意に大きい値を示した。また、これらの形状に基づいて分類した筋区画は神経支配様式により定められた筋区画と一致した。一貫して4つの筋枝が存在し、各筋枝が4筋区画の各々に進入することが確認された。
    【考察】形状因子をもとに規定された長腓骨筋のコンパートメントは、単一筋内に存在する機能的な分担化に関係する可能性を示唆している。今回試みた形態学的な筋区画化は、長腓骨筋の多様な機能を解明する生理学的研究において解剖学領域からの基礎を提供すると予測される。また、本研究で得られた筋内コンパートメントを指標として画像検査や電気生理学的評価を行うことは、効率の良い最適な治療プログラムの構築に寄与すると考えられる。
  • ―ラットによる後肢懸垂モデルと後肢懸垂に関節固定を組み合わせたモデルを用いて―
    高氏 修平, 菊池 真, 青木 光広, 乾 公美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 421
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】廃用症候群の予防・改善の手段としてリハビリテーション医学は重要な役割を担っている。なかでも廃用性筋萎縮は盛んに研究が行われている分野の一つであり、理学療法士が臨床で扱う機会も多い。本研究は萎縮筋の特性を解明することにより、廃用性筋萎縮に対する理学療法の効果検証や新たな治療法の開発に繋げることを目的としている。本研究では筋の特徴の一つである弾性要素に着目し、ラットを用いた後肢懸垂モデル及び後肢懸垂に関節固定を組み合わせたモデルにより2種類の萎縮筋を作製し、受動的伸張時の引っ張り特性及び組織学的特性を検討した。
    【方法】対象にはWistar系雄ラット11週齢30匹を用いた。ラットを対照群、後肢懸垂群(以下懸垂群)、後肢懸垂+関節固定群(以下懸垂固定群)の3群(各n=10)に分け、対照群は自由飼育、懸垂群は後肢懸垂、懸垂固定群には後肢懸垂に加え、足関節を最大底屈位で固定して2週間飼育した。各群の半数を引っ張り特性、残りの半数を組織学的特性の検討に用いた。引っ張り特性の検討として、麻酔下でヒラメ筋を剖出し、デジタルノギスで最大底屈位及び背屈位での筋長を測定し、脛骨近位端及び踵骨をつけたままヒラメ筋を摘出した。脛骨近位端及び踵骨をそれぞれKirschner鋼線でジグに固定し、最大底屈位で保持した。20cm/minの速度で末梢側を筋が破断するまで牽引し、その時の引っ張り張力と長さ変化を記録した。得られたデータから力―変形量曲線を作成し、stiffness、破断張力、張力が生じ始める筋長、破断時筋長を測定し、3群間で比較した。また、組織学的特性の検討として、麻酔下で摘出したヒラメ筋を凍結固定し、厚さ10μmの連続横断切片を作製し、ミオシンATPase染色を施し、筋線維タイプ構成比率及びタイプごとの筋線維横断面積を測定した。
    【結果】引っ張り特性として、stiffnessは対照群>懸垂群・懸垂固定群となり、萎縮筋は加える力に対する筋長の変化量が大きい、すなわち伸びやすいという結果になった。破断張力は対照群>懸垂群・懸垂固定群となり、萎縮筋は対照群に比べて弱い力で破断した。また、張力が生じ始める筋長は対照群・懸垂群>懸垂固定群、破断時筋長は対照群>懸垂固定群となり、懸垂固定群は対照群に比べて牽引の早い段階で張力が生じ始め、破断も早かった。また組織学的特性として、懸垂群・懸垂固定群はタイプII線維の占める割合が大きく、タイプI・II線維ともに横断面積が減少していた。
    【考察】引っ張り特性として、萎縮筋は伸張に対する抵抗が弱く、容易に伸張し、破断するのが早いといえる。これは筋線維横断面積の減少によるものだと考える。また、懸垂固定群では早期に張力が発生したことから、背屈運動時の初期からヒラメ筋の受動的張力が増加し、背屈に対する抵抗になっていると考えられる。これは結合組織の相対量の増加やコラーゲン分子内・分子間架橋結合の増加が関係していると考える。
  • 田崎 洋光, 沖田 実, 松田 輝, 辻井 洋一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 422
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
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    【目的】
     先行研究によれば,不動によるラット腓腹筋の廃用性筋萎縮の進行過程で超音波を照射すると筋線維萎縮の進行は抑制されると報告されている.そして,この効果には超音波照射によって発生する熱の影響よりも,むしろ非温熱作用である微動振動が影響しているといわれている.つまり,この先行研究の結果を参考にすると,振動刺激のみでも廃用性筋萎縮の進行抑制が可能ではないかと思われる.しかし,これまで廃用性筋萎縮に対する振動刺激の影響を検討した報告は非常に少ない.そこで本研究では,振動刺激によるラット腓腹筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を組織化学的に検討した.
