理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
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基礎理学療法
セレクション口述発表
  • 光武 翼, 中田 祐治, 大石 豪, 久原 隆弘, 堀川 悦夫
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】姿勢制御における感覚戦略は,視覚系,前庭系,体性感覚系からの感覚入力を組織化している。この体性感覚における固有感覚では,筋紡錘が重要な役割を果たす。筋紡錘は,筋の収縮によって関節中間位における幅広い領域の位置と動きの検出を行う。筋紡錘の密度は小さな筋群において密度が高く,特に頸部深層筋群は非常に高密度であり,姿勢制御に重要な役割を果たしていることが考えられる。従って,頸部深層筋群の一つである頸部多裂筋がバランス能力に影響を与えている可能性がある。今回,Magnetic Resonance Imaging(以下MRI)を用いて,頸椎症性神経根症患者における頸部多裂筋の筋断面積と筋肉内の脂肪浸潤を計測し,重心動揺計における立位時の動揺との関連を検討したため報告する。【方法】対象は,頸部MRI検査を行った111 名から頸椎症性神経根症と診断された14 名(年齢63.1 ± 12.2 歳,BMI22.1 ± 3.5)とし,コントロール群は,神経学的所見や整形外科的所見のない健常成人14 名(年齢60.2 ± 18.0 歳,BMI22.1 ± 2.7)とした。方法は,臨床検査技師によって測定されたMRI(PHILPS社製ACHIEVA1.5T NOVA DUAL)を使用し,T1 強調画像の水平面によるC4 〜6 を計測した。取得した画像は,PC画面上で画像解析ソフトウェア(横河医療ソリューションズ社製ShadeQuest/ViewC)により両側頸部多裂筋の筋断面積を計測し,C4 〜6 の平均値を算出した。加えて,筋断面積内の脂肪浸潤の程度を計測するためpixelの信号強度の平均値も算出した。これら筋断面積の計測は,他検者による計測を行い,検者間の級内相関係数(以下ICC)による再現性を検討した。また,バランス能力は,重心動揺計(アニマ社製G-620)を使用し,開閉眼時の総軌跡長を計測した。対象者は裸足で足長の中心を検査台の前後中央に置いた閉脚立位で開閉眼時ともに60 秒間計測した。開眼時は,眼の高さから水平に投射した位置にマーキングし,その部位を注視した状態で頭部や視線の変動が生じないように言語教示した。閉眼時には,閉眼を開始してから過度な動揺が消失したことを確認して計測した。統計学的検討は,正規性の検定を行った上で,Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関を用い,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】すべての被検者に対して,実験前に目的,方法,リスクについて文書,口頭による説明を十分に行い,署名により同意が得られた者を対象とした。【結果】MRIにおける検者間ICCは筋断面積r=0.97,筋肉内の脂肪浸潤r=0.99 となり,高い再現性が示された。筋断面積と筋肉内の脂肪浸潤は,頸椎症性神経根症85.09 ± 30.17(41.17-137.61)mm2,705.42 ± 145.95(464.46-951.47),コントロール群87.32±18.52(50.20-112.96)mm2,599.75±69.54(471.29-706.66)となり,筋肉内の脂肪浸潤において有意差が認められた(p=0.043)。また,開眼時と閉眼時の総軌跡長は,頸椎症性神経根症98.14 ± 34.08(61.98-180.44)cm,150.59 ± 77.27(67.91-307.88)cm,コントロール群71.03 ± 11.35(55.17-88.98)cm,86.59 ± 20.54(55.13-124.34)cmとなり,開眼時(p=0.018),閉眼時(p=0.005)ともに有意差が認められた。頸椎症性神経根症患者における頸部多裂筋断面積と重心動揺の総軌跡長は,有意な相関がみられなかった(r=-0.020,p=0.943)が,頸部多裂筋の脂肪浸潤と総軌跡長では,有意な相関がみられた(r=0.767,p=0.005)。【考察】頸椎症性神経根症は,脊髄の障害ではなく末梢神経である神経根障害である。そのため頸髄の損傷によるバランス能力低下より頸部多裂筋の神経学的所見による組織変化が影響していると考えられる。筋紡錘の密度は,足底からの位置覚に関わる下腿三頭筋が0.67/gという報告に対し,頸部多裂筋は24.3/gと高密度であり,感覚戦略において重要な役割を果たす。頸部多裂筋を含む頸部深層筋群には,筋紡錘の密度が高い筋群が多く,この筋紡錘の神経学的変性がバランス能力を低下させる要因と示唆された。また,頸部多裂筋の筋断面積より筋肉内の脂肪浸潤がバランス能力に影響を与えたことに関して,筋組織の脂肪浸潤により仮性肥大が生じている可能性が示された。従って,頸部多裂筋の筋組織は,量的変化ではなく質的変化を評価することが重要だと考えられる。今後は,頸部多裂筋だけでなく後頭下筋群などの深層筋がバランスに及ぼす影響を検討するとともに感覚戦略において頸部深層筋の脂肪浸潤が視覚や前庭機能によって代償されているか検証していきたい。【理学療法研究としての意義】MRI所見において頸部多裂筋の筋断面積ではなく筋肉内の脂肪浸潤がバランス能力に影響を与える一つの指標となる可能性がある。
  • 冨田 洋介, 原田 亮, 臼田 滋
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】中枢神経損傷に伴う上位運動ニューロン症候群は陽性徴候、陰性徴候、適応徴候に分類される。伝統的に痙縮は拮抗筋の筋出力低下や協調運動障害をきたすとの考えから、痙縮の抑制が重要視された。しかし近年、脳卒中患者の上肢で陽性徴候よりも陰性徴候の方が機能的動作能力に関連するとの報告がある。また下肢や脳卒中以外の疾患で同様の検討は報告されていない。そこで本研究は脳卒中患者と脊髄疾患患者の足関節において陽性徴候、陰性徴候、適応徴候を測定し、歩行速度に関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院に入院中の脳卒中患者24 名 (68.3 ± 10.9 歳)、脊髄疾患患者19 名(67.8 ± 10.0 歳)とした。測定肢は脳卒中群は麻痺側、脊髄疾患群は利き足(ボールを蹴る側)とした。陽性徴候は痙縮をAnkle Plantar Flexors Tone Scale(APTS)のStretch Reflex(SR)を膝屈曲位で0 から4 の5 段階で評価した。当指標は数値が大きいほど神経学的な筋緊張が亢進した状態を意味する。陰性徴候は筋力、協調運動障害、感覚障害を測定した。足関節底背屈筋力はベルト固定したHand Held Dynamometer(μTAS F-1,アニマ)で測定し、体重比を指標とした。協調運動障害は椅子座位でFoot Pat Test(FPT)、単純反応時間(Simple Reaction Time: SRT)、リズム課題の3 種をデジタルカメラ(EX-FC100, CASIO)で測定した。FPTは足関節底背屈をできるだけ速く行い10 秒間で足底面が接地した回数を指標とした。SRTはメトロノーム(DB-30, Roland)の音が鳴ってから足底面が離地するまでに要した時間を指標とした。リズム課題は2.4Hzのメトロノームの音に合わせて足関節を底背屈(タップ)し、リズム誤差(指定のリズムから各タップに要した時間の平均を減じた値の絶対値)、リズム変動(各タップに要した時間の変動係数)を算出した。感覚障害はFugl-Meyer評価法下肢感覚合計点(FM-S)を指標とした。適応徴候は膝関節伸展位での足関節他動関節可動域(背屈ROM)を指標とした。歩行能力は10m歩行時間(最速)を指標とした。従属変数を10m歩行時間、独立変数をSR、底屈筋力、背屈筋力、FPT、SRT、リズム誤差、リズム変動、FM-S、背屈ROMとしてステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計処理はIBM SPSS Statistics(Version 19、SPSS Japan)を使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には書面と口頭で説明を行い自筆あるいは御家族の代筆により書面に同意を得た。なお本研究は榛名荘病院倫理審査委員会にて承認を受けた。【結果】測定結果は次の通りで、SRとFM-Sは中央値(四分位範囲)、その他は平均値±標準偏差値で示す。脳卒中群と脊髄疾患群それぞれ、SRは0.5 (1.8)、1.0(2.0)、底屈筋力体重比は0.39 ± 0.21、0.44 ± 0.16、背屈筋力体重比は0.13 ± 0.09、0.13 ± 0.06、FPTは23.0 ± 10.8 回、29.7 ± 7.9 回、SRTは0.30 ± 0.07 秒、0.25 ± 0.05 秒、リズム誤差は0.08 ± 0.13 秒、0.03 ± 0.07 秒、リズム変動は0.20 ± 0.15、0.09 ± 0.03、FM-Sは6.0(2.7)、6.0(1.0)、背屈ROMは15.0 ± 7.1°、15.5 ± 4.7°、10m歩行時間は19.6 ± 22.2 秒、10.2 ± 7.6 秒だった。10m歩行時間を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果、脳卒中群ではリズム誤差と底屈筋力が採択され、標準偏回帰係数は各々0.885、0.170 であり、R2値は0.909、F値は55.87 だった。脊髄疾患群ではSRT とリズム誤差が採択され、標準偏回帰係数は各々0.514、0.502 であり、R2値は0.816、F値は40.82 だった。【考察】本研究の対象者は脳卒中群、脊髄疾患群ともに痙縮は軽度から中等度の者が多かった。両群で重回帰式の決定係数が高値を示し、モデル適合が良好だった。これは採択された変数が足関節運動機能のみでなく、下肢粗大運動機能や認知機能等を含む歩行能力に関与する機能と関連性が強いためであった可能性がある。採択された変数はいずれも陰性徴候であり、特に時間的協調性が強く歩行速度に関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は痙縮が重度ではない脳卒中患者、脊髄疾患患者の足関節において、より積極的に陰性徴候の改善を志向した治療を展開すべきとの見解を支持する結果となった。
  • 朝倉 智之, 臼田 滋, 長谷川 信, 和田 直樹, 白倉 賢二
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】椅子座位姿勢からの歩行開始動作はSit-to-Walk task(STW)と呼ばれ、健常者では立ち上がりが終了する前に第1 歩目が振り出され歩行が開始する。このような現象は流動性(fluidity)と呼ばれ、これまでにFluidity Index(FI)といった評価指標も開発されている。STWに関する研究は少しずつ発表されてはいるが、目標地点を正面に設定した限られた条件下での分析にとどまっている。一方で実際の生活では正面への進行だけでなく、斜め方向への進行も多い。本研究ではSTWにおける進行方向を変更したときの影響を明らかにするため、fluidityと身体重心(center of gravity;COG)、圧中心(center of pressure;COP)に着目し分析した。【方法】対象は健常成人男性15名とした。STWはMalouinらの方法を参考とした。開始姿勢は椅子座位、動作速度を快適速度、目標地点までの距離は2m、振り出しは全例右下肢とした。以上を共通とし、進行方向について正面前方、振り出し側からみて同側方向として45 度右斜め前方、対側方向として45 度左斜め前方の3 条件とした。測定には三次元動作解析装置(VICON612)、床反力計(AMTI)を用いた。反射マーカーは10 ポイントマーカーセットを使用し、測定周波数は60Hzとした。解析項目はfluidityの尺度であり、COGの前方への運動量の変化から算出されるFIと、COPの遊脚側への前額面上移動距離、seat off、toe off での床面に投影したCOGとCOPの前額面上距離を算出した。距離は左右第5 中足骨頭に貼付したマーカー距離で正規化した。統計学的分析として、SPSS19.0 を用い反復測定一元配置分散分析後、Bonferroni法による多重比較を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、群馬大学医学部臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】FIは正面前方で71.6% 、同側方向64.3%、対側方向61.3%で3 群間に差が認められ(F=6.7、p<0.01)、正面前方に比べ対側方向は有意に低値(p<0.05)であった。COPはtoe off前に一旦遊脚肢側へ移動し変曲点をつくり立脚肢側へ移動する試行、ほとんど遊脚肢側へ移動することのない試行が認められた。遊脚肢へ移動することなく直接立脚肢側へ移動する試行でも移動速度の変化から変曲点に相当するポイントが確認できた。開始時点から変曲点までの前額面上距離をCOPの遊脚肢側への移動距離とし、正面前方2.9%、同側方向0.1%、対側方向10.7%で3 条件間に差が認められ(F=21.8、p<0.01)、対側方向では他の2 条件に比べ有意に大きく移動していた(p<0.01)。出現のタイミングも条件間で差が見られ(F=11.5、p<0.01)、対側方向は同側方向に比べ遅く(p<0.05)、seat off後に出現していた。seat off時のCOGはCOPに対し立脚肢寄りに位置していた。その距離は正面前方5.1%、同側方向0.9%、対側方向12.2%であり条件間に差を認め(F=18.8、p<0.01)、対側方向は他の2 条件に比べ有意に距離が大きかった(p<0.01)。toe offは正面前方、同側方向のときCOGはCOPより遊脚肢寄りに位置したのに対し、対側方向のときにはCOGはCOPより立脚肢寄りに位置していた。【考察】STW時のCOPの前額面上変位について遊脚肢側への移動が同側方向では小さかった。これはCOPがCOGに対し、左側(立脚肢側)に位置し、COGを右方向へ向かわせる力を発生させるためである。また、この制御は他の条件と異なりseat off前に行われているのが特徴であり、fluidityの発現に寄与していると考えた。対側方向では逆に、COGを左へ進行させるため、COPは一旦大きく遊脚肢側へ移動しなければならない。また第1 歩目は立脚肢側を越えて振り出されるクロスステップになる。このようなCOPの大きな左右移動やそれに伴うCOGとCOPの距離の拡大、クロスステップなど複雑な制御がFIの低下に関与したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】目標地点の方向に合わせSTWを流動的に行うためには、COPの左右方向の制御が重要であることが明らかとなった。身体機能に左右差を有する脳卒中患者や運動器疾患患者では、進行方向の違いが動作に大きく影響すると考えられ、今回の研究は課題設定や介入方法の検討のための一助となる。
  • 若林 諒三, 浅井 友詞, 佐藤 大志, 森本 浩之, 小田 恭史, 水谷 武彦, 水谷 陽子
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】立位安定性は、外界に対する身体の位置関係を視覚、前庭感覚、足底感覚、固有感覚情報により検出し、それらの求心性情報が中枢神経系で統合され、適切な運動出力が起こることで保たれている。立位安定性を保つ上で特に重要となるのが、自由度の高い頭部の運動を制御することである。頭部の制御は、前庭感覚、頚部からの求心性情報をもとに頚部周囲筋が協調的に活動することで、姿勢変化に応じて頭部の垂直固定、意図した肢位での保持、外乱刺激に対する応答が可能となる。そのため、前庭機能障害や頚部障害の患者では前庭、頚部からの求心性情報の異常により立位安定性が低下することが報告されている。また、健常成人においても静止立位と比較して頭部回旋運動時の立位重心動揺は有意に増加することが報告されている。一方、頚部関節位置覚は前庭感覚とともに頭部の位置・運動情報を中枢神経系に提供していることから、頭部運動時の立位安定性に関与する可能性が考えられるが、その関連性は明らかでない。したがって今回、頭部回旋運動時の立位安定性と頚部関節位置覚の関連性についての検討を目的に研究を行ったので報告する。【方法】健常成人25 人(28.6 ± 6.1 歳)を対象とした。被験者に対して頚部関節位置覚の測定および頭部正中位での重心動揺、頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定を行った。頚部関節位置覚の測定は、Revelらが先行研究で用いているRelocation Testを使用した。椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着させ、200cm前方の壁に投射させた。安静時の投射点に対する、閉眼で頚部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点の距離を測定し、頚部の角度の誤差を算出した。測定時に被験者の後方にビデオカメラを設置し、我々が開発した解析ソフトを使用して解析を行った。頚部関節位置覚の測定は、左右回旋それぞれ10 回行い平均値を代表値として算出した。頭部正中位での重心動揺の測定は、Neurocom社製Balance Master®を使用して、modified Clinical Test of Sensory Interaction on Balanceにて行った(以下Normal mCTSIB)。Normal mCTSIB の条件1 は開眼・固い床面、条件2 は閉眼・固い床面、条件3 は開眼・不安定な床面、条件4 は閉眼・不安定な床面である。頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定はNormal mCTSIBと同様の条件下で行い(以下 Shaking mCTSIB)、測定中の頭部回旋運動をメトロノームで0.3Hzに合わせて約60°の範囲で行うよう被験者に指示した。重心動揺の指標には重心動揺速度(deg/sec)を使用した。また、測定中に転倒したものは解析から除外した。統計処理はSPSSを使用し、Relocation TestとNormal mCTSIBおよびShaking mCTSIBの相関関係をピアソンの相関係数を用いて検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】日本福祉大学ヒトを対象とした倫理委員会の承諾を得た後、対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】Relocation Testの平均値は5.36 ± 2.06°であった。Normal mCTSIBのすべての条件においてRelocation Testとの相関関係は認められなかった。Shaking mCTSIBの条件1 においてRelocation Testとの間に中等度の相関(r = 0.42)が認められた。【考察】本研究の結果より、健常成人において、Shaking mCTSIBの条件1 とRelocation Testとの間に中等度の相関関係が認められた。Honakerらの先行研究によると頭部回旋運動は立位安定性を低下させることが報告されている。また立位安定性保つ上で頭部の運動を制御することが必要であり、頭部の位置・運動に関する求心性情報を伝える頚部関節位置覚の正確性が重要であると考えられる。したがって、本研究では頚部関節位置覚と頭部回旋運動時の立位安定性との間に中等度の関連性が認められたと考えられる。また今回、Relocation TestとNormal mCTSIBやShaking mCTSIBの条件2、3、4 との間には相関関係が認められなかった。姿勢制御においては頚部関節位置覚以外にも、前庭感覚、視覚、足底感覚などの感覚系を含め様々な因子が関与する。本研究では健常成人を対象としており、閉眼や不安定な床面などで一部の感覚系が抑制された条件下では前庭感覚などの感覚系の個人差が反映されるため、頚部関節位置覚との相関関係が認められなかったと推察される。【理学療法学研究としての意義】日常生活活動において頭部を動かす機会は多く、姿勢安定性を保つために頭部の運動を制御することは重要であると考えられる。本研究において頚部関節位置覚が頭部回旋運動時の姿勢安定性に関連することが示されたことから、高齢者やバランス機能低下を有する患者において頚部関節位置覚の評価を行い、それを考慮した治療プログラムを立案することの必要性が示唆された。
  • 井上 真秀, 藤野 雄次, 網本 和, 森田 菜々恵, 細谷 学史, 蓮田 有莉, 高石 真二郎
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】自己の身体が傾いているにもかかわらず垂直と判断する垂直認知の偏倚は、平衡機能障害をもたらす認知的側面として考えられている。垂直認知の1 つである自覚的身体垂直認知(以下、Subjective Postural Vertical;SPV)は、視覚情報に依存しない自己身体における空間参照の内部モデルを表しており、バランス障害を評価する上で重要視されている。これまでの垂直認知に関する報告では、Pusher例では非麻痺側に、高齢者や易転倒者では後方にSPVが偏倚することが明らかにされており、前額面と矢状面の双方の評価の重要性を示している。これらは、SPVの偏倚と姿勢定位障害とが関連することを示唆するものであるが、垂直判断時の座位姿勢制御については十分明らかではない。さらに、これまでのSPVの測定は、機器が大がかりであることから臨床的汎用性が低く、前額・矢状面の双方のSPVを評価した報告はない。そこで本研究の目的は、我々が開発した前額・矢状面のSPVを簡易に測定できる垂直認知測定機器(以下、Vertical board;VB)を用いて、健常者における垂直判断時の座圧特性の関係を検討することとした。【方法】対象は、骨関節疾患および神経疾患を有さない健常成人10 名(年齢24.0 ± 1.9 歳、身長162.2 ± 9.8cm、体重56.6 ± 8.3kg、女性5 名、男性5 名、全例右手利き)とした。SPVと座圧の測定方法は、座圧分布測定システムConform-Light(ニッタ社製)のセンサシートをVBの座面に設置し、対象者を足部非接地で座らせ、体幹をベルトで固定した。座面の開始位置は、前額面では左右、矢状面では前後にそれぞれ15°、20°傾けた位置とした。検者は、開始位置から反対方向に1.5°/秒の速さで回転させ、対象者が閉眼で垂直と判断した位置で合図をさせ、その際の角度をVBに設置されたデジタル角度計(マイゾックス社製)から記録した。角度の定義は、鉛直位を0°として、前額面では右側へ偏倚していた場合はプラス、左側はマイナス、矢状面では前方はプラス、後方はマイナスの値とした。開始位置の測定順序は、左右あるいは前後の開始位置と開始角度(15°・20°)がpseudo-randomになるようABBA法を用いて設定し、前額・矢状面それぞれ計8 回ずつ測定した。SPVから得られるデータとして、方向性の誤差を示す傾斜方向性は8 回の平均値から求め、分散の大きさを示す動揺性は標準偏差値から算出した。垂直判断時の座圧特性は、前額面の測定では左殿部に対する右殿部の荷重圧の割合を前額面座圧比率(右殿部荷重圧ピーク値/左殿部荷重圧ピーク値× 100)として、矢状面の測定では、左右それぞれの殿部に対する大腿部の荷重圧の割合を矢状面座圧比率(大腿部荷重圧ピーク値/殿部荷重圧ピーク値× 100)として算出した。なお、荷重圧は、垂直判断時の角度(θ)に影響を受けるため、荷重圧×cosθから求めた鉛直方向成分への補正値を採用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施に際しては、当院の倫理委員会の承認のもと、すべての対象者に内容と目的を十分説明し書面にて同意を得ている。【結果】前額面における傾斜方向性は0.9 ± 1.0°(mean±SD)、動揺性は2.7 ± 0.9°、前額面座圧比率は104.4 ± 23.3%(右殿部荷重圧ピーク値:140.0 ± 28.8mmHg、左殿部:153.1 ± 29.4mmHg)であった。矢状面における傾斜方向性は−0.2 ± 1.0°、動揺性は4.1 ± 1.4°であった。また、矢状面座圧比率は右側が44.1 ± 15.9%(大腿部荷重圧ピーク値:69.5 ± 28.5mmHg、殿部:155.9 ± 24.4mmHg)、左側は50.6 ± 20.3%(大腿部荷重圧ピーク値:77.6 ± 39.2mmHg、殿部:151.7 ± 37.1mmHg)であった。【考察】健常者における前額面でのSPVの傾斜方向性は真の垂直に近く、かつ垂直判断時の座圧も左右にほぼ均一であった。また、矢状面におけるSPVの傾斜方向性も非常に正確であり、座圧に関しては、左右ともに大腿部は殿部に対し約50%の値を示すという結果が得られた。健常者におけるSPVの正常範囲は、前額面では−2.5°〜2.5°(Perennou et al.2008)、矢状面では−2.39°〜1.5°(Barbieri et al.2010)と報告されており、本研究の傾斜方向性も前額・矢状面ともに鉛直位に近かったことから、VBを用いた測定の有用性が示唆された。すなわち本研究を基盤として、今後は測定の信頼性の検討を行い、さらには垂直性が変容していると考えられる脳損傷患者におけるSPVと垂直判断時の座圧特性に関する前額・矢状面での測定が可能になると考えられた。【理学療法学研究としての意義】主観的な判断によるSPVの偏倚と、垂直判断時の客観的指標となる座圧特性の評価の確立は、姿勢定位障害における理学療法の効果判定や治療戦略の構築に大きく寄与することと考えられる。
  • 植田 耕造, 中野 英樹, 大住 倫弘, 森岡 周
    セッションID: A-S-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,ヒトの立位姿勢制御に対する大脳皮質の関与が示唆されており,特に注意機能の影響が注目されている.例えば,認知課題付加により身体外部に対して注意を促し,身体内部への注意を減らすと立位重心動揺が減少するといった報告(Nafati,2011)がある.その一方で,身体内部へ注意を向け動揺を制御しようと試みた時は,リラックス時と比べ動揺が減少する報告(Reynolds,2010)もある.このように,身体内部あるいは外部に対して注意を向けることによる立位姿勢制御への影響は一定の見解を得ていない.また,身体内部への注意により動揺が減少するメカニズムは,感覚情報処理や精密な運動出力の向上による影響である可能性が述べられおり(Reynolds,2010),それには大脳皮質の運動感覚領域の活性化が関与すると考えられるが,その活動を調べた報告はない.本研究の目的は,身体内部,外部への注意が重心動揺に与える影響と,その背景となる大脳皮質活動を調べることである.【方法】対象は若年成人7 名(男性6 名,年齢21.5 ± 0.9)とした.まず,座位でリラックスしている状態と,認知課題を行う認知条件中の脳波測定を20 秒間,各2 回ずつ施行した.認知課題は実験者がランダムに言った1 〜9 までの数字を記憶し,20秒後に復唱する課題とした.立位は開眼閉脚とした.課題は以下のRelax,Still,Dualの3 条件(各20 秒)を,順序はランダムで各1 回ずつ(1 セット)実施し,それを合計2 セット行った.その際の重心動揺と脳波を測定した.各条件の課題前の指示は,Relax条件は「実験中と思わずに,十分にリラックスして立って下さい」とし,Still条件は「体の動揺に十分に集中して,可能な限り動揺しないようにして下さい」とした(Reynolds,2010).Dual条件は認知課題を立位で行い,指示は「可能な限り数字を暗記して下さい.」とした.なお,立位中に体の動揺に対して注意を向け制御しようと努力した程度を,1(努力していない)〜7(全力で努力した)までの範囲で,7-point numerical rating scale(NRS)を使用(Vuillerme,2007)し,各課題施行後に調べた.重心動揺測定は重心動揺計G-6100 (ANIMA社製)を用い,sampling周波数は100Hzとした.また,脳波の測定には高機能デジタル脳波計Active Two System (BioSemi社製)を用い,64ch,sampling周波数1024Hzで記録した.脳波の解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社製)を用い,各条件において,1 施行ごとに10 epochs(1 epoch は2 秒間)を加算平均し,low(9-11Hz),high(11-13Hz) α帯域の各々において抽出したpower値からERD (event-related desynchronization)を算出した(Del Percio,2007).ERDは,ERD=(E−R)/R× 100 の式を用い,Relax,Still条件はEに各々の,Rに座位relax条件のpower値を,Dual条件はEにDual条件の,Rに座位認知条件のpower値を挿入し算出した.統計解析は,重心動揺および脳波の各ChのERDを反復測定の分散分析(後検定にBonferroniの多重比較法)を用いて,NRSをFriedman検定(後検定にWilcoxonの符号付順位検定)を用いて実施した.また,NRS,重心動揺,脳波power値の各々の相関係数を,PearsonまたはSpearmanの相関係数を用いて実施した.有意水準を5%とし,10%以下を傾向有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し,同意を得た.なお本研究は本学研究倫理委員会(受付番号H24-23)にて承認されている.【結果】NRSは,Still条件で他2 条件と比べ有意な増加を認めた(p<0.01).重心動揺は,総軌跡長と単位軌跡長において,Still条件で他2 条件と比べ有意な増加を認めた(p<0.05). ERDは,Dual条件で他2 条件と比べ,high α帯域のC5,Low α帯域のCP5 において,また,Relax,Dual条件でStill条件と比べ,high α帯域のC4 において減少傾向を認めた(ANOVA p<0.05,後検定p<0.10).NRSは総軌跡長,単位軌跡長と有意な正の相関を認め(p<0.05, ρ=0.36,0.49),脳波のpower値とは,C4 において有意な正の相関を認めた(p<0.01, ρ=0.46).脳波power値と重心動揺は,C4 において総軌跡長,単位軌跡長と有意な正の相関を認めた(p<0.01, r=0.39).【考察】NRSと重心動揺,またそれらの相関の結果から,Still条件のように身体内部へ注意が向いている時は動揺が増加し,動揺に注意を向け制御しようとするほど,逆に動揺が増加することが示された.さらに本研究のERDの結果や,power値とNRS,重心動揺の相関の結果からは,身体内部への注意が運動感覚領域の活動の低下をもたらし,重心動揺を増加させている可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,立位姿勢制御に対する介入として,身体内部へ注意を向けることが必ずしも有効とは言えない可能性を,重心動揺と大脳皮質活動の結果から示した.
