理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 後期高齢者のトレーナビリティー
    新井 武志, 大渕 修一, 小島 基永, 西澤 哲, 松本 侑子, 稲葉 康子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者が介護が必要な状態に陥ることを防ぐには、生活習慣病を予防するだけでは十分ではないことが指摘されている。特に後期高齢期には、生活習慣病の予防よりも老年症候群の予防に重点を置くべきである。中でも、運動器の機能低下を防ぐことが重要である。ところが、一般に75歳を過ぎた後期高齢者、特に80歳、90歳ともなれば、筋力トレーニングをはじめ、運動介入に対するトレーナビリティーは低いと考えられ、高負荷のトレーニングは危険であり、無理をしていけないと言われる。しかし、その根拠となるデータは少ない。そこで、本研究では高齢者筋力向上トレーニングの身体機能改善効果に関して年齢の影響があるのか検討した。
    【方法】対象は、平成16年度に東京都内の自治体で高齢者筋力向上トレーニング事業に参加した地域在住高齢者276名であった。平均年齢は75.3±6.5歳で、最高齢は99歳であった。対象者は個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニングを3ヶ月間行った。運動介入の前後に最大歩行速度、Timed Up and Go、開眼・閉眼片足立ち時間、ファンクショナルリーチ、握力、膝伸展筋力、長座位体前屈などの身体機能測定を行い、各体力要素の改善効果(改善量・改善率)の平均値について、前期高齢者と後期高齢者の差をt検定を用いて比較した。さらに改善効果と年齢との関係を単相関およびステップワイズ法を用いた重回帰分析にて検討した。本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。
    【結果】前期高齢者と後期高齢者の比較において、改善量・改善率に有意差が認められた項目はなかった。また、改善効果と年齢に相関関係が認められたのは、握力( r = -.13, P < .05)とファンクショナルリーチ( r = -.18, P < .01)の2種目だけであった。重回帰分析の結果も同様に、握力およびファンクショナルリーチのモデルにおいてのみ年齢が有意な説明変数となった。それ以外の身体機能測定項目では、年齢と改善効果との間に関係は認められなかった。
    【考察】解析の結果、年齢が改善効果と関係しているのは握力とファンクショナルリーチのみであった。しかし、有意な負の相関が認められた項目でも、その相関係数の絶対値は小さくその関係性は小さいといえる。今回運動介入に用いたプログラムは、理学療法士や運動指導員がチームで関わり、集団プログラムではあるが評価に基づいて個別プログラムを組んで実施するものであった。このように、専門家が個別性を配慮して行う運動介入であれば、年齢に関係なく効果が期待できるものと考えられる。
    【まとめ】運動介入の効果を考えるとき、年齢単独の影響は少ないことが示された。年齢が高くなると運動プログラムの効果が小さくなるとは言い切れない。
  • 漸増・漸減運動と出力率の違い
    竹林 秀晃, 宮本 謙三, 八木 文雄, 宅間 豊, 井上 佳和, 宮本 祥子, 岡部 孝生, 滝本 幸治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【はじめに】日常生活における種々の動作は,神経系が筋出力を微妙な調節にて行われている。そのため,課題に応じて合目的に筋出力を発揮する能力が必要であるが,筋出力の調節能力の評価は殆ど行われていないのが現状である。筋出力調節能力はGrading mechanismといわれ,神経―筋の協応性が必要である。そこで今回は,視標追従する筋出力調節課題を出力率と漸増・漸減運動の違いにおける特性を知ることを本研究の目的とした。
    【対象】対象は,健常成人10名(男8名,女2名,22.1±4.6歳)であった。なお,対象者には実験前に本実験の主旨を説明し、同意を得た。
    【方法】測定動作は,椅坐位にて膝関節90度屈曲位での膝伸展等尺性運動である。まず,100%MVCを筋力計測解析装置(フロンティア メディック)にて2回計測し,最高値を採用した。運動課題は,最大筋力の20・40・60%MVCの筋出力に5秒間で達する漸増運動と逆に20・40・60%MVCの筋出力保持から5秒間で0%に達する漸減運動を、あらかじめPCの画面上に提示している力線図を追従する視標追従課題の2種類とした。なお,各運動課題は,数回の練習後,各条件をランダム2回ずつ試行した。また,被検者には,主観的運動感覚の内省報告をさせた。
    データ処理は,異なる出力率間の比較のため得られた応答出力を100%MVCで正規化し,各目標値が100%MVCとなるように100/20・100/40・100/60倍した。追従能力の評価は,目標出力と応答出力の誤差面積と標準誤差を求めた。統計学的分析は,分散分析と多重比較Fisher’s PLSD法を用いて解析した。
    【結 果】二元配置分散分析の結果,出力率と運動様式の要因において漸減運動の方が有意に追従能力の低下を示す傾向にあったが,交互作用での相殺効果が認められた。一元配置分散分析における多重比較を行った結果,20%漸減運動において最も追従能力が低い結果が得られた。また,被検者の内省報告からも結果とほぼ一致するような表現がみられた。
    【考察】筋出力調節課題は,情報の入力・出力過程における神経―筋のCoordinationの評価として重要であると思われる。また,本実験での視標追従課題は,あらかじめPC上に力線図が描かれており,feedforwardによる運動制御の正確さも評価していると考えられる。結果は,20%漸減運動において最も追従運動の困難性を示した。これは,筋出力時より筋弛緩時の方が,脳血流量が増加する報告や運動単位の特性などが関与しているものと考えられる。つまり,異なる出力率・運動様式では、それぞれの運動制御特性が異なり,神経系コントロールの違いを示唆している。このことから,こうした筋出力調節のメカニズムを知り,トレーニングに応用することも必要であると思われる。
  • fNIRS研究
    森岡 周, 杉村 修平, 松尾 篤, 小田桐 匡, 富永 孝紀
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】運動制御過程において認知課題を要求すると、小脳の活動が増加することが判明している(Kim,1994)。この課題には体性感覚に基づく弁別行為が用いられることが多い。例えばGaoら(1996)は、四つの球体のうち一つだけ異なる大きさを弁別する課題において、小脳歯状核に有意な活動増加を認めている。しかしながら、この課題は一方の手で球体を把持し、他方の手でもう一つの球体を把持し、両者の違いを判断させたものであり、この照合には記憶過程が必要ない。記憶過程が必要な弁別ならば大脳皮質、特に前頭葉の活動が増加することが考えられる。本研究では、物体の大きさ弁別に基づく認知的な運動制御過程における前頭葉の活動を機能的近赤外分光法(fNIRS)によって明らかにする。
    【方法】実験参加者は右利きの健常成人14名(平均年齢21.4歳)である。全ての参加者に対して本実験の説明を行い参加の同意を得た。課題は目の前の物体(縦5.4cm×横5.4cm×高さ3.3cmのプラスティック容器)を何も考えず、利き手にて閉眼で掴む課題(課題A)と、物体を5回繰り返し掴み、その中で一つだけ大きさの異なる物体(縦5.4cm×横6.7m×高さ3.3cm)を弁別する(何番目に掴んだ物体であったかを課題終了後に聴取する)課題(課題B)とした。なお、掴みの開始肢位は母指と中指を最大限に開いた位置とし、検者の合図と同時に、母指と中指の対立運動を行い、物体を約3秒間把持した後、再び物体から離し、開始肢位に戻すよう参加者に求めた。脳酸素動態測定には近赤外分光法装置(島津製作所OMM-3000/16)を用いた。光ファイバフォルダを前頭-頭頂部を覆うように装着し、それら領域の動態を測定した。測定開始前は安静状態を保ち、酸素動態が落ち着いた時点から測定を開始した。なお、測定は防音室で行った。脳活動の解析には、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)を用い、各々の条件のピーク振幅を求め、統計処理(paired t-test)した。有意水準は5%未満とし両側検定を使用した。また、MRI三次元重ね合わせソフト(fusion imaging)を用いてマッピングを行った。
    【結果】課題Bにおいて、左運動前野領域のoxyHbの有意な増加を認め(p<0.05)、14名中11名でそれら領域の増加がみられた。左前頭前野背外側部にも増加を認めたが、有意ではなかった。
    【考察】左運動前野領域に有意な増加を認めた結果は、経験による運動記憶に基づいて生成された期待される運動感覚と求心性感覚情報を照合し、差異を検出ている過程の脳活動(Stoeckel,2003)を示していると考えられる。最近、求心性フィードバック情報は体性感覚野のみならず運動前野等の運動関連領野で処理されることが明らかされており(Naito,2004)、運動前野が実行された運動結果が期待どおりであるかを検証するといった認知的な運動制御の機能を担っていることが考えられた。
  • 大野 善隆, 後藤 勝正
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋細胞に対して温熱刺激を負荷すると、筋肥大が生じる。これまで、あらかじめ筋組織(細胞)に対して温熱刺激を与えてからトレーニングすると筋肥大が促進し、逆に負荷除去に伴う筋萎縮を軽減することが明らかになっている。さらに、廃用性筋萎縮からの回復も温熱刺激により促進されること、また、温熱刺激のみで筋肥大が引き起こされることも明らかになっている。したがって、これらのことから筋肥大に有効な温熱刺激を与えることは、筋力低下の予防や筋力増強につながると考えられるが、温熱刺激がどのようなメカニズムで筋肥大を引き起こすか未だ明らかでない。筋肥大には筋衛星細胞の活性化が関与していると考えられているが、その活性化機構は明らかとなっていない。一方、心筋の肥大においては、nuclear factor-κB(NF-κB)の活性化が関与しているとの報告がある。NF-κBの活性化は、interleukin-1β(IL-1β)、interleukin-6(IL-6)、tumor necrosis factor-α(TNF-α)、granulocyte/macrophage-colony stimulating factor(GM-CSF)などのサイトカインを誘導し、これらのサイトカインが心筋や平滑筋の肥大を引き起こすことが報告されている。しかしながら、NF-κBやこれらのサイトカインと筋衛星細胞の活性化ならびに温熱刺激による骨格筋肥大の関連性は明らかでない。そこで本研究は、温熱刺激による筋衛星細胞の発現量ならびにサイトカインの発現について検討し、温熱刺激による骨格筋肥大におけるサイトカインの関与を明らかにすることを目的とした。
    【方法】実験には7週齢のWistar系雄性ラットを用い、温熱負荷群および対照群の2群に分類した。温熱負荷(38~41°C)後、1、3、7および14日後両群のラット後肢よりヒラメ筋を摘出した。ヒラメ筋の筋湿重量、筋乾燥重量、筋水分量、筋タンパク量ならびにNF-κB、IL-1β、IL-6、TNF-α、GM-CSFの発現量を測定した。また、筋衛星細胞の挙動を免疫組織学的手法により評価した。
    【結果】温熱負荷7日後、ヒラメ筋の筋質重量、筋乾燥重量ならびに筋タンパク量の有意な増加が認められた(p<0.05)。しかし、両群の筋水分量に差は認められなかった。ヒラメ筋におけるサイトカインの応答は一様でなく、サイトカイン毎に異なる経時的変化を示した。また、温熱負荷により筋衛星細胞の一過性の活性化が認められた。
    【考察】温熱負荷によって引き起こされる筋肥大には、サイトカインと筋衛星細胞の活性化が関与していることが示唆された。このことは、局所的な温熱刺激で全身的な筋肥大効果を得られる可能性が示すものと考えられた。
  • 内山 靖, 臼田 滋, 吉田 剛, 橋立 博幸, 桒原 慶太, 樋口 大輔, 浅川 育世, 松田 梢, 小澤 佑介, 篠原 智 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】国際生活機能分類の理念に基づき,障害の構造を広くとらえることによって理学療法全体の目的と効果を明確にすることが可能となる。本研究では,様々な疾患や病態に適用となる実用的な評価指標を確立するための基礎資料を得ることを目的とし,あわせて機能障害の指標であるバランスと全身持久性が疾患非特異的な評価指標として有用であるかを検証した。【方法】対象は,協力の得られた9施設で理学療法が施行され文書による説明によって同意が得られた者とした。検査項目は,信頼性と妥当性が報告されている指標のうち,疾患や病態に強く依存しないと思われる指標を選択し,一部は筆者らが修正・作成した。参加・活動として,人間関係,Life Space Assessment(LSA),Instrumental ADL,Functional Independence Measure(FIM),機能障害としてFunctional Movement Scale(FMS),筋力・可動域・感覚を含んだImpairments Scale(IS),臨床的バランス試験(CBT),全身持久性尺度(GES),全身状態,環境因子としてソーシャルサポート(SS),住環境,個人因子としてアパシー尺度(AP),コーピング尺度(CS),SF-8を用いた。計測・調査結果とともに所要時間を記録し,基本統計,指標間の相関(Spearman)分析を行った。【結果および考察】有効なデータが得られたのは168人(男性77,女性91)で,平均年齢は65.5±17.0(18~96)歳であった。虚弱高齢者11人,骨・関節系疾患57人,神経系疾患85人,内部障害15人が含まれていた。検査の所要時間は,参加5.7分,活動(実行状況と能力)7.2分,機能障害20.4分,環境因子5.7分,個人因子11.8分の合計50.8分で,機能障害が全評価の40.2%を占めていた。機能障害の指標のうち,CBTとGESはいずれも短時間での判定が可能で,5段階の尺度に比較的均等に分布していた。CBTは,SSを除く全ての項目と有意な相関があり,FMS:0.69,FIM(実行状況):0.53,IADL:0.53の係数であった。また,虚弱高齢者ではLSAとFIM,骨・関節系疾患ではAP,内部障害ではIADL・AP・FMSでより高い係数を示した。GESは,SS,CSを除く項目と有意な相関があり,FMS:0.65,FIM(実行状況):0.63,IADL:0.53の係数であった。また,虚弱高齢者では天井効果が大きく,骨・関節系疾患ではいずれの項目とも係数が低く,内部障害ではIADL,LSA,SF-8で高い係数を示した。【結論】疾患非特定的な包括評価を行うことで障害構造の全体と疾患特異的な側面とを明確にすることが可能で,バランスと全身持久性は疾患を問わず有用な評価指標であった。
  • 法田 奈津子, 黒木 裕士, 桑原 郁, 山口 将希, 岡 徹, 榊間 春利, 小林 雅彦, 中川 泰彰
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々が調べた家兎膝関節軟骨硬度の加齢変化は2006年のOsteoarthritis&Cartilageに掲載された。軟骨変性を予防する理学療法を検討するためには加齢の影響を理解する事が重要であることから、今回は軟骨と軟骨下骨の厚さ、および軟骨細胞数を調べた。

    【方法】所属大学動物実験委員会の承認を得て、3週、8週、24週、48週および120週齢の5群からなる日本白色家兎20羽(各群4羽)で研究を行った(承認番号 Med 04202)。安楽死後に家兎から左右の膝関節を取り出し、脛骨平原の内側中央部(MTP)、同外側中央部(LTP)、大腿骨内顆(MFC)、同外顆(LFC)の4部位から標本を採取した。標本を7日間中性フォルマリン固定後、3週間10%EDTA脱灰し、脱水後パラフィン包埋した。包埋標本から6μm厚の横断切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色およびサフラニンO染色を行い検鏡した。4部位の軟骨と軟骨下骨の厚さ、および軟骨細胞数を調べた。切片はすべて3人の著者が確認した。計測データに左右差がないことを確認後、1元配置分散分析法および多重比較(Sheffe法)で5群を比較した.

