理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 戸田 成昭, 重田 暁, 花田 紀子, 阿部 宙, 阿部 均
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 875
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    我々は第41回日本理学療法学術大会において、BIODEX社製stability system(以下、BDX-ST)を用いて、一定期間中に同一被験者に対し開眼(open:O)および閉眼(close:C)条件にて各3段階(難易度の低い順に8、7、6)の計6回の測定について、各条件下での組み合わせにより段階順(O8、O7、O6 、C8、C7、C6:連続)と開眼-閉眼交互順(O8、C8、O7、C7、O6 、C6:交互)の2種類の測定方法に分けてバランス機能の評価を試み、初回と二回目および測定方法による差はないことを報告した。しかし臨床でBDX-STを使用するには測定時間が長く、特に開眼での難易度に差がみられなかったことから、今回より簡便な測定方法を検討する目的で、難易度を2段階に削減した方法の有用性について検討した。
    【方法】
    研究の趣旨についての説明を受け同意を得た健常者20名(男性10名、女性10名、年齢22±2.0歳、身長166.7±10.5cm、体重60.0±8.9kg)を対象とした。測定はBDX-STのDynamic Balance Testを用い、開眼および閉眼条件にて各2段階(難易度8、6)の計4回の測定を、前回同様に開眼で連続2段階行った後閉眼で行う方法(O8、O6、C8、C6:連続)と、開眼・閉眼を交互に行う方法(O8、C8、O6、C6:交互)との2つの測定方法で、3日以上7日以内の間隔のうちにそれぞれ測定をした。また、どちらを先に行うかは無作為に選択した。なお、統計処理は、測定中に機器に触れたものを除外した全方向安定指数(以下SI)について測定方法、難易度間および前回値との比較にはt検定、除外者の頻度についてはカイ2乗検定を用い有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    全ての難易度で交互、連続の測定方法の違いによるSI値の有意差は認められず、各難易度間の比較においては、O8-O6間で有意差が認められなかったが、O6- C8、C8-C6の各間に有意差が認められた。また、年齢を合わせた前回のSI値との比較では全ての難易度で有意差を認めなかった。さらに、除外者の頻度は、O6と C8(いずれも連続)で各1名1回、C6では5名計8回(うち3名は連続、交互両方)みられたが、測定方法や前回との間には有意差を認めなかった。
    【考察】
    今回と前回の結果から、条件を3段階から2段階に削減しても測定方法および 回数の違いによる影響の差はみられず、難易度間もSI値への影響は少なかったことから、評価の精度は変わらず、難易度を2段階に削減した測定方法の有用性が示唆された。

  • 脳血管障害片麻痺患者の足関節底屈筋による検討
    竹内 伸行, 田中 栄里, 桑原 岳哉, 臼田 滋
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 876
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】Hand-held Dynamometer(HHD)を用いた他動的関節抵抗トルク(抵抗トルク)を痙縮評価指標に用いた研究報告は多いが,その妥当性に関する報告は見当たらない。痙縮は反射性要素と非反射性要素の視点で議論されるが,抵抗トルクは低速な筋伸張速度で測定されるため両要素を評価できるとは考えにくい。Modified Tardieu Scale(MTS)は複数の筋伸張速度で評価するため両要素を考慮した評価ができる。本研究の目的は抵抗トルクとMTSの関連性を明らかにし,その結果から両者の特徴を検討することである。
    【対象】趣旨と方法を説明し同意を得た脳血管障害片麻痺患者48名の麻痺側下肢49肢であった(男32名,女16名,年齢71.9±11.6歳,罹患日数798.5±1236.4日,麻痺側は右23名,左24名,両側1名[年齢と罹患日数は平均値±標準偏差])。
    【方法】抵抗トルク[Nm]は,HHD(Power Track2,Jtech Medical Industry製)のセンサーパッド中心を第2中足骨骨頭部へ接触し最大背屈に要する最小の力[N]を測定し,内果下端から第2中足骨骨頭部間の距離[m]を乗じて求めた。MTSは足関節背屈のR1(筋を素早く伸張[伸張速度V3]した際にひっかかりが生じた背屈角度),R2(筋をゆっくり伸張[伸張速度V1]した際の最大背屈角度),V1とV3による筋の反応の質(Quality of Muscle Reaction[QMR])を膝完全伸展位(伸展位)と膝90°屈曲位(屈曲位)で測定した。抵抗トルクとR1およびR2の関連はピアソンの積率相関係数r,QMR(V1とV3)との関連はスピアマンの順位相関係数rsを求めて検討した(有意水準は5%未満)。
    【結果】抵抗トルクとMTS各項目の相関係数を以下に示した。
    膝伸展位:R1はr=0.08(p>0.05),R2はr=0.18(p>0.05),V1のQMRはrs=0.02(p>0.05),V3のQMRはrs=0.18(p>0.05)であった。
    膝屈曲位:R1はr=-0.03(p>0.05),R2はr=0.11(p>0.05),V1のQMRはrs=0.13(p>0.05),V3のQMRはrs=0.13(p>0.05)であった。
    【考察】抵抗トルクとMTSの間に相関を認めず,両者は異なる概念を測定している可能性が示唆された。R1は伸張反射が生じる筋長の程度,R2は最大の筋伸張の程度を反映し,抵抗トルクは最大の筋伸張に必要な“力”を反映するという違いがある。また,QMRは関節運動の全域で測定されるが,本研究の抵抗トルクは最大背屈角度,つまり関節運動最終域付近の力を抵抗として測定し,関節運動中間域の抵抗は反映されないという違いがある。これらは両者の間に相関を認めなかった一要因と示唆された。

  • 大久保 美保, 安東 大輔, 鶴崎 俊哉, 志谷 佳久, 上野 尚子, 永瀬 慎介, 濱本 寿治, 平田 恭子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 877
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】臨床において、中枢神経疾患による筋緊張の異常は姿勢や動作による影響を受けやすく、日常生活動作や随意運動を遂行する上での障害となることが多い。また、程度も多様で個人差も大きく、各個人の動作時の筋緊張を客観的に評価する必要がある。先行研究では、Wavelet変換を用いて1)関節トルクを筋電信号から推定することができること、2)関節トルクの推定式から屈筋のトルクと伸筋のトルクとに分けることができること、3)これらの推定が同時収縮の場合と漸増抵抗の場合のいずれでも成り立つことの3点が示唆されている。本研究では片麻痺患者に肘関節の屈曲、伸展方向への等尺性収縮を行わせ、前腕に生じる力を計測し表面筋電からの実際の関節トルク値と先行研究のトルクの推定式との値を比較・分析し、運動の効率性を定量的に評価できる可能性の有無や、臨床での有効性を検討することを目的とした。

    【対象と方法】対象は片麻痺患者5名(男性3名、女性2名、平均年齢62.8±3.4歳)で、上肢のBrunnstrom stage(以下stage)が3~4(stage3が3名、stage4が2名)であった。対象者を背臥位にて患側の肩関節内・外転0度、肘関節90度屈曲、前腕90度回外位にて前腕をロードセル(以下LC)に固定し、肘関節屈筋群と肘関節伸筋群から表面筋電信号(以下SEMG)を導出した。SEMGおよびLC信号は筋電信号計測装置を経由してPCに取り込んだ。導出条件は1:安静後、2:麻痺側上肢ストレッチ後、3:非麻痺側肘関節最大随意収縮後の3条件で、漸増屈曲を5秒間かけて行い、その後、漸増伸展を5秒間かけて行った。力の強さは任意とした。SEMGとLC信号において、各条件ごとに(1)漸増屈曲(2)漸増伸展のそれぞれ5秒間を任意に抽出して0.5秒ずつに区切り10箇所の信号を分析信号とした。このSEMGからwavelet変換を用いて0.5秒間のエネルギー密度の総和(以下TPw)を算出した。LC信号より求めた関節トルクと屈筋群および伸筋群のTPwから対象者毎に回帰式を求め、関節トルクの予測値を算出し、実測値との相関を求めた。

    【結果】stage3の人では3例とも安静後は相関が得られた(p<.0001)。抵抗運動後はトルクの屈曲相、伸展相の2相性がみられず相関も低かった。Stage4の人では2例とも各条件下で相関が得られた(p<.0001)。各条件下での屈筋と伸筋の最大値を比較すると、屈筋において一方は抵抗運動後、他方はストレッチ後に最大値をとっていた。伸筋においては、一方はストレッチ後、他方は安静後に最大値をとっていた。

    【考察】stage4では関節トルクの実測値と推定値に強い相関があり、運動の効率性を定量的に評価できる可能性が示唆された。Stage3では静止時の筋緊張の状態や、与えられた環境因子に左右されやすいことが伺え、今後、これらの情報を加味して再検討することが必要であると考えられた。

  • 井上 和章, 清水 ミシェル・アイズマン
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 878
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】'Stops Walking When Talking'(SWWT) testは、歩行中の声かけに対し立ち止まるか否かで転倒リスクを予測するものだが、声かけ刺激の内容が明確にされていない。本研究の目的は、脳卒中片麻痺者に対するSWWT test実施時の適切な条件設定を明らかにすることである。
    【対象】発症後1か月以上経過した脳卒中片麻痺者32名(70.1±10.5歳、男20名・女12名、右片麻痺14名・左片麻痺18名、脳梗塞16名・脳出血16名、下肢Br.stage:III5名・IV7名・V10名・VI10名、歩行自立群17名・非自立群15名、高次脳機能障害有り16名)であった。
    【方法】SWWT testは、対象者に自分の楽なペースで歩行させ、検査者が声かけをした際の歩行停止の有無で判定した。声かけの設定条件は、以下の通りである。
    (1)声かけの種類:3種類で各2項目の質問を設定→1.意味記憶(年齢・住所)、2.エピソード記憶(直前の食事内容・服薬状況)、3.内的・外的環境への注意(体調・天候)
    (2)歩行距離:目的地を設定した場合と、10m歩行の2種類
    (3)質問の組合せ:1回の歩行で同じ種類を2項目ずつ、計3回で6項目を尋ねる組合せと、3種類を各1項目ずつで計2回尋ねる組合せの2通りとした。これを2種類の歩行距離と組合せ、1日1セッションずつで計4回実施した。
    (4)4回のセッションの順番、およびセッション内の声かけ項目の順番は全てランダム化した。
    統計処理にはSPSSver13.0Jを用い、χ2検定、Fisherの直接確率法、Mann-Whitney検定、Wilcoxon符号付順位和検定を有意水準5%にて実施し、Steel検定にはMEPHASを使用した。なお、本研究は演者所属施設の倫理委員会にて承認を得て実施した。
    【結果】性別、診断名、麻痺側、下肢Br.stage、高次脳機能障害は歩行能力の違いによる差はなかったが、年齢では有意差を認めた。歩行距離および質問の組合せに関わらず、非自立群では歩行停止が多く、歩行能力と歩行停止にはいずれも有意な関係を認めた。歩行停止数は声かけの種類により異なっており、原典記載の内的・外的環境への注意に比べ、エピソード記憶では有意に多かったが、意味記憶との差は認めなかった。また、3種類の声かけ刺激に設定した2項目の質問間で、歩行停止数に差を生じたものはなかった。
    【考察・まとめ】提唱者のLundin-Olssonらは、SWWT testにおける声かけ刺激として体調や天候に関する質問を例示しているが、二重課題という観点からすると、より難易度の高いエピソード記憶に基づいた質問が望ましいと考える。また、周囲環境に配慮すればリハ室程度の広さでも実施可能である。本テストは二重課題に基づいた歩行能力判定の一指標として、臨床場面への応用が期待されるものである。
  • 健常者・高齢者歩行自立群・高齢者歩行非自立群における検討
    阿部 洋輔, 渡辺 重人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 879
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    バランス能力の評価で一般的に用いられるFunctional reach test(以下FRT)では、前方へのリーチ動作にて、バランス能力を推測できるとされている。安定した歩行には側方へのバランス能力の重要性も示唆されているが、FRTは側方へのバランス能力を反映しないという意見もある。
    そこで今回、健常者、高齢者屋外歩行自立群(以下、高齢者自立群)、高齢者屋外歩行非自立群(以下、高齢者非自立群)で、FRTと側方リーチテストの関係性を調査した。

    【方法】
    対象は健常者17名(男性11名、女性6名、平均年齢26.7±3.8歳)、体幹・下肢に整形外科疾患を有し当院でリハビリテーション対象となっている高齢者14名(女性14名、平均年齢80.5±5.3歳)とした。また、高齢者を高齢者自立群7名(78.6±4.1歳)と高齢非自立群7名(82.4±6.0歳)の2群に分類した。
    方法は、対象に対してFRTと側方リーチ距離を測定した。FRTは、Duncanの原典に準じて行った。側方リーチテストは左右方向に行い、静止立位から測定側上肢を90度外転し、その姿勢から側方に最大にリーチさせる課題とした。また、左右の距離の長い方を側方リーチ距離とした。解析には測定したリーチ距離を身長で除した値を用いた。統計処理はピアソンの相関係数を用いて、それぞれの群のFRT値(FRT/身長×100)と側方リーチ値(側方リーチ距離/身長×100)との相関を求めた。

    【結果】
    健常者では、FRT値21.7±2.1%、側方リーチ値15.5±1.9%であり、高齢者では、FRT値11.9±3.7%、側方リーチ値6.7±2.8%であった。FRT値と側方リーチ値との相関係数は健常者r=0.75(p<0.001)、高齢者r=0.71(p<0.01)と有意な相関が見られた。
    高齢者自立群ではFRT値12.3±2.1%、側方リーチ値7.7±2.2%、高齢者非自立群ではFRT値11.5±4.5%、側方リーチ値5.7±3.0%であった。高齢者非自立群においてr=0.86(p<0.05)の有意な相関が見られたが、高齢者自立群では相関がなかった。

    【考察・まとめ】
    健常者・高齢者ともにFRT値と側方リーチ値に有意な相関が見られた。これは、FRT値が側方バランスを反映するということを表していると考えられ、FRTの側方バランス評価としての有用性を示唆する結果となった。
    しかし、高齢者自立群のみにおいて、FRT値と側方リーチ値において相関が見られず、歩行自立度判定には、側方リーチ値の測定や、他評価項目の測定の重要性があると考えられる。
    今回、歩行補助具の有無、その種類等を考慮せず歩行自立度の判断を行ったため、その影響も考慮した上で、今後検討したい。
  • 下井 俊典
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 880
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    継ぎ足歩行は, 臨床においてバランスの評価や治療に用いられている. しかし, 継ぎ足歩行を評価指標として用いる場合, その評価手順が明確でなく, その妥当性も検討されていない. そこで本研究では, 地域在住高齢女性を対象として, 5mの継ぎ足歩行テスト(以下, 5mTGT)の基準関連妥当性を検討した.

    【方法】
    対象者は, 栃木県O市の介護予防一般高齢者施策に参加した, 女性232名(73.8±5.8歳)である. 被検者に, 長さ5m, 幅5cmのテープ上を, 片側のつま先と対側の踵を離さないように歩行させ, 要した時間を測定した. また, テープ上から足部が完全に逸脱した回数をミス・ステップ数として計測した. 同時に, バランス評価として, 開眼片脚立位(以下, OLS), Functional Reach Test(以下, FRT), Timed Up & Go Test(以下, TUG)を測定した. さらに過去1年間の転倒回数と転倒予防自己効力感(以下, FPSE)を聴取した. 併存妥当性を検討するため, 5mTGT時間と各バランス評価, FPSEとの相関係数を算出した. 弁別妥当性の検討として, 転倒歴の有無別の5mTGT時間について, t検定を行った. ミス・ステップ数の弁別妥当性を検討するため, ミス・ステップ数別のOLS, FRT, TUG, FPSE, 転倒数を比較した. 統計学的手法として, ミス・ステップなし, 1・2・3・5回以上の5水準について, 一元配置分散分析の後, 下位検定としてSheffe法, およびKruskal-Wallisの検定後, 下位検定としてライアン法によるMann-WhitneyのU検定を用いた. さらに, 有意差が認められたミス・ステップ数未満・以上の2条件について, Mann-WhitneyのU検定を行った. また, いずれも有意水準はp<0.05とした.

    【結果】
    5mTGT時間と各バランス評価, FPSEとの相関係数は, -0.38~0.36を示した. また転倒歴の有無による5mTGT時間には有意差を認めなかった. ミス・ステップ数別のOLS, FRT, TUG, FPSE, 転倒数は, いずれもミス・ステップなしと同2回以上の2条件間で有意差を認めた(p<0.05). また, 全ての評価項目について, ミス・ステップ2回未満・以上の間に有意差を認めた(p<0.05~0.001).