    【方法】
     8週齢のWistar系雄ラットを1)4週間無処置の対照群,2)4週間ギプス固定を行う固定群,3)4週間ギプス固定を行い,その過程で週5回の頻度でギプスを除去し,15分間振動刺激を負荷する振動刺激群,4)4週間ギプス固定を行い,その過程で週5回の頻度でギプスを除去し,15分間疑似的に振動刺激を負荷するプラセボ群に分けた.ギプス固定はラット足関節を最大底屈位の状態で行い,振動刺激は振幅幅3mm,周波数20Hzで麻酔したラットの下腿後面に負荷した.なお,プラセボ群には振動刺激群と同様の頻度で麻酔を行い,振動刺激装置の導子をラットの下腿後面にあてる処置のみを行った.4週間の実験期間終了後は,麻酔下で腓腹筋内側頭を採取し,その凍結横断切片をATPase染色し,筋線維タイプの直径を計測した.なお,本実験は星城大学が定める動物実験指針に準じて行った.
    【結果】
     固定群,プラセボ群は対照群に比べタイプ1・2A・2B線維すべてその平均筋線維直径は有意に低値を示し,この2群間には有意差を認めなかった.一方,振動刺激群のすべてのタイプの平均筋線維直径は対照群のそれと有意差を認めず,固定群,プラセボ群のそれより有意に高値を示した.
    【考察】
     今回の結果から,4週間のギプス固定によってラット腓腹筋のすべてのタイプの筋線維に廃用性萎縮の発生を認めたといえる.そして,このギプス固定の過程で振動刺激を負荷すると筋線維萎縮の進行が抑制されることが明らかとなった.Falempinら(1999)によれば,後肢懸垂によるラットヒラメ筋の廃用性筋萎縮の進行過程でアキレス腱に振動刺激を負荷すると,筋線維萎縮の進行を抑制できると報告しているが,今回,下腿三頭筋に直接振動刺激を負荷しても同様の結果が得られた.つまり,振動刺激は廃用性筋萎縮の進行抑制に効果があることが示唆され,これは振動といったいわゆる頻回な機械的刺激が筋細胞に負荷されたことが影響していると推察される.近年の先行研究によれば,機械的刺激による筋線維肥大効果のメカニズムには成長因子の発現などが関与していると報告されている.つまり,今回の振動刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果にも同様のメカニズムが生起している可能性が推測され,今後検討を加えていきたいと考えている.
  • 山田 崇史, 三島 隆章, 坂本 誠, 和田 正信
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 423
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】これまでに我々は,甲状腺機能亢進症ラットのヒラメ筋において,興奮収縮連関の機能を検討し,筋原線維レベルにおける機能の変化が,筋力低下の原因の1つであることを報告した.しかしながら,本症では筋原線維タンパク質の総量に変化が認められないことから,筋原線維において何らかの質的変化が生じているものと推察される.近年,筋の発揮張力は,興奮収縮連関に関与するタンパク質の酸化還元動態に影響を受けることが示されている.したがって本研究の目的は,甲状腺機能亢進症において,発揮張力と筋原線維タンパク質の酸化還元動態との関連性を明らかにし,本症に伴う筋力低下の機序について検討することである.

    【方法】9週齢のWistar系雄性ラット34匹を対象とし,これらを対照群および実験群に分けた.実験群のラットには,甲状腺ホルモンを毎日300 μg/kgずつ21日間投与した後,麻酔下でヒラメ筋を採取した.その後,直ちにリンガー液中で単収縮張力および強縮張力を測定し,筋重量および筋長から単位断面積あたりの張力を算出した.また,ヒラメ筋全体の酸化還元動態を明らかにするために,筋に含まれる還元型グルタチオン(GSH)の量を,また,筋原線維タンパク質の酸化的修飾の有無を検討するために,高濃度K+溶液により抽出した筋ホモジネイトにおけるカルボニル基の量を測定した.

