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永田 正夫, 福井 勉
セッションID: A-P-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】3 次元動作解析装置による計測時には、皮膚の動き(skin movement artifact以下artifact)が計測値に影響を与え誤差を生む。股関節回旋運動の計測時には、大腿に貼付するマーカーへのartifactが計測値に影響を及ぼし、貼付位置によって算出される股関節回旋角度が異なる。そのため我々はartifactの影響の少ない大腿マーカー位置として、遠位前外側部に貼付することを提案し、その部位から算出された股関節回旋角度計測値の誤差が統計学的に有意に小さいことを第47 回本学会で報告した。しかし、この位置のartifactの影響が少ない原因は定かでなく、大腿回旋時のマーカーがどの様な動態であるかは明らかとなっていない。この点を明らかにすることは、正確な股関節回旋角度計測時の大腿マーカー貼付位置の決定に有効な情報となりえるため、本研究においては大腿回旋時の大腿マーカー動態を調査することを目的とした。【方法】対象は健常成人男性10 名であった。計測機器はVICON (カメラ8 台、sampling rate 100Hz)にて行った。身体標点として、赤外線反射標点をplug-in-gait下肢モデルにより定められた所定の位置に計15 個貼付した。右側大腿マーカーについては、前列aとしてasisから外側上顆にかけて直線を引き、下1/4 の位置amと、そこから上as、下ai、4cmの位置に計3 点、中列cとしてasisとpsisを結んだ線の中点から外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からca、cm、ciの3 点、後列pとしてpsisから外側上顆にかけて直線を引き、同様に上からpa、pm、piの3 点、合計9 点のマーカーを貼付した。動作課題は立位における右側下肢の長軸回旋とした。対象被験者は、膝関節伸展位でボールベアリングターンテーブル上に立位姿勢を取り、骨盤が動かないように固定された。この状態で右側下肢を股関節回旋させ、その際ターンテーブルは、内外旋それぞれ30°回転すると止まるように設定された。計測中膝関節は伸展位で固定されていることを確認した。被験者は練習を行った後、3 回ずつの測定を行った。前回の報告で最も誤差の少なかったaiマーカーが股関節最大回旋角度を示す時期を基準とし、前後列a、c、p、上下列s、m、iのマーカーのx軸、y軸、z軸毎の移動量を算出した。各列間と方向毎の移動量に差があるかを有意水準5%未満としてBonferroni検定を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は文京学院大学大学院保健医療科学研究科の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には、予め実験の目的および内容を口頭並びに書面にて説明し、実験参加への同意を得た。【結果】上下列の各方向と移動量は、内外旋どちらともy>x>zの順で有意な差があったが、s、m、i列間では有意差はなかった。前後列の各方向とその移動量は、内旋時にはy>x>zの順で有意な差が認められたが、外旋時はp列のみyとx間に有意差はなく、a列、c列は内旋と同様であった。a、c、p列間では、内旋時にはxはa列>(c列=p列)で有意差があり、y、zに差はなかった。外旋時には、xにおいてp列>(a列=c列)で、yはa列>c列>p列、zはa列>c列>p列と有意差があった。(p<0.05)【考察】回の研究により、内外旋時、s、m、i列間ではx、y、z軸の移動方向とその移動量に有意差はなく、大腿遠位上下8cm幅においては、マーカーの動きに差はないと考えられた。そのため、股関節回旋角度の計測値に遠位部に有意差が見られたのは、遠位ほど大腿骨と皮膚間の軟部組織の占める容積や距離が減少することが関係しているものと考えられた。一方で、a、c、p列間では、内外旋で共通した傾向を観ることはできなかった。しかし、上下列間においては優位差が無かったものが、前後列間を比較した際に大きな誤差が見られたことは、artifactが前後位置で大きな違いがあることが考えられた。その一因として、artifactは動作依存性があり各動作時の皮膚の動きが異なることから、膝関節伸展位であったことと共に前面の膝関節伸筋の緊張状態なども関係している可能性も伺えた。【理学療法学研究としての意義】大腿回旋時の大腿マーカーの部位毎の移動量の違いを一部明らかにすることができた。こうした動態を明らかにしていくことは、股関節回旋運動を正確に計測する際の大腿マーカー貼付位置決定に有効な情報となりえる。今後は前後方向における傾向を明らかにすることと同様に、遠位部のみならず大腿部全体に渡って回旋時にどの様な動きをするかを調査し、その上で、様々な動作時の正確な股関節回旋角度の計測を検討する所存である。
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岩田 泰典, 吉岡 慶, 鷹澤 翔, 鈴木 貞興
セッションID: A-P-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに】日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会(以下、日整会)による体幹回旋可動域測定は、坐位にて行われるため、肩甲帯・骨盤帯などの代償運動が生じやすい。また、測定時の基本軸は両上後腸骨棘(PSIS)を結ぶ線、移動軸は両肩峰を結ぶ線であるため測定誤差が生じやすい。これらの事実を考慮し、我々は体幹回旋可動域測定を、膝立て背臥位で実施している。我々は、第47 回日本理学療法学術大会において日整会による胸腰椎回旋可動域と膝立て背臥位での体幹回旋可動域の相関性について調べることを目的として、それぞれの方法での検者内信頼性と再現性について報告した。今回は、上述した2 つの方法に関して、検者間信頼性と体幹回旋可動域の相関について検討したので報告する。【方法】対象は腰痛がなく、外傷などの既往歴のない健常者11 名(内訳男性11 名、女性0 名)、平均年齢27.2 ± 4.1 歳、身長171 ± 6.8cm、体重68 ± 9.5kg、BMI23.2 ± 1.9 である。測定は臨床経験1 年目、5 年目の理学療法士2 名で行った。測定に先立ち被検者は、腰部を中心としたストレッチを約5 分間実施した。胸腰椎回旋可動域測定は日整会により制定された関節可動域検査法で測定した。膝立て背臥位での体幹回旋可動域測定は、背臥位から股関節を60°屈曲した肢位で、胸の前で手を合わせた状態で行った。初回測定時、足部の位置にテープを貼り、測定毎に足部の位置を修正した。関節可動域測定は両肩峰を結ぶ線が床面と平行になるようにセットし、床面と両上前腸骨棘(ASIS)を結ぶ線の成す角とした。体幹側屈などの代償が出現しないよう注意し、骨盤と下肢を一緒に誘導した。関節可動域測定は東大式金属製関節角度計に統一し、測定値は1° 刻みで検者が読み取った。測定は日整会による方法と、膝立て背臥位での体幹回旋可動域をそれぞれ左右3 回ずつ計12 回行い、級内相関係数(以下、ICC)を用いて検者間信頼性を検討した。また、ピアソンの相関係数を用いてそれぞれの方法の体幹回旋可動域の相関性について検討した。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対して研究の趣旨と内容、得られたデータは研究以外で使用しないこと、および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明のうえ同意を得て研究を行った。【結果】検者間信頼性:ICCは背臥位右回旋0.69、背臥位左回旋0.62、坐位右回旋0.88、坐位左回旋0.63 を示した。相関係数:背臥位・坐位右回旋0.40、背臥位・坐位左回旋0.47 を示した。【考察】本研究では、日整会による胸腰椎回旋可動域と膝立て背臥位での体幹回旋可動域測定の検者間信頼性と体幹回旋可動域の相関性について検討した。結果は、相関係数では背臥位・坐位右回旋0.40、背臥位・坐位左回旋0.47 とそれぞれの方法での体幹回旋可動域に強い相関関係は認めなかった。検者間信頼性についてはICC0.6 以上の結果が得られた。我々は第47回日本理学療法学術大会においてそれぞれの方法での検者内信頼性・再現性についてはどちらも良好な結果が得られている。以上のことから、膝立て背臥位での体幹回旋可動域測定は、体幹の回旋量を測る1 つの指標として使用することが可能であると考える。また、前回・今回の研究で坐位に比べ臥位では回旋可動域が大きくなる傾向が見られた。これは臥位での測定時には抗重力筋の活動が低下するため可動域に影響することが考えられる。このような点からも、手術後などでも簡便に取れる姿勢であり、検者側の誘導も行ないやすいため、臨床上簡便に使用することが可能と考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により膝立て背臥位での体幹回旋可動域測定は、体幹の回旋量を測る1 つの指標として使用することが可能となった。今後は臨床で使用するとともに、同方法の傾向などについても探求していきたい。
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末廣 忠延, 大坂 裕, 小原 謙一, 渡邉 進
セッションID: A-P-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに】腰痛症患者は,しばしば四肢運動中に過度の腰椎・骨盤の可動性を認める。一方,腰椎の運動機能障害の評価として腹臥位での股関節伸展運動や腹臥位での膝関節屈曲運動が用いられ、過度の腰椎前彎・骨盤前傾が認められる(Sahrmann 2002)。そのため腹臥位での脊椎・骨盤の動きを定量的に評価することは重要である。そこで立位・座位での脊柱の彎曲角度を被験者の背部の体表面から簡便に測定できる脊柱形状計測分析器 “Spinal Mouse”(Index社製)(以下Spinal Mouse)という機器で,腹臥位時の脊柱彎曲角度が測定できないかと考えた。このSpinal Mouse は立位での直立姿勢や立位での屈曲・伸展の脊柱の彎曲角度測定についての高い信頼性が報告されている(Manion 2004)。しかしながら,Spinal Mouseを使用して,腹臥位での再現性を検討した報告は我々の渉猟し得た範囲では見当たらない。そこでSpinal Mouseを使用して,腹臥位での同日内の測定間と異なる測定日間の検査者内信頼性を検討することを目的とした。【方法】対象は健常男性20 名(平均年齢21.2 ± 3.0 歳)であった。脊柱彎曲角はSpinal Mouseを使用して,1日目と2日目に各2回ずつ測定した。測定肢位は腹臥位で両上肢を体側に配置し,股関節は中間位とした。また初日とその翌日の測定前に第7 頸椎から第3 仙椎の棘突起を触診し棘突起のすぐ外側にマーキングを行った。脊柱彎曲角の測定はマーキング箇所にセンサー部を当て,頭側から尾側へ移動させて測定した。初日とその翌日の2 回目の測定は,同日の1 回目の測定時に使用したマーキングを使用した。今回分析に使用したのは第1 胸椎から第12 胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和を胸椎後彎角,第1 腰椎から第1 仙椎までの上下椎体間がなす角度の総和を腰椎前彎角,仙骨背側表面と鉛直線とのなす角度を仙骨傾斜角として測定した。なお,検者は臨床経験8 年の理学療法士1 名とし,十分な練習を行った後に測定した。統計処理はSPSS ver. 21 を使用し,1 日目と2 日目の各同日内の1 回目と2 回目の計測値で級内相関係数(以下,ICC)を求め,同日内の検者内信頼性を検討した。また,異なる測定日間のICCは1 日目と2 日目の各2 回の平均値を代表値としてICCを求めた。さらに,同日内と異なる測定日間の検者内の測定誤差の分布範囲を調査するために,Bland-Altman分析を行い,系統誤差である加算誤差と比例誤差の有無を検討した。加算誤差は,測定値の差の平均の95%信頼区間を算出し,この区間が0 を含まない場合,固定誤差が存在すると判断した。比例誤差は作成したBland-Altman plotにおけるPearsonの相関係数を算出し,有意水準5%にて有意な相関がみられた場合,比例誤差が存在すると判断した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の1 日目の同日内のICCは,それぞれ0.94,0.95,0.85 であった。また2 日目の同日内のICCは0.97,0.92,0.92 であった。また異なる測定日間のICCは,0.84,0.91,0.78 であった。Bland-Altman分析では1 日目・2 日目の同日内,異なる測定日間のいずれの胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角においても測定値の差の平均が95%信頼区間に0 を含んでいた。またBland-Altmanの回帰に有意な相関を認めなかった。【考察】本研究での腹臥位での同日内,異なる測定日間の胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角のICCはいずれも0.78 以上でいずれの指標もsubstantial以上で,Manionらが報告した立位での測定と同様に高い信頼性が得られた。またBland-Altman 分析の結果,同日内・異なる日間の検者内の胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角は加算誤差,比例誤差ともに存在しないと確認された。このことから腹臥位でSpinal Mouseの使用は信頼できる測定値が得られることが示唆された。本研究は測定値の再現性を検者内で検討したが,検者間での測定も必要である。今後はこれらの課題を解決するために更に研究を進めていきたい。【理学療法学研究としての意義】Spinal Mouseの腹臥位での脊柱彎曲角度の信頼性を検証することにより,腹臥位時の脊柱彎曲角度,仙骨傾斜角の評価の有用性が期待できることが示され,理学療法の効果判定に寄与するものと思われる。
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清水 良祐, 田中 伸哉, 堀田 一樹, 神谷 健太郎, 亀川 大輔, 秋山 綾子, 鎌田 裕実, 片桐 麻愉, 石井 春香, 水澤 純一, ...
セッションID: A-P-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】関節可動域(ROM)の測定は、整形外科手術後の固定や脳血管疾患後の関節拘縮に対して, リハビリテーションの効果を評価するために広く行われている。しかし、臨床的に行われているROMの測定は、患者の衣服の上から測定部位を探し、可動域測定のための基準線を目測で決めるため、検者の主観が入りやすく測定結果のばらつきが大きいという欠点がある。さらに、測定時には検者が患者を介助しながらゴニオメーターを使用することが多いため、ROM測定そのものが検者の技術と経験に影響されるという問題もある。一方、近年家庭用ゲーム機のために開発された簡易型多視点モーションキャプチャ装置(Kinect, マイクロソフト社)は、小型デジタルカメラで被験者を撮影するだけで、コンピュータが身体の位置情報を取り込んで動作を瞬時に解析できる装置である。またこの装置は、従来の三次元動作解析装置とは異なり、小型で安価なうえに、被験者の身体にマーカーを貼り付けることなく動作を解析できる利点を持ち合わせている。そこで本研究の目的は、Kinectを使用したROM測定でROMの定量的な評価が可能か否か、さらにこの測定方法が簡便な手段として臨床応用が可能か否かを検証することとした。【方法】健常若年者10 名(23 ± 3 歳)を被験者、臨床経験を有する理学療法士(PT)5 人を検者とした。初めに、KinectによるROMの測定方法の信頼性と妥当性を同時に検討するために、Kinectと独自に開発したROM測定用のアプリケーションソフトを使用して、右肩関節の外転方向への最大ROMをコンピュータ上で計測した。Kinectで測定するのと同時に、検者がゴニオメーターを使用して従来の方法で同部位のROMを測定した。ROM測定は、Kinectが自動的に計測した結果と、理学療法士が測定した結果の両者を記録した。ROM測定は、被験者1 人につき上記の方法で、1 日以上の間隔を空けて2 回行い、全被験者に対して合計100 測定を実施した。KinectによるROMの測定方法の信頼性は、Kinectと検者による5 回の測定結果を、検者内の級内相関係数 (ICC)と検者間のICCをそれぞれ算出し比較することで検討した。KinectによるROMの測定方法の妥当性は、Kinectおよび検者によって測定された値をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】すべての被験者と検者には、本研究の主旨と内容を説明した上で、研究に参加することの同意を得た。なお、本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得て実施された。【結果】Kinectと検者による測定結果の検者内ICCは、それぞれ0.90、0.82 であり(それぞれP<0.05),その検者間ICCは、それぞれ0.73、0.68 であった(それぞれP<0.05)。また、Kinectと検者によって測定されたROMの値には有意な正の一次相関が認められた(r=0.69, P<0.05)。【考察】KinectによるROMの測定値は、PTによる測定値と比較して同程度もしくはより高い信頼性を示し、KinectによるROM 測定は、より誤差の少ない測定結果が得られると思われた。リハビリテーションの臨床現場では、患者のROMを担当PT 以外のPTが測定することがあり、検者間での誤差が生じやすい。しかし、Kinectを使用して測定することでその誤差を少なくし、患者の身体状況をより正確に把握することができると考えられた。一方で、KinectによるROMの測定の妥当性に関しては、PTが測定した値と比較して誤差が大きくなるため、Kinectおよびアプリケーションソフトの更なる改良が必要と思われた。【理学療法学研究としての意義】本研究は、Kinectを用いたROM測定が、臨床で行われている従来のROM測定よりも簡便に実施でき、高い信頼性と妥当性のある新しい測定方法をであることを報告した研究である。
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百瀬 公人, 若田 真実, 大羽 明美, 佐々木 涼子, 宮田 美穂, 稲葉 絵里子, 宮下 貴司, 齋門 良紀, 谷川 浩隆
セッションID: A-P-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】関節可動域測定は理学療法士にとって最も重要な評価方法の一つである。日本における標準的な測定法は、1995 年に改定された日本整形外科学会身体障害委員会および日本リハビリテーション医学会評価基準委員会が定めた関節可動域ならびに測定法である。この測定法において計測は「通常は5 度刻み」と記載されており、測定精度を5 度としている。また、理学療法教育に用いられる評価法の教科書には測定精度について言及しているものと無いものがある。測定精度を記載している教科書は全て5 度としているが、その論理的根拠は示されていない。関節可動域測定の相対信頼性についての報告は多いが、1 度と5 度の測定精度の違いについて明らかにした研究は無い。そこで、この研究の目的は関節可動域測定の測定精度が1 度と5 度ではどちらを用いるべきなのかを検者内信頼性と最小可検変化量を用いて明らかにすることである。【方法】対象は患者28 名と健常者5 名である。患者の疾患は、廃用症候群、脳梗塞、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、心不全、慢性閉塞性肺疾患、腱板断裂術後、大腿骨頚部骨折、前腕骨折などである。除外基準としては、膝に痛みのある者、膝の手術を受けたものとした。平均年齢は72.5 ± 21.5 歳、男性19 名、女性14 名である。測定関節は左右の膝関節とし、計66 膝を対象とした。検者は臨床経験8 年目の理学療法士1 名である。測定は背臥位で東大式角度計を用い、膝関節の屈曲と伸展の他動的関節可動域を日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の定めた方法により計測した。計測は2 回実施し、1 回目の計測結果が2 回目の計測結果に影響を及ぼさないように、角度計の測定値の読み取りは他の理学療法士が行った。測定精度は1 度とし、計測した後その値を測定精度5 度に変換した。変換方法は0、1、2 度が0 度、3、4、5、6、7 度が5 度、8、9 度が10 度、とした。統計は検者内信頼性を級内相関係数ICC(1.1)で算出した。また、誤差の種類はBland-Altman分析を用いて検定し、系統誤差(固定誤差及び比例誤差)の有無を明らかにした。また、誤差の範囲を最小可検変化量として算出した。有意水準は5% を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は安曇総合病院倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。【結果】膝関節屈曲角度の測定精度1 度の中央値、最大値、最小値は1 回目が141 度、162 度、49 度、2 回目が140 度、161 度、126度、測定精度5 度の1 回目が140 度、160 度、50 度、2 回目が140 度、160 度、45 度であった。膝関節伸展角度の測定精度1 度の中央値、最大値、最小値は1 回目が-10 度、19 度、-30 度、2 回目が-10 度、19 度、-34 度、測定精度5 度の1 回目が-10 度、20 度、-30 度、2 回目が-10 度、20 度、-35 度であった。ICC(1.1)の結果は、屈曲角度の測定精度1 度が0.995(標準誤差2.0 度)、測定精度5 度が0.991(標準誤差2.0 度)であり、伸展角度の測定精度1 度が0.967(標準誤差0.7 度)、測定精度5 度が0.943(標準誤差0.7 度)であった。また全てのICCは有意であった。Bland-Altman分析より屈曲角度の測定精度1 度と5 度、伸展角度の測定精度1度と5度のいずれも系統誤差を認めなかった。したがって、最小可検変化量は、屈曲角度の測定精度1度が4.6度、5 度が6.3 度、伸展角度の測定精度1 度が4.1 度、5 度が5.5 度であった。【考察】ICCおよび最小可検変化量の違いはわずかであるが、可動域の変化の検知は測定精度5 度より1 度の方が鋭敏であると考えられる。膝関節屈曲可動域を測定精度1 度で測定し91 度であった患者が治療後6 度変化し97 度になったとする。この変化は測定精度1 度の最小可検変化量の4.6 度以上であり、この場合治療効果があったと考えられる。一方測定精度5 度に変換すると、治療前は90 度、治療後は95 度である。この変化は測定精度5 度の最小可検変化量の6.3 度以下であり、偶然誤差範囲内である。したがって、この場合治療効果があると明確に判定できない事になる。このように、測定精度5 度の場合は10 度以上の変化を示さなければ、治療効果の影響と考えることができない。この事から考えると治療効果を鋭敏に測定できない場合がある測定精度5 度の計測方法は用いるべきではないと思われる。また、全ての理学療法士は関節可動域測定の自分自身の最小可検変化量を知ることと、その最小可検変化量を小さくする練習が必要であると思われる。今回の研究結果では、最小可検変化量に対する臨床経験の影響や膝関節以外の最小可検変化量は不明なので、今後明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】理学療法士にとって最も重要な評価法の一つである関節可動域測定の測定精度を明らかにすることは、理学療法の評価及び治療の向上に役に立つと考えられる。
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福元 喜啓, 池添 冬芽, 中村 雅俊, 塚越 累, 山田 陽介, 木村 みさか, 市橋 則明
セッションID: A-P-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに,目的】一定の発揮筋力値を正確に再現する能力は筋力感覚(Force sense, 以下FS)と呼ばれ,関節安定性に寄与する固有感覚のひとつとして近年,注目されてきている(Docherty et al, 2004)。先行研究では,FSは筋疲労や関節不安定性により低下することが報告されている(Vuillerme and Boisgonitier 2008, Docherty et al.2006)。良好なFSによる関節安定性は運動中の身体安定性に寄与し,姿勢制御能力や動作能力にも好影響を及ぼしていると推察されるが,これまでFS と姿勢制御能力・動作能力との関連を調べた報告は見当たらない。本研究の目的は,中高齢者のFSを評価し,加齢変化および姿勢制御能力・動作能力との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は,地域在住の健常な中高齢女性42 名(平均年齢72.2 ± 7.7 歳)とした。Strain gauge system(DKH社製)を使用し,右側の大腿四頭筋の最大筋力とFSを測定した。測定肢位は端坐位とし,下腿遠位部に張力計測用ベルトを巻いて膝関節屈曲90°位の等尺性収縮にて測定を行った。最大筋力は2 回測定し,大きい値(Nm)をデータ解析に使用した。FS の目標値には,最大筋力の10%と30%の値を用いた。FSの練習課題として,ディスプレイ上に筋力目標値と実際の発揮値をリアルタイム表示し,両者を常に一致させるように対象者に指示した。5 秒間の練習を5 回実施した後,測定課題として,ディスプレイを隠した状態で目標値の筋力発揮を再現させた。5 秒間の計測を行い,実測値と目標値との絶対誤差の平均値を算出し,最大筋力値で正規化(%)した。測定は3 回行い,最も小さい値をFSの指標としてデータ解析に使用した。10%と30%のFS測定順序はランダムとした。姿勢制御能力の評価として片脚立位保持時間(OLS;秒),Functional Reach test(FR;cm), 動作能力の評価として,3 分間歩行距離(3MWT;m), Timed Up and Go test(TUG;秒),垂直跳び(VJI;kgm)を実施した。統計学的検定として,最大筋力,FSと年齢,姿勢制御能力,動作能力との関連を,Spearman順位相関分析を用いて調べた。統計の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,測定機関の倫理委員会の承認を得て行われた。すべての対象者に研究内容に関する説明を行い,書面にて同意を得てから測定を実施した。【結果】FSは,10%では3.46 ± 2.34%,30%では3.88 ± 3.26%であった。最大筋力は年齢(r=−0.41,p<0.01),TUG(r=−0.39,p<0.05),VJI(r=0.43,p<0.01)との間にのみ有意な相関を示した。10%FSは,年齢およびいずれの姿勢制御能力・動作能力とも有意な相関を示さなかった。一方,30%FSはOLS(r=−0.38,p<0.05),3MWT(r=−0.35,p<0.05),TUG(r=0.37,p<0.05)と有意な相関を示したが,年齢とは有意な相関を示さなかった。また,10%FSと30%FSとの間には有意な相関が認められなかった。【考察】本研究の結果より,最大筋力は中高齢期においても加齢変化が進行するが,FSは中高齢期においては加齢変化が生じるわけではないことが示唆された。また最大筋力は動作能力項目とは相関が認められたが姿勢制御能力項目とは相関が認められなかったのに対して,30%FSは動作能力のみならずOLSとも相関が認められた。このことは,中高齢者におけるバランス保持には筋力値の大きさよりも,むしろ動作安定性のための適切な筋力発揮に寄与するFSが重要であることを表していると考えられる。一方,10%FSはどの姿勢制御能力や動作能力とも相関を示さず,また10%FSと30%FSとの間にも相関が認められなかった。このことより,FSであっても目標筋力値の大きさにより異なる特徴を有し,小さい筋力値のFSよりも30%程度のFSのほうが中高齢者の姿勢制御能力や動作能力への影響が大きいことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】中高齢者の骨格筋機能の評価としてこれまで主に最大筋力が用いられてきたが,本研究は中高齢者の姿勢制御能力や動作能力に影響を与えうる筋機能要因のひとつとしてFSも評価することの重要性を示した。さらに中高齢者の姿勢制御能力・動作能力向上を目指した運動療法の開発のための一助にもなると考えられ,本研究の理学療法学研究としての意義は大きい。
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髙梨 晃, 加藤 宗規, 川田 教平, 塩田 琴美, 小沼 亮, 松田 雅弘, 宮島 恵樹, 黒澤 和生
セッションID: A-P-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】人体における硬さの一つの指標である軟部組織硬度(soft tissue stiffness;STS)とは,四肢,体幹の骨,関節,胸腹部内臓を除いた皮膚,皮下組織,筋肉,腱,靭帯,神経,血管を含むすべての組織の硬さのことである.現在までに我々は,荷重を規定した押し込みに対する変位値を指標とする軟部組織硬度計(soft tissue stiffness meter;STSM)における信頼性の検討を行い,生体模擬モデルおよび生体測定における検査者内および検査者間信頼性が高値を示すことを報告した.さらに基礎的研究として,筋出力強度におけるSTSの変化について,筋内圧の変化を示す一つの指標となることについて報告した.そこで本研究は,筋出力強度におけるSTSの変化について, 得られた変位値より,筋出力強度間の変位値の関係及び最大筋力値と筋出力強度ごとの変位値との関係について分析し,さらに,最大筋力値と安静時と各筋出力強度で得られた変位値の差(⊿変位値)との関係について明らかにすることを目的とした.【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人男性20 名とした.方法は,STSM(特殊計測社製,TK-03C),等尺性筋力測定装置(フロンティアメディック社製)のいずれも動ひずみアンプ(共和電業社製,PCD-300A)に接続して使用した.STSの測定肢位は,等速性筋力測定装置(BIODEX社製,BIODEX3PRO)の座面上の端座位において装置に付属のベルトで体幹,骨盤帯及び大腿部を固定し,膝関節90°屈曲位とした.測定部位は,上前腸骨棘と膝蓋骨中心を結ぶ線上の1/2 にあたる大腿四頭筋々腹部とし,皮膚に印を付けた.STS測定は,安静時および等尺性最大随意収縮(100%)時,75%,50%,25%の筋出力時STSについてSTSMを用いて測定した.筋出力は,等尺性筋力測定装置の筋出力値の表示をスクリーンに映し,被験者は見ながら筋出力を行うとともに,検査者が口頭にて筋出力を保持させ安定したところで3 回のSTS測定を行った.STS測定における変位値は,荷重10N時変位値を採用し,その算出には解析ソフト(アミシステムス社製)を使用した.統計学的検討としては,安静時および等尺性最大随意収縮(100%)時,75%,50%,25%の筋出力時の変位値について,反復測定による一元配置分散分析を用い,ポストホックテストとして多重比較法(Bonferroni)を用いた.また筋出力強度間の関係及び最大筋力値と筋出力強度ごとの変位値との関係,さらに安静時と各強度間における変位の差(⊿変位値mm)と最大筋力値の関係についてPearsonの相関係数を用いて分析した.統計処理には,統計ソフトSPSS(Ver15.0J)を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者においては,実験内容について書面および口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得て行った.【結果】筋出力強度に伴うSTSの変化は,安静時9.3 ± 0.8mm,25%時7.7 ± 0.9mm,50%時6.8 ± 0.9mm,75%時6.1 ± 0.9mm,100%時5.5 ± 0.8mmであり,筋出力強度に伴い有意な変位値の減少を認めた(p<0.01). また筋出力強度間の関係は, 0%MVCと75%MVCの間を除き,相関係数は0.580 〜0.911 であり,有意な相関を認めた(p<0.01).最大筋力値と筋出力強度ごとの変位値との関係は,相関係数が-0.171 〜0.116 であり,いずれも有意な相関を認めなかった(p>0.05).さらに安静時と各強度間における変位の差(⊿変位値mm)と最大筋力値の関係は,相関係数が0.008 〜0.326 であり,いずれも有意な相関を認めなかった(p>0.05).【考察】本研究の結果より,筋収縮に伴う筋内圧の変動を相対的に捉える一つの指標となると推察された.また筋出力強度に伴う変位値の変化は,筋出力によるSTSの相対的な個体内変動を捉える評価として,有用であることが示唆された.しかし,各筋出力強度の変位値と最大等尺性膝関節伸展筋力値との間には,有意な相関が認められなかったことより,個体間における変位値の増減が筋力値の高低を左右する値ではないことが明らかとなった.さらに,各筋出力強度間で得られる⊿変位値と最大筋力値の間には,有意な相関は認められず,⊿変位値の増減が,筋力値の高低を左右する値ではないということが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】本研究で考案したSTS測定は,従来の筋力評価に加え,筋出力時のSTS測定を行うことで,臨床的介入による固体内変動を捉え,治療効果判定の検出力が高まる指標として考えられる.