    【考察】
    5mTGT時間については, 併存妥当性, 弁別妥当性のいずれも確認できなかった. 対して, ミス・ステップ数に関しては, ミス・ステップ2回未満・以上で, 各バランス評価との弁別妥当性を認めた. 以上のことから5mTGTでは, ミス・ステップ数を検討することで, 静的・動的バランス能力を評価できると考える.
  • 予後予測について
    菅原 恭子, 小笹 佳史, 義澤 前子, 久保 祐子, 中島 美奈, 小西 正浩, 藤井 杏美, 神原 雅典, 大橋 夏美, 大野 範夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 881
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では歩行能力を推定するために平野により考案された2ステップテストを,脳疾患患者においても導入している。第42回本大会において,2歩幅で身長を超える事が出来れば歩行自立度が高いという同様の結果を得,歩行能力の評価の有用性について報告した。今回は歩行能力の予後予測の有用性について検討を行ったので報告する。
    【対象】当院入院中の脳疾患を呈した片麻痺患者147名(男性97名,女性50名,平均年齢64.92±11.52歳,発症から入院までの平均経過日数126.32日,右麻痺83名,左麻痺64名)を対象とした。
    【方法】2ステップテストはバランスを崩さず実施可能な最大2歩幅を測定した。これを身長比で標準化した値を2ステップ値(以下2ステップ値)とした。テストは日常使用している補助具を使用したまま測定し,歩行能力は屋内監視・自立に分類した。約4週に1回の頻度で測定し,自立へ移行しなかったケースを監視群,自立へ移行したケースを自立移行群(退院後に自立したケースも含む),初回から自立していたケースを自立群とした。統計学的検討:1)2ステップ値の初回と2回目の差について各群にて比較した。2)各群間での2ステップ値の差について,初回と2回目それぞれ比較した。3)初回と2回目の差から算出した変化率について監視群と自立移行群を比較した。統計学的分析はT検定を用い有意水準を1%未満とした。4)2ステップ値を小数点以下第2位で切り捨てた値を階級値とし,各群の分布状況を初回と2回目それぞれ確認した。
    【結果】1)2ステップ値の初回平均値は監視群0.46±0.17,自立移行群0.73±0.18,自立群1.00±0.26であった。2回目平均値は監視群0.54±0.19,自立移行群0.87±0.21,自立群1.13±0.28であった。初回と2回目で各群有意な改善を認めた(p<0.01)。2)群間での2ステップ値の差は各々の群間で,初回・2回目共に有意差が認められた(p<0.01)。3)2ステップ値の変化率は監視群23.4±36.6%,自立移行群21.2±22.7%であり,両群比較した結果有意差は認められなかった(p=0.699)。4)初回,2回目共に2ステップ値0.3未満は監視群のみ,1.0以上は自立移行・自立群のみに認められ,0.3以上1.0未満は各群に認められた。
    【考察】1)より2ステップ値は各群において2回目に増加する傾向が認められた。2)より監視群に比べ自立移行群は初回,2回目共に大きな値を示した。3)より監視群と自立移行群の変化率には大きな差は認められなかった。これらのことから歩行自立度の予後予測には初回2ステップ値が重要な要因と考えられる。また歩行自立度が高いことが認められた2ステップ値1.0以上は監視群に認めず,自立移行群の2回目の平均値も1.0に近づき2ステップ値1.0以上は予測かつ目標値として活用していけると考える。初回値0.3未満は監視群のみであったが0.3以上1.0未満は各群に認められ,各症例の特徴と変化についてさらに詳細な検討を行い,より有効な指標としていきたい。
  • 異なる課題提示による片脚立位における重心動揺の反応特性
    永木 和載, 中村 浩之, 大平 雄一, 西田 宗幹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 882
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】日常生活動作は単一運動課題のみで実施されるのではなく並列処理課題下で実行される事が多く、並列処理課題下での評価や能力向上を図る事が重要である。Silsupadolらは3症例に異なる課題での介入をした調査で、並列処理課題下での介入が最も効果的であったと報告しているが、並列処理課題下での能力向上の為の介入手段については確立されていない。本研究では、並列処理課題下での能力向上の為の介入方法について検討する事を目的とした。
    【対象及び方法】対象は若年健常者(男女各24名、平均年齢24±3.0歳)とした。介入方法として、開眼片脚立位保持30秒間を10回実施する群(以下、運動群)、計算課題を実施する群(以下、認知群)、片脚立位保持と計算課題を伴った課題を10回実施する群(以下、運動認知群)、安静椅子座位5分間を実施する群(以下、CT群)の4群に分類し、それぞれ無作為に12名ずつ選出した。測定肢位は30秒間の利き足での開眼片脚立位とした。測定手順は開眼片脚立位保持(以下、Single)後に計算課題を用いた開眼片脚立位保持(以下、DualA)を実施し、それぞれ異なる介入後にDualAを実施(以下、DualA後)した。さらに語想起課題を用いた開眼片脚立位保持(DualB)を実施した。測定には重心動揺計(ANIMA社製GRAVICORDERGS-2000)を用い、解析項目は総軌跡長(以下、LNG)、実効値面積とし、Single、DualA、DualA後、DualBでの計測値を比較検討した。統計はWilcoxonの符号付順位和検定を用いBonferroni法により補正した。(p<0.0083)
    【結果】運動群においてLNGがSingle、DualAに比べDualA後で有意に減少した(p<0.0076、p<0.0029)。またDualBではDualAより有意に減少した(p<0.0022)。その他の比較では全てにおいて有意差を認めなかった。
    【考察】本研究結果より、若年健常者の並列処理課題下の片脚立位の安定化を図るためには運動のみ実施する課題が適している事が示唆された。動作の反復による姿勢の安定化及び動作の改善に関しては、緒家により報告されており本研究と一致する。しかし、運動認知群には動作の反復による効果は認めなかった。これはSilsupadolらの報告とも一致しない。本研究では、健常若年者を対象としたため、対象者の特性によって有効な介入方法が異なることや、姿勢制御方略の変化を重心動揺計では評価できなかったことが考えられる。対象者の特性や課題提示方法なども考慮し、並列処理課題下での能力向上に有効な介入方法について検討する必要がある。
  • 加茂野 有徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 883
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は,脳卒中片麻痺者の歩行能力向上を図るにあたり,対象者の身体機能に応じて着目すべき歩行の要素を明らかにすることである.
    【方法】
    当センターにて歩行分析を行った健常者および片麻痺者のデータベースから,健常者250例(20-82歳)と片麻痺者140例(発症後3ヶ月以上1年未満,40-84歳)を対象とした.大型床反力計システム(共和電業)を用いて,床反力計の手前2.5mの地点から歩行を開始し,通過後1.5mの地点で停止し,出発点に戻り再度歩行を行った.歩行は自由歩行とし,左右各10歩の歩行計測データを採取した時点で終了とした.補装具および靴については,被験者が普段歩行を行っている条件と同一にした.解析に用いた因子として,下肢ブルンストローム・リカバリ・ステージ(下肢BRS),歩行時間・距離因子(歩行スピード,ケイデンス,ストライド長,歩隔),床反力波形指数21項目(鉛直,前後,左右方向の対称,再現,円滑,動揺,リズム,振幅の各指数)を取り上げ,統計ソフトウェアJUSE-StatWorks/V4.0(日本科学技術研修所)を用いて,統計解析を行った.
    【結果】
    健常者においては,高齢になるとともに歩行スピードとストライド長が減少し,歩隔が増大する傾向が認められた.また,床反力波形指数の中で,前後方向の指数が60代をさかいに増大するのに対し,左右方向のリズム指数および振幅指数が減少する傾向が認められた一方で,年齢とは関係なく大きくばらつく指数も認められた.時間距離因子と床反力波形指数との相関関係では,歩行スピードと鉛直および前後方向の振幅指数,ケイデンスと鉛直方向の振幅指数,ストライド長と前後方向の振幅指数との間に負の強相関(r < -0.6)が認められ,歩隔と左右の動揺指数との間に正の強相関(r > 0.6)が認められた.片麻痺者においては,下肢BRSの低下とともに歩行スピード,ケイデンス,ストライド長が減少する傾向が認められた.また,床反力波形指数では,下肢BRSの低下とともに値の増大する指数が認められた一方で,下肢BRSとは無関係な挙動を示す指数も認められた.時間距離因子と床反力波形指数との相関関係では,負の強相関を有するものが多数認められた.
    【考察】
    健常者においては,60代をさかいに加齢に伴う歩行運動の変化が生じることが考えられる.また,筋力低下などの身体機能の低下により生じるであろう前後方向の歩行運動の低下を,左右方向の運動で代償していることが結果より伺える.片麻痺者では,健常者で示唆されるような歩行運動における代償は認められず,機能の低下とともに歩行運動も障害されることが結果より考えられる.片麻痺者と健常者の歩行を同様の尺度で捉えず,身体機能に応じて,どのような歩行の要素に着目して理学療法の介入を図るべきか,そうした点を明確にする解析が求められる.
  • 実施1年後の調査から
    田代 保広, 隅野 裕之, 小西 英樹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 884
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当施設通所リハ利用者において、主に介護予防を実施している利用者に対し、Functional Reach(以下、FR)、Timed up and Go test(以下、TUG)、10M歩行速度(以下、10M)及びFIMの運動項目について、実施1年後の調査を実施したので報告する。

    【方法】
    対象は当施設デイケア利用者で介護予防又はそれに準じたリハを実施している利用者で、上記検査に耐えうるものとした。男性36例、女性28例、計64例。平均年齢75.0歳であった。利用者にそれぞれFR、TUG、10M歩及びFIMの運動項目について検査した。

    【結果】
    1年後、FIM改善群(以下、改善群)9例、平均年齢67.6歳。維持群(以下、維持群)41名、平均年齢76.0歳。悪化群(以下、悪化群)14例、平均年齢77.1歳。改善群のFIMが最も低く平均73.3点、維持群81.7点、悪化群が75.4点であった。FIMの改善群についてはFRにわずかな向上は認められた。TUG及び10Mについては改善群に対しては有意な改善(TUG P<0.01、10M P<0.05)が認められたが、改善群間の有意差は認められなかった。維持群はほぼ変化なし、悪化群についてはどちらもわずかではあるが低下が認められた。悪化群14例中、新たな疾患を併発した症例が7例あった。急性憎悪以外に維持、改善できている例は64例中57例89.1%であった。

    【考察】
    FIMの変化と各検査項目間を比較すると、改善群におけるTUG及び10M歩行速度の改善が目立った。これはもともと改善群が他群に比べ有意に遅かった為、改善の余地が他群に比べ大きかったと考えられる。またFRについてはFIMとの関連は見られないようであった。FIMの点数変化について、歩行速度が向上すると、FIMが向上する可能性があることが示唆された。改善群において、年齢は維持群、悪化群に比較し有意に低く(P<0.05)、若年者ほど身体機能が維持しやすいことが示唆された。また約90%の症例において機能維持改善が図られていることより、通所リハでの介護予防の効果があることが示唆された。

    【まとめ】
    1.通所リハの介護予防又はそれに準じたリハを実施している利用者の実施1年後のFIM、FR、TUG、10Mを評価した。
    2.FIM改善群についてはTUG、10Mの改善が認められた。
    3.改善群は年齢が有意に低かった。
    4.約90%の症例でADLが維持改善できていた。
  • 藤田 俊文, 岩田 学, 福田 道隆
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 885
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中患者の日常生活において、起き上がりや立ち上がりなどの特定の課題を達成できるかの成否は、有酸素能力よりはむしろ無酸素性の運動能力にかかっているとされている。しかし、現在までにそのような無酸素性パワーを的確に評価できるテストがないのが現状である。これまでに我々は脳卒中片麻痺患者を対象としたウインゲート無酸素性テスト(以下、WAnT)を試作し、継続したデータ収集を行ってきた。今回は、片麻痺患者用WAnTの開発にあたり、テストの信頼性と至適負荷量決定基準に関して更なる知見を得たので報告する。
    【対象】
    脳卒中片麻痺患者28名(男性19名、女性9名)である。内訳としては、麻痺側は右16名、左12名、下肢Brunnstrom Stageは3:5名、4:5名、5:13名、6:5名、平均体重は62.5±12.5kg、平均年齢は57.4歳(40~77歳)であった。なお本研究は、弘前大学医学部倫理委員会にて承認され、対象者に研究の趣旨と内容について説明し同意を得た上で行った。
    【方法】
    三菱電気エンジニアリング社製ストレングスエルゴ240(以下、SE)を使用し、リスク管理のため心電図モニタリングを行いながら実施した。はじめに、SEで脚伸展トルク測定(等速度運動:50rpm)を実施し、非麻痺側の最大トルクの15%にWAnTの負荷量を設定した。WAnTは3分間のウォーミングアップ後、9秒間(0~6秒まではランプ負荷、6~9秒までは定常負荷)で実施し、3分間のクールダウンを実施した。テストは測定日を変えて2回実施し、データは6~9秒間(3秒間)の平均パワー(W)を算出した。また、負荷量設定の参考値として6秒時のトルク(N・m)を算出した。1回目と2回目のデータの信頼性は級内相関係数を用いて検証した。また、負荷量設定の検証には、6秒時トルクの10%増の値(以下、至適負荷量)を従属変数とし、各身体因子を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準はすべて5%とした。
    【結果】
    9秒間のテストは全ての被験者において完遂できた。また、テスト直後に体調不良を訴えたもの、後日体調不良を訴えたものはいなかった。1回目と2回目のデータの級内相関係数ICC(1,1)は0.98となり、非常に信頼性が高い結果であった。重回帰分析の結果、様々な変数の中から非麻痺側脚伸展トルクと麻痺側脚伸展トルクが有意に選択され(p<0.01)、決定係数R2=0.812であった。
    【考察】
    健常人であれば体重の影響が大きく、至適負荷量の決定因子となるが、片麻痺患者など障害を有する者は、単純に体重からは決定できないことが示唆された。これは、障害特有の機能や筋量・脂肪など身体組成の相違があるためと考えられる。今回、非麻痺側・麻痺側脚伸展トルクが選択されたことは、片麻痺患者の下肢機能を加味したWAnTの至適負荷量が設定できたと考えられる。
  • 昨年度との比較とQuality Indicatorの妥当性の検討
    岡村 大介, 小島 肇, 佐藤 由佳, 渡会 昌広, 馬淵 美也子, 柳田 俊次, 斉藤 千秋, 黒田 栄史
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 886
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では2006年3月より医療の質を評価するQuality Indicator(以下QI)を各科に導入し、リハビリテーション科(以下リハ科)ではFIM実施率をQIとして採用した。FIMの導入により各スタッフが患者のADL改善を主目標として日常臨床で意識するようになり、リハ医療の質が向上すると予測される。当科では総合実施計画書の作成にあたり、FIMによるADL評価を採用し、リハ開始時と終了時の評価を実施していくこととしたが、それと同時に実際にFIM実施率がADL練習に関する患者満足度に反映するかどうかを確認していく必要がある。そこで、我々は先行研究として第42回日本理学療法学術大会においてFIM実施率とADL練習に関する患者満足度の現状を調査し報告した。本研究では昨年と同様にFIM実施率とADL練習に関する患者満足度の現状を調査し、まとめるとともに、昨年度との比較を行い、FIM実施率がQIとして妥当であったかを検討することを目的とした。
    【方法】対象は2007年6月1日~9月30日までの間に当院リハ科にて理学療法を受け自宅退院した患者674名(平均年齢69.2歳)とし、各患者に対するFIM実施率の調査を当院医療情報解析室に依頼した。また、その内20日以上理学療法を受け自宅退院し、且つ認知に問題の無い患者30名に対しADL練習に関するアンケート調査を実施した。アンケート調査は病室に担当以外のスタッフが伺い、面接法にて実施した。アンケート調査の結果はχ2乗検定を用い分析した。なお、本調査の開始にあたり当院倫理委員会の承認を得た。
    【結果】1)FIM実施率:患者一人当たりのFIM実施回数は平均1.61回であり、昨年度の1.14回と比べ頻度が増加した。2)アンケート調査:昨年と比較し、ADL練習は病室ではなく、主に訓練室にて行われていた(p<0.01)。また、昨年同様、訓練室でも病室でもセルフケアに関する練習は行えておらず、移動に関するものが主であった(p<0.01)。自宅を想定した練習もまた、移動に関することが中心であった。リハビリに対する満足度は昨年度と変わらず、病院内のADL改善は実感したが、自宅での生活には不安を残すことが多かった(p<0.05)。
    【考察】FIM実施の徹底によってFIM実施率は増加したが、ADL練習の変容や患者満足度の向上には寄与しなかった。FIM実施率はQIとして妥当性に欠けており、それに代わるものとしてFIM利得やFIM効率といった新たな項目を検討していく必要があると考える。また、昨年に引き続きADL練習が移動面に偏ってしまう理由には、PT業務が煩雑であることが挙げられる。セルフケアに対する練習を充実させるためには、OTやNsなど、他職種との連携を密にし、チームとして患者にアプローチしていく必要があると考える。
  • 下肢と中枢部運動との関係
    高橋 俊章, 神先 秀人, 南澤 忠儀, 伊橋 光二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 887
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】傾斜反応を誘発しながら坐位の動的安定性を練習する際、中枢部と下肢の連動した動きに着目する必要がある。我々は先行研究において、坐位側方傾斜反応に伴う頭部・体幹・骨盤の運動を定量化し、各部の位置関係について報告した。今回は下肢の運動について定量化し、中枢部の運動との相関等について検討したので報告する。
    【方法】対象は健常女性10名(平均年齢21.6±1.1歳、平均身長156.4±4.8cm、平均体重50.9±8.2kg)とした。本研究は、所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。側方傾斜反応計測は、三次元動作解析装置(Vicon370)を用い、反射マーカーを、頭頂部、両耳介上側頭部、両肩峰、両大転子、両ASIS、第7頚椎棘突起、第12胸椎棘突起、第1正中仙骨稜、両側外側上顆、両側外果、両側第5中足骨頭に付け、サンプリング周波数60Hzで記録した。傾斜反応を誘発するために、外乱発生装置(IP-DYP1020)の上に台を設置し、この台上で被験者に腕を組み足底を接地しない端坐位をとらせた後、坐面を傾斜させた。傾斜させる方向は利き手側とし、全例右利きのため右側傾斜とした。最大傾斜角度を20度に設定し、傾斜速度は毎秒5°、10°の2通りで、それぞれ3試行を行った。各マーカー座標より、側方傾斜反応中の頭部・体幹・骨盤並びに股関節・膝関節の運動角度を三次元的に算出した。最大傾斜時の下肢の運動反応の出現様式を分析するとともに、中枢部との運動間の相関について検討した。
    【結果】最大傾斜時の下肢の運動方向は、傾斜速度毎秒5°と10°のいずれにおいても、右股関節内転(5°:p<0.01、10°:p<0.001)左股関節屈曲(p<0.01)、左股関節外転(p<0.001)、左股関節内旋(p<0.05)、右膝関節屈曲(p<0.05)が対側方向の運動と比較して有意に多かった。また右股関節屈伸において、5°/sで屈曲が多く10°/sで伸展が多くみられた(p<0.01)。中枢部との運動角度に相関があったのは、傾斜角度5°/sでは、骨盤後傾と右股関節屈曲・左股関節伸展・左膝関節伸展、骨盤左回旋と右股関節内転・左股関節外転、体幹左側屈・左回旋と右股関節外旋であった。また、傾斜角度10°/sでは、骨盤左側方傾斜と右股関節伸展・右股関節内旋・左股関節外転・内旋・右膝関節伸展・左膝関節屈曲、骨盤左回旋と右股関節伸展・左股関節屈曲・外転・内旋、体幹左側屈と右股関節外旋に相関があった。
    【考察】個人により坐位側方傾斜反応の出現様式が若干異なるものの、傾斜側股関節内転・膝関節屈曲、非傾斜側股関節屈曲・外転・内旋はほぼ定型的に出現することが確認された。また、下肢の反応は体幹や骨盤の運動と密接な関連があり、傾斜速度によって変化することが示唆された。
  • 二瓶 健司, 鈴木 千明, 根本 育美, 福田 敦美, 原田 和宏
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 888
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    地域在住高齢者が活動的な生活を営むためには、長距離の移動能力を必要とする場合が多く、その移動能力が行動範囲や外出頻度に影響を及ぼすとされている。そのなかで「ひとりで遠出できない」とする地域在住高齢者の背景要因として、「1km連続歩行ができない」が関連性を示している報告があり、歩行耐性の向上が生活空間の拡大に寄与する可能性が窺える。しかし、地域在住高齢者を対象とした研究において、連続歩行距離の状況を虚弱者も考慮して細分化して評価した報告は少ない。本研究は、地域在住高齢者における連続歩行距離の評価方法について順序尺度変数としての基準関連妥当性を、外的基準に生活空間評価を用いて検討することを目的とした。
    【方法】
    調査対象は東北地方にある7市町村に在住の平成18年12月から平成19年9月までの期間内における介護予防事業参加者で、調査の目的と内容に同意を得た認知症を有さない65歳以上の74名(男性27名、女性47名、平均78.3±6.3歳)とした。連続歩行距離の評価については、「10m未満」、「10m~50m未満」、「50m~100m未満」、「100m~500m未満」、「500m~1km未満」、「1km以上」の6件法の中から回答を求め、距離が長いほど得点が増えるように順序化を行なった。生活空間評価は本邦の地域高齢者で妥当性が確認されているLife-Space Assessment(LSA, 120点満点)を用いた。分析は連続歩行距離の回答分布を観察すること、LSA合計得点との順位相関係数(Spearmanのρ)を求めること、連続歩行距離を因子とした平均値を比較すること(多重比較Sheffe法)で行った。
    【結果】
    連続歩行距離の回答は、「10m未満」1名、「10m~50m未満」15名、「50m~100m未満」18名、「100m~500m未満」11名、「500m~1km未満」10名、「1km以上」19名、中央値は「100m~500m未満」にあった。LSA合計得点の平均は、「10m未満」からそれぞれ11.0点、33.4点、45.0点、56.5点、75.5点、80.8点であった。連続歩行距離の回答とLSAの順位相関係数ρは0.694と統計的に1%以下の危険率で有意な関連性を認めた。連続歩行距離のカテゴリ間の平均値の差は、「1km以上」群と500m未満の者との間、および「500m~1km未満」群と100m未満の者との間で認められた(p < 0.05)。
    【考察】
    地域在住高齢者の連続歩行距離は分布にばらつきが得られ、その距離の順序に対応してLSAも変化する関係性が示されたことから、順序尺度としての基準関連妥当性の必要条件を備えている可能性があると考えられた。連続歩行距離は高齢者の基礎体力に関わる歩行耐性の指標として簡便に調査や評価ができることから、地域在住高齢者における障害予防評価体系の補完的役割を担う可能性が示唆された。
  • ハンドバッグとショルダーバッグを例として
    冨田 沙耶香, 布留川 真由美, 徳田 良英
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 889
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日常生活においてバッグは荷物を携帯するのに便利な物であるが、その形態(持ち方)や重量によっては不良姿勢を招くことが危惧される。本稿では普段よく使用されるハンドバッグ(以下HB)とショルダ-バッグ(以下SB)に着目して立位姿勢に及ぼす影響について人間工学的な実験から検討することを目的とする。