  • 木山 良二, 川田 将之, 吉元 洋一, 前田 哲男
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】歩行時の足関節底屈モーメントの増加は,床反力の前方成分を強め,股関節屈曲モーメント,パワーを減少させることが報告されている。立脚後期の足関節底屈モーメントはヒラメ筋や腓腹筋などにより発揮されるが,腓腹筋は二関節筋であり,その作用は膝関節を介し,股関節にも影響を与えると考えられる。本研究の目的は,下腿三頭筋の最大筋力を変化させた筋骨格モデルを用い,腓腹筋が歩行中の股関節屈筋群に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人10 名とした。3 次元動作解析装置(Oxford Metrics社製VICON MX3)と床反力計2 枚(AMTI社製OR6-7, BP400-600 )を用い,快適速度の歩行を計測した。計測側は左下肢とし,計測回数は3 回とした。得られたデータと筋骨格モデルシミュレーションソフト(ANYBODY Technology社製AnyBody 5.2)を用い,筋の活動張力を算出した。筋骨格モデルの腓腹筋もしくは,ヒラメ筋の最大筋力をそれぞれ100%,60%,30%に減少させたモデルを用い,腓腹筋の筋張力が股関節屈筋群の筋張力に与える影響を検討した。今回は腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維を分析対象とした。また大腿直筋については,腱に蓄積される弾性エネルギーも算出した。活動張力および弾性エネルギーは,時間正規化を行い,体重にて正規化し,立脚後期における最大値を比較した。統計学的検定にはフリードマン検定を用い,有意水準は5%とした。なお統計学的検定にはSPSS 20 を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の内容は,鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。測定に先立って,対象者に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得られた場合にのみ測定を行った。【結果】歩行速度は1.22 ± 0.16 m/s,歩幅は0.66 ± 0.1 m,歩行率は109.6 ± 4.9 steps/minであった。腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の最大筋力の低下に伴い,立脚後期の大腿直筋の活動張力が有意に低下し(100%, 3.7 ± 2.9 N/kg; 60%, 2.9 ± 2.6 N/kg; 30%, 2.5 ± 2.3 N/kg; P<0.001),ヒラメ筋(100%, 21.6 ± 6.5 N/kg; 60%, 25.8 ± 8.6 N/kg; 30%, 31.5 ± 8.2 N/kg; P<0.001),大腰筋(100%, 17.3 ± 6.9 N/kg; 60%, 18.4 ± 7.2 N/kg; 30%, 19.9 ± 7.5 N/kg; P<0.001),腸骨筋(100%, 7.0 ± 2.1 N/kg; 60%, 7.5 ± 2.1 N/kg; 30%, 8.0 ± 2.1 N/kg; P<0.001),中殿筋前部線維(100%, 5.5 ± 1.5 N/kg; 60%, 6.1 ± 1.6 N/kg; 30%, 7.5 ± 1.7 N/kg; P<0.001)の活動帳力が有意に増加した。股関節の屈筋群で特に変化率が大きかったのは,大腿直筋および中殿筋前部線維であった。ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,ヒラメ筋の筋力低下に伴い,立脚後期における腓腹筋,大腿直筋の活動張力が有意に増加し(P<0.001),大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維の活動張力が有意に減少した(P<0.001)。また大腿直筋腱の弾性エネルギーは,歩行周期の約50%にピークを示し,腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に減少し(P<0.001),ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に増加した(P<0.001)。【考察】今回の結果では,腓腹筋の活動張力のピークは歩行周期の約40%,ヒラメ筋は約50%であり,おおよそターミナルスタンスの後半からプレスウィングに該当する。この時期の腓腹筋の筋張力は,主に足関節底屈モーメントを発生し,重心の前方移動に関与する。しかし膝関節に対しては,屈曲モーメントを発生させる。一方,大腿直筋もおおよそ歩行周期の50% でピークを示し,股関節屈曲モーメントと膝関節伸展モーメントを発揮する。腓腹筋と大腿直筋の同時性収縮により,膝関節の安定性が保たれる。そのため,腓腹筋の最大筋力を低下させた筋骨格モデルでは,腓腹筋の活動張力の低下に伴い,それに拮抗する大腿直筋の活動張力および腱の弾性エネルギーが減少する。その結果,その他の股関節屈筋の活動張力が増加したと考えられた。また,大腿直筋は股関節に対しては,屈曲と外転の作用をもつため,同様の作用をもつ中殿筋前部線維の活動張力の増加率が大きかったと考えられた。逆に,ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の活動張力が増加するために,大腿直筋の活動張力が増加し,その他の股関節屈筋群の活動張力が減少したと考えられた。したがって,腓腹筋の活動張力は大腿直筋と連動して,股関節屈筋群に影響を与えることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行中の腓腹筋の筋張力は,床反力の前方成分の増加に加え,膝関節伸展筋と拮抗することにより,大腿直筋の筋張力を高め,股関節屈筋群の負荷を軽減することが示唆された。このことは,歩行時の振り出しが困難な症例の代償戦略や,負荷が生じる部位を検討する際の基礎的情報として意義深いと考える。
  • 建内 宏重, 沖田 祐介, 市橋 則明, 坪山 直生
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床では、関節に作用する筋の全体的な筋張力低下が生じる場合もあるが、特定の筋の筋張力のみが低下し筋張力バランスに異常が生じることも多い。後者の場合、一般的には他の筋が代償的に筋張力を増加させて、動作の遂行を可能にする。このような現象は、臨床的には患者の障害像を分析することで推測されているが、個々の筋張力低下が他筋や関節に与える影響を厳密に分析することは困難である。また、実験的にも特定の筋の張力のみを低下させてその影響を調べることは容易ではない。そこで本研究では、コンピューター上での数値計算による順動力学シミュレーション解析を行い、下肢の特定の筋張力を低下させた筋骨格モデルを作成しそれが他筋や関節負荷に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】各動作について筋骨格モデルを作成するために、立位・歩行に問題が生じる疾患を有さない健常男性1 名(年齢20歳、身長1.79m、体重64kg)の動作を測定した。測定課題は、自由歩行、段差(230mm)の昇段および降段動作とした。3 次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて、各課題とも安定して行えた試行を3 試行を記録した。なお、筋骨格モデルの妥当性を筋活動パターンの側面から確認するために、大殿筋、大腿直筋、半腱様筋、外側広筋、腓腹筋、ヒラメ筋の筋電図を同時に記録した(Noraxon社製表面筋電計)。次に、測定した運動学的データを基に、全ての試行についてシミュレーションソフト(Lifemodule社製)を用いて筋骨格モデル(片側下肢につき45 筋を装備)を作成した。順動力学解析により、動作時に大殿筋、腸腰筋、大腿直筋、ハムストリングス(大腿二頭筋長頭+半腱様筋+半膜様筋)、広筋群(外側広筋+内側広筋+中間広筋)、腓腹筋、ヒラメ筋の各々が発揮する筋張力を算出した。また、動作時に股・膝・足関節に生じる関節間力も求めた。分析は、各動作3 試行それぞれについて、筋張力バランスを変化させない条件(normal)、大殿筋、腸腰筋、広筋群、ヒラメ筋それぞれの張力を0Nとした条件(Gmax0、Iliop0、Vasti0、Sol0)でシミュレーション解析を行い、各筋の張力および関節間力の最大値を比較した。なお、各動作について3 試行の平均値を用いて比較分析を行い、Normal 条件よりも± 10%の増減があった場合を有意な変化とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し、参加への同意を得た。【結果】歩行、段差昇降ともに筋骨格モデルの筋張力変化パターンと筋電図による筋活動パターンとは、ほぼ同様のパターンを示した。歩行では、normal条件と比較して、Gmax0 条件でハムストリングスと広筋群に、Vasti0 条件では大殿筋とヒラメ筋に、Sol0 条件では広筋群と腓腹筋に筋張力増加を認めたが関節間力の明らかな変化はなかった。一方、Iliop0 条件では、大腿直筋と腓腹筋の張力が増加し、膝関節間力が15.5%増加した。昇段動作では、Gmax0 条件ではハムストリングス、大腿直筋、腸腰筋に、Sol0 条件では大腿直筋に筋張力増加を認めたが、関節間力の明らかな増減はなかった。一方、Vasti0条件では大殿筋、大腿直筋、腓腹筋、ヒラメ筋の張力が増加し、股関節と足関節の関節間力がそれぞれ117.0%、63.0%増大した。降段動作では、Gmax0 条件ではハムストリングス、腓腹筋に、Iliop0 条件では広筋群と腓腹筋に、Sol0 条件では腓腹筋に筋張力増加を認めたが、関節間力の増減はなかった。しかし、Vasti0 条件では大殿筋とヒラメ筋に筋張力増加を認め、股関節と足関節の関節間力がそれぞれ179.0%、16.6%増大した。【考察】歩行においては、大殿筋や広筋群、ヒラメ筋の張力低下に伴い、立脚相における重力に抗した伸展活動のために、他の筋群が代償的に張力を増加することが示された。一方、腸腰筋の張力低下では、立脚後期から遊脚期にかけての腸腰筋の作用を代償するため大腿直筋と腓腹筋が張力を増し、その結果、これら二つの筋が関与する膝関節で関節間力が増大したと考えられる。段差昇降においては、特に広筋群の張力が低下した場合に大きな影響がみられ、下肢の伸展作用および屈曲の制動のために股・足関節周囲筋が代償する必要が生じ、その二関節で関節間力の大きな増加が確認された。【理学療法学研究としての意義】シミュレーション解析により、実際のヒトを用いた実験では観察することができない筋個々の張力低下による他筋や関節負荷への影響が明らかとなった。本研究は、動作時における筋の役割の理解の一助となると考えられる。
  • 小栢 進也, 内藤 尚, 沖田 祐介, 岩田 晃, 樋口 由美, 淵岡 聡, 田中 正夫
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、筋骨格シミュレーションモデルを用いた逆運動力学解析(シミュレーション解析)により、運動を解析した研究が多数報告されている。シミュレーション解析は動作測定値から筋活動量を計算するものであり、測定が困難な深部筋の活動や関節圧迫力を推定できる利点から動作解析ツールとして期待されている。しかし、シミュレーションの解析結果が実際の筋活動とどの程度一致しているのかに関しては、十分検討されていないのが現状である。多くのシミュレーション研究では関節モーメントから筋活動を推定するモデルが用いられているが、二関節筋の機能が十分に反映されていないという問題点がある。そこで我々はセグメントの回転モーメントから筋活動を計算する新たなモデルを作成した。本研究では歩行時の筋活動電位とシミュレーションによる推定結果の筋活動時期を比較することで、実際の筋活動をモデルが反映できるか検討した。【方法】被験者は健常若年者4 名(男性2 名、女性2 名)とし、体表の17 点にマーカーを張り付けて床反力計上を歩行した。同時に表面筋電図計を用いて、前脛骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋、外側広筋、大腿直筋、半膜様筋の筋活動量を測定した。筋活動量は整流、平滑化し、立脚期の筋活動が最も高い値を100%として正規化した値を用いた。また立脚時間を100%とし、時間を%stance phase(%SP)として表した。シミュレーション解析で用いたモデルは骨盤、片側の大腿骨、下腿骨、足部の4 セグメント、股関節(3 軸)、膝関節(1 軸)、足関節(2 軸)の3 関節で構成した。筋の起始停止および筋・腱長はDelp、筋断面積はHorsman、長さ張力曲線はBuchananらが報告した値を用いて42 筋を作成した。測定データより、関節角度、セグメントの回転モーメント及び関節モーメントを求めた。次に、セグメントの回転モーメントから筋活動量の3 乗和が最小になるように各筋の活動量を求めた。解析結果は立脚期の活動量が最も高い値を100%として正規化した。なお、50%を越える筋活動量を示す時期を活動期とし、筋電図とシミュレーション解析結果の活動時期を比較した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は大阪府立大学研究倫理委員会にて承認を得て実施した。なお、被験者には測定内容を事前に説明し、紙面にて同意を得た。【結果】立脚初期に筋電図およびシミュレーション解析で共に活動を示した筋は、前脛骨筋(筋電図0-11%SP、シミュレーション0-2%SP)、外側広筋(筋電図0-26%SP、シミュレーション9-29%SP)、半膜様筋(筋電図0-16%SP、シミュレーション0-3%SP)、大腿直筋(筋電図2-18%SP、シミュレーション20-31%SP)であり、実際の筋活動と同じ筋が活動するもののシミュレーション解析では活動期が短時間であった。立脚中期から後期にかけて筋電図、シミュレーション解析ともにヒラメ筋(筋電図62-77%SP、シミュレーション63-90%SP)、腓腹筋(筋電図51-75%SP 、シミュレーション55-87%SP)で活動がみられた。立脚後期には筋電図で大腿直筋の活動を認めないが、シミュレーション解析は単時間活動する結果であった(シミュレーション78-89%SP)。【考察】本研究より歩行時の筋電図とシミュレーション解析の活動筋は類似することが明らかとなった。しかし、シミュレーション解析では立脚初期の活動期が短縮していた。立脚初期では床反力の衝撃吸収のために同時収縮が生じるとされている。シミュレーション解析は同時収縮を想定しておらず、筋電図とシミュレーション解析結果が異なったと考えらえる。しかし、同時収縮が生じにくい立脚中期以降ではシミュレーション解析により実際の筋活動を推定できることがわかった。【理学療法学研究としての意義】シミュレーション解析では同時収縮が生じにくい動作であれば運動を解析する手段として有用であると考えられる。
  • 世古 俊明, 隈元 庸夫, 高橋 由依
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】大殿筋、中殿筋は股関節の肢位の違いによって筋線維走行や筋線維長が変化し、発揮される筋活動や運動作用の逆転が起こり筋機能も変化する。そのため立位保持や歩行など運動機能を考える上で関節角度の変化に伴う筋の作用や筋力発揮の特性を解明することは運動療法で重要となる。とりわけ大殿筋と中殿筋のトレーニングは関節可動域制限などの理由にて股関節屈曲位での実施となることが多々みられる。本報告の目的は、股関節の肢位の違い及び運動の違いが大殿筋、中殿筋の筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し、その機能を考察することである。【方法】対象は健常者9 名(全例男性、平均22.5 歳、169.7cm、65.0kg)とした。施行運動は等尺性股関節伸展運動(股関節伸展運動)と等尺性股関節外転運動(股関節外転運動)の2 種類とした。施行条件は股関節の屈曲角度の違いとして、側臥位での股関節屈曲90 度位(90 度位)、股関節屈曲0 度位(0 度位)、股関節伸展15 度位(−15 度位)の3 条件とした。90 度位のみハムストリングスの影響を最小限とするため膝関節90 度屈曲位とした。筋活動の測定には表面筋電計(Tele Myo G2、Noraxon社製)を用いた。右側の大殿筋上部線維(UGMa)、大殿筋下部線維(LGMa)、中殿筋(GMe)、大腿二頭筋(BF)、腰部背筋(LE)を導出筋とし、得られた筋活動を徒手筋力検査判定5 の筋活動量で正規化し、これを%MVCとして算出した。なお筋電図は生波形を全波整流し、筋電図解析ソフトにて解析した。また施行運動での股関節伸展筋力と股関節外転筋力を施行条件ごとに徒手筋力測定器(MICROFET2、Hoggan Health社製)で計測し、体重で除した値をそれぞれの筋力値として採用した。筋電図と筋力値の測定は同期化し、被験者の施行運動中は検者と別の検者が体幹を固定して測定の再現性に努めた。各筋の%MVCを施行運動の違いで、筋力値を施行条件の違いで比較検討した。統計処理はt-test、Welch検定、Wilcoxon-t検定、Holmの方法を用いて有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に則り、十分な配慮を行い、本研究の目的と方法、個人情報の保護について十分な説明を行い、同意を得た。【結果】UGMa、LGMaの%MVCは−15 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。UGMa、LGMaの%MVCは90 度位で股関節伸展運動時よりも股関節外転運動時に高値を示した。GMeの%MVCはすべての施行条件で施行運動の違いによる差を認めなかった。BFの%MVCは0 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。LEの%MVCは90 度位で股関節外転運動時よりも股関節伸展運動時に高値を示した。股関節伸展筋力値は施行条件の違いで差を認めなかったが、股関節外転筋力値は90 度位、−15 度位よりも0 度位で高値を示した。【考察】UGMa、LGMaは筋走行の特性から股関節伸展位では伸展作用、屈曲位では外転作用を有することが考えられている。今回、大殿筋の筋活動量が−15 度位では股関節伸展運動時に、90 度位では股関節外転運動時に筋活動量がそれぞれ高値を示したことは、この解剖学的筋走行の影響を筋電図学的に裏付ける結果になったと考える。また股関節伸展筋力値が施行条件で差を認めなかった。この股関節伸展運動時の筋活動量と筋力値の結果は、UGMa、LGMが90 度位では筋長が伸張位となるため活動張力よりも静止張力に依存し、−15 度位では筋長が短縮位となるため静止張力よりも活動張力に依存していた可能性を示唆するものと考える。また骨盤の代償動作を固定していたとはいえども90 度位での股関節伸展運動時にはLEが伸張位となり骨盤を介した股関節伸展運動の固定筋として活動しやすく、UGMa、LGMaによる伸展運動を効率的に発揮させていた可能性も考えられた。GMeがすべての施行条件で股関節外転運動時と股関節伸展運動時の筋活動量に有意差を認めない一方で股関節外転筋力値が0 度位で高値を示したことは、股関節深屈曲位よりも浅屈曲位でより活動すると筋電図学的に報告されている大腿筋膜張筋の影響が考えられ、膝関節屈曲角度要因とともに今後の検討課題となった。【理学療法研究としての意義】股関節屈曲角度の違いによる筋活動の違いとして、中殿筋は今後の検討課題が明確となり大殿筋は筋活動特性の一知見が筋電図学的に得られた。この知見は臨床での運動療法時や動作分析時における基礎的情報になると考える。
  • 齋藤 悠城, 内山 英一, 佐藤 秀一
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】下肢関節損傷の中で高頻度に認められる足関節捻挫は、日常生活動作(Activities of Daily Living, ADL)において最も損傷を受けやすく、特に、不整地での歩行や走行の着地時に受傷する。また、足関節はADL上の繰り返し負荷によって起こるオーバーユース障害(足底腱膜炎やアキレス腱炎など)を生じやすい。そのため、ADL上において足関節に加わる負荷は膝関節・股関節よりも大きいと推測されるが、その詳細は明らかでない。本研究の目的は、異なる高さからの着地時に受ける足関節のエネルギー量と膝・股関節のエネルギー量を比較することで、足関節のエネルギー吸収の割合を求め、足関節への負担を明らかにすることである。【方法】健常成人男性16 名を対象とした。年齢は21.1 歳(18-23 歳)、身長172.4cm(166-178cm)、体重62.6kg(52-74kg)であった。被験者は20cm, 40cm, 60cmの台から飛び降り、両脚着地を行った。飛び降りの際、できるだけ台の端に立ち、前方、上方に飛ばないように指示した。動作中の身体の空間座標の計測には、モーションキャプチャーカメラ(Vicon512, Oxford Metrics, UK)7 台と床反力計(Advanced Mechanical Technology Inc.,USA)2 枚をサンプリング周波数60Hzで同期させた3 次元動作解析装置システムを用いた。臨床歩行分析研究会が推奨するマーカーの貼付方法を採用して、直径25mmの赤外線マーカーを肩峰部、股関節部、膝関節部、足関節部、第5 中足骨部の左右10 か所に貼付し、身体を7 リンク剛体モデルに定義した。着地の瞬間から重心が最下点に達するまでの運動学、運動力学的データを計測した。今回指標とするエネルギー量は関節モーメントに関節運動の角速度を乗じてそのパワーを計算し、さらにその値を時間積分することによって得られた。統計処理にはエネルギー量およびエネルギー量の割合においてそれぞれTwo-way Repeated-Mesears ANOVAを行いpost-hocとしてTukey's multiple comparison testを行った。有意水準はα=0.05 と設定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は学内研究倫理委員会の承認を受けたのち、事前に研究の内容を被験者に十分に説明し、書面で同意を得た。【結果】各関節におけるエネルギー量(Joule, J)を体重で正規化した。足関節は20cmからの着地で1.1 ± 0.3J、40cmで1.6 ± 0.4J、60cmで1.8 ± 0.5Jと、20cmと60cmの間で有意差を認めた(p=0.001)。膝関節は20cmからの着地で0.7 ± 0.5J、40cmで1.8 ± 0.7J、60cmで2.7 ± 0.6Jと、20cmと60cmの間で有意差を認めた(p<0.001)。股関節は20cmで0.06 ± 0.05J、40cmで0.3 ± 0.2J、60cmで0.6 ± 0.5Jと有意差を認めなかった。各関節におけるエネルギー量の割合は、20cmからの着地で、足関節は60.7%、膝関節は36.4%と足関節が有意に高かった(p<0.0001)。40cmでは足関節は44.5%、膝関節は47.5%であり、足関節と膝関節の間に有意差を認めなかった(p=0.99)。60cmでは足関節は36.0%、膝関節は53.5%であり、膝関節が有意に高かった(p=0.02)。股関節は20cm、40cm、60cmでそれぞれ2.9%、6.0%、10.5%と他の関節に比して有意に低い割合を示した(p<0.0001)。【考察】足関節は低い高さからの着地時に、近位関節である膝関節、股関節よりも大きなエネルギー吸収の役割を果たした。一方でより高い位置からの着地では、近位関節へ加わる負荷が増大する。これらのことから、より低い位置からの着地、例えば降段や歩行、ジョギングなどのADL活動によって、足関節は膝関節、股関節よりも大きな繰り返し負荷を受けている可能性が示唆された。ADL上の活動で頻発する足関節捻挫やオーバーユース障害の予防には、膝関節、股関節によるエネルギー吸収の割合を増加させることが有効かもしれない。【理学療法学研究としての意義】下肢損傷に対する理学療法では、関節への負荷量のコントロールが必要となる。本研究の結果から、特に足関節・足部の損傷に対して着地練習を実施する時は、低い高さからの着地であっても足関節に対する負担が大きいことを留意しなければならない。また、足関節とは異なり、膝関節に対する負荷量は飛び降りの位置が高くなるにつれて増加する。このことは、例えば前十字靭帯損傷の術後の患者に対する着地練習など、膝関節に対する負荷量をコントロールするための基礎的情報として理学療法に寄与するかもしれない。
  • 石原 康成, 堀江 翔太, 立原 久義
    セッションID: A-S-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】腱板断裂では,上肢挙上の際に,肩甲上腕関節における求心位保持能力の低下と,それに伴う肩甲胸郭関節,胸郭運動の異常が報告されている.したがって,腱板断裂患者に対して理学療法を行う際は,肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節や胸郭にもアプローチする必要がある.しかし,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴については明らかになっていないため,機能評価と効果的に肩甲胸郭関節や胸郭へアプローチする手技の確立を困難にしている.本研究の目的は,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴を明らかにすることである.【方法】対象は,当院で腱板完全断裂と診断され鏡視下腱板修復術を施行された24 名(以下RCT群)(男性14 名,女性10 名,平均年齢69 歳,49 〜 86 歳)と,肩関節に既往のない40 〜60 代の健常者16 名(以下健常 群)(男性8 例,女性8 例,平均年齢51 歳,43 〜 64 歳)である.これら2 群の,上肢挙上に伴う肋骨・胸椎運動と下垂位での肩甲骨の位置を比較し腱板断裂における肩甲骨位置と胸郭運動の特徴を検討した.測定方法は,肩下垂位と130°挙上位の2 肢位で胸部3 次元CTを撮影し,骨格前後像と側面像にて肋骨・胸椎と肩甲骨の位置を評価した.肋骨の動きは,肋椎関節を基準として肋骨先端の上下方向への移動距離を測定した.胸椎の動きは,第7 胸椎を基準として胸椎伸展角度を測定した.肩甲骨の位置は,内外転方向の位置として,脊椎から肩甲骨内側縁の距離(Spine Scapula Distance,以下SSD),挙上下制方向の位置として,肩甲骨下角の高さを,回旋方向の位置として肩甲棘の傾斜を測定した.統計学的検討にはMann-Whitney’s U 検定を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】病院倫理委員会の承認を得た上で,本研究の目的とリスクについて被験者に十分に説明し,同意を得た.【結果】RCT群の下垂位から130°挙上位までの肋骨移動距離は,挙上方向へ平均5.8mmであった.最大は第7 肋骨の9.7mmであり,第7 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.健常群では挙上方向へ平均5.2mmであった.最大は第5 肋骨の9.4mmであり,第5 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.2 群を比較すると,第9,11 肋骨でRCT群の肋骨移動距離が有意に大きかった(p<0.05).すなわち,腱板断裂により肋骨運動の中心が尾側にシフトしていた. RCT群の下垂位から130°挙上位までの胸椎伸展角度は平均2.4°であった.健常群では平均3.8°であり差はなかった.RCT群における下垂位でのSSDは平均60.3mm,健常群では平均68.6mmであり,RCT群で有意にSSDが小さかった(p<0.01).下角の高さと,肩甲棘の傾斜には差がなかった.すなわち,腱板断裂により肩甲骨は内転位に変化していた.【考察】本研究より,上肢挙上に伴う肋骨運動は,健常者では第5 肋骨を中心に挙上するのに対し,腱板断裂患者では第7 肋骨中心に挙上することが明らかとなり,腱板断裂により肋骨の運動中心が尾側へシフトすることが明らかとなった.また,腱板断裂に伴い肩甲骨の位置は内転位に変化することが明らかとなった.従来の報告によると,腱板断裂に伴い肩甲骨他動運動と肋骨運動が制限される可能性が指摘されている.また,肩甲骨位置異常は,肩甲骨周囲筋のバランス異常の存在を示唆している.この事実は,肩甲骨周囲での胸郭運動が制限されていることを示しており,これを代償するために,胸郭運動の中心が尾側へ移動した可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】腱板断裂が、肩甲骨の位置と肋骨運動パターンに影響を与えることが明らかとなった.肩甲上腕関節のみならず,肩甲骨位置や肋骨運動パターンを考慮することで,より有効な理学療法を提供できる可能性がある.
  • 井上 大輔, 飯島 弘貴, 伊藤 明良, 長井 桃子, 山口 将希, 太治野 純一, 張 項凱, 広瀬 太希, 青山 朋樹, 秋山 治彦, ...