    【結果】軟骨の厚さには有意差を認めた(P < 0.05)。3週、8週、24週、48週および120週の各群のLTPの厚さはそれぞれ458μm、546μm、498μm、727μm および 999μmであった。MTPでは それぞれ675μm、884μm、870μm、1136μm および 1350μmであった。LFCではそれぞれ845μm、369μm、263μm、352μm および 433μm、MFCではそれぞれ825μm、507μm、541μm、527μm ならびに 784μmであった。軟骨下骨の厚さに有意差はなかった。軟骨細胞数には有意差を認めた(P < 0.05)。3週個、8週個、24週個、48週個および 120週の各群の軟骨細胞数は、LTPではそれぞれ191個、153個、137個、123個および 188個であった。MTPではそれぞれ249個、208個、179個、152個および 165個であった。LFCではそれぞれ322個、136個、84個、86個および 104個、MFCではそれぞれ376個、171個、129個、101個ならびに 126個であった。LFCとMFCでは、軟骨の厚さと軟骨細胞数は有意な正の相関が認められた(P < 0.01)。

    【考察】軟骨の厚さには脛骨側と大腿骨側で部位差がある。脛骨側では3週で薄く、120週で厚い。これに対して大腿骨側では3週で厚かった軟骨がその後薄くなり、再び120週でやや厚くなる。単位厚さ当たり軟骨細胞数は3週で多く(0.37&#12316;0.46)、120週で低下する(0.12&#12316;0.24)。こうした加齢変化の報告は我々の知る限り皆無である。

    【まとめ】ヒトと家兎は異なるが、本結果は高齢動物では軟骨損傷からの回復ポテンシャルが低下していることを示唆している。理学療法でも留意すべきエビデンスであると考える。
  • 五十嵐 絵美, 浜田 純一郎, 秋田 恵一, 魚水 麻里
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】前鋸筋を支配する長胸神経が麻痺し、翼状肩甲骨が生じる事がよく知られている。またこの筋に機能不全が生じると、肩甲骨周囲の痛みや違和感、挙上困難を訴える患者がいる。この研究の目的は、長胸神経を構成する頸椎神経根と長胸神経の走行、前鋸筋の上部・中部・下部筋束の神経支配と形態を調査し、長胸神経麻痺のメカニズムと前鋸筋の機能解剖を明らかにすることである。

    【対象と方法】解剖学実習用屍体5体10肩(男性3体、女性2体、平均年齢82.4歳)を対象とした。前鋸筋の上部筋束は、第1, 2肋骨から起始し肩甲骨上角(以下上角)に停止する部位、中部筋束は2, 3肋骨から起始し肩甲骨内側縁に停止する部位、下部筋束は第4肋骨以下に起始し肩甲骨下角(以下下角)に停止する部位とした.長胸神経の走行を頸椎神経根レベルから追跡し、中斜角筋貫通の有無とその末梢の神経走行、各筋束の頸椎神経根支配を調査した。さらに各筋束の機能的役割を構造と走行方向から評価した。

    【結果】長胸神経は,第5頸椎神経根(以下C5), C6, 7で構成される例が8肩、C4, 5, 6, 7が2肩であった。C5は6肩で中斜角筋を貫通していた。C7が中斜角筋を貫通する例はなかった。上部筋束の複数神経支配は10肩中8肩であり、C5単独支配は2肩のみであった。中・下部筋束はC6, 7神経根支配が8肩であった。上部筋束は前方へ、中部筋束は前側方へ、下部筋束は下部になるに従い前下方に走行していた。肩甲骨を除くと、前鋸筋は菱形筋、肩甲挙筋と一体になっていた。

    【考察】C5が中斜角筋を貫通する頻度は60%で、同部が神経障害部位になりやすい。この結果から、急性外傷やスポーツにより中斜角筋貫通部で神経麻痺になり、翼状肩甲骨が生じる可能性が示唆された。上部筋束はC5を中心に複数神経支配が多く、前鋸筋の機能上中心的役割を担っている。各筋束の形態と走行から、上部筋束は肩甲骨の回旋中心を形成し、中部筋束は肩甲骨を外転させ、下部筋束は下角を上方回旋、外転させる機能を有している。非外傷性や軽微な外傷で神経麻痺を伴わない前鋸筋機能不全に陥る症例がある。これらの症例では肩甲骨が下垂・外転している場合が多い。この病態は菱形筋、肩甲挙筋が伸張され、一方前鋸筋は短縮し機能できない状態に陥り、僧帽筋で肩甲骨上方回旋を代償していると推測された。

    【まとめ】前鋸筋は主にC5, 6, 7で支配されるが例外的にC4も関与する。C5神経根は60%で中斜角筋を貫通していた。複数神経支配下にある上部筋束は前鋸筋の機能上中心的役割を担っている。上部筋束は肩甲骨の回旋中心を形成し、中部筋束は肩甲骨を外転させ、下部筋束は下角を上方回旋、外転させる機能を有している。
  • 中野 知佳, 柴 喜崇, 三原 直樹, 坂本 美喜, 佐藤 春彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 8
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】背臥位からの立ち上がり動作(以下,立ち上がり動作)は日常生活の自立に直結する動作であり,動作の獲得を促すことが必要である.健常幼児の立ち上がり動作は,年齢に伴い動作パターンが変化することが知られており,体幹の回旋が大きい左右非対称な動作パターンから,成人で見られる左右対称な動作パターンに変化することが分かっている(VanSant, 1988).立ち上がり動作の獲得が困難な幼児への介入の際には,立ち上がり動作に関連する身体機能を知ることが必須と思われるが,これまで幼児の立ち上がり動作に関連する身体機能は明らかにされていない.そこで本研究では,年齢による影響を調整した上で,健常幼児の立ち上がり動作パターンと身体機能の関連について検討した.
    【方法】3歳から6歳の健常幼児68名(男児45名,女児23名,各年齢17名ずつ)を対象とした.なお,保護者には本研究の趣旨を説明し,書面による同意を得た.2台のデジタルビデオカメラを使用し,右側方と足側から立ち上がり動作を撮影し,ビデオ画像から立ち上がり動作中の1)上肢,2)頭部・体幹,3)下肢の3部位を観察し,各部位の動作パターンを左右非対称(Asymmetrical)群(以下,A群),左右対称(Symmetrical)群(以下,S群)の2群に分類した.1)上肢では,A群を「体の一側で両上肢を用いて支持面を押す.または,体の両側で左右非対称に支持面を押す.」とし,S群を「体の両側で左右対称に支持面を押す.または,支持を用いない.」とした.2)頭部・体幹では,A群を「腹臥位や側臥位まで回旋する.」,S群を「わずかに回旋.または,回旋しない.」とした.3)下肢では,A群を「四つ這いや片膝立ちをとる.」とし,S群を「両脚の足底で支持する.」とした.さらに,対象者の身体機能(体幹屈曲筋力(N),体幹伸展筋力(N),握力(kg),片脚立位時間(sec),快適歩行速度(m/min))を測定した.そして,従属変数を2群に分類した各部位の動作パターン,独立変数を各身体機能とし,共変量を年齢とした共分散分析を用いて解析を行った.
    【結果】1)上肢では,体幹屈曲筋力(p=0.000),体幹伸展筋力(p=0.016),握力(p=0.001)がA群に比べS群で有意に大きく,その他の身体機能では2群間に有意差は認められなかった.2)頭部・体幹,3)下肢では,全ての身体機能で2群間に有意差は認められなかった.
    【考察】上肢を左右対称に使用した立ち上がり動作を行う幼児では,左右非対称に使用した幼児と比べ,体幹屈曲筋力,体幹伸展筋力および,握力が大きいことが明らかとなり,立ち上がり動作パターンとこれらの筋力以外の身体機能とは関連がないことが示された.このことから,立ち上がり動作の獲得を促す際には,筋力へのアプローチが重要になると思われ,さらに,筋力が不十分な幼児には,左右非対称な立ち上がり動作パターンを指導することが動作の獲得に有用であると思われた.
  • ラット拘縮モデルにおける関節可動域と筋内コラーゲンの可溶性変化に着目して
    近藤 康隆, 後藤 響, 吉田 奈央, 中村 明日香, 日比野 至, 中野 治郎, 沖田 実, 吉田 佳弘
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 57
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】一般に,拘縮に対しては伸張運動などの運動療法の前処置として温熱療法を施行するが,温熱療法と運動療法の併用に関する科学的根拠は明らかではないと思われる.一方,先行研究では拘縮発生時の筋内コラーゲンには多数の分子間架橋が形成され,この影響によりコラーゲンは塩や酸,ペプシンなどの酵素によっても可溶化されにくくなり,結果的に不溶性コラーゲンが増加するといわれている.そこで,本研究では関節可動域と筋内コラーゲンの可溶性変化に着目し,拘縮の治療に温熱療法と運動療法の併用が有効であるのかを検討した.
    【方法】8週齢のWistar系雄性ラット19匹を無処置の対照群4匹と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプスで不動化する実験群15匹に分け,実験群さらに5匹ずつ1)不動のみの群(不動群),2)不動後2週間,ヒラメ筋に伸張運動を実施する群(伸張群),3)同様にヒラメ筋に温熱療法と伸張運動を実施する群(温熱+伸張群)に分けた.伸張運動は,麻酔下で膝関節を屈曲位とし,非伸縮性テープで足関節を最大背屈位に30分間保持する方法で実施し,温熱療法は伸張運動の実施前に,麻酔下で42°Cの温水内に後肢を20分間浸漬する方法で実施した.なお,伸張運動と温熱療法の実施頻度はいずれも1日1回、週6回とした。次に,各群は4週間の不動期間終了直後に麻酔下で足関節背屈可動域(ROM)を測定し,伸張群と温熱+伸張群については不動終了後2週目にも同様に測定した.また,各群の実験期間終了後はヒラメ筋を検索材料に中性塩,酸,ペプシンそれぞれによる可溶性コラーゲンと不溶性コラーゲンを抽出、定量し,全コラーゲンに対する不溶性コラーゲンの割合を求めた.なお,本実験は星城大学と長崎大学の動物実験指針に準じて行った.
    【結果】不動終了直後のROMは,実験群の3群間で有意差を認めず,不動終了後2週目は伸張群、温熱+伸張群ともに不動終了直後より増加し,この2群間のROMを比較すると温熱+伸張群が有意に高値であった.全コラーゲンに対する不溶性コラーゲンの割合は、対照群に比べ伸張群と不動群は有意に高値で,この2群間には有意差を認めなかった.しかし,温熱+伸張群のそれは不動群や伸張群より有意に低値を示した.
    【考察】ROMの結果から,実験群の3群は不動によって同程度の拘縮が発生し,その後の改善は伸張群より温熱+伸張群が良好であったといえる.また,不溶性コラーゲンの割合は,対照群に比べ不動群と伸張群は有意に高値で,この2群間には有意差を認めなかったが,温熱+伸張群のそれは不動群や伸張群より有意に低値であった.つまり,不動によってヒラメ筋内コラーゲンは多数の分子間架橋が形成されたと推測される.そして,伸張運動のみでは分子間架橋の変化を改善させることは難しいが,温熱療法と伸張運動を併用するとその改善が促され,拘縮の治療として温熱療法と運動療法の併用は有効であると推察された.
  • 片岡 英樹, 西川 正悟, 中野 治郎, 吉川 紗智, 坂本 淳哉, 坂井 孝行, 鶴崎 俊哉, 吉村 俊朗, 沖田 実
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 58
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    疾病により安静臥床状態に陥った高齢者は、運動負荷法を早期から適応することが困難で、廃用性筋萎縮の発生を許すケースが多い。一方、これまで我々は、運動負荷法に代わる廃用性筋萎縮の予防方法を検討してきた。具体的には、熱刺激により筋細胞内に発現するHeat Shock Protein72(HSP72)の作用に着目し、約42°Cの温水浴によるラットヒラメ筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果について報告した。しかし、これは若齢ラットを対象とした検討であり、加齢の影響については他の報告をみても不明である。そこで今回、7週齢と60週齢のラットを用い、熱刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果に対する加齢の影響を検討した。
    【材料と方法】
    実験動物には7週齢と60週齢のWistar系雄ラット(若齢ラット、加齢ラット)9匹ずつを用い、それぞれ対照群3匹と実験群6匹に振り分けた。実験群の各ラットは、両側足関節を最大底屈位の状態で14日間ギプス固定した。そして、実験群の内3匹は固定のみとし(Im群)、残りの3匹には固定直前と固定期間中に熱刺激を負荷した(ImH群)。熱刺激は約42度の温水浴内に1時間、後肢を浸漬する方法で行い、実施頻度は3日に1回とした。実験終了後、両側腓腹筋とヒラメ筋を採取し、筋試料の一部より凍結横断切片を作製した。そして、ATPase染色を施し、タイプ別の筋線維直径を計測した。また、残りの筋試料はホモジネートし、Western Blot法によりHSP72含有量を測定した。なお、今回の実験は長崎大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った。
    【結果】
    腓腹筋の各タイプの平均筋線維直径を比較すると、若齢ラット、加齢ラットとも、すべての筋線維タイプにおいてIm群に比べImH群は有意に高値を示した。一方、ヒラメ筋の各タイプの平均筋線維直径を比較すると、若齢ラットでは腓腹筋と同様の傾向を示したが、加齢ラットではIm群とImH群の間に有意差を認めなかった。また、加齢ラットのヒラメ筋では、若齢ラットに比べ、タイプI線維の構成比率の増加が認められた。各筋におけるHSP72の含有量は、若齢ラット、加齢ラットとも、Im群に比べImH群は有意に増加していた。
    【考察】
    今回の結果、若齢ラットでは腓腹筋、ヒラメ筋ともに熱刺激によるHSP72発現の増加が認められ、廃用性筋萎縮の進行抑制効果が認められた。これは、HSP72のタンパク質合成の促進作用や変性タンパク質の修復作用の関与が推察され、加齢ラットの腓腹筋の結果についても同様のことが推察される。しかし、加齢ラットのヒラメ筋では、熱刺激によるHSP72の発現は増加したものの、廃用性筋萎縮の進行抑制効果は認められなかった。この点に関しては、加齢に伴う筋線維タイプの構成比率の変化や酸化ストレスの蓄積などの影響が予想されるが、詳細については不明であり、今後の検討課題である。

  • そのメカニズムについて生化学的解析から
    中野 治郎, 片岡 英樹, 坂本 淳哉, 沖田 実, 吉村 俊朗
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 59
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    これまで我々は、ラット後肢懸垂後の回復過程において腓腹筋に低出力レーザー(レーザー)を照射すると、筋の浅層、深層に関わらず筋線維肥大効果が得られることを報告した。また、そのメカニズムは、浅層では毛細血管が増加し、深層では筋衛生細胞の分裂が促進したことから、筋の深度によって異なると思われた。そこで今回、筋線維肥大機構の要因の中でレーザー照射との関連性が報告されている線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様成長因子I(IGF-I)、Heat shock protein72(HSP72)に着目し、上記のレーザーの効果のメカニズムを追求した。
    【材料と方法】
    7週齢のWistar系雄ラット10匹を1)腓腹筋にレーザー照射する群(L群、n=5)、2)2週間の後肢懸垂法により腓腹筋に廃用性筋萎縮を惹起させた後、通常飼育とし、同筋にレーザー照射する群(HS+L群、n=5)に振り分けた。レーザー照射は右側腓腹筋に対して行った(照射側)。具体的には、麻酔下で右側腓腹筋を覆う皮膚全体に1部位あたり3秒間、延べ3分間、半導体レーザー(60mW)を照射し、その実施期間は2週間、頻度は週5回とした。また、左側腓腹筋にはレーザー照射を行わず比較対照とした(非照射側)。なお、予備実験で今回のレーザー照射の透過性を調べた結果、皮膚下では約20mW、皮膚・腓腹筋下では約5mWのレーザー出力を感知した。実験終了後、麻酔下で両側の腓腹筋内側頭を摘出した。そして、筋試料の一部を凍結切片とし、ATPase染色を行い、白筋である浅層と混在筋である深層を区別して、各筋線維タイプの筋線維直径を測定した。また、筋試料の一部は浅層と深層に分割し、それぞれのFGF、IGF-I、HSP72含有量をELISA法、Western Blot法により測定した。今回の実験は長崎大学動物実験倫理委員会が定める規定に従って行った。
    【結果】
    L群の照射側と非照射側を比較すると、浅層のFGF含有量のみ照射側の方が有意に高値を示した。一方、HS+L群の照射側と非照射側を比較すると、各筋線維タイプの平均筋線維直径は浅層、深層とも、FGF含有量は浅層のみ照射側の方が有意に高値を示した。しかし、IGF-I、HSP72含有量は、浅層、深層とも変わらなかった。
    【考察】
    今回の結果、IGF-I、HSP72の発現量はレーザー照射の影響を受けなかった。次に、筋浅層においてレーザー照射によるFGFの発現増加が認められ、このことから、廃用性筋萎縮の回復過程に対するレーザー照射の筋線維肥大効果にはFGFが関与することが示唆された。一方、筋深層においては、筋線維肥大効果は認められたもののFGFの発現増加は認められなかった。したがって、レーザー照射による筋線維肥大効果のメカニズムが筋の深度によって異なることは明らかで、今後は筋深層について検討を加えていきたい。
  • 坂本 淳哉, 坂井 孝行, 折口 智樹, 片岡 英樹, 西川 正悟, 近藤 康隆, 中野 治郎, 沖田 実, 江口 勝美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 60
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    これまで我々は、関節を4週間不動化すると軟骨基質の減少が生じ、その進行は持続的他動運動(Continuous passive motion; CPM)によって抑制されることを報告した。一方、先行研究によれば、変形性関節症における関節軟骨の軟骨基質変性には、基質分解酵素であるMatrix metalleproteinase(MMP)の発現増加や血管様構造の侵入が関与するとされている。このことから推すると、上記の関節不動化による関節軟骨基質の変化にもMMPや血管様構造が関与すると思われるが、この点に着目してCPMの効果を検討した報告は見あたらない。そこで今回、ラット距腿関節をギプスで4週間不動化し、その過程でCPMを行い、関節軟骨基質のMMPと血管様構造におよぼす影響について検討した。
    【方法】
    実験動物には12週齢のWistar系雄ラット13匹を用い、これらを1)対照群(C群、n=5)、2)両側後肢を足関節最大底屈位で4週間ギプス固定する群(I群、n=4)、3)ギプス固定の過程でCPMを施す群(CPM群、n=4)に振り分けた。CPMは、週6回の頻度でギプス固定を解除し、ヒト用アンクルストレッチャーを用いて1日1回30分行った。実験期間終了後、麻酔下で両側足関節を採取した。右側試料は10%ホルマリン固定、K-CX脱灰後に矢状断のパラフィン切片とし、HE染色、トルイジンブルー染色を施して検鏡した。また、左側試料は4%パラホルムアルデヒド固定、10%EDTA脱灰後、右側試料と同様に切片とし、MMP-3、-9、-13に対する免疫組織化学的染色を施した。そして、脛骨遠位端関節軟骨における血管様構造の出現数、軟骨基質の染色度スケール、ならびにMMP-3、-9、-13陽性細胞数について検討した。なお、本実験は長崎大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った。
    【結果】
    各群の血管様構造の出現率を比較すると、C群に比べI群は有意に高値を示したが、CPM群とC群の間には有意差はなかった。また、軟骨基質の染色度スケールはI群、CPM群、C群の順に高値を示し、I群とC群の間に有意差が認められた。一方、各群のMMP-3、-9、-13の陽性細胞数を比較すると、C群に比べI群、CPM群は有意に高値を示し、この2群間には有意差は認められなかった。
    【考察】
    今回の結果、I群の軟骨においてMMP陽性細胞数と血管様構造の増加が認められ、このことが関節不動化に伴う軟骨基質減少に関与していると推測される。また、I群に比べCPM群の軟骨基質の染色性は保たれ、血管様構造の進入も少なかったことから、CPMは軟骨基質減少に対して有効であると思われた。しかしながら、MMP陽性細胞数はI群とCPM群の間に差は認めず、この点に関しては生化学的分析やMMPインヒビターなどの検討を加える必要がある。
    【まとめ】
  • 西川 正悟, 片岡 英樹, 中野 治郎, 吉川 紗智, 坂本 淳哉, 近藤 康隆, 吉村 俊朗, 沖田 実
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 61
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    骨格筋を不動化すると、筋タンパク質の合成・分解の平衡状態が崩れ、廃用性筋萎縮が発生する。また、筋線維を栄養する毛細血管数の減少やミトコンドリアの異常といった循環代謝機能の障害を併発し、これが廃用性筋萎縮の進行を助長すると考えられている。一方、近年、廃用性筋萎縮の進行抑制に熱刺激が有効であることが多く報告されている。しかしながら、循環代謝機能に着目し、廃用性筋萎縮に対する熱刺激の有効性を検討した報告は見あたらない。そこで、本研究では、不動化したラットヒラメ筋に対して熱刺激を負荷し、廃用性筋線維の進行抑制ならびに筋内の毛細血管、ミトコンドリアにおよぼす影響を組織化学的に検討した。
    【方法】
    7週齡Wistar系雄ラットを対照群と実験群に振り分けた。実験群は、ヒラメ筋に廃用性筋萎縮を惹起させる目的で、両側足関節を最大底屈位の状態で14日間ギプス固定し、ヒラメ筋を不動化した。そして、実験群をさらに1)ギプス固定のみの群(I群)、2)ギプス固定期間中、ヒラメ筋に対して熱刺激を負荷する群(IH群)に振り分けた。熱刺激は、約42度の温水浴内に1時間、後肢を浸漬する方法で行い、実施頻度は3日に1回とした。実験終了後、両側ヒラメ筋から凍結横断切片を作成し、ルーチンATPase染色、アルカリフォスファターゼ染色、NADH染色を施した。そして、各筋線維タイプの筋線維直径、1筋線維あたりの毛細血管数、ミトコンドリア分布異常を示す筋線維(mt分布異常線維)について検討した。なお、今回の実験は長崎大学動物実験倫理委員会が定める規定に従って行った。
    【結果】
    各筋線維タイプの平均筋線維直径を比較すると、対照群に比べI群、IH群は有意に低値を示し、I群とIH群の2群を比較するとIH群の方が有意に高値を示した。また、1筋線維あたりの毛細血管数も平均筋線維直径と同じ傾向で、対照群に比べI群、IH群は有意に低値を示し、I群とIH群の2群を比較するとIH群の方が有意に高値を示した。一方、mt分布異常線維はI群、IH群のみで認められ、その程度と出現頻度はIH群の方が明らかに軽度であった。
    【考察】
    筋線維直径の結果から、不動化による廃用性筋萎縮の発生は明らかで、熱刺激による廃用性筋萎縮の進行抑制効果が認められた。次に、I群、IH群では、ヒラメ筋内の毛細血管数は減少し、mt分布異常線維が出現したことから、廃用性筋萎縮に伴う血流循環の低下、酸化系の代謝異常が伺われる。そして、その程度は、I群に比べIH群の方が軽度であった。したがって、廃用性筋萎縮に対する熱刺激は、筋線維の縮小を抑制するだけでなく、循環代謝機能の低下にも効果的ではないかと推察される。ただ、今回の組織化学的解析のみでは循環代謝機能を正確に捉えているとは言えず、今後、生化学的解析による検討を加えていく必要がある。