    【方法】対象は健常成人23名(男性13名、女性10名:22.2±1.44歳)とした。三次元動作解析装置(Zebris Medizintechnik GmbH社製:サンプリング周波数20Hz)と床反力計(キスラー社製:サンプリング周波数100Hz)を使用した。ZEBRISの端子を肩甲骨下角にかかるように巻き付けた状態で、左足のみを床反力計に乗せ、立位をとった。4kgと8kgのそれぞれ2種類に予め設定した市販のHBとSBを用意した。荷物を右側で5秒間持ち、その後10秒間は荷物を降ろすという試行を5回繰り返し、計75秒間で実験を行った。荷物を持たない姿勢と持った姿勢での脊柱の角度変化を矢状面・前額面・水平面で記録した。また同時に、重心動揺をX軸(前後)・Y軸(側方)・Z軸(垂直)方向で記録した。解析方法は、5回の試行の各試行の最大値の平均値を身長で補正した値を角度率・重心動揺率として算出し、バッグの重量、種類、性別についてそれぞれ比較検討した。統計解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準5%とした。

    【結果】HB、SB双方ともに4kgに比べて8kgの方が伸展・右側屈方向への姿勢変化が有意に大きかった。8kgの場合HBの方がSBに比べ伸展方向への姿勢変化が有意に大きかった。4kgの場合SBの方がHBに比べ伸展方向への姿勢変化が有意に大きかった。回旋角度率は8kgのHBで男性0.006±0.005、女性0.017±0.016、SBで男性0.010±0.009、女性0.016±0.012であり、女性の方が大きかった。重心動揺率は8kgのHBが-0.584±0.185、SBが-0.494±0.160、4kgのHBが-0.280±0.082、SBが-0.296±0.105であり、8kgでのHB,SBの差異が顕著であった。

    【考察・まとめ】概してSBに比べHBの方が、重量が小さいものに比べ大きい方が姿勢の変化が大きかった。これは脊柱にかかるモーメントの違いによると考えられる。女性は男性に比べ回旋角度率が大きい傾向にあった。これは筋力の低い女性がバッグを持つ場合に、伸展・側屈のほかに回旋もさせることが推測され、腰背部へのねじり、せん断力が大きくかかることが示唆された。これらは脊柱の受動的支持機構の結果であるが、能動的支持機構(腹筋・背筋)もこの結果に影響を与えていると思われる。荷物を保持した姿勢では、重心が前方へ偏位し、体幹は伸展位をとることから、腹筋群に比べ、背筋群の筋活動が活発になっていると考えられる。Sullivan MSによると、大腰筋が脊椎の固定筋として回旋を防ぐ重要な働きを持っているという。また、体幹筋だけでなく、上肢筋・下肢筋の筋力も関与してくるであろう。

  • 野見山 真人, 小柳 靖裕, 岩坂 敏彦, 黒山 荘太, 松永 裕也, 吉塚 淳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 890
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】介護予防事業において転倒リスクの評価方法は多く存在するが、現場では設備的、時間的な制限があり、より簡便な評価法が望まれる。今回、我々は簡単で素早く場所を取らずに測定可能な方法として「ヒールタップテスト(Heel Tap Test:HTT)」「トゥタップテスト(Toe Tap Test:TTT)」を考案し、その評価の有用性について従来から行われている転倒に関する評価や歩行介助量の評価、転倒自己効力感尺度との関連から検証した。

    【対象】当該地区における介護付き有料老人ホーム在住の高齢者31名(男性8名、女性23名)、平均年齢83.5歳(75-91歳)を対象とした。

    【方法】HTTは両手を腰にあて直立した状態から両足の踵を同時に床から離す動作をなるべく早く行い5秒間で出来る回数を測定する。片方しか離れない場合は不可とする。転倒予防のため近接監視にて行い動揺して手が腰から離れると測定終了とする。1回練習してから測定する。TTTはHTTと同じ要領で両側のつま先を同時に離す回数を測定する。転倒に関する評価として、開眼片脚立ち、Timed Up & Go Test:TUGT、10m努力歩行、Functional Reach Test:FRTを、歩行時の介助量評価としてFunctional Ambulation Categories:FAC、転倒自己効力感尺度としてModified Falls Efficacy Scale:MFESを用い、HTT・TTTとの相関について調べた。統計学的分析にはPearsonの相関係数もしくはSpearmanの順位相関係数を用いた。

    【結果】HTTでは、開眼片脚立ちとr=0.56、TUGTとr=0.52、10m努力歩行と=0.57、FRTとr=0.45、FACとr=0.54にて相関がみられた。TTTでは、開眼片脚立ちとr=0.44、TUGTとr=0.52、10m努力歩行とr=0.53、FRTとr=0.46、FACとr=0.40にてそれぞれ相関がみられた。また、HTTとTTTの合計とMFESの間にも関連が示唆された。

    【考察】人間は外乱によりバランスをとる際には、まず初めに足関節で制御を行う。その制御以上の外乱が加わり股関節で制御する時点では、身体に対して加速度が加わっており、転倒のリスクが増すため足関節の素早い対応が重要となる。さらに静止立位場面からの重心の変化である歩行開始時においても足関節における重心コントロールが重要である。それらのことから我々は足関節制御の評価として5秒間のHTT・TTTの2項目を考案し転倒予防教室のテストバッテリーに加えている。HTT・TTTは動作的には足関節底背屈のスピード、自重に抗する筋力を評価する簡便な測定法であるが、今回、バランスや移動能力の指標となるスタンダードな評価項目と相関がみられることから、介護予防事業における足関節制御の評価法として有用であることが示された。加えて、MFESとの間にも関連が示唆されたことから日常生活での転倒の危険性を予測することができ、本人及び家族にも理解しやすい転倒予防の指標として活用することが期待できる。
  • 内山 圭太, 三秋 泰一, 立野 勝彦, 寺田 茂, 宮田 伸吾, 松井 伸公
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 891
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動耐容能の定量的な評価指標として最高酸素摂取量(peakV(dot)O2)が用いられることが多い。しかしpeakV(dot)O2に最も関与している因子を検証した報告は見当たらない。
    そこで今回、運動耐容能に対する運動中の局所筋酸素動態や筋力、筋持久力などの局所的な指標の関与の大きさを検討した。この研究は、運動耐容能の向上を目的として行う運動を選択するためのエビデンスを示し得るものである。
    【対象及び方法】
    対象は右下肢に整形外科的疾患の既往がなく、競技レベルでの運動習慣のない健常男性22名(運動習慣なし13名、週1回の運動習慣あり9名)で、平均年齢23.0±1.9歳、身長173.9±5.1cm、体重66.3±7.5kg、BMI 21.9±2.5、体脂肪率17.6±4.1%であった。被験者には本実験の主旨を十分に説明し、同意の下で協力を得た。
    局所筋酸素動態測定には島津製作所製OM-220を使用し、プローブを右外側広筋に貼り付けた。評価指標には、[運動中のΔdeoxy-Hbの最大値/阻血中のΔdeoxy-Hbの最大値](脱酸素化率)を用いた。漸増負荷運動には自転車エルゴメーターを用い、同時にフクダ電子社製Oxycon Alphaにて呼気ガス分析をbreath-by-breath法にて行った。ペダル回転数が60回転を維持不能となった時点で運動終了とした。筋力測定にはOG技研製Hydro-Musculatorを使用した。右膝関節屈曲90度で3回の等尺性膝伸展運動を行わせ、最大値を採用し、体重で除した。筋持久力測定は、漸増負荷運動から3日以上の間隔を空けて行い、最大筋力の30%負荷にて膝完全伸展運動が連続可能な回数を筋持久力とした。統計処理にはSPSS 11.0J for Windowsを使用し、peakV(dot)O2を目的変数、対象者の身体的特徴や運動習慣、筋力、筋持久力、脱酸素化率を説明変数として重回帰分析をステップワイズ法にて行った。
    【結果】
    それぞれの測定値の平均はpeakV(dot)O242.0±7.9ml/min/kg、筋力1.03±0.17、筋持久力25.5±7.5回、脱酸素化率41.1±15.9%であった。重回帰分析の結果、脱酸素化率と筋力が説明変数として選択され、各説明変数の関与の大きさを表す標準偏回帰係数は脱酸素化率で0.495、筋力で0.383であった。
    【考察及びまとめ】
    peakV(dot)O2は運動筋を含む全身の酸素消費量を示している。一方、脱酸素化率は運動中の局所筋での酸素消費量を示していると考えられる。今回の結果、peakV(dot)O2に脱酸素化率が最も関与していた。今後、運動耐容能向上に効果的な運動プログラム作成へと繋げていきたい。
  • 小澤 淳也, 川真田 聖一, 黒瀬 智之, 橋本 将和, 山岡 薫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1024
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】電位依存性ナトリウムイオンチャネルは、膜電位の変化に反応して開閉するチャネルであり、興奮性細胞における活動電位の発生と調節に深く関わる。成熟骨格筋においては通常Nav1.4のみが存在するが、脱神経された筋ではNav1.5 mRNAが発現することが報告されている。そこで我々はさらに、脱神経筋におけるNav1.5 mRNA発現の経時的変化やNav1.4とNav1.5の遺伝子発現の割合を詳細に調べることで、Nav1.5発現の意味を考察した。
    【方法】動物は8週齢雄性Wistar ratを使用した。ラットを麻酔した後、左坐骨神経を切断して実験側とし、無処置の反対側を対照とした。切断後3,14日のラットの両側ヒラメ筋を採取し、-80°Cで急速凍結して保存した。Trizolを用い各試料からtotal RNAを抽出し、DNase処理した後に逆転写酵素反応にてcDNAを作成した。リアルタイムPCRにてNav1.4、Nav1.5 mRNAの定量解析を行った。インターナルコントロールにはβ-actinを用いた。
    【結果】実験群(脱神経群)および対照群のβ-actinに対するNav1.4 mRNAの比率は脱神経後3日でそれぞれ0.32±0.3対0.25±0.16、14日で0.20±0.13 対0.24±0.22であり、両群間に大きな差はみられなかった。一方、Nav1.5 mRNAは、脱神経後3日でβ-actinに対する比率は1.6×10-4±0.8×10-4対4.6×10-2±4.8×10-2であり、発現が約300倍に増加した(P=0.021)。脱神経後14日でもNav1.5 mRNAの発現は対照群4.9×10-4±0.18×10-4に対し、実験群1.9×10-2±0.52×10-2と約40倍の発現量であったが(P=0.034)、脱神経後3日の実験群との比較では42%に減少した。Nav1.4に対するNav1.5遺伝子発現の比率では、脱神経後3日で0.32±0.44%、14日で0.13±0.1%であった。
    【考察】脱神経したヒラメ筋で遺伝子発現がみられたNav1.5はテトロドトキシン(TTX)抵抗性であり、TTX感受性であるNav1.4よりもチャネルの活性化の閾値が低い。今回の遺伝子発現の変化とタンパクレベルの変化が一致するとすれば、神経支配を失った骨格筋ではその直後から電気的興奮に対する応答が変化しているかもしれない。
  • 小島 聖, 細 正博, 武村 啓住, 由久保 弘明, 松崎 太郎, 渡邊 晶規
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1025
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】我々は先にラット膝関節拘縮モデルに対して,温浴による関節構成体の病理組織学的変化を報告した。その結果,関節軟骨では36°C以上で,滑膜では38°C以上で病状を悪化させていることが示唆された。今回,その温度を指標に温浴と臨床的に頻繁に行われている短時間伸長刺激を併用し,その治療効果を病理組織学的に検討した。
    【方法】対象は9週齢のWistar系雄ラット10匹(体重202gから262g)を用いた。固定肢位は右後肢をギプス固定(固定肢)し,左後肢は制約を加えず自由にした(非固定肢)。4週間の固定期間終了後,ラットを無作為に4週間の自由飼育を行う群(C群,n=3),温浴のみ行う群(H群,n=3),温浴後に短時間伸長刺激を行う群(H&S群,n=4)に分けた。温浴は恒温槽を使用し36~37°Cの温度で10分間の治療を4週間(5回/週)行った。短時間伸長刺激はエーテル麻酔下にて,ラットを腹臥位の状態から水平方向(体幹と同軸方向)に徒手にて350gの力(予備実験で設定)で伸長した。50秒間伸長し10秒の休息を1サイクルとして,5サイクルを1日1回(5回/週)温浴後に行った。いずれの群も治療時間以外はケージ内にて通常飼育とした。治療期間終了後,エーテル深麻酔にて安楽死させ両後肢ともに股関節で離断した。離断した後肢は中性緩衝ホルマリン液で組織固定し,脱灰,切り出し,中和した後パラフィン包埋した。滑走式ミクロトームにて薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下にて膝関節全体を鏡検した。
    【結果】C群の固定肢では軟骨表層の線維増生,大腿骨の関節軟骨と前方滑膜あるいは半月との癒着が観察された。非固定肢は明らかな異常所見はなく概ね正常であった。H群の固定肢では軟骨表層の線維増生,大腿骨および脛骨の関節軟骨と前方滑膜あるいは半月との癒着が観察された。C群と比して癒着の程度は強く広範囲に及ぶ例もあった。H群の非固定肢でも軟骨表層の線維増生と癒着を確認する例を認めたが,固定肢よりは軽微であった。H&S群の固定肢ではH群と同様の組織像であり,軟骨表層の線維増生と大腿骨軟骨と前方滑膜あるいは半月との癒着が観察されたが,H群よりも癒着の程度は弱く部分的な癒着であった。H&S群の非固定肢はH群の非固定肢と同様の組織像であった。
    【考察】今回の結果から,関節不動化の期間が長くなれば比較的低い温度でも関節構成体に悪影響を及ぼす可能性があると考えられる。また,短時間伸長刺激の効果としては関節軟骨の器質的な改善ではなく,癒着の程度を軽減することに寄与していることが確認された。ラットで見られた変化が人体でも起こり得るかは不明であるが,温浴と短時間伸長刺激の併用では予防的な治療効果が確認され,関節内の温度変化には注意深い検討が必要と考えられる。
  • 坂野 裕洋, 沖田 実, 井上 貴行, 鈴木 重行, 小林 由依, 高浪 美香, 林 綾子, 吉田 奈央
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1026
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】先に我々は,プレコンディショニングとして温熱負荷を行うと,ギプス固定後の再荷重で起こるラットヒラメ筋の筋線維損傷の発生が抑えられること,ならびにその作用機序にHeat Shock Protein(HSP)70の発現が関与していることを報告してきた.しかし,これまでは再荷重3日目までの検討であり,その後の経過については不明であった.そこで本研究では,再荷重後の経過をさらに延長し,プレコンディショニングとしての温熱負荷が筋線維損傷の発生におよぼす影響を検討した.