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢化の進行とともに日本では、高齢者の転倒による骨折が原因の寝たきりが社会問題となっている。高齢になった際の骨折を防ぐため、若年世代から骨強度を強く維持することも重要である。骨強度を強くする方法に運動が挙げられるが、日本では運動習慣を有している者は少ない。そこで本研究では、基本的日常生活動作である、立位・自由歩行が骨強度、骨密度に及ぼす影響について検討することとする。【方法】対象は、6 週齢のWistar系雄ラット14 匹とし、尾部懸垂を行う群11 匹、尾部懸垂を行わない群(control群)3 匹に分類した。尾部懸垂を行う11 匹のうち、後肢懸垂群(TS群)を3 匹、懸垂中に1 日3 時間、6 時間の懸垂中断時間を加える群(3h-WB群、6h-WB群)をそれぞれ4 匹に分類した。control群は自由飼育させた。介入期間は2 週間とし、介入終了後それらの両大腿骨・両下腿骨を摘出した。左大腿骨は摘出後70%エタノールに浸積・密封・冷蔵保存した。その後、万能試験機(SHIMADZU, AUTOGRAPH)を用いて3 点曲げ試験を行った。3 点曲げ試験より、大腿骨破断時の最大応力を求めた。両下腿骨は摘出後PFAにて固定し、マイクロフォーカスX線CTシステム(SHIMADZU, CT solve)を用いて撮影した。得られた画像データから一次海綿骨、二次海綿骨における骨密度を、画像解析ソフト(VISAGE, Amira5.4)を用いて計測した。本研究では、脛骨成長軟骨板遠位端より遠位20 μmの領域を一次海綿骨、成長軟骨板遠位端より1mm遠位の20 μmの領域を二次海綿骨とした。本研究で得られた数値は平均値±標準偏差で表した。各データはIBM SPSS Statistics 20 を用いてクラスカルワリス法で分析を行い、有意水準である5%未満であった場合は多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】所属大学の動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】(1)大腿骨破断試験:最大応力について、TS群:26.81 ± 3.61[N]、3h-WB群:28.05 ± 2.79[N]、6h-WB群:26.64 ± 2.28[N]、control群:39.39 ± 3.43[N]であった。クラスカルワリス法による分析で、有意差は認められなかった。(2)骨密度:一次海綿骨部の骨密度について、TS群:53.62 ± 3.09[%]、3-WB群:57.86 ± 2.24[%]、6h-WB群:63.89 ± 4.98[%]、control群:66.37 ± 5.05[%]であった。TS群と3h-WB群、3h-WB群と6h-WB群、6h-WB群とcontrol群の間に有意差は認めず、TS群と6h-WB群、control群の各間には有意差がみられた(P<0.05)。二次海綿骨部の骨密度について、TS群:29.68 ± 1.75[%]、3h-WB群:33.65 ± 1.71[%]、6h-WB群:35.58 ± 1.10[%]、control群:39.28 ± 1.89[%]であった。3h-WB群と6h-WB群の間には有意差はみられなかったが、他の群間では有意差がみられた(P<0.05)。【考察】今回得られた結果より、ラットでは1 日6 時間の後肢懸垂中断による骨密度低下予防効果は自由飼育によるそれと同等である可能性が認められた。本研究では、後肢懸垂を中断することをもって、立位・自由歩行に類する運動とした。一次海綿骨領域における骨密度低下予防に関する、後肢懸垂中断の効果は時間依存的に増加する傾向がみられた。一次海綿骨は、他領域と比べ骨代謝が活発な部位である。後肢懸垂を一定時間中断することで、一次海綿骨における骨代謝はcontrol群と同等レベルの活性を取り戻す可能性が考えられる。また、骨強度は骨密度と骨質の2 つの要素から説明される。本研究で用いた後肢懸垂中断という介入は、骨密度低下予防には一定の効果があることが示されたが、骨質に対してどういった影響を持つのか検討すべきである。そのため、一次海綿骨における骨代謝活性化や同部位の骨密度増加が力学的な骨強度の変化に寄与するかは未だ検討する余地があると考える。本研究ではラットを用いた実験であるため、臨床応用を考慮するには、ヒトにおいても同様の効果があるか検討していくことが必要である。【理学療法学研究としての意義】運動習慣を有さない対象者に対して、理学療法技術の一つである荷重トレーニングを一定時間行うことで、骨密度低下を予防する可能性が示された。
  • 吉村 彩菜, 原槙 希世子, 坂本 淳哉, 本田 祐一郎, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】骨格筋の線維化は,不動によって惹起される拘縮の発生メカニズムの一つとして考えられているが,その分子メカニズムはこれまで明らかにされていない.ただ,血管や肺などの線維化に関する先行研究では,組織が低酸素状態に陥ることで線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化が促進され,コラーゲンが過剰増生し,線維化が発生・進行するとされている.そして,われわれもこれまで,ラットヒラメ筋を4 週間不動状態に曝すと低酸素特異的転写因子であるhypoxia-inducible factor-1 α(HIF-1 α)の発現量が増加することを明らかにしており,このことから不動による骨格筋の線維化の発生にも低酸素状態の惹起が関与していると推測している.一方,周期的な筋収縮運動は骨格筋内の血流量を増加させることが知られている.すなわち,不動の過程で骨格筋に周期的な筋収縮を負荷することで骨格筋の低酸素状態を軽減できれば,線維化,ひいては拘縮の発生を抑制することができるのではないかと仮説をたてた.そこで,本研究ではこの仮説を検証する目的で,不動状態に曝されているラットヒラメ筋に対して電気刺激による周期的な筋収縮を負荷し,線維化ならびに拘縮におよぼす影響を検討した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar 系雄性ラット21 匹を無処置の対照群(n=7)とギプス包帯を用いて両側足関節を最大底屈位で4 週間不動化する実験群(n=14)に振り分け,さらに,実験群は不動のみを行う不動群(n=7)と不動状態のまま電気刺激を用いて両側ヒラメ筋に筋収縮を負荷する刺激群(n=7)に振り分けた.なお,刺激群のラットに対してはリード線付きの表面電極を下腿後面に貼付した状態でギプス包帯による不動化を行っており,電気刺激の際はこのリード線にtrio-300(伊藤超短波株式会社)を接続した.電気刺激の条件は,周波数1Hz,刺激強度4mAとし,1 日1 回60 分,週5 回の頻度で電気刺激による周期的な筋収縮を負荷した.実験期間終了後は麻酔下で全てのラットの足関節背屈可動域(ROM)の測定を行った後に,両側ヒラメ筋を摘出し,筋湿重量を測定した.摘出した右側試料についてはその凍結横断切片に対してHematoxilin & Eosin染色を施し,病理組織学的検索に供するとともに筋線維横断面積を計測した.一方,左側試料についてはReal Time PCR法を用いて,タイプIコラーゲン,α-smooth muscle actin(α-SMA),transforming growth factor(TGF)-β1,HIF-1 α といった線維化の分子マーカーならびに内因性コントロールのGAPDHそれぞれのmRNAの発現量を検索した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は長崎大学動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】実験期間終了後のROMは,不動群,刺激群ともに対照群より有意に低値であったが,刺激群は不動群より有意に高値であった.また,相対重量比と筋線維横断面積は不動群,刺激群ともに対照群より有意に低値で,この2 群間には有意差を認めなかった.病理組織学的には各群において筋線維壊死などの炎症を疑わせる所見は認められなかった.一方,タイプIコラーゲンとα-SMAのmRNA発現量は,不動群,刺激群ともに対照群より有意に高値であったが,刺激群は不動群より有意に低値であった.また,TGF-β1 とHIF-1 αのmRNAの発現量は,不動群のみ対照群や刺激群より有意に高値で,この2 群間には有意差を認めなかった.【考察】今回の結果から,不動の過程で骨格筋に周期的な筋収縮を負荷すると,骨格筋の低酸素状態の惹起や線維化の促進に働くサイトカインであるTGF-βの発現が抑制されるとともに,線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化やコラーゲン産生が軽減することが明らかとなった.つまり,このことは不動によって惹起される骨格筋の線維化が軽減していることを示唆しており,併せてROM制限の発生も軽減していることから拘縮の進行も抑制されていると考えることができる.また,今回の結果は不動に伴う骨格筋の線維化の発生に低酸素状態の惹起が関与していることを示唆しており,不動の過程で負荷する周期的な筋収縮はこの抑制効果が大きい可能性があり,新たな拘縮の治療戦略としても有効ではないかと考える.【理学療法学研究としての意義】これまで不動に伴う骨格筋の線維化の分子メカニズムは不明であったが,本研究を通じて低酸素状態の惹起が一つのキーファクターになっている可能性が見いだされた.加えて,周期的な筋収縮運動は低酸素状態の軽減に効果があり,不動の過程においてもこれを負荷することで骨格筋の線維化ならびに拘縮の発生が軽減することから新たな治療戦略の可能性が示唆され,この成果は理学療法学研究としても意義深いと考える.
  • 石川 琢麻, 上野 勝也, 森 千紘, 山崎 俊明
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年、廃用性萎縮筋に対する伸張運動の萎縮抑制効果に関する報告が多くなされている.しかしその一方で,伸張運動などの機械的刺激が筋線維損傷を引き起こすことも報告されている.そこで本研究では,廃用性萎縮筋に対して負荷量一定の条件で異なる短時間の伸張運動を行い,筋萎縮の指標として筋線維横断面積を用い,筋線維損傷の指標として壊死線維、中心核線維の発生頻度を比較することで,萎縮筋に及ぼす影響を長軸部位別に調べることを目的とした.【方法】対象は8 週齢Wistar系雄性ラット(n=30)の右側ヒラメ筋で,これらを対照群(C群:n=7),16 日間の後肢懸垂により廃用性筋萎縮を惹起する群(H群:n=8),後肢懸垂期間中に毎日10 分間の間歇的伸張刺激を最初の1 日を除く15 日間加える群(LST群:n=8),後肢懸垂期間中、同様に5 分間伸張刺激を加える群(SST群:n=7)の4 群に振り分けた.間歇的伸張運動は,体重の100%相当の負荷にて行った.実験期間終了後,各群の対象筋を採取し,筋長の25%(近位部),50%(中央部),75%(遠位部)部位における切断面の凍結横断切片を作成した.その後Hematoxylin ‐eosin染色を実施し,筋線維横断面積(Cross ‐Sectional Area:以下CSA)を各筋200 本以上測定し,分布(ヒストグラム)を求めた.また,各群,部位での病理所見の発生頻度を比較するため,筋線維横断切片全体での壊死線維,中心核線維数を計測し,全体の数に対する割合を算出した.各群のCSA及び壊死線維,中心核線維割合の比較は一元配置分散分析を行い,有意差が見られた場合,Tukeyの方法による検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った.【結果】CSAの結果は,LST群の遠位部,SST群の中央部,遠位部において,HS群と比較し有意に高値を示した.LST群の中央部では,H群と比較し有意に低値を示した.筋線維横断面積分布では,LST群の遠位部,SST群の中央部,遠位部においてH群に比べ頂点が面積の大きい方へと偏位しており,C群により近かった.LST群とSST群の比較では各部位においてSST群のほうが面積の大きい方へと偏位していた.壊死線維割合では,各群,部位間において有意差はみられなかったが,LST群で多い傾向がみられ,近位<中央部<遠位部の順に多かった.中心核線維割合では,SST群の遠位部のみがH群の遠位部と比較し,有意に高値を示し,全体としてもSST群が大きい傾向を示した.【考察】本研究では,廃用性萎縮筋に対する萎縮抑制効果は,SST群により大きく,近位部より遠位部の方が大きかった.埜中らによれば,筋線維に壊死が生じてから4 〜5 日で中心核をもつ小径の線維が確認され,20 日目には中心核は存在するがほぼもとの大きさに回復するとされている.本研究における壊死線維割合はLST群に多い傾向が見られ,中心核線維割合はSST群に多い傾向が見られた.このことから,LST群では伸張運動により筋線維損傷が断続的,もしくはより遅い時期に引き起こされ,本研究での実験期間では筋線維損傷から筋線維が再生するまでに至らなかった可能性が示唆された.一方,SST群は筋線維損傷程度が比較的少ないか早期に回復した可能性が示唆され,廃用性筋萎縮の抑制により効果的であったと考えられた.また,萎縮抑制効果は遠位部ほど大きく,筋線維損傷も遠位部の方が多くみられたことより,本研究の伸張運動方法では近位部より遠位部により大きな負荷が生じると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究では,体重相当の負荷条件下5 分間という短時間介入で,廃用性筋萎縮抑制効果がみられた.また,筋の長軸部位によりその効果が異なることから,廃用性萎縮筋に対する伸張運動には適切な運動方法(時間・負荷量・部位)があることが示唆された.このことは,理学療法の基礎データとして有用である.
  • 井開 美波, 畑出 卓哉, 武内 孝祐, 藤田 直人, 荒川 高光, 三木 明徳
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】骨格筋が強度に損傷されると、未熟な筋線維が残存する再生不全や筋線維タイプ構成比の変化などが生じるといわれている(Murakami et al.,1990)。従って、挫傷など強度な筋損傷ではこれらのことを考慮して治療する必要がある。温熱刺激が骨格筋の再生を促進するという報告がある(Yasuhara et al., 2009)。またOishiら(2009)は、温熱刺激が再生骨格筋の筋線維タイプ構成比に及ぼす影響を検討し、筋線維タイプ構成比が損傷前と大きく変わったと報告した。しかし、Oishiらが調べたのは損傷後2 週で、筋再生が完了するのは損傷後3 週といわれており(A.X.Bigard et al.,1996)、損傷筋における筋線維のタイプ変化は、筋再生完了後を含め、もっと長期間にわたる検討が必要である。従って本研究では、損傷直後に与える温熱刺激が再生骨格筋の成熟および筋線維タイプ構成比の変化に及ぼす影響を長期的・経時的に観察した。【方法】本研究では8 週齢のWistar系雄ラット36 匹を用い、対照群、損傷群、温熱群の3 群に分けた。筋挫傷は先行研究(Furuta,2001)に倣い、露出した長指伸筋(EDL)の筋腹を500gの錘を負荷した鉗子で30 秒間圧挫して与えた。皮膚縫合後、温熱群では損傷5 分後から42℃のホットパックを皮膚に当てて20 分間の温熱刺激を実施した。その後、損傷後2、4、6、8 週の4 時点で、ラットを麻酔し、EDLを摘出した。また、対照群では損傷筋の摘出時点と同週齢のラットからEDLを摘出した。摘出した筋標本を使ってH-E染色、pH4.5 の前処理を行ったmyosin ATPase染色、SDH染色を施した。再生筋における成熟度の指標として中心核を有する筋線維の割合を算出した。また連続切片の所見から、筋線維タイプ構成比および中心核を有する筋線維のみのタイプ構成比を算出した。統計処理は一元配置分散分析およびSceheffeの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得た上で実施した。【結果】中心核を有する筋線維の割合は、損傷群、温熱群ともに損傷後2 週から8 週まで経時的に減少したが、温熱群は損傷群に比べて常に低値を示した。筋線維タイプ構成比では、対照群のEDLにおいてtypeⅡD/Xは38.7%、typeⅡBは41.0%とほぼ同値であったが、損傷後2 週において損傷群、温熱群ともにtypeⅡD/Xは70%弱(損傷群66.7%、温熱群65.5%)、typeⅡBは両群ともに20%(損傷群20.0%、温熱群20.3%)であった。その後typeⅡD/Xの割合は減少し、typeⅡBの割合は増加して、損傷群では損傷後8 週でtypeⅡD/X43.4%、typeⅡB37.7%となり、対照群と同レベルまで回復した。一方、温熱群では損傷後6 週において既に対照群と同レベルまで回復していた。また、中心核を有する筋線維のタイプ構成比をみると、損傷後2 週において両群ともにtypeⅡD/Xが高値(損傷群73.0%、温熱群73.5%)、typeⅡBが低値(損傷群17.9%、温熱群18.2%)を示したのち、損傷群は損傷後6 週から8 週の間に大きく変化し、損傷後8 週でtypeⅡB(66.0%)がtypeⅡD/X(28.8%)よりも高値を示すようになった。温熱群の中心核を有する線維では損傷後4 週から6 週の間に著明な変化が起こり、損傷後6 週の時点で既にtypeⅡB(60.7%)がtypeⅡD/X(33.0%)よりも高値となっていた。【考察】ラットにおける骨格筋の再生は、組織学的には損傷後3 週で完成すると報告されているが(A.X.Bigard et al.,1996)、今回の実験が示すように、中心核を有する筋線維の割合は筋再生が完了すると言われている損傷後3 週を過ぎた4 週においても30%を超えるほど多く、損傷群の筋線維タイプ構成比も損傷後8 週で対照群と同レベルまで回復していた。これは、挫滅のような強度の筋損傷では、筋線維タイプを含めた筋再生の完了にはもっと長い期間、少なくとも8 週間ほど要することを示している。これに対して、温熱群では中心核を有する筋線維の割合は損傷群に比べ常に低値を示していたことから、温熱刺激は再生骨格筋の成熟を促進していると考えられる。また、その多くが再生過程にある未熟な筋線維であると考えられる中心核を有する筋線維だけをとってみても、筋線維タイプ構成比に関して、損傷群では損傷後6 週から8 週にかけて大きく変化していたが、温熱群ではこのような変化が損傷後4 週から6 週にかけて起こり、筋線維タイプ構成比が損傷後6 週で既に対照群とほぼ同じ値に戻っていた。これは、温熱刺激が筋線維タイプ構成比の回復をも早めている可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】本研究は、温熱刺激が挫滅損傷後の骨格筋の再生に与えた影響を、筋線維タイプの構成比を指標にして、長期的、経時的に観察したものである。本結果は温熱刺激が再生筋における筋線維タイプ構成比の回復をも促進する可能性を示している。
  • 濵上 陽平, 関野 有紀, 中願寺風香 風香, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は不動に由来する痛覚過敏についてラット足関節不動モデルを用いた研究を重ね,これまでに不動は1 〜2 週という早期から痛覚過敏を惹起し,長期間におよぶと後根神経節(DRG)や脊髄後角における神経ペプチドの発現状況が変化して中枢性感化が引き起こされ,慢性痛に移行することを明らかにした.また,複合性局所疼痛症候群の患者に対して振動刺激による感覚入力を行うと症状が軽減したというAndreら(2007)の臨床研究を参考に,同モデルの不動直後から振動刺激を負荷したところ,不動に由来する痛覚過敏が軽減することが明らかとなった.しかし,実際の臨床においては,理学療法が開始された時点で既に不動に由来すると思われる痛覚過敏が発生している場合がしばしばあり,そのようなケースにも振動刺激は上記と同じような効果を発揮するのかは不明である.そこで今回,8週間のラット足関節不動モデルに対して,振動刺激による感覚入力を不動開始直後および不動4 週後から開始し,足底の痛覚過敏およびDRG,脊髄後角における神経ペプチドの発現状況について検索した.【方法】8 週齢のWistar系雄性ラット34 匹を無処置の対照群(n=5)とギプスを用いて右側足関節を最大底屈位の状態で8 週間不動化する実験群(n=29)に振り分け,実験群はさらに不動のみを行う群(不動群;n=10),不動直後より振動刺激を開始する群(振動群;n=10),不動4 週後より振動刺激を開始する群(4 週不動+振動群;n=9)に分けた.振動群と4 週不動+振動群に対する振動刺激は,バイブレータ(メディアクラフト社製)を用い,右側足底部に15 分間,1 日1 回,週5 日の頻度で行った.また,実験期間中は週1 回,機械刺激に対する痛み反応の評価として,von Frey filament(VFF;4,15g)刺激を右足底に10 回加え,その際の逃避反応の出現回数をカウントした.実験期間終了後,ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定した後に右側DRGならびに腰髄(L4-5)を採取し,その凍結切片に神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に対する蛍光免疫組織化学的染色を施した.そして,DRGにおけるCGRP陽性細胞数と断面積,脊髄後角におけるCGRP陽性線維の染色強度を解析した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】不動群では4,15gのVFF刺激に対する逃避反応の出現回数は有意に増加したが,振動群では4gのVFF刺激に対する逃避反応は実験期間を通して対照群と有意差を認めず,15gのそれは増加したものの不動群に比べ有意に低値であった.一方,4 週不動+振動群は4,15gのVFF刺激に対する逃避反応の出現回数は不動群と同程度の増加を示し,不動群との間に有意差を認められなかった.次に,DRGにおけるCGRP陽性細胞数はすべての群で有意差を認めなかったが,その断面積を比較すると,対照群に比べ他の3 群はすべて有意に高値を示した.また,この3 群間で比較すると振動群は不動群より有意に低値を示したが, 4 週不動+振動群は不動群と有意差を認めなかった.同様に,脊髄後角の浅層,深層におけるCGRP陽性線維の発現強度においても対照群に比べ他の3 群は有意に高値を示したが,振動群は不動群に比べ有意に低値を示し,4 週不動+振動群は不動群と有意差を認めなかった.【考察】不動群においてVFF刺激に対する逃避反応の出現回数が増加したことから,不動に由来する痛覚過敏が発生していたと考えられ,これは先行研究と同様である.これに対して,不動の早期から振動刺激による感覚入力を行った振動群では痛覚過敏が軽減したが,4 週間の不動によりすでに重度な痛覚過敏が発生していた4 週不動+振動群に振動刺激を行っても痛覚過敏は軽減しなかった.加えて,不動に由来する痛覚過敏の一要因と思われるDRGのCGRP陽性細胞の大型化,脊髄後角におけるCGRP陽性神経線維の増加は,振動群のみで抑制されており,不動の早期から振動刺激による感覚入力を行った場合のみ中枢性感作の発生を抑制することができると推察された.したがって,不動に由来する痛覚過敏の発生,およびその慢性痛への移行を予防するためには早期から感覚入力を行うことが重要であり,その手段として振動刺激は有用であると考えられる.【理学療法学研究としての意義】末梢に対する振動刺激による感覚入力は,骨折後にギプス固定,創外固定などのケースにおいても応用可能であり,その効果と開始時期の影響を明らかにした本研究は理学療法研究として十分な意義がある.
