理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 歩行自立度判定への検討
    岩戸 徹, 加藤 仁志, 原田 和巳, 渡邊 まゆみ
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 716
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】我々は当施設独自の簡便な動的立位バランス検査を考案し、後方リーチ可否が歩行自立度判定の指標になりうる可能性があることを報告した。しかし、信頼性及び妥当性の検討は行っていない。そこで本研究では後方リーチ検査(Backward Reaching Test:BRT)の信頼性及び妥当性を検討し、BRTの有用性を検証し、歩行自立度判定の指標として用いることが出来るか否か検討することを目的とした。
    【方法】当施設に入所・通所中で歩行が可能な高齢者のうち、実際に検査が可能であった70名(82.3±7.8歳、身長150.2±8.7cm、男女比25:45、利き手右70:左0)を対象とした。屋内歩行が独歩自立者(独歩群)17名、補装具使用による自立者(補装具群)28名、見守り者(見守り群)25名の3群に分けた。取り込み基準として、1)検査説明の理解が可能、2)Timed Up & Go Test(TUG)実施が可能、3)左右両側とも上肢によるリーチ動作が実施可能、4)検査時疼痛を伴わないとした。BRTは高さ70cmのテーブル上に後ろ向きでボールを置くことの可否を検査した。下肢は閉脚とし、支持基底面の変化や体重の掛かる置き方は無効とした。測定は検者2名により2回ずつ計4回実施した。4回中1回でも出来なかった場合はBRT不可とした。同一検者の測定は1週間後、異なる検者の場合は3日後に実施した。TUGは、BRT初回測定時に計測し、最速歩行時間とし、3回計測のうち最も速い時間を採用した。信頼性の検証は検者間信頼性として級内相関係数を求めた。妥当性の検討はTUGを運動能力の関連基準として、BRT可否でTUGを比較した。また、弁別的妥当性を検討するため、独歩群・補装具群・見守り群3群間でBRT可否を比較した。統計解析には、マンホイットニーU検定、クラスカル・ウォリス検定後多重比較(ボンフェローニ法)を用い、危険率5%とした。
    【結果】検者間の級内相関係数は0.929であった。BRT可否ではTUGの平均時間に差が認められた(p<0.01)。独歩群・補装具群・見守り群3群間はそれぞれ有意差を認め、独歩群の94.1%が後方リーチ可能、見守り群の96.0%が後方リーチ不可能であった。一方、歩行自立・非自立2群でみると後方リーチ可能群31名のうち歩行自立者は30名で特異度96.8%であった。
    【考察】級内相関係数が0.929であったことにより、本研究におけるBRTは高い検者間信頼性が得られた。また、BRT可否でTUGや歩行自立度に差が認められたことが明らかになり妥当性が確認された。以上のことより当施設独自の後方リーチ検査の有用性が証明されたと考える。さらにBRTが可能であった者の96.8%が歩行自立であったことをふまえると、この後方リーチ検査は歩行自立度を判定する一つの指標になりうると考えられた。
  • 向井 雅俊, 吉原 理恵子, 廣田 美江
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 717
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
     Functional Balance Scale(以下FBS)は,定量的な尺度による得点基準が設定されているため,検者間の再現性がよく,近年多くの報告で用いられるようになってきたが,その有用性に関する報告は少ない.本研究は,FBSの内容を平地での移動動作に必要な項目とその他の項目に分け,膝伸展筋力との関係性に着目し,FBSの有用性について検討した.
    【方法】
     対象は,運動器疾患を有さない内科・外科疾患の入院患者15名で,平均年齢は72.3±12.9歳である.膝伸展筋力の測定はハンドヘルドダイナモメーター(日本メディックス社製マイクロFET)を用い,等尺性収縮で左右とも3回ずつ測定し,左右の最大値の平均を,Nm/kgで表した.FBSは,「坐位」,「立ち上がり」,「腰掛け」,「立位」,「移乗」,「閉眼での立位」,「閉脚での立位」,「立位での前方リーチ」,「床からの拾い上げ」,「後ろへの振り向き」,「方向転換」,「踏み台への足乗せ」,「タンデム立位」,「片脚立位」の全14項目を56点満点で点数化した.平地での移動動作はFBSより「立ち上がり」,「立位」,「腰掛け」,「移乗」,「方向転換」の5項目をFBS5として20点満点で点数化し,その他はFBS5以外の9項目をFBS9として36点満点で点数化した.
    【結果】
     膝伸展筋力はFBS(r=0.56),FBS9(r=0.54)と相関を認め(p<0.05),またFBS5との間においてはFBSおよびFBS9より高い相関を認めた(r=0.59,p<0.02).また,FBS5で20点満点を示した全ての症例は,膝伸展筋力が0.59Nm/kg以上を示した.
    【考察】
     山崎は0.6Nm/kg程度の膝伸展筋力を有することで室内での移動動作の獲得が可能であると述べている.今回の結果において,平地での移動動作能力として表したFBS5が満点を示した症例は,0.6Nm/kg程度の膝伸展筋力を有し,また膝伸展筋力とFBS5の間に高い相関関係を認めた.今回の研究より,FBS5の項目は平地での移動動作能力の把握や膝伸展筋力の予測にも利用できる事が示唆された。FBSは高齢患者のバランス能力の評価を目的に開発され,転倒の危険性の指標としても利用されているが,FBSを応用することで,さらに利用範囲が拡大できるのではないだろうか.
  • 花田 紀子, 重田 暁, 阿部 宙, 岩崎 陽平, 阿部 均
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 718
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【はじめに】
    整形外科下肢疾患での術後早期の患者においては、筋力、固有感覚、痛みなど様々な原因によりバランス能力が低下している。バランス能力の評価方法はいろいろあるが、BIODEX社製stability systemを用いた整形外科疾患での測定方法の報告は少ない。そこで、今回我々は測定方法、回数を考慮したプロトコールを作成し、健常者を用いて検討したのでここに報告する。
    【対象と方法】
    対象は研究の趣旨についての説明を受け同意を得た健常対象者計35名(男性17名、女性18名)で、平均年齢は26.5歳、平均体重は59.6Kg(男性69.2Kg、女性50.5Kg)であった。方法はBIODEX社製stability system BDX-STのダイナミックバランステストを用い、開眼(open:O)および閉眼(close:C)にて3段階の難易度(以下難易度が低い順にO8、O7、O6、C8、C7、C6)を施行した。各測定は20秒で、踵部の位置を統一した。この時、難易度順で開眼・閉眼を交互に行う方法と、開眼で連続3段階行った後同様に閉眼を行う方法の2つのプロトコールを、3日以上の間隔を空けて測定した。どちらの測定方法を先に行うかは無作為に選択した。結果の処理は各難易度の全方向安定指数(以下SI)について分散分析および相関分析を行い、有意水準は5%未満として検定した。
    【結果】
    各難易度のSIの平均はO8、O7、O6、C8、C7、C6の順に1.7、1.6、1.7、2.9、3.3、3.7であった。開眼(O8、O7、O6)の各項目間のSIでは有意差が認められなかったが、開眼(O8、O7、O6)と閉眼(C8、C7、C6)の間では有意差が認められた。また、プロトコール(連続と交互)、回数(1回目と2回目)による有意差は認められなかったが、性別間ではC8、C7、C6において有意差が見られた。男性のSIの平均はC8、C7、C6の順に3.5、4.3、4.9、女性は2.3、2.5、2.8であった。男性のほうがバランスを崩しやすい傾向が見られ、外部に接触することも多かった。さらに各難易度のSIと体重との相関分析において、C8、C7、C6で相関を示す傾向(順にR=0.73、0.74、0.73)が見られたが、この傾向は男性(r=0.69、0.64、0.72)のほうが女性(r=0.36、0.40、0.40)よりも強く見られた。
    【考察】
    以上の結果から、閉眼による測定おいて体重の多かった男性は、バランスを崩してからの反応時間が同一であっても重さと加速度の関係から反応量は大きくなり、SIが大きかったことが推測され、体重を考慮したプロトコールの作成もしくは体重毎の基準を設定する必要があると考えられた。今後さらに年齢による影響についても検討していく必要があると思われる。


  • 大畑 光司, 市橋 則明, 向井 公一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 719
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】近年, 歩行障害を有する患者に対する歩行トレーニングとしてハーネス式の部分荷重システム(Body Weight Supported以下BWS)を用いたトレッドミル歩行トレーニングが注目を集めている。BWSは歩行の荷重量を低下させることにより、低負荷高頻度でトレーニングが行える利点を持つとされる。このためBWSによって、どの程度、運動強度を低下させることができるかを知ることは重要である。また、体重を支持するためのハーネスが胸郭を圧迫することから、換気量に影響を及ぼす可能性は否定できないが、免荷量と換気量との関係については明確ではない。本研究の目的は、BWS歩行の免荷量と酸素消費の関係を調べるとともに、換気量に与える影響を明確にすることである。

    【方法】対象は健常成人9名(男性5名、女性4名、平均年齢23.0±2.3歳)とした。平均身長は166.8±7.6cm、体重は55.9±5.3kgであった。トレッドミル上で4kmの速度で歩行を行い、免荷量を変化させて測定を行なった。部分荷重にはハーネス式の体重免荷装置(BIODEX社製アンウェイングシステムBDX-UWS)を用い、安静立位と通常歩行および0から50%免荷で歩行を行なったときの呼吸状態と酸素摂取量を測定した。呼気ガス測定にはCotex社製MetaMax3Bを用い、一回換気量(以下VT)、分時換気量(以下VE)、酸素消費量(以下VO2)、VO2の体重比(VO2/W)および呼吸数を測定した。BWSによる酸素消費量と呼吸状態の変化を反復測定分散分析により、有意水準5%で比較した。

    【結果】VO2およびVO2/Wは免荷量に伴って有意に減少した(VO2:p<0.01、VO2/W:p<0.01)。通常歩行と比較した減少率は10%免荷で7.6%、20%免荷で7.8%、30%免荷で11.0%、40%免荷で14.4%の減少を示した。しかし50%免荷歩行では14.3%とほぼ40%免荷と同様の値となった。一方、VT、VE、呼吸数などの換気状態に対して、免荷量はほとんど影響を与えていなかった。