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牛山 直子, 百瀬 公人
セッションID: A-P-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】臨床において客観的な筋力測定の必要性がいわれ、簡易的な徒手保持型筋力測定器(以下、HHD)の使用がひろまってきている。HHDを固定用ベルトで固定することで、再現性のある測定が可能とされている。しかし、膝伸展筋力のように強い筋力の測定をする場合、最大筋力発揮のためには被験者の体の固定も必要であると思われる。従来の椅子とセンサが一体型の測定器では、被験者を椅子にベルトで固定して測定するのに比べ、HHD測定では、被験者に端坐位をとらせ体を固定せずに測定することが多い。そのため、発揮筋力が上体の重さ以上になると大腿が座面から浮き上がってしまい最大筋力を発揮できないことが考えられる。先行研究では、被験者の体の固定がないと固定した場合に比べ発揮筋力が弱いとされ、百瀬は固定なしの場合、対象者のトルク体重比が0.92Nm/kg以上だと最大筋力測定できないと推定した。しかし、固定量が増えてきたときの最大筋力測定可能なトルク体重比の限界値は明らかにされていない。そこで本研究では、4 種類の固定法で測定した膝伸展トルク体重比の差を明らかにし、さらに最大筋力測定可能なトルク体重比の範囲を推定する。【方法】対象は20 〜40 歳の健常成人、除外基準として現在測定下肢または腰に痛みのあるもの、1 年以内に測定下肢の膝関節、大腿部の外傷既往があるものとした。検者は1 名で全ての測定を同一検者が行った。測定機器は等尺性筋力測定器GT-330(OG技研)を使用し、利き脚の最大等尺性膝伸展筋力を測定した。固定条件は固定なし、大腿固定(大腿のみベルト固定)、上肢把持(椅子横のバーを肘伸展位で把持)、最大固定(体幹、骨盤、大腿をベルト固定、上肢把持)の4 条件とした。測定姿勢は股関節屈曲90 度座位、膝関節屈曲60 度、センサは下腿遠位前面に下腿軸に垂直にあて、各条件で位置が同一になるようレバーアームを設定し、膝関節中心からセンサ中心までの距離を測定した。最大固定以外の条件では背もたれは使用せず、測定中は体幹を正中位に保ち、殿部が挙上しないよう指示。上肢は把持なしの場合胸の前に組むよう指示した。同一被験者の測定は1 日で行い、1 条件につき5 秒の最大収縮を30 秒の休憩を挟んで2 回実施。条件間の休憩は10 分、測定順はランダムとした。測定中激励のかけ声をかけた。測定中は被験者、検者とも筋力値をみないよう盲検化した。また測定中痛みがあったら中止するよう説明した。データ分析には2 回測定の最大値を使用し、トルク換算、下腿の重量補正を行った後、トルク体重比を求めた。統計処理として一元配置分散分析、事後検定にTukey検定を行った(p<0.05)。さらに、Bland-Altman分析で最大固定と各固定の比較を行い、比例誤差の認められたものについて、回帰式から最大固定と同程度に測定可能と思われる推定トルク体重比を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は富士見高原医療福祉センター倫理審査委員会の承認を得た。被験者には研究の目的及び測定内容を説明し参加の同意を得た。【結果】対象者は27 名(男性12 名、女性15 名)、年齢27.6 ± 4.8 歳、身長164.4 ± 8.1cm、体重60.4 ± 10.1kgであった。各条件のトルク体重比は、固定なし1.95 ± 0.43Nm/kg、大腿固定2.41 ± 0.52Nm/kg、上肢把持3.33 ± 0.86Nm/kg、最大固定3.51 ± 0.88Nm/kgで、最大固定と上肢把持に比べ、固定なし、大腿固定は有意にトルク体重比が低かった(p<0.01)。最大固定と上肢把持、固定なしと大腿固定には有意差は認められなかった。最大固定と他3 条件間のBland-Altman分析の結果、上肢把持では固定誤差、比例誤差とも認められなかった。固定なし、大腿固定では固定誤差、比例誤差が認められた。最大固定と同程度に測定可能と思われる推定トルク体重比は、固定なしで0.92Nm/kg 、大腿固定で1.06Nm/kg であった。【考察】固定なし、大腿固定では、最大固定に比べトルク体重比が低く固定が不十分であることがわかった。しかし、対象者のトルク体重比が低くなる程、最大固定時との筋力の差が小さくなることが予測され、最大固定と差がなく測定可能なトルク体重比の推定値は、固定なしの場合は0.92Nm/kg 、大腿のみの場合は1.06Nm/kg であった。よって、筋力がこれ以下のトルク体重比を示した場合は、固定が少なくても最大筋力が測定できる可能性がある。上肢把持の場合は最大固定と差がなく測定できることがわかった。よって簡易的な方法で強い筋力対象者の最大筋力を測定するためには、最低上肢で椅子を把持する必要があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】簡易的な等尺性膝伸展筋力測定において、上肢で椅子を把持することで測定の妥当性を高める可能性がある。
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古川 公宣, 下野 俊哉
セッションID: A-P-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに,目的】表面筋電図は非侵襲下で筋活動電位を導出するため,簡便な筋機能評価法として有用である.筋電図波形の解析で得られる指標は,活動電位の大きさ(振幅)とその経時的変化及び波形の中に含まれる周波数成分である.この中で,加齢に伴う筋機能の変化を捉えるためには周波数値が用いられている.我々は過去の本大会において,表面筋電図波形の分析に振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用い,筋出力や運動速度の変化に対するこの解析法の感受性と特徴を報告した.本研究目的は,加齢に伴う筋機能の変化をAPDF解析を用いて分析し,従来の指標である周波数値との関連性を検討する事である.【方法】30 歳代(13 名:34.3 ± 1.7 歳),50 歳代(5 名:54.2 ± 3.3 歳),70 歳代(13 名:75.1 ± 3.0 歳)の健常成人女性を対象とした.被験筋は,過去の加齢に関する研究報告において対象とされる頻度が高い前脛骨筋とした.被験者は,足関節底背屈0°位で験者の加える底屈方向への最大徒手抵抗に対してこの肢位を5 秒間維持した.この間の筋活動電位を導出し,連続して2 秒間安定した部分の筋活動電位を解析に使用した.APDF解析は,対象波形中の最大振幅を基準として,5%毎の度数分布を作成,各階級の全データ数に対する割合を算出し,出現確率とした.また,周波数値は高速フーリエ変換を用い,中間周波数値を算出,平均振幅値も算出した.統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定にて各年代間の有意性を有意水準5%未満で検討した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者は研究の目的と内容の説明を受け,同意の後に本研究に参加した.【結果】平均振幅値は3 群間に有意差はなかった.中間周波数値は加齢と共に低値を示す傾向があり,30 歳代が70 歳代に比べて有意に高値を示したが(p<0.05),その他の年齢群間に有意差はなかった.APDF解析では15-20%振幅帯を境に,これより低い振幅帯では低い年代が低値を示しており,30 歳代と70 歳代では前者が有意に高値を示していた(p<0.05).また,15-20%振幅帯よりも高い振幅帯では,低い振幅帯とは対照的に,加齢に伴い高値を示す傾向があり,25-30,35-60%までの各振幅帯及び65-70%振幅帯において30 歳代と比較して70 歳代の方が有意に高値を示した(すべてp<0.05)【考察】Lexellによれば,加齢に伴う骨格筋の変化はTypeII線維の脱髄と再支配に始まる変化が,進行によって前者が後者を上回ることで,TypeIIの欠落が進行することであるとしている.これは,サルコペニアに関する記述においても同様であり,加齢に伴う骨格筋の変化として代表的なものである.本研究結果において,中間周波数値は30 歳代と70 歳代の間に有意差を示した.これはTypeII線維の欠落による発火頻度の低下が70 歳代で顕著であること示しており,先行研究結果と一致する.APDF解析では,0-15%振幅帯で70 歳代が低値を示し,25-70%振幅帯では高値を示していた.最大筋力発揮時には,高出力の要求によりTypeII線維を主体とした動員の同期化により大量動員がなされる.結果として筋線維の動員は高頻度に変化し,筋電図波形は基線を通過する頻度が増加して高振幅,高周波の波形が生成されることになる.高齢者では,TypeII線維の欠落によって,動員線維の割合は若年者と比してTypeI線維が大きくなる.これはTypeI及びII線維の電気生理学的特性の違いから,電気的変化の頻度が低下し,基線の通過頻度が低下,波形の極性変化が15-20%振幅帯に集中するため,低振幅帯の減少と中振幅帯の増加に繋がったのではないかと考えられる.さらに,平均振幅値では3 群間に有意な差は見られなかったが,APDF解析では振幅値をもとに分析しているにもかかわらず,これらの有意性を見出すことができた.これは,筋機能の変化に関する感受性の高さを示している事を示唆していると考えられた.今後はさらに研究を進め,各振幅帯の持つ生理学的背景をより明確にする必要性があると感じられた.【理学療法学研究としての意義】加齢に伴う骨格筋の変化は,理学療法プログラム決定において重要な因子である.これを詳細かつ簡便に評価できる方法を確立することは,この過程におて重要なプロセスであると考える.
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久田 智之, 工藤 慎太郎, 颯田 季央
セッションID: A-P-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】腰背筋群は内側筋群の多裂筋と外側筋群の最長筋・腰腸肋筋からなると言われており,内側筋群と外側筋群は神経支配,機能とも異なることが知られている.その中で,内側筋群である多裂筋の機能は姿勢保持や腰椎のコントロール,障害予防など臨床的に重要である.多裂筋の筋機能を測定するために表面筋電図が多く使われているが,筋電図学的には腰背筋群を脊柱起立筋群として捉えていることが多く,内側筋群・外側筋群を分けて考えられていない.また,多くの研究で使われている筋電図電極貼付け位置は海外の報告を引用していることが多く,日本人の体型に適しているのかという検討はされていない.さらに,我々は第47 回本学会において,超音波画像診断より内側筋群において多裂筋の同定は困難な例も存在し,横突棘筋と捉えることが望ましいと報告している.そこで,本研究の目的は超音波画像診断装置を用いて,多裂筋を含む横突棘筋における従来の筋電貼付け位置の妥当性を検討することとした.【方法】対象は腰部に障害を有してない健常成人男性20 名(平均身長172.8 ± 6.1cm,平均体重61.6 ± 9.2kg)の右側とした.超音波画像装置にはMyLab25(株式会社日立メディコ社製)を使用し,測定はBモード,プローブには12MHzのリニアプローブを使用した.腹臥位にてL2・4 棘突起から3cm,L4 棘突起から6cm外側の3 部位を測定部位とし,短軸像を撮影した.固有背筋の同定は先行研究に従い,横突棘筋と最長筋を同定し,L2・4 棘突起から3cm外側の位置での横突棘筋の有無を観察した.さらに(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離,(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離,(c)棘突起から3cmの位置に存在する筋の筋厚を計測した.すべての測定は同一検者が行い,測定方法においては検者内信頼性が高いことを確認した(ICC(1,1)=0.90 〜0.99).また,L2・4 の棘突起から横突棘筋外縁までの距離と身長,体重,腹囲,上前腸骨棘間の距離の関係をspeamanの順位相関係数により検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象には本研究の趣旨,対象者の権利を説明し紙面にて同意を得た.【結果】L2 レベルにおいて棘突起3cm外側に横突棘筋の存在した例は2 例,最長筋の存在した例は18 例であった.L4 レベルでは横突棘筋の存在した例は4 例,最長筋の存在した例は16 例であった.L2・4 レベルともに,横突棘筋の表層に最長筋が存在した.L4 棘突起6cm外側にはすべての例において腰腸肋筋が存在した.また,(a)棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルで2.55 ± 0.41cm,L4 レベルで2.76 ± 0.36cmであった.(b)棘突起から横突棘筋最表層までの距離はL2,L4レベルともに0.39 ± 0.07cmであった.(c)棘突起3cm外側に存在する最長筋の筋厚はL2 レベル2.69 ± 0.01cm,L4 レベルで2.63 ± 0.55cmであった.棘突起から横突棘筋外縁までの距離はL2 レベルにおいて,上前腸骨棘間の距離のみ相関関係を認めた(r=0.44,p<0.05).【考察】表面筋電における多裂筋の電極貼付け位置はVinksらにおけるL4 外側3cmの位置が多く引用されている.しかしながら,本研究の結果からL4 レベルにおいて棘突起から外側3cmの深層には多くの例で多裂筋を含む横突棘筋は存在しないことが明らかになった.さらに,多くの例でL4 レベルの棘突起外側3cmには最長筋を主とする外側筋群が2 〜3cmの厚みで存在する.そのため,現在までの表面筋電における報告は腰背筋群の外側筋群の筋電位を測定している可能性がある.表面筋電の電極貼り付け位置として,横突棘筋が最表層部に来る位置が考えられるが,棘突起から横突棘筋最表層部までの距離は3 〜4mmとなり,棘突起に非常に近く,アーチファクトの影響を受けやすいと考えられる.また,Vinksらは最長筋の表面筋電の電極貼り付け位置として,L2棘突起外側3cm を提唱している.今回の計測においても,L2 外側3cmには最長筋を主とする腰背筋群の外側筋群が存在していた.そのため同部位での筋活動の測定は最長筋の筋活動を測定できている可能性が高い.L2 棘突起から横突棘筋外縁までの距離と上前腸骨棘間の距離に相関がみられた.骨盤から起始し,下位腰椎に付着する横突棘筋は隣接する椎体に停止する線維束と幾つかの椎体をまたいで停止する線維束に分類できる.後者ほど筋束の外縁を走行するため,より高位の横突棘筋は骨盤の大きさと相関したと考えられる.つまり,Vinksらの結果は黄色人種と比較して,大きな人種を対象にしているため,今回の測定結果の相違が生まれたと考えた.【理学療法学研究としての意義】本研究により従来の多裂筋の表面筋電でよく引用されていた電極貼り付け位置は多裂筋ではなく外側筋群の筋電を測定していた可能性がある.そのため従来の研究結果は電極の種類や貼り付け位置を考慮する必要がある.
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馬場 歩, 倉吉 真吾, 楠元 正順, 永崎 孝之, 二宮 省悟
セッションID: A-P-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】前十字靱帯損傷、Anterior knee painなどに代表される膝関節疾患は、大腿骨に対する下腿の回旋ストレスが大きく関係している。これらの動作分析には膝関節の静的アライメントを評価することが重要である。それは、静的アライメントの違いにより運動時の回旋ストレスは変化すると考えられるためである。先行研究においても、大腿骨前捻角の大きさにより大腿骨の運動方向や回旋量に違いが生じる、また大腿骨前捻角が大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなると報告されている。しかし、非荷重位と荷重位において大腿骨前捻角が膝関節の回旋に対しどの程度影響を及ぼすのかは不明である。そこで、本研究は大腿骨前捻角と非荷重位・荷重位の膝関節の関連性を静的アライメントから検討し、歩行やランニング、着地、ストップ動作の分析につなげることを目的とした。【方法】対象は、本研究の主旨に同意の得られた下肢に整形外科的疾患のない健常成人16 名、32 肢(男性8 名、女性8 名、平均年齢24.4 ± 1.5 歳、平均身長164.6 ± 7.1cm、平均体重59.3 ± 11.1kg)とした。荷重による足関節の影響を排除するため、アーチ高率を測定し11%未満・15%以上の被検者は研究の対象から除外した。測定課題は大腿骨前捻角度、背臥位・立位での上前腸骨棘-膝蓋骨中央-脛骨粗面のなす余角(以下Q-angle)とした。大腿骨前捻角度の計測はCraig testを用い、腹臥位となった対象者の尾側からデジタルカメラ(IXY10s、Cannon社製)を定位置に固定して撮影を行った。背臥位・立位のQ-angleの計測は、両側上前腸骨棘・膝蓋骨中央・脛骨粗面にマーカーを添付しそれぞれの肢位で条件が同様となるよう配慮して、上記と同様のデジタルカメラを用いて撮影した。それぞれの撮影した画像を、画像処理ソフトウェアImageJ 1.44(NIH製)を用いて角度を算出した。角度計測は各計測を5 回行い最大値、最小値を除いた3 回の平均値を角度として採用した。統計処理はPearsonの相関係数を用いて相関関係、偏相関を検討した。また、危険率5%未満を統計学的有意水準とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を行うにあたって被検者には、「ヘルシンキ宣言」に基づき本研究の目的と方法について説明し同意を得た。また、得られた個人情報は本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。【結果】各測定項目の平均値±標準偏差は、大腿骨前捻角13.9±3.9°、背臥位Q-angle15.3±7.6°、立位Q-angle20.8±9.8°であった。大腿骨前捻角と背臥位Q-angle間(r=0.70 p<0.01)、大腿骨前捻角と立位Q-angle間(r=0.56 p<0.01)、背臥位・立位Q-angle 間(r=0.86 p<0.01)の全てにおいて、正の相関を認めた。それぞれの偏相関を検討したところ、大腿骨前捻角と背臥位でのQ-angle間(r=0.52 p<0.01)及び背臥位・立位Q-angle間(r=0.79 p<0.01)で正の相関を認めた。しかし、大腿骨前捻角と立位でのQ-angle間には有意な相関を認めなかった。【考察】大腿骨前捻角は、股関節のアライメントを決定する一要因であり、その影響は膝関節アライメントにも波及すると考えられる。本研究結果から、各測定項目の相関関係は、大腿骨前捻角が大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるとする先行研究と同様の結果となった。しかし、それぞれの偏相関においては、大腿骨前捻角は非荷重位での膝関節アライメントと相関があるが、荷重位での膝関節アライメントとはほぼ無相関であった。非荷重位・荷重位でのQ-angle間に強い偏相関関係を認めたために、大腿骨前捻角と荷重位での膝関節アライメントに見かけ上の相関を認めたものと考えられる。以上より、非荷重位では下肢各関節のアライメントを決定する要因である筋収縮や上半身質量中心位置、骨盤の傾斜等の要素が排除されることで、大腿骨前捻角が膝関節のアライメントに大きく影響していることが示唆された。荷重位となると膝関節のアライメントは上記のような要因の影響を受けると考えられる。そのため大腿骨前捻角の影響は相対的に小さくなると考えられ、その他の要因が荷重位での膝関節の静的アライメントを決定していると推察する。【理学療法学研究としての意義】今回得られた結果より、荷重位での膝関節の静的アライメントに影響を及ぼす要因を明らかにすることで、膝関節疾患に対する運動時の回旋ストレスを考慮した評価並びに効果的な理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。
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實 結樹, 丸毛 達也, 石井 達也, 成塚 直倫, 白石 和也
セッションID: A-P-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに,目的】動的バランスの指標の一つとして,Functional Reach Test(以下,FRT)が挙げられる.この評価法は臨床上簡便で再現性が認められている.また,手段的ADL・身体能力にかかわるADLと相関することも示されている.しかし,FRTの方法は様々であり,規定されていないことで計測値が異なることがある.FRTは姿勢制御課題であり,姿勢制御は速度により変化すると言われている.したがって,実施速度により計測値が変化することが予想される.実際に,高齢になるほどリーチ速度が遅くなることが榎本らにより報告されており,速度による影響が予測される.しかし,高齢者を対象とした場合には加齢変化による他の影響も考えられる.したがって,今回は年齢の影響を除外した上で,速度による影響を明らかにすることを研究目的とした.【方法】対象は,下肢に病的機能障害の認められない健常成人24 名とした.対象者は,肩峰・大転子・外側膝関節裂隙中央・外果・第5 中足骨頭にマーカーを貼り,リーチ課題を行った.前方リーチの測定は,両上肢を90°前方拳上させた肢位を開始肢位とし,2 つの方法で測定を行った.前方最大位置までリーチをする方法と(以下,自由リーチ),できるだけ速い速度で前方最大位置までリーチをする方法(以下,最速リーチ)をそれぞれ2 回ずつ測定した.また,開始肢位と最大リーチ位での高さの規定は行わなかった.踵が拳上した場合や前方に一歩踏み出した場合は,測定をやり直した.その際,市販のデジタルカメラで右側方からリーチ動作を撮影した.撮影した動画からVirtual Dubを用いて,開始肢位と最大リーチ位の静止画に変換した.変換した静止画を動画解析ソフトimage Jを用いて,理学療法士1 名が股関節屈曲角度変化・足関節底屈角度変化を求めた.重心動揺測定において,使用機器は重心動揺計(フィンガルリンク株式会社Win-Pod足圧分布測定装置)を使用し,重心前後移動距離を測定した.リーチ距離は身長で,重心前後移動距離は足長で正規化した値を使用した.自由リーチと最速リーチにおける,各データの2 群比較を実施した.統計処理には,統計ソフトR2.8.1 を用いて,対応のあるt検定を行った.いずれも有意水準は5%(p<0.05)とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究に対して,被験者には説明のうえ,口頭・書面にて同意を得た.また,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関しては,ヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承認を得た.【結果】対象者の基本属性は、24 名 (男性:17 名,年齢:23.3 ± 1.6 歳,身長:167.8 ± 7.4cm,体重:60.2 ± 6.3kg,足長:24.5 ± 1.4cm)であった.自由リーチ,最速リーチにおいて,リーチ距離は33.1 ± 5.62cm,29.4 ± 6.0cm,リーチ距離/身長は0.20 ± 0.028,0.17 ± 0.031,重心前後移動距離は52.6 ± 19.0mm,45.9 ± 19.7mm,重心前後移動距離/足長は0.22 ± 0.077,0.19 ± 0.089,股関節角度変化は59.6 ± 11.6°,55.1 ± 9.6°,足関節角度変化は10.9 ± 3.4°,11.7 ± 4.0°であった.リーチ距離(p<0.01),重心前後移動距離(p<0.05),股関節角度変化(p<0.01)において有意差がみとめられた.【考察】本研究では,リーチ動作時の速度が大きいほど,リーチ距離・重心前後移動距離・股関節角度変化が小さかった.また,足関節角度変化に有意な差は生じなかったが,傾向としては速度が大きいほど足関節は底屈位となることが示された.支持基底面の周辺では,股関節ストラテジーが有意に働くと言われており,速い運動に対しては股関節固定性を高めて姿勢制御を行ったと考えられる.そのため,股関節屈曲が減少し,足関節底屈は変化せずにリーチを行ったと考える.関節運動が小さくなったことで,リーチ距離・重心前後移動距離も自由リーチと比較し,有意に小さくなったと考える.藤原らは,上肢拳上運動の速度や運動時間に対応して,局所筋と姿勢筋の開始順序や姿勢筋の活動量が変化することを示しており,これは随意的な運動時の予測的姿勢制御によるものだと述べている.速度が大きくなることで,より予測的な姿勢制御に基づいたリーチ動作の制御が行われた可能性がある.そのため,最速リーチでは,自由リーチと比較し,筋活動のタイミングや活動量が変化したと推測される.これらのことから,前方リーチの速度が大きくなることで,予測的姿勢制御による股関節ストラテジーの使用を減少させることが示された.【理学療法学研究としての意義】前方リーチの速度が大きくなることで,リーチ距離や関節角度が小さくなった.目的とする評価に応じて速度を変化させる必要があることが示された.