    【結果および考察】21日間の甲状腺ホルモンの投与により,ラットヒラメ筋における単収縮張力および強縮張力は有意な低値を示した.また,対照群に比べ実験群において,GSHの量は有意な低値を,また,カルボニル基の量は有意な高値を示した.細胞内において,GSHは抗酸化物質として作用していることから,甲状腺機能亢進症では,筋線維が酸化ストレスを受けると考えられる.一方,カルボニル基は,タンパク質が不可逆的な酸化的修飾を受けると形成されることが示されている.本研究で用いた高濃度K+溶液による抽出法では,溶液に含まれるタンパク質のほとんどが筋原線維であり,これらのタンパク質が酸化的修飾を受けていると考えられる.本症では基礎代謝の亢進に伴い,ミトコンドリア呼吸が増大し,正常なものと比べ活性酸素種がより多く発生することが報告されており,これらが筋原線維タンパク質の酸化に関与している可能性が高い.また,筋原線維タンパク質のなかでも,アクチンおよびミオシンは特に酸化的修飾を受けやすいことが示されている.これらのことから,甲状腺機能亢進症を発症している個体の筋では,酸化ストレスによってこれら2つのタンパク質の機能が低下し,そのことが筋力の低下を誘起していると推察される.
  • 日比野 至, 井上 貴行, 沖田 実, 平野 孝行, 筧 重和, 伊藤 弘志, 沈 寿代, 長田 瑞穂
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 424
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 関節の不動化は,骨格筋の短縮や伸張性・柔軟性低下を招き,筋性拘縮を惹起する.これまでわれわれは,筋性拘縮の病態解明を目的にラット足関節を最大底屈位で不動化し,ヒラメ筋の筋内膜コラーゲン線維網の形態変化を検索してきた.その結果,不動2週後までは正常筋と差異はなく,多くのコラーゲン線維が筋線維の長軸方向に対して縦走していたが,不動4週後以降は筋線維の長軸方向に対して横走するコラーゲン線維が増加し,コラーゲン線維網に形態変化が認められた.そして,この形態変化は個々のコラーゲン線維の可動性減少を示唆しており,仮説としてその要因にはコラーゲン線維間に強固な架橋結合が生成されたことが影響していると考えている.そこで,本研究ではこの仮説を明らかにする目的で,同様の実験モデルにおけるヒラメ筋内のコラーゲン線維の可溶性について検討した.
    【方法】 8週齢のWistar系雄ラット(18匹)を無作為に9匹ずつ両側足関節を最大底屈位でギプスを用いて不動化する不動群と無処置の対照群に振り分けた.そして,不動期間は2週(5匹),4週(4匹)とし,対照群は10週齢(5匹),12週齢(4匹)まで通常飼育した.各不動期間終了後は,麻酔下で両側の足関節背屈角度を測定し,次いで右側ヒラメ筋を検索材料に,中性塩,酸,ペプシンそれぞれによる可溶性コラーゲンを定量した.なお,本実験は星城大学が定める動物実験指針に準じ行った.
    【結果】 足関節背屈角度は対照群に比べ不動2週後,4週後とも有意に低値で,不動期間で比較すると4週後が2週後より有意に低値であった.次に,中性塩,酸による可溶性コラーゲンは不動2週後,4週後とも対照群と有意差を認めず,ペプシンによるそれは不動2週後は対照群と有意差を認めないものの,4週後は対照群より有意に低値であった.また,全可溶性コラーゲンも不動4週後のみ対照群より有意に低値であった.
    【考察】 今回の結果から,足関節背屈方向の可動域制限は不動2週後で認められ,4週後になるとさらに悪化し,これは不動期間の延長に伴う拘縮の進行を意味していよう.ただ,不動2週後の中性塩,酸,ペプシンによる可溶性コラーゲンはすべて対照群と有意差を認めず,このことから不動2週後の拘縮の要因にヒラメ筋内のコラーゲン線維の変化が影響している可能性は低いと思われる.一方,不動4週後は中性塩,酸による可溶性コラーゲンは対照群と有意差を認めないものの,ペプシンによるそれは対照群より有意に低値で,全可溶性コラーゲンも同様の結果であった.一般に,コラーゲン線維はその強さや安定性が増すにつれ,可溶性コラーゲンが減少し,特に強固な分子間架橋結合が生成されたコラーゲン線維はペプシンによっても可溶化されにくくなるといわれている.つまり,不動4週後の結果はこのことを示唆しており,先の仮説が明らかにできたのではないかと考える.