    【考察】Colbyらは20%の体重免荷により6%, 40%の体重免荷により12%の酸素消費が減少したとしており, Danielssonらは30%の体重免荷により9%程度の酸素消費の減少が得られたとしている。本研究で得られたVO2の低下も同程度であり、酸素消費の減少はBWSの重要な特徴であることが示された。しかし、一方で40-50%のように高い免荷量では姿勢が不安定となり、VO2が変化しない可能性があることも示唆された。また、免荷量の増加により換気状態の変化は認められず、高い免荷量の設定であってもハーネスによる圧迫は換気状態に影響を与えるほどではないことが確認された。
  • 康 徳龍, 高橋 哲夫, 宮本 真由美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 720
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】歩行時のエネルギー消費やエネルギー効率の測定は,臨床上利便性から生理学的コスト指数(Physiological Cost Index : PCI)がよく利用されている.これまで持続的歩行運動やランニング及び,走行などの運動に関してエネルギー消費量や運動効果を観察した研究は多くあるが,まだインターバル歩行に関する研究はなされていない.そこで本研究では,歩行時のエネルギー効率に着目し,インターバル歩行時と持続的歩行時のエネルギー消費量の変化について実験を行い,その有効性について検討した.
    【方法】被検者は日頃運動を行っていない男女学生17名.歩行はトレッドミルにて行い,安静時心拍数を測定し,被検者の主観による自由歩行を基準とした「遅い歩行」「普通歩行」「速い歩行」の歩行速度が異なる3種類の歩行を用いた.インターバル歩行は,30秒間の速い歩行と15秒間の遅い歩行を3分間繰り返し実施した.
    【結果】歩行速度は「遅い歩行」42.94m/min,「普通歩行」75.12m/min,「速い速度」118.88m/min,「インターバル歩行」100.24m/minであった.PCIでは「普通歩行」より「速い歩行」が0.25beats/meter,「遅い歩行」が0.14beats/meter高くなった.また,「インターバル歩行」は「普通歩行」より0.46 beats/meter高く,「速い歩行」より0.21beats/meter高い結果が得られた.歩行率においては「インターバル歩行」が「速い歩行」より少ない結果が得られた.
    【考察】本研究では,エネルギー消費量としての面から,トレッドミル歩行によるインターバル歩行とPCIの関係について検討を行った. PCI曲線は「インターバル歩行」が「速い歩行」よりエネルギー消費量が高い値を示し,PCI平均値のt検定(危険率5%)では有意差が認められた.インターバル歩行は速い歩行と遅い歩行を交互に繰り返し行う方法であるため,「速い歩行」より速度や歩行率が遅くなったと考えられた.また,「インターバル歩行」の速い歩行は歩行時間が短時間であるため最大努力歩行が遂行でき,心拍数を高水準まで達することができると考えられる.最大努力歩行を繰り返すことにより,1回の心拍で心臓から拍出される血液の量が増大し,全身最大酸素消費量が高くなると考えられる.従って「インターバル歩行」は全身持久性の能力を向上により呼吸・循環系の改善が期待できる.これらのことにより,「インターバル歩行」は持続的速度の「速い歩行」より,エネルギー消費量がより高いことが示唆された.
    【まとめ】1.PCIによるインターバル歩行のエネルギー消費量を検討した.
    2.PCIを算出した結果「遅い歩行」「普通歩行」「速い歩行」のエネルギー消費量より「インターバル歩行」が高値を示した.3.「インターバル歩行」はエネルギー消費量が高いことにより脂肪の燃焼量がより高い可能性があることを示唆している.
  • 齋藤 信夫, 武井 圭一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 721
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     従来から平地での快適速度よりトレッドミルの快適速度は大変遅くなり,トレッドミルの方が速い速度で歩いている感じがすることになると報告されている.そこで今回は,快適速度における速度と力学的活動量の相違について,平地とトレッドミル上の歩行で比較検討した
    【方法】
     対象は若年健康者の12名(男性10名,女性2名),年齢は21~38(平均22.6)歳.平地快適速度は10mの歩行時間を測定し求めた.トレッドミル(酒井医療社製SPR-7050)上快適速度は速度を上昇させながら快適速度まで測定したものと,速い速度から下降させながら快適速度を測定する2種類の計測を行った.各測定の際,腰背部に装着した小型3軸加速度変換器(KYOWA社製AS-TG)から動ひずみ測定器(KYOWA社製DPM-700B)を経てADコンバータを介しパソコンソフト(ADInstruments社製PowerLabシステム8)上で快適歩行時の3次元の加速度変化を解析した.5秒間の加速度変化の積分値(総力積)を求め活動量の指標にした.この測定法は,歩行時の総力積が酸素消費量と高い相関関係(r=0.958)にあることに基づいている.各条件の比較には1元配置の分散分析(反復測定)を用い有意差を求めた. 
    【結果】
     平地快適歩行速度の平均値は5.06±0.70[km/h],トレッドミル速度上昇時快適速度の平均値4.38±0.45[km/h],速度下降時快適速度の平均値は4.30±0.31[km/h]であり,平地快適速度がトレッドミル快適速度に比べ有意に高いことが示された.平地快適歩行活動量の平均値は380.90±55.76 [N・min/kg],トレッドミル速度上昇時快適歩行活動量の平均値は282.26±50.23[N・min/kg],速度下降時快適歩行活動量の平均値は279.86±54.42 [N・min/kg]となり,平地快適歩行時の活動量がトレッドミル快適歩行時の活動量に比べ有意に高いことが示された.
    【考察】
     平地快適速度に比べトレッドミル快適速度は遅くなるという従来からの報告と同様の結果が得られ主観的な速度の相違に由来するものと考えられた.エネルギー消費の視点からは,平地歩行とトレッドミル歩行の同一速度におけるエネルギー消費はトレッドミル歩行が高くなると報告されている.今回,快適速度という主観的速度下での比較を行い,トレッドミル歩行では速度が遅くなるため,エネルギー消費は下がるのではないかという考えが示唆された.
    【まとめ】
     若年健康者の平地とトレッドミル上での歩行速度と活動量について,快適歩行速度における変化を測定した.快適歩行時の速度と活動量の値は,平地歩行のほうがトレッドミル歩行より高くなることが示唆された.
  • 伊藤 慎英, 大塚 圭, 才藤 栄一, 村岡 慶裕, 青木 健光, 吉村 洋輔, 平塚 智康, 冨田 昌夫, 寺西 利生
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 722
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】足部の過剰な内反運動は,異常歩行として臨床の歩行分析で重要な評価の対象となる.特に立脚期の過剰な足部内反は,下肢の支持性と安定性の低下に大きく影響を及ぼす.そのため歩行中の足部内外反運動の詳細かつ客観的な評価は臨床で必要とされる.
     しかし臨床における足部内外反運動の評価は,主に視覚的観察が用いられており,客観的な評価はほとんど行われていない.さらに研究分野においても歩行中の足部内外反運動を分析した報告は非常に少ない.これは足部内外反運動の角度定義が曖昧であることと,歩行障害を有する低歩行能力者は,再現性が低下していることが挙げられる.
     そこで,省スペースの定常環境下にて多数歩採取が容易となるトレッドミルで3次元動作解析を用い,歩行中の足部内外反運動の計測を試み,その方法と分析結果について検討したので報告する.
    【対象・方法】対象は,健常群5例(すべて男性,平均年齢26.8±3.0歳)と脳卒中片麻痺患者(以下:片麻痺)1例(32歳女性)とした.被験者には研究の主旨を口頭および文章にて説明し,参加への同意を得た.また,研究計画については当大学倫理委員会の承認を得た.計測は,3次元解析装置Kinema Tracer(キッセイコムテック株式会社製)を使用し,トレッドミル上でサンプリング周波数60Hzにて20秒間記録した.トレッドミル速度は,健常群:2km/h,片麻痺:0.8km/hに設定した.動作解析用マーカーは,LEDマーカー(18mm)を使用し,両側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,外果,第5中足骨頭,足背内側(第一中足骨を通る前額面への垂線と第5中足骨頭から矢状面への垂線の交点)に装着した.マーカーを自動追跡にて3次元に構成し,角度変化を歩行周期の平均値にて正規化した後,加算平均処理した.足部の内外反角度は,大腿骨外側上顆と外果のベクトルと足背内側と第5中足骨頭のベクトルから成す角より求めた.
    【結果および考察】健常群5例の計測で採取された平均歩数は12.2歩,片麻痺では9歩であった.健常群における歩行周期の足部内外反運動は5例とも同じ傾向にあり,踵接地では平均6.3°の内反位を呈しており,立脚中期に正中および軽度外反位(平均0~2°),立脚後期から遊脚期にかけて内反になる運動パターンの傾向(最大内反7.8°)を示した.片麻痺では,患側下肢において,踵接地では,21.6°の内反位を呈し,立脚中期に正中および軽度外反位(0~2°),立脚後期から遊脚期にかけて過剰な内反になる運動パターン(最大22.7°)を示した.トレッドミル歩行分析では,多数歩にて正規化後加算平均処理が容易となるため,歩行周期の足部内外反運動を明確に示すことが可能になった.また,この計測では標準偏差,変動係数といった統計学的検討も可能となるため,臨床の歩行分析において有用と思われた.
  • 西守  隆, 高崎 恭輔, 金井 一暁, 大工谷 新一, 鈴木  俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 723
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     下肢障害におけるリハビリテーションにおいて,歩行を獲得した後,ジョギング,ランニングと走速度を増加させていくことが多い.走速度と股関節筋力は強い相関関係にあることから,走動作の指導には,その力源となる下肢運動に着目されることが多い.我々は,下肢だけでなく体幹運動も,走速度の向上に重要な役割をしているものと考えている. 下肢障害を呈する者の走動作では,下肢以外においても,体幹部が協調的に運動できない症例を経験し,我々は健常成人と異なった体幹運動をしているものと考えている.そこで,トレッドミル上での走動作において,健常成人と,下肢障害の既往歴を有する者について,骨盤と体幹上部の回旋運動を検討した.
    【対象および方法】
     既往歴に下肢障害を有さない健常成人男性3名(健常例)(20-22歳)と,既往歴に下肢障害を有する成人男性1名(既往例)(21歳)を対象とした.既往歴のある被検者は, 乳幼児に化膿性大腿骨骨頭炎を患い,5年前に大腿骨延長術を施行された.現在,日常生活動作はすべて自立しているものの,歩行および走行動作では体幹の動揺性が観察される.被験者にはトレッドミル上で,走速度1.5m/s,2.5m/s,4.5m/sの3条件で走動作を行わせた.走動作を 4台のデジタルビデオを用いて撮影した.撮影されたビデオ映像から,走行に要する2サイクルにおいて,Frame-Dias2(DKH社製)を用いて身体29ヶ所の測定点を同一の験者がデジタイズ(60Hz)した.得られた座標値から骨盤回旋角度と体幹回旋角度を求めた.得られた骨盤回旋角度と体幹回旋角度について,時系列データとして相互相関分析を行ったあと,位相性の違いを算出した.なお、これによって得られた値が50%の場合は逆位相,0%の場合は位相ズレがまったくないことを示す.
    【結果および考察】
     骨盤回旋と体幹回旋の相互相関分析による位相性のズレについて,健常例は走速度1.5m/sで22±3%,走速度2.5m/sで18±5%および走速度4.5m/sで10±2%であった.既往例は走速度1.5m/sで24%,走速度2.5m/sで23%および走速度4.5m/sで20%であった.健常例は同一被検者内で,走速度が増加するに従って,骨盤と体幹回旋運動は逆位相から同位相に近づく傾向であった.一方,既往例では走速度が増加しても,骨盤と体幹回旋運動は位相性の変化が少なかった.これらのことから,健常例は走速度増加に対応して体幹内の捻れが減少していく傾向であった.既往例では健常例のような走速度変化に対応した体幹回旋運動でないことがわかった.
  • 老沼 健一, 大高 洋平, 田村 貴行, 加藤 啓祐, 椎名 央恵, 四方田 良子, 糸井 祥子, 新谷 益巳, 宇賀神 直
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 724
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】さまざまな歩行障害では、立脚期時間(遊脚期時間)の左右差を認     
     め、跛行を呈する。通常、非分離型のトレッドミル歩行では、ベルトが1つ  
     のため左右の立脚相を対称に矯正するような力が働く。一方、左右のベル 
     トを独立して速度設定を行うことで歩行にどのような変化が生じるかにつ
     いては知られていない。そこで今回、予備的検討として健常人に対し分離 
     型トレッドミルを用い左右ベルト速度を変化させ人工的な破行を生じさ 
     せ、その際の床反力の変化に着目し分析を行ったので報告する。
    【対象・方法】対象は健常男性3名(平均: 24.7 歳)とした。床反力内蔵ト
     レッドミル装置(Tecmachine 社製ADAL3D)を用い、右のベルト速度をまず
     1、2、3、4km/h と固定。それぞれの速度条件に対し、左のベルト速度を
     1、2、3、4km/h まで設定し、各々の条件下で歩行開始1分経過から30秒
     間、歩行を測定した。解析項目は、重複歩時間(ms)、立脚期時間の重複歩
     時間に対する割合(% of stride: %Std)、床反力とした。床反力は、体重に
     対する割合(% of body weight: %BW)で表し、垂直分力、前後分力、左右分
     力に分けて解析を行った。
    【結果】最も左右差の生じる条件である、右1km/hに対し、左1、2、3、4km/
     hと設定した場合の結果を示す。1.重複歩時間は左ベルト速度上昇に伴い、
     1861ms、1293ms、1065ms、935msと短縮した。2.立脚期時間の割合(%Std)
     は、右で72.4%、72.5%、73.8%、75.9%と大きな変化を認めないのに対し、
     左では72.3%、63.9%、57.2%、53.7%と約20%減少した。3.床反力では、垂直
     分力の立脚初期におけるピーク値が左右共に増加傾向にあった。前後分力
     においては、立脚初期の制動力は、右で増加、左で減少傾向にあり、一 
     方、立脚中期からの推進力は右で減少、左で増加傾向を示した。
    【考察】臨床上遭遇する頻度の高い片麻痺患者の跛行では、患側立脚期時間
     が短縮し、患側立脚中期からの重心の前方移動が不十分であり、推進力が
     減少しているとされる。一方、トレッドミルによる人工的な跛行では、速
     度の速いベルト側において、速度差が生じるにつれ立脚期時間は短縮した
     が、床反力の前後成分の後方への力(推進力)は増加していた。これは、よ
     り速く動くベルト上に立脚することで遅いベルト側に較べて股関節伸展が
     他動的に行われ、足が後方により大きくけり出されたためであると考えら
     れる。このように、実際の跛行と人工的な跛行とは異なるパターンを示
     し、左右のベルト速度を変化させることの臨床的意義について慎重に検討
     していく必要があると考えられた。
  • 酒井 美園, 柴 喜崇, 佐藤 春彦, 二見 俊郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 725
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ある動作を繰り返し練習、経験することで、完成度の高い動きやパターンを獲得していく様子が人にはみうけられる。そこには、状況判断や、力を発揮するタイミングや、力の大きさや向きといったものが、長期的にまたは短期的に適応していく過程がある。我々はこれまで、トレッドミル上を歩行している最中に、歩行ベルトを急激に減速させることによって身体のバランスがくずれるような外乱刺激を与え、その時の姿勢制御反応を調べてきた。そして、外乱刺激を繰り返し経験すると、慣れて上手に対応する様子がみうけられた。その際、身体にはどのような変化がおこっているのだろうか。そこで本研究では、繰り返しの外乱刺激に対する適応過程から、高齢者にとって適した姿勢制御反応とは何かを明らかにすることを目的に研究を行った。
    【方法】地域在住高齢者16名(男性9名、女性7名、年齢70.13歳±2.78歳)を対象とした。両側分離型トレッドミル(PW21:日立製作所)上で、5分間歩行(時速2km/h)を行い、踵接地時に外乱刺激を20回与えた。外乱刺激は、片側の歩行ベルトを急激に減速することにより与えた。この時の筋電図(刺激側の、脊柱起立筋、腹直筋、大腿二頭筋、内側広筋、腓腹筋、前脛骨筋)と、進行方向の骨盤加速度を測定し、筋潜時、筋積分値、前後方向骨盤加速度最大振幅値を解析した。20回の外乱刺激を5回ずつ分け、セッション1、2、3、4と設定し、各セッションの平均値を求め、フリードマン検定及び多重比較を行った。なお、筋積分値は、各筋ごとに、外乱刺激後0.5秒間の積分値を外乱刺激前1歩行周期分の積分値で除することで正規化をした。
    【結果】骨盤加速度最大振幅値に関しては、各セッションを通して減少傾向が認められたが、有意な変化はみられなかった。筋潜時に関しては、各セッションにおいて内側広筋、前脛骨筋の潜時(100から150msec)が他筋の潜時に比べて短く、6筋すべての筋潜時にセッションを通しての有意な変化はみられなかった。筋積分値に関しては、各セッションにおいて前脛骨筋は1.5を超える大きな値を示した。これは、外乱刺激後0.5秒間の筋放電量が通常1歩行周期分よりも1.5倍以上大きいことを表す。各セッションを通して、腓腹筋のみ、有意に値が小さくなる変化がみられた(P<.016)
    【考察】腓腹筋に筋積分値の有意な減少がみられた。外乱刺激に対し、前脛骨筋の反応は早期にみられ、筋積分値が大きいことから、効果的に反応することが重要である。このことから、腓腹筋の反応が抑えられることで前脛骨筋の反応がより有効となり、しなやかに身体を前方へ戻すという、適した姿勢制御反応が行えるようになったと考えられる。
    【まとめ】高齢者において、繰り返しの歩行時外乱刺激に対し、過剰な筋反応を抑えることによって効果的な姿勢制御が行えるように適応していく過程が示唆された。
  • 岩下 篤司, 市橋 則明, 池添 冬芽, 大畑 光司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 726
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】近年、Closed kinetic chain(CKC)におけるトレーニングが理学療法の分野でも盛んに用いられている。しかし、CKCでのトレーニングが、どの程度下肢の筋活動量に影響を及ぼすのか明確にはなっていない。本研究の目的は、CKC運動であるペダリング動作とトレッドミル歩行、およびスクワットにおける下肢筋の筋活動量を測定し、膝関節伸展筋と膝関節屈曲筋および足関節底屈筋の筋活動比率の比較・検討を行うことである。
    【対象と方法】対象は本研究に同意の得た健常成人9名(年齢21.8±2.1歳、身長164±9.3cm、体重54.3±7.0kg)とした。筋電図の測定筋は右側の大腿直筋(RF)、内側広筋斜頭(VM)、外側広筋(VL)、半膜様筋(SM)、腓腹筋内側頭(GM)、腓腹筋外側頭(GL)、の6筋とした。表面筋電図を双極導出するため銀塩化銀電極(直径8mm)2個を電極中心間距離20mmで筋線維の走行に沿って貼付した。整流平滑化筋電図(Rectified Filtered electromyography:以下RFEMG)を求めた。自転車エルゴメーターのサドルの高さは、下死点にて膝屈曲30度に設定した。仕事率は60W(1.0kp×60rpm)、120W(2.0kp×60rpm)、180W(3.0kp×60rpm)とし、ペダリング動作を行ったときのRFEMGを測定した。歩行動作はトレッドミルにて4km/h、6km/hで歩行したときのRFEMGを測定した。スクワット動作は膝屈曲角度を90゜~0゜の範囲で、屈伸反復速度60回/分で行ったときのRFEMGを測定した。各動作の5周期分の平均RFEMGをデータとして用いた。筋電図データは、各筋の最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。筋電図データを用い、RF/SM比、VM/SM比、VM/VL比、GM/GL比、RF/GM、VM/GM比を算出した。統計処理には反復測定一元配置分散分析及び、Fisher'sPLSDの多重比較を用いて、ペダリング動作と歩行動作、およびスクワット動作との違いを分析した。
    【結果および考察】(1)RF/SM比とVM/SM比について、ペダリング動作では0.85~0.92を示した。歩行動作では0.40~0.62を示し、ペダリング動作と比較すると半膜様筋の筋活動比率が高くなった。しかし、スクワット動作では、2.0と反対に大腿直筋および内側広筋の活動量比率が高くなった。(2)VM/VL比は、全ての動作にて0.96~1.18と活動比率に有意な差がなかった。(3)GM/GL比について、歩行動作とスクワット動作では0.99~1.04を示した。しかし、ペダリング動作においては1.40~1.73と腓腹筋内側頭の活動比率が高くなった。(4)RF/GM比とVM/GM比について、ペダリング動作では1.1~1.2を示した。歩行動作では0.47~0.63を示し、ペダリング動作と比較し腓腹筋内側頭の筋活動比率が高くなった。しかし、スクワット動作では1.96~2.65と反対に大腿直筋と内側広筋の活動比率が高くなった。今回の結果、CKCでも各動作によって筋活動比率が変化することから、トレーニング時にはその特性を考慮する必要があると考えられた。
  • 大田 幸作, 石井 美和子, 磯 あすか
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 727
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床上、骨盤傾斜角度が静止姿勢を特長づける大きな要因であるとともに基本的動作パターンに影響している場面を多く経験する。そこで今回、静止立位における矢状面上の骨盤傾斜角度と立位最大体前屈時の股関節および腰部の運動量に関係があるのか明らかにすることを目的として本研究を実施した。

    【方法】対象は本研究に同意した健常人15名とし、静止立位における矢状面上の骨盤傾斜角度、最大体前屈時の股関節運動量および腰部運動量を測定した。静止立位における骨盤傾斜角度の計測は、全身姿勢をデジタルカメラにて撮影した。撮影時、身体には左右耳孔、肩峰、上前腸骨棘、上後腸骨棘、大転子、膝関節外側中央、足関節外果、胸骨剣状突起、第8胸椎棘突起へマーカーを貼付けした。撮影画像よりポスチャー分析システム(インターリハ社製)を用いて骨盤傾斜角度(矢状面上の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ腺と水平線のなす角度)を算出した。最大体前屈時の股関節運動量は電子角度計Dualer Plus( JTEC社製)を使用し静止立位からの角度変化量を求めた。腰部運動量の算出には超音波動作計測装置Sonosens monitor(フレンドリーセンサー社製)を用いた。計測時第12胸椎レベルおよび第5腰椎レベルにセンサーを貼付し、静止立位から最大体前屈したときの距離の変動を腰部運動量とした。これらの数値をもとに、1. 静止立位における骨盤傾斜角度と最大体前屈時の股関節運動量の関係、2.静止立位における骨盤傾斜角度と最大体前屈の腰部運動量の関係を検討した。統計処理は相関分析を行った。危険率は5%未満とした。

    【結果】1. 静止立位骨盤傾斜角度と最大体前屈時の股関節運動量の関係は有意に相関が認められ、骨盤前傾角度が大きい例で股関節運動量は大きくなった(p<0.01)。2.静止立位骨盤傾斜角度と最大体屈時の腰部運動量の変化量に一定の関係は認められなかった。また腰部運動量に関しては平均37±4.0%伸長していた。

    【考察】結果より、骨盤前傾角度は股関節屈曲方向の易運動性を表す目安として考えられた。また骨盤傾斜角度と腰部運動量には一定の関係は認められず、健常者では静止立位からの腰部運動量は骨盤傾斜角度によって大きな差はみられなかった。しかし臨床における腰痛症例の観察では、骨盤後傾に伴った腰椎屈曲の可動性増大を認めることがある。それらの症例では同時に股関節運動量の低下が認められることがあり、腰部の運動量を大きくして代償しているものと考えられる。したがって今後の課題としては腰痛症と健常者との比較検討をしていく必要があると考えられる。



  • 大重 裕子, 前田 哲男, 木山 良二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 728
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は、体幹前屈角度ごとの脊柱起立筋の筋活動量を比較し、筋活動の変化を物理学的に説明できるかを明らかにすることである。

    【方法】対象は、体幹に整形外科的、神経外科的疾患の既往のない健常女性26名とした。
    1.筋電計はMyosystem1200(NORAXON社)を使用し、両膝伸展位を保持した状態で体幹前屈肢位を取らせたときの筋活動量を測定した。前屈角度は肩峰と大転子を結ぶ直線と床への垂線のなす角度とし、0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°の7段階に分けて行った。測定筋は左右の腰部脊柱起立筋とし、電極の位置は腸骨稜の高さ(ヤコビー線:L4-L5)とした。測定結果を正規化するため、上前腸骨棘より上半身をベッドの端から浮かせ、体幹を水平に保つSorensenのtrunk holding testの肢位を用い、得られた平均筋電値を100%として、各動作における筋活動量を%iEMGで表した。
    2.測定結果と物理学的に生じる張力を比較するため、体幹前屈時に生じる脊柱起立筋の筋張力について概算した。脊柱起立筋による伸展モーメントは 重力による屈曲モーメントの反作用であることから、前屈角度θに対する上半身のL5関節まわりのモーメントMは、 M =r・g・cosθと計算できる。Mはθ=90°で最大となる。正規化に用いたSorensenのtrunk holding testでは上半身に支えがない状態での体幹挙上位をとり、このときのMはθ=90°の前屈肢位のMとほぼ同じと考えられる。よって、θ=90°の値を100%として%iEMGと比較した。

    【結果】脊柱起立筋の筋活動は前屈0°の肢位で最も低い値を示し、前屈45°の肢位で最も高く、90°の肢位では前屈0°とほぼ同じレベルまで減少した。また、多重比較検定の結果、0°と15°、0°と30、°15°と30°、60°と75°、60°と90°、75°と90°の間に有意差が見られた(p<0.05)。筋活動量は前屈0°から30°にかけて徐々に増加し、60°以降は減少する傾向を示した。30°から45°の間では角度間の有意差は見られなかった。

