理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 栗本 俊明, 宇佐美 郁治, 大塚 義紀, 岸本 卓巳, 徳山 猛, 福家 聡, 宮本 顕二
    セッションID: 0151
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】6分間歩行試験(以下6MWT)は本来歩行距離を測定するものだが,最近はSpO2も同時に測定し,歩行中の低酸素血症を評価するようになった。しかし,パルスオキシメーターによるSpO2測定は,体動の影響を強く受けることが知られている。そこで本研究では,健常者と呼吸器疾患患者を対象に,パルスオキシメーターを装着した上肢を振る場合と振らない場合の2通りで6MWTを実施し,体動(上肢の振り)がSpO2測定に及ぼす影響を検討した。【方法】対象は健常者19名[男/女=13/6,68.8±5.1(SD)歳,160.8±7.4cm,59.1±8.4kg,%FVC 92.7±11.0%,FEV1/FVC 78.8±5.8%],および呼吸器疾患患者23名[COPD 6名,特発性肺線維症3名,石綿肺7名,びまん性胸膜肥厚7名,男/女=23/0,72.2±5.5(SD)歳,162.0±6.6cm,58.0±7.4kg,%FVC 79.9±21.2%,FEV1/FVC 69.4±20.4%]。被験者にパルスオキシメーター(Pulsox 300XiTM,コニカミノルタ)を装着した状態で6MWTを実施し,その間のSpO2,脈拍,歩行距離を計測した。6MWTは通常通り両上肢を振りながらの歩行(通常歩行)とパルスオキシメーターを装着した側の前腕と手を低反発素材で覆い,スリングで肩から吊り下げ,その上肢を動かさないようにしての歩行(スリング歩行)の2種類行った。通常歩行とスリング歩行は最低10分の休憩を挟み,無作為の順に行った。パルスオキシメーター本体に保存されたデータは,パーソナルコンピュータに取込み,専用の自動解析ソフト(DS-5TM,コニカミノルタ)で解析した。上肢の振りの大きさは本体内蔵の3軸加速度センサにより検出した上肢の傾き角度の変化量から算出した。通常歩行とスリング歩行の間のSpO2および脈拍における測定誤差を検討するため,歩行開始から1秒毎に測定値の差(通常歩行-スリング歩行)を求め,その差全体(360秒)の平均値を被験者毎に算出した。SpO2の差の平均値が±2%(本機種の測定精度),脈拍の差の平均値が±5bpm(Jonesらの報告)以内に入らなかった場合を体動の影響による誤表示と判定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当該施設の倫理委員会の承認のもと,被験者に対し十分な説明を行い,書面による同意を得て行った。【結果】全被験者は6分間休憩をとることなく歩行した。健常者,呼吸器疾患患者共に,通常歩行とスリング歩行の間の歩行距離,歩行前SpO2,脈拍に有意差はなかった。一方,上肢の振りの大きさは両群共に通常歩行でスリング歩行より有意に大きかった(健常者64.3±34.7°:5.2±1.4°,呼吸器疾患患者29.4±30.8°:7.1±3.6°,p<0.01)。通常歩行とスリング歩行の間の測定誤差について,各歩行間におけるSpO2,脈拍の差の平均値は健常者でそれぞれ-4.8~1.1%,-86.2~5.0bpm,呼吸器疾患患者でそれぞれ-3.6~2.8%,-50.6~18.4bpmであった。SpO2の差の平均値が±2%以内に入らなかった者は,健常者で21%(4名/19名),呼吸器疾患患者で17%(4名/23名),脈拍の差の平均値が±5bpm以内に入らなかった者は,健常者で42%(8名/19名),呼吸器疾患患者で57%(13名/23名)であった。体動の影響による誤表示と判定された者の大半は,SpO2,脈拍が共にスリング歩行よりも通常歩行で有意に低値を示した。【考察】本研究において,パルスオキシメーターを装着した状態で通常通り6MWTを行った場合,健常者,呼吸器疾患患者共に,SpO2や脈拍が誤って低く表示される場合があることを示した。SpO2で異常値を示さなかった者でも,脈拍で異常値が認められた場合が多く,歩行中のSpO2は信頼性に乏しい。なお,体動の影響には個人差があり,これは歩行速度や上肢の振り方,指の解剖学的動脈血流の違いが要因として考えられる。以上より,6MWT中のSpO2はあくまで参考程度として評価すべきである。【理学療法学研究としての意義】パルスオキシメーターは体動の影響を受ける可能性があるにもかかわらず,実際には6MWT中の低酸素血症評価に用いられており,特発性間質性肺炎の重症度判定や6MWTの中止基準にも使用されている。本研究はこれらの現状に注意を喚起する意味からも重要である。
  • ―労作時の息切れに着目した検討―
    三栖 翔吾, 酒井 英樹, 沖 侑大郎, 本田 明広, 永谷 智里, 角岡 隆志, 三谷 祥子, 浅井 剛, 石川 朗, 小野 玲
    セッションID: 0152
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】労作時の酸素飽和度低下(Exertional Desaturation;ED)は,COPD患者の多くが有する症状であり,肺高血圧症や肺性心,死亡率と関連するとされていることから,リハビリテーションを実施する上で注目すべきものである。COPD患者の症状悪化を予防するためにもEDが生じる要因を明らかにする必要があり,これまでに,閉塞性障害の重症度や肺拡散能の低下など,COPDに関連する肺機能低下とEDとの関連性が明らかとなっている。しかし,EDについての報告は国外の調査によるものが多く,本国におけるEDの発生率やその関連要因についての報告はほとんどない。またEDの発生には,対象者の肺機能だけでなく,実際の労作に関係する因子も影響していることが考えられるが,そのような検討はまだ十分ではない。COPD患者は労作時に息切れを感じることが多く,息切れによって生活に制限が生じることもある。労作時の息切れが強いほどEDが生じる可能性が高くなると考えられるが,その関連性はまだ明らかになっていない。以上より,本研究の目的は,本国におけるCOPD患者におけるEDの発生率を調査し,また,EDと関連する因子について,労作時の息切れの程度を含めて検討することとした。【方法】本研究は,外来診療を受けている病状が安定したCOPD患者57名を対象とし,日常診療において実施された検査結果を後方視的に解析した。検査項目は,6分間歩行試験(6MWT),肺機能検査およびMedical Research Council(MRC)息切れスケールであった。6MWTでは,試験中の経皮的酸素飽和度(SpO2)を連続的に測定し,試験中にSpO2が88%以下となった者をED群,89%以上であった者をnon-ED群として対象者を2群に分けた。肺機能検査の測定項目より,%FVC,%FEV1.0,%DLCOを解析に用いた。MRC息切れスケールは労作時の息切れの程度を示す指標で,日常生活においてどの程度の労作で強い息切れが生じるかを評価する。統計解析は,EDに関連する要因を明らかにするために,身体計測学的特徴および測定項目の2群間の比較を,各測定値の特性に応じてそれぞれχ二乗検定,対応のないt検定,Wilcoxon順位和検定を用いて行った。さらに,従属変数をEDの有無とし,独立変数として2群間に有意な差が認められた項目を2区分変数として強制投入する名義ロジスティック回帰分析を行い,EDと独立して関連する要因の検討を行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者は,事前に口頭にて検査結果を研究目的として用いることを説明し同意を得た者であり,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。【結果】対象者の平均年齢は73.0±7.4歳,男性45名(78.9%)であった。ED群は20名,non-ED群は37名であり,EDの発生率は35.1%であった。2群間比較にて有意な差がみられた項目は,%FEV1.0,%DLCO,MRC息切れスケールであり,ED群はnon-ED群と比較して,%FEV1.0および%DLCOが有意に小さく(いずれもp=0.01),MRC息切れスケールが有意に大きかった(p<0.01)。名義ロジスティック回帰分析の結果,MRC息切れスケールが3以上である者はEDを生じるリスクが高かったが(オッズ比[95%信頼区間];6.0[1.4-28.8],p=0.01),%FEV1.0はEDとの独立した関連性はみられなかった。肺拡散能検査を実施したのは一部の対象者(29名)のみであったため,追加解析としてその一部の対象者において,上記モデルに%DLCOを加えた名義ロジスティック回帰分析を行った結果,MRC息切れスケールおよび%DLCOが,独立してEDと関連していた(ともにp<0.01)。【考察】本研究の対象者における6MWT実施時のEDの発生率は35.1%であり,本研究で用いたものと同じ基準を用いた国外の報告(32.1~39.3%)と同等の有病率であった。また,EDと独立して関連する因子として,MRC息切れスケールおよび%DLCOが抽出され,肺胞の機能障害と独立して,労作時の息切れの程度がEDと関連していることが示唆された。COPD患者は,肺機能障害に加え,労作と呼吸との同調の不十分さや呼吸補助筋の過度な活動などによる動作の効率性低下によっても,労作時の息切れが強くなっていくと考えられる。したがって日常生活における労作時の息切れが強い者は,動作の効率性低下により,その肺機能障害の程度以上にEDが生じる危険性が高くなっていたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本国においても病状が安定したCOPD患者の多くがEDを生じることが明らかとなり,EDについて注目する必要性が高いことが示された。また,リハビリテーションを実施し効率的な動作を獲得して労作時の息切れを軽減させることにより,COPD患者におけるEDの軽減につながる可能性が考えられた。
  • 江越 正次朗, 堀江 淳, 今泉 裕次郎, 市丸 勝昭, 直塚 博行, 上田 真智子, 白仁田 秀一, 阿波 邦彦, 宮副 孝茂, 田中 將 ...
    セッションID: 0153
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】COPD患者の健康関連QOLは,予後規定因子にもなりうるとされており,近年重要視されている。よって,健康関連QOLへの影響因子を調査することは重要なことであり,健康関連QOLを改善させるための理学療法の介入手段を検討する上でも重要となる。そこでCOPD患者の健康関連QOLへの影響因子について生活背景や身体特性に着目し検討した。【方法】対象は,研究の参加に同意が得られた安定期COPD患者57名である。対象の内訳は男性53名,女性4名,平均年齢73.2±10.1歳,1秒率(FEV1.0%)49.6±13.3%であった。修正MRC息切れスケール(mMRC)は,Grade0が3名,Grade1が20名,Grade2が23名,Grade3が7名,Grade4が4名であり,GOLD重症度分類は,1期が6名,2期が24名,3期が19名,4期が8名であった。なお,対象の選定においては,重篤な内科的合併症の有する者,歩行に支障をきたすような骨関節疾患を有する者,脳血管障害の既往がある者,その他歩行時に介助を有する者,理解力が不良な者,測定への同意が得られなかった者は対象から除外した。測定項目は,COPD患者57名に対し,健康関連QOLテストとしてSt George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ),生活背景,年齢,Body Mass Index(BMI),mMRC,呼吸機能検査,6分間歩行距離(6MWD),長崎大学呼吸器疾患ADL質問票(NRADL)を評価した。生活背景の調査項目は,仕事,配偶者,同居家族,飲酒,喫煙,運動習慣,車の運転,合併症,HOTの使用,住環境,呼吸器疾患での入院の有無,呼吸器疾患の増悪回数について質問票にて調査した。統計学的解析は,SGRQの中央値39.7で2群に分類し,SGRQが39.7未満群(QOL保持群)28名と,SGRQが39.7以上群(QOL低下群)29名で,各測定項目を分析した。生活背景において,名義尺度はχ2独立性の検定を行い,順序尺度はMann-Whitney検定を行い2群間の関係を分析した。年齢,BMI,呼吸機能,6MWD,NRADLは,独立サンプルによるt検定を行い,mMRCはMann-Whitney検定を行い2群間の特性を分析した。また,SGRQに影響を及ぼす規定因子の抽出は,従属変数をSGRQ,独立変数を有意な関連が認められた項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析を用いて分析した。統計解析にはSPSS ver.11.0Jを使用し,統計学的有意水準は5%とした。データ表記は平均値±標準偏差と中央値で示した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は,研究の概要を口頭にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名で同意を得た。その際,参加は任意であり,測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと,また同意後も常時同意を撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。【結果】生活背景では,QOL保持群とQOL低下群において,運動習慣(p=0.02),HOTの使用(p=0.01),家外環境(p=0.01),呼吸器疾患での入院の有無(p=0.04),呼吸器疾患の増悪回数(p<0.01)に有意な関連が認められた。身体特性では,mMRC(1vs 2;p<0.001),FVC(2742.8±904.0vs 2389.3±661.5ml;p=0.03),%FVC(87.4±20.6vs 75.7±19.2%;p<0.01),FEV1.0(1556.4±645.4vs 1054.4±483.5ml;p<0.01),%FEV1.0(63.4±16.9vs 46.3±22.3%;p<0.01),FEV1.0%(55.9±9.6vs 43.6±13.8%;p<0.001),6MWD(433.6±121.1vs 294.4±133.0m;p<0.001),NRADL(速度(p<0.001),息切れ(p<0.001),酸素(p=0.01),連続(p<0.01),合計(p<0.001))に有意差が認められた。ステップワイズ分析の結果,SGRQに影響を及ぼす規定因子は,mMRC(β=0.42,p<0.001),運動習慣(β=-0.33,p<0.01),呼吸器疾患での入院の有無(β=0.23,p<0.01),% FEV1.0(β=-0.22,p=0.03)であった(R2=0.63,p<0.001)。【考察】有意な関連が認められた項目を独立変数,SGRQを従属変数としてステップワイズ分析した結果,mMRC,運動習慣,呼吸器疾患での入院の有無,% FEV1.0が規定因子として抽出され,6MWDは除外された。よってCOPDの呼吸リハビリテーションでは,6MWD向上後の日常的な運動習慣の定着が重要であり,そのことで呼吸困難増悪の予防,急性増悪の予防を図っていくことがQOL保持に重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】COPD患者のQOLを保持するためには,気流制限の重症化の予防と同様に,運動習慣の定着が重要である。そのためには患者の運動へのアドヒアランスを高める教育・指導等の包括的呼吸リハビリテーションが必要である。その重要性が示された有意義な研究となった。
  • 小林 茂, 平田 一人, 織田 恵輔, 吉川 貴仁, 藤本 繁夫
    セッションID: 0154
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)は主に換気障害とガス交換障害のために炎症性変化が生じ,全身の生理機能が低下する。さらに,安静時および運動時の低酸素血症の存在が血管内皮障害を介して脳血管にも及び,高次脳機能の注意・認知機能の障害に影響すると考えられる。我々は,COPD患者の運動時低酸素血症(以下,EIH)と活動性の低下が注意・認知機能に関与したことを報告してきた。特に同患者は高齢者が多く,生活習慣病の合併がある症例が見られ,動脈硬化の関与が考えられた。そこで本研究ではCOPD患者の運動介入後の注意機能に及ぼす頚動脈内膜中 膜厚(以下,IMT)の関係を検討する。【方法】対象は症状安定期にある男性のCOPD患者12名,平均年齢73.5±6.5歳で,GOLDの病期分類軽症1名,中等症:7名,重症:3名,最重症1名であった。その中で運動中に指先での酸素飽和度が88%以下となった症例(以下,EIHあり群)8名は平均年齢75.5±5.8歳であった。一方,EIHを認めない(以下,EIHなし群)4名(平均年齢69.5±5.8歳)を対照群とした。プロトコールは20分間の安静に続いて,リカンベントエルゴメータによるAT強度10分間の運動を50回転/分で施行し,終了後10分間の安静とした。また,安静時および運動中・後の前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(以下,oxy-Hb)は近赤外線分光法(以下,NIRS)を用いて,注意機能に関与していることが報告されている前頭前野にあたる前額部の左右2ヶ所で測定した。注意機能検査としてTrail Making Test(以下,TMT)を安静時に2回,運動終了3分後と6分後に施行した。日を変えて頚動脈壁エコーによりIMTを測定し,左総頚動脈と球部の二箇所の肥厚最大値を求め,その平均値をIMTの肥厚程度(以下,mean IMT)とした。分析は安静時に対する運動後のTMT時間,oxy-Hbの変化量とmean IMTを両群で比較し関係を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はO大学医学部倫理委員会の承認を得て臨床研究として実施した。対象者には事前に口頭と文面にて研究内容と方法を説明し同意書を得た。【結果】1 TMTの変化EIHあり群は安静時91.8±20.4秒から運動後82.0±19.2秒に有意(P<0.05)な改善を認め,EIHなし群では安静時98.0±18.2秒から運動後84.0±13.3秒に有意(P<0.01)な改善を認めた。群間比較においては両群で有意な差を認めなかった。2 oxy-Hb濃度の変化EIHあり群は安静時を基準として運動後に2.5±2.3μmol/Lの有意(P<0.01)な増加を示し,EIHなし群では同様に3.1±2.1μmol/Lの有意(P<0.01)な増加を示した。群間比較においては両群で有意な差を認めなかった。3 IMTの結果EIHあり群のmean IMTは2.1±0.7mmであり,EIHなし群のmean IMTは1.2±0.5mmで,両群間に有意(P<0.05)な差を認めた。また,mean IMTは⊿TMT(安静時に対する運動後の変化量)と有意な負の相関(R=-0.54,P<0.05)関係が認められ,IMTが厚い症例ほどTMTの改善が少なかった。,同じく,⊿oxy-Hb濃度との間では相関(-0.49,(P<0.1)傾向にとどまり,IMTは厚い症例ほどoxy-Hb濃度の増加が少ない傾向が認められた。【考察】今回,AT強度の10分間の運動において,運動後のoxy-Hb濃度の増加に伴ってTMTによる注意機能が改善した。oxy-Hb濃度の増加は脳血流量の増加を反映しており,脳血流量の増加が注意機能改善に関係したものと思われた。このことは運動がEIHの有無に関わらず脳血流量を改善し,注意機能を改善する可能性がある。しかし,meanIMTはTMTの変化量と負の相関を示し,oxy-Hb濃度の変化量とは負の傾向を示した。このことは,IMTが反映する脳動脈硬化の存在が疑われるCOPD患者では,運動後のoxy-Hb濃度の増加が少ないことに伴ってTMTの変化も少なかった。以上より,動脈硬化が疑われるCOPD患者では,低酸素血症と合わせて動脈硬化の存在が,運動において脳血流量を増加することができないメカニズムとして加わり,注意機能の改善効果が乏しいことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】COPDにおける運動介入が同患者の注意機能改善に有効と考えられたが,同患者で低酸素血症に加えて脳動脈硬化が注意機能障害の一因子と考えられた。