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森 友実子, 高倉 利恵
セッションID: A-P-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】脊柱側弯症は早期発見、早期治療をすることで側弯の進行を防ぐことができる。このため、小・中学校では脊柱側弯症検診を実施している。しかし、検診方法は地域により様々であり、決まった方法がない。このため脊柱側弯症が見落とされる例も少なくない。この報告をうけ、脊柱側弯症の姿勢評価と、簡便に側弯の程度を数値化できるスコリオメーターを用いた評価の関連性を調べることで、より信頼性の高い脊柱側弯症の評価が可能となり、検診での脊柱側弯症の見落としを軽減できると考え研究を行なった。【方法】姿勢評価については、男性は上半身裸、女性は指定のタンクトップを着用し実施した。立位姿勢で肩甲骨下角と上後腸骨棘にランドマークとして直径8mmのシールを貼り、a)頭部の位置、b)肩甲骨の高さ、c)肩と頸部のライン、d)上後腸骨棘の高さ、e)ウエストラインと上肢の距離を「対称」又は「非対称」で評価し、被験者の後面からデジタルカメラ(CASIO Ex-Z31)で撮影を行った。スコリオメーター(MIZUHO OSI社製 No.5181525)を使った脊柱回旋角度については、立位姿勢から両手掌を合わせ、体幹をゆっくり前屈しスコリオメーターを脊椎の棘突起にあて回旋角度の最大値を計測した。この時にハムストリングスが硬く体幹の前屈が十分に行えない被験者は、両膝関節を均等に屈曲し、体幹の前屈を行い計測した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者の選択基準は研究中に腰部や背部に疼痛、不快感が発生するリスクがある点、男性は上半身裸で女性はタンクトップになり被験者の後面を写真撮影する点を承諾、同意書にサインを得られた者とした。また本研究の対象除外の基準は脊椎疾患の既往歴・現病歴のある者とした。以上の基準を満たした、大阪河﨑リハビリテーション大学4 年生のボランティア学生22 名(男性10 名、女性12 名)で平均年齢21.5 歳(範囲21-22 歳)を対象とした。なお、本研究は大阪河﨑リハビリテーション大学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号OKURU24-BO11)。【結果】姿勢評価における非対称者数の割合は、a)頭部の位置は18.1%、b)肩甲骨の高さは68.1%、c)肩と頸部のライン100.0%、d)上後腸骨棘の高さ54.5%、e)ウエストラインと上肢の距離86.3%であった。スコリオメーターを用いた脊柱回旋角度の割合は0度、1度は0.0%、2度は27.2%、3度は22.7%、4度は13.6%、5度は18.1%、6度は9.0%、7度は9.0%であった。【考察】スコリオメーターを使用した評価では、0 度、1 度の被験者は0.0%であった。先行研究によると、学生を対象とした調査では脊柱回旋のない被験者は全体の1.6%であったとしている。このことから本研究においてもスコリオメーターの値が0 度、1 度の被験者が0.0%であった原因として全ての被験者に脊柱回旋があったためと考えられた。姿勢評価の結果では、被験者22 名全てに姿勢の非対称がみられた。さらに、スコリオメーターで7 度の値を示した被験者の姿勢と7 度未満の被験者の姿勢を観察した結果、スコリオメーターで7 度の被験者と7 度未満の被検者の姿勢に大きな違いはなかった。例えば7 度の被験者と7 度未満の被験者と比較し、肩の高さの左右差が大きいという違いは見られなかった。これらのことから、脊柱側弯症の疑いがある者とない者の判別は姿勢評価のみでは信頼性が低く、軽度の脊柱側弯症を見落とす可能性が高いと考えられた。【理学療法学研究としての意義】スコリオメーターの利点は、側弯を数値化できることにより過去との比較が可能であること、被験者の負担が小さいこと、評価者内の信頼性が高いこと、使用方法が簡便であることが挙げられた。そして、スコリオメーターは数値化できることで運動療法実施前後の治療効果の比較が可能である。例えば側弯軽減のための運動療法実施前後でスコリオメーターの角度が変化しなければ運動療法の内容を変更する必要があると判断できる。本研究を通して、スコリオメーターとコブ角の相関性が明確化されていないことがスコリオメーターの欠点として挙げられた。先行研究ではスコリオメーターの5 度は少なくともコブ角で10 度と報告している文献や、スコリオメーターの7 度〜10 度はコブ角で少なくとも20 度と報告している文献がある。また、脊椎の回旋を計測するものであるため回旋要素がない脊柱側弯症の発見は困難であることが考えられた。今後の課題として脊柱側弯症検診の必要である小・中学生を対象者とした研究を行い、スコリオメーターとコブ角の相関性を明確化することで、より信頼性の高い脊柱側弯症評価が可能になると考えられた。
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鴇田 拓也, 仲澤 一也, 石川 大輔
セッションID: A-P-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】脊柱のアライメントや可動性を計測することは、脊柱のみならず肩甲骨や骨盤帯の問題に対する影響や治療効果をみる際の有効な指標となる。そのため脊柱アライメントの簡便な定量的評価方法が求められている。これまでに胸椎アライメントの測定にはX線像やスパイナルマウス、デジタルカメラによる報告がされている。今関らは、スパイナルマウスが胸椎アライメントの測定に有用と報告(2011)し、今本らは、スパイナルマウスと矢状面デジタルカメラ画像での評価に相関がある(2010)と報告している。しかし、X線は被爆等の問題、スパイナルマウスは導入に際して経済的問題、デジタルカメラはデータ処理の問題等、実際の臨床での使用が難しいことが多いと考える。一方、安価で簡便なツールとして、自在曲線定規を用いた脊柱アライメントの計測の報告がされている。我々の先行研究で、胸椎中間位・屈曲位・伸展位におけるX線像と自在曲線定規の胸椎アライメントに相関がみられると報告した。しかし、自在曲線定規を用いた評価の信頼性・妥当性について報告した研究は散見されるが少ない。そこで、この研究の目的は、経験年数の異なる理学療法士3 名による自在曲線定規を用いた胸椎アライメント測定の信頼性・妥当性を求める事である。【方法】対象は、検者として経験年数の異なる理学療法士3 名(A:11 年目、B:5 年目、C:3 年目)とした。被験者として健常成人男性14 名(平均年齢:34.5 歳;24-46 歳、平均身長:172.6cm;160-180cm、平均体重:73.4kg;63-93kg)とした。測定姿勢は、立位での中間位・屈曲位・伸展位の3 姿勢とし、いずれも矢状面上で耳孔と大転子が同一垂線上となるように規定した。自在曲線定規を用いた計測では、予め触診にてC7 およびTh12 棘突起をマークングした上で、C7 〜Th12 棘突起間に自在曲線定規をあてがった後、定規で示された脊柱カーブを方眼紙にトレースし、Milneらの方法に準じ後彎角を求めた。測定は、中間位・屈曲位・伸展位の順番で行い検者3 名がそれぞれの測定姿勢に対して順に計測を行った。その後、検者Cは7 名に対して再度計測を行った。統計処理として、検者間信頼性としてICC(2,1)、検者内信頼性としてICC(1,1)を用いて行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究への参加についてヘルシンキ宣言に基づき、説明書及び同意書を作成し、研究の目的、進行および結果の取り扱いなど十分な説明を行った後、研究参加の意思確認を行った上で同意書を作成した。【結果】ICC(2,1)では、級内相関係数が正中位で0.64、屈曲位で0.46、伸展位で0.76 であった。また、ICC(1,1)では、級内相関係数が正中位で0.92、屈曲位で0.81、伸展位で0.77 だった。【考察】本研究の結果では、Landisの基準(1977)で検者間信頼性は屈曲位でmoderate、中間位と伸展位でsubstantialとなり、検者内信頼性は伸展位でsubstantial、正中位と屈曲位でalmost perfectとの結果が得られた。また桑原の基準(1993)で検者間信頼性は屈曲で要再考、正中位で可能、伸展位で良好となり、検者内信頼性は、正中位で優秀、屈曲位で良好、伸展位で普通との結果が得られた。本研究の結果は、寺垣らの報告による検者間信頼性0.86 検者内信頼性0.95(2004)と異なる結果となった。寺垣らの報告では、測定を座位にて実施しており、本研究では立位にて測定をおこなった。座位では、下肢の影響は少ないが、立位では下肢の影響も生じてしまう。立位では、重心位置が高くなるため定規をあてがう強さや姿勢保持による筋疲労の影響により姿勢が変化しやすい可能性があるため研究結果に差が生じたことが考えられる。しかし、検者内信頼性は、普通から優秀という結果が得られている。このことから、ランドマークの正確な設定を行うことで、自在曲線定規における測定の即時の信頼性・妥当性は得られる可能性があると考える。今後は、より信頼性・妥当性の得られる測定方法となるように測定条件を考慮していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】簡便で安価な方法として自在曲線定規による評価も胸椎アライメントを評価する手段として有効である可能性があることが示された。
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有原 裕貴, 対馬 栄輝
セッションID: A-P-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに】前かがみ(かがみ)動作は日常生活で多用され、腰痛を有する者が困難になる代表的な動作である。先行研究では腰痛者のかがみ動作を分析した報告(Lariviereら、2000;Leeら、2002)は散見されるが、かがみ動作に影響する複数の体幹機能を検討したものは見当たらない。かがみ動作に対する身体機能は複雑多岐にわたると考えるため、単純な影響要因を検討するだけでは不十分であると考える。そこでまず基礎的な知見を得るために、健常者を対象としてかがみ動作時の腰椎変位と、そこに影響すると考えられる複数の身体機能を測定し、それら相互関係性を考慮した多変量解析によって検討することを目的とした。【方法】対象は健常男性30 名とした。平均年齢は20.4 ± 1.9 歳、身長は171.7 ± 4.3cm、体重は62.9 ± 9.7kgであった。全ての被験者は、腰痛や整形外科学的既往を有していなかった。被験者の左大腿骨外側上顆・左大転子・左上前腸骨棘(ASIS)・両上後腸骨棘の中点(PSIS中点)・PSIS中点から15cm上方・第1 胸椎棘突起・左肩峰にマーカー(直径25mmと40mm の赤色球)を貼付した。まず、被検者に脚を肩幅程度に開いた安静立位となってもらう。その後「膝を曲げずに、自由にやりやすい早さでかがんでください」と指示し、かがみ動作を行わせた。かがみ動作は、被検者の左側方に三脚固定しておいたデジタルカメラ(CASIO社製EXFH100:240fps)で撮影した。撮影した動画はパソコン用の動画変換ソフト(Free Video to JPG Converter)を用いて静止画に変換した。静止画からImage J ver1.46 を用いてかがみ角度と腰椎変位を測定した。かがみ角度は肩峰と大転子を結ぶ線と、大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線がなす角とした。腰椎変位はASISとPSIS 中点を結ぶ線と、PSIS中点とPSIS中点から15cm上方を結ぶ線がなす角とした。かがみ動作の最終域で静止したところを100%として、かがみ角度25%・50%・75%での腰椎変位を測定した。次に、筋機能として体幹伸展最大筋力、体幹伸展持久力(Kraus Weber Test大阪市大式変法)、側腹筋持久力(Side Bridge Test)を測定した。最大筋力は、両足部をベルトで固定した腹臥位で徒手筋力測定器(日本メディックス社製Micro FET)を用いて3 回測定し、平均を用いた。体幹伸展持久力と側腹筋持久力は、各々を十分練習した後に1 回測定した。Side Bridge Testはボールを投げる方の上肢を下にし、片側のみ測定した。この他に、腰椎可動性としてModified Modified Schober Test、胸椎可動性としてPSIS中点から15cm上方と第1 胸椎棘突起の距離をメジャーで測定し、安静立位を基準にして立位から最大にかがんだ位置との距離との差を求めた。また、股関節柔軟性としてボールを蹴る方の下肢伸展挙上(SLR)角度を3 回測定して、平均を用いた。統計解析として各かがみ角度の腰椎変位を従属変数、身体基本情報・筋機能・可動性・柔軟性の項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を適用し、危険率を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者には研究の目的・方法を十分説明した後、書面への署名によって実験参加への同意を得た。また、筆頭演者所属施設の倫理委員会承認を得ている。【結果】重回帰分析の結果、25%の腰椎変位に影響する有意な独立変数は存在しなかった。50%の腰椎変位へは身長(p<0.05,標準化係数β=0.36)のみが選択された。75%の腰椎変位へは腰部可動性(p<0.05,β=0.43)と身長(p<0.05,β=0.37)が選択された。100%の腰椎変位へは腰部可動性(p<0.05,β=0.39)と胸部可動性(p<0.05,β=0.39)が選択された。さらに、身長を従属変数、他の変数を独立変数とした重回帰分析を行うと、Side Bridge test(p<0.05,β=-0.40)とSLRが選択されたがSLR は有意確率が5%以上であった。【考察】Panjabi(1992)によると椎体の動きを制御するには筋の役割が重要であると述べている。だとすれば前かがみの最終域以外では筋機能が腰椎変位に影響するはずだが、筋機能以外の項目が選択された。これはかがみ動作を自由に行った場合、腰椎の固定性よりも可動性が出現した結果であると考える。自由なかがみ動作では、屈曲最終域以外の範囲でも腰部可動性が腰椎変位に影響することが明らかとなった。しかし、その影響はそれほど大きくなかったことから、今回測定していない腹部深層筋機能や腹・背筋体幹筋群の共同収縮機能などの筋の質的機能が影響する可能性が考えられる。また、側腹筋持久力が身長と腰椎可動性を介して腰椎変位に影響することから、側腹筋機能が関与すると推測した。【理学療法学研究としての意義】かがみ動作に影響する腰椎の制御機能の基礎的知見を得ることで、理学療法評価の指標となり、また腰痛患者の治療を考案する一助となる。
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堤 有加音, 青沼 友香, 城下 貴司
セッションID: A-P-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】足内側縦アーチの計測方法は横倉ら(1928)が報告している横倉法が広く知られている.横倉法はX線を用いた骨格構造上の評価である.大久保ら(1989)は横倉法と相関が得られた評価としてアーチ高率を提唱している.アーチ高率は足長に占める舟状骨結節の高さの割合を算出する方法である.その他にも計測方法は数多く報告されている.その1 つにBrody(1982)が報告したNavicular Drop(以下ND)がある.NDの特徴は計測前に座位姿勢での脛骨粗面と距骨頚と母趾の触診を行うことであり,座位から立位の舟状骨結節高の差を算出して評価を行う方法である.BrodyはND計測時の座位足部荷重量を言及していない.そこで城下(2011)は座位足部荷重量を体重の15,20,25%と設定し信頼性の検討を行った.しかし被検者の人数が4 人と少ない状態であった.今回は城下(2011)と同じ条件で被検者を増やし計測の信頼性の検討を行った.本研究の目的は座位足部荷重量の設定の信頼性を明らかにするためである.【方法】対象は成人男子6 名,同女子4 名,計10 名20 足(年齢20.3 ± 0.67 歳,身長167.2 ± 8.25cm,体重61.5 ± 11.0kg,足長24.5 ± 1.55cm)とした.機材はデジタルノギス(株式会社エーアンドデイ社製AD−5765 −150)1 個,デジタル体重計2 個,水準器1 個,高さ調節可能な治療用ベッド(KC−237 −PARAMOUNT BED)1 台,すべり止めシート1 枚を使用した.手順は最初に足部の臨床経験10 年以上の理学療法士1 人が舟状骨結節の印を付けた.被検者は治療用ベッド上にて端座位姿勢を保持した.脛骨粗面と距骨頚と母趾の触診はBrodyに従って行った.座位足部荷重量の条件は体重の15,20,25%としてデジタル体重計で確認を行った.舟状骨結節の高さはデジタルノギスを使用して計測した.計測は2 人の検者が各々の条件で3 回行い座位と立位での舟状骨結節の高さの差を算出した.3 回計測した結果は平均を算出した.統計解析はSPSS 20J for Windowsを使用し級内相関係数(ICC)の検者内信頼性及び,検者間信頼性を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】被検者に研究の目的,計測の方法,データを研究目的以外では使用しないこと,同意後いつでも研究への参加を取り消すことができることの説明を十分に行った.データは被検者の名前が特定できないようID番号化した.被検者の氏名とIDは対照表を作成しセキュリティ付USBで管理することを伝えた.計測は被検者から参加の同意を書面にて得てから行った.【結果】検者1 の検者内信頼性(1,1)は座位足部荷重量20%で0.75,15%で0.69,25%で0.62 の順に信頼性が得られた.検者2 では座位足部荷重量20%で0.86,25%で0.78,15%で0.58 の順に信頼性が得られた.検者間信頼性(2,1)は座位足部荷重量20%で0.85,25%で0.80,15%で0.63 の順に信頼性が得られた.【考察】本研究はND計測時の座位足部荷重量の条件を城下(2011)と同じ条件である体重の15,20,25%と設定し信頼性の検討を行った.NDを含めた下肢計測はPicciano(1993)により経験者が行わないと信頼性は低いと報告されている.本研究で検者は指導者のもとでNDの練習を1 ヶ月間行ってから計測を行った.計測の結果,検者内信頼性と検者間信頼性は座位足部荷重量20%時にshroutらの判断基準でalmost perfectとなり信頼性が得られた.Sell(1994)は荷重位での測定において検者内信頼性は0.83,検者間信頼性は0.73 となったと報告している.Mueller(1993)は検者内信頼性において右足では0.78,左足では0.83 となったと報告している.本研究の検者内信頼性の検者2 と検者間信頼性の座位足部荷重量20%は座位足部荷重量を設定していないSellの検者内信頼性やMuellerの検者内信頼性よりも信頼性を得ることができた.一方で本研究の15,25%の座位足部荷重量の信頼性はshroutらの判断基準でmoderateとなった.NDは座位足部荷重量の影響を受け信頼性が変化することが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究はND計測時の座位足部荷重量の設定を明らかにすることが目的である.座位足部荷重量の設定は体重の20%が推奨されることが示唆された.今後計測する際に座位足部荷重量に着目し設定を行うことで信頼性の得られる計測が可能となるのではないかと推察する.
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西村 沙紀子
セッションID: A-P-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【目的】様々なスポーツ現場で使用される片脚スクワット動作やランディング動作については前額面および矢状面での姿勢保持やバランスをテーマとしている先行研究が多い。片脚スクワット動作は,身体重心を上下移動しながら、その際生じる矢状面および前額面上の動揺を制御し、身体重心が支持基底面内から逸脱しないようにバランスをとる動作である。バイオメカニクス的手法を用いた報告では、スクワット動作時、女性では男性に比較し股関節内転角度、膝関節外反角度が増加すると述べられている。しかしこれらの研究は膝関節運動に注目したものであり、この時の前額面下肢関節モーメントの相互関係を述べた研究は見当たらない。また前額面上運動の男女差を検討したものも見当たらない。そこで我々は健常人における片脚スクワット動作の前額面上姿勢制御の男女差について、下肢関節モーメントに着目し検討することを目的とした。【方法】対象は整形外科的および神経学的疾患のない健常男性5 名、女性5 名の計10 名、年齢21.0 ± 1.5 歳、身長163.2 ± 7.3cm、体重57.1 ± 6.3kgであった。計測機器は三次元動作解析装置(VICON Motion system社 MXカメラ8 台)と床反力計(AMTI社製)を用い、サンプリング周波数100Hzで計測した。マーカー位置はplug in gait full body model に基づく35 点とした。すべての被験者で右側の下肢を対象とした。計測動作は、非支持脚の開始肢位を股関節軽度屈曲位とし、メトロノームに合わせて、2 秒で膝を曲げ、2 秒で膝を伸ばすよう指示した。片脚スクワットを連続3 回行い2 回目を抽出して解析した。解析項目は前額面上データを用い、足,膝,股関節各々の関節モーメント(それぞれ内外反、内外反、内外転モーメント)の最大値を算出した。被験者間の体格の差をなくすため計測された関節モーメントを体重で除し算出した。統計解析は男性群と女性群で対応のないt検定を使用した。全ての統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には測定前に本研究目的と実験方法について説明し、研究参加ならびに研究終了後のデータ開示に関して同意を得た後計測を行った。【結果】片脚スクワット動作の膝関節屈曲時、股関節外転モーメントは男性で15.5 ± 2.4Nm/kg女性で21.4 ± 4.1Nm/kgであり有意差が認められた(p<0.05)。膝関節内反モーメントは男性で13.1 ± 2.8Nm/kg,女性で9.34 ± 7.1Nm/Kgであり有意差は認められなかった。足関節外反モーメントは男性で3.22 ± 0.5Nm/kg,女性は2.41 ± 0.7Nm/kgで有意差が認められた。( p<0.05 )【考察】本研究結果からスクワット動作の膝関節屈曲時において、女性は男性よりも大きな股関節外転モーメントを発揮していることがわかった。Willsonらによると女性の特徴としてスクワット動作時やランディング動作時には股関節が内転すると言われており、関節モーメントにおいても同様の結果であったと考える。また今回女性は男性よりも足関節外反モーメントが小さいことがわかった。女性は男性に比較し足関節での制御が小さく、股関節での制御が大きいことが示唆された。Shumway-Cookらは、ヒトは小さな動揺を制御する場合には足関節制御を、支持基底面が不安定であったり大きな動揺を制御する場合には股関節制御を使用すると述べている。これより同じ動作課題においても女性では足関節制御能力が男性より低く、より小さな動揺でも股関節制御を利用しながら姿勢制御を行っていることが示唆され、男性と女性で異なる姿勢制御パターンを呈することが示唆された。また股関節外転モーメントが増加し足関節外反モーメントが減少したことより、姿勢制御においては前額面では股関節外転と足関節内反、股関節内転と足関節外反という関節運動の組み合わせで姿勢制御を行っていたと考えられる。膝関節モーメントについては内外反モーメントは、有意差がなく男女間の差を明らかにすることはできなかった。しかし女性の膝関節モーメントは標準偏差が大きく、個人によりばらつきが大きく様々な姿勢制御の影響を受けることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】片脚スクワット動作時の下肢関節(足,膝,股)のモーメントの相互関係を把握することは、ある関節の運動が他関節に影響を及ぼすことを運動力学的に捉えることと等価と考えられる。また関節モーメントの男女差を把握することは性別による姿勢制御の相違を捉えることと考えられ、理学療法を施行する際、罹患部位のみの治療ではなく、姿勢制御パターンの違いや、隣接関節からの影響を考慮して治療に臨むことにもつながると考える。
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大坂 裕, 新小田 幸一, 小澤 直人, 尾崎 千万生, 田邉 智子, 藤田 大介, 小原 謙一, 吉村 洋輔, 伊藤 智崇, 末廣 忠延, ...
セッションID: A-P-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに】加速度計を用いた歩行分析法は,利点である測定の簡便さに着目されがちであるが,床反力計や3 次元動作解析装置のように通常は歩行指標算出用の専用解析ソフトウェアが同梱していないため,歩行時体幹加速度から歩行指標を算出する解析を独自に行う必要がある。その過程が煩雑なことが,臨床の場で加速度計を用いた歩行分析が遠ざけられている理由の一つとして考えられる。また,いずれの先行研究でも解析はオフラインによるものであるが,オンライン解析により歩行指標がリアルタイムに算出可能となれば,臨床での有用性がさらに高まると推測される。本研究では,リアルタイム加速度解析ソフトウェアを含めた加速度歩行分析システムを開発し,測定における検者内・検者間の信頼性を,級内相関係数(ICC)に加え,Bland-Altman分析を用いて検討することを目的として行った。【方法】検者は臨床経験8 年を有する男性理学療法士(以下,検者A)と,臨床経験1 年を有する女性理学療法士(以下,検者B)であった。被験者は,整形外科疾患,神経筋疾患のない健常人20 人(男性11 人,女性9 人,平均年齢20.3 ± 0.5 歳)であった。臨床への導入を前提とし,3 軸加速度計,アンプ部,送信機,フットスイッチ,受信機およびリアルタイム加速度解析ソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータ(PC)で構成されるリアルタイム加速度解析歩行分析システム(以下,本システム)を開発した。PCにて受信した加速度信号を,リアルタイム加速度解析ソフトウェアにて解析し,歩行指標を算出した。加速度計とフットスイッチを被験者に装着し,10m歩行の開始と終了時にそれぞれ記録ボタンと停止ボタンを押すことにより,解析結果は測定終了後に即時的に算出できるようプログラムされている。算出される歩行指標には,先行研究にて検証した歩行の変動性を表すroot mean square(RMS),歩行の規則性を表すstride regularity(SR),歩行の対称性を表すstep symmetry(SS)を採用した。これら3 つの歩行指標を3 軸加速度計の3 つのチャンネル(CH)にてそれぞれ算出し,CH1 を鉛直方向,CH2 を左右方向,CH3 を前後方向とした。測定方法は,被験者に約15mの歩行路で快適速度による歩行を行わせ,体幹加速度を測定するとともに,歩行指標を算出した。加速度計の身体への装着部位は第3 腰椎棘突起を選択し,フットスイッチは両側踵部に貼付した。検者Aのみが測定する測定日Pと,検者Aと検者Bが測定する測定日Qを設定し,測定日Pと測定日Qは1 両日間隔を空け,順序は無作為とした。検者Aの異なる測定日で測定した歩行指標を比較する検者内信頼性と,検者Aと検者Bが異なる測定日で測定した歩行指標を比較する検者間信頼性のICCを求めるとともに,Bland-Altman分析により,検者内および検者間信頼性を検討した。検者内信頼性としてICC(1,1)を,検者間信頼性としてICC(2,1)をそれぞれ算出した。更に,検者内・検者間の測定誤差の分布範囲を調査するため,Bland-Altman分析を行った。2 つの測定値間の差をy軸,2 つの測定値の平均をx軸とするBland-Altman plotを作成し,系統誤差である加算誤差,比例誤差の有無を検討した。加算誤差は,測定値の差の平均の95%信頼区間を算出し,この区間が0 を含まない場合,正負いずれかの固定誤差が存在すると判断した。比例誤差は作成したBland-Altman plotにおけるPearsonの積率相関係数を算出し,有意水準5%にて有意な相関がみられた場合,比例誤差が存在すると判断した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。研究の実施に当たり,各被験者に事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名を得た。【結果】本システムにて算出された歩行指標におけるICC(1,1)は0.61 〜0.90 の範囲であり, ICC(2,1)は0.66 〜0.92 の範囲であった。Bland-Altman分析では,検者内・検者間いずれの歩行指標においても測定値の差の平均の95%信頼区間が0 を含んでいた。また,Bland-Altman plotの回帰に有意な相関を認めなかった。【考察】加速度計を用いた歩行分析法は,これまで高い信頼性が報告されている(Menz 2003, Moe-Nilssen 1998)。本システムにて得られたICCは0.61 〜0.92 の範囲を示し,いずれの歩行指標においても信頼性はpossible以上であった。また,Bland-Altman分析の結果,検者内・検者間のいずれの歩行指標においても加算誤差,比例誤差ともに存在するとはいえないことが確認された。開発した本システムによる計測では,系統誤差の混入を認めず,良好な再現性を有していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】測定と同時に解析結果が算出される本システムの信頼性を検証することにより,本システムの臨床導入による有用性が期待できることが示され,理学療法の効果判定に大きく寄与するものと考えられる。
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仲澤 一也, 石川 大輔, 鴇田 拓也, 小熊 大士
セッションID: A-P-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【目的】近年、高齢者の脊柱後彎変形や可動性低下とQOLとの関連が報告されており、簡便な脊柱アライメントや可動性の定量的評価法が求められている。これまでに脊柱のアライメントや可動性を評価する手法として、X線画像、デジタルカメラ、スパイナルマウス、および自在曲線定規などを用いた計測が報告されており、X線画像と比較することにより妥当性が求められている。自在曲線定規は一般に安価であり、臨床で簡便に用いる事ができる計測法であるが、その妥当性に関する報告は特に胸椎について少ない。本研究の目的は、胸椎および腰椎のアライメントおよび胸椎可動性を、「自在曲線定規を用いて計測する方法」と「X線画像から求める方法」で比較することにより、自在曲線定規を用いた計測法の妥当性を検討すること、である。【方法】対象は、健常成人男性15 名であり、年齢23 〜46 歳(中央値33 歳)、平均身長173.1cm(160 〜180cm)、平均体重73.3kg(58〜93kg)であった。計測姿勢は、胸椎の中間位・屈曲位・伸展位の3姿勢とし、いずれも矢状面上で耳孔と大転子が同一垂線上となる様に規定した。自在曲線定規を用いた計測では、市販の60cm長のものを用いた。予め2 名の検者による触診にてC7 およびTh12 棘突起さらにL5-S1 間をマーキングした。その後、C7 〜Th12 棘突起〜L5/S1 間の脊柱カーブおよび各ランドマーク位置を方眼紙にトレースし、Milneらの方法を一部改変しC7 〜Th12 棘突起間より胸椎後彎角を求め
θa1 とし、Th12 〜L5/S1 間より腰椎前彎角を求め
θa2 とした。X線計測では、スロットラジオグラフィーにて矢状面全脊椎撮影を行い、デジタル画像処理ソフト上でC7 椎体下面とTh12椎体下面の延長線のなす角より
θb1 を求め、Th12 椎体下面とL5 椎体下面の延長線より
θb2 を求めた。さらに、それぞれの計測法における胸椎の屈曲位と伸展位の差から胸椎屈曲伸展可動域
θa3 および
θb3 を求めた。胸椎後彎角の角度算出は、自在曲線定規およびX線において、それぞれ別の同一検者が行った。また、X線画像撮影は放射線技師1 名が行った。統計処理として、胸椎中間・屈曲・伸展の各姿勢における胸椎後彎角
θa1 と
θb1 の間、中間位における腰椎前彎角
θa2 および
θb2 の間、および胸椎屈曲伸展可動域
θa3 と
θb3 の間において、それぞれPearsonの積率相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】本研究の実施には、札幌円山整形外科病院倫理委員会の了承を得た。また、ヘルシンキ宣言に則り作成した説明書および同意書を用いて、事前に対象者へ目的や進行、結果の取り扱いなどについて十分説明を行い、同意が得られた者のみを対象とした。【結果】胸椎後彎角に関して、胸椎の中間位、屈曲位、伸展位における
θa1 と
θb1 の相関係数rは、それぞれ0.73、0.59、0.80 であった。腰椎前彎角
θa2 と
θb2 では相関係数rが0.56、胸椎の屈曲伸展可動域
θa3 と
θb3 では0.68 であった。いずれも有意な相関が認められた。【考察】本研究結果より、胸椎後彎角の計測において、自在曲線定規とX線像による計測の間にmoderateからsubstantialな相関が認められ、自在曲線定規による胸椎後彎角計測の妥当性が示されたと考える。過去の研究として、de Oliveiraら(2012)は我々同様に胸椎および腰椎の自然立位における後彎角および前彎角をX線画像と自在曲線定規にて評価し、相関係数が胸椎0.72、腰椎0.60 であったと報告しており、我々の結果と同等であった。一方、Bryanら(1989)は腰椎前彎角について同様の比較を行い、相関係数が0.30 と低い値であったと報告している。これは、胸椎の方が体表から後彎角を計測しやすい部位である可能性や、今回の調査で2 名により触診したため、ランドマークがより正確であったこと、姿勢を大転子と耳孔を基準に規定した事などが理由であると考えられる。また、今回規定した方法で計測した胸椎の屈曲伸展可動域においても0.68 という相関係数が得られ、胸椎可動性においても有効な評価法となり得ることが示唆された。しかし、胸椎屈曲位での相関はやや低く、屈曲位の測定姿勢も含め、更に臨床的に簡便かつ妥当性の高い計測方法へ調整することが望まれる。【理学療法学研究としての意義】自在曲線定規を用いることで、簡便に胸腰椎アライメントや胸椎可動性の評価が妥当性を持って行え、X線画像による評価が難しい場面での脊柱アライメントの評価ツールとして有用であると考えられる。
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福井 龍太郎, 小山 総市朗, 伊藤 慎英, 田辺 茂雄
セッションID: A-P-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】バランス機能は,安定した立位歩行動作の遂行に重要とされている.バランス機能の低下は,転倒の主要因とされており,要介護状態の一因として挙げられている.したがって,適切にバランス機能を評価する事は,転倒予防や要介護予防に重要と考えられる.臨床場面において,実施頻度の高いバランス機能検査として,Timed Up and Go test (以下,TUG)や継ぎ足歩行検査があげられる.TUGは信頼性,妥当性が認められており,実施方法も,先行報告間で一致している.一方,継ぎ足歩行検査も信頼性,妥当性が認められているものの,実施方法が先行報告間で一致していない.検査自体が練習となり,短期の運動学習効果が結果に含まれてしまう可能性も考えられ,検査の最適な測定手順を明らかにすることは重要な検討課題である.本研究の目的は,検査回数に伴う継ぎ足歩行検査測定値の変化を検討することである.【方法】対象は健常成人11 名(男性6 名,女性5 名,年齢30.6 ± 7.0 歳).既往に神経学的障害や筋骨系経障害,認知障害を有する者は除外した. 継ぎ足歩行の測定方法は,静止立位を開始肢位とし,開始の合図とともに,床面に引いたテープ上を一側のつま先に対側の踵を接触させ歩行させた.歩行中の上肢は自由肢位とした.測定時の口頭指示は,「今から継ぎ足歩行を行います.つま先と踵を確実に付け,出来るだけ速く行って下さい.連続12 歩付けた時の時間を測ります」に統一した.測定はストップウォッチを用いて,開始時点から10 歩目の接地までの時間を測定した.測定値は1/100 秒単位で記録した.測定は計4 回測定した.統計学的解析には,一元配置分散分析を用いて,Bonferroniの多重比較検定を行い(P>0.05),施行毎の級内相関係数ICC(1.1)を算出した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り,倫理審査委員会の承諾後に開始した.対象者には,評価の手順,意義,危険性,利益や不利益,プライバシー管理,研究目的,方法を説明の上,同意書にサインを頂いた.【結果】測定値は1 回目4.65 ± 0.76 秒,2 回目4.40 ± 0.76 秒,3 回目4.39 ± 0.70 秒,4 回目4.36 ± 0.66 秒であった.施行毎に統計学的な有意差は認められなかった.級内相関係数は1回目と2回目0.80, 2回目と3回目0.87, 3回目と4回目0.97であった.測定回数を増やすことで級内相関係数は上昇した.【考察】施行回数毎の測定値に統計的な差は認めなかったものの,測定値は上昇傾向を示し,短期の運動学習効果が結果に含まれてしまう事が示唆された.また,測定を繰り返す事で,測定値の上昇は少なくなり,短期の運行学習効果を排除出来る可能性が示唆された.測定方法の信頼性に関して,過去の報告においては,同一日に継ぎ足歩行を2 回計測させた際のICC(1,1)は0.78 であった.本研究の結果も,1 回目と2 回目のICC(1,1)は0.80 であり測定方法は信頼できると考えられる.さらに,3 回目と4 回目のICC(1,1)は0.97 であり,臨床的には3 回目と4 回目を測定値として用いる事が望ましいと考える.本研究結果より,最適な継ぎ足歩行検査方法は,実計測前に2 回継ぎ足歩行検査の練習をさせる事で,初回の課題内容の理解不足や短期間の運動学習によって生じる,見変え上の継ぎ足歩行速度向上効果を排除でき,3 回目と4 回目の測定値を用いる事で適切にバランス機能の評価を継ぎ足歩行検査によって測定できる事が示された.この継ぎ足歩行検査方法によって継ぎ足機能の評価を行う事は,高い信頼性を有する為,非常に有益である.今後は,TUGなど既存のバランス機能評価方法との妥当性を検証する.【理学療法学研究としての意義】本研究によって, 継ぎ足歩行を測定する際は,最低3 回測定することで信頼性の高い結果が得られることが示された.この結果は, 継ぎ足歩行を用いてバランス機能を正確に測定する上で,大きな意義があると考える.