  • 渡邊 晶規, 細 正博, 由久保 弘明, 松崎 太郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 62
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    拘縮に対する治療には徒手、装具または持続的他動運動装置等による他動的関節可動域運動が頻繁に用いられている。それらの臨床的効果についての報告は多くみられるが、それらが関節構成体にどの様な影響を及ぼすか検討した報告は少ない。そこで今回、関節可動域運動としてストレッチを用い、それが関節包にどのような影響を及ぼすか明らかにするために実験を行った。
    【対象と方法】
    対象は9週齢のWistar系雄ラット14匹を用いた。それらを無作為に正常群(2匹)、拘縮群(2匹)、非治療群(5匹)、治療群(5匹)の4群にわけた。正常群は8週間の通常飼育を行った。拘縮群は4週間のギプス固定を行った。ギプス固定は右後肢を股関節最大伸展位、膝関節最大屈曲位、足関節最大底屈位で施行し、膝周囲は骨成長のため、足関節遠位は浮腫や傷の有無を確認するために露出させた。左後肢は自由とし、ケージ内の移動や水・餌の摂取は十分に可能であった。非治療群は拘縮群と同様にギプス固定を4週間行った後、4週間の通常飼育を行った。治療群は拘縮群と同様に拘縮を作製した後、4週間のストレッチを加えた。ストレッチは治療台に体幹と大腿骨をベルトで固定した上で脛骨遠位端を体重の半分の力で体幹長軸方向に60秒間伸張を加え10秒間屈曲位で休止するサイクルを5サイクル加えた。またギプス固定前後に角度測定を行い、さらに非治療群、治療群の両群はギプス解除後から1週毎に右膝関節の角度測定を行った。各飼育期間終了後、ネンブタール麻酔にて安楽死させた後、膝関節を一塊として採取した。採取した膝関節をホルマリン液で固定し、脱灰、中和した後パラフィン包埋した。ミクロトームにて薄切し、それらにヘマトキシリン・エオジン染色を行い、光学顕微鏡下で後部関節包の病理組織学的観察を行った。
    【結果】
    【可動域制限】4週間のギプス固定により約62°の伸展制限を認めた。非治療群の伸展制限は2週間後42度、4週間後31.2度となった。治療群では2週間後37.6度、4週間後20.4度となり、治療群でより改善する傾向にあった。【組織学的所見】拘縮群の関節包は正常群に比べ膠原線維束の肥厚と膠原線維束間の間隙の狭小化を認めた。線維性結合織の性状が疎性のものから密性のものへ質的に変化し、関節包は肥厚していた。これに比べ非治療群、治療群の関節包では膠原線維束間の間隙の拡大を認め改善傾向にあった。しかし非治療群と治療群の両群間において著明な違いは認めず、改善の程度は同様であった。
    【考察】
    ストレッチは可動域制限の改善に有効であったが、関節包の改善には著明な効果を認められなかった。可動域の改善に伴って必ずしも関節包の組織レベルでの改善が得られるとは言い難く、今後種々の治療法による検討が必要であるとともに、拘縮における治療効果の判定を可動域のみで評価することは不十分であると思われた。
  • 山本 綾, 肥田 朋子, 岩本 泰子, 長谷川 多美子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 63
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    中枢神経疾患や整形外科疾患による不動状態は,関節可動域(ROM)制限や廃用性筋萎縮を引き起こすが,痛みを伴うものが少なくない.しかしその痛みは,疾患特異的なものだけとは考えにくく,不動によって引き起こされた可能性があると考えられるが明らかでない.また,痛みがあると動かさないことから,ROM制限や筋萎縮にも影響すると考えられる.そこで本研究では,痛みを伴う不動化モデルと,痛みを伴わない不動化モデルを作成し,ROM制限,痛み反応,筋萎縮について比較検討することとした.また不動化モデルの活動量が痛みや筋萎縮に影響するか調べた.
    【方法】
    本実験は本学医学部保健学科動物実験委員会の承認を得て行った.Wistar系雄ラット23匹(8週齢)を,無処置のControl(Con)群(n=6),右側坐骨神経の慢性絞扼(以下CCI)術後に両側足関節をギプス固定するCCI固定群(n=5),両肢固定群(n=6),右側足関節のみ固定する片肢固定群(n=6)に分けた.固定期間は4週とし,右足関節背屈ROMを2週毎に他動的に測定した.痛み反応評価にはvon Frey hair(VFH)変法を用い,週5日,触・痛み刺激に対する後肢の逃避反応回数を数えた.全身的活動量として,CCI固定群を除いた3群に対し、週3日5分間の立ち上がり回数を記録した. 固定期間終了後,取り出した右ヒラメ筋をHE染色し,筋線維横断面積を測定し平均値を求めた.統計には,一元配置分散分析,二元配置分散分析,Kruscal-wallis検定,spearmanの順位相関係数を用いた.
    【結果】
    各固定群の背屈ROMは,Con群に対し固定2週目から有意に減少したが,固定群間での有意な差はなかった.触刺激に対する反応回数は,Con群に対しCCI固定群,両肢固定群,片肢固定群の順に1週ずつ遅れて有意に増加した.痛み刺激に対する反応回数も触刺激とほぼ同様であった。ROMと痛み反応に相関関係が認められた.立ち上がり回数は,各固定群ともCon群に対し有意に少なかった.また,片肢固定群に対し両肢固定群の立ち上がり回数は有意に少なかった.立ち上がり回数と痛み反応は固定2週目以降で相関関係が認められた.筋線維横断面積は,Con群に対して各固定群とも有意に減少したが,固定群間で有意な差はなかった.筋線維横断面積と痛み反応に相関関係が認められた.また、筋線維横断面積と立ち上がり回数にも相関関係が認められた.
    【考察】
    各固定群でアロディニア・痛覚過敏が生じ,不動化は痛みを助長すると考えられた.また,痛みを伴う不動状態ではROM制限が強まると考えられた.さらに,全身的活動量は,局所の筋萎縮に影響し,痛みの発生にも影響があると考えられた.
    【まとめ】
    不動化は痛みを助長し,痛みはROM制限、筋萎縮に影響を及ぼすと考えられた.
  • 藤田 直人, 藤本 太郎, 田崎 洋光, 荒川 高光, 松原 貴子, 三木 明徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 64
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    外科的手術による骨アライメントの変化に伴い,筋の長さや張力も変化し,もとのパフォーマンスを獲得できないケースが少なくない。筋を短縮位に保持すると対象筋が萎縮し,伸張位に保持すると萎縮が軽減すると報告されているが,同一実験系内で対象筋と拮抗筋の関係を調べたものはなく,加えて筋線維タイプ別に検討したものは散見される程度である。筋のパフォーマンス向上を図るには,対象筋だけでなく,作用として相反の関係にある拮抗筋を同時に観察する必要がある。そこで今回,足関節を背屈位または底屈位で保持し,対象筋と拮抗筋を同時に,形態学的に検討した。
    【材料と方法】
    11週齢のddY系雄マウス20匹を用い,対照群(C群),後肢懸垂のみを行った群(HS群),足関節を最大背屈位でギプス固定し後肢懸垂を行った群(HS-D群),足関節を最大底屈位でギプス固定し後肢懸垂を行った群(HS-P群)の4群に区分した。2週間の後肢懸垂終了後,前脛骨筋とヒラメ筋を未固定で摘出し,筋湿重量を測定した後,各筋の中央部を急速凍結した。約10μm厚の連続横断切片を作製し,H-E染色とATPase染色を施し,光学顕微鏡で観察した。また筋線維横断面積を計測し,一元配置分散分析およびScheffeの多重比較検定を用いて比較した。
    【結果】
    後肢懸垂を行った3群では前脛骨筋,ヒラメ筋ともにC群に比べ筋束間の拡大を認め,特にHS群とHS-P群のヒラメ筋で著明であった。C,HS,HS-P群における前脛骨筋の筋湿重量は,HS-D群に比べ有意に高値を示した。CとHS-D群におけるヒラメ筋の筋湿重量は,HSとHS-P群に比べ有意に高値を示した。前脛骨筋の筋線維横断面積において,後肢懸垂を行った3群は,C群に比べ有意に低値であるが,浅層部においてHS,HS-P群はHS-D群より有意に高値を示した。ヒラメ筋の筋線維横断面積において,後肢懸垂を行った3群は,C群に比べ有意に低値であるが,HS-D群とHS-P群はHS群に比べ有意に高値を示した。ヒラメ筋の筋線維横断面積のうち,HS-D群はHS-P群に比べ有意に高値を示し,特にそれはタイプ1線維よりもタイプ2線維における差であった。
    【考察】
    今回の実験では,伸張位に保持した前脛骨筋とヒラメ筋は,短縮位に保持した場合に比べ筋湿重量,筋線維横断面積ともに高値を示していた。対象筋を伸張位に保持することで筋萎縮は軽減するが,同時に拮抗筋を短縮位に保持することになり,拮抗筋の筋萎縮を惹起した。またこの変化は,タイプ2線維割合が高い前脛骨筋浅層部と,ヒラメ筋のタイプ2線維において著明であり,タイプ2線維は伸張や短縮という筋の長さ変化に対し,より適応性が高い可能性が示唆された。今後は本実験系を用いて,筋の機能に対する影響を検討する予定である。
  • 健常者と片麻痺症例の比較
    柊 幸伸, 丸山 仁司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 65
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    片麻痺に代表される動作時に痙性、共同運動や連合反応を伴う疾患では、歩行時に患側肩甲帯が後方に引き込まれるような動きが観察できる。この異常動作を評価することは、障害の程度を把握する目的で非常に有効である。また、経時的に計測し比較検討することで治療の効果判定に用いることが可能となり、より効率的・効果的な治療プログラムの立案・選択に有益な情報となると考えた。我々は、構築した簡易動作分析システムに角速度センサを接続し、歩行時の肩峰部と上部体幹に発生する角速度の計測を行い、その計測値から肩甲骨の動きを推察するデータの算出手法を考案した。本研究は、この分析手法の片麻痺症例への応用を検討することを目的とした。
    【方法】
    被験者は24名の健常者と2名の片麻痺症例であった。3軸角速度センサを被験者の左右肩峰部と第7頸椎棘突起下部(上部体幹中央部)に固定し、感圧センサを健常群では左右の踵と母趾に、片麻痺群では左右の靴または装具靴底の踵と爪先に貼付した。サンプリング周波数は100Hzとし、通常歩行を10秒間計測した。計測データより3歩目以降の左右1歩行周期を抽出した。計測した左右肩峰の動きの角速度から同一平面上の上部体幹の値を減算し、肩甲骨の動きを推察するデータを算出した。
    【結果】
    健常群の右の立脚相の平均時間は624.58msec.、遊脚相は461.67msec.であった。左の立脚相は623.75msec.、遊脚相は450.83msec.であった。体幹の動きを含む歩行時の左右肩峰部の角速度の変化パターンは立脚相、遊脚相ともに近似していた。計測値と算出したデータとの比較から、健常群の歩行では上部体幹の動きが少ないことが確認できた。
    2名の片麻痺症例では、感圧センサにより、患側の爪先接地や歩行周期の左右差が確認できた。算出したデータは、胸郭上の肩甲骨の動きを詳細に表しており、著明な肩甲骨の動きの左右差、過剰な上部体幹の動き、肩甲骨の引き込み動作や上部体幹とは逆方向への動き等が確認できた。
    【考察】
    今回の分析手法で、体表からではあるが歩行時の肩甲骨の動きを推察することができた。また、感圧センサを足底に貼付することにより、歩行周期の同定も可能であり、歩行時の肩甲骨の動きを客観的に捉えることができた。算出した肩甲骨の動きから、片麻痺症例の肩甲骨の動きはそれぞれの歩容の個性を反映しており、健常群の運動パターンとの相違を考察することでその特徴が評価できると考えた。また、胸郭上の過大なあるいは過小な肩甲骨の動きは、痙性や過剰努力による種々反応を反映していることが予想でき、この評価より、それらの程度の強弱が客観的に評価できるものと考えた。
    【まとめ】
    この動作分析手法は臨床での動作分析に客観的なデータを与え、治療効果判定や経過の縦断的評価にも利用できる。理学療法分野のEBMに貢献できる評価手法であると考えた。
  • 異常歩行パターンの定量化
    鈴木 由佳理, 大塚 圭, 村岡 慶裕, 才藤 栄一, 伊藤 慎英, 平塚 智康, 沢田 光思郎, 吉村 洋輔, 日高 慶美, 山村 怜子, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 66
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    我々は,臨床場面で用いる客観的な歩行分析法を確立するために,トレッドミルを用いた三次元歩行分析システムの開発を進めており,現在,その臨床指向的指標の作成を行っている.今回,トレッドミル歩行分析の特徴的表現法であるリサージュ図形を用いて,健常者の正常値:Grand Average(GA)と各片麻痺者の計測値から,異常歩行パターンの定量化について検討した.
    【対象】
    GAの対象は健常者8名(男性4名,女性4名,年齢26.3±3.5歳,身長165.4±9.5cm,体重57.0±10.3kg),片麻痺者の対象は13名(発症後期間984.2±1416.8日,年齢50.6±17.4歳,身長166.5±7.4cm,体重60.6±9.8kg)とした.
    【方法】
    三次元歩行分析装置にはKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を使用し,サンプリング周波数60Hzにて20秒間計測した.トレッドミル上の設定速度は,健常者が1, 2, 3, 4, 5km/h,片麻痺者は主観的快適速度とした.マーカは,両側の肩峰・大転子・大腿骨外側上顆・外果・第5中足骨頭の計10箇所に装着した.各マーカの軌跡は,平均歩行周期にて時間軸を正規化した後,加算平均処理を施した.さらに健常者のマーカの軌跡は,8名のデータについて,再度,加算平均処理を施し,健常者GAを作成した.
    今回は、下肢の6個の各マーカの3平面(前額面・水平面・矢状面)分,計18種類のリサージュ図形の中から、分廻し歩行の特徴を捉えていると考えられた外果マーカの水平面のリサージュ図形に着目した.分廻し歩行の指標は,「左右方向の最大軌跡長」を「前後方向の最大軌跡長」で除した値とした.各歩行速度に対する,この指標の健常者の平均値±標準偏差値と,片麻痺例の計測値をプロットしたグラフを作成した.さらに計測時の撮影動画を観察し,分廻しの重症度を0(なし)から5(重度)までの6段階に評価した.このグラフにおける片麻痺例の偏倚量と視覚的観察による評価結果をもとに,異常歩行パターンの定量化と指標の妥当性について検討した.
    【結果および考察】
    健常者GAでの外果マーカの水平面運動は,踵接地より後方へ移動した後,遊脚で内側方向を通る周期運動を認めた.一方,片麻痺者では大半が遊脚で外側を通る周期運動を認め,定量化した指標では13名中9名が健常者GAの平均値±標準偏差値から逸脱する結果となった.このうち6名が視覚的観察においても分廻し程度が2以上と判断され,残り3名においては,視覚的観察では分廻し程度が1以下と判断された.
    今回作成した分廻し歩行の指標から,異常歩行パターンの定量化における可能性が示唆された一方,今後更なる妥当性の向上のために他指標との関与や,指標の算出法を検討していく必要があると考えられた.
  • 百瀬 公人, 三和 真人, 赤塚 清矢, 伊橋 光二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 67
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】正常歩行中の遊脚相における膝関節屈曲は、積極的なハムストリングスの筋活動によるものではないと言われている。正常歩行中には遊脚相の後半でハムストリングスの筋活動が認められるが前半には見られない。遊脚相の膝関節屈曲は、下肢全体が伸展している時に大腿部の屈曲が生じることにより下腿が二重振り子状態となりその結果屈曲すると報告されている。片麻痺患者ではハムストリングスの単独収縮が困難なことや大腿四頭筋の筋緊張の亢進もあり、歩行中の膝関節屈曲は困難である。しかし、片麻痺患者でも二重振り子の作用を用いれば積極的なハムストリングスの筋収縮を必要とせず、大腿四頭筋の筋緊張の調整を学習することで、遊脚相の膝屈曲が可能となることが示唆される。正常歩行中にはハムストリングスの筋活動が遊脚相前半では見られないが、歩行速度が遅くなると二重振り子の働きが弱くなり、下腿を筋力で保持しなければならないと思われる。二重振り子の作用が有効に働く歩行速度以上であれば、片麻痺患者でもハムストリングスの筋収縮を必要とせず下腿を屈曲することができ、遊脚時のクリアランスは十分にあることになると思われる。そこで今回の研究の目的は、健常者において歩行速度を変化させ、遊脚相のハムストリングスの筋収縮状態から二重振り子を利用し始める歩行速度を明らかにすることである。
    【方法】被験者は健常な男性7名で、平均年齢20.0±0.5歳、平均身長170.7±2.7、平均体重642.4±6.2kgであった。歩行の計測には3次元動作解析装置と床反力計、表面電極による動作筋電図を用いた。3次元動作解析で得られたデータはコンピュータにて解析し、関節角度などを算出した。筋電図は内側広筋、大腿二頭筋長頭等より導出しバンドパス処理後、全波正流し、最大収縮時の積分値をもとに歩行時の筋活動を積分値の百分率として求めた。歩行はメトロノームにてケイデンスを規定し、ゆっくりとした歩行から速い歩行までを計測した。
    【結果】ハムストリングスの筋活動はゆっくりとした歩行から速い歩行まで計測された全ての歩行で筋活動が見られ、筋活動がほとんど無い二重振り子の作用が明らかとなる歩行速度は求めることができなかった。
    【考察】いわゆる正常歩行ではハムストリングスは遊脚相の後半で筋活動が認められる。今回の結果では、ハムストリングスの筋活動は歩行速度に影響を受けなかった。歩行速度をケイデンスで規定しようとしたため、メトロノームに合わせることが歩行時のハムストリングスの筋活動に影響したと考えられる。今後は歩行速度を厳格に規定しない方法での研究が必要であると思われた。
    【まとめ】歩行速度がハムストリングスの筋活動に与える効果について、3次元動作解析と筋電図を用いて解析した。ケイデンスを規定するとハムストリングスの活動は速度による影響をあまり受けなかった。
  • 山本 洋司, 下野 俊哉, 齋藤 裕一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 68
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】異なる重量物を負荷して歩行した際に胸腰部の脊柱起立筋がどのような筋活動を示すかを確認することを目的とする.
    【対象】健常男性10名(平均年齢25.1±6.9歳,平均身長172.6±4.7cm,平均体重62.9±6.9kg)を対象とした.
    【方法】重量物を負荷しない歩行(通常歩行)と,右上肢に体重の10%,20%,30%の重量物を負荷した歩行(重量物負荷歩行)を行わせ,その時の筋活動を記録した.歩行は前方を注視し,右下肢より振り出し5歩行周期行わせ中間の3歩行周期を分析に使用した.表面筋電図はNoraxon社製Telemyo2400Tを用い,footswitchを使用し立脚相と遊脚相を区分した.被検筋は左右の胸部脊柱起立筋と腰部脊柱起立筋とした.分析は重量物負荷歩行時の筋活動を通常歩行時の筋活動で除し標準化した.まず右立脚相と右遊脚相それぞれにおいて胸部脊柱起立筋と腰部脊柱起立筋の重量の変化による筋活動の変化を比較した.次にそれぞれの相について同筋での左右差,同側の筋活動について比較検討した.統計学的分析にはT検定と分散分析を用い,有意水準を5%未満とした.
    【結果】重量の変化による筋活動の変化は右立脚相の右側腰部脊柱起立筋は10%,20%,30%と負荷を増加しても筋活動の変化は少なかった.左側と左右胸部脊柱起立筋は重量の増加に伴い筋活動が有意に増加した.右遊脚相の右側腰部脊柱起立筋も重量の増加に伴い筋活動が有意に増加した.右側胸部脊柱起立筋はわずかに増加を示すが有意差は認めなかった.しかしながら左側は有意に増加した.次に同筋での左右差は右立脚相の腰部脊柱起立筋が10%,20%,30%の全てにおいて左側の筋活動が有意に高かった.胸部脊柱起立筋は変化を認めなかった.右遊脚相の腰部脊柱起立筋は左側が有意に高く,胸部脊柱起立筋は20%,30%で右側が有意に高かった.また同側の筋活動の比較では右立脚相の右側は10%,20%,30%の全てにおいて胸部脊柱起立筋が有意に高かったが,左側では差を認めなかった.右遊脚相の右側は全ての重量物において胸部脊柱起立筋の活動が有意に高く,左側では20%,30%で腰部脊柱起立筋が有意に高かった.
    【まとめ】重量物負荷歩行時に重量物を持った同側の胸部脊柱起立筋と反対側の腰部脊柱起立筋の筋活動が特に高まることについては,胸部脊柱起立筋が重量物を保持するために活動し,腰部脊柱起立筋は重量に対して腰椎が右側屈し安定性を保っていることが考えられる.このように重量物負荷歩行時には胸腰部脊柱起立筋は特徴的な筋活動を示すことが認められた.
  • 伊坂 重人, 渡邊 昌宏, 今村 安秀
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 69
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】歩行において、足趾は身体を支え運動方向を誘導し推進するという重要な働きをしている。また、足趾機能は、高齢者の転倒や障害予防としても注目され、様々な研究が報告がされている。これらの報告は足趾屈筋力に関するもの多かったが、我々は第25回関東甲信越理学療法士学会において、母趾伸筋力と歩行速度の有意な正の相関関係を報告した。続報として、今回我々は母趾伸筋力と歩幅の関係について検討したので報告する。
    【対象】対象は特に整形外科疾患の既往がない健康成年男性10名であった。(年齢28.1±3.4歳、身長173.7±4.7cm、体重65.5±5.6kg)実験参加前に十分な説明を行い、同意を得た上で行った。
    【方法】母趾伸筋力の測定は、アニマ社製等尺性筋力計μTasF‐1を使用して、筋力計を自作して行った。筋力測定肢位は、端坐位で膝関節と股関節90°および足関節0°とし、足部を固定した。結果の再現性を確認するため、筋力を左右3回ずつ測定し、その平均値を体重で除し比較に用いた。歩行速度は、普通に歩く(以下通常速度)とできるだけ速く歩く(以下最大速度)の二種類とし、それぞれの口頭指示は、「普通に歩いてください」と「できるだけ早く歩いてください」とした。歩幅計測は、4mの予備歩行後、3mをソニー社製デジタルビデオカメラDCR-VX700で各速度2回ずつ撮影し、6~8歩の歩幅の平均値を算出し、身長で除して比較に用いた。筋力と歩幅の関係をピアソンの相関係数により解析した。
    【結果】母趾伸筋力の平均値は44.5±18.5Nであった。また、通常速度の平均歩幅は66.5±8.78cmであり、最大速度の平均歩幅は82.7±11.4cmであった。各測定値間の相関においては、母趾伸筋力と最大速度の歩幅間に、有意な正の相関関係を認めた(r=0.70、 p<0.05)。しかし、母趾伸筋力と通常速度の間には、相関関係は認めなかった(r=0.53、p<0.05)。
    【考察】今回の結果から、最大速度時に母趾伸筋力が高いものほど、歩幅が大きいことが示唆された。しかし、足趾伸筋力と通常速度時の歩幅の間には、相関関係は認められなかった。足趾屈筋力についての先行研究や、我々が行った研究においても、最大速度時と筋力の間のみに相関が認められた。また、蹴り出し期における母趾や足趾の重要性が報告されている。これらのことから、最大速度時において母趾伸筋は蹴り出しの安定化に関与し、これが歩幅延長につながったと推察した。今後の検討課題として、最大速度時の母趾伸筋を筋電図学的に検証することが必要と考えた。
  • Foot flat時の胸郭・骨盤・股関節からの観察
    安里 和也, 大神 裕俊, 比嘉 裕, 石井 慎一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 70
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 臨床上、腰椎や骨盤の可動性を上げることで、歩行中の「歩きやすさ」や歩幅が増大することが確認される。しかし、腰椎・骨盤の運動前後で変化を明示した研究は見当たらない。そこで今回、実際に腰椎・骨盤運動前後での歩行の変化を調査し、得られた結果と若干の知見を交え報告する。

