-
静止立位時の足部にかかる荷重率に着目して
糸部 恵太, 松本 泰明, 池ヶ谷 茉里, 小野寺 明子, 横山 美咲, 山﨑 敦, 江戸 優裕
セッションID: 1301
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】足趾筋力が立位,歩行において,重要な役割を果たしていることが知られている。一方で,個人により静止立位時の足部における荷重の状態は多様である。しかし,足部にかかる荷重の割合(以下,荷重率)と足趾筋力の関係について検討を行った報告はみられない。そこで,荷重率と足趾筋力との関係性,さらには足趾筋力と歩行時における足圧中心(以下,COP)との関係性についての検討を行ったので報告する。【方法】下肢整形外科的手術の既往がない健常成人36名72脚を対象とした(年齢:21.1±1.0歳,足長23.7±1.2cm)。足趾筋力としては,足趾把持力および足趾圧迫力の測定を行った。足趾把持力の測定には足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を,足趾圧迫力の筋力測定には徒手筋力計(酒井医療,MT-100)を用いた。これらの測定肢位は,足関節背屈10°の端座位とした。足趾筋力の測定は2回ずつ行い,その平均値を体重にて正規化して個人データとした。歩行時におけるCOP移動距離の測定には,歩行解析用フォースプレート(FDM system,zebris medical GmbH)を用いた(サンプリング周波数100Hz)。4回の測定を行い,計6歩分のデータから立脚期におけるCOP移動距離(以下,GLL),単脚支持期におけるCOP移動距離(以下,SSL)を算出した。また,GLLからSSLを引いた値を両脚支持期のCOP移動距離(以下,DSL)として定義した。これらの平均値を足長にて正規化し,個人のデータとした。これら3項目を歩行パラメータとした。また,荷重率の測定にも歩行解析用フォースプレートを使用し,静止立位にて30秒間の測定を行った。ここで得られたデータから,片脚にかかる荷重率が前足部において50%より多い者を前足部荷重群,それ以外の者を後足部荷重群とした。なお,前・後足部の境界は,第5中足骨底を基準とした。前・後足部荷重群の比較を対応のないt検定により行った。さらには,足趾筋力と歩行パラメータとの関係をPearsonの相関係数にて求めた(有意水準:5%未満)。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に研究の目的および内容を十分に説明し,同意を得た上で測定を行った。【結果】足趾把持力は,後足部荷重群(n=46脚)に比べ前足部荷重群(n=26脚)は有意に高値を示していた。足趾筋力とGLLの関係において相関は認められなかった。しかし,足趾把持力は,SSLと有意な正の相関が認められた(前足部:r=0.443,後足部:r=0.413)。また足趾把持力は,前足部荷重群においてDSLとの間に有意な負の相関(r=-0.585)が認められたが,後足部荷重群において相関は認められなかった。一方の足趾圧迫力は,全ての歩行パラメータと相関は認められなかった。【考察】足趾把持力の主動作筋は,長母趾屈筋・長趾屈筋であると報告されている。これらの筋が内的モーメントを産生し,静止立位を維持している。特に,前足部荷重群では日常的に足趾把持力が働いている状態にあることから,後足部荷重群に比べ足趾筋力が高値を示したものと考えられる。また,歩行時におけるCOP移動距離をみると,前・後足部荷重群ともに足趾把持力が増大するにつれてSSLが延長していた。さらに前足部荷重群においては,足趾把持力が増大するにつれてDSLが短縮していた。SSLの延長には,フォアフットロッカーが大きく関与していることが考えられる。Perryら(2012)は,フォアフットロッカー時において前足部を越えて転がる際に,中足指節間関節の可動性が制限されることが不可欠であると述べている。さらには,長母趾屈筋・長趾屈筋は立脚終期において,活動がピークを迎えるとも報告している。このことから,足趾把持力の増大により支点となる中足骨頭の固定性が向上し,中足骨頭よりも前方にCOPを移動させることが可能になることが示唆される。また,前遊脚期は「遊脚下肢の前進」を行うために下肢の前進を加速させ,振り出し動作の開始に機能的な役割をもつと報告されている。このことから,足趾把持力が増大することにより前遊脚期にて蹴り出しが行え,下肢を振り出す動作が早期に開始されたことが伺える。したがって,SSL延長にともなったDSL短縮が考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究結果では,足趾把持力が後足部荷重群にて低値を示したため,足趾把持力トレーニングの必要性が伺える。このトレーニングにより足趾把持力が増大することで,単脚支持期中の安定性を向上させることが示唆される。
抄録全体を表示
-
―スポーツレベル間の筋力の比較―
田中 龍太, 今屋 健, 藤島 理恵子, 中山 誠一郎, 遠藤 康平, 川村 麻衣子, 戸渡 敏之
セッションID: 1302
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】我々は,膝前十字靱帯(ACL)再建術前後の膝筋力の評価は,健患比に加え,健側・患側各々のピークトルク体重比(体重比)での評価も重要であることを述べてきた。そして臨床上,体重比はスポーツレベル毎に異なる傾向があると感じている。そこで今回,ACL再建術前・術後の体重比をスポーツレベル間で比較検討し,スポーツレベルを考慮した筋力の目標値を設定することを目的として調査を行った。
【対象と方法】対象は2010年から2012年の3年間に,当院スポーツ整形外科で半腱様筋・薄筋腱による解剖学的二重束再建法によるACL再建術を施行した症例である。症例数は,術前580例(男性:291例,29.0±2.8歳,体重70.7±1.9kg,女性:289例,24.9±6.1歳,体重56.3±1.2kg),術後5か月(5M)793例(男性:389例,28.6±3.2歳,体重71.5±2.9kg,女性:404例,24.7±5.8歳,体重56.4±1.2kg),術後8か月(8M)668例(男性:306例,29.7±3.3歳,体重69.9±1.4kg,女性:362例,24.7±5.8歳,体重56.6±1.1kg)であった。スポーツレベルは,カテゴリー1(C1:運動しない,趣味レベル下級),カテゴリー2(C2:趣味レベル上級,地方大会レベル),カテゴリー3(C3:全国大会レベル,プロ)の3群に分類した。筋力測定はBiodex System3を用い,術前・5M・8Mにおける膝伸展筋力(Q),屈曲筋力(H)の健側および患側における60deg/secの体重比(Nm/kg)を計測した。以上の項目において男女別に各カテゴリー間で,術前・5M・8Mにおいて1)健側,患側Qの体重比の平均値,2)健側,患側Hの体重比の平均値を比較した。統計にはANOVAと多重比較法(Tukey)を用い,平均値の差の検定を行った。データ解析は,統計ソフトDr.SPSS IIを使用し,有意水準はP<0.05とした。
【倫理的配慮】本研究は,事前に対象者に十分な説明を行い,書面による同意を得て行った。
【結果:男性】1)
健側Q 術前は,C1:2.57,C2:2.67,C3:2.72。5MはC1:2.76,C2:2.90,C3:2.98。8MはC1:2.81,C2:2.95,C3:3.15。有意差は,5MのC1とC2,C3間,8MのC1とC3間に認められた。
患側Q 術前は,C1:2.02,C2:2.11,C3:2.27。5MはC1:2.01,C2:2.15,C3:2.42。8MはC1:2.28,C2:2.55,C3:2.78。有意差は,5MでC1とC3間,C2とC3間に,8MでC1とC2,C1とC3間に認められた。2)
健側H 術前はC1:1.23,C2:1.20,C3:1.24。5MはC1:1.26,C2:1.38,C3:1.45。8Mは,C1:1.36,C2:1.50,C3:1.59。有意差は,5MのC1とC2,C3間と8MのC1とC2,C3間に認められた。
患側H 術前は,C1:0.96,C2:1.05,C3:1.00。5MはC1:1.07,C2:1.15,C3:1.22。8MはC1:1.12,C2:1.28,C3:1.46。有意差は,5MのC1とC2,C3間に,8MのC1とC2,C3間に認められた。
【結果:女性】1)
健側Q 術前は,C1:1.99,C2:2.21,C3:2.48。5MではC1:2.20,C2:2.50,C3:2.47。8MはC1:2.29,C2:2.46,C3:2.52。有意差は,術前のC1とC2,C3間,C2とC3間に,5MのC1とC2,C3間に,8MのC1とC2,C3間に認められた。
患側Q 術前は,C1:1.52,C2:1.69,C3:1.76。5MはC1:1.54,C2:1.88,C3:2.03。8MはC1:1.73,C2:2.07,C3:2.20。有意差は術前のC1とC2間に,5MのC1とC2,C3間に,8MのC1とC2,C3間に認められた。2)
健側H 術前はC1:0.86,C2:0.98,C3:1.08。5MはC1:0.96,C2:1.10,C3:1.19。8Mは,C1:1.09,C2:1.17,C3:1.27。有意差は,8MのC1とC2,C3間に認められた。
患側H 術前は,C1:0.72,C2:0.79,C3:0.88。5MはC1:0.80,C2:0.94,C3:1.05。8MはC1:0.90,C2:1.03,C3:1.13。有意差は,術前,5M,8MのC1とC2,C3間に認められた。
【考察】ACL再建術後のスポーツ復帰時期の指標になる筋力評価は,健患比80%以上という報告が多く,8カ月復帰を目標にしている当院でも健患比を復帰の指標にしている。しかし健患比だけでは純粋な健側,患側の筋力の回復を評価することは難しく,復帰時期の体重比の明確な目標値が提示されている報告は少ない。原らは,術後3か月以降の体重比をQが2.5,Hが1.5,健患差の消失を6か月復帰の目標としている。今回我々の研究では男女ともC1とC2,C3間に差があった。このことからスポーツレベルにより患側では筋力の回復に差があり,健側では筋力差があることがわかった。また,スポーツレベル毎に具体的な数値を出すことにより,症例ごとに目標設定を行うことが可能となる。今後さらに運動種目による筋力の値を調査し,より詳細な目標設定を提示できるようにしたい。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,健患比とともにレベルにあったスポーツ復帰への具体的な数値目標を患者様に提供していけると考える。
抄録全体を表示
-
スポーツ復帰時における満足度・運動復帰度・運動復帰率の調査
遠藤 康平, 今屋 健, 藤島 理恵子, 田中 龍太, 中山 誠一郎, 川村 麻衣子, 戸渡 敏之
セッションID: 1303
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】当院理学療法部門は多くの膝前十字靭帯(ACL)再建術後の症例に対して理学療法を実施しており,その目標の一つとして運動復帰が挙げられる。しかし,フォローをした症例が実際にどの程度運動復帰を果たせているのか,どの程度満足しているのか,十分な把握が困難であるのが現状である。加えて,ACL再建術後の運動復帰について,過去に運動復帰率や満足度を検証している報告は非常に少ない。そこで今回,ACL再建術後の症例に対してアンケート調査を実施し,当院での対外試合を含めた運動復帰許可後,最終フォロー時である術後10ヶ月以降の満足度,運動復帰度,運動復帰率を検討し,運動復帰できていない原因の分析を行った。
【方法】対象は当院スポーツ整形外科でACL再建術を施行し術後10ヶ月以上経過した症例のうち,2012年12月6日から2013年11月13日に同科を外来通院した症例である。対象には外来通院時にアンケート調査を実施した。調査項目は以下の4つである。1)満足度2)運動復帰度3)試合を含めた練習に参加できているかの可否4)運動復帰ができていない原因満足度・運動復帰度はVisual Analog Scale(VAS)を用いた。VASは紙面上に記載された100mmの線分を用い,アンケート調査実施時のスポーツ活動に対する満足度とACL損傷前のスポーツパフォーマンスを比較した運動復帰度を,それぞれ程度にあった位置に縦線でマークしてもらった。試合を含めた練習に参加できているかの可否については集計を行い,運動復帰率を算出した。運動復帰ができていない原因については複数回答してもらい,ア)疼痛の要素,イ)不安などの精神面の要素,ウ)引退や転勤などの環境の要素,エ)受験などの理由による繁忙の要素,オ)筋力回復の遅延の要素,カ)その他の6項目に分類し,各グループ内で集計した。
【倫理的配慮】本研究は事前に対象者にアンケートの記入を同意とすることを十分に説明し,了承を得た上でアンケート調査を実施した。
【結果】有効回答数は219例(男性:109例,25.2±10.2歳。女性:110例,29.4±12.2歳)であった(有効回答率95.5%,無効回答7例)。満足度の平均は73.1±22.7mm,運動復帰度の平均は69.4±24.5mm,運動復帰率74.9%であった。運動復帰ができていない原因について回答者数に対する割合は,ア)10.0%,イ)43.6%,ウ)10.4%,エ)13.7%,オ)13.7%,カ)8.5%であった。
【考察】ACL再建術後の運動復帰について,過去に運動復帰率や満足度を検証している報告は少ない。また,「運動復帰の定義」は各施設によって異なり明確なものがない。今回の調査では当科での運動復帰の定義を「試合を含めた練習に参加できている」として検証した。これらの背景を考慮すると,今回のアンケート調査によって得られた運動復帰率や満足度は今後の一つの指標となると考える。今後は今回の結果に加え,時期毎に比較した術後経過による変化の検証や,運動レベルや筋力など客観的なデータを考慮した検証をし,多角的に分析していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】今回のアンケート調査によって得られたACL再建術後の運動復帰率や満足度は今後の一つの指標となると考える。
抄録全体を表示
-
一井 竜弥, 平川 善之, 野尻 圭悟
セッションID: 1304
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】膝関節のスポーツ障害として,競技動作時の動的不良アライメントが関与していることは多く報告されている。Hewettら(2005)は,ストップやカッティング動作時の膝外反が前十字靭帯損傷に代表される膝損傷の危険因子であると報告している。傷害予防を目的に,治療現場では隣接関節を含めた視点で不良アライメントを制御するための指導を行うが,多くは視覚的な動作分析に基づく指導となり,客観性と妥当性に課題を残すのが現状である。そこで今回我々は,3軸加速度計を用いて片脚スクワット時の前額面における運動制御を解析し,その特性について客観的な評価を確立することを目的に以下の検討を行った。【方法】対象は重篤な下肢疾患の既往のない13例26脚(男性6名,女性7名,平均年齢26.5歳)とした。動作課題として片脚立位から60度まで膝を屈曲させる片脚スクワットを5回反復し,2,3,4回目の結果を採用した。運動速度を固定するため,60BPM(1Hz),120BPM(2Hz)の2種類のリズム音に合わせて運動を行った。測定には3軸加速度計(MVP-RF8-BC,MicroStone)とビデオカメラ(HDR-XR150,SONY)を用いた。3軸加速度計は大腿骨内側上顆(膝部),大転子近位(股部),脛骨内果(足部)の3カ所に固定した。ビデオ撮影は正面から行い,撮影結果を2次元動画解析ソフト(Teampro5.5,DARTFISH)にて解析し,前額面上の膝外反角度を算出した。測定結果より,膝外反角度については最大値を抽出,加速度については膝部の内方成分(K),股部の外方成分(H),足部の外方成分(A)における最大値を抽出し,平均値を求めた。抽出した結果を基に,運動速度の変化に応じた①膝外反角度の変化,②膝部,股部,足部の加速度の変化,③膝部,股部,足部における加速度変化の関連性の3項目について検討した。統計処理は,2種類の運動速度間における外反角度の差と,K,H,Aの差を検討するため,対応のあるT検定を行った。また,膝と隣接関節間における加速度の関係を検討するため,KとH,KとAの相関について,Spearmanの順位相関係数を用いた。有意水準はいずれも5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た上で,各被験者には研究要旨を十分に説明し,書面により同意を得た。【結果】外反角度は1Hzで12.4deg,2Hzで13.8degであった。H,K,Aは1Hzで2.97m/s
2,0.82m/s
2,3.03m/s
2,2Hzで4.36m/s
2,1.57m/s
2,4.90m/s
2であった。T検定の結果,外反角度に差はみられなかったが,H,K,Aについては2Hzにおける値で有意に高値を示した。また,1Hzと2Hzにおいて,KとAの間に有意な相関を認め(1Hz:r=0.57,2Hz:r=0.82),2Hzにおいてより強い相関を示した。【考察】今回の結果では,運動速度の増加によって各測定点における前額面上の加速度は増加するが,膝外反角度には変化がみられなかった。また,膝外反方向と足内反方向の加速度増加に正の相関関係がみられ,運動速度が増加することでその相関を強めることが認められた。あらゆる動作で膝外反が生じないことは傷害リスクを低減する上で重要であり,隣接関節でどのように戦略をとるかが重要となる。今回の結果より,膝外反に働く外力を相殺するための動作戦略として,足内反方向の力を働かせる運動制御を行っていることが考えられる。これにより,健常例では膝外反角度が変化しない状態で片脚スクワット動作が行われていると推測された。Mauntelら(2013)は,殿筋群の活動に加え,足背屈可動域をはじめとする足関節機能が膝外反の是正に重要であるとしている。今回は,膝外反を制動するために前額面における足関節の動作戦略が増大することを,加速度の観点から客観的に捉えることができたという点で新規性があると考える。本研究の限界として,加速度における内的要素と外的要素の判別が困難であり,今後は筋活動にも着目した上で検討する必要がある。さらに,膝ACL損傷などの疾患例を対象に,健常例と比較検討を行い,傷害リスクとなる肢位の特徴を解析することでより客観性に基づく動作指導に役立てていきたい。【理学療法学研究としての意義】臨床や競技現場にて動作解析を行う場合,視覚的な情報に加え,加速度の変化を評価として用いることができる可能性がある。将来的には,対象者へ行う指導内容がより客観性と妥当性をもったものとなり,ひいては傷害予防に繋がることが期待できる。
抄録全体を表示
-
―利き脚の特性―
芋生 祥之, 久保田 友二, 武井 隼児, 吉田 怜, 松尾 節子, 柏 俊一
セッションID: 1305
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】下肢における一側優位性の観点から,高校女子バスケットボール選手の股関節外転・内転筋力における利き脚・軸脚の比較と敏捷性動作への関連性を調査し,その結果を基にトレーニングおよび傷害予防策構築へ示唆を与えることを目的とする。【方法】対象は県大会出場レベルの高校女子バスケットボール選手12名(身長159.5±3.9cm,体重54.4±5.9kg,体脂肪率21.9±3.0%)。測定項目は股関節最大等尺性筋力(外転・内転),パフォーマンステスト(20mスプリント5×10m切り返し往復走・5×10m前後往復走・反復横跳び・マルチステージフィットネステスト)。最大等尺性筋力は,徒手筋力測定器(MicroFET2.Hoggan Health社製)を用いて,Danielsの測定法(Hislop et al. 2008)に準じて実施した。尚,ボールを左右で蹴り,蹴りやすい脚を利き脚,非利き脚を軸脚とした。解析は(1)股関節最大等尺性筋力における利き脚・軸脚での比較(対応のあるT検定),(2)利き脚・軸脚における股関節最大等尺性筋力とパフォーマンステストとの関連性(ピアソンの積率相関係数)を検証した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象者全員および家族に十分な説明を行い,同意を得た上で測定を実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。【結果】(1)股関節最大等尺性筋力において,いずれも利き脚・軸脚で有意差は認められなかったが,外転筋力(利き足:1.96Nm/kg,軸足:1.89Nm/kg。p=0.06),内転筋力(利き足:1.82Nm/kg,軸足:2.00Nm/kg。p=0.11),内転/外転筋力(利き足:0.94,軸足:1.07。p=0.06)で異なる傾向を認めた。(2)利き脚または軸脚において,股関節最大等尺性筋力とパフォーマンステストとの相関係数で有意差が認められた項目を以下に示す。20mスプリントでは内転/外転筋力(利き脚)(r=-0.75。p=0.00)。切り返し往復走では内転筋力(軸脚)(r=-0.62。p=0.03),内転/外転(利き脚)(r=-0.58。p=0.05)。前後往復走では内転/外転(利き脚)(r=-0.85。p=0.00)。反復横跳びでは内転筋力(利き脚)(r=0.81。p=0.00),内転筋力(軸脚)(r=0.63。p=0.04),内転/外転(利き脚)(r=-0.62。p=0.04)。【考察】股関節外転・内転筋力と各種敏捷性動作に高い関連性が認められ,特に利き脚側の内転筋力あるいは内転/外転筋力は顕著であった。運動学的には,内転筋群は他の股関節周囲筋群と協働して前方あるいは後方へのキック動作,側方方向転換時の踏み変え動作に対し貢献する特性を持つ。そのため本研究で実施された課題に対し,股関節内転筋力は高校女子バスケットボール選手において重要な因子と考えられる。また,利き脚は下肢の一側優位性の観点から巧緻性(石津。2011)や移動機能(大谷。1984)が高く,本研究で実施された課題に対しても利き脚は軸脚よりも強い影響を与えたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の対象である高校女子バスケットボール選手は他競技と比較して膝ACL損傷発生率が高く,非接触性受傷に限れば軸足の割合が高い(井原。2005)。このことは下肢の一側優位性が競技動作に反映されていると容易に想像される。しかしながら,本邦ではその知見を生かした介入に関する報告は渉猟した限り見当たらない。本研究はバスケットボール競技に反映される下肢の一側優位性に関して,高校生女子の特徴を明らかにした。このことは受傷後あるいは術後リハビリテーション,傷害予防トレーニング,加えて競技復帰後のパフォーマンス向上における股関節筋力強化の目標設定に貢献する重要な資料になりうると考えられる。
抄録全体を表示
-
三浦 雅史, 川口 徹
セッションID: 1306
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【目的】着地動作はスポーツ外傷の受傷機転として多い動作の一つである。これまで我々は,この着地動作に注目し,前後左右4方向への片脚着地動作について解析してきた。過去の報告では着地動作の成功例についてのみ解析してきたが,失敗例については解析されていなかった。実際のスポーツ場面での受傷状況を考えると,失敗例にその原因を突き止める鍵があるかもしれない。そこで,4方向への片脚着地動作について,どの方向で失敗しやすいのか,またどのようなパターンで失敗しているのかについて検討した。【方法】対象は健常な女子大学生38名とした。対象を女性と限定したのは膝外傷の特にACL損傷は女性に多いとされているためである。片脚着地動作の解析にはデジタルビデオカメラを用い,台から5m前方に設置した。測定した着地動作は高さ30cmの台から前方・後方・右側方・左側方へ片脚着地することとし,測定肢は全て右とした。着地動作時には視線は前方に保ち,上肢によるバランス保持の影響を少なくするために両上肢を胸の前で組むように指示した。まず,対象者は台上で足部を肩幅に広げた立位から片脚となり,片脚立位が安定してから検査者の合図により落下し,着地した。着地方向は前方,後方,右側方,左側方に10回ずつ実施した。着地成功・失敗の判定基準は2秒以内に静止できた施行を成功例,2秒以内に静止できなかった施行や着地後に足部の接地位置が変化した施行,遊脚側である左下肢を床につけてしまった施行を失敗例とした。各着地方向での失敗回数をカウントし,失敗動作を足底接地後2秒以内に静止できなかった施行(静止失敗群),着地後右足底の接地位置が変化した施行(足底離床群),遊脚側である左下肢を床につけてしまった施行(両脚接地群)の3パターンに分類した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は演者が所属する大学の倫理委員会の承認を得て実施した。研究内容について書面で説明し,同意を得た上で研究に参加頂いた。【結果】解析対象とした施行回数は1520回であった(4方向×10回×38名)。このうち,成功回数は775回(全試行の51.0%),失敗回数は745回(全試行の49.0%)であった。着地の方向別の失敗回数は左側方が最も多く210回,次いで右側方200回,後方182回,前方153回の順であった。パターン別では全方向とも足底離床群が最も多く,合計586回(失敗回数の78.7%),前方119回,後方144回,右側方150回,左側方173回であった。次いで多かったのが静止失敗群で合計118回(失敗回数の15.8%),前方25回,後方23回,右側方38回,左側方32回となった。両脚接地群は最も少なく合計41回(失敗回数の5.5%)であった。【考察】これまで我々が検討してきた先行研究では成功例のみを解析対象とし,失敗例は解析対象から除外してきた。しかし,今回の研究結果からも示された通り,片脚着地動作は約半数近くの施行で失敗する動作であることが明らかとなった。このことは片脚着地動作がスポーツ外傷の受傷原因となり得る動作であることを改めて説明する結果ではないかと考えている。また,今回の結果から,前後方向に比べ左右側方への着地動作で失敗していることが分かる。着地動作,特にドロップジャンプに関する先行研究では,前方への着地動作に関する解析がほとんどであり,本研究結果を踏まえると,今後は側方への着地動作に関する解析が重要と考える。失敗パターンでは足底離床群が約80%を占めており,体勢を保持または立て直すための動作が実施されており,スポーツ外傷の発生に関連する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】従来の動作分析では,解析にそぐわない条件,すなわち失敗例をデータ対象から除外する傾向があった。今回,改めて失敗例にスポットを当てたことで,今後の研究課題のヒントを得た点は非常な重要な意味を持つと考える。
抄録全体を表示
-
推進機能に着目して
田邉 紗織, 大田 瑞穂, 長田 悠路, 渕 雅子
セッションID: 1307
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】一般的に,乳幼児は生後1年で歩行動作が可能となるが,成熟した歩行パターンの獲得には3年を要するといわれている。成熟した歩行パターンが獲得されるまでの発達的変化を詳細に分析することにより,安定した歩行に必要な因子とその獲得過程が明らかになると考えられる。今回,健常乳幼児1例を対象に,1歳1ヶ月から2歳5ヶ月までの歩行の運動力学的特徴を縦断的に調査し,特に推進機能の発達に着目して分析を行ったのでここに報告する。【方法】対象は,健常女児1名とした。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13カメラ14台)と床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測した。調査期間は,数歩の独歩が可能となった1歳1ヶ月(以下A)から開始し,以後,1歳4ヶ月(以下B),1歳6ヶ月(以下C),1歳10ヶ月(以下D),2歳1ヶ月(以下E),2歳5ヶ月(以下F)の計6回の計測を行った。分析対象は1歩行周期における単脚支持時間,step length,上下方向の重心位置,床反力の前後方向成分(以下Fy),股・膝・足関節の関節角度とした。また,調査期間中に可能となった粗大運動を聴取した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受け,対象者とその家族に紙面と口頭で研究内容の説明を行い,同意を得て実施した。【結果】対象は,Aで数歩の歩行が可能となり,Bでは自宅内での移動方法が四つ這いから歩行に変化した。また,Dでは小走りが可能となり,Eでは手繋ぎで1足1段の階段昇降が,Fではジャンプが可能となった。1歩行周期における単脚支持時間の比率は,A:33.2%,B:31.1%,C:36.0%,D:36.9%,E:34.5%,F:38.9%であった。step length(身長比)は,A:5.7%,B:21.8%,C:29.2%,D:28.4%,E:35.3%,F:36.5%であった。立脚期の重心位置(身長比)の最高値は,A:46.4%,B:46.0%,C:46.0%,D:48.4%,E:48.3%,F:50.0%であった。Fyは,Aでは大きな前後方向成分の変化は認められなかった。B以降においては,立脚初期に後方成分,立脚後期には前方成分のピーク値を示し,その値はB(0.89N/kg,0.62N/kg),C(1.85 N/kg,0.45 N/kg),D(1.93 N/kg,1.10 N/kg),E(1.88 N/kg,1.16N/kg),F(1.40N/kg,1.49N/kg)であった。関節角度は,Aの立脚初期において股・膝関節の軽度屈曲と足関節の底屈を認め,立脚中期においては股・膝関節屈曲角度と足関節背屈角度の増大を認めた。Bでは,立脚初期において足関節底屈角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股・膝関節屈曲の減少を認めた。Cでは,立脚初期においてさらなる足関節底屈角度の減少と膝関節屈曲角度の増大を認め,立脚中期~後期においては股関節の屈曲角度がさらに減少した。Dでは,立脚中期~後期において股関節屈曲角度の減少と足関節背屈角度の増大を認めた。Eでは,立脚初期において股・膝関節屈曲角度の減少を認め,立脚中期~後期においては股関節伸展角度の増大・膝関節屈曲角度の減少・足関節背屈角度の増大を認めた。Fでは,立脚初期において膝関節の伸展を認め,立脚中期においては膝関節屈曲角度の減少を認めた。【考察】歩くことを学習するためには,最初の段階(歩行開始後3~6ヶ月後)でバランスの制御を学び,次の段階(歩行開始後5年間)で歩行パターンが漸進的に改良されると言われている。本研究では,独歩開始後3ヵ月となるBにおいて立脚中期~後期の股・膝関節の屈曲角度が減少し,Fyの前後方成分が出現したことから,前方推進機能が向上したと考えられ,結果としてstep lengthが拡大したと思われる。Cでは立脚初期における足関節底屈角度の減少とともに,膝関節屈曲角度とFyの後方成分の増大が認められたため,double knee actionによる衝撃吸収機能が獲得された時期であると考えられる。さらに,立脚中期~後期における股関節の伸展運動が増大したことから,単脚支持時間の比率とstep lengthが拡大したものと思われる。また,D以降は自立歩行開始後9ヶ月~1年4ヶ月経過した時期となるため,歩行パターンが改良される時期にあると思われる。本研究では,立脚初期における股・膝関節屈曲角度が減少し,立脚中期~後期における股関節伸展角度・足関節背屈角度の増大とともに,Fyの前方成分が増大したことから,推進機能がさらに発達し,重心位置の向上と単脚支持時間の比率,step lengthの更なる拡大に寄与したものと思われる。【理学療法学研究としての意義】今回,三次元動作解析装置を用いて,乳幼児の歩行獲得過程を縦断的に調査し,特に推進機能の発達について考察した。今後も継続して調査を行い,詳細な運動力学的特徴を分析することで,成熟した歩行の獲得に必要な因子が明らかとなり,理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。
抄録全体を表示
-
大須田 祐亮, 齊藤 千春, 鈴木 敦史, 近藤 健, 樋坂 悠佳, 門間 美和, 小神 博, 津川 敏, 今川 祐子, 繁田 圭一, 山本 ...