  • 黒木 優子, 吉岡 潔志, 笹井 宣昌, 早川 公英, 村上 太郎, 河上 敬介
    セッションID: A-S-03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】廃用性筋萎縮は筋力低下を伴い、ADLやQOLの低下につながるため、その抑制や回復促進は理学療法において大きな課題である。そのため、後肢懸垂モデルや除神経モデルなどの動物モデルを用いた多くの研究が行われ、筋蛋白質の合成や分解の活性の関与が明らかにされつつある。しかし、その活性の詳細な機序や廃用性筋萎縮に対する介入効果の詳細な検討は少ない。これらを検討するためにはその分子メカニズムを明らかにする必要がある。そこで我々は、分子・遺伝子レベルの研究において動物モデルよりも有用である、培養細胞を用いた廃用性筋萎縮モデルの作製を試みた。形態的な評価に加えて、動物の廃用性筋萎縮ですでに報告されている分子生物学的現象がおきているか否か確認した。【方法】孵卵開始11 〜13 日目のニワトリ胚の胸筋から取り出した筋芽細胞を、コラーゲンコートしたディッシュ上に播種し、筋芽細胞が分化・融合して筋管細胞が形成されるのを確認した。筋管細胞の収縮活動をコントロールするために、筋管細胞への電気刺激を用いた。電気刺激装置(SEN-3401; 日本光電)を用いて、培養液内に入れた炭素電極に周期的な電流を通電することで、筋管細胞に電気刺激を与えた。まず、培養3 〜7 日目に筋管細胞へ電気刺激を与えたときの収縮活動を確認し、電気刺激開始時期を検討した。そして、培養5 日目から2 日間電気刺激を与えた後、電気刺激を止めて2 日間培養する電気刺激中断群、4 日間電気刺激を与える電気刺激群、電気刺激を与えない非電気刺激群を作製した。各群の細胞にアクチンとトロポニンTの二重染色を施した後、筋管細胞の横径を測定した。統計には一元配置分散分析を用い、有意差を認めた場合には、多重比較検定に Tukey の方法を用いた。有意水準は5%未満とした。さらに、電気刺激を2 日間与えた後、電気刺激を止めた直後と、止めて1 時間培養した筋管細胞の筋蛋白質サンプルをそれぞれ採取した。その後、電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用いて、LC3-IIの発現量を算出した。LC3-IIは、オートファジー系蛋白質分解機構において、分解される蛋白質を取り囲むオートファゴソームの量と正の相関を持つと言われており、オートファジー系の活性評価に広く用いられているタンパク質である。LC3-IIの発現量はポジティブコントロールを1 とした時の相対値を比較した。統計には対応のあるt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し、当大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】電気刺激による収縮活動は、筋管細胞が形成し始める3、4 日目に比べ、筋管細胞が成熟し始める5 日目に多く確認された。5 日目以降は、ほぼ同様の収縮活動がみられた。電気刺激中断群の筋管細胞横径(10.73 ± 0.87 μm: mean±SE)は、電気刺激群の2 日目(14.22 ± 0.97 μm)及び4 日目(16.88 ± 2.40 μm)に比べ有意に小さかった。なお、電気刺激群の2 日目と4 日目及び電気刺激中断群と同時期の非電気刺激群の横径(10.13 ± 0.61 μm)には、有意な差がみられなかった。電気刺激を止めて1 時間培養した細胞のLC3-IIの発現量は、電気刺激を止めた直後の細胞よりも有意に多かった。【考察】培養細胞を用いた筋萎縮モデルは、投薬によるモデルが一般的である。しかし、これは薬物により一部の廃用性筋萎縮関連蛋白質の発現を亢進させるだけであり、廃用性筋萎縮のすべての現象をとらえているとは言い難い。そこで我々は、生体内の筋で廃用性筋萎縮がおこる状態を模擬するために、電気刺激を用いて培養筋管細胞の収縮活動をコントロールしたモデルを作製した。電気刺激による収縮活動がある状態で培養後、電気刺激を止め収縮活動が減少した状態で培養すると、筋管細胞横径が減少することを確認した。つまり、投薬によらない筋萎縮モデルの作製に成功した。また、動物モデルによる廃用性筋萎縮で活性化すると報告されているオートファジー系の蛋白質分解機構が、本モデルで関与しているかどうか調べた。その結果、本モデルにおいても、収縮活動の減少により、この機構が活性化していることを確認できた。今後、本モデルでおこる筋萎縮に、この機構が必須であるかどうかの検証を行い、本モデルが廃用性筋萎縮モデルとなり得るかどうか確認する。【理学療法学研究としての意義】本モデルが廃用性筋萎縮モデルとして確立すれば、廃用性筋萎縮のメカニズムやその回復のメカニズムのさらなる解明に発展する。また、その効果的な抑制方法、回復促進方法、例えば栄養と運動の併用や物理療法などの詳細な検討に萌芽する。
  • 出口 太一, 緒方 茂, 山本 英夫, 松原 誠仁, 吉村 恵, 脇田 真仁, 飯山 準一
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】本研究の目的はin vivoで他動運動時における深部感覚の受容器である筋紡錘からの上行性活動電位を脊髄神経節で記録し,1 次終末および2 次終末からの活動電位を分類することである。invitroで,筋紡錘からの上行性活動電位を1 次終末および2 次終末の分類をした報告はある。しかし筋紡錘は、筋伸張の受容器であるが、in vivoで,他動運動時の筋紡錘からの上行性活動電位を1 次終末および2 次終末に分類した報告はない。生体内において運動時の筋紡錘からの上行性活動電位による中枢神経系への影響をin vitroの実験から得られた結果を単純に演繹して説明することはできない。例えば,in vitroである除脳における実験では筋緊張が亢進した状態となり,中枢神経からのガンマ遠心性の影響を考慮しているとは考えがたい。【方法】ウレタン麻酔をした6 〜7 週齢のウィスター系ラット(雄)を用い,胸〜仙部を6 〜7 髄節にわたって脊椎を露出し,椎弓切除を行い第3 〜5 腰髄節レベルの脊髄神経節から細胞内記録を行なった。さらにin vivoでラット後肢における他動運動時の筋紡錘からの求心性の応答を、2 つのハイスピードカメラと同期することで関節運動と感覚入力の相関関係を検討した。関節運動の関節角度および関節角速度は,得られた三次元座標値を用いて算出した。【倫理的配慮、説明と同意】6 〜7 週齢のウィスター系ラット(雄)を用いた。全ての実験は熊本保健科学大学の動物実験委員会の承諾を得て実施し、使用したラットは合計204 匹であった。また,実験に必要なラットの数を出来るだけ少なくするよう努力し,刺激によって体動が見られた時にはウレタンを追加して出来る限り痛み刺激の減少を図った。【結果】筋紡錘からの発火には,関節運動の角速度に依存して発火頻度が増加するものと,増加しないものの2 群に分類された。関節角速度に依存して発火頻度が増加する筋紡錘の発火パターンには,動的反応および3 峰性が確認された。また角速度に依存して発火頻度が増加しない筋紡錘の発火パターンには関節角度に依存して発火頻度の増加が確認された。【考察】1 次終末からの発火パターンの特徴として,動的反応および3 峰性がある。また2 次終末からの発火パターンの特徴として,筋の長さに依存して発火頻度の増加がある。以上のことから,関節運動の角速度に依存して発火頻度が増加するものは1 次終末,増加しないものは2 次終末であると考えられた。ラット後肢の他動運動時の関節角度,角速度および筋紡錘からの活動電位の発火パターンに着目することで,深部感覚情報である筋紡錘の1 次終末および2 次終末を活動電位として分類することができる。【理学療法学研究としての意義】本研究で分類した1 次終末からの発火は伸張反射の誘発に関与している。つまり関節運動時の1 次終末の発火頻度を伸張反射誘発の指標にすることができる。この指標から感覚入力を考慮した運動療法の示唆を与えることができると考える。例として,運動療法である関節可動域訓練において,筋緊張の亢進により伸張反射が誘発しやすいために関節可動域制限をきたしている場合に,伸張反射を誘発しないような関節角度および関節角速度を提示することが期待される。また,伸張反射を利用して神経筋促通を行う川平法14)に対して,伸張反射を誘発しやすい関節角度および関節角速度を提示することも期待できる。他動運動時に筋紡錘からの活動電位の発火頻度を確認できる本研究のモデルと,冷刺激および温熱刺激の介入を行った後に他動運動時の筋紡錘からの活動電位の発火頻度を比較することで,物理刺激が伸張反射を促進もしくは抑制する知見が得られ,新たな物理療法の活用方法の示唆が与えられる。脊髄損傷および脳卒中モデルなどの病態モデルを作成し正常モデルと比較することで、疾患に応じた運動による感覚入力への示唆が可能となる。記録方法を細胞内記録法からin vivoパッチクランプ法へ変更し,記録部位を脊髄神経節から脊髄前角および脳に変更することで、痙縮のメカニズム解明への貢献が期待される.病態モデル,脊髄および脳などの記録部位のデータを蓄積することで運動から中枢神経への病態を予測するシミュレーションへの応用も期待される。
  • 浦川 将, 高本 考一, 酒井 重数, 堀 悦郎, 松田 輝, 田口 徹, 水村 和枝, 小野 武年, 西条 寿夫
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】激しい運動後、酷使した筋肉をアイシングにより冷却したり、逆に加温することにより筋機能の回復を図ることは、スポーツの現場で日常的に行われている。これら寒冷・温熱療法は、運動後の筋肉の痛みに対する理学療法として、野球を始めサッカー、水泳、ラグビーなど幅広いスポーツの現場や臨床で適用されている。しかし、その寒冷・温熱療法の効果や作用機序に関しては、十分な検討が行われていない。そこで我々は、寒冷・温熱療法が及ぼす効果とその機序解明を目的に、ラット腓腹筋の伸張性収縮による遅発性筋肉痛モデル用い、寒冷および温熱刺激が遅発性筋肉痛に与える影響を検討した。【方法】6 週齢のSD雄ラットを十分に馴化させ、痛み評価テストを事前に行った。痛みの行動学的評価は、von FreyテストとRandall-Selitto法を用いて、覚醒下のラット腓腹筋上の皮膚へ圧痛刺激を加え、逃避行動を起こす閾値を計測した。ついで、ペントバルビタール麻酔下にて腓腹筋へ電気刺激を加え、筋収縮を誘発するとともに他動的に筋を伸張させる運動(伸張性収縮運動)を500 サイクル繰返した。その後、ラットを運動終了直後から20 分間寒冷刺激を行う群(寒冷群)、温熱刺激を行う群(温熱群)、および刺激を加えない群(対照群)の3 群に分けた(合計N = 37)。寒冷・温熱刺激ともにゲル状パックを用い、それぞれ摂氏10 度および42 度に調整したものを、腓腹筋上の皮膚の上に静置した。これら伸張性収縮運動時とその後20 分間の腓腹筋表面温度(剃毛した皮膚上から)の変化をサーモグラフィにより測定した。伸張性収縮運動翌日から圧痛閾値の推移を計測した。【倫理的配慮】「国立大学法人富山大学動物実験取扱規則」の規定に基づき、厳格・適正な審査を受け承認を得た後、研究を行った。【結果】500 回の伸張性収縮運動により、腓腹筋表面温度が平均約3 度有意に上昇した。伸張性収縮運動に対する介入後、対照群では筋表面温度の変化が見られないのに対し、寒冷群では有意な温度低下を、温熱群では有意な温度上昇が認められた。対照群では、皮膚表層の圧痛閾値を反映するvon Freyテストにおいて伸張性収縮運動前後で閾値に変化が認められなかったが、深層の筋に及ぶ圧痛閾値を評価するRandall-Selitto法では、運動の2 日後から4 日後にかけて有意に閾値が低下し、遅発性筋痛の発現が確認された。寒冷刺激群では、Randall-Selitto法において4 日後のみ圧痛閾値が低下し、対照群との間に有意差は認められなかった。一方、温熱刺激群では、von FreyテストとRandall-Selitto法の双方において、運動前後で圧痛閾値に変化は認められず、運動3 日後(P = 0.083)および4 日後(P < 0.005)において対照群より閾値が上昇した。【考察】本研究では、伸張性収縮運動後に現れる遅発性筋痛に対する寒冷および温熱療法の効果を検討した。その結果、寒冷療法は対照群と比較して遅発性筋痛を抑制しなかった。今回の結果と同様に、組織学的(Takagi, R., et al, J Appl Physiol, 110, 2011)および筋出力(Ohnishi, N., et al, J Therm Biol, 29, 2004)の観点から、運動後の寒冷療法・アイシングの効果に関しては否定的な報告がある。これらのことから、運動後の筋肉冷却は今後検討を要すると考えられる。一方、温熱刺激では遅発性筋痛が抑制された。本研究の結果より伸張性収縮運動中には腓腹筋表面の温度が上昇していることから、収縮筋における代謝亢進と血流増加が示唆される。温熱療法は、加温することによりこの生理学的反応を促進し、筋の障害に対して保護的に作用することが示唆され、遅発性筋肉痛を抑制したと考えられる。今後、筋の代謝と血流変化の観点から検討を加えていく予定である。【理学療法学研究としての意義】骨格筋の痛みに対する寒冷療法、温熱療法の効果に関する知見と、今後の科学的機序解明への可能性を示した。
  • 森本 温子, Winaga Handriadi, 櫻井 博紀, 大道 裕介, 大道 美香, 牛田 享宏, 佐藤 純
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】四肢関節の不動化に伴う廃用は慢性痛の一因となり、その治療戦略として運動療法が選択されることが多い。近年になって、神経障害性疼痛や炎症性疼痛に対する運動療法の鎮痛効果が基礎的研究にて示されつつあるが、不動化や廃用に伴う慢性疼痛への運動効果は検証されていない。一方、我々はラットの片側後肢を2 週間ギプス固定すると、解放後に固定部の発赤、浮腫、発熱に続き、固定部を越えて拡がる皮膚・筋の機械的痛覚過敏が長期継続することを報告している(大道ら2012)。そこで、本研究ではこの不動化モデル動物を用いてトレッドミル運動およびスタティックストレッチングが慢性痛を抑制する効果があるか検討した。【方法】雄性SDラット(10 週齢、n=25)を用い、体幹から左後肢を石膏ギプスにて2 週間固定し、慢性疼痛モデル(chronic post cast pain:CPCP)を作成した。実験1:運動実施時期を決定するため、1.5テスラー小動物用MRI装置を用いて後肢の(A)T1 強調画像、(B)T2 強調画像、(C)ガドリニウム静注後T1 強調画像をマルチスライス法にて撮像し、ギプス解放後の炎症や浮腫の状態を経時的に確認した。実験2:非運動群(CPCP群、n=8)、トレッドミル運動群(CPCP+TR群、n=9)、スタティックストレッチング群(CPCP+SS群、n=8)に振り分け、CPCP+TRおよびSS群にはギプス固定解放後(以下pc)3 日目から週3 回の頻度で2 週間の運動負荷を実施した。CPCP+TR群には小動物用トレッドミルを用いて、速度12 m/分、1 日あたり30 分間トレッドミル運動を負荷した。CPCP+SS群には滑車付き牽引装置を用い、25g荷重にて後肢を1 日あたり10 分間牽引した。疼痛行動は、下腿皮膚および足底のvon-Frey testおよび腓腹筋部圧痛閾値測定にてpc7 週まで評価した。群間の痛覚閾値の差はMixed-design two-way repeated ANOVAで検定し、post hocとしてTukey-Kramer's testを行った。各群における痛覚閾値の変化はOne-way ANOVAを行い、post hocとしてDunnett's testを用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は、国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し、愛知医科大学および名古屋大学動物実験委員会の承認のもとに実施した。【結果】実験1:CPCP群の後肢MRI画像では、ギプス固定解放直後から皮膚および血管周囲に浮腫の出現を示唆するT2 高輝度変化が認められたがpc3 日以内に正常化した。そこで、運動開始時期をpc3 日とした。実験2:CPCP群は全ての計測部位でpc7 週まで継続する明らかな痛覚過敏を呈した。一方、CPCP+TR群およびCPCP+SS群では、CPCP群と比し有意に痛覚過敏の発症が抑制された。また、CPCP群ではpc7 週まで有意な関節可動域制限を呈したが、CPCP+TRおよびCPCP+SS群では有意な改善を示した。さらに、CPCP群ではpc3 週目まで有意な下腿筋幅の減少を認めたが、CPCP+TR およびCPCP+SS群ではCPCP群より1 〜2 週間早くもとの値に回復した。【考察】今回、ギプス固定部位の急性変化(浮腫)が消失した後に実施したTRおよびSS運動は、どちらも固定後肢に長期間観察された機械的痛覚過敏、関節可動域制限および筋萎縮を改善した。我々はこれまでにギプス固定除去による虚血再灌流障害が痛覚過敏の発症に関与している可能性を報告した。一方、運動が種々の内因性活性物質の誘導し抗炎症・抗酸化作用を有することが知られていることから、今回のTRおよびSS運動がギプス固定解放後の虚血再灌流障害を軽減し、痛覚過敏を抑制した可能性が示唆された。また一方で、これらの運動が中枢神経系において内因性オピオイドの産生放出を促し下行性抑制系を賦活する報告もあることから、今後運動の疼痛抑制機序を明らかにするには、固定部局所と中枢神経系への影響を検索する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器の慢性痛の有病率は非常に高く、患者のADL・QOLに対する大きな阻害因子となっている。臨床現場において慢性の運動器痛に対して理学療法が施行されているが、その効果の基礎的検証は未だ端緒についたばかりである。今回の不動化モデル動物を用いた行動学的研究により、2 種類の運動療法が四肢の慢性痛に対して鎮痛効果を持つことが明らかとなった。今後はこの鎮痛効果を生化学的・免疫組織学的に解析することで、臨床現場での病態の把握や評価、適切な運動処方に繋がると考えられる。
  • 後藤 慎, 鈴木 重行, 松尾 真吾, 波多野 元貴, 岩田 全広, 坂野 裕洋, 浅井 友詞
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】スタティック・ストレッチング(static stretching:以下、SST)直後にROM増加やstiffness低下が生じることを示した報告は枚挙に暇がなく、これらを根拠に柔軟性向上を目的としたSSTが実施されている。一方、SST直後には最大発揮筋力が低下するという報告も多数存在し、運動前などにはSSTを避けるべきであるとの主張もなされている。これに対して、先行研究ではSST後に運動負荷を行うことで、SSTに伴う最大発揮筋力の低下やパフォーマンス低下が抑制できる可能性が示唆されている。しかし、これらの報告ではSST後の運動負荷による最大発揮筋力の低下抑制効果が検討されているものの、その際の柔軟性の変化についてはほとんど検討されていない。SSTに伴う最大発揮筋力の低下抑制を目的とした運動負荷の有効性を確立するには、運動負荷がSSTの主効果である柔軟性向上に与える影響についても検討する必要がある。そこで、本研究はSST後に行う運動負荷(低強度の筋収縮)が最大等尺性筋力、ROM、stiffness、最大動的トルクに与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】被験者は健常学生16 名(男性8 名、女性8 名、平均年齢21.0 ± 0.8 歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節を約110 度屈曲した座位(以下、測定開始肢位)をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いて測定を行った。SSTは大腿後面に痛みの出る直前の膝関節伸展角度で300 秒間保持して行った。評価指標は最大等尺性筋力、stiffness、最大動的トルク、ROMとした。最大等尺性筋力は測定開始肢位における膝関節屈曲等尺性筋力の最大値とした。Stiffness、最大動的トルクは測定開始肢位から膝関節最大伸展角度まで5°/秒の角速度で他動的に伸展させた際のトルク‐角度曲線より求めた。StiffnessはSST前の膝関節最大伸展角度からその50%の角度までの回帰直線の傾きと定義し、最大動的トルク及びROMはそれぞれ膝関節最大伸展角度における値とした。実験は各評価指標を測定し、15分の休憩後、SST(SST群)、30%maximum voluntary contraction(以下、MVC)強度の筋収縮(30%MVC群)、SST直後に30%MVC強度の筋収縮(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、再び各評価指標を測定した。被験者は3 種類の実験をランダムな順番で行った。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は本学医学部生命倫理審査委員会及び共同研究施設「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得て行った。実験を行う前に、被験者に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合にのみ研究を行った。【結果】最大等尺性筋力はSST群では介入後に有意に低下し、30%MVC群及びSST-30%MVC群では介入前後に有意な差は認められなかった。stiffnessはSST群では介入後に有意に低下し、30%MVC群及びSST-30%MVC群では介入前後に有意な差は認められなかった。最大動的トルクはSST群、30%MVC群及びSST-30%MVC群のすべての群で介入後に有意に増加した。また、SST-30%MVC群の介入後の最大動的トルクはSST群の介入後と比較して有意に高値を示した。ROMはSST群、30%MVC群、及びSST-30%MVC群のすべての群で介入後に有意に増加した。【考察】本研究結果から、SST後に行う運動負荷(低強度の筋収縮)はSSTに伴う最大等尺性筋力低下を抑制でき、最大動的トルクを増加させるが、柔軟性の指標であるstiffness低下も抑制することが示唆された。SST後の最大発揮筋力低下のメカニズムに関する先行研究を渉猟すると、SSTによる筋腱複合体のstiffness低下が一要因であると報告されている。これらの報告と本研究結果を加味すると、運動負荷による最大等尺性筋力低下の抑制メカニズムとしては、SSTによって低下したstiffnessが低強度の筋収縮により増加したことによると推察される。興味深いことに、SST後のROMは運動負荷の有無にかかわらず同程度増加した。本研究で測定した最大動的トルクは痛みを誘発するために必要な伸張量であり、その値は伸張刺激に対する痛み閾値を意味している。したがって、SSTによるstiffness低下が運動負荷によって抑制されたにもかかわらずROMが増加したのは、主に最大動的トルクの増加、すなわち、痛み閾値の増加によってもたらされたものと推察される。【理学療法学研究としての意義】SST後に低強度の筋収縮を行うと、SSTに伴う発揮筋力低下を抑制できるが、柔軟性に対する効果も抑制することが示唆された。理学療法おいてSSTは頻繁に用いられ、その後に運動負荷が行われることも多数想定される。SSTとその後の筋収縮による影響の基礎的なデータが明らかになったことで、より適切なSST実践に向けた一助になるものと考える。
  • 日置 麻也, 兼平 奈奈, 島岡 清, 小池 晃彦, 吉子 彰人, 榊原 久孝, 押田 芳治, 秋間 広
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】筋萎縮や筋内,筋間にある脂肪の蓄積は加齢に伴って引き起こされる (Overend et al., 1992, Lexell et al., 1988).筋内や筋間に蓄積された脂肪は,糖尿病との関連が示唆されていることから,筋内脂肪の簡便な評価は,生活習慣病に対するリハビリテーションを行う上で重要な評価項目となり得る.筋内や筋間の脂肪の蓄積が確認されているのは,高齢者 (Rice et al., 1988) の他に,脊髄損傷患者 (Elder et al., 2004) や筋ジストロフィー患者ら (Heckmatt et al., 1985)などであり,また,一定期間の不活動後の被検者 (Manini et al., 2007) においても認められる.これらの人々では,筋萎縮に伴い筋内や筋間に脂肪が蓄積されることから,我々は,筋萎縮と筋内脂肪量の増加には関連があると予想した.筋内脂肪や筋間の脂肪の評価については,磁気共鳴映像法 (MRI) を用いて,筋内のどの部位に脂肪が存在し蓄積するのか,画像分析により定量化し評価可能であるが,超音波断層法のエコー強度を指標に筋内に存在する脂肪量を定量的に評価する方法 (Heckmatt et al., 1985) の方がより簡易的である.そのため,実際の現場で応用されるには,エコー強度を基にした筋内脂肪指標の評価が適していると考えられる.本研究では,エコー強度を指標に筋内脂肪量を評価した“筋内脂肪指標”と筋横断面積 (CSA) との関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】健常成人男女30 名 (若齢群15 名,高齢群15 名) の,右大腿中央部の外側広筋 (VL) と大腿二頭筋・長頭 (BFl)のエコー強度とCSAを測定した.エコー強度はグレースケールを基に筋内の領域に含まれる全てのピクセルの平均値を算出した.また,臨床用の3TのMRIを用いて右大腿中央部の横断像を撮影し,得られた横断像からVLとBFlのCSAを算出した.若齢群と高齢群の身体特性に有意な差が認められたので,その影響を除くため,Kanehisaら (1994) を参考に,CSA を大腿長 (thigh length, L) により補正した.そして,以下の式により筋量を算出した.筋量 = CSA・L-2 (× 10 -4 )【倫理的配慮、説明と同意】実験に先だって,本実験の概要,目的,実験に伴う危険性,実験から得られる有効について説明し,書面において同意を得た.本実験は名古屋大学医学系研究科の生命倫理委員会の承認を得て実施された.【結果】高齢群は若齢群と比較して,VLおよびBFlともにエコー強度では有意に高値 (ともにp < 0.001),CSAでは有意に低値 (VL, p < 0.001; BFl, p < 0.05) を示した.また,VLおよびBFlにおけるエコー強度とCSAを大腿長で補正した筋量との関連について,若齢群と高齢群ともに有意な相関関係 (若齢群VL, r = -0.32; BFl, r = -0.28 高齢群 VL, r = -0.32; BFl, r = -0.08) を認めなかった.【考察】本研究では,高齢群の大腿部の筋は,若齢群と比較して筋量は少ないが筋内脂肪量は多いことが示され,先行研究と一致した結果であった.我々は,加齢に伴う筋形態の変化を横断的に調査し,筋萎縮と筋内脂肪量の関連性を検討した.両群とも筋内脂肪量と筋量との関連性は認められず,必ずしも萎縮した筋内には脂肪量は増加しないことが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】我々は,非侵襲的で簡易的に使用することができる超音波断層法を用いて筋内脂肪を評価した.この筋内脂肪指標は,生活習慣病予防を目的として運動を行っている幅広い人々に対する,重要なパラメータの一つとなり,将来的には臨床やリハビリテーションの現場で,用いることが可能となるものと考えている.
  • 鈴木 啓介, 西田 裕介
    セッションID: A-S-04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢者における歩行持久力の低下はADL機能を低下させるとともに死亡率や疾患罹患率を増加させることが報告されている。歩行持久力は生体内の糖質量により制限されており,歩行持久力の向上には,糖質の消費を抑え,脂質を効率良く使用する必要がある。糖質はタイプⅡ線維にて代謝され,脂質はタイプI線維にて代謝される特徴を持ち,筋によってタイプ線維の含有量が異なる。つまり,糖質の消費を抑え,歩行持久力を向上させるためには活動させる筋を柔軟に変更する必要があると考える。また,筋の活動量は筋の協調性の変化によって影響を受けることから,代謝,筋活動量,筋協調性は密接に関係性しているものと考える。そこで今回,エネルギー代謝が変化する要因を筋活動量,筋協調性との関係性から明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健常成人男性12 名とした。プロトコルは安静座位5 分,時速4.5km/hでの練習歩行5 分行い,同速度にて90 分間の歩行を実施した。代謝の分析には呼気ガス分析装置を使用し,呼吸交換比(以下RER)を算出した。筋協調性と筋活動量の分析には表面筋電図を使用し,前頸骨筋,内側腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,中殿筋を対象筋とした。筋活動量の指標として筋積分値を算出した。また,歩行を構成する7 筋の協調性の指標として,主成分分析にて因子負荷量を算出した。さらに同関節駆動に携わる下腿三頭筋や大腿四頭筋などの解剖学的筋グループの協調性の指標として,主成分分析によって得られた因子負荷量より同符号である筋の寄与率を用いた。統計処理はRERにおいて有意に変化した時間を同定するために10 分毎のデータに対しTukeyの多重比較検定を行った。また各指標の関係性を明らかにするために,歩行開始10 分から90 分までの各指標の変化量に関してPearsonの積率相関分析を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の趣旨,目的,測定内容を口頭にて説明し,書面にて同意を得た。また,本研究は聖隷クリストファー大学の倫理審査委員会に報告し,承認を得てから研究を実施した(認証番号:11046)。【結果】呼吸交換比は歩行開始10 分間から時系列的に0.847 ± 0.036,0.848 ± 0.038,0.827 ± 0.031,0.820 ± 0.034,0.812 ± 0.032,0.810 ± 0.033,0.808 ± 0.031,0.805 ± 0.030,0.803 ± 0.028 となり,歩行開始10 分と歩行開始90 分に有意な差が認められた(p<0.05)。RER変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では有意な正の関係を認めた(r=0.58,p<0.05)。また,RER変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な正の関係を認めた(r=0.631,p<0.05)。7 筋による協調性では歩行10 分,歩行90 分ともに構成要素は3 であった。因子負荷量では歩行開始90 分にて内側広筋,ヒラメ筋で増加する傾向を認めた。大腿四頭筋寄与率の変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では関係性が認められなかった。(r=-0.546 p=0.066)。一方,下腿三頭筋寄与率の変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な負の関係性が認められた(r=-0.632 p<0.05)。【考察】本研究においてRERは時系列的に低下し,外層筋筋積分値の変化量とRER変化量に有意な正の相関関係を認めた。外層筋はタイプⅡ線維含有量が多いことが報告されており,外層筋の活動量が低下したことで糖代謝が制限されたと考えられる。また,7 つの筋協調性の結果から,90 分の歩行において他の筋からの協調的な関与は低く,解剖学的筋グループ内での協調性の変化が筋活動量に影響を与えていることが確認された。さらに,下腿三頭筋寄与率の変化量と内側腓腹筋筋積分値の変化量では有意な負の関係性が認められた。この結果から,解剖学的筋グループの協調性を亢進させ,歩行に必要な筋出力を相補的に補うことで外層筋の活動量を低下させたと考えられる。しかし,大腿四頭筋寄与率の変化量と大腿直筋筋積分値の変化量では関係性が認められなかった。この理由として筋の収縮特性が考えられる。大腿四頭筋は中間広筋を中心に内層の3 筋が協調して活動することが明らかになっており,本研究においても内層筋の協調性が亢進したと推察され,大腿直筋の活動量との間に関係を示さなかったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より筋の協調性の変化によって糖代謝を優位に行う外層筋の活動量を低下させ,歩行時の糖を節約できる可能性が示唆された。理学療法場面において低栄養の高齢者や糖尿病など糖を効率良く使用出来ず歩行持久力が低下している患者に対して,筋の協調性に着目することで,歩行持久力改善を目的とした運動処方の立案に寄与できると考えられる。
  • 神田 佳代, 出口 宝, 小川 寿美子
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに】妊婦の有腰痛率は過半数以上と言われており、日常生活に影響を及ぼすことも知られている。また、妊娠時の腰痛が産褥期まで影響し、慢性化することがあることも報告されており、軽視できない。しかし、妊産婦に安易にレントゲン撮影や投薬ができないことから治療に至らないことが多い。出産前後の1 年間に姿勢(体型)は急速に変化し、母体がその急激な変化に順応するのが困難であると言われている。そこで本研究において、妊産婦への運動指導介入を前提に、妊娠経過中における簡便な身体変化測定法の有用性とその腰痛との関連を検討したので報告する。【対象と方法】本研究に同意が得られた妊娠11 週から39 週までの妊婦77 名と産褥婦14 名の合計91 名(平均年齢30.32 歳± 5.01)を対象とし、前額面と矢状面の2 方向について全身が映るようにシルエッター写真を撮影した。ランドマークとして上前腸骨棘、腸骨上縁と重心線の指標となる耳孔、肩峰、大転子、膝関節中央、外果をとった。測定項目は、矢状面より1)前面角、2)腹部最大突出距離、3)腹部最大突出床上距離の身長比、4)腰椎前弯角を、前額面より5)上前腸骨棘間距離、6)腸骨上縁間距離の6 項目を計測し、身体変化を評価した。身体特性として年齢、身長、体重、分娩回数も同時に確認した。妊娠周期間の比較を一元配置分散分析で行い、妊娠周期別に腰痛の有無の2 群間比較にはt検定を行った。【倫理的配慮】研究対象者に承諾を得るにあたり研究協力依頼書を提示し、辞退の権利及び同意後の辞退の権利、辞退がケアを受ける上で不利益をもたらすことはないこと、データは研究以外に使用しない事、分析・発表に際し個人が特定されることはないこと、プライバシーは保護されることを説明し文書にて同意を得た。対象者の体調に留意するとともに、対象者の受ける診療やケアにさし障りの内容に配慮した。尚、本研究は名桜大学大学院国際文化研究科の研究倫理に関する承認を得て実施した。【結果】妊娠周期別測定値の比較では、妊娠による著明な変化が認められる増加体重、体重、BMI、前面角、腹部突出距と、肉眼ではあまり変化を感じることができない上前腸骨棘間距離、腹部突出床上距離の身長比において有意差が認められ、いずれも妊娠経過に伴い測定値の増加が見られ、産後に減少していた(p<0.03)。妊娠周期別有腰痛率は、妊娠初期90%、妊娠中期81.5%、妊娠後期72.5%、産後期35.7%で妊娠初期より高値と示した。妊娠中期における腰痛あり群となし群の比較では、年齢においては、腰痛あり群のほうが年齢は高い傾向が見られた(p<0.016)。産後期における腰痛あり群となし群の比較では、腰椎前弯角において腰痛あり群のほうが有意に大きかった(p<0.03)。上前腸骨棘間距離と腸骨上縁間距離の差を腰痛の有無で比較すると、妊娠中期ならびに妊娠後期においては腰痛あり群のほうが、有意に大きかった(p<0.01)。一方、腰痛なし群において有意差は認められなかった。また、産後においては両群ともに有意差は認められなかった。【考察】妊娠によって骨盤を構成する靭帯が弛緩し、骨盤腔が増大することは知られている。妊娠中期以降の腰痛なし群では、腸骨上縁間距離と上前腸骨棘間距離の差がなく恥骨結合を含む骨盤前面が左右方向に広がっていることが分かり、腰痛あり群では差が骨盤上部のみが広がっていると考えられる。産後は腰椎前弯角が大きいと腰痛を訴え、これは妊娠後期に腹部増大に伴い変化したままの姿勢であり、衝撃吸収力が低下したままであることがわかる。これにより産後に姿勢は自然に戻ることは少なく、何らかの指導が必要になってくると考えられる。シルエッター写真による身体変化測定法は、骨盤・脊柱の状態と身体変化による腰痛を推測する上で重要と考えられ、妊産婦に用いるのに安全かつ簡便で客観的な方法であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により、妊娠中の身体変化をシルエッター写真で測定することで、妊娠各期の異常な身体変化に対して運動指導の介入が可能と考えられ、産婦人科領域や地域保健活動への理学療法士の職域拡大につながると考えられる。
  • 岡西 奈津子, 木藤 伸宏, 秋山 實利, 山本 雅子
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】妊娠中および産後に腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に悩まされる女性は多く、これらは妊娠に伴う姿勢変化が発症要因として報告されている。しかし,妊婦の姿勢について,脊柱平坦化,骨盤前傾または後傾等一定の見解はみられない。我々は昨年の同学会にて,腰仙椎の弯曲と立位時の傾斜が姿勢評価の指標となることが示され、非妊婦群と比較して妊婦群は腰仙椎後傾することが明らかとなった。しかし,姿勢変化と身体症状の関係について明確なエビデンスは存在しない。そこで本研究は,妊婦の姿勢と身体症状の関係について,スパイナルマウスから得られる脊柱弯曲指標と静止画像から得られた姿勢指標を用いて明らかにすることである。【方法】被験者は,医師により研究参加許可の得られた妊娠16 週− 35 週の妊婦20 名とした。切迫早産や内科的疾患等の妊娠継続が困難となり得る合併症,その他明らかな骨関節疾患等の疾患がある者は除外した。姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R)(Aditus Systems Inc.,Irvine)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからSPSS for Windows 15.0J(SPSS Japan Inc.)を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,妊婦群と非妊婦群の姿勢の特徴を比較検討した。【倫理的配慮、説明と同意】研究に先立ち,研究内容およびリスク,個人情報の保護,研究成果の学会発表,研究参加中断可能であることについて,十分な説明を口頭にて行った。すべての被験者において同意が得られ,同意書に署名を頂いた。また,本研究は広島国際大学倫理委員会の承認を得た。【結果】被験者のプロフィールは年齢31.4 ± 4.3 歳(平均±標準偏差),身長157.4 ± 5.2cm,体重54.9 ± 7.1kg,妊娠週数23.6 ± 6.2週,初産婦13 名,経産婦7 名であった。身体症状では腰痛の経験がある者17 名,骨盤痛10 名,尿失禁9 名であった。主成分分析の結果,固有値が1 以上を示したのは第1 主成分は腰椎後弯-0.88,第2 主成分は仙骨傾斜角0.71,第3 主成分は胸椎後弯0.63 で高い負荷量を示した。また,累積寄与率は84.8%であった。以上の結果より,第1 主成分および第2 主成分は腰仙椎の弯曲の強弱,第3 主成分は胸椎の弯曲の強弱を示していた。脊柱アライメント指標である仙骨傾斜角は,大きな正の値なら骨盤前傾,小さな正の値または負の値であれば骨盤後傾を意味する。腰椎後弯角は,角度が正の値なら後弯,負の値なら前弯を示す。立位時の傾斜角は、角度が負の値の場合は全体の姿勢が後傾を表す。体幹と骨盤のなす角度は、角度が小さいと体幹後傾を表す。これに基づき第1 主成分と第3 主成分の主成分得点より姿勢を分類し,症状の有無での特徴を検討したところ,骨盤痛と尿失禁を有する者は腰仙椎が前弯減少・後傾し,胸椎は後弯する者がそれぞれ7 名ずつ分布していた。腰痛については症状のない被験者が2 名と少なく,特徴が不明だった。【考察】本研究の結果、腰仙椎の弯曲と胸椎の弯曲の強弱が、姿勢評価の指標となることが示され、骨盤痛と腰痛を有する妊婦は腰仙椎後傾と胸椎後弯を示すことが明らかとなった。妊婦は増大する腹部を保持し抗重力姿勢を保つために,体幹の質量中心を後方へ変位させなければならない。そのためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要があり,腰仙椎後傾と胸椎後弯により対応していることが推測された。それに伴い腹部の安定化機構であるインナーマッスルの機能不全が生じやすく,結果として骨盤痛や尿失禁という腹部の筋機能不全による症状が発生していると推測された。【理学療法学研究としての意義】妊婦の姿勢と身体症状との関連性を明らかにすることで,身体症状の改善やその発症を予防するための理学療法介入方法が明らかとなることにつながる。そのため,本研究の結果はその根本的な指標となりうる。また,本研究を通して日本のウーマンズヘルスケアにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。
  • 菅澤 昌史, 小宅 一彰, 山口 智史, 小田 ちひろ, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳卒中患者の歩行において,時間因子の評価は身体機能や歩行能力を反映するために重要な指標である.健常成人の歩行において,体幹に装着した加速度計による時間因子の評価は,床反力計との妥当性が報告されている(Zijlstra,2003).しかし脳卒中患者の歩行では,動作の非対称性や代償動作による体幹動揺が,加速度の計測に影響を与える可能性がある.そこで本研究では,加速度計が脳卒中片麻痺患者においても歩行時間因子の評価に適用できるか,床反力計との妥当性を検証した.【方法】対象は,2012 年5 月から11 月までに当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者12 名とした.採用基準は,杖を使用せずに10m以上の歩行が可能で,下肢に関節疾患や疼痛のない者とした.年齢は64 ± 12 歳(平均値±標準偏差),発症後日数は94 ± 56 日であった.下肢運動麻痺は,Brunnstrom Stageで,IIIとIVが各2 名,Vが6 名,VIが4 名であった.杖を使用しない歩行において,6 名が自立,6 名が監視,3 名が短下肢装具を要した.測定課題は,杖を使用しない至適速度での10m歩行とし,5回測定した.測定機器は,床反力計4基(1基サイズ60×120cm:ANIMA社)と小型無線加速度計(ワイヤレステクノロジー社)を用いた.両機器は,いずれもサンプリング周波数60Hzで記録し,歩行中同時に測定した.加速度計は,対象者の第三腰椎部に固定し,体幹の前後加速度を計測した.加速度データは,進行方向に対して正のピークを接地,負のピークを離地として歩行周期を特定し,定常歩行5周期分を加算平均した. 床反力計では,左右下肢の床反力鉛直成分を測定した.床反力が50N以上となる時点を接地,50N未満となる時点を離地として歩行周期を特定した.妥当性を検討する時間因子は,歩行周期時間(s)および歩行周期における接地と離地の時期(%)とした.なお歩行周期の開始は,いずれの機器も麻痺側接地とした.統計解析には,5 回測定した平均値を用いた.床反力計と加速度計の測定値の関係は,Pearson積率相関係数で検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理審査会の承認後に実施した.研究への参加にあたって,事前に研究内容を十分に説明し,本人の意志により同意を得た.【結果】歩行周期時間は,床反力計1.21 ± 0.13(平均値±標準偏差),加速度計1.25 ± 0.14 であった.その測定値の差(床反力-加速度)は,-0.05 ± 0.02(95%信頼区間:-0.13 〜0.04)であった.非麻痺側離地は,床反力計14.77 ± 2.51,加速度計14.72 ± 3.76 で,測定値の差は0.05 ±2.81(95%信頼区間:-0.96〜1.07)であった.非麻痺側接地は,床反力計45.34±5.75,加速度計43.51±4.33であり,その差は1.83±1.79(95%信頼区間:1.01 〜2.65)であった.麻痺側離地は,床反力計60.55 ± 3.83,加速度計57.72 ± 4.04 であり,その差は2.83 ± 0.02(95%信頼区間:1.83〜3.83)であった.相関係数は,歩行周期時間で0.99,非麻痺側離地で0.66,非麻痺側接地で0.98,麻痺側離地で0.76であり,すべて有意な正の相関を認めた(p<0.05).【考察】脳卒中片麻痺患者の歩行において,加速度計を用いた時間因子の評価には,高い妥当性があることが示された.そのため加速度計を用いた時間因子の評価は,対象者間における測定値の個人差を反映できると考えられた.しかし,離地時期は接地時期に比べ相関係数が低値を示した.この結果は,対象者間で離地時期が同じでも,前後加速度が負のピークを示す時期は対象者によってばらつくことを示している.つまり,床反力計で特定した離地時期に対して加速度のピークがどこに位置するかは,対象者の歩行速度や歩行様式などの特性が影響すると考えられる.非麻痺側接地と麻痺側離地は,床反力計より加速度計が先行する傾向にあり,系統誤差が存在する可能性がある.このような測定誤差をもたらす原因は,単に測定機器の違いだけでなく,対象者の身体機能や歩行能力も影響する可能性がある.また,今回の研究では麻痺側接地を基準として歩行周期を切り出しており,離地や非麻痺側接地で同様の結果になるかについてはさらに検討が必要である.いずれにせよ,両機器間での測定誤差は,いずれの測定項目でもわずかであり,時間因子の評価において大きな問題にはならないと考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究は,脳卒中患者の歩行における時間因子を評価するうえで,測定環境の制約が少ない加速度計を適用できることを示した点で意義がある.