    【対象と方法】 本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人男性7名(平均年齢26.0±7.26歳)を対象とし、骨盤運動前後での歩行変化を比較した。骨盤運動とは、足関節・膝関節・股関節がそれぞれ90度になるようにセットした端坐位にて、体幹を伸ばす・丸めると連動して骨盤を前傾・後傾させる運動を選択した。また検者の手の感触にて腰椎前弯の分節的な動きが確認できるまで運動を繰り返した。歩行分析にはVicon-peak社製三次元動作解析装置を使用し、歩行は自然歩行(以下、歩行)とし、骨盤運動前後に4試行ずつ行った。マーカーは胸骨柄・胸骨剣状突起・第一胸椎棘突起・第10胸椎棘突起・両上前腸骨棘・両上後腸骨棘中間点・左股関節・左大腿骨内側上顆・左大腿骨外側上顆・左外果・左踵骨先端・左第五中足骨頭に貼付し、A:胸郭・B:骨盤の空間に対する角度及びC:骨盤に対する大腿骨(以下、股関節)の角度を求めた。データは前述の4試行の歩行の中からFoot flat時のA~Cを抽出、平均を求め、対応のあるT-検定にて比較した。また、各個人のデータ間の比較として対応のないT-検定を用い、比較した。なお、感想として運動前後の歩きやすさも記録した。

    【結果】 骨盤運動前後における歩行に、統一した変化はみられなかった。しかし7例中6例が、骨盤・胸郭・股関節それぞれのXYZ成分9成分中のどれか2つ以上の有意差を認めた。また、全例で骨盤運動後は「歩きやすい」との答えが得られた。

    【考察】 結果である、骨盤運動後の「歩きやすさ」という点から察するに、今回の対象者は腰椎・骨盤周辺に不合理な動きがあったと予測される。つまり、腰椎椎間関節・仙腸関節の可動域制限を有していて、骨盤運動により若干、腰椎個々、仙腸関節の可動性が見出され、立位身体質量中心点(以下、重心点)が前方へ移動しやすくなったと考えられる。今回は、そのことへの身体対応の多様さの結果と考えられるのではないだろうか。また統一見解が得られなかったことに関しては、個々の対象者の腰椎・骨盤周辺の不合理さが、研究前からの統一を得ていなかったからでないかとも考えている。

    【まとめ】 「ヒトの動き」も物体の移動と同様、力学の本質である重心点移動という視点にたち、動作分析を行うことも一方法に成り得るのではないかと考えられた。
  • 武田 要, 勝平 純司, 藤沢 しげ子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 71
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨盤帯における関節の圧迫は効率よい負荷伝達に必須であり、骨盤帯の安定性に関連する筋の一つとして大殿筋が挙げられる。臨床場面では産前産後に骨盤帯の不安定性に対し骨盤の高さにさらしを装着することで歩行が楽になる場面が多く観察される。今回健常女性に対し歩行時でのさらし装着による体幹への影響を骨盤回旋角度、上部体幹回旋角度、骨盤に対する上部体幹回旋角度量を解析パラメータとして3次元解析装置による動作分析手法により明らかにすることを目的とした。
    【方法】被験者は研究目的と方法を説明し承諾を得た健常女性9名とした(年齢:平均 27.6±6.2歳、身長:159.7±3.4m、体重:52.1±3.9kg)。測定には3次元動作解析システムVICONMX(VICON PEAK社製)、サンプリング周波数100Hzの赤外線カメラ8台を用いた。マーカーは直径25mmの赤外線反射マーカーを左右計20箇所(第5MP,外果,膝関節,股関節,上前腸骨棘, L5棘突起,剣状突起,Th12棘突起,C7棘突起,頭部耳孔上,頭頂、ダミー)に貼付した。さらしは両ASISから股関節大転子にかけて下から上に巻くように装着した。この時に被験者に大殿筋を収縮させた状態でさらしを装着した。測定項目として水平面における骨盤回旋角度は両ASISを結んだ線と進行方向に対する直角な線とのなす角度、水平面における上部体幹回旋角度は両肩峰を結んだ線と進行方向に対する直角な線とのなす角度、骨盤に対する上部体幹回旋角度は骨盤回旋角度と上部体幹回旋角度の差とした。これらはいずれも左右2歩行周期分の値を採用した。測定課題は3mの平地歩行を3回行い速度は自由速度とし一定の姿勢を保つため進行方向の視線の高さに目印をおき注視させる様にした。統計処理はさらし装着の有無によるそれぞれの回旋角度変化量をstudentのt検定を用い、有意水準を5%未満とした。
    【結果】上部体幹回旋角度量はさらしなしでは8.92±2.79度に対してさらし装着時では9.90±2.83度、骨盤に対する上部体幹回旋角度量はさらしなしでは16.27±5.62度、さらし装着時では18.68±6.43度といずれもさらし装着時で有意に増加していた(p<0.05)。骨盤回旋角度量について有意差はみられなかった。
    【考察】アウターユニットである大殿筋の収縮は胸腰筋膜の緊張を増大させ、仙腸関節の圧迫により骨盤閉鎖力の機構に寄与するとされる。骨盤にさらしを巻くことで大殿筋への圧迫が起こり骨盤帯を介して下肢と体幹との連結が強められたため上部体幹回旋角度量の増加が見られていたと考えられた。
    【まとめ】さらし装着により上部体幹回旋運動が増加すると共に体幹の分節運動が増加することが確認できた。今後体幹の分節的な回旋運動の乏しい妊婦や高齢者に対してさらしによる歩行補助の可能性を検討したいと思う。
  • 平岡 浩一, 阿部 和夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 72
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行開始初期には予測的姿勢制御が行われ、これに足関節が重要な役割を果たす。以前、歩行開始時の足関節伸筋の脊髄運動ニューロンプール興奮性低下を報告した(Hiraoka 2005,2006)が、この低下をもたらす脊髄上レベルの活動については解明されていない。本研究では、歩行開始時の足関節運動制御への皮質レベルと脊髄レベル中枢の関与について検討した。

    【方法】年齢20-30才の7名の健常者を対象とした。対象者には実験の目的・方法、及び予想される不利益を説明し、同意を得た。歩行開始時に振り出す側と反対の下肢を試験側とし、足関節には電気角度計を、前脛骨筋(TA)・ヒラメ筋(SOL)にはEMG記録電極を装着した。被験者は警告音の2s後の開始合図で2歩前進した。試験試行間には、開始合図を欠落させたコントロール試行を20%の比率で挿入した。H反射と運動誘発電位(MEP)は開始合図後0-300msの範囲内で任意の時期に誘発し、計測後に振幅の増減のtime courseを解析した。H反射は小さいM波が出現する強度で誘発、経頭蓋磁気刺激の強度は背臥位にて10%MVCでTAの等尺性収縮を行った時のMEP運動閾値とした。MEPの記録は医師の指導の下、厳密なリスク管理下で実施した。H反射はM波振幅がコントロールのM波振幅と大方一致するものを解析の対象とした。H反射・MEP誘発直前0-50msのtime windowのTAとSOLのEMG積分値を算出した。

    【結果】SOL-H反射振幅は歩行開始前および歩行開始中の全ての時期を通して低下した。これに対し、SOL-MEP振幅は歩行開始前90-60msで低下が観察されたが、同時に歩行開始直前と直後の時期に振幅増加が観察された。TA-MEP振幅増加はEMG積分値増加の約100ms前から始まり、この増加は歩行開始後も継続した。

    【考察】歩行開始時足関節運動制御への脊髄レベル中枢の関与が再度確認された。運動ニューロンプール興奮性低下にもかかわらず、SOL-MEP振幅は一部の時期で増加したことから、歩行開始前後には一時期皮質レベル中枢も関与することが示唆された。

    【参考文献】
    Hiraoka K, Matuo Y, Iwata A, Onishi T, Abe K. The effects of external cues on ankle control during gait initiation in Parkinson's disease. Parkinsonism Relat Disord. 2006 Mar;12(2):97-102.