セッションID: 1308
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】重症心身障害児(者)においては脊柱側弯を呈することが多く,その程度を評価する方法としてCobb角の計測が一般的に行われている。しかし,Cobb角を計測するためにはレントゲン撮影を行う必要があるため,在宅での理学療法時などレントゲン撮影が不可能な環境下では実施できないという限界が存在する。またレントゲン撮影には被曝を伴うことなどから頻回な計測を行うことは配慮を要するものであり,進行予防を目的とした理学療法介入の短期的な効果判定を行うための評価方法にはなりにくい。そこで本研究では脊柱側弯に伴う骨指標間距離の変化に着目し,体表上から計測した骨指標間距離の左右比とCobb角との関係について検討を行い,骨指標間距離からCobb角を推定することが可能か明らかにすることを目的とした。【方法】対象者の取り込み基準は,脳性麻痺の診断を有するものおよび生後1年以内に生じた脳の器質的病変に基づく中枢神経障害を呈し痙性麻痺を有すること,および粗大運動能力が臥位レベルまたは座位レベルであることの両者を満たすこととした。除外基準はS字の脊柱側弯を呈することとした。以上の条件を満たす施設入所の重症心身障害児(者)55名(男性34名,女性21名,年齢36.6±16.9歳,身長144.9±12.8cm,体重31.5±7.7kg)を対象とした。Cobb角については,医学検査目的で撮影されたレントゲン画像を二次的に使用して計測を行った。なお,使用したレントゲン画像は背臥位で撮影されたもので統一した。骨指標間距離については,マルチン式触角計を用いて胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離を計測した。計測時の被検者の姿勢は膝関節70度屈曲(できない場合は可能な限り屈曲)位で足底を床面に接地した背臥位とし,被検者の頭頂部,両側の坐骨結節の中間部,両踵骨の内側面接触部が一直線上に位置するように統一した。右側の計測値を左側の計測値で除した値を骨指標間距離左右比として算出した。統計処理にはCobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数とした回帰分析を行い有意なモデルが得られるか検討を行った。なお,Cobb角については左凸のものを負の値,右凸のものを正の値とした。統計処理にはIBM SPSS Statistics 19を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容については研究実施施設の倫理委員会による承認を得ており,対象者の家族に対して口頭または書面による説明を行い,書面による同意を得た。【結果】Cobb角の平均値は46.5±38.7度(以下,最小―最大;0度―140度)であった。骨指標間距離について左側の平均値は23.0±4.6cm(9.2cm―30.5cm),右側の平均値は24.1±4.5cm(11.6cm―33.8cm)であった。骨指標間距離左右比の平均値は0.98±0.24(0.42―1.89)であった。Cobb角を従属変数,骨指標間距離左右比を独立変数として回帰分析を行った結果,有意なモデルが得られた(y=-213.093+209.398x,p<0.0005,R
2=0.701)。【考察】結果より,Cobb角と骨指標間距離左右比との間に有意なモデルが得られ,またモデルの予測精度については決定係数R
2が0.701であることから良好であると考えられた。以上のことから骨指標間距離左右比からCobb角を推定することが可能であることが示唆された。本研究では空間における任意の2点間の直線距離が計測できるマルチン式触角計を使用した。このことはメジャーを用いて骨指標間距離を計測する上で障壁となる体表面の凹凸の影響を取り除くことに大きく寄与し,有意なモデルが得られた要因のひとつと考えられた。【理学療法学研究としての意義】レントゲン撮影を行わなければ計測できなかったCobb角について,胸骨剣状突起部から両側の上前腸骨棘までの距離の計測により推定可能であることが示唆された。このことから脊柱側弯の程度について,レントゲン撮影を行うことができない環境下でも理学療法士による簡易かつ非侵襲的な評価が可能であり,脊柱側弯の変化を捉えうる方法を提案できたことが本研究の臨床的意義として考えられた。また,マルチン式触角計が手に入らない場合であっても体表面が干渉しないノギスなどでも代用可能と考えられ,汎用性は高いと考えられた。
抄録全体を表示
-
塩屋 雄一, 岩下 大志
セッションID: 1309
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【目的】近年,脳性麻痺児・者の機能的状態像を表す尺度としてGMFCSを用いられるようになってきた。当施設の利用者においてもGMFCSにて層別化を行った。またHannaらによるGMFCSレベルごとのGMFM66スコアを記載した論文を参考に利用者にも実施・評価を行った。その際,GMFCSレベルIIIと判別された13名には,移動が歩行群と車椅子群の2群が見られ,またGMFM66においては,さらに2群内で,レベルIIIとIVへと層別される利用者が数名みられた。これらについて検証・考察を行い,現状の把握や予後予測の糧を得るために,ここにまとめたので報告する。【方法】まず①GMFCSの12~18歳に該当する利用者で,各レベルの説明文を箇条書きにし,それぞれチェックする形式をとった。その際,レベルIIIのチェックが多く該当し,判別された方(13名)を選出する。次に②13名に対しGMFM66を施行し,レベルIIIとIVへ層別する。さらに③レベルIIIとIVの中でも移動が歩行群と車椅子群へと類別した中で,歩行群のレベルIII:4名(33.25歳)を歩行A群,レベルIV:3名,42.3歳を歩行B群とし,車椅子群のレベルIII:3名(31歳)を車椅子C群,レベルIV:3名(30.1歳)を車椅子D群とする。そして④GMFMの5領域間や領域内の項目について1元配置分散分析を用いて検証した。なお危険率は5%とした。【説明と同意】評価や報告内容についての説明を家族に行い同意を得ることができた。また当施設における倫理委員会においても承諾を得られた。【結果】GMFCSにおいては,日常生活場面にて移乗・移動時に軽介助にて立位保持や歩行を行っている方,また車椅子で自立に近い能力を持っている方はレベルIIIの説明文のチェックが多く該当し,歩行A群と車椅子C群と判別された。GMFM66における立位と歩行の領域において歩行A・B群と車椅子C・D群に有意差が見られた(P<0.01)。また立位と歩行の領域内にある項目ごとにて統計処理を行った結果,歩行A・B群にてしゃがみ動作や階段昇降,横歩き,ボールを蹴る項目に有意差が見られた(P<0.01)。車椅子C・D群では,支持ありでの立位保持や片足拳上,横歩き,介助歩行の項目に有意差が見られた(P<0.01)。【考察】GMFCSやGMFM66の獲得された項目を照らすと,歩行群は,体幹の支持性の下,四肢の分離運動が求められる階段や横歩きといった動作にて有意差が見られた。実際の日常生活場面においても,歩行B群は,歩行の持久性が低下しており,介助や休息が必要な場合が多く見られる。立ち上がりや座る動作においても可能ではあるが,遠心性の筋収縮が乏しく,急にしゃがみ込んだり,崩れ落ちるようなリスクを伴っている。車椅子群においては,支持面や身体的介助があることで,立位保持や歩行が少しでも可能な方に関しては,レベルIIIの運動能力が見られた。車椅子D群は,車椅子などへの移乗時に,自力でよじ登ることで可能としている。しかし,支持面ありでの3秒間立位保持する事が困難であり,下肢の随意性や支持性も大きく関係していると推測される。歩行A・B群,車椅子C・D群のいずれにおいても,GMFM66の立位や歩行の領域に有意差が見られた。その理由として挙げられるのは幼少期から成長期における立位,歩行領域の不十分な運動学習やHannaらによる粗大運動曲線で見られるような運動機能の低下をきたしてきているのではないかと考えられる。よってこれらの領域がレベルIIIの運動機能を左右する要因ではないかと推測された。しかし症例の過去の粗大運動能力や現在に至るまでの変化についてはデータもないため後方視的観点から立証することは難しい。よって今後,縦断的な評価と他の年齢群においても合わせて行うことで予後予測の糧となり得るのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】GMFCSは,粗大運動機能を層別化するだけでなく,予後予測のための指標ともなり得る。今回はGMFCSとGMFM66を用いて歩行群と車椅子群のレベルIII・IVの検証を行った。HannaらによるとGMFCSレベルIII~Vは6~8歳くらいまでが運動機能能力のピークとされ,その後は低下していく傾向にあると報告されている。またレベルIIIとIVのGMFM66スコアの差も約20%あると明記されている。これらを踏まえ,レベルIIIとIVの相関性や今回の検証から推測された立位や歩行の領域が機能低下をきたす要因であるか,また日常生活場面とどのような関連があるのかなどを検証していく必要性があると思われる。よって今回の評価・検証を糧に早期から年齢別ごとに縦断的・横断的に評価を実施・調査し,利用者の運動機能の向上や予後予測,そしてGMFCSが重視しているICF概念を視点に置きながら,日常生活や地域社会への参加を実現するために努力していきたいと考える。
抄録全体を表示
-
上杉 雅之, 金谷 健児, 新宮 賢, 高塚 美里, 田鎖 杏奈, 中西 俊祐, 中元 夏姫
セッションID: 1310
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】低緊張は「スカーフ徴候」「逆U字徴候」など障害児・者の特徴の一つとして挙げられるが,Martin.らは,セラピストにより「筋力低下」,「持久性低下」,「円背」,「関節弛緩性」など様々に捉えていると報告している。そこで本研究は低緊張検査法Bulbena Criteriaの信頼性を調査することを目的とした。【方法】対象は健常な大人10名,検者は3名であり本検査法については初めて知り得たものとした。検者に対し本検査法について20分間で説明した。測定者を含めた検者4名で検査の練習を10分間施行した。その際,質疑応答の内容も検査に対する情報の差が生じないように注意した。講義後,検者3名の各々の結果が知られないように検者3名を個別の部屋に分け,検査を施行した。可動範囲は疼痛のない範囲でendfeelまでとした。結果はすべて角度計を用いた角度の値とした。測定に関しては検者の検査終了の合図の後,同一の測定者が測定を行った。Bulbena Criteriaとは,簡易な低緊張の判別をするための評価法である。9つの関節の関節弛緩性と皮下溢血班の10項目によって評価し,女性5項目以上,男性4項目以上当てはまると低緊張と判別される。本研究では健常者では測定不可能な検査や行いにくい検査,また判定基準が曖昧なものを除外した6項目を抜粋して行った。項目の検査法は,①母指の項目:測定点は距離となっているが角度へと変更した。測定肢位は端座位とし,検者は対象の上肢を支持し,手関節背屈を伴い,母指を前腕掌側へ近づける。測定点は基本軸を橈骨,移動軸を第一中手骨とした。②小指の項目:測定肢位は端座位とし,対象は手掌面をベッド上につけ,検者は対象の小指を把持し,背側へ伸展させる。その際,他の指が浮き上がらないよう検者は他方の手で固定し,基本軸を第五中手骨,移動軸を第五基節骨とし測定した。③肘過伸展の項目:測定肢位は端座位とし,検者が対象の上腕を把持し,前腕を伸展方向へと動かし,基本軸を上腕骨,移動軸を橈骨とし測定した。④股外転の項目:測定肢位は背臥位とし,検者は対象の両下肢を把持し,両側を他動的に外転方向へ動かし,両側の大腿中央線(膝蓋骨中心を通る線)の交わる点を測定した。⑤足背屈の項目:測定肢位は長座位とし,検者は対象の足底を把持し,足関節背屈方向に動か(膝伸展位)し基本軸を腓骨への垂直線,移動軸を第五中足骨とし測定した。⑥中足趾節間関節の項目:測定肢位は膝立て座位とし,検者は対象の拇趾先端を把持し,背側へ伸展させる。その際,他の指が浮き上がらないように検者は他方の手で固定し,基本軸を第一中足骨,移動軸を第一基節骨とし測定した。統計ソフトはR-2.8.1を使用し,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient(以下ICC)にて解析をした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神戸国際大学倫理審査委員会の承認(第2013-005号)を得て施行した。【結果】母指の項目はICC:0.718・SEM:7.68(0.39~0.91),小指の項目はICC:0.88・SEM:6.15(0.70~0.96),肘過伸展の項目はICC:0.78・SEM:2.65(0.51~0.93),股外転の項目はICC:0.72・SEM:5.19(0.40~0.91),足背屈の項目はICC:0.28・SEM:3.14(-0.09~0.70),中足趾節間関節の項目は,ICC0.69・SEM:8.99(0.35~0.90)であった。【考察】今井らによるとICCが0.9以上で「優秀」,0.8以上で「良好」,0.7以上で「普通」,0.6以上で「可能」,0.6未満で「要再考」とされている。母指の項目は0.718であり普通であった。小指の項目は0.886であり「優秀」で,肘過伸展の項目は0.787であり「普通」,股外転の項目は0.725であり「普通」,足背屈の項目は0.287であり「要再考」,中足趾節間関節の項目は0.693で「可能」であった。足背屈の項目の低値であった理由として,足背屈の項目では可動範囲が小さく5°の差であっても影響が大きく表れたことと,足背屈のend feelは軟部組織性であるため検者により可動域に差が生じたのではないかと考えた。本研究の限界として,同一日に連続して本研究を施行したためストレッチ効果が出てしまうことから,数値に変化が生じたと考えられる。次に角度計が5°刻みでの測定であるため,測定時に数値が角度計の目盛りの間にあった際,測定者の主観により結果に差が生じたと考える。今後の課題として,本邦での実用性の確立のためには検者内の信頼性や妥当性も検証すべきであった。また対象が少なかったことが挙げられる。【理学療法学研究としての意義】低緊張は臨床に置いてよく見られる現象の一つであるが,それを捉えるための検査についての報告は少なく,本研究において,一部の検査項目においては低値であったが,それ以外の項目では本検査は信頼性が高く理学療法の研究において意義があると考える。
抄録全体を表示
-
Basic Balance Test(BBT)を用いた検討
柳元 俊輔, 宮原 慎吾, 岩下 大志
セッションID: 1311
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】当センターは,臨床心理士を中心としたSocial Skill Training(以下SST)を自閉症スペクトラム児(以下,ASD児)を対象に行っている。ASDは社会性の問題を主とする障害群であるがその中で姿勢保持が困難,運動が苦手などの姿勢・運動面に対する訴えが多く,その訴えに対応する形でSSTに理学療法士が介入する契機となった。臨床の現場では,ASD児に「不器用さ」や「ぎこちなさ」を併せ持つ事はよく知られている。これらは,協調運動の稚拙さの一般的な表現であり,バランスや姿勢制御,ボール遊びや縄跳びが苦手といった学校生活を含めた様々な生活場面に影響を与える。運動が苦手である事は,本人の自尊心低下や集団からの孤立など,二次的な心理社会的問題の生起に繋がることもあるとされる。「ASD児は,ボディーイメージが未熟,バランスが悪い」と説明される事が多い。これらの事からもASD児については,協調運動の基礎として必要不可欠である姿勢保持や姿勢制御が困難な事が予測される。しかし,ASD児のバランス能力を捉える際に重要とされる支持基底面と身体重心線,重心移動について言及した研究は少ない。そこで今回は,前述した重要点に視点を置いた評価であるBasic Balance Test(以下BBT)を参考にし,ASD児のバランス能力評価として用い,その過程で得られた所見,評価する上で留意すべき点や課題について考察を加え以下に報告する。【方法】対象は,平成25年度4月より現在まで当院SSTに参加している男児4名(平均年齢10歳)。診断名はASDで知的発達に大きな遅れは認められない。BBTを対象者4名に対し2回ずつ同検査者が実施した。検査はSST参加時(月に一度),平成25年9~11月に実施。検査前に検者がデモンストレーションを行い,対象者が模倣出来た後に行った。BBTは全25項目から構成され,領域別として姿勢保持,立ち上がり・着座,端座位での重心移動,開脚立位での重心移動,閉脚位からのステップ動作の5領域で構成される。各項目は0~2の点数配分であり0:不可,1:不安定,2:安定で判定を実施。なお,姿勢保持項目における継足位,片脚立ち位時には,評価の細分化を図る為に上肢の代償を除き,両上肢を胸の前に位置させる事を条件として加えた。その結果に対し,全体総計,領域別総計,各項目に統計学的分析として1元配置の分散分析と多重比較検定を行い危険率は5%とした。なお項目別において2回の最高点数(4点)に対し,各対象者の項目別合計点の比較を行った。【倫理的配慮,説明と同意】測定実施に際し,本研究の趣旨を保護者に対し口頭および文章にて説明を行い同意を得た。なお,所属施設における倫理委員会の許可を得た。【結果】姿勢保持領域総計,閉眼・片脚立位項目で1元配置の分散分析で有意差を認め,多重比較検定では有意差を認めなかった。その他領域別総計,全体総計,項目別では有意差を認めなかった。項目別では4名に共通して最高点数に対し,各対象者の項目別合計点と比較した結果から閉眼・片脚立位保持,踵立位保持が困難な傾向が見られた。【考察】姿勢保持領域総計においては1元配置の分散分析でのみ有意差を認め,最高点数に対し,各対象者の項目別合計点と比較した結果から閉眼・片脚立位保持,踵立位保持が困難な傾向が見られた。松田らは,軽度発達障害児と健常児の立位平衡機能の比較について重心動揺計を用い,静止立位時(開脚)の開眼・閉眼について軽度発達障害児群では重心動揺が大きく,立位姿勢保持が不安定であったとの報告もある。Bernhardtらのバランスに影響する要因を参考にすると,力学的要因として開脚に比べ片脚立位では支持基底面が狭小する事,感覚・認知・注意の要因としては開眼に比べ閉眼でより難易度は高いと判断される。なお,平衡能力の発達は5歳から7歳にかけて体性感覚での制御が優位に働くという報告からも,対象者は体性感覚でなく視覚情報に偏った姿勢保持を行っている可能性が示唆された。有意差こそ認められなかったが,4名全員に共通して踵立位保持が困難な傾向があった。踵立位が困難である事については,対象者に対しX線等の精査を行っていないが見かけ上の扁平足を有しており,その足関節機能(alignment,hypermobility)が姿勢制御に影響を与え不安定さを招く一要因である事が推察された。【理学療法学研究としての意義】小児領域の障害を運動機能と認知機能に明確に分けて考える事は容易ではない。その両者の関連性を分析し,障害がどのように形成されるかを把握する事が重要である。我々理学療法士の役割としては運動の基礎となる姿勢保持・制御能力と身体構造・機能面,感覚・認知面との関連性を導き出す事が重要である。
抄録全体を表示
-
阿部 広和, 花町 芽生, 神原 孝子, 白子 淑江, 吉岡 明美
セッションID: 1312
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【背景と目的】脳性麻痺児の活動は運動機能の障害によって制限される。現在,この活動は「capacity」・「capability」・「performance」の3つに分類されることが多い。「capacity」は整った環境での能力を意味している。つまり,環境の整った理学療法室でみられるような能力である。そして,「capability」は日常生活でできること,「Performance」は日常生活でしていることと定義されている。これらの活動の中で理学療法士が最も注目するのは,移動についてである。移動もこの3つに分類して考えることができ,三者の関連性は高いとされている。しかし,これらの関連性は個人的・環境的要因,そして文化的背景によっても影響されるため,関連性が弱いとされる結果もある。そのため,環境的要因や文化的背景が大きく異なる海外との違いを考慮する必要性がある。本研究の目的は,移動における「capacity」と「capability」に焦点を当て,これらの関連性を調査することである。【方法】対象者は,当センターで理学療法を行った脳性麻痺児34名(男性26名,女性8名,平均年齢10.8±3.0歳,年齢範囲6歳2か月~17歳3か月)であった。GMFCSの分類ではレベル1:18名,レベル2:5名,レベル3:7名,レベル4:4名で,麻痺のタイプは痙直型片側性麻痺10名・両側性麻痺24名であった。「capacity」は粗大運動能力尺度(GMFM),「capability」はリハビリテーションのための子どもの能力低下評価法の機能的スキル移動領域(PEDI-FS mobility)を用いて評価した。GMFMは,GMFM-66 Basal & Ceiling approachで評価を行い,Gross Motor Ability Estimator 2を使用してGMFM-66スコアとした。PEDI-FS mobilityは親への聴取を行い,素点を尺度化スコアにした。「capacity」と「capability」の関連性には,独立変数をGMFM-66,従属変数をPEDI-FS mobilityとして単回帰分析を用いた(有意水準5%)。統計処理は統計ソフトR2.8.1を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者と親権者に対して説明を行い,同意を得て行った。またデータは匿名とし,個人情報が特定できないよう十分配慮した。【結果】GMFM-66は74.6±17.3,PEDI-FS mobilityは77.7±23.0であった。単回帰分析の結果,GMFM-66(x)からPEDI-FS mobility(y)を予測するのにy=1.24×x-14.98という回帰式が認められた(R
2=0.904,p<0.05)。GMFM-66のスコアが50~60では,PEDI-FS mobilityのスコアが37.1~61.9とバラつきがみられた。GMFM-66のスコアが80以上では,PEDIのスコアが100だった者が12名いた。
【考察】本研究の結果は,GMFMとPEDI-FS mobilityで「capacity」と「capability」の関連性を調査した先行研究と同様の関連性を示した。しかし,GMFMのスコアが50~60で,PEDI-FS mobilityのバラつきが大きいことは,環境要因が影響していると考える。また,先行研究と比較して,GMFM-66のスコアが80以上でPDEI-FS mobilityのスコアが100の対象者が多かった。この天井効果は,7歳未満を対象としている先行研究ではみられず,本研究で学童期を対象としているため起きたと考える。しかし,単に年齢が上がったためPEDI-FS mobilityが満点に到達したのではなく,身長や身体機能の変化によって起こったものと考え,検証する必要があると考える。以上のことより,「capacity」と「capability」の関連性は強いが,環境的要因などを十分考慮しながら,脳性麻痺児の活動について考えなければならないことを示唆した。【理学療法学研究としての意義】現在,脳性麻痺児に対する理学療法は,活動や参加に対するアプローチが重要視されている。日常生活での移動が「capacity」という理学療法が多く行われる環境下と関連していることが明らかになったことは理学療法士にとって意義のあることと考える。
抄録全体を表示
-
高林 知也, 稲井 卓真, 徳永 由太, 久保 雅義
セッションID: 1313
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】変形性膝関節症(KOA)は階段降段動作が障害されやすく,関節負荷を軽減する目的で前向きでの2足1段降段動作が指導されている。これに対し,安全かつより少ない関節負荷で降段する方法として後ろ向き降段が注目されている。しかし,2つの階段降段方法の違いが関節負荷へ与える影響は明らかになっていない。階段降段時の関節モーメントを解析した報告は多いが,関節モーメントは正味の筋活動を示す指標であり,関節面に生じる負荷と必ずしも一致していない。関節面の負荷を推察するためのもう1つの指標として,関節面への圧迫力を示す関節間力がある。関節間力は外力や筋張力を基に決定され,筋張力は数学的手法を用いて非侵襲的に推定することが可能である。本研究では,既に妥当性が確認されている筋電図情報を取り入れた最適化手法(EAO)を用いて,2つの階段降段方法における筋張力及び膝関節間力を算出し,階段降段指導の一助とすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性6名とした。課題動作は前向きと後ろ向きにおける2足1段降段動作とし,バリアフリー法の基準に準じた5段階段(1段あたりの高さ160mm,奥行300mm)を使用した。動作解析にはCCDカメラ11台を含む3次元動作解析装置(VICON MX:Oxford Metrics Inc),床反力計(OR6-6-6 2000:AMTI)6台,反射マーカー39個を使用した。CCDカメラは100Hz,床反力計は1000Hzのサンプリング周波数にて計測した。表面筋電図(EMG)は大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋長頭,前脛骨筋,腓腹筋,ヒラメ筋の7筋より導出し,サンプリング周波数1000Hzにて運動学データと同期し計測した。計測されたマーカー座標及び床反力より,データ処理ソフトBody Builder(OMG plc.UK)にて運動学・運動力学データを算出した。数値計算ソフトScilab(Inria.RF)にて運動学・運動力学データに雑音除去を施した。EMGには雑音除去,全波整流及び平滑化を施し,最大随意性等尺性収縮にて正規化した。運動学・運動力学データ及びEMGを基に,EAOにて生理学的な特性を考慮した筋張力の推定を行い,下肢9筋による矢状面筋骨格モデルにて膝関節間力を算出した。なお,膝関節間力は膝関節に関与する筋群の筋張力を基に算出された。解析区画は先行脚における爪先接地から同側爪先接地までの1歩行周期とし,時間の100%正規化を行った。統計処理は,関節モーメントの最大値,推定筋張力の最大値及び膝関節間力の最大値にウィルコクソン符号順位和検定,推定筋張力とEMGにピアソンの相関係数の検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に本研究の内容を書面及び口頭にて説明し,同意を得て行った。【結果】前向き降段と後ろ向き降段の膝関節伸展モーメント,膝関節伸展筋張力及び膝関節間力は立脚初期に最大値を示した。膝関節伸展モーメントの最大値において,後ろ向き降段(12.5±7.0N/kg)が前向き降段(24.3±9.4N/kg)に対して有意に低値を示した(
p<0.05)。大腿直筋及び広筋群の筋張力の最大値において,後ろ向き降段(各々4.0±1.2N/kg,5.7±1.4N/kg)が前向き降段(各々9.6±3.0N/kg,8.6±1.8N/kg)に対して有意に低値を示した(
p<0.05)。膝関節間力の最大値において,前向き降段(41.3±9.6N/kg)と後ろ向き降段(44.6±11.4N/kg)は有意な差が見られなかった。前向き降段と後ろ向き降段の推定筋張力はEMGと正の相関関係が見られ,有意な相関関係を示した(
p<0.05)。【考察】2つの階段降段方法において膝関節伸展モーメントは有意な差を示したが,関節モーメントは主動筋と拮抗筋によりもたらされる回転の作用であり,正味の筋活動を示す指標である。これに対し,関節間力は関節面に生じている負荷を反映している。KOAは,繰り返される関節への過負荷により痛みが惹起され,動作遂行が困難となる。したがって,動作時の膝関節間力は,KOAに対する運動処方を考える上で有益な基礎情報となることが考えられる。本研究より,前向き降段と後ろ向き降段は関節負荷としては同様の階段降段方法であった。しかし,膝関節間力に寄与する筋張力が異なっていたことから,階段降段の遂行を考慮した場合,後ろ向き降段は大腿四頭筋が筋力低下している疾患に有用であることが考えられた。また,推定筋張力の妥当性を評価する指標はEMGとの一致度から判断することが適当であり,本研究で推定された筋張力は妥当性を支持していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】KOAは従来から大腿四頭筋の筋力低下が起こると報告されている。したがって,階段降段が困難なKOAに対し,後ろ向き降段は降段動作を可能とする方法であることが示唆された。
抄録全体を表示
-
北出 一平, 嶋田 誠一郎, 久保田 雅史, 亀井 健太, 馬場 久敏
セッションID: 1314