    【考察】筋活動量と概算したモーメントの比較により、予測値に対して、前屈0°から30°ではこれに近い値が得られたが、45°以降では予測値を下回る値となった。このことから、0°から30°では脊柱起立筋筋活動は物理的法則に従い増減することが示唆された。45°以上の前屈で生じた活動筋力の減少については、筋の力学的特性によるものであると考えられた。筋は伸張されるにしたがって活動張力が減少し、静止張力が増加する。活動張力の減少は、筋長が長くなるに従って筋の架橋形成が不十分となることで起こり、静止張力の増大は筋の弾性要素が伸張されることで張力を発揮するために起こる。このことから、体幹前屈に伴って筋の伸張が起こり、筋活動量が減少したものと考えられた。
  • 三瀧 英樹, 三和 真人, 日下部 明, 伊藤 友一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 729
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】体幹前屈動作は、高い確率で腰痛を引き起こすと言われるが、その原因は解明されていない。また、腰痛患者に対する評価の一手段として表面筋電計を用いた屈曲弛緩現象(Flexion Relaxation Phenomenon:以下FRP)がある。本研究の目的は体幹前屈動作時のFRP出現に関係する要因を腰痛・姿勢・体幹可動域・速度から明らかにすることである。
    【方法】対象は女性12名(健常群6名、腰痛群6名)である。測定動作は体幹前屈動作とし、最大屈曲までの速度は3種類遅い(2s)中等度(3s)速い(4s)とした。測定項目はFRPの有無・体幹屈曲角度・腰椎前弯角とした。FRPの有無はC7・T12・L2・L5レベルの両側脊柱起立筋を表面筋電計で測定した。安静立位時の脊柱起立筋の筋活動を基準に体幹前屈時における筋活動の変化(値)として求めた。体幹屈曲角度は三次元動作解析装置VICON370を使用し、マーカーはC7・T12・L5・肩峰・大転子・膝・外果・MPとした。体幹屈曲角度は立位時の大転子と外果を通る垂直線を基準にA (C7およびL5棘突起を通る垂直線と基準のなす角度)、B(C7およびT12棘突起を通る垂直線と基準のなす角度)、C(T12およびL5棘突起を通る垂直線と基準のなす角度)を測定した。腰椎前弯角はスパイナルマウスを使用した。統計は腰痛の有無、FRPの有無と各速度で体幹屈曲角度・前弯角・変化(値)についてt検定を行った。なお有意水準は5%とした。
    【結果】腰痛の有無での各体幹屈曲角度は、2s・3s・4sで有意差はなかった。腰痛の有無での前弯角は、健常群30°腰痛群26°であり有意差はなかった。腰痛有無での変化(値)は、2s・3s・4sで有意差はなかった。FRPの有無での各体幹屈曲角度は、2s・3s・4sで有意差はなかった。FRPの有無での前弯角はT12レベルが4sでFRP(+)25°FRP(-)34°と有意差があったがその他各レベル各速度で有意差がなかった。FRPの有無での変化(値)はT12レベルでL5レベルは2sでFRP(+)6とFRP(-)10、3sでFRP(+)-4とFRP(-)10、4sでFRP(+)-3とFRP(-)35と有意差がなかった。L2レベルでL5レベルは2sでFRP(+)-12とFRP(-)35、3sでFRP(+)-25とFRP(-)28、4sでFRP(+)-16とFRP(-)51と有意差があった。
    【考察・まとめ】体幹前屈時におけてFRPのない人は腰椎前弯が小さい傾向があると考えられる。また、前弯が強く動作速度の遅い時にT12レベルでFRPがみられない原因としてはT12が胸腰椎移行部で且つ脊柱起立筋の活動の変化が関与していると考えられる。
  • 脊柱起立筋の筋活動について
    波之平 晃一郎, 藤村 昌彦, 松谷 純子, 小粥 はるか, 中川 慧, 菅野 正光, 伏見 健志, 佐々木 輝, 河原 裕美, 梅田 知佳 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 730
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】傾斜がある場所で重量物を持ち上げることは日常生活で多くみられる.また,女性ではヒールの高い靴を履いた状態でこの動作を行うこともある.そこで本研究は,傾斜板の角度を変化させることにより足関節底屈角度を変え,どの角度が最も腰部に負荷がないかを筋電図を用いて検討した.同時に,他筋の負荷量をみることで,腰痛の予防および危険な斜面角度・ヒール高について検討した.

    【方法】腰痛の既往の無い健常人男性 (年齢:22.9±2.0歳,身長:170.1±6.4cm,体重:59.9±6.0kg)10名を対象とした.電極を脊柱起立筋,大腿直筋,腓腹筋,前脛骨筋に設置した.測定肢位は,腓腹筋のみ腹臥位で,他の3筋はMMTのテスト肢位で徒手による抵抗に抗して動作をさせ,等尺性最大随意収縮の表面筋電位(maximum voluntary contraction:以下,MVC)を測定した.動作は,スクワット法を用いて,足幅約15-20cmに開脚した直立位から,合図とともに体幹屈曲,膝関節屈曲を開始した.重量物を把持した状態で体幹,膝関節を伸展させ直立位へ戻り,約2秒間保持した.その後,体幹,膝関節を屈曲し重量物を降ろした.また,持ち上げる際,頸部も十分に屈曲するよう指示した.各筋のMVCに対し,それぞれの足関節底屈角度での筋活動の割合(%MVC)を計算し,さらにピーク値,平均値を算出した.持ち上げる際の条件として,重量物の重さは対象者の体重の30%とし,さらに足関節底屈角度は0°,15°,30°,45°の4つのパターンに傾斜角度を変化させた.この試行を3回ずつ計12回行った.体幹伸展位から屈曲位(その逆)のスピードは動作時各筋で任意に行った.

    【結果】持ち上げるとき,降ろすときに各筋に変化がみられ特に,平均値では大腿直筋,腓腹筋,前脛骨筋に,ピーク値では大腿直筋,腓腹筋に大きな変化がみられた.その過半数以上の被験者が足関節底屈15°と30°との間に大きな変化がみられた.その他の被験者でも足関節底屈30°と45°との間に大きな変化がみられた.さらに,足関節底屈15°は0°と比較して変化がみられなかったが,15°と30°との間で腓腹筋をはじめ,大腿直筋,前脛骨筋に大きな負荷がかかる可能性があった.腰部脊柱起立筋においてはどの角度においてもほぼ変化はみられなかった.