    Hiraoka K, Matsuo Y, Abe K. Soleus H-reflex inhibition during gait initiation in Parkinson's disease. Mov Disord. 2005 Jul;20(7):858-64.
  • 米田 宏史, 下野 俊哉, 古川 公宣, 塩中 雅博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 73
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    この研究の目的は,健常高齢者と虚弱高齢者の膝関節伸展時における大腿四頭筋活動の違いを表面筋電図で評価可能かどうかを検討することにある.
    【対象・方法】
    対象は計測に影響を及ぼす疼痛や神経障害を有さない65歳以上の健常高齢者28例,28外側広筋,平均年齢69.3±6.2歳と要介護認定を受けリハビリテーションが必要と判断された虚弱高齢者21例,31外側広筋,平均年齢75.9±6.5歳を対象とした.椅座位で体幹を固定し,膝関節90°屈曲位にて膝関節伸展の最大等尺性随意収縮を行わせた.その際,NORAXON社製マイオシステム2400表面筋電計を使用し外側広筋から筋電図を導出した.計測データより波形の安定した2秒間の筋電波形を分析に用い,平均振幅(AMP)と干渉波解析として中間周波数(MF),基線を横切る回数を表すゼロクロスレート数(ZCR),10μV以上の振幅を持つ極性転換点を示すターン数(TURN)を算出した.これらのパラメータが健常と虚弱高齢者で異なるかどうかを比較検討した.また,計測値の重なり具合から,この両群間を区別できる割合を求めた.
    【結果】
    健常高齢者におけるAMPは168.5±77.7μV, MFは46.4±6.8 Hz,ZCRは 60.6±9.7回,TURNについては380.8±76.8回であった.これに対し虚弱高齢者ではAMP で112.2±83.1μV,MFで73.6±11.0Hz,ZCRで98.9± 13.9回,TURNは662.8± 82.7回とすべてのパラメータにおいて虚弱高齢者が有意に低値を示した(P<0.01).また,最大と最小計測値の重なりから両群間を区別可能かどうか検討すると,AMPは15.7%(59肢中10肢),MFで86.4%(59肢中51肢),ZCRで 83.1%(59肢中49肢),TURNで88.2%(59肢中52肢)となり,干渉波形解析でその能力が高かった.
    【考察】
    健常高齢者と虚弱高齢者との間には筋活動における神経機能に有意な差が認められ,虚弱高齢者ですべての計測値が低値を示した.このことは虚弱高齢者で運動単位数の減少や神経線維数の減少を示す筋肉減少(sarcopenia)が強いことを反映していると考えられる.また,両群間の計測値の重なりの程度を見ると,AMPでは多くが重なり合う結果になった.これは表面筋電計での測定では電極位置の違いや皮下脂肪などの影響も大きく,結果として個体差が大きくなってしまうためと考えられた.これに対し干渉波を表すMF,ZCR数,TURN数においては両間の重なりが少なく,高齢者における筋活動における神経機能を捉えるための指標になるのではないかと考えられる.今後,様々な筋電図パラメータを工夫することで高齢者における神経機能の変化を評価し,より効果的な筋力トレーニング方法を検討していくことが出来るものと考えられた.
  • 木村 宏市, 前田 哲男, 木山 良二, 二俣 麻里子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 74
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】片足立ち位での膝関節屈曲角度の違いによる大腿四頭筋3筋(大腿直筋、外側広筋、内側広筋)の筋活動を分析し、3筋の筋力の推定が可能か検討した。
    【対象】健常な男子学生13例、平均年齢22.8±2.9歳、平均体重64.1±6.3kg。なお、本研究を行うにあたって、対象者には今回の趣旨を十分に説明し、書類による研究参加の同意を得た。本研究は、鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等に関する倫理委員会で承認を得て実施した。
    【方法】片足立ち位での大腿四頭筋の筋活動は、膝関節屈曲20度と40度での大腿四頭筋の表面筋電図を測定した。被検筋は大腿直筋、外側広筋、内側広筋の3筋とした。片足立ちは全て左足とし、重心動揺計に閉眼静止立位をとらせて、各個人の重心線が安定した状態を重心位置0と定め、重心位置0からできるだけ外れないように5秒間保持し、3回ずつ測定した。筋電計と重心動揺計は同期させて、重心位置0から極力外れていない1秒間の筋電図の積分値のデータを選出し、3回分の平均値を算出したものを測定値とした。端座位で膝関節屈曲位20度と40度の等尺性収縮での膝関節伸展における表面筋電図をKINCOM500Hを用いて測定した。被検筋は片足立ち位と同様である。膝関節屈曲位20度の時は抵抗が20N、40N、60N、80N、100Nで、膝関節屈曲位40度の時は抵抗が100N、150N、200N、250N、300Nとした。筋力の維持は被検者がモニターを確認しながら測定した。これらの測定結果から、膝関節屈曲位での片足立ち位に必要な筋力を単回帰分析にて推定し、その筋力について統計的分析をおこなった。
    【結果】目的変数を推定筋力とし、説明変数を片足立ち位での積分値とした単回帰分析で得られた推定筋力では、膝関節屈曲40度での片足立ち位において発揮していると推定される筋力に3筋間で有意水準5%で差がみられた。片足立ち位膝関節屈曲20度と40度で3筋が発揮していると推定される筋力を各筋で比較してみると3筋ともに有意水準5%で差がみられた。また、本方法で推定した筋力は膝関節屈曲位40度は20度の約3倍以上であった。
    【考察】片足立ち位での筋活動は20度に比して40度の方が大きかった。これは、片足立ち位において膝関節屈曲角度が大きくなるほど膝関節運動軸が重心線から離れ、運動軸と重心線の距離が長くなる為、膝のモーメントが大きくなり、より大きな筋力が必要になると考えた。一方、力学的分析から三角比を用いて必要な筋力を予測すると、膝関節屈曲40度が20度の時の2倍となった。しかし、今回の推定筋力においては、3筋共に膝関節屈曲40度が20度の時の3倍以上になっていた。これは、関節の屈曲角度だけでなく、片足立ち位になり、バランスを安定させようと努力することが関係したと考えた。また、大腿直筋、外側広筋、内側広筋で推定筋力が異なっていたが、これは、大腿直筋は膝関節と股関節に跨る2関節筋であるため他の2筋に比べ異なることが考えられた。
  • 田上 未来, 山下 堅志, 瀬尾 浩史, 大槻 哲也, 島野 泰成, 上原 貴廣, 兼松 まどか, 河野 孝範
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 75
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    筋放電から筋トルク出現までの時間を電気力学的遅延(electromechanical delay、以下EMD)とされ、諸家は性差、年齢差についての相違を指摘しているが詳細な検討は未だなされていない。今回、我々は一定の年齢群における性差および軸足、非軸足との関係を調査した。

    【方法】
    対象は膝関節に障害のない20歳代前半(平均年齢21.8歳)、31名(男性16名、女性15名)とした。測定は、Biodex社製トルクマシーン(Biodexシステム3)を使用し被検者を椅座位とした上で、ダイナモメーターのアームを下腿遠位部に取り付け、膝関節屈曲45度から角速度5deg/secにて他動的に膝屈曲運動を生じさせた。被検者に他動運動を認知したと同時に膝伸展運動を行わせ、表面筋電計にてEMDの電気信号を観察した。被検筋は適切な皮膚準備を行った大腿直筋とし、視覚・聴覚および感覚入力を可能な限り遮断した上で、測定間隔は任意とし一側3回計測した。解析は、筋放電および筋トルク出現をキッセイコムテック社製VitalRecorder2にて記録し、Bimutas-Videoを用いて解析を行った。そして筋放電出現から筋トルク出現までの時間を測定し、1)性別間での検討、2)軸足、非軸足での検討とこれらの性差について分散分析で統計処理を行った。また、軸足は被検者に片脚立位を行わせた際に支持脚として利用される側とし、非軸足は挙上側とした。
    【結果】
    1)EMD平均は男性で右31±37msec、左25±18msec、女性で右32±37msec、左25±11msecで性別間において優位差は認められなかった。2)軸足、非軸足では男性の軸足21±12msec、非軸足25±16msec 、女性の軸足25±12msec、非軸足31±38msecで優位な差は認められなかった。また、性別間においても同様に優位差はなかった。
    【考察】
    EMDは30~50msecから100msecと報告されている。膝伸筋では求心性収縮にのみ女性は男性に比し優位に遅延するとの報告があるが、詳細な検討は未だなされていない。今回、我々の研究で得られたEMDに性差はなく、軸足、非軸足においても優位な差は認められなかった。EMDは筋線維組成比、収縮様式と速度など種々の要因による影響を受けると考えられており、性差はこれらの違いによるとの報告もある。今回、我々は健常人を対象に調査を行ったが、膝前十字靱帯損傷例、膝置換術例などでEMDの遅延が報告されており、今後EMDに関与する種々の要因について更なる検討が必要である。
  • 強度と膝関節の位置による影響
    河野 美華, 武田 知樹, 大平 高正, 山野 薫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 76
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】
    自転車エルゴメーターは,下肢関節への負担が少なく筋力増強が得られるため,運動療法の中で幅広く利用されている.しかし,その特性について,臨床で使用が容易な低強度での筋活動,また駆動肢位についての報告は少なく,不明な点もみられる.今回は,自転車エルゴメーター駆動時における,強度や膝関節位置の相違が駆動時の大腿四頭筋活動に与える影響について考察する.
    【方法】
    対象は本研究に同意した健常成人4名(男女各2名)とした.平均年齢は24.0±4.0歳,平均身長は171.5±6.5cm,平均体重は62.0±7.5kgであった.自転車エルゴメーターは,Cateye社製ergociserMODEM EC-1000を用い,運動強度は60Watt(1.0kp×60rpm:低強度),120Watt(2.0kp×60rpm:高強度)の2条件を選択した.サドルの高さは膝関節最大伸展時30°に設定した.駆動肢位は,大腿中央-膝蓋骨中央-下腿中央を結んだ線を中間位とし,それより膝が内側へ入った場合(内側位),外側へ出た場合(外側位)の3肢位を設定した.筋活動の測定は,表面筋電図NORAXON社製テレマイオ2400を用い,大腿直筋,内側広筋,外側広筋の筋活動を測定した.得られたデータは全波整流し,1サイクルごとの平均振幅を求め,14サイクル分の平均値を代表値とした.さらに,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量に対する相対値(%MVC)を算出した.肢位別の比較検討では,各筋ごとに中間位の平均振幅値を100%とし,内側位と外側位の活動量を比較した.
    【結果】
    強度別の比較において,大腿直筋では低強度10.8%に対し,高強度21.4%であった.外側広筋では低強度23.4%に対し高強度46.6%,内側広筋では低強度46.8%に対し,高強度85.3%であった.低強度は高強度の約半分の活動量であり,最も高値を示したのは内側広筋であった.肢位別に比較した場合,低強度において外側位で大腿直筋の活動量の増加が認められ,同じく内側位で外側広筋と内側広筋に活動量の増加が認められた.高強度では大きな増加はみられなかった.
    【考察】
    低強度による自転車エルゴメーター駆動では,筋力増強が得られにくいとされているが,今回の結果より低強度でも内側広筋では約50%の活動量が得られ,他筋と比較して高い活動量を示したことより,内側広筋に対して有効性が示唆された.また,肢位別比較では,二関節筋である大腿直筋の起始・停止の関係が影響していると考えられ,拮抗筋である大腿二頭筋の活動量測定を行う検討の必要がある.高齢者や術後早期の患者に対しては,低強度の施行が多く用いられるが,目的とする筋に対して駆動肢位設定を確認する必要がある.
  • 正回転・逆回転における駆動前後の下肢随意運動の比較
    林 伸浩, 神谷 晃央, 新野 浩隆, 盧 隆徳, 寺林 大史, 牛場 潤一, 正門 由久, 木村 彰男
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 77
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【はじめに】
    我々は過去の関連学会において、多機能エルゴメータ(ストレングスエルゴ240、三菱電機エンジニアリング社製、以下S-Ergo)駆動時の筋活動について報告してきた。今回、脳卒中片麻痺患者におけるS-Ergo駆動前後の下肢随意運動を計測し、正回転・逆回転での比較検討を行ったので報告する。
    【対象】
    対象は、インフォームドコンセントの得られた脳卒中片麻痺患者8名(男性)、平均年齢は65.3±11.0歳、Br. stageはIIIが2名、IVが3名、Vが3名であり、全症例ともに歩行は監視レベル以上であった。
    【方法】
    S-Ergoは、バックレスト115°、負荷はアイソトニックモード3Nm、回転速度はピッチ音に合わせた30rpmに設定し、最大膝伸展角度は30°とした。駆動は全8症例に対して逆回転、うち5症例に対して別日に正回転を行い、駆動前後にSIAS運動項目であるHip Flexion、Knee Extension、Foot Patを10回施行した際の所要時間を計測した。
    さらに、正逆双方の駆動を行った3症例に対し、麻痺側における筋活動および関節角度を計測した。被検筋は前脛骨筋(TA)、内側腓腹筋(MG)、大腿直筋(RF)、内側広筋(VM)、内側ハムストリングス(MH)の5筋とした。角度変位は電気角度計を用いて股関節・膝関節を計測した。解析は角度計の値から屈曲相と伸展相に分類し、10施行分の波形を整流・加算平均した後にそれぞれ比較した。
    【結果】
    駆動前後に行った各評価結果 (1)所要時間、(2)筋活動の変化、(3)関節角度の変化を以下に示す。
    (1)所要時間:正回転ではHip Flexionで1症例、Knee Extensionで4症例に短縮を認めた。逆回転ではHip Flexionで5症例、Knee Extensionで8症例全てに短縮を認めた。Foot Pat可能な対象者は2名であり、うち1症例においては正逆いずれの駆動後にも短縮を認めた。
    (2)筋活動:SIASのKnee Extension時のVM・MHに着目すると、逆回転後にそれぞれの拮抗筋の活動が減少することを認めた。
    (3)関節角度:Hip Flexionでは3症例とも正回転後に減少、逆回転後に増加を認めた。Knee Extensionでは正逆いずれの駆動後も1症例で増加、2症例で減少を認めた。
    【考察】
    逆回転後の方が正回転後に比べSIAS運動の所要時間が短縮する傾向であった。一般的に、エルゴメータ正回転駆動時の筋活動は下肢伸筋群が優位であり、逆回転では加えて股関節屈筋群も参加すると報告されている。つまり、S-Ergoの逆回転駆動時は、RFなどにより下肢の引き上げ運動を反復的に行うことで、駆動後の随意運動に対して筋活動の促通効果が影響したと思われる。また、一定時間の駆動を行うことで、拮抗筋に対する相反抑制効果が加わったことも要因として考えられる。
    したがって、逆回転駆動を行うことで、歩行における歩幅拡大やスピード向上によって、エネルギー効率により大きな改善をもたらす可能性が示唆される。今後は症例数を増やすとともに、更なる検討を行いたい。
  • 石田 水里, 対馬 栄輝
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 78
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位時に後方から外力を与えたとき,早期に腓腹筋が活動する(石田ら,2001).腓腹筋の活動開始時間(活動開始時間)が立位保持能力に関与すると考えて,これが短縮することで姿勢の反応性が高まるはずである.活動開始時間には心理的な要因が影響するため,繰り返し測定したときに慣れや学習の影響で短縮したり変動が小さくなると考える.特に外力を与える部位やタイミングを予告すると注意力が高まりやすくなり,活動開始時間はさらに短縮する可能性がある.そこで外力を与えるときの条件をいくつか変えて,繰り返し活動開始時間を測定し,回数を重ねるごとに一定の傾向は見られるか,また外力の条件によって異なるかを検討した.
    【方法】
    対象は健常男性8名(平均年齢24.4±3.9歳)である.立位時に後方から押されても踏み出さない方の下肢を測定肢とした.測定肢の腓腹筋外側頭(GL)と内側頭(GM)に表面電極を貼り付けて,被検者に開眼で自然立位をとらせた.外力は,検者が背後から被検者の肩(左右肩峰の中間)または腰(左右腸骨稜の中間)を徒手的に押して与えた.検者の手掌面にはON-OFFスイッチを貼り付けておいた.あらかじめ被検者には,押されても立位を保持するように指示した.外力の条件は,1)あらかじめ肩を押すまたは腰を押すという予告の有無,2)メトロノームに合わせてカウントダウンによる予告の有無,の各条件をすべて組み合わせて,それぞれで5回ずつ測定した.各条件の測定順序は無作為とした.GL・GMの筋電波形とスイッチの波形から活動開始時間を計測し,GL・GMのうち活動開始時間が早い方を採用した.1回目のデータに対する2~5回目の差を求めて,上記の外力の条件ごとに短縮していくまたは延長していくなどの傾向はあるか観察した.
    【結果】
    分散分析の結果,すべての要因・水準間で有意な差があるといえなかった.各条件で5回測定の変化を箱ひげ図で観察すると,ほとんどの条件では値の変動に傾向はみられなかったが,最も難しいと考えられる部位もタイミングも予告しない条件では一定している傾向があった.
    【考察】
    検定の結果から,繰り返し施行による慣れや学習の影響があるとは考えにくかった.値の変動が大きいために予測的な筋活動などの様々な反応が混在し,一様の傾向が現れなかったと考える.一方,外力の部位もタイミングも予告しない条件では活動開始時間が一定している傾向が観察された.部位やタイミングの予告は活動開始時間を短縮させると予期していたが,これが余剰な情報を与えてしまう可能性もあると考えた.
  • 佐藤 栄司, 松本 真以子, 近藤 国嗣, 勝 正範
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 79
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における労作時呼吸困難の原因として、肺機能障害だけでなく、骨格筋の機能異常が関わっているといわれている。廃用や慢性的な低酸素曝露、慢性炎症によるケミカルメディエーターなどによって、骨格筋機能異常が生じていると考えられており、筋線維タイプの変化(type1線維の減少、type2の増加)、酸化酵素の減少、嫌気性代謝の亢進が確認されている。今回、表面筋電図による周波数分析によって、COPD患者における骨格筋の機能異常が筋持久力にどのような影響を与えているのか分析、検討することを目的とした。

    【方法】対象は、COPD患者2名(62、73歳)、健常者4名(39、42、60、70歳)で、いずれも男性。被検筋は、ア.大腿四頭筋とイ.前脛骨筋で、それぞれア.膝関節屈曲45度、イ.足関節底背屈0度に固定し、ア.60%MVC イ.50%MVCの強度で等尺性収縮を行った。可能な限り筋収縮を継続させ、その持続時間を測定、また筋腹に電極を貼付して、収縮時の表面筋電図を計測した。得られた波形から、パワースペクトル密度(PSD)を求め、平均周波数(mean power frequency: MPF)を算出した。