  • 本多 雄一, 森下 友紀子, 杉野 亮人, 平松 政高, 南方 良章, 山本 信之
    セッションID: 0155
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】在宅酸素療法(LTOT)患者は,主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)であり,LTOT導入中の患者は身体能力の低下,日常生活動作,QOLの低下がみられる。COPD患者の生命予後は,日常活動性に最も影響され,LTOT患者の日常活動性維持は重要である。COPD患者の運動耐容能,日常活動性,QOLの改善に対し,リハビリテーションの有効性は報告されているが,同時に中止後の運動耐容能,活動性,QOLの低下も明らかであり,それらを維持させるための対策が必要である。近年,障害者の運動能力,日常活動性向上を目的としたフライングディスク(FD)競技が注目され,呼吸器疾患患者への導入も行われつつある。今回,LTOT患者の日常活動性維持,向上を目的し,FD競技をLTOT導入中の呼吸器疾患患者に実施させ,FD競技が日常活動性に比べどの程度の活動性に相当するか,また継続実施の忍容性について検討した。【方法】和歌山県の在宅酸素療法患者会総会に参加したLTOT導入中患者13名(COPD10名,間質性肺炎(IP)3名)に対し,FD競技の試技・実技を実施し,FD競技前後でのSpO2,心拍数(HR),修正Borg scaleを計測し,FD競技中の活動量を測定した。また,FD競技終了後,アンケートを実施し,その後,14日間の日常活動性を測定した。なお,SpO2,HRの測定は,フィンガーパルスオキシメーター(PULSOX-M;TEIJIN, Osaka, Japan)で,活動性の測定は,Actimarker(Actimarker;Panasonic, Osaka, Japan)で行った。FD競技中の活動性は,FD試技開始から競技終了までとし,日常活動性は杉野らの方法に準じ,14日間から雨天,休日,特殊な活動をした日を除いた3日間を選択した。統計処理は,Graph Pad Prism 5(GraphPad Software, San Diego, CA)で行い,日常活動性とFD競技中の活動性比較,SpO2,HR,修正BorgスケールのFD競技前後の差にはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。なお,p<0.05を統計的有意と判定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,和歌山県立医科大学倫理委員会の承認を受け,対象者には研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た(承認番号:968,1247)。【結果】対象患者の13人中,2人は試技後,SpO2 85%以下となったため対象から除外した。最終的に対象は,COPD8名,IP3名となり,平均年齢76.2±5.3歳,BMI22.5±3.1kg/m2,主な呼吸機能はFVC2.04±0.93L,FEV1.01.20±0.54L,FEV1.0% predicted 63.5±26.5%であった。FD競技実施後,SpO2は最低で88%,HRは最大で130拍/分,修正Borg scaleは最大で5でありFD競技前後でいずれも有意に変動した。FD競技中の活動性(% duration of activity)は日常活動性と比べ,≧2.0METs,≧2.5METsでFD競技中の割合が有意に髙値であった。≧3.0MET,≧3.5METsの割合は高い傾向であったが,有意差は認めなかった。アンケート結果は,息切れや疲労を感じる一方で,楽しいや次回参加希望,LTOT患者でも実施可能であるなど継続施行を希望する意見が多かった。【考察】FD競技の忍容性については,除外した2名以外は呼吸器疾患患者の運動療法中止基準であるSpO2が90%以下,心拍数が140回/分以上,修正Borg scaleが9以上とならず,SpO2に関しては,88%まで低下した2名もすぐに90%台に回復していた。そのため簡易な労作でSpO2≦85%とならないLTOT導入中の患者ではFD競技は安全に実施可能であることが示された。FD競技の活動性は日常活動性と比べ,≧2.0METs,≧2.5METsで割合が有意に増加していた。COPD患者の運動療法では,低強度の運動でも効果があるとされ,継続性に関しては低強度負荷が推奨されている。今回のFD競技は,低強度であり短時間の運動であるが,短い時間でも繰り返し競技を行うことが,日常活動性のパターンを変化させる可能性があると考えられる。アンケート結果は,息切れや疲労を感じる一方で継続施行を希望する意思が確認できた。COPD患者では,長期的なリハビリテーションは,短期的なものに比べ,身体機能の改善効果が高く,また,リハビリテーション終了後の運動耐容能,QOLの改善効果の維持は1-2年である。また,継続性向上のための要素としては,十分なコンディショニングや他者との助け合い,プログラムの楽しさ,報酬システムなどとされている。そのため,このような呼吸器疾患患者の持続的な運動療法の手段,機会の提供は重要であり,FD競技はLTOT患者が継続して実施可能であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】LTOT患者に対するFD競技は,実施可能で継続性の可能性も示され,FD競技は低強度の活動であることが判明した。今後,定期的な競技への参加がLTOT患者の日常活動性維持,向上させることが期待された。
  • 有田 真己, 岩井 浩一, 小林 聖美, 渡邊 勧, 勝村 亘
    セッションID: 0156
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】適切な身体活動や筋力トレーニングの実施は高齢者の体力改善,および生活習慣病の予防や改善に有用であることも周知の事実となっている。高齢者に対する運動推奨ガイドラインでは,中等度の強度の身体活動を週5回行うことが望ましいとされている。しかし,通所リハビリテーションを利用する要支援・要介護者における施設での能動的な運動量は十分とは言えずホームエクササイズ(Home Exercise;以下,HE)の定期的な実践が求められている。自宅で自主的に筋力トレーニングおよびバランストレーニングを実施すること,すなわちHEの継続的な実施は,高齢者といえども筋力およびバランス能力を向上させる。しかしながら,高齢者を対象とした研究によれば,退院後4週の時点でHEを週5回以上実施している者は,わずか10%である。このように,HEの実践においては高齢者が自主的にトレーニングをしなければならないため,負担が大きいことが予想される。有田らのHEの実施を阻害するバリア要因を特定した研究によれば,施設と自宅における運動の実施率のギャップには,身体的,心理的要因が影響していることが推測される。したがって,HEのメニューは,手軽な内容であり,そのメニューに対する対象者のアクセプタビリティー(Acceptability;受け入れやすさ),あるいは「これならできる」といった「自信」の程度を探ることは,対象者にマッチした内容につながりアドヒアランス(Adherence;活動の継続性)を向上させる上でも重要と言える。また,Rhodesらは,心理的因子であるセルフ・エフィカシー(Self-Efficacy;以下,SE)がアドヒアランス向上に対する重要な役割を持つことを指摘している。そこで本研究の目的は,施設と自宅におけるHE実施に対する自信の差異の程度を明らかにし,運動種目とSEの関連について検討することを目的とする。【方法】要支援・要介護者114名(男52名,女62名;平均80.0±9.2歳)を対象とした。調査項目は,運動12種目(座位;膝伸展・もも上げ・両膝伸展,立位;片膝屈曲・片股外転・両踵上げ・スクワット・手放し立位・閉脚立位・片脚立位・横歩き・タンデム歩行)の実施に対する自信について,それぞれ,1.まったく自信がない,から5.絶対自信がある,までの5件法で調査した。さらに,「疲労」,「痛み」,「気分」,「時間」,「道具・環境」,「単独」の6項目からなるHome Exercise Barrier Self-Efficacy Scale(以下,HEBS),在宅運動変容ステージ,であった。統計解析は,対応のあるt検定,因子分析,およびピアソンの積率相関係数にて算出した。なお,データ解析には,SPSS17.0を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,理学療法科学学会研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号;SPTS2012002)。調査対象者に本研究の目的,協力の任意性等を文書および口頭で説明した。【結果】施設と自宅のそれぞれにおいて各運動12種目を実施する自信との差の結果,すべての種目において有意差が認められ,自宅における運動の自信が施設と比較し低い結果となった。また,運動12種目の自信の総得点における差の検定結果は,自宅における自信の得点が有意に低く,その効果量は高値を示した。運動12種目について因子分析を行った結果,2因子が抽出され,それぞれ立位運動の自信,座位運動の自信と命名した。HEBSの得点と2因子それぞれにおける相関係数,さらに,下位6項目と施設および自宅における自信との相関係数を算出したところ,いずれの項目も有意な正の相関を示した。【考察】本研究の目的は,施設と自宅におけるHE実施に対する自信の差異を明らかにし,運動種目とSEの関連について検討することを目的とした。検定結果から,高齢者は自宅で運動を実施することが施設で実施するよりも明らかに自信がないことがわかった。種目別にみると,立位運動の中でもバランス系の種目は,特に自信がなく,HEのメニューにバランス運動を組み込む場合は,十分な自信を聞き取る必要性が示唆される。HEBS得点と立位運動および座位運動の自信は,正の相関関係にあることからHEBSの得点を高めることが立位および座位運動の実施に対する自信を高め,HEの実践につながるのではないかと考える。さらに,HEBSの下位6項目と施設および自宅における自信では,正の相関関係にあることから下位6項目に配慮したHEの助言につながると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,各運動種目の自信,および心理的因子の項目を絡めることで,より対象者に受け入れやすいHEメニュー作りを可能とすることである。対象者に適したメニューが実施する自信を高めHEのアドヒアランスの向上につながることを期待する。
  • 後藤 文彦, 藤井 啓介, 西尾 さやか, 金田 紘佳, 渡邉 英弘, 小長野 豊, 和合 恵理, 鈴木 智美, 井戸 尚則, 岡山 直樹, ...
    セッションID: 0157
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】高齢者の要介護状態の悪化や発生を防ぐため,介護予防教室が各地域で展開されるようになった。介護予防事業には,一次予防事業と二次予防事業があり,後者では,運動器の機能,栄養改善や口腔機能の向上を目指したプログラムが単独で行われることが多かった。当院でも,病院スタッフによって虚弱高齢者でも安心して参加できる地域型運動教室として『さぼてんクラブ』を平成22年9月から開始し,運動器の機能向上を目的に実施している。高齢者においてうつ病は,精神疾患の中で発生頻度の高い事が知られているが,抑うつ状態の高齢者に対する運動介入の効果については,一致した見解を得ていない。そこで,地域在住高齢者を対象に,運動器の機能向上を目的とした運動教室において,抑うつ状態を有するか否かによって,運動面や心理面への効果に違いが生じるか否かについて確認しておく必要がある。【目的】本研究の目的は,当院で実施した介護予防運動教室『さぼてんクラブ』に参加した地域在住高齢者を対象に,レジスタンス運動を実施し,抑うつ状態の有無によって介入効果に違いがあるかを検討することとした。【対象】平成22年9月から運動教室『さぼてんクラブ』を4回実施した。対象は,本教室『さぼてんクラブ』に参加した地域在住高齢者116名のうち,介入前後で評価が可能であった73名(男9名:女64名)とした。介入前,対象に短縮版高齢者うつ評価尺度(Geriatric Depression Scale 15;以下,GDS)を実施し,得点が0~5点で抑うつ状態ではない者57名(以下,一般群;男6名・女51名,平均年齢71.5±6.7歳)と,GDSが6点以上で抑うつ状態と判断された者16名(以下,抑うつ群;男3名・女13名,平均年齢73.0±5.0歳)の2群に分けた。【方法】両群共に同一の『さぼてんクラブ』での運動教室を週1回の計9回実施した。介入前後に評価日を設け,筋機能と抑うつ状態の評価を実施した。1回90分間の運動教室のプログラムは,ストレッチとゴムバンドを用いたレジスタンス運動を中心に実施した。教室の休憩時間には,健康相談を実施し,参加者とのコミュニケーションを積極的にとるように努めた。介入前後の筋機能評価としてArm Curl(以下,AC)・Chair Stand(以下CS),抑うつ評価としてGDSを実施した。統計学的分析は,AC,CSの筋機能評価では両群間における各項目の変化を,反復測定による分散分析法を用いて検討した。GDSでは仰うつ群における介入前後の比較を対応のあるt-検定を用いて検討した。有意水準は危険率5%とした。【説明と同意】対象者には研究についての説明を行った上で,同意書で承認を得た。また,本研究は中部大学倫理審査委員会の承認を得て実施している。【結果】ACの結果は,一般群の介入前後で22.3±5.0回から25.5±4.5回へと14%改善し,抑うつ群介入前後では21.2±2.6回から23.8±3.8回へと12%改善した。この時,2群間の間に交互作用は認めなれなかった(p=0.45)が,経時変化は認められた(p<0.01)。CSの結果は,一般群の介入前後で20.9±5.3回から24.7±5.9回へと18%改善し,抑うつ群介入前後では20.3±4.4回から23.4±4.9回へと15%改善した。この時,2群間の間に交互作用は認めなれなかった(p=0.47)が,経時変化は認められた(p<0.01)。GDSの結果は,抑うつ群の介入前後で7.9±2.2点から6.4±3.4点へと19%改善した(p<0.01)。抑うつ群16名中9名(56%)が介入後にGDS5点以下となった。【考察】AC・CSにおいては,抑うつ状態の有無に関係なく,運動教室での介入によって,筋機能への効果は同様であることを示しているとみられた。一方,GDSにおいては,抑うつ群で抑うつ状態の改善傾向を認めた。山田ら(2013)によると,抑うつ状態を有する高齢者に対してレジスタンストレーニング教室を実施したところ,筋力・筋細胞量の増加に加え,抑うつ状態が改善したと報告しており,本研究の抑うつ群での結果と同様であった。また,当院の『さぼてんクラブ』では,スタッフや参加者同士で積極的にコミュニケーションをとることや,安心して運動に取り組めるよう健康相談も実施しており,これらの関わりも心理状態に影響を与えたことが考えられる。以上の事より,当院での運動教室においては,抑うつ状態にある高齢者においても,一般高齢者と同様に筋機能が向上し,さらに,抑うつ状態も改善できる可能性が示唆された。
  • 細井 俊希, 新井 智之, 丸谷 康平, 藤田 博曉
    セッションID: 0158