  • 小田 ちひろ, 小宅 一彰, 山口 智史, 田辺 茂雄, 菅澤 昌史, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】歩行中の重心運動における力学的エネルギーの交換率から、歩行効率を評価することが可能である。健常成人の歩行において、体幹に装着した加速度計による力学的エネルギー評価は、床反力計との妥当性が報告されている(Meichtry 2005)。しかしながら、脳卒中片麻痺患者の歩行では、姿勢の非対称性や代償動作による過剰な体幹運動が生じるため、加速度計では力学的エネルギーを正確に評価できない可能性がある。そこで本研究では、脳卒中片麻痺患者において、加速度計が歩行の力学的エネルギー評価に適用できるか、床反力計との妥当性を検証した。【方法】対象は、2012 年5 月から11 月までに当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者11 名とした。採用基準は、杖を使用せずに10m以上の歩行が可能で、下肢に関節疾患や疼痛がない者とした。年齢は64 ± 13 歳(平均値±標準偏差)、発症後日数は94 ± 56 日、下肢運動麻痺はBrunnstrom stageでIIIが2 名 、IVが1 名、Vが6 名、VIが2 名であった。歩行レベルは、6 名が監視を要し、5 名が自立であった。課題は、杖を使用しない至適速度での10m歩行とし、5 回測定した。測定には、小型ワイヤレス加速度計(ワイヤレステクノロジー社)および床反力計4 基1 基サイズ(60 × 120cm:ANIMA社)を用いた。両機器は、サンプリング周波数を60Hzで同時に記録した。加速度計は、対象者の第三腰椎部に固定し、3 軸方向の体幹加速度を測定した。得られた加速度は、前後加速度のピークから歩行周期を特定し、定常歩行5 周期分を加算平均した。床反力計では、3 軸方向の床反力を測定した。得られた床反力は、鉛直成分が50N以上となる時点を初期接地とし、歩行周期を特定した。重心加速度は、左右下肢の合成床反力から体重を補正して算出した。床反力計および加速度計で得られた加速度データは、時間で積分し速度を求め、その速度を積分し、変位を算出した。3 軸方向の速度から運動エネルギー、上下方向の変位から位置エネルギーを算出した。さらに両エネルギーの和から全力学的エネルギーを算出した。力学的エネルギー(J)は歩行周期における増加量として定量化し、それぞれpotential work(Wp)、kinetic work(Wk)、total mechanical work(Wt)とした。さらに歩行効率の指標として、位置エネルギーと運動エネルギーの交換率(%Recovery:%R)を算出した。%R(%)は(1 −Wt/(Wp+Wk))× 100 で算出した。統計解析には、5 回測定した平均値を用いた。床反力計と加速度計の測定値の関係は、Pearson積率相関係数で検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後に実施した。研究への参加にあたって、対象者には事前に研究内容を十分に説明し、同意を得た。【結果】力学的エネルギーは、Wpで加速度計37.6 ± 12.7、床反力計32.7 ± 9.5 であり、測定値の差(加速度計−床反力計)は平均4.9 ± 8.6(95%信頼区間:2.9 〜6.8)であった。Wkは加速度計24.1 ± 10.3、床反力計15.0 ± 6.7 であり、差は平均9.2 ± 5.0(95%信頼区間:7.7 〜10.7)であった。Wtは加速度計21.8 ± 9.0、床反力計21.5 ± 7.4 であり、差は平均0.3 ± 7.3(95%信頼区間:−1.5 〜2.1)であった。%Rは加速度計63.4 ± 13.2、床反力計53.1 ± 14.7 であり、差は平均10.4 ± 8.7(95%信頼区間:8.4〜12.3)であった。相関係数は、Wpで0.74、Wkで0.91、Wtで0.62、%Rで0.81 であり、すべて有意(p<0.05)であった。【考察】脳卒中片麻痺患者において、加速度計を用いた力学的エネルギー評価は妥当性があることが示された。したがって、加速度計を用いた力学的エネルギー評価は、対象者間における測定値の個人差を反映できると考えられた。しかしながら、加速度計から得られたデータは床反力計から得られたデータに比べ高値を示すことが多く、測定機器間で誤差を認めた。この誤差には、系統誤差が存在する可能性がある。このような測定誤差が生じる一因として、加速度計の計測軸と空間座標軸の不一致が考えられる。今後の研究では、床反力計との測定誤差が生じやすい対象者の特性について更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究は、脳卒中片麻痺患者の歩行における力学的エネルギーを評価するうえで、測定環境の制約が少ない加速度計を適用できることを示した点で意義がある。
  • 平川 倫恵, 鈴木 重行, 加藤 久美子, 後藤 百万, 吉川 羊子
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】腹圧性尿失禁は女性において頻発し,生活の質(quality of life: QOL)に多大な影響を及ぼす。その治療法としては骨盤底筋体操が第一選択肢として推奨されている。骨盤底筋体操の補助的なものとして、機器を用い視覚、聴覚、触覚にて収縮を確認するバイオフィードバック療法がある。骨盤底筋体操にバイオフィードバック療法を併用することによる加算効果については一致した見解が得られていない。また、近年では低侵襲手術の登場により尿失禁に対する手術療法の普及が進んでいる。本研究では腹圧性尿失禁に対する骨盤底筋体操とバイオフィードバック療法の治療効果を比較・検討した上で、介入終了から1 年後に追跡調査し尿失禁手術の実施に関連する因子を検証することを目的とした。【方法】取り込み基準は泌尿器科医師により詳細な問診、ストレステスト等で少なくとも週に1 回以上の腹圧性尿失禁があると診断された女性である。本研究への参加の同意が得られた46 名に対し無作為割り付けを実施し、骨盤底筋体操群(体操群)に23 名、バイオフィードバック療法群(BF群)に23 名が割り付けられた。両群とも自宅での体操プログラムは10分間を2 回、毎日、12 週間実施するものとし、BF群は機器を用い収縮を確認しながら体操を実施した。評価指標は、King's health questionnaire(KHQ)、International consultation on incontinence questionnaire-short form(ICIQ-SF)、尿失禁回数、尿パッドの使用枚数、排尿回数、60 分パッドテスト、最大収縮時腟圧とした。介入終了から1 年後に尿失禁手術の実施の有無について調査を行い、手術群と非手術群の2 群において2 変量解析を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は本施設の倫理委員会の承認を受けた上で実施した。本研究の被験者は事前に十分に研究内容を説明した上で同意が得られた女性のみを対象とした。【結果】12 週間の介入後、KHQは体操群では5 領域、BF群では7 領域においてスコアが有意に減少した。ICIQ-SFの尿失禁頻度、尿失禁量、QOL、及び合計スコアは両群とも有意に減少した。尿失禁回数は体操群では有意に減少した。BF群では尿失禁回数は減少傾向を示したが、有意な差は認められなかった(P = 0.054)。尿パッドの使用枚数、排尿回数には変化が認められなかった。60 分パッドテストにおける尿失禁量は両群ともに減少傾向を示したが、介入前後に有意な差は認められなかった。最大収縮時膣圧は両群ともに有意に増大した。すべての評価指標において両群間に有意な差は認められなかったが、0 週目における最大収縮時腟圧が10 cm H2Oに満たないような収縮力の弱いBF群の4 例は体操群の3 例と比較して、最大収縮時腟圧が大きく改善する傾向を示した。介入終了から1 年後において、尿失禁手術を実施していた女性は体操群では50%、BF群では31%であった。手術群(n = 16)と非手術群(n = 23)の2 変量解析の結果、「尿失禁罹患期間」、介入開始時における「睡眠・活力」、介入終了時における「心の問題」、及び「自覚的重症度」、介入による「社会的活動の制限」、及び「最大収縮時腟圧」の変化量に有意差が認められた。【考察】骨盤底筋体操は骨盤底筋群の筋力増強を促し,自覚的な尿失禁症状を改善させ,QOLの向上を図ることができる有効な治療法であることが示唆された。骨盤底筋体操にバイオフィードバック療法を併用することによる加算効果は認められなかったが、骨盤底筋群の収縮力が弱い症例についてはバイオフィードバック療法の良い適応となることが推測された。介入終了から1 年間で手術を実施していた女性の割合は先行研究と同様の傾向を示した。尿失禁手術の実施に関連する因子として「尿失禁罹患期間」や介入終了時における「心の問題」が挙げられたことから、より早期から介入を開始することが必要であり、心理面へのアプローチも重要であることが考えられた。また、介入開始時における「睡眠・活力」や介入終了時における「自覚的重症度」がより軽度であり、介入によって「最大収縮時腟圧」や「社会的活動の制限」がより大きく改善した女性では手術を回避できる傾向にあることが明らかになった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は腹圧性尿失禁に対する理学療法の有用性を示すエビデンスを提供するものである。さらに、尿失禁手術の実施に関連する因子を検討したことによって、より適切な治療方法の選択が可能となるものと考える。
  • 貴嶋 芳文, 木山 良二, 大重 匡, 前田 哲男, 湯地 忠彦, 東 祐二, 藤元 登四郎, 関根 正樹, 田村 俊世
    セッションID: A-S-05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳卒中片麻痺者の歩行能力向上には,十分な歩行機会の確保が必要であり,早期に自立歩行を獲得することが重要である.歩行中の加速度に関する研究は,腰部の加速度に着目したものが多く,下肢の加速度を含めた研究が少ないため,どの部位の加速度を用いるのが妥当か明らかになっていない.また,脳卒中片麻痺患者の歩行自立度は麻痺の程度や,麻痺側・非麻痺側の下肢機能などにより歩行自立度に関与する要因が異なることが推測される.そこで,本研究の目的は片麻痺患者の歩行中の腰部および大腿部の加速度と,歩行自立度との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は,脳卒中片麻痺者43 名(Br. Stage IV25 名,Br. Stage V18 名,右片麻痺21 名,左片麻痺22 名,男性25 名,女性18 名,平均年齢64 ± 15 歳)であった.Br. Stage IVは,25 名中11 名が歩行自立群,14 名が歩行非自立群であり,Br. Stage Vは,18名中10 名が歩行自立群,8 名が歩行非自立群であった.加速度センサは,対象者の腰部と両大腿部にそれぞれベルクロを用いて装着した.対象者は,室内16mの直進路を快適速度で歩行し,中央10mを解析対象区間とした.10m解析区間から定常状態である中央の3歩行周期を抽出し,10m歩行速度,腰部と両大腿部の加速度のRoot Mean Square( 以下RMS),自己相関係数,中央周波数を算出した.歩行自立群と非自立群の比較に,対応のないt検定を用いた.歩行自立度に関する要因を解析するため,歩行の自立度を従属変数,腰部と両大腿部の加速度のRMS,自己相関係数を独立変数とし,尤度比の変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を行った.すべての統計解析は,SPSS 17.0J,(SPSS Japan)を用い,統計学的な有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本計測の際には,当該施設の倫理委員会の承認並びに対象者自身からのインフォームドコンセントを得た後,実施した.【結果】自立群と非自立群の比較では,歩行速度において,Br. Stage IV,Vともに,自立群で有意に速く,自己相関係数の比較では,Br. Stage IVでは非麻痺側大腿部の上下成分を除く,すべての加速度において有意な差を認め,自立群で高い値を示し,Vではいずれも有意な差を認めなかった.RMSの比較では,Br. StageIVでは腰部前後成分,非麻痺側大腿部左右成分および上下成分で有意に高い値を示したが,その他の腰部と麻痺側大腿部の加速度では有意な差は認めなかった.Vでは腰部と両側大腿部すべての加速度で有意な差を認め,自立群で高い値を示した.多重ロジスティック回帰分析では,独立変数を腰部加速度のみとした場合, Br. Stage IVでは要因として,腰部前後自己相関係数,腰部前後加速度RMSが採用され,判定的中率92.0%であり,Vでは要因として,腰部上下加速度RMSが採用され,判定的中率66.7%であった.一方,腰部と両大腿部の加速度を含む変数では,Br. Stage IVでは要因として,非麻痺側大腿部前後自己相関係数が採用され,判定的中率90.9%であり,Vでは要因として,麻痺側大腿部上下加速度RMSが採用され,判定的中率88.9%であった.【考察】今回の結果では,多重ロジスティック回帰分析の結果,腰部と大腿部の加速度により,歩行の自立度が判定可能であった.また麻痺の程度により歩行自立度に関与する要因が異なること,腰部の加速度だけではなく,大腿部の加速度を含めた分析が有用であることが示唆された.麻痺が重度であるBr. Stage IVの自立群では,歩行の定常性を高めて歩行の安定性を得ているのに対し,Br. Stage Vの自立群については,麻痺側下肢の機能向上に伴い,歩行の定常性が低下しても修正可能な身体機能を持っているため,加速度の定常性よりも大きさが重要な因子になると考えられた.歩行自立度の要因分析を,腰部の加速度のみを独立変数とした場合と,腰部と大腿部の両方の加速度を独立変数とした結果,腰部と大腿部の両方を含めた分析では,いずれも大腿部の加速度が採用された.腰部の加速度は,両側下肢により制御されるため,左右それぞれの下肢機能を十分に反映していない可能性があると考えられる.片麻痺患者のように左右の下肢機能の差が著しい症例を対象に,加速度センサを用い,歩行分析する際には,腰部だけでなく,大腿部にも加速度センサを装着することで,より信頼性の高い,詳細な分析が可能と考える.【理学療法学研究としての意義】先行研究による歩行分析は,腰部加速度センサを使用したものが多く報告されているが,本研究により腰部加速度センサのみでなく大腿部加速度センサを用いることで,脳卒中片麻痺歩行において腰部加速度,大腿部加速度からBr. Stage IVとBr. Stage Vのそれぞれの歩行自立度要因を解析する事が可能で,客観的で定量的な歩行評価指標となる事が示唆された.今後は,臨床場面での歩行評価や治療効果判定指標となる可能性がある.
  • 大西 秀明, 菅原 和広, 山代 幸哉, 佐藤 大輔, 鈴木 誠, 桐本 光, 田巻 弘之, 村上 博淳, 亀山 茂樹
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】体性感覚刺激時に脳活動を脳磁計で計測すると「体性感覚誘発脳磁場(Somatosensory evoked magnetic fields: SEF)」が観察される.正中神経などを電気刺激した際に得られるSEF波形と刺激強度や刺激周波数との関係については明らかにされているが(Nagamine, 1998),機械的触覚刺激によるSEFについての報告は少なく(Forss, 1994; Onishi, 2011),刺激強度や刺激周波数,刺激の空間的間隔の違いが脳活動にどのような影響を与えているのか不明である.電気刺激による体性感覚刺激は非日常的な刺激であり,通常の日常生活においては機械的刺激などによる皮膚変形が末梢神経を興奮させることが多い.そこで,本研究では,機械的触覚刺激時における刺激ピンの空間的間隔と脳磁界反応との関係を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は健常成人男性10 名(28.1 ± 7.9 歳)であった.SEFの計測には306ch脳磁計(Vectorview)を利用し,機械的触覚刺激には小さなピンが突出する刺激装置(T1-1101,KGS)を利用した.機械的刺激のピン径は1.3 mm,ピン突出長は0.7 mmである.刺激ピン数は2 本として,2 本のピン間隔を2.4 mm,4.8 mm,7.2mmの3 条件に設定した.また,刺激提示時間は1 ms,刺激周波数は1.4 Hzから1.5 Hzに設定し,刺激部位を右示指先端とした.3 条件のピン間隔をランダムに提示し,それぞれのピン間隔で200回以上の波形を加算平均した.誘発された磁界波形から,電流発生源(ECD)およびECDモーメント(皮質活動量)を算出した.解析にはマルチダイポール解析ソフト(BESA5.3)を利用した.さらに,機械的触覚刺激によるSEF と電気刺激によるSEFを比較するためにリング電極を利用して右示指先端の電気刺激(0.2ms持続時間,1.5 Hz,3 mA・6 mA強度)を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本実験を実施するにあたり所属機関の倫理委員会にて承認を得た.また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た.【結果】機械的触覚刺激時のSEF波形は,刺激後29 ms(N20m成分),55 ms(P35m成分),125 ms(N120m成分)にピークを示し,ピン間隔の違いによるピーク潜時に有意な差は認められなかった.各条件でのECDモーメントを比較すると,刺激後29 msでは3.1 nAm(2.4 mm条件),3.5 nAm(4.8 mm条件),3.8 nAm(7.2 mm条件)であり有意な差は認められなかった.一方,刺激後55 ms付近では8.6 nAm(2.4 mm条件),9.8 nAm(4.8 mm条件),10.4 nAm(7.2 mm条件)であり,2.4 mm条件に比べて7.2 mm条件では有意に大きな値を示した(p < 0.01).また,刺激後125 ms付近では6.7 nAm(2.4 mm),7.6 nAm(4.8 mm),9.0 nAm(7.2 mm)であり,2.4 mm条件に比べて7.2 mm条件では有意に大きな値を示した(p < 0.05).電気刺激による感覚閾値は2.2 ± 0.3 mAであった.電気刺激によるSEF波形のピークは25 ms(N20m成分),42 ms(P35m成分),72 ms(P60m成分),128 ms(N120m成分)であり,3 mA刺激と6mA刺激でピーク潜時に有意な差は認められなかった.ECDモーメントをみると,25 msでは6.4 nAm(6 mA)と3.9 mA (3 mA),42 msでは6.5 nAm(6 mA)と3.2 nAm(3mA)であり,どちらも6 mAで有意に高い値を示した(p < 0.05).72 msでは6.9 nAm(6 mA)と4.9 nAm(3 mA)であり有意な差は認められなかったが,128 msでは8.1 nAm(6 mA)と5.3 nAm(3 mA)であり,6 mAで有意に高い値を示した(p < 0.05).また,機械的刺激時のN20m成分およびP35mのピーク潜時は電気刺激時のピーク潜時よりも有意に遅延していた(p < 0.01).【考察】リング電極を利用した皮膚電気刺激によるSEFは,正中神経刺激時に得られるN20m成分,P35m成分,P60m成分,およびN120m成分と同様の成分が観察されたと考えられる.また,電気刺激強度が半減することにより,N20m成分とP35m成分が半減することが明らかになった.機械的触覚刺激時には,N20m成分およびP35m成分のピーク潜時が電気刺激より遅い結果となった.これは,Hashimotoら(1987)が報告しているように機械的刺激により皮膚が変形してから各種感覚受容器が興奮するまでに要する時間だと考えられる.また,刺激ピン数が同じであるにもかかわらず,2 本の刺激ピンの距離が広がることにより皮質活動が増大することが明らかになった.これは,触圧覚受容器の密度が影響していると考えられ,ピン間隔2.4 mmに比べて,7.2 mmで刺激される受容器数が多いことを反映していると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究結果は表在感覚機能評価の評価基準を作成するための一助になると考えられる.【謝辞】本研究は,文部科学省科学研究費補助金基盤(B)および新潟医療福祉大学研究奨励金(発展的研究)の助成を受けて行われた.