    【結果】収縮持続時間は、患者群と対照群ともに、ばらつきが大きく明らかな違いは認めなかった。収縮開始時の平均周波数は、大腿四頭筋収縮では、患者群で対照群に比べて高い傾向にあった。前脛骨筋収縮では、両群に大きな違いを認めなかった。疲労に伴う平均周波数の低下の傾きは、両者において大きな相違を認めなかった。

    【考察】過去の報告で、60%MVCでの大腿四頭筋収縮持続時間は、COPD患者で健常者に比べて有意に短縮しており、それらはtype1筋線維の割合と酸化酵素活性の減少と相関していたと示されている。今回、筋収縮の持続時間には、患者群・対照群間で有意な違いは見られなかったが、対照群で持続時間が長い被験者もおり、今後対象を増やすことによって、差が出る可能性はあると考えられる。また、大腿四頭筋収縮開始時の平均周波数は、全体としてはCOPD患者で高い傾向にあった。前脛骨筋収縮では、平均周波数に大きな違いを認めなかったが、これは、大腿四頭筋はtype1、前脛骨筋ではtype2筋線維優位であるという性質から説明できる可能性がある。

    【まとめ】COPD患者の骨格筋機能異常を評価する目的で、筋収縮持続時間と収縮時の表面筋電図を計測した。電気生理学的な筋疲労検査が、COPD患者の骨格筋異常を評価する非侵襲的な検査法として有意なものであることが示唆された。更に症例数を増やし、評価法として確立していき、将来的には効率的な筋力・筋持久力向上訓練のプログラム作成へとつなげていきたい。
  • 鈴木 俊明, 谷 万喜子, 高崎 恭輔
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 80
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用し開発した経穴刺激理学療法を紹介し、第46回近畿理学療法学術大会では経穴刺激理学療法前後での罹患筋の動作筋電図変化について報告した。循経取穴は、症状のある部位・罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜方向から治療者の指で経穴を圧迫する。今回は上肢に存在する経穴のひとつである「手の陽明大腸経」に存在する合谷穴への経穴刺激理学療法前後の頸部筋群の筋電図積分値を検討し、合谷穴に対応する罹患筋である胸鎖乳突筋に選択的に反応するかを検討した。
    【方法】研究の主旨を説明し了解を得た健常者2名(男性44歳、女性42歳)に安静座位での頸部筋群(胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、頭板状筋)の筋電図を測定した。被験者Aは右胸鎖乳突筋の筋活動増加を認めたが、被験者Bは特に大きな筋電図変化を認めなかった。本研究は、2つの目的でおこなった。第1に「被験者Aに対して右胸鎖乳突筋の筋緊張抑制を目的に右合谷穴刺激をおこなった場合、右胸鎖乳突筋の選択的な反応を認めるか」、第2は「被験者Bに対して右胸鎖乳突筋の筋緊張促通を目的に右合谷穴刺激をおこなった場合、右胸鎖乳突筋の選択的な反応をみとめるか」である。刺激前に安静座位を5分間保持させて、保持中の頸部筋群の筋電図を3回測定し、各筋電図波形に大きな変化がないことを確認した後に、検者の指で合谷穴に圧迫刺激をおこなった。刺激は痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、筋緊張抑制目的の被験者Aは垂直方向、筋緊張促通目的の被験者Bは斜方向で1分間おこなった。筋電図は、1回の計測を20秒間とし、刺激中3回、刺激後15回(5分間)測定した。筋電図積分値は、各測定の5秒後~20秒後までの15秒間を計測対象とした。測定前3回の筋電図積分値の平均を1とした時の各筋電図積分値相対値を求めた。
    【結果】被験者Aは右合谷穴刺激中より右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は0.2まで減少し、刺激後5分後まで持続した。左胸鎖乳突筋、両側の僧帽筋上部線維と頭板状筋の筋電図積分値相対値は、刺激前後で変化を認めなかった。被験者Bは刺激中の右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は刺激後1分後より右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は2.3に増加し、その傾向は5分後まで持続した。この傾向は右胸鎖乳突筋に選択的に認められた。
    【考察とまとめ】本研究より合谷穴刺激で刺激側と同側の胸鎖乳突筋の筋緊張を選択的に変化させることが客観的に判断できた。これは、経穴刺激が中枢神経系を経由して筋への下行性線維の興奮性を調整したと考えることができるが、選択的な反応であることのメカニズムは今後の検討課題としたい。
  • 木村 吏志, 勝山 典年, 指出 雄三, 冨田 和秀
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 81
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳血管障害(以後、CVA)の既往をもつ患者は身体機能低下を来たし易く廃用症候群に陥りやすい。現在、廃用症候群に関する報告が多くなっているが、既往にCVAを含むものは少ない。そこで、当院における既往にCVAを含む廃用症候群患者の転帰に関する問題点を比較し、今後のリハビリテーション(以後、リハ)処方における取り組みについて検討した。
    【方法】
    対象は平成17年5月から平成18年4月の過去1年間に廃用症候群としてリハ処方された164名のうち、死亡29例と悪化・中止11例、入院から30日以上経過した後リハ処方された26例及びCVAが既往にない61例を除いた37例(平均年齢80.1歳±9.3歳、平均在院日数41.5日±20.9日)とした。上記症例を入院からリハ処方までの期間の中央値である13日で分け、前半を早期リハ処方群(以後、早期群)。後半を遅延リハ処方群(以後、遅延群)とし、機能回復について年齢、在院日数、リハ処方からの在院日数、リハ実施日数、転帰先、自立度改善率について統計的検討を行なった。自立度改善率は改善と維持とに区別した。統計にはカイ2乗検定と平均値検定を用い有意水準5%未満とした。
    【結果】
    リハ処方時自立度レベルが退院時に改善した症例は1段階:7、2段階:1、3段階:1、4段階:2であり、維持:25、低下:1であった。早期群(平均年齢74.9歳±8.7、リハ開始からの在院日数28.7±17.1日)遅延群(平均年齢85.3歳±5.7歳、リハ開始からの在院日数30.7±21.3日)年齢(P<.01)において有意差が見られた。在院日数(早期群34.5±16.7日、遅延群48.5±22.7日)、リハ処方からの在院日数(早期群28.7±17.1、遅延群30.7±21.7)、リハ実施日数(早期群17.4±11.8、遅延群18.4±12.7)、転帰先(早期群:自宅8転院6施設4、遅延群:自宅6転院10施設3)ではそれぞれで有意差は見られなかった。自立度改善率(早期群:改善8維持10、遅延群:改善3維持15)であり(P=.056)有意な傾向があった。
    【考察】
    在院日数やリハ実施日数において有意差が見られなかった要因として、当院は急性期病院であり、在院日数の短縮のために原因疾患の回復がみられ、家族・他施設の受け入れ態勢が整い次第退院となることが考えられる。また、遅延群については、呼吸器系を原因疾患としていることが多く、疾患治癒の長期化が考えられる。また、高齢でありCVAも合併している事から廃用性筋力低下・筋萎縮を促進し、このことが自立度改善率の低い原因であると考えられる。しかし、高齢者であっても筋力増強は期待できるという報告は多く、脳血管障害に対しても筋力低下、筋萎縮の予防・改善は期待できる。今回の結果からもその傾向は確認出来た。そのため、今後の展望として医療スタッフとの連携を密にし、原因疾患の病態を加味しながら廃用症候群予備軍に対するアプローチも今後の課題であると考える。
  • 高 圭介, 北川 敦子, 後藤 伸介, 池永 康規
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 82
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院の回復期リハ病棟に入院した脳血管疾患(以下CVA)患者の退院時ADL能力を予測するにあたり、従来のスタッフの経験的予測に加え、過去に入院していたCVA患者のデータをもとに導き出された予測式を用いる事で、予測の精度と有用性が改善されないかを試みた。
    【対象】CVAにて同病棟に2003年9月以降に入院し、2005年3月末までに退院した患者(A群)64名と2005年9月以降に入院し、2006年8月末までに退院した患者(B群)38名を対象とした。
    【方法】入院後1週程度で行なわれる初期カンファレンスにおいて、A群は担当スタッフの経験的予測での協議にて退院時FIMの目標値を設定し、B群は予測式によるスコアを項目別(セルフケア・移動・認知)と合計で算出し、その値も参考に退院時FIMの目標値を協議し、設定した。対象者が退院した時点で、実際の退院時FIMを調査し、目標値と実際値との相関と差の大きさを比較した。統計学的手法はMann-whitney検定を用い、有意水準を5%とした。なお、予測式は他院から同病棟へ転院してきたCVA患者で2002年から2003年度に退院した104名より、独立変数を年齢・性別・入院時発症後日数・入院時FIM(合計・セルフケア・移動・認知)とし、ステップワイズ回帰分析にて作成した。
    【結果】入院時FIMの平均値に関してA群は71.8±34.3、B群は72.2±37.4であり、両群間において有意な差は認められなかった。目標値と実際値において両群共に全ての項目で高い相関を示した。差の大きさの平均値はA群のセルフケアで5.9±7.6、移動で4.2±4.0、認知で2.8±3.1、合計で12.5±13.3となった。B群ではセルフケアで3.8±4.9、移動で2.3±2.7、認知で2.0±2.2、合計で7.2±8.5となった。移動と合計においてA群に比べB群は有意に小さな値となることを認めた。セルフケアと認知では有意差は認めないものの、A群に比べB群が小さな値を示す傾向が見られた。
    【考察】退院時のADLを正確に予測することは目標共有に必要である。従来の経験的予測でも目標値と実際値との間には高い相関を認めたが、今回の統計学的手法を用いての目標設定の方がより正確性がみられた。従って、統計学的手法を用いてのADL予測は有用であると考えられた。
    【まとめ】ADLの予後予測において統計学的手法を用いる事でより正確に行なえないかを検討した。一部においては予測式の導入により目標値と実際値との差に有意な減少を認め、より正確性が高まる傾向がみられた。今後、症例によって予測式から逸脱した場合の検討を行い、有用性を高め目標共有に役立てたい。
  • 過去10年のデーターベースより
    早川 和秀
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 83
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院は320床の中規模地域密着型総合病院である。そのため再入院してくる患者は非常に多い。そこで今回過去10年の再入院患者を集計し、当院の疾患特性や地域特性を探り考察した。
    【対象と方法】当院PTデーターベースにおけるH7/2/25よりH18/9/11までに入院された患者で,PTを実施した5964例中,再入院歴がある2392例(971名)を対象とした。方法は男女別,年齢別,科別,疾患別,PT開始から開始までの間隔(以下間隔)別,再入院回数別などに振り分けデータを分析した。検定は対応のないt検定を用いた。
    【結果】平均間隔は633±1160日であり再入院者は全体の40%を占め、その内の41%が複数回入院している。内訳は男性1053例・平均年齢70±15歳・間隔639±1472日、女性1339例・平均年齢75±14歳・間隔629±855日であり男女差(p<1%)が認められた。1、科別は省略省略。2、疾患別は多い順に(a)脳梗塞16.7%,平均間隔528±582(日),平均年齢76±11(歳),男女比:男52%女48%(b)骨折12.9%,間隔448±688,年齢67±19,男40%女60%(c)大腿骨頸部骨折(以下頸部)11.0%,間隔599±749,年齢80±10,男19%女81%(d)脳出血6.2%,間隔513±616,年齢72±10,男49%女51%(e)悪性腫瘍4.8%,間隔229±361,年齢72±13,男53%女47%(以下詳細は省略)(f)変形性脊椎症4.7%(g)肺疾患4.4%(h)変形性関節症4.2%(i)心疾患2.9%(j)脊柱管狭窄症(以下狭窄症)2.0%(k)脳腫瘍1.1%(l)その他13.2%(m)廃用症候群1.3%であった。また2392例より(n)脳卒中から他疾患で再入院したものは10.2%(o)頸部から他8.2%(p)他から脳卒中7.1%(q)脳卒中から骨折5.6%(r)他から頸部5.1%(s)他から骨折3.7%(t)骨折から他3.6%(u)骨折から脳卒中3.26%であった。(a)~(k)の内、男女差の年齢による差が認められたのは(a)(b)(c)(f)(g)(i)(j)で女性が有意(p<1%)に高齢であり、(e)においては男性が高齢であった(p<1%)。間隔による差は認められなかった。(n)~(u)は年齢・間隔に有意差(p<5~1%)が認められた。3、再入院回数の内訳は2392例中、同疾患にて入院した回数は2回24.4%,3回6.0%,4回1.5%(以下省略)、他疾患は2回33.2%,3回15.0%,4回7.1%(以下省略)であった。
    【考察】科別では整形・脳外が上位を占める割合となった。疾患特性では悪性腫瘍や狭窄症などは末期になって再入院を繰り返すことがわかる。年齢による分類では明らかな年齢差が認められ、脳腫瘍・骨折・悪性腫瘍・脊椎疾患では低年齢化を示し、心肺疾患・頸部骨折では高齢化を示した。間隔別では腫瘍疾患・心肺疾患・狭窄症など1年以内での、他疾患から骨折・頸部・脳疾患は3年前後での間隔で再入院をしている。(l)のその他で多かったのは糖尿病などの内部疾患であった。地域特性として女性の数が多く、高年齢化を示していることが伺える。入院回数では2~3回が多く、他疾患による再入院を低下させることがこれからの課題である。
  • 木島 隆, 伊藤 貴史
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 84
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床において、しばしば痛み等の刺激に対し激しく反応する患者、逆に反応に乏しい患者等に遭遇する。痛みによりパーソナリティーも変化するといわれ、そのことは治療者の対応によっても同様である。また、健常人において同一刺激に対する反応は様々であると予想される。もし実際に現在の自我状態と刺激の間に関係性があるのならば、傷害後の治療対応にも検討の余地があると考え、今回新版東大式エゴグラム(TEG)を使用し同一刺激と自我の関連性について調べた。
    【エゴグラムとは】交流分析の基本となるもので、ひとの心は親(parent:P)、大人(adult:A)、子供(child:C)の3つの自我から成り立っているといわれ、親(P)の自我状態には懲罰と制限を加える部分critical parent(CP)とひとの世話をするような養育的な部分nurturing parent(NP)がある。さらに子供(C)は誰にも拘束されず自由に振舞う部分Free child(FC)と自分を抑え従順で我慢強い部分adapted child(AC)に分かれ自我状態を分析する際に用いられている。
    【対象】研究内容、方法を説明し同意を得られた健常成人21名(男性11名、女性10名)とした。平均年齢は36.2歳±9.5歳(男性36.7歳±11歳、女性35.6歳±7.54歳)である。
    【方法】TEGを使用し5つの自我状態を量的に算出した。その後、パテラ下縁から15cm下方の脛骨粗面に、15cmの高さから重さ180gの物体を掛け声合図の直後自然落下させ、その際の刺激感をVisual Analog Scale(VAS)にて測定し、自我状態との相関関係を調べた。尚、測定肢は利き手側とし脛骨粗面にはタオル一枚被せた。また、測定肢位は長座位とし下肢をカーテンで隔て落下物を見えない状態で行った。統計学的解析はt-検定、スペアマンの順位相関係数を用いた。
    【結果】Aは男性の方が女性より有意に高値であった(p<0.05)。女性のNPはCPより有意に高値であった(p<0.05)。また、女性はCPおよびPにそれぞれVASとの正の相関を認めた。男性では相関が得られなかった。
    【考察】女性のNPはCPより有意に高値であった。NPは養育的親、CPは批判的親であることから、素直に刺激を受け入れていることを示唆する。CP・Pの批判的部分が高いほどVASの値が高いということは、批判的な観点から刺激と向き合い感情的に刺激を多く受け取っていると考えられた。また、痛み刺激等の強弱によりパーソナリティーの変化・形成が起きるといわれている。女性において刺激を入れる前の自我(CP、P)と刺激後のVASにおいて相関が得られたということは、刺激前の自我を確認することでセラピストは患者治療の方略を事前に考慮できる可能性がある。AはPやCの偏見・感情・本能に左右されず物事を冷静に判断する自我である。男性ではAが高値であり、直感的判断ではなく一時的な刺激を冷静に第三者的判断し答えているため、VASとの相関は得られなかったものと思われる。
  • 松田 梢, 内山 靖
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 85
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在、脳卒中に関する様々な研究が報告されているが、「痙縮筋に対する筋力増強運動」に関する研究は散見する程度である。また、このテーマは極めて重要な内容でありながら、わが国の理学療法士の認識においてはともすると経験的な風潮が先行している感が否めない。そこで、「痙縮筋に対する筋力増強運動」についての理学療法士の認識と実態を明らかにすることを本研究の目的とした。

    【方法】
    全国47都道府県の病院・施設・教育機関に勤務する理学療法士で1)第39~41回の日本理学療法学術大会に脳卒中関連の演題発表を行った、または2)脳卒中者に対する理学療法についての研究論文、総説などを執筆している者を平成15年度日本理学療法士協会名簿から抽出した。アンケート内容は、「痙縮筋に対する筋力増強運動」について(1)現在の認識(2)実施程度(3)実施適応を判断する際の考慮点、(4)実施方法(5)実施しないと回答した者に対する理由(6)学生時代に受けた教育内容(7)学生時代から現在での認識変化の有無とそのきっかけや内容(8)学生指導時の内容(9)職場スタッフ間での共通認識の有無(10)根拠追求・ガイドライン作成の必要性の有無(11)脳卒中と脳性麻痺や頚髄損傷による筋力増強運動方法の違いの有無(12)回答者の属性など、計12項目を無記名の郵送法で調査した。