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】行動科学の理論・モデルに基づく指導は,対象者の行動変容を促すことが明らかとなっている。なかでも,自己決定理論を用いた介入は,精神的健康(うつ・不安・QOLの向上)や身体的健康(禁煙・運動・体重減少・血糖コントロール)に関する行動変容に効果があるとされている。本研究の目的は,自己決定理論を応用した運動指導が,地域在住高齢者の運動の採択と継続に与える影響について明らかにすることである。【方法】S県M町の老人福祉センターで実施されている健康教室に通う地域在住高齢女性で,週2回以上の運動習慣のない36名(年齢73.4±4.0歳,身長150.7±5.3cm,体重50.9±6.4kg)を対象とした。初回の運動指導から1ヵ月ごと,計7回のセッションを6ヵ月間実施し,1年後フォローアップを行った。評価は,初回と6ヵ月後に,筋力(アウター),筋力(インナー),柔軟性,バランス,持久力の5項目の運動能力チェック,E-SAS(生活のひろがり,転ばない自信,人とのつながり),および健康状態について調査した。また,効果への期待,楽しさ,覚えやすさ,習慣化,継続する自信について,5-リッカートスケールで調査した。計7回のセッションのうち,初回,2回目・4回目・6回目には運動能力チェックを行い,結果をフィードバックした。運動指導は,初回・3回目・5回目に実施した。毎回,筋力(アウター),筋力(インナー),柔軟性,バランス,持久力の5項目について1つずつ,計5つ,総計15の運動を紹介し,運動方法を示した図を配布し,方法を確認しながら行った。対象者には,自己決定理論の要素のひとつである「自律性」の向上を目的とし,紹介した運動の中から継続できそうなものを選択するよう促した。具体的には,「自分が続けられそうな運動を選んで,なるべく毎日実施してください」と説明した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき実施した。また,本研究は,研究者が所属する機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。本研究対象者には,説明文書を用いて説明し,署名をもって同意を得た。【結果】6ヵ月後には,96.7%が週2回以上の運動を実施しており,86.7%が週3回以上,36.7%がほぼ毎日運動を行っていた。1年後には,週3回以上の運動実施率は減少したものの,全員が週2回以上の運動を実施していた。運動指導直後,97.2%が効果が期待できると回答していた。また,初回時に比べ6ヵ月後に,覚えやすさ,継続する自信,転ばない自信,人とのつながり,健康状態が向上していた。運動能力もすべての項目で開始時を上回っていた。運動実施率を従属変数,楽しさ,覚えやすさ,習慣化,継続する自信を独立変数として重回帰分析を行った結果,継続する自信のみが抽出された。【考察】本研究で用いた自己決定理論を応用した運動指導は,高齢者の運動採択ならびに運動実施率の向上に寄与したといえる。また,運動を実施することで,運動能力の向上にもつながったと考える。評価において,初回に比べ6ヵ月後向上した項目は,覚えやすさ,継続する自信,転ばない自信,人とのつながり,健康状態→自らが続けられそうな運動を選択することで運動の継続につながり,それに伴い継続する自信,転ばない自信,健康状態や人とのつながりも向上したと考える。重回帰分析の結果,継続する自信が抽出されたことから,継続する自信を向上することが運動実施率の向上につながると考える。【理学療法学研究としての意義】介護予防事業や退院時指導で高齢者に運動を指導しても,指導した運動が継続されないことも多い。理学療法士が,行動科学の理論を理解し,それに基づいて運動指導することは,対象者の自主的な運動継続につながり,ひいては医療費の削減につながると考えられる。本研究は,行動科学の理論のひとつである自己決定理論を応用し運動指導することで,地域在住高齢者の運動実施率を向上させた。本研究で実施した運動指導は,理学療法士が運動指導する際に取り入れやすいと思われるため,本研究の意義は大きいと考える。
  • 井手 一茂, 堀山 裕史, 長澤 康弘, 松谷 実
    セッションID: 0159
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】今後,日本が迎える高齢者人口の増加に対し,介護を必要とする高齢者の数を減らす介護予防の考えは重要とされ,現在,介護予防を目的とした取り組みが各方面で行われている。こうした取り組みでは,身体活動・運動促進によるQOL向上を目的に体力科学的アプローチが行われ,運動パフォーマンスに主眼をおいた評価により,一定期間の介入による効果が報告されてきた。しかし,近年,身体活動・運動促進において,体力科学的なアプローチに加え,行動科学的なアプローチを行うことの重要性が指摘されているが,こうした取り組みを続ける中での高齢者の心理面の変化についての報告は未だ質・量ともに少ない。今回は「ある状況において必要な行動を効果的に遂行できる確信」である自己効力感(SE)のうち,運動行動へ適用されている運動自己効力感(以下,ESE)に着目し,定期的な運動を続けることで起こる高齢者の心理面の継時的変化を調査した。【方法】Y市の高齢者クラブに参加している認知機能に問題がなく,屋外歩行自立レベルの地域高齢者20名(男性5名・女性15名,平均年齢74.5±5.3歳)を対象に,半年に1回,「健康運動教室」として,運動の重要性に関する講義,運動指導を行った。運動指導は椅子に座った状態でセラバンドなどを使用する運動,ストレッチポールを用いた床上での運動を行った。そのうちの3回(①初回,②半年後,③1年後)で,ESEの聴取を行い,その結果を比較した。統計学的に,郡内比較にはKruskal-Wallis検定を行い,多重比較法はScheffe法を用いた。有意水準は5%とし,統計学処理には,統計ソフトJSTATを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画し,対象者には,本研究の主旨及び目的を口頭と書面で説明し,同意を得た。【結果】ESEは①14.7±4.5,②18.9±3.2,③14.5±1.6であり,初回実施から半年後ではESEの増加がみられたが,1年後では,減少していた。統計学的には,①・③と②の間にそれぞれ有意な差(p<0.05)がみられたが,①と③の間には有意な差はみられなかった。【考察】地域在住高齢者に対し,約1年間,運動の重要性に関する講義,運動指導を行った結果,初回実施から半年後ではESEの増加がみられたが,1年後では減少し,初回と同等の水準となっていた。Banduraは①遂行運動の達成,②代理的体験,③言語的説得,④生理的・情動的状態といった情報源を通じ,個人が自己効力感を高めるとしている。初回実施から半年後までのESEの増加の要因としては,集団で体操を行うことにより,上記の4つの情報が統合されたと考えられる。しかし,1年後,ESEが減少し,初回と同等の数値となっていた原因としては,1年間の運動を行う中で,指導した運動に慣れ,遂行運動の達成を得られるだけのレベルに達していなかった可能性が考えられる。また,高齢者クラブでは,全員で集まって運動を行う形式で運動を行っており,参加者自身に目標を立てさせる,セルフモニタリング(運動の実施記録)といった自己効力感を強化する方略については,実施できていなかった。介護予防を目的とした取り組みのうち,こうした運動教室では,同じ体操を長期間繰り返し継続して行う形式をとっていることが多いが,身体機能の維持・向上は得られていても,心理面ではマンネリが生じ,運動に対するモチベーションが低下している可能性がある。したがって,長期間の介入の中で,心理尺度による評価も定期的に行うことで,より効果的な介護予防を目的とした取り組みが行えると考える。【理学療法学研究としての意義】介護予防の取り組みの報告の中で,評価項目が運動パラメーターによるものがほとんどであり,心理尺度によるものは少ない。さらに1年以上にわたり,長期的な経過を追ったものは少ない。
  • 藤堂 恵美子, 樋口 由美, 今岡 真和, 北川 智美, 平島 賢一, 石原 みさ子, 上田 哲也, 安藤 卓, 水野 稔基
    セッションID: 0160
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】歩行は健康維持・増進に関連する重要な身体活動である。歩行時間の延長には,自宅周辺の近隣環境が歩きやすいことや,外出の目的地を有していることが関連すると報告されている。定年退職後の男性高齢者は外出の目的地が少なく,配偶者以外の他者との交流が乏しいと指摘されており,地域活動や社会活動の参加頻度低下や歩行時間短縮の可能性が考えられる。そこで本研究は,地域在住の男性高齢者を対象に,歩行時間延長の関連要因を検討することを目的とした。【方法】大阪府南部に位置するニュータウン一地区内の賃貸集合住宅全戸(1,100世帯)に,無記名自記式の質問紙を配布した。配布時期は平成24年5月,回収期間は平成24年6月から7月であった。調査項目には,1日の合計歩行時間,年齢,居住年数,家族構成,就労の有無,年収,学歴,管理職経験の有無,外出頻度,外出目的地,運動習慣,健康状態,将来意向,生活機能(老研式活動能力指標),友人数や交流頻度,自宅や近隣の環境を含み,それぞれの回答は選択式とした。回収率は59.4%(女性の白紙票を含む),65歳以上の男性高齢者の有効回答数は109であった。分析は,1日の合計歩行時間別に30分未満群と30分以上群の2群に再分類し,検討項目とクロス集計し,χ2検定を行った。外出目的地は,他者と交流できる目的地(趣味・地域活動,散歩,外食,友人と会う)を「他者と交流できる外出目的地」と定義した。更に,歩行時間延長の関連要因を明らかにするために,歩行時間を目的変数,単変量解析で有意な関連が認められたものを説明変数とし,強制投入したロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とし,全ての統計解析にはSPSS Statistics 20を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】研究への協力は対象者の自由意志によることを説明し,回収の際は個人が特定されることのないように配慮した。本研究は大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科研究倫理委員会の承認を得た。【結果】1日の合計歩行時間が30分未満群は35名(32%),30分以上群が74名(68%)であった。1人で外出できる者は30分以上群が96%に対し30分未満群は85%で,30分以上群は外出自立者が有意に多かった。老研式活動能力指標の社会的役割項目が4点満点の者は,30分以上群が42%に対し30分未満群は21%で,30分以上群は有意に点数が高かった。外出目的地がある者は30分以上群が87%に対し30分未満群は54%で,30分以上群は外出目的地を有する者が有意に多かった。外出をほぼ毎日している者は30分以上群が88%に対し30分未満群は71%で,30分以上群は外出頻度が有意に高かった。平成23年度税込年収が196~695万円以下の者は30分以上群が49%に対し30分未満群は25%で,30分以上群の所得は有意に高かった。老後の不安を感じている者は30分以上群が74%に対し30分未満群の91%で,30分以上群は不安を感じていない者の割合が有意に高かった。その他の項目は有意差を認めなかった。歩行時間延長に対するロジスティック回帰分析は,単変量解析で有意であった上記6項目を説明変数とした結果,他者と交流できる外出目的地があることのみが有意な独立関連因子であった(オッズ比3.46,95%信頼区間1.13―10.58)。【考察】外出する能力や外出頻度,暮らしぶり(経済性)に関係なく,男性高齢者の歩行時間延長には,「他者と交流できる外出目的地があること」が有意な関連要因であった。そのため,男性高齢者の歩行時間延長に対しては,外出の自立のみを目標とするのではなく,具体的な外出目的地を把握することが重要と考えられた。特に男性高齢者は定年退職後より外出範囲の狭小化が生じている可能性が高いため,地域と連携しながら外出目的地を増やすよう働きかける必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】地域高齢者の歩行時間延長の関連要因を明らかにすることは,生活期リハビリテーションを展開するための重要な知見である。厚生労働省の調査によると,訪問によるリハビリテーションの利用者は身体機能が改善しても,通所系サービス以外の地域活動や社会参加に繋がることが少ないとの指摘がある。外出目的地までの移動方法確立を目標とした多面的なアプローチを行うことができれば,男性高齢者の地域活動や社会参加に結びつくことが期待される。
  • 李 成喆, 島田 裕之, 朴 眩泰, 李 相侖, 吉田 大輔, 土井 剛彦, 上村 一貴, 堤本 広大, 阿南 祐也, 伊藤 忠, 原田 和 ...
    セッションID: 0161
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年の研究によると,心筋こうそく,脳卒中など突然死を招く重大な病気は腎臓病と関連していることが報告されている。クレアチニンは腎臓病の診断基準の一つであり,血漿Aβ40・42との関連が示されている。また,糖尿病を有する人を対象とした研究ではクレアチンとうつ症状との関連も認められ,うつ症状や認知症の交絡因子として検討する必要性が指摘された。しかし,少人数を対象とした研究や特定の疾病との関係を検討した研究が多半数であり,地域在住の高齢者を対象とした研究は少ない。さらに,認知機能のどの項目と関連しているかについては定かでない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象にクレアチニンが認知機能およびうつ症状とどのように関連しているかを明らかにし,認知機能の低下やうつ症状の予測因子としての可能性を検討した。【方法】本研究の対象者は国立長寿医療研究センターが2011年8月から実施した高齢者健康増進のための大府研究(OSHPE)の参加者である。腎臓病,パーキンソン,アルツハイマー,要介護認定者を除いた65才以上の地域在住高齢者4919名(平均年齢:72±5.5,男性2439名,女性2480名,65歳から97歳)を対象とした。認知機能検査はNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool(NCGG-FAT)を用いて実施した。解析に用いた項目は,応答変数としてMini-Mental State Examination(MMSE),記憶検査は単語の遅延再生と物語の遅延再認,実行機能として改訂版trail making test_part A・B(TMT),digitsymbol-coding(DSC)を用いた。また,うつ症状はgeriatric depression scale-15項目版(GDS-15)を用いて,6点以上の対象者をうつ症状ありとした。説明変数にはクレアチニン値を3分位に分け,それぞれの関連について一般化線形モデル(GLM)を用いて性別に分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】男女ともにクレアチニンとMMSEの間には有意な関連が認められた。クレアチニン値が高い群は低い群に比べてMMSEの23点以下への低下リスクが1.4(男性)から1.5(女性)倍高かった。また,男性のみではあるが,GDSとの関連においてはクレアチニン値が高い群は低い群に比べてうつ症状になる可能性が高かった1.6倍(OR:1.62,CI:1.13~2.35)高かった。他の調査項目では男女ともに有意な関連は認められなかった。【考察】これらの結果は,クレアチニン値が高いほど認知機能の低下リスクが高くなる可能性を示唆している。先行研究では,クレアチニン値は血漿Aβ42(Aβ40)との関連が認められているがどの認知機能と関連があるかについては確認できなかった。本研究では先行研究を支持しながら具体的にどの側面と関連しているかについての検証ができた。認知機能の下位尺度との関連は認められず認知機能の総合評価指標(MMSE)との関連が認められた。しかし,クレアチニンとうつ症状においては男性のみで関連が認められたことや横断研究であるため因果関係までは説明できないことに関してはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】老年期の認知症は発症後の治療が非常に困難であるため,認知機能が低下し始めた中高齢者をいち早く発見することが重要であり,認知機能低下の予測因子の解明が急がれている。本研究ではクレアチニンと認知機能およびうつ症状との関連について検討を行った。理学療法学研究においてうつや認知症の予防は重要である。今回の結果は認知機能の低下やうつ症状の早期診断にクレアチニンが有効である可能性が示唆され,理学療法研究としての意義があると思われる。
  • 武井 誠司, 清水 隆幸, 植松 光俊
    セッションID: 0162
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】わが国における地域高齢者の転倒率は柴田らより約10-20%と報告し,Vellasらは転倒により32%の高齢者が転倒恐怖感を抱く。この恐怖はWalkerらより日常の中で高い恐怖感であり,発生頻度はVellasらより地域在住高齢者では32%で女性の方が高いと報告している。そのため,黒柳は転倒により転倒恐怖感を招き,活動量が低下し,転倒しやすい状態を指摘している。しかし,転倒によってどのような動作において恐怖感が増加し,また,その転倒恐怖動作により身体能力にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。そのため,地域在住の障害高齢女性に対して,転倒の有無による恐怖動作と身体能力への関連について調査を実施した。【方法】2008年11月から2010年11月までの外来患者およびデイケア利用の女性42名を対象者とした。調査項目は,一般情報として年齢,性別,BMI,要介護度,主要疾患,ADL評価のBarthel Index(BI),過去1年間の転倒歴,転倒恐怖感,IADLは,老研式活動能力指標を使用,身体能力評価としてHHDによる膝伸展筋力(アニマ社製ミュースターF-1を使用),快適・最大歩行速度,開眼片脚保持時間(OLS),Functional Reach Test(FRT)およびTime up & go Test(TUG)とした。転倒恐怖感は,Modified Falls Efficacy Scale(MFES)を用い,14動作を転ぶことなく行う自信の程度を調査した。統計的処理としては,転倒歴の有無による各評価項目の比較においてはt検定,構成比比較にはχ2検定,転倒歴の有無別におけるMFESの14動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関はPearsonの相関係数を用い,その有意水準は危険率5%以下とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行った後に書面にて同意を得た。なお本研究の内容は,かなめ病院倫理委員会にて承認を受けた。【結果】過去1年間の転倒歴の有無により,MFESと身体能力の快適・最大歩行速度およびFRTにおいて有意差を認めるとともに,MFESの動作転倒恐怖感指標において「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を超す」に有意差を認めた。また,転倒歴の有無における動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関では,非転倒群においてMFES総合評点では膝伸展筋力以外の身体能力項目との有意な相関を認めるとともに,その動作項目2,6,7および8を除いた10動作において快適・最大歩行速度およびTUGと相関を認めた。一方,転倒群ではMFES総合評点と最大歩行速度およびTUGとの間で有意な相関を認めたが,わずかに動作項目4,11の転倒恐怖感指標においてほぼ同様の身体能力との有意な相関を認めたこと以外は,相関は認められなかった。【考察】本調査より,障害高齢女性では,転倒により転倒恐怖感が増加し,快適・最大歩行速度およびFRTの低下することを認めたが,Liddleらの「転倒恐怖感は転倒歴がある高齢者に強い」とした報告を支持するものであった。また,過去1年の転倒経験が,外出関連の3動作「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を越す」の転倒恐怖感が有意に大きい値を示した。これらの結果は,転倒恐怖感の増加・残存が,社会的交流の減少,QOL低下,身体活動量低下,ひいては廃用症候群の原因となるとするDeshpandeらの指摘のように,障害高齢女性は転倒により外出関連動作に対して恐怖感が増加し,これにより活動量が低下し,身体活動量の低下を引き起こす可能性が示唆された。今後は,転倒により転倒恐怖感が増加した障害高齢女性に対して,外出関連動作の能力向上介入による恐怖感の改善効果の検証が必要である。また,本研究結果は,転倒歴の有無にかかわらず最大歩行速度とTUGにおいて関連性を認めたが,田井中らの最大歩行速度は転倒と強く関連する,Shumway-CookらのTUGの総合転倒予測率は90%と高感度であるとする報告を支持するものであった。したがって,転倒経験により身体能力や動作に対する自信低下の早期改善のため,転倒恐怖感と関連が高い歩行と複合バランス能力向上が重要である。【理学療法学研究としての意義】本研究のような障害高齢女性において,過去1年以内の転倒経験が与える転倒恐怖感の増加する動作および身体能力に与える影響を明らかにした報告は見当たらない。今後の障害高齢女性の転倒,引きこもりおよび廃用予防対策における有用な知見となると考えられる。