    【考察】足関節の変化によって筋電位に変化がみられた.しかし,その変化は個人によって差があった.その理由として,個人によって身体的特徴,体格指数(BMIなど),スポーツ歴や生活習慣などの影響により筋の質(筋力,筋持久力,筋パワー)に種々の違いがあるためと思われた.また,腰部脊柱起立筋に変化がみられなかったのは,重量物が重過ぎて,本筋の筋出力を初めから最大値近くまでに上昇させたためだと考えられる.今後,より詳細な持ち上げ動作の条件下で研究を行い,安全な持ち上げ動作と筋電位との関係を検討したい.
  • 体幹前傾角度の違いによる変化
    石田 弘, 田邊 良平, 江口 淳子, 小原 謙一, 渡辺 進
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 731
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】前かがみでの作業は腰部障害を起こしやすく、体幹前傾角度が大きいと受動的な支持組織への負担が大きい。本研究の目的は体幹前傾角度を大きくして引き上げ運動を行った場合の体幹・下肢筋活動を明らかにすることとした。
    【方法】対象は健常男性10名(平均年齢23.1±3.1歳)で同意を得て実験を行った。負荷には竹井機器社製の背筋力測定器を用いた。立位での引き上げ運動は膝関節を伸展位で体幹を前傾した肢位より行った。Noraxon社製の筋電計を用い、被検筋は右側のL3、L5脊柱起立筋、腹直筋、腹斜筋群、広背筋、大殿筋、大腿二頭筋とした。前傾30°で最大随意発揮(MVE)を5秒間行い、MVEの30%と60%を決定した。ハンドルバーを持つのみを0%とした。各筋の最大随意収縮(MVC)を5秒間行い、前傾30°、45°、60°で、それぞれMVEの0%、30%、60%を5秒間行った。中間3秒間の平均積分値をMVCで正規化し(%MVC)、統計処理は負荷と前傾角度の二元配置分散分析、多重比較を行った(p<0.05)。
    【結果】すべての筋で負荷のF検定に有意差があった。腹直筋と腹斜筋群の0%MVEと30%MVEの間に有意差がなかった以外はすべて負荷が大きいほど%MVCは有意に大きかった。前傾角度のF検定に有意差があったのはL3、L5脊柱起立筋、広背筋、大腿二頭筋で、広背筋には交互作用があった。L3脊柱起立筋の%MVCは30°が51.6%、45°が46.5%、60°が33.3%で、30°と60°、45°と60°の間に有意差があった。L5脊柱起立筋では30°が47.4%、45°が41.4%、60°が32.5%で、30°と60°の間に有意差があった。大腿二頭筋では30°が32.6%、45°が42.3%、60°が43.9%で、30°と45°、30°と60°の間に有意差があった。広背筋の一元配置分散分析で前傾角度のF検定に有意差があったのは30%MVEと60%MVEであった。%MVCは30%MVEの30°が7.3%、45°が11.3%、60°が10.5%で、30°と45°、30°と60°の間に有意差があった。60%MVEでは30°が17.4%、45°が28.6%、60°が30.2%で、30°と45°、30°と60°の間に有意差があった。つまり、体幹前傾角度が大きいと脊柱起立筋の%MVCは減少し、広背筋と大腿二頭筋では増加した。
    【考察】負荷が大きいほど筋の活動量は大きくなるため、すべての被検筋が引き上げ運動に関与していると考えられる。前傾角度が大きいと脊柱起立筋の筋活動は減少したが、広背筋や大腿二頭筋が活動を増加させることで代償したと考えられる。
    【まとめ】体幹前傾角度が大きい場合、脊柱起立筋は負荷に応じた活動増加を示さず体幹伸展モーメントは減少するが、肩関節伸展モーメントや股関節伸展モーメントを増加させることで代償していることが示唆された。
  • 周波数解析を用いた筋疲労の検討
    江口 淳子, 石田 弘, 田邊 良平, 小原 謙一, 渡邉 進
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 732
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     理学療法を行う際,ベッド上の患者に対し前かがみ姿勢を持続することがあり,腰部の筋疲労感を経験することが多い.筋は疲労することで収縮力の低下が生じることは一般に知られているが,前かがみ姿勢で脊柱起立筋が疲労した際の下肢筋の筋活動については明らかではない.したがって本研究では脊柱起立筋が疲労した状態で引き上げ動作を行う場合,どのように体幹・下肢の筋活動が変化するのかを筋電図学的に明らかにすることを目的とした.
    【方法】
     対象は,神経学的及び整形学的疾患を有さない健常男性9名(平均23.1±3.9歳)とした.
    引き上げ動作の外部負荷には,竹井機器工業社製のデジタル背筋力測定器と背筋力アタッチメントを使用し,引く力の計測を行った.被検者の右肩峰と大転子を体幹前傾角度の目安とした.立位で肘,膝関節は伸展位とし,腰椎の前彎角度は自由とした.筋活動の計測にはNoraxon社製の表面筋電計を使用した.被検筋は右側L3とL5レベルの脊柱起立筋,腹直筋,腹斜筋群,広背筋,大殿筋,大腿二頭筋とした.表面電極をそれぞれの筋腹上に貼付した.サンプリング周波数は4kHzとした.はじめに体幹前傾30度にて最大随意発揮(MVE)を5秒間行い,引く力の目標値を設定した.その後,体幹前傾角度30度でMVEの60%を1分間持続する運動中の筋活動を記録した.得られた1分間の筋電図のうち,初期,25%,50%,75%,最終の各5秒間のデータを抽出して解析に用いた.はじめに1秒ごとに周波数解析を行い中間周波数(MF)を算出し,5秒間の平均値を求めた.次に全波整流後,5秒間の平均積分値を求め,各筋の5秒間の最大随意収縮(MVC)を基準に正規化(%MVC)した.統計処理はMFと%MVCのそれぞれで一元配置分散分析と多重比較検定を行い,運動の持続による変化を検討した.有意水準は5%未満とした.
    【結果】
     MFの一元配置分散分析ではL3とL5の脊柱起立筋にそれぞれ有意差が認められた.L3のMFの平均値は時間経過の順に64.6Hz,59.3Hz,53.1Hz,47.5Hz,45.8Hzであった.L5のMFの平均値は94.8Hz,86.7Hz,79.9Hz,71.2Hz,66.4Hzであった.多重比較検定の結果,L3とL5の脊柱起立筋ではともに,初期と50%の間,初期と75%,25%と75%の間,初期と最終,25%と最終,50%と最終の間にそれぞれ有意差があり,時間の経過と共に減少した.%MVCでは広背筋と大殿筋に時間の経過と共に増加する傾向がみられた.
    【考察】
     前かがみ姿勢での引き上げ動作において,疲労により脊柱起立筋の体幹伸展モーメントが減少するような状況では,広背筋,大殿筋の筋活動を増加させて脊柱起立筋を代償していると考える.
  • 立位・骨盤傾斜との比較
    中村 香織, 中村 高良, 木下 一雄, 佐藤 信一, 安保 雅博, 宮野 佐年
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 733
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】膝立ち位は立位と比べ身体重心が低く、膝・足関節の影響を除外し、選択的に股関節伸展を促通するために有益な姿勢として臨床において多用されている。しかし、膝立ち位で股関節周囲筋を有効に用いる方法についての具体的な報告はない。今回、膝立ち位における股関節周囲筋を有効に働かせる訓練方法を見出すため、膝立ち位における筋活動の特性を姿勢と骨盤傾斜の両要因にて比較した。
    【対象および方法】対象は下肢、体幹に障害等の既往のない健常者30名(男性12名、女性18名、平均年齢23.7±2.6歳)とした。測定条件は立位と膝立ち位での姿勢による比較、膝立ち位で骨盤前傾位と骨盤後傾位での骨盤傾斜による比較とした。骨盤傾斜において体幹の前後屈や痛みを伴わない位置を確認し、自動運動にて骨盤を傾斜し保持させた。測定は表面筋電図機器(日本光電社製)を使用し、皿電極を2cm間隔で貼付し表面筋電図を導出した。被検筋は、脊柱起立筋、腹直筋、大殿筋、中殿筋、大腿直筋、半腱様筋とした。また、体表にマーカーを貼付し、デジタルビデオカメラにて姿勢観察を行った。測定回数は各肢位をランダムな順序にて1回ずつ各20秒間測定し、得られた生筋電をサンプリング周波数1000HzにてA/D変換したのち、全波整流化し筋積分値(IEMG)を求めた。データ処理は各筋のIEMGを3秒間ずつ3標本抽出し、平均値を算出した。また、Danielsらの肢位にて各筋における5秒間の最大随意等尺性収縮時のIEMGを測定し、安定した3秒間のIEMGとの比較により各筋の相対的IEMG(%IEMG)を求めた。それらを姿勢と骨盤傾斜の両要因における各筋の%IEMGとして、対応のあるT検定を用いて比較した。
    【結果】姿勢の違いによる比較では、膝立ち位において脊柱起立筋、腹直筋、大殿筋、半腱様筋で立位より%IEMGが有意に高くなった(p<0.05)。また、骨盤傾斜による比較では、骨盤前傾位の脊柱起立筋と骨盤後傾位での大殿筋の%IEMGが有意に高くなった(p<0.05)。
    【考察】膝立ち位は立位と比べ身体重心が前方に位置するため、大殿筋と脊柱起立筋の筋活動が高くなり、さらに骨盤後傾位において努力性の筋収縮を伴うため大殿筋の筋活動が高くなるのではないかと予測した。結果より、予測と同じような筋活動の特性を得ることができ、膝立ち位は立位よりも多くの筋活動を要し、骨盤後傾位で姿勢保持させた方がより大殿筋の筋活動を高めやすい姿勢であることが示唆された。一方で被検者の姿勢保持方法に個人差が大きく、筋活動パターンを分類化することは難しかった。今後はこれらの特性を生かし、膝立ち位における股関節周囲筋促通の有効な訓練方法へつなげていくため、腰椎・骨盤の可動性や身体重心位置の影響も含めて検討していきたい。
  • 体幹筋活動比と大殿筋の筋活動の比較
    木下 一雄, 中村 高良, 中村 香織, 佐藤 信一, 安保 雅博, 宮野 佐年
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 734
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【はじめに】臨床で膝立ち位は股関節周囲筋の訓練に多用されている。しかし、我々が渉猟した限り先行研究ではその有効性を報告したものはない。今回、我々は膝立ち位の筋活動の特性を明確にし、股関節周囲筋の有効な訓練方法を見出すため、安静膝立ち位における体幹筋と大殿筋との筋活動の関係に着目し研究を行った。尚、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。
    【方法】対象は下肢、体幹に既往のない健常者30名(男性12名、女性18名、平均年齢23.73±2.63歳)。測定姿勢は安楽な膝立ち位で両足部間を肩幅・両上肢下垂位・足関節底屈位・股関節回旋中間位とした。測定中は前方の目標点を注視し、20秒間の保持を指示した。被検筋は、脊柱起立筋、腹直筋、大殿筋、中殿筋、大腿直筋、半腱様筋とし、日本光電社製の筋電図機器を使用し、sampling周波数1kHzにて筋積分値を求め、安定した3秒間の3標本を抽出し平均値を算出した。その上で各筋5秒間の最大随意収縮時の筋電図を2回測定し、各回の中心3秒間を抽出し平均を求め、膝立ち位の各筋の相対的IEMG(%IEMG)を算出した。比較検討は脊柱起立筋と腹直筋の%IEMGの比率(脊柱起立筋%IEMG/腹直筋%IEMG)を体幹筋活動比とし以下の3群に任意に分類して行った。体幹筋活動比が0~1未満の比較的に腹直筋の筋活動が優位な群(N=14以下;腹筋・協調群)、体幹筋活動比が1~2.2未満の比較的に脊柱起立筋の筋活動が優位な群(N=9以下;背筋・協調群)、体幹筋活動比が2.2以上で脊柱起立筋の筋活動が特に優位な群(N=7以下;背筋・優位群)とし、3群間の大殿筋の%IEMGを比較した。統計処理は一元配置分散分析を用いた。
    【結果及び考察】3群間において腹筋・協調群、背筋・優位群、背筋・協調群の順で大殿筋の%IEMGは高い傾向を示した。脊柱起立筋、大殿筋は身体重心の前方制動をする。腹筋・協調群は脊柱起立筋の筋活動を抑えることで同じ前方制動筋の大殿筋の活動が高まったと考える。一方、筋活動様式から背筋・優位群は脊柱起立筋の過度な筋活動で体幹を制御し、背筋・協調群は体幹筋の同時収縮で体幹を固定しているため、大殿筋の筋活動が減じたと考える。したがって、主に腹直筋を働かせた体幹の姿勢制御を誘導することが大殿筋の筋活動有効であると示唆されるが、身体重心を後方化し過度に腹直筋を働かせ姿勢固定する場合もあり、姿勢と重心位置の評価を含めて筋活動の特性を検討が必要である。
    【まとめ】安静膝立ち位の体幹筋活動比と大殿筋の筋活動の関係を検討した。腹筋・協調群において大殿筋の筋活動が高い傾向を示した。よって、大殿筋の筋活動を高めるには主に腹直筋を働かせた体幹筋の協調性を誘導することが有効であると示唆された。今後、姿勢と重心位置の評価を加えた測定方法の再検討が課題である。
  • 健常幼児を対象とした3年間の縦断調査
    中野 知佳, 柴 喜崇, 三原 直樹, 坂本 美喜, 佐藤 春彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 735
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】幼児期の背臥位からの立ち上がり動作(以下,立ち上がり動作)は発達に伴い様々なパターンを示すと言われている.VanSantら(1988)は,健常幼児を対象とした横断調査を行い,立ち上がり動作中の上肢,頭部・体幹,下肢の動きに着目した分類の報告をしている.しかし,幼児期の身体機能の発達は個人差が大きいことから,発達に伴う立ち上がり動作パターンの推移をより明確に捉えるためには縦断調査が必要だと考えられる.そこで本研究では,健常幼児の立ち上がり動作に関して3年間の縦断調査を行い,発達に伴う立ち上がり動作パターンの変化を明確にすることを目的とした.
    【対象と方法】対象はA幼稚園に通園中の健常幼児で,年少時(平均月齢46.9±3.9ヶ月)から3年間継続して調査が可能であった18名(男子9名,女子9名)とした.A幼稚園に本研究の内容を十分に説明し,保護者の同意を得た上で,A幼稚園教員の協力を得て行った.調査は2003年から2005年までの9月中旬に1年毎に3回実施した.方法は,右側方と足側から2台のデジタルビデオカメラ(Digital Video Camera Recorder DCR-PC101・SONY社製)を使用し,背臥位からの立ち上がり動作を1人5回ずつ撮影した.2名の検者が撮影したビデオ映像からVanSantの分類を使用して上肢を4パターン,頭部・体幹を5パターン,下肢を4パターンに分類し年齢による身体各部位の動作パターンの推移を調査した.
    【結果】動作パターンの推移として,上肢は18名中9名が年少時に「体の一側での両手押し」を示し,年中時に「片手または左右非対称な両手押し」に変化し,年長時にも同じ「片手または左右非対称な両手押し」を示した.頭部・体幹では18名中6名が年少時に「側臥位までの回旋」を示し,年中時には「わずかな回旋を伴う」に変化し,年長時にも同じ「わずかな回旋を伴う」を示した.下肢では,主に2通りのパターンが見られ,一つは年少時に「両膝または片膝立ち」を示し,年中時は「左右非対称または,支持基底面が広い」に変化し,年長時にも「左右非対称または,支持基底面が広い」を示すものであり,もう一つは年少時に「左右非対称,または支持基底面が広い」,年中時には同じく「左右非対称,または支持基底面が広い」を示し,年長時には「左右対称的,支持基底面が狭い」へ変化したものであった.それらの各パターンは18名中3名で見られた.
    【考察】上肢では18名中9名,頭部・体幹では18名中6名が年少・年中・年長の3年間を通して同じ動作パターンの変化を示した.このことから,健常幼児では上肢,頭部・体幹では発達に伴い,一定の動作パターンを示す傾向があると思われた.しかし,下肢の動作パターンの推移はばらつきが大きく,個人差が大きいと考えられた.
  • 百瀬 公人, 鈴木 克彦, 三和 真人, 伊橋 光二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 736
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】起立動作の運動学的解析は数多くあり、起立に不可欠な動作は膝関節の屈曲、体幹の前傾である。しかし、多くの研究では任意の起立速度で行っており、起立できなかった時の動作と比較して、起立動作に何が必要なのかを推定した研究は少ない。我々は2005年の日本理学療法学術大会で起立動作が成功するには体幹の前傾角度よりも前傾速度が重要であることを報告した。この時の膝関節角度は、起立が困難な伸展位として、体幹の前傾速度の影響をより観察しやすい状態とした。臨床においては起立できない患者に対する指導として、膝関節を十分屈曲し、容易な起立動作を指導することが多いが、膝関節角度の変化が起立を成功させる最低限の体幹の運動速度に与える影響はまだ明らかではない。そこで、この研究の目的は膝関節の屈曲角度を変化させた時の体幹の前後運動速度と前傾角度の変化を明らかにすることである。【方法】被験者は健常な男性7名で、平均年齢20.0±1.0歳、平均身長170.4±4.5、平均体重62.0±7.3kgであった。起立動作の計測には3次元動作解析装置と床反力計を用いた。3次元動作解析の標点は両側の肩峰、股関節、膝関節、外顆、第5中足骨頭に貼付した。得られたデータはコンピュータにて解析し、体幹が鉛直位から殿部が離れるまでの体幹前傾運動中の最大前傾角度、最大前傾角速度、平均前傾角速度などを求めた。計測した起立動作は股関節90度体幹鉛直位の椅子坐位からの立ち上がり動作とした。膝関節角度は屈曲70、80、90、100、120度の5条件とし、できる限り遅い速度で立ち上がるように被験者に指示した。被験者は各膝関節角度でのできる限り遅い起立を十分練習し、起立に習熟した後計測を行った。【結果】各条件下での体幹前傾角度は膝関節の屈曲角度が大きくなると徐々に減少した。一方最大前傾角速度と平均前傾角速度は70度と80度の時に大きかったが、90から120度ではそれほど変化しなかった。【考察】今回の結果から、健常若年男性の起立動作が成功する時の膝関節の角度と体幹の前傾および前傾速度の関係が明らかになった。膝関節伸展位では素早い体重心の前方移動とともに大きな移動距離を必要とする。このことは一方で体幹の前方運動を止めるための急激な減速運動が必要とされ、運動能力の低い患者では起立が困難となる。膝関節屈曲位では体幹の前傾速度の影響は見られず、体幹の前傾角度が起立に大きく影響していると思われる。運動能力が低く体幹の前傾速度を上げられない患者は膝関節の屈曲が必要であることが示唆された。高齢者や障害者では若年健常者とは異なる反応を示す可能性も考えられるので、今後対象を変えた研究も行いたい。【まとめ】起立動作に体幹の運動速度が与える効果について、3次元動作解析を用いて解析した。膝関節屈曲時には体幹前傾角度が伸展時には体幹前傾速度が起立に影響を与えることが明らかになった。
  • 浅井 葉子, 金子 誠喜, 渡辺 寛
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 737
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】第39回日本理学療法学術大会において,椅子からの立ち上がり動作での体幹前傾角度と股関節・膝関節モーメントには関係があることを報告した.今回は立ち上がり動作における骨盤運動が動作の容易性に関わっているか否かに着目し,立ち上がり動作の開始姿勢である坐位姿勢,ならびに殿部離床時での骨盤傾斜角度と動作中の下肢関節モーメントの関係を分析することを目的とした.
    【方法】承認された倫理審査に従って研究の趣旨と内容の説明を行い,参加の同意を得られた健常成人男性10名(平均年齢25.1±5.9歳,平均身長173.8±5.9 cm,平均体重67.8±8.9 kg)を対象とした.三次元動作解析装置(Oxford Metrics社製VICON370)と床反力計(Kistler社製)を用いて,各被験者の大腿が床面と水平になる高さの椅子からの立ち上がり動作の計測を行った.赤外線反射マーカーを被験者のS2と両側の肩峰,股関節,ASIS,膝関節,足関節,第5中足骨に貼付し,動作中の標点位置と床反力データから,下肢関節モーメントと矢状面に投影された骨盤の傾斜角度,矢状面上での身体重心の床面への投影点を算出した.骨盤傾斜角度と下肢関節モーメント,身体重心前方位置の関係についてSPSSを用いて5 %の危険率にて相関分析での検定を行った.
    【結果】坐位姿勢での骨盤傾斜角度と股関節最大伸展モーメントにもっとも相関が認められ(r=0.638),骨盤前傾角度が大きいほど動作中の股関節最大伸展モーメントも増大する傾向にあった.殿部離床時における骨盤傾斜角度と下肢関節モーメントについては膝関節伸展モーメントとの小さな相関が認められた.また,坐位姿勢ならびに殿部離床時の骨盤傾斜角度と矢状面における身体重心位置の床面への投影点位置においても相関は小さかった.
    【考察】本計測の結果から,立ち上がり動作における骨盤前傾運動と身体重心の前方移動との関係は少ないと考えられた.一方,坐位姿勢における骨盤傾斜角度が,立ち上がり動作での下肢関節モーメントに与える影響は股関節伸展モーメントに最も現れており,骨盤前傾角度が小さい場合,股関節伸展モーメントが発揮できないことが明らかとなった.
     坐位姿勢での骨盤前傾角度の減少は股関節伸展筋群の力学的有利性の低下を示す現象の1つと捉えることができる.このような坐位姿勢を呈する症例の立ち上がり動作では,立ち上がり動作中での股関節最大伸展モーメントが減少してしまうため,動作遂行のために膝関節・足関節モーメントが増大し二次的に膝関節・足関節の負担が増大してしまうことが示唆された.
    【まとめ】健常人を対象とした本計測の結果,坐位姿勢での骨盤傾斜角度と立ち上がり動作における股関節伸展モーメントとの関係性が認められた.そのため,立ち上がり動作の獲得には坐位姿勢における骨盤へのアプローチも有用と考えられた.
  • 齋藤 恒一, 畠中 泰彦, 中俣 孝昭, 橋本 裕一, 前田 和寛
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 738
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】円背を呈する高齢者において立ち上がり動作(以下、sit-to-stand;STS)開始時に離臀できない場面が多く見られる。臨床場面においては、体幹前傾を動作の一つとして指導することが多いが、体幹前傾を促してもSTSが自立しないことが多々ある。
     本研究の目的は、STSにおける体幹前傾に着目し、骨盤運動の影響による上・下部体幹の挙動に着目し、股関節の屈曲角度を制限したSTSとを比較検討した。
    【方法】健常成人男性6例(年齢23.1±2.1歳、身長170.9±7.6 cm、体重66.4±6.0 kg)を対象とした。各被験者に十分な説明し同意を得た後、40cmの台上から両上肢下垂位で膝関節90°屈曲位、足関節中間位とした椅子坐位を開始肢位とし、股関節屈曲運動を制限するために両鼠径部に高密度スポンジ(10 cm×5 cm×5 cm)をテーピングにて固定したSTS(以下、制限群)および非固定でのSTS(以下、対照群)の脊柱角度を比較した。脊柱角度は、被検者に赤外線反射マーカーを第1胸椎(以下、T1)、第7胸椎(以下、T7)、第12胸椎(以下、T12)、第3腰椎(以下、L3)、第2仙椎(以下、S2)の棘突起、両側の上後腸骨棘(以下、PSIS)、大腿骨大転子(以下、Hip)、膝外側裂隙(以下、Knee)に貼付し、三次元動作解析装置(VICON PEAK社:VICON612)を用いて、取り込み周波数120Hzで測定を行い、関節の空間座標を計測した。空間座標データより矢状面でのT1・T7・T12のなす角から上部胸椎解剖学的角度(以下、θ1)を求めた。同様にT7・T12・L3から下部胸椎解剖学的角度(以下、θ2)、T12・L3・S2から腰椎解剖学的角度(以下、θ3)、およびPSIS・Hip・Kneeから股関節解剖学的角度(以下、θ4)を求めた。これらから、離殿時期であるθ4の最大屈曲時での各解剖学的角度を求めた。
    【結果】θ4の最大屈曲時での各解剖学的角度の平均は、θ4は対照群42.0°±7.2°、制限群28.3°±9.6°、θ3は、対照群7.4°±5.2°、制限群12.7°±6.0°、θ2は、対照群5.4°±6.0°、制限群11.4°±4.5°、θ1は、対照群12.5°±2.8°、制限群14.4°±4.1°であった。
    脊柱と骨盤運動の関係においては、全被験者6名のうち4名は全脊柱屈曲優位(以下、全脊柱優位)で、残りの2名は下位脊柱屈曲優位(以下、下位優位)のSTSを行っていた。
    【考察】本研究では、健常成人での対照群・制限群のSTSでの体幹動作パターンは、全脊柱優位・下位優位パターンの2つの異なる動作を認めた。前者では、屈曲相が十分でないにもかかわらず伸展相に移行していた。後者では下肢の伸展と体幹の伸展が分離して行われていた。これは、前者では体幹・頭部を分離せず重心の位置を操作している動作を行っていたと推察した。後者では体幹と頭部の分離運動により重心を操作していると考えた。
  • 阿南 雅也, 奥村 晃司, 木藤 伸宏, 新小田 幸一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 739
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
    椅子からの立ち上がり動作(sit-to-stand以下STS)は最も頻繁に行われる動作の1つであるが、高齢者にとってSTSは転倒の危険性が高い動作であると言われている。また、移乗あるいは歩行などの応用動作にも結びつくSTSの獲得は、移動能力を向上させるために欠くことのできない重要な動作であると言える。STSに関して第1報で骨盤運動が減じたSTSでは股関節を軸とした体幹の運動エネルギーを利用することが出来ず、膝関節伸展モーメント優位に行っているのではないかと報告した。その結果を踏まえ、今回は角度・角速度・角加速度の観点から体幹及び骨盤運動と下肢関節モーメントの関係を明らかにすることを目的として異なる角度から解析を行い、新たな知見を得たので報告する。
    【方法】
    被験者は中枢神経系の既往歴がなく、上肢を使用せずに下腿長の高さの椅子からSTSが可能な高齢者14名、平均年齢82.1 (79~87)歳であった。標点とした頭頂及び左側の耳珠、肩峰、最下肋骨下縁、上前腸骨棘、上後腸骨棘、大転子、膝関節裂隙、外果、踵骨隆起、足趾先端にマーカーを貼付し、矢状面上の標点の動きをSanyo社製デジタルビデオカメラKRD2004により30フレーム/sで収録した。その動画を画像解析ソフトNIH Imageを用いて標点座標を求め、座標データより身体重心座標と各分節角度を算出した。更に2基のアニマ社製床反力計G-620を用い、STS時の臀部及び足部の圧中心座標と床反力鉛直成分をサンプリング周波数30Hzにて測定した。これらのデータは光刺激を用いて同期させ、各関節軸まわりの関節モーメントの時系列変化を計算した。また、体幹及び骨盤の角度・角速度・角加速度と下肢関節モーメントとの相互相関係数を算出した。
    【結果】
    14名のうち11名(H群)は離臀後から動作終了までを股関節伸展モーメント優位で、残り3名(K群)は膝関節伸展モーメント優位でSTSを行っていた。H群とK群をMann-Whitney’s U検定により危険率5%にて比較した。K群はH群に比し全動作時間の大きい傾向、離臀時の骨盤前傾角度の小さい傾向、膝関節伸展モーメントの大きい傾向が認められた。K群はH群に比し膝関節伸展モーメントと骨盤角加速度との相互相関係数の小さい傾向が認められた。
    【考察】
    膝関節伸展モーメント優位のK群では、股関節を中心とした骨盤前傾運動が減じたために体幹の運動エネルギーを利用することが出来ず、膝関節伸展モーメント優位のSTSをしていると示唆される。つまりSTSではとくに骨盤運動が下肢関節モーメントに影響を与えており、骨盤前傾が減じたSTSでは骨盤-下肢の運動連鎖機能不全が生じ、離臀後に膝関節伸展モーメント優位になり膝関節の安定化機構の破綻が確認できた。
  • 身長と膝関節屈曲角度制限との関係から
    青柳 秀城, 鈴木 正則
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 740
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】端坐位からの立ち上がり動作においては、膝関節屈曲制限は次の支持基底面である足底部が坐面に接近することを制限し、離殿時より後方への回転モーメントが全身に作用し動作の完遂を妨げる要因となる。その際の代償的な運動として体幹前傾動作をより早く大きく行うことがよく観察される。体幹より発生し全身へと波及する前方への角運動量を増大させることで、後方への回転モーメントに対抗する方略をとっているものと推察できる。その際、同一の坐面高においては、同一の膝関節屈曲制限角度であっても身長によって力学的影響が異なってくることが予測される。本研究は、端坐位からの立ち上がり動作において、代償的な体幹前傾動作が生じ始める膝関節屈曲制限角度を身長から予測することを目的に行った。
    【方法】対象は健常成人15名(平均年齢27.4±5.2歳)とした。測定は40cm台上端坐位より、異なる膝関節屈曲角度に設定した姿勢からの立ち上がり動作を行い、三次元動作解析装置(MotionAnalysis社)による体幹前傾角速度及び最大前傾角度の解析を行った。踵が床面から離れないことを条件とした膝関節最大屈曲角度から、伸展位方向へ5°刻みで膝関節屈曲角度を設定し、それぞれの設定角度にて3回ずつ測定を行い、各被験者毎に体幹前傾角速度、及び前傾角度の増大による代償動作が生じ始める膝関節屈曲角度を求めた。代償動作が生じ始める膝関節屈曲角度と身長との関係について回帰分析を行い、40cm高の坐面からの立ち上がり動作において体幹前傾動作による代償動作が生じ始める膝関節屈曲制限角度を身長から導き出すための回帰直線を求めた。
    【結果】踵が離れずに可能な膝関節最大屈曲角度から徐々に膝関節角度が伸展位に設定されていくに従って、各被験者ともある角度から体幹の最大角速度及び前傾角度は増大を示した。回帰分析の結果、身長(X)と体幹前傾角速度の増大が生じ始める膝関節角度(Y)との間に、相関係数r=.529(p<0.05)が得られ、回帰直線Y=28.442+.423Xが得られた。身長(X)と体幹前傾角度の増大が生じ始める膝関節角度(Y)との間に、相関係数r=.454(p<0.10)が得られ、回帰直線Y=34.511+.393Xが得られた。
    【考察】身長と体幹前傾角速度及び前傾角度による代償が生じ始める膝関節屈曲制限角度との間に正の相関がみられたことは、同一の坐面高においては、体幹前傾による代償を必要とせずに立ち上がり動作を遂行するためには身長が高い方がより大きい膝屈曲角度を要する傾向があることを示している。今回求めた回帰直線は、標準的な坐面高からの立ち上がり動作において体幹の代償が生じ始めるおおよその膝関節屈曲制限角度を身長毎に判定する一助になると考えるが、身長の近い被験者間でのバラつきも存在する為、身長以外に代償動作を規定する因子や、体幹前傾以外の代償方略についても、今後検討を重ねる必要がある。
  • 妹尾 浩一, 内山 靖
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 741
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】着座動作は立ち上がりと並び重要な基本動作の1つであり,高齢者や有病者では立ち上がりと比較して難しい動作である.これまでの研究から,着座動作は動作が進行する過程で足圧中心を後方に移動させながら体幹を前傾させ重力による回転モーメントを調節するという,足関節回りに集約された複雑な制御を必要とすることが示された.しかし健常者ではこのような制御は容易に行えるが,体幹や下肢に可動域制限・筋力低下等を有する者では,この制御機構が破綻するため動作の遂行が困難となるものと考えられる.本研究では,足関節背屈と体幹の前屈を制限した場合の着座動作に着目し,着座動作の関節制御とその代償動作機構について明らかにすることを目的とした.
    【方法】対象は健常男性7名(平均年齢23.1±2.2歳)とした.被検者は床反力計の上に乗り,足部を踵骨間距離30cm開脚位で足底全面接地し,両上肢を胸部で組み前方を注視する姿勢とした.検者の合図で着座・立ち上がり動作を交互に任意の速度で各10回繰り返し行い,被検者には「着座時にドサッとならないようゆっくりと坐るように」求めた.計測には3次元動作分析装置(Oxford社製VICON612)を用い,反射マーカを臨床歩行分析研究会の推奨する方法で取り付け,サンプリング周波数60Hzで記録した.計測条件は,1)足関節制動群:金属支柱付短下肢装具で両側の足関節背屈を制限(背屈角度0・10・15度),2)体幹制動群:進行方向前方に衝立をおいて体幹の前屈を制限(踵部から衝立までの距離35・40cm),3)通常動作の3種類とした.測定結果から,通常動作における各指標の値を基準に変化率を求め比較した.足関節背屈角度と体幹前屈角度,各関節回りのエネルギーの関係にはPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%とした.
    【結果】足関節背屈角度と体幹前屈角度の変化率の間に相関係数r=-0.822と高い負の相関関係が認められ,足関節背屈が制限されるほど体幹による代償が大きくなった.また,足関節背屈角度と股関節・膝関節回りのエネルギーの間には,それぞれr=-0.807,0.813と高い相関関係が認められたが,足関節回りのエネルギーとの間には相関関係は認められなかった.
    【考察】着座動作は個人で動作の方略が異なるため各パラメータには固有性がみられるが,変化率の比較では足関節背屈角度と体幹前屈角度,股関節・膝関節回りのエネルギーとの間に高い相関関係が認められた.このことから健常者では,足関節・体幹の制限に対して動作の方略に関わらず,ある一定の代償動作機構が働いて動作を遂行していることが示唆された.また,足関節背屈角度と足関節回りのエネルギーの間に相関関係が認められなかったことからも,足関節の制御はその上で蝶番のように連結されている股関節・膝関節の動きに大きく影響されることが推測され,足関節背屈制限が着座動作の制限因子の1つであることが示された.
  • 永谷 元基, 森 友洋, 牧本 卓也, 中井 英人, 荒本 久美子, 澄川 智子, 林 尊弘, 杉浦 一俊, 佐藤 幸治, 林 満彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 742
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我々は第40回本学会において、3種類のしゃがみ動作を解析した結果、体幹アライメント変化や下肢の負担が少ないことから、一側下肢を後方へずらしたしゃがみ動作が有効であると報告した。一方、術後腰椎疾患患者においては体幹装具を使用し、腰部の動きを制限する。この制限が下肢関節に負担を生じさせるのではないかと考えた。そこで今回硬性体幹装具を装着し、しゃがみ動作の違いが関節角度および下肢関節モーメントにどう影響するか比較検討し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象と方法】対象は、実験の主旨を説明し書面にて同意の得られた、下肢と体幹に既往のない健常青年21名(男18、女3)とした。平均年齢24.1歳、平均身長168.9cm、平均体重63.3kgであった。測定機器は左右独立式床反力計(アニマ社製MG1120)で、三次元動作解析装置(アニマ社製Locus MA6250)を用い右側の肩峰、剣状突起、腸骨稜上縁、大転子、外側上顆、外果、第5中足骨頭の7箇所に赤外線反射マーカーをつけ計測を行った。剣状突起と腸骨稜については、背臥位にて肩峰と大転子を結んだ線とそれぞれの水平面との交点と定めた。被験者は、硬性体幹装具装着にて両上肢が床と平行になるように肘関節伸展位、前腕回内位で挙上、前方を注視し、しゃがみ動作を実施した。しゃがみ動作は、1:両足内側縁が接し全足底を床についた状態から踵を浮かせながら行う(揃え型)、2:右脚前方にて左膝を床について行う(前型)、3:右脚後方にて右膝を床について行う(後型)の3種類とした。前型と後型では動作完了時に内側上顆と内果が接する様歩幅を調節した。検者の合図で動作を開始し、完了まで3秒とし、カメラ2台で撮影した。計測は体幹下肢関節角度、下肢各関節モーメント最大値とした。体幹角度は矢状面で測定し、動作完了時の前型と後型の平均(膝接地型)と揃え型の2群で、下肢各関節モーメントは3群で比較した。統計にはt-検定、多重比較検定を用い、危険率5%未満を有意差有りとした。
    【結果】股関節屈曲角度では、後型は他2型に比べ有意に小さかった。膝関節屈曲角度では、揃え型と他2型に比べ有意差に大きかった。足関節背屈角度では、後型と前型と他2型で有意に小さかった。体幹関節角度において、2群間に有意な差を認めなかった。下肢各関節モーメントにおいて、股関節伸展モーメントは前型、揃え型、後型の順に有意差に大きかった。足関節底屈モーメントは後型が他2型に比べ有意差に大きかった。
    【考察】体幹装具装着時のしゃがみ動作では、体幹角度には差がないものの、股関節屈曲角度において揃え型で有意に大きかった。股関節屈曲角度の増加は骨盤の後傾を生じ、それが腰椎の後を招くため、術後腰椎疾患患者には膝接地型しゃがみ動作が有効だと思われた。
  • 岩本 久生, 金澤 浩, 出口 直樹, 吉田 和代, 島 俊也, 白川 泰山, 浦辺 幸夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 743
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 足関節背屈のストレッチングの重要性の認識は高く、リハビリテーションやスポーツ現場で多く用いられている。今回我々は運動範囲やストレッチングの速度を自由に設定できる足関節自動ストレッチング装置を開発した。本装置を用いて効果的なストレッチングの方法を検討するために、施行角度とストレッチング方法の違いによる差を確認することを本研究の目的とした。
    【方法】 対象は脊柱や下肢に疾患の既往がない20名の健常成人の40肢の下腿三頭筋とした。 ストレッチングと足関節背屈角度の測定には、広島大学と(株)丸善工業が共同で開発した足関節自動ストレッチング装置を使用した。この装置は足部を乗せるステップの運動範囲および底背屈運動の速度をアクチュエーターを用いて左右独立して制御することができるものである。ストレッチングには最大背屈角度とその80%の角度での静的ストレッチングと、この2通りの方法の最終角度から5°減じた運動範囲の間を1°/secの速度で動く動的ストレッチングの計4通りのストレッチングの方法で各6分間行った。4つのプログラムの選択順はランダムに行われ、予備実験で短期的効果の消失する5日間の間隔をあけて実施した。
    【結果】 最大背屈角度で行ったストレッチングは、最大背屈角度の80%の角度よりも有意に足関節背屈角度は改善した(p<0.01)。静的ストレッチングと動的ストレッチングの比較では、80%の角度で両群に差はなかったが、最大背屈角度では動的ストレッチングで静的ストレッチングよりも有意に背屈角度が改善した(p<0.05)。
    【考察】 足関節最大背屈角度を80%以上にして静的ストレッチングを行うと神経筋活動によって伸張反射が起こり可動域の改善が得られないとする報告があるが、本研究では静的でも動的でも、最大背屈角度でストレッチングを行ったほうが有意に可動域は改善した。これは神経筋活動によってストレッチング効果が阻害される以上に筋が伸張される効果が大きかったためであろう。静的ストレッチングでは最大背屈角度を持続すると下腿に疼痛が生じたのに対し、動的ストレッチングでは下腿に疼痛の発生がなかったため、これが背屈角度の改善に影響した可能性も高い。以上のように足関節最大背屈角度で動的ストレッチングを行うことにより、背屈角度の改善に高い効果が得られることが示された。今後はストレッチングの速度を変化させたり、左右交互に動かすストレッチングなどでさらに高い効果が得られるかを検証していきたい。
  • 金澤 浩, 浦辺 幸夫, 岩本 久生, 出口 直樹, 吉田 和代, 島 俊也, 白川 泰山
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 744
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 効果的なストレッチングの方法を確立するためには,ストレッチングによる筋腱の反応を明らかにする必要がある.第40回本学会においてストレッチング中の腓腹筋の反応を解析して報告した.本研究では,ストレッチング終了後に腓腹筋がどのような反応を示すかを,超音波法を用いて解析することを目的とした.
    【方法】 対象は下肢に傷害の既往がなく,スポーツ活動を行っていない健康な成人男性で,本研究の趣旨に同意の得られた12名とした.年齢(平均±SD)は26.7±4.3歳,身長は174.4±4.9cm,体重は69.5±5.5kgだった.方法は,足関節最大背屈角度を計測し,その1週間後に超音波画像診断装置(Power Vision 6000,SSA-370A,東芝メディカル(株))とリニアプローブ(PLM-805AT,8MHz,東芝メディカル(株))を用い,安静立位時の腓腹筋内側頭の超音波画像上で標識点を定めた.標識点は,下腿の近位1/4の高さの深部腱膜(DA)および筋腱移行部(MTJ)の2ヵ所とした.足関節最大背屈角度で20分間のストレッチングを実施し,その後続けて20分間の安静立位をとった.その間,1分毎に超音波画像を記録し,各標識点の移動を画像解析ソフト(ImageJ,NIH)を用いて観察した.本研究では,ストレッチング終了直後を基点(0分)とし,それ以降の変化を解析した.
    【結果】 ストレッチング開始前の安静立位時の標識点の位置を「開始位置」とし,そこから遠位方向への移動を「+」,近位方向への移動を「-」とした.ストレッチング20分後の移動距離は,DAは+9.4±2.0mm, MTJは+11.9±3.7mmであり,MTJの方が大きかった(p<0.05).ストレッチング終了直後は,DAは-7.1±1.1 mm,MTJは-7.3±2.0 mmで,両標識点とも開始位置を超えて近位に移動したが差はなかった.その後,DA ,MTJともに0‐1分と1‐2分で有意に開始位置に近づいた(p<0.05).開始位置に戻るまでに要した時間は,DAは17.3±2.9分,MTJは14.2±2.3分であり,MTJの方が早かった(p<0.05).
    【考察】 ストレッチング終了直後,標識点が開始位置よりもさらに近位に移動したのは,腱組織に伸張が起こったためだと考えられた.腱を構成するdense regular connective tissueは粘弾性を持つことが報告されている.しかし,腱組織の粘弾性が部位により差があるかについては,統一された見解はない.ストレッチング終了直後の位置から開始位置に戻るまでのDAとMTJの反応の違いは,それぞれの組織の粘弾性の違いによるものかもしれない.また,開始位置に戻る前に,更にストレッチングを加えることで,伸張効果を増大させることができるのではないかと考えられた.
  • 玉井 太至
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 745
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】スポーツ場面のストレッチングは、「体調を適切な状態に準備すること」を目的に行われる一手技である。一方、理学療法(PT)では、関節可動域拡大、疼痛軽減、筋短縮改善などを目的に用いる。機能障害に対するPT介入により実現される機能再保有が、身体図式更新の結果ならば、患者の身体図式を基本とした運動イメージ自己生成により身体機能向上が期待できる。PT場面のストレッチングは、身体機能を統合的・包括的に考える上で、[患者自身が拙劣な運動様式を認識し適切な運動習得に注意を払いながら自律的運動を理解し使いこなす]ために[脳に働きかける]という意義から、「身体図式更新の支援者」との位置づけを想定する。身体機能認識下でのストレッチングにより、言語・身体運動表現と自己認識双方の向上促進が期待できる。そこで今回、健常成人を対象に日常時自己身体認識・ストレッチング後認識の状況変化を検討する。
    【対象と方法】対象:健常成人16名(年齢22歳~62歳、平均35.4歳、いずれも上肢に機能障害の既往を認めない)を被験者とし、事前に実験の概要を説明した上、承諾を得た。手順1 被験者は椅座位にて、利き腕の上肢を下垂し肘伸展、前腕回外位を開始姿勢とした。課題は、肘関節の屈伸動作(屈曲は指先の肩接触、伸展は0°位)を行い、自動にて5回連続の実施とした(1試行)。手順2 同側の上腕二頭筋にダイレクトストレッチング実施後に、前述と同内容の課題を実施した(2試行)。それぞれの課題実施後、肘屈伸に関する意見を口述聴取・記録整理した。
    【結果】肘関節屈伸運動に対する表現の1試行目は屈伸表現あり4名(25%)、表現なし12名(75%)。2試行目は、屈伸表現あり4名(25%)、屈曲表現あり8名(50%)、表現なし4名(25%)。感覚別表現の1試行目の表現は7項目にわたり、「何も感じない」8名、「だるい」6名、被検者表現総数21項目。2試行目は19項目で、「動かしやすい」、「かるい」、「痛い」各8名、「だるい」7名、被検者表現総数61項目、以下少数項目(複数回答あり)。部位別表現の1試行目は、表現なし6名、表現あり10名。2試行目は、表現あり16名。
    【考察】健常者日常生活上の肘屈伸動作は、自己認識希少な通常動作とみなされ、ストレッチング後の行為記述詳細化は、自己身体理解向上を意味する。ストレッチングには、日常生活行動に対する意識・確認促進効果、すなわち身体図式更新促進効果と身体図式に基づく運動イメージによる脳活性化促進効果(要獲得機能学習効果)があると考えられる。以上のことから、PT(送手)の[脳への働きかけ作業]と、患者自身(受手)の[自己身体機能特性への留意]に基づいた能動的な[脳への働きかけ]意識下での(送受)協働が実現すれば良好な練習結果が期待できると推察する。