    【結果】
    有効対象者数は428人、回答者数は221人(回収率51.6%),平均経験年数は13.7±8.3年であった。「痙縮筋に対する筋力増強運動」について学生時代に受けた指導内容は、肯定的な回答が31.2%、否定的な回答が45.3%、学んでいないとの回答が19.5%であった。しかし、現在の認識については肯定的な回答が79.2%と学生時代に比べ2倍以上に増加していた。一方、実際の実施程度については、痙縮筋を有する対象者の半数以上に実施しているとの回答が57.0%であり、必要性の認識に比べて実施率は低かった。さらに、現在、肯定的な認識を持つ者でも28.2%は実施に消極的な回答を示した。また、職場スタッフ間の共通認識の有無についての問いに対しては、有りと回答した者は21.3%であった。根拠の追及やガイドラインの作成は80.5%の者が望んでいた。

    【考察】
    わが国の理学療法士においては、「痙縮筋に対する筋力増強運動」について学生教育、さらには臨床現場において統一した認識が得られていない現状にあった。今後、十分な根拠追及とともに、わが国におけるガイドラインの作成が必要と考えられた。
  • 丸岡 弘, 小牧 宏一, 井上 和久, 須永 康代, 荒木 智子, 鈴木 陽介, 森山 英樹, 久保田 章仁, 田口 孝行, 西原 賢, 原 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 86
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、酸化ストレス度は簡易測定法の進歩により容易に計測が可能となった。この方法を用いた酸化ストレス度は、マラソンなどのスポーツにより有意に増加することが報告されている。しかし、筋力負荷と酸化ストレス度との関連について検討した報告は少ない。そこで、今回は筋力負荷が酸化ストレス度に及ぼす影響、特に異なる3種類の筋力負荷との関連について検討した。【方法】対象は健康成人18例(男性12例、女性6例、平均22.8±5.8歳)。酸化ストレス度は指尖より採血した毛細管液を(採血は医師担当)、活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を用いて簡易測定法(d-ROM test)により測定した。計測は安静時(RE)、筋力負荷終了直後(P1)、負荷終了より30分後(P2)に行った。筋力負荷は多用途筋機能評価訓練装置(酒井医療社製BIODEX SYSTEMS3)を用いて、右膝に対して求心性収縮60度/sec(K1)、求心性収縮120度/sec(K2)、遠心性収縮60度/sec(K3)をいずれも10回×5セット実施し、膝伸展筋力体重比を求めた。なお、筋力負荷中はカフ法による自動血圧計を用いて血圧や心拍数を測定し、二重積(RPP)を求めた。統計学的処理は、分散分析と多重比較検定を用い有意水準を5%未満とした。被験者にはヘルシンキ宣言に則り、研究の目的や手順を説明して署名による同意を得た。【結果】酸化ストレス度は、K1がP1:270±43、P2:273±41、P3:275±49、K2がP1:270±45、P2:276±38、P3:280±48、K3がP1:271±51、P2:279±52、P3:281±71(いずれもU.CARR)となり、有意な変化を認めなかった。しかし、K3の被験者の中にはREの時点で正常またはボーダーラインであったのに対して、P1またはP2の時点では中等度や強度酸化ストレス度に変化を認めた(男性3例、女性1例)。血圧や心拍数、RPPにおいては、REとP1を比較するとK2の血圧のみ変化を示さなかったが、他の項目では有意差を認めた。なお、膝伸展筋力体重比においては、3種類の筋力負荷法の間に有意差を認めなかった。【考察】今回の結果より、3種類の筋力負荷法では酸化ストレス度の変化を認めなかったことから、筋力負荷によって抗酸化物質が増加する可能性が考えられた。しかし、K3の被験者の中には、酸化ストレス度の大幅な増加を示したことから、遠心性収縮の筋力負荷では筋肉や他臓器の活性酸素による障害発生の可能性が考えられた。今回、酸化ストレス度と血圧などの生理学的指標には関連性を認めなかったことから、先行研究と同様な結果を示した。【まとめ】酸化ストレス度は、3種類の筋力負荷による有意差を認めなかった。また、酸化ストレス度と血圧などの生理学的指標には関連性を認めなかった。

  • 村上 雅仁, 加藤 順一, 前田 慶明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 87
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、四肢同時血圧測定による脈波伝播速度(Pulse wave velocity:PWV)検査が開発され、動脈壁硬化度の診断の指標として幅広く臨床応用されている。本研究の目的は、片麻痺を伴う脳卒中患者を対象にbrachial-ankle PWV (baPWV)を入退院時に測定し、麻痺および非麻痺側baPWVの変化をみるとともに、身体活動量の改善がbaPWVに及ぼす影響について検討した。
    【方法】対象は、片麻痺を伴う脳卒中患者51例とし発症から29±17日が経過していた。これらの患者を対象に、理学療法士による患者個々にあわせた理学療法による理学療法を1日40分間、週5日実施した。理学療法による理学療法の平均期間は 63±22日であった。その期間前後で麻痺側および非麻痺側の上下肢においてbaPWVと上下肢の血圧比(ankle-brachial index:ABI)をformPWV/ABI にて測定し比較検討した。また、身体活動量を機能的自立度評価(Functional independence measure:FIM)実施した。またFIMの運動項目における改善度(ΔFIM)とbaPWVの変化(ΔbaPWV)との関連性について検討した。被検者は、本研究の趣旨と内容について説明を受け同意のもと参加した。理学療法前後のbaPWVの比較についてはWilcoxson順位和検定を、麻痺側と非麻痺側のbaPWVの比較についてはStudent’s t-testにより、またΔFIM とΔbaPWVとの関連についてはPearson’s correlation coefficientを用いて統計学的検討を行い5%未満を有意とした。
    【結果】理学療法前後の期間で比較すると麻痺側および非麻痺側のbaPWVは有意に低下した。また理学療法期間の前および後で麻痺側と非麻痺側baPWVを比較すると、両時期において麻痺側baPWVは有意に高かった。一方、麻痺側および非麻痺側のABIは変化を認めなかった。また、理学療法前後の期間で血清総コレステロール値は有意差を認めず、これに対してFIM運動項目の値は有意に上昇した。ΔFIMと麻痺側ΔbaPWVおよび非麻痺側ΔbaPWVとの両者の間には有意に正相関を示した。
    【考察】今回の研究より非麻痺側と比較して麻痺側baPWVが有意に高値を示し、理学療法後には麻痺側および非麻痺側baPWVが有意に低下したことは、特記すべき点と考えられる。このことは、脳卒中発症からの経過時期からみてベッド上臥床からの状態から、理学療法により日常生活動作および身体活動量の増加にともない、脳卒中患者における大血管の動脈ステイフネスの改善につながったものと考えられる。
  • 水越 愛, 伊藤 聖, 高松 直子, 和泉 唯信, 梶 龍兒
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 88
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】筋萎縮性硬化症(以下ALS)の治療薬としてリルゾールが世界的に認可されているが、近年様々な治験が進行しており、ビタミンB12</sub>誘導体であるメチルコバラミンもその一つである。ALSは病気の進行により自律神経障害と関連した突然死の報告があり、リハビリテーション実施上自律神経障害に対しても注意が必要である。今回、メチルコバラミン療法前後で、交感神経皮膚反応sympathetic skin response(以下SSR)を用いて、効果について検討を行った。
    【対象及び方法】対象は、当院にメチルコバラミン大量療法目的で短期入院されたALS患者男性6名、女性3名の計9名。罹病期間、平均28.1ヶ月で、平均年齢51.0±9.5歳、重症度分類(厚生労働省特定疾患神経変性疾患研究班)のステージ2が5名、ステージ3が3名、ステージ4が1名である。メチルコバラミン投与前と、14日間の投与終了後で、SSR、正中神経、尺骨神経のCMAP、MCV、SCVの測定を行った。SSR測定は、右手根部正中神経刺激を加え、両手掌より1回毎の反応を記録し計4回記録した。得られた波形について潜時と振幅を計測し、最短潜時、平均潜時、最大振幅、平均振幅を求め投与前後で比較した。CMAPにおいては遠位部刺激での振幅を比較した。
    【結果】SSRでは、最短潜時は投与前1.49±0.09秒から投与後1.34±0.25秒、平均潜時1.60±0.12秒から1.47±0.22秒と、メチルコバラミン投与後有意に短縮していた。最大振幅は2.38±0.95mVから2.22±1.18mV、平均振幅1.75±0.93mVから1.50±0.86mVとやや低下傾向だった。正中神経遠位刺激での振幅は5.07±5.01mVから4.34±5.26mVと低下。尺骨神経遠位刺激での振幅は3.72±3.04mVから3.93±3.53mVとやや上昇傾向だった。正中神経のMCVは、57.8±5.1m/sから54.4±3.9m/s、SCVは55.1±5.6m/sから53.0±4.6m/s。尺骨神経のMCVは、54.0±4.7m/sから55.6±6.2m/s、SCVは52.3±3.3m/sから48.0±4.4m/sだった。
    【考察】ALSでは、長期生存例で自律神経障害を呈し、突然死に関連していると言われる。ALSで、SSRの最短潜時は疾病の罹病期間と正の相関を示したとの報告がある。今回は、施行前SSR潜時延長は著明でなかったが、罹病期間が短ったためと思われる。メチルコバラミンは、長期的な効果として、呼吸器使用までの期間、生存期間延長が知られているが、短期的な自律神経への効果は明らかでない。私たちの結果からは、SSRの潜時が短縮し自律神経へも効果がみられた。これは、メチルコバラミンの短期的な効果が反映した可能性がある。ALSの自律神経障害に配慮することはリハビリテーション上重要と思われ、メチルコバラミン大量療法の効果が期待されると考えられた。

  • 日比野 至, 沖田 実, 井上 貴行, 坂野 裕洋, 細 正博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 456
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋内に含有するコラーゲンは,基底膜を構成するタイプIVアイソフォームを除けば,タイプI・IIIアイソフォームが主であり,その組織含有比率は骨格筋のコンプライアンスを決定する上で重要である.また,遅筋と速筋でもその組織含有比率は異なることがいくつかの先行研究で報告されている.一方,関節の不動化や微少重力環境を暴露された骨格筋では,筋線維萎縮が惹起されるだけでなく,コラーゲンもその環境に適応するために量的・質的に変化することが知られている.そして,このようなコラーゲンの変化の一つにコラーゲンタイプアイソフォームの組織含有比率が変化することが考えられるが,この点について検討した報告は少ない.そこで,本研究ではラットの足関節を最大底屈位で不動化したモデルを用い,不動1,3週後のラット下肢筋におけるコラーゲンタイプI・IIIアイソフォームの組織含有比率について検討することを目的した.
    【方法】実験動物は8週齢のWistar系雄性ラット(20匹)で,無作為に10匹ずつ両側足関節を最大底屈位でギプスを用いて不動化する不動群と無処置の対照群に振り分けた.そして,不動期間は1週(5匹),3週(5匹)とし,対照群は9週齢(5匹),11週齢(5匹)まで通常飼育した.各不動期間終了後は,主に遅筋で構成されるヒラメ筋と速筋で構成される足底筋を検索材料に供し,SDS-PAGE電気泳動法にてコラーゲンタイプI・IIIアイソフォームを同定した.そして,タイプIアイソフォームに対するタイプIIIアイソフォームの組織含有比率(以下,III/I比率)を求め,不動の影響を検討した.なお,本実験は星城大学が定める動物実験指針に準じ行った.
    【結果】ヒラメ筋におけるIII/I比率は,9週齢,11週齢の対照群ともに約70%であったが,不動1週後では92%,3週後では100%と対照群より有意に高値を示した.一方,足底筋におけるIII/I比率は,9週齢,11週齢の対照群ともに約50%であり,不動1週後では20%と有意に低値を示した.しかし,不動3週後は50%となり,対照群と有意差を認めなかった.
    【考察】今回の結果から,ヒラメ筋と足底筋は正常な場合でもコラーゲンタイプI・IIIアイソフォームの組織含有比率が異なり,前者はタイプIIIアイソフォームの含有比率が高く,後者はタイプI・IIIアイソフォームの含有比率が同程度であった.このことは,遅筋と速筋といった筋線維タイプの違いが影響していると思われ,筋線維タイプに由来した機能の違いが関係していると推察される.また,ヒラメ筋,足底筋ともに不動によってコラーゲンタイプI・IIIアイソフォームの組織含有比率が変化し,その傾向は筋線維タイプによって異なることが示唆された.そして,不動によるこのような変化は線維化や拘縮など,コラーゲン由来の病態と関連している可能性があり,今後検討を要する点である.
  • 松崎 太郎, 細 正博, 渡邊 晶規, 立野 勝彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 457
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    関節拘縮は,臨床において理学療法の治療対象となる事が多い。実験的に動物の関節に拘縮を作成し,その回復過程を組織学的に調査したものは諸家の報告がなされているが、治療による改善についての組織学的検討はこれまでほとんどなされていない。そこで今回,ラット膝関節拘縮モデルを用いて、拘縮作成後固定を外した状態で自由運動および可動域運動を行い、関節軟骨の変化を観察した。

    【方法】
    対象として9週齢のWistar系雄ラット27匹(体重240g&#12316;280g)を用いた。対象を対照群(n=5)、2週固定群(n=10)、非治療群(n=8)、治療群(n=4)の5群に分けた。麻酔下にて左後肢を膝関節最大屈曲位にて固定,足関節は固定の影響が及ばないように留意して飼育し、膝関節屈曲拘縮モデルを作製した。非治療群はギプス解除直後から制約を加えることなく2週間飼育し,治療群はギプス解除から2週間可動域運動を施行した。
    固定期間中,右後肢は自由とし,ラットはケージ内を移動でき,水,餌は自由に摂取可能であった。固定期間中は創と浮腫の予防に留意し,また外れた場合には速やかに再固定を行った。ギプス解除直後に膝関節伸展可動域を測定し,エーテル麻酔で安楽死させた後に,股関節を離断し標本として採取した。採取した後肢をホルマリン液にて組織固定後に脱灰し,膝関節の切り出しを行った後に中和,パラフィン包埋を行い,ヘマトキシリン・エオジン染色、トルイジンブルー染色を行ない光学顕微鏡下で関節構成体を病理組織学的に観察した。

    【結果】
    膝関節可動域は実験開始時には差は見られなかったが,2週間の関節固定により実験終了時では対照と比較して約30゜の伸展制限が生じ、その後の2週間の飼育期間後では可動域制限は10度程度残存していた。病理組織学的観察では,実験側において軟骨を覆うように滑膜様組織(あるいは肉芽組織)が増生しており、軟骨のトルイジンブルー染色性が低下していた。非治療群、治療群においても同様の変化が残存していた。

    【まとめ】
    非治療群、治療群の両者で可動域制限は回復傾向を示したものの、組織学的に軟骨の病態は改善傾向を示さず、軟骨に対する治療効果は確認できなかった。
  • 阪本 誠, 細 正博, 松崎 太郎, 立野 勝彦, 吉田 信也, 荒木 督隆, 上條 明生
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 458
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法の治療手技の中に神経モビライゼーションがあり、関節可動域制限を改善する目的で用いられている。神経の運動性、滑走性は神経上膜にあるとされ、この部分に対するアプローチにより治療効果を上げるとされるが、その妥当性、有効性についての検討は臨床経験にのみ基づいており、医学的エビデンスはない。そこで今回、ラット膝関節拘縮モデルと正常群を比較し、坐骨神経の神経上膜の組織学的変化を光学顕微鏡を用いて観察した。

    【方法】対象として9週齢のWistar系雄ラット18匹(体重240g~280g)を用いた。ラットを麻酔後、アルミ製金網で自作した固定用ギプスを用いて左後肢を膝関節最大屈曲位にて固定し、股関節と足関節は固定の影響が及ばないように留意した。その後、2週間飼育し、膝関節屈曲拘縮モデルを作成した。右後肢は自由とし、正常コントロールとして用いた。ラットはケージ内を自由に移動でき、水、餌は自由に摂取可能であった。固定期間中は創と浮腫の予防に留意し、また固定用ギプスが外れた場合には速やかに再固定を行った。固定解除後にエーテル深麻酔で安楽死させ、両下肢を股関節より離断し標本として採取した。固定、脱灰を行った後に大腿骨の中間部にて大腿骨に垂直に切断し、大腿部断面標本を採取した。その後中和、パラフィン包埋を行い、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下で坐骨神経の神経上膜を病理組織学的に観察した。

    【結果】神経上膜に相当する部分には、脂肪組織と疎性結合織、血管などが観察された。2週間固定群ではコントロール群に比べ、神経上膜の脂肪細胞の萎縮と疎性結合織の密性結合織への変化を観察し、さらに肥厚した神経周膜と連続する像が観察された。

    【まとめ】神経の運動性、滑走性が神経上膜の柔軟性に依存しているとするなら、今回坐骨神経の神経上膜に認められた変化によりその柔軟性が低下したと考えられ、神経上膜における神経の運動性、滑走性の低下を来した可能性が示唆された。
  • 荒木 督隆, 細 正博, 松崎 太郎, 立野 勝彦, 吉田 信也, 阪本 誠, 上條 明生
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 459
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】神経モビライゼーションによる治療において、神経の動きが見られるとされているが、実際にはどの部分を動いているのかは不明である。
    今回の研究の目的は、ラット膝関節拘縮モデルを用いて神経モビライゼーションによる神経の動きと神経上膜組織との関係を病理組織学的に観察することである。

    【方法】対象として9週齢のWistar系雄ラット18匹(体重240~280)を用いた。対象を麻酔後、アルミ製金網で自作した固定用器具を用いて左後肢を膝関節最大屈曲位にて固定し、股関節と足関節は影響が及ばないように留意した。その後2週間飼育し、膝関節屈曲拘縮モデルを作成した。固定期間中、右後肢は自由とし、ラットはケージ内を移動でき、水、餌は自由に摂取可能であった。固定期間中は創と浮腫の予防に留意し、また外れた場合には速やかに再固定を行った。ギプス固定解除直後に膝関節伸展可動域を測定し、エーテル麻酔で安楽死させた後に、股関節より離断し標本として採取した。固定、脱灰を行った後に大腿骨の中間部にて大腿骨に垂直に切断し、筋標本を採取した。その後中和、パラフィン包埋を行い、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下で座骨神経周囲組織を病理組織学的に観察した。

    【結果】ラット膝関節拘縮モデルにおいて神経上膜組織の肥大化および周囲脂肪組織の萎縮が画像所見により確認できた。また、対象群では神経束間に空間があり神経上膜組織や脂肪組織に拘縮モデルで見られたような異常が見られないことが確認できた。

    【まとめ】今回の実験により2つの群の組織おいて画像所見に著明な相違が見られたことにより、神経モビライゼーションでは神経束間に存在する空間を動くものと考えられることが示唆された。
  • 吉田 信也, 細 正博, 松崎 太郎, 立野 勝彦, 荒木 督隆, 上條 明生, 阪本 誠
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 460
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】関節可動域制限を改善する理学療法の治療手技の一つとして神経系モビライゼーションがあり,一般的に行われている.しかし,長期不動に伴う関節拘縮時の神経および神経周囲組織にどのような変化が起こっているのかは不明であり,かつ神経系モビライゼーションの効果,有効性についての組織学的エビデンスは演者が検索した限りではない.そこで本研究では,ラット膝関節拘縮モデルを用い,坐骨神経周囲にどのような変化が見られるかを光学顕微鏡下で観察した.