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】先行研究において,我々は頸髄症重症例を3次元動作解析にて歩行時における膝関節周囲機能を検討した結果,立脚期における二重膝作用の消失,膝関節の過伸展の出現,そして膝伸展モーメントの2峰性の消失を示したと報告した。また,立脚初期にあたる制動時と遊脚移行期に相当する駆動時における膝関節のモーメントとパワーの関係性を検討した結果,各期ともに重症例は健常者とは異なる収縮形態を示したと報告した。このように,二重膝作用の消失や膝過伸展の出現などの要因として,膝関節周囲モーメントの方向性の変化といった質的変化が関与すると考えられる。しかしながら,歩行時における膝関節周囲の各筋の筋腱長や筋腱速度などの動的筋機能まで検討した報告はない。今回,頸髄症患者の歩行時に生じる膝関節周囲機能の質的変化を,筋-骨格モデリングソフトを用いて頸髄症患者の歩行時における膝関節周囲筋の動的筋機能を検討し具体化する。【方法】下肢に手術の既往,外傷,重度な変性疾患または脳血管障害などを認めない頸髄症患者42例(男性27例,女性15例,69.7±7.6歳)(CM群)を対象とした。疾患の内訳は頸椎症性脊髄症29例,頸椎後縦靱帯骨化症10例,頸椎椎間板ヘルニア3例であった。Maezawaらの判定基準(Japan Orthopaedic Association scoreにおける上肢機能を除いた11点満点)を使用し,下肢の重症度を分類した結果,10点以上の軽症群は12例(男性7例,女性5例,66.3±8.0歳),7-9点の中等度群は17例(男性11例,女性6例,68.0±9.6歳),そして6点以下の重症群は13例(男性9例,女性4例,67.4±8.3歳)であった。対照群として同年代の健常高齢者15名(男性9名,女性6名,67.6±9.1歳)とした。歩行動作は,個人の快適な速度である自由歩行とし,4枚の生体力学用大型床反力計(AMTI社)と6台のカメラ(Motion Analysis社)を同期した3次元動作解析装置VICON system 370(ViconPeak社)を用いて測定した。解析には解析ソフトVICON Clinical Manager(VCM:Oxford metrics社)を用いて時間距離的,運動学的および運動力学的因子を含むGait cycle data(GCD)を算出した。次に,VCMから得られたGCDファイルを,筋-骨格モデリングソフトウェアSIMM/Gait(Musculo Graphics社)を用いて動作データを書き込むmotionファイルに変換し,歩行動作時の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の経時的な筋腱長(MTL)を推定した。また,(MTL/身長)の微分である筋腱速度を算出し,統計学的に各群間で比較検討した。危険率5%未満を有意水準とした。【説明と同意】全ての対象に対し,評価,治療および研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。【結果】各群の一歩行周期におけるMTL/身長は,遊脚移行期にて大腿二頭筋長頭が最小,大腿直筋が最大を示した。各群のMTL/身長の波形は,両筋ともに各期において類似した波形を示したが,CM群は重症度が増すに伴いMTL/身長の幅が有意に低下していた。各群の一歩行周期における大腿直筋の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最高速となる正の方向における2峰性の波形を示したが,CM群は重症後が増すに伴い筋腱速度範囲が有意に狭かった。対照群,CM軽症群および中等度群の一歩行周期における大腿二頭筋長頭の筋腱速度は,立脚初期と遊脚移行期に最低速となる負の方向における2峰性の波形を示したが,重症群の立脚期では2峰性の波形が消失していた。【考察】我々の先行研究において,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用の消失や膝過伸展の出現などの要因として,膝関節周囲モーメントの方向性の変化といった質的変化が関与すると報告した。今回,動的筋機能面から大腿直筋における収縮もしくは伸張形態の変化の軽度な低下と,特に大腿二頭筋長頭における立脚初期と遊脚移行期の部分的な異常収縮もしくは異常伸張形態が,二重膝作用の消失や膝過伸展の発生に関与している可能性が考えられる。先行研究における関節モーメントの方向性の質的変化に加え,今回の動的筋機能の結果から立脚期における二重膝作用の消失や膝過伸展が生じる際の大腿直筋と大腿二頭筋長頭の役割が具体化された。したがって,頸髄症患者の歩行時における二重膝作用や膝過伸展の改善を図る理学療法として,特に各期における大腿二頭筋の収縮もしくは伸張形態や速度を考慮した促通や歩行トレーニングを介入することが必要である可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】頸髄症の歩行動作を動的筋機能から検討することで,歩行時に生じる二重膝作用の消失や膝過伸展の出現における膝関節周囲筋の役割をより具体化することができ,理学療法治療への発展の可能性が考えられる。
抄録全体を表示
-
エネルギーコストに着目して
樋口 朝美, 鈴木 博人, 本間 秀文, 川上 真吾, 菊地 明宏, 田中 直樹, 福田 守, 藤澤 宏幸
セッションID: 1315
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】歩行は,移動のために最も自動化された運動であり,定型性を示すことで知られ,エネルギーコスト(以下,EC)が最小となるよう運動戦略が形成されると考えられている。歩行の定型性が強固なことから,わずかな機能障害を有しても,容易に異常歩行が発現する。健常者において機能障害モデルを用いた研究としては,足関節に着目した高橋らの研究があり,運動戦略の選択基準としてEC最小が優位であることが報告されている。しかし,この研究以外に,運動戦略の選択基準とECの関係性について検討している研究は我々の知る限りにおいて見当たらない。我々は,他の機能障害を有する場合においてもEC最小が優先されると考えており,そのことを検討する必要性を感じている。そこで,本研究では股関節運動の機能障害モデルを用い,歩行における運動戦略の選択基準でのECの優位性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,健常若年男性20名(身長171.7±6.8cm,体重62.3±6.3kg,年齢20.5±1.1歳,BMI21.1±1.4)とし,整形外科的疾患,神経障害,呼吸・循環器障害を有する者を除外した。歩行は,トレッドミルにて行い,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製,AE-2805)を用いて酸素摂取量(以下VO
2)を測定した。機能障害モデルは,股関節屈曲制限0°となるよう自作ベルトを用いて調整した。歩容条件は,機能障害モデルでの運動パターン4種類(指定なし・後傾型・回旋型・揃え型)と,通常歩行の計5種類とした。速度条件は,10,20,30,40,50,60m/minとし,低速度から順に各速度3分間の歩行を行わせた。測定順序は,最初に指定なしの歩行,次に後傾型・回旋型・揃え型をランダムに実施し,最後に通常歩行を行わせた。なお,各運動パターンの歩行実施後,十分な休息時間を設けた。運動パターンの分析のため,対象者の矢状面・後上方よりカメラ二台にて歩行を撮影した。VO
2の代表値は,各速度終了前30秒間の平均値とした。また,運動パターンの分類は,歩幅が足長未満のものを揃え型,足長以上かつ骨盤の後傾がみられるものを後傾型,骨盤の回旋と股関節の外転がみられるものを回旋型とした。統計解析は,従属変数をVO
2,独立変数を運動パターン(5水準)・速度条件(7水準)とした二元配置分散分析を行い,事後検定にBonferroniの多重比較検定を用いた。なお,これらの統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,全対象者へ本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。また,対象者が未成年の場合には保護者からの同意も得た。なお,本研究は東北文化学園大学倫理委員会(承認番号;文大倫第13-05号)にて承認されている。【結果】自由歩行の運動戦略は,10m/minで揃え型10名,後傾型10名であった。また,速度の上昇に伴い後傾型が増加し,60m/minで揃え型1名,後傾型19名であった。更に,全速度で回旋型はみられなかった。VO
2について,分散分析の結果,運動パターンと歩行速度に主効果が認められ,交互作用が有意であった。平均値でみると,全速度で通常歩行が最小値を示した。10m/minでは,後傾型,指定なし,揃え型,回旋型の順で大きく,後傾型と回旋型・揃え型,回旋型と通常歩行間のみに有意差が認められた。また,20m/min~50m/minでは,後傾型・指定なし・回旋型・揃え型の順であり,速度の上昇に伴い,それぞれの間に有意差が認められ,差が大きくなった。さらに,60m/minは,指定なしと後傾型の順は逆転した。しかし,この二つの運動パターンの間に全速度で有意差はみられなかった。【考察】本研究の結果において,VO
2が最小であったことから後傾型が最も効率が良いことが明らかとなった。また,指定なしの運動パターンの選択では,速度の上昇に伴い後傾型が増加したことから,運動選択の選択基準におけるECの優位性が確認された。このことから,先行研究の結果と合わせて考えると,機能障害を有する場合の歩行の運動戦略では,EC最小が重要な選択基準になっていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】理学療法において,歩行の再建は健常者の歩容を目標として運動パターンを指導することが多い。しかし,本来ならば患者の意向を考慮に入れ,残存機能を基に最適性の指標となる歩行速度,EC最小等に着目して運動パターンを検討する必要がある。本研究から,運動戦略の選択基準はEC最小が優位であることから,それを第一選択として歩行の再建にあたることが重要であると考えている。
抄録全体を表示
-
平松 拓也
セッションID: 1316
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】スクワット動作は閉鎖運動として代表的なエクササイズである。スクワット動作において骨盤肢位の変化は二関節筋である大腿直筋の機能が異なりそれを明らかにすることはこの動作での二関節筋の機能的役割の解明につながる。通常の二関節筋の収縮状況を起始と停止が近づくように運動する。しかし,大腿直筋のスクワット動作時の筋長の変化に焦点を当てた研究は渉猟した範囲に見当たらない。そこで骨盤前傾位と中間位でスクワット動作を行った際の大腿直筋長の変化を3次元動作解析機を用い明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】被験者は下肢に手術の既往がなく踵部を挙上せずスクワット動作が可能な男性10名(年齢20~22歳,21.90±2.23歳)とした。課題動作の骨盤前傾位スクワットでは下腿と体幹の長軸が平行な状態で行い,骨盤中間位スクワットでは体幹が床に対して直立した状態で行った。被験者は両踵骨マーカー間を上前腸骨棘の幅に合わし立位姿勢をとる。次にスクワット動作を骨盤前傾位と骨盤中間位で3回ずつ行った。これを1セットとし4セット行った。スクワット中の運動力学データは赤外線反射マーカーを身体各標点に貼付し赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製,Oxford)を使用した。三次元動作解析装置から得られた運動力学データと身長・体重からデータ演算ソフトBody Builder(VICON社製,Oxford)を用いて関節角度,大腿直筋全長,大腿直筋遠位部長,大腿直筋近位部長を以下の方法で算出した。上前腸骨棘と膝蓋骨の上面に貼付したマーカーとの距離を求め,これを大腿直筋全長の近似値とした(大腿直筋全長)。次に大転子と大腿骨外側上顆に貼付したマーカーを直線で結び,その直線の中点を大腿骨中点とする。大腿骨中点から上前腸骨棘と膝蓋骨上面に貼付したマーカーを結んだ線に対し垂線を引きその交点を求めた。交点から上前腸骨棘に貼付したマーカーまでの距離を近位部長,交点から膝蓋骨上面に貼付したマーカーまでの距離を遠位部長とした。スクワット動作時の屈曲動作相の膝関節屈曲15°,30°,45°,60°の各々の大腿直筋全長,近位部長,遠位部長を求めた。骨盤肢位と膝関節屈曲角度を要因として2元配置の分散分析を用いた。また,Tukey法を用い危険率5%をもって有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿っており研究の実施に先立ち広島国際大学医療研究倫理委員会の承認を得た。また,被検者に対して研究の目的と内容を十分に説明し文章による同意を得た後実施した。【結果】大腿直筋全長において骨盤前傾位スクワットでは膝関節屈曲角度が増加するにつれ短くなる傾向にあった(15°:454.47mm vs 30°:443.06mm vs45°:429.66mm vs60°:414.74mm)。しかし,骨盤中間位スクワットは屈曲角度による大腿直筋全長の変化はなかった(15°:456.01mm vs 30°:455.61mm vs 45°:450.56mm vs 60°:447.52mm)。両条件のスクワットともに大腿直筋近位部長は膝関節屈曲角度が増加するにつれ短くなり(骨盤前傾位15°:267.68mm vs 30°:246.84mm vs 45°:221.82mm vs 60°:196.58mm 骨盤中間位15°:271.01mm vs 30°:259.90mm vs 45°243.88mm:vs 60°:230.36mm),大腿直筋遠位部長は角度が増加するにつれ長くなった(骨盤前傾位15°:186.80mm vs 30°:196.22mm vs 45°:207.84mm vs 60°:218.16mm 骨盤中間位15°:185mm vs 30°:195.72mm vs 45°:206.68mm vs 60°:217.17mm)。【考察】本研究は骨盤前傾位スクワットでは膝関節屈曲角度が大きくなるとともに大腿直筋全長は短くなり,骨盤中間位スクワットは有意な長さの変化は認められなかった。骨盤中間位スクワットは大腿直筋全長の求心性収縮を伴う運動様式が行えていないのに対し骨盤前傾位でのスクワットは求心性収縮を伴った運動であることが明らかとなった。また,骨盤前傾位と中間位のスクワット時ともに大腿直筋近位部は短縮され遠位部は伸張された。本研究結果から骨盤前傾位・中間位スクワットともに大腿直筋の近位部では求心性運動が起き遠位部では遠心性収縮が起きていることが明らかになった。園部らは膝関節股関節同時屈曲の際に大腿直筋の近横断面積が最大になる位置から4cm近位に貼付した電極部での筋活動は大きくなり,8cm遠位に貼付した電極では筋活動は小さくなったと報告した。本研究においてスクワット動作時に大腿直筋の近位部が短くなり遠位部が長くなるという結果を反映している可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】スクワット運動を行う際に骨盤肢位を変化させることは大腿直筋の機能をより特異的にトレーニングできる可能性を示唆しその点において本研究は理学療法研究として意義がある。
抄録全体を表示
-
高齢者シミュレーションモデル解析による検討
小栢 進也, 永井 宏達, 沖田 祐介, 岩田 晃, 樋口 由美, 淵岡 聡
セッションID: 1317
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】動筋と拮抗筋が同時に活動する同時収縮は外乱に対応する姿勢制御戦略の一つである。拮抗筋が引き合い同時収縮を生じている状況では,関節が動くと一方の筋は伸張され拮抗する筋は短縮する。筋の長さ-張力・速度-張力の関係性より,筋は伸張されると強い張力を発揮しやすい特性を持つため,伸張された筋の張力は増加し,短縮した筋の張力は低下する。結果として関節が動かされた方向と逆向きに力を発揮して外乱に抗する機能を持つ。このようなメカニズムは知られているものの,外乱刺激後の立位姿勢制御反応は反応時間など様々な要素に影響を受けるため,同時収縮単独の影響を測定することは難しい。そこで,本研究では筋の長さ-張力,速度-張力の関係性を考慮した順動力学シミュレーションモデルを用いて外乱応答における同時収縮の役割を検討した。【方法】研究は外乱刺激の動作測定を始めに行い,このデータを元に被験者のモデルを作成して,外乱刺激後の姿勢制御反応をシミュレーショにより解析した。対象者は65歳女性1名として大転子および外果に反射マーカーを張り付け,安静立位の状態から床面が前方に速度15cm/秒,移動距離6cmで動いた際の垂直軸に対する大転子-外果を結んだ線の角度および前脛骨筋とヒラメ筋の筋電図を測定した。シミュレーション解析の立位モデルは足関節が底背屈する1リンクの倒立振り子モデルを想定し,倒立振り子の先端部分に身体重心が位置するとした。筋の長さ-張力,速度-張力の関係を考慮した背屈筋と底屈筋の2筋を足関節に作成した。筋モデルの起始停止,至適筋長,腱の長さは先行研究で用いられているモデルデータを用い,背屈筋は前脛骨筋,底屈筋はヒラメ筋のデータを用いた。また最大筋力に関して,背屈筋は前脛骨筋,長母指伸筋,長趾伸筋の合計値,底屈筋はヒラメ筋,腓腹筋の合計値を用いた。外乱刺激前の安静立位における足関節角度は動作測定データから求め,背屈4.35°とした。安静立位時の同時収縮に三条件を設定し,背屈筋群が活動しない0%条件,背屈筋群が20%,40%活動する条件とした。なお活動量は最大筋力で正規化した。底屈筋は安静立位を保持する活動量として,同時収縮をモデル化した。次に,床面を動作測定時と同様の条件で前方へ動かして,体が後方へ倒れる状況をシミュレーションモデルにより解析した。外乱に対する筋活動反応時間140msecまでは安静立位と同様の筋活動量,140msec以降は外乱に応じた筋活動が生じるとした。外乱に応じた筋活動は神経刺激-筋活動の遅延を考慮して角度,角速度,角加速度から一次微分方程式を用いて求めた。同時収縮の条件を変化させた際の動作変化および筋活動量変化をシミュレーションにて検討し,同時収縮が外乱刺激後の姿勢制御に与える影響を検討した。なお,安静立位の背屈角度と最大底屈角度の差を動揺角度とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には研究の内容を説明し,同意の下で実施した。なお,本研究は本学の研究倫理委員会で承認されている。【結果】外乱刺激前に背屈筋動量を増加させて同時収縮を高めると,小さくゆっくりとした動揺に変化した。動揺角度は0%条件で1.79°,20%条件で1.73°,40%条件で1.62°で同時収縮を高めることで動揺は小さくなった。また,外乱刺激前の足関節角度まで戻る時間は0%条件で0.67秒,20%条件で0.70秒,40%条件で0.74秒と同時収縮が高まるにつれて時間が延長した。さらに,外乱刺激後0.25秒~0.4秒までの最大背屈筋活動量は0%条件で28.0%,20%条件で26.3%,40%条件で22.5%であり,外乱刺激前の同時収縮が強いほど,低い筋活動で外乱に対応できることがわかった。【考察】同時収縮を高めると外乱刺激後の筋活動量が低くても,小さくかつゆっくりとした動揺になることが明らかとなった。同時収縮は外乱刺激後の動揺量を小さくする有効な戦略の一つであると思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節のみを持つ1関節モデルのため,ヒトの動作を反映できていない要素は多い。しかし同時収縮と姿勢制御の関係性を明確にした初めての研究であり,同時収縮の機能的役割を明らかにする結果である。
抄録全体を表示
-
篠原 智行
セッションID: 1318
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】運動療法の導入として循環促進を目的に四肢末梢の自動運動を実施することがある。掌握運動は上肢の末梢血流の促進の他,頚動脈や脳の血流への影響や透析患者のブラッドアクセス造設術における動静脈瘻の成育に有効であるとされている。血流量は筋収縮強度や時間,運動のテンポ,運動の姿位など運動条件により変化するが,有効な運動条件に言及した報告は少なく,経験的に実施されていることが多いと思われる。そこで今回,有効な手指掌握運動の反復回数の目安を得ることを目的に,若年健常者における反復回数と上腕動脈の血流速度の関連性を検証した。【方法】まず,測定機器の検者内信頼性を確認するため,循環器疾患を有さない健常成人8名を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性5名,女性3名,平均年齢は25.8歳(Standard Deviation;SD3.8)であった。前方のテーブルにon elbowとなる安楽な椅子座位をとり,カラードップラー(東芝Power vision 6000(SSA-370A),Probe 7.5MHz)を用いて利き手の上腕動脈の血流速度を5回連続で測定した。次に,掌握運動の反復回数の影響と運動前後の血流変化を検証するために,循環器疾患を有さない健常成人15人を対象に上腕動脈の血流速度を測定した。対象者は男性9名,女性6名,平均年齢は26.6歳(SD3.4)であった。前方のテーブルにon elbowとなる椅子座位で,電子メトロノーム(YAMAHA ME-55BK)を使用して1秒1回の利き手の掌握運動を5回,20回,50回の3条件で実施した。条件の実施順は対象者によるくじ引きで決定し,条件間の休息は5分とした。血流変化をみるため運動前,運動直後,1分後,2分後,3分後における利き手の上腕動脈の血流速度を,カラードップラー(上記同様)を用いてそれぞれ1回ずつ測定した。全て同一の検者が測定した。解析にあたって,検者内信頼性についてはIntraclass correlation(ICC)(1,1)およびICC(1,5)を算出した。また,掌握運動の反復回数と測定経過の2要因によって血流速度に差があるかを検証するため,2要因に対応のある2元配置分散分析を用いた。有意であった要因の多重比較にはTukeyの方法を用いた。統計解析はDr.SPSSII for windowsを使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って研究計画を作成し,当院医療倫理委員会の承認を得た(第42号)。対象者には事前に本研究の主旨を説明し書面に同意署名を得た。【結果】検者内信頼性を確認するため測定した5回の血流の平均値は1回目0.99m/s(SD0.28),2回目0.91m/s(SD0.20),3回目0.92m/s(SD0.16),4回目0.88m/s(0.16),5回目0.87m/s(SD0.18)であった。ICC(1,1)は0.81(95%Confidence interval(CI)0.60-0.95),ICC(1,5)は0.96(95%CI0.88-0.99)であった。各条件の血流速度は5回運動前0.80m/s,運動直後0.94m/s,1分後0.84m/s,2分後0.79m/s,3分後0.77m/s,20回運動前0.82m/s,運動直後1.04m/s,1分後0.86m/s,2分後0.83m/s,3分後0.80m/s,50回運動前0.81m/s,運動直後1.08m/s,1分後0.89m/s,2分後0.84m/s,3分後0.80m/s,であった。全条件において運動直後で最も血流速度が速く,順次低下して3分後には運動前と同様に戻るトレンドを示した。2元配置分散分析の結果,反復回数と測定経過の2要因に有意な差が認められた。反復回数と測定経過には交互作用は認められなかった。反復回数の多重比較では5回と20回,および5回と50回で有意な差が認められた。測定経過の多重比較では運動直後と運動直後以外全て,および1分後と3分後で有意な差が認められた。【考察】カラードップラーによる上腕動脈血流速度測定はICC(1,1)および(1,5)ともに0.8以上であり,高い検者内信頼性が確認された。掌握運動5回と20回および50回の条件間では血流速度の有意な差が認められたが,20回と50回では有意な差が認められなかった。違いがなかった背景として,筋収縮時は筋内圧の上昇により末梢血管抵抗も上昇し血流は減少する一方で,筋弛緩時には反対に血流は増加する機械的作用により血流速度は上昇するが,今回は測定していないものの,血流速度を規定する血圧や末梢血管抵抗の変化には限度があったため,一定の反復回数以上では血流速度が一定になると考えられた。また,各条件とも運動後数分で安静時同様の血流速度に戻ったが,今回の運動条件では血流への影響は筋内圧の機械的作用が中心で,神経性の血管収縮作用や代謝性の血管拡張作用の影響が少なかったためと考えられた。【理学療法学研究としての意義】若年健常者における上腕動脈血流促進目的の掌握運動の反復回数は,5回より20回または50回で効果的であり,また,20回と50回はほぼ同様の効果であり,反復回数実施の目安となる。
抄録全体を表示
-
高森 公美, 杉本 達也, 杉山 和也, 小野 くみ子, 石川 朗
セッションID: 1319
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】医療現場において,弾性ソックスは下肢の慢性静脈不全症やリンパ浮腫の予防・治療の一環として使用されている。弾性ソックスは末梢から中枢にむけて段階的に圧迫圧を減少させることで筋ポンプ作用の増強と微小循環の改善を促すとされているが,浸水によっても段階的に静水圧が加わることが知られている。浸水すると水圧により様々な循環系調節が引き起こされることが報告されており,これらの調節反応は,運動後の回復期においてはクーリングダウンと同様な循環応答をもたらすと考えられている。しかし,運動後の弾性ソックス着用および下腿浴による効果についての報告は少なく,さらに着圧および静水圧の2者による効果を比較検討した報告は少ない。そこで,本研究の目的は,運動後の下腿圧迫が筋活動および心臓自律神経系活動に及ぼす影響を明らかにし,圧迫方法の違いによる効果について比較検討することとした。【方法】対象は,下肢に愁訴のない健常若年男子学生10名(年齢22.1±1.1歳,身長171.3±6.9cm,体重65.9±10.0kg,体脂肪率16.2±6.0%)である。運動課題は,片脚カーフレイズ2セットとした。メトロノームのリズムに合わせて2秒間に1回の割合で運動を継続して行わせ,床から踵までの高さが最大挙上高の60%以下となった時を運動終了とした。対象者は,初めに5分間の座位安静をとり,続いて1セット目の運動を行った。その後10分間のインターバルを設け,2セット目の運動を行った。続いて30分間の回復を設けた。このインターバル時および回復時に,弾性ソックスを着用させる(CG)条件,下腿を33~34℃の水に着水させる(W)条件,下腿圧迫を実施しない(CON)条件の3条件を設定し,ランダムに実施した。測定項目は,下腿周径,大腿周径,自覚的疲労度,運動継続時間,運動側の腓腹筋内側頭およびヒラメ筋の筋電図波形による積分値(RMS),周波数(MPF),心拍数,心臓副交感神経系活動(HF)とした。下腿周径,大腿周径は安静時の値を100とし%下腿周径および%大腿周径を求めた。運動継続時間,RMSおよびMPFは1セット目の値を100としたときの2セット目の値をそれぞれ%運動継続時間,%RMS,%MPF,とした。心臓副交感神経系活動は自然対数(lnHF)を求めた。【倫理的配慮,説明と同意】なお,対象者には口頭および書面にて研究の目的,内容,危険性などを十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した。本研究は神戸大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を得た。【結果】1セット目のRMS,MPF,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかった。%RMSおよび%MPF,自覚的疲労度,%運動継続時間に条件間で有意差はみられなかった。%下腿周径は全ての条件において安静時と比較し1セット目後および2セット目後に有意に増加し,インターバル後および回復後に有意に減少した。CON条件と比較しインターバル後のCG条件およびW条件,回復後のCG条件が有意に低値を示した。%大腿周径に条件間に有意差はみられなかったが,CON条件と比較しCG条件およびW条件において低値を示す傾向にあった。心拍数はW条件において安静時と比較し回復25分時に有意に低値を示した。lnHFはW条件において安静時と比較し回復15分時,25分時に有意に高値を示し,CG条件においては安静時と比較し回復30分時に有意に高値を示した。【考察】筋活動量,自覚的疲労度,運動継続時間において条件間で有意差はみられなかったことから,運動負荷が大きいにも関わらず弾性ソックス着用時間が短かったことおよび水位が低かったことにより,明らかな効果が得られなかったと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により周径が減少したことから,いずれの下腿圧迫方法においても静脈還流が促進し,下腿浮腫の軽減効果が得られたと考えられた。弾性ソックス着用および下腿浴により心臓副交感神経系活動が亢進し,下腿浴においては心拍数が減少した。静脈還流が増加すると右房圧および血圧が増加し,その内圧上昇を是正するために副交感神経系活動の亢進が誘発される。本研究において心臓副交感神経系活動の亢進がみられたことから,下腿圧迫により静脈還流が促進されたと考えられた。また,下腿浴において弾性ソックス着用と比較し迅速に心臓副交感神経系活動の亢進を誘発することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】運動後に弾性ソックスの着用または下腿を不感温水に着水させることで,静脈還流を促進させ循環器系の負担を軽減させる可能性が示唆された。運動療法時および日常生活において弾性ストッキング着用が困難な症例および水中運動が困難な症例であっても,運動後に弾性ソックス着用または下腿浴を行うことで手軽に循環器系の回復が促進する可能性が示唆された。
抄録全体を表示
-
對馬 浩志, 櫻庭 満, 舘山 智格, 高橋 美保, 福司 悠佳, 中井 敬太, 北澤 勇気, 平山 理恵
セッションID: 1320