  • 相田 将宏, 飯田 晋, 五百川 威, 古賀 良生, 山本 智章, 田中 正栄, 西野 勝敏, 近 良明, 塩崎 浩之
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 746
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】投球動作は下肢,体幹,上肢へと効率よくエネルギーをボールへ伝達する全身運動である.これは投球能力の指標である球速に反映し,特に体幹運動は投球動作の習熟や球速に大きく関与するとされている.今回,3次元動作解析システムを用い少年野球選手の投球動作解析を行ない,成長期における球速差の要因や投球動作の特徴を検討したので報告する.

    【方法】対象は少年硬式野球チームに所属する右投げ選手35名である.対象を球速の中央値(75km/h)で76km/h以上群(F群,平均83.3km/h)17名,球速75km/h以下群(S群,平均70.2km/h)18名の2群に分けた.投球動作解析は3次元動作解析システム(Vicon 612)とハイスピードカメラを用い,球速はスピードガンで測定した.投球動作を投球開始から非軸脚膝の最高到達時(HK),踏み込み脚接地時(FC),投球肩最大外旋時(MER),ボールリリース時(BR)の4フェーズとし,骨盤・体幹回旋角速度,骨盤・体幹回旋角,骨盤に対する体幹回旋角(捻れ角) ,肘及び手の移動速度について2群間で比較した.また年齢,身長,体重,経験年数も検討した.統計学的分析は対応のない2群間のt検定を用い,有意水準を5%以下とした.

    【結果】F群はS群に比し,FCの体幹右回旋角(F:0.76°,S:-8.81°),右捻れ角(F:28.6°,S:22.9°),MERの体幹左回旋角(F:112.6°,S:94.1°),最大体幹左回旋角速度(F:1055.7°/s,S:976.7°/s),最大肘速度(F:36.7km/h,S:31. 5km/h),最大手速度(F:45.8km/h,S:40.6km/h)が有意に高値を示した.しかしMERの骨盤左回旋角速度(F:177.9°/s,S:290.4°/s), BRの体幹左回旋角速度(F:89.2°/s,S:269.2°/s)は有意に低値を示した.年齢(F:11.2歳,S:9.9歳),身長(F:148.8cm,S:137.2cm),体重(F:41.2kg,S:33.2kg),経験年数(F:3.1年,S:1.8年)は有意に高値を示した.