  • 関川 清一, 小田川 絢子, 田平 一行, 川口 浩太郎, 稲水 惇, 大成 浄志
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 425
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、健常成人を対象に近赤外分光法(NIRS)を用いて運動筋酸素動態を検討した報告が多くなされているが、高齢者を対象にした報告が少なく、局所運動中の動態について不明な点が多い。そこで本研究では健常高齢者を対象に、負荷強度の違いによる局所運動筋酸素動態が健常成人と異なるか検証することを目的とした。
    【対象】測定に先立ち、研究の主旨ならびに方法について説明し、同意の得られた呼吸循環器疾患を有さない高齢者男性9名(高齢群:平均72歳)および健常成人男性12名(若年群:平均24歳)を対象とした。
    【方法】運動負荷は3分間の律動的ハンドグリップ運動とした。運動は利き手として、十分な安静状態を保ったのち、3秒に1回のリズムにて10%最大随意運動(10%ex)、30%最大随意運動(30%ex)および50%最大随意運動(50%ex)の3条件で実施した。この場合、近赤外分光法装置(BOM-L1TR・オメガウエーブ社)を用いて前腕屈筋群部位における血液組織酸素化ヘモグロビン・ミオグロビン(OxyHbMb)及び血液組織脱酸素化ヘモグロビン・ミオグロビン(DeoxyHbMb)及び血液組織全ヘモグロビン・ミオグロビン(TotalHbMb)を経時的に測定した。特異的に筋酸素動態を検証するために、安静状態および各強度での運動中にカフインフレーター(E20,AG101・D.E. Hokanson社)を用いて一時的静脈血流遮断法(VO)および動脈血遮断法(AO)をそれぞれ30秒間実施した。筋血流の変化率(%FBFNIRS)はVO中のTotalHbMbの変化率、筋酸素利用の変化率(%VO2NIRS)は、30秒間のAO中のOxyHbMbの変化率より算出した。
    【統計処理】測定条件(安静・10%ex・30%ex・50%ex)の違いによる2群間(高齢群・若年群)での各解析値の差について、二元配置分散分析を用いて検討した。統計処理は、統計ソフト(SPSS 12J・SPSS社)を用いて解析した。
    【結果および考察】安静時と比較して運動時では、活動筋での酸素需要量が増加し、運動筋血流および運動筋酸素利用が変化する。とくに運動を継続するために運動筋での血液からの酸素抜き取りが増加し、運動筋への酸素利用が増加するが、その程度は運動様式や負荷強度によって異なる。また末梢での筋の血流調節機構や運動筋の酸素利用能力といった運動筋酸素動態に関与する諸因子は加齢により影響を受けることが考えられる。しかし,本研究では、%FBFNIRSの2群間での測定条件間の推移に有意差が認められず、%VO2NIRSも同様の結果が得られ、この結果より、負荷強度の違いによる筋血流および筋酸素利用率の変化パターンは、年齢による影響が少ないものと考える。
  • 金井 一暁, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 426
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行の実用性低下を認める脳血管障害片麻痺患者においては、歩行中の問題だけではなく、歩行開始が困難であるケースも少なくない。努力性の歩行開始となる結果、連合反応を強め、歩容に悪影響を及ぼすこともある。このような症例に対し、我々はしばしばステップ動作を用いて、下肢や体幹機能にアプローチし、歩行能力の改善を図っている。本研究では、より効果的な治療を提供することを目的に、健常者を対象としてステップ動作時の足圧中心軌跡や下肢、体幹の筋活動を計測し、若干の知見が得られたので報告する。