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】足関節底背屈運動には血流速度を増加させ,静脈還流の促進や静脈うっ滞除去効果の向上があると報告されている。しかし,その報告は運動中における血流速度の変化についての検討が多く,運動後の血流速度の変化についての報告は少ない。今回の研究は足関節底背屈運動の運動回数に着目し,運動回数の違いがどのように運動後の静脈血流速度に影響を及ぼすかを検討した。【方法】対象は健常男性,平均年齢37.6±11.6歳,平均身長176.2±6.4cm,平均体重66.0±6.8kgであり,過去に血流速度に影響を与える可能性のある既往がない10名とした。測定部位は右大腿静脈とし,静脈血流速度の測定には超音波診断装置(日立アロカ社製Prosound α7)を用いた。測定時の姿勢は安静背臥位,膝関節伸展位とし,足関節を自動運動で底背屈させた。又,運動強度は対象者の最大努力,運動速度は各自の判断とし,運動回数は10回,30回,50回の3通りに設定した。測定の状態は足関節底背屈運動前(安静背臥位にて5分間の臥床後)を測定し,それぞれの運動回数において,運動直後,15秒後,30秒後,1分後,2分後の経過時間毎の血流速度を測定した。また,測定間には5分間の休息を設け,パルスドプラにて波形が安定した状態を視覚的に確認してから次の測定を行った。統計解析は,運動前血流速度と運動後経過した時間毎の血流速度において対応のあるt検定を用いて検討した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象には本研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性とプライバシーの保護について十分な説明を行い,同意を得た後に測定した。【結果】運動直後における大腿静脈血流速度は,10回,30回,50回の順に,24.69±7.1cm/sec,25.85±7.5cm/sec,31.27±11.3cm/secとなり,運動前の17.87±5.9cm/secと比較すると,運動回数が多いほど血流速度は増加していた。又,運動回数10回では運動後15秒まで,運動回数30回では運動後30秒まで,運動回数50回では運動後1分までは運動前の血流速度よりも有意に高値を示し(p<0.05),運動回数が多いほど,増加した血流速度が維持される傾向となった。しかし,10回,30回,50回で増加した血流速度は運動後2分程度で,どの回数も運動前と有意差(p<0.05)が認められなかった。【考察】運動回数の違いに着目した今回の研究結果では,運動回数が多いほど運動直後の血流速度が増加しており,増加した血流速度は,その後,徐々に減少する傾向が確認された。これは下腿三頭筋の筋ポンプ作用の効果が影響していると推測された。筋ポンプ作用の効果において筋収縮が強いほど,又,貯留血液が多いほど,多くの血液が押し出されるという特徴があることから,運動回数の増加により筋収縮が強くなった為に,より多くの血液が押し出され血流速度が増加したと推測される。増加した血流速度が徐々に減少していった要因は,運動中とは異なり,運動後の筋では血管拡張が起きていた可能性があることや交感神経活動の低下に伴って末梢血管抵抗の減少が持続していた為と推測される。研究結果から運動回数の違いは,筋ポンプ作用の効果の違いになると推測できる。足関節底背屈運動により運動後の血流速度の増加や,増加した血流速度の維持を期待出来るが,その効果は予想よりも短い時間で収束することが1つの発見であった。臨床では制限なく運動を継続する事は不可能であり,様々な条件により足関節底背屈運動が出来ない場合も想定される。VTE予防を目的として足関節底背屈運動を実施する場合,運動回数の違いにより,筋ポンプ作用の効果に違いが生じることを踏まえて,大きく血流速度を増加させる回数で運動頻度を少なく設定する,或いは血流速度の増加が小さく少ない回数で運動頻度を多く設定するなど,足関節底背屈運動による血流速度の変化を予測しながら運動回数を設定する必要性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床において静脈還流の停滞や静脈のうっ滞を改善する目的で足関節底背屈運動を行う場合は運動回数が1つの指標になり得る可能性があると示唆された。
抄録全体を表示
-
~運動効果増大への可能性を探る~
大野 千種, 森木 貴司, 藤田 恭久, 木下 利喜生, 中村 健, 田島 文博
セッションID: 1321
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】長期安静臥床に伴う静脈還流量の増加は,心機能の著明な低下を引き起こす。一方,陽圧換気は,静脈還流量を減少させることが分かっている。我々はこれまでに仰臥位での人工呼吸器の呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure:PEEP)換気負荷により,僅かに静脈還流量減少を惹起させ起立性低血圧を予防・改善させる可能性を報告した。しかし,座位や立位などの抗重力姿勢において,すでに静脈還流量が減少した状況下での陽圧換気負荷が循環動態へ及ぼす影響は不明である。座位・立位において陽圧換気負荷を併用する事により,循環動態に更なる負荷をかける事が可能であれば,陽圧換気負荷をトレーニングに応用して,心機能の低下を予防・改善させる可能性がある。本研究の目的は重力負荷と陽圧換気負荷を併用した際の血圧(blood pressure:BP),心拍数(heart rate:HR),一回心拍出量(stroke volume:SV),心拍出量(cardiac output:CO)を測定し,循環動態への影響を明らかにすることである。【方法】対象は若年健常男性7名(年齢26.5±3.6歳,身長173.2±5.9cm,体重68±8.6kg)とした。重力負荷は座位,立位とし,陽圧換気負荷は,非侵襲的人工呼吸器(V60ベンチレータ フェイスマスク:フィリップス・レスピロニクス社製)を使用し,持続的なPEEP 12cmH
2Oとした。重力負荷のみ(重力負荷群)と重力・PEEPを併用した負荷(陽圧換気負荷群)の2群で測定を行った。プロトコールは仰臥位で十分な安静をとり,BP,HRの安定を確認した後,安静データを測定し(仰臥位5分),その後,2群ともに座位7分,立位7分と連続的に姿勢変換を行った。2群の測定は同一被験者とし,異なる日にそれぞれ行った。測定項目は,CO,SV,HR,BPとし,CO,SV,HRはCO計(メディセンス社製MCO-101)を用い,1秒毎に測定した。BPは1分毎に自動血圧計(TERMO製エレマーノ)で測定し,そこから平均血圧(mean blood pressure:MBP)を算出した。結果の解析は,安静,座位,立位のデータは,それぞれデータが安定化した最終1分間の平均を使用した。CO,SV,HR,MBPを安静データからの変化量(⊿)としてそれぞれ算出し,負荷条件の違いによる同一姿勢間で比較した。統計処理は,同一姿勢での群間比較を対応のあるt検定で行い,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および書面で被験者に実験の目的,方法および危険性を十分説明し,同意を得て行った。【結果】⊿SVは,座位時では重力負荷群-29.2±19.3ml,陽圧換気負荷群-40.2±18.4ml(p<0.05),立位時では重力負荷群-39.8±18.9ml,陽圧換気負荷群-50.1±15.9ml(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な減少を認めた。⊿HRは,座位時では重力負荷群9.0±4.5bpm,陽圧換気負荷群12.6±4.4bpm(p<0.01),立位時では重力負荷群20.7±2.9bpm,陽圧換気負荷群27.2±4.3bpm(p<0.01)となり,座位・立位時ともに重力負荷群と比較し陽圧換気負荷群で有意な上昇を認めた。⊿MBPおよび⊿COには有意差は認められなかった。【考察】今回の結果,⊿SVはより減少し,⊿HRはより上昇することが分かった。⊿SVが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意な減少を認めたことに関して,SVの増減には静脈還流量の変化が関与すると言われている。今回,陽圧換気負荷により胸腔内圧が陽圧となったと考えられ,本来の陰圧呼吸の圧較差による静脈血を引き上げる呼吸ポンプ作用の減弱や肺血管抵抗上昇がSVを減少させた要因と考えられた。⊿HRが座位・立位時の陽圧換気負荷群で有意に高値であったのは,SVがより減少したことで圧受容器反射が惹起され代償的にHRが上昇したと考えられた。その結果,COを維持し,BPが保たれたと推察される。重力負荷と陽圧換気負荷(PEEP 12cmH
2O)を併用することにより循環動態に更なる負荷をかける事ができた。すなわち,静脈還流量減少をHR上昇で補うために心仕事量が増大し,同様の運動負荷量であっても心機能の向上が期待できる。一方,BPへの影響がなかったことから重力負荷と陽圧換気負荷の併用は安全面においても問題はないと考えられた。これらの結果より,運動効果を向上させる目的で陽圧換気負荷を利用できる可能性が明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】陽圧換気負荷は,循環動態に負荷をかける方法として効率的でかつ安全な方法であり,運動時に陽圧換気負荷を併用することにより心機能の向上を促進させる可能性が示唆された。
抄録全体を表示
-
木下 利喜生, 芝崎 学, 森木 貴司, 橋崎 孝賢, 幸田 剣, 中村 健, 田島 文博
セッションID: 1322
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】リハビリテーションの課題の1つに,社会復帰を果たした障害者の健康維持増進があげられる。生活習慣病対策のためには身体活動量・運動量を確保するための運動習慣獲得が重要とされている。車いすを用いた障害者では,その運動習慣獲得が困難であるため,我々は障害者のスポーツ参加の推進が急務であると考えている。体育館やスポーツ競技場などは環境温度の設定が困難であり,夏場などでは強い暑熱環境下に曝されることになる。我々は温度や湿度のような環境条件の違いによる身体への影響を理解しておくこともリスクを回避するうえで重要である。これまで健常者を対象とした暑熱負荷時の循環応答に関する報告は散見されるが,頚髄損傷者を対象とした報告はない。今回,頚髄損傷者を対象に,水循環服を使用した暑熱負荷時の循環応答の測定を行い,健常者と比較することで若干の知見を得たので報告する。【方法】被検者はASIA分類Aの頚髄損傷者9名と,コントロール群として健常男性10名とした。プロトコールは実験室に到着後,深部体温である食道温測定用の食道温センサーを経鼻的に挿入し,心電図電極を貼付した後,33℃の温水を循環した水循環服を着用した。背臥位で30分以上の安静の後,暑熱負荷として,深部体温が1℃上昇するまで50℃の温水を循環した。測定項目は血圧,心拍出量,一回心拍出量,心拍数とし,血圧は連続血圧計Portapres(Finapres Medical Systems),心拍数はベッドサイドモニターBSM-2401(NIHON KOUDEN),心拍出量は呼気ガス分析装置ARCO-2000(ARCO SYSTEM)を用いて炭酸ガス再呼吸法で測定した。一回心拍出量は,心拍出量を心拍数で除して算出した。心拍出量は暑熱負荷前および暑熱負荷終了直前に測定し,血圧および心拍数も炭酸ガス再呼吸法実施直前の1分間の平均値を使用した。なお血圧については平均血圧を使用した。また安静時に有意差が生じた項目は⊿値も算出し検討した。統計は群間の比較にはANOVAを行いpost hocテストしてTukey-Kramerを使用した。また各群の暑熱負荷前後の比較にはT-testを実施した。【倫理的配慮,説明と同意】県立医科大学倫理委員会の承認を得た上で,口頭および紙面で説明し,同意を得て実験を行った。【結果】健常者の平均血圧は,暑熱負荷中に変化を示さなかったが,頚髄損傷者では暑熱負荷によって有意な上昇が認められた。心拍出量は両群で暑熱負荷により有意に上昇し,群間比較では安静時,暑熱負荷後とも頚髄損傷者が健常者よりも有意に低値であった。また心拍出量の⊿値での比較においては頚髄損傷者が健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。一回心拍出量は両群ともに暑熱負荷による変化は生じず,群間比較においても有意差は認められなかった。心拍数は両群ともに暑熱負荷において有意な上昇を認めた。また安静時の群間比較では有意差はなかったが,頚髄損傷者は健常者よりも暑熱負荷による上昇反応が有意に抑制されていた。【考察】人が暑熱ストレスに暴露されると,深部体温の上昇に伴って交感神経活動は上昇し,迷走神経反射は減少するため心拍数は増加する。熱放散のために皮膚血管が能動的に拡張し,総末梢血管抵抗は低下,静脈還流量も減少する。しかし一回心拍出量は交感神経亢進による心収縮力増加によって維持されるため心拍出量は増加する。このため,健常者では血圧は維持されると考えられており,今回も健常者において血圧低下は起こらなかった。頚髄損傷者では,暑熱負荷時の心拍数,心拍出量ともに上昇したが,健常者に比べ低値を示した。頚髄損傷者では,心臓交感神経障害により心収縮力は増大できず,心拍数上昇応答は迷走神経活動の抑制に依存するため,健常者に比べ上昇反応が低く,心拍出量の増加量も少なかったと考えられる。しかし,心拍出量の増加量が少なかったにも関わらず血圧は有意な上昇を認めた。頚髄損傷者では皮膚交感神経障害により臓器などの血流量低下もほとんどないと思われるが,健常者のような暑熱暴露時の総末梢血管抵抗を大きく低下させる能動的な皮膚血管の拡張が生じず,さらに総血管床の低下などによって,僅かな心拍出量の上昇でも血圧上昇を引き起こした可能性が考えられる。また暑熱負荷時においても血圧変動は圧受容器反射によって制御されるが,交感神経障害がこれらに影響した可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】暑熱環境下において,頚髄損傷者は体温調整に気を配られているが,今回の結果,深部体温が上昇すると,頚髄損傷者の血圧上昇にも留意する必要性が示唆された。
抄録全体を表示
-
塚越 累, 建内 宏重, 福元 喜啓, 沖田 祐介, 秋山 治彦, 宗 和隆, 黒田 隆, 市橋 則明
セッションID: 1323
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】起立動作は運動機能不全により障害されやすい動作のひとつである。床反力計を用いた研究から,人工股関節置換術(以下,THA)患者では立位や歩行の非対称性に比べて,起立動作の非対称性が顕著であることが報告されている(Talis VL, 2008)。しかし,これまでTHA患者の起立動作を運動力学的に分析した報告は少なく,各関節にかかる負荷の不均衡は明らかではない。本研究では,THA患者と健常者の起立動作を分析し,THA患者の下肢関節における運動力学的非対称性を明らかにし,筋力との関連を検討することを目的とした。【方法】対象は変形性股関節症により片側THAを施行した女性35名(THA群,術後期間49.3±38.7ヶ月,年齢:61.9±7.7歳)および健常女性23名(健常群,年齢:60.9±5.6歳)とした。THA群の術側股関節以外には疼痛や可動域制限を認めなかった。対象者の体幹および両下肢の25箇所に反射マーカーを貼付し,通常速度での椅子からの起立動作を三次元動作解析装置(カメラ7台,sampling rate 200Hz)と2台の床反力計(sampling rate 1000Hz)で記録した。椅子の座面高は40cm,開始肢位での下腿傾斜は鉛直に対して15°とした。胸部マーカーの前方移動の開始時から股関節最大伸展時を解析区間として,股・膝・足関節の関節角度,モーメント,パワーおよびサポートモーメント(股・膝関節の内的伸展モーメントと足関節内的底屈モーメントの和)を算出した。課題の試行回数は3回とし,平均値を解析に使用した。また,筋力測定器を使用してTHA群の両側股・膝関節の最大等尺性伸展筋力を2回測定し,最大値を採用した。統計分析では,t検定を使用して対象者の属性と起立動作所要時間を両群で比較した。起立動作の解析項目について,THA群の術側と非術側,健常群の左右の平均値を一元配置分散分析および事後検定を使用して比較した。さらに,THA群の股関節と膝関節について,起立動作時の最大伸展モーメントと等尺性伸展筋力の術側・非術側比を算出し,それぞれ相関係数を求めた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には研究内容を十分に説明し,参加の同意を得た。【結果】対象者の年齢,身長,体重および起立動作所要時間は両群で有意な差はなかった。起立動作時の股関節最大屈曲角度は,健常群に比べてTHA群の両側とも有意に低かった。股関節最大内的伸展モーメントと最大伸展筋パワーは共にTHA術側が非術側と健常群に比べて有意に低く,非術側と健常群では差はなかった(モーメント;健常群0.51±0.11Nm/kg,THA術側0.41±0.10Nm/kg,非術側0.53±0.19Nm/kg)。健常群とTHA術側・非術側において膝関節最大屈曲角度には差はなかったが,膝関節内的伸展モーメントと膝関節伸展筋パワーの最大値は共にTHA非術側,健常群,THA術側の順に有意に高かった(モーメント;健常群0.60±0.15Nm/kg,THA術側0.51±0.14Nm/kg,非術側0.72±0.19Nm/kg)。足関節では,角度とパワーには健常群とTHA術側・非術側に有意な差はなかったが,最大内的底屈モーメントは健常群がTHA術側よりも有意に高かった。サポートモーメントの最大値は,THA非術側がTHA術側・健常群と比べて有意に高く,さらに健常群はTHA術側に比べて有意に高かった(健常群1.21±0.18Nm/kg,THA術側1.02±0.20Nm/kg,非術側1.37±0.28Nm/kg)。THA群の起立動作時の伸展モーメントと等尺性伸展筋力の術側・非術側比の相関は,股関節r=0.41,膝関節r=0.30であり,股関節のみ有意な相関を認めた。【考察】サポートモーメントの最大値がTHA非術側,健常群,THA術側の順に有意に高かったことから,THA患者の起立動作は運動力学的に非対称であり,非術側へ大きく依存していることが明らかとなった。股関節内的伸展モーメント・伸展筋パワーはTHA術側が有意に低下しているものの非術側と健常群には差はなく,非術側股関節への過負荷は避けられていると考えられる。一方で,膝関節においてはモーメント・パワーともに非術側が健常群や術側よりも有意に高く,術側は健常群よりも低かったことから,非術側膝関節への依存度が高いことが明らかとなった。THA患者では,術側膝関節に比べて非術側膝関節に変形性膝関節症を発症する割合が高いとされており(Umeda N, 2009),本研究の結果から起立動作時の非術側膝関節への過負荷がその要因の一つであることが示唆された。また,THA群における膝関節の動作時伸展モーメントと等尺性伸展筋力の術側・非術側比の相関が低かったことから,筋力の不均衡に関係なく非術側膝関節の負荷が高いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果はTHA患者の異常運動パターンの理解を深め,理学療法治療の一助となると考えられる。
抄録全体を表示
-
瞬間中心に着目して
西村 圭二, 南部 利明, 北村 淳, 後藤 公志, 杉本 正幸, 山﨑 敦
セッションID: 1324
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】変形性股関節症患者の歩行では,立脚中期から後期において股関節伸展に伴う腰椎の代償を生じる場合があることを臨床上経験する。この原因として,股関節伸展可動域の制限,殿筋の筋力低下,下部体幹筋の安定性低下が挙げられる。代償軽減を目的とした運動の一つに,腹臥位での股関節自動伸展がある。この際の運動軸位置について瞬間中心に着目し検討した先行研究において,健常成人では下部体幹筋の収縮により腹臥位での股関節自動伸展運動軸が解剖学的な股関節運動軸に近づくことを報告した。そこで今回は,人工股関節全置換術(以下THA)後患者の股関節自動伸展運動軸について検討したので報告する。【方法】対象は変形性股関節症によりTHAを施行した術後3週間後の患者10名(平均年齢64.6±11.1歳)で,術側を計測肢(10肢)とした。日本整形外科学会が定める改訂関節可動域表示ならびに測定法に準じて股関節伸展可動域を他動にて測定し,可動域が8°以上であり(10.1±2.1°),徒手筋力検査では大殿筋の筋力が4以上である者(4.5±0.5)とした。計測肢位は,大腿外側部にマーカーを任意に2個と大転子の頭側に1個取り付けた矢状面における腹臥位とし,一側股関節自動伸展を任意の状態および下部体幹筋収縮状態で各々実施し,デジタルビデオカメラ(SONY社製)にて撮影した。計測前に3回練習を行った。下部体幹筋の収縮は骨盤底筋の収縮に伴う腹横筋の活動を検者が触診にて確認し指導した。撮影動画より,股関節自動伸展における瞬間中心(運動軸)を求めた。2個のマーカーの各々の始点と終点を結ぶ線の垂直二等分線が直交する点をDartFish Software(ダートフィッシュジャパン)にてパソコン上で求め,大転子の頭側のマーカー(解剖学的な股関節運動軸)と瞬間中心との距離を比較した。距離は座標として左右方向(X)と上下方向(Y),実際距離を絶対値として算出した。統計処理は対応のあるt検定を用い,危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて十分に説明し同意を得た。【結果】Xは任意38.5±14.0cm,下部体幹筋収縮29.5±15.8cmと減少した(p<0.01)。Yは任意4.4±3.4cm,下部体幹筋収縮4.2±3.5cmと減少したが有意差はなかった。実際距離は任意38.9±14.0cm,下部体幹筋収縮30.1±15.8cmと減少した(p<0.01)。【考察】先行研究と同様に,THA後患者においても下部体幹筋収縮により股関節自動伸展の運動軸が解剖学的な位置に近づくことが本研究にて明らかとなった。任意で股関節自動伸展すると可動域や筋力が改善傾向であっても術前の運動パターンが残存しているため,骨盤前傾および腰椎前弯増強や下部体幹の回旋にて股関節伸展を代償する傾向が見受けられた。これにより運動軸は股関節よりも頭側方向に偏位したといえる。これに対し下部体幹筋を収縮すると,腹腔内圧が高まり腰椎および骨盤帯の安定化作用が得られ,腰椎および骨盤の代償を抑制することができ,より解剖学的な股関節運動軸に近い位置での運動が可能になったことが推察される。しかし,術後3週間後(退院時)であり短期間の介入であるため,股関節伸展可動域や股関節周囲筋力,下部体幹筋力の改善が十分ではないことから,運動軸は先行研究の健常成人よりも頭側に位置していたと考える。以上のことから,股関節伸展可動域および筋力の獲得は当然であるが,下部体幹筋のトレーニングも実施することで腰椎および骨盤による代償を抑制でき,歩容改善一助となる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】股関節疾患は不良姿勢を伴うことが多く,手術を施行しても術前の歩行パターンを改善するのに時間を要する。特に変形性股関節症ではTHA後に理学療法を実施し,疼痛や可動域,筋力は改善しても立脚中期から後期における股関節伸展を腰椎および骨盤にて代償する症例を臨床上経験する。この場合,歩行における股関節伸展の運動軸が胸腰椎部付近に位置していることが示唆される。腰椎骨盤による代償を抑制するために,患者自身が自主トレーニングとして容易に行える方法の一つとして腹臥位での股関節自動伸展が挙げられる。本研究の結果から,任意の運動では代償をさらに助長してしまう可能性が考えられるため,セラピストが下部体幹筋の収縮方法を十分に指導し,腰椎および骨盤の安定化が得られた状態で股関節運動を行うことが,より正確且つ効果的な運動に繋がり,歩容改善の一助となるといえる。
抄録全体を表示
-
永渕 輝佳, 中田 活也, 玉木 彰, 永井 宏達, 永冨 孝幸, 木村 恵理子, 濱田 浩志, 二宮 晴夫
セッションID: 1325
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】私達は第48回日本理学療法学術大会において筋温存型MIS-THAであるanterolateral-supine approach(AL-S)と筋切離型MIS-THAであるposterolateral approach(PA)の進入法の違いによって股関節外転,伸展,外旋の筋力回復はAL-Sのほうが早いことを報告した。また,Gremeaux(2008年)らは,THA術後の筋力回復において大腿四頭筋と下腿三頭筋へ低周波を行うことによって,膝伸展筋力の改善があると報告しているが,股関節周囲筋への電気刺激による筋力への影響を検討した報告はみられない。そこで今回,THA術後早期の下肢への電気刺激(Electric muscle stimulation:EMS)が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすること目的に検討を行った。【方法】当院において変形性股関節症(股OA)を原因疾患として初回片側THAの施行症例で脱臼度Crowe分類III度以上の股OA,非手術側が有痛性の股関節疾患を罹患している者を除外した70例を対象とした(全例女性・平均年齢63.0±7.6歳)。これらの内訳は,AL-S群32例(62.8±7.2歳),PA群32例(63.0±8.2歳),PAの電気刺激群(EMS-PA)6例(60.8±5.5歳)であった。身長,体重,BMI,手術時年齢は3群間に統計学的有意差は認めなかった。手術はすべて同一の術者が行い,術後は3群ともに同一のクリニカルパスを使用し,術翌日より理学療法士による関節可動域練習,筋力増強練習,歩行練習,ADL練習を実施した。EMS-PA群においては手術側の大殿筋に対して術後3日目より週5日を3週間行った。電気刺激の周波数20Hz,肢位はベッド上背臥位とし,関節の動きを含まないような収縮を20分間行い,不快感や痛みを訴えた場合は中止した。電気刺激装置はホーマーイオン社製オートテンズプロIIIを使用した。検討項目は股関節外転,屈曲,伸展,外旋,内旋,膝関節伸展,屈曲筋力とし,術前,術後10日(10D),21日(21D),2カ月目(2M)に測定した。筋力測定にはHand-Held Dynamometerを使用し,同一の検者によって行い,得られた値からトルク体重比(Nm/Kg)を算出した。達成度は手術日からのStraight Leg Raiseが可能,片脚立位(SLS)が可能,杖自立,独歩自立になるまでの日数を調査した。統計学的検討は筋力推移の比較には分割プロット分散分析3×4,進入法(AL-SとPA,EMS-PA)×時期(術前,10D,21D,2M)を行った。術前に有意差を認めた項目は共分散分析を行い,交互作用を認めた項目は多重比較検定を行った。達成度の検討は一元配置分散分析を用い,有意差を認めた項目は多重比較検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会による承認を受けた上で実施した。全対象者に対し,事前に十分な説明を行い,研究参加への同意と同意書への署名を得た。【結果】筋力推移の比較では股関節外転(
p<0.01)屈曲(
p<0.05)外旋(
p<0.01)伸展(
p<0.01)筋力において進入法と時期の要因間に交互作用が認められた。各時期の3群間の比較では股関節外転は術後10DではAL-SがPAより高く,21D,2MではAL-S,EMS-PAがPAより高かった。股関節外旋は術後10DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,EMS-PAがPAより高かった。21DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,2MではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。伸展は10DではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。達成度は,SLS可能日数,杖歩行自立までの日数は3群間に有意差が認められ,両項目ともにAL-S群がPA群より有意に早かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。EMSは全例,途中で中止することなく行えた。【考察】電気刺激療法の効果としては筋機能の改善,疼痛緩和,組織修復促進,血管新生,血管透過性の促進などが報告されている。Simon(1990年)らは大殿筋への電気刺激により臀部の血流が増加したと報告しており,今回の電気刺激の強度,頻度から考えると大殿筋に関与している股関節伸展や外旋筋力がPAに比べ回復していたのは,電気刺激により血流増加による疼痛緩和や動員される運動単位の増加,type2繊維の筋収縮を促すことが筋機能の向上に繋がったのではないかと考える。外転筋力に関しては,短外旋筋は関節の後方安定性に寄与していると言われており,EMS-PAがPAより外旋筋力が高かったことからEMS-PAの股関節の安定性が向上し外転筋力が改善したのではないかと考える。本研究の結果より,THA後の電気刺激は安全に行うことができ,術後の筋力回復に有用であることが示された。【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の下肢への電気刺激が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすることで,術後早期のリハビリテーションにおける個別プログラム立案の一助になると考えられる。
抄録全体を表示
-
鐘司 朋子, 板垣 仁, 相澤 孝一郎, 品田 良之, 飯田 哲, 鈴木 千穂, 江口 和
セッションID: 1326