    【考察】F群ではFCで体幹を右回旋することで非投球方向への回旋運動を高めるための予備動作を形成し,体幹の左回旋速度,肘及び手の移動速度を速めていることが推察された.さらにMERで骨盤左回旋速度,BRで体幹左回旋速度が低下しており,F群はMERから骨盤,体幹の順に減速動作を行なっていた.しかしS群ではMERで骨盤左回旋速度,BRで体幹左回旋速度を速め,ボールリリースまでに骨盤と体幹の減速動作が行なわれておらず,非効率的な投球動作と考えられた.以上のことから成長期における球速の違いは,年齢による身長,体重の発育と経験による投球動作の習熟度として骨盤,体幹,上肢への運動連鎖が関与していることが示唆された.
  • 五百川 威, 飯田 晋, 相田 将宏, 古賀 良生, 山本 智章, 田中 正栄, 西野 勝敏, 近 良明, 塩崎 浩之
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 747
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】投球動作のIn step,Out stepは指導時のチェック項目に挙げられることが多い.今回我々は少年野球選手の3次元投球動作分析を行い,成長期野球選手においてIn step,Out stepの投球動作への影響について検討したので報告する.
    【対象・方法】対象は硬式少年野球チームに所属する11,12歳の右投げ選手20名で,In step群(以下IS,9名)とOut step群(OS,11名)の2群とした.Stepの分類は非軸脚膝の最高到達時の身体重心から投球方向への直線を基準線とし,In stepは踏み込み脚接地時の身体重心が基準線より右側へ偏位する者,Out stepは左側へ偏位する者とした.投球動作の測定はVICON612(計測周期250Hz),ハイスピードカメラ(撮影周期250Hz),床反力計を用いた.球速はスピードガンで測定した.投球動作を投球開始から非軸脚膝の最高到達時(HK),踏み込み脚接地時(FC),投球肩最大外旋時(MER),ボールリリース時(BR)の4局面に分け骨盤・体幹回旋角度,骨盤・体幹回旋角速度,肘と手の移動速度,骨盤・体幹前傾角,身体重心移動量,床反力を算出し2群間で比較検討した.球速,身長,体重,年齢,経験年数も検討した.統計学的分析は対応のない2群間のt検定を用い,有意水準を5%以下とした.
    【結果】体幹前傾角度はFC(IS:6.7°,OS:-0.8°),MER(IS:40.1°,OS:29.9°),BR(IS:42.2°,OS:35.2°),骨盤前傾角度はBR(IS:46.0°,OS:31.0°)とISで有意に高値を示した.身体重心移動量は投球方向に対して左右方向でFC(IS:左方向276mm,OS:左方向345mm),MER(IS:左方向264mm,OS:左方向361mm),BR(IS:左方向261mm,OS:左方向365mm)とOSで有意に高値を示した.床反力の3成分はMERで踏み込み脚後方(IS:0.79N/N,OS:0.67N/N),BRで踏み込み脚右側方(IS:0.09N/N,OS:0.17N/N),後方(IS:0.74N/N,OS:0.61N/N),軸脚上方(IS:0.02N/N,OS:0.08N/N)で有意差を認めた.骨盤・体幹回旋角度,骨盤・体幹回旋角速度,肘と手の移動速度,球速,年齢,身長,体重,経験年数には有意な差はみられなかった.
    【考察】今回の結果でISでは体幹,骨盤前傾角度,踏み込みの力が大きい傾向を示した.しかし球速,最大体幹回旋角速度,肘と手の移動速度には有意差はみられず,この年代においては下肢機能と体幹・上肢機能の連鎖が未成熟であることが推察された。また,OSではFCからBRまで身体重心は左方向への移動を続けており,初期投球動作のstepがその後の投球動作全体に影響を与えることが推察された.
  • 三次元剛体モデルを用いて
    河端 将司, 加賀谷 善教, 柴 喜崇
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 748
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝関節に対するテーピングは,スポーツ外傷の予防や競技復帰後の再発予防等に用いられ,疼痛や膝関節不安定性の改善に効果を示している.一方、テーピングは主観的な効果判定が多く,特に膝関節のテーピング効果を客観的に示した研究は少ない.そこで,今回我々は,動作時の下腿回旋に着目し,下腿回旋に対する回旋制動テーピングの効果について,三次元剛体モデルを用いて定量的に検討した.
    【対象】対象は膝関節に整形外科的既往を有さない健常女性15名(年齢21.6±0.9歳,身長157.0±4.3cm,体重50.7±6.6kg)で,計測肢は全例左とした.なお,ボールを蹴る脚は全例右であった.対象者には本研究の主旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した.
    【方法】三次元動作解析装置にはOPTOTRAK (Northern Digital社製)を用いた.対象者の大腿および下腿に各々6個のマーカーを取り付けた自家製アルミ製カフを装着した.測定項目は片脚スクワット(SQT),20cm台からの片脚着地(LAN)とし,これらの課題を1)テープなし,2)内側スパイラル(2本),3)外側スパイラル(2本)の3条件にて各々1回実施した.回旋制動のために使用したテープは50mm幅弾性テープ(ELASTIKON;Johnson&Johnson社製)で,同一人物がテープの走行や張力を統一して巻いた.内側スパイラルの走行は脛骨粗面の外側から膝内側,膝後面を通り大腿前面に停止させた.テーピング肢位は端座位で膝関節40°屈曲,下腿最大内旋位とした.外側スパイラルは,内側スパイラルと逆の走行で,下腿最大外旋位にて巻いた.マーカーから得られた情報をもとに大腿および下腿の剛体モデルを作成し,大腿に対する下腿の相対的な回旋角度を求めた.
    【結果と考察】静止立位の下腿回旋を0°とした時,外側スパイラルの片脚立位では,下腿外旋15.9±3.5°,内側スパイラルでは内旋12.4±3.8°であった.SQTの最大屈曲までに生じる回旋は,テープなしが外旋2.6±2.3°であった.一方,外側スパイラルでは,外旋15.9±3.5°位から外旋5.1±2.3°まで内旋運動が生じ,内側スパイラルでは,内旋12.4±3.8°位から内旋0.3±2.1°への外旋運動が生じた.最大屈曲での回旋ピークを3群間で比較したところ各間において有意な差がみられた(p<0.05). LANについては,着地直後の回旋において,テープなしが外旋6.9±3.4°位から内旋2.3±5.7°への内旋運動,外側スパイラルが外旋19.1±4.3°位から外旋4.5±6.7°までの内旋運動,内側スパイラルでは内旋7.6±5.2°位から内旋7.3±6.4°までの外旋運動が生じた.着地後の回旋ピークを3群間で比較したところ各間において有意な差がみられた(p<0.001).これらは,テープなしSQTおよびLANの回旋様式と比べて外側スパイラルでは常に外旋側で,内側スパイラルでは常に内旋側で回旋運動が行われていることを意味している.今後は内外反などの影響も考慮して検討していきたい.

  • サッカー選手を中心に
    福原 隆志, 坂本 雅昭, 川越 誠, 赤岩 修一, 櫻井 進一, 加藤 和夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 749
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    スポーツ障害の発生には筋タイトネスが大きく関わっているとされる.サッカーのスポーツ障害には,競技特性上,下肢の障害が多く発生し,その要因の一つとして下肢を多く使用するため,下肢のタイトネスが他の競技と比較して亢進しやすいことが考えられる.本研究の目的は,下肢のスポーツ障害を生じたサッカー選手を中心に,障害側と筋タイトネスの関係について確認するとともに,サッカーと他の競技におけるスポーツ障害の要因について検討することである.
    【方法】
    対象は,2003年4月より2005年8月までに下肢のスポーツ障害によって当院を受診した172名中,初診時にタイトネステストの全ての項目について計測できた男子スポーツ選手56名とした.対象の競技種目はサッカー31名(15.7歳 ±1.8 ),であり,他競技群25名(20.1歳 ±11.1 )を設定した.他競技群の内訳はバスケット・野球各6名,ハンドボール3名,バレーボール・剣道・水泳各2名,ゴルフ・ソフトボール・テニス・陸上(長距離)各1名であった.また,対照群として平成11年群馬県体育協会にて測定した健常スポーツ選手145名(16.3歳±0.73)を設定した.下肢の障害部位の内訳は,サッカーでは膝10名,大腿部9名,足関節6名,下腿・足部各2名,骨盤・股関節各1名であり,その他では膝9名,足関節6名,大腿部5名,下腿3名,股関節1名,足部1名であった.タイトネステストはFFD,SLR,踵臀間距離(BHD)を測定した.各測定項目について,タイトネスが低いほど高得点となるよう1~5点の5段階評価を行った.例として,3点の場合の評価基準はFFDでは0cm~指が全部床につく,SLRでは60~70°,BHDでは0~5cmとなっている.下肢については障害のある側を障害側(p),障害のない側を非障害側(np)とした.
    【結果】
    サッカー群のタイトネステストの平均値はFFDは 2.5±1.1,SLR(p)は2.2±0.9, SLR(np)は2.3±0.8, BHD(p)は2.1±1.0,BHD np)は2.1±0.9であった.他競技群ではFFDは 2.7±1.4,SLR(p)は2.2±1.2,SLR(np)は2.1±1.0,BHD(p)は2.4±1.2,BHD(np)は2.1±1.3であった.対照群ではFFDは 4.6±0.9,SLR(右)は5.1±4.2,SLR(左)は4.6±0.8,BHD(右)は2.6±0.7,BHD(左)は2.6±0.7であった.
    【考察】
    障害を生じて来院した男子スポーツ選手においては,健常スポーツ群と比較し全体にタイトネスが高くなっていたが,障害部位との直接の関連はなかった.全身のタイトネスの亢進が,何らかの障害発生に影響していると考えられた.
  • 大塚 智文, 宮下 智, 伊藤 元治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 750
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は、アイスホッケー選手のトレーニングとしてスリングエクササイズセラピー(以下、SET)を導入している。我々の先行研究では、ローカルマッスル(以下、LM)をトレーニングすることで、視覚入力に対する体幹運動の正確性が増したことを報告した。アイスホッケーは、氷の上という非常に不安定な状況で、相手とのコンタクトや、状況に応じた加減速、切り返しなど、高度なバランス能力が必要である。そこで、LMトレーニングに加え、実際の競技場面を想定したSETによる高度なバランスエクササイズを行っている。本研究では、準備期と試合期にそれぞれ行っているフィジカルテストの結果から、SETによる高度なバランス課題が可能になった者の、体幹と膝の運動の正確性に関して興味ある知見を得たので報告する。
    【対象】関東大学アイスホッケーリーグ1部に所属する部員、男子23名。平均年齢20.2±1.0歳。
    【方法】1.SET課題は、1)立位にてスリングロープを両足にかけ(空中で不安定になる)、両手を放して姿勢を安定させる。2)身体を左にねじる。3)正面に戻す。4)身体を右にねじる。5)正面に戻す事を、上肢を使わないままで試行可能(成功者)か否か(失敗者)判定した。
    2.MRシステム(Index社製MR Low Back Extension IP-M4000)による体幹及び膝伸展運動の筋協調テストを行い、視覚入力に対する運動出力の誤差(運動正確性)を測定した。
     統計処理は、SET課題成功群と失敗群に分類し、t-検定を用いた。また、体幹伸展と膝伸展運動の相関関係を検討した。有意水準はそれぞれ5%とした。
    【結果】1.課題成功者は8名で、体幹運動出力の誤差平均は準備期が9.1±1.8cm、試合期が7.2±2.0cmであった。失敗者は15名、誤差平均は準備期が11.3±3.1cm、試合期が8.9±1.9cmであった。両群とも有意に運動正確性の向上がみられた(p<0.05)。
    2.体幹と膝の相関関係はSET課題成功群において正の相関が認められた(r=0.76、p<0.05)。失敗群ではr=0.11であった。
    【考察】SET課題の成否に関わらず、トレーニングにより視覚入力に対する体幹運動の正確性が増した。これは、先行研究からも示されていたように、LMトレーニングによって体幹の安定性が保証された結果であると考えることができる。また、SET課題成功者の結果から、体幹運動の正確性に連動して膝運動が正確に行われることが必要であるという傾向が示された。これにより、体幹と膝を個別にトレーニングするのではなく、連動させたトレーニングをすることによって、バランス能力の向上に繋がる可能性が示唆された。アイスホッケーでは無意識的に次の動きを予測し、反応するための高度なバランス能力が要求される。SETによって、競技場面を想定したトレーニングを行うことで、体幹と膝の運動を効率的に連動させ、高度なバランス能力を養うことが、パフォーマンス向上に繋がるように更なる検討をしていく。
  • 古川 公宣, 下野 俊哉, 村橋 淳一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 751
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     表面筋電図測定時の皮膚処理は,正確で安定した電位の導出に不可欠な因子と考えられている.国際電気生理運動学会(ISEK)は,表面筋電図測定時の皮膚抵抗を5k(ohm)以下にすることを推奨しているが,これを遵守した旨を記載している論文は数少ない.そこで今回我々は,皮膚の非処理および処理後の両状態における筋出力の相違による筋電図変数(平均振幅,中間及び平均周波数)の変化を測定し,若干の知見を得たので考察を加えて報告する.
    【対象と方法】
     本研究の主旨を理解し,参加に同意の得られた本学男子学生7名(平均年齢22.6±3.8歳,平均身長168.1±7.0cm,平均体重63.7±10.5kg)を被験者とした.
    皮膚抵抗は朝日電器社製ミニテスターKF-1(抵抗計測帯1k(ohm)×1k(ohm))にて計測し,表面電極はMedicotest社製Blue Sensor M-00-S,皮膚前処理剤は日本光電社製スキンピュアを使用した.被験筋を外側広筋として,等速性筋力測定機器BIODEX System3と表面筋電計Noraxon社製TeleMyo2400Tを同期させ,MyoResearch XPのバイオフィードバックモードを使用し,膝関節屈曲60°位での最大等尺性伸展トルクと筋活動電位を導出,得られたトルク値から25,50,75%MVCを算出した.この値に設定した目標線に出力バーを合わせ5秒間維持する課題を皮膚非処理及び処理後の状態で行った.安定した目標トルクが連続して2秒間達成されている間を選択し,この間の平均振幅,中間及び平均周波数を算出し,皮膚処理の有無や出力トルクの違いによる各変数の変化を比較検討した.統計学的検定にはt検定及び分散分析を用い,有意水準は5%以下に設定した.なお,本研究は筆者の所属する施設の研究倫理委員会の承認を得て行われた.
    【結果】
     各筋電図変数とも非処理時(平均抵抗:203.6±325.7k(ohm))より処理後(平均抵抗:5.8±2.8k(ohm))の方が有意に高値を示した(p<0.05).また,筋出力の相違による各変数の変化は平均振幅が皮膚処理の有無にかかわらず,出力の増加に伴い有意に増加したのに対して(p<0.01),中間及び平均周波数は非処理の状態では有意差を示さず,処理後では両値とも75%MVCまで増加し100%MVCではわずかに低下する傾向を示した(p<0.05).またすべての変数において皮膚処理を施行した方が値の偏差が小さくなる傾向を示した.
    【考察】
     皮膚処理はフィルタとしての影響を軽減させて通電性を改善させるため,各筋電図変数は有意に高値を示した.特に周波数分析においては,皮膚処理によって抵抗が減少したことで高周波成分の通過性が改善されたために,値が高値を示したと考えられた.これらのことから,表面筋電図測定を行う際には適切な皮膚処理を行い,抵抗値を確認の上で測定を行うことが必要であると考えられた.
  • 林田 真一郎, 鶴崎 俊哉, 安藤 大輔, 松山 裕, 永瀬 慎介, 平田 恭子, 濱本 寿治, 上野 尚子, 志谷 佳久, 梶木 美絵, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 752
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
     表面筋電図は再現性に問題がある事が指摘されており、これまでは評価としての使用が限定されていた。そこで我々は、表面筋電図による新たな筋活動評価の可能性を探るために、Wavelet変換による周波数解析を用いている。Wavelet変換は、動的な筋電図周波数特性の解析として近年用いられるようになったもので、今回はその再現性について基礎的な資料を得る目的で筋疲労に関する検討を行った。

    【方法】
     対象は本実験の目的を理解し同意を得た健常成人22名(男性14名・女性8名)で、被験筋には非利き手側の上腕二頭筋長頭を選択した。
     方法は、被験筋上の皮膚を十分処理した後、ディスポーザブル電極を全筋長の末梢3分の1に筋線維の走行方向に合わせ電極間距離2cmで貼付し、また肘関節に電子角度計を装着した。実験肢位は壁を背にした直立位で、非利き手側の肩関節屈曲伸展中間位、前腕回外位にて3kgのダンベルを把持し、肘関節屈曲伸展運動のarm curl課題を行わせ、疲労により運動困難となるまで動作を反復させた。実験は1回目から7日の間隔をおいて2回目を行った。
     解析には採取したデータから運動開始時(疲労前)と運動終了時(疲労後)の屈曲相1秒間のデータを選択し、数値解析ソフトMATLAB6.5にてMother WaveletにDaubechies5を用い、分解レベルを5として離散型Wavelet変換を行った。これにより得られる分解レベルiにおけるエネルギー密度の総和PD(i)、分析範囲内のエネルギー密度の総和TPw、PD(i)とTPwの比をRPD(i)として用いて算出し、1回目と2回目の疲労前後でそれぞれを比較した。統計処理には統計用ソフトウェア(SAS社製Stat View5.0)を用いて、分散分析および多重比較を行った。

    【結果】
     TPw、RPDは、1回目と2回目の運動開始時、1回目と2回目の運動終了時において、いずれも有意差は認められなかった。TPwは、1回目、2回目ともに筋疲労に伴って有意に上昇した。