    【方法】対象として9週齢のWistar系雄ラット18匹(体重240g~280g)を用いた.ラットを麻酔後,アルミ製金網で自作した固定用ギプスを用いて左後肢を膝関節最大屈曲位にて固定し,股関節と足関節は固定の影響が及ばないように留意した.その後,2週間飼育し,膝関節屈曲拘縮モデルを作成した.右後肢は自由とし,正常コントロールとして用いた。ラットはケージ内を自由に移動でき,水,餌は自由に摂取可能であった.固定期間中は創と浮腫の予防に留意し,また固定用ギプスが外れた場合には速やかに再固定を行った.固定解除後にエーテル深麻酔で安楽死させ,両下肢を股関節より離断し標本として採取した.固定,脱灰を行った後に大腿骨の中間部にて大腿骨に垂直に切断し,大腿部断面標本を採取した.その後中和,パラフィン包埋を行い,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下で坐骨神経周囲組織を病理組織学的に観察した.

    【結果】コントロール群では坐骨神経束は神経周膜と遊離する傾向にあり,神経周囲腔が観察された.2週間固定群では,神経束と神経周膜は密着する傾向を示し,神経周膜の線維性肥厚を認めた.

    【考察】コントロール群で観察された神経周囲の空所は標本作成上の人工像である可能性が高いが,神経束と神経周膜の間の神経周囲腔が接着性を示さず遊離していることが示唆された.2週間固定群では両者が密着し,神経周膜の肥厚を認めたことから,2週間固定により神経周囲の柔軟性,滑走性が低下した可能性が示唆された.

  • 萩原 竜佑, 井上 貴行, 原田 裕司, 沖田 実, 鈴木 重行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 461
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】われわれはこれまで、ラット足関節を4週間ギプス固定した後にギプスを除去し、1週間再荷重を行うとヒラメ筋に筋線維損傷が発生することを報告してきた。しかし、この筋線維損傷が再荷重後のいつの時期から発生するのかはこれまで明らかにできていなかった。さらに、1週間の再荷重期間に1日30分間、ヒラメ筋に間歇的伸張運動を行うと筋線維損傷の発生が抑制されることも報告してきたが、この伸張運動の効果についても再荷重後のいつの時期から認められるのか不明である。そこで、本研究ではギプス固定除去後の筋線維損傷の発生状況を経時的に捉え、筋線維損傷に対する伸張運動の影響を検討することを目的とした。
    【方法】Wistar系雄性ラットを無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定する実験群に振り分け、実験群はさらに1)固定のみの群(固定群)、2)固定終了後にギプスを除去し、1、2、3、5、7日間通常飼育する群(通常飼育群)、3)固定終了後にギプスを除去し、1、2、3、5、7日間ヒラメ筋に間歇的伸張運動を行う群(運動群)に振り分けた。運動群には小動物用他動運動機器を用い、その日の足関節最大背屈角度から底屈方向へ40°の範囲において、4秒に1回のサイクルの足関節底背屈運動を麻酔下で1日30分間、固定除去直後から実施した。筋線維損傷の発生状況は各群の実験終了後ヒラメ筋を採取し、正常筋線維数に対する壊死線維数の割合を求め、経時的に検討した。なお、本実験は名古屋大学医学部動物実験倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】対照群にはほとんど認められない壊死線維が固定群に散見されたのに対し、通常飼育群ではその発生が顕著であった。壊死線維数の割合は固定終了後1、2、3、7日目において固定群に比べ通常飼育群が有意に高値を示し、特に、固定終了後1日目に顕著であった。一方、運動群は通常飼育群より壊死線維の発生が軽度で、特に、固定終了後1,2日目において通常飼育群よりも壊死線維数の割合は有意に低値を示した。
    【考察】今回の結果から、ギプス固定除去後に再荷重を行うと筋線維損傷が発生することは明らかとなった。また、この筋線維損傷の発生は固定終了後1日目に著明であり、ギプス固定を除去し、再荷重を開始した直後に筋線維損傷が発生したためと推測される。一方、伸張運動は再荷重による筋線維損傷の発生を抑制する効果があり、この効果は再荷重後1日目から認められた。したがって、固定除去直後の再荷重前に伸張運動を行うことで、伸張運動による何らかのシグナルが筋線維損傷の発生防御として作用していた可能性がうかがわれ、今後はこの点に関するメカニズムを解明していきたい。

  • ラット尖足拘縮モデルを用いた検討
    井上 貴行, 原田 裕司, 沖田 実, 高橋 裕司, 萩原 竜佑, 鈴木 重行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 462
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】これまでに、伸張運動は拘縮や廃用性筋萎縮の治療に有効であると報告されている。しかし、伸張運動は大別すると間歇的および持続的伸張運動があり、拘縮と廃用性筋萎縮の治療においてはいずれの方法が有効であるか明らかでない。そこで、本研究ではラットの尖足拘縮モデルを用いて、間歇的および持続的伸張運動が関節可動域制限の改善とヒラメ筋の病理組織学的変化におよぼす影響を比較検討することを目的とした。
    【方法】Wistar系雄性ラットを無処置の対照群と両側足関節を最大底屈位で4週間ギプスで不動化する実験群に分け、実験群は1)不動のみの群(不動群)、2)不動終了後にギプスを除去し1、2週間、通常飼育する群(自然回復群)、3)不動終了後に1、2週間、間歇的伸張運動を行う群(間歇群)、4)不動終了後に1、2週間、持続的伸張運動を行う群(持続群)に分けた。間歇的伸張運動は小動物用他動運動機器を用い、4秒に1回のサイクルで、その日の足関節最大背屈角度から底屈方向へ40°の範囲で行い、持続的伸張運動は足関節最大背屈位を保持するように機器を停止させ実施した。各々の伸張運動は1日30分、週6回行った。次に、足関節背屈可動域は全群とも不動期間終了後に、さらに不動群以外は不動終了後1、2週目にも測定した。また、各群の実験終了後はヒラメ筋を採取し、病理組織学的検討を行った。なお、本実験は名古屋大学医学部動物実験倫理委員会の許可を得て行った。
    【結果】足関節背屈可動域制限は不動によって実験群の全てに同程度発生したが、自然回復群、間歇群、持続群において不動終了後1、2週目に改善を示した。また、間歇群、持続群は自然回復群より可動域制限の改善が良好で、この2群間には有意差を認められなかった。筋線維横断面積はタイプ I・II線維とも対照群に比べ不動群が有意に低値で、自然回復群、間歇群、持続群の3群は不動群より有意に高値を示した。また、この3群を比較すると、不動終了後1週目のタイプI線維は持続群が最も高値で他の2群と有意差を認め、タイプII線維は間歇群、持続群が自然回復群より有意に高値を示した。一方、不動終了後2週目はタイプ I・II線維ともに間歇群が最も高値で他の2群と有意差を認めた。さらに、不動終了後1週目の壊死線維の出現状況は間歇群、持続群、自然回復群の順に少なく、各々の群間に有意差を認めたが、不動終了後2週目はこの3群間に有意差を認めなかった。
    【考察】今回の結果から、間歇的および持続的伸張運動は、関節可動域制限の改善にともに有効で、その効果に違いがないと推察された。一方、間歇的伸張運動は壊死線維の発生が最も少なく、不動終了後2週目における筋線維萎縮の回復促進効果も顕著であることから、廃用性筋萎縮の治療においては持続的伸張運動よりも間歇的伸張運動が有効であると推察された。

  • 雨夜 勇作, 玄番 央恵, 中尾 和子, 松崎 竜一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 463
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】首を回転する前の大脳皮質の活動は未だ明らかではない。玄番らはサルに自発性に手でレバー上げを行わせ、大脳皮質フィールド電位を対電極(表面電極と深部電極)で記録・解析し、運動に約1秒先行する表面-陰性、深部-陽性の緩電位が運動前野、運動野、体性感覚野および頭頂連合野に出現し、これらの皮質領野が手の運動準備に関わることを報告している。そこで我々はサルを訓練して自発性頚部水平回転運動を行わせ、対電極を用いて大脳皮質フィールド電位を記録・解析し、首を回転する前の大脳皮質の活動を調べた。
    【材料と方法】3頭のサルを手術し、前頭前野、運動前野、運動野、体性感覚野及び頭頂連合野の大脳皮質の表面と表面から2.0~3.0mm深部に電極を埋め込んだ。その電極を用い、サルが自発性頚部水平回転運動を行う際の大脳皮質フィールド電位を記録した。回転運動の軌跡はローターリーエンコーダーというトランスヂューサーを介して記録し、頚部を自発的に左(或いは右)へ5°以上回転すると、成功報酬を得るように設定されている。大脳皮質フィールド電位は通常、運動開始時点で各セッション(100回)on-lineで平均加算したが、off-lineで運動速度別(Slow:<88°/s; Middle:88-132 °/s; Fast:> 132°/s)検討を行う際は、各セッション(300回以上)on-lineで平均加算した。運動速度と各脳部位における準備電位(表面電位マイナス深部電位として)の運動開始時電位振幅(A)及び運動前電位面積(B:A以前の基線と電位軌跡に囲まれた領域)の有意差検定にMann-Whitney検定とt検定を用いた。
    【結果及び考察】サルの頚部水平回転運動に約1秒先行する、表面-陰性、深部-陽性の運動準備電位が、運動方向と対側および同側の大脳半球の運動前野、運動躯幹領野、体性感覚躯幹領野に出現し、さらに頭頂連合野の頭頂間溝前壁及び後壁にも出現した。一方、サルの頭頂連合野の一部に前庭神経核からの平衡感覚入力があるとの報告もあるので、頭頂間溝の前壁(5野)及び後壁(7野)に着目して、両側の5野及び7野の合計4部位それぞれにおける、4日間の速度別準備電位のA及びBの1セッションあたりの平均値と標準偏差の平均を左方及び右方回転毎に計算し、有意差検定を行った。その結果、運動開始時電位振幅(A)は左右何れの回転でも4部位において速度増大と共に有意に増大した(P<0.02)。運動前電位面積(B)は3部位では速度増大と共に有意に増大した(P<0.056)が、1部位は有意とは言えないが速度増大と共に増大した。他方、同様の検討を運動前野、運動野、体性感覚野において行ったが、速度との間に特定の関係は認められなかった。以上から、後部頭頂皮質は頚部水平回転運動の予測性速度制御に関与することが判明した。
  • 刺激部位差とその機序の検討
    戸田 寛子, 丸山 仁司, 黒澤 美枝子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 464
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】リハビリテーションでは,触,圧,温熱,寒冷などの体性感覚刺激を加えることにより,組織血流の改善,筋緊張の改善,疼痛抑制などの効果を得ている.しかしこれらの科学的根拠は乏しい.したがって体性感覚刺激によって起こる各種反応並びにその機序を明らかにしていくことはリハビリテーションの基礎を確立することになる.我々はこれまで,皮膚への非侵害性刺激(Brushing)によりラットの脊髄血流が増加することを明らかにしてきた.そこで本研究では侵害性刺激であるPinching刺激による脊髄血流反応とその機序を検討することを目的とした.

    【方法】実験には麻酔した人工呼吸下のラットを用いた.脊髄血流の測定にはレーザードップラー法を用い,L4-6髄節の左側背側面にプローブを置いた.刺激には外科用鉗子を用い,同側(左)の後肢足蹠(HP:脊髄血流測定分節に入力する刺激)ならびに前肢足蹠(FP)を30秒間Pinchingした.また血流反応に影響する血圧を右頚動脈より測定した.そして血圧の効果を除外し,血管径の状態を検討するためにコンダクタンス(=BF/MAP)を指標とした.また血圧反応を含めた交感神経の影響を除外するため,交感神経α受容体遮断薬であるフェノキシベンザミンを静脈内投与し,交感神経の関与を検討した.さらに第1-2頚髄間で脊髄を切断したラットでも検討した.なお本研究は国際医療福祉大学動物実験研究倫理審査委員会の承認のもとに行った.

    【結果】HPおよびFPへのPinching刺激によって脊髄血流は増加した.同時に血圧も増加した.血圧の増加に部位差は認められなかったが,脊髄血流の増加は,HP刺激の方が有意に大きかった.このときのコンダクタンスはFP刺激時のみ有意に減少していた.フェノキシベンザミン投与下および脊髄切断下では,血圧の反応は著しく減弱し,脊髄血流はHP刺激によってのみ増加した.またコンダクタンスもHP刺激時のみ有意に増加した.

    【考察】脊髄無傷の場合,両刺激共に血圧の増加反応が同じであったことから,脊髄血流反応の違いには血管径が関与していると考えられた.脊髄無傷の場合,FPを刺激すると,上位中枢を介して交感神経が脊髄血管を収縮させたと考えられた.しかし,結果的には収縮による血流減少よりも,血圧による効果が勝り,脊髄血流が増加したことが示唆された.一方HPを刺激すると,FP刺激時と同様の反応のほか,脊髄レベルで拡張因子が働くことが示唆され,血管径が変化しなかったと考えられた.そのためHP刺激の方が,血圧の影響を大きく受け,脊髄血流の反応が大きかったと考えられた.

    【まとめ】FPへのPinching刺激によって血圧依存性に脊髄血流が増加した.一方,HPへのPinching刺激によって起こる脊髄血流の増加には,血圧依存性の機序のほかに,脊髄分節性の拡張因子を介した機序が関与していると考えられた.
  • 小形 晶子, 八田 京子, 栢原 哲郎, 三木 明徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 465
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】褥瘡は長期臥床者や、脊髄損傷や糖尿病による末梢神経障害などを持つ患者に多く発生し様々な治療が行われているが、有効な治療法は確立されていない。物理療法や運動療法などは褥瘡の予防や治療法の1つとして効果が期待されているが、まだ十分な検証は行われていない。我々の研究グループで神経再生や脱神経による筋の廃用性萎縮に関する実験を行ったところ、坐骨神経を挫滅または切断したマウスでは、高頻度に足底踵部に褥瘡様の皮膚傷害が観察された。そこで今回、マウスの坐骨神経を切断し姿勢や歩行を観察するとともに、損傷が生じた足底踵部皮膚を光学顕微鏡で観察し、皮膚損傷の原因を調べた。
    【方法】ddY系雄マウスを6匹使用した。麻酔した後、左坐骨神経を大腿中央部付近で切断した。坐骨神経切断5日後と7日後に、マウスをアクリル製ケースに1匹ずつ入れ、底面と側面から静止時と歩行時の左右の足底の接地状態をデジタルビデオカメラを用いて記録し足底皮膚を撮影した。その後マウスを4%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドの混液で灌流固定して足底踵部の皮膚を採取し、1%四酸化オスミウム溶液で後固定しエポキシ系樹脂に包埋した。厚さ1μmの皮膚横断切片を作製し1%トルイジンブルーで染色した後、光学顕微鏡にて観察した。
    【結果】マウスの姿勢と歩行の観察では、健側の足底踵部は静止時でも歩行時でも常に床から離れているが、坐骨神経切断側では足底踵部は常に床に接地しており常時圧迫された状態になっていた。切断後5日目頃から切断側の足底踵部に皮膚の発赤や表皮の剥離が始まり、7日後では足底全体に顕著な腫脹が見られた。光学顕微鏡で観察すると、切断後7日目には最も圧迫される部分の表皮層で膨化変性した細胞が観察された。また、健側の同部位に比べて表皮や真皮が肥厚し、線維芽細胞が増加しており、トルイジンブルーに濃染される小型球形細胞が多数認められた。
    【考察】マウスの足底踵部は表皮が薄く、皮下組織も少ない有毛型皮膚で通常では接地しない部位である。坐骨神経切断によって下肢の骨格筋が麻痺し、この部位に体重がかかり摩擦や衝撃も加わるようになることが、高頻度で皮膚損傷が起こる主な理由であると思われる。神経切断後の表皮層の膨化変性した細胞は、圧迫によって表皮細胞が壊死に陥ったものと考えられる。真皮全層に見られた小型球形細胞はマクロファージや好中球、リンパ球などの炎症性細胞であろうと思われる。これらの形態学的変化は褥瘡でみられる病変と非常によく似ていた。今回の実験で行った方法は、これまで提唱されている褥瘡モデルと異なり、皮膚損傷を作る部位には人為的処置を加えていないことから、神経傷害を持つ患者に起こりやすい褥瘡の発症プロセスにより近いモデルであり、褥瘡の発生機序や治療効果を検証する上で、1つの実験モデルとして利用できる可能性がある。

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