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】変形性股関節症における腰痛は,MacNabらによりhip-spine syndromeにおけるsecondary hip-spine syndromeに分類されている。前回当学会において,secondary hip-spine syndromeにおける腰痛に対する人工股関節全置換術(THA)施行と術後の理学療法の影響を考察したが,今回は症例を年齢別にわけて,THA施行と術後の理学療法の腰痛に及ぼす影響が年齢によってどのように違うかを検討した。【方法】当院整形外科において2011年6月から11月にかけてTHAを施行した女性の変形性股関節症患者44名中,65歳未満の26人(45~64歳)をA群,65歳以上の18人(65~78歳)をB群とした。なお男性,リウマチ疾患,脊椎疾患にて下肢のしびれ等の神経症状がある者,ブロック注射や脊椎手術の既往がある者,研究に同意のない例は除外とした。対象症例に対し身体情報(身長,体重,BMI)の比較,および術前,退院時,術後3カ月,術後6カ月に腰痛Visual Analog Scale(VAS),関節可動域(ROM)で股関節屈曲+伸展角度と内転+外転角度,筋力(股関節屈曲Nm/kg 外転Nm/kg)を測定し2群それぞれで経過を検討した。また術前と術後最終観察時(平均観察期間129.5±51.6日)に医師の指示にて放射線技師がX線撮影した立位正面と側面像から,骨盤の矢状面での前後傾斜角を土井口らの方法にて算出した。また腰椎前弯角として第1腰椎上縁と仙骨上縁が成す角度,冠状面の水平骨盤傾斜角として左右の腸骨稜の上縁を結んだ線と水平線との角度,腰椎側弯角として第1腰椎上縁と第5腰椎下縁の成す角度をそれぞれ測定し,A群B群それぞれで術前後での比較を行った。統計学的分析は,術前,退院時,術後3カ月,6カ月の経過の検討に1元配置分散分析,身体情報と術前後の比較にt検定を用いた。1元配置分散分析にはp<0.01,t検定にはp<0.05を統計学的有意水準とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対しては研究の趣旨を説明し,同意を得た。【結果】身体情報において身長はA群153.4±5.9 cm,B群149.7±6.1 cmとなりA群が有意に高かった。術前/退院時/術後3カ月/術後6カ月の経過においてA群の腰痛VASは2.4±2.5cm/0.5±0.7cm/1.3±1.9cm/0.7±1.5cmとなり,有意な改善が見られたが,B群に改善は見られなかった。股関節屈曲+伸展角度はA群では78.0±16.7度/90.2±11.4度/93.7±11.7度/99.3±8.3度となり有意な改善があったが,B群では改善は見られなかった。股関節外転+内転角度,股関節屈曲筋力,股関節外転筋力では両群とも有意な改善が認められた。骨盤の前後傾斜角は術前/術後でA群で21.6±6.5度/25.9±5.7度,B群で27.8±12.8度/29.2±12.9度,腰椎前弯角は術前/術後でA群で42.7±13.3度/41.8±13.7度,B群で47.0±20.2度/42.9±18.7度,冠状面での水平骨盤傾斜角は術前/術後でA群3.0±2.3度/1.7±1.3度,B群2.7±2.2度/2.0±2.1度,腰椎側弯角は術前/術後でA群5.6±4.1度/2.8±2.0度,B群7.1±5.0度/5.1±4.4度となり,骨盤前後傾斜角,骨盤水平傾斜角,腰椎側弯角ともA群は有意に改善したがB群に改善は見られなかった。腰椎前弯角は両群とも術前後で有意な改善は見られなかった。【考察】前回発表において,secondary hip-spine syndromeに関連すると思われる腰痛は,THA施行と術後の理学療法によりROMや腰仙部アライメントの改善と並行して回復があったと推察されたが,今回の検討では加齢により腰痛回復に差があると確認された。加齢の影響により身長差に影響する可能性があるほど脊柱に不可逆的な変化が起こっているとすると,THA施行と術後の理学療法により股関節内外転ROMや筋力の回復が見られていても腰仙部アライメントや股関節屈曲拘縮の改善が困難になり,これが高齢者においてTHA施行後も腰痛が残存するという結果になった一因と思われる。また腰椎前弯角に両群とも改善が見られなかったことから,矢状面での骨盤前後傾角度の回復影響はあるものの,腰痛回復には脊椎の冠状面での側弯角度の回復の影響が強い可能性が示唆された。THA施行患者の理学療法としては,高齢者は術前からの腰仙部アライメント評価も考慮に入れ,術後の積極的な可動域へのアプローチと,特に両側罹患例や早期退院例に対しては生活指導や脚長差への補高などの配慮で,腰痛予防も検討されていくべきだということが示唆された。【理学療法学研究としての意義】THA施行例におけるsecondary hip-spine syndromeに起因する腰痛の回復に年齢が一因するという結果は,THA施行患者の術後の生活や満足度に影響する因子として考えられ,術後の理学療法介入の一つの視点として重要になってくると思われる。
抄録全体を表示
-
重田 美和, 増田 洋子, 関口 由紀, 畔越 陽子
セッションID: 1327
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】女性性機能障害(Female Sexual Dysfunction;以下FSD)は,第2回国際性医学国際会議により「性的欲求や興味の障害」,「性的興奮障害」,「オルガズム障害」,「ワギニスムス(腟痙攣)」,「性交疼痛障害」,「性嫌悪障害」に分類されており,その中でもワギニスムスと性交疼痛障害(以下性交痛)は苦痛が大きく,受診動機となりやすい。また,性機能障害は男性に比較し有意に女性に多く,性交痛は男性の4倍以上であることが報告されている(Laumann et al.1999)。ワギニスムスや性交痛の原因は,腟潤滑液の減少,腟の不随意収縮(骨盤底筋群のスパズム),骨盤底筋群のうっ血や慢性的緊張である。先行研究では,理学療法介入により性交痛を有する女性の71%で疼痛が半分以下に軽減,62%で性生活の改善,50%で全体的なQOLが向上したとの報告がある(D.Hartmann et al.2001)。当院の女性泌尿器科ではFSDの治療として理学療法が重要な役割を担っている。しかし,本邦ではFSDに対する理学療法は周知されていないのが現状である。そこで今回は,当院のFSD患者数の推移を調査することと,FSDに対する骨盤底トレーニング中心の理学療法効果について検討することを目的とした。【方法】2006年4月から2013年3月までの7年間に,当院女性泌尿器科を受診したFSD患者と骨盤底トレーニングを受けたFSD患者を対象に,患者数の推移をカルテから後ろ向きにデータ分析した。また,2011年4月から2013年3月の2年間に骨盤底トレーニングを受け,質問票に対する回答の同意と全項目回答を得られたFSD患者11名(平均年齢39.8±10.3歳)を対象に,①Female Sexual Function Index(以下FSFI)日本語版,②Visual Analog Scale(以下VAS),③骨盤底筋群筋力測定(Oxford Grading System:以下OS)④自由回答形式の質問票を初期評価と最終評価で実施,比較検討した。介入内容は,transvaginal palpation(経腟触診)または腟ダイレーター(腟挿入練習として使用する棒状のプラスチック製品器具で4段階の太さがある)を使用し性交痛に対する系統的脱感作療法,骨盤底のマッサージとストレッチング,骨盤底筋群の随意運動および協調運動の学習が主であり,これを月に1回のペースで施行した。また,次の来院までに自宅で行うトレーニングプログラムを指導した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の内容を十分に説明した上,同意が得られた者を対象とした。【結果】骨盤底トレーニングを受けたFSD患者は,1年目6人,2年目4人,3年目4人,4年目9人,5年目16人,6年目32人,7年目26人であった。FSFI合計点は指導前平均12.4±9.9,指導後平均23.3±5.9で,「性欲」,「性的興奮」,「腟潤滑」,「オルガズム」,「性的満足」,「性的疼痛」の6つ全てのドメインで初期評価に比較し最終評価では有意に高値(改善)を示した。疼痛評価のVASは指導前平均94.6±3.2,指導後平均41.8±25.0で,初期評価に比較し最終評価で有意に低値(改善)を示した。骨盤底筋群筋力評価のOSは指導前平均2.4±1.1,指導後平均3.8±0.7で,初期評価に比較し最終評価で有意に高値(筋力向上)を示した。自由回答形式による質問では,「精神的にも楽になった」などの意見が多数を占めた。【考察】FSDで受診する患者は年々増加傾向であるが,治療対象となることが十分に周知されているとは言い難く,潜在的FSD患者は多数存在することが推測される。今後積極的な情報提供が必要であると考える。性交痛とワギニスムスはFSDの各症状に影響を与えるとされており,これに対する理学療法介入がFSFI全てのドメインスコアに有意な改善をもたらしたと考えられる。骨盤底筋群の筋力および随意的コントロールが向上したことで筋弛緩効果をもたらし,性交痛の改善に繋がったと推察された。また,骨盤底トレーニングのみならず,問診での十分なカウンセリング,生活習慣の見直しや,自宅での系統的脱感作療法の指導などが性に対する恐怖の脱感作を導き,良好な結果に繋がったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】骨盤底トレーニングは,骨盤底機能不全によって女性に特異的に起る様々な症状が対象となり得るものであり,FSDに対しても有効な治療手段の1つであることが示唆された。今後本邦においても理学療法分野として発展させていく必要がある。
抄録全体を表示
-
平川 倫恵, 三輪 好生, 清水 幸子, 野村 昌良
セッションID: 1328
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】膣から膀胱,子宮,直腸などの骨盤内にある臓器が突出する骨盤臓器脱は女性の生活の質を著しく低下させる疾患であり,出産経験のある女性の44%が骨盤臓器脱の症状を有すると報告されている。骨盤臓器脱に対する治療方法の第一選択肢は骨盤底筋群の筋力増強により症状の改善を図る骨盤底筋体操を主とした理学療法であり,近年その有効性が報告されているが,骨盤臓器脱に対する理学療法は本邦においては保険診療の適応となっていないため普及がすすんでいないのが実情である。一方で,ポリプロピレンメッシュを用いたtransvaginal mesh(TVM)手術は本邦においても2010年に保険診療の適応となり,近年急速に普及がすすんでいる。先行研究において骨盤臓器脱患者は高頻度に尿失禁を伴うことが明らかになっているが,尿失禁の種類や重症度がTVM手術の術前後にどのように変化するのか経時的に検討した報告は少ない。そこで本研究ではTVM手術前後における尿失禁の種類や重症度の経時的変化を調査することとした。【方法】対象は当院ウロギネコロジーセンターにおいて2011年11月から2012年7月までの間にTVM手術を施行した骨盤臓器脱患者105例であった。このうちTVM手術に尿失禁手術を併用した6例,術後1年以内に追加で尿失禁手術を施行した5例は解析から除外した。平均年齢は67.9歳,平均出産回数は2.2回,平均body mass indexは24.7であった。尿失禁疾患特異的質問票であるInternational Consultation on Incontinence questionnaire-short form(ICIQ-SF)を用いて,術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における尿失禁の種類や重症度の変化を経時的に調査した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り患者のプライバシーに十分配慮した上で後方視的に実施した。本研究は後方視的研究であり,すでに治療を終了した患者の既存資料のみを用いるものであり,患者に対する直接的な危険性や不利益はない。研究データは連結可能匿名化により厳重に管理し,患者個人のプライバシーが確保されるよう十分配慮した。【結果】術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における尿失禁全体の罹患率はそれぞれ75%,55%,65%,67%であり,術前と比較して術後2か月において尿失禁全体の罹患率は有意に減少した(
P=0.003)。尿失禁の種類別に検討すると,術前,術後2か月,術後6か月および術後1年における腹圧性尿失禁の罹患率はそれぞれ41%,28%,47%,48%であり,術前と比較して術後2か月において一過性に減少し,術後6か月,術後1年において再び増加する傾向を示した。一方,切迫性尿失禁の罹患率はそれぞれ47%,23%,16%,23%であり,術前と比較して術後2か月,術後6か月および術後1年において有意に減少した(
P=0.0008,
P<0.0001,
P=0.0008)。さらに,重症度の変化について着目すると,術後1年において腹圧性尿失禁を呈しているもののうちの47%が症状の増悪を示した。一方,術後1年において切迫性尿失禁を呈しているもののうちの多くは症状が改善する傾向を示し,症状の増悪を示したのは32%であった。【考察】TVM術後において尿失禁は高頻度に残存した。術前と比較し術後において切迫性尿失禁の罹患率は減少し,重症度は軽減される傾向を示した。このことには術後に膀胱や尿道の解剖学的な位置が改善されたことが寄与しているものと推察された。一方,腹圧性尿失禁の罹患率は術後2か月において一過性に減少するものの,その後再び増加する傾向を示した。このことは術後一過性に身体活動量が低下することが関連しているものと推測された。また,術後1年において腹圧性尿失禁を呈するものの約半数が術前と比較し重症度が増悪する傾向にあった。腹圧性尿失禁に対する理学療法の有効性は先行研究において既に明らかになっており,治療の第一選択肢として推奨されている。今後はTVM手術前後における理学療法が術後の尿失禁を改善させるか検証していく必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】骨盤臓器脱手術前後における尿失禁の種類や重症度の経時的変化を調査し,術後に多くの患者が尿失禁を呈している現状を明らかにすることで,理学療法の新たなニーズを提示することができるものと考える。
抄録全体を表示
-
―健常女性に対する開運動鎖分節コントロールの呼気負荷強度について―
小松 みゆき, 玉木 彰, 日高 正巳, 川口 浩太郎
セッションID: 1329
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】妊娠期,腰痛を経験している女性は50~80%に及ぶ。そして,産後も症状が残存する場合,体幹筋機能不全が生じている可能性がある。分節安定性トレーニング(segmental stabilization training:以下SST)はこのような機能不全に対する運動療法として用いられ,難度は3段階に分類されている(SST1:局所的分節コントロール,SST2:閉運動鎖分節コントロール,SST3:開運動鎖分節コントロール)。先行研究では,正常な筋収縮パターンを学習する為,全ての段階で安静呼吸が用いられている。しかし,深層筋だけでなく多関節筋も機能するSST3では,無意識的な深層筋収縮維持が必要となる為,呼気負荷を用いる事でより深層筋収縮を得られるのではないかと考えた。そこで産後腰痛治療に応用する為の基礎的研究として,本研究ではSST3に最も適する呼気負荷強度を検討する事を目的とし体幹深層筋・表層筋の筋活動量を比較・検討した。【方法】対象は未産婦の健常女性25名(平均年齢20.8±1.4歳)とした。まず,各対象者の呼気負荷強度を設定する為,口腔内圧計(ミナト医科学社製Autospiro)にて最大呼気口腔内圧(Maximal Expiratory Pressure:以下PEmax)を測定した。運動課題は,背臥位(頚部・骨盤中間位)で両股関節70度屈曲位とし,左下肢は床面に接地したまま対側の踵を床面より約5cm挙上させ完全伸展した後元に戻す事とした(SST3)。事前に対象者の上前腸骨棘と腸骨稜の頂点をマーキングし骨盤中間位で課題を行う事を学習させ,課題中の骨盤位置をビデオにて確認した。上記課題を,安静呼吸と10,20,30%PEmaxの呼気負荷強度でそれぞれ実施し,課題中の腹横筋筋厚と腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量を測定した。筋厚及び筋活動の測定は体幹右側で行い,呼気終末期に統一した。また,メトロノームにて1課題3秒間とし十分な休息を設け3回ずつ測定した。腹横筋筋厚測定には超音波画像診断装置(GE Healthcare Japan社製LOGIQ Book XP,B-mode,10Hz)を使用した。測定部位は右中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とし,筋走行と垂直になる筋膜間の距離を計測した。腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋活動量は表面筋電計(U.S.A.社製Noraxon,サンプリング周波数1500Hz)を使用した。各筋の皮膚処理後,腹直筋は臍2~3cm外側で筋線維走行に平行に,外腹斜筋は第8肋骨外側下で筋線維走行に平行に,内腹斜筋は上前腸骨棘を結んだ線の2cm下方で水平に電極を設置した。そして,Danielsらの徒手筋力検査法5の筋活動を基準として正規化を行い,強度別課題の%EMGを求めた。筋厚測定の検者内信頼性は安静臥位と課題時の級内相関係数(Intraclass Correlation Coeffcient:以下ICC)を算出した。腹横筋筋厚では呼気負荷強度を要因とする1元配置分散分析を行い,筋電学的検討では腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋筋活動と呼気負荷強度を要因とする2元配置分散分析を行った。その後両者に多重比較検定(Tukey法)を実施した。統計解析はSPSSver22を使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮】本研究は本大学倫理審査委員会の承認を受け(第12020号),対象者には研究の主旨を十分に説明し,文書による同意を得て実施した。【結果】筋厚測定の検者内信頼性ICC(1,1)は,安静臥位0.97,課題運動時0.95であり高い信頼性を認めた。腹横筋筋厚変化は,安静呼吸3.31±0.6mm,10%PEmax 5.34±0.9mm,20%PEmax 5.96±0.9mm,30%PEmax 5.21±0.8mmであり,安静呼吸と10,20,30%間に有意な差を認めた(p<0.01)。また30%PEmaxは20%PEmaxに比べ有意に低値であった(P=0.016)。筋電学的検討では,腹直筋は各強度間に有意な差は認められず,外腹斜筋,内腹斜筋は安静呼吸と10,20,30%PEmax間に有意な差を認めた(p<0.01)。しかし10,20,30%PEmaxの間には全ての筋に有意差は認めなかった。【考察】筋電学的検討では10~30%PEmaxの体幹表層筋活動が一定であった事から強度による差異は認められなかった。しかし,腹横筋筋厚は30%PEmaxで減少した事から,対象者にとって過度な呼気強度となり,骨盤中間位保持を行う腹横筋収縮が困難であった事が考えられる。Sapsfordらは,低強度負荷によって体幹表層筋活動とは分離した腹横筋活動の増加を報告している事から,腹横筋が最も収縮し易い負荷強度を設定する必要がある。本研究の結果から,健常女性では10~20%PEmaxでの分節安定性トレーニングが体幹筋機能不全や産後腰痛への運動療法として最適ではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】分節的な深層筋収縮を獲得し段階的な治療を進めた後,10~20%呼気負荷を伴うトレーニングを行う事は,表層筋収縮を維持した上で深層筋収縮を増加させる事ができる為,より効果的な介入となる可能性が示唆された。
抄録全体を表示
-
藤縄 理, 菊本 東陽, 須永 康代, 内山 真理, 善生 まり子, 廣瀬 圭子, 荒木 智子, 松永 秀俊, 萱場 一則
セッションID: 1330
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】昨年の本学会において,住民主体で行った骨粗鬆症と転倒の予防教室の長期的効果について次のような結果を発表した。骨粗鬆症や転倒の予防に効果があるといわれている体力は全体で維持向上している項目が多く,低下や変動していた項目も高い値を維持していた。しかし,骨密度は長期的には年齢とともに低下していた。現在,骨粗鬆症予防には運動とともに,カルシウムの多いバランスのとれた食事が推奨されている。そこで今回の研究は,骨密度,体力,食事について,骨粗鬆症と転倒の予防教室(以下予防教室)に参加していて運動が習慣化されている住民と予防教室に参加していない一般住民を対象に調査分析して,今後の骨粗鬆症予防の一助とすることを目的とした。【方法】対象は平成24年に予防教室に参加していた住民(教室群)43名(平均年齢±SD;67.5±5.9歳),一般住民(一般群)44名(65.2±4.1歳)とした。身体特性として,身長,体重,アームスパンを測定した。骨密度は超音波法で踵骨の音響的評価値(OSI)を測定し,それから算出される若年成人平均値(YAM%)および同年齢平均値(同年齢%)を指標とした。体力は膝伸展筋力を簡易型の把持筋力計により,握力,上体起こし,長座位前屈,開眼片脚起立,10m障害物歩行,6分間歩行を文部科学省の新体力テスト(65歳~79歳対象)により,Time up and go test(TUG)を一般化している方法で測定した。栄養・食事はエクセル栄養君Ver.5対応の食物摂取頻度調査(FFQg Ver. 3.0)(吉村幸雄,2010)を用いて実施した。統計分析はIBM SPSS Statistics 21を用いて,教室群と一般群の骨密度と体力はt-検定を,栄養・食事についてはカイ2乗検定を行って比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,所属機関の倫理委員会の承認を得て(承認番号24005),測定時には文書と口頭で説明し,文書による同意書を得た。【結果】教室群と一般群を比較すると,年齢と身体特性に有意差はなかった。骨密度は,教室群と対照群でYAM%(平均±SD)78±8%と76±10%,同年齢%93±9%と90±12%で有意差はなかった。体力は下肢筋力が25±5kgと29±7kgと有意に一般群が優れていたが(p=0.004),上体起こし10±7回と7±6回(p=0.029),6分間歩行567±61mと499±50m(p=0.001),10m障害物歩行7.0±1.2秒と7.9±1.1秒(p=0.001),TUG5.9±0.7秒と6.3±0.9秒は有意に教室群が優れており,長座位前屈42±8cmと40±8cm,片脚起立103±28秒と96±38秒,握力26±4kgと27±4kgは有意差がなかった。栄養・食事調査では,両群とも食事バランスが悪く,栄養比率でも脂質,動物性タンパク質,飽和脂肪酸などの摂取が過剰であり,摂取エネルギー中の穀類エネルギー比は低かった。また,骨形成に重要なカルシウム摂取も不足している対象者が多かった。これらの分布はいずれもカイ2乗検定の結果,両群に有意差は生じなかった。【考察】骨密度は両群とも低下しており,有意差はなかったが教室群に比べて一般群はより低値の傾向があった。体力は膝伸展筋力では一般群が有意に優れていたが,上体起こし,6分間歩行,10m障害物歩行,TUGは教室群が有意に優れていた。教室の頻度は月1~2回なので,教室への参加だけではトレーニング効果はないと考えられる。教室では住民が主体となって運動の基本を体得し,続けるようにしている。教室の参加者は運動を習慣化させたため,一般群に比べて体力については優れていた項目が多かったと推察される。しかし,栄養・食事調査では,両群ともバランスの悪い食事,脂質・動物性タンパク質・飽和脂肪酸の過剰摂取,カルシウム不足が認められた。教室群では体力は良好な状態にもかかわらず,骨密度の減少が認められたのは,栄養の影響が大きいと考えられる。今後,骨粗鬆症予防の指導では運動だけでなく,栄養指導が重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】寝たきりの原因として,循環器疾患についで骨折や関節疾患が挙げられている。高齢社会において健康寿命を延ばすためには,骨粗鬆症と転倒を予防することが必要である。そのためには運動とカルシウムの多いバランスの良い食事をとること重要とされている。本研究は,骨粗鬆症と転倒の予防に,理学療法士が関与している運動指導によって体力を維持増強できることを示している。しかし,それだけでは不十分で,他職種と連携して栄養指導にも関わることで,骨粗鬆症予防に一層貢献できる可能性があることを示唆している。
抄録全体を表示
-
川本 晃平, 浦辺 幸夫, 白川 泰山, 小川 龍太郎, 松野 修三
セッションID: 1331
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】高齢者が健康増進や介護予防のために運動療法を継続して行うことは重要であり,これらを目的とした多種多様な健康器具や運動装置が開発され,広く普及している。筆者らは高齢者が自宅でも簡便に運動療法が実施できるように,ボールを専用のベルトで体幹に固定し,空気圧を用いて筋力トレーニングやストレッチングなどを行うことができる運動装置を考案した。この運動装置は(株)ミカサと広島大学ならびに広島大学発ベンチャー企業(株)スポーツ・リハビリテーション・システムが共同で製作し,「ひとこぶ楽だ」と名付けた(特許申請済)。本研究では,ひとこぶ楽だを用いた運動療法の介入により高齢者の運動機能が改善するか明らかにすることを目的とした。【方法】対象は現在,腰部に疼痛がみられず,慢性的な整形外科疾患を有する70歳以上の高齢者14名(男性2名,女性12名,平均年齢77.5±4.5歳)とした。対象をひとこぶ楽だを用いて運動療法を行う群(EX群)とコントロール群(C群)の2群に分けた。EX群は7名(男性1名,女性6名,平均年齢78.8±5.0歳),C群は7名(男性1名,女性6名,平均年齢76.2±4.0歳)であった。介入方法はEX群,C群とも通常実施している整形外科疾患に応じた運動療法を20分間,週2回,3ヶ月間行った。EX群は運動療法に加え,ひとこぶ楽だを使用した運動療法を実施した。ひとこぶ楽だを使用した運動療法は,ひとこぶ楽だ取扱説明書の基本トレーニング方法を参考に背筋トレーニング2種類,腹筋トレーニング2種類,体幹ストレッチング2種類の合計6種類のメニューを各対象の運動能力に見合った難易度で作成し,10分間で行えるものとした。運動療法は理学療法士の指導のもとで実施し,運動中には疼痛や極度の疲労が出現しないようにした。効果判定には体幹筋力の指標として伸展筋力,屈曲筋力をHHD(徒手筋力計モービィMT-100,酒井医療株式会社製)を用いて,遠藤ら(2012)の方法を参考に測定した。体幹伸展筋力は骨盤中間位で壁面を圧迫する方法,屈曲筋力は骨盤後傾位で徒手的に圧迫する方法にて3回測定し,平均値を求めた。柔軟性の指標として,上体反らしと指床間距離(FFD)を行った。上体反らしは対象に腹臥位をとらせ,骨盤を固定し,両側上肢にて他動的に体幹伸展運動を実施させ,下顎との距離を求めた。FFDは20cmの台に乗り,立位姿勢から膝伸展位にて反動をつけないようにゆっくりと体幹を前屈させ,最大前屈時の第三指先端から台上までの距離を採用した。統計学的分析は各群での検査項目について,介入前後の平均値の差の比較に対応のあるt検定を用い,各群間の改善率の比較には対応のないt検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象にはあらかじめ本研究の趣旨,および測定時のリスクを十分に説明したうえで同意を得た。本研究は,医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号MRH130002)。【結果】実施前後での各評価項目について,EX群では体幹伸展筋力,体幹屈曲筋力(p<0.01),上体反らし,FFD(p<0.05)で有意に改善がみられた。C群では体幹屈曲筋力,FFDのみ有意に改善がみられ(p<0.05),体幹伸展筋力,上体反らしでは変化がみられなかった。各群の改善率の比較では,特に体幹伸展筋力が有意に改善がみられた(p<0.01)。また体幹屈曲筋力,上体反らし,FFDにおいても改善がみられ(p<0.05),4項目全てにおいてEX群がC群に比べて有意に改善した。【考察】本研究では,ひとこぶ楽だを使用した運動療法の効果の有効性の検討を行った。EX群は週2回,3ヶ月間の介入によって体幹筋力および柔軟性の改善がみられた。その中でも特に体幹伸展筋力の改善がみられていた。ひとこぶ楽だを使用した体幹伸展運動時の腰部脊柱起立筋の筋活動量はウエイトタック式の背筋トレーニングマシン,トーソEXT/FLEX(酒井医療株式会社)の15kg負荷でのエクササイズとほぼ同等であることから(川本ら,2011),本研究で行ったひとこぶ楽だを使用した運動療法は高齢者が筋力を向上させるのに十分な負荷を与えることができたと考える。【理学療法学研究としての意義】ひとこぶ楽だは軽量なため持ち運びが可能であり,装着も容易であることから,病院やリハビリテーション施設のみでなく自宅でも簡便に運動療法を実施することが可能な装置である。トレーニングの種類も豊富に考えられ,筋力トレーニング,ストレッチング,バランストレーニングなど様々な効果が期待できる。このことから,高齢者の運動機能の維持および向上のための有用な手段の一つになり,理学療法士が運動療法を行うための新たなツールとして提案できる点で意義があると考える。
抄録全体を表示
-
―多施設共同研究―
北野 晃祐, 上出 直人, 浅川 孝司, 芝崎 伸彦, 笠原 良雄, 玉田 良樹, 菊地 豊, 寄本 恵輔, 米田 正樹, 渡邊 宏樹, 川 ...