    【考察】
     1回目と2回目のそれぞれの運動開始時、運動終了時において、TPwおよびRPDには有意差は認められず、Wavelet変換による周波数解析の再現性が示唆された。またTPwは、今回のような比較的軽度の負荷を与えた場合、筋収縮に動員されている運動単位数が反映されているものと考えられており、1回目、2回目ともに筋疲労によるTPwの有意な増加が認められた(p<0.05)。今後、各種トレーニング等により、周波数にどのような変化があるのかを検討し、理学療法の効果判定に結び付けたい。
  • 西原 賢, 河合 恒, 二見 俊郎, 井上 和久, 田口 孝行, 久保田 章仁, 丸岡 弘, 磯崎 弘司, 藤縄 理, 原 和彦, 高柳 清 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 753
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
     筋電図は検出するときに使われる電極の種類によって大きく針筋電図と表面筋電図に分けられる。針筋電図は局所の運動単位の活動電位を限定的に検出することが可能であるが観血的であるので理学療法には適さない。そこで、波形処理方法を工夫することで運動単位の活動電位の分布を推定する方法を模索した。
    【方法】
     筋の運動単位は筋線維のタイプなどにより筋線維伝導速度(MFCV)がばらついている。MFCV算出のために開発した正規化ピーク平均法(NPAT)を応用して運動単位活動電位の分布の推定を試みた。被験者の肘屈曲の最大等尺性肘屈曲運動の50%を持続的に行わせた。筋電図記録としでは双極アレイ電極の5対を用いた。被験者1人あたり4つの双極表面電極筋電図を直接計算機のハードディスクに保存した。データ分析としては、各1分ずつ記録した筋電図データを5秒毎に区切って処理をした。NPATとして、基準平均パルスと比較平均パルスを算出してから次の2つの方法で算出した。
     P法:基準平均パルスと比較平均パルスのピークによる遅延時間の算出
     CC法:基準平均パルスと比較平均パルスの相互相関による遅延時間
     なお、これらの算出方法の詳細については、昨年の本学会で報告した。
     平均パルスの合成による運動電位活動電位の推定として、基準平均パルスを基にして比較平均パルスの合成を試みた。この際、比較平均パルスに含まれているパルスを2グループに分け、1グループがより遅延時間が大きい(伝導速度が遅い)と単純に仮定した。両グループのパルスの割合を変化させながら比較平均パルスを合成した。そして、合成された比較平均パルスと基準平均パルスとの関係からP法とCC法のそれぞれの方法でMFCVを算出した。
    統計処理として、NPAT値の比較やMFCVの変化の評価にはt-検定を用いた。
    【結果】
    P法とCC法は殆どの区間において有意な差が認められた。全ての処理法において1分間の持続運動により有意なMFCVの低下が認められた。平均パルスの合成では、グループ2の割合が増えることでCC法 による遅延時間は大きくなったが、P法による遅延時間は変化しなかった。
    【考察】
     MFCVが運動の時間経過と共に有意に減少していることは筋疲労を評価する時において客観的な指標になれることが考えられた。P法で算出したMFCVはCC法で算出したMFCVより部分的に大きな値であった。全被験者を通じてMFCVの値が大きい方に運動単位が集中して分布していることが考えられた。P法とCC法を比較することでMFCV値の分布に偏りがあるかどうかが推定できる。これは筋疾患において、筋疲労により比較的正常なMFCV値の低下を示す筋線維とMFCV値がかなり激しく低下する異常筋線維が入り混じった場合の筋線維を分離して推定できる可能性を示唆する。
    【まとめ】
    本法は、運動療法などと合わせて筋機能の評価を定期的に行い、治療効果を確かめられる一方法になる可能性がある。
  • 永瀬 慎介, 鶴崎 俊哉, 平田 恭子, 濱本 寿治, 上野 尚子, 林田 真一郎, 志谷 佳久, 梶木 美絵, 西村 仁美, 安藤 大輔, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 754
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
     Wavelet変換(以下WT)は非定常信号波形の時間‐周波数解析法として用いることが可能である。WTを表面筋電図に用いることにより、筋線維タイプ別の筋活動評価が可能になると考えられている。これまでWTにより高い周波数帯域の筋活動はFast Twitch(以下FT)線維の活動を反映し、低い周波数帯域の筋活動はSlow Twitch(以下ST)線維の活動を反映していることを示唆してきた。今回すでに筋線維組成が報告されている筋の筋活動について、WTを用いて筋出力変化と周波数変化の関連を検討し知見を得たので報告する。

    【方法】
     対象は健康な成人男性7名、被験筋には利き側の上腕二頭筋(以下BB)・上腕三頭筋(以下TB)、軸足側の前脛骨筋(以下TA)・腓腹筋(以下Gas)・ひらめ筋(以下Sol)を選択した。測定肢位は背臥位とし、被験筋上の皮膚に十分な前処理を施した後、電極間距離2cmにてディスポーザブル電極を貼付した。測定は肘関節屈曲・伸展・足関節背屈・底屈の各運動に対して等尺性収縮となるように徒手抵抗を加え、メトロノームを用いて運動開始から3秒かけて最大筋収縮となるように指示した。筋電図データはマルチテレメーターシステム(NIHON KOHDEN製)を用い、サンプリング周波数1kHzにてパーソナルコンピューターに取り込んだ。解析は採取したデータから筋収縮開始より3秒間を選択し、科学技術計算ソフト(MathWorks社製 MATLAB6.5およびWavelet Tool Box)にて0.5秒分のデータずつDaubechies5、分解レベル5で離散Wavelet変換を施行した。得られたパラメーターは統計用ソフトウエア(SAS社製Stat View5.0)を用いて分散分析および多重比較を行った。

    【結果】
     時間別に各筋の活動する周波数帯域を比較したところ、2.0秒から2.5秒のデータに有意な差が多く見られた。またその間の筋活動電位は各筋ともにほぼ最大値を示していた。この中で周波数レベル別に筋活動を検討すると、高い周波数帯域を示すレベルではBB・TBの割合が低く、低い周波数帯域は割合が増す傾向となった。TA・Gas・Solについてはいずれも高い周波数帯域では割合が高く、低い周波数帯域になるにつれて割合が減少する傾向であった。一方、Gasについては解析した中で最も低い周波数帯域での割合が他の筋よりも有意に高値を示していた。

    【考察】
     最大筋収縮時においてBB・TBとTA・Gas・Solでは異なる周波数状況を示したのはBB・TBはST線維の割合が46.4%・32.6%、TA・Solでは73.0%・87.7%という筋線維組成の違いによるものと考える。GasにおいてST線維は48.9%とTA・Gasより低いのだが、これについては筋力や筋断面積を含めた比較検討していきたい。
  • 加藤 浩, 尾崎 千万生
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 755
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】 近年,厚生労働省の指導により医療機関は在院期間短縮の流れにあり,理学療法も効率よく行う必要性がある.しかし,現状をみると科学的根拠に基づいた理学療法サービス(運動療法)が十分提供されているとは言い難い.そこで今,理学療法士に必要なことは,日々の臨床で行われている運動療法の効果を客観的に評価し,そのエビデンスを1つ1つ蓄積し,情報発信していくことである.客観的評価法の一つとして表面筋電図(EMG)は有効な手段である.しかし,EMGは機器が高価で,日本においてはリサーチベースで使用されていることが多く,クリニカルベースで実践的に使用されていることは少ない.そこで本研究の目的は,安価でかつ簡便な臨床普及型の筋の量的・質的筋機能評価システム機器を開発し製品化することである.
    【方法】 市販のバイオフィードバック用の2chポータブル表面筋電図MyoTrace(Noraxon社製)を利用し以下の開発を行った.
    <インターフェースの開発>
    MyoTraceの出力部(ステレオミニ)から筋電図信号を2ch及び,外部からトリガー用(予備)信号として1chの計3ch分のアナログ信号を市販のPCカード(interface社)でAD変換しパーソナルコンピュータに取り込めるようにした.
    <モニタリングソフトの開発>
    取り込まれたデータはモニタリングソフトで原波形及び,解析波形を1画面上で観察できるようシンプルなデザインで作成した.特徴は以下の通りである.
    1.短時間フーリエ変換を用いた時間周波数解析(筋の質的評価)及び,積分筋電図解析(筋の量的評価)を組み込み,解析結果のリアルタイム表示を実現した.
    2.解析結果は,視覚的に見やすいように棒グラフ化し,積分筋電値(IEMG)と平均周波数(MPF)を左右に並べて表示した.これにより筋活動の量的・質的評価が一目で確認可能.
    3.時間分解能は目的の動作に応じて,1秒,0.5秒,0.25秒,0.125秒の4パターンで切り替え可能.
    4.解析データ(IEMG,MPF)及びEMG生データはCSVファイルで保存可能.
    5.CSVファイルは表計算ソフト「Excel」で読み込み可能で,マクロ機能によりグラフ作成等のドキュメンテーション機能を持たせるようにした.
    【本研究成果の特徴】
    1.低価格化の実現により,多くの病院勤務の若手理学療法士を中心に,クリニカルベースで広く使われるようになることが期待される.
    2.ポータブルEMG(電池で可動)の使用により,訓練室中心の使用から病棟,屋外,在宅での使用とその使用範囲の応用は格段に拡大することが期待される.

    本研究は平成16年度財団法人岡山県産業技術振興財団大学発新事業創出促進事業委託研究,平成17年度特別電源所在県科学技術振興事業委託健康事業「健康サポートシステム構築のための基盤技術研究」,そして,財団法人中国技術振興センター産学官連携シーズ育成事業から採択を受けた産学連携プロジェクトの一部である.

  • Wavelet変換による解析を用いて
    上野 尚子, 鶴崎 俊哉, 永瀬 慎介, 平田 恭子, 濱本 寿治, 林田 真一郎, 志谷 佳久, 梶木 美絵, 西村 仁美, 安藤 大輔, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 756
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【はじめに】
     Makeテスト(以下、MT)Breakテスト(以下、BT)は、ともに等尺性収縮であるが、その発揮力が異なる。前者は、随意的に最大筋力を発揮する場合であり、後者は外力に抗する形で関節肢位を保持しながら最大筋力を発揮する場合を指す。MT-BTのトルクにおける有意差については報告されているが、どちらの方法で筋力の発揮を促すほうが効率的であるのか、また発生要因や特性については明確でない。そこで我々は、最大収縮付近の筋力が主にインパルスの発射頻度により制御されているということから、周波数において何らかの変化があるのではないかと予測し、Wavelet変換による解析を用いて筋電図学的方面から検討を行った。

    【方法】
     被検者は、20代の女性10名を対象とした。計測には、ロードセルと電動シリンダーを用いた実験機器を作成し行った。検査肢位は、背臥位、肩関節外転90度、肘関節屈曲90度、被験筋は右上腕二頭筋とした。被験筋上の皮膚に、ディスポーザブル電極を貼付し、肘関節屈曲のMTおよびBTの計測を行った。MT計測では5秒間最大筋力を発揮するよう指示した。BT計測では5秒間で1cm突出するよう電動シリンダーを設定し、その機械的抵抗に対して保持するよう指示した。筋活動とトルクの記録には生体計測システム(エヌエフ回路設計ブロック社製ディジタル生体アンプシステム)を使用し、サンプリング周波数1kHzにてノート型パーソナルコンピューターに取り込んだ。採取したデータからMT、BTにおいて最大トルク発揮前後1秒間のデータを選択し、科学技術計算ソフト(MathWorks社製MATLAB6.5およびWavelet Tool Box)を用いて、表面筋電図の信号波形を高周波成分から抽出、分解していく離散Wavelet変換を行い、Daubechies5で5段階のレベルに分解した。各レベルのWavelet係数を二乗和し、レベルのパワー密度(Pw)と全レベルのPwの和の総パワー密度(TPw)を求め、TPwに対する Pwの比(RPD)を算出した。以上をパラメーターとしてStatviewを用いて統計処理(分散分析および多重比較)を行った。

    【結果と考察】
     得られたBTの最大トルクは、MTを基準とすると5%上回る結果となった。また、離散Wavelet変換の各パラメーターにおいてMT-BT間の有意な差はみられず、予測とは異なる結果が得られた。徒手的抵抗によるMT-BTの先行研究において、BTはMTを約20%上回ることが報告されている。本研究ではBTの最大トルクが十分に上昇しておらず、このため周波数において大きな変動がなかったものと考える。トルクが十分に上昇しなかった原因としては、抵抗が徒手的であるか機械的であるかの違いや電動シリンダーの速度などの要因が推測でき、今後の課題にしたい。
  • 五嶋 佳子, 今石 喜成, 岩佐 親宏, 梅津 祐一, 志波 直人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 757
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】リビリテーションにおいて筋力の評価はスポーツ障害・疾患の評価に不可欠である。また、動作を適切に反復・持続させ、より質の高い動作を可能とするためには、筋自体の筋持久力が必要とされる。上肢を使用した動作において手関節背屈筋は手関節の保持に重要である。今回我々は、手関節掌屈・背屈筋の持久特性を客観的に評価するために両側橈側手根屈筋(以下屈筋)、長・短橈側手根伸筋(以下伸筋)に対して表面筋電図を用いて中央周波数(Median Frequency、MF)と平均周波数(Mean Power Frequency、MPF)解析による筋疲労解析を行った。
    【方法】被検者は健常男性28例、年齢18から27歳(平均21.3±2.5歳)を対象とした。本研究は被検者が十分な説明を受けた後、十分な理解の上、被検者本人の自由意志による同意が得られた後、実施した。評価測定は筋力測定装置CYBEX6000を用いて手関節0°に固定し背屈および掌屈を3回行い、等尺性最大随意収縮力を求め、この値を基準値とした。基準値の50%強度運動負荷で手関節掌屈および背屈の等尺性運動を60秒間持続し、両側屈筋、伸筋の筋活動をホルター筋電計ME3000Pにて測定した。測定した生波形をマイクロコンピューターに転送し、付属の解析ソフトでパワースペクトル解析を行い、MFおよびMPFの経時的減少率を算出した。
    【結果】屈筋と伸筋の最大随意収縮力に差はなかった。筋疲労解析の結果、MFとMPFは疲労進行に伴い減少し、屈筋に比べ伸筋の低下が小さく疲労が少ないことが示された。
    【考察】疲労の進行に伴い筋電周波数は低域にシフトし、直線的に低下することが知られている。伸筋と屈筋のMFとMPF減少率を比較した結果、屈筋に比べ伸筋の減少率が小さかった。これは日常生活において手関節屈筋は把持動作など短時間の収縮が多く、伸筋は手関節を保持するために持久性が必要とされるためであると考えられる。周波数減少率は筋線維タイプ分布と相関すると考えられている。Type1線維はミトコンドリアが多く酸化系酵素を多く含むために有酸素的代謝が活発に行われる。その結果、筋収縮に必要なATPの供給が十分に行われるので疲労しにくい持久的な筋である。一方、Type2線維はグリコーゲン顆粒や解糖系の酵素を多く含む。このため高いパワーを発揮できるが疲労しやすいという特徴がある。今回の結果より伸筋は屈筋に比べType1線維の比率が大きく、酸化系酵素の活性も高いと考えられる。
    【まとめ】手関節掌屈・背屈筋の持久特性について表面筋電図を用いて筋疲労解析を行った。その結果、最大随意収縮力に差はなかったが、筋疲労解析において屈筋は伸筋に比べ持久力が低下していた。これらの結果より、伸筋は屈筋に比べType1線維の比率が大きく、酸化系酵素の活性が高いことが示唆された。


  • 中殿筋筋線維に着目して
    梅木 駿太, 駒場 章一, 建内 宏重, 太田 善行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 758
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
    効果的な筋力強化を行うには,筋線維走行と運動方向の一致が原則である.しかし筋力強化の方法論をめぐる報告は,負荷のかけ方や頻度に関するものが多く,筋線維走行など微細な筋構造と運動との関係やその重要性について論じる研究は散見される程度である.
    本研究は,同一の筋に対して異なる運動方向への抵抗を与え,筋電図学的に筋線維の走行と筋活動との関係の検証を目的とした.

    【方法】
    対象は健常男性6名(平均年齢25歳)で,検討した筋は解剖学的に一つの筋に分類されてはいるが,いくつかの筋線維の走行を持つ,中殿筋(前部・中部・後部線維)とした.
    測定を行う股関節外転動作は,Danielsらが考案した徒手筋力検査法の中殿筋に対する肢位(以下中殿筋MMT)と,その肢位に股関節内旋(以下内旋位外転),外旋(以下外旋位外転),および屈曲(以下屈曲位外転)を加えた4肢位から,最大等尺性収縮時における整流平滑化筋電図(rectified filtered electromyogram:以下RFEMG)を導出した.
    比較検討値に関しては,中殿筋MMTでのRFEMG値を基準に,各動作の筋線維毎における筋活動の割合(以下%RFEMG)を求め,その差異を検証した.

    【結果】
    内旋位外転での%RFEMGは前部線維で79.8%,中部線維で90.9%,後部線維で114.8%であり,外旋位外転ではそれぞれ75.6%,77.4%,108.0%,屈曲位外転では61.7%,65.9%,111.1%と,いずれの外転動作においても後部線維の活動が高い傾向を示した.また,各線維内における%RFEMGには統計学的な差は認められなかった.

    【考察】
    股関節外転動作を主働する中殿筋は,形態的に異なる筋線維走行が存在し,その機能分化があると考えるのが妥当と思われる.今回の実験結果からも後部線維に共通した高い筋活動が認められ,実施した外転動作は後部線維が有意に機能していると捉える事もできる.しかし,後部線維は大殿筋を始め,協同的に作用する筋群が隣接しており,筋活動特性とするには問題があり,研究手法の再考点と考えている.
    また,各線維内の筋活動に有意差が認められなかった点に関しては,短絡的に線維毎の機能分化がないと捉えず,筋活動量と筋出力を同期させ検討することや,針筋電計を用いて限局した筋活動の導出に取り組むなど、必要に応じて筋形態の違いと筋機能とを結びつけたさらなる検討が重要と考えている.