  • 独居高齢者と非独居高齢者における比較検討
    井戸田 学, 古川 公宣
    セッションID: 0163
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】平成25年度版高齢社会白書によると,65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割を占めている。また近年,子との同居は大幅に減少しており,男女ともに独居高齢者が増加傾向を示している。高齢者が住みなれた地域で生活し,周囲との関わりを持ち続けていくためには社会参加の継続が不可欠である。なかでも外出行動は,身体機能の維持のために重要な活動であり,地域保健指導においても重視されている。一方,転倒恐怖感は高齢者にとって一般的な心理的問題であり,身体機能のみならず,社会参加に対しても影響を与えることが報告されている。同居者の有無といった家族背景は,転倒恐怖感を抱える高齢者が外出をする際の重要な要素のひとつであると考えられる。本研究の目的は,地域高齢者における家族同居の有無と転倒恐怖感および外出状況との関連性について検討することである。【方法】対象は,認知機能に問題がなく,週1回以上の外出を継続している地域高齢者40名(男性7名・女性33名,平均年齢79.0±6.7歳)とした。同居は,「子またはその家族と同一家屋内に居住していること」と定義し,その有無から対象者を独居群21名と非独居群19名に分類した。日中の同居時間については規定しなかった。転倒恐怖感の測定は,日本語版fall efficacy scale(以下,FES)を用いた。外出状況は,外出頻度:「最近1週間での外出日数」と外出レベル:「最近6カ月間での活動範囲」について,それぞれ4段階の順序尺度により評価した。なお,外出は同伴者の有無を問わないこととした。分析は,両群のFESと外出頻度および外出レベルをMann-Whitney検定により比較した。また,各群におけるFESと外出頻度および外出レベルとの関係についてSpearman順位相関係数を用いて検討した。統計処理にはSPSS ver.12を使用し,いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】対象者には事前に口頭および書面にて本研究の趣旨および個人情報の保護について説明し,十分な理解を確認した後,書面で承諾を得て実施した。【結果】FESは独居群35.7±2.4点,非独居群32.2±4.9点であり有意な差が認められた(P<0.01)。また,外出頻度について両群に差はなかったが,外出レベルについては有意な差が認められ(P<0.05),非独居群は独居群よりも転倒恐怖感は強いが外出レベルは高かった。各群におけるFESと外出頻度/外出レベルとの相関係数は,独居群:外出頻度r=0.64(P<0.01)/外出レベルr=0.71(P<0.01),非独居群:外出頻度r=0.73(P<0.01)/外出レベルr=0.55(P<0.05)であり,すべてにおいて有意な相関が認められた。【考察】群間比較の結果,非独居群は独居群よりも転倒恐怖感が強かった。独居群においては,生活維持のため当然家庭内での役割は多く,活動性も高いことがうかがえる。しかし,非独居群においては家庭内での役割は分担されていることが多い。さらに危険を伴う動作については制限されている可能性もあるため,よりダイナミックな動作に対しては恐怖感が強くなると考えられた。外出頻度は両群ともに差はなかったが,外出レベルについては非独居群が有意に高値を示した。非独居群においては,同居家族の存在により外出の機会が増えやすいことに加え,転倒恐怖感が存在していても家族の同伴などによって遠方への外出が可能となっていると推察される。一方,独居群は,非独居群よりも転倒恐怖感と外出レベルとの相関が高く,転倒恐怖感が強いほど外出レベルはより低くなることが示唆された。つまり,独居群においては転倒恐怖感を抱えていても生活維持のための買い物など近隣レベルでの外出は継続されているが,遠方への外出には消極的な傾向にあるということである。本研究より,家族同居の有無は高齢者の転倒恐怖感および外出レベルに影響を及ぼしていることが明らかにされた。高齢者においては,閉じこもりや廃用症候群を予防するために高頻度かつ広範囲での外出が推奨されている。外出行動の促進を検討する際は,家族同居の有無,家族構成,介護者などの家族背景についても熟慮することが必要である。【理学療法学研究としての意義】今後更なる高齢化の一途を辿る本邦において,介護予防や健康増進,そして社会参加に携わる我々理学療法士は,身体機能や動作能力だけでなく外出といった活動面にも着目していかなければならない。活動範囲の狭小化や社会参加の制約などの予防のために外出行動に対してアプローチする際には,家族背景および転倒恐怖感についても適切な介入の必要性があることが示されたことは意義が大きいと思われる。
  • 服部 玄徳, 安井 友里, 松井 沙也加, 吉田 祐次, 西野 隆彬, 林 伸嘉, 中村 竜大, 松本 龍也, 村田 明大, 川村 富美, ...
    セッションID: 0164
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,高齢者の転倒に関連する問題の一つとして転倒恐怖感が注目されている。高齢者における転倒恐怖感の存在はQOLや身体活動量の低下を引き起こし廃用症候群の原因になると言われている。また,最近では転倒恐怖感を軽減させるため精神心理的・身体的ケアへの関心が高まっている。入院高齢患者では,自宅退院後の生活が本人の意志によって左右されやすいため,転倒恐怖感の影響を受けやすいと言われている。鈴木らは自宅退院する高齢者の97%に転倒恐怖感が認められたと報告しており,転倒恐怖感は一般的な心理的問題であると述べている。また,PatrellaはADLの変化と転倒恐怖感の変化は独立していたと報告し,従来のリハビリテーションに加えて精神心理面への介入が必要であると述べている。近年,転倒恐怖感の改善には身体機能やADLを高めると同時に精神心理面にも介入することが重要であると言われている。最近の知見では転倒恐怖感は歩行やバランス能力など様々な身体機能との関連があると報告されている。一方,精神心理機能に関しては抑うつとの関連は報告されているが,その他の精神心理機能との関連性についての報告は少ない。そこで,本研究の目的は自宅退院を控えた入院高齢患者における,転倒恐怖感と精神心理機能に関連する要因を検討することとする。【方法】本研究の対象者は2013年9月15日~11月15日の間に急性期病院から自宅退院し,入院中に理学療法が処方された整形外科疾患を有する65歳以上の高齢者とする。なお,認知機能低下がある者(MMSE 23点以下),入院前に自助具の有無を問わず10m以上の歩行に介助を要した者,研究に対する同意が得られなかった者は除外対象とした。転倒恐怖感の測定にはModified Falls Efficacy Scale(MFES)を用い,先行研究に従いアンケートによる聞き取りにて実施した。MFESは数ある転倒恐怖感尺度の中で屋内活動に加え屋外活動も評価対象としているため自宅退院を控える本研究の対象者の評価に適していると判断した。また,精神心理機能として気分,自信,意欲の評価を行った。気分は抑うつ尺度(Geriatric Depression Scale短縮版;GDS15),自信は全般性自己効力感尺度(General Self-Efficacy Scale;GSES),意欲は意欲評価尺度(Vitality Index;VI)を用いて,先行研究に従い測定した。なお,これらの評価は主治医の判断により決定した自宅退院日の1~3日前に実施した。統計学的処理はMFESの得点とGDS15,GSES,VIの関係性をSpearmanの順位相関分析を用いて検討し,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。【結果】本研究の対象者は21名(内女性18名,平均年齢79.2±7.2歳)であった。疾患別による人数の内訳は脊柱疾患8名,上肢骨折1名,下肢骨折6名,人工関節置換術4名,下肢打撲2名であった。MFESとGSESの得点とに有意な正の相関(r=0.60,p<0.01)がみられた。またGDS15とは有意な負の相関(r=-0.53,p<0.05)を認めた。VIの得点とは有意な相関(r=0.14,p=0.54)はみられなかった。【考察】MFESとGDS15との相関は先行研究と同様の結果となった。MFESとGSESに相関がみられたことから転倒恐怖感を軽減させる要因として全般性自己効力感に焦点をあてることが有効と示唆された。近年,身体機能の向上に加えて行動科学的視点から精神心理面へ介入することが転倒恐怖感の改善に有効であると言われており,本研究はこれらを支持する結果となった。安藤らが行った高齢者の転倒予防に対する個人特性の研究ではGSESが高い人は転倒を肯定的に受け止める傾向,すなわち転倒に対して積極的に取り組もうとする傾向が認められたと報告している。また,岩城らはGSESと運動イメージの正確性に相関があると報告しており,GSESが高いほど運動イメージの正確性が高いと述べている。これらのことからも全般性自己効力感と転倒恐怖感には密接な関係があると考えられる。一方,VIとは相関がみられなかった。これに関してはVIの点数に天井効果が認められたため,本研究に適切な評価項目ではなかったと考えられる。本研究の対象者は18名が女性であり性別による検討はできなかった。また,本研究では対象者を整形外科疾患のみとしており,その他の疾患との比較はできなかった。性別や疾患別に比較・検討することで今後さらなる発展の余地があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】転倒恐怖感と精神心理機能との関連性を検討することで転倒恐怖感に対する新たな介入法を考察する。高齢者のリハビリテーションにおける精神心理機能面への介入の重要性を示し,今後のリハビリテーション発展の一助とする。
  • 運動機能,多関節痛との関連
    岩本 祐輝, 別所 大樹, 森 将志, 山根 隆治, 深田 悟
    セッションID: 0165
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】高齢者は,加齢に伴い転倒の危険性が増大する事が知られている。また,転倒の発生には加齢のほか複数の要因が関与する事が知られている。我々は,地域在住高齢者の転倒危険因子を把握する事を目的に運動機能,多関節痛についての調査を行った。【方法】平成25年3月から10月にかけて転倒予防検診の会場調査に参加し,研究への協力に同意が得られた79名(年齢78.1±8.0歳,男性11名,女性68名)を対象とした。測定項目の手順を理解できない程の重度の認知機能低下がある者や身体機能障害により全ての項目を測定できなかった者は除外した。測定項目は最大サイドステップ長,30-seconds chair-stand test(CS-30),開眼片脚立位(OLS),Time up & Go test(TUG),握力,転倒恐怖感の測定としてModified Falls Efficacy Scale(MFES)とした。また質問項目として過去1年間の転倒の有無,多関節痛の評価は,[痛みなし・肩関節・腰・股関節・膝関節・足関節]より該当する疼痛箇所を選択してもらい合計数を調査した。単変量解析は,転倒群と非転倒群の測定項目の比較には独立2群のt検定を用いた。また転倒の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を用いた。投入する独立変数は単変量解析でp値が0.25未満の変数とした。多重共線性に配慮し独立変数間の相関関係を調査し,高い相関関係(r=0.8以上)は,どちらかの項目を除外する事とした。なお年齢と性別は調整すべき属性としてロジスティック回帰分析の独立変数として強制的に投入した。選出された危険因子に対してはカットオフ値を算出するためROC曲線を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対しては,書面および口頭で研究の説明を行い,書面にて同意の得られた者を対象とした。本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】転倒群と非転倒群のt検定の結果は疼痛箇所数,握力に有意差がみられた。また,両群間のt検定においてp<0.25となった項目は,疼痛箇所数,CS-30,OLS,最大サイドステップ長,握力であり,ロジスティック回帰分析の独立変数として採用した。さらに独立変数間の相関分析を行ったが,r=0.8以上の高い相関関係を示すものはなかった。ロジスティック回帰分析で転倒発生に関わる因子として有意であった項目は疼痛箇所数のみでありオッズ比は,1.69(95%信頼区間1.02~2.81,p<0.05)であった。カットオフ値は,疼痛箇所数が1.5箇所であった。感度は,50.0%,特異度は71.4%,AUC62.2%であった。【考察】今回の調査では,転倒の有無に関連を認める項目として多関節痛を示す疼痛箇所数の影響が挙げられた。今回の対象者の多くが日常生活に介助を要さない生活動作の自立している参加者が多く,転倒群においても比較的高い運動機能を有していた。この事から多関節痛は運動機能への干渉を介さずに転倒発生に影響を及ぼしている可能性がある事が考えられた。今後は,多関節痛が転倒発生に関わるメカニズムの探索が課題である。【理学療法学研究としての意義】高齢者の転倒は,外傷や骨折による機能予後への影響も大きい。転倒に関わる要因の分析は,転倒予防を考慮する際の重要な材料になるものと考えられる。
  • ~転倒の帰結に対しての各種要因の検証と理学療法の妥当性~
    宇野 健太郎, 濱口 隼人
    セッションID: 0166
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】厚生労働省の国民生活基礎調査によると要支援・要介護が必要になった原因の第1位は脳卒中(23.3%)であり,骨折・転倒は9.3%を占める1)。脳卒中患者の転倒による大腿骨頸部骨折の受傷者数は年間約1万件,必要な医療費や在宅サービスなどの費用は年間約1900億円と推計されており2),我が国の社会保障費負担も非常に大きいと考えられる。当院回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)病棟では365日体制でリハビリテーション(以下,リハ)を提供している。その中で院外練習や家屋調査等行なってきたが,退院した患者が在宅で転倒・骨折し,再入院するケースをみかける。このような現状を受け,我々が提供する理学療法が転倒予防に繋がっていないのではないかと思われた。このため,本研究では在宅生活者の転倒状況と転倒の帰結に対しての各種要因を検討し,当院回復期リハスタッフの理学療法プログラムとの適合性を検証した。【方法】対象:当院訪問リハ利用の在宅患者(以下,対象者)207名,当院回復期リハスタッフ23名とした。対象者へは質問紙法による無記名式アンケート及びカルテ情報より,1.年齢,2.性別,3.疾患名,4.Functional Independence Measure(以下,FIM)総得点,5.移動手段(以下,1~5項目を基礎情報とする),6.退院後の期間,7.何をしようとして転倒したのかの主に7項目を調査した。また回復期リハスタッフには質問紙による無記名式アンケートにて,在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫について調査した。次に退院後1年以内の対象者を研究の対象とし,退院後1年以内の転倒群(35例)と非転倒群(34例)に群分けを行った。対象属性を以下に示す。年齢(転倒群:81.1±8.4歳,非転倒群:80.2±7.8歳),性別(転倒群:男性16例,女性19例,非転倒群:男性16例,女性18例),疾患名(転倒群:脳卒中11例,パーキンソン病4例,その他20例,非転倒群:脳卒中10例,パーキンソン病3例,その他21例),FIM総得点(転倒群:99.1±19.6点,非転倒群:91.8±22.7点),移動手段(転倒群:独歩15例,歩行器6例,その他14例,非転倒群:独歩12例,歩行器4例,その他18例)であった。基礎情報について単変量解析(マン・ホイットニーのU検定,ピアソンのカイ二乗検定)を用い,2群間の比較を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者,及び当院回復期リハスタッフには研究の趣旨を説明し,同意を得た。また当院倫理委員会の承認及び指示に従い研究を行った。【結果】基礎情報では転倒群と非転倒群において有意差を認める項目は存在しなかった。対象者へのアンケートの「何をしようとして転倒したのか」の問いでは,ベッド,イスから歩行器,洋服などに手を伸ばす際に転倒しているケースが多く,次に台所での作業中や食器を運ぶ時,扉の開閉動作に転倒するというケースが続いた。次に回復期リハスタッフへの調査で「在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫」についての回答は,対象者の転倒理由で多かった内容に対し,即している意見は少数だった。【考察】在宅での転倒の帰結における要因は今回調査した内容では抽出されなかった。今回の研究において在宅での転倒は,年齢,性別,疾患,日常生活動作能力,移動手段に影響さている可能性は低いことが示唆される。そこで対象者の転倒内容と回復期リハスタッフの転倒防止に繋がる理学療法の工夫を比較したところ妥当性が低い結果となっていた。在宅生活は応用動作が中心であり,在宅での転倒は二重課題の要素を含む動作が多い状況である。転倒リスクが高い患者では二重課題能力低下を認めるとの報告があり,3-4)今回の調査でも物に手を伸ばして転倒する,物を操作しながらの移動など,在宅の転倒ではその傾向を認めたが,回復期リハでの転倒予防に対する理学療法の工夫は二重課題の要素を含んだプログラムが少なかった。このことが,退院後に転倒し,再入院するケースに繋がっているのではないかと考える。現在,転倒予測の評価はTimed Up and Go TestやFunctional Balance Scale,筋力などが存在している。今後はこれらの評価スケールを用いながら,二重課題能力低下に対した理学療法計画を再考する事が必要であり,これが在宅生活の転倒予防に繋がると思われる。【理学療法学研究としての意義】転倒に関し,院内での理学療法介入方法を再検討し視点を変えていくことで,在宅生活での転倒予防対策に繋げていけるのではないかと考える。