セッションID: 1332
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する理学療法は,各病期に応じたプログラムが推奨される。しかし,本邦において希少性疾患であるALSの理学療法を多施設に亘り調査した報告はない。今回は,ALS患者に対する病期別理学療法の実態を多施設共同の後ろ向き調査により明らかにするとともに,理学療法プログラム実施に関連する要因を検討する。【方法】対象は,日本国内8施設において,過去10年間(2001-2011年)の間に理学療法が処方され,6カ月程度の追跡がなされたALS患者。診療録より収集した項目は,基本情報として年齢,性別,発症部位,罹患期間,気管切開の有無,Non-invasive Positive Pressure Ventilation(NPPV)使用の有無,球麻痺の有無を選択し,ADL評価として理学療法介入時のALS Functional Rating Scale-Revised(ALSFRS-R)の得点を選択した。また,理学療法プログラムは,ストレッチ,筋力運動,自転車エルゴメータ運動(エルゴ運動),起立・立位保持運動(起立運動),歩行運動や練習(歩行運動),ADL練習,呼吸理学療法,福祉用具導入それぞれの実施の有無を調査した。収集したデータはALSFRS-Rの合計点30点以上(軽度例)と30点未満(中等度~重度例)に分類し,各理学療法プログラム実施の有無と関連する要因をロジスティック回帰分析により分析した。統計学的処理はDr.SPSS II for Windowsを用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,各参加施設において倫理委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言を遵守し,個人が特定されることがないよう配慮した。また,研究の説明および異議申し立て方法を公告文として各参加施設で掲示した。【結果】6施設より350例(男性210例,女性140例)のデータを収集した。対象者は平均年齢が63.5±11.7歳,罹患期間が3.4±3.6年,91例が気管切開していた。発症部位は球麻痺が87例,上肢が140例,下肢が88例,呼吸筋が22例,不明が91例だった。NPPVは29例が使用していた。ALSFRS-Rの合計点数は28.3±14.5点だった。軽度例は202名で,理学療法プログラムの実施率が,ストレッチ98.5%,筋力運動54.5%,エルゴ運動31.7%,起立運動55.9%,歩行運動65.3%,ADL練習89.1%,呼吸理学療法99.0%,福祉用具導入52.5%だった。中等度~重度例は148例で,実施率が,ストレッチ98.6%,筋力運動44.9%,エルゴ運動6.8%,起立運動29.9%,歩行運動24.5%,ADL練習43.5%,呼吸理学療法93.2%,福祉用具導入34.0%だった。また,軽度例に対するプログラムは,エルゴ運動がALSFRS-R四肢(オッズ比1.09),起立運動が罹患期間(オッズ比1.25)とALSFRS-R四肢(オッズ比0.84),歩行運動が罹患期間(オッズ比1.60)とNPPV使用(オッズ比0.19),ADL練習が罹患期間(オッズ比2.05),福祉用具導入がNPPV使用(オッズ比10.52)で有意な関連を示した。中等度~重度例に対するプログラムは,筋力運動が罹患期間(オッズ比0.82)と気管切開有り(オッズ比0.91),起立運動が球麻痺有り(オッズ比0.04)とALSFRS-R四肢(オッズ比1.24)およびNPPV使用(オッズ比0.13),歩行運動がALSFRS-R四肢(オッズ比1.30),ADL練習が罹患期間(オッズ比0.70)とALSFRS-R四肢(オッズ比1.64)およびALSFRS-R呼吸(オッズ比2.23)で有意な関連を示した。【考察】ALS患者に対する理学療法は,エルゴ運動,起立運動,歩行運動,福祉用具導入が中等度~重度例に比べて軽度例で顕著に実施されていた。軽度例に対する理学療法プログラム実施に関連する因子は,ALSFRS-R四肢,罹患期間,NPPVが抽出された。また,中等度~重度例は,罹患期間,ALSFRS-R四肢及び呼吸,NPPV,気管切開,球麻痺が因子として抽出された。進行性疾患であるALS患者は,罹患期間が長くなることで全身的な身体機能やADL能力が低下し,NPPV導入や気管切開などの医療措置が加わる場合がある。本研究は,ALS患者に対する理学療法プログラムが罹患期間や身体機能及び医療措置と関連して実施されることを明らかにした。更に,理学療法プログラムの実施と関連する要因が病期によって異なり,従来から推奨されるALSの病期別理学療法プログラムの必要性を改めて示した。今後,ALS患者に対する病期別の理学療法プログラムの効果を前向きの多施設研究で明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】希少性難治性疾患であるALSに対する理学療法の現状を多施設共同研究により明らかにし,エビデンス構築に向けた基礎的情報を示した。
抄録全体を表示
-
橋田 剛一, 加藤 直樹, 小仲 邦, 阿部 和夫
セッションID: 1333
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】NMOは視神経炎と脊髄炎を中核とする中枢神経の炎症性疾患であり,無治療の場合には重篤な視力障害および横断性脊髄症を反復する。脊髄MRIで脊髄中心部から広がる3椎体長以上にわたる連続性病変が特徴であり,重篤な運動機能障害を併発することも多い。NMOは多発性硬化症(MS)とは異なり,血清中の抗アクアポリン4抗体(NMO-IgG)が特異的診断マーカーとして存在するため,治療としては,急性期より免疫吸着療法(IAPP)を選択されることが多い。本疾患に対する理学療法は早期より実施される機会が増えてきているが,確立した理学療法指針は示されていない。またMSやNMO治療ガイドラインには,理学療法を含むリハビリテーション(以下リハビリ)は含まれていないことから,本疾患領域での理学療法の有用性そのものから示していくことが責務であると考える。今回,急性期治療と平行した理学療法実践経験を通じて,理学療法の必要性および介入指針について考察した。【方法】当院でNMOと診断された女性3例を対象とした。全例とも入院後早期よりIAPPを施行され,急性期治療と平行して理学療法を実施した。評価項目としては入院時,治療(IAAP)終了時,転帰時の1)EDSS,2)BI,3)下肢筋力:股関節屈筋・膝関節伸筋(以下股屈筋・膝伸筋),4)理学療法アプローチであり,診療録より後方視的に調査した。症例A(44歳・女性):罹患期間3か月,入院期間48日間,転帰自宅退院症例B(55歳・女性):罹患期間1年,入院期間51日間,転帰自宅退院症例C(59歳・女性):罹患期間4年,入院期間53日間,転帰リハビリ転院【倫理的配慮,説明と同意】本研究調査に関しては,当院の臨床研究ガイドラインに則って,対象者からの評価全般に関する説明と同意を得たうえで,個人情報については匿名化した。【結果】1)EDSS:症例Aでは入院時7.0,治療終了時6.5,転帰時4.5であった。症例Bでは入院時8.5,治療終了時7.0,転帰時5.5であった。また症例Cでは入院時8.5,治療終了時7.5,転帰時7.0であった。2)BI:症例Aでは入院時60,治療終了時70,転帰時95であった。症例Bでは入院時25,治療終了時55,転帰時95であった。症例Cでは入院時25,治療終了時45,転帰時70であった。3)下肢筋力:症例Aでは入院時股屈筋4/5,膝伸筋4/5,治療終了時股屈筋4
+/5,膝伸筋4
+/5,転帰時股屈筋5/5,膝伸筋5/5であった。症例Bでは入院時股屈筋2
-/4,膝伸筋0/4,治療終了時股屈筋3
+/4,膝伸筋4
-/4,転帰時股屈筋4/5,膝伸筋4/5であった。症例Cでは入院時股屈筋1/4
-,膝伸筋1/4
-,治療終了時股屈筋1
+/4,膝伸筋2
+/4,転帰時股屈筋3
+/4
+,膝伸筋4/5であった。4)理学療法アプローチ:3症例とも,IAPP治療中は,カテーテルや尿バルーンの影響を考慮し,ベッド上での関節可動域練習や下肢筋力トレーニングを中心に実施した。IAPP治療後は,運動機能の回復にあわせて,立位動作練習や歩行練習を含めて,積極的に実施した。【考察】急性期治療と平行して,理学療法を進めることにより,運動機能,ADLが改善する可能性が示唆された。また初期治療終了後の期間を中心に,積極的に理学療法を行うことで,入院時に重度運動機能障害を呈した場合でも,機能改善を一層向上させることにつながっていくことも示された。急性期からの理学療法の重要性に加え,初期治療による効果を予測しながら,段階的な治療戦略で理学療法を進めることが必要となってくると考えた。【理学療法学研究としての意義】理学療法を本疾患における治療ガイドラインにおける治療枠組みの一つとして組み込むためには,NMOに対する理学療法実践を通じて,治療経過,回復経過を踏まえた取り組みの必要性を示していくことが欠かせない。
抄録全体を表示
-
―高齢期における年代別にみた特徴―
堤本 広大, 土井 剛彦, 島田 裕之, 牧迫 飛雄馬, 吉田 大輔, 阿南 裕也, 上村 一貴, 堀田 亮, 中窪 翔, 朴 眩泰, 鈴木 ...
セッションID: 1334
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】覚的疲労感は,心理状態の一つであり身体機能や認知機能に影響を与えるだけでなく,精神疾患への移行や心大血管の罹患率とも関連しており,死亡率を上昇させる一因になるとされている。この自覚的疲労感を示す高齢者は増加の一途を辿っており,高齢期において予防すべき老年症候群の一つである。加齢と共に自覚的疲労感と関係する機能は変化し,中高齢期・高齢初期ではうつ傾向など精神状態との関連,高齢中期には認知機能との関連,高齢後期には活動量との関連が報告されている。しかし,これらは別々の研究であり,それぞれ自覚的疲労感の定義が異なっていること,また各研究によって検討している因子が異なっている。そこで本研究では,大規模サンプルの横断研究にて対象者を加齢変化に模した年代別グループに分け,自覚的疲労感と身体機能,身体活動,認知機能との間で年代別の特徴的な関係が認められるかどうか検討した。【方法】本研究は,大規模横断研究Obe Study of Health Promotion for Elderlyに参加した5104名の内,除外基準(重篤な脳血管障害・神経変性疾患を有する,うつ病を有する,Mini Mental State Examination(MMSE)
≤18)に該当しない地域在住高齢者4898名を対象とし,それらの対象者を60代グループ(n=1924,67.0±1.5歳,女性51.9%),70代グループn=2383,73.6±2.8歳,女性49.5%),80代グループ(n=591,83.4±3.4歳,女性51.3%)に群わけした。自覚的疲労感はStudy of Osteoporotic Fractures indexの基準に則って,評価を行った。その他の計測項目は,対象者属性,身体機能としてTimed Up & Go(TUG)と握力,身体活動として1日の平均的な歩行時間を示す(平均日歩行時間),認知機能としてMMSE,Trail Making Test Part AおよびB(TMT-A,TMT-B),Symbol digit substitution test(SDST)とした。統計解析は,年代別グループを群要因とした一元配置分散分析,およびカイ二乗検定を実施し,群間比較を行った。潜在的な交絡因子(性別,服薬数,うつ傾向(Geriatric Depression Scale
≥6))で調整した上で,各年代別の自覚的疲労感と各機能・身体活動との関係を検討するために,従属変数に自覚的疲労感,独立変数に各機能・活動の変数を投入したロジスティック回帰分析を実施しOdds比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。なお,統計学的有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の主旨,目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。本報告に関連し,開示すべきCOI関係にある企業はない。【結果】各年代別グループおいて,性別を除く全ての変数に有意な群間差が認められ,自覚的疲労感を有する人数はそれぞれ60代グループ790名(41.1%),70代グループ1058名(44.4%),80代グループ303名(51.3%)であった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析により各年代別の自覚的疲労感と各機能・身体活動との関係を検討したところ,60代グループでは平均日歩行時間(Odds比=0.844,95%信頼区間=0.850-0.919),TUG(OR=1.101,95%CI=1.018-1.191),SDST(OR=0.974,95%CI=0.955-0.992)が独立して関係していた。70代グループでは平均日歩行時間(OR=0.933,95%CI=0.900-0.967),TUG(OR=1.079,95%CI=1.019-1.143),SDST(OR=0.981,95%CI=0.965-0.997),TMT-A(OR=0.743,95%CI=0.9565-0.977)が独立して関係していた。80代グループでは平均日歩行時間のみが独立して関係していた(OR=0.854,95%CI=0.784-0.929)。【考察】本研究おいて,加齢変化に伴い自覚的疲労感を有する高齢者の割合が増加することが示唆された。これにより,自覚的疲労感の発症において加齢が一つのリスク因子である可能性が示された。各年代グループにおいて自覚的疲労感との関連を認めた機能は一貫性がなかったが,平均日歩行時間に関しては,どの年代グループにおいても独立した関係が認められた。先行研究においても,特に超高齢者においては,日常生活動作の際にも自覚的疲労感を示すことが明らかとなっており,本研究においても支持する結果が得られた。横断研究であるため,因果関係を明らかにすることは困難であるが,どの年代グループに他の機能で補正後も自覚的疲労感と日常における活動量との間に関連が見られたことは,どんな高齢者であっても活動量の維持・向上は,老年症候群の1つである自覚的疲労感の予防に繋がる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者に対して活動量を維持・向上させる介入方法が自覚的疲労感を予防しうる可能性を示唆したことは,運動を指導する理学療法士の研究発展に意義のあるものと考えられた。
抄録全体を表示
-
久我 宜正, 小林 孝彰, 尾山 勝正, 井上 茂樹, 平上 二九三, 齋藤 圭介
セッションID: 1335
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】パーキンソン病(PD)は理学療法における主要な対象疾患であり,近年では超高齢社会の進展に伴い増加傾向にある。PDは慢性進行性疾患であり,理学療法では適切な予後判断に基づく介入が不可欠であるが,脳卒中等と比較して臨床疫学的な知見は乏しい。PDの長期予後について検討した報告は少数例が多く,また生命予後やHoehn&Yahr重症度分類を指標とした検討に留まり,理学療法の主要な介入対象である移動能力の長期的予後や関連要因について検討した報告はほとんどみられない。本研究は,PD患者における移動能力の予後,そして関連要因について探索的に検討することを目的としている。【方法】調査対象は,平成20年から平成25年までに岡山県内1カ所の病院において神経内科を受診しPDと診断された症例389名であり,診療録より後方視的に調査を実施した。集計対象は,診療録からのデータ収集不能,測定開始時年齢が65歳未満の者,発症後期間が20年以上の者,初回測定時にUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)の歩行項目の判定で4点(介助があっても歩行不能)の者を除外した120名とした。調査内容は,基本的属性・医学的属性,PDの一次障害として振戦,指タップ,筋固縮,姿勢,立位の安定性,そして日内変動,ジスキネジア,精神症状,認知症の有無とした。移動能力の指標についてはUPDRSの歩行項目を用いた。調査は追跡期間3年に設定し,最終測定時より3年前に遡った時点までのデータを記録した。統計処理は,PDの発症時期より初回測定時までの期間を発症後期間とし,集団を発症後期間5年未満の群54名と5年以上の群66名の2群に分けて実施した。そして3年間における移動能力予後の関連要因を検討するため,集団それぞれで初回評価時から最終評価時までの3年間で移動能力を維持した群を「維持群」,低下した群を「低下群」に分け従属変数に設定し,各調査項目を説明変数とした二項ロジステック回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(受理番号13-05)を得て実施し,指針の下に診療録の個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず匿名データで検討した。【結果】集計対象120名の属性は,年齢75.8±5.6歳,男性41名,女性79名。発症後期間は7.1±4.7年,Hoehn&Yahrの重症度分類はIII94名,IV24名,V2名であった。移動能力の3年間における予後として,発症後期間5年未満の群については15名(27.8%),5年以上の群については26名(39.4%)で低下が認められた。移動能力の予後を従属変数とした二項ロジステック回帰分析の結果,発症後5年未満群では合併症である「脳卒中」「圧迫骨折」「心疾患」「呼吸器疾患」「糖尿病」の有無,そして「指タップ」「姿勢」「認知症」「振戦」「精神症状」の項目で統計的に有意な関連を認めた。発症後5年以上群では,合併症は統計的に有意な関連を示さず,「年齢」「発症後期間」,そして「認知症」「姿勢」「立位の安定性」の項目で有意な関連を認めた。【考察】3年間における移動能力の予後に関して,発症後5年以上の集団において低下割合が多いことが明らかにされた。移動能力予後の関連要因についての検討において,発症後5年未満の群についてのみ合併症との関連を示したことは,移動能力が比較的保たれる発症後早期の時期であり,PD以外に低下させる要因として合併症が関連を示したものと推測される。またこの時期において発症後5年以上の集団と比較して多くのPD症状が関連したことは,PDの一次障害が本来軽度であるにも関わらず重度な状態であることが,発症後早期の移動能力低下者の特徴であることを示唆するものと考える。一方,発症後5年以上の群に関してのみ年齢と発症後期間との関連を示していたのは,加齢や廃用の影響を反映するものとして時間的要素が関連を示していたものと思われる。またこの時期以降の集団は,そのほとんどがPD症状の進行により移動能力が低水準の状態にあり,PD症状よりも姿勢や立位の安定性に関する変数が関連を示したものと推測される。【理学療法学研究としての意義】移動能力の長期予後に関する研究が殆ど存在しない中で,本研究の知見は慢性進行性疾患であるPDに対する介護予防的視座に立った理学療法確立に向けた基礎資料になり得る。
抄録全体を表示
-
~シングルケースデザインによる検討~
森 拓也, 澳 昂佑, 川原 勲, 木本 真史
セッションID: 1336
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】パーキンソン病患者の歩行に関して,すくみ足の出現は転倒リスクとなり,特に歩行開始時に問題となりやすい。歩行の開始の筋活動としては下腿三頭筋の筋放電の低下による下腿前傾より歩行は開始される。しかしパーキンソン病患者はヒラメ筋のH反射が亢進し,筋放電が増加するとの報告があり,これらがすくみ足や転倒につながると考えられる。Duvalらによるとパーキンソン病症例に対して,ストレッチによる伸張刺激が同名筋の筋放電量を減少させるとの報告があり,また足関節傾斜板を利用した下腿三頭筋の伸張の介入にて立位回転速度が改善したとの報告も見受けられる。よって,これらの知見の示す事は,パーキンソン病患者における下腿三頭筋の伸張運動効果が歩行能力改善において有効な反応を引き出す治療手段であると考えられる。しかし,パーキンソン病における足関節の傾斜刺激による重心動揺の変化や歩行の筋活動を示した報告は数少なく明らかになっていない点が多い。よって,本研究の目的は,足関節傾斜板を用いた足関節傾斜刺激が立位時重心動揺,歩行時筋活動に与える影響を明確にする事である。【方法】対象はパーキンソン病を7年羅病した症例である(性別:男性 年齢:85歳)。パーキンソン病期分類はHoehn-Yahrの病期分類StageIIIであった。(実験1)介入課題については,通常の理学療法に加え足関節矯正起立版10°の上に立ち,なるべく膝関節は完全伸展位にて身体を前方に倒す事を課題とした。介入時間としては1分間の介入を3回実施し足関節傾斜刺激が重心動揺に与える影響を介入前後で検証した。立位時重心動揺変化は重心動揺計(アニマ社製フォースプレートMG-100)にて測定した。測定としては介入前後共に1分間の測定を計3回行い,足部重心の位置を前後中心と左右中心の距離より算出し,3回の平均距離を算出した。また同時に表面筋電図(Noraxon社製myosystem 1400 以下EMGとする)にて立位における左右前脛骨筋,腓腹筋外側の計4筋の筋活動も測定した。筋電電極(Ambu社製ブルーセンサー)は標的筋に対して筋線維の長軸方向へ平行となるようにし,電極間距離を20mmとし貼付した。貼付方法はHermie.Jらの方法に従って貼付した。介入前後の立位における各筋における平均振幅を算出し,足関節の戦略の変化を測定した。(実験2)実験1同様の介入課題を行い,介入前後でEMGでの歩行解析を行った。計測における標的筋,電極貼付方法に関しても実験1同様である。歩行周期の解析については立脚期の指標としてフットセンサースイッチを使用し,またEMGとビデオカメラと同期させ目視による確認も行った。歩行解析として5歩行周期における立脚期の前脛骨筋,腓腹筋外側の平均振幅を算出し,介入前後での比較を行った。歩行動作能力の指標として,10メートル歩行テストの計測も行い,歩行速度と歩数の介入前後の変化を比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて,対象者の個人情報の保護に留意し,阪奈中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者に説明と同意を得た。【結果】(実験1)立位時重心動揺結果は【介入前】左右中心0±0.3cm,前後中心-1.9±1.2cm【介入後】左右中心0±0.04cm,前後中心0.7±0.3cmであった。立位時平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋8.0±3.7μV/左腓腹筋外側8.6±4.4μV/右前脛骨筋18.9±10μV/右腓腹筋外側24.4±15.2μV【介入後】左前脛骨筋24.9±11.4μV/左腓腹筋外側11.4±3.8μV/右前脛骨筋32.4±10.9μV/右腓腹筋外側26.7±7.2μVであった。(実験2)5歩行周期の各筋の立脚期平均振幅結果は【介入前】左前脛骨筋47μV/左腓腹筋外側48.9μV/右前脛骨筋86.2μV/右腓腹筋外側59.4μV【介入後】左前脛骨筋63.6μV/左腓腹筋外側42.6μV/右前脛骨筋118.4μV/右腓腹筋外側53.6μVであった。10M歩行テストの結果は【介入前】19.7±1.6秒(30.6±1.6歩)【介入後】16.6±1.5秒(26±0.6歩)であり,介入直後にてすくみ足の減少がみられた。【考察】今回の足底板傾斜板による下腿三頭筋の伸張運動にて,立位時重心動揺が前方に移動し,歩行能力が改善する傾向が見られた。これは足関節が傾斜する事で下腿三頭筋においてのストレッチング効果が生じ,H反射の減少等の影響によって,下腿三頭筋の筋放電量が減少した結果と考えられる。効果は即時的な変化であるが,歩行練習開始時の有用な一助となる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】パーキンソン病患者に対して,足関節傾斜板という簡便で短時間な介入方法は,歩行練習に効率よく介入できる可能性や自宅内での自主練習等に利用できる可能性が示唆された。
抄録全体を表示
-
菅沼 惇一, 石垣 智也, 植田 耕造, 森岡 周
セッションID: 1337
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】恐怖条件下では足関節を固定する戦略をとること(Carpenter et al.1999)や,足圧中心動揺の実効値面積(RMS)が減少し平均パワー周波数(MPF)が増大するという狭い範囲内での姿勢制御戦略となること(Taylor et al.2012)が報告されている。しかし,恐怖条件下において姿勢制御戦略を安定化させる試みは未だ報告されていない。視覚視標距離を近くすることは姿勢制御の安定化を促すとの研究結果(Kapoula Z,et al.2006,2008)があり,恐怖条件下においても視覚視標距離を近くすることで,姿勢制御の安定化を促すことができる可能性が考えられる。本研究の目的は,恐怖条件下における視覚指標距離の変化が重心動揺,下腿筋同時活動,VASに与える影響を調べることとした。【方法】若年健常者8名(男性4名,女性4名,平均年齢23.3±3.9歳)を対象とした。実験条件は,平地での静止立位保持(恐怖なし条件)と高さ110cmの台上での静止立位保持(恐怖条件)の2条件とし,開眼,閉脚,両上肢は体側下垂位とした。また,視覚指標距離は目線の高さから40cm前方の注視点を見る条件(近位条件)と,300cm前方の注視点を見る条件(遠位条件)の2条件とした。恐怖なし条件,恐怖条件の順に測定し,視覚指標距離の近位,遠位条件は被験者により順序を無作為とした。4条件とも2回連続で測定を実施した。重心動揺は,重心動揺計G-6100(ANIMA社製)を用いて,sampling周波数100Hz,測定時間は30秒で測定した。重心動揺の指標として総軌跡長,矩形面積を用いた。筋活動は,表面筋電計sx230(DKH株式会社製)を用いsampling周波数1000Hzで,測定筋は,利き足側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定した。得られた筋電図信号から,同時活動の指標であるco-contraction index(CI)をFalconerら(Falconer et al.1985)の推奨する手法で求めた。恐怖の程度はvisual analogue scale(VAS)にて評価した。VASは左端を全く恐く感じない,右端を最大の恐怖と規定し,各条件中の主観的な恐怖の程度を測定した。統計解析には,4条件(静止立位2条件×視覚指標距離2条件)の2回の平均値のVAS,総軌跡長,矩形面積,CIを比較するために,二元配置分散分析[静止立位条件(恐怖なし条件,恐怖条件)×視覚指標距離(近位条件,遠位条件)]を実施した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に遵守して実施した。全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し同意を得た。なお,本研究は本学研究倫理委員会にて承認されている(H25-24)。【結果】VASは,恐怖の要因のみ有意な主効果(F
1,7=6.40,P=0.03)を認め,交互作用(F
1,7=0.31,P=0.59)を認めなかった。総軌跡長は,視覚指標距離の要因のみ有意な主効果(F
1,7=21.21,P=0.0025)を認め,交互作用(F
1,7=0.73,P=0.41)を認めなかった。矩形面積は,恐怖の要因の主効果(F
1,7=0.04,P=0.84),視覚指標距離の要因の主効果(F
1,7=2.16,P=0.18),交互作用(F
1,7=0.12,P=0.73)共に認めなかった。CIは恐怖の要因の主効果(F
1,7=0.07,P=0.79),視覚指標距離の要因の主効果(F
1,7=2.18,P=0.18)を認めず,交互作用(F
1,7=5.65,P=0.049)のみ認めた。後検定の結果,恐怖条件においてのみ遠位条件より近位条件で有意な増加を認めた(F
1,7=14.83,P<0.01)。【考察】本研究の結果より,VASにおいて恐怖の要因で主効果を認めたことから,本実験の恐怖条件は被験者の恐怖を誘発していたと考えられる。視覚指標距離は,恐怖条件においても,平地条件と同様に近位条件で総軌跡長が減少し,矩形面積は変化を認めなかった。これにより,恐怖条件下においても視覚指標距離を近くに設定することは,姿勢動揺の範囲には影響しないが,姿勢動揺の減少を促す可能性が示された。また,VASは視覚指標距離が近くなることで変化を認めないが,総軌跡長が有意に減少したことから,視覚指標距離の変化は対象者の主観的な恐怖を直接的に変化させないが,姿勢動揺を減少させる可能性があることが示唆された。また,恐怖条件において,CIは視覚指標距離が近くなることで増加したことから,下腿筋の同時活動の増加が姿勢制御の減少に貢献したことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,恐怖条件において視覚指標距離を近くすることで姿勢が安定し,その背景として筋活動の変化があることを示した。この結果は,恐怖により姿勢制御が不安定化している対象者に対する介入可能性の一助になると考える。
抄録全体を表示
-
脳波計測を用いた歩行中の脳機能解析
倉山 太一
セッションID: 1338