    【まとめ】
    健常男性6名を対象とし,中殿筋前部・中部・後部線維に対して異なる運動方向への抵抗を与え,筋電図学的に筋線維の走行と筋活動との関係の検証を目的に行った.結果,各線維内における統計学的な差は認められなかったが,前部・中部線維と比べ後部線維は高い活動傾向を示した.しかし研究手法にも再考の余地があり,今後も筋の機能分化に関して検討をすすめたい.
  • 中村 綾子, 内 昌之, 新井 義朗, 勝又 泰貴, 牛込 伸行, 大国 生幸, 地原 千鶴, 原田 孝
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 759
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】加齢に伴う脊柱の変化には一定の傾向があり、多くは頭部の前方変位や胸椎後彎の増強など脊柱変形を伴った前屈姿勢を呈し、支持基底面における足圧中心(以下COP)は前方に変位する。立位での随意的な重心移動能力は加齢と共に低下し、特に支持基底面後方における重心移動能力の低下は著しい。今回我々は立位におけるCOP移動能力と脊柱彎曲度、下肢関節角度との関連について調査し、若干の知見を得たので報告する。

    【方法】対象は、整形外科的・神経学的疾患を認めない健常成人5名(男性4名、女性1名、平均年齢29.8歳)とした。重心動揺計(G5500:アニマ社製)を用いて安静立位時と随意的な重心前後移動時における前後方向へのCOP移動長を測定し、踵部からのCOP位置と最大振幅の足長比(前方・後方移動能力)を算出した。運動課題は全足底接地した状態での体幹の前後屈とし、0.25Hzの電子音に合わせて前後方向への体重移動を行った。脊柱の彎曲測定はスライディングゲージ(竹井機器製)を用いて安静立位における後頭隆起~仙椎の棘突起直上での彎曲を測定し、山口らの手法により頸部、胸部、腰部の彎曲度を算出した。下肢関節角度は肩峰、大転子、膝関節裂隙中央、外果、第5中足骨頭にマーカーを貼付して側方からデジタルカメラで撮影し、画像解析ソフトで矢状面での股関節・膝関節・足関節角度を算出した。筋力はハンドヘルドダイナモメーター(酒井医療社製)で等尺性収縮における足関節底屈、背屈筋力を測定し、足長比を算出した。統計学的分析はSPSS ver. 10.0J によりSpearmanの相関係数を用いて2変量の分析を行い、優位水準を5%とした。本研究ではヘルシンキ宣言を遵守し、全被検者に詳細な説明を行った上で書面を以って承諾を得た。

    【結果ならびに考察】COPの移動能力は前方0.80±0.05、後方0.17±0.05であった。COPの最大前後振幅は平均0.63±0.08であった。脊柱の彎曲度は、頸部141.96±3.55°、胸部161.26±9.36°、腰部155.83±7.28°であった。下肢関節の平均角度は、股関節-0.99±33.31°、膝関節3.93±1.76°、足関節5.33±0.47°であった。筋力は、足関節背屈7.79±1.66N/cm、足関節底屈14.48±1.90N/cmであった。各測定値間における関連性では、頸部前彎度とCOP前方移動能力(r=-0.98,p<0.01)、胸部後彎とCOP前後最大振幅(r=-0.98,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。以上より健常成人では頚椎・胸椎の彎曲が強いほどCOP移動能力に優れ、足関節筋力との関連性は認められなかった。本研究の限界はサンプルサイズが小さかった点と、脊柱の可動性・体幹筋力を比較できなかった点であり、今後の検討が必要と考えられた。
  • 万治 淳史, 新田 收
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 760
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】福祉用具のなかで特に導入率が高いものに手すりであり,生活のあらゆる場面で活用されている.ところで高齢者がどのように手すりを利用しているのか,若年者との比較において分析した報告は少ない.今回我々は,重心の移動軌跡の特徴を曲率という側面から分析することにより,高齢者起立動作の特徴を明らかにすることを目的とした.
    【方法】若年群10名(男性5名,女性5名,平均19.9歳(19-22),身長平均164.0cm(sd6.9))、高齢者群11名(男性5名・女性6名,平均73.7歳65-93),身長平均144.6cm(sd17.36))を分析対象とした.実験は被験者に内容を説明し同意を求めた,尚本研究は首都大学東京の倫理審査の承認を得て行った.被験者の頭頂・肩峰・上腕骨外側上顆・橈骨茎上突起・第二中手骨頭・上前腸骨棘から大転子を結んだ線上2/3・大腿骨外側上顆・腓骨外果・第五中足骨頭にマーカーを貼付し,VICON360を用い周波数60Hzにて試行中の各指標の座標を計測した.各指標から各肢節の重心点を算出,各肢節の体重比より全身の身体重心位置を算出した.前後・鉛直方向の2成分で表された重心軌跡をもとに0.17sec(1/6sec)単位での曲率を算出、同計算を60Hzにて繰り返し,動作中の曲率の変化を算出した.得られたデータより1動作中の最大曲率の値と,記録された時間を記録した.なお曲率は曲線上で2点をとり,2点間の距離を限りなく縮小した時,曲線上2点における2本の接線のなす角度と2点間の距離の商で表される.今回距離因子を補正する目的で各被験者の身長を150cmに補正し,曲率の算出を行った.また時間因子については立ち上がりの開始を0,終了を100と補正した後、曲率最大値が示された点を記録した.試行は被験者の膝窩高に設定した台から前方に固定したピックアップウォーカーを両手で把持しゆっくり立ち上がりを行うよう指示した.分析は各試行によって得られた曲率最大値と,最大値を記録した時間(曲率最大点)について若年・高齢者の2群間で独立したサンプルのt検定により比較した.有意水準はP<0.05とした.
    【結果と考察】
    曲率最大値について、曲率最大値(若年)0.025(sd0.0079)、曲率最大値(高齢)0.018(sd0.0060)と若年群が高齢者群に対し優位に大きい値を示した(P<0.05)。また、曲率最大値を示した時間について、最大点平均(若年)23.69%(sd6.37)、最大点(高齢)15.74%(sd7.61)と若年群が有意に大きい値を示し(P<0.05)、立ち上がりにおいて有意に遅く最大曲率を示すことがわかった。以上の結果から高齢者群では手すりを用いた立ち上がりの重心の前方移動と上方移動の要素の切り替わりが不明瞭となっているのが示唆された.
  • 水澤 一樹, 対馬 栄輝, 石田 水里, 上原 毅, 小野 寿子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 761
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】立位バランスの評価として重心動揺が測定されることは多い.しかし,重心動揺には計測するパラメータが様々あり,どれを以てバランスとしているか,また臨床的に使用されるバランス検査と関係しているかは明確ではない.臨床的に使用されるバランス検査を行わせた時の重心動揺を計測し,それぞれの検査ごとにパラメータがどのような傾向を示すか把握することを目的とした.
    【対象】健常成人24名(男性14名,女性10名)とした.対象の平均年齢は24.8±6.5歳,平均身長は164.6±6.8cm,平均体重59.5±10.4kgであった.
    【方法】計測条件は臨床的に使用される開脚立位,閉眼立位,閉脚立位,Mann肢位,片脚立位,爪先立ち,椅子からの立ち上がり後,Step立位(前・横),Functional Reach Test(FRT)時,外乱負荷,振向き動作,Cross Test(縦・横)とし,重心動揺計はアニマ社製GS-3000を使用して10秒間計測した.すべて裸足で行い,指標は用いずに上肢は体側に下垂させた.閉脚立位,Mann肢位,片脚立位,Step立位以外は10cm開脚とした.Mann肢位でどちらの足を前にするか,片脚立位をどちらの足で行うかは任意とした.爪先立ちは少しでも踵が床から離れればよいとした.Step立位はModified Step Test(橋立ら,2004)に準じて行った.FRTは最大リーチ時を10秒間保持させた.外乱負荷は支柱に紐で吊り下げた重りを45°の高さから自由落下させ,被験者の後方から加えた.振向き動作とCross Testはメトロノームを使用して行った.計測パラメータはLNG,SD-Y,SD-X,ENV.AREA,REC.AREA,RMS.AREA,SD.AREAとした.計測条件ごとに相関係数を求め,因子分析によって特徴を検討した.
    【結果】開脚立位,閉眼立位,Step立位(横)は各パラメータ値が小さく,Mann肢位,片脚立位,振向き,Cross Testは各パラメータ値が大きい傾向にあった.パラメータの相関はほとんど強かったが,Step立位(前)や外乱負荷では弱い傾向が見られた.因子分析(バリマックス回転)の結果,片脚立位,椅子からの立ち上がり後,Step立位(前),外乱負荷,Cross Test(縦)は2因子に分けられたが,その他は1因子しか抽出されなかった.
    【考察】パラメータが2因子に分けられた片脚立位,椅子からの立ち上がり後,Step立位(前),外乱負荷,Cross Test(縦)の重心動揺は,少なくとも複数のパラメータに注目する必要があると考える.パラメータが1因子だったものは,いずれか代表的なパラメータで比較できると考える.ただし,今回は健常者のみを対象としたため,今後は疾患を有する者と比較する必要がある.
  • 大日向 純, 斉藤 繁幸, 永井 秀樹, 時永 広之, 佐藤 香緒里
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 762
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
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    【目的】
     体幹機能は座位保持のみならず、安定姿勢を通して上肢の自由な運動を保証している。また、骨盤との協調性は歩行の安定性・歩容に強い影響があると報告されている。このように理学療法において体幹機能の重要性が指摘されているが、治療指向的な評価法は少ない。腰椎骨盤リズムのように骨盤と上部体幹の協調性については報告されているが、このような協調性の評価法も少ない。今回我々は、バランスクッション(以下BC)を用いて体幹協調性の評価法を考案した。この評価法と片脚立位の重心動揺との関連性について調査し、BC上での座位の評価方法としての可能性を検討した。
    【方法】
     対象は若年健常女性で利き足に整形疾患、腰部疾患がなく、体幹、下肢各関節の関節可動域に著明な制限のない93名とした。体幹・下肢の筋力低下、平衡機能・表在・深部覚の問題による影響を排除するために、体幹・下肢のMMT、マン検査、単脚直立検査、眼振、足底の二点識別検査、音叉による振動覚検査を行い、これらに問題のある者は除外した。BC上での座位姿勢は、床から足部が浮いた状態で胸の前で腕組みをし、BC上で端座位保持を行った。座位が不可能または体幹動揺が著しい群(座位不安定群)と、端座位保持が可能でBC上での骨盤移動が可能な群に分けた。座位が安定した群の中から無作為に抽出した20名(座位安定群)と、座位不安定群全員とに対して片脚立位での重心動揺を計測した。Zebris社製のWin PDMを用い、利き足での片脚立位を開眼にて30秒間計測した。計測項目は重心動揺の外周面積(cm2)、と総軌跡長(cm)とした。統計処理は対応のないt検定を用い、危険率は5%未満をもって有意とした。
    【結果】
    対象者93名のうちで座位不安定群の者は14名であった。座位安定群においては、片脚立位時の重心動揺の外周面積は16.07±6.0cm2、総軌跡長は127.61±55.04cmであった。座位不安定群では、外周面積は28.65±9.72cm2、総軌跡長は139.94±25.40cmであった。両群の間で、外周面積において有意な差を認めた(p<0.01)が、総軌跡長においては有意な差は認められなかった。
    【考察】
     座位安定群と座位不安定群の間で片脚立位において重心動揺の外周面積にて有意な差を認めた。このことから、BC上の座位能力が高いほど、片脚立位姿勢が安定していることが示唆された。総軌跡長では有意な差は認められなかったが、これは、バランス保持に対する反応の応答速度、姿勢方略の方法の違いによる影響があると推察され、今後の研究課題と考える。
     BC上座位は、通常の座位姿勢に比べ支持基底面が狭くなり、かつ座面も不安定であることから、骨盤の運動に上部体幹が対応することが必要となり、上部体幹と骨盤の協調性が要求される運動であると考えられる。
  • 中安 健, 伊東 元
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 763
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】動作を獲得する過程の問題点に、本人が行っているつもりの動作が実際に意図した動作と異なることがある。本研究では、立位バランスや歩行能力の改善を目的とする荷重動作に着目した。そして、ある荷重目標値に対して主観的に片足に荷重を行わせ、荷重動作における荷重目標値と実際に荷重した荷重値(荷重知覚)とのずれを分析した。
    【方法】課題は、対象者がある荷重肢位において、ある荷重目標値を主観的に右足に荷重し、目標値を荷重したと感じたら合図をしてもらい、そのときの右足の荷重値を測定した。荷重肢位は、足を左右に開く側方肢位と、右足を前にして前後に開く前方肢位とし、目標値は体重の25%、50%、75%とした。各課題はランダムに、1課題は3試行測定した。測定は床反力計(Kistler社製) を用いた。荷重値は、垂直方向の床反力成分を体重で正規化した。各課題の3試行の平均値を求め、そこから目標値を引いた値を目標値より過剰・過少に荷重する大きさを示す変数とし、各課題を比較した。荷重肢位を2水準と目標値を3水準の2要因の分散分析を行った。下位検定はBonferroniの検定を用いた。有意水準は5%未満とした。本研究は本学倫理委員会の承認を受け、対象者は測定前に書面と口頭にて本研究の内容を説明し同意を得た、健常成人14名(平均年齢24.4±3.1歳、全て右利き足)とした。
    【結果】目標値より過剰・過少に荷重する大きさの比較では、荷重肢位と目標値との間に交互作用を認め、各要因の単純主効果を分析した。その結果、目標値の50%における前方肢位(平均-2.8%)と側方肢位、(平均-0.2%)との間、目標値の75%における前方肢位(平均-11.1%)と側方肢位(平均-1.1%)との間に有意な差を認め、それぞれの目標値において、前方肢位が側方肢位に比べ目標値より低い値を示した。目標値の25%における前方肢位(平均-0.3%)と側方肢位(平均-0.2%)には有意な差は認めなかった。前方肢位においては、75%が25%および50%との間に有意な差を認め、前方肢位の75%が他の課題と比べ目標値より低い値を示す結果となった。
    【考察】先行研究では、1)前方肢位で前側足に10%から30%を荷重する場合、目標値より過剰に荷重する 2)前側足に70%以上の値を荷重する場合、過少に荷重することが報告されている。今回の結果では、前方肢位の75%課題は他の課題に比べ、荷重値が目標値より少ない値を示す課題であることは先行研究と一致する。一方、前方肢位の25%課題では、目標値より過剰な値を示さない点と前方肢位の50%課題は目標値より過少な値を示す点は先行研究と異なった。荷重動作の中で、前方肢位で、前側足に後側足より多く荷重する課題は、知覚している荷重値よりも実際は過少に荷重している特性があることが明らかとなった。
  • 甲斐 義浩, 村田 伸, 村田 潤
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 764
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】下肢機能を定量的に評価することの必要性は言うまでもない。しかし、一般的に下肢機能を定量的に評価するための機器には高価なものが多いことや、設定方法が複雑であることなど実用的とは言いがたい。我々は先行して体重計を用いた下肢荷重力の測定を行い、その測定値の再現性および妥当性を報告した。しかし、その下肢荷重力が示す測定値の基本的なメカニズムは明らかにされておらず、その測定値が何を表す指標なのかが明確ではない。本研究では、下肢筋力と坐位保持能力を定量的に評価し、下肢荷重力値との関連を明らかにすることによって、下肢荷重力値が示す測定値の意義について検討した。
    【対象および方法】対象は健常成人31名(男性12名・女性19名)、平均年齢20.4歳±0.6、平均身長163.5cm±8.8、平均体重57.3kg±8.8であった。対象者には本研究の趣旨と内容について十分説明し同意を得た上で行った。測定方法は治療台に端坐位をとり、足底に体重計を置いた状態で治療台端と膝窩部間を拳一個分空け、その状態で体重計を垂直方向に最大努力下で3秒間押してもらった。測定は左右2回ずつ行い、左右の最大値を合計して下肢荷重力(kg)とした。下肢筋力は、左右の大腿四頭筋についてハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を用い、被検者を坐位、膝関節90°屈曲位として等尺性収縮筋力を左右2回ずつ測定し、その最大値を合計して大腿四頭筋筋力(kg)とした。坐位保持能力の測定法は昇降ベッドに端坐位をとり、ベッド端と膝窩部間を拳一個分空け足底が床面に接触しない坐位とし、両上肢は体幹前方で組み、身体を正中位に保持するよう指示した。被検者の上腕部に側方からHHDを当て、坐位を保つことができる限界まで押した。測定は左右2回ずつ行い、左右の最大値を合計して、坐位保持能力(kg)とした。なお、すべての測定値は体重で除し標準化した。抽出された、下肢荷重力と大腿四頭筋筋力および坐位保持能力との関連性をピアソンの相関係数を求めて検討した。
    【結果】対象者の下肢荷重力は50.8kg±12(体重比88.8%±16.5)であった。大腿四頭筋筋力は52.3kg±16.8(体重比91.1%±24.3)、坐位保持能力は20.6kg±4.4(体重比35.8%±4.5)であった。下肢荷重力と大腿四頭筋筋力(r=0.46,p<0.01)および、坐位保持能力(r=0.66,p<0.01)の間に正の相関が認められた。
    【考察】今回、下肢荷重力と大腿四頭筋筋力および坐位保持能力との間に有意な正の相関が認められた。簡易下肢機能評価としての下肢荷重力には、大腿四頭筋筋力の関与が示唆された。また、下肢機能のみならず坐位保持能力との関連性も示されることから、市販体重計を用いた下肢荷重力測定は、体幹および下肢機能の複合力として捉える事ができ、体幹・下肢の複合的な評価となり得る可能性が示唆された。
  • 装置使用時の循環器系に及ぼす影響について
    甲田 宗嗣, 鶴見 隆正, 川村 博文, 辻下 守弘, 岡崎 大資
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 765
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/29
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は第40回日本理学療法学術大会にて,OG技研製の外乱刺激装置である水平揺動運動装置の試作機について,表面筋電図を用いて本装置使用時の下肢筋活動を分析し報告した。その報告の中で,装置の床面が前後方向に水平移動する外乱刺激に対し,殿部筋は持続した筋活動を示し,下腿の筋は床面の前後移動に合わせた周期的な筋活動を示すことを明らかにした。本装置の臨床応用に先立ち,今回の研究では装置使用時の安全面に着目し,本装置による外乱刺激が特に血圧や脈拍という循環器系に及ぼす影響について分析することにした。また,下腿の筋が外乱に合わせた周期的な筋活動を示すことから,本装置使用により下腿の血流改善に効果があるのではないかと推察し,下腿の血流量と皮膚温についても分析することにした。
    【対象と方法】 対象は循環器系に疾患のない健常女性9名,平均年齢は33±9.4歳であった。方法は,本装置の前後方向外乱刺激に対し5分間起立し,外乱起立前後における血圧,脈拍,下腿部血流量,下腿部皮膚表面温度を計測した。外乱は,装置の床面を前後方向に2.2Hz周期で10cm水平移動させることにより生じさせた。外乱起立中は転倒予防のため手すりを軽く把持した。血圧及び脈拍はデジタル自動血圧計(オムロン製HEM-762)を用い,立位にて上肢下垂位で測定した。皮膚血流量は半導体レーザー血流量計(Advance製ALF21R)を用いFLOW値[ml/min/100g]を計測し,皮膚表面温度は生体温度計(Unique Medical製PTW-100A)を用いて計測した。左腓腹筋外側頭部にプローブを貼付することにより血流量と皮膚温度を計測し,得られたデータはAD変換ボードを介してサンプリング周波数10Hzにてパソコンに取り込み,生態情報解析ソフトBimutas2(キッセイコムテック製)にて解析した。解析はRMS積分により波形を平滑化した後,30秒間の平均振幅値を算出した。
    【結果】  血圧平均値の変化では,外乱起立前が132/85,外乱起立後が126/82[mmHg]であり,脈拍平均値では82から81[回/分]であり,血圧・脈拍共に有意差はみられなかった。皮膚血流量は1.7から9.4[ml/min/100g]に有意に増大し(p<.001),皮膚温は29.8から31.8[°C]へと変化し,増大の傾向(p=.08)を示した。
    【考察】 本装置使用前後の比較では,健常成人女性において血圧および脈拍に有意な増減は確認されず,循環器系への負荷という観点から安全であることが確認された。また,周期的な筋活動により下腿部の皮膚血流量が増大することが明らかになった。血流改善に伴い,皮膚表面温度が上昇する傾向にあり,姿勢制御のための筋活動を促すとともに,特に下肢のコンディショニングに効果があるものと示唆された。
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