    【方法】8週齢Wistar系雄性ラットを対照群と実験群に分け,実験群は両側足関節を最大底屈位で4週間ギプス固定し,その後再荷重する再荷重群とギプス固定終了の2日前に41°Cの全身温熱負荷を60分間行い,固定期間終了後に再荷重する温熱群を設定した.検索時期は再荷重開始から0,1,3,5日目とし,採取したヒラメ筋の一部からWestern blot法によるHSP70含有量の計測を行った.また,試料の一部から作製した凍結横断切片をH&E染色し,筋線維横断面積と総筋線維数に対する壊死線維数の割合を計測した.なお,本実験は星城大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.

    【結果】HSP70含有量は0日目のみ温熱群が再荷重群より有意に高値で,他の検索時期は群間に有意差を認めなかった.次に,全ての検索時期とも対照群に比し再荷重群と温熱群は筋線維横断面積が減少し,壊死線維数の割合には増加を認めた.また,筋線維横断面積の分布を再荷重群と温熱群で比較すると,0,1,5日目は大差なく,両群とも1500~4000μm2に分布し,温熱群の3日目も同様であった.しかし,再荷重群の3日目は2500μm2付近と4500μm2付近を頂点とする二峰性の分布で,特に4000~6000μm2付近の分布が増加していた.さらに,壊死線維数の割合をみると,温熱群は各検索時期とも1%未満であったが,再荷重群は3日目のみ3.5%と増加し,これは他の検索時期や温熱群との比較でも有意差を認めた.

    【考察】今回の結果から,ギプス固定後の再荷重で起こる筋線維損傷は再荷重3日目が顕著で,これに準拠するように一部の筋線維は横断面積に拡大を認め,これは浮腫が影響していると思われる.また,その後の経過をみると筋線維損傷は回復する傾向にある.一方,温熱群は各検索時期で壊死線維数の割合や筋線維横断面積の分布に違いはみられず,加えて,再荷重3日目の壊死線維数の割合は再荷重群より有意に低値であった.そして,再荷重前(0日目)のHSP70含有量は温熱群が再荷重群より有意に高値で,これはプレコンディショニングとして温熱負荷を行ったことで筋細胞内にHSP70が発現したことを示している.つまり,HSP70の発現により荷重ストレスに対する交叉耐性が獲得され,筋線維損傷の発生が抑えられたと推察される.
  • 松﨑 太郎, 細 正博, 吉村 千尋, 小島 聖, 渡邉 晶規, 吉田 信也
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1027
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    関節拘縮はギプス固定などによる関節の不動化や,長期の臥床による関節の寡運動にて生じ,予防と治療は理学療法士の業務として重要な部分を占める。
    膝関節には膝蓋骨下に豊富な脂肪体が存在し,その柔軟性が関節運動を担保しているとされる。武村・渡辺らは関節固定2週間での関節構成体の変化として脂肪細胞の萎縮・線維増生を挙げており,また清家は脂肪組織が周辺の組織と癒着して消失した報告している。
    本研究では,ラットの膝蓋下脂肪体が関節の不動化によってどのように変化するのかを量的に明らかにする事を目的として行った。
    【方法】
    9週齢のWistar系雄性ラットを使用した。ラットは8週齢にて購入し,1つのケージに1匹を入れ1週間の馴化期間を経た後に実験を開始した。実験群(n=25)は,麻酔下にて左後肢膝関節を金網とギプスで固定した。この時,足関節は制限を加えず,ラットはケージ内を移動する事が可能であった。対照群(n=10)は制限を加えずにケージ内で飼育した。両群とも,ラットはケージ内を自由に移動する事が可能であり,水と餌は自由に摂取する事が可能であった。実験期間は2週間とした。
    実験期間終了後,ラットを安楽死させた後に可及的速やかに後肢を股関節にて離断し,10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定,ついで脱灰を行った後に膝関節を矢状断にて切り出し,中和・パラフィン包埋を行った。ミクロトームで3μmにて薄切した後にHE染色を行い,光学顕微鏡にて膝蓋下脂肪体を撮影し,Image J 1.38を用いて画像から細胞の面積を算出した。
    なお,本実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行われた。
    【結果】
    実験群と対照群では,脂肪細胞の面積の分散では対照群と比較して実験群が有意に大きい結果を得た。また,脂肪細胞の面積では実験群が有意に減少していた。
    【まとめ】
    関節脂肪体は柔軟性を有し、関節姿位に合わせて容易に変形することにより運動を担保するとされるが、詳細は明らかではない。今回関節固定2週間にて膝関節脂肪体の脂肪細胞の大小不同が増加し面積が減少していたが、このような脂肪体の変化が拘縮にどのように関係するのかを、さらなる長期固定実験を含め検討する必要がある。
  • 若年ラット膝関節拘縮モデルとの比較
    梅山 真樹子, 細 正博, 松﨑 太郎, 神田 典子, 小島 聖, 渡辺 晶規, 吉田 信也
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1028
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    加齢により関節可動域が減少することが知られているが、若年者の長期固定/安静臥床による発生する拘縮との異同についての検討は、演者が検索した限りではこれまでなされていない。そこで、本研究では14ヶ月齢の加齢ラットの膝関節軟骨を光学顕微鏡下で観察し、先行研究により明らかにされて来た若年ラット膝関節拘縮モデルの関節軟骨の変化と比較することを目的とした。
    【方法】
    対象としてFischer 344ラット14匹を用いた。加齢群ラット(n=7)は14ヶ月齢で入手し,1匹ずつケージに入れて4週間飼育した。対照群として11週齢のラット(n=7)を使用した。ラットはケージ内を自由に移動でき、水、餌は自由に摂取可能であった。飼育期間後、エーテル深麻酔にて安楽死させ、可及的速やかに両下肢を股関節より離断し標本として採取した。採取した標本を中性緩衝4%ホルマリン液にて組織固定を行った後に脱灰し、膝関節の切り出しを行ったあとに中和、パラフィン包埋を行った。ミクロトームにて3μmで薄切した標本にヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で後部関節包を病理組織学的に観察した。
    なお,この実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行われた。
    【結果】
    加齢ラットの関節軟骨には、関節軟骨表層を膜状に覆う、滑膜様組織(もしくは肉芽組織、軟骨膜様組織)の増生が観察され、同組織中には血管の進入も確認された。これに伴い関節軟骨は関節腔および滑液との接触を失っていた。また関節軟骨は菲薄化していた。この変化は、拘縮モデルの関節軟骨に出現した組織学的変化と類似していた。

    【考察・まとめ】
    加齢ラットの関節軟骨に出現していた組織学的変化は、先行研究の膝関節拘縮モデルで見られたものと類似していた。従って関節軟骨における加齢と長期固定/安静臥床による発生する拘縮の間には共通した機序が存在する可能性が示唆された。
  • 藤田 直人, 藤原 義久, 松原 貴子, 荒川 高光, 三木 明徳
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1029
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】骨格筋線維は収縮特性より遅筋線維と速筋線維に大別される。また骨格筋線維を支配する運動ニューロンも、その興奮様式により、遅筋線維を支配するものと速筋線維を支配するものに分類されている。この様な骨格筋線維やそれを支配する運動ニューロン等の違いにより骨格筋は個々に異なる特性を持つが、骨格筋ごとに別々の運動処方がなされることは少ない。よって今回、磁気刺激による筋萎縮の予防効果を、代表的な遅筋と速筋であるヒラメ筋と足底筋を用いて形態学的に比較検討した。
    【材料と方法】8週齢のWistar系雄ラットを対照群(C群)、2週間の後肢懸垂群(HS群)、後肢懸垂期間中に毎日磁気刺激を行った群(HSM群)の3群に区分した。磁気刺激にはMagstim200(ミユキ技研)を用い、100%出力(最大頂点磁場強度2.0T、立ち上がり時間100μs、パルス幅1msの単一位相波形)にて、刺激間隔を20秒毎、刺激時間は1日20分とし、下腿後面筋の筋腹中央部を経皮的に刺激した。実験期間終了後、ヒラメ筋と足底筋を摘出し、筋湿重量を測定した後、各筋の筋腹中央部を急速凍結した。摘出した筋試料は約10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH10.7)後に光学顕微鏡で観察し、筋線維をタイプI線維とタイプII線維に分別し、筋線維タイプ別の横断面積を測定した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行った。全ての実験は神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した。
    【結果】ヒラメ筋と足底筋の筋湿重量は、HS群とHSM群がC群に比べて有意に減少した。またヒラメ筋においては筋湿重量、相対重量比ともにHS群とHSM群の間に有意差を認めなかったが、足底筋の相対重量比ではHSM群がHS群に比べて高値を示す傾向があった。ヒラメ筋の筋線維横断面積では、タイプI・II線維ともに、HS群とHSM群はC群に比べて有意に減少したが、HS群とHSM群の間に有意差を認めなかった。足底筋の筋線維横断面積も同様に、タイプI・II線維ともHS群とHSM群はC群に比べて有意に減少し、タイプI線維ではHS群とHSM群の間に有意差を認めなかったが、一方でタイプII線維ではHSM群はHS群に比べて有意に高値を示した。
    【考察】今回用いた磁気刺激による筋萎縮の予防効果は、筋湿重量の相対重量比において足底筋に、また筋線維横断面積において足底筋のタイプII線維に高かった。またヒラメ筋および足底筋のタイプI線維の萎縮に対し、磁気刺激は影響が少なかった。今回用いた刺激方法はパルス幅が1ms、刺激間隔が20秒に1回であったため、phasicな筋収縮を誘発していた可能性がある。よって速筋およびタイプII線維には有効な刺激であったが、持続収縮が必要とされる遅筋およびタイプI線維には不十分な刺激であったと思われる。
  • 上條 明生, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖, 渡邊 晶規, 吉田 信也, 朝日 信裕, 小谷 理恵, 林 真由美, 荒木 督隆
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1030
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ラット膝関節屈曲拘縮モデルを用いて真皮の変化について検討した。
    【方法】
    9週齢のWister系雄性ラット8匹を使用した。うち拘縮群を5匹、コントロール群を3匹とした。アルミニウム製金網とギプス包帯を使用して左膝関節最大屈曲位にて不動化を行った。固定期間は2週間とした。実験期間中、ラットはケージ内を自由に移動でき、水、餌ともに自由に摂取可能であった。
    実験期間終了後、ジエチルエーテル、ネンブタールによる深麻酔下、大腿前部の皮膚を採取しヘマトキシリン・エオジン染色、エラスチカ・ワンギーソン染色を行い、光学顕微鏡下にて観察した。
    本実験は金沢大学動物実験委員会において承認されたものである。
    【結果】
    コントロール群のラット大腿前部皮膚の真皮組織は、比較的疎なコラーゲン線維束が中心となり、これに混じって弾性線維が散在していた。炎症細胞浸潤は観察されなかった。拘縮群では、全例で軽度の炎症細胞(好中球、リンパ球)浸潤が観察された。また全例でコラーゲン線維束の配列が密になり、細胞外基質に相当すると考えられる線維束間の隙間が狭小化していた。また弾性線維の密在化と数の増加が観察された。
    【考察】
    拘縮群のラット大腿部皮膚には、実験期間中、肉眼上、触診上、浮腫や潰瘍といった異常所見は認められなかったが、組織学的には軽度の炎症所見が観察された。この炎症性変化が真皮のコラーゲン線維束の密在化、弾性線維の増加の原因である可能性は否定できないが、先行研究によればやはりラット膝関節2週間固定の関節包にも炎症を伴わない同様のコラーゲン線維の密在化が観察されており、密在化は炎症がなくても発生し得た可能性がある。一方弾性線維の増加は、先行研究の関節包では逆に減少したとされており、真皮と関節包ではやや異なった病態を呈しているという結果となった。これらの変化は真皮の柔軟性や弾性に影響を与えていると推察され、2週間固定時点での皮膚性拘縮の実態である可能性が示唆された。
  • 廣島 玲子, 山田 惠子, 宮本 重範, 乾 公美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1031
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】長期に及ぶ身体活動の低下や不動化は廃用性筋萎縮を引き起こすことが知られているが,廃用性筋萎縮は可逆的であり, 体重の再負荷や運動,電気刺激,温熱等により正常な筋へと回復する。しかし,萎縮を起こした筋が回復する過程や回復に要する期間に関する研究は少ない。そこで本研究では,ラット廃用性萎縮ヒラメ筋を用いて,骨格筋の活動量に強く影響を受けるミオシン重鎖(MHC)アイソフォーム,並びに細胞がストレスを受けたときに誘導され、変性タンパク質の抑制や修復を行う熱ショックタンパク質70(HSP-70)に焦点をあて,萎縮からの回復過程におけるそれらタンパク質のmRNA発現量の経時的変化を検討した.
    【方法】11週令Wistar系雄ラットを用い, 3週間の後肢懸垂(HS群)後,体重を再負荷した.回復過程の検討として,再体重負荷後経時的(R-3,-7,-14,-28,-56日群)に,体重およびヒラメ筋湿重量の測定,HE染色,MHCアイソフォーム並びにHSP-70のmRNA発現量を検討した.データ解析は対応のあるt検定と一元配置分散分析を用い,有意水準を5%とした.
    【結果】体重及びヒラメ筋湿重量は,3週間の後肢懸垂(HS群)で著しく減少したが,再体重負荷後両者共に徐々に懸垂前レベル(C群)に戻った.HE染色では,HS群において多核化や細胞萎縮が観察され,再負荷3日後(R-3日群)には更に深刻化した筋壊死が見られたが,再負荷7日後(R-7日群)には壊死からの回復が認められ,56日後(R-56日群)にはほぼ正常筋に近い状態となった.MHCアイソフォームのmRNA発現量は、HS群でMHC-Iβ,MHC-IIa,MHC-IId/x,MHC-IIbの全てが増加したが,再負荷後には更に増加を示した.この増加のパターンはタイプにより異なり,速筋タイプ(IIa,IId/x,IIb)は再負荷後7日以内にピークを迎えたが,遅筋タイプ(Iβ)は再負荷後14日目にピークを示した。一方,HSP-70のmRNA量は,HS群ではC群と比べ変化を示さなかったが,再負荷後に増加し,再負荷後7日目にはC群の13倍にまで達し,その後も高い水準を維持した.
    【まとめ】ラットヒラメ筋を用いて廃用性筋萎縮からの回復過程におけるMHCアイソフォームとHSP-70のmRNA発現量の経時変化を検討したところ,両者共に後肢懸垂時よりも再体重負荷直後により増加を示した.現在同タンパク質のタンパク質レベルでの発現量変化を検討中であるが,MHCアイソフォームやHSP-70 mRNA発現量やタンパク質発現量の変化に対する解析は,理学療法士が臨床において廃用性筋萎縮に対する有効な治療法の開発に寄与できると考える.
  • 岡田 裕, 永冨 史子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1032
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】下側肺障害を呈した症例に対する呼吸理学療法の一手段として腹臥位での体位呼吸療法がある。目的は換気血流比の改善と虚脱した肺胞の再開通である。岸川らは腹臥位で呼吸理学療法を施行しても効果が得られない症例に対し、腹部を前下方から圧迫すると下背側の胸郭拡張が得られ、肺胞への換気が改善したと報告している。また、健常成人を対象とした研究においても腹部圧迫群と圧迫開放群では胸郭拡張率に有意差を認めたと述べている。今回、健常人を対象に腹臥位時の腹部圧迫が換気量にどのように影響しているかを最大吸気量に着目し検討した。
    【対象】対象は健常成人15名(男性8名、女性7名)で、平均年齢25.3±6.3歳、平均BMI21.2±2.3である。条件として、腹部脂肪の圧迫の影響を避けるため、BMI25未満と設定した。全ての対象者には、研究の主旨を説明し同意を得た。
    【方法】測定にはトリートメントベッドを用いた。1.基本肢位として通常の腹臥位(通常腹臥位)2.腹部をクッションで圧迫(クッション圧迫腹臥位)、3.腹部を2kgの砂のうで圧迫(砂のう圧迫腹臥位)、4.前胸部と骨盤部にクッションを当て腹部を除圧した腹臥位(除圧腹臥位)の4条件を設定した。2と3の相違点は、腹部の圧迫面積である。各条件間で十分な休憩を入れ、最大吸気量(IC)を3回ずつ測定した。測定には呼吸機能測定器、Autospiro.AS-500(ミナト社製)を使用した。各条件下での腹部圧迫面積の違いは、体圧分布測定システム、COMFORMat.Ver5.83(ニッタ社製)をベッドと腹部の間に敷き確認した。各条件の平均値を求め、1の測定値を基準とし他の3条件とを比較した。統計処理として一元配置分散分析後、多重比較を行った。危険率は5%未満とした。
    【結果】1.通常腹臥位のICを100%とすると、2.クッション圧迫腹臥位は107.3±6.8%、3.重錘圧迫腹臥位は105.5±6.2%、4.除圧腹臥位は96.5±4.8%であり、1・2、1・3間、2・4、3・4間で有意差を認めた。また、1・4、2・3の間では有意差は認めなかった。
    【考察及びまとめ】本研究の結果、腹部を除圧した場合、腹部臓器の固定が不十分となり背側胸郭の拡張及び換気量が減少し、逆に圧迫することで胸郭の拡張が助けられ、換気量の増大に影響したと考える。腹部圧迫が吸気時の腹部臓器の固定を代償し吸気を補助したと考える。また、腹臥位での呼吸理学療法を施行する際、腹部圧迫面積の相違よりも腹部圧迫の有無が重要と考える。岸川らも述べているように、頚髄損傷者など体幹筋麻痺がある症例に対し、腹臥位や前傾腹臥位で背側への換気を促したい場合に腹部の前下方からの圧迫が応用できると考える。しかし、臨床症例では体圧分散マットを使用していることが多く、腹部の前下方からの圧迫が体圧分散マットに減ぜられる可能性が考えられ、換気への影響も変化すると予想される。今後は、このことについても研究をすすめていきたい。