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吉田 英樹, 吉田 舞, 中田 農生, 前田 貴哉, 齋藤 茂樹, 岡本 成諭子, 佐藤 菜奈子, 佐藤 結衣
セッションID: A-P-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】生体深達性の高い近赤外線を主体とした光線であるキセノン(Xe)光の星状神経節(SG)近傍照射は,局所麻酔薬を用いる星状神経節ブロック(SGB)とは異なり非侵襲的かつ副作用の危険性を伴うことなく交感神経活動の抑制と副交感神経活動の相対的な亢進を引き起こし得る手法である。しかし,Xe光のSG近傍照射に伴う自律神経活動動態の変化が脳血流動態にどのような影響を及ぼすかについては解明されていない。以上から本研究の目的は、Xe光のSG近傍照射実施中の脳血流動態を明らかにすることとした。【方法】健常者29 例(女性15 例,男性14 例,年齢21.1 ± 2.3 歳)を対象とし,以下の2 つの実験を実施順序をランダムとして1 日以上の間隔を空け実施した。<実験1>対象者は,15 分間の安静背臥位保持(馴化)終了後,同一肢位にて両側のSG近傍へXe光照射(Xe-LISG)を10 分間受ける。<実験2>対象者は馴化終了後,Xe-LISGを伴わない安静背臥位保持(コントロール)を10 分間継続する。測定及び分析項目について,自律神経活動動態の指標には心拍変動データを採用し,各実験の馴化開始時からXe-LISG及びコントロール終了時までの間,対象者の心拍変動データを心拍計(RS800、Polar)を用いて連続測定した。その後,各実験の馴化終了時とXe-LISG及びコントロール終了時の心拍変動データを周波数解析し,交感神経活動の指標である低周波成分(LF)と高周波成分(HF)の比(LF/HF)と副交感神経活動の指標であるHFを求めた。その上で、実験1 での馴化終了時とXe-LISG終了時及び実験2 での馴化終了時とコントロール終了時との間でのLF/HF及びHFをWilcoxonの符号付順位和検定により検討した。脳血流動態の指標には総ヘモグロビン量(total-Hb)を採用し,各実験の馴化開始からXe-LISG及びコントロール終了まで間,近赤外線分光分析装置(OEG-16,Spectratech)を用いて前頭部(前頭前皮質)でのtotal-Hbを連続測定した。その上で,各実験とも馴化終了前1 分間のtotal-Hbの平均値を基準値とし,Xe-LISG及びコントロール実施中の前半(0 〜2 分),中盤(4 〜6 分),後半(8 〜10 分)の3 時点でのtotal-Hbの平均値について,基準値からの経時的変化をDunnettの検定により検討した。また,前半,中盤,後半の各時点でのXe-LISGとコントロール間でのtotal-Hbの差を対応のあるt検定により検討した。全ての統計学的検定の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対しては,本研究の目的や本研究への参加の同意及び同意撤回の自由,プライバシー保護の徹底等について予め十分に説明し,書面による同意を得た。【結果】LF/HF及びHFについては,実験2 では馴化終了時とコントロール終了時との間で両指標ともに明らかな変化を認めなかったが,実験1 では馴化終了時と比較してXe-LISG終了時での副交感神経活動の亢進を示す所見(HFの上昇傾向)を認めた。total-Hbについては,両実験ともに基準値と比較してXe-LISG及びコントロール実施中での明らかな変化を認めなかったが,Xe-LISGとコントロール間での比較ではXe-LISG実施中の前半及び中盤でのtotal-Hbがコントロールと比較して有意に低下していた。【考察】本研究結果から,Xe-LISGは,交感神経活動を抑制し副交感神経の相対的な亢進を引き起こす一方で,Xe-LISG実施中の前頭前皮質領域での脳血流量を低下させる可能性が示唆された。この理由として,Xe-LISGに伴い認められた前述の自律神経活動動態の変化は精神的リラクセーションを示唆する所見でもあり,その結果として前頭前皮質領域の活動が低下し,同部位の脳血流量の低下につながったのではないかと推察される。Xe-LISG以外の介入手段を用いた先行研究においても、精神的リラクセーション時の前頭葉の脳血流量低下が報告されている(岩坂,2007.,下茂,2008.,etc.)。今後の課題としては,Xe-LISG実施中の前頭前皮質以外の大脳皮質領域での血流動態に関する検討が必要と思われるが,脳血流量の低下が問題となる可能性のある虚血性脳血管障害患者等を対象としたリスク管理面での検討を行うことも重要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】研究結果は,Xe-LISGにより前頭前皮質領域の脳血流量が低下する可能性を示した。このことは,Xe-LISGにより精神的リラクセーション効果が得られることの裏付けとも考えられるが,脳血流量の低下が問題となるような症例に対するリスク管理面での検討の必要性も示唆しており,今後の発展性や臨床への波及効果などの観点から意義があると考える。
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山口 智史, 田中 悟志, 守屋 耕平, 立本 将士, 前田 和平, 武田 湖太郎, 近藤 国嗣, 大高 洋平
セッションID: A-P-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】近年、頭蓋の外から微弱な直流電気刺激を与えて皮質興奮性を促進する経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)が、リハビリテーションにおける新しい補助的治療法として応用が期待されている。tDCSの安全性に関しては、欧米における調査では痙攣発作等の重篤な副作用の報告はこれまでない(Iyer et al. 2005; Poreisz et al., 2007)。一方、日本では臨床神経生理学会の委員会報告(2011)により安全性や刺激パラメータについて一応の指針が示されているものの、副作用に関する具体的な調査の報告はこれまでなされていない。本研究では、我々の研究に参加した31 名(計108 施行)において、tDCS後にアンケートを実施し、その安全性を検討した。【方法】対象は2010 年から2012 年までに、我々の研究に参加した、健常者および脳卒中患者で31 名とした。健常者は23 名(男性15 名女性8 名、平均年齢24.9 ± 2.5 歳)で、脳卒中患者は8 名(男性4 名女性4 名,平均年齢59.6 ± 10.7 歳、発症後期間平均21.1 ± 12.3 ヵ月)であった。刺激時または刺激後について、痛み、痒み、熱さ、火傷した感覚、チクチクした感覚、不快な感覚、疲れ、眠気、集中が困難、気分の高揚、気分の落ち込み、物の見えの変化、視覚体験(閃光など)、頭痛、吐き気があるかを、4 段階(なし、ややあり、あり、強くあり)で回答させた。また、陽極及び陰極電極のどちらか一方で強く刺激を感じるかについても評価させた。アンケートは、研究終了後に実施した。また刺激前後で、皮膚の発赤の確認や問診、血圧測定を行った。本研究では、DC-STIMULATOR(neuroConn)を使用し、刺激強度を2mAとし10 分間刺激を行った。刺激条件は、陽極刺激、陰極刺激、偽刺激の3 条件のいずれかで、偽刺激では最初の15 秒間のみ刺激を行った。刺激貼付部位は、1 対を一次運動野とし、もう1 対を前額部もしくは上腕部後面に貼付した。電極サイズは、一次運動野には25cm
2 もしくは35cm
2 とし、前額部と上腕部後面では50cm2 を貼付した。電極には、導電性ゴム電極をスポンジで覆い、生理食塩水を十分に浸して使用した。電極貼付前には、すべての対象者で、アルコール綿で十分に清拭し、電気抵抗を下げる配慮を行った。なお、対象者には、実施した刺激条件の情報をブラインドした。データ解析は、それぞれの項目で単純集計を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理審査会で承認された研究において、アンケートを実施した。被検者に実験内容を十分に説明し、本人の意志により書面にて同意をえた。【結果】実験には31 名が参加し、108 施行後にアンケートを回収した。健常者は、88 施行に参加し、脳卒中患者は22 施行に参加した。健常者の施行回数では、陽極刺激は56 回、陰極刺激は12 回、偽刺激は20 回であった。脳卒中患者においては、陽極刺激が12 回、陰極刺激が8 回であった。アンケートの回答項目で、有症報告で最も多かったのは、『チクチクした感覚』の項目の「ややあり」で全体の50.9%であった。また同項目では、「あり」で13%、「強くあり」で0.9%であった。続いて、『痛み』の「ややあり」で38.9%であった。強く感じる電極部位は陽極電極下での訴えが多かった。有症事象として、健常者2 例において、陽極刺激の上腕部貼付後に発疹を認めたが、終了後1 時間程度で消失した。その他においても、刺激中の中止もしくは刺激後に医療処置が必要な有症事象は認めなかった。【考察】アンケートの結果、チクチクした感覚の訴え(約65%)が最も多かった。Poreiszらの報告(2007)では約70%であり、ほぼ同様であった。一方で、先行研究では痛みの訴えは約15%であったのに対し、本研究では約40%であった。この相違の理由に関しては、先行研究では刺激強度が1mAの条件も含まれていたのに対し本研究では全て2mAを用いていたためと考えられる。Nitscheら(2003)は、500 例ほどの健常者にtDCSを使用し、痒み、頭痛、発赤などの副作用を認めたものの、重篤な有害事象はなかったと報告している。今回、副作用は2 例(全体の約2%)で発疹を認めたが、重篤な有害事象を認めなかった。今後、さらにデータを蓄積することが必要であるが、日本人を対象としたtDCSの使用でもチクチクした感覚や多少の痛みはあるものの、重篤な副作用がなく実施することができると考えられる。【理学療法研究としての意義】将来的にtDCSをリハビリテーションに応用するための基礎的な知見として意義があると考えられる。
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高井 遥菜, 永井 理沙, 椿 淳裕
セッションID: A-P-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳循環酸素代謝を計測する近赤外線分光法(NIRS)が急速に普及してきた.NIRSが注目を集める大きな要因は,その安全性と拘束性の低さであり,様々な場面に応用されている.一方,NIRSの計測方法に由来する問題点として,NIRS信号は純粋な脳血流量だけでなく,頭皮血流や体循環変動等の要因によって変化するとの報告もあり,計測したヘモグロビン変化と脳神経活動との関連性の解明が不十分であるといった点も指摘されている.特に認知課題中の血圧変動の影響については十分に検証されてはおらず,この影響について明らかにすることでNIRSの信頼性を高める方法の開発に役立つのではと考えた.そこで本研究は認知課題中の血圧変動がNIRS 信号に及ぼす影響について検討することを目的とする.【方法】右利き健常成人男性12 名(年齢21.2 ± 0.4 歳)を対象に,カラーワードストループ課題(CWST)中の酸化ヘモグロビン量(oxy-Hb)を脳酸素モニタ(OMM-3000,島津製作所)を使用し,測定した.プロトコルは,課題前安静20 秒,課題中20 秒,課題後安静20 秒の計60 秒を1 セットとし,これを3 回繰り返した.NIRSによる測定領域は,CWSTで賦活するとされる左前頭前野背外側部と,CWSTの関与が少ないとされる補足運動野とした.プローブ間隔30mmのホルダを使用し,国際10-20 法におけるCzを基準とし,照射プローブ8 本,受容プローブ8 本を頭部に4 × 4 の配列で設置した.また,CWST中には連続血行血圧動態装置(Finometer,Finepress Medical Systems)を使用し,右手の第3 指から脈拍1 拍ごとに収縮期血圧(SBP)を測定した.解析は課題前安静20 秒の平均からの変化量を求め,3 回分を加算平均し,全被験者分を平均した.統計処理はSBPとoxy-Hbとの相関関係の強さを課題前安静,課題中,課題後安静それぞれで,スピアマン順位相関係数検定により求めた.有意水準は5 %とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た.【結果】認知課題遂行に伴いSBPは最大21.9 ± 8.4 mmHg上昇した.SBPとoxy-Hb間の相関係数は,左前頭前野背外側部で課題前安静r=-0.089(p=0.272),課題中r=0.729(p<0.05),課題後安静r=0.304(p<0.05)と課題中のみに強い正の相関がみられた.補足運動野では,課題前安静r=-0.031 (p=0.705),課題中r=0.362 (p=0.735),課題後安静r=0.302 (p<0.05)であり,いずれにも強い相関は認められなかった.【考察】本実験では認知課題実施に伴い,20mmHg程度のSBP上昇が認められた.これはプレッシャーや緊張状態から交感神経活動が亢進したことによるものと考えられる.しかし,今回の結果では前頭前野背外側部のSBPとoxy-Hbとの間に,課題中においてのみ正の相関が認められた.この原因としてNIRS信号が安静中の血圧変動には影響されず,課題中の大きな血圧変動に影響を受けたこと考えられる.一方で,補足運動野においては相関が認められなかった.血圧がNIRS信号に影響を与えるならば,全チャネルにおいて血圧上昇に同調したoxy-Hbの上昇が観察されることが推測される.しかしCWSTの賦活領域のみに血圧との相関がみられる結果となった.このことは,血圧上昇が交感神経活動亢進のみによらず前頭前野背外側部局所の血流を増加させるために血圧を上げていた可能性を示している.先行研究では,一定強度以上で脳の限局的な活性領域に過剰に酸素が流入するのを防止する調整メカニズムの存在が明らかにされている.これより,一定以下の刺激では血圧上昇を伴って活動組織以外の血流を活動部位へ引きこむ現象が起こり得るのではないかと考えた.これがが裏付けられれば,NIRS計測における血圧上昇が脳活動と無関係のアーチファクトでない可能性も考えられ,今後検証していく必要がある.他の解釈としては,前頭前野背外側部が特に皮膚血流をNIRS信号に反映しやすいような構造であることも考えられる.これまでに前額部のoxy-Hb濃度変化の大部分は,心拍数とは異なる自律制御下にある皮膚血流のタスクに関連した変化が原因であり,前頭極部分でのNIRS計測に大脳皮質の血流変化が反映されにくいことが報告されている.【理学療法学研究としての意義】本研究は,NIRSを用いたより純粋な脳機能計測へ発展させる為の基礎的な研究として位置付けることができ,脳活動に着目した理学療法効果判定の精度向上に繋がるものである.
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藤田 浩之, 粕渕 賢志, 森岡 周
セッションID: A-P-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】日常生活における不可欠な動作の一つである立位姿勢制御においては様々な要因によって構成されている.その姿勢の制御は従来の反射的姿勢制御を中心とした筋骨格系や感覚系での制御に加えて,これらの前庭,視覚,体性感覚と統合させるための注意といった認知機能も同様に必要であることが明らかになっている.立位姿勢制御における注意の関与を明らかにした方法には主に,2 重課題(dual task)を用いた立位姿勢制御研究から報告されている.近年では,これらの研究結果をふまえて,歩行や立位姿勢能力における2 重課題への対応能力の低下が,高齢者の転倒などの身体的機能の影響と関連することが多く報告されている.しかしながらその一方で,運動課題におけるdual taskに関する報告は肯定的なものと否定的なものが散見しており,dual taskが立位姿勢制御へ影響を及ぼすことは明らかであるが,その結果は姿勢制御に対して抑制に作用する場合や反対に促進に作用する場合と,散見しており様々な見解がある.その散見する要因の一つにそれぞれのdual taskのもつ課題の特異性による影響が考えられる.そこで,本研究では,若年健常者を対象に,日常生活において用いる機会の多い感覚器である視覚と聴覚に着眼し,それぞれの2 重課題における立位姿勢制御への影響について検討することを目的とした.【方法】対象者は,著明な脳血管障害,整形疾患,視力障害の有さない健常若年者40 名(年齢:19.7 ± 4.1 歳 身長:157.8 ± 6.7cm 体重:58.5 ± 5.5kg)とした.立位姿勢制御の評価として圧力分布測定装置(ANIMA, Ltd. MD-1000)を用い,総軌跡長を以下の条件で測定した.それぞれの条件は,安静片脚立位(Single task:ST)条件,片脚立位2 重課題(Visual dual task:VDT)条件,片脚立位2 重課題(Audio dual task:ADT)条件の3 条件で総軌跡長を測定した.それぞれの片脚立位課題は利き足を支持脚とし挙上側の下肢については特に肢位は規定しなかった.両上肢は体側に沿って自然に下ろした肢位とし,利き脚はボールを蹴る脚とした.また,被験者に課したdual taskについては,視覚刺激としてストループテストをVDT条件とし,また聴覚刺激においては100 から7 を順次に減算する課題(serial-7s)をADT条件として使用した.また,それぞれの課題の計測はランダムに実施した.統計処理として,ST条件とVDT条件およびST条件とADT条件のそれぞれの2 群においてpaired t testを用いて統計処理を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,すべての被験者に対し実験についての内容及び目的に関して説明を事前に行い,実験の途中であっても中止を申し入れることが可能であることを伝え,文書にて同意を得た上で実験に参加した.【結果】ST条件とVDS条件の総軌跡長の比較において両群に有意な差は認められなかった(p>0.05).ST条件とADTの総軌跡長の比較においては両群で有意な差を認めた(p<0.05).【考察】本研究において,STとVDT条件では有意な差を認めなかったのに対し,ST条件とADT条件ではADT条件において総軌跡長が延長し,両群に有意な差を認めた.VDT条件はADTに比べ,人間の感覚記憶,短期記憶の情報の保存時間が高く,姿勢制御への干渉を受けにくいことが考えられる.一方で,聴覚に対する情報は視覚に対する情報と異なり,時間経過に対し持続的に提示できない一過性のものである.そのため外部への追参照がされにくいことから,ADTではVDTに比べ,感覚記憶,短期記憶の情報の保存性が低く,より積極的に課題の達成を図ったことから姿勢制御に対し干渉を受け,総軌跡長に大きな差を認めたと考える.また,姿勢制御において視覚が最も重要なモダリティーであることにより,VDTとADTにおいてその課題の提示方法が異なり,VDTにおける課題の提示方法が視覚同定のターゲットとなりその結果,姿勢の安定性へ加味さられたことが考えられる.高齢者では簡単な暗算や文字の読み取りなどをさせながらバランス能力,筋力,敏捷能力などの運動能力が低下することが報告されている(Melzer2004).しかしながら,本研究では若年者においても課題とするdual taskの特性により姿勢制御に対し,その影響を認めることが本研究から示唆された.【理学療法学研究としての意義】認知機能の改善や転倒の予防に2 重課題は有益な手段となりえる.しかしながら,治療介入や評価の際には単に2 重課題を用いるのではなく,様々な2 重課題の特性やその意味を理解し,疾患や症状に応じた2 重課題を選択することで,有益な臨床応用につながることが考えられる.
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岩部 達也, 尾﨑 勇, 橋詰 顕, 福島 真人
セッションID: A-P-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】我々は,昨年の本学会で表皮内電気刺激法を用いて,呼息と吸息に一定強度の痛覚刺激 (閾値の3 〜4 倍) を与えて,痛みの主観,痛覚誘発電位,交感神経活動を検討した結果,呼息相では痛みスコアが小さく,脳電位,交感神経活動も小さいことを報告した.本研究では,刺激装置にPAS7000 を用いて,痛覚閾値レベルとその4 倍の刺激強度で記録し,痛みスコア別に,誘発電位と交感神経活動を比較した.【方法】対象は健常男性10 名 (19 〜25 歳) で,平均身長172.9 (167.5 〜178) cm だった.被験者はヘッドレスト付の肘掛椅子に座り,リラックスした状態を保った.左手背に表皮内電気刺激を与えてpainを誘発し,被験者毎に痛みを感じる最小強度 (痛覚閾値) を決定した.脳波,交感神経皮膚反応(SSR),指尖容積脈波(DPG),呼気CO
2 濃度を連続的に記録し,CO
2 濃度が20 mmHgを越えた時(呼息)か下回った時 (吸息) に閾値の4 倍で刺激した.Habituationが生じないように1 試行10 分未満で,刺激間隔を数十秒あけて呼息,吸息各相10回刺激した.十分な休息をとり2 試行を行った.被験者は刺激毎に痛みの主観を右の示指(Wong-Baker スケール,以下WBS,スコア1)と中指 (WBSスコア2) の伸展で判断した.脳波は加算平均し,痛覚誘発電位N1,P1 を解析した.SSRも加算平均し,陰性-陽性振幅を解析した.DPGは刺激前4 拍の振幅の平均値を求め,刺激後8 拍までの変化を%比で表した.同様の実験を,閾値の強度と刺激強度0 mA (sham刺激) でも行った.統計解析は,閾値刺激ではWBSスコア0 と1,閾値4 倍刺激ではスコア1 と2 の割合が呼吸相で異なるかについてχ2 検定を行った.N1,P1,SSRの最大振幅と頂点潜時については,閾値とその4 倍刺激のそれぞれで,呼吸相の間でpaired
t-testを行った.DPG振幅については,閾値とその4 倍刺激のそれぞれで,呼吸相 (呼息相と吸息相) と脈拍 (刺激前の平均から刺激後8 拍まで) の2 要因で繰り返しのある2 way ANOVAを行い,事後検定としてpaired
t-testを行った.また,DPG振幅の経時的変化について,各呼吸相での閾値刺激,閾値4 倍刺激,sham刺激のそれぞれに繰り返しのある1 way ANOVAを行い,事後検定としてBonferroniの多重比較を行った.これらの統計解析は,IBM SPSS Statisticsを用いて行い,有意水準は
p < 0.05 とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は青森県立保健大学倫理委員会の承認を得ており,対象者には実験内容を十分に説明し,書面により同意を得た.【結果】試行中,一定強度で刺激したが,痛みスコアは閾値刺激では0 と1,閾値4 倍刺激では1 と2 の間で変動した.また,その割合は呼吸相で異なり,閾値刺激では吸息時に1 と判断した数が全200 回中165 回で,呼息時45 回よりも多く (
p < 0.001),閾値4 倍刺激では,吸息時に2 と判断した数が全200 回中148 回で,呼息時67 回よりも多かった (
p < 0.001).痛覚誘発電位の振幅は,閾値刺激ではN1 で吸息/呼息,-4.1 ± 0.8/-1.7 ± 0.8 μV (平均値 ± 標準誤差),P1 で吸息/呼息,12.7 ± 1.0/3.4 ± 1.2 μVであり,閾値4 倍刺激では,N1 で吸息/呼息,-11.5 ± 1.2/-5.4 ± 1.3 μV,P1 で吸息/呼息,22.5 ± 2.3/15.7 ± 2.2 μVであった.閾値刺激と閾値4 倍刺激のいずれも,呼息時で振幅が小さかった.SSR振幅は,閾値刺激では吸息/呼息,1.3 ± 0.3/0.2 ± 0.1 mVであり,閾値4 倍刺激では吸息/呼息,1.7 ± 0.5/0.6 ± 0.3 mVであった.閾値刺激と閾値4 倍刺激のいずれも,呼息時で振幅が小さかった.DPG振幅は,刺激から約4 拍で低下をはじめ,約6 拍で最大に低下した.呼吸相で比較すると,閾値刺激では2 拍,5-8 拍,閾値4 倍刺激では2 拍,5-6 拍と8 拍で吸息時で有意に低下した.痛みスコア0,1,2 で分けて脳波,SSRを加算すると,N1,P1 振幅はスコアに比例して変化し,SSR振幅もまたスコアに比例して変化した.【考察】本研究では,呼息相と吸息相に痛覚閾値とその4 倍強度で刺激を与えた結果,どちらの強度でも痛みの主観が呼息相で減弱し,N1,P1 の振幅も減少した.また,SSR振幅も呼息相で減少し,DPG振幅の低下も減少した.これは,刺激強度レベルに関わらず呼息時に痛みが抑制されやすいことを示している.PAGへの刺激によって痛みが抑制することから,痛覚脊髄後角ニューロンの活動は脳幹由来の下行性経路によって調節されていることが知られている.ラットでは呼息相や吸息相で活動するセロトニン作動性の大縫線核細胞があることが報告されている(Masonら,2007).呼吸相に伴うこのような活動変化が下行性疼痛抑制系に影響を及ぼした可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】呼吸によって痛みの程度に変化が生じることから,理学療法対象者の呼吸を変化させることで痛みを制御できる可能性がある.