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】ヒトはある程度の騒音の中にいても,遠方から友人の声がすれば無意識的に反応し,注意を切り替えることができる。カクテルパーティ効果などと呼称されるこの能力は,外部刺激に対する自動的な脳内情報処理機構として動物が自然界で生き延びるための生来的な能力の一つと言われている。ミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity:MMN)はこのような注意に関連した認知機能を反映する事象関連電位として,認知神経科学の分野で多く研究されている。本研究では二重課題歩行が,ヒトの注意機能に与える影響を明らかにすることを目的とし,歩行中のMMNについて検討した。【方法】対象は健常成人24名とした。計測課題はA1:坐位で無声動画を見ながらのMMN計測,A2:自由歩行にて無声動画を見ながらのMMN計測,およびB1:水運搬課題(水の入ったカップを把持し,こぼさず歩く)にてMMN計測,B2:粘土運搬課題(粘土の入ったカップを把持して歩く)にてMMN計測,の4つの課題を被験者ごとに擬似ランダムな順序で実施した(歩行速度は至適速度で統一した)。課題に先立ち5分以上の準備歩行を実施すると共に至適速度を定めた。カップは透明なものを用い,底部から上縁までの80%の高さまで水を入れ,左手で胸骨から真っ直ぐ前方へ30~50cmの持ちやすい位置で把持させた。粘土は水と同じ重さとした。歩行中は加速度計(TSND121,ATR-Promotions)を左手首・第三腰椎に装着し運動学的解析を行った。同時にヘッドフォンを通じて0.5秒間隔の音刺激(75ms)を通常音(1000Hz)と逸脱音(1000±100Hz)が5:1の割合となるよう1200回与え,脳波計(32ch Active-two system,Biosemi)によりMMNを計測した。実験終了後に各課題中に被験者が感じた難易度,覚醒度,集中度などについてvisual analog scale:VASを用いて質問した。脳波データは1-20Hzのデジタルバンドパスフィルターを適用後,音刺激をトリガーとして加算波形を作成した。統計解析は課題A1とA2の間でMMN振幅と頂点潜時,および課題B1とB2の間でMMN振幅と頂点潜時,および運動学的指標(躍度,歩幅,ケイデンス,歩行周期変動),またVASの平均値について,対応のあるt検定を実施した。MMN成分について有意差が認められた場合,Loreta解析を用いて脳活動部位の違いについて推定した。有意水準は5%とした。データ解析にはMatlab 2012aを,統計解析にはSPSS ver19.0のソフトウェアを用いた。【倫理的配慮・説明と同意】本研究は倫理審査会の承認を受けており,対象者への説明・同意の上,実施された。【結果】手先躍度,重心位置躍度,歩行変動性は水運搬課題に於いて自由歩行,粘土運搬課題に比べて有意に低下した。ケイデンスはほぼ一定であった。MMN振幅は,水運搬課題において粘土運搬課題に比べて有意に高い値となった。MMN潜時について有意差は認められなかった。課題中の主観的な難易度,覚醒度,集中度は水運搬課題で最も高かった。Loreta解析の結果,水運搬課題ではBrodmann area 6,32,24,4,8における有意な脳活動が推定された。【考察】MMN振幅は粘土運搬課題に比べ,水運搬課題で有意に高い値を示した。このことから二重課題歩行においては外部環境音に対する注意状態が高まることが示唆された。またLoreta解析により複雑運動に関与するとされるBrodmann6野,stroop課題など二重課題で活動する32野の活動が高まった。水運搬課題に於いては,水をこぼさないよう手先の制御に集中するほか,手先の位置を安定させるための滑らかな歩行が要請されたことが,被験者の感じる課題への集中度や覚醒状態が上がったことの要因と考えられた。なお水面の状態を常時確認するため,必然的に視線は水面に集中するが,このような状態で外部環境に対応するためには,聴覚的な注意機能を高める必要性が生じることも要因として考えられた。二重課題歩行(B1およびB2)にてMMNに差が生じた要因として以上のような注意・覚醒度の上昇,また視覚情報の制限などが挙げられた。【理学療法研究としての意義】脳波計測は非侵襲的で計測も簡便である一方,アーチファクトの問題により歩行中に実施することは難しく,これまで主に坐位,立位,歩行準備期など,静的な計測条件に限定されてきた。しかし近年,計器性能の向上により実用的なデータが得られることが示されてきており,臨床応用の可能性が広がっている。高齢者や各種疾患を有する人々に於いては,注意機能などの低下が転倒因子の一つと成ることが示されているが,これまで歩行中の注意機能について脳機能計測を用いた直接的な検討は非常に少ない。本研究は脳波計測を歩行中の脳機能評価として応用できる可能性を示した点に於いて意義があると考えている。
抄録全体を表示
-
齋藤 涼平, 石井 慎一郎
セッションID: 1339
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】日常生活の中で階段昇降動作は日常生活の範囲を拡大するために重要な動作といえる。一方で,階段昇降動作は,生体力学的負担が大きく高齢者や障害者にとっては難易度が高い動作である,とりわけ,降段動作は昇段動作に比べて,恐怖感や関節の疼痛を訴える患者の割合が多い。公共の場での転倒事故は,降段動作時に多く発生する傾向ある。階段の前で一度立ち止まってからでないと降段できないと訴える患者が多く,人の往来の流れに乗って,歩行から降段動作へスムーズに移行することができないことが,公共の場で降段中に転倒しやすいことの理由の一つではないかと考えられる。先行研究では,年齢や疾患別の比較や,動作条件の段の高さや動作速度を変えての報告があるが,どれも降段最中の報告となり,降段の始めや,歩行から降段の動作推移についての報告は見当たらない。本研究の目的は,歩行から降段動作の際にどのように動作戦略を行い動作の推移を行っているかを明らかにし,なぜ歩行からの降段動作の際に止まってしまうのか,止まらないと困難な理由を力学的に検討することである。そこで,歩行から連続した降段動作と,静止立位からの降段動作を,身体の制御を反映する床反力と,下肢の各関節の関節モーメント,関節パワーについて検討した。【方法】対象は,健常成人12名(男性7名,女性5名,平均年齢25.3歳),運動課題は歩行路の高さ40cm長さ4.0mと,蹴上げ20cm踏面28cmの段差を使用し,歩行路から歩行しての降段動作(以下Dynamic),段差の一歩手前からの降段動作(以下Static)とした。計測は,三次元動作解析装置VICON-612(VICON PEAK社製)と床反力計(AMTI社製)6枚を使用した。被験者の体表面上に貼付した計11個の赤外線反射標点の位置を計測し,解析ソフトDIFFgait,WaveEyesを用いて,課題動作中の床反力2成分(前後,鉛直方向),股・膝・足関節の各伸展・屈曲モーメントと各関節パワーを算出した,解析区間は,段差を降りる歩行路での支持側(1歩目と定義)の初期接地(I.C)から,対側の降段した1段目(2歩目と定義)のつま先離地(T.O)とした。データの抽出は立脚時間と,床反力鉛直方向では各ピーク値を,床反力前後方向では前方・後方成分での積分値とピーク値を,関節モーメント・関節パワーはピーク値を抽出し,1歩目と2歩目のDynamicとStaticで比較した。統計は対応のあるt検定(IBM SPSS ver.20)を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨やリスク,撤回の自由などを口頭と文書にて十分に説明し,同意が得られた者を対象とした。本研究は,神奈川県立保健福祉大学研究倫理審査委員会にて承認済みである(承認番号24-14-006)。【結果】1歩目鉛直床反力で,Dynamicの1次ピーク値(667.7N,604.4N)で増大(p<0.05),2次ピーク値(367.4N,396.7N)と3次ピーク値(566.2N,592.4N)で減少(p<0.01)。前後床反力で,Dynamicの後方成分のピーク値(124.7N,55.2N)増大・積分値(30.0,14.3)増大がみられた(p<0.01)。2歩目では,各ピーク値,積分値は有意な差は認められなかった。関節モーメント・関節パワーでは,1歩目初期にDynamicの股関節伸展の正の関節パワー(0.6W,2.9W)の減少(p<0.01),膝関節伸展モーメント(47.8Nm,37.2Nm)と負の関節パワー(-74.6W,-18.9W)の増大(p<0.01)。中期にDynamicの股関節屈曲モーメント(18.3Nm,13.6Nm)と負の関節パワー(-4.6W,-0.7W)の増大(p<0.01),足関節底屈の負の関節パワー(-47.9W,-41.2W)の増大(p<0.05)。後期にDynamicの股関節屈曲モーメント(26.1Nm,23.2Nm)と負の関節パワー(-13.4W,-9.5W)の増大(p<0.05)。【考察】歩行からの降段動作は,歩行中の前方への推進力と重心の上下動のリズムを,降段動作で必要な前下方へと推移する必要がある。DynamicとStatic比較すると歩行中の前方への推進力をDynamicでは立脚初期に膝関節伸展の遠心性活動を用い身体の前方へのブレーキ行うと同時に股関節伸展の求心性活動を減少させ重心上昇を抑制していることが考えられる,中期以降でも前方の推進力を前下方へ制御するため,股関節伸展,足関節底屈の遠心性活動を増加させている。歩行から円滑に降段するためには,歩行中の前方への推進力に対して,立脚初期だけでなく中期以降での前方へのブレーキと同時に下方への制御が重要と考えられる。立ち止まらないと降段することができない一つの理由としては立脚期を通しての前方と下方への遠心性活動での制御が困難と考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から歩行からの降段動作は,1歩目での立脚期を通しての各関節の遠心性活動が重要であることが考えられた,これらの知見は臨床での降段動作の際に立ち止まってしまう患者の治療の一助となると考える。
抄録全体を表示
-
後肢免荷がラットの歩容に与える影響
太治野 純一, 伊藤 明良, 張 項凱, 長井 桃子, 山口 将希, 飯島 弘貴, 青山 朋樹, 黒木 裕士
セッションID: 1340
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】組織損傷後や手術後の長期間にわたる固定や免荷は骨量低下や筋萎縮の原因となり,特に下肢においては移動能力の低下や社会復帰の遅延につながる。その予防策として,術後早期もしくは免荷期間中からの介入が実施されているが,それらは骨量・筋量維持を目的としたものが主であり,動作の質的維持を目的にしたものは少ない。また,免荷による動作(歩容)の変化を経時的に観察した研究も少数である。Canu(2005)らは,ラットの後肢を2週間免荷すると歩容が不可逆的に変化し,その後再び荷重されて1週間後も回復しなかったと報告している。しかし,より長期間の経過や筋萎縮との関係は依然報告されていない。そこで今回,2週間後肢免荷したラットを再び荷重条件に戻し,2週間後の歩容を3次元動作解析機にて分析するとともに筋重量を測定した。本研究の目的は,後肢免荷を要因としたラットの歩容変化と再荷重後の回復,および筋萎縮との関連を調査し,免荷に対する理学療法介入の必要性を補強することである。【方法】対象として8週齢のWistar系雄性ラット(n=20)を用いた。準備期間として全対象を7週齢時点から1週間トレッドミルを用いて歩行を学習させた後,免荷
/再荷重群(n=8),自由飼育群(n=8)に振り分けた。実験期間4週間のうち前半2週を免荷期間として免荷
/再荷重群に対して尾部懸垂を実施し,後半2週では懸垂を解除して自由飼育とした。自由飼育群については4週間自由飼育を継続した。各群において実験期間の2週目と4週目に各4匹ずつ体重測定と歩行観察後に安楽死させ,両側下肢から前脛骨筋・趾伸筋・腓腹筋・ヒラメ筋を摘出し湿重量を測定した。さらに,時系列比較のため,4匹のラットに対して上記と同様の処置を実験開始時点で実施した。歩容の解析には三次元動作解析装置キネマトレーサー(キッセイコムテック)を用いた。両側後肢の上前腸骨棘・大転子・膝関節裂隙・外果・第五中足骨頭にマーカーを添付して各群ラットの歩行を記録し,膝・足関節角度および後肢振幅中心(以下CO)を解析した。統計手法には対応のないt検定もしくはクラスカルワリス検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施された。【結果】2週間免荷時点で免荷
/再荷重群の体重(g)は自由飼育群よりも有意に軽く(212.0±13.3 vs 249.7±17.5,
P<0.01),筋湿重量
/体重比(mg/g)も抗重力筋群(腓腹筋・ヒラメ筋)については有意に小さかった(腓腹筋:3.99±0.22 vs 4.87±0.19,ヒラメ筋:0.21±0.05 vs 0.43±0.03,共に
P<0.01)。特にヒラメ筋については自由飼育群の約48%に留まった。一方,抗重力筋群の拮抗筋群(屈筋群)については二群間に有意差を認めなかった(前脛骨筋:1.59±0.06 vs 1.63±0.06,趾伸筋:0.49±0.03 vs 0.44±0.08,共に
P>0.05)。続く2週間の再荷重後にはヒラメ筋が0.33±0.02 vs 0.39±0.03(
P<0.01)と自由飼育群の約84%まで回復し,その他の筋群では有意な二群間差が認められなかった(腓腹筋:4.55±0.16 vs 4.68±0.20,前脛骨筋:1.62±0.11 vs 1.55±0.04,趾伸筋:0.42±0.02 vs 0.41±0.02,各
P>0.05)。歩行時の関節角度(°)については,2週免荷時点で立脚中期の膝・足関節が有意に伸展しており(膝:85.9±1.2 vs 102.4±11.7,足関節:78.9±1.7 vs 114.1±4.1,共に
P<0.01),再荷重2週後でも群間差が継続していた(膝:79.6±3.6 vs 104.2±4.9,足関節:88.4±6.3 vs 121.6±1.8,共に
P<0.01)。COは2週免荷時点で有意に減少(前方へ偏移)しており(89.6±2.1 vs 101.7±4.4,
P<0.01),再荷重2週後も群間差が継続していた(90.0±2.3 vs 99.4±5.5,
P<0.01)。【考察】2週間免荷時に膝および足関節を伸展させた歩容となった要因としては,低下した抗重力筋群の筋張力を,各関節のモーメントアームを短くとることによって代償していたと考えられた。さらに,再荷重2週後においても同様の歩容変化が継続していたことは,筋張力低下の代償として獲得された歩容が,再荷重されても筋湿重量の回復のみに呼応して回復するわけではないことを示唆している。またCOが再荷重2週後も前方へ偏移していたことは,免荷によって対象ラットの後肢筋群において屈筋群が優位となり,それが再荷重後も継続した可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】今回の実験より,一定期間の免荷によって生じた下肢筋群の萎縮は再荷重によって回復し得るが,萎縮が回復する過程で歩容が不可逆的に変化してしまう可能性が示された。本研究の結果から,免荷後の早期復帰を目指して介入を実施する際には筋量・骨量回復と並んで,適切な運動様式の獲得を目的とした理学療法介入が必要であると考えられる。
抄録全体を表示
-
岡和田 愛実, 金子 文成, 柴田 恵理子, 青木 信裕
セッションID: 1341
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】関節運動の知覚には,筋紡錘からの求心性入力が最も重要な役割を果たす(Collins et al, 2005)。筋紡錘のIa群求心性感覚線維が発射すると,対側の一次体性感覚野(S1)の3a野や2野,一次運動野(M1),運動前野,補足運動野,頭頂葉,帯状回が賦活する(Romaiguere et al, 2003)。つまり,それらの脳部位が関節運動の知覚に関わる可能性が高いと理解できるが,逆にその興奮性が変化することによって関節運動の知覚も変化する可能性がある。しかし,それを示した報告はなく,それらの領域と知覚の因果は明らかでない。過去の研究から,M1に対する反復4連発磁気刺激(QPS)でM1とS1の興奮性を同時に増大させることが報告されている(Hamada et al, 2008,Nakatani et al, 2012)。そこで,我々は知覚に関わる脳部位の中でもM1とS1に着目し,M1とS1の興奮性増大による関節運動知覚の感度変化を明らかにする目的で本研究を実施した。【方 法】対象は健康な右利きの成人男性とした。本研究は実験1と実験2からなる。M1とS1の興奮性を増大させる方法として,4連発の刺激間隔が5msec(QPS-5)を用いた。実験1ではQPS前後でM1の興奮性変化を検証するために,MEPを測定した。実験2ではQPS前後で関節運動知覚の感度変化を検証するために検出閾値を測定した。QPSは2種類行い,課題1ではQPS-5をM1に実施した。課題2では,コントロールとして偽の刺激(Sham)を実施した。QPSは,右短母指外転筋(APB)のhot spotに対して運動時閾値の90%の強度で行った。実験1と2の測定は,15分間隔でQPS前に2回(pre1,2),QPS後に5回(post0,15,30,45,60)測定した。実験1のMEP測定は,単発TMSを用いて右APBから記録した。刺激強度は,安静時閾値の1.2倍とし,8回の平均振幅を算出した。実験2の運動検出閾値測定は,他動的に被験者の右母指CM関節を掌側内転させ,その際に被験者が運動を知覚した角度変化量を測定した。モータの角速度は1deg/secと3deg/secとし,試技数はそれぞれ5回とした。そして,最大値と最小値を除いた3試技分の平均値を個人の代表値とした。MEPと運動検出閾値は,pre1を基準とした各測定時期の比を算出した。そして,それぞれ各測定時期(pre2,post0,15,30,45,60)および課題条件(QPS-5,Sham)の2つを要因とした反復測定二元配置分散分析により解析した。2つの要因間で交互作用があった場合,その後の検定として単純主効果の検定を行った。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得ており,また,ヘルシンキ宣言に沿って実施した。さらに,事前に研究内容等の説明を十分に行った上で,同意が得られた被験者を対象として実験を行った。【結果】MEP振幅は,各測定時期と課題条件に交互作用があった。そしてQPS-5では,pre2と比較してpost0,15,30,45,60で有意にMEP振幅が増大したのに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45では,Shamと比較してQPS-5において有意にMEP振幅が増大した。一方,運動検出閾値は,角速度1deg/secと3deg/secの両方で,各測定時期と課題条件に交互作用があった。そして1deg/secにおいて,QPS-5ではpre2と比較してpost15で有意に運動検出閾値が低下した。それに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45では,Shamと比較してQPS-5において有意に運動検出閾値が低下した。さらに3deg/secにおいて,QPS-5ではpre2と比較してpost0,15,45で有意に運動検出閾値が低下した。それに対して,Shamでは変化がなかった。また,post0,15,30,45,60では,Shamと比較してQPS-5において有意に運動検出閾値が低下した。【考察】実験2の結果から,末梢からの感覚入力が変化しないにも関わらず,QPS-5前と比較して,後には関節運動知覚の感度が増大した。関節運動の知覚には,S1の3a野や2野,M1,運動前野,補足運動野,頭頂葉,帯状回などの脳部位が影響する。実験1の結果から,本研究ではQPS-5後にM1の興奮性が増大した。また先行研究より,QPS-5によってM1とともにS1の興奮性が増大することが報告されている。このことから,関節運動知覚の感度が増大したのは,QPS-5後にM1とS1の特に3aや2野の興奮性が増大したことが起因しているものと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により,M1に対するQPSを行うことで,関節運動の知覚が向上することが示された。理学療法の対象となる症例では,感覚鈍麻により協調的な運動を行えなかったり,運動学習が進まない症例が多くいる。そのような症例に対して,理学療法前のコンディショニングとしてQPSを用いることにより,運動がより効率的に行える可能性がある。
抄録全体を表示
-
大賀 智史, 関野 有紀, 片岡 英樹, 濵上 陽平, 中願寺 風香, 坂本 淳哉, 中野 治郎, 沖田 実
セッションID: 1342
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】われわれは,足関節不動モデルラットを用いて不動に伴う痛みの病態とその発生メカニズムについて検討を重ね,これまでに皮膚における痛覚閾値の低下のメカニズムを明らかにした。そして,最近,同モデルは皮膚だけでなく骨格筋(腓腹筋外側頭)にも圧痛覚閾値の低下が惹起されることを見出し,この事象は筋線維損傷に由来しないことを組織学的解析により確認している。また,同筋では痛みの内因性メディエーターとして注目されている神経成長因子(nerve growth factor:NGF)の発現量が増加していたことから(第48回日本理学療法学術大会),われわれは不動に伴う骨格筋の圧痛覚閾値の低下のメカニズムにはNGFが関与しているのではないかと仮説している。そこで今回,仮説を検証する目的で,足関節不動モデルラットの腓腹筋外側頭に対してNGFレセプターであるTrkAの阻害剤K252aを筋内投与し,圧痛覚閾値がどのように変化するのかを検討した。【方法】実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット13匹を用い,これらを4週間通常飼育する対照群(n=4)と,右側足関節を最大底屈位にて4週間ギプス固定する不動群(n=9)に振り分けた。実験期間終了時,不動群の腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を圧刺激鎮痛効果測定装置(Randall-Selitto)を用いて測定した。その後,不動群の一部のラットにはTrkAの阻害剤K252a(30µg/kg)を筋内投与し(K252a群,n=5),残りのラットにはPBSを筋内投与し(vehicle群,n=4),投与10分,20分,30分,60分後における腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値を経時的に測定した。なお,圧痛覚閾値の測定においては,各肢5回の測定を行った結果から最大値と最小値を除外した3回の測定値の平均値を圧痛覚閾値として採用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に基づいて実施した。【結果】4週間の不動期間終了後,K252a群ならびにvehicle群の腓腹筋外側頭の圧痛覚閾値は対照群のそれよりも有意に低下していることが確認された。K252a群の圧痛覚閾値はK252aの筋内投与10分後から上昇し,対照群との有意差も認められなくなったが,vehicle群では圧痛覚閾値に変化は認められず,K252a群とvehicle群の間にも有意差を認めた。そして,その後の経過を見ると,K252a群で見られた圧痛覚閾値の上昇は投与30分後から徐々に低下し始め,投与60分後では投与前とほぼ同程度となった。【考察】NGFは元来,神経線維の成長や側枝発芽を促す物質とされてきたが,最近の先行研究では,痛みの発生に関与するとされるCGRPやBDNFなどの神経ペプチドやTRPV1やP2X
3といった侵害受容体の発現を増加させる機能があることが明らかになっている。また,NGFは自由神経終末にあるTrkAに結合することにより,TRPV1などの侵害受容体の感度増強,いわゆる末梢性感作を引き起こすともいわれており,様々なメカニズムで痛みの発生に関与している可能性がある。今回,圧痛覚閾値の低下を示した足関節不動モデルラットの腓腹筋外側頭に対して,NGFレセプターであるTrkAの阻害剤K252aを筋内投与したところ,圧痛覚閾値の低下が回復した。この結果は,不動に伴う骨格筋の痛みにはNGFが強く関与することを示唆している。また,圧痛覚閾値の低下の回復は阻害剤K252aの投与から10分後という極めて短時間で認められたことから,その作用は,神経ペプチドや侵害受容体の発現増加ではなく,NGFの発現増加による末梢性感作が主ではないかと推察される。ただ,骨格筋の不動化によるNGFの発現増加のメカニズムについては,今回の結果から明らかではない。ただ,NGFは線維芽細胞や肥満細胞,マクロファージが産生することが知られており,不動化された骨格筋ではマクロファージが増加することが所属研究室の先行研究で明らかになっている。したがって,この事象がNGFの発現増加と痛みの発生に関与している可能性があり,今後検討すべき課題と考えている。【理学療法学研究としての意義】本研究では,不動によって惹起される骨格筋の痛みのメカニズムにNGFの発現増加が関与することを明らかにした。われわれ理学療法士は骨格筋を含む末梢組織に対して直接介入可能であることから,本研究の発展は不動に伴う骨格筋の痛みに対する治療戦略の開発につながると期待できる。したがって,本研究は理学療法学研究として十分意義があるといえる。
抄録全体を表示
-
金口 瑛典, 小澤 淳也, 山岡 薫
セッションID: 1343
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【目的】関節拘縮は関節炎に続発する機能障害の一つである。しかしながら,関節の不動に伴う拘縮と異なり,関節炎に続発する関節拘縮の形成機序についての報告はほとんどない。我々はこれまで,ラット膝関節炎に続発して関節拘縮が形成される際に,歩行時の膝関節運動の減少がほとんど生じないことから,関節炎に誘発される拘縮形成の主要因は関節の不動ではないことを報告した(ACPT,2013)。そこで本研究では,消炎や鎮痛が関節拘縮形成に及ぼす影響を調べることで,関節炎に誘発される関節拘縮を引き起こす要因を調べることを目的とした。【方法】8週齢の雄性ウィスターラットを対照群(n=5),関節炎群(CFA群,n=6),関節炎+モルヒネ投与群(CFA+M群,n=5),関節炎+デキサメタゾン投与群(CFA+D群,n=5)に分けた。膝関節炎は,右膝関節内に完全フロイントアジュバント(CFA)を0.1 ml投与することで惹起した。対照群には同量の生食を投与した。CFA+M群にはCFA投与直後から,背部皮下に設置した浸透圧ポンプにより9.6 mg/day(41-44 mg/kg/day)のオピオイド鎮痛薬である塩酸モルヒネを持続的に投与した。CFA+D群には0.3 mg/kgのステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンを1日1回皮下投与した。対照群とCFA群には300 μlの生食を1日1回皮下投与した。CFAもしくは生食投与後1,3,5日に右膝の横径をノギスで測定し,関節の腫脹を評価した。また,CFAもしくは生食投与後3日にトレッドミル歩行動作をデジタルカメラで撮影し,後肢荷重時間比(右/左)を算出し,疼痛の指標とした。CFAもしくは生食投与5日後,右後肢の皮膚を切除した後,麻酔下にて膝関節伸展方向に14.6 N・mmのモーメントをかけた状態で,三次元動作解析装置を用いて大転子,膝関節外側裂隙,外果のなす角度を測定し,膝関節伸展可動域(伸展ROM)とした。さらに,膝関節屈筋を切断した後,同様の方法で再度伸展ROMを測定した。統計解析には一元配置分散分析もしくはクラスカル・ウォリス検定を用い,有意差が認められた場合には多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は,所属機関倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】右膝横径について,CFA群とCFA+M群はCFA投与後1日で最も増大し(それぞれ対照群の154%,141%,ともに
P<0.05),3,5日後ではいずれの群でも軽減したものの,横径の有意な増大が残存した(5日でそれぞれ113%および113%)。CFA+D群では,CFA投与1日後に有意な増大(127%)を示したが,その程度はCFA群よりも有意に軽度であり,3,5日では対照群との差が完全に消失した(それぞれ102%および98%)。後肢荷重時間比は,対照群(1.03±0.05)と比較してCFA群(0.79±0.13)で有意に減少したことから,疼痛性逃避行動の出現が示唆された。一方,CFA+M群およびCFA+D群では,後肢荷重時間比の減少は認められなかった(それぞれ1.00±0.11および1.00±0.09)。膝関節伸展ROMについて,筋切断前では対照群が151±3°に対し,CFA群で130±6°と有意な減少(屈曲拘縮)が生じた。一方,CFA+M群とCFA+D群では,それぞれ147±6°,151±2°と屈曲拘縮はほぼ完全に抑制された。膝屈筋を切除した後の伸展ROMは,対照群で165±5°であったのに対し,CFA群では153±5°,CFA+M群で154±4°と有意な伸展制限が認められた一方で,CFA+D群では165±9°と対照群と同等であった。【考察】CFA+M群では,関節炎による関節の腫脹は変化しなかった一方で,後肢荷重時間比の減少は完全に抑制された。これは,塩酸モルヒネの投与が炎症の程度に影響を及ぼすことなく,疼痛のみを抑制したことを示唆する。塩酸モルヒネ投与による鎮痛により,関節炎による筋切断前(筋性要因と関節性要因を含む)の屈曲拘縮はほぼ完全に抑制された一方で,筋切断後の伸展ROMはCFA群と同等であった。この結果は,関節炎に伴う疼痛が筋性制限の形成において重要な役割を担うが,関節性制限の形成には無関係であることを示す。また,CFA+D群では,関節の腫脹と後肢荷重時間比の両方が抑制され,炎症そのものが抑制されたことを示す。その結果,筋切断前後いずれの伸展ROMも対照群と同程度に維持された。この結果は,関節の炎症そのものが関節性の制限を引き起こしていたことを示唆する。本研究の結果から,関節炎に対する鎮痛や消炎が関節可動性の維持においても極めて有用であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】関節拘縮に対する理学療法は,その原因に関わらず関節可動域運動が中心となっている。本研究では,膝関節炎に続発する関節拘縮が,鎮痛および消炎によって軽減されることを明らかにした。この結果は,関節炎に続発する関節拘縮の予防を目的とした治療戦略において新たな視点をもたらす。
抄録全体を表示
-
坂本 淳哉, 森本 陽介, 石井 瞬, 関野 有紀, 片岡 英樹, 中野 治郎, 真鍋 義孝, 弦本 敏行, 沖田 実
セッションID: 1344
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】これまでわれわれは,末期股関節疾患患者における痛みの実態調査を行い,股関節周囲のみならず大腿や膝関節以下の遠隔部にまで痛みが広がること,また,関節形成術前(術前)における膝関節以下の痛みは関節形成術後(術後)の杖歩行獲得の遅延因子になることを報告してきた。したがって,末期股関節疾患患者に対しては遠隔部の痛みも考慮して理学療法を実践する必要があるが,このような痛みの発生メカニズムに関する知見は非常に乏しい。一般に,患部の遠隔部に発生する痛みは関連痛と呼ばれ,先行研究では股関節疾患患者に認められる膝関節周囲の関連痛には伏在神経の皮枝が関与すると指摘されている。しかし,実際には膝関節周囲の関連痛は起立や歩行といった動作時に認めることが多く,皮枝のみならず関節枝も関与している可能性がある。そこで,今回,末期股関節疾患患者における痛みの実態調査ならびに日本人遺体における閉鎖神経と大腿神経の股関節枝ならびに膝関節枝の肉眼解剖学的観察を行い,下肢関連痛の発生要因について検討した。【方法】対象は,2008年4月から2011年11月の間に当院整形外科において関節形成術が施行された末期股関節疾患患者113例とした。なお,認知症や膝関節疾患,腰部疾患,神経疾患を伴う症例については対象から除外した。そして,これらの症例における術前と術後約2週経過した時点における安静時痛,運動時痛の発生部位について調査し,川田らの報告(2006)に準じて下肢を鼠径部,大転子部,臀部,大腿前・後・外・内側面,膝関節前・後面,下腿以下の10か所に分類し,痛みの発生頻度と発生パターンについて検討した。また,術前に膝関節に痛みを有する症例については,術後の痛みの有無についても検討した。一方,肉眼解剖学的観察は平成24年度に所属大学医学部および歯学部において人体解剖学実習に供された日本人遺体2体を用いて行った。具体的には,各遺体における大腿神経と閉鎖神経から股関節と膝関節に分岐する神経について観察した。【倫理的配慮,説明と同意】痛みの実態調査は所属施設の臨床研究倫理委員会の承認(承認番号:13040158)を得て実施した。また,肉眼解剖学的観察については所属大学内の定められた実習室で行い,管理者の管理・指導のもと,礼意を失わないように実施した。【結果】術前の安静時痛の発生頻度は,鼠径部で最も高く38例(33.6%)に認め,次いで大転子部,臀部が高く21例(18.6%)に認められた。また,運動時痛も鼠径部で最も高く71例(62.8%)に認め,次いで臀部で42例(37.2%),大転子部で39例(34.5%)に認められた。遠隔部では,膝関節前面における発生頻度が最も高く,安静時で15例(13.3%),運動時で38例(33.6%)に認められ,術後は安静時14例,運動時26例で消失していた。一方,術後の痛みの発生頻度は術前と同様の傾向を認めたが,術前に比べると低かった。次に,術前の痛みの発生パターンは,鼠径部に加えて大腿前・内側面や膝関節前面に発生するパターンが多く,これは運動時で顕著であった。一方,肉眼解剖学的観察では,1体において右大腿神経の恥骨筋枝の一部が分岐して寛骨大腿靱帯の内側に達し,さらに,この大腿神経の一部が内側広筋を貫き膝蓋骨内側上方に達する所見を得た。また,別の1体では左閉鎖神経の後枝の一部が恥骨大腿靱帯に沿って股関節内側に達し,さらに,前枝の一部が内転筋管内で大腿神経と合流して膝蓋骨の内側下方に達する所見を得た。【考察】痛みの発生頻度の結果から,術前における末期股関節疾患患者の遠隔部の痛みは膝関節前面で最も多く,その発生頻度は大転子部や臀部のそれと同程度であり,また,安静時に比べて運動時に高いことを確認した。そして,その多くは術後に消失しており,膝関節前面の痛みは股関節を起源とした関連痛の可能性が高いといえる。加えて,大腿神経や閉鎖神経の支配領域に痛みが発生するパターンが多く,また,肉眼解剖学的観察においては同一の大腿神経や閉鎖神経から分岐して股関節や膝関節に達する関節枝の存在が認められた。以上のことから,関節形成術を余儀なくされる末期股関節疾患患者の膝関節前面の痛みには,大腿神経や閉鎖神経の膝関節枝が関与している可能性があると推察される。ただ,今回,観察できた遺体は2体と少なく,今後は観察数を増やして詳細な検討を行うが必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究では,末期股関節疾患患者にみられる遠隔部の痛みの多くは関連痛である可能が高く,それには末梢神経の解剖学的特徴が関与している可能性を示した。つまり,この成果は股関節疾患患者の理学療法を考える上での基礎的データになると思われ,理学療法学研究としても意義あるものと考える。