  • 肩甲帯の位置と舌骨の動きに着目して
    水野 智仁, 山本 佳世, 阿志賀 大和, 當山 沙織, 楠山 綾, 高岸 陽子, 山田 明史, 平尾 拓士, 平尾 理恵
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1033
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】食事は摂食・嚥下という一連の運動から成り立つが、それは頭頸部や体幹の位置に影響を受けることが多くの研究によって報告されている。そこで今回は、これまで報告のみられない肩甲帯の位置に注目し、頭頸部や体幹の位置、全体の座位姿勢だけでなく、肩甲帯の位置や筋緊張なども評価の一つとして重要な項目と考え、肩甲帯の位置を変えることが嚥下に対して影響を与えるのではないかと仮説を立て、健常者を対象に嚥下造影検査(以下VF)を用いて検討した。

    【方法】被検者はこれまでに摂食・嚥下に影響を及ぼす口腔疾患や脳血管障害などの既往のない健常者9名を対象とし、研究目的、方法、検査は非侵襲的で安全であること、VFはX線を用いるが、日常的な医学的検査による被爆限度を超えない程度あることを説明し同意を得た。撮影は医師、放射線技師の立会いのもと行い、また被検者にはVFの画面に支障のない範囲で防護服を着用した。被検者の姿勢は椅子座位で、前方に鏡を置いた。コップよりバリウム溶液10mlを口腔内に保持し、鏡に貼ったシールを注視することで、頭頸部や視線の位置が動かないようにした後、指示嚥下を行った。撮影はすべて側面像で、肩甲帯安静位、両側挙上、両側下制の順に行った。分析方法は簡易X線透視装置(GE横河メディカルシステムSTENOSCOPE9000MDN)を用い、DVDレコーダー(SONY RDR-HX6)に録画し、X線透視画像の解析にはマイクロソフトムービーメーカーを用いて咽頭通過時間(食物が下顎骨下縁から食道入口部を全て通過するまでの時間)、舌骨最高位保持時間(舌骨が最大挙上位で保持されている時間)、舌骨最大挙上するまでの時間(舌骨が安静位から最大挙上するまでの時間)を測定した。データの統計学的検討には対応のあるt-検定を用い有意水準を5%とした。

    【結果】肩甲帯位置別における咽頭通過時間の比較では全ての位置において有意な差は認められなかった。舌骨最高位保持時間では、安静位と両側肩甲帯下制位と比較すると両側肩甲帯下制位で舌骨最高位保持時間が延長する傾向を示した(p<0.05)。舌骨挙上時間では、安静位と両側肩甲帯挙上位と比較すると両側肩甲帯挙上位で舌骨挙上時間が延長する傾向を示した(p<0.05)。

    【考察・まとめ】臨床場面において、嚥下障害患者の姿勢評価をする際、頭頸部過伸展位や頸部突出位、肩甲帯周囲筋の過緊張による肩甲帯挙上位や、低緊張による肩甲帯下制位、体幹機能の低下による側方への体幹の崩れや脊椎変形による円背などの姿勢を見ることが多々ある。今回、肩甲骨の位置変化により舌骨上下筋群の短縮または伸張により舌骨の動きに影響を与えることが考えられた。そのことから、嚥下時の姿勢評価、ポジショニングを考慮する際、頭頸部、体幹の位置、姿勢筋緊張の評価をはじめ肩甲帯の位置も評価することの重要性が示唆された。
  • 牧之瀬 一博, 岩田 篤, 宮川 知子, 平田 英嗣, 三吉 裕子, 石倉 隆
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1034
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】効果的な筋力増強運動を行う為には、負荷量の設定が重要である。負荷にはRepetition Maximumなどが参考にされることが多いが、機材の関係上・測定の困難性から一般臨床的に用いられることは少なく、未だセラピストの経験的・主観的な重錘負荷や徒手抵抗が用いられることが多い。そこで、循環器トレーニングなどで使用されているBorg scaleを用いて筋力増強運動における運動強度の設定を行えないかと考えた。先行研究では、10%刻みの相対的筋張力(以下、%MVC)発揮時のCR-10のスコアは、発揮張力と直線的関係性があることや、CR-10の比率的性質は相対筋力に対しても成立するとされている。そこで本研究では、20ポイントBorg scaleに呼応した自覚的な努力度と%MVCの関係性を追視調査することを目的とした。
    【方法】対象者は、健常成人11名(平均年齢24.1±2.5歳)であり、利き手、およびそれと同側の脚を対象肢とした。測定は握力と膝伸展筋力の2種類とし、握力の測定には握力計、膝伸展筋力の測定にはハンドヘルドダイナモメーターを使用し、測定環境が同一となるよう注意した。Borg scaleの「7非常に楽」「9かなり楽」「11やや楽」「13ややきつい」「15きつい」「17かなりきつい」「19非常にきつい」「20最高にきつい」をランダムに選択し、対象者に相当する努力度で筋力発揮を行わせ、測定値をそれぞれ記録した。また、各測定間での比較を困難とするため、2時間以上の時間を空け、その間は一般作業に従事した。各測定値は、20で得られた測定値で除し、%MVCとして解析した。
    【結果】それぞれの自覚的な努力度と%MVCは、握力では7:26.8±10.7、9:37.3±13.9、11:43.8±16.3、13:54.0±19.6、15:68.8±15.6、17:78.5±13.3、19:91.3±6.5となった。膝伸展筋力では、7:20.8±10.9、9:27.3±14.5、11:36.1±15.4、13:52.2±18.5、15:60.6±21.8、17:67.6±24.4、19:87.0±21.3となった。全体的な数値の変動は直線的な右肩上がりであったが、対象者間の値のばらつきは大きく、個人の測定値でも逆転が見られた。
    【考察】握力、膝伸展筋力ともに自覚的な努力度の増大に伴い、%MVCも増加する傾向があった。しかし、その変化は個人差が大きく、一様の変化は得られなかった。今回の研究では、測定に際してそれぞれの測定間での比較を困難とするために充分な時間を空けて測定を行ったため、自覚的努力度に影響を与える筋の疲労状態や精神状態が一様でなかったことが考えられる。しかし、臨床においては、それらのことは常である。これらのことから自覚的努力度による一定の負荷量の設定は困難と考えられた。
  • 岡部 孝生, 駒井 説夫, 東川 裕, 宅間 豊, 宮本 謙三, 井上 佳和, 宮本 祥子, 竹林 秀晃, 滝本 幸治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1035
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【はじめに】筋収縮様式や運動速度による末梢循環動態の特異性を検討した先行研究は数少ない。特に低速域における先行研究は皆無といえる。そこで今回、30deg/secならびに60deg/secといった比較的低速の求心性・遠心性の等速性運動時の末梢循環動態について、近赤外線分光装置(酸素化動態)と簡易血中乳酸測定器(乳酸動態)を用いて検討した。
    【対象と方法】対象は、予め実験内容に同意が得られた健常成人男性20名とした。対象者の年齢は21.8±3.1歳、BMIは21.0±1.5kg/m2)であった。
    運動課題は等速性運動機器(CYBEX社製)を用いた端座位における等速性の右膝関節屈伸運動(30回×3セット)とした。運動条件は、右膝関節伸筋群に対する2種類の運動様式(求心性[CON]、遠心性[ECC])と2種類の角速度(30deg/sec、60deg/sec)を組み合わせた4条件(CON30群、CON60群、ECC30群、ECC60群:各群5名)とした。
    局所筋レベルのヘモグロビンの酸素化動態の測定には、近赤外線分光装置(島津製作所製)を用いた。測定は、1分間の安静(安静期)から開始し、運動課題中(運動期)、さらに3分間の安静(回復期)の間、連続的に行った。測定部位は、右外側広筋(VL)とした。測定項目は、総ヘモグロビン定量指数(THI)ならびに組織酸素飽和度(StO2)の2項目とした。分析は、両測定項目とも、運動期の検討は、10秒毎の代表値から各セットの平均値を算出した後、二元配置分散分析を行い、回復期の検討には、10秒毎の代表値から回復期3分間の平均値を求め、一元配置分散分析ならびに多重比較を行った。
    血中乳酸濃度の測定には、簡易血中乳酸測定器(アークレイ社製)を使用した。測定は、安静期、運動直後、回復期5分後、10分後、15分後の合計5回、右指尖より採血して測定した。分析は、まず各乳酸値を安静期の値を基準とした変化率(%)で求めた後、二元配置分散分析を用いて検討した。また、回復期におけるピーク値(mmol/l)についても、一元配置分散分析ならびに多重比較を用いて検討した。
    【結果と考察】まず、酸素化動態について、THIとStO2の結果をまとめると、運動期ならびに回復期ともにCON群は酸素需要が多いのに対して、ECC群は酸素需要が少ない傾向が示唆された。また、CON群の酸素需要度はCON30群に比べCON60群が高値を示し角速度の影響が示されたが、ECC群の酸素需要には角速度の影響は認められなかった。次に、乳酸動態について血中乳酸濃度はいずれの群も、安静時に比べ運動後は上昇した。しかし、その上昇率はCON群に対してECC群は低かった。また酸素化動態同様、乳酸動態においても、CON群はCON30群に比べCON60群が高値を示し角速度の影響が示されたが、ECC群では各速度の影響は認められなかった。今回の結果から、酸素化動態や乳酸動態においても、筋収縮様式や運動速度の違いによる特異性が示唆されたと考えられる。
  • 宮本 敬二, 上西 啓祐, 橋崎 考賢, 川西 誠, 森木 貴司, 児嶋 大介, 伊藤 倫之, 田島 文博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1036
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【はじめに】急性期リハビリテーションにおいては筋力強化や関節可動域訓練だけでなくdeconditioning等から生じる起立耐性低下に対して早期離床を促し、予防改善に努めることが重要である。ベッドサイドでは離床の手段として端坐位や立位訓練が用いられるが、姿勢変換における循環応答は不明瞭な点が多く、特に端坐位と静止立位、Head up Tilt(以下HUT)時の循環応答に関する比較はほとんど行われていない。今回、端坐位と静止立位、HUT時の循環応答を測定し3群間の比較、検討を行った。
    【方法】被検者は若年健常男性9名(平均年齢23.6±2.3歳、体重63.6±6.1kg)とし、安静臥位時および端坐位、静止立位、70°HUT時の平均血圧(以下MBP)、1回心拍出量(以下SV)、心拍数(以下HR)、心拍出量(以下CO)の測定を行なった。MBPは手動血圧計、SV、HR、COは心拍出量計を用いて1分毎に測定し平均値を、また末梢血管抵抗(以下TPR)も算出した。プロトコールは安静臥位3分、姿勢負荷(以下負荷)7分、回復臥位3分とし、測定は同じ日に行い、データは安静時臥位平均値と負荷時の比較を各群で行い、また各群間での比較も行った。
    【結果】安静臥位時と負荷時の比較ではMBPは3群とも有意な変化はなく、SV、COは3群共に有意に低下し、HR、TPRは3群とも有意に上昇した。3群間でのMBPの比較では、端坐位負荷(73.2±6.6mmHg)と比較して静止立位負荷(83.2±7.2mmHg)で有意に高値を示し、HUT負荷(77.0±9.2mmHg)では有意差を認めなかった。静止立位とHUTの比較では有意差を認めなかった。端坐位と比較し静止立位群、HUT群とも負荷時では各分毎で有意にSVは低値を示し、HRは有意に高値を示した。また、静止立位群とHUT群の比較ではSVとHRは有意差を認めなかった。CO、TPRは3群間の比較に差はなかった。
    【考察】今回の研究結果では3群ともに姿勢変化に伴うSV、COの低下、HRの上昇を認めた。負荷に伴い静脈還流量が減少、その結果SV、COが低下し、血圧維持の為の圧調節系の反応によりHR、TPRが上昇したと考えられる。3群間の比較では静止立位群、HUT群と比較し端坐位群ではSV、HRの変化が小さく有意差を認めた。HUT、静止立位は端坐位に比べ静水圧が大きい為、血液貯留量が多くなり静脈還流量の減少が大きくCOには差がなかったもののSV、HRの変化が増大したと考えられる。今回の研究では端坐位負荷は静止立位、HUT負荷に比べ負荷が少ない結果となった。しかし、安静時との比較でSVの低下、HR、TPRの有意な上昇を示しており、姿勢変換に対する反応が生じていることから起立耐性低下に対する負荷として有用である事が示唆された。
  • 須藤 沙弥香, 高橋 俊章, 神先 秀人, 遠藤 優喜子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1037
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】「食べる」という動作は、栄養を摂取し生きていくために必要な動作であり、摂食姿勢は円滑な咀嚼・嚥下を行う上で重要な因子である。嚥下障害がある場合に、ギャッジアップ30度ないし45度程度での食事摂取を推奨するとの報告があり、座位が不安定な場合などにも、ギャッジアップの状態で食事摂取を行うことがある。しかし、通常われわれは頭部や体幹を自由な状態にして食事をしており、後方へ傾斜した状態は頭部や体幹の制限をするため必ずしも自然な姿勢とは言いがたい。そこで本研究の目的は、ギャッジアップ45度、65度の肢位並びに端座位の肢位の違いが咀嚼・嚥下に及ぼす影響を明らかにすることである。
    【方法】神経学的疾患ならびに顎形態異常を有さないベッド上長座位が可能な健常成人男性5名(平均年齢22.4歳±0.5)及び女性5名(平均年齢22歳±1.2)を対象とした。なお、対象者全員に文書にて十分な説明を行い、同意を得た。ギャッジアップ45度(枕使用・不使用)、65度(枕使用・不使用)、端座位の5つの肢位で、食物テスト、水飲みテスト、反復唾液嚥下テスト(以下RSST) の3つのテストを行った。食物テストはこんにゃくゼリー16gを完食するまでの咀嚼回数・嚥下回数・時間を測定した。水飲みテストは硬度20の冷水30mlの嚥下回数・飲み終えるまでの時間を測定した。また、これらのテストの間、表面筋電計を用いて舌骨上筋群、咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋の筋活動を測定した。筋活動の比較では各テストにおいて、テストの開始から終了までの積分値を用いた。さらに主観的評価として、各テストにおいて最も楽な姿勢を問診にて調査した。統計処理は、多重比較検定を用い、有意水準は5%とした。
    【結果】筋活動量の比較においては、食物テストとRSSTを行った際の胸鎖乳突筋の活動量が、端座位と比較してギャッジアップ45度枕使用時において有意な増加が認められた。また、RSSTを行った際の僧帽筋の活動量は、端座位と比較して他の全ての姿勢において有意な増加が認められた。主観的評価においては、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であった。端座位の次に楽な姿勢は、ゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下においてギャッジアップ65度枕使用であった。またゼリーの咀嚼回数、水の嚥下回数では明らかな差は認められなかった。
    【考察】結果より、端座位と比較して、ギャッジアップ45度、65度どちらも胸鎖乳突筋及び僧帽筋の筋活動量が増加した。これらは主観的評価から得られた、端座位がゼリーの咀嚼・嚥下、水の嚥下、唾液の嚥下いずれにおいても最も楽な姿勢であったという結果と一致しており、本研究の対象である健常成人においてはギャッジアップベッドの食事姿勢が咀嚼・嚥下に不利な影響を及ぼしている可能性が示唆された。
  • 竜田 庸平, 岩佐 学, 中村 あづさ
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1038
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    重大事故は,睡眠リズムの乱れから発生する事も明らかになっている.このように,睡眠リズムの乱れは現代社会において重大な問題であるにも関わらず, リハビリテーション分野は睡眠研究が少ない.今回,睡眠リズムの乱れがヒトの重心動揺に影響を及ぼすと仮説し以下に報告する.
    【対象】
    対象は,健常男性10名.平均年齢は29.4±3.89歳.なお,対象者には本実験の説明を十分に行い同意を得た.
    【方法】
    1)睡眠日誌をつけてもらい,睡眠状態を把握した.
    2) 重心動揺計(Stabilo 101)suzuken製を使用した.
    3)2m先の目の高さに固定視標を準備し,測定した.
    4) 通常睡眠(以下NS)・5時間睡眠(以下5S)・3時間睡眠(以下3S)時の開眼・閉眼時重心動揺を計測した.測定項目としては,総軌跡長・単位時間軌跡長・単位面積軌跡長・外周面積を採用した.
    5) 各データを開眼時・閉眼時に分別し,1因子分散分析にて統計処理をした.
    6) 睡眠日誌から睡眠不足もしくは睡眠リズムが崩れた日を割り出し,その日の各データを対応のあるt検定にて通常睡眠時データと比較検討した.
    【結果】
    1) 睡眠動態
    平均睡眠時間は平均6.8±1.87時間であった.対象者全員に5S・3Sとも,翌日には睡眠不足感を感じていた.つまり5S・3Sとも,睡眠リズムの乱れが確認できた.なお,日常生活中の睡眠リズムに異常は認められなかった.
    2) 分散分析の結果
    開眼時単位面積軌跡長は,p<0.05で有意差が見られ,通常睡眠時で高値を示した.その他は有意差が認められなかった.
    3) t検定の結果
    開眼時単位面積軌跡長は,p<0.01で有意差が見られ,通常睡眠時で高値を示した.その他は有意差が認められなかった.
    【考察】
    睡眠は,休息と生体時計が刻むサーカディアンリズムにより駆動される時刻依存的な現象という2種の生理的側面をもつ.この睡眠リズムの乱れは,ヒトの作業能力や集中力と深く関わり,事故の誘発と関係している.
    睡眠日誌の結果,日常生活中の睡眠リズムの乱れが確認できなかった対象者全員が,5S・3S時翌日には眠気を感じていたため,睡眠リズムの乱れを人為的にコントロール出来たと考える.
    次に,各分析とも開眼時単位面積軌跡長に有意差が見られた.単位面積軌跡長は固有受容器姿勢制御機構を示すパラメータであるとされ,低下を示すという事は,睡眠リズムの乱れが平衡機能を有意に低下させたと考える.しかし,その他においては有意差が認められなかった. 原因として,開眼時の平衡機能は視覚依存的な平衡機能という側面を持ち,閉眼時は小脳に依存する平衡機能であるため,睡眠リズムの乱れは小脳の平衡機能への影響よりも,視覚依存的な平衡機能への影響が大きかったと考える.
    睡眠は,ヒトが生きるためと行動するために必ず行なう必要がある.そのため,睡眠評価無しに患者のリハビリテーションを円滑にする事は出来ない.今後も睡眠とリハビリテーション評価を照合していくため研究を継続する.
  • 下瀬 良太, 只野 ちがや, 田島 多恵子, 与那 正栄, 坂本 美喜, 松永 篤彦, 室 増男
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1039
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【背景】筋疲労時は中枢でのcentral commandの影響や,末梢でのmetaboreflexを初めとする様々は反射の影響により,交感神経活動が亢進し,血圧や心拍数(HR)が上昇するといった循環応答が起こる.持久性トレーニングが筋疲労に対する循環応答に与える影響についての報告は多いが,前腕のレジスタンストレーニングにおける筋疲労と循環系へのトレーニング効果についての報告は多く見られない.そこで本研究では前腕のレジスタンストレーニング後の持続的最大等尺性収縮における筋疲労時の循環応答に与える影響について検討した.
    【方法】ヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的・内容を十分に説明して同意を得られた男性健常成人7名(平均年齢23±2才)を被験者とした.本研究は倫理委員会の承認を得て実施された.トレーニング効果の検証として,トレーニング前後に最大努力での把持動作を1分間行い,その際の握力,筋電図(EMG),HRを測定した.握力はピエゾセンターを内装した装置(長径52mm,短径37mm)から測定した.EMGは前腕にある屈筋群3筋(橈側手根屈筋,尺側手根屈筋,浅指屈筋)と,伸筋群3筋(橈側手根伸筋,尺側手根伸筋,総指伸筋)を対象筋とし,各筋において前処理を行い,ミニチュア表面電極(電極直径5mm,電極間距離10mm)から双極誘導した.EMGの解析は1kHzでサンプリングしたデータから振幅の2乗平均(rms-EMG)と平均周波数(mean power frequency; MPF)を算出して行った.HRはPOLARの心拍計を用いて5秒平均の値を測定した.また今回のトレーニング筋は,把持動作時に疲労しやすい手関節伸展筋群とし,70%MVCの等尺性手関節伸展運動を,50%duty-cycle(2秒休息)で30回行った.このトレーニングは週5回,4週間とし,トレーニング開始後2週間目で強度の再設定を行った.各パラメータをトレーニング前後で比較した.
    【結果と考察】トレーニング後持続的最大等尺性収縮による1分間の力積(IF)は増加した.これは伸筋群のrms-EMGが増加し,MPFが低下傾向を示した結果から判断すると,運動単位(MUs)の同期性に起因したものと考えられる.トレーニングしていない屈筋群にはそれらに大きな変化は見られなかった.HRは力積の増加分ほどに増加を示さず,逆に減少する傾向が見られた.HRを力積で除した値(HR/IF)はトレーニング後に減少傾向を示した.以上の結果から,前腕伸筋群レジスタンストレーニングは静的グリップ運動による循環応答の過応答を抑制できる可能性を示唆した.
  • 芥川 知彰, 榎 勇人, 竹林 秀晃, 西上 智彦, 石田 健司, 谷 俊一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1040
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【はじめに】床反力計や3次元動作解析装置を用いた歩行分析は多数報告されているが,装置が高価で,解析に時間を要し,測定空間も限られるため臨床現場にはそぐわない.近年,比較的安価で測定空間の制約を受けにくい小型加速度計を用いた歩行分析が臨床普及の観点から注目されているが,従来の方法と比較して妥当性を検討した報告は少なく,十分なコンセンサスが得られていない.そこで我々は,重心加速度を最も反映すると考えられている第3腰椎(L3)と,実際の重心位置と言われる第2仙椎(S2)高位での歩行中の体幹加速度を加速度センサにて計測し,同時に床反力計から求めた重心加速度と比較することでその妥当性を検討した.
    【対象】研究趣旨に同意した健常成人男性12名(20.4±1.4歳)を対象とした.
    【方法】2つの3軸加速度センサをL3とS2の高さでそれぞれ固定し,自由歩行を3回行った.歩行路に2枚の床反力計を設置し,4歩目以降に右下肢からその上を通過するよう調整した.床反力計では左右各1歩分(両脚支持期は1回)しか計測できないため,解析対象を左toe offから次の右heel contactまでの左右合成床反力に制限した.床反力計と加速度センサから求めた加速度波形の特徴を確認し,相互相関係数の平均値を指標に波形の類似性を検討した.
    【結果】加速度波形は,床反力計より加速度センサで平均的に大きな振幅を示した.左右方向の波形は床反力計が両脚支持期で左右逆転し,片脚支持期ではほぼ一定なのに対し,加速度センサは全域で多峰性の大きな振幅を示した.前後方向の波形は両脚支持期で加速度センサが多峰性と大きな振幅を示す以外は床反力計に近く,垂直方向の波形は峰数も振幅の大きさも加速度センサと床反力計で類似していた.床反力計と加速度センサから求めた加速度の相互相関係数は,左右方向がL3で-0.16(-0.28~0.01),S2で-0.10(-0.22~0.06),前後方向がL3で0.66(0.48~0.76),S2で0.62(0.54~0.73),垂直方向がL3で0.72(0.57~0.79),S2で0.65(0.54~0.74)であった.
    【考察】加速度センサと床反力計から求めた加速度波形は,前後と垂直方向で相関を認めた.さらに,S2よりL3の高さで相関係数は高値となり,L3高位の体幹加速度が重心加速度を反映するという諸家の報告を支持する結果となった.一方,左右方向では相関が認められなかった.波形全体の多峰性から,加速度センサの左右への動揺が大きかったことが推察できる.これは,固定された床反力計に動的な人体が接触することで得られる床反力と,動的な身体に接触している加速度センサから得られる加速度の違いを左右方向で最も鋭敏に捉えている結果と考えられる.加速度センサは数歩行周期に及ぶ解析によって歩行の周期性や対称性を検討できる利点を有し,床反力計より臨床的な応用が見込める.それらも踏まえて,前後と垂直方向の体幹加速度は重心加速度の代用として有用と考える.
  • 乙戸 崇寛, 竹井 仁, 妹尾 淳史
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1041
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】超音波画像診断装置を用いた骨格筋の測定に関する研究において、安静時および筋収縮時の再現性を検討した報告は多くみられる。筋束と腱膜の接点は、筋収縮時に移動し腱膜移動距離として測定されるが、発揮する筋力との関係や測定の再現性についての報告はみられない。本研究の目的は、超音波画像診断装置を用いて足関節等尺性底屈運動時における腓腹筋外側頭の形状変化を測定し、これと筋力との関係、また再テスト法を用いた各指標の再現性について検証することである。