    【方法】神経学的および整形外科学的に異常のない健常者9名(平均年齢29±5.1歳、男性8名、女性1名)を対象とした。重心動揺計の検出台上にて、左下肢を前方にした立位肢位より電子音の合図にて左下肢を軸足としたステップ動作を行い、右足底接地後体重の70%以上を荷重するよう指示した。この間の下肢筋および体幹筋の筋活動および足圧中心軌跡を測定した。足圧中心軌跡の計測には重心動揺計アクティブバランサーEAB-100(酒井医療株式会社製)を、下肢筋、体幹筋の筋活動の測定には筋電計バイキングIV(ニコレー社製)を用いた。対象筋は右側の腓腹筋内側頭、前脛骨筋、内側ハムストリングス、大腿直筋、大殿筋、内腹斜筋と、両側の腰背筋とし、体幹筋の電極の貼付位置はNgら(1998)、Vinkら(1989)の方法に準じた。また、デジタルビデオ2台を用い矢状面および前額面上での動作をそれぞれ撮影した。なお、本研究を行うにあたり、被験者には本研究の目的、方法を説明し、同意を得た。

    【結果と考察】足圧中心軌跡については全被験者において、動作開始直前に一度右後方へ変移した後、支持側足部に向け左前方へ移動し、最終的に右前方へと変移した。筋活動については、先行研究で健常者におけるステップ動作時の体幹筋の筋活動は、踵離地前後で左腰背筋が、足底離地前後で右腰背筋が高まり、足底接地前後で左右どちらかあるいは両側の腰背筋が高まるというパターンがあると報告し、本研究でも同様な傾向を認めた。下肢筋の筋活動パターンにおける被験者間での共通点は、動作開始直後に前脛骨筋および大腿直筋が先行して活動を始め、続いて腓腹筋の筋活動が高まり踵離地となる。足趾離地後に再び前脛骨筋の筋活動が踵接地に至るまで継続し、踵接地以降、腓腹筋とハムストリングスの筋活動が高まることであった。本研究の結果で特徴的な点は、動作開始直後から足尖離地までの体幹筋と下肢筋の筋活動には、動作開始直後に前脛骨筋が活動し始め踵離地を迎える時期に左腰背筋の筋活動が高まり、続いて腓腹筋が活動を開始して足尖離地を迎える時期に右腰背筋の筋活動が高まるという関連性があることである。しかし、上記以外の筋群では、体幹筋、下肢筋の筋活動が生じる時期に相違があるものが存在し、これはステップ動作の動作様式の相違によるものと考えられた。
  • 安井 奈津子, 横山 仁志, 大森 圭貢
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 427
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】理学療法士は,有効なトレーニングの方法論を模索してきた.しかし,そのようなトレーニング方法を臨床で活用した場合,運動負荷が強すぎたり,苦痛を伴いやすく運動拒否や運動継続率の低下などを引き起こし,期待する理学療法効果が得られないことも少なくない.これらのことは有効な理学療法にはトレーニング方法のみでなく,心理的な配慮や意欲を高める方法が不可欠であるということを示唆している.従来から意欲を高める方法としてグラフの提示が知られているが,グラフの提示が理学療法に如何に有用であるかについては十分な検討がなされていない.そこで本研究では,グラフ提示が理学療法に与える影響を検討し,その有用性について明らかにした.
    【対象と方法】対象は,人工呼吸器離脱後に重度の筋力低下を呈した5症例である(男性3例女性2例,年齢67.6±11.1歳).これらの対象に理学療法を実施し,下肢筋力(アニマ社製μTasMT-1)を測定した.そして,下肢筋力の回復経過と目標とする移動動作の自立に必要な筋力値を目標値として対象に提示した.提示方法はグラフを用いて提示する方法(グラフ提示群)と口頭にて提示する方法(口頭提示群)に分類して行い,両群で理学療法に与える影響についてみた.
    下肢筋力測定は,車椅子乗車が10分程度可能になった時点で開始した.各提示の介入は,その1週後より開始し,週1回の頻度で実施した.理学療法の内容は,全例で呼吸,上肢筋力増強,下肢筋ストレッチ,下肢筋力増強(膝伸展筋力トレーニングを含む3種類),可及的な離床トレーニングを必須トレーニングとした.膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量と回数は,患者自身が決定した.また,必須トレーニング以外に股関節周囲筋・体幹筋を中心とした7種類の筋力増強トレーニングを準備し,選択トレーニングとして理学療法の内容に組み込んだ.その実施もすべて患者自身の自己選択性とした.以上のプログラムと各介入を退院するまで継続した.そして,患者の自己決定した膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量,回数と選択トレーニングの運動種目数及び,理学療法への参加率を両群で調査し,その傾向をみた.