  • 小林 まり子, 森 佐苗, 原田 和宏
    セッションID: 0167
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】修正歩行異常性尺度(GARS-M)は,録画映像を用いて歩行の異常性を0~21点で評定するものである。本邦における本尺度の信頼性と妥当性は検証済であり,これの地域在住高齢者に対する転倒リスク判別能はTimed Up and Go Test(TUG-T)に匹敵する(小林ら2010)。原田ら(2013)は,前向き研究によって,転倒に関する本尺度のカットオフ値が13点以上になることを明らかとした。GARS-Mは歩行分析の観点から採点するので,TUG-T等と比較して,理学療法プランが立てやすいという利点をもっている。今回,地域在住高齢者にGARS-Mを実施した過去のデータ(第45~47回大会で報告)を新たな観点から解析することによって,項目ごとの特性を明らかとし,転倒予防に資する運動療法のあり方を考察したので報告する。【方法】対象の包含基準はA病院外来診療の利用者のうち65歳以上で10mの歩行が可能な者とした。除外基準は,1)重度な四肢の麻痺を有する者,2)認知力が低下し意思の疎通に支障があると考えられる者,3)研究の同意が得られない者とした。最終的に26名(平均年齢73.9±5.8歳)を研究にエントリーした。疾患の内訳は骨関節疾患13名,脳血管疾患7名,骨折3名,その他3名であった。データ収集期間は2009年6~7月であった。歩行映像の記録は直線7.6mごとの直行した歩行路を作り,歩行の側面像と前後像が撮影できる位置にデジタルビデオ(69万画素)を置いて行った。歩行は通常のスピードで2つの歩行路それぞれで1往復させ,危険防止のため理学療法士が必ず横についた。動画映像についてGARS-Mによる評価を,対象者と面識のない理学療法士3名によって実施し,総合点および各項目の3者の平均点を解析データとした。総合点によって,0以上9点未満を転倒リスク小群(n=8),9以上13点未満を転倒リスク中群(n=8),13点以上を転倒リスク大群(n=10)として,それぞれの群ごとに,7つの下位項目点の差の比較をおこなった。また,項目ごとに3群の差の比較もおこなった。解析ソフトにはR2.8.1に基づく改変Rコマンダー(http://www.hs.hirosaki-u.ac.jp/~pteiki/)を用い,有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究計画は所属施設の倫理審査委員会の承認(#08-19)を得た。また本研究の実施に先立って,対象者に,本研究の意義・方法・不利益等を文書で説明し,文書による同意を得た。【結果】群ごとの比較では,どの群も,シャピロ・ウィルク検定で何れかの項目で正規性が棄却されたので,フリードマン検定を行った。リスク小群では,フリードマン検定で有意差が認められたが,ウィルコクソン検定(ホルムの修正)では,項目間で有意差は認められなかった。箱ひげ図を書くと項目3が他よりも点数が高く,項目4と5が他よりも低い傾向にあった。リスク中群でも,同様の結果であった。リスク大群では,フリードマン検定で有意差が認められなかった。項目ごとの比較では,すべての項目で何れかの群で正規性が棄却され,クラスカルワリス検定を行い,すべての項目で有意差が認められた。そのためSteel-Dwass検定で多重比較を実施し,項目2と4と5において,リスク小と中の間でもリスク中と大の間でも有意な差を認めた。【考察】転倒リスクが小さい段階から項目3の側方への「よろめき」が悪化する傾向があることがわかった。また,項目2の「勢いのなさ」と項目4の「足の接地」,項目5の「股関節の運動範囲」はリスクの程度を判別するのに有用性があると考えられる。特に,項目4と5は原田ら(2013)のおこなったRasch分析において,悪化の起こりにくい項目であることが明らかにされていて,ここを落とさないことが,転倒リスクを回避するポイントであるとも考えられる。以上より,歩行時の推進力が保たれている間は,主に側方バランスのトレーニングが重要であり,歩行の推進力が低下してきた時点で,前方への重心移動を視点に据えたトレーニングに転換する必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】歩容の評価は,理学療法士に独特な技術の一つである。我々の研究によって,修正歩行異常性尺度を使用すれば,総得点によって転倒リスクを判別するとともに,理学療法のあり方が示唆されることがわかった。本研究は理学療法診断の進展に寄与するものと考えられる。
  • 朝倉 智之, 臼田 滋, 今井 忠則, 浅川 康吉, 山路 雄彦, 外里 冨佐江, 李 範爽, 中澤 理恵, 勝山 しおり, 高橋 麻衣子
    セッションID: 0168
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】大学におけるキャリア教育は他学部では一般的となっているが,理学療法学・作業療法学分野では系統的なキャリア教育に関する報告は少ない。理学療法や作業療法を取り巻く環境は大きく変化し,キャリアも多様化している。このような状況のなかでの学生のキャリア意識や目標の明確化はその後の学習姿勢に影響を与えると考えられ,キャリア教育プログラムの構築が必要である。本研究ではキャリア教育プログラムを作成するに当たっての具体的なニーズの把握を目的とし,質問紙調査を行った。【方法】本学理学療法学専攻(PT),作業療法学専攻(OT)在籍の1~3年生116名を対象とし,無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙はキャリア教育に関する内容として,キャリアへの意識,卒業後のイメージ,不安の有無とその内容,本学のキャリア教育体制の充実度,キャリア教育の必要性に関する項目と,所属専攻の志望動機に関する内容で構成した。キャリア教育に関する内容は四肢選択あるいは複数選択形式とし,志望動機に関する内容は16項目について自分の考えとの近さを5段階で選択する形式とした。統計学的処理としてSPSS for Windows 21.0を用いχ2検定による学年,専攻,性別間の比較と,Pearsonの順位相関係数にて項目間の関連性を検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象に対し調査の目的,自由意思での参加であることを説明し,調査用紙の提出を持って同意を得たこととした。【結果】質問紙の配布数は116名,回収数は116名で回収率は100%であった。回答者の属性ではPT60名(男性30名,女性30名),OT56名(男性14名,女性42名)であった。キャリアに対する意識は「やや意識している・とても意識している」の合計が57.8%であった。将来の仕事についてのイメージは「よくできている・ややできている」が75.9%であった。卒業後の仕事や生活への不安は「とてもある・ややある」が88.8%であり,その内容は「就職後の業務」(39.1%),「経済面」(28.1%),「就職活動」(17.8%)の順で多かった。特に性別間の比較にて男性では「経済面」に対し,女性では「就職後の業務」,「就職活動」が有意に多かった(p<0.01)。本学のキャリアに関する情報は「全く得られていない・あまり得られていない」が87.9%であり,キャリアサポート体制は「全く整っていない・あまり整っていない」が49.1%であった。現状でキャリア教育として最も役立っているものは「臨床実習」(45.7%),「専門科目の講義」(25.0%)が多数であった。大学全体としてのキャリア教育の必要性は「とても感じる・やや感じる」が90.0%であり,学科・専攻ごとの教育は「とても感じる・やや感じる」が95.7%であった。必要と感じる情報は「PT・OTの勤務実態」(63.8%),「進路」(23.3%)が多数であった。必要と感じるサポートは「就職活動支援」(39.7%)が最多であった。特に男性では「キャリアモデルの提示」,女性では「就職活動支援」が有意に多かった(p<0.01)。専攻,学年ごとの比較では有意な差は認められなかった。項目間の関連では,キャリアに対する意識の程度とキャリア教育の必要性に弱い正の相関を認めた。専攻の志望動機の考えに「非常に近い・近い」とした合計が70%以上の項目は,「他人を援助することは楽しい」,「感謝を示してくれる患者がいる」,「他人に影響を与える機会がある」,「人体についての知識が得られることが魅力」であった。また対象者の67.2%が入学前の経験として,「所属専攻の治療を自分あるいは家族が受けた」,「見学した」,「ボランティア等で関わった」のいずれかを回答していた。【考察】半数以上の学生がキャリアに関する意識があり,将来についてのイメージもある程度形成されていることが分かった。しかしほとんどの学生がキャリアへの不安を持っており,特に業務,経済面,就職活動が不安の内容として挙げられた。志望動機の調査は本学での先行調査(1994年)を参考としたが,1994年と比較し安定した職業,将来性への期待の回答割合は少なくなっており,キャリアに関する質問項目でみられた就業への不安に一致する結果であった。長期の臨床実習や就職活動を経験した4年生に対する調査はこれからであるが,現状でのキャリア教育は不十分である可能性があり,今後は学生のニーズに答えられるキャリア教育プログラムを作成する予定である。【理学療法学研究としての意義】理学療法士と作業療法士の充足率,職域の拡大に伴う業務の多様化など,理学療法士と作業療法士を取り巻く環境は変化してきている。卒前のキャリア教育のニーズ調査,分析は社会の変化に合わせた教育を実施するうえで必須である。
  • 藤田 大介, 小原 謙一, 大坂 裕, 渡邉 進
    セッションID: 0169
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,介護保険領域での理学療法士(以下,PT)のニーズは高まっている。今後は,維持期(介護保険領域)での需要が大多数を占めることが予測されているが,現状では70%以上のPTが病院・診療所に勤めている。この状況下で新たに免許を取得したPTが病院・診療所等に就職することは,より一層厳しい時代になってくると考えられる。こうした中で理学療法学を学んでいる学生の職業意識を理解しておくことは,養成校として就職につながる効果的な理学療法教育を遂行する上で重要だと考えられる。本調査は,学生が持っている医療系職場と福祉系職場についての職業意識の相違点の学年ごとの傾向を把握することを目的とした。【方法】対象は,K大学理学療法専攻1年生(男性20名,女性21名),4年生(男性14名,女性28名)を対象とした。方法は,質問紙を用いた横断的調査を2013年9月24日~10月1日の期間に実施した。職業意識については,若林らによって作成された職業志向尺度(1983)を活用し,合わせて学年及び性別を調査内容とした。この尺度は仕事の条件や期待,好みが概念的内容となっているもので,本調査では仕事のやりがい等の職務挑戦・専門職意識14項目と給与,職場環境等の労働条件の7項目に着目し,質問項目ごとに4段階尺度で評定するように設定した。そして1,4年生それぞれの学年における医療系職場と福祉系職場の2条件間での比較のために,各職場に対して同様の質問項目を用いて回答を求めた。なお,本調査では1年生の理解を考慮し,医療系職場を急性期や回復期の病院および診療所,福祉系職場は介護保険領域下での職域として訪問及び通所リハビリテーション,介護老人保健施設,介護老人福祉施設を位置づけた。統計学的解析には,1,4年生の各学年ごとの医療系職場と福祉系職場の2条件間での職業意識に関する傾向と差異を明らかにするために,各質問項目に対してWilcoxonの符号順位検定を行なった。なお,解析には,SPSS Statistics ver.20 for Macを使用した。【倫理的配慮】各対象者には事前に口頭および文書にて本調査の趣旨と目的を説明し,同意が得られた場合のみ回答を求めた。本調査は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:413)。【結果】1年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」や「仕事を通じ勉強し成長する機会」等の5項目と労働条件の「安定した会社や勤め先であること」等の5項目にて医療系職場と福祉系職場に有意差は認められなかった。しかし,「仕事上の責任の重さ」や「仕事の専門性」,「仕事に対する周囲の期待」等の職務挑戦・専門職意識9項目と労働条件の「高い給与やボーナス」は医療系職場が有意に高値であった。また,労働条件の「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。4年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」等の3項目と労働条件の「休日の数・勤務時間の短さ」にて職場間での有意差は認められなかった。しかし,1年生の結果でみられた9項目と「仕事を通じ勉強し成長する機会」を合わせた職務挑戦・専門職意識10項目及び「高い給与やボーナス」「安定した会社や勤め先であること」等の労働条件の5項目は医療系職場が有意に高値であった。また,「仕事が自由に任される機会」と「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。職業挑戦・専門職意識,労働条件ともに医療系職場についての職業意識が高い傾向を示しているが,4年生にその傾向が強く,労働条件の質問項目にて顕著であった。【考察】1,4年生ともに職務挑戦・専門職意識について,福祉系職場に比べて医療系職場の職業意識が高い傾向が示され,医療系職場は仕事の専門性や将来性,責任があり,福祉系職場は仕事が自由で気楽だと学生は捉えていることも明らかとなった。さらに4年生では,特に福祉系職場の給与や環境,評判等の労働条件に関する職業意識が低いことが分かった。4年生は大学での講義・実習を多く経験し,臨床実習も経ているため,各職場における職業意識が明確化し,差異も大きくなったのではないかと考えられる。今後の職域別の需要を考慮すると,医療系と福祉系職場の職業意識の差異を小さくするために,カリキュラムや実習施設,実習形態の検討,学生に対する福祉系職場の具体的な情報提供等が必要だと考えられた。【理学療法学研究としての意義】理学療法学を学んでいる学生の学年ごとの職場の違いによる職業意識の相違と傾向を把握することができた。理学療法教育を実践する上で意義があると考えられる。
  • 中村 あゆみ, 由留木 裕子, 岩月 宏泰
    セッションID: 0170