    【方法】健常男性10名(平均年齢24.6歳)を対象とした。運動課題は、腹臥位膝関節0°、足関節0°で固定した右足関節等尺性底屈運動とした。足関節底屈筋力は、5kg、10kg、15kg の3段階とした。測定項目は、腓腹筋外側頭の1)表層腱膜移動距離、2)深層腱膜移動距離、3)筋厚、4)羽状角とし、これを測定するために超音波画像診断装置(GE社製LOGIQ400MD)を用いた。プローブ位置は、下腿最大膨隆部より膝関節方向へ14cmの位置で、腓腹筋外側頭の前額面上の中央部とした。あらかじめ触察手技と超音波画像診断装置を用いて腓腹筋外側頭の位置を水性マジックで記し、常時プローブ位置を確認した。プローブ接触強度は、ゲルを用いて画像を得ることが出来る最小限度とした。全ての測定は同一検者が行った。約1週間後に同条件で再測定を実施した。統計処理にはSPSS(ver.12)を使用し、1回目と2回目の筋力条件と各指標の変化について、二元配置分散分析を行い、事後検定として多重比較検定(Bonferroni法)を行った。有意水準は5%未満とした。再現性については、再テスト法を用いてICC(1.1)を求めた。なお、本研究は首都大学東京研究倫理審査委員会の承認(承認番号05084)を受けて実施した。

    【結果】深層腱膜の平均移動距離[mm]は、1回目は5kgが19.9、10kgが23.8、15kgが26.9、2回目は5kgが20.6、10kgが24.8、15kgが27.0であった。多重比較検定の結果、1回目の測定では筋力条件が5kgと15kg間、2回目の測定では5kgと10kg間、5kgと15kg間で有意差がみられた。その他の指標では有意差がみられなかった。また再テスト法によるICC(1.1)は、表層腱膜移動距離では、5kgが0.85、10kgが0.77、15kgが0.91、深層腱膜移動距離では、5kgが0.90、10kgが0.89、15kgが0.94、筋厚では、5kgが0.58、10kgが0.87、15kgが0.38、羽状角では、5kgが0.56、10kgが0.18、15kgが0.10であった。