    【結果と考察】膝伸展筋力トレーニングの重錘負荷量,回数及び運動種目数は,口頭提示群に比べ,グラフ提示群において介入早期から増加する傾向にあり,かつ退院時まで高い水準で維持されていた.理学療法への参加率では,ばらつきの多かった口頭提示群に比べ,グラフ提示群では全期間を通じて80から100%と極めて良好であった.したがって,グラフによる明確な身体回復や目標値の提示は,患者自身からの積極的な理学療法介入が得られ,運動処方や理学療法の参加率を高い水準で維持することが可能な点で有用であると考えられた.
  • 早川 和秀
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 428
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】急性期・慢性期を問はず閉口・開口障害は治療を進めていく上で問題になる。そこで筆者は咬筋のマッサージによる咀嚼リズムに着目し、良好な結果を得たので症例を通し報告したい。
    【方法】咬筋表在筋に対しマッサージを加え、10秒程度3~4回実施する。反応として顔をしかめたり、咬筋の収縮がおき歯を食いしばる。また開口位なら口蓋舌弓より水様の唾液分泌されるのが確認できる。
    【症例】症例1 23才 男性 診断名 びまん性軸索損傷 右大腿骨骨幹部骨折 現病歴及び経過 平成13年10月30日乗用車の自損事故にて受傷。11/13髄内釘による骨接合術施行。11/14よりリハ開始。JCS2-2で開眼するも合視無く四肢麻痺。開口障害有り。咬筋マッサージにて顔面をしかめる。11/16ベッド上端坐位開始。左上下肢の随意運動出現。11/19より合視有り。健側上肢でバランスをとる仕草有り。翌日立位訓練開始。JCS2-1。11/29胃瘻造設。マッサージにより開口障害は中等度改善。12/7 ST開始。JCS1-3。12/13筆記にて意思表示有り、カップラーメン1/3摂取。咀嚼・嚥下トラブル無し。12/17家族の希望にて転院。翌年独歩にて来院した。
     症例2 59才 男性 診断名 両視床出血 現病歴及び経過平成16年1月14日右視床出血も2/7独歩にて退院。4/13左被殻~視床出血にて発症。4/27血腫除去術施行。5/6右視床出血。JCS2-2-3。5/13リハ開始。弛緩性の四肢麻痺で感情失禁あり。開口位で舌根沈下あり。JCS3-1。閉口障害による口腔内汚染あるため咬筋マッサージにて咀嚼運動・嚥下反射出現させ口腔内を清潔に保つ。5/20車椅子坐位開始し、5/8より立位開始。7/16経管より経口摂取開始。8/12再発。麻痺変化なし。9/22胃瘻造設。JCS3-2-3。開口位は軽減し、発語も可能。
    【結果】症例1は意識障害が強く、頭部外傷によるショック状態が持続し、咬筋の筋緊張亢進状態であった。それによる開口障害だが、咬筋マッサージによる痛み刺激と咬筋の伸張刺激により意識障害が早期に改善。咀嚼リズム化と咬筋筋緊張が改善したことにより咀嚼と嚥下能力が獲得できた。症例2は発症時より閉口障害が出現。舌は反り返り、舌根沈下・球麻痺などが認められた。口腔内汚染あったが急性期より咬筋マッサージにて対応し、口腔内の衛生管理やベッドアップの指導を妻・看護師・STと行い、重度な誤嚥性肺炎は起きていない。
    【考察】文献より咀嚼筋の筋紡錘は閉口筋に豊富に分布するのに対し、開口筋には実質的に欠如するという著しい分布の不平等が知られている。また、除脳ウサギ及び猫で、橋網様体あるいは錐体路の連続刺激や口腔内の自然刺激によってリズミカルな咀嚼運動が誘発されることが報告されている。筆者はここに着目し、閉口・開口障害者に対し咬筋マッサージを試みたところ咀嚼運動と嚥下反射が誘発された。これにより咀嚼筋の筋再教育と筋力強化が可能となり、嚥下の評価と廃用予防が可能となった。
  • ―F波における検討―
    弓永 久哲, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 429