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦では少子化で大学や短期大学への入学希望者が急減しており,現在でも大学への入学希望者総数が入学定員総数を下回る状況は加速している。それに伴い,理学療法士養成校の入学者の中にも,入学時から理学療法士への志望動機が希薄な場合や学年進行に伴い「責任を他者へ転嫁する」「自発的な行動をなかなか起こさない」など学習態度が後退する者もいる。この背景には,学年進行に伴う高度な専門科目の内容に学習が追いつかない,青年期特有の感情不安定,職業決定意識の未発達などが考えられる。何れにせよ彼らに学業を修めさせるためには,入学時から卒業時まで理学療法士の関心を維持させること,学生に求められる自主的に学び―想起―解釈―問題解決へとつなげる学習態度の変容を促すことが必要となってくる。今回,理学療法士養成校に入学した平成25年度生を対象に,理学療法士についてのイメージと職業決定意識について質問紙調査を実施し,養成校種類別比較から各校の特徴を明らかにし,専門職教育の方策について検討した。【方法】対象は理学療法学を専攻する平成25年度入学生であり,質問紙調査(留め置き法)を実施し,回答の得られた104名について解析した。回答者の所属は,青森県又は奈良県に所在するA専修学校(40名),B短期大学(37名)及びC大学(27名)であった。調査時期は2013年4~6月であり,調査票は基本属性,理学療法士のイメージについての設問(筆者らが作成,13項目)及び職業未決定尺度(下山,24項目)ほかで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,探索的因子分析(Varimax回転)及び多重比較検定(Bonferroni法)を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の対象者には,予め調査の趣旨を説明し了承した上で実施した。また,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記されていた。【結果】理学療法士のイメージ項目について探索的因子分析を行い,因子負荷量0.50以上,固有値1以上,共通性0.20以上を項目決定因子とした結果,3因子が抽出された。そこで,第1因子は「職務挑戦」,第2因子は「勤務条件」及び第3因子は「理学療法の対象」と命名した。なお,3因子のCronbachα係数は0.75~0.68であり,内的整合性が見出されていた。養成校種類別比較では「職務挑戦」で3校の差を認めなかったが,「勤務条件」ではA専修学校が,「理学療法の対象」ではC大学が他の2校より有意な高値を示した。A専修学校生は勤務先や俸給に関心が高く,C大学生は理学療法の対象者が若年者よりも高齢者となることが多いことを認識していた。一方,職業未決定尺度の下位尺度のうち,職業決定を猶予して当面は就業を考える姿勢が消極的な「猶予」では,C大学が他の2校より有意な高値を示した。また,自らの関心や興味を職業選択に結び付けていこうとする態度が希薄な「安直」では,B短期大学が他の2校より有意な高値を示した。【考察】本来,職業決定は青年後期の重要な発達課題である。しかし,昨今の若者気質として,経済的,社会的に自立していなくても自尊(自分の能力や潜在能力の過信)感情は非常に高いことが知られている。本研究の対象者のように,入学間もない学生においても,すでに理学療法士のイメージや職業決定意識に養成校種類別で差を認めたことから,養成校の教育方針とカリキュラム及び校風が青年後期のアイデンティティ確立のために重要な多大な影響を持つことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,入学者が考える理学療法士としての将来像と職業決定意識には,養成校の種類により差がみられたことから,各校では理学療法士のイメージと職業意識を培う独自の取組みが必要と考えられた。在学中に,アイデンティティの確立を促し,理学療法士へのイメージの乖離を軽減する事は,理学療法士の質の向上につながると考える。
  • 高橋 玲子, 長沼 誠, 武田 貴好, 舩山 貴子, 田中 基隆, 福田 守, 杉原 敏道
    セッションID: 0171
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床実習において学生は学内から臨床への環境の変化に適応し自分の能力を発揮することが求められる。しかし,環境に適応することに時間を要してしまい自分の能力を発揮出来ずにいる学生も少なくない。そのため,学生が実習開始後早期に環境適応できるよう,本校では実習指導者会議(以下SV会議)における実習指導者(以下SV)と学生のコミュニケーションを重要視している。具体的には,事務連絡のみではなく,学生の個性を把握していただけるようなテーマを設け30分程度の個別またはグループ面談を行っている。本研究では,それらの試みが臨床実習に与える影響を調査することを目的とした。【方法】対象は,本校理学療法学科4年生41名とし,臨床実習後期終了後に前期・後期に関してそれぞれアンケートを実施した。アンケートの内容は(1)SV会議へのSV参加の有無,(2)SV会議前の各実習に対する不安,(3)SV会議直後の各実習に対する不安,(4)実習開始直前の各実習に対する不安,(5)実習中のSVとのコミュニケーション量,(6)SVと信頼関係が築けた時期,(7)実習環境に慣れた時期,(8)実習中自分らしさを出せるようになった時期,(9)前実習(評価実習または臨床実習前期)からの成長度の9項目とし,Numeric Rating Scale(NRS)および多項選択回答形式を用い回答してもらった。得られたデータはSV会議へのSV参加の有無によりSV参加群,SV以外参加群,不参加群の3群に分類し比較検討した。統計学的処理にはマンホイットニーのU検定および多サンプルX2検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,今後の実習指導者会議ならびに臨床実習の発展のために行うものである趣旨を対象者に説明し同意を得た。また,アンケートは無記名とし個人を特定できないよう配慮した上で実施した。【結果】アンケートの回収率は臨床実習前期,後期とも97.6%であった。SV参加群,SV以外参加群,不参加群の人数は,臨床実習前期でそれぞれ18名,5名,17名,臨床実習後期でそれぞれ17名,8名,15名であった。実習に対する不安に関して,臨床実習前期ではSV参加群においてSV会議前と比較しSV会議直後に有意な低下が認められた(p<0.05)。しかし,実習直前になると不安は増加しSV会議前と同等の不安状態に戻っていた。SV以外参加群,不参加群ではともに不安の程度に変化はみられなかった。臨床実習後期ではSV参加群,SV以外参加群,不参加群でいずれも不安の程度に変化はみられなかった。また,その他の項目については3群間で有意差はみられなかった。【考察】今回の結果より,SV会議でSVと直接コミュニケーションをとることで,学生の実習に対する不安は一時的に軽減することがわかった。しかし,この結果は臨床実習前期のみにみられ,臨床実習後期ではSV会議による不安の軽減は図れなかった。この要因として,SV会議から実習開始までの期間が影響していると考えられる。本研究の対象者に対するSV会議はその年度の4月に開催しており,臨床実習前期は約1か月後に開始されているのに対し,臨床実習後期はSV会議後4か月後の開始となる。そのため,学生は目前に迫った臨床実習前期に対する思いが強く,臨床実習後期を考える余裕がないことが考えられる。また,実習中のSVとのコミュニケーション量,SVと信頼関係が築けた時期,実習環境に慣れた時期,実習中自分らしさを出せるようになった時期,前実習からの成長度の項目では3群間で有意差がみられなかった。これらの要因として,実習直前の不安状態を軽減できなかったことが影響していると考えられる。したがって,今後はSV会議の開催時期や学生の不安要因の分析を行い,円滑な実習導入が行えるよう更なる検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】SV会議においてSVと面談を行うことで,一時的に学生の実習に対する不安が軽減されることが示唆された。今後,学生の不安を軽減し実習をより円滑に進めるための足掛かりとして更なる検討に繋げていきたいと考える。
  • 甲田 宗嗣, 森内 康之
    セッションID: 0172
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】クリニカルクラークシップ(以下CC)の概念に従った臨床実習の効果について検討した報告は少ない。我々は,先行文献を参考にCC型臨床実習ガイドラインを作成し,理学療法部門全体で活用している。今回は,このガイドラインに従った臨床実習の効果を検証することを目的とした。【方法】対象は同一年度に当院の臨床実習を経験した全ての学生5名とした。調査方法は,記述式のアンケートとした。アンケートの内容は,臨床実習経験前後での認識の変化を分析するために,実習開始時と終了時に「全くない」から「極めてある」までの7件法12項目にて調査し,臨床実習あるいは今後の臨床業務で不安に思うことも自由記述にて調査した。また,終了時に,CC型臨床実習の良かった点,改善すべき点についても自由記述にて調査した。終了時には開始時の記載内容は閲覧させなかった。【倫理的配慮】全ての対象には本研究の趣旨を説明し,同意を得た上でアンケート調査を行った。その際,アンケート結果が臨床実習の指導内容や成績に影響を与えないことを特に入念に説明した。なお,本研究の趣旨説明とアンケート用紙の配布および回収は,臨床実習に直接関わらない当科の所属長が行い,当該年度の臨床実習が全て終了するまで所属長以外はアンケート結果を閲覧できないようにし,予め個人情報を削除した上でアンケート結果を閲覧,分析した。【結果】7件法による臨床実習経験前後での認識の変化の調査では,CCに対する理解は全ての対象で向上した。理学療法治療・介入の知識は3名が向上,2名が変化なかった。理学療法治療・介入の技術は全ての対象で向上した。理学療法評価の知識は2名が向上,2名が変化なし,1名が低下した。理学療法評価の技術は4名が向上,1名が変化なかった。医学的知識は3名が向上,2名が変化なかった。書類作成のスキルは4名が向上,1名が変化なかった。社会人としてのマナーは2名が向上,2名が変化なし,1名が低下した。患者との人間関係構築の自信は2名が向上,3名が変化なかった。職員との人間関係構築の自信は全ての対象で向上した。理学療法士になりたいと思うかは2名で向上,3名で変化なかった。当院に就職したいと思うかは3名が向上,1名が変化なし,1名が低下した。自由記述による不安に思うことの変化では,概ね自信がついた者,臨床実習前後とも治療介入の不安がある者,対人関係から治療介入に不安の内容が変化した者,予後予測に対する不安が残った者,終了時にも患者との人間関係の不安が継続した者など様々であった。CC型臨床実習の良かった点では,多くの患者に接することで患者の個別性や多様な介入経験を積むことができた点や,セラピストと一緒に診療をするので不安が少なかった点が記載された。CC型臨床実習の改善すべき点では,評価の統合と解釈の経験が不足した点,セラピストにより介入方法に差異がある点,学生が主体的に診療を行う経験が不足している点が記載された。【考察】7件法による臨床実習経験前後での認識の変化において,CCに対する理解は全ての対象で向上しており,CC型臨床実習の趣旨は概ね理解できたものと思われる。また,理学療法治療・介入の技術や理学療法評価の技術,職員との人間関係構築の自信の項目も向上した者が多く,職員と共に臨床を体験する実習形態の特徴をよく表した結果であると示唆された。反面,向上した者が少なかった項目(2名が向上)は,理学療法評価の知識,社会人としてのマナー,患者との人間関係構築の自信,理学療法士になりたいと思うかであった。この要因として,理学療法士になりたいと思うかについては,評価尺度の天井効果が影響したと考えられた。理学療法評価の知識については,臨床実習指導者が行った評価結果に対する解釈を聞く機会,すなわち指導者自身の統合と解釈を聞く機会が少なかったことが要因として考えられた。また,社会人としてのマナー,患者との人間関係構築の自信については,臨床実習では患者と主体的に人間関係を構築することに限界があることが要因として考えられ,卒後の課題になると思われた。【理学療法学研究としての意義】臨床実習に対する学生の認識は個別性が大きく,評価しにくい面があるが,今回の結果から一定の傾向は得られたことは意義深いものと思われる。今後は,個々の臨床実習指導者が行っている工夫を職員間で共有するなどして,職場全体でCC型臨床実習を成熟させる必要があるものと思われた。
  • 中前 喬也, 静間 久晴
    セッションID: 0173
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ブルームら米国の心理学者たちは,教育活動を通じて追求される教育目標を認知領域・情意領域・精神運動領域に分け,体系化している。理学療法士養成校のカリキュラムにおける臨床実習は,精神運動領域の時間配分が圧倒的に大きい(2007,中川)と述べられている。しかし,現行の臨床実習では課題を一つ一つ消化しなければ次に進めない,いわゆる「積み上げ式教育」(2007,中川)や,患者担当制による学生の経験不足,実習内容の知識偏重型が多い(2013,射場)ことが言われており,学生に精神運動領域を習得させる体制が十分とは言えない。この原因として,臨床実習指導者がその習得のための臨床実習を展開する意識や,学生がそれを習得しようとする意識が低い可能性がある。そこで,今回は学生側へ臨床実習に対する意識を調査することにした。【方法】当院が臨床実習施設となっている養成校のうち,研究協力を依頼し,了承のあった養成校に所属する学生と当院で臨床実習を受けている学生に質問紙調査を自由記載方式にて行った。調査期間は2013年5月31日~同年8月20日までであった。質問紙調査票を各養成校に郵送し,マニュアルをもとに教員が学生に調査を実施した。当院で臨床実習を受けている学生には,実習初日に筆頭演者が調査を実施した。調査内容は学生が考える臨床実習の目標とした。分析は,ベレルソンの内容分析の手法を用い,当院に所属する理学療法士1名によるカテゴリー分類への一致率をスコットの式にて算出し,分析結果の信頼性を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本調査は無記名・自由記載による調査であることや,仮に不参加となった場合も不利益を被らないという説明を通して,対象者の匿名性と任意の参加を保証した。【結果】配布した107部の質問紙のうち,回収されたのは100部(回収率93.5%,有効回答100部)であった。このうち最終実習前あるいは最終実習初日にアンケートを実施した89部(男性60名,女性29名,平均年齢男性24.7±4.5歳,女性22.4±1.3歳,全体の平均23.9±3.9歳)を抽出した。その記述は,268記録単位に分割され,除外対象を除く212記録単位を分析対象とした。分析の結果,26カテゴリーが形成された。カテゴリー分類への一致率は73.5%であり,26カテゴリーは信頼性を確保していることを示した。カテゴリーの内訳は,適切な治療プログラムの立案・実施ができる13.2%,患者・職員とのコミュニケーション能力の向上12.7%,臨床思考能力の向上9.9%,認知領域の向上9.4%,評価能力の向上7.5%,動作観察・分析から問題点や評価項目を挙げる7.1%,理学療法プロセスが実施できる7.1%,評価・治療技術の向上5.2%,自身の積極性の改善3.3%,治療の効果判定と治療の再立案2.8%,リスク管理ができる2.8%,患者に寄り添って物事を考える2.8%,学生の帰宅後の自己管理の徹底2.4%,患者に触れる機会を多くもつ2.4%,実習先の特徴に合わせて学習する1.9%,実習を継続すること1.4%,医療従事者としての態度の改善1.4%,同じ誤り・失敗は繰り返さない努力0.9%,積極的に見学をする0.9%,現在まで培った経験・知識を次の実習で生かす0.9%,良好な対人関係を確立する0.9%,患者とセラピストの距離間をつかむ0.9%,理学療法士の理想像を追求する努力0.5%,介助技術の向上0.5%,周囲への配慮の徹底0.5%,患者に必要とされたい0.5%であった。【考察】臨床実習教育の手引き(第5版)によると,精神運動領域は一般的には技術と言われている。今回,形成されたカテゴリーの中で技術に相当するのは,適切な治療プログラムの立案・実施ができる,評価能力の向上,理学療法プロセスが実施できる,評価・治療技術の向上,患者に触れる機会を多くもつ,介助技術の向上であり,総記録単位の35.9%を占めた。約4割が精神運動領域についての記録単位であり,臨床実習が精神運動領域の習得に比重をおいたカリキュラムにも関わらず,その領域に対する学生の意識が低い可能性が示された。また,理学療法のプロセス全体を学ぼうとする記録単位は7.1%のみであり,理学療法の流れを経験しようとする意識も低いことが示唆された。学生には理学療法の流れを意識させた上で,患者診療を経験させるクリニカル・クラークシップの臨床実習教育方法が必要と思われる。今回の調査結果より得られた学生の意識がどのような教育の背景によって生まれているのか,臨床実習指導者や養成校の臨床実習教育方針など,学内外を含めた全体的な調査が今後必要と考えられる。【理学療法学研究としての意義】学生の臨床実習に対する意識を明らかにすることで,よりよい学内教育方法や臨床実習教育方法を模索することができる。
  • 佐々木 晃子, 亀山 顕太郎, 松田 雅弘, 荻野 修平, 村田 亮, 石毛 徳之
    セッションID: 0174
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】我々は投球時に肩に痛みを有する障害群はコントロール群に比べ肩関節水平外転時の肩甲帯自動内転角度(以下 肩甲骨内転角度)が低下しており,改善方法として体幹に対するアプローチが有効だという事を報告した。しかし臨床において,肩甲骨内転角度に制限がある症例に対し体幹に対するアプローチだけではなく棘下筋収縮運動後肩甲骨内転角度が改善する症例も経験する。本研究の目的は,棘下筋収縮運動後の肩甲骨内転角度の変化を測定比較し,肩甲骨内転角度の改善に必要な因子を更に明らかにすることである。【方法】対象は,肩関節の可動域制限を有しない男性13名13肢(年齢20.3±9.1歳)。測定手順は,はじめに肩甲骨内転角度を測定し,その後ゴムチューブを用いて外旋運動を20回行い(以下肩外旋運動),再度肩甲骨内転角度を測定した。肩甲骨内転角度の測定肢位は,ベッド上腹臥位で前腕をベッドより下垂し,肩関節外転90度,水平外転0度,肘関節屈曲90度とした。被検者には前頭部をベッド上に接地し,肩関節を外転90度に保持しながら,最大限に水平外転するよう指示を与えた。その際の頭頂と肩峰を結んだ線と水平線とのなす角度を,肩甲骨内転角度とした。角度の測定は羽田らが作成した角度測定プログラムMMP(:Motion Measurement Program)を用いて2名の検者で測定した。また,測定は全て2回行い平均を求めた。肩外旋運動は,腹臥位,肩関節140度挙上位でのon elbowにてゴムチューブを10cmより15cmまで引っぱるように指示を与えた。また運動は,表面筋電図にて棘下筋の収縮を確認しながら行った。肩外旋運動前後での肩甲骨内転角度を測定し統計学的に比較検討した。また,肩甲骨内転角度の測定に関して検者間での信頼性も求めた。【倫理的配慮,説明と同意】被検者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し,同意を得た上で研究を行った。また,「プライバシーの保護」として,評価結果は,研究実施責任者が厳重に保管し責任をもって管理すること,特にプライバシーの保護に関して最大限の注意を払うこと,学会発表や論文発表を行う場合も個人が特定されないようにして行う旨と,「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,ご協力・ご同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。【結果】肩外旋運動前の肩甲骨内転角度は平均27.8°±10.08,肩外旋運動後の肩甲骨内転角度は平均37.3°±10.74であった。肩外旋運動前と比較し,肩外旋運動後は有意に肩甲骨内転角度の増大がみられた。(p<0.05)。運動前後での増大の割合は,変化なしは1名,5°未満の増大は1名,5°以上10°未満の増大は3名,10°以上15°未満の増大は5名,15°以上20°未満の増大は3名であった。また,今回の測定に対する検者間信頼性を求めたところ,級内相関係数は0.98と非常に高い値が得られた。【考察】今回の結果より,肩甲骨内転角度は肩関節外旋運動でも改善することが明らかになった。投球動作において,投球側はcocking phaseからaccelerationにかけて肩甲上腕関節への負担が少ないscapular plane上を保つために肩甲骨は極度に内転すると言われている。共同演者の亀山は「投球動作において肩甲帯内転機能が低下すると肩甲上腕関節へのメカニカルストレスが増加する可能性について述べている。我々は過去に,体幹伸展機能向上を目的とした片脚ブリッジや体幹の回旋機能向上を目的とした体幹回旋訓練にて肩甲帯内転角度が向上することを報告した。千葉らは「腱板は骨頭を関節窩に求心位に保つ安定化機構である」また「肩甲骨が上腕骨を追従することで関節窩が運動方向を向くことでも安定化が保たれている。」と述べている。また,山口らは「肩の実際の動作では,末梢の位置に合わせて中枢部の位置が調整される事が多い」と述べている。今回の結果から,末梢にある腱板機能が向上するとことで上腕骨頭の求心位が整い,肩甲骨が上腕骨頭の動きに追従しやすくなったことが,肩甲骨内転運動に影響したものと考えられた。今回は,肩甲上腕関節の外旋運動前後のみで比較したが,今後は他の肩関節周囲の運動も取り入れて,外旋運動との比較も行って行きたい。【理学療法学研究としての意義】今回,棘下筋収縮運動後の肩甲骨内転角度の変化を測定比較した。理学療法を行う上で,肩甲骨の動きが低下している症例に対し,中枢である肩甲胸郭関節の評価の他に,末梢にあたる棘下筋などの腱板機能にも着目し,評価,治療を施行する必要性があると考える。