    【考察】深層腱膜移動距離は、今回用いた指標の中で唯一、筋力と関連性がみられた。腓腹筋外側頭の深層腱膜は停止腱膜である。これを応用した場合、超音波画像で観察される深層筋の筋力測定の可能性が示唆された。また、同一検者測定の再現性が高く、筋力との量的関係性を検討する場合に有用な指標であることが示された。
  • 中山 裕子, 大西 秀明, 中林 美代子, 高橋 美紀, 関原 枝里
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1042
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】最大肩回旋トルクは肢位により変化することが報告されているが,肩内旋トルクに関しては一定の見解が得られていないのが現状である.最大トルクが運動肢位により変化する要因としては,筋活動量の変化等の神経生理学的要因と,上腕骨長軸と筋線維走行の成す角度および筋の長さ張力関係などの運動力学的要因の2つが挙げられる.われわれは第42回大会で肩甲骨面上肢挙上角度と肩甲下筋の筋活動の関係について報告し,肩甲下筋の部位による収縮特性を明らかにした.今回,他の内旋共同筋の活動状態を検討したので報告する.
    【対象と方法】対象は健常成人12名(男性6名,女性6名,平均年齢28.5±5.6歳)であった.測定は椅子座位にて肩甲上腕関節内外旋中間位とし,上肢下垂位,肩甲骨面挙上60度,120度に固定した肢位で5秒間の肩関節最大等尺性内旋運動を2回行った.内旋トルクの測定は筋力測定器(BIODEX SYSTEM3)を使用して行った.筋活動は表面電極にて大胸筋鎖骨部,大胸筋胸骨部,広背筋から導出した.筋電図は前置増幅器(DPA-10P,ダイヤメディカルシステムズ)および増幅器(DPA-2008,ダイヤメディカルシステムズ)を用いて増幅し,サンプリング周波数1KHzでパーソナルコンピューターに取り込み,運動開始後1秒後以降で最大トルクが発揮された時点から0.5秒間を積分した(IEMG).最大トルク値(PT)とIEMGは上肢下垂位の値を基に正規化し(%PT,%IEMG),挙上角度による比較を行った.統計処理には分散分析と多重比較検定(有意水準5%未満)を用いた.
    【結果】%PTについては,挙上60度が130.5±36.7%,120度が76.2±17.6%であり,60度が最も高く,次いで下垂位(100%)であり,120度が最も低い値でそれぞれ有意差を認めた.%IEMGについては,大胸筋鎖骨部の60度が90.5±18.9%,120度が73.6±27.9%で120度は下垂位(100%)に比べ有意に低い値であった.大胸筋胸骨部は,120度(72.8±23.7%)が下垂位(100%)および60度(106.3±34.2%)に比べ有意に低い値であった.広背筋は60度が123.6±28.3%,120度が136.9±36.7%であり,120度は下垂位(100%)に比べ有意に高い値であった.
    【考察】今回の測定肢位においては,%PTは挙上60度で最も高い値を示した.これは大胸筋や肩甲下筋等の内旋筋群が張力を発揮しやすい筋長であったことと,各筋の収縮ベクトルが上腕骨回旋運動方向に対して最も効率が良かったためではないかと考えられる.本研究結果から,肩内旋運動において,上腕骨挙上角度の変化により内旋トルクおよび関連筋群の筋活動が変化することが明らかとなった.
  • 西川 徹, 南角 学, 三戸 由美子, 安藝 浩嗣, 中村 孝志
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1043
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    臨床において,股関節疾患患者などのDuchenne歩行の改善に患側上肢へ重量負荷を用いることがある.本研究の目的は,歩行時の立脚側への重量負荷方法と負荷量の違いが股関節周囲筋の筋活動にどのような影響を与えるかを検討することである.
    【対象と方法】
    本研究の参加への同意を得た健常成人10名(男性5名,女性5名,平均年齢26.4±4.7歳)を対象とした.対象者にトレッドミル(BIODEX社製)上で2km/hで歩行させ,通常に歩行した場合と,右上肢に体重の1%,2%,3%の重量物を持たせ,右肩外転0°,45°,90°位でそれぞれ保持させて歩行した場合の筋電図を記録した.筋電図の測定にはBiometric社製のData LINKを用い,フットスイッチを踵部と母指MP関節に付け,立脚相(初期,中期,後期),遊脚相に分けた.測定筋は右側の中殿筋(GM),大腿筋膜張筋(TFL),大殿筋下部とした.筋電図波形処理は,各条件下で10歩行周期行わせ安定した3歩行周期の筋活動を,二乗平均平方根により平滑化し,歩行立脚中期における平均値(RMS)を求めた.各筋の最大等尺性収縮を100%として正規化し,%RMSを算出した.統計には反復測定一元配置分散分析およびFisher's PLSD法による多重比較検定を行い,有意水準は危険率5%未満とした.
    【結果と考察】
    通常歩行での立脚中期のGMの%RMSは22.7±8.2%であった.体重の3%負荷での肩外転0°,45°,90°のGMの%RMSは,それぞれ20.1±7.2%,18.7±8.0%,24.2±9.0%であり,肩外転45°では通常歩行と比較して有意に低値を示した(p<0.05).体重の3%負荷での肩外転90°のGMの%RMSは,肩外転0°,45°と比較して有意に高い値を示した(p<0.05).体重の1%および2%の負荷でのGMの%RMSは,肩外転0°では通常歩行と比較して有意に低値を示した(p<0.05).通常歩行での立脚中期のTFLの%RMSは25.3±17.2%であった.体重の1%負荷での肩外転0°,45°のTFLの%RMSは,通常歩行と比較して有意に低値を示した(p<0.005).体重の1%負荷での肩外転90°のTFLの%RMSは,肩外転45°と比較して有意に高い値を示した(p<0.05).体重の2%負荷での肩外転45°,90°のTFLの%RMSはそれぞれ通常歩行と比較し有意に低値を示した(p<0.05).大殿筋下部の%RMSでは,負荷量および肩外転角度間で有意な差は認められなかった.本研究の結果より,立脚側上肢への負荷量や負荷方法により歩行中の立脚中期におけるGMやTFLの筋活動量を,調節できることが明らかとなった.以上から,立脚側に重量負荷させてトレーニングや評価を行う際にはこれらのことを考慮する必要があると考えられた.
  • 健常高齢者を対象とした測定-再測定間再現性の検討
    加藤 宗規, 磯崎 弘司, 坂上 昇, 鈴木 智裕, 荒木 智子, 森山 英樹, 須永 康代, 宮原 拓也, 山口 賢一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1044
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は,健常高齢者において,ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)とベルトを用いた等尺性膝伸展筋力測定の測定-再測定間再現性について検討することである.
    【方法】対象は体力測定事業に参加した地域在住の健常高齢者183名(男性70名,女性113名),年齢70.5歳±5.2歳(mean±SD,以下同様),身長155.8±9.0cm,体重56.1±9.1kgであり,ボールを蹴る側の脚を測定側とした.対象者には当該関節の整形外科的疾患や関節痛を有する脚はなかった.また,本研究の目的と内容を説明し,同意を得た後に測定を行った.測定姿勢は訓練台に腰かけ,測定肢の後方にベッド脚が位置するように臀部の位置を調整した.体幹は垂直位で両手は体幹両脇の台上についた.大腿部を水平に保つために膝窩部に折りたたんだバスタオルを敷き,膝関節90度屈曲位での等尺性膝伸展筋力をHHD(アニマ社製μTas F-1)とベルトを用いて測定した.センサーの位置は下腿遠位部前面として,ベッド脚とベルトで連結した.運動は約5秒間の最大努力による等尺性運動を30秒以上の間隔をあけて2回行った.検者は本測定方法に習熟した男性(年齢41歳,身長180cm,体重54kg)であった.測定値は男性,女性別に全被験者,65-69歳,70-74歳,75歳以上の4つの年齢区分に分け,1回目の測定値に対する2回目の測定値の差を算出したとともに,対応のあるt検定またはウィルコクソンの順位和符号検定,および級内相関係数(ICC)を用いて検討した.
    【結果】等尺性膝伸展筋力平均値(kgf)は年齢区分順に,男性の1回目では32.5,35.7,31.0,26.1,男性の2回目では35.7,39.3,34.9,28.9,女性の1回目では20.5,22.4,19.8,15.6,女性の2回目では22.6,24.7,21.6,17.3であった.1回目と2回目の比較について,男性の75歳以上では有意差を認めなかったが,男性,女性におけるその他の年齢区分においては有意差を認めた.1回目と2回目間におけるICC(1,1)は年齢区分順に,男性で0.91,0.90,0.88,0.90,女性で0.88,0.85,0.88,0.92であった.2回目の測定値が1回目の測定値に比べて10%以上増加した人数の割合は男性では46%,女性では49%,うち20%増加した人数の割合は男性では17%,女性では23%であり,10%以上減少した人数の割合は男性,女性とも3%であった.
    【考察】結果より,健常高齢者におけるHHDとベルトを用いた等尺性膝伸展筋力測定における測定-再測定間再現性は高いが,2回の平均値の採用には問題があり,さらに3回目以降の測定の必要性について検討が必要であると考えられた.
  • 越智 亮, 松尾 章央, 田中 明奈, 下野 俊哉
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1045
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者では日常生活における下肢の素早い踏み替えを行うような運動経験が少ないと思われる.そこで今回,日常生活で経験することのない下肢の踏み換え運動として高回転ペダリング動作に着目した.本研究の目的は,高齢者と若年者における下肢の素早い踏み替え運動における膝屈伸の筋活動様相を比較し,ペダリングスキルの違いを明らかにすることである.
    【方法】
    対象は下肢,および体幹に整形疾患のない65歳以上の健常高齢者7名と若年者6名であり,全ての対象者に対し十分な説明と紙面による同意を得た.筋電図の被験筋は利き足の外側広筋(以下VL),大腿二頭筋(以下,BF)とした.十分な皮膚処理後,ディスポーサブル電極をそれらの筋腹中央に筋線維に平行になるよう電極中心距離2.0cmで貼付した.表面筋電計はキッセイコムテック社製MQ8を用い,後述のクランク角度を導出するための動作解析用カメラと同期させた.自転車エルゴメーターはコンビ社製パワーマックスVを用い,サドル高はペダルが下死点にある状態で膝関節角度が0~5°になるよう設定した.ペダル部位にカラーマーカーを設置した.ペダル抵抗と回転数の条件は,各被験者の体重の1%(0.4kp~0.6kp)×120rpmとした.被験者に駆動させ,回転数が安定した後の3回転の筋電図およびペダルマーカーの軌跡を記録した.収録されたペダルマーカー位置からクランク角度を割り出した.記録された筋放電は50msのRMSにて平滑化し,各筋の最大随意収縮時の筋活動における50msのピーク値を100%として正規化した値を筋活動量とした.クランク角度はペダル上死点を0°とした.クランク角度は36°毎の10位相に分けた.各クランク位相における筋活動量,および1サイクル中の最大筋活動量を比較した.また,筋活動量が最大値をとるクランク角度を求めるため,筋活動様相が1サイクルに対して二峰性を示すと仮定し,3次関数曲線を当てはめた.
    【結果】
    VL筋活動量は,クランク角度0°~71°,144°~287°において高齢者で有意に高く,その他で有意差はなかった.最大筋活動量に有意差はなかった.筋活動最大値は,高齢者,若年者ともにクランク角度72°で発現した.また,若年者ではクランク位相324°~143°までに活動が10%以下に収束するのに対し,高齢者ではクランク位相324°~215°まで活動が残存した. BF筋活動量はクランク位相144°~251°で高齢者が有意に高く,その他のフェーズで有意差を認めなかった.ピーク筋活動量は高齢者で有意に高かった.また,筋活動最大値のクランク角度は高齢者で180°に発現したが,若年者では108°に発現した.
    【考察】
    若年者と比較して高齢者は,膝伸展に関与するVLの活動と非活動の切り替えに遜色があり,高回転ペダリングに対するBFの作用も異なることが考えられた.
  • 宅間 豊, 宮本 謙三, 井上 佳和, 宮本 祥子, 竹林 秀晃, 岡部 孝生, 滝本 幸治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1046
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法における等尺性筋力トレーニングの実施は,Hettingerらによる負荷強度と筋収縮時間の組み合わせを用い,筋収縮の間に筋休息を設ける間欠的等尺運動が一般的である。そこで本研究では,負荷強度とduty cycle ratio(DC = 筋収縮時間/(筋収縮時間+筋休息時間))が異なる間欠的等尺運動を静的膝伸展として実施し,それらの違いが運動筋疲労とそれに関連する筋酸素動態に及ぼす影響を検討した。
    【方法】被験者は健常成人男性24名であった。これらを無作為に2群に分け,各群にHettingerらの処方を適用し,一方の12名は60%MVCで8秒(60%MVC群),もう一方の12名は80%MVCで4秒(80%MVC群)とした。筋休息時間の決定はトルクマシン(CYBEX 770 NORM)を使用し,各群の負荷強度と筋収縮時間による右膝60度屈曲位での静的膝伸展を行わせ,近赤外空間分解分光法(NIRSRS)で測定した外側広筋酸素化ヘモグロビン濃度(OxyHb)が,静的膝伸展終了後に最低値から最高値までの50%に回復する時間とした。間欠的静的膝伸展はこの筋休息時間を用いて10セット反復させた。この間に右外側広筋疲労の指標として表面筋電図を記録して中間パワー周波数(MdPF)を求め,同時に筋酸素動態の指標としてNIRSRSにより筋内酸素飽和度(SO2)を測定した。MdPFは1セット目または2セット目の高値を初期値100%として,前半終期値(4セット目と5セット目の平均)と後半終期値(9セット目と10セット目の平均)を正規化した。SO2は筋収縮と筋休息の相に分け,それぞれの相の前後半各5セットの平均値を求め,安静値からの変化量として表した。統計処理は,各群の経時的変化では繰り返しのない2元配置分散分析と多重比較検定,2群間比較では対応のないt検定を用いた。
    【結果】筋休息時間とDCは,60%MVC群で15.4±4.8秒と0.36±0.07DC,80%MVC群で17.4±4.0秒と0.19±0.04DCを示し,2群間比較ではDCだけに有意差を認めた。MdPFは両群とも初期値に対して前後半終期値が有意に低下したが,2群間比較では前後半終期値ともに有意差を認めなかった。一方,安静値に対するSO2低下量は,両群とも筋活動相と筋休息相の前後半で有意であった。SO2低下量の2群間比較は,筋活動相では前後半で60%MVC群が80%MVC群に比べ有意に大きかったが,筋休息相では前後半とも有意差を認めなかった。
    【考察】筋休息時間に筋内酸素濃度の回復速度を用いた結果,DCは80%MVC群が60%MVC群の1/2程度になった。負荷強度の増大に伴いDCを小さくすることで筋疲労の程度を抑えることが可能と言われているが,両群の筋疲労度は前後半で同等であった。これに関しては運動筋への酸素供給が促される筋休息相においても筋酸素消費が上回り,筋内脱酸素化の回復不足が影響しているものと考えられる。
  • 張力曲線の傾きより
    山本 洋之
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1047
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋の力またはトルクを測定した場合、力の発揮からの時間経過とともに張力の変化を示す、力-時間曲線といわれるグラフを得ることができる。等尺性収縮で行った場合、最大限の力(peak force,PF)が筋力の指標として使われることが多いが、PFが記録されるまでの時間(time to peak force,TPF)でそれを除したものを力発生率(rate of force development)として、筋の特性の指標にもなるとして使われることがある。TPFは筋によらず比較的一定であるとする報告もあるが、実際にはかなりの変動があることを経験している。PFについても同様に、運動経験の乏しい場合には最大の筋力発揮が速やかに行えないことも経験している。そのような場合に、等尺性収縮時の力-時間曲線を検討することで、力発生率等によらず筋の特性を表す指標を考案したので報告する。
    【方法】被験者は成人女子6名(平均年齢29.7歳)であり、最近では継続した運動経験はなかった。被験者には実験の目的と概要を説明し同意を得た。筋力の測定は、椅子座位で股関節90度屈曲、膝関節90度屈曲の位置より、音の合図で等尺性で最大努力の膝の伸展を3秒間するように指示した。測定は、練習の後、3分間の休憩を挟んで5回繰り返すことをあらかじめ示していた。張力は足関節上部にパットがあたるように調整されたセンサーで測定し、60Hzのサンプリング周波数でAD変換した後、パーソナル・コンピューターに取り込み、PF、TPF、力発生率を求めた。また、力の発揮開始からそれぞれ0.25秒、0.5秒、0.75秒後のトルクをその時間で除したものを、傾き1/4、傾き2/4、傾き3/4として求めた。データから、各被験者毎の平均と標準偏差、また6個の計測項目間の相関係数を求め、被験者全体の傾向を検討した。
    【結果】PFの各被験者の5回の平均は58.1Nmから148.8Nmであるが、各被験者内におけるばらつきは小さかった。TPFは、0.8秒から3.3秒とばらつきが大きく、また各被験者内におけるばらつきも大きかった。そのために力発生率のばらつきも大きくなり、筋力の発揮特性としては試行間の差が大きくなった。PFが筋力を表しているとして、その値と相関の高い特性の指標として傾きを求めると傾き3/4が最もPFと相関は高かったが、PFとTPFの両方にともに相関が高いのは、傾き2/4であった。
    【考察】筋力そのものはPFとして考えうるとしても、筋力の発揮から最大張力までの時間は個人差がある。筋力の発揮特性として時間との関係で張力を解釈する必要があり、傾きとして示した筋力の発揮から0.5秒、または0.75秒での張力を時間で除したものが、その指標に有効ではないかと考えられた。
  • 足底傾斜方向と角度の関係
    中山 恭秀, 吉田 啓晃, 飯島 節, 小林 一成, 安保 雅博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1048
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は、Sloping Platform上での立位姿勢保持で一定時間傾斜刺激持続させて与えることが、その後の平地上における立位時足圧中心位置に与える影響(1999、2001、2002)の追報告として、傾斜刺激の方向と角度の違いの関係を探ることである。
    【方法】ヘルシンキ宣言に則り同意が得られた健常者10名(男性7名、女性3名、平均27.1歳)を対象とした。Sloping Platformは4条件の傾斜方向(前下がり(前)、後ろ下がり(後)、左下がり(左)、右下がり(右))の4条件と10度、20度の傾斜角度2条件、計8条件とした。20秒間位姿勢保持のCOPを刺激入力前(PRE)、刺激入力直後(POST)、刺激入力1分後(1M)に重心動揺計(アニマ社製GS1000 )にて10日以上間隔をあけて2回測定した。各条件間に十分な休息を入れた。立位姿勢は5m前方の印を注視し、足位は開脚、踵間10cmとした。分析は、重心動揺平均値(MX、MY)のデータを用い、PREとPOSTの差、POSTと1Mの差について、対象ごとに足長との比(%)を求めた。前、後、側方(左右)測定値の再現性(ICC)、平均値による前20度・10度・後10度・20度の直線関係と、同様に左右を求めた。
    【結果】平均変位値と括弧内にICCを記す。変位は前方を+、後方を-、左右は絶対値とする。PREとPOSTの変位は、前10度-2.96(0.53)、20度-6.01(0.84)、後10度+2.96(0.58)、20度+5.84(0.70)、側方10度2.61(0.53)、20度5.73(0.73)であった。直線関係は、前後y=6.35x-12.40(R2=0.90)、左右y=0.70x-3.20(R2=0.27)となった。POSTと1Mの変位は、前10度+1.45(0.87)、20度+4.17(0.70)、後10度-3.33(0.47)、20度-5.15(0.80)、側方10度2.16(0.60)、20度4.32(0.63)であった。直線関係は、前後y=-2.58x+8.14(R2=0.33)、左右y=-7.41x+17.53 (R2=0.99)となった。
    【考察】PREとPOSTの変位においては、平均値に規則性が得られ、10度より20度で高い再現性が得られた。直線関係より、角度と強い関係がある。しかし左右はこれに反することから、左右の対称による重心調整機能の特性を示していると考察する。POSTと1Mの変位は、傾斜刺激入力により生じた変位を戻す作用として捉えられる。後10度では中等度の再現性であったが、平均0.71と高い再現性となり、平均値から、変位を元に戻す作用が角度の増減に対して規則的に生じていると捉えられる。直線関係から、前後の変位を戻す作用には角度の増減における規則性は無く、左右では極めて高い規則性がみられ、前後及び側方の規則性が確認された。
    【まとめ】Sloping Platform上での立位姿勢保持で一定時間傾斜刺激を持続して与えることは、刺激入力を解除した直後では傾斜方向と反対の作用が残存し、その後元に戻す作用とあわせて規則的に生じる。前後と左右の重心調節機能の規則性は異なる可能性が示唆された。
  • 宮下 大佑
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1049
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床の場面では、患者が何かに目を向ける時に立位バランスを崩す場面に遭遇する。ヒトが周囲を認知するときの多くが視覚情報であり、その情報処理の過程には眼球運動や周辺視などの運動視が機能する。立位での認知課題の実施は二重課題条件となり、二重課題が立位重心動揺を大きくすることは先行研究で報告されている。眼球運動においてはその機能が低下することで、ものを見るときに頚や体幹の動きを伴って補おうとすることから姿勢制御に影響を及ぼすと言われている。本研究では健常成人を対象に、眼球運動トレーニングを行うことで眼球運動課題(以下、課題)時の立位重心動揺への即時効果を検証することを目的とした。
    【方法】