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脳血管障害片麻痺患者の歩行動作は、腰方形筋を含む腰背筋の筋緊張亢進により麻痺側骨盤を引き上げ麻痺側下肢を振り出すことが多い。今回、臨床場面において麻痺側下肢の振り出し時に麻痺側上肢の連合反応が誘発されていると考えられた症例を経験した。この現象の要因として、腰方形筋を含む腰背筋の筋緊張亢進にともなう中枢神経機能の興奮性増加が麻痺側上肢に対応する中枢神経機能の興奮性を増加させていると考えた。そこで、本研究では連合反応の神経学的機序を解明し理学療法に応用する前段階として、健常者の腰方形筋の筋収縮が上肢の中枢神経機能の興奮性に与える影響を脊髄神経機能の興奮性の指標であるF波を用いて検討したので報告する。
    【対象と方法】対象は健常者15名、平均年齢32歳、身長165.2cmとした。まず、被検者をベッドに安静臥床させ、右側短母指外転筋からF波を記録した。次にF波記録側と同側もしくは対側の足関節部に張力センサー(共和電業社製)を装着し、装着側腰方形筋の最大持続収縮の25、50、75、100%の筋収縮を各30秒間行わせF波を記録した。腰方形筋の筋収縮は徒手筋力検査に準じ骨盤の前傾・挙上を意識させ行わせた。筋出力は計装用コンディショナ(共和電業社製)によりデジタル表示から視覚的フィードバックにより調節させた。筋電計はバイキング(ニコレー社製)を用い、F波記録は表面電極で関電極を短母指外転筋筋腹上に不関電極を第一指基節骨上に貼付し周波数帯域は5Hz~2kHzとした。F波刺激条件はM波が最大となる刺激強度の120%、持続時間0.2msの定電流矩形波で手関節部正中神経を1.0Hzの刺激頻度で連続30回刺激した。各試行はランダムに行い、試行間の休憩は脊髄前角細胞の興奮性が定常状態となる3分間とした。F波波形分析は、脊髄前角細胞数に影響するF波出現頻度と脊髄前角細胞の興奮状態を反映する振幅F/M比とし、腰方形筋の収縮度の変化にともなう上肢F波の特徴を検討した。被検者には事前に本研究に同意を得て行った。
    【結果と考察】F波出現頻度は、各個人差はみられるものの全体的な傾向として両側共に腰方形筋の収縮時は安静時と比較して増加する傾向がみられた。振幅F/M比は収縮時に安静時と比較して増大する群(10名)と変化の認められない群(5名)と大きく2群に分けられた。この結果から、健常者においては腰方形筋の筋収縮による上肢中枢神経機能における興奮性の程度には個人差があるものの、出現頻度の結果から考えると腰方形筋の筋収縮により上肢脊髄神経機能の興奮性は増加することが推測された。この神経学的機序としては、健常者において腰方形筋の筋収縮にともなう中枢神経系での興奮性の波及現象が生じることで、上肢に対応する中枢神経系の興奮性を増加させたのではないかと考えられた。
  • 竹林 秀晃, 山本 敏泰, 宮本 謙三, 宅間 豊, 井上 佳和, 岡部 孝生, 宮本 祥子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 430
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】歩行動作は,重力を推進力として上手く使っているとされている.過去の報告では前後運動は,比較的受動的な運動であり,一方側方運動ついては,能動的な運動制御の必要性が指摘されている.歩行開始動作においても,定常歩行に達するまでの身体の前傾移動では自由倒立振子様の運動をするとされ,重力を利用した運動制御が含まれている.しかし,現在まで歩行開始・障害物の昇降動作に関する報告は比較的少ない.本研究では,歩行開始動作における前後・側方方向の運動に関係する重力トルク成分のパターン変化について検討したので報告する.
    【方法】対象は,健常成人6名とした.床反力上に両腕を組み安静立位から障害物のない状態もしくは障害物を昇段し,その後通常歩行に移行する動作を行わせた.障害物の段の高さは,段なし,15・30cmの3種類で自由速度・遅い・速い速度での歩行開始動作の計9種類の動作をランダムに試行した.
     被検者には,赤外線反射マーカ17個をランドマークに貼付し,三次元動作解析装置(Loucus MA6250 アニマ社製)の赤外線カメラ4台と床反力計2基(アニマ社製)を同期させ計測した.なお,サンプリング周波数は,60Hzとした.
     データ解析は、剛体リンクモデルを用いて各動作時の腰部関節(骨盤と胸郭の間に仮定された関節)に対する慣性項によるトルク成分(INA) ,運動に依存するトルク成分(MDT),重力によるトルク成分(GRA) ,筋トルク(MUS)のパターン変化を前後・側方方向それぞれ算出した.各トルク成分は,体重で補正した.