  • 二重盲検法による比較
    杉山 和成, 中村 直人, 岡山 知世, 鈴木 慶亮, 吉村 徹, 仁藤 学, 舩越 健, 喜山 克彦
    セッションID: 0175
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】物理療法分野において,超音波療法(以下US)は臨床的に頻繁に使用され,その効果は高いと報告されている。オーバーヘッドスポーツにおいて,肩関節内旋制限が認められることが多く,その原因の一つとして肩後方構成体の拘縮があげられる。本研究では,肩後方構成体の一つである棘下筋に着目し,効果的なUS出力強度および関節可動域に与える影響を検討することを目的とした。【方法】対象は,肩関節に既往のない健常人男性50名(平均年齢35.8±11.7歳,BMI22.8±3.0)の利き手側とした。超音波治療器は,伊藤超短波株式会社製US-750を使用した。照射部位は,棘下筋とし,照射範囲は肩甲棘内縁から5×5cmに設定した。照射肢位は,ベッド上腹臥位,両上肢を体側につけた肢位とした。USの設定は,周波数3MHz,照射時間率50%,導子Lタイプ,2cmストローク法,照射時間5分とした。出力強度をコントロール群(以下Co群)0.5W/cm2(以下A群),1.0W/cm2(以下B群),1.5W/cm2(以下C群),2.0W/cm2(以下D群)の5群に分け,対象を各群に10名ずつランダムに振り分け,出力強度について二重盲検法にて実施した。違和感や疼痛を訴えた場合,直ちに実験を中止した。測定項目は,肩関節水平内転(以下HF),肩関節90°外転位での内旋(以下IR2),肩関節90°屈曲位での内旋(以下IR3)とし,各群US施行前後の可動域を肩甲骨固定位にて測定した。測定は各3回行い,平均値を採用した。統計処理は,US施行前後の可動域について,5(出力強度)×3(測定項目)毎に,分割プロット法による二要因分散分析を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には研究の意義,目的について十分に説明し,同意を得た上で実験を行った。【結果】二要因分散分析の結果,出力強度と測定項目の主効果,交互作用のすべてで有意差が認められた(α<0.05)。出力強度の単純主効果は,HF(Co,A,B,C,Dの順に-0.00±1.11,6.32±3.61,5.92±4.31,12.49±3.79,10.00±2.95)とIR2(0.33±1.31,6.17±4.11,6.26±3.24,12.74±8.95,9.58±2.78)において有意差が認められた。【考察】今回,Co群を除く全ての群で照射前後の関節可動域に有意な改善が認められた。関節可動域はC群とD群が他の群に比べ有意に関節可動域が増大した。C群とD群間に有意な差が見られなかった。US効果は,温熱作用とマイクロマッサージ効果が考えられる。Draperらによると,3MHzの周波数の連続波による温度上昇は,1.5W/cm2で0.9℃/分,2.0W/cm2で1.2℃/分であると報告されている。本研究では,50%の照射時間率で行ったため,連続波の半分の温度上昇が見込め,今回の設定で1.5W/cm2の場合2.25℃,2.0W/cm2の場合3.0℃の温度上昇が起こると考えられる。また,筋温2~3℃の上昇は,筋スパズムや痛みを軽減し,血流量を増大し,慢性の炎症を軽減するとされている。葛岡らによると,マイクロマッサージ効果により,筋の内部粘性および筋の感受性が低下すると報告している。このことから,C群およびD群が他の3群と比べ可動域の改善が有意に認められたと考える。C群およびD群に関節可動域の有意な改善を認めたが,D群においては,18名中8名の被験者が疼痛を訴えたため実験を中止した。USを照射された部位や周囲の温度の増減は,吸収発熱の量,血流に依存する熱の移動・拡散などに左右されるとされている。従って,出力強度2.0W/cm2では,血流量が乏しいと熱の移動・拡散が少ないため,温度上昇が大きくなり,疼痛が生じたと考えられる。IR2,IR3,HFの比較をした際,IR3の改善が少なかった。IR3は棘下筋以外の影響が大きく,棘下筋の影響が少ないためだと考える。【理学療法学研究としての意義】超音波の出力強度は,臨床的に0.5~2.5 W/cm2で使用するとされている。しかし,各部位ごとに出力強度を設定すれば良いかは明確にされていない。本研究において,棘下筋に対しては,出力強度2.0W/cm2で疼痛が生じる危険性が示唆された。出力強度を高くすれば,関節可動域の増大に効果的であるが,疼痛もなく,関節可動域の増大に効果的な出力強度は,1.5W/cm2である事が示唆された。
  • ―単純反応課題を用いた研究―
    栗原 豊明, 菅原 和広, 徳永 由太, 伊賀 敏朗, 山本 康行
    セッションID: 0176
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】肩関節外転時に,外転30°まで肩甲骨の運動が少ないsetting phaseが生じる(Inman. 1944)。setting phaseは肩甲骨周囲筋の僧帽筋や前鋸筋の活動で肩甲骨は胸郭に固定され,肩甲上腕関節での運動が主となる(Baggs.1986,1988)。肩関節の運動に関する先行研究では,肩関節屈曲時に前鋸筋は外腹斜筋と活動すること(三浦。2012),肩関節拳上時で体幹の安定性が重要となり,その安定性には腹横筋が関与すると報告されている(Hodges.1997)。また腹横筋中部線維は上肢の素早い屈曲に先行して活動し,腹圧調節や予測的姿勢制御に重要な役割を担っている(Urquhart DM. 2005)。これまで森らは腹横筋中部線維のトレーニングとしてDrawingが有効であることを示唆し,また我々はDrawing後に腹横筋の活動が向上するに伴い,外腹斜筋の活動が低下し前鋸筋の筋活動量が低下することを報告した(第49回日本理学療法学術大会)。以上から肩関節複合体の運動は肩甲骨と体幹安定性が肩甲上腕関節の運動に深く関係していると考えられる。そこで本研究の目的は体幹のトレーニングとしてDrawingを実施し,肩関節外転時の筋活動発現潜時に与える影響を調査した。【方法】右利き健常成人男性7名(22.6±2.8歳)を対象とし。使用機器は表面筋電計と計測ソフトウェアを用い,左肩関節外転時の筋電図測定と解析を行った。測定肢位は端座位で,骨盤中間位。両上肢は下垂した状態で,運動範囲は外転90°までとした。運動条件は,光刺激提示後(SRT),とDrawing施行後における光刺激提示後(AD)にそれぞれ肩関節外転を行った。被験者に肩関節外転運動を最大努力で可能な限り素早く行うよう指示。測定筋は左僧帽筋上・中・下部線維,左前鋸筋下部線維,左外腹斜筋,左三角筋中部線維。貼付した電極間距離は2cmで,アース電極は左肩峰。Drawing方法は先行研究(森。2011)を参考にし,課題中は自然な呼吸を行うよう指示した。またDrawingは10secを2セット,セット間の休息は5secとした。上前腸骨棘から2cm内側,また腹直筋外側で触診し腹横筋の収縮を確認。被験者は上記の2条件をランダムで行い,AD後にSRTが控えている場合は運動学習とDrawingの影響を排除するため30分間以上の安静後にSRTで実験を行った。筋活動計測時のsampling周波数は1000Hzとし,得られた筋電図波形に全波整流を施した。各筋線維の筋活動発現潜時は,三角筋中部線維の筋活動発現時間を0msとし,三角筋中部発現潜時は光センサー発光を0msとし,三角筋中部線維の筋活動発現地点までを筋電図発現潜時とした。その他の筋は三角筋中部線維の筋電図発現潜時との差とした。筋活動発現地点は安静時の平均筋活動量から標準偏差の2倍を超えた地点として算出。【説明と同意】実験前に各被験者に実験内容を十分説明,書面で同意を得た。【結果】SRTでは筋活動発現潜時が僧帽筋中部で0.0182±0.0173ms(平均値±標準偏差),僧帽筋下部で0.028±0.016ms,外腹斜筋で0.069±0.046msであったが,ADでは筋活動発現潜時が僧帽筋中部で0.009±0.011ms,僧帽筋下部でも0.017±0.017msとそれぞれ有意に短縮した(p<0.001)。しかし外腹斜筋は0.08±0.059msと有意な延長を示した。一方,三角筋中部,僧帽筋上部,前鋸筋ではSRTとAD間に有意な差はなかった。【考察】Drawingは腹横筋のエクササイズの一つである(Teyhen DS. 2009)。本実験はDrawing前後に光刺激を運動開始の合図とした肩関節外転を行ったところ,外腹斜筋の筋活動発現潜時がADで有意に延長した。太田らは,外乱刺激のタイミングの予測が不可能である場合は体幹のInter muscleの筋活動量が減少すると報告した。一方,先行研究では,Drawingで体幹の深層筋群の活性化と体幹の安定性が向上し,Drawing後で外腹斜筋の筋活動量が減少したと報告している(三浦。2013)。先行研究と本研究結果から,Drawingによって体幹の深層筋群の活性化が図れ,ADでの外腹斜筋の筋活動発現潜時が延長したと考えられる。僧帽筋中・下部では筋活動発現潜時が有意に短縮した。腹横筋は上肢の運動に先行して働くことで姿勢制御に関わり,腹横筋の活動は体幹の安定性に寄与すると報告されている(Urquhart. 2005)。そのため,肩関節外転で生じる外乱刺激に対し,ADでは腹横筋の予測的姿勢制御としての筋活動が上昇し体幹の安定性が早期より獲得され,肩関節外転時の僧帽筋中部・下部の筋活動発現潜時が短縮した可能性が考えらえた。【理学療法学研究としての意義】腹横筋のトレーニングとして,Drawingは体幹安定性を向上させ,体幹及び肩甲骨周囲の筋活動発現潜時に変化があった。その中でも肩関節外転時のDrawingの即時効果は僧帽筋中・下部の筋活動発現潜時短縮し,外腹斜筋の筋活動発現潜時は延長することが示唆された。
  • 村中 進, 青柳 孝彦, 髙原 信二, 小松 智, 平川 信洋, 峯 博子, 小峯 光徳, 可徳 三博, 鶴田 敏幸
    セッションID: 0177
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩関節は単一の関節により運動をコントロールしているのではなく,いくつかの解剖学的および機能的関節の複合体が協調して運動をコントロールしている。また,狭義の肩関節である肩甲上腕関節の運動に関与する筋としてouter muscleとinner muscleがあり,outer muscleはパワーやスピードなどに関与し,inner muscleは動的安定性に貢献することが広く認識されている。今回我々は,正常肩関節における様々な肢位・運動課題時の肩関節周囲筋群の筋出力を計測し,その特徴について検討した。【方法】対象は,肩関節に愁訴を持たない健常成人男性8名(平均年齢24.5±2.4歳)で,全例右利きであった。被検筋は,棘上筋・棘下筋横走線維・棘下筋斜走線維・小円筋・三角筋前部線維・中部線維・後部線維・上腕二頭筋の8筋とし,測定肢位は側方拳上45°,肩甲面拳上45°,前方拳上45°,側方拳上90°,肩甲面拳上90°,前方拳上90°,Zero-positionとし,各肢位において①palm up②thumb up③palm down④thumb downの4項目を運動課題とした。被検筋各々の徒手筋力検査を5秒間行って得られた筋電図波形のうち,筋電図積分値が最大となる1秒間をサンプリングし,その筋電図積分値を最大随意等尺性収縮強度(Maximal Voluntary isometric Contraction:MVC)と定義した。筋力検査の肢位はすべて,背もたれを使用しない端坐位,足底接地とし,各動作時より得られた筋電図波形から,各筋の1秒間あたりの筋電図積分値が最大となる1秒間の筋電図波形をサンプリングし積分処理した。筋電図積分値をMVCで除した値を%MVCとして標準化した。最後に各動作より得られた%MVCを被験者間で平均化した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には,本研究の調査内容や起こりうる危険,不利益などを含め説明し,また,個人情報に関しては,学会などで研究結果を公表する際には個人が特定できないように配慮することを説明し同意を得た。【結果】棘上筋は側方拳上で筋出力が高く,肩甲面・前方拳上ではthumb downでより筋出力が高かった。棘下筋横走線維・棘下筋斜走線維・小円筋は同様の出力形態を示し,前方拳上で筋出力が高く,palm upでより筋出力が高かった。三角筋前部線維は,全拳上肢位において同程度の筋出力を示し,側方・肩甲面拳上ではthumb downでより筋出力が高かった。三角筋中部線維・後部線維は同様の出力形態を示し,前方拳上で筋出力が高く,thumb downでより筋出力が高かった。上腕二頭筋は,全拳上肢位において低出力を示し,各課題において特徴的な出力形態は認めなかった。【考察】今回の結果より,棘上筋は側方拳上でthumb down肢位で筋出力が高いことが確認された。これは,これまで行われてきた肩甲骨面90°拳上でのempty can testと異なる結果となった。棘下筋においては,横走線維・斜走線維・小円筋ともに前方拳上でpalm up肢位で筋出力が高かった。よって,棘上筋は肩関節側方拳上内旋位,棘下筋は肩関節前方拳上外旋位でより出力を発揮するのではないかと考える。これらの特徴を参考にinner muscleに対するストレステストを考えると,側方拳上thumb down肢位で棘上筋,前方拳上palm up肢位で棘下筋と個別に評価ができるのではないか,また,腱板損傷の範囲や程度などを知る評価として応用できるのではないかと考える。今後はこれらの評価結果と手術所見から実際の損傷範囲・程度を照らし合わせ,信頼性を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】正常肩関節における様々な肢位・運動課題時の肩関節周囲筋群の筋出力を計測することで,個別的な筋のトレーニングが可能となり,より安全で効率的な運動療法が可能となる。また,各種動作にて筋力低下などが確認できれば,損傷範囲や程度を個別に評価できる可能性がある。
  • 稲垣 郁哉, 柿崎 藤泰, 川崎 智子, 小関 博久
    セッションID: 0178
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩甲骨は,胸郭と上腕骨との間に複数の関節を構成し,体幹と上肢を連結させるために重要な機能を有する。なかでも肩甲骨と上腕骨の位置関係は,肩関節運動において重要な指標の一つとされている。肩甲上腕関節は周囲の靭帯や筋で調節されるため,肩関節運動に関わる筋の緊張や機能は肩甲骨と上腕骨の位置関係に依存するものと推察される。臨床において,特に肩甲骨内外転運動は運動方向に走行する大胸筋の張力変化により上腕骨頭の前後偏位を調節していると考えられ,肩甲骨と上腕骨の位置変化に伴い,大胸筋の筋緊張が変化することを経験する。そこで今回は,肩甲骨の内外転運動が上腕骨頭の前後方向への移動量と大胸筋筋厚に及ぼす影響を検討し,肩甲上腕関節の運動連鎖を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は整形外科疾患など既往のない健常成人男性10名(平均年齢24.5±3.5歳)とした。課題動作は,端坐位にて両上肢の自然下垂位での肩甲骨の最大内外転運動とした。超音波は,超音波画像診断装置(Xario SSA-660A,TOSHIBA社製)を用いて超音波用リニアプローブ(12MHz)にてBモード法により測定した。上腕骨頭の測定部位は,右側の上腕骨小結節部,烏口突起とし,安静位と肩甲骨内外転位においてそれぞれ皮下組織からの垂直な距離を計測した。皮下組織から烏口突起距離と皮下組織から小結節部の距離の差を算出し,烏口突起に対する上腕骨頭小結節の移動量を算出した。大胸筋筋厚の測定部位は,右側の肩鎖関節と胸鎖関節を結んだ距離の近位1/4を通過する床への垂線と第2,3肋骨との交点とした。この交点で第2,3肋骨の各頂点を結んだ直線の中点上を大胸筋胸肋部線維の筋厚とした。なお,代償動作が生じないよう骨盤帯から下部体幹部をダーメンコルセットで固定し,動作中に頭位や体幹,上肢帯に過度な回旋が生じた場合は除外した。測定結果は,3回測定した平均値で,安静位の距離を100%とし,肩甲骨内外転位の比率を算出した。統計処理にはSPSS13.0J for Windows Student Versionにてそれぞれ対応のあるt検定で比較検討した。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し,同意を得た上で計測を実施した。【結果】肩甲骨外転位では安静位と比較し,烏口突起に対し上腕骨小結節が後方移動し(平均値78±4%,p<0.01),大胸筋筋厚は増大した(平均値106±5%p<0.01)。肩甲骨内転位では小結節が烏口突起に対し前方移動し(平均値114±4%,p<0.01),大胸筋筋厚は減少した(平均値89±4%,p<0.01)。【考察】本研究では肩甲骨外転運動に伴い烏口突起に対し上腕骨小結節部が後方移動し,大胸筋筋厚は増加した。また,肩甲骨内転運動に伴い烏口突起に対し上腕骨小結節部が前方移動し,大胸筋筋厚は減少した。このことから,肩甲骨の内外転運動は上腕骨頭の位置関係と大胸筋筋厚に影響を及ぼすことが示唆された。肩甲骨の内外転動作は主として水平面上の動きであり,同じ水平面上に走行する大胸筋胸肋部線維の張力が上腕骨頭の前後方向への位置関係をコントロールしていると推察される。このことから肩甲骨内外転運動には上腕骨頭,大胸筋を介した胸郭運動が存在するのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】肩甲骨内外転運動が肩甲上腕関節における上腕骨頭の位置関係と大胸筋筋厚に影響を及ぼすことが示唆された。このことは肩甲骨と上腕骨頭の位置関係を評価することで,大胸筋の筋緊張を理解できる可能性がある。今後は,肩関節疾患との関係や肩甲骨の土台である胸郭との連動性を検証していく必要性があると考える。