    本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得られた健常成人33名(平均年齢25.6±4.8歳)を対象に、「タンデム立位+課題」の二重課題時における重心動揺(ANIMA社製G-6100)を30秒間測定した。課題は目の高さ、前方約30cmに設置したパソコン上に0.5秒間隔にランダムに現れる1桁の数字を口頭にて答えることとし、頭頚部をなるべく動かさないよう指示した。測定は(1)「二重課題のみを2回実施」、(2)「二重課題を2回行い、1回目と2回目の間に眼球運動トレーニングを実施」を行った。疲労や課題に対する慣れの影響がなるべく少なくなるよう、1回目と2回目の間を3分間あけ、また、(1)と(2)を1日以上おいた。眼球運動トレーニングにはスピージョン(アシックス社製)を使用し、課題よりもやや速いトレーニングを2分間端坐位にて行った。測定項目は、(1)と(2)のそれぞれ1回目と2回目の総軌跡長(Length;LNG)、X方向軌跡長(x-LNG)、Y方向軌跡長(y-LNG)、外周面積とし、それぞれ対応のあるt検定にて比較した。分析は有意水準を5%未満とした。
    【結果】
    検定の結果、(1)ではLNG、x-LNG、y-LNG、外周面積すべての項目に対し有意な差は認められなかった。(2)においては4項目すべてにおいて有意な差が認められ(p<0.01)、健常成人において眼球運動トレーニングにより二重課題時の立位重心動揺への即時効果を認めた。
    【考察】
    課題以上の速度で眼球運動トレーニングを行ったことにより眼筋機能や情報処理速度が向上したことで、立位重心動揺における即時効果が認められたのではないかと推測する。二重課題の実施においては認知課題訓練による効果が報告されているが、立位重心動揺を変化させるのは認知課題の難易に因るものだけでなく、眼球運動もそれを変化させる一要因であると考える。今回の結果より、眼球運動トレーニングが立位姿勢制御を向上させる1つの手段であることが示唆された。
  • 伊藤 真由美, 川口 徹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1050
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行は、足趾屈曲力と最大歩行速度に相関関係があるという報告、また、足趾屈曲筋力強化で静的立位時の重心動揺に改善効果が見られたとの報告があるが、これらには足趾の関与はほとんどないとの報告もあり、歩行および静的立位姿勢制御での足趾の関与についての見解は統一されていない。
    本研究では、歩行能力または立位バランスに足趾屈曲力が関係あるのか知るために、足趾屈曲力と歩行能力、立位姿勢バランス、膝伸展筋力との関係性を検討した。
    【方法】被験者は健常成人女性35名(平均年齢21.2±0.9歳)を対象とした。測定項目は、足趾屈曲力、左右の平均足圧中心、総軌跡長、随意的重心移動距離、膝伸展筋力、10m歩行スピードテストである。足趾屈曲力の測定には、竹井機器工業社製GRIPDデジタル握力計を使用し、2種類の調節用木製extentionを用いて測定時に握力計がずれないように検者が徒手で固定した。測定は裸足での立位で行い、体幹・下肢を壁に接触させて行った。また、再現性を検討するため3回の測定結果の級内相関係数を求めた。左右の平均足圧中心と総軌跡長の測定には、アニマ製重心動揺計GS3000を使用し開眼位で行った。随意的重心移動距離の測定は、被験者に重心動揺計上で安静立位姿勢からできるだけ前傾位または後傾位をとらせ、その位置で10秒間留めるように指示した時の両足圧平均位置を計測し、平均位置間距離を求めた。前方または後方へ重心移動を行った時の平均位置間距離の足長に対する百分率(前方%または後方%)を算出した。また、同様に左右方向への移動距離を求め、両足外縁間距離に対する百分率(左%、右%)を算出した。
    【結果】竹井機器工業社製GRIPDデジタル握力計を改良して作った簡易筋力測定器での3回の測定による級内相関係数はr=0.9356であり、高い再現性が認められた。
    左右の足趾屈曲力と静的開眼立位時の総軌跡長・足圧中心偏位には相関はみられなかった。また、動的立位バランスの随意的重心移動距離と足趾屈曲力については、前方%と右足趾屈曲力にはr=0.414(P<0.05)、前方%と左足趾屈曲力にはr=0.411(P<0.05)の中等度の正の相関がみられたが、後方%、右%、左%とには相関はみられなかった。右足趾屈曲力と右膝伸展筋力、左足趾屈曲力と左膝伸展筋力にはそれぞれr=0.350(P<0.05)、r=0.368(P<0.05)の弱い正の相関がみられた。足趾屈曲力と自由・最大歩行速度には相関は見られなかった。
    【考察】足趾屈曲力は、前方への重心移動距離と膝伸展筋力に関係があることがわかった。つまり、足趾屈曲力は体が前方に倒れるのを制御する役割を持つと考えられた。また、足趾屈曲力は歩行能力と相関がなかったことは、対象となった若年健常人ではそれぞれの歩行における移動リズムや振幅、歩幅や歩行率などが多様であり、関連性がなかったと考えられた。
  • 垂石 千佳, 三和 真人, 百瀬 公人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1051
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    運動発現には制御系feedbackが関係することは既に知られている。現在、感覚入力と重心動揺の関係についての報告は見られるが、感覚入力や視覚的feedbackと重心動揺、関節角度変化の関係についての報告は少ない。本研究では、第39回の三和らの報告をもとに視覚からのfeedbackと体性感覚入力の遮断の有無が空気椅子の姿勢保持にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした。
    【方法】
    対象は研究方法を説明し同意の得られた、健常男性6名(平均20.1歳)とした。実験は、股・膝関節を50°、100°屈曲、体幹を鉛直方向に30秒間保持させた。膝窩中央10cm上を大腿用血圧計250mmHgで圧迫し、感覚入力を遮断させた。加えて視覚からのfeedbackの影響を検討するため、開眼と閉眼で行った。測定は、圧迫なし、開眼圧迫あり、閉眼圧迫ありの3条件とした。解析はVICON370を用い、測定項目は体重心(COG)、床反力、関節角度とした。COGは左右、前後、上下それぞれの1cm以上の変動数と、COG速度の絶対値からCOG平均速度を求めた。床反力は30秒間の左右、前後、鉛直方向の最大振幅を求めた。股・膝関節の角度変化も、角度範囲(最大屈曲-伸展角度)を求めた。統計処理には反復測定分散分析を用いた。差の検定はTukey-Kramerの多重比較検定を行った。なお、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    単位時間あたりのCOG変動数は左右、前後で、圧迫なし、開眼圧迫あり、閉眼圧迫ありの順で少ない傾向は見られたが、有意差は見られなかった。上下では、閉眼圧迫あり(0.26回/秒)は圧迫なしに比べ、有意に変動数が多くなった。COG平均速度は左右、上下で、閉眼圧迫あり(左右:0.011m/s、上下:0.017m/s)が圧迫なしと比較して有意に速かった。床反力最大振幅はすべての方向で閉眼圧迫あり(左右:23.1Nm、前後:31.4Nm、鉛直:80.7Nm)が圧迫なしに比べ、有意に大きかった。股・膝関節角度範囲は、股関節で閉眼圧迫あり(右:10.45°、左:10.18°)が圧迫なしに比べて有意に大きかった。
    【考察およびまとめ】
    感覚入力遮断により、COGは速い速度で大きく動揺し、床反力最大振幅は大きくなる傾向があった。股・膝関節角度範囲は股関節でのみ有意に大きくなったことから、空気椅子姿勢保持には股関節の何らかの作用が関与していることが考えられる。さらに、閉眼ではこれらの傾向が強くなった。感覚入力遮断と視覚情報の欠如のいずれにより視床や小脳への情報入力が減少するため、姿勢保持が困難になったことが考えられる。以上より、体性感覚からの制御系feedback機構に加え、視覚からの情報が姿勢保持制御にはたらいていることが本研究で明らかになった。
  • 丹野 謙次, 浅野 直子, 藤田 良樹, 原 百実, 三上 章允
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1052
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ヒトにおける静的な姿勢制御には、固有受容器からの情報だけでなく視覚からの情報も大きな役割を持つ。脳卒中患者でも立位姿勢保持の障害がみられるが、その評価やリハビリテーションにおいても視覚条件の検討が必要である。本研究の第一報では、ビデオ提示した動画が脳卒中患者の立位姿勢に与える影響として重心動揺の軌跡の外周面積が健常者群と比較して患者群の方が拡大したことを報告し、第二報では、経時的な変化として健常者群と比較して患者群は動揺の開始が遅いということを報告した。今回の第三報では、患者群の被験者数を増やすとともに、重心の動揺を前後左右の成分を含むベクトルで表示して新たに解析した。
    【方法】被検者は、室内歩行が可能で、著名な高次脳機能障害のない脳卒中患者27名、健常者19名のデータを解析した。患者群の中での体性感覚評価として足底の2点識別覚、下肢の固有感覚を計測し、運動視覚評価としてコンピューター上に映し出されたコヒーレントモーションの方向を弁別する課題における方向検出の閾値を測定した。方法は、重心動揺計(アニマG5500)の上に立位姿勢を保持してもらい、被検者の眼前60cm前方にスクリーンを設置しビデオ映像をスクリーンの背後から投影した。計測条件は、閉眼、開眼、映像前静止画、歩行映像、走行映像、映像後静止画の6つの条件であり各々20秒間である。歩行、走行のビデオは前方10mの距離から被検者の眼前へ向かってくる映像が録画されている。重心動揺の大きさは、測定開始時の重心の位置を基準とした50ミリ秒毎の重心位置のベクトルの長さで評価し、動画条件では動画開始前4秒間、それ以外の条件では測定開始後4秒間の平均重心動揺範囲±2SDとし、それを越える値を動揺とみなした。
    【結果】重心動揺の最大値はどの条件下でも健常者群と比較して患者群で大きな値を示した。また、患者群における閉眼条件では、開眼条件と比較して重心動揺の最大値が約2倍に拡大しており、健常者群との大きな違いがみられた。さらに健常者群、患者群ともに静止画と比較して動画映像において重心動揺の最大値が拡大していた。動揺開始時刻では、動画以外の条件では患者群の方が動揺開始が早い傾向であったが、逆に動画条件では患者群のほうが遅い傾向があった。
    【考察】今回は被験者数を増やすとともに、重心動揺の大きさを第2報で行った前後方向だけでなく前後左右方向の成分を反映したベクトルの長さとして評価し直した。その結果、重心動揺の最大値は健常者群に比較して患者群のほうが全ての条件で大きくなった。この結果は第2報の結果を追認するとともに、日常生活において対象物の移動が重心動揺を大きくし、転倒にも繋がり兼ねないことを示している。動揺開始が動画条件で患者群のほうが遅かったのは、変化していく視覚刺激を素早く的確に認知、処理していくことが困難になっていることも予想される。
  • 伊藤 浩充, 杉山 幸一, 大久保 吏司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1053
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】足部のアーチは大きく分けると縦アーチと横アーチがある。足部アーチの変化は、荷重によって下降し、抜重によって上昇、つまり元に戻ろうとする。しかし、これらのアーチの荷重による連動した空間的な変化については十分に理解されていない。そこで、本研究の目的は、下肢の荷重連鎖運動の要である足部のアーチ変化に着目し、これらの三次元空間的な変化の特徴を明らかにすることである。
    【方法】対象は、ヘルシンキ宣言に基づき本実験に同意の得られた46名の健常者である。方法は、まず、足部外形状の測定にはINFOOT(アイウェアラボラトリ社製)を用いた。下肢に全荷重した時と半荷重した時の2条件でそれぞれ足部をスキャンし、足部の3次元構造を1mm間隔の座標点に変換した。そのうち母指MP関節部、舟状骨部、内果部、踵内側部などの内側縦アーチ指標部と、小指MP関節部、第5中足骨底部などの外側縦アーチ指標部の計7箇所の解剖学的ランドマークの座標点を抽出し、縦アーチ変化量と横アーチ変化量を算出した。この算出には、足部長軸方向をY軸、それに直行する水平の軸をX軸、垂直軸をZ軸として、各部の3軸方向における変位量を求めた。統計学的検定にはJMP ver.6.1を用いてPearsonの相関係数を求め、統計学的有意は危険率5%未満とした。
    【結果】荷重によるX軸の変化では、前足部横アーチの側方への広がりは、母指MP関節部に対する内側縦アーチ指標部の変位量や小指MP関節部に対する外側縦アーチ指標部の外側変位量と負の相関の関係にあった(r=-0.5331~-0.4416)。また、内側縦アーチ指標部間、外側縦アーチ指標部間および内側縦アーチ指標部と外側縦アーチ指標部との間には正の相関関係が認められた(r=0.5215~0.9659)。荷重によるY軸の変化では、母指MP関節部と小指MP関節部の距離が小さくなると、母指MP関節部に対する踵内側部の変位量は負の相関関係(r=-0.9996)を示し、小指MP関節部に対する外側縦アーチ指標部の変位量は正の相関関係(r=0.5351~0.6272)を示した。また、外側縦アーチ指標部間および内側縦アーチ指標部間では正の相関関係(r=0.4513)、内側縦アーチ指標部と外側縦アーチ指標部間では負の相関関係(r=-0.6309~-0.5358)が認められた。荷重によるZ軸の変化では、内側縦アーチ指標部と外側縦アーチ指標部との間には中等度以上の相関関係は認められなかった
    【考察】半荷重から全荷重へ足部に負荷が増大すると、前足部と中足部とは接地面積を広めるように一様に下降を示すがこの時の内側縦アーチと外側縦アーチの変位量は相反する方向が観察された。このことは、荷重増大に伴う距舟関節を含めた足部内側部の剛性と踵立方骨関節を含めた足部外側部の剛性の相違が影響していると考えられた。また、このような足部の形状変化は、足底感覚閾値や歩行時の足圧分布の変化にも影響するのではないかと考えられた。
  • 鈴木 陽介, 金子 誠喜, 須永 康代, 荒木 智子, 森山 英樹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1054
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    足底各部のメカノレセプターを機械的振動により刺激し,感覚情報の増加が立位動的平衡機能にあたえる影響を探索し,足底各部位における感覚情報の機能的役割を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は,18歳から29歳の健常成人男性24名であった。対象は掲示にて募り,本研究の趣旨を説明したうえで同意が得られた者とした。測定は,閉眼立位において足底に振動刺激を与えながら立位平衡への外乱を加え,その外乱への応答を筋電図より検出した。外乱刺激は動的平衡機能測定装置EQUITEST system Ver.7.0(NEUROCOM社製)を使用し,プラットフォームの前後移動により加えた。前方または後方移動への外乱刺激は連続してランダムな順で加え各10回測定した。足底への刺激は偏平小型振動モーターFM24F(東京パーツ工業製,定格振動数130Hz)を使用し,支持面が水平となるようにプラットフォーム上に設置した。足底に振動刺激を加える条件は1)前足部(母指球および小指球),2)踵部,3)全足底(前足部および踵部),4)刺激なしの4条件とし,各条件間は十分に休息をとりランダムな順で施行した。外乱刺激に対する筋電図反応速度(以下,PMT)は,一側の腓腹筋外側頭(以下,GL)と前脛骨筋(以下,TA)から測定した。デジタル変換された各波形を全波整流したうえで加算平均し,外乱刺激後70msec以降に刺激前500msecの安静立位時最大振幅を超えた時点を筋活動開始時間とした。統計処理は一元配置分散分析および多重比較にて行い、有意水準5%で処理した。
    【結果】
    前方移動刺激では,TAのPMTは刺激なし条件(95.6±9.13msec)と比較して振動刺激が加えられることによって有意に短縮した(前足部:87.3±9.75msec,踵部:89.7±14.03msec,全足底:88.7±12.49msec)。後方移動刺激では振動刺激条件による有意差はみられなかったが,GLにおける前足部刺激条件において全足底刺激条件と比較して遅延する傾向がみられた。
    【考察】
    前方移動刺激では,振動刺激によって反応速度が速くなったことから,足底機械受容器への刺激は動的平衡を必要とする状況下において有効な情報として利用されていることが示唆された。足底の振動刺激入力部位による影響は明確ではないが,前足部への電気刺激により中潜時反射が抑制されるとの報告もあり,前足部刺激におけるGLの反応速度の遅延に関係する可能性がある。前方移動と後方移動刺激では振動刺激により異なる変化を示したことから,外乱刺激の種類により入力された感覚情報の処理が異なることが考えられた。
  • 今 恒人, 下野 俊哉, 米田 宏史, 塩中 雅博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1055
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【はじめに】
    高齢者では老化に伴う運動単位数の減少を含む神経機能の低下が認められることは多くの研究で報告されている.この機能低下は,歩行能力の低下や転倒に関係する可能性があり,機能を高めるためのリハビリテーションが行われている.しかしながら,臨床現場で簡便に高齢者の筋活動と神経機能の変化を表す指標は少なく,十分な評価をすることが困難である。そこで高齢者の歩行機能に影響を及ぼす前脛骨筋の最大筋力と筋持久力,反応性について筋力計および筋電図を用い神経活動を比較検討し、神経学的な変化を示す指標に関する若干の知見を得たので報告する.
    【対象】
    対象は,計測に影響を及ぼす疼痛や神経障害を有さない若年者13名(平均年齢21.8歳)と60歳以上の高齢者7 名(平均年齢69.7歳)を対象に実施した.全例,研究内容を説明し同意を得た.
    【方法】
    椅座位で膝関節屈曲位,足関節背屈0°にて自作した固定台に足関節を設置し,最大等尺性収縮にて背屈を行わせた.その際,固定台に取り付けられたフォーストランスデュサーから筋力を,同時に前脛骨筋よりノラクソン社製テレマイオを用いて表面筋電図を導出した.足関節背屈機能は,筋力と筋電図から筋出力の最大値,20回最大努力を連続で行わせた時の筋持久力(疲労性),および音によるトリガーを与え,聞こえた時点で足関節を素早く背屈させる努力を3回行わせる筋反応性について評価した.
    【結果】
    最大筋出力時の筋力平均値は,若年者198.3±48.5 N,高齢者119.4±26.3Nで,高齢者において低値を示した(P<0.05).同様に筋電図では若年者205.7±68.6μV,高齢者180±82.8μVで,高齢者で振幅が低下する傾向を示した.筋疲労性では,筋力,筋電図とも若年者,高齢者に関わらず経過とともに減少を示すが,若年者で,その減少率が大きくなることを認めた.筋電図振幅は,初回に比べ連続10回時で,若年者65.6%,高齢者81.0%に,連続20回目では若年者66.7%,高齢者79.1%に低下を認めた(P<0.05).筋反応性においては,若年者,高齢者に違いを示さなかった.
    【考察】
    若年者と高齢者の足関節機能に違いが認められた.このことは,高齢者にみられる運動単位数の減少や機能低下,タイプII優位に認められる筋線維タイプの変化など神経原性の変化が関係していると思われる.今後,さらに解析方法など工夫をすることにより,より詳細な神経機能の評価を行う必要性があると考える.
  • 桜井 進一, 坂本 雅昭, 中澤 理恵, 川越 誠, 加藤 和夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1056
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    健常者における歩行時の足底圧分布に及ぼす影響は十分明らかになっていない。その背景には健常人の歩行時足底圧分布の多様性が考えられる.足底圧分布の一指標である足圧中心(Center of Pressure:以下COP)軌跡に関しても,荷重が内側や外側へ偏位するものなどが認められ,足底板が及ぼす影響も様々であると思われる.本研究の目的は,歩行時COP軌跡の多様性を考慮し,足底板が歩行時COP軌跡に及ぼす影響についてCOP軌跡のパターンごとに比較検討することである.
    【方法】
    対象者は,本研究の趣旨を理解し,同意の得られた下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人女性80名(平均年齢21.2,18~32歳)とした.足底圧の測定は全て右下肢を対象肢とした.対象者に対して,足底板を使用しない状態(以下non)及び,Dynamic Shoe Insole System(三進興産株式会社)の2軸アーチパッド(以下2軸)と3軸アーチパッド(以下3軸)を使用した状態での計3条件において,歩行時の足底圧を測定した.足底圧の測定には足底圧測定装置(Parotec system)を用い,歩行時の足底面上におけるCOP軌跡を記録した.解析は1歩毎の立脚時間を100%として時間の正規化を行い,COP座標を10%ごとに算出した.全対象者のCOP軌跡の座標データより,対象者をCOP軌跡が内側に偏位する群(以下内側群),外側に偏位する群(以下外側群),対象者全体のCOP軌跡の平均に近似した軌跡を描く群(以下平均群)への3群に分類した.各群内でのnon,2軸,3軸の各条件におけるCOP軌跡の座標を比較検討した.
    【結果】
    対象者はCOP軌跡により,内側群8名,外側群11名,平均群10名に分類され,残りの51名はいずれの群にも該当しなかった.足底板によるCOP軌跡への影響は,平均群の立脚期 20%にて2軸でnon及び3軸に比較してCOP座標の内側への有意な移動が認められた(P<0.05).また 30%にて2軸で3軸に比較して有意にCOP座標が内側位を示した(P<0.05).外側群では40%にて3軸,2軸でnonに比較して,50%にて2軸でnonに比較してCOP座標の内側への有意な移動が認められた(P<0.05).内側群ではいずれの条件においてもCOP座標の有意な変化は認められなかった.
    【考察】
    アーチパッド型の足底板がCOP軌跡に及ぼす影響を検討したが,健常人の歩行時COP軌跡の多様性を考慮し,対象者を予めCOP軌跡により分類したため客観的データとして示す事ができた.外側群では足底板使用によりCOP軌跡の内側移動が認められ,COP偏位の改善という足底板療法の有効性を示唆する結果と考えられた.しかし,足底板がCOP軌跡に影響を与えた機序については,接地面積の増大や足部アライメントへの影響などの複合した結果と考えられ,今後様々な要因について検討しなくてはならない.
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