    【結果・考察】実際に身体に作用する正味の合力トルクは,MDT,GRA,MUSによるトルク成分の合計値である.これら各モーメントの貢献度を見ることにより身体運動の制御様式を探ることが可能となる(Hoyら 1985).
     各動作において前後方向における腰部関節の各トルクパターン変化は,歩行開始期から支持脚が単脚支持期に移行するに従いMDTとGRAが釣り合いMUSはその中点に位置し小さくなっている傾向にあった.これは,運動に伴う上体に作用する重力の変化を上手く利用した運動制御が行われていることを示している.歩行開始動作の前後移動は,筋活動によって体重心を前方に押し出すというよりも,重力作用により身体を前方に倒す受動的な運動が必要と指摘されており,倒立振子様の運動を支持する傾向が見られた.
     一方腰部関節の側方方向における各トルク成分パターン変化は,歩行開始期から単脚支持期に移行するに従いMDTとMUSが作用している傾向にあった.これは側方制御では,能動的な運動制御が必要であることを示唆していると考えられる.
  • ―求心性収縮及び遠心性収縮による比較―
    寺田 茂, 村山 大倫, 宮田 伸吾, 小中 悠吏, 松井 伸公, 山根 和子, 坂井 明美, 本口 美沙紀, 後藤 克宏, 合田 美恵, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 431
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】スポーツ活動を含む日常生活活動の多くは求心性収縮(COC)及び遠心性収縮(ECC)を合目的に使い分け、あるいは組み合わせる事によって成立している。この動作遂行に重要な筋収縮様式の特性に関しては筋出力、筋活動量等の様々な視点からの検討が諸家によりなされている。今回、非侵襲的に筋組織の酸素動態を測定可能な近赤外線分光装置を使用して、COC、ECC時の筋酸素動態の差異について検討したので報告する。
    【対象と方法】対象は、運動習慣及び骨関節疾患を有しない健常男性16名で、測定肢は全例右膝とした。年齢、身長、体重の平均値はそれぞれ、22.8±2.3才、173.6±6.2cm、63.2±8.5kgであった。筋力測定には、バイオデックス社製のバイオデックスシステム3BDX-3を使用した。測定肢位は椅座位とし、大腿部・骨盤部・体幹をベルトにて固定、両上肢は機器側方を把持させた。膝完全伸展位にてアームと膝外側裂隙中心部が同調するようにシートの高さ・前後長を調整した。筋力測定角度は膝関節20度~80度とし、角速度30度/secにて求心性・遠心性屈伸運動を最大努力下でそれぞれ10回行った。測定順序はCOC、ECCとし、各測定間には10分の休憩をとった。筋力は最大トルクを体重で除した値を採用した。筋酸素動態は島津製作所製無侵襲酸素モニタOM-220を使用し測定した。プローブ位置は大転子と外果を結んだ距離の近位1/3の部分とし、外側広筋筋腹に両面テープ及びベルトで固定した。測定は安静時より開始し、筋力測定終了後安静時に収束するまで行った。得られたデータより、酸素飽和度低下量(低下量)・酸素飽和度最下点到達時間(最下点到達時間)・安静時回復時間(回復時間)についてCOCとECC間で統計処理し比較検討した。
    【結果】COC群の筋力は平均3.86±0.67Nm/kg、ECC群4.54±0.89Nm/kgとなり、有意にECC群の方が高値であった(P<0.01)。筋酸素動態では低下量はCOC群55.4±12.9%、ECC群52.3±12.6%で有意差を認めなかった。最下点到達時間はCOC群22.5±6.5sec、ECC群35.8±9.2secで有意にCOC群の方が短く(P<0.01)、回復時間はCOC群43.3±10.6sec、ECC群35.6±11secで有意にCOC群の方が遅延していた(P<0.05)。
    【考察】筋力はECC群がCOC群よりも有意に高い値を示した。これは諸家による先行研究結果と同様であった。筋力測定時の筋酸素飽和度の最下点への到達時間はCOC群の方が有意に短く、また回復時間も遅延していた。ECC群ではCOC群よりも総仕事量が多いにも関わらず酸素飽和度の低下が遅く、また酸素動態の回復が早かった。これは、ECCはCOCに比較して機械的効率が高く、酸素消費量・筋疲労が少ないと報告されており、これらの結果を支持するものであった。
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