  • 瀧 昌也, 谷本 正智, 洞口 幹也, 中村 未央, 宮澤 裕輝
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】人の行為は、環境と相互作用することによって生まれ、学習あるいは適応していく。その学習とは、内的世界と外的世界を統合しながら、内的世界を修正し更新していく過程を示す。そして、運動は身体と環境との相互作用に意味を与える必要な情報を生成すると言われている。過去の知覚経験が内部モデルとして蓄積され、運動を発現しなくても運動を準備すれば期待される運動感覚が脳内で生成される。また、一次体性感覚野は一次運動野・運動前野・補足運動野にも情報を与え、運動プログラムの形成、運動の選択に関与している。一次体性感覚野の発火は、運動に先行して発火するニューロンも発見されており、運動時の構えとしての活動と考えられている。これらのことから、知覚学習は運動の準備・構えを作り出し、次なる運動に影響を与えるものと考える。我々は、刺激に対する予測、期待、注意、運動の準備などの高次の準備過程を評価する随伴陰性変動(contingent negative variation:CNV)を指標として、知覚学習の違いが脳内に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】対象者は、健常成人8 名(男性5 名、女性3 名)、平均年齢23 ± 1 歳、非利き手は左であった。被験者は環境温度25℃に空調された防音防電室内のリクライニング車椅子に腰掛け、CNVの記録は日本光電社製NeuroPackMEB5500 を用いた。脳波用皿電極を国際10-20 法に基づいて、Fz、Cz、Pzの頭皮上に貼付し、基準電極は両耳朶連結、電極間インピーダンスは5kΩとした。画面から発光される予告刺激(S1)の2 秒後、ヘッドホンから呈示される命令刺激(S2)を与え、被験者にはS2 刺激後できるだけ素早く正確に水の入ったコップを非利き手で持ち上げるよう指示し、反応を記録するため長橈側手根伸筋の筋電図を測定した。課題を行う前に、被験者は非利き手にてコップの形状についての知覚学習を1 分間× 2回行った。知覚学習後、「どのように知覚したか」の問いに対して内省報告させる群(内省群4 名)と内省報告させない群(非内省群4 名)に分け、比較検討した。CNVは30 回の加算平均処理を行いS1 前12pointの平均電位を基線として、P300 はS1 後200 〜500msの間の最大の陽性頂点電位、後期CNVはS1 後1000ms〜2000ms間の面積を求めた。EMG-RTは、原波形・全整流波形の筋放電が増大した点を視覚的に判断し記録した。なお、記録において30 μV以上の電位が存在した場合はアーチファクトとして除外した。【倫理的配慮、説明と同意】当実験は所属機関の倫理委員会の承認を得て行われた。被験者には実験の主旨を説明し、書面にて同意を得てから行った。【結果】P300 振幅は非内省群よりも内省群で増大し、Pzの振幅が他の導出部位より大きな値を示した。後期CNV面積はFz、Czで内省群が増大し、Czで大きな値を示した。EMG-RTは、非内省群よりも内省群で短縮した。【考察】P300、後期CNVは内省群で増大し、EMG-RTも内省群で短縮が認められた。P300 は認知文脈更新の過程に反映していると考えられ、頭皮上では正中線上の頭頂部で最大の振幅を示すことが明らかにされており、頭頂部優位に出現する同様の分布を示した。言語教示においてレトリック言語は、自らの身体を主体とした運動イメージを想起させやすく、高次運動領域の活性化の増加が認められたとの報告がある。また、形容詞表現は上肢運動制御において運動計画に影響することが報告されており、知覚学習後の内省報告は、知覚経験を言語化することにより環境に対する運動感覚の想起、次の課題に備える認知文脈更新過程を促通させたと推察される。後期CNVは、両側の前頭前野、運動前野、補足運動野の広範な皮質領野におけるS2 に対する期待や運動反応に対する準備状態を反映していると考えられている。前頭前野、運動前野、補足運動野は運動学習に関与する場所ともされており、内省報告を行うことにより後期CNVが増大したことは、前頭前野、運動前野、補足運動野が賦活され運動を行う前の準備状態・構えを強固に作り出し、知覚経験の言語化は運動を学習する際の有効な手段だと考えられる。【理学療法学研究としての意義】随伴陰性変動を指標として知覚学習の違いが、脳内に及ぼす影響を明らかにし、知覚経験の言語化は運動の準備・構えに影響を与えることが推察された。運動の準備・構えが生成されることにより、効率の良い身体運動・運動学習ができるものと考える。
  • 苅田 哲也, 松浦 晃宏, 近藤 至宏, 富村 宏太, 仲田 奈生, 森 大志
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年の経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)を使用した非侵襲的研究により,長期の関節固定は筋力低下や関節拘縮だけでなく,大脳皮質運動野の機能的変化も生じさせることが示唆されている。運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)は大脳皮質運動野の機能的変化を評価する指標の一つであり,長期固定後には皮質興奮性が増強するという報告が多くみられる。一方,短期の関節固定によって生じる皮質興奮性変化のタイミングやその程度,固定除去後の回復過程については十分に明らかにされていない。そこで,今回の研究では24 時間の関節固定によるMEP変化を観察し,短期的な経時的変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健康な成人10名(男性7名,女性3名)で,年齢は22-35歳(平均26.5±4.2)であった。ギプス固定期間は24時間とし,固定は非利き手側の前腕1/2 遠位より手指まで行った。測定肢位は椅子座位とし,両上肢は昇降式テーブルに乗せ前腕は中間位,肘関節は90°屈曲位となるよう調節した。各測定項目をギプス固定前・固定中・固定後に実施した。測定項目は,MEP振幅の他,筋出力の評価としてピンチの最大筋力とピンチ筋力測定中の表面筋電図(electromyogram:EMG)を実施した。これらの項目を固定前安静時(Pre)と固定直後(post0),post0 から3 時間置きに計測した(post3-12)。post12 から固定後24 時間(post24)の間は12 時間とした。24 時間後に固定を除去し,除去直後(remove0)から1 時間置きに5 時間後まで計測した(remove1・2・3・4・5)。固定期間中はTMSによりMEPのみを計測した。さらに,非固定側でも同様の手順で測定した。各測定中のEMGを短母指屈筋(Flexor pollicisbrevis muscle:FPB)から記録した。TMS刺激の最適部位はFPBからの応答が最も大きい部位とし,TMSを10 回加えて,MEP振幅が50%以上の確率で50 μVを超えて誘発される最低の刺激強度を運動閾値(motor threshold : MT)とした。MEPは120%MTの刺激強度で誘発された20 波形の加算平均波形からpeak to peakの振幅を求めた。得られたMEP,EMG,ピンチ筋力について,測定時間ごとに平均しpreに対する割合(%)を算出した。さらに,各測定項目をそれぞれの測定時間を要因とした一元配置分散分析を行い,多重比較にはFisherのPLSD法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究の実施については大山リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行い,全ての被験者に実験内容を説明し書面にて同意を得た。【結果】MEPについて測定時間を要因とした一元配置分散分析の結果より,有意差を認めた(F=3.993,p<0.0001)。多重比較において,preと比較してpost3 からremove2 まで有意に振幅の低下を認めた(post3・6:p<0.05,post9:p<0.01,post12・24:p<0.001,remove0:p<0.001,remove1・2:p<0.05)。Post12 とpost24 の間に有意差はないが,MEP振幅はpost12 で最低となった。その後,段階的に増加を示し,remove3 で有意差がなくなりremove4 でpreまで回復した。非固定側については有意差を認めなかった(F=0.577,p=0.8557)。ピンチ筋力はpreと比較してremove0 で有意に低下を認めた(p<0.01)。非固定側のピンチ筋力および両側のEMGは,測定時間の間に有意差を認めなかった。【考察】今回の結果は,固定開始後3 時間でMEP振幅の有意な低下を示し,固定期間中低下を続けることを明らかにした。そしてこの効果は固定除去3 時間で消失した。これまでの関節固定による皮質興奮性を調べた研究では,様々な興奮性の変化を示しているが,この結果から短時間の関節固定により皮質興奮性は低下し,短時間で回復することが示された。また,24時間の固定除去直後にピンチ筋力が減少することについては,MEP振幅の回復と類似していることからも,皮質興奮性の低下や筋出力の減少によるものが考えられた。皮質興奮性の低下はギプス固定による末梢からの感覚情報の入力の減少によるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果から,ギプス固定開始後3 時間で大脳皮質運動野の興奮性低下が生じており,皮質運動野機能は極めて柔軟性が高いことが示唆された。皮質興奮性低下がパフォーマンスに影響するという研究もあることから,当然ながらリハビリテーションは早期から介入すべきである。その際,中枢神経系機能を維持するためには,絶え間ないかつ十分な固有知覚を含めた感覚情報が重要な意義を有している可能性がある。
  • 前田 和平, 山口 智史, 立本 将士, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平, 田中 悟志
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに、目的】経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は,頭蓋上の電極から微弱な電流を流し,電極直下の大脳皮質の興奮性を非侵襲的に修飾することができる手法である.我々の研究グループは,1)陽極電極を下肢一次運動野へ貼付することで,前脛骨筋の運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)が増大すること(Tatemoto et al,2012),2)健常者と脳卒中患者において,下肢一次運動野への陽極刺激により足指挟力や膝関節伸展筋力が向上すること(Tanaka et al,2009,2011)を報告した.筋力と一次運動皮質神経細胞の発火頻度には正の相関があることが動物実験の成果から知られているため(Hepp-Reymond et al,1978),tDCSによる筋力増強には運動皮質興奮性の増大が関与している可能性があるが,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性と下肢筋力の変化を同時に計測し,その関係は調べた報告はない.本研究では,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大は,下肢筋力の向上と相関するという仮説を検証するため,tDCS介入前後のMEPと下肢筋力を測定し,その関連性を検討した.【方法】対象は健常成人8 名(男性5 名女性3 名,平均年齢24.1 ± 1.5 歳)とした.実験デザインは二重盲検法を用い,対象者および評価者(計測とデータ解析)には介入条件の情報をブラインドした.介入は,下肢一次運動野への陽極刺激と偽刺激の2 条件とした.陽極刺激は,刺激強度を2mAとし,10 分間刺激を行った.偽刺激は,最初の15 秒間のみ刺激した.刺激電極は,右下肢一次運動野(25cm2)と左上腕近位部(50cm2)に貼付した.電極貼付のために,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation: TMS)を用い,左前脛骨筋の最大MEP振幅が得られる部位を右下肢一次運動野とした.対象者は,両介入条件を3 日以上あけてランダムに実施した.評価項目は,皮質脊髄路の興奮性と下肢筋力とした.皮質脊髄路の興奮性は,TMSによるMEPで評価した.MEPは,左前脛骨筋から記録した.TMSは,MAGSTIM-200(MAGSTIM社製)とダブルコーンコイルを用いた.刺激強度は,安静時閾値の120%とした.安静時閾値は,50 μVの波形が10 回中5 回で出現する強度とした.評価は,介入前と介入直後,介入後30 分に実施した.MEPは,評価毎に10 発誘発し,各波形の最大振幅値を算出し平均値を求めた.下肢筋力は,徒手筋力計(酒井医療社製)を用いて,左膝関節の最大伸展筋力を計測した.被験者は端座位で膝関節90 度とし,上肢は胸の前で組むように指示した.その後,最大随意収縮を5 秒間保持させ,3 回測定した.解析データは,3 回計測の平均値を用いた.測定には,疲労を考慮し30 秒間以上の休憩を設けた.評価は介入前,介入直後,介入後30 分に実施した.データ解析は,MEPおよび下肢筋力で,介入前の値を基準とした割合で比較した.統計解析は,陽極刺激ではMEPが増大し,下肢筋力が向上するという仮説を検証するため,介入直後と介入後30 分それぞれで,陽極刺激条件と偽刺激条件の平均値を対応のあるt検定で比較した.また,介入直後および介入後30 分のMEPと下肢最大筋力の関係をPearsonの相関係数を用いて検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後,全対象者に研究内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】陽極刺激条件では,MEPが介入直後1.28 ± 0.46(平均値±標準偏差),介入後30 分1.43 ± 0.57 で,下肢筋力は介入直後1.08±0.10,介入後30分1.10±0.15であった.偽刺激条件では,MEPは介入直後0.78±0.14,介入後30分0.80±0.19で,下肢筋力は介入直後0.95 ± 0.07,介入後30 分0.92 ± 0.08 であった.陽極刺激条件では,偽刺激条件と比較し,介入直後および介入後30 分で,有意なMEPの差を認めた(p<0.05).また,下肢筋力においても,陽極刺激条件で,陰極刺激条件と比較し,介入直後および介入後30 分に下肢筋力の有意な差を認めた(p<0.05).MEPと下肢筋力の相関係数は,0.59(p<0.05)で有意な正の相関を認めた.【考察】今回の結果は,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大は,下肢筋力の向上と正の相関をするという仮説を支持するものであった.これまでに,随意運動の増大に伴った皮質脊髄路の興奮性増大の関係は広く知られている(Booth et al,1991).一方で,tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大が下肢筋力の向上と関連することは検証されていなかった.これらの知見は,陽極tDCSを用いた下肢筋力向上を目的としたリハビリテーションの効果メカニズムとして,tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大が関係することを示す証拠になると考えられる.【理学療法学研究としての意義】脳刺激法をリハビリテーションに応用するために,tDCSの有効性を示す基礎的知見として意義があると考えられる.
  • 大場 千尋, 石河 直樹, 小川 未有, 荻野 実歩子, 千葉 大地, 山口 真輝, 城 由起子, 松原 貴子
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】慢性痛に対する歩行や自転車駆動などの有酸素運動は疼痛関連症状を改善すると報告されており,Sogaardら(2011)は慢性頚肩痛に対する自転車下肢駆動運動が僧帽筋の血流を改善し疼痛を軽減したと報告している。一方,運動は末梢レベルでの生理的反応を惹起するのみでなく,運動野や運動前野を賦活し,視床下部や前頭前野を介して下行性疼痛抑制系に作用する可能性が示されている(Ahmed 2011,Niji 2012)。このように運動による疼痛制御には運動野の賦活が重要な因子であると考えられる。また,運動野は実際の運動を伴わない運動観察や運動イメージによっても賦活されることが知られている(Buccino 2004)。しかしながら,運動観察や運動イメージによる疼痛抑制効果を調べた報告はほとんどない。一方,運動により視床下部や交感神経が賦活することやノルアドレナリンが疼痛抑制に関与することから交感神経活動は運動による疼痛制御機能の指標となりうると考えられる。そこで今回,実際の運動ならびに運動イメージによる疼痛抑制効果を痛覚感受性,交感神経活動および筋血液循環動態を指標として調べ比較した。【方法】対象は,健常若年男性37 名(年齢21.2 ± 0.5 歳)とし,実際に運動を行う運動群20 名と運動イメージのみを行うイメージ群17 名に無作為に分類した。運動群は,自転車エルゴメータによる下肢駆動運動を強度50W(3METs)で20 分間行った。イメージ群は,他人が下肢駆動運動を実際に行っている姿を観察しながら,自分が運動しているイメージングを20 分間行った。なお,介入前後15 分を閉眼で安静座位とした。測定項目は,僧帽筋の圧痛耐性値(PPT),心拍変動(HRV)および僧帽筋血液循環動態とした。PPTはデジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用い,介入前,介入中(介入開始10分後),介入終了直後および15 分後に測定した。HRVは携帯型心拍変動記録装置(AC-301A,GMS)を用いて心電図を実験中経時的に測定し,心拍数,および心電図R-R間隔の周波数解析から低周波数成分(LF:0.04 〜0.15Hz)と高周波数成分(HF:0.15 〜0.4Hz)の比(LF/HF)を算出し,交感神経活動の指標とした。血液循環動態は近赤外線分光装置(NIRO-200,浜松ホトニクス)を用い,酸素化ヘモグロビン(O2Hb),脱酸素化ヘモグロビン(HHb)および総ヘモグロビン(THb)濃度変化量を実験中経時的に測定した。統計学的解析は,経時的変化はFriedman検定および多重比較検定,群間比較はMann Whitney検定を用い,有意水準を5%とした。なお,血液循環動態はeffect sizeを算出し群間比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,「名古屋学院大学医学研究倫理委員会」の承認を得て行った。対象者には研究内容,安全対策,個人情報保護,研究への同意と撤回について書面にて説明し,同意を得た上で実験を行った。また,実験に際しては安全対策を徹底し,測定データを含めた個人情報の保護に努めた。【結果】PPTは,両群とも介入前に比べ介入中と終了直後に有意な上昇を示した。心拍数は,運動群で介入前に比べ介入中と終了直後に有意な上昇を示したのに対し,イメージ群は変化せず,また群間比較においても介入中と終了直後に運動群で有意な高値を示した。LF/HFは,介入前に比べ運動群で終了直後,イメージ群では介入中と終了直後に有意な上昇を示し,群間で差は認めなかった。O2HbとTHbは,運動群で介入前に比べ終了直後に有意な上昇を示したのに対し,イメージ群は変化しなかった。群間比較では,O2Hbは終了直後と15 分後,THbは終了直後に運動群で有意な高値を示した。HHbは両群とも変化しなかった。【考察】実際の運動のみでなく運動イメージによっても痛覚感受性は低下し,また生理的な交感神経活動が誘起された。一方,心拍数および僧帽筋の血液供給量は運動により増加したのに対し,運動イメージでは変化を認めなかった。これらのことから,運動イメージは視床下部や自律神経系を介する疼痛制御機能に作用したと考えられた。また運動による疼痛制御は末梢での生理的反応によるものよりも,運動野や運動前野を含む中枢性のsensory-motor systemsを介した神経性疼痛制御の修飾が関与している可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】運動による疼痛制御に中枢性の疼痛制御システムが関与している可能性が示されたことは,疼痛に対するニューロリハビリテーションを行う上で非常に意義深い。また,運動イメージにより疼痛抑制効果が得られたことから,運動の実施が困難な症例に対する疼痛マネジメントとして運動イメージは有効な方法となりうる。
  • 島田 裕之, 牧迫 飛雄馬, 土井 剛彦, 吉田 大輔, 堤本 広大, 阿南 祐也, 上村 一貴, 伊藤 忠, 朴 眩泰, 李 相侖, 鈴木 ...
    セッションID: A-S-06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor: BDNF)は、標的細胞表面上にある特異的受容体TrkBに結合し、神経細胞の発生、成長、修復に作用し、学習や記憶において重要な働きをする神経系の液性蛋白質である。BDNFの発現量はうつ病やアルツハイマー病患者において減少し、運動により増加することが明らかとなっている。血清BDNFは主に脳におけるBDNF発現を反映していると考えられているが、その役割や意義は明らかとされていない。この役割を明らかにすることで、理学療法における運動療法が脳機能を向上させる機序をBDNFから説明することが可能となる。本研究では、高齢者を対象に血清BDNFを測定し、その加齢変化や認知機能との関連を検討し、血清BDNFが果たす役割を検討した。【方法】分析に用いたデータは、国立長寿医療研究センターが2011 年8 月〜2012 年2 月に実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)によるものである。全対象者は5,104 名であり、BDNFの測定が可能であった対象者は5,021 名であった。アルツハイマー病、うつ病、パーキンソン病、脳卒中の既往歴を有する者、要介護認定を受けていた者、基本的日常生活動作が自立していない者を除外した65 歳以上の地域在住高齢者4,539 名(平均年齢71.9 ± 5.4 歳、女性2,313 名、男性2,226名)を分析対象とした。血清BDNFは−80 度にて冷凍保存後ELISA法により2 回測定し、平均値を代表値とした。認知機能検査はNCGG-FATを用いて実施した。記憶検査として単語の遅延再生と物語の遅延再認、遂行機能として改訂版trail making test B(TMT)とsymbol digit substitution task(SDST)を測定した。分析は、5 歳階級毎に対象者を分割し年代間のBDNFの差を一元配置分散分析および多重比較検定にて比較した。BDNFと認知機能検査の関連を検討するため、認知機能低下の有無で対象者を分類し、t検定にてBDNFを比較した。認知機能の低下は、年代別平均値から1.5 標準偏差を除した値をカットポイントとした。また、認知機能に影響する年齢、性別、教育年数を含んだ多重ロジスティック回帰分析を実施した。従属変数は認知機能低下の有無とし、独立変数は年齢、性別、教育年数、BDNFとした。BDNFはピコ単位での微量測定値であったため4 分位でカテゴリ化して分析を実施した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で、ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】年齢階級別のBDNF(平均 ± 標準誤差)は、65 〜69 歳が21.8 ± 0.1 ng / ml、70 〜74 歳が20.9 ± 0.1 ng / ml、75 〜79 歳が20.5 ± 0.2 ng / ml、80 歳以上が19.6 ± 0.3 ng / mlとなり、加齢とともに有意な低下を認めた(F = 24.8, p < 0.01)。多重比較検定の結果、70 〜74 歳と75 〜79 歳間以外の比較では、すべて有意差を認めた。認知機能低下の有無によるBDNFの比較では、単語再生、TMT、SDST(すべてp < 0.01)において有意に認知機能低下者のBDNFが低値を示した。多重ロジスティック回帰分析では、BDNFはSDSTと有意なトレンドを認め(p < 0.01)、Q(4 24,400 pg / ml)に対してQ(1 17,400 pg / ml)のSDST低下に対するオッズ比は1.6(95%信頼区間: 1.2-2.2, p < 0.01)であった。その他の項目に有意差は認められなかった。【考察】PhillipsらはBDNFmRNAがアルツハイマー病患者の海馬において減少していることを明らかとし、BDNFの減少が病態成立に対して何らかの役割を持つと報告した。運動の実施は海馬におけるBDNFやTrkB受容体の発現量を上昇させることが明らかにされている。また、Eriksonらは1 年間の有酸素運動が海馬の容量を増加させ、その変化量と血中BDNFは正の相関をすることを明らかにした。しかし、血中BDNFの研究は少なく、加齢変化や認知機能との関連性は十分明らかとされていなかった。本研究の結果から、血清BDNFは加齢とともに低下を示し、各種認知機能低下との関連を認めた。とくにSDSTとは、年齢、性別、教育年数と独立して関連を認めたため、記憶以外の機能に関してBDNFが何らかの役割を持つのかもしれない。今後は介入前後のBDNFの変化と各種認知機能の変化との関連を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後の日本の後期高齢者数の増大は、認知症者の増大を引き起こし、その根治的治療法がない現時点において、運動による予防対策は重要である。理学療法士は、その対策の中核的存在になるべきであり、運動と脳機能改善に関連する知見を集積することは理学療法にとって重要な役割を持つといえる。
  • 島村 亮太, 高柳 清美, 金村 尚彦, 国分 貴徳, 安彦 鉄平, 安彦 陽子
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢者の転倒の特徴として,姿勢や動作時の過渡期にバランスを崩すことがあげられる.なかでも歩行開始動作(gait initiation,GI)は,静止立位から歩き始める動作であるため,姿勢の変化が起こりバランスを崩しやすい動作である.GIにおける過去の報告では,高齢者は下肢の運動戦略が変化することにより,若年者と比較してバランスが低下し転倒のリスクが高い動作であると示唆された.臨床において動作を評価する際には,下肢だけでなく体幹を含めた身体全体の運動戦略の評価をすることが重要である.特に,体幹の質量は大きいため,GIにおいては体幹の運動が身体質量中心の前方移動に影響を及ぼすことが予想され,下肢だけではなく体幹も含めて分析する必要があると考える.しかし,GIの分析では体幹の運動を明らかにした報告は皆無である.本研究の目的は,GIにおいて身体の矢状面上における運動戦略を分析し,若年者と高齢者の違いを明らかにすることである.【方法】対象は,中枢神経疾患の既往がなく,過去1 年間にわたり転倒経験がなく,屋外歩行とADLが自立している若年者14 名(男性9 名,女性5 名),高齢者12 名(男性8 名,女性4 名).若年者の年齢は21.1 ± 0.7 歳(平均±標準偏差),身長は169.3 ± 8.8cm,体重は60.0 ± 7.5kgであり,高齢者の年齢は70.0 ± 4.9 歳,身長は158.7 ± 9.5cm,体重は56.8 ± 11.9kgであった。GIの開始肢位は,2 枚の床反力計の上に左右各々の足部をのせた立位姿勢とし,両足部は裸足で足幅は肩幅とした.立位中は前方を見るようにし,上肢は体側においた.課題動作は立位姿勢からのGIとし,ビープ音の合図を動作の開始として,右足を一歩踏み出し,そのまま3m歩行させた.課題は被験者の感じる自由速度と最大速度の2 条件で行った.課題の順番はランダムとし,それぞれ3 回の計測を行った.GIの運動学的データと運動力学的データは,6 台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析システムと4 枚の床反力計を使用して求めた.GIを足圧中心が1 歩目遊脚側の下肢へ,最大に外側移動する時期(mediolatelal max COP,MLmaxCOP),1 歩目遊脚側の足部が離地し,床反力垂直成分が0 となる時期(toe off,TO),1 歩目遊脚側の足部が再接地し,床反力垂直成分が発生する時期(initial contact,IC)の3 つの時期に分類した.各時期において,Vicon Body Builderを用いて矢状面上での体幹と左右下肢の関節角度,身体質量中心と足圧中心の間の距離,歩幅を算出し,3 回の計測で得られたデータの平均値を代表値とした.各被験者内における速度間での比較には,対応のあるt-検定を使用した.なお,有意水準は5%未満とした.すべての解析には,SPSS17.0 J for Windowsを使用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究に先立ち,埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科倫理委員会より承認(受付番号,第22704 号)を得て,口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した.【結果】若年者と高齢者は共に,GIの周期を通して身体質量中心と足圧中心の間の距離が,自由速度より最大速度で有意な増加が認められた.TOにおいて,若年者は体幹と胸部,腰部の伸展,骨盤の前傾,股関節と膝関節の屈曲,足関節の背屈に有意な増加が認められ,高齢者は体幹と腰部の伸展,膝関節の屈曲,足関節の背屈に有意な増加が認められた.ICにおいて,若年者は胸部と腰部の伸展,骨盤の前傾,股関節の伸展,膝関節の伸展,歩幅に有意な増加が認められ,高齢者は骨盤の前傾に有意な増加が認められた.【考察】若年者と高齢者は共に,速度が増加することでTOにかけて身体の前方への傾斜が増加したと考えられる.その際,若年者は体幹を伸展し,骨盤の前方移動を伴った姿勢で重心を前方に移動したと考えられる.しかし,高齢者は胸部の伸展の低下により体幹の伸展が不十分となり,骨盤の前方移動を伴わない前傾位で重心を前方に移動したと考えられる.若年者のGIではTOで十分な重心の前方移動が可能であったため,ICでは立脚側の股関節をより伸展位にすることができ,歩幅が増加したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】若年者と高齢者におけるGIの運動戦略を明らかにした.胸腰部の運動戦略が異なることによって,GIの能力に影響を及ぼす可能性が示唆された.下肢だけでなく体幹に対する理学療法介入によって,GIの運動戦略を変えることができるものと考えられる.
  • 越智 亮, 阿部 友和, 山田 和政, 建内 宏重, 市橋 則明
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】つまずき等の後,下肢の踏み出し反応(以下,ステップ)は転倒回避にとって重要である.これまで,ステップを実験的に誘発する方法によって,高齢者のステップの運動学的特徴が明らかにされてきた(Hsiao ET, 2008.).高齢者と若年者を対象とした先行研究では,踏み出し脚における下肢筋活動パターンも異なることが示され,高齢者のステップが若年者よりも機能的に劣ることが明らかにされている(Thelen DG et al, 2000).しかし,これまでのステップの先行研究は年齢差の報告のみであり,易転倒性のある高齢者の反応は調べられていない.本研究の目的は,転倒歴のある者とない者の前方転倒回避動作における踏み出し脚の筋活動パターンを比較し,転倒発生の要因を筋電図学的に明らかにすることである.【方法】歩行が自立している高齢女性29 名を対象とし,過去1 年以内の転倒歴の有無によって易転倒群12 名(以下,F群:Faller)と非転倒群17 名(以下,N群:Non-faller)に分けた(年齢,F群;84.5 ± 6.5 歳,N群;81.6 ± 3.8 歳).被験者に転倒防止ハーネスを装着し,踏み出し脚の足底にフットスイッチ,腰部背面とケーブル牽引機構の間にロードセルを取り付け,表面筋電計と同期させた.筋電図導出筋は,踏み出し脚の大腿直筋(以下,RF),外側広筋(以下,VL),大腿二頭筋(以下,BF),腓腹筋外側頭(以下,GC),前脛骨筋(以下,TA)とした.筋電計と同期させたビデオカメラによりステップ長を記録した.ステップ誘発は,被験者に牽引ケーブルで背部を牽引した(体重の20 ± 2%の牽引力)状態で身体を前傾させ,検査者が牽引を解き放った後に下肢を前に踏み出させる方法とした.得られた筋電図データを,以下の3 相に分けた:牽引解除から踏み出し脚踵離地まで(以下,Lift-off期),踏み出し脚踵離地から接地まで(以下,stepping期),踏み出し脚接地から0.5 秒後まで(以下,contact期).筋電図波形を整流化,50msRMSで平滑化,各筋の最大等尺性筋力で正規化(%MVC)した.ステップの3 相それぞれで各筋の平均筋活動量,大腿(RF-BF,VL-BF)と下腿(GC-TA)の同時活動指標(以下,co-contraction index:%CI)を算出した.運動学的データとしてステップ速度(m/s)を算出した.統計処理は,F群とN群の全てのデータについて対応のないt-検定を用いて比較した.また,2 群のデータ全てで,ステップ速度を目的変数,各筋の筋活動量と%CIを説明変数として,ステップワイズ重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理委員会にて承認を得た(承認番号E1479).被験者には十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】ステップ速度はF群1.46 ± 0.32 m/s,N群1.78 ± 0.43 m/sで有意にN群の方が速かった(p< 0.05).多くの筋活動パターンはF群とN群で類似していた.筋活動量の差は,stepping期のRF(F群49.2 ± 23.8%,N群33.7 ± 14.4%,p< 0.05)とBF(F 群36.8 ± 14.6%,N群24.4 ± 12.5%,p< 0.05)のみに認められた.%CIはstepping期のRF-BFがF群で有意に高かった(F 群65.0 ± 8.9%,N群57.0 ± 7.7%,p< 0.05).ステップ速度に関連する独立因子として,Lift-off期のGC筋活動量(r= 0.679, p< 0.01)とcontact期のGC筋活動量(r= 0.553,p< 0.01)が抽出された.【考察】ステップの遊脚期間におけるRFの活動は,股関節を屈曲させ,膝を伸展させることに働く.このとき,拮抗筋であるBF の活動は素早い膝の伸展を阻害する.F群はN群よりもRFとBFの筋活動量が多く,同時活動量も大きかったため,過剰な同時活動により踏み出し脚の円滑な膝の動きが困難になっている可能性がある.ステップ脚の踵離地前の足底屈筋の活動量が高い程,ステップ速度が速いことから,ステップ速度を高めるために脚踏み出し直前の足底屈筋による床面の蹴り出しが必要になると考えられる.ステップ脚接地後のGC活動は,ステップ速度と関連する接地時の足部に加わる衝撃力を反映していると考えられる.【理学療法学研究としての意義】易転倒高齢者の転倒回避動作は,下肢筋群の協調的な活動が円滑に行われていない.転倒回避動作に着眼した転倒予防トレーニングを考案する上で本研究内容は重要であると考える.