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政所 和也, 村田 伸, 宮崎 純也, 堀江 淳, 阿波 邦彦, 上城 憲司
セッションID: A-P-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】身体機能を定量的に評価することは、運動プログラムの立案や運動効果の判定に極めて重要である。特に、高齢者における身体機能を定量的に評価することは転倒および寝たきり予防の観点からも重要である。一般に、筋力(上体起こし、膝伸展筋力)やバランス能力(片脚立位保持時間、Functional reach test;FRT)、歩行能力(Timed up and go test;TUG)、柔軟性(長座体前屈)等を中心に、高齢者の身体機能評価について多くの臨床的有用性が報告されている。しかし、それらの身体機能評価項目は課題動作が身体的負担となり、高齢者に用いることが困難なことが多い。そこで我々は、臨床において下肢機能の向上を目的とした運動療法として用いられるブリッジトレーニングに着目し、市販体重計にてブリッジの際の足底で床を押す力(ブリッジ力)を定量的に測定し、高齢者の身体機能の評価指標として用いることを考案した。本研究では、ブリッジ力測定法の有用性について各種身体機能評価との関連性から検討した。【方法】対象は、要支援および要介護状態でない地域在住男性高齢者32 名(平均年齢78.6 ± 6.8 歳、平均体重59.5 ± 7.2kg)とした。測定はブリッジ力の他、上体起こし、膝伸展筋力、片脚立位保持時間、FRT、TUG、長座体前屈を実施した。ブリッジ力測定の開始肢位は、背臥位にて両足関節中間位(底背屈0 度)とし、両上肢は体側に付けるように指示した。合図と同時にブリッジ動作を行い、足底に設置した市販体重計を最大努力にて床へ押しつけるように指示した。なお、測定中は両膝が離れないように留意した。測定は2 回行い、最大値を代表値とした。さらに得られた最大値を体重で除したものをブリッジ力値として採用した。統計処理は、ブリッジ力測定法の有用性に関してピアソンの相関係数を求めて検討した。なお、有意水準5%未満を有意差ありと判断した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は、研究の概要を口頭および文書にて説明後、研究内容を理解し、研究参加の同意が得られた場合、書面にて自筆署名にて同意を得た、その際参加は任意であり、測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと、また同意後も常時同意を撤回できること、撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。【結果】各測定項目の平均値と標準偏差は、ブリッジ力35.8 ± 5.3%、上体起こし5.5 ± 4.7 回、膝伸展筋力73.5 ± 21.6%、片脚立位保持時間27.8 ± 30.3 秒、FRT27.6 ± 7.6cm、TUG6.8 ± 1.1 秒、長座体前屈29.5 ± 10.9cmであった。ブリッジ力と有意な相関が認められたのは、膝伸展筋力(r=0.459、p<0.05)、片脚立位保持時間(r=0.397、p<0.05)、FRT(r=0.473、p<0.05)であった。その他の測定値とブリッジ力との間には、有意な相関は認められなかった。【考察】本研究結果より、ブリッジ力と下肢筋力を反映する膝伸展筋力およびバランス能力を反映する片脚立位保持時間、FRT との間に有意な相関が認められた。その他、上体起こし、TUG、長座体前屈との間には有意な相関は認められなかった。膝伸展筋力は多くの先行研究において、下肢機能評価としての重要性が報告され、その評価意義については周知されている。本研究において、ブリッジ力と膝伸展筋力との間に有意な正相関を認めたことから、ブリッジ力が高齢者の下肢筋力の指標として有用であることが示された。片脚立位保持時間に関しては、保持能力の低下が転倒を引き起こす可能性があることから、高齢者の身体機能評価として重要視されている。また、FRTに関しても前方への重心移動に対しての姿勢制御や体幹の安定性の指標となることが報告され、バランス能力の指標とされることが多い。本研究結果より、ブリッジ力と片脚立位保持時間およびFRTとの間 に有意は正相関を認めたことから、ブリッジ力が高齢者のバランス能力の指標になり得る可能性が示された。一方、上体起こし、TUG、長座体前屈との間には有意な相関は認められなかった。これらの知見より、ブリッジ力測定法は高齢者の下肢筋力ならびにバランス能力を定量的に評価できる簡易機能評価法として臨床応用できる可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】ブリッジ力測定法は、特別な機器を必要とせず、臨床的にも簡便な方法である。さらに、背臥位で行えることから、安全な方法と言える。本研究は、ブリッジ力測定法が高齢者の下肢筋力およびバランス能力を推察できる可能性を示唆した。
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竹田 圭佑, 千鳥 司浩
セッションID: A-P-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】ヒトの空間移動のための基本的な動作である歩行において視覚系、前庭迷路系、体性感覚系からの情報は重要な役割を果たしている。特に、立位で唯一地面と接触している足底部からの感覚は変化する姿勢や地面の状態を適切に把握し、足関節による力発揮の程度を調節するために重要である。なかでも空間分解能として加齢を反映するとされている2 点識別覚は立位でのバランス能力と関連が深いことが報告されている。先行研究では加齢により2 点識別覚は低下し、片脚立位保持時間に短縮がみられることが報告されているが、いずれの報告でも拇趾あるいは踵部の2 点識別覚の報告しか存在しない。しかし歩行時の足圧中心の移動を考慮すると、これ以外に小趾球や拇趾球を含めた部位で加齢による変化を検討する必要がある。本研究の目的は、重心移動に関わる拇趾、拇趾球、小趾球、踵における2 点識別覚の加齢による変化および片脚立位保持時間との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は事前の説明により研究参加に同意の得られた65 歳以上の地域在住高齢者39 名、78 肢(男性8 名、女性31 名、平均年齢76.3 ± 5.5 歳;高齢者群)、対象群として骨関節・神経筋疾患を有さない健常若年者30 名、60 肢(男性11 名、女性19 名、平均年齢23.0 ± 2.1 歳;若年者群)とした。2 点識別覚の計測にはデジタルノギス(プラタ社製)を使用し、ベッド上仰臥位で裸足にて、左右の拇趾、拇趾球、小趾球、踵の8 点に対し足底に2 点を同時に触れたとき2 点として識別できる最小距離を測定した。2 点識別覚距離の決定として、同一の距離で3 回施行し2 回以上の正答が得られた部位を最小距離とした。また高齢者群のみについて開眼片脚立位保持時間を計測し、60 秒を上限値とした。統計分析には、年齢と測定部位の2 変数を独立変数とし、2 点識別距離を従属変数とする二元配置分散分析およびScheffeの多重比較検定を用いた。また、高齢者群のみ開眼片脚立位保持時間と各測定部位における2 点識別距離との関係にはスピアマン順位相関係数を求めた。統計ソフトはStatcel Ver2 を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には試験説明書に基づき、本研究の目的と方法を文書と口頭で十分に説明し、自由意思に基づく研究参加として同意を得た。【結果】測定部位ごとの2 点識別距離について高齢者群と若年者群を比較すると、高齢者群の平均値は、拇趾17.1 ± 7.3mm、拇趾球17.2 ± 7.9mm、小趾球20.7 ± 8.9mm、踵22.6 ± 10.4mmに対し、若年者群ではそれぞれ平均7.7 ± 2.1mm、11.1 ± 2.8mm、11.5 ± 2.5mm、12.3 ± 3.0mmであり、高齢者群が各測定部位において有意に高値であった(p<0.01)。また、4 つの測定部位間の比較においては高齢者群で拇趾と踵、拇趾球と踵において有意差が認められ、若年者群は有意な差は認められなかった。さらに、高齢者群の開眼片脚立位保持時間と2 点識別距離の関連性については、拇趾(r=-0.34、p<0.01)、拇趾球(r=-0.36、p<0.01)、小趾球(r=-0.46、p<0.01)、踵(r=-0.46、p<0.01)と有意な負の相関を認めた。【考察】従来、報告されている測定部位である拇趾、踵に加え拇趾球、小趾球を含めて2 点識別覚の測定を行った結果、若年者に比べ高齢者では顕著な低下を認め先行研究と一致していた。また若年者では足底部位間の2 点識別覚の有意な差は認められなかったが、高齢者では拇趾、拇趾球に比べ踵では有意な低下を示し、加齢による踵部の感覚閾値の増加が認められた。このことより高齢者における足底感覚の低下は均一に生じるのではなく、踵部で著しいことが示唆された。さらに高齢者における各測定部位の2 点識別距離と開眼片脚立位保持時間には中等度の相関関係が認められ、加齢による足底感覚の低下が片脚立位保持時間に影響を及ぼす一要因であることが考えられた。Melzerらは足底感覚の低下は転倒が生じた際、足底で足圧中心の移動を知覚することができずステッピングや足趾把持運動の反応時間が遅延することを推測している。以上のことより高齢者に対し踵部を中心に足底感覚の弁別閾を向上させる介入を検討する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究により、高齢者では若年者に比べ踵部の2 点識別覚が有意に低下しており片脚立位保持能力に関連していることが明らかになった。このことから高齢者の立位および歩行の安定性評価において踵部の2 点識別覚検査は転倒予防などの観点から臨床上有用な評価の一つになると考える。
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高橋 温子, 山路 雄彦
セッションID: A-P-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】大腿義足歩行の膝継手制御には、アライメント制御、立脚相制御、随意制御があり、重要とされている。私たちは、大腿切断者の断端の体性感覚が健側に比べ鋭敏であることを示し、膝継手制御に断端の体性感覚情報が活用されていると考えた。特にソケット内圧変化を察知していると考え、通常歩行時のソケット内圧変化、筋活動と膝継手制御の関係について示した。日常生活ではさまざまな速度での歩行が求められる。そこで歩行速度を変化させたときのソケット内圧変化、筋活動を調べ、通常歩行との比較、膝継手制御との関係について検討した。【方法】対象は28 歳男性、片側大腿切断者1 名(切断から14 年経過、切断原因:骨肉腫、断端長11cm)。歩行時のソケット内圧変化、筋活動の計測は、対象者に適合させた計測用義足を作製し使用した。吸着式大腿義足ソケットに圧センサー(TEACひずみゲージTC-FSR 100N)を大腿前面(以下前面)、大腿後面(以下後面)の上部、下部の2 ヶ所ずつ計4 点に埋め込んだ。膝継手は荷重ブレーキ膝(LAPOC MO760)、足部はエネルギー蓄積型足部(LAPOC J-FOOT)を使用した。筋電計は電極を患側大殿筋、中殿筋に取り付け、赤外線反射マーカを肩峰、大転子、膝継手、足部(2 ヶ所)に取り付けた。筋電計(日本光電WEB-5000 600Hz)、三次元動作解析装置(アニマ社MA-6250 60Hz)を同期させ、通常歩行速度、遅い歩行速度、速い歩行速度で各5 回計測した。立脚相をinitial contact(以下 IC)〜foot flat(以下FF)、FF〜mid stance(以下MS)、MS〜heel off(以下HO)、HO〜push-off(以下PO)の4 相に分け、各相の単位時間あたりのソケット内圧(g)、筋活動(mV)を算出し、中央値を代表値とした。また、ICからPOまでの時間を患側の立脚時間とした。【倫理的配慮、説明と同意】群馬大学大学院医学系研究科の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て実施した。また本研究の主旨を書面にて対象者に説明し、同意書に署名を行った上で実施した。【結果】ソケット内圧は、すべての歩行速度において後面・上部に圧がかかりやすく、後面・上部の圧は通常歩行速度でIC〜FF:131.78g/ms、FF〜MS:230.94g/ms、遅い歩行速度でIC〜FF:131.78g/ms、FF〜MS:175.85g/ms、速い歩行速度でIC〜FF:177.70g/ms、FF〜MS:313.57g/msであり、FF〜MSでピークとなり、その後MS〜POにかけて圧は減少していた。また他の部位においても同様な変化を示した。筋活動は、通常歩行速度では大殿筋IC〜FF :87.13mV/ms、FF〜MS:377.25mV/ms、MS〜HO:208.98mV/ms、HO〜PO: 127.25mV/msとFF〜MSにかけて増加し、ピークとなった。その後POにかけて活動が減少した。遅い歩行速度では、大殿筋IC〜FF:76.05mV/ms、FF〜MS:55.69mV/ms、MS〜HO:152.10mV/ms、HO〜PO:122.75mV/msとMS〜HOでピークとなり、HO〜POにかけて減少した。速い歩行速度では、大殿筋IC〜FF:64.37mV/ms、FF〜MS:96.41mV/ms、MS〜HO:114.07mV/ms、HO〜PO:316.47mV/msとFF 〜MS以降活動が増加し、HO〜POでピークとなった。中殿筋では歩行周期間で大きな差はみられなかった。患側立脚時間は、通常歩行速度0.73 ± 0.02 秒、遅い歩行速度0.87 ± 0.13 秒、速い歩行速度0.61 ± 0.02 秒であった。【考察】ソケット内圧は、すべての歩行速度においてIC〜FFより増加し、FF〜MSでピークとなった。またその後MS〜POにかけて減少する変化を示したが、立脚初期から立脚中期のソケット内圧は、速い歩行速度、通常歩行速度、遅い歩行速度の順で大きく、歩行速度に依存すると考えられる。通常歩行速度では、患側大殿筋の活動はソケット内圧変化と同様な変化を示した。立脚初期に股関節伸展モーメントが発生すること、さらに膝折れ制御のために随意制御を用いて断端をソケット後壁に押し付けていることから大腿後面の圧が高まったとともに、大殿筋の活動が増加したと考えられる。遅い歩行速度では、大殿筋の活動は立脚中期から後期にかけて増加していた。また立脚時間は通常歩行速度と比べ長く、歩行速度が遅い分アライメント制御、立脚相制御である荷重ブレーキが働きやすくなり、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動が減少したと考えられる。速い歩行速度では、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動は小さかったが、その後筋活動は増加しHO 〜POでピークとなった。立脚時間は通常歩行速度と比べ短く、そのため早期から骨盤が足部の上に位置しやすく、股関節伸展モーメントが小さくなり、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動が減少したのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】大腿義足歩行時では、歩行速度によって膝継手制御が異なると考えられた。ソケット内圧の評価が可能になれば、ソケットの形状の工夫やよりさまざまな歩行速度での快適な大腿義足歩行の獲得が図れるなど、理学療法の発展の一助になると考える。
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山崎 達彦, 山下 淳一, 石野 麻衣子, 永樂 由香里, 千葉 淳弘, 吉村 さつき, 久保 慶昌, 原 美咲, 磯 毅彦
セッションID: A-P-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】我々は,「第16 回静岡県理学療法士学会」において,咀嚼対象物のある咀嚼運動は注意機能に影響を与える可能性を示唆し,咀嚼対象物の有無による咀嚼筋活動がその要因であることが予測された.そこで今回,その検証として健常者の咀嚼筋活動量に着目し,咀嚼対象物の有無による筋活動量の違いがあるのか.また,咀嚼筋活動量が注意機能に影響を及ぼすのかについて,表面筋電図とTrail Making Test Part A(以下TMT-A)及びPart B(以下TMT-B)にて調査,検討したので報告する.【方法】対象は,直近の食事から2 時間以上経過した健常者28 名(男性15 名,女性13 名:年齢25.3 ± 5.8 歳).対象者は,コントロール群(以下A群),任意の力での咬合運動群(以下B群),最大の力での咬合運動群(以下C群),ガム咀嚼群(以下D群)に7 名ずつ第三者がランダムに振り分けた.課題内容として先行研究を参考に,A群は6 分30 秒間安静座位.B群,C群は90 秒間口に何も含まず咬合運動後,5 分間安静座位.D群はジーシー社製の無味無臭ガムを1 つ使用し,90 秒間咀嚼運動後,5 分間安静座位とした.表面筋電図は日本光電社製MEB-2200 を使用し,B群,C群,D群の課題時に測定した.測定筋は,左右側の側頭筋前部(以下Ta),咬筋(以下Mm)の計4 筋とした.導出部位は坂本らの方法を参照し,測定前に皮膚前処理を十分に行った.運動速度は,電子メトロノームを使用し毎分120 回に設定した.正規化を目的に,左右側Ta,Mmの最大等尺性随意収縮(以下MVC)による咬合運動を課題前に3 秒間測定し,その中の3 ストロークを付属プログラムにて面積積分値を求めた.求めた値に対し,各課題の運動開始60 秒後から3 秒間測定し,その中の3 ストロークの面積積分値を求め,MVCに対する割合(以下%MVC)を比較した.TMT-A,TMT-Bは課題前後の2 回測定し,各群内における比較と4 群における課題前後の変化量の差を比較した.統計ソフトはRコマンダーを使用し,各群内における比較には正規性検定後,t検定またはWilcoxonを使用.各群の比較には一元配置分散分析と多重比較検定により比較した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承諾(承諾番号2408)を得た.また,被験者に文書および口頭で研究内容を十分に説明し同意を得た.【結果】各筋の%MVCとして,右Mm では,B群23.27 ± 7.08%,C群65.84 ± 15.39%,D群50.60 ± 18.11%と,B群とD群,B 群とC群,C群とD群に有意差を認めた.左Mmでは,B群18.80 ± 10.09%,C群71.04 ± 15.83%と,B群とC群に有意差を認めた.右Taでは,B群26.99 ± 5.22%,C群71.64 ± 16.60%,D群44.19 ± 19.12%と,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.左Taでは,B群30.50 ± 9.47%,C群72.27 ± 16.05%,D群42.99 ± 23.91%と,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.注意機能の群内比較において,A群はTMT-A課題前25.27 ± 7.92 秒と課題後18.44 ± 4.10 秒に有意差を認めた.B群はTMT-B課題前43.83 ± 5.21 秒と課題後36.79 ± 4.74 秒に有意差を認めた.C群はTMT-A課題前23.62 ± 5.38 秒と課題後19.25 ± 4.89 秒,TMT-B課題前51.47 ± 11.37 秒と課題後39.86 ± 9.87 秒に有意差を認めた.D群は共に有意差を認めなかった.各群の課題前後における変化量の比較は,TMT-Aでは有意差を認めず,TMT-Bでは,A群-2.14 ± 7.84 秒,B群-7.04 ± 3.64 秒,C群-11.60 ± 5.62 秒,D群4.43 ± 6.90 秒と,A群とC群,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.【考察】咀嚼対象物の有無による咀嚼筋活動量の違いとして,B群とD群の比較において右Mmに有意差を認めた.窪田は咀嚼対象物により咀嚼システムが機能すると報告し,佐藤は,Taは咬みしめの強弱により機能を変化させ,Mmは咬みしめの強弱に関わらず咬合力を発揮することを報告している.本研究において,B群は咀嚼対象物が無い為MmがD群と比べ作用せず,D群ではガムの軟化に伴いTaは下顎保持に機能したこと.また,利き側の影響も考えられ右Mmのみ有意差が認められたと考える.咀嚼筋活動が注意機能に及ぼす影響として,TMTは前頭葉の注意機能評価の1 つといわれている.本研究では,特にC群に有意差を認め,D群では有意差を認めなかったことから,咀嚼対象物の有無よりも,咬合強度が前頭葉の注意機能に影響を及ぼすことが示唆された.馬場は,最大咀嚼運動は前頭葉に影響をきたすことを報告し,富田らは咀嚼機能を回復させると前頭葉機能が向上するとの報告から,同様の効果が得られたと考える.しかし,どの程度の咬合強度が必要なのかなど,今後も検討が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】臨床場面において,注意機能の重要性を感じる機会は多い.今回,咀嚼筋活動量が注意機能に影響を及ぼすことが示唆されたことから,咀嚼筋が注意機能に対するアプローチの1 つとなり得る可能性が示唆された.
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森田 正治, 高橋 精一郎, 吉村 美香, 中村 朋博, 村松 慶紀, 小林 宏
セッションID: A-P-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】これまで代謝活動に関して行われてきた運動負荷における研究として、疲労物質の一つである血中乳酸の測定や代謝の結果として発生する呼気ガス分析などが行われてきた。一方、表面筋電図上、筋疲労に伴い、そのパワースペクトルの高周波成分から低周波成分へと移行し、かつ表面筋電図の振幅が大きくなるとされている。近年、運動中の局所筋における酸素動態を非侵襲的かつリアルタイムに観察する方法として、近赤外分光法(以下NIRS)が用いられるようになってきた。NIRSは生体組織内のヘモグロビンが酸素との結合状態により近赤外光の吸収特性が異なることを利用して、非観血的に血中酸素動態を計測する光計測法である。脳活動のイメージングやリハビリテーション、スポーツ科学など幅広い分野での応用が期待されている。一方、NIRSを用い、血中酸素動態を計測した研究はいくつか存在し、NIRSによる筋疲労評価の可能性は示唆されているが、いまだに確立されたものはない。今回、20 歳以上の健常成人を対象に運動強度の違いによる局所筋の疲労状態について、NIRSを用いて血中酸素動態を計測し、表面筋電図との関連を分析した。【方法】対象は健常者36 名(男性18 名、女性23 名)で平均年齢は21.9 ± 3.3 歳である。対象筋の上腕二頭筋に筋電図(日本光電社製 WEB-7000)及びNIRS(Spectratech inc.社製 OEG-16)のプローブを1 組ずつ取り付けた。運動強度の設定は、BIODEX system3 により、規定の肢位にて最大等尺性収縮(以下MVC)を3 回測定し、得られた値のうち最大値をMVCとして採用した。十分に休息を入れた後、同一肢位にてまず20%MVCで30 秒間の等尺性収縮運動を30 秒間の休憩をはさみ3 回計測し、3 回目の20%MVC計測後60 秒間の休憩を入れ、80%MVCでも同様に計測を行った。3 回目の80%MVC終了後も60 秒間は同一肢位のままNIRSの計測を行った。得られた筋電図は整流平滑化(以下ARV)を行い、これを動作時間で積分した値を積分筋電図(以下IEMG)として筋使用量の評価に使用した。その後、高速フーリエ変換(以下FFT)を用いて、2 秒毎の平均周波数(以下MPF)を算出した。各運動強度実施時にも筋電図同様、NIRSの計測を行った。使用した装置では、770nmと840nmの2 波長の近赤外線吸収係数を使用し、血中の酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度変化量(⊿Coxy・D、⊿Cdoxy・D)を算出し、その差(⊿Hb60s)を筋疲労の値として採用した。統計学的分析はDr SPSS Ⅱを用いて、運動強度及び施行回数によるMPFの変化は二元配置分散分析を用い、運動強度による⊿Hb60sの違いは個別に分析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、国際医療福祉大学倫理審査委員会の審査承認を受けた(承認番号:11-182)。研究協力者には書面を用いて口頭で研究内容を説明し、同意書の取り交わしを行った。【結果】各運動強度におけるIEMGは、20%MVCよりも80%MVCで有意に高値を示した。また、各運動強度の施行終了後のMPFは、20%MVCよりも80%MVCで有意に低値を示した。さらに、対象者による違いはあるが、各運動強度での施行回数の増加に伴い、MPFの低下率は20%MVCよりも80%MVCの方で増加傾向を示した。20%MVC負荷時の血中酸素動態⊿Coxy・D、⊿Cdoxy・Dはともに、動作終了後すぐに動作前の値(ゼロ)に漸近した。一方、80%MVC負荷時の血中酸素動態は動作前の値に漸近はせずに、⊿Coxy・Dと⊿Cdoxy・Dの間に大きな差が生じた。このような傾向はすべての対象者で観察された。【考察】筋電図のFFT解析において、20%MVCでは一部の対象を除き、施行回数が増えても測定時間内の変化を示さなかったことから筋疲労をきたすまでに至らなかったと推測される。逆に、80%MVCでは測定時間の後半になるほど低周波領域に移行する傾向があり、筋疲労を表していたと思われるが、MPFの低下率と施行回数増加との関連は認めなかった。一方、NIRSを用いた新たな評価指標⊿Hb60sは、低負荷の場合は低値を、逆に高負荷の場合は高値を示した。このことからも比較する対象の⊿Hb60sの値が疲労程度に深く関与していることが明確であり、NIRSは局所筋の疲労評価には有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】NIRSは小型軽量で操作も簡単であることに加え、局所筋の筋疲労を非侵襲的に観察でき、臨床上のトレーニング効果を客観的にとらえることが可能である。また、NIRSでは、筋電図ではとらえられない運動後の状態を測定でき、トレーニング後の疲労回復を血中酸素動態で評価することが容易であり、リハビリテーション領域における有用性が期待できる。
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合田 明生, 佐々木 嘉光, 本田 憲胤, 大城 昌平
セッションID: A-P-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】近年,運動が認知機能を改善,または低下を予防する効果が報告されている.運動による認知機能への効果を媒介する因子として,脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている.BDNF は神経細胞の分化,成熟,生存の維持を促進する.またBDNFは神経細胞内に貯蔵されており,中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される.さらに血液-脳関門を双方向性に通過可能なため,中枢神経のみではなく末梢血液中にも存在している.運動時のBDNF反応を観察した先行研究から,中強度以上の有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加することが示唆されている.一方で,これらの先行研究は欧米人を対象としたものが多く,日本人を対象とした研究は見つからなかった.そこで本研究では,日本人において中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加すると仮説を立て検証を行った.その結果から,運動による認知症予防のエビデンス構築の一助とすることを目的とする.【方法】健常成人男性40 名(年齢 24.1 ± 2.8 歳; 身長 170.6 ± 6.7cm; 体重 64.8 ± 9.4kg)を対象にした.本研究は,運動負荷試験と本実験からなり,48 時間以上の期間を空けて実施した.運動様式は,運動負荷試験・本実験ともに,自転車エルゴメータを用いた運動負荷(60 回転/分)とした.運動負荷試験では,最高酸素摂取量を測定した.本実験では,30 分間の中強度運動介入を行い,運動前後で採血を実施した.採血は医師によって実施された.採取した血液検体は,血清に分離した後,解析まで-20°で保管した.血液検体の解析は検査機関に委託し,酵素結合免疫吸着法検を用いてBDNF量の測定を行った.以上の結果から,中強度有酸素運動によって末梢血液中のBDNFが増加するのかを検討した.正規性の検定にはShapiro wilk検定を用いた.BDNFの運動前後の比較には,対応のあるt検定を用いた.危険率5%未満を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の実施にあたり,聖隷クリストファー大学倫理審査委員会及び近畿大学医学部倫理委員会の承認を得た.また対象者には研究の趣旨を口頭と文章で説明し,書面にて同意を得た.【結果】中強度の有酸素運動介入によって,40 人中22 名で運動前に比べて運動後に血清BDNFが増加した.しかし,運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.21).【考察】運動介入によって末梢血液中のBDNFが増加することは,欧米人を対象とした多くの先行研究で報告されている.健常成人における有酸素運動介入による末梢血液中のBDNFの急性反応を調査した文献は13 本確認され,運動後にBDNFが増加した研究は8 本であり,不変または減少した研究は5 本であった.本研究と同様に,運動後に有意なBDNF 増加が認められなかった先行研究では,急速な中枢神経系への輸送が生じたため,運動後の採血でBDNFの増加が見られなかったのであろうと考察している.本研究では,動脈カテーテルを用いたリアルタイムの採血ではなく,静脈に穿刺して採血を行っている.そのため,被験者により運動終了から採血までの時間が数分程度差異があり,この間の末梢血液中BDNFの脳内取り込みが結果に影響している可能性がある.さらに,本研究で運動によりBDNF増加が生じなかった要因の1 つとして,一塩基多型(Val66Met)によるものも考えられる.これはBDNF遺伝子の196 番目の塩基がGからAに変化した多型のことで,これによってBDNF前駆体であるproBDNFの66 番目のアミノ酸がValからMetに変化する.Met 型の一塩基多型を持つ個体では,Val型に比べ,BDNFの活動依存性分泌が障害されることが報告されている.また日本人における一塩基多型(Val66Met)の保有率は,50.3%〜53.0%と欧米人に比べて高い値が報告されおり,このBDNF分泌を阻害する一塩基多型(Val66Met)の保有により,本研究対象者の運動によるBDNFの調節性分泌が減少していた可能性が考えられる.以上より,健常日本人男性におけるBDNFを増加させることを目的とした30 分間の中強度有酸素運動は,対象者によって適応の有無を検討する必要があることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から日本人の特性を考慮した認知機能に対する運動介入が必要であることが示唆される.今後需要が拡大すると予測される認知症予防の分野ではあるが,BDNF増加を目的とした運動介入を行う際には,対象者の適応を検討することでより効率的な介入効果が期待できると考えられる.