抄録全体を表示
-
松尾 英明, 内田 研造, 中嶋 秀明, 渡邊 修司, 竹浦 直人, 久保田 雅史, 嶋田 誠一郎, 馬場 久敏
セッションID: 1345
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】神経障害性疼痛は,神経系の機能障害や損傷により引き起こされ,臨床症状として,アロディニア,痛覚過敏,持続痛や自発痛をもたらし,日常生活活動に障害をきたす。経皮的末梢神経電気刺激(TENS)は,神経障害性疼痛患者に対して,疼痛の緩和を目的にリハビリテーション領域で行われてきた治療手段の一つである。神経障害性疼痛患者あるいは動物モデルを対象にした研究からTENSが,有効である可能性が報告されているが,その組織学的検討を行った報告は少なく,その作用機序については十分に明らかにされていない。これまで我々は,神経障害性疼痛モデルマウスに対するTENSの効果について検討を行ってきた。その結果,TENSは神経障害性疼痛モデルマウスの痛覚過敏を改善し,神経障害性疼痛の発現や持続に関与する脊髄後角表層のグリア活性を抑制する事を報告してきた。しかしながら,TENSの鎮痛メカニズムについては,まだ明らかにできていない。これまでの先行研究から,TENSの鎮痛メカニズムには脊髄後角におけるオピオイドレセプターが関与する事が仮説として考えられるが,神経障害性疼痛モデルでは脊髄後角のオピオイドレセプターが減少する事が報告されており,未だ議論の余地が残る。今回,我々はマウス神経障害性疼痛モデルに対するTENSが,行動学的評価および脊髄後角におけるオピオイドレセプターに及ぼす効果を検討した。【方法】対象は9週齢ICRマウス(n=30)とした。神経障害性疼痛モデル群であるspared nerve injury(以下SNI)手術を施行したマウスをSNI群,SNI術後にTENS治療を行ったマウスをTENS群,Sham手術を行ったマウスをSham群とした。SNI手術は,左坐骨神経の分枝である左総腓骨神経,左脛骨神経を6-0絹糸で結紮し,遠位部を切断し,左腓腹神経を温存する手術である。TENS群には,SNI術後翌日からTENSを行った。TENSは,電気刺激装置を使用し,左側の腰髄支配領域である傍脊柱筋の直上の皮膚を刺激した。TENSは,麻酔下にて行い,周波数100Hz,刺激強度は筋収縮が生じない最大強度,刺激時間は30分間とし,毎日1回実施した。行動学的評価は,痛覚検査装置を使用し,左後肢を機械的刺激および熱的刺激に対する疼痛閾値について評価した。機械的刺激に対する疼痛閾値の評価として,漸増する圧刺激を足底に加え,逃避反応が生じた際の圧力を評価するPaw pressure testを実施した。熱的刺激に対する疼痛閾値の評価として,輻射熱刺激装置を用いて,一定の熱刺激を足底に加え,逃避するまでの時間を評価するHargreaves testを実施した。モデル作成前に行動学的評価を行い,モデル作成翌日から7日間毎日,行動学的評価とTENSを行った。術後8日目に安楽死させ,L4-5髄節の脊髄を採取し,蛋白質を抽出し,電気泳動の後,Western blotting法にてオピオイドレセプターの2つのサブタイプであるμオピオイドレセプター,δオピオイドレセプターの半定量化をそれぞれ行った。統計は,一元配置分散分析ののち,Bonferroniの多重比較を行い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,実験動物に対する処置などの取り扱い方法について福井大学動物実験委員会の承認を得て実施している。【結果】SNI群では,術後1日目から7日目まで継続して,Sham群と比較し,機械的および熱的刺激に対する疼痛閾値の低下を認めた。TENS群では,SNI術後翌日には疼痛閾値の低下を認めたが,術後2日目から7日目まで徐々に機械的および熱的刺激に対する疼痛閾値低下の改善を認めた。Western blotting法にて,μおよびδオピオイドレセプターは,SNI群ではSham群と比較しオピオイドレセプターの減少を認めたが,TENS群ではSNI群と比較し有意に増加していた。【考察】神経障害性疼痛モデル動物に対するTENSは,疼痛閾値の低下を抑制する事が報告されており,本研究もこれを支持する結果であった。また,神経障害性疼痛モデル動物では,脊髄後角における疼痛抑制系であるオピオイドレセプターが減少する事が報告されている。本研究の結果からTENSは,神経障害性疼痛モデルマウスのオピオイドレセプターの維持に関与し,TENSの鎮痛機序として作用する可能性がある事が推察された。【理学療法学研究としての意義】神経障害性疼痛モデルに対するTENSの効果を行動学的評価から検討した報告は散見されるが,その鎮痛機序を検討した報告は少ない。本研究は,神経障害性疼痛に対するTENSの鎮痛効果およびメカニズムを基礎研究から明らかにしようとするものであり,理学療法研究として意義があると考えている。
抄録全体を表示
-
安延 由紀子
セッションID: 1346
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】近年高齢者の転倒,寝たきりのリスクのひとつとして,加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)が注目されている。一般にサルコペニアは,加齢に伴って生じる身体機能低下である「虚弱(Frailty)」の臨床的表現型として捉えられ,その頻度は75歳未満で15~30%,75~79歳で25~40%,80歳以上では50~60%とされている。一方で,近年増加している肥満高齢者にもサルコペニアの表現型が認められ,それは「サルコペニア肥満」と呼ばれており,単純な肥満より転倒リスクのみならず心血管病発症リスクが大きいことが問題となっている。しかし,肥満高齢者の背景にある生活習慣病とサルコペニアとの関連性についてはまだ明らかでなく,その関連性を解明し,予測因子を同定することは,高齢生活習慣病患者の健康寿命の延長に寄与すると考えられる。そこで我々は,生活習慣病患者を対象に,筋力低下の実態把握と関連する因子を明らかにすることを目的とし,検討を行った。【方法】対象は,2012年4月から2013年9月に大阪大学医学部附属病院老年・高血圧内科に入院した65歳以上の症例166例(男性:平均年齢74.4歳,BMI 23.3 kg/m
2,女性:平均年齢75.8歳,BMI 22.8kg/m
2)である。測定項目は,入院後3日以内に各種身体機能検査(握力,等尺性膝伸展筋力,身体計測,開眼片脚立ち時間,10m最大歩行速度,重心動揺検査,下肢荷重検査)を施行した。筋量は推定式を用いて算定した。また入院当日に看護師により転倒転落リスクアセスメントスコアの作成を行い,生活習慣病の有無や入院中に施行した各種検査との関連解析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】各種検査の施行にあたっては,その主旨・目的を説明の上,対象者から口頭で同意を得た。各種データの使用にあたっては,大阪大学医学部附属病院の臨床研究倫理審査委員会の承認の上で実施した。【結果】推定式を用いた筋量では,各年代における年代別基準値の-2SD以下の割合は,70~79歳の男性11%,女性25%,80歳以上の男性53%,女性23%であり,既報のサルコペニア頻度より少ない結果となった。一方,膝伸展筋力では70~79歳の男性29%,女性37%,80歳以上の男性80%,女性76%に筋力低下が認められ,既報のサルコペニア頻度に近いことが明らかとなった。また,筋量・筋力と他の測定項目との関連を見ると,筋量は握力のみと関連が認められたが,下肢筋力はほぼすべての項目において関連が認められた。筋量と糖尿病,高血圧の関連については,年代別基準値の-2SD以下の筋量低下と糖尿病または高血圧の有無との間に関連を認めなかった。一方,筋力と糖尿病,高血圧の関連については,年代別基準値の-2SD以下の筋力低下と糖尿病の有無との間に有意な関連を認め(p=0.04)たが,高血圧では,筋力低下が多い傾向を認めた。転倒アセスメントスコアと筋量,筋力との関連においては,筋量はどの項目とも関連を認めず,筋量の評価では実際の転倒リスクを反映しにくいことが示された。一方筋力においては,スコアの合計点数が高く,転倒の危険度が高い程,膝伸展筋力は低下する傾向を認めた。また,問診による転倒既往と筋量,筋力との関連についても筋力の方が筋量より強い関連を示した。【考察】今回の検討から,軽度肥満傾向の生活習慣病患者において,筋力低下を示す割合のほうが筋量低下を示す割合より,既報のサルコペニアの頻度に近いことが示された。生活習慣病では,筋肉の単なる量的な変化よりも神経系を含めた筋力発揮,すなわちダイナペニアへの影響のほうが強いことが示唆される。糖尿病で筋力低下が多く認められたことは,糖尿病で経時的な筋力低下が強いことが過去に報告されており,それを支持するものと考えられるが,運動習慣の関与を考慮する必要があり,現在その検討を行っている。転倒転落リスクアセスメントスコアでの問診による転倒既往については,筋力が筋量より関連が強いことが明らかとなったが,転倒予測にも筋力測定が有用であるかについては,現在前向き(1年後)の検討を行っており,それにより明らかにできると考えられる。【理学療法学研究としての意義】生活習慣病を有すると筋力低下がより多く認められ,筋力は筋量より運動機能と良く相関することから,高齢生活習慣病患者における筋力測定の有用性が,本研究により示唆された。生活習慣病を有する高齢者は近年増加傾向であり,心血管病発症リスクが非常に高いことから,こうした集団に潜んだ筋力低下を早期に発見し,高い身体活動度を維持することが重要であると考えられるため,その実態把握や予防策の開発に寄せられる期待は大きい。
抄録全体を表示
-
建内 宏重, 塚越 累, 福元 喜啓, 黒田 隆, 宗 和隆, 秋山 治彦, 市橋 則明
セッションID: 1347
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】変形性股関節症(以下,股OA)は,関節可動域制限や疼痛,筋力低下を生じるため,歩行動作に著しい障害を認める。股OA患者の歩行の特徴としては,歩行速度や歩幅の減少,股関節角度の減少に加え,股関節モーメントの減少が挙げられる。関節モーメントは動作時の筋力発揮を意味し,歩行障害の運動力学的側面の評価として重要な指標である。しかし,関節モーメントは,3次元動作解析装置や床反力計などの機器を用いなければ測定が困難であり,臨床における視覚的な歩行分析では評価が困難である。そこで我々は,関節モーメントと関連する変数を視覚的に観察が可能な関節角度などの運動学的変数の中から抽出することができれば,臨床における歩行分析に有用と考えた。しかし,渉猟しうる範囲ではそのような研究は存在しない。本研究の目的は,股OA患者の歩行時の股関節モーメントと関連する運動学的変数(下肢関節,骨盤,体幹の角度・変位など)を明らかにすることである。【方法】対象は,股OAの女性患者21名(年齢59.5±5.8歳)とした。股OA患者の病期は全例末期であり,Harris hip scoreは61.9±13.4点であった。歩行動作の測定は,約7mの歩行路における自然歩行を,3次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製:200Hz)と床反力計(Kistler社製:1000Hz)を用いて記録した。数回の練習の後に,安定して行えた自然歩行を3試行記録した。測定時には,Tシャツとスパッツを着用し,plug-in-gaitモデルに準じて両下肢,骨盤,体幹に反射マーカーを貼付した。歩行は杖無しでの独歩で測定した。得られたデータから,歩行速度,歩行中の内的股関節伸展・屈曲・外転モーメントの最大値とともに,運動学的変数として,股関節屈曲・伸展,外転・内転,膝関節伸展・屈曲,足関節背屈・底屈の各角度,骨盤・体幹の3平面の各角度について,最大値と接地時,離地時の角度を求めた。また,骨盤に対する体幹の前後・左右方向の変位として,左右上後腸骨棘のマーカーの中点に対するC7マーカーの前後・左右方向の変位量を測定し,最大値と接地時,離地時の値を求めた。なお,関節モーメントは体重と下肢長で,骨盤に対する体幹の変位量は身長でそれぞれ標準化した。各変数について,3試行の平均値を解析に用いた。股関節モーメントと運動学的変数との関連性について,歩行速度を制御変数とした偏相関分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て,対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し参加への同意を書面で得た。【結果】歩行速度は1.0±0.1 m/秒であった。偏相関分析において,股関節屈曲モーメントは,股関節伸展角度と正の相関(r=0.66,p<0.01),骨盤前傾角度の最大値と負の相関(r=-0.60,p<0.01)を認めた。股関節伸展モーメントについては,股関節角度および骨盤・体幹の角度や変位量とは有意な相関を認めず,離地時の膝関節角度および遊脚期の最大膝関節屈曲角度と有意な正の相関を認めた(r=0.65,p<0.01;r=0.57,p<0.01)。股関節外転モーメントについては,体幹の患側への側屈角度と負の相関(r=-0.46,p<0.05)を認めたが,股関節および骨盤の角度とは有意な相関関係を認めなかった。【考察】股関節屈曲モーメントについては,立脚期後半の股関節伸展制限やその代償として生じる骨盤前傾角度の増加に着目することの重要性が示された。また,患側への体幹側屈が大きくなるとモーメントアームが減少し股関節外転モーメントは低下する関係にあり,股関節外転モーメントについては股関節や骨盤の動きよりも体幹の傾斜に着目することが重要であると考えられる。一方,立脚期前半に生じる股関節伸展モーメントは,離地時および遊脚期の膝関節屈曲角度と関連した。離地時や遊脚期の膝関節屈曲角度は,下肢の前方への振り出しの速度と関連することが報告されている。膝関節屈曲角度が大きいことは振り出しの速度が大きいことを意味し,接地時の衝撃も大きくなるため,その緩衝のために股関節伸展モーメントが増加するのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,股関節伸展モーメントについては股伸展角度と骨盤前傾角度,股関節屈曲モーメントについては離地時および遊脚期の膝屈曲角度,股関節外転モーメントについては体幹側屈角度に着目することが有用であることが示唆された。本研究は,多様な代償歩行を呈する股OA患者を対象とした臨床における視覚的な歩行分析にとって,重要な知見を提供するものと考える。
抄録全体を表示
-
木下 一雄, 中島 卓三, 吉田 晃啓, 相羽 宏, 桂田 功一, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
セッションID: 1348
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【目的】我々はこれまで人工股関節全置換術(以下THA)前後の靴下着脱能力に関与する因子の検討を行ってきた。我々の先行研究では対象をTHA症例として大腿骨頭壊死症と変形性股関節症を含めて検討をしてきたが,臨床的に術式は同じでも両者の機能的な術後経過は異なる場合が多いことを経験する。そこで本研究では大腿骨頭壊死症と変形性股関節症におけるTHA前後の股関節可動域および靴下着脱能力を比較検討し,術前後の機能的差異を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2010年の4月から2013年6月までに本学附属4病院にて大腿骨頭壊死症または変形性股関節症として診断されTHAを施行した407例とし,プロトコル通り経過した片側初回例とし,除外対象を中枢疾患の既往がある症例とした。た。大腿骨頭壊死症例(壊死群)は術前22例,退院時29例,術後2か月時(2M)18例,術後5か月時(5M)17例であり,変形性股関節症例(変股群)は術前151例,退院時180例,2M165例,5M115例であった。評価時期は術前,退院日,2M,5Mとした。調査項目は股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100),手術日から入院中の靴下着脱可能日までの日数(靴下可能日数),入院期間,各時期の端座位開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。靴下着脱可否の条件は端座位で背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし,それ以外を不可能とした。統計処理は,壊死群と変股群における年齢,BMI,入院期間の比較をマン・ホイットニーのU検定で,性別および各時期の靴下着脱の可否の比較をχ二乗検定用いて比較した。また,両群の各時期における股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離および靴下可能日数を各群の正規性および等分散の有無によって対応のないt検定,Welchの補正による2標本t検定もしくはマン・ホイットニーのU検定を使用し比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。また本研究は当大学倫理審査委員会の承認を受けて施行した。【結果】両群の基礎情報(年齢,性別,BMI,入院期間)のうち各時期の年齢においては壊死群が若く,性別においては壊死群は男性の割合が多く,変股群は女性の割合が有意に多かった。また,両群の各時期の機能評価項目に関して術前壊死群/術前変股群,退院時壊死群/退院時変股群,2M壊死群/2M変股群,5M壊死群/5M変股群で示す。両群の股関節可動域(°)に関しては,屈曲は82.9/80.3,87.5/84.0,87.7/84.2,92.0/89.3であった。外旋は33.4/28.8,31.5/30.6,38.6/34.9,42.0/38.3であった。外転は18.6/16.1,22.2/21.1,25.3/21.7,25.0/23.7であった。踵引き寄せ距離(%)に関しては54.8/54.4,63.8/59.0,64.0/64.1,68.8/67.3であった。靴下可能日数は壊死群では19.2日,変股症群では22.7日であった。各時期,各項目に関して有意差は認められなかった。両群の各時期における靴下着脱可否の割合(可能:不可能)は12:8/72:76,21:7/84:87,18:0/97:32,17:0/93:20であり,退院時,2M,5Mに有意差が認められた。【考察】本研究により壊死群および変股群におけるTHA前後の股関節可動域および股関節の複合的可動域の指標である踵引き寄せ距離に有意差は認められなかったが,両群における性別,年齢の比較および術後の靴下着脱可否の割合に有意差が認められた。靴下着脱動作は体幹から下肢までの多分節による複合動作である。変股群に関してはhip-spine syndromeに代表されるように股関節疾患と脊椎の可動性やアライメントの関係性が言われている。また,性差や年齢の違いによる体幹および下肢の筋力や体幹可動性への影響も関与している可能性がある。一方,大腿骨頭壊死症の原因はアルコール性,ステロイド性,外傷性などがあり,その原因によっても術前の経過や機能的レベルに違いがあると考えられる。したがって,今後は,靴下着脱に必要な体幹可動性や筋力的な要因,大腿骨頭壊死症の原疾患の違いによる罹患期間や原疾患の治療方法の違い,疼痛の程度等の影響も念頭に入れて研究を進めていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究により大腿骨頭壊死症および変形性股関節症患者のTHA前後における機能評価の視点や患者指導の効率化に対する一助となりうると考える。
抄録全体を表示
-
妹尾 賢和, 平尾 利行, 石垣 直輝, 細川 智也, 佐藤 謙次
セッションID: 1349
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】我々は前方進入法による人工股関節全置換術(THA)患者に対して入院期間6日(術後4日)のクリニカルパスを運用し(達成率88.3%),全症例において自宅退院が可能であった事を昨年の本学会で報告した。術後4日間で加速的にADLの獲得が必要とされるため,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。特に靴下着脱動作の自立は日常生活動作や生活の質の向上の観点からも重要であり,当院では前方から安全に靴下を着脱するために膝伸展位や股関節屈曲,外転,外旋位での方法を推奨している。しかし,術後早期における靴下着脱動作の獲得因子について明確に示した報告は少ない。本研究の目的は,THA術後3日目における前方からの靴下着脱動作の達成率を調査し,更に具体的な関節可動域の目標値を算出することである。【方法】2013年3月から6月に進行期,末期変形性股関節症と診断され,片側THAを施行した120例(男性16例,女性104例,平均年齢64.2(42-83)歳,平均身長156.3±8.1cm,平均体重57.7±10.1kg)を対象とした。調査項目は,靴下着脱動作の実施率(靴下着脱動作前方型を前方群,靴下着脱動作後方型と自助具使用が非前方群の2群に分類),術側における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈(示指~母趾の距離:母趾より近位をマイナス表記,母趾より遠位をプラス表記),開排値(背臥位にて術側膝関節90°屈曲位で開排し,腓骨頭から床への垂線の距離を棘果長で正規化)とし,術後3日目に測定した。除外基準は,両側同時症例,再置換症例とした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いた。目的変数は術後3日目における靴下着脱の前方群と非前方群とし,説明変数は術後3日目における股関節屈曲,外転,外旋可動域,長座位体前屈,開排値とした。有意水準は5%とし,有意性が認められた因子に関してROC曲線分析を用いてカットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は船橋整形外科病院倫理委員会の承認を受け(承認番号;2013012),対象者へ十分説明し,同意を得て実施した。個人情報保護のため得られたデータは匿名化し,個人情報が特定できないように配慮した。【結果】術後3日目における靴下着脱実施率は前方群が82.5%(99例),非前方群が17.5%(21例:後方型7.5%,自助具10%)であった。術後3日目における前方からの靴下着脱の可否に関与する因子として,股関節屈曲と開排値が抽出された。各オッズ比(95%信頼区間)は,股関節屈曲1.199(1.085-1.325),開排値0.9170(0.844-0.997)であった(p<0.000)。それぞれのカットオフ値,感度,特異度は,股関節屈曲では95°,53%,90%で,開排値では0.28,62%,82%であった。【考察】靴下動作着脱因子を検討した先行研究は散見されるが,術後3日目における靴下動作獲得因子を検討し,カットオフ値を示したものはなかった。本研究より,術後3日目における前方からの靴下着脱動作自立因子として股関節屈曲と開排値が抽出された。それらの項目に対してカットオフ値を検討したところ,術後3日目までの理学療法において,股関節屈曲95°以上を獲得し,更に開排値0.28以下を目指すことで前方からの靴下着脱動作の獲得が期待出来ると考えられる。また,今回の結果より複合動作である開排値が前方からの靴下着脱因子に抽出されている事から,単一の可動域方向だけではなく,骨盤の影響も考慮していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】近年医療経済的な背景から,THAにおけるクリニカルパスも短縮する傾向となっている。加速的にADLの獲得が必要とされる反面,脱臼に対するリスク管理は極めて重要である。今回得られた知見より,理学療法士が早期退院に対してリスクを把握し,具体的な目標を持ってTHA術後の理学療法を実施することで,日常生活動作の獲得や生活の質の向上につながるのではないかと考えられる。
抄録全体を表示
-
―身体機能との関連―
森 公彦, 建内 宏重, 脇田 正徳, 有馬 泰昭, 金 光浩, 長谷 公隆, 飯田 寛和
セッションID: 1350
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
フリー
【はじめに,目的】歩行時の床反力垂直分力は一般に二峰性を呈し,鉛直方向への身体の支持力を表す指標として歩行速度に影響を与える。変形性股関節症(股OA)では,股関節構造の破綻によって一側の下肢機能が低下すると,歩行立脚期に生じる床反力の制御が困難となり,患側と健側で異なる制御の歩行パターンを呈する。したがって股OA患者の歩行時の床反力垂直分力を分析することで,歩行における身体支持や制動,推進に関連する下肢機能を概ね把握できる可能性がある。特に最大速度で歩行する場合,それぞれの下肢機能に基づいた最大限の身体支持能力が歩行速度に及ぼす影響を分析できると考えられるが,これらを調査した研究は行われていない。本研究の目的は,1)股OA患者の最大歩行速度における患側と健側の床反力垂直分力の特徴を明らかにし,2)身体機能との関連を検討することである。【方法】対象は,末期片側性股OA患者33名(男性3名,女性30名)とした。平均年齢,身長,体重は64.4±10.7歳,153.2±5.7 cm,体重53.1±8.8kgであった。測定項目は,最大歩行速度での床反力,身体機能(脚長差,疼痛,関節可動域,下肢筋力)とした。床反力の計測では,歩行時に連続して床反力垂直分力が計測可能な靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて,約15mの歩行路をできるだけ速く歩行させ,最大歩行速度と床反力垂直分力を算出した。床反力波形から二峰性の同定が可能なデータを抽出し,床反力垂直分力の極値として単脚立脚期の前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の谷の最小値(Fz2),立脚期における単位時間当たりの面積値を平均荷重値として求め,いずれも体重で正規化した。脚長差は,股関節単純X線で涙痕間線から小転子頂点までの距離の差として計測した。疼痛は歩行時の股関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,他動下肢伸展拳上角度と股関節伸展角度を計測した。下肢筋力は,徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節伸展,股関節外転,膝関節伸展の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節筋力,膝関節筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位までの距離とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。統計解析は,患側と健側の床反力パラメータの比較はWilcoxonの符号付き順位検定を用い,歩行パラメータおよび身体機能の関連はSpearmanの順位相関係数を用いて検定した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。【結果】二峰性の床反力波形が同定不可能であった5名は解析対象から除外した。患側と健側の床反力パラメータの比較では,Fz1(患側105.8±9.7%,健側120.7±9.8%),Fz2(患側87.5±6.9%,健側76.4±7.0%),Fz3(患側107.3±7.0%,健側113.6±9.9%),平均荷重値(患側76.3±4.7%,健側80.3±5.0%)でいずれも有意差を認めた。最大歩行速度は患側Fz1(r=0.712,p<0.01),健側Fz1(r=0.538,p<0.01)と正の相関を示したが,患側と健側のFz1では相関関係を示さなかった(r=0.190,p>0.05)。患側Fz1は患側筋力のうち股関節外転筋力(r=0.407,p<0.05),股関節伸展筋力(r=0.425,p<0.05)と正の相関を示したが,膝関節伸展筋力(r=0.305,p>0.05)とは相関関係を認めなかった。健側Fz1は健側の股関節外転筋力(r=0.553,p<0.01),股関節伸展筋力(r=0.512,p<0.01),膝関節伸展筋力(r=0.596,p<0.01)すべてと正の相関を示した。Fz1は下肢筋力以外の身体機能と相関を認めず,Fz2,Fz3,平均荷重値はすべての身体機能と相関を認めなかった。【考察】荷重関節である股関節疾患では,床反力垂直分力前半の指標が歩行能力を反映し,患側では股関節周囲筋力,健側では股関節周囲筋力に加えて膝関節伸展筋力が関連した。これは,患側による鉛直方向の身体支持機能として,立脚初期に膝伸展筋力を有効に使用することが困難になっていることを示唆し,患側と健側のFz1値に相関はみられないことから,その病態には健側による代償機構を含めた歩行制御の変化が関与していると推察された。ゆえに歩行速度に応じた患側下肢機能が有効に作用しているかどうかを健側下肢との関係で個々に検討する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,股OA患者の最大歩行速度に影響を与える床反力およびそれを支える下肢筋力の関連性が患側,健側各々について明確になった。本研究は,股OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。
抄録全体を表示