  • 三栖 翔吾, 浅井 剛, 土井 剛彦, 堤本 広大, 澤 龍一, 平田 総一郎, 小野 玲
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】高齢者は歩行速度を遅くすることで生活環境に適応している。例えば、不整地での歩行や考え事をしながらの歩行などにおいては、歩行速度を遅く調整していることが報告されている。このように、歩行速度を遅くする際にも歩行の安定性を維持することは、高齢者の歩行能力の中でも重要なものであると考えられる。しかし、高齢者の歩行に関する研究の多くは通常速度での歩行について検討したものであり、速度を遅くした際の歩行について検討したものはあまりみられない。高齢者の中でも身体機能が低下している者は、身体活動量の低下によりさらなる障害発生を生じる危険性が高く、理学療法の対象となることも多い。そのような高齢者においては、身体活動量の維持のためにも安定した歩行を行うことが非常に重要となる。そこで、本研究では歩行の安定性を示すとされる歩行のばらつきに着目し、目的を、身体機能が低下している高齢者が歩行速度を遅くした際の歩行のばらつきの変化は、身体機能が維持されている高齢者における変化と比較して異なるのかどうか検討することにより、身体機能が低下している高齢者の歩行能力の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象は、地域在住高齢者34 名 (平均年齢77.5 ± 8.4 歳、女性 19 名) であり、Short Physical Performance Battery (SPPB) の得点により、カットオフ値を10 点として、身体機能低下群および身体機能維持群の2 群に分けた。対象者は、3 軸加速度センサを内蔵する小型センサを踵部に装着し、Normal条件、Slow条件、Very Slow条件の3 種類の歩行速度条件にて歩行を行った。得られた各条件での加速度データより、歩行のばらつきを示す指標の一つであるstride時間の変動係数 (stride time variability: STV) を算出した。さらに、速度が遅くなればなるほど歩行のばらつきは大きくなることが明らかとなっているため、速度の変化量が歩行のばらつきの変化に及ぼす影響を取り除く目的で、単位速度変化あたりのSTV変化 (STV変化率; 条件間のSTV変化 / 条件間の歩行速度変化) を算出した。STV変化率は値が大きければ大きいほど、歩行速度を一定量遅くした際の歩行のばらつきの増大が大きいことを示す。統計解析は、条件間でのSTVの変化の程度が2 群間で差が生じているのか検討するために、Wilcoxon順位和検定を用いて群間比較を行った後、従属変数をSTV変化率、独立変数を身体機能 (身体機能維持群、身体機能低下群) および、年齢、性別、Mini-Mental State Examinationの得点とした重回帰分析を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施した。事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た者を対象者とし、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。【結果】対象者は、SPPBの得点より14 名の身体機能低下群 (平均年齢83.6 ± 5.8 歳、女性 10 名) と20 名の身体機能維持群 (平均年齢73.3 ± 7.2 歳、女性 9 名) に分けられ、身体機能低下群の方が有意に年齢は高かった。また、身体機能低下群は身体機能維持群に比べて、Slow条件とVery Slow条件間およびNormal条件とVery Slow条件間におけるSTV変化率が大きくなっていた (ともに p < 0.01)。重回帰分析の結果、全ての条件間のSTV変化率において身体機能との有意な関連性がみられた (Normal条件からSlow条件へのSTV変化率に対する身体機能の標準β = 0.57, p = 0.01、Slow条件からVery Slow条件へのSTV変化率に対する身体機能の標準β = 0.68、p < 0.01、Normal条件からVery Slow条件へのSTV変化率に対する身体機能の標準β = 0.85、p < 0.01)。【考察】本研究の結果より、身体機能低下群は身体機能維持群に比べ、歩行速度を遅くした際のSTVの増大が大きくなることが示唆された。つまり、身体機能が低下している高齢者が歩行速度を遅くすると、歩行のばらつきが大きく増大し、歩行が急激に不安定となることが明らかとなった。通常歩行速度より歩行速度を遅くすると、下肢の自動的な動きは失われ,規則的で安定した歩行を維持するために下肢の動きを制御する必要性が大きくなる。したがって、身体の制御機能に問題を有すると考えられる身体機能低下群は、歩行速度を遅くした際の身体の制御を適切に行うことが困難であったのではないかと考える。日常生活場面において歩行速度を遅くする場面も多くみられることから、身体機能が低下している高齢者の安全な身体活動量増大のためには、通常歩行速度での規則的で安定した歩行を獲得するだけではなく、歩行速度を遅くした際にも歩行の規則性をできるだけ維持する必要性があることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は、身体機能の低下が生じた高齢者に対して理学療法を行っていく上での有益な情報となると考える。
  • 榎 勇人, 石田 健司, 細田 里南, 芥川 知彰, 奥宮 あかね, 上野 将之, 室伏 祐介, 近藤 寛, 田中 克宜, 高橋 みなみ
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】これまでの我々の調査では,体幹姿勢がNormalな高齢者は,Kyphosisなどの群に比べ歩幅や1 歩時間が有意に大きく(Ishida K 2004,2005),さらに歩幅を意識させた簡単な歩行指導により床反力鉛直成分(以下Fz)が即時的に1 峰性から2 峰性に改善した.そこで,高齢者の歩行は体幹姿勢に加え脊柱可動性と関係性があるのではないかという仮説のもと,今回高齢者の脊柱可動性と歩行の関係を調査すると共に,先行研究の歩行指導に加え体幹姿勢を意識させた指導を行い,即時効果のある歩行指導の検討を行った.なお本研究は,日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行った(課題番号:23700604).【方法】高知県室戸市の特定健診に参加した60 歳以上の高齢者の方で,杖などを使用せず歩行をしている282 名を対象とした.男性95 名,女性187 名,平均年齢69 ± 6 歳(60-94).脊柱可動性の評価は,Index社製Spinal mouseによって,立位での直立姿勢およびできる限りの前屈・後屈姿勢における脊柱が矢状面にて垂線となす角度を計測した.歩行評価は,ニッタ社製Gait scanを用いて,通常歩行および「歩幅を少し広くして,踵から着くように歩いて下さい」という歩幅を意識させた歩幅指導と「胸を張って背筋を伸ばし,前を向いて歩いて下さい」という体幹姿勢を意識させた体幹指導の3 条件下における,歩幅,1 歩時間,歩行速度,Fzの2 峰性の有無を評価した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,高知大学医学部倫理審査にて承認を受け,対象者には書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得て行った.【結果】脊柱可動性の平均は,直立2.9 ± 4.9°,前屈96.2 ± 18.3°,後屈20.2 ± 10.5°であった.また通常歩行時の平均歩幅6.06 ± 0.86cm,1 歩時間0.54 ± 0.05sec,速度1.22 ± 0.22m/secであった.また53 名にFzの2 峰性が認められなかった.脊柱可動域と通常歩行データとの相関性をPearsonの相関係数にて検討すると,直立角度が歩幅と歩行速度と有意な負の相関関係(歩幅r=-0.325,速度r=-0.293,p<0,01)を示し,後屈角度が歩幅と歩行速度と有意な正の相関関係(歩幅r=0.386,速度r=-0.361,p<0,01)を示した.さらにFzの2 峰性の有無を従属変数とし,通常歩行データを独立変数として変数増加法尤度比多重ロジスティック回帰分析を行った結果,Fzに影響を及ぼす変数は歩幅(偏回帰係数0.718,オッズ比2.050 倍,1.415〜2.968),1 歩時間(偏回帰係数-18.782,オッズ比0.000 倍,0.000 〜0.000)が選択され,モデルχ2 乗検定も各変数も有意(p<0.01)であった.次に歩行指導の即時的効果を1 要因分散分析で検討した結果,歩幅と1 歩時間では指導間の全てにおいて有意差(p<0.01)が認められ,歩幅指導が最も増加した.また歩行速度では,通常歩行に比べ歩幅・体幹指導共に有意に増加したが,両指導間には有意差は認められなかった.さらに,Fzの2 峰性が認められなかった53 名における歩行指導効果をχ2 乗検定にて検討した結果,歩幅指導は31 名,体幹指導は33 名に2 縫性が出現したが,両者間に有意差は認められなかった.【考察】Fzは高齢者の歩行状態を表す力学的指標として有用とされ,2 峰性の維持は,効率の良い歩行つながり重要である.今回,脊柱の直立・後屈角度が通常歩行の歩幅・歩行速度と相関性を示し,さらにFzの2 峰性に,特に歩幅の増大が関係することが明らかとなった.直立角度はKyphosisの程度を表しているため,今回の結果からKyphosisを予防し脊柱後屈角度を維持改善すれば歩幅の増大につながり2 峰性が維持できることが示唆された.また歩行指導の結果では,歩幅指導が最も歩幅が増大したが,1 歩時間も増加した結果,歩行速度では体幹指導と有意差がなかった.さらにχ2 乗検定によるFzの2 峰性改善の検討では,両指導共に半数以上が改善したが有意差はなく,歩幅と体幹姿勢を意識させた指導は,同程度の即時効果があった.【理学療法学研究としての意義】本研究は,地域高齢者の歩行能力の維持改善につなげる目的で,歩行に関係する因子を求め,さらに歩行指導の即時効果を検討した.その結果,Kyphosisの予防および脊柱後屈可動域を維持改善することで,歩行能力が維持改善されることが示唆され,さらに歩行指導の即時効果も解り,高齢者の歩行能力の維持改善に寄与するものと考える.
  • 伊藤 慎英, 田辺 茂雄, 平野 哲, 川端 純平, 海藤 大将, 伊藤 和樹, 才藤 栄一, 村上 涼
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】我々は, トヨタ自動車が開発した立ち乗り型パーソナル移動支援ロボットを利用したバランス練習を考案し,コンピュータを含むシステム全体を“バランス練習アシスト”と命名した.昨年の本学術大会において,バランス練習アシストを用いた練習によって,中枢神経障害患者10 名の継ぎ足歩行速度やFunctional Reach Testなどの動的バランス能力と下肢筋力の改善が認められたことを報告した.しかし,これらバランス能力改善の機序解明には,動作習熟に伴う運動様式の変化についての検討が必要と考えられるが,現在までに十分な検討は行われていない.よって,本研究では,バランス練習アシストのゲームのひとつである外乱対処練習について,練習初期と習熟した時期でその動作および筋活動を計測し,運動様式の変化について検討を行った.【方法】対象は健常成人8 名(うち男性7 名,年齢23 ± 1 歳,身長172.6 ± 7.3cm,体重62.5 ± 6.8kg)とした.バランス練習アシストに用いたロボットは倒立振子制御を採用している.ヒトが重心を前方に移動させると,タイヤを正転させて直立位に復帰させる.一方で,後方に移動させると,タイヤを逆転させて復帰させる.外乱対処練習では,この制御に外乱の成分を付与することによって,ロボットを自律的に前後方向に傾ける.被験者には,その傾きに抗して逆方向に重心を移動し,出来るだけ初期位置に留まるよう指示した.使用した外乱はロボットの傾き角度を指定値とし,周期2 秒,振幅4°の正弦波とした.1 ゲームを1 分間とし,5 ゲーム連続して実施した.評価項目は,ロボット移動距離,関節角度,筋活動とした.ロボット移動距離は,1 ゲームの開始から終了までロボットが移動した軌跡を記録し,総移動距離を算出した.関節角度は,三次元動作解析装置KinemaTracer(キッセイコムテック株式会社製)を用いて算出した.右側の肩峰,大転子,膝関節裂隙,外果,第5 中足骨頭にマーカを取り付け,ゲーム中の軌跡をサンプリング周波数60Hzで計測した.その後,矢状面の股,膝関節の屈伸角度と足関節の底・背屈角度を算出し,解析では外乱制御の29 周期分を加算平均した値を用いた.筋活動は,マルチテレメーターシステムWEB5000(日本光電株式会社製)を用いてサンプリング周波数1.8kHzで計測した.表面電極は右側の大腿直筋,ハムストリングス,前脛骨筋,下腿三頭筋に間隔が約1cmとなるよう貼付した.全波整流後20ms毎に積分し,最大筋収縮(Maximum voluntary contraction:MVC)時の筋電位で正規化した(%MVC).1 ゲーム目を練習初期,5 ゲーム目を習熟した時期とし,運動様式の変化についての比較をt検定で行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいたものであり,当大学の疫学・臨床研究倫理審査委員会において承認を得た後に計測を行った.被験者には実験について十分に説明を行い,計測の前に同意書に署名を得た.【結果】ロボット移動距離は,10.5 ± 3.0mから7.1 ± 1.7m(p<.05)となった.関節運動範囲は,股関節11.8 ± 4.8°から7.3 ± 1.9° (p<.05),膝関節3.8 ± 3.0°から2.0 ± 0.8°(p=.12),足関節11.8 ± 2.6°から9.6 ± 1.5°(p<.05)となった.筋活動は,大腿直筋2.6 ± 1.7%MVC から2.1 ± 1.1%MVC(p=.47),ハムストリングス2.6 ± 1.5%MVC から1.6 ± 0.7%MVC(p=.10),前脛骨筋4.2 ± 2.9%MVCから3.2 ± 2.3%MVC(p=.44),下腿三頭筋7.9 ± 3.7%MVCから6.0 ± 2.4%MVC(p=.25)となった.さらに,関節運動と筋活動それぞれの1 回目に対する5 回目の割合は,股関節67.7 ± 19.3%,膝関節62.5 ± 18.0%,足関節83.0 ± 15.6%,大腿直筋79.4 ± 14.4%,ハムストリングス62.2 ± 22.1%,前脛骨筋75.5 ± 15.2%,下腿三頭筋76.5 ± 13.3%であった.【考察】動作習熟前後を比較すると,ロボット移動距離は減少し,股,足関節の運動範囲は減少した.筋活動は減少したが,有意差を認めなかった.1 回目に対する5 回目の割合は,相対的に足関節運動は残存する結果となった.筋活動は,足関節周囲筋の前脛骨筋,下腿三頭筋が相対的に残存していた.以上により,外乱対処練習の動作習熟を認めた運動様式の変化は,Hip strategyの要素が減少し,Ankle strategyの要素が残存する傾向であった.今後は,対象数を増やし,この傾向をさらに検証するとともに,動的バランスの改善と運動様式の関係を解明していきたい.【理学療法学研究としての意義】理学療法を実施する上で,バランス改善のメカニズムを解明し,練習方法を考案することは,理学療法学研究として大変に意義のあるものである.
  • 南角 学, 西川 徹, 秋山 治彦, 柿木 良介
    セッションID: A-S-07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【目的】人工股関節置換術(以下,THA)術後早期の理学療法では,術後の合併症の予防に取り組みながら,より効率的に股関節機能や運動機能の向上に図ることが重要となる.近年,股関節の深部外旋筋群は股関節の安定性に関与することが報告されており,股関節外旋筋に対するトレーニングが注目されている.しかし,股関節外旋筋のトレーニングがTHA術後早期の股関節外転筋および歩行能力の回復に与える影響を検討した報告は見当たらない.本研究の目的は,股関節外旋筋の筋力トレーニングがTHA術後早期における股関節機能および歩行能力の向上に有用であるかどうかを検討することである.【方法】対象は片側変形性股関節症で初回THAを施行された28 名とした.さらに,当院のプロトコール通りに術後の理学療法を行った14 名(以下,Control群)と,通常の理学療法に加えて股関節外旋筋に対するトレーニングを実施した14 名(以下,Ex群)に無作為に分類した.股関節外旋筋のトレーニングは,腹臥位で股関節屈曲0°・膝関節屈曲90°での股関節外旋運動,仰臥位と側臥位での股関節軽度屈曲位からの股関節外旋運動とし,術後1 週間は自動介助,術後2 週目からは自動運動,術後3 〜4 週間は低負荷でのトレーニングを行った.評価時期は術前と術後4 週とし,測定項目は術側の股関節痛,術側の股関節屈曲と外転の関節可動域,術側の下肢筋力(股関節外転筋力,股関節外旋筋力,膝関節伸展筋力),Timed up and go test(以下,TUG)とした.股関節痛は,日本整形外科学会の股関節判定基準の股関節痛の点数を用いた.股関節外転筋力と股関節外旋筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)にて等尺性筋力を測定し,股関節外転筋と膝関節伸展筋の筋力値はトルク体重比(Nm/kg),股関節外旋筋力は体重比(N/kg)にて算出した.統計処理は,各測定項目の術前と術後の比較には,対応のあるt検定とMann-WhitneyのU検定を用い,統計学的有意基準は5%未満とした.【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の趣旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得て実施した.【結果】年齢(Ex群60.5±6.4歳,Control群60.8±7.5歳)と身体特性(Ex群:身長154.8±5.5cm,体重55.9±6.4kg,Control群:身長153.7 ± 9.4cm,体重52.2 ± 9.9kg)および術前の運動機能に関しては,両群間で有意差を認めなかった.Ex群の股関節外転筋力は術前0.63 ± 0.15 Nm/kg,術後0.72 ± 0.12 Nm/kgで術後に有意に高い値を示した.一方, Control群の股関節外転筋力は,術前0.60 ± 0.14 Nm/kg,術後0.58 ± 0.14 Nm/kgであり,術前と術後で有意差を認めなかった.股関節外旋筋力については,Ex群が術前1.05 ± 0.27 N/kg,術後1.05 ± 0.25 N/kgで有意差を認めなかったのに対して, Control群では術前0.97 ± 0.35 N/kgよりも術後0.78 ± 0.39 N/kgに有意に低下していた.また,TUGに関しては,Ex群のTUGは術前8.50 ± 1.67 秒,術後7.62 ± 1.08 秒で術前と比較して術後に有意に低い値を示したが,Control群で術前8.25 ± 2.07 秒,術後8.61 ± 1.46 秒で術前と術後で有意差を認めなかった.股関節痛および股関節屈曲と外転の関節可動域は,両群ともに術前と比較して術後で有意に改善していた.【考察】股関節深部外旋筋は,臼蓋に対して大腿骨頭を求心位に保持することから股関節の安定性に関与すると考えられている.本研究においては,股関節外旋筋に対するトレーニングを実施したことにより,臼蓋と大腿骨頭の安定性が得られ,より効率に股関節外転筋群による筋力発揮が可能となったために股関節外転筋力が術前よりも14.3%向上したと考えられた.さらに,股関節外旋筋のトレーニングを行うことで股関節外転筋力が術前よりも向上したことから,THA術後早期での歩行能力も同時に改善したと考えられた.今後の課題として,THA術後早期の運動機能の向上が術後中期および長期的な運動機能の回復過程に及ぼす影響を検討していく必要性があると考えられた.【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,THA術後早期における運動機能の向上に対して股関節外旋筋のトレーニングが有用であることが示され,理学療法研究として意義があると考えられる.