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糸谷 圭介, 糸谷 素子, 加藤 順一, 安藤 啓司
セッションID: A-P-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】近年、全身振動刺激(WBV) によるトレーニング効果として、競技者や高齢者において下肢筋力の運動パフォーマンスや身体バランスの向上や骨密度の改善などが報告され、スポーツ医学のみならずリハビリ医療にも応用されつつある。しかし、それらの報告はある一定期間のWBVトレーニングによる身体への効果を評価したものであり、即時効果をみた報告は本邦では散見されている。そのため本研究ではパーキンソン病患者における運動能力がWBVを用いることでどのように変化するかを明らかにすることである。【方法】当院に入院中のパーキンソン病(PD)患者のうち監視下にて歩行が可能な14 名(男性6 名、女性8 名:67.8 ± 13.1 歳)を被験者とした。WBV負荷には音波振動にて垂直方向に振動するWBV(Sonic Wave Vibration System、SONIC WORLD)を使用し、周波数25Hzにて2 分間の負荷とWBV負荷プロトコールを実施した。WBV負荷中は、プラットホーム上にて両膝関節を約10 −15 度屈曲立位とし、両上肢にて手すりを把持するよう被験者へ口頭指示した。WBV負荷実施前後において10m歩行時間、Timed Up and Go test(TUG)、静的立位バランスの測定を実施した。静的立位バランス評価には重心動揺計(アニマ社製G620)を使用し、取り込み周期を50msに設定し1 分間計測した。統計解析は、WBV負荷前と比較してWBV負荷2 分後およびWBV負荷プロトコール後の10m歩行時間とTUG時間および立位バランス評価の重心動揺による総軌跡長、矩形・外周面積をWilcoxon符号付順位検定を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本院の倫理委員承認(承認番号03)のもと、対象者に口頭および紙面にて説明し、同意を得た。【結果】WBVによる運動の実施前後で、静的立位バランスの重心総軌跡長は、142.8 ± 76.9 から131.5 ± 65.3cm、118 ± 71.3cmとなり有意な改善を認めた(p<0.05)。また10m歩行時間は13.6 ± 7.8 から11.6 ± 5.3 秒、11.4 ± 5 秒 (p<0.01) となり、TUGも、22.7 ± 33.7 から19.9 ± 29.5 秒、18.3 ± 23.7 秒 (p<0.01) と有意な改善を認めた。【考察】PD患者におけるWBVを用いた運動刺激は、実施直後に静的立位バランスおよび歩行速度や起立動作に影響を与え、それらの能力を向上させることが明らかとなった。PD患者では, 固有感覚を統合することが障害されるために姿勢反射障害が生じるとされており、WBVトレーニングによる微細振動刺激はα運動神経を興奮させ骨格筋を収縮させると考えられる。またγ運動神経も興奮し, 遠心性インパルスにより錘内線維を収縮させ筋紡錘中のIa線維が求心性インパルスを生じさせる。これらの固有感覚入力が増強され感覚統合のプロセスを強調し、即時効果として歩行障害やバランス機能の改善に影響したと推測される。【理学療法学研究としての意義】健常者や高齢者のみでなく、神経難病を有した患者でも健常者と同様の効果が得られた。そのため、臨床現場における健康増進や低負荷の運動装置として活用できると思われる。さらに、使用が簡便なため自主的な運動においても有効活用が可能であると考えられる。
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松下 健, 松村 仁実, 木山 喬博
セッションID: A-P-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】ストレッチング(以下St)は医療やスポーツ現場などで頻繁に使用される.その目的は,関節可動域(以下ROM)の改善,関節拘縮の予防・維持・改善,筋緊張の低下,血液循環の改善,疼痛の緩和,障害予防や競技パフォーマンスの向上などである.本研究はROMの改善に着目し,St効果を検討した.ROMの改善は軟部組織の柔軟性向上の結果として得られる.柔軟性は,質的柔軟性と量的柔軟性に分けられる.質的柔軟性は関節の動かし易さを,量的柔軟性は関節可動範囲を示す.つまり,質的柔軟性は通常St時の抵抗感覚で,量的柔軟性は関節角度で評価される.St時の抵抗力は,軟部組織を伸張すると増加する張力である.先行研究で,St肢位で保持(以下Hold)後の経時的な張力低下が報告されており,「張力緩和」と呼ばれる.張力緩和により伸張抵抗力が低下すれば,低外力で歪みが生じ易くなる.つまり,張力緩和により柔軟性は向上すると考える.歪みには可逆的な粘弾性歪みと,不可逆的な塑性歪みがある.本研究ではSt効果を,張力緩和に伴う粘弾性歪みによる柔軟性向上とした.同等のSt効果を得るためには,一般に1 回のSt施行時間が短いほど,St反復回数は多く必要とされる.Stの反復によるHold開始時の張力低下は報告されているが,持続Stと反復StとのSt効果の比較を行った研究は少ない.Stで得られる張力緩和を反復することでHold開始時張力が低下すれば,反復Stは持続StよりもSt効果が大きいとの仮説を立てた.本研究の目的は,持続Stと反復Stの張力緩和特性の確認と効果の比較とした.【方法】対象は健常成人11 名(男性6 名,女性5 名,年齢:19.5 ± 0.7 歳,身長:167.0 ± 7.9cm,体重:59.0 ± 12.1kg)であった.傾斜台,リフター,作製した角度可変Stボードを用い,立位で下腿三頭筋のスタティックStを実施した.St肢位は足関節背屈15° で統一した.持続Stは9 分間のSt,反復Stは3 分間のStを3 回,反復St間の休憩時間は30 秒とした.ともに総St時間を9 分に統一した.全対象者に2 条件のStを実施し,実施順序はランダム化し,1 日1 条件,2 条件の実施間隔は1 週間以上とした.St時の足関節背屈トルクを下腿三頭筋抵抗力(以下張力)と置き換えて,荷重変換器(共和電業社製)で測定した.サンプリング周期は100msで得られた出力電圧はKEYENCE NR600(キーエンス社製)にてA/D変換し,コンピュータへ入力した.事前に求めた荷重変換器の機械特性式で,出力電圧をkgfへと変換して体重で除した後,N・m/kgに変換した. Hold開始時張力を初期張力,ストレッチング終了時張力を最終張力とし,張力緩和率{(最終張力−初期張力)/初期張力× 100(%)}を算出した.統計学的処理は,一元配置分散分析で,持続Stと反復Stのそれぞれの張力の経時比較,初期張力と最終張力の比較をした.Kruskal Wallis順位検定で,持続Stと反復St(全体),反復St1 回目の張力緩和率を比較した.Friedman順位検定で,反復St1回目と2回目,3回目の張力緩和率を比較した.それぞれ有意差がみられたら多重比較を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を文書と口頭にて説明をし,同意を得た上で実施した.なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得た.【結果】持続Stと反復St1 回目にて,St開始からHold開始で張力増加が,Hold開始からSt終了で張力緩和が観察された.張力の経時的比較で,持続Stでは,Hold開始時(3.62 ± 0.55N・m/kg)と比較して1 分以後(1 分:3.32 ± 0.48N・m/kg,9 分:3.18 ± 0.36 N・m/kg)で有意差あり(p<0.01).反復Stでは,1 回目,2 回目,3 回目とも有意差なし.初期張力は,反復St1 回目(3.47 ± 0.69N・m/kg)と比較して,2 回目(3.07 ± 0.58N・m/kg)と3 回目(2.95 ± 0.65N・m/kg)で有意差あり(p<0.01).最終張力は,3 回の反復St間に有意差なし.張力緩和率は,持続St(-10.9 ± 12.8%)と反復St(全体)(-10.5 ± 13.0%)では有意差なし.St時間の比較で,9 分(-10.9 ± 12.8%)と3 分(-4.2 ± 9.7%)でも有意差なし.【考察】経時的な張力緩和の大部分はHold開始直後に発生し,Hold開始から1 分までのStで粘弾性歪みが十分に得られることが分かった.また,反復StでSt回数を重ねると初期張力は低下し,反復回数のはやい段階での低下率が特に大きかった.持続Stと反復Stとも張力緩和が観察され,粘弾性歪みが生じたと考える.しかし,本研究では2 条件間にはSt効果に有意差はみられず,St時間,強度等の決定因子を再検討すべき課題が残った.【理学療法学研究としての意義】経時的な張力緩和と反復Stでの初期張力低下の2 つの張力の特性を考慮してStを実施する重要性が示され,Stを反復することの有効性が示唆された.
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渡邉 紗樹, 横山 実芽, 後藤 友美, 宮川 雅幸, 西山 徹
セッションID: A-P-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】臨床現場では,転倒予防へのアプローチのひとつとして,タオルギャザートレーニング(足趾外在筋トレーニング)が推奨されている.しかし他研究では,転倒予防に対するアプローチとして,足趾内在筋トレーニングが推奨されている.そこで我々は,足趾把持力トレーニング(以下把持力トレーニング)と足趾圧迫力トレーニング(以下圧迫力トレーニング)の前方安定性限界の延長に対して比較を行い,どちらが有効であるかを検証することを目的とした.【方法】対象者は健常成人27 名(男性:14 名,女性:13 名,年齢20.2 ± 1.24 歳)とし,圧迫力・把持力トレーニング前後の前方安定性限界を測定した.対象者を無作為に2群に分類し,比較検討した.測定項目は,無作為に2群に分けた全対象者の身長(cm)・体重(kg)・前方安定性限界(mm)・アーチ高(cm)を計測した.前方安定性限の測定方法は,重心動揺計(アニマ社製GRAVICODER GS-11)を使用し,2m前方の黒点を注視した状態で踵が離れないよう10 秒かけて前足部に重心を移動させ,元の位置に戻るように指示した.その際のY方向最大振幅の値を計測値にした.アーチ高は,床面の高さから舟状骨とした.変化率の算出方法は,介入後を介入前で徐し,更に100 で積分した値とした(変化率=介入後/介入前× 100).足趾把持力トレーニングは立位にて,タオルギャザーを無負荷で行った.1mのタオルを引き寄せる方法で,左右3 回(1 分間に20 回のペース)行った.足趾圧迫力トレーニングは立位にてトレーニングを実施した.膝関節を伸展した状態で,前方に出した下肢に最大荷重させ,左右100 回(50 回× 2)を実施した.それぞれの測定値の統計処理は, 各トレーニング介入前後の前方安定性限界は,対応のあるt検定を用い,介入前のベースラインの比較および各トレーニング介入による変化率は,対応のないt検定を用いた.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として,対象者に対し,本研究の目的,内容,予測される危険性などを説明したうえで,本研究に参加することの同意を書面にて取得した.【結果】各トレーニング群の測定項目に有意な差は認められなかった.把持力トレーニング群の前方安定性限界は,介入前で122.7 ± 20.2mm,介入後で137.9 ± 27.2mmであり,その変化率は,113.5 ± 19.2%であった.圧迫力トレーニング群の前方安定性限界は,介入前で115. 5 ± 30.1mm,介入後で128.7 ± 37.7mmであり,その変化率は113.2 ± 22.5%であった.把持力トレーニング群では,前方安定性限界は有意に延長し,圧迫力トレーニング群は,前方安定性限界の延長に有意傾向を示した.しかし,トレーニング間の変化率に有意差は認められなかった.【考察】両トレーニングの結果から,前方安定性限界の延長に有意傾向を示した.その理由として,筋線維増殖や筋肥大の前段階として Hennemanのサイズの原理における神経性因子が関与していることが考えられる.トレーニング開始初期の筋力増強は,神経性因子が大きく関与し,筋力増強の効果は約3 週目で生じる.各トレーニングにより,求められる筋活動が多いほど,必要とされる筋量が増加する.そのため,両筋群の運動単位が増加することで,神経支配の増加,活動の同期化と順に行われ,筋出力が高まったと推測した.各トレーニング群の変化率に有意差は認められなかった.他研究において内在筋トレーニングでは,6 週間のトレーニングの中で2 週目からアーチ高の向上が認められた.しかし,本研究では,3 日間とトレーニング期間が短期間であったため,前方安定性限界が有意に延長しなかったと考えた.また,今回実施した圧迫力トレーニング方法では,両筋群を区別したトレーニングは困難であったと考える.その理由として,両筋群共に歩行周期中に足部に下腿を安定させる作用を持つため,立位姿勢で行ったトレーニング時には,両筋群のどちらも使用していた可能性が考えられる.よって今後は,内在筋筋力測定法の確立,内在筋への適切な運動負荷量の調査,トレーニング期間の延長による介入効果の向上を研究・調査が必要であると示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究結果により,バランス機能の改善におけるトレーニング方法では,足趾把持力トレーニングのほうが短期間で効果があることが示唆された.これにより,より適当なバランス改善トレーニングを行えることが出来,今後の理学療法の一助となると考える.
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亀井 裕貴, 星 葵, 岸 圭祐, 林 英里奈, 江口 勝彦
セッションID: A-P-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】歩行,サイクリング,ローイングなどのような律動的な運動時,呼吸リズムが運動リズムに引き込まれる現象があり,両者が同期した場合を運動‐呼吸同調( locomotor respiratory coupling) 又はEntrainmentという.この発生メカニズムはまだ明らかではないものの,四肢運動と呼吸運動を同調させることで,両運動の機械的効率を高めるであろうという予測から数多くの研究がなされ,LRC発生の生理学的意義についての考察がされている.一方,近年では,ウォーキングやランニング等を行う際においても音楽を聴きながら行う人が増えている.先行研究では,音楽を聴きながら運動することで不安状態が軽減する,交感神経活動が抑制される,主観的運動強度が減少する等の報告がある.しかしながら,そのメカニズムも不明である.我々は「律動的な運動時に聴く音楽は,行進に使用されるマーチやダンスの音楽のように音楽リズムの影響が強く,音楽リズムが運動リズムに影響を与えている」という仮説を立てた.本研究の目的は,音楽リズムが運動リズムに与える影響について明らかにすることである.【方法】対象は若年健常成人10 名( 男性5 名,女性5 名,平均年齢20.0 ± 1.5 歳) であった.盲検法とするために,実験前は真の目的を隠し,「音楽が自転車エルゴメータ運動におけるエネルギー効率に及ぼす影響についての実験を行います」と説明した.実験終了後,真の目的を説明し同意を得た.音楽は,機械的に発生させたテンポを使用していることからリズム変動が無い,テクノポップ系の音楽からYMOの「RYDEEN」を採用した.音楽編集ソフトを使用し,テンポが異なる2 条件(条件A:原曲のテンポ143bpm,条件B:少し速いテンポ150bpm)を設定した.各条件での測定は日をかえて行った.音楽リズムは曲に同期させた電子メトロノーム信号を使用した.運動リズムは,ペダル1/2 回転毎に反応するスイッチを取り付けた自転車エルゴメータ(75XL II,コンビ)を使用し,サイクリング運動行わせた.呼吸リズムは呼気ガス分析装置を用いて呼吸フローにより測定した.実際の呼吸と呼気ガス分析装置データとの間には16msの遅延が発生することから,得られた値を補正して使用した.すべての信号はA/D変換器(PowerLab)を経由しパーソナルコンピュータに取り込み解析した.運動実施時間は,定常状態におけるデータ採集を目的に,音楽2 サイクル分の8 分間に設定した.データ分析には,8 分間の運動時間のうち最後の1 分間の値を用いた.リズムの同調発生率は,「同調発生率(%)=(ペダル回転と同調した音楽リズム数/解析区間の全音楽リズム数)× 100」の式により算出し,各条件の同調発生率の平均値を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た.対象者は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.【結果】音楽‐運動リズム同調発生率は,条件Aが64.22 ± 2.02%,条件Bが58.52 ± 3.25%と共に高率であった.一方,呼吸‐運動‐音楽リズム同調発生は見られなかった.【考察】「律動的な運動時に聴く音楽は,音楽リズムが運動リズムに影響を与えている」という仮説を検証するために,テンポの異なる2 条件で実験を行った.テンポが異なっていても音楽‐運動同調発生率は共に高率であった.これは音楽リズムに運動リズムが引き込まれた結果であり,仮説は支持されたと考える.一方,呼吸リズムとの同調が起こらなかったのは,本研究で用いた運動の負荷強度が低く,律動的な呼吸の需要が低かったことが影響したと推察した.今後は適切な運動強度設定で検証していくことにより,音楽-運動-呼吸リズムの関係についてさらに追求したい.【理学療法学研究としての意義】音楽を聴きながら行う律動的な運動における音楽-運動-呼吸リズムの関係について明らかにすることで,運動効率の向上やパフォーマンスの向上に結びつく可能性がある.
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藤田 恭久, 堀 晋之助, 與儀 哲弘, 森木 貴司, 木下 利喜生, 幸田 剣, 中村 健, 田島 文博
セッションID: A-P-32
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】ヒトは抗重力位をとると、重力の影響により血流が腹腔、下肢に移動し、静脈還流量が減少することで、本来であれば血圧低下が生じるが、圧受容器反射による自律神経の作用により血圧を維持する。臥床状態が続くとこの圧受容器反射が減弱し起立性低血圧を起こす。このため、リハビリテーションでは可能な限り、早期から重力負荷を加えていく必要があり、一般的に、抗重力負荷として端座位や立位、Head up tilt(HUT)が行われる。これまでの研究で、人工呼吸器の呼気終末陽圧換気負荷により胸腔内圧が陽圧になることで静脈還流量が低下することが分かっている。しかし、重力負荷と陽圧換気下での循環応答を比較した報告はない。今回、非侵襲的陽圧換気法(NIPPV)を用いた陽圧負荷と、HUT、端座位、立位時の循環応答を測定し、陽圧負荷がどの程度の負荷に相当するかを検証したので報告する。【方法】対象は若年健常男性7 名とし、HUT(30°群、60°群)、姿勢変換(座位群、立位群)、陽圧負荷時の5 群を測定した。NIPPVの陽圧負荷は、非侵襲性人工呼吸器(BiPAP Focusフェイスマスク:フィリップス・レスピロニクス社製)を使用した。プロトコールは各群において、背臥位で十分な安静(陽圧負荷群は安静からマスクを装着)をとった後、安静値として5 分間の測定を実施した。陽圧負荷群は安静後、先行研究で心拍出量(CO)が有意に低下した陽圧12cmH
2Oを負荷し、7 分間の測定を行った。HUT群は安静後、HUT30°ついで60°を各7 分、姿勢群も同様に端座位および立位を各7 分間続けて測定した。また各群の測定間には十分な休息をおいた。測定項目は心拍数(HR)、一回心拍出量(SV)、CO(MCO-101 メディセンス社製)、血圧(エレマーノTERMO製)とし、HR、SV、COはbeat by beat、血圧は1 分毎に測定し、平均血圧(MBP:拡張期血圧+脈圧/3)を算出した。各データは最後の3 分間を平均した値を使用し、算出した3 分の平均値を安静時のデータと比較し、さらに安静時からの変化率を陽圧負荷群とHUT および姿勢変換の間で比較検討を行った。統計処理は多重比較検定のTukey-Kramerを使用し、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に実験の目的、方法及び、実施上の留意点、危険性を十分に説明し同意を得てから実施した。【結果】HRはHUT60°、端座位、立位時において安静時に比べ有意な上昇が認められ、HUT30°と陽圧負荷において変化は生じなかった。SV、COはすべての群において安静時より有意な低下を示した。MBPは、端座位のみ安静時より有意な低下を示した。HRの変化率における陽圧負荷との比較では、HUT60°、端座位、立位時において有意に高値を示した。SVの変化率における陽圧負荷との比較では、すべての群において有意な低値を認めた。しかしCOの変化率における陽圧負荷との比較ではHUT60°、端座位、立位時において有意な低値を認めたが、HUT30°では有意差を示さなかった。またMBPは陽圧負荷と各群間において有意差を認めなかった。【考察】本研究の目的は、NIPPVの陽圧換気がHUTや姿勢変換の重力負荷による循環応答に対し、どの程度に相当するか検討することである。陽圧負荷群とHUT群、姿勢群におけるCOの比較では、HUT30°のみの重力負荷において有意な差を認めなかったため、12cmH
2Oの陽圧換気はHUT30°の重力負荷に相当したと考えられた。陽圧負荷群のSV、CO低下は、陽圧負荷により胸腔内圧が陽圧となることで、本来陰圧呼吸による圧格差での静脈血を引き上げる呼吸ポンプ作用が減弱したことに起因すると考えられた。また胸腔内圧が陽圧になることで大静脈が圧迫され右房圧が上昇し、静脈還流量が減少することや、気道内圧も陽圧になるため、肺血管抵抗が上昇し、右心室の後負荷の増大から低下する要因も考えられる。今回の結果より、NIPPVを使用した12cmH
2Oの陽圧負荷では、循環動態に対して座位や立位と同等の負荷をかける事は難しく、起立性低血圧を完全に予防するためには更に高い陽圧負荷が必要である可能性がある。しかし、これ以上の陽圧は一般臨床上もまれであり、安全面より難しいかもしれない。ただ、NIPPVを使用した陽圧負荷とある程度の重力負荷を併用する事により、効果的な起立性低血圧の予防を行える可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】離床可能な患者においては、早期から端座位や立位で重力負荷をかけ安静臥床を避けることが重要である。しかし、化膿性脊椎炎や脊椎の不安定性などにより、安静臥床を強いられる症例においては、NIPPV を使用した陽圧負荷とより少ない重力負荷で、起立性低血圧を予防できる可能性がある。
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井上 裕水, 赤壁 知哉, 増田 崇, 田平 一行
セッションID: A-P-32
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】咳嗽は気道内の異物や分泌物を除去するために必要な生体防御反応である。なかでも随意咳嗽は吸気相から始まり、圧縮相、呼気相から構成される。臨床では咳嗽機能の指標として咳嗽時呼気流量(Cough peak flow: CPF)が用いられており160L/min以下になると日常的に気道分泌物の除去が困難になると報告される。またCPFは神経筋疾患、嚥下障害患者及び腹部外科術後患者において低下するとの報告がある。近年、CPFに加えて気道と分泌物の間に生じる剪断力に関係するとされる咳嗽時流量加速度(Cough Volume acceleration :CVA)が注目されている。CPF、CVAは臨床では有効な排痰を行うために重要であり脳卒中患者やパーキンソン病患者において誤嚥とのスクリーニングの指標としての報告がいくつかなされているが、その生理学的メカニズムについては十分に検討されていない。そこで今回、肺気量位および呼気努力が咳そう時流量および流量加速度に及ぼす影響について検討した。【方法】被験者は、健常人男性13 名で年齢25.1 ± 2.9 歳、身長171.1 ± 3.8cm、体重62.7 ± 5.3kgであった。被験者に座位をとらせ、努力有り、 無しの咳嗽を最大呼気位からの吸気量(深吸気, 3L, 2L, 1L)を変化させて3 回実施した。随意咳嗽のデータはフローヘッド(MLT300L: ADInstruments)からフロートランスデューサー(ML311 Spirometer Pod)へ取り込みさらにA/D コンバータ(Power Lab16/35, ModelPL3516: ADInstruments)を介してパーソナルコンピュータに取り込んだ。得られた咳嗽時流量波形から、CPFを求め、CPFを呼気開始からCPFに達する時間で除してCVAを算出した。統計解析はCPFとCVAについて、呼気努力あり、努力なしおよび努力による増加率を各吸気量で反復測定分散分析を用いて比較した。多重比較にはボンフェローニ法を用い、有意水準はp<0.05 とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には事前に本研究の目的を説明し同意を得てから行った。また事前に学内の研究倫理委員会の承認を得た。【結果】吸気量による比較:努力の有無にかかわらず吸気量が大きいほどCPFは高い傾向を示したが、CVAには一定の傾向を認めなかった。呼気努力の有無による比較:CPFおよびCVAともに呼気努力によりいずれも吸気量で増加し、努力による増加率は、CPFで3.9 〜4.1 倍、CVAで5.1 〜7 倍であった。また、努力による増加率には、吸気量間に有意差を認めなった。【考察】通常の咳嗽(努力あり)のCPFは吸気量が増えるにつれて高値を示した。これは先行研究でも吸気量はCPFの決定要素となると報告されており同様の結果であった。生理学的には、低肺気量においては等圧点が末梢に移動するため気道抵抗が減少するが、同時に静的肺・胸郭圧量曲線より肺弾性圧が低下するためCPF値が低値を示したことが考えられる。一方CVAでは吸気量の変化によって差はほとんどみられなかった。CVAは流量が最大になるまでの時間の影響が大きく、これは声帯機能を反映すると考えられるため、吸気量の影響が小さかったものと推察された。呼気努力のない咳嗽では等圧点が存在しないため、CPF、CVAの吸気量による変化は、肺弾性圧の変化を反映していると考えられた。また呼気努力による増加率はCPFよりCVAが高く、吸気量による変化を認めなかった事から、喀痰に働く剪断力を反映するとするCVAは、CPFよりも努力による効果(胸腔内圧の上昇などを反映しやすいものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】CPFにおいては臨床においてアウトカムが多数報告されている。CVAにおいては臨床において誤嚥との関連が報告されているが、生理学的なメカニズムはほとんど報告されていない。今回はCVAに関わる要因を検討することにより咳嗽に関するより詳細な評価や治療効果に反映できるのではないかと考える。
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田口 飛雄馬, 田平 一行
セッションID: A-P-32
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに,目的】全身持久力評価は,最も客観的な心肺運動負荷テスト(CPX)やフィールド歩行テストである漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT),6 分間歩行テスト(6MWT)を用いられることが多いが,これらの評価法は高価な機器や,広いスペースが必要であり,また高負荷であるためリスクの観点からも通所施設や在宅分野では使用しにくい問題がある.一方,CS-30 はJanesらによって考案された下肢筋力評価法であり,片麻痺患者の最速歩行速度や排泄自立度,転倒予測などとの関連も報告されている.また,試験は椅子から立ち座りを繰り返すことから,全身持久力の評価になり得る可能性がある.そこで今回,健常者を対象にCS-30 とCPXを行い,CS-30 から最高酸素摂取量(VO2peak)を予測可能であるか,またCS-30 の運動強度や呼吸循環器系・筋酸素動態への影響を検証することを研究目的とした.【方法】健常大学生20 名(男性10 名,女性10 名,年齢21.0 ± 1.1 歳)を対象に,2 種類の負荷試験(CS-30,CPX)を実施した.その間,血圧監視装置tango(Sun teck社)を用いて収縮期血圧(SBP),心拍数(HR)を,呼気ガス分析装置(MataMax, Cortex社)を用いて分時換気量(VE),酸素摂取量(VO2)を,組織血液酸素モニター(BOM-L1TRM,オメガウェーブ社)を用いて右外側広筋の骨格筋酸素動態{総ヘモグロビン量(totalHb),脱酸素化ヘモグロビン量(deoxyHb)}を,自覚的運動強度は旧Borgスケールを用い呼吸困難感,下肢疲労感を測定した.またCS-30 は立ち上がりの回数も測定した.負荷プロトコル:CS-30 は高さ40cmの椅子に腰掛け,両下肢を肩幅程度に広げて両腕は胸の前で組ませ,30 秒間で可能な限り立ち座りを繰り返させ,その回数を数えた.CPXは自転車エルゴメーターを用い,ランプ負荷(男性:20W/min,女性:15W/min)で,ペダル回転数60rpmを維持させ症候限界まで運動させた.CPXとCS-30 の測定は1 日以上を空けランダムに実施し,中止基準は目標心拍数・自覚症状などとした.解析方法:1)CS-30 とCPXの各測定項目の比較:安静時を基準とした100 分率を用い,最大値(max),回復1 分(rec1),2 分(rec2)の値を算出した.解析は二元配置分散分析を用い,同時間における比較には対応のあるt検定を用いた.2)CS-30 の回数とVO2peakとの関係:従属変数VO2peak,独立変数をCS-30 の回数とする単回帰分析を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護には十分留意して実施した.全対象者には本研究の趣旨と目的を説明し,自署による同意が得られた後に実施した.また研究は,事前に本学倫理委員会の承認を得た.【結果】1.CS-30 とCPXの各測定項目の比較:totalHb,deoxyHbを除く全ての指標でCS-30 の方がCPXよりも有意に低値であったが,全てにおいて時間要因との交互作用を認めた.また各時間における比較は,SBP,HR,呼吸困難感,下肢疲労感,VEで,全ての時間帯で有意差を認めた.また,最大値におけるCS-30 のCPXに対する割合は,SBP:83%,HR:84%,VO2:49%,VE:38%,呼吸困難感:74%,下肢疲労感:71%,totalHb:94%,deoxyHb:91%であった.2.CS-30 の回数とCPXのVO2peakとの関係:相関係数0.484(p<0.05)の有意な相関が得られ,VO2peak=-0.58+0.928 ×CS-30(回数)の予測式が得られた.【考察】CPXに対するCS-30の割合では,VO2maxで49%であった.これは運動強度がCPXの49%であることを意味している.また循環器系,呼吸器系の各パラメーター,呼吸困難感,下肢疲労感もCPXに対して有意に低値を示したことより,CS-30はCPXに対して負荷の少ない評価法であることが確認された.一方, deoxyHbは有意差がなく,骨格筋にはCPXと同等の脱酸素化が起こっていると考えられた.更にrec1:129%・rec2:126%と高く,CS-30 で回復が遅延することを示しており,これは骨格筋への負荷はCPX以上であることが推察された.また,CS-30 の起立回数とVO2peakには有意な相関があったが,決定係数は低いため,大まかな予測は可能であるが,精度を高めるには他の要因も考慮する必要があると思われた.【理学療法学研究としての意義】症候限界まで運動を行うCPX に対して, CS-30 は短時間で終了し,安全で理解しやすい利点がある.また本研究から,CS-30 は低負荷であり,全身持久力(VO2peak)との相関が確認された.CS-30 による全身持久力予測が可能となれば,通所リハビリテーション施設・在宅分野など,測定環境が不十分な施設で有用であると考える.しかし,下肢筋への負担は大きいことから実施後の転倒には十分気をつけなければならない.
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橋本 貴文, 本多 雄一, 神嵜 淳, 山本 拓, 安倍 基幸
セッションID: A-P-32
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】深部静脈血栓症(以下DVT)は臨床現場において外傷や急性期脳卒中患者,術後例などの活動性が低下した患者の下肢静脈に起こり得る.誘発因子として安静臥床による下肢静脈血流うっ滞が知られており,予防として弾性ストッキング装着,早期離床が実施されており,先行研究にてこれらが有用とされ,下肢静脈環流を上昇させ血流改善が図られると報告されている.しかし,急性期脳卒中患者に対する弾性ストッキング着用はDVT発生頻度を低下させる効果は無く,スキントラブルの発生率が上昇する等の悪影響をもたらすと報告されている.早期離床では,車いす坐位を取らせることが多いが,急性期脳卒中患者の漫然とした車いす坐位では,麻痺側自動運動困難により静脈還流量低下を伴い,血流うっ滞を起こし易くDVT発症率が高いとされている.そこで本研究では効率的な予防法として,先行研究で報告されていない,残存機能である一側(非麻痺側)の下肢運動が対側下肢(麻痺側と仮定)の静脈環流に影響を与えるか否かを,健常者を対象とし検討を行ったので報告する.【方法】対象は若年健常男性17 名(21 ± 1 歳)とした.左大腿静脈の背臥位・座位それぞれの静脈最大血流速度(cm/sec),分時静脈血流量(ml/分)を,エコー・パルスドプラ法を用いて測定した.血流量は,平均血流速度と静脈直径を測定し,これらの積より分時静脈血流量を算出した.右下腿腓腹筋内側頭部の組織脱酸素化血液量(以下Deoxy-Hb)は近赤外線分光法(NIRS)により測定を行った.近赤外線光の送受光プローブを装着し,Deoxy-Hbの変化を運動側の下肢静脈血流量の変化の指標とした.測定手順は,安静臥位1 分間の諸項目を測定,坐位では車いすを用い,安静坐位・坐位一側下肢運動を1 分間ずつ測定した.坐位一側下肢運動では右足関節底背屈運動を最大下運動にて1 分間に50 回行った.静脈最大血流速度・分時静脈血流量は実測値を,Deoxy-Hbは1 分間の平均値を用い,安静臥位を100%とし,安静臥位からの変化率として表し,左大腿静脈最大血流速度・血流量,Deoxy-Hbの各測定項目を安静臥位時,安静坐位時,一側下肢運動時の3 群間で比較を行った.統計処理は一元配置分散分析(Tukey法)を用い危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究倫理委員会の承諾を得て,全対象者に対し,測定前に本研究の目的と方法を説明し同意を得た.【結果】静脈最大血流速度は,安静臥位26.4 ± 2.3cm/sec,安静坐位12.9 ± 1.0cm/sec,坐位一側下肢運動21.6 ± 1.6cm/secとなり安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な増加を示した.(p<0.01)分時静脈血流量は,安静臥位647.6 ± 98.3ml/分,安静坐位454.6 ± 65.1ml/分,坐位一側下肢運動524.6 ± 164.7ml/分となり,安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な増加を示した.(p<0.05)Deoxy-Hbは,安静臥位を100%と比べ,安静坐位104.4 ± 2.2%,坐位一側下肢運動86.5 ± 2.8%となり,安静坐位と坐位一側下肢運動間に有意な低下を示した.(p<0.01)【考察】一側下肢運動においては,静脈最大血流速度,分時静脈血流量において安静坐位より有意に増加を示した.静脈生理反応に着目し起因要因を考えていく.右足関節底背屈運動により静脈還流が促進され,右大腿静脈は血管径が拡大し圧は上昇する.その後還流により下大静脈の径も拡大し,圧も上昇することで下大静脈と左大腿静脈との径の差と圧較差が生まれる.血流は圧の高い方から低い方へ流れるため,径の細い左大腿静脈の血液が径の太い下大静脈へと流入する.この反応により左大腿静脈の血流量と血流速度が上昇したと考える.運動側のDeoxy-Hbは安静坐位で上昇傾向にあり,坐位一側下肢運動で有意に低下した点については,運動による筋ポンプ作用により静脈還流が促進されたためであると考える.安静坐位は抗重力肢位であり,下肢に血液がうっ滞し易く必然的に静脈環流量が低値を示すが,坐位一側下肢運動時は,安静坐位より優位な増加を示し,車いす坐位においても一側下肢運動が有用な予防手段となり得る可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】臨床現場において急性期脳卒中患者に非麻痺側の下肢運動を指導することは有用なDVT予防策になり得ると思われる.実際の片麻痺患者を対象とした早急な研究を行う予定である.
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秋月 千典, 矢崎 祥一郎, 越前谷 友樹, 大橋 ゆかり
セッションID: A-P-33
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】近年,医療や介護の現場は,病院・施設に限らず在宅に移行しつつあり,理学療法士には高度な医療機器が存在しない在宅においても,安全に効果的な理学療法を提供することが求められている。理学療法を安全に効果的な強度で提供する1 つの手段として嫌気性代謝閾値(Anaerobic threshold;以下AT)を用いた運動強度の設定が推奨されている。しかし,在宅で呼気ガス分析装置を用いることは難しい。そこで,現在までにATを簡便に推定するための代替手段として二重積屈曲点(Double Product Break Point;以下DPBP)が考案され,広く用いられるようになっている。また,DPBPと同様,ATを推定する方法として唾液アミラーゼ活性の唾液閾値(Saliva threshold;以下Tsa)を用いる方法が提案されている。しかし,AT とTsaの関係に関する報告は少なく,Tsaと他の簡易推定法との関連を調べた報告はない。そこで,本研究はATを簡便に推定する方法としての唾液アミラーゼ活性測定の有用性を明らかにすることで,安全に効果的な運動療法を提供する手段の確立に寄与することを目的とする。【方法】研究協力者は11 名の健常成人男性(年齢23.8 ± 1.8 歳,身長172.6 ± 4.9cm,体重64.6 ± 6.3kg,BMI21.7 ± 1.3kg/m
2 )とした。研究協力者には予め,研究協力前日のアルコール摂取の禁止,測定開始2 時間前から水以外の飲食の禁止を指示した。運動負荷試験には自転車エルゴメータ(AEROBIKE 75XL,COMBI 社製)を使用し,呼気ガスと心拍数の測定には呼気ガス分析装置(AE-310S,MINATO 社製),血圧の測定には水銀式血圧計,唾液アミラーゼ活性の測定には酵素分析装置(唾液アミラーゼモニター,NIPRO社製)をそれぞれ使用した。運動負荷試験はエルゴメータ上での3 分間の安静座位の後,10Wattにて3 分間のウォーミングアップを行い,30Wattから開始した。その後,3 分毎に負荷を20Wattずつ段階的に漸増させた。ペダル回転数は50rpmで統一した。各段階における残り30 秒の時点で唾液の採取と,血圧測定を行った。唾液採取のため協力者から呼気ガス分析用マスクを取り外し,唾液採取紙を口腔内の舌下部に30 秒間挿入することで唾液を採取した。唾液採取後,呼気ガス分析用マスクを再装着した。ATの決定にはV-slope法を使用し,ATが観察された負荷から2 段階後の負荷が終了した時点で運動負荷試験を終了した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 20 を使用し,AT,Tsa,DPBP時の運動負荷量を一元配置分散分析により比較した。また,ATとTsa,ATとDPBP時の運動負荷量の関係をピアソンの積率相関係数を用いて検討した。危険率5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究協力者には事前に書面と口頭にて研究の目的と方法,研究上の不利益,プライバシー保護などについて説明し,研究協力の承諾を得た。尚,本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施した。【結果】本研究の結果,ATは全ての研究協力者で確認できたが,TsaとDPBPはそれぞれ2 名の協力者で確認できなかった。そのため,以下の解析では,TsaとDPBPが確認できなかった協力者のデータを除いて比較を行った。その結果,AT 時のVO
2/W,HR,運動負荷量はそれぞれ18.1 ± 2.3 ml/kg/min,116.2 ± 16.4 beat/min,70.0 ± 28.3 Wattであった。Tsa 時の唾液アミラーゼ活性は40.0 ± 18.1 kU/Lであり,運動負荷量は61.1 ± 28.3 Wattであった。DPBP時のDPは14868.2 ± 3153.1 beat・mmHgであり,運動負荷量は65.6 ± 21.9 Wattであった。一元配置分散分析の結果,AT,Tsa,DPBP時の運動負荷量間に有意な差は認められなかった。また,ATとTsa,ATとDPBP時の運動負荷量にはそれぞれ有意な相関が認められた(順にr=0.951,p<0.01,r= 0.940,p<0.01)。【考察】本研究の結果から,AT,Tsa,DPBP時の運動負荷量に有意差がないことに加え,ATとTsa,ATとDPBPに高い相関が存在することが示された。また,TsaとDPBPは検出率,ATとの相関の程度において同程度であることから,Tsa はDPBPと同様にATを簡便に推定する方法として有用であると考えられる。また,全ての協力者においてDPBPとTsaのどちらかが確認できており,2 つの簡便な測定手法を組み合わせることでより高率にATを推定できると考えられる。【理学療法学研究としての意義】唾液アミラーゼ活性の測定は,簡便で非侵襲的な上に,その屈曲点であるTsaはATと高い相関を示すため,安全で効果的な理学療法を提供する上で有用と考えられる。
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古川 順光
セッションID: A-P-33
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】理学療法の中では,対象者の能力や運動療法の目的に応じて種々の姿勢を用いる.また,理学療法開始・終了時や背臥位から立位など大きく姿勢を変換する時などには,リスク管理上からも血圧や脈拍などバイタルサインの確認が行われている.しかし,背臥位から側臥位,腹臥位から四つ這い位などのわずかな姿勢変換時毎に,その確認は行われることは少ない.研究面においても,立位・背臥位における循環系の反応に関する報告はみられるものの,他の姿勢における分析はほとんど行われていない.そこで本研究では,運動療法で使用されることが多い数種の姿勢における心拍数を測定・分析することを目的とした.【方法】対象は健常成人女性7 名(平均年齢:20.4 歳,平均身長(標準偏差):158.0(4.7)cm,平均体重(標準偏差):51.5(6.9)kg)とした.被験者に5 つの姿勢(背臥位・側臥位・腹臥位・四つ這い位・膝立ち位)を保持させた.姿勢の保持時間は,背臥位は4 分間,その他の姿勢は3 分間とした.各姿勢保持時の心拍数[beats・min
-1 ]を測定するために,被験者に心拍モニター(S810i,Polar社製)を胸部に装着させ,各姿勢を保持している間,一拍毎に継続的に測定した.測定した後半1 分間の値を平均し測定値とした.さらに各姿勢を保持してから心拍数が安定するまでの時間[sec]を算出した.心拍数安定の基準は,測定した心拍数の前後各3 拍(計7 拍)の標準偏差を算出し,各姿勢保持中において最小となった時点と規定した.各姿勢間での心拍数の比較は,IBM SPSS Statistics Ver.19 を使用し行った(Friedman検定,多重比較:Wilcoxonの符号付順位検定).有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し,実験の目的・手順・予想される危険性等について書面と口頭で十分に説明し,実験に協力することに対する同意を得た.なお,本学研究安全倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】各姿勢おける心拍数の平均値(標準偏差)は,背臥位59.5(5.2),側臥位60.9(4.2),腹臥位61.6(6.6),四つ這い位66.6(4.9),膝立ち位73.0(9.8)beats・min
-1 で,膝立ち位が背臥位・側臥位・腹臥位よりも有意に高かった.一方,各姿勢での心拍数が安定するまでの時間の平均値(標準偏差)は,背臥位135(102),側臥位98.0(37.1),腹臥位 98.0(38.3),四つ這い位 96.9(28.6),膝立ち位 128(43.9)secで,有意差はなかった.【考察】姿勢の保持や変換を伴う理学療法施行時に重力の影響を考慮することが必要である.臥位においては重力に抗した姿勢保持活動は少ないが,立位姿勢を保持するためには抗重力筋の活動が必要となる.また循環系の反応として,抗重力位である立位では,重力下で体液が身体下方に貯留することにより静脈還流量減少・一回拍出量減少・血圧低下が起こり,心肺部や動脈の圧受容器反射により心拍数が増加し循環系の調節がなされる.背臥位と比較し立位での心拍数増加率は30%との報告があるが,本結果において膝立ち位時の心拍数は,背臥位・側臥位・腹臥位時と比較し約20%の増加がみられた.支持基底面が広く重心が低い膝立ち位保持においても,立位時と同様の抗重力筋活動による交感神経系の亢進・重力による循環系への影響があることが示唆された.一方,背臥位・側臥位・腹臥位では心臓の位置も低く徐重力方向の循環であること,四つ這い位では膝立ち位と比較して安定した姿勢であることから,重力の影響が少なく心拍数変化が著明ではなかったと考えた.また,心拍数が安定するまでの時間が各姿勢間で差がなかったことは,循環調節機構が正常に機能していれば,いずれの姿勢においても1 分半から2 分程度で定常状態を維持できる能力を有していることを示していると考えた.【理学療法学研究としての意義】理学療法は各種・強度の運動を,様々な姿勢で対象者に実施させるため,それらが身体へ与える影響を検討することは重要である.本研究は運動療法に用いられる各姿勢を保持した際の心拍数への影響を検討した.その結果,臥位では背臥位・腹臥位・側臥位は同様に応答し,臥位と膝立ち位では異なる応答となることが分かった.さらに姿勢保持中に運動を負荷した場合や障害を有する対象者に関して検討を進めることにより,理学療法中姿勢保持時の心拍数への影響を考慮する指標になると考える.
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森本 忍, 椿 淳裕
セッションID: A-P-33
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】メタボリックシンドロームと疑われている人が男性で2 人に1 人,女性では5 人に1 人いる.これは,日々の運動不足が原因とされ,人間が健康的に生活していく上で運動は不可欠である.運動時の筋活動には動的収縮および静的収縮があり,静的収縮が動的収縮と比較して心血管系に対するストレスが大きいと報告がある.一方で運動強度とtension-time index(以下,TTI)が同等であれば,静的収縮および動的収縮における前腕の小筋群による運動時の昇圧応答に差はないと報告がある.しかし,この結果は低強度で前腕の小筋群のみの比較である.TTIが下肢筋群,また中強度の負荷に適応可能であれば,静的収縮の昇圧に対する危険性を軽減させることが可能になり,下肢筋群の筋力増強練習として導入可能であると考えた.よって本研究の目的は,下肢伸展運動時の心循環応答を,同等なTTIで静的収縮および動的収縮を行い,運動中の心血管系へのストレスを軽減することが可能であるかを検討することである.【方法】対象者は定期的な運動を行っておらず心血管系疾患を有さない成人男性9 名とした(年齢20.6 ± 0.7 歳,身長174.3 ± 6.4cm,体重62.3 ± 7.3kg).ホリゾンタルレッグプレスマシン(COP-1201S,T24G1A52,酒井医療株式会社)を用いて,1RM を測定した.レッグプレスの肢位はフットプレートの角度を座面から80 度,背もたれの角度は座面から60 度,膝関節は屈曲90 度で固定した. 1RM測定時,筋電図を用いて内側広筋の筋活動量を測定し,その値を100%MVCとした.TTIが同等になるように設定した,1)30%MVCで60 秒間の静的収縮(30%sta),2)同負荷で120 秒間の動的収縮(30%dyn),3)60%MVCで30 秒間の静的収縮(60%sta),4)同負荷で60 秒間の動的収縮(60%dyn)の4 条件の下肢伸展運動をホリゾンタルレッグプレスマシンで実施した.なお,運動条件の順序は無作為とした.動的収縮は,収縮時間3 秒,弛緩時間3 秒とし,静的収縮および動的収縮の筋収縮時間は,30%MVC時で60 秒,60%MVC時では30 秒としTTIが等しくなるよう設定した.課題実施中は,安静開始から運動終了まで,連続血圧血行動態測定装置(Finometer,Finapress medical systems社)を左第Ⅲ指に装着し,収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP),心拍数(HR)をbeat by beatで測定した.運動開始の1 分30 秒前から30 秒前までの1 分間の平均値を安静時の値,運動終了10 秒前の平均値を運動中の値とした.SBP,DBP,HRについて変化量を求め,二元配置分散分析の後,Tukey-Kramer法によって多重比較検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.全被験者には,実験内容や危険性などを説明したうえで,参加の同意を得た.【結果】SBPは,30%dynで14.9 ± 8.5mmHg,30%staで34.4 ± 19.5mmHg,60%dynで32.9 ± 11.8mmHg ,60%staで35.2 ± 16.6mmHgであり,30%dynに対して,30%staおよび60%staが有意に高値であった(p<0.01). DBPは30%dynで4.5 ± 5.0mmHg,30%staで18.9±11.6mmHg,60%dynで9.6±6.3mmHg, 60%staで21.9±7.2mmHgであり,30%dynに対して,30%staおよび60%staで有意に高値であった(p<0.01).また60%dynに対して30%staは有意に高値であった(p<0.05).HRは30%dynで9.9 ± 8.1bpm,30%staで21.3 ± 13.4bpm,60%dynで18.6 ± 8.6bpm ,60%staで27.2 ± 10.6bpmであり,30%dynに対して30%staおよび60%staが有意に高値であった(p<0.01).【考察】静的収縮時の血圧上昇は,活動筋からの反射や末梢血管抵抗の増大によると報告されている.一方,動的収縮時の血圧上昇の要因は心拍出量に起因すると報告がある.本実験で実施した静的収縮は,持続的な筋収縮により筋内圧が上昇するため,代謝産物の蓄積による活動筋からの反射,末梢血管抵抗の増大が生じたと推察する.しかし,動的収縮では筋ポンプ作用による代謝産物の除去や,筋が収縮と弛緩を反復するため末梢血管抵抗の変化がなかったと推察する.よって静的収縮は動的収縮より有意に上昇したと考えられる.HRは,自律神経活動の影響を受けるとされている.交感神経活動の亢進は筋張力に応じて増強され,動的収縮と比べ,静的収縮で著明と報告されている.また交感神経活動は筋収縮時間に伴い増強されると報告がある.これらの要因より,静的収縮は動的収縮より有意に上昇したと考えられる.今回,30%staおよび60%staにおいて安静時からの各変化量に有意な差は認められなかった.TTIを同等にした中等度運動の際,心血管系に対するストレス軽減が可能であると推察する.【理学療法学研究としての意義】心疾患を有する患者や高齢者に下肢筋群の筋力増強を処方する際,TTIが同等な中強度の静的収縮において,心血管系へのストレスを軽減出来る可能性が示された.