一般口述発表
  • 守屋 耕平, 山口 智史, 藤本 修平, 立本 将士, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平, 田中 悟志
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】臨床において、自己身体に対する注意を促すことで訓練効果が向上することをしばしば経験する。これは、身体への注意の誘導が運動皮質興奮性を促進し、運動学習を促進するためだと考えられている(Jueptner et al,1997,Rowe et al,2002)。一方、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は、頭蓋上に貼付した電極から微弱な直流電流を与えることで、簡便かつ非侵襲に運動皮質興奮性を促進する手法であり、リハビリテーションへ応用されている(Nitche and Paulus,2000)。したがって、身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動遂行や運動学習と関連の深い生理学的指標である運動皮質興奮性をより効果的に促進できる可能性がある。本研究では、その可能性について健常者を対象とした実験により明らかにすることを目的とした。【方法】健常成人7 名(平均年齢24.7 ± 1.3 歳、男性3 名、女性4 名)を対象とした。被験者には左半球運動皮質にtDCSを行っている最中に、右手への電気刺激およびクリック音による聴覚刺激が呈示された。電気刺激は右側の第一背側骨間筋(FDI)に対し、パルス幅1msの単相矩形波を単発刺激し、感覚閾値の1.1 倍の強度で行った。聴覚刺激は0.1msのクリック音を用い、聴覚閾値の1.1 倍の強度で行った。電気刺激と聴覚刺激はそれぞれ平均30 秒に1 回の頻度で独立に呈示した。被験者は以下の3 条件に参加した。1)電気刺激検出条件では、被験者は電気刺激に注意を向け、電気刺激を知覚したら口頭で報告を行った。聴覚刺激は無視をした。2)聴覚刺激検出条件では、被験者は聴覚刺激に対し注意を向け、聴覚刺激を知覚したら口頭で報告を行った。電気刺激は無視をした。3)安静条件では、被験者は電気刺激、聴覚刺激ともに無視をし、検出課題は行わなかった。tDCSは全ての条件で刺激強度を2mAとし10 分間行った。陽極電極は左上肢一次運動野の直上に置き、陰極電極を対側の上腕部に貼付した。評価は、皮質脊髄路興奮性の変化の指標として経頭蓋磁気刺激を左上肢一次運動野に対して行い、右側のFDIの運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)を測定した。MEPは、TMSの最低刺激強度(resting motor threshold: rMT)を50 μVのMEPが50%の確率で出現する強度として定め、rMTの120%の刺激強度にて10 回刺激し、測定した。計測はtDCS介入前、介入直後、10 分後、30 分後、60 分後に実施した。電気刺激を検出するためFDIに対し持続的に注意を向ける電気刺激検出条件では、tDCSによるMEPの振幅が他の条件よりも増加するという仮説を立てた。データ処理は、各条件において、介入前の平均MEP振幅値を基準とし、介入後の変化率を算出した。統計解析は、反復測定二元配置分散分析(条件×時間)、Dunnetにて多重比較検定を行った。【倫理的配慮、説明と同意】所属機関の倫理委員会で承認を受けた。被検者に実験内容を事前に十分に説明し、本人の意志により書面にて同意を得た。【結果】分散分析の結果、条件と時間の交互作用(F[1,8]=2.12,p=0.042)、条件および時間の主効果(条件:F[1,2]=24.36,p<0.001,時間:F[1,4]=3.23,p=0.016)がそれぞれ有意であった。聴覚刺激検出条件および安静条件条と比較し、電気刺激検出条件において有意にMEPが増大した(p<0.001)。条件間での効果の違いを詳細に分析するために、各測定時間での条件間の比較を行うと、介入直後,10 分後および60 分後のすべてで電気刺激検出条件が他の2 条件と比較し、有意にMEPが増大した(p<0.05).また介入30 分後では,電気刺激検出条件において,聴覚刺激検出条件と比較し,有意なMEP 増大を認めた(p<0.05).これらの結果は、電気刺激検出条件においてtDCSによるMEPの振幅が他の条件よりも増加するという本研究の仮説を支持するものである。【考察】全ての条件で、物理的には同じ触覚および聴覚刺激が呈示されていたにも関わらず、被験者がどの刺激に注意を向けているかによって、tDCSによるMEPの振幅の増加に有意な差を認めた。被験者が、FDIへの電気刺激に注意を向けた時のみ、FDIにおけるMEPの振幅の増加が他の2 条件に比べて有意に大きくなり、仮説を支持する結果が得られた。本研究の結果から、身体への注意がtDCSによる皮質脊髄路の興奮性を更に促進し、一次運動野の可塑的変化に影響を与えることが示唆された。今後は、身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動皮質興奮性の変化と共に、運動学習や運動遂行などにも促進的な効果があるかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】身体への注意とtDCSを組み合わせることで、運動学習と関連の深い生理指標である運動皮質興奮性を更に促進させることができた。身体への注意とtDCSの組み合わせは、理学療法の効果を促進させる補助的な手法として有効である可能性を示した。
  • 石黒 幸治, 浦川 将, 高本 孝一, 堀 悦郎, 石川 亮宏, 小野 武年, 西条 寿夫
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】脳卒中患者は手足の麻痺を呈するが、集中的なリハビリテーションにより運動機能が改善し、生活の質も向上する。これらリハビリテーションの効果は運動学習効果に依存し、脳卒中後にリハビリテーション課題を反復練習することにより、脳内神経回路が再構築され、麻痺した上肢の運動機能が改善する。近年の脳機能イメージング研究によると、運動学習中には運動関連領野だけでなく前頭前野が賦活化されることが報告されているが、前頭前野の最前部に位置する前頭極の役割については異論も多い。一方、脳機能イメージング研究で使用される近赤外分光法(NIRS)は、他のイメージング技術と異なり被験者を拘束せずに実際の状況下で脳機能画像を撮像できる利点があるが、脳血行動態に頭皮の血行動態が混入するという欠点もある。そこで、本研究では、全頭型NIRSヘッドキャップを用いて運動学習中の頭部血行動態を測定するとともに、複数のプローブ間距離で前頭部血行動態を測定し、前頭極の脳内血行成分を分離して測定することを試みた。さらに、前頭極を経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いて刺激することにより、運動学習における前頭極の役割について検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従った研究企画書を本学の倫理委員会に提出し、承認を得た上で行い(臨認23-98)、被験者には十分な説明と同意のもと実施された。【方法】被験者には、簡易上肢機能検査(STEF)にて手前に置いた小さな金属棒を右母指と示指で摘み、前方の小さな穴に入れるペグ課題を行わせ、課題時間20 秒におけるペグの移動本数をペグスコアとした。実験スケジュールは、ペグ課題20 秒間とその前後の休息30 秒間を1 ブロックとして合計8 ブロック行わせた。また対照課題として、ペグを摘まないことを除きペグ課題と全く同じ動作を行なうリーチング課題を行わせた。近赤外分光法(NIRS)を用い、同課題中の脳血行動態(Oxy-Hb, Deoxy-Hb, Total-Hb)を記録した。実験1 では、12 名の被験者を用い、送光および受光プローブを30mm間隔で配置した全頭型NIRSキャップで頭部血行動態を測定した。ついで運動関連領野8 領域を関心領域とし、各領域における8 ブロックのOxy-Hb反応曲線から、反応潜時および反応曲線の立ち上がりの傾きを計測した。また、8 ブロックにわたるOxy-Hb反応増加率およびペグスコア増加率を求めた。実験2 では、15 名の被験者を用いた。送光プローブ1 個に対し受光プローブ5 個を6mm間隔で配置した小型NIRSキャップを用いてプローブ間距離を5 段階(Ch1 〜5)に設定し、前頭極上の頭皮から血行動態を計測した。解析では、Oxy-Hb反応曲線を独立成分解析(ICA)法にて解析し、5 個の独立成分に分離した。ついで独立成分を求める混合行列式から、各チャンネルの信号に占めるCh1 の成分(頭皮由来成分)を算出し、頭皮成分を補正した反応量(脳由来反応量)を算出した。実験3 では、14 名の被験者を用い、tDCS群と偽刺激群の2 群に分けた。いずれの群でも前頭極には陽極を、後頭部には陰極を設置し、tDCS群では課題前に1000 μAで900 秒間通電した。【結果】実験1 の全頭部記録では、前頭極のOxy-Hbの反応潜時が最も早く、また8 回の反復遂行におけるOxy-Hb反応の増加率は、前頭極と他の関心領域間で有意な正相関が認められた。さらに、前頭極においてOxy-Hb 反応の増加率とペグスコアの増加率の間に、有意な正相関が認められた。実験2では、非補正および補正反応量のいずれにおいてもリーチング課題と比較してペグ課題で大きかった。また、Ch1 と比較してCh5 では、Oxy-Hbの反応潜時が最も早く、反応スロープも有意に大きかった。さらに、脳由来反応量の増加率とペグスコアの増加率との間に正相関が認められた。実験3では、tDCS群は偽刺激群よりもペグスコアが有意に大きかった。【考察】本研究では、1)前頭極の反応潜時が最も短い、2)前頭極におけるOxy-Hb反応が他領域と相関する、3)前頭極におけるOxy-Hb反応増加率がペグスコア増加率と相関することなどから、前頭極が反復運動学習の課題遂行性の改善に重要な役割を果たしていることが判明した。さらに、本実験では前頭極へのtDCSが運動学習を促進することが明らかになったが、脳卒中後の患者に対しても同様の効果が期待され、今後の新しい神経リハビリテーションの戦略として期待される。【理学療法学研究としての意義】科学的根拠に基づいた神経リハビリテーション治療の可能性を広げる。
  • 上原 信太郎, 水口 暢章, 山本 真史, 廣瀬 智士, 内藤 栄一
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】2 つの運動をランダムな順序で練習する方法(ランダム練習)は、効率的に2 つの運動記憶を獲得でき、これはそれぞれの運動を決まった順序で練習する方法では難しいことが示されている(Osu et al., 2004)。これは、練習方法によって異なる様式で記憶形成がされているためであると考えられる。本研究では、ランダム練習で二種類の運動記憶を獲得した場合、各運動をまとめて練習する場合(ブロック練習)と異なり、それぞれの運動記憶が独立して蓄えられると考え、その仮説を検証した。2 つの運動記憶に重複がある場合、これらの運動を連続して行うと、前の運動の履歴が後ろの運動を実行する妨げになり、後に行う運動の遂行が阻害されることが知られている(Cothros et al., 2006)。したがって、もし、それぞれの練習方法で獲得される2 つの運動記憶の重なりが異なるならば、その違いは2 つの運動を連続して再現する時の後ろの運動のパフォーマンスに影響することが推測される。【方法】27 名の右利き健常成人が、連続する2 日間の実験に参加した。各参加者は、1 日目に左手を使用した二種類の異なる系列指タッピング運動(環指-示指-小指-中指-環指、及び、示指-環指-中指-小指-示指)を学習し、2 日目には両系列運動を再現した。各運動試行では、参加者は16 秒の間にできるだけ早く、かつ正確に、指示された指系列で連続タッピング(ボタン押し)を行った。連続する5 つの指タッピング(= 系列)を16 秒間で何回正しく繰り返せたか(正答数)を記録し、その試行の運動パフォーマンスの指標とした。参加者をランダム練習群(13 名)とブロック練習群(14 名)の2 群に分け、1 日目の運動学習時、各群にはそれぞれ異なる練習法を適用した。ランダム練習群は、全部で36 試行(6 試行× 6 セット)実施する中で、各セット内で2 つの系列運動をランダムな順序で3 試行ずつ練習した。どちらの運動を行うかは、試行開始直前にモニタ上に呈示される数字で示された。一方のブロック練習群は、前半の18 試行(6 試行× 3 セット)では一方の系列運動を、後半の18 試行(6 試行× 3 セット)ではもう一方の系列運動を練習した。両群共に、1 セット(6 試行)完了ごとに60 秒の小休憩を挟んだ。2 日目には、一方の系列運動を3 試行実施したあと、もう一方の系列運動を3 試行実施してもらった。ブロック練習群における系列運動の練習順序、及び、両群における再現時の系列運動の実施順序については、参加者間でカウンターバランスが取られた。各系列運動を再現した時の後ろの運動のパフォーマンスの様子を調査するため、2 日目の前半3試行で実行した系列を第1系列、後半3試行で実行した系列を第2系列とし、それぞれの系列運動の運動パフォーマンスを比較した。系列ごとの難易度の影響を除外するため、比較には、1 日目の運動パフォーマンス(最後の3 試行の平均)を含めた二元配置分散分析[系列(第1 系列、第2 系列)×日(1 日目、2 日目)]を、各群から得られたデータに対して適用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、情報通信研究機構倫理委員会の承認を受けて実施された。参加者には実験内容を十分に説明し、本人の同意を得た上で実験が行われた。【結果】ランダム練習群では、第1 系列(1 日目:11.4 ± 2.4、2 日目:12.1 ± 2.8)、第2 系列(1 日目:11.4 ± 2.7、2 日目:12.0 ± 3.0)ともに、1 日目の最後の3 試行に比べて、2 日目の3 試行では正答数の増加が見られた。一方のブロック練習群では、第1 系列(1 日目:10.9 ± 2.3、2 日目:12.0 ± 2.7)ではランダム練習群と同様に正答数の増加がみられたが、第2 系列(1 日目:11.2 ± 2.2、2 日目:11.5 ± 2.5)ではわずかな増加しか見られなかった。分散分析の結果、ランダム練習群では日の要因に有意な主効果が見られ(p < 0.05)、有意な交互作用は見られなかったのに対して、ブロック練習群では、日の要因の主効果(p < 0.05)に加え、両要因の交互作用(p < 0.05)が有意であった。【考察】本研究の結果から、ブロック練習により2 つの運動記憶を学習した場合には、運動を連続して再現する時に後に行う運動が阻害されることから、獲得された2 つの運動記憶は重複して形成されていることが示唆された。一方で、ランダム練習で運動を学習した場合には、相互干渉するような類似した運動も、両者の運動記憶の重複を減らし、それぞれを分離した形で獲得されていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、学習時の練習方法に応じて獲得される運動記憶の様式が異なり、ランダム練習で獲得された運動記憶は運動干渉に対する耐性が高いことを示した。この結果は、運動療法を立案する際に、獲得した運動記憶が使用される状況に応じて、練習方法を適切に設定することの重要性を示唆している。
  • 渡邉 観世子, 谷 浩明, 樋口 貴広, 今中 國泰
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】整形疾患術後患者に対する理学療法では、回復段階に合わせた荷重量を患側下肢に正確に負荷する練習が行われている。この練習では平行棒や杖の使用により上肢支持を伴うことが多いが、その効果として患側下肢への荷重を減少させること(Joyce BM, 1991)や姿勢の安定性を高めること(Milczarek JJ, 1993;Jeka JJ, 1994)などが報告されている。しかしながら、臨床現場では平行棒や杖への過剰な依存も目立ち、立位や歩行の自立を遅らせる弊害もみられる。そこで本研究では、上肢支持の有無が下肢の荷重制御の正確性にどのような影響を与えるかについて、効果的な面と弊害の両面から明らかにし、臨床における上肢支持の影響を考察することとした。なお本研究では、荷重制御課題でよく用いられる荷重量(体重の1/3、2/3)と荷重負荷の左右下肢を操作し、それらの要因とともに上肢支持の影響を検討した。【方法】上肢支持あり群24 名(男性13 名、女性11 名、平均年齢19.0(SD0.7)歳)と上肢支持なし群16 名(男性5 名、女性11 名、平均年齢21.7(SD3.6)歳)を対象として、平行棒内での片脚立位から反対側下肢へ目標荷重量を負荷し、その状態を3 秒間保持する下肢の荷重制御課題を行った。上肢支持あり群では大転子の高さに合わせた平行棒上に上肢を支持し、上肢支持なし群では上肢を体側に置いた姿勢で課題を実施した。課題の独立変数は、荷重量(体重の1/3、2/3)と荷重制御側の下肢(左下肢、右下肢)を対象者内要因とし、4 条件の課題を各10 試行実施した。課題遂行中、2 枚のフォースプレートにより3 秒間の下肢の荷重量変化を計測し、荷重変化が安定していた最後の1 秒間のデータから目標荷重量(体重の1/3、2/3)に対する偏倚性(CE/w)、変動性(VE/w)、総合誤差(RMSE/w)、および試行内変動(CV)を求めた。これらの各指標について群、荷重量、荷重制御下肢を要因とする3 要因分散分析を実施した。またCE/wでは、1 標本t検定を用いて目標値に対する偏倚の有意性を検定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属機関倫理委員会の承認を受け(承認番号07-21)、対象者には研究目的と計測内容について口頭と紙面にて説明し、同意書への署名をもって同意を確認した。【結果】CVは、群間の主効果が有意であり(F1,38 = 79.5, p < 0.05)、上肢支持なし群よりもあり群で試行内変動が小さかった。CE/wでは、上肢支持あり群はすべての条件でundershoot(荷重不足)を示し、1 標本t検定の結果、右下肢1/3 荷重以外の3条件のundershootが有意だった(p < 0.05)。さらに分散分析の結果、群の有意な主効果(F1,38 = 15.7, p < 0.05)が認められ、上肢支持あり群がなし群より有意に低いCE/wを示した。また群×荷重量の交互作用(F1,38 = 6.2, p < 0.05)も有意で、上肢支持あり群では荷重量要因の有意な単純主効果が認められ、荷重量1/3 よりも2/3 で小さかった。VE/wでは、群要因を含む有意な主効果および交互作用は認められなかった。RMSE/wでは3 要因の有意な交互作用(F1,38 = 7.9, p < 0.05)が認められ、下位検定の結果、上肢支持あり群においてのみ荷重量×下肢の交互作用が有意で(F1,38 = 4.4, p < 0.05)、左下肢では荷重量2/3 より1/3 条件で、荷重量2/3 では左より右下肢でRMSE/wが小さかった。なお、上肢支持あり群の各条件における上肢支持量は、体重あたり7.6 〜17.0%であった。【考察】CVは上肢支持なし群よりもあり群で小さかったことから、上肢支持が荷重負荷のパフォーマンスに安定性をもたらしていることが分かった。しかしCE/wでは、上肢支持あり群のすべての条件でundershootを示し上肢支持なし群より正確性が低かった。さらに上肢支持あり群においてのみ荷重量要因の有意な主効果がみられ、小さな目標荷重に対しては超過し、大きな目標荷重に対しては不足するという、いわゆる中心化傾向が相対的な形ではあるが認められた。これらCE/wの結果から、上肢支持により、下肢に負荷すべき荷重の一部を上肢と支持側下肢が支持したことで顕著な荷重不足をもたらしたと推察される。またこの荷重不足は特に荷重量2/3 条件において顕著であったことから、大きな荷重負荷を練習する回復後期では、上肢支持により患側に充分な荷重負荷がかけられない、という弊害につながると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は、患側下肢の免荷や姿勢制御に貢献するとされてきた上肢支持が、荷重制御においては負の効果をもたらす可能性を示した。この結果は、臨床現場における杖や平行棒での上肢支持に対する指導に工夫が必要であることを示唆しており、たとえば指先のみでの軽い支持(Jeka JJ, 1994)の効果を参考にするなど、上肢に依存しすぎない効果的な上肢支持の方略を提案していく必要がある。
  • 中村 壽志, 谷 浩明
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】運動技能の習得には,変化する周囲の環境にあわせて自らの運動を調整する必要がある.この運動調整に必要な環境内の情報についての知識は,言語化不可能で,その習得は潜在的な学習によると考えられている.こうした考え方に基づき,潜在的な学習の有無を確かめる方法として,系列反応時間課題(serial reaction time task:SRTT)がある.実際,この方法を用いて中枢疾患患者を対象にした潜在学習能力の有無が検討されている.これに対し,その調整がより連続的であるトラッキングも,応用例はSRTTに比べて少ないものの課題として用いられることがある.今回,先行研究と異なる設定のパーソナルコンピュータ(以下,PC)でのトラッキング課題を用いた再試を行い,潜在的な学習の現象が見られるかどうかを確かめたので報告する.【方法】本実験の概要説明により同意が得られた健常成人11 名(平均年齢27.5 歳)を被験者とした.課題は,PCを利用したトラッキング課題で,被験者にはCRT上を動くカーソル(目標カーソル)に,マウス操作で動くカーソル(制御カーソル)を重ねるよう教示した.2 つのカーソルの制御と測定には,この実験用に組まれたアプリケーション・ソフト(共和電業特注:CHASE)を使用した.1 試行は,3 つのセグメントからなる.具体的には,毎試行目標カーソルが異なる動きをする2 つのセグメント(Random)に,毎試行同じ動きをするセグメント(Repeat)が挟まれる形とした.さらに,セグメント毎での難易度のばらつきを抑えるために一定の条件を課した.1 日あたりの練習は12 試行(10 分間),連続5 日間で60 試行の練習を行った.さらに,5 日目の練習が終わった後に,Repeatが毎回同じ動きであったことに気がついたかどうかを聴取した.収集されたデータから,目標カーソルと制御カーソルの差分から二乗平均平方根誤差(Root Mean Squared Error:RMSE)を求め,パフォーマンスを評価した.データ解析にはSPSS15.0J for Windowsを用い,練習日とセグメントを要因とする反復測定による二元配置分散分析を行った.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,国際医療福祉大学倫理審査委員会の承諾を受けた.(承諾番号:11-46)【結果】すべてのセグメントで,RMSEは練習が進むにつれて減少しており,Repeatは全練習日を通じて他のセグメントより低い値を示した.検定の結果,練習日の主効果は有意であった(F=18.57, p<0.01).また,セグメントの主効果は有意となり(F=101.28, p<0.01),セグメント間で差のあることが認められた.練習後,Repeatのパターンが一定であったことに気付いた被験者はいなかった.【考察】すべてのセグメントにおいて,練習によるパフォーマンスの向上が見られた.これは,マウス操作と画面上のカーソルの動きの対応を含むトラッキング課題そのものの習熟が示されていると考えられる.ただ,セグメントの中でもRepeatが他より高いパフォーマンスを見せたことは,RepeatにはRandomと異なる要素があることを示している.通常,トラッキング課題で被験者が行うのは視覚フィードバックによる誤差修正だが,これには,純粋なフィードバック制御だけではなく,そこには一部,予測が加わる.Repeatが高いパフォーマンスを示したのは,繰り返されるRepeatのパターンを覚えることでこの予測の精度が上がったのではないかと考えられる.さらに,全被験者がRepeatのパターンが一定であることに気がつかなかったという結果は,Repeatのパターンの学習が,被験者自身の意識にはのぼっていないことを意味している.これは運動調整に必要な環境内の知識が,言語化不可能で意識されない潜在的な形をとるとする考え方を支持するものと考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,PCを使ったトラッキング課題で,課題のプログラムに一定の条件を設けることで潜在学習様の現象を確認することができた.今後,課題の難易度設定などを検討することで,潜在学習能力を評価する方法として発展させることができると考えている.
  • 冷水 誠, 津田 宏次朗, 涌本 瞳, 前岡 浩, 松尾 篤, 森岡 周
    セッションID: A-O-01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】効果的な運動学習をもたらすフィードバックの1 つに視覚フィードバックがある。この視覚フィードバックに関して,自己の運動を観察させるビデオフィードバック(自己観察)による学習効果が報告されている。一方,他者の運動を観察することでも運動学習効果が報告されている。これはフィードバックではなく,運動観察による観察学習効果とされている。これら自己観察および他者観察による運動学習効果については,いずれも観察なし条件と比較しており,自己観察あるいは他者観察のどちらが効果的であるかは不明である。そこで本研究の目的は,バランス学習において自己観察と他者観察による学習効果の違いに関して,脳活動を含めて明らかにすることとした。【方法】対象は健常大学生39 名(男性15 名,女性24 名,平均年齢21.3 ± 0.83 歳)とし,13 名ずつ無作為にコントロール群,他者観察群,自己観察群の3 群に割り当てた。学習課題は左右方向のみに不安定とした不安定板(DYJOCボード;以下ボード 酒井医療)上での30 秒間立位バランス保持とした。各群ともに試行肢位は両肩幅での開脚立位とし,できるだけボードの両端が床と接しないよう長く保持するよう求めた。試行手順は,課題試行前および試行後に各30 秒の安静を設け,これを1 セットとした。試行前安静は3 群ともに椅子座位とし,試行後安静はコントロール群では試行前安静と同様の椅子座位とした。他者観察群では事前に要した他者の課題試行動画をiPad(Apple社)にて観察した。これに対し,自己観察群では自身の課題試行をiPadにて撮影しておき,この試行後安静時に自身の試行動画をiPadにて観察した。学習手続きは,まず1 セット目をpre testとして実施し,その後6 セットを反復し6 セット目をpost testとした。さらに,学習保持効果をみるために24 時間後にretention testとして1 セット実施した。評価項目は課題試行中にボードの両端が床と接した回数(接地回数)およびその両端が連続して床と接していない時間(最長保持時間)とした。これらはボード両端に圧センサー(NORAXON社)を設置し,床に接地することによる圧信号をPCに取り込み測定した。脳活動の測定には機能的近赤外光分光法装置(functional near-infrared spectroscopy: fNIRS,島津製作所FOIRE-3000)を用い,光ファイバを感覚運動野から前頭前野領域(全測定51channel)を覆うよう装着し,脳血流動態を測定した。活性化の指標は酸素化ヘモグロビン濃度長とし,Statistical Parametric Mapping(SPM)を用い課題試行中の脳活動を解析および分析した。統計学的検定は接地回数および最長保持時間について,学習時期(pre test/post test/retention test)および群(コントロール群/他者観察群/自己観察群)による効果を反復測定二元配置分散分析にて比較した。多重比較検定にはBonferroni法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】実験参加に際し,対象者には文章および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした。【結果】接地回数は学習時期および群による主効果が認められず(p=0.50,p=0.09),交互作用も認められなかった(p=0.44)。しかし,最長保持時間は群による主効果は認められなかったものの(p=0.25),学習時期による主効果(p<0.01)および交互作用が認められた(p<0.05)。多重比較の結果,自己観察群のみにおいてpre testと比較してpost test(p<0.05)およびretention test(p<0.01)において有意な増大が認められた。脳活動については,コントロール群では有意な活動を示した領域に統一性がみられず,他者観察群および自己観察群では多くの対象者において高次運動野および前頭前野領域の有意な活動が認められた。特に,自己観察群ではこれらの領域の限局した活動が認められた。【考察】本研究の結果,バランス学習において他者観察による観察学習効果ではなく,自己観察によるフィードバックによって有意な学習効果が認められた。これは,自己観察により自己の運動感覚情報との誤差を視覚的に明確に認識することができ,次の試行に対して修正した新たな自己運動イメージを形成することができたことによるものと考えられる。これを裏付けるように,課題試行時の脳活動では,他者観察群が運動イメージに関連した領域の広範な活性化を認めたのに対し,自己観察群ではこれらの限局した領域の活性化が認められていた。【理学療法学研究としての意義】健常成人を対象としたバランス学習において,簡便なビデオを用いた自己観察学習が有効である可能性を身体パフォーマンスおよび脳活動レベルにおいて見いだすことができた。今後,症例研究を進めることにより,臨床上有用なバランス学習における介入手段への発展に繋がると考える。
  • 松下 由佳, 城 由起子, 杉枝 真衣, 鈴木 優太, 鳥山 結加, 山形 紀乃, 大澤 武嗣, 下 和弘, 松原 貴子
    セッションID: A-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】近年,運動による疼痛抑制効果が報告されており(Chou 2007),そのメカニズムとして,運動による運動野や運動前野の活動が中枢性疼痛抑制系に作用する可能性が示唆されている(Ahmed 2011)。また,前頭前野は疼痛関連領域の1 つであり,前頭前野が活動することで下行性疼痛抑制系が作動するといわれている(森岡2011)。しかし,運動による疼痛抑制効果と前頭前野の関与は未だ明らかにされていない。一方,前頭前野の活動は,単純な運動と比べ運動学習や運動制御,注意を伴うような課題ならびに手指巧緻運動でより賦活し,視覚的フィードバックを与えることでさらに賦活されることが報告されている(川島2005,Brunia 2000)。そこで本研究では,単純な運動課題または前頭前野を賦活させるような運動制御課題による疼痛抑制効果および前頭前野の活動を比較し,運動による疼痛抑制効果における前頭前野の関与について検討した。【方法】対象は,健常若年者40 名(男性:30 名,女性:10 名,年齢:21.3 ± 1.0 歳,利き手:右)とし,制御運動群23 名と単純運動群17 名に無作為に分類した。両群ともに運動は座位,開眼にて右手で3 分間行い,運動前後5 分間を開眼安静とした。制御運動群は,2 個の木球を手掌面上にて反時計回りに回転させるtwo-ball rotation taskを行わせた。単純運動群は握力計を用い,最大握力の30%強度で6 秒間のグリップ保持と4 秒間の安静を反復させた。評価項目は圧痛閾値(pressure pain threshold: PPT),前頭前野近傍の脳波,主観的疲労感とした。PPTは,デジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用いて,運動反対側の左前腕にて運動前,終了直後,5 分後に測定した。脳波は,簡易脳波測定装置(Mindset,NeuroSky社)を用いて実験中経時的に記録し,周波数解析により注意・集中・リラックスの指標となるα波(7.5 〜9.75 Hz)を算出し,運動前,中,終了5 分後の各30 秒間の平均値を測定値とした。運動による主観的疲労感は,修正Borg scale(0 〜10)を用いて,運動終了直後と5 分後に確認した。統計学的解析は,経時的変化の検討にFriedman検定およびTukey typeの多重比較検定を,群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。全対象者に対して研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について十分に説明し,同意を得た上で実験を行った。また,実験に際しては,安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】PPTは,制御運動群で運動前と比較し終了直後に有意に上昇したのに対し,単純運動群では変化を認めなかった。群間比較では,終了直後に制御運動群で有意に高値を示した。α波は,制御運動群では運動前と比較し運動中に有意に上昇したのに対し,単純運動群では変化を認めなかった。群間比較では,運動中に制御運動群で有意に高値を示した。修正Borg scaleは,両群ともに運動前に比べ終了直後に有意に上昇し,群間比較では単純運動群で終了直後に有意に高値を示した。【考察】単純運動によって痛覚感受性は変化せず,疼痛抑制効果が得られなかったのに対し,制御運動では運動対側の痛覚感受性が低下したことから,脊髄レベルより上位の中枢神経系が関与する広汎性疼痛抑制効果をもたらす可能性が示された。さらに制御運動により前頭前野のα波の上昇を認めたことから,two-ball rotation taskのような注意や集中,プログラミングを必要とする運動により前頭前野が賦活することが確認された。一方,主観的疲労感は単純運動の方が強く,制御運動の負荷は軽度なものであった。このように制御運動でのみ疼痛抑制効果と前頭前野の賦活を認めたことから,運動による疼痛抑制効果において前頭前野は何らかの関与をしていると考えられた。また,注意や集中,運動制御を必要とする運動は,感覚情報のフィードバックとプログラム修正を行い,知覚−運動連関システムを作動させることで,情報の統合や運動学習に関与する前頭前野が賦活し,疼痛抑制系が作動した可能性が考えられる。今後,他の脳領域の活動解析を加えることで運動の疼痛制御メカニズムに関与する疼痛関連脳活動カスケードを解明していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】前頭前野を賦活させるような制御運動により疼痛抑制効果が得られることを見出したことは,今後,疼痛に対するニューロリハビリテーションを展開するうえで非常に意義がある。また,低負荷の制御運動は臨床において患者への負担が少なく安全に疼痛マネジメントを行える有効な方法である。
  • 下 和弘, 鈴木 優太, 杉枝 真衣, 鳥山 結加, 松下 由佳, 山形 紀乃, 城 由起子, 松原 貴子
    セッションID: A-O-02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/06/20
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    【はじめに、目的】広汎性侵害抑制調節(diffuse noxious inhibitory controls: DNIC)は物理的刺激による疼痛調整機序のひとつで,鎮痛を目的とする部位とは別の部位に与える侵害性の刺激がDNICのトリガーになると考えられている。熱刺激は45℃以上または15℃以下で侵害受容器の興奮を生じさせ,疼痛を引き起こすことが知られている。DNICに関する先行研究でも,このような侵害的な熱刺激を用いて広汎性の疼痛抑制が生じることが報告されている。しかし,侵害的な熱刺激では長時間の刺激曝露による熱傷の危険性があり,臨床への応用が困難である。一方,非侵害的な熱刺激は安全に使用できるが,非侵害的な熱刺激による広汎性の疼痛抑制を示した報告はほとんどない。刺激温度に関して,痛覚閾値に極めて近い範囲では侵害的,非侵害的な熱刺激の両者ともに疼痛抑制効果を有し,両者に差がないことが報告されている(Lautenbacher & Rollman, 1997)。このことから,DNICにおいて,主観的な疼痛経験は必須でなく,疼痛抑制が生じる可能性がうかがえる。温度受容器の活動性は周囲環境の温度により決定される静的活動性と,温度変化に左右される動的活動性に分けられることが知られている。そこで我々は,温度刺激を与える際に,温度変化をより大きくすることで疼痛抑制を誘起すると仮説をたて,非侵害的な温度の冷水,温水に連続暴露し温度変化刺激を与えることによって刺激遠隔部の疼痛が抑制されるかを調べ,非侵害的熱刺激の温度変化による広汎性の疼痛抑制効果について検討した。【方法】対象は健常成人18 名(平均年齢21.8 ± 0.9 歳)とした。温度変化刺激として,左前腕部を17℃の冷水に1 分間浸漬した後,直ちに42℃の温水に1 分間浸漬するcold-warm群(C-W群),不感温度である32℃の温水に1 分間浸漬した後,直ちに42℃の温水に1 分間浸漬するsham-warm群(S-W群)の2 群に無作為に振り分けた。測定項目は熱痛覚強度(heat pain intensity:HPI)とし,温冷型痛覚計(UDH-300,ユニークメディカル)を用いて,右頬部に50 〜55℃の熱刺激を加えたときの疼痛強度をnumerical rating scale(NRS:0 〜10)にて測定した。なお,HPIは温度変化刺激5 分前,刺激中(42℃の温水への浸漬中),刺激終了直後,5 分後に測定した。統計学的解析は,HPIの経時的変化の検討にFriedman検定およびTukey-type(Nemenyi)の多重比較検定を用い,C-W群とS-W群の比較にMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。全対象に対して研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について十分に説明し,同意を得たうえで行った。また,実験に際しては安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】HPIは,C-W群において温度変化刺激前と比べて刺激中で有意に低下したが,S-W群では有意な変化を認めなかった。また,温度変化刺激前,中,直後,5 分後それぞれにおけるHPIでC-W群とS-W群に有意な差はなかった。【考察】17℃の冷水刺激直後に連続して42℃の温水刺激を与えた温度変化の大きいC-W群では,DNICに関する先行研究同様,温度変化刺激中に刺激遠隔部の疼痛抑制効果を認めた。一方,32℃の温水刺激直後に42℃の温水刺激を与えた温度変化の小さいS-W群では,疼痛抑制効果を認めなかった。つまり,非侵害的な熱刺激であっても,低温と高温を組み合わせて大きな温度変化を生じさせることによって広汎な疼痛抑制が起こりうることが示された。これは,温度受容器は周囲環境の絶対温度からだけでなく,温度変化によってインパルス発射頻度が変化する特徴を有することが影響しているのではないかと考えられる。同じ温度の熱刺激を温度刺激装置または温水により別の方法で与えた先行研究(Lautenbacher, 2002)によると,刺激方法により疼痛抑制効果に差があり,その効果の違いは温度刺激装置の端子(金属)と水では比熱が異なり,単位時間あたりの温度変化も異なることから,我々の結果と同様,温度変化の違いによって疼痛抑制効果の差が出現している可能性が考えられる。今後,臨床への応用にむけ,疼痛抑制効果を大きく,かつ長期に持続させることが必要であり,熱刺激における温度変化の量だけでなく,速度を考慮した検討が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では,非侵害的な熱刺激の温度変化により刺激遠隔部の疼痛抑制が図れる可能性を示した。臨床において多用される温熱療法への応用が期待される。
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