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中村 慶佑, 大平 雅美, 横川 吉晴
セッションID: A-P-33
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】運動耐容能を評価する心肺運動負荷試験では自転車エルゴメーターやトレッドミルで行う方法が一般的であるが、それらは高価な機械と熟練を要し、高齢者や運動障害を有する者には実施が困難な場合が少なくない。日常動作である起立動作は座面高や起立頻度を変えることで比較的簡単に運動負荷強度を調整できる。今までの報告では起立動作から下肢筋力の推定が勧められている(運動の指針2006)が、運動耐容能を推定した報告は少ない。本研究では起立動作を運動耐容能評価に利用する予備的研究として、座面高を一定とし、起立頻度を変えて負荷強度を調整した反復起立運動の酸素摂取量動態を検討することを目的とした。【方法】心血管系および整形外科的疾患の既往がない20 代の健常成人10 名(男性7 名、女性3 名)を対象とした。起立運動負荷は座面高を腓骨頭上縁までの高さとし、両腕を胸部前方で組んで行った。先行研究を基に6 回/分の起立頻度を開始とし、以降6 回/分ずつ起立頻度を増やし各々5 分間の一定運動負荷を行った。酸素摂取量(breath by breath法;ml/min/kg)、心拍数は連続的に、血圧、自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは安静時、一定運動負荷直後に測定した。運動負荷の中止は一般的な運動負荷試験の中止基準に準拠し、予測最大心拍数予備能の80%に達した場合、自覚他覚所見を認めた場合、起立動作がメトロノームの発信音から3 動作遅れた場合、あるいは酸素摂取量の定常状態が確認できなくなった場合はその時点の起立頻度の運動負荷で終了とした。各起立頻度での終了前30 秒間の酸素摂取量、%予測最大心拍数(%)は平均値、標準偏差を求め、自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは中央値、四分位偏差を求めた。統計解析は起立頻度と酸素摂取量の関係を検討するためにPearson相関係数、また起立頻度から酸素摂取量を推定するために独立変数を起立頻度(回/分)、従属変数を酸素摂取量とした回帰分析により一次回帰直線式と決定係数を求めた。危険率p<0.05 で有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究の参加の任意性及び個人情報保護について、文書及び口頭で被験者に説明し、同意を得た。本研究は、当院、信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】被験者のうち運動負荷を中止した者はいなかった。酸素摂取量の定常状態を確認できなくなった起立頻度(人数)は24回/分(2 名)、30 回/分(6 名)、36 回/分(2 名)であった。各起立頻度での酸素摂取量(ml/min/kg)の平均値±標準偏差は全体、男性、女性の順に、6 回/分7.6 ± 0.6、7.6 ± 0.7、7.7 ± 0.3 、12 回/分10.0 ± 1.1、9.8 ± 1.3、10.2 ± 0.8、18 回/分12.4 ± 1.3、12.7 ± 1.4、11.8 ± 0.8、24 回/分15.1 ± 1.3、15.5 ± 1.3、14.4 ± 1.2 、30 回/分17.0 ± 3.4、19.6、14.6 であった。各起立頻度での%予測最大心拍数の平均値±標準偏差は6 回/分45.0 ± 5.6%、12 回/分50.1 ± 6.1%、18 回/分56.4 ± 6.5%、24 回/分61.9 ± 8.1% 、30 回/分60.0 ± 3.5%であった。酸素摂取量の定常状態を確認できなくなった運動負荷直後の自覚的運動強度、下肢疲労感のボルグスケールの中央値±四分位偏差は各々15 ± 1、13.5 ± 1 であった。起立頻度と酸素摂取量は正の相関(r=0.99)がみられた。また起立頻度(x)と酸素摂取量(Y)からY=0.40x+5.23 という有意な一次回帰直線式が求められた(p<0.01)。回帰式の決定係数R
2 は0.99 であった。【考察】運動負荷試験の中止基準に該当する者はなく、心拍数や血圧からも今回の座面高と起立頻度での運動負荷は20 代の健常成人に対して安全な運動負荷強度だったと考えられる。潮見(1994)、上村(2009)の報告に比べて同一起立頻度での酸素摂取量が若干低値を示したが、その差は座面高の違いによると思われる。回帰分析により起立頻度に対する酸素摂取量の直線的増加を確認できたことから、今回の起立条件下で運動負荷強度を調整した反復起立運動が運動耐容能の推定に利用できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今後、反復起立運動を用いた運動負荷方法の検討の対象を広げ、運動耐容能の推定として利用できるようになれば、より多くの人に対する運動耐容能評価、適切な運動処方と運動の効果判定ができるようになると考えられる。
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日高 みどり, 仲道 加朱美, 勝見 莉江, 越智 亮, 片岡 保憲, 渡辺 良二
セッションID: A-P-34
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】乳癌術後患者の合併症である上肢のリンパ浮腫は運動機能や患者の生活の質にも大きな影響を与える。リンパ浮腫の発症因子として,リンパ郭清レベル,放射線治療の有無,肥満(和田,2006.Ridner SH,2009)が挙げられているが,「重いものを持つ」といった患肢への負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないにも関わらず日常生活において患肢の使用は制限されている。乳癌術後患者に対して適度な運動を行うことはリンパ浮腫の予防効果があると提唱されている。また,運動強度と血流量の関係においては筋の最高張力50%以下で血流が一定になる(加賀谷,2001)と報告されている。これらの知見から筋の最高張力50%以下の運動負荷量では,血流増加に対して静脈環流,リンパ還流は適切に作用しリンパ浮腫は発症しないことが予測される。そこで今回,上肢への運動負荷がリンパ浮腫の発症因子となるのかを検討した。【方法】対象は当院にて乳癌の診断を受け外科的手術を実施した者(女性32 名,平均年齢53 歳± 13 歳)とした。対象を術後に運動の負荷を与える群(以下,負荷あり群) 12 名(センチネル6 名,郭清6 名)と,術後に運動の負荷を与えない群(以下,負荷なし群) 20 名(センチネル10 名,郭清10 名)の2 群に分類した。なお,両側乳癌患者,追加切除患者,再発患者,化学療法(タキサン系)実施患者は対象から除外した。リンパ浮腫の評価として,両群における5 ヵ所の左右上肢周径(中指,手背中央,手関節,肘頭-5cm,肘頭+8cm)を測定し,術前,退院時,術後1 ヵ月における左右上肢周径の変化を比較検討した。負荷あり群の運動負荷量については,術前にアニマ社製μTasF-1 にて最大筋力を測定し決定した。測定方法は,肩関節屈曲90°,肘関節伸展位の椅子座位にて筋力計のセンサーパッドを前腕末梢背側部に装着し,肩関節屈曲90°の高さに設置した固定物に対し肩関節屈曲方向への等尺性収縮を要求した。左右各5 秒間の等尺性収縮を2 回計測し,最大ピーク値を採用した。運動負荷量は最大筋力の50%値(最大ピーク値を2 で除した値)とした。両群の運動療法は術後ドレーン抜去後より開始し,負荷あり群,負荷なし群ともに肩関節運動を含む棒体操(肩関節屈曲0°〜90°,0°〜180°,伸展)を各20 回実施した。負荷あり群においては,椅子座位にて肩関節0°〜90°までのダンベルを用いた屈曲運動を両側15 回の反復課題として実施した。運動負荷量は,0.5kgから開始し段階的に増加させ,退院時には最大筋力の50%値の運動負荷量となるよう実施した。運動療法実施期間は,両群ともに術後ドレーン抜去から退院時までとした。統計解析は,術前,退院時,術後1 ヵ月における左右上肢周径の変化について,等分散性のあるものは,期間(術前VS退院時VS術後1 ヵ月),群(負荷あり群VS負荷なし群),肢(術側VS非術側)の3 因子間において三元配置分散分析を用いて比較した。等分散性のないものについてはノンパラメトリック検定を用いてすべての比較を行い,有意水準をBonferroni法で調整した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,ヘルシンキ宣言に基づき研究の目的と説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】統計解析の結果,すべての比較において有意差は認められなかった。【考察】負荷あり群,負荷なし群の両群においてリンパ浮腫の発症は認められなかったことから,乳癌術後の運動療法において,最大筋力50%以下の運動負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないことが示唆された。リンパ液の循環は,運動をすることで,動脈の供給,静脈の還流,リンパ還流,筋肉ポンプが適切に行われ,リンパ液の搬送と静脈環流が有効に作用するとされている(佐藤,2007)。運動時の筋収縮に伴い,動脈血がリンパ液の生成の流れと比例して増加し,静脈環流,リンパ還流にも影響を与える(小川,2010)といった一連の作用は,最大筋力の50%以下の筋収縮時においても適切に作用していると推察された。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から最大筋力50%以下の運動負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないことが示唆された。このことは,乳癌患者における術後の運動負荷量を決定する上で有意義な結果であると考える。
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松尾 真吾, 鈴木 重行, 波多野 元貴, 後藤 慎, 岩田 全広, 福島 香, 坂野 裕洋, 浅井 友詞
セッションID: A-P-34
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】伸張性収縮(eccentric contraction: EC)を筋に繰り返し負荷することで、一般的に筋肉痛と呼ばれている遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness: DOMS)が生じる。また、EC負荷後にはDOMSの発生に伴い、関節可動域(range of motion: ROM)の低下やstiffness(筋の硬さ)の増加、筋パフォーマンスの低下などが生じることが報告されている。しかしながら、それらの病態や治療介入効果については未だ不明な点が多い。そこで本研究は、ROM、stiffness、筋パフォーマンス、疼痛を指標として評価し、EC負荷前後の変化を経時的に確認することを目的とした。【方法】対象は健常男子学生(平均年齢22.3 ± 0.6 歳)の両下肢ハムストリングス筋(n = 6)とした。被験者はエルゴメータを用いて5 分間のウォームアップを行った後に腹臥位となり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いてハムストリングスのECを30 deg/secの角速度にて、膝関節屈曲130 度から0 度の範囲で60 回(10 回× 6 セット)行った。評価指標は膝関節伸展ROM、最大動的トルク、stiffness、等尺性筋力、疼痛とした。疼痛を除くすべての指標は等速性運動機器を用い測定した。肢位は股・膝関節約110 度屈曲位の座位とした。ROMは開始肢位から他動的に膝関節を伸展し、大腿後面に痛みが生じる直前の角度とした。最大動的トルクは、開始肢位から膝関節を5 deg/secの角速度にて他動伸展させた際に得られる角度−トルク曲線におけるトルクの最大値とし、stiffnessは角度−トルク曲線の傾きと定義した。等尺性筋力は、開始肢位にてハムストリングス筋の等尺性収縮を3 秒間行い、ピーク値を測定した。また、等尺性筋力の結果から、筋力発揮開始時の筋力発揮率(rate of force development: RFD)を算出した。疼痛を除くすべての評価はEC負荷前とEC負荷から2、4、5、7 日後に行った。疼痛の評価には100 mm visual analogue scale(VAS)を用い、腹臥位での膝関節最大自動屈曲時および伸展時の痛みについて、EC負荷前からEC 7 日後まで毎日記録させた。統計解析にはFriedman検定を用い、有意差が認められた指標には多重比較を適応した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は本学医学部倫理委員会保健学部会の承認を得て行った。また、実験開始前に被験者に対して、研究趣旨を書面および口頭にて説明し、書面にて同意が得られた者にのみ実験を行った。【結果】ROM、最大動的トルクおよび等尺性筋力はEC前と比較して、EC 2 および4 日後で有意に低値を示したが、EC 5 および7 日後では有意差は認められなかった。StiffnessはEC前と比較して、EC 2 日後で有意に高値を示したが、EC 4 日後以降では有意差は認められなかった。また、RFDはEC負荷前後で差は認められなかった。一方、疼痛は最大自動屈曲時および伸展時ともにEC 2 日後に痛みのピークを迎え、EC 7 日後には収束していく傾向を示した。【考察】EC後の疼痛はEC負荷によって筋および結合組織に損傷が生じ、それに伴う炎症反応が疼痛の一因であると考えられている。本研究においても、EC後にこれらの変化が生じ、疼痛が誘発されたものと考えられる。また、柔軟性に関連する指標であるROMと最大動的トルクの低下はEC 4日後まで持続したが、stiffnessの低下はEC 2日後までしか持続しなかったことから、EC負荷によるROMの経時的変化は最大動的トルクの変化と同期するが、stiffnessの変化とは同期しないことがわかった。本研究で測定したROMと最大動的トルクは疼痛を誘発するために必要な伸張量であることから、それらの値は伸張刺激に対する痛み閾値を意味している。したがって、EC負荷によるROMの低下はstiffnessの増加よりも痛み閾値の低下が主因であると推察される。一方、等尺性筋力はEC 2 日後に低下のピークを迎えたが、RFDはEC負荷前・後で変化を認めなかった。先行研究を渉猟すると、EC後の筋力低下はEC負荷による筋損傷や疼痛の発生によって生じることや、EC後のRFDの低下は筋力の低下よりも早期に回復することが報告されている。これらの報告と今回得られた結果を併せて考えると、本研究ではEC負荷後の最初の評価をEC 2 日後に実施したため、等尺性筋力の変化は捉えることができたが、筋力よりも早期に回復するRFDはEC 2 日後の時点では既に回復していた可能性があり、結果的にEC負荷前・後の変化がマスクされたものと推察される。【理学療法学研究としての意義】運動負荷後に生じるDOMSの病態について、多くの指標を用いて評価することやそれらの経時的変化を同時に捉えることは、DOMSの病態解明の進展と病態に則した理学療法介入確立のためのエビデンス構築につながると考える。
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遠藤 雄佑, 坂野 裕洋
セッションID: A-P-34
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】理学療法の対象疾患の多くは原疾患に由来する機能障害により廃用性の筋力低下を呈していることが多い.廃用性の筋力低下は,骨格筋の不活動状態への環境適応として筋タンパク質の合成低下と分解亢進による筋萎縮が主要因となる.そのため,理学療法では筋肥大による筋力増強を目的に筋力トレーニングが積極的に行われている.筋力トレーニングでは,骨格筋の張力発揮などの機械的刺激により,筋タンパク質の合成増加や筋衛星細胞の分裂と融合の促進などの結果,筋肥大が起こる.近年,従来の筋力トレーニングではなく,他の物理的刺激を骨格筋に負荷することで筋肥大を促進する方法が検討されている.その中で,骨格筋を加温することで筋衛星細胞の活性化,筋タンパク質合成の促進などの効果が得られることが基礎研究で報告されており(Uehara,2004),機械的刺激と併用することにより筋肥大に対する相乗効果が得られることが推測される.そこで,本研究では骨格筋加温と筋力トレーニングを併用し,筋肥大に対する相乗効果について検討した.【方法】健常若年男性21 名(平均年齢20.1 ± 1.5 歳)を対象に以下の実験を行った.被験者は無作為にトレーニング群14 名と非トレーニング群7 名に振り分け,さらにトレーニング群を筋力トレーニングに骨格筋加温を併用する群(Heat Ex)7 名,筋力トレーニングに骨格筋の擬似加温を併用する群(Ex)7 名の2 群に振り分けた,なお,非トレーニング群は骨格筋加温のみを行った(Heat群).介入部位は肘関節屈曲筋群とした.骨格筋加温・擬似加温の方法は,極超短波治療器を上腕前面に照射(骨格筋加温:2450MHz× 160W,骨格筋擬似加温:2450MHz× 20W),1 回40 分を週2 回の頻度で行った.筋力トレーニングの方法は,骨格筋加温・擬似加温後2 日以内に最大筋力の80%の負荷量で肘関節等張性運動を1 分間の休憩をはさみながら9 回× 3 セット行った(週2 回).骨格筋加温と筋力トレーニングの介入は8 週間継続して実施した.評価は介入開始時,2,4,6,8 週後に肘関節屈曲の最大等尺性筋力,上腕周径,超音波Bモード画像より筋厚を計測し,2 週後毎の値を介入前の値で補正した変化率(%)を算出した.対象者にはトレーニング期間中の特別な筋力トレーニングを禁止した.統計学的検討は,群間および群内比較を一元配置分散分析にて行い,有意差を認めた場合は事後検定にてFisherのPLSD法を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本実験のすべての手順は,世界医師会の定めたヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて実施した.全ての被験者には,本研究の主旨を文書及び口頭にて説明し,研究の参加に対する同意を書面にて得た.【結果】最大等尺性筋力はHeat Ex群とEx群で,介入前に比べて6,8 週後に有意な増加を認めた.また,Heat Ex群はHeat群に比べて8 週間後に有意な増加を認めた.上腕周径はHeat Ex群とEx群で,介入前,2 週後に比べて6,8 週後に有意な増加を認めた.また,Heat群に比べHeat Ex群とEx群は8 週後に有意な増加を認めた.筋厚は,Heat Ex群とEx群において筋力トレーニングの経過に伴って増加する傾向を認めたが,統計学的には有意差を認めなかった.【考察】肘関節屈曲筋群に対して8 週間の等張性筋力トレーニングを行うことで,等尺性最大筋力の増加,上腕周径の増大を認めた.これは筋力トレーニングによる筋張力の発揮によりタンパク質合成が増加,筋衛星細胞の分裂と融合が促進し,筋肥大が得られたためと考えられる.しかしながら,今回の結果では骨格筋加温と筋力トレーニングの併用効果については確認できなかった.先行研究では,筋肥大を引き起こさない程度の低負荷な筋力トレーニングと骨格筋加温を併用することで,筋肥大効果を認めることが報告されている(Goto,2009).先行研究を参考にすると,骨格筋加温と併用する筋力トレーニングについては負荷強度が重要であり,本研究のような高強度の筋力トレーニングでは,筋肥大メカニズムのいずれかに天井効果が働いた可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】筋萎縮はギプス固定などの不活動により惹起され,それに伴う筋力低下は理学療法の対象とする機能障害でも上位を占める.そのため,短期間で効率的に筋肥大させることは,早期の筋機能回復や社会復帰に有益である.今回の結果では,骨格筋加温と筋力トレーニングの併用による筋肥大の相乗効果は認められなかったが,今後の研究継続において基礎的資料として有意義であると考える.
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高木 遼大, 田中 稔, 平山 佑介, 藤田 直人, 藤野 英己
セッションID: A-P-34
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】廃用性筋萎縮の予防手段として治療的電気刺激(TES)が用いられるが、一般的なTESによる介入のみでは筋萎縮を完全に予防することは難しい。TESを実施する場合、求心性収縮が用いられるが、求心性収縮は等尺性収縮や遠心性収縮に比べて筋に対する負荷が低いことが知られている。一方、遠心性収縮は筋張力が大きく、筋に高負荷がかかる。これらのことから遠心性収縮を用いたTESを実施すれば筋萎縮に対する予防効果が増強すると考えられる。一方で遠心性収縮に伴う過負荷は筋損傷を発生する可能性があり、適用については注意する必要も考えられる。本研究では、遠心性収縮を伴ったTESによる筋萎縮予防効果を確認するとともに、異なる収縮様式における筋損傷の発生頻度の違いを検証した。【方法】20 週齢の雄性SDラットを対照群(Cont群)、後肢非荷重群(HU群)、後肢非荷重期間中にTESを求心性収縮で行った群(c-ES群)、等尺性収縮で行った群(i-ES群)、遠心性収縮で行った群(e-ES群)に区分した。電気刺激は後肢非荷重開始日翌日から行い、周波数100Hzにて超最大収縮が得られる刺激強度にて実施した。2 週間の後肢非荷重期間終了後、腓腹筋とヒラメ筋を摘出し、凍結切片を用いてATPase染色(pH4.2)及びヘマトキシリン・エオジン染色を行った。ATPase染色で筋線維タイプを区分し、筋線維横断面積を測定した。また、ヘマトキシリン・エオジン染色所見から再生筋線維と損傷筋線維の割合を算出した。得られた測定値の統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】腓腹筋の筋線維横断面積は、HU群では全筋線維タイプでCont群と比べて有意に低値を示し、c-ES群、i-ES群、e-ES 群は全筋線維タイプでHU群と比べて有意に高値を示した。IIA線維ではe-ES群はc-ES群と比べて有意に高値を示したが、他の筋線維タイプではc-ES群、i-ES群、e-ES群の間には有意差を認めなかった。ヒラメ筋では、HU群は全筋線維タイプでCont群と比べて有意に低値を示した。c-ES群、i-ES群、e-ES群はI線維でCont群と比べ有意に低値を示したが、HU群と比べ有意に高値を示し、e-ES群はc-ES群、i-ES群と比べても有意に高値を示した。さらにe-ES群はIIA線維においてもc-ES 群、i-ES群と比べて有意に高値を示した。再生筋線維の割合は、腓腹筋では全群間に有意差を認めず、ヒラメ筋ではe-ES群は1.08%となり、他群と比べて有意に高値を示した。損傷筋線維の割合は腓腹筋とヒラメ筋ともに全群間に有意差を認めなかった。【考察】ヒラメ筋ではTESで遠心性収縮を行った群の全筋線維タイプでTESによる求心性及び等尺性収縮群と比較して有意に高値を示し、TESによる遠心性収縮は高い筋萎縮予防効果を示した。一方、腓腹筋ではTESによる電気刺激を行った各群とも、萎縮群より筋横断面積が有意に高値となり電気刺激による萎縮予防効果が観察された。これらの結果から、TESによる筋萎縮予防を行う場合,筋に対して高負荷を与えることのできる遠心性収縮を併用実施するようにすれば、効果的に筋萎縮予防できると考えられる。特に遅筋線維で構成されるヒラメ筋では著明な萎縮が生じることが報告されている。また,電気刺激は速筋線維を優先的に刺激されるためにヒラメ筋への刺激が不十分であると考えられる。このため萎縮予防には筋に対してより高負荷が必要になり、本研究で実施した電気刺激に遠心性収縮を付加した方法が適切な負荷になったものと示唆される。一方、遠心性収縮は高負荷であるために筋損傷を惹起することが懸念される。本研究では、損傷筋線維の割合は各群間で有意差は観察されなかった。先行研究では、再荷重を行うことでヒラメ筋の損傷率が6.8%を示したとの報告があることから、本研究で実施したTES刺激に遠心性収縮を付加した方法は再荷重よる筋に対する負荷は軽度であったと考えられる。しかし、遠心性収縮群ではヒラメ筋の再生筋線維の割合が他群と比較して有意に高値を示した。このことは、遠心性収縮が純粋に筋再生を促したものか、また、筋損傷によるものか、今後、検証を行っていく必要がある。これらの結果から電気刺激に遠心性収縮を付加することでは効果的な筋萎縮予防を行えることが実証された。【理学療法学研究としての意義】本研究は筋収縮の様式を変えることによって、治療的電気刺激の効果的な筋萎縮予防効果を示した点で意義があると考える。
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二階堂 茜, 金指 美帆, 藤田 直人, 藤野 英己
セッションID: A-P-35
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに、目的】不活動により骨格筋では、活性酸素種(ROS)が発生することが報告されている。ROSは細胞や遺伝子に傷害を与えることが広く知られているが、筋線維内のミトコンドリアにも機能障害を惹起する。その結果、骨格筋内の酸化的リン酸化反応が低下する。不活動による骨格筋の機能障害に対して、荷重負荷などの運動療法が有力な治療手段と考えられており、臨床で治療法の一つとして広く用いられている。一方で、不活動状態の骨格筋に荷重などの運動負荷をかけるとROSが増加するという報告もみられる。このことから、荷重が不活動状態の骨格筋においてROSの発生を助長し、骨格筋の酸化的リン酸化反応低下をさらに進行させる可能性が考えられる。そこで我々は新たな治療手段として、強力な抗酸化能力を有する抗酸化サプリメントに着目し、抗酸化サプリメントの予防的摂取が、不活動時の骨格筋における酸化的リン酸化反応低下を軽減するのではないかと考えた。そこで本研究では萎縮足底筋の酸化的リン酸化反応低下に対して、荷重負荷と抗酸化サプリメント摂取が及ぼす効果について比較検証することを目的とした。【方法】雄性SDラットを対照群(Con)、2 週間の後肢非荷重群(HU)、後肢非荷重期間中に荷重を実施した群(HU+Lo)、後肢非荷重期間中に抗酸化サプリメントを摂取した群(HU+AX)の4 群に区分した。HU+Lo群には1 日1 時間の荷重を実施し、HU+AX群にはアスタキサンチン(富士化学工業)を1 日100mg/kg経口摂取させた。2 週間の実験期間終了後、静脈血の酸化ストレス(d-ROM)テストにて酸化ストレス度を測定した。また、足底筋を摘出し,凍結保存した。凍結した足底筋を薄切し,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を行い、筋線維のSDH活性を測定した。残った足底筋サンプルはクエン酸合成酵素(CS)活性の測定に用いた。測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設における動物実験委員会の承認を得て、動物実験指針を遵守して実施した。【結果】d-ROMテストによる酸化ストレス度は、HU群とHU+Lo群ではCon群に比べて有意に高値を示した。また、HU群とHU+Lo群との間には有意差を認めなかった。一方、HU+AX群はHU群とHU+Lo群と比較して有意に低値を示した。CS 活性は、HU群とHU+Lo群ではCon群に比べて有意に低値を示した。また、HU群とHU+Lo群の間には有意差を認めなかったが、HU+AX群はHU群とHU+Lo群に比較して有意に高値を示した。SDH活性は、Con群、HU群、HU+Lo群の間に有意差を認めなかったが、HU+AX群はHU群とHU+Lo群と比較して有意に高値を示した。【考察】不活動によって酸化ストレスは上昇し、足底筋におけるCS活性が低下した。一方、荷重は萎縮筋に比較し、CS活性や酸化ストレスに変化を及ぼさなかったが、抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン摂取は萎縮筋で惹起された酸化ストレスの上昇とCS活性の低下を軽減した。また、荷重は筋萎縮で生じた筋線維におけるSDH活性に変化を及ぼさなかったが、アスタキサンチン摂取は筋線維におけるSDH活性を増加させた。過度な酸化ストレスはミトコンドリア膜を構成する不飽和脂肪酸の連鎖的脂質化反応を引き起こすことで、過酸化脂質を蓄積させる(Halliwell et al. 1993)。過度な酸化ストレスが酸化的リン酸化反応を低下させた作用機序は未解明であるが、蓄積した過酸化脂質によってミトコンドリア膜障害が生じ、酸化系酵素活性が低下した可能性がある。アスタキサンチンは過酸化脂質の生成を抑制する(Guerin et al. 2003)とされているため、ミトコンドリア膜における脂質過酸化の抑制が、酸化系酵素活性の低下を予防したと示唆される。一方、不活動期間中の荷重負荷は萎縮筋における酸化的リン酸化反応低下を進行させることも、予防することもなかった。荷重は治療手段としての有用性が示されているが、本研究の結果から、酸化的リン酸化反応低下の予防法としては不十分であることが示唆された。本研究の結果から抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン摂取を運動療法の補助的手段として用いることで、酸化的リン酸化反応の低下を予防することが可能になり、より効果的なリハビリテーションへと発展できうる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、抗酸化サプリメント摂取が骨格筋の酸化的リン酸化反応を維持する手段となり、運動療法の補助的な手段として有用であることを示した点に意義がある。
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宮本 崇司, 辛嶋 良介, 羽田 清貴, 奥村 晃司, 川嶌 眞人
セッションID: A-P-35
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに】近年、超音波画像診断装置を用いた棘下筋厚の計測に関する報告が散見され、筋の形態的情報を把握する上で有用とされている。棘下筋の形態的特徴を調べた報告では、棘下筋を筋線維別に計測しているものや筋厚と筋力との関係性に関する報告は少ない。今回、棘下筋の上部及び下部線維の筋厚を計測し、筋線維別の形態的特徴を明らかにすると共に、肩関節外旋筋力との関係性を検討したので報告する。【方法】対象は上肢に既往のない成人男性10 名20 肩(平均年齢27.7 ± 4.0 歳)。平均身長171 ± 5.8cm、平均体重65.4 ± 7.4kg、平均BMI19.1 ± 1.9、全員右利きであった。まず、棘下筋上部及び下部線維の筋厚を超音波画像診断装置(日立メディコ社製ApronEUB-7000HV)を用い、9-14MHzのリニア式プローブにて計測した。計測姿勢は椅子坐位、上肢下垂位、肩関節内外旋中間位とした。計測部位は、肩甲棘内側と肩峰外側端間の距離を計測し、肩甲棘内側より25%の位置より肩甲棘に対し垂線を下ろした。棘下筋上部と下部線維は触診にて判別し、肩甲棘内側25%の位置より下ろした垂線上に各線維の計測位置を油性ペンでマーキングした。計測は、計測位置にプローブの中心を一致させ、棘下筋上部及び下部線維に対し長軸方向にプローブを走査し、Bモード法にて静止画を撮影、装置に付属してある画像解析機能を使用し筋厚を計測した。筋厚は肩甲骨から棘下筋表層の筋膜内側までを棘下筋厚とし0.1mm単位で計測した。次に、徒手筋力測定器ハンドヘルドダイナモメーターを用い、両肩関節外旋の等尺性最大筋力を計測した。計測は、MMTの手技に準じて行った。筋厚及び筋力共に計3 回計測を実施し、全て同一検者で行った。解析は、筋厚及び筋力の3 回のデータを加算平均し、筋線維別の筋厚、外旋筋力の平均値を算出した。また、筋厚に対する筋力の比率(筋力筋厚比、N/mm)を算出した。統計では、筋線維別筋厚と肩関節外旋筋力でPearsonの相関係数を求めた。また、筋線維別筋厚の差、同一筋線維筋厚の左右差、筋力筋厚比の左右差について対応のあるt検定を行った。統計には統計ソフトR-2.8.1 を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被検者に本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。当院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】計20 肩の筋厚の平均値は、棘下筋上部線維9.0 ± 1.5mm、下部線維12.6 ± 2.4mmであり、下部線維が有意に高い値を示した(p<0.01)。筋力の平均値は、外旋126.6 ± 16.5Nであった。筋厚と筋力の相関係数は、棘下筋上部線維と外旋にてr=0.61、棘下筋下部線維と外旋にてr=0.71 と両筋線維共に外旋筋力間に正の相関を認めた。左右各10 肩の筋線維別筋厚の平均値は、棘下筋上部線維筋厚にて右8.7 ± 1.6mm、左9.2 ± 1.5mm、下部線維筋厚にて右12.7 ± 2.4mm、左12.5 ± 2.5mmであり両線維共に左右間で有意差は認められなかった。筋力筋厚比の平均値は、外旋/棘下筋上部線維にて右14.9 ± 3.4 N/mm、左13.9 ± 1.4 N/mm、外旋/棘下筋下部線維にて右10.1 ± 1.3 N/mm、左10.3 ± 1.2 N/mmで、左右間で有意差は認められなかった。【考察】筋線維別の筋厚は、棘下筋上部線維に比べ、下部線維の方が有意に厚いという結果であった。これは、諸家によるMRIを用いた棘下筋線維別の生理学的筋断面積の報告と一致する結果であった。また、両線維共に外旋筋力との間に正の相関を認め、特に棘下筋下部線維では強い相関を認めた。棘下筋上部線維に強い相関を認めなかったことは、下部線維は純粋な外旋筋であるのに対し、上部線維は外転の補助筋としての働きがあることが関与していると考えられる。以上より、外旋筋力の決定には棘下筋上部線維より下部線維の方が強く影響している可能性が示唆される。また、両線維共に筋厚に左右差は見られなかった。健常成人男性における線維別棘下筋厚は左右同等程度であると考えられる。筋力筋厚比は、筋の筋力発揮能力として捉える事が出来る。筋力筋厚比において両線維共に左右差を認めなかったことは、健常成人男性において棘下筋の筋力発揮能力は同等程度である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回検討した筋力筋厚比は、筋の筋力発揮能力として捉える事が出来る。従来より、筋体積あたりの関節トルクとして固有筋力が算出され、筋の筋力発揮能力として捉えられている。筋体積を筋厚、筋幅と筋長との積とし、筋幅と筋長に変化がないと仮定すれば、筋厚は筋体積を決定する重要な要素であり、筋厚と関節トルクの比より筋の筋力発揮能力が推定できる可能性がある。超音波画像診断装置による筋厚評価は、今後、簡便に筋の筋力発揮能力を評価する方法として応用可能ではないかと考えられる。
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新田 智裕, 米山 裕子, 宮本 謙司, 水上 広伸, 田中 弥生
セッションID: A-P-35
発行日: 2013年
公開日: 2013/06/20
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【はじめに】「栄養ケアなくしてリハなし」と若林らがリハビリテーション栄養の重要性を提唱するように,近年リハビリテーション分野においても栄養ケアやNSTの概念が浸透してきている. 日本におけるリハビリテーション栄養に関する研究は,脳血管障害,消化器術後に関する報告が多数であり,整形外科疾患に関する報告は少ない.整形外科疾患症例に対してもリハビリと栄養学的介入は並行して行われるべきであると思われるが,整形外科疾患術後における筋蛋白異化亢進や代謝変化の詳細は明らかにされていない.術後に負のエネルギーバランスが続けば,侵襲ストレスとしての筋蛋白異化に加え,飢餓や廃用によって筋蛋白異化を助長してしまう可能性がある.そのため,代謝動態や筋量変化をモニタリングして適切な栄養介入を行う事は非常に重要であり,術後の筋萎縮を抑制するだけでなく,リハビリの効果を高められる可能性があると考えた.そこで今回,整形外科疾患術後の筋萎縮(筋厚変化)程度と安静時エネルギー消費量(Resting Energy Expenditure 以下,REE)の変化を明らかにする為,腰椎疾患症例周術期における腹直筋筋厚とREEを経時的に測定し,術前と術後測定値の比較を行った.また,筋厚変化量とREE変化量の関係性について分析した.【方法】対象は2012 年8 月から10 月までに当院にて腰椎手術を行った者9 例(男性5 例,女性4 例,年齢60 ± 17 歳,身長163 ± 9cm,体重65.3 ± 11.9kg)とした.術前の血清アルブミン値は全例で4.0g/dl以上であった.腹直筋筋厚の測定は超音波診断装置(HITACHI社製EUB-5500)を使用し,臍部より側方5cm部を測定部位とした.REEの測定は間接熱量測定器メタボリックアナライザーMedGem(+)を使用した.測定は術前,2Post-Operative Day(以下,POD),4POD,7PODに行った.腹直筋筋厚は術前と4PODの測定値,REEは術前と2PODの測定値を比較し,Wilcoxon符号付順位検定を用いて解析した.また筋厚変化量とREE変化量の関係性は,Spearmanの順位相関係数を用いて解析した.両解析共に有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した.また,対象者には書面と口頭にて研究目的・方法を説明し,同意書による承諾を得た.【結果】腹直筋筋厚測定の級内相関係数(ICC1,1)はp=0.991 であった.腹直筋筋厚は術前で9.5 ± 2.5mm,2PODで9.2 ± 2.4mm,4PODで9.0 ± 2.2mm,7PODで9.1 ± 2.2mmとなり,7 日以内に全ての対象者で筋厚の減少を認めた.検定の結果,術前と比較して4PODは有意に低値を示した(p<0.05).REEは術前1187 ± 203kcal,2PODで1326 ± 292kcal,4PODで1171 ± 270kcal,7PODで1231 ± 265kcalとなった.検定の結果,術前と比較して2PODは有意に高値を示した(p<0.05).筋厚変化量とREE変化量に関しては,相関関係を認めなかった.摂取エネルギー量及び摂取蛋白量に関しては,術後4 日目以降は概ね全例で必要エネルギー量,必要蛋白量以上の栄養摂取が出来ていた.【考察】腰椎疾患術後症例の腹直筋筋厚は4PODまでに減少し,筋萎縮が生じる可能性が示唆された.よって整形外科疾患周術期においても筋蛋白異化亢進が起こる可能性が示唆された. REEに関しては,2PODで約12%程度の上昇を示し,個人差はあるものの4PODには術前とほぼ同程度のREEに戻る者が多かった.また,術後REEが増大し侵襲ストレス反応が亢進している者ほど筋厚減少を示すと思われたが,本研究において筋厚変化量とREE変化量の間に相関関係を認めなかった.【理学療法学研究としての意義】本研究は整形外科疾患症例に対し,適切なリハビリ及び栄養介入を行う事を目的とした基礎研究である.整形外科疾患のリハビリ,栄養ケア双方に着目した研究を行う事で,リハビリ計画や栄養ケア計画の一助となるだけでなく,リハビリ栄養分野の発展にも繋がると考える.本研究のみでは腹直筋の筋萎縮が主に侵襲ストレス反応として生じたのか,飢餓によって生じたのか,廃用によって生じたかは明らかではない.今後症例数を増やすと共に,各種介入研究を継続的に行いたいと考える.
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