  • ~測定肢位の違いによる検者内・検者間信頼性の比較~
    伊藤 創, 油形 公則, 葉 清規, 能登 徹
    セッションID: 0179
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)は,簡易かつ携帯性に優れた等尺性筋力測定機器であり,筋力を客観的に数値化することができることにより,リハビリテーションを実施する上で患者の問題点・治療効果の把握・臨床研究等,多くの場面で使用されている。しかしその一方で,HHDの従来の使用方法では信頼性が低い事が問題点として挙げられ,信頼性・再現性については数多く検討されている。また,HHDを用いた筋力測定の研究において,体幹の固定により検者内・検者間信頼性が高く得られたという事が報告されている。特に肩関節外転筋力の測定では,体幹の代償が起こりやすい事が予想される。今回我々は,肩関節外転筋力において,測定方法の変化によって検者内・検者間再現性差はあるのか研究をし,若干の知見を得たので報告する。【方法】対象は,整形外科的疾患のない健常成人10名(男性5名,女性5名)とし,検者2名が測定した。2人の検者は,1人の被験者に対し,2日間連続もしくは同日に筋力測定を行った。同日測定では,施行間に3時間以上の休息を設けた。肩関節外転筋力測定は4種類の肢位でそれぞれ2回実施し,最低30秒間の休息時間を置き実施した。筋力測定機器は,HOGGAN社製MICROFET2を使用した。筋力測定肢位は,肩関節外転90°前腕中間位とし,背もたれのない椅子に座った端坐位(A),Aの肢位で計測側と対側の肩関節90°外転位保持した状態(B),背もたれのある椅子に座った端坐位(C),Cの肢位で計測側と対側の肩関節90°外転位保持した状態(D)とした。C,Dには対側の肩関節にも3秒間の等尺性収縮を同時に加えた。アタッチメントの取り付け位置は,当機器のマニュアルに従い,上腕遠位1/3とした。C,Dの対側肩関節への抵抗も同部位に行った。検討項目として,各肢位で肩関節外転筋力を測定し,2名の検者それぞれの検者内信頼性,検者間信頼性を検討した。統計処理にはR-2.8.1(CRAN freeware)を使用し,検者内・検者間信頼性は級内相関係数(以下,ICC)を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。被験者には,本研究の主旨と方法に関して十分な説明を行い,承諾を得た後,測定を行った。【結果】検者内信頼性に関しては,A肢位で,検者①ICC(1,1):0.959(95%CI:0.856-0.989),検者②(1,1):0.849(95%CI:0.530-0.959),B肢位で,検者①ICC(1.1):0.966(95%CI:0.880-0.991),検者②ICC(1,1):0.874(95%CI:0.595-0.966),C肢位で,ICC(1,1):0.949(95%CI:0.821-0.986),検者②0.749(95%CI:0.297-0.930),D肢位で,検者①ICC(1,1):0.977(95%CI:0.919-0.994),検者②ICC(1,1):0.976(95%CI:0.913-0.993)であった。また,検者間信頼性に関しては,A肢位ICC(2,1):0.855(95%CI:0.516-0.962),B肢位ではICC(2,1):0.783(95%CI:0.103-0.948),C肢位で,ICC(2,1):0.682(95%CI:0.109-0.911),D肢位で,ICC(2,1):0.891(95%CI:0.641-0.971)であった。D肢位は検者内信頼性,検者間信頼性共に最も高値を示した。【考察】HDDによる筋力測定は,測定の信頼性と妥当性が必要となる。ICCの評価基準として桑原らは,0.9~は優秀,0.8~は良好,0.7~は普通,0.6~は可能,~0.6は要再考と報告している。今回の結果から,A,B,C,Dの肢位の中で,Dの肢位で測定を行う事が信頼性が高いという結果となった。Dの肢位では対側の肩関節90°外転位等尺性収縮を加える事で,体幹側屈の代償動作を予防し,また,背もたれのある椅子を使用する事で体幹伸展の代償動作を予防した事により,代償動作での筋力のぶれが起こりにくい肢位であるため,より高い信頼性が得られたと考えられる。従って,HHDを用いたDの肢位での肩関節外転筋力の測定は,検者内・検者間ともに高い信頼性があり肩関節外転筋活動をより反映しやすい評価方法であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究よりHHDを用いた検者内・検者間信頼性の高い肩関節外転筋力の評価肢位が示された。肩関節外転筋力評価において,簡便で効率の良い評価方法であり,短時間での測定が可能なため,臨床における理学療法効果の判定に有用な評価方法であると考えられる。
  • 古谷 英孝, 廣幡 健二, 山口 英典, 大島 理絵, 美崎 定也, 相澤 純也, 三井 博正, 杉本 和隆
    セッションID: 0180
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,人工関節置換術術後患者において,患者立脚型アウトカムを用いた評価が主流となってきた。Behrendら(2012)は,日常生活で手術した関節を意識しないでいることが「究極のゴール」であるとし,人工膝・股関節置換術術後患者に対する評価尺度としてForgotten joint score(FJS-12)を開発した。我々は,日本においても手術した関節を意識せずに生活できていることは,臨床成績において着目するべき点であると考え,日本語版FJS-12(JFJS-12)を作成した。そして,本邦の人工膝関節置換術術後患者における高い再現性と妥当性について報告した(古谷,2012)。本研究目的は人工股関節全置換術(THA)術後患者におけるJFJS-12の適用性を判断するために,身体機能や,生活の質(QOL)に対する満足度との関連を含め,再現性と妥当性を検討した。【方法】JFJS-12は就寝時,歩行,階段昇降,床からの立ち上がり,スポーツ活動中などの12項目の日常生活動作について,「手術した股関節をどのくらい気にしていますか?」という質問に対し,5段階のリッカートスケールを用いて回答させる質問票である。合計得点を100点に換算し,得点が高いほど意識していないことを示す。対象の取り込み基準は,変形性股関節症または大腿骨骨頭壊死症により片側又は両側の初回THAを施行し,術後2ヶ月を経過した患者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,股関節以外の骨・関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした。予備調査として,適格基準を満たした31名を対象とし,文章表現,回答の負担についてコメントさせ,回答にかかる時間を測定した。再現性の検討については,2週間以内に同一患者に再調査を行った。統計解析は,級内相関係数とBland-Altman plotを用いて系統誤差の有無を判断した。妥当性の検討については,2013年5月から10月の期間において横断的に調査を行った。外的基準は,1)日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS),2)日本語版Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index疼痛項目(WOMAC-P),身体項目(WOMAC-F),3)最大等尺性股関節外転筋トルク(外転筋トルク),4)股関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転・外旋),5)QOL満足度とした。調査方法は日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域を測定した後,JFJS-12,JHAAS,QOL満足度の質問票を手渡し,2週間以内に返送させた。JHAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる質問票で,高い活動性を評価できる。3)はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μ Tas-F1)を用いて測定した。4)は東大式角度計を用い5度刻みで測定した。5)は11段階のglobal rating scaleを用いた。統計解析はJFJS-12のヒストグラムを描画してデータの分布を確認した。さらに,JFJS-12とJHAAS,日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域,QOL満足度の関連をみるためにピアソンの積率相関係数を用い,相関分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た。【結果】質問票を133名から回収した(回収率88.7%)。対象者の属性は,男性17名,女性116名,変形性股関節症122名,大腿骨骨頭壊死症11名,片側116名,両側17名,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]65.6±9.7(43-86)歳,BMI 24.6±4.6(11.3-42.6)kg/m2,術後経過月数は2-45ヶ月であった。再現性について,級内相関係数は0.79-0.94であり,Bland-Altman plotからも系統誤差は確認されなかった。回答に要する時間は1-3分であった。ヒストグラムから天井効果,床効果は認められず,正規分布が確認できた。相関分析の結果,JHAAS(r=0.49),WOMAC-P(r=0.41),WOMAC-F(r=0.53),外転筋トルク(r=0.21),股関節屈曲(r=0.28),伸展(r=0.21),外転(r=0.31),内転(r=0.24),外旋(r=0.27)可動域,QOL満足度(r=0.46)において相関を認めた。【考察】今回,JFJS-12は本邦のTHA術後患者においても適用でき,再現性と妥当性を兼ね備えた評価尺度であることが示された。また,疼痛が少なく,活動性が高く,股関節可動域,外転筋トルクが良好な患者において,日常生活で手術した股関節を意識しないで生活できており,QOLに対し満足していることが確認された。さらに,JFJS-12は短時間で実施でき,無回答者が少ないことから,実用性が高い尺度であると考える。【理学療法学研究としての意義】健康な関節と同様,日常生活で意識されていない関節は術後患者のQOL満足度につながり,科学的根拠に基づき作成された評価尺度を用いることは,臨床成績,治療効果を判定する上で意義は深いと考える。
  • 加速度計を用いた横断的調査
    池田 光佑, 古谷 英孝, 廣幡 健二, 大島 理絵, 山口 英典, 田中 友也, 美崎 定也, 三井 博正, 杉本 和隆
    セッションID: 0181
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】人工股関節全置換術(以下,THA)は痛みを除去し,ADL能力,生活の質,歩行能力を向上させる有効な治療手段であるが,術後にデュシェンヌ歩行などの跛行が残存すると報告されている。THA術後患者の歩容満足度を調査した先行研究によると,十分に満足していない患者がいるとの報告もある。しかし,実際の跛行の程度と歩容満足度の関連については調査されていない。近年,跛行の程度を評価するツールとして,加速度計を用い,歩行中の体幹動揺を測定する方法が行われている。加速度計は,動揺を左右,上下,前後方向の成分に分け,数値化できる特徴を有している。本研究の目的は,加速度計を用いて歩行中の体幹動揺を測定し,左右,上下,前後方向のどの動揺成分が歩容満足度と関連しているかについて明らかにすること。次に,最も歩容満足度と関連があった動揺成分に影響する因子を,股関節機能,疼痛,脚長差から明らかにし,治療展開の一助にすることとした。【方法】対象の取り込み基準は,当院にて初回片側THAを施行し,補助具無しで独歩可能な者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,他関節の手術既往,認知障害を有する者とした。歩行速度は,快適速度と最大速度における10m歩行とした。測定項目は,歩行中の体幹動揺(左右,上下,前後),歩容満足度,歩行中の疼痛,術側股関節可動域(屈曲,伸展,外転,内転),術側股関節外転筋トルク(以下,外転筋トルク),脚長差(棘果長,臍果長)とした。体幹動揺の測定には加速度計(三菱化学メディエンス社,MG-M1110)を用いた。測定方法は,対象者の第三腰椎棘突起部に加速度計を装着し,各歩行速度の加速度を測定した。各歩行速度より得られた加速度データから10m歩行分の二乗平均平方根(Root Mean Square:以下,RMS)各成分(左右,上下,前後)を算出した。RMSは歩行の安定性を評価する指標として用いられ,RMSが大きいほど動揺が大きいことを示す。なお,RMSは歩行速度の2乗値で除することで歩行速度の影響を調整した。歩容満足度は,各歩行速度で,0が「全く満足していない」,10を「とても満足している」としたVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いて評価した。疼痛は,各歩行速度での術側股関節痛とし,VASにより評価した。術側股関節可動域は東大式角度計を用いて5°刻みで測定した。外転筋トルクは徒手筋力計(アニマ社,μ Tas-F1),脚長差はテープメジャーを用いて測定した。統計解析は,各歩行速度における歩容満足度とRMS各成分との関連を検証するためにピアソンの相関係数を用いた(有意水準5%)後,最も歩容満足度に影響しているRMS成分を抽出するために,重回帰分析(強制投入法)を行った。次に,最も歩容満足度に関連していたRMS成分を従属変数,各股関節可動域,外転筋トルク,各脚長差,疼痛を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を行い,RMS成分に影響を与える因子を抽出した(有意水準20%)。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,事前に本研究の目的や方法について,ヘルシンキ宣言に基づいて説明を行い,同意が得られた者を対象とした。【結果】対象者の属性は男性6名,女性30名,年齢[平均±標準偏差(範囲)]64.0±10.7(43-85)歳,BMI25.7±4.1(18.3-39.2)kg/m2,術後経過期間は2週-36ヶ月であった。相関分析の結果,快適速度ではRMS左右成分(r=-0.416),上下成分(r=-0.441),前後成分(r=-0.553),最大速度ではRMS左右成分(r=-0.431),上下成分(r=-0.393),前後成分(r=-0.550)と各歩行速度の全ての成分で歩容満足度と相関が認められ,重回帰分析の結果,最も歩容満足度に関連していたのは,各歩行速度共にRMS前後成分であった。また,RMS前後成分に影響を与える因子として,各歩行速度共に脚長差の拡大(棘果長),股関節内転可動域の減少,疼痛の増加が抽出された(快適歩行R2=0.373,p<0.01・最大歩行R2=0.416,p<0.01)。【考察】本研究の結果より,歩行中の体幹動揺が増大するほど,歩容満足度が低いことが明らかとなり,特に前後方向の動揺が最も満足度に影響していることが示された。一般的に,歩行周期には遊脚初期における加速期と遊脚後期における減速期があり,重心の移動を流動的に行っている。今回,抽出された前後成分の増加は,加速期,減速期の速度変化の異常により,流動的な移動が阻害されたことが原因と考える。脚長差の拡大,内転可動域の減少,疼痛の増加が,流動的な重心移動を阻害し,前後方向の動揺の増加に影響を与える因子として抽出されたと考える。【理学療法学研究としての意義】今回,抽出された因子に対して第一選択として治療を行うことが,THA術後患者の歩容満足度を向上させる上での一助になると考える。
  • 宮里 幸, 河野 一郎, 永富 祐太, 北里 直子, 海山 京子, 藤吉 大輔, 福田 伸之, 最所 雅, 中島 康晴, 高杉 紳一郎, 岩 ...
    セッションID: 0182
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】質の向上と効率化を目的として医療の分野でもクリティカルパスが導入され,一定の効果をあげている。人工股関節置換術(以下,THA)後においてもクリティカルパスの使用でADLの早期自立や在院日数の短縮に効果をあげている。患者の杖なしで歩きたいというニーズは多く,在院日数の短縮により短期間で歩行能力をより向上させることが求められる。THA後の杖歩行獲得については年齢や術前の運動機能との関連性が報告されているが独歩獲得に関与する因子を検討した報告は少ない。THA後の患者では杖なしで歩きたいという希望や家屋内移動,家事動作や社会復帰などでの独歩のニーズは高い。本研究ではTHA後の独歩獲得に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】本研究は診療録を後方視的に調査して行った。対象は当院において2012年5月~2013年9月にTHAを施行された者のうち,合併症等でクリティカルパスから大きく逸脱した者,再置換術例を除いた106名(男性16名,女性90名)であった。術式は全例後側方侵入,セメントレスで行われた。クリティカルパスは術後2日目より車椅子移乗,4日目より可及的全荷重にて歩行練習開始,T字杖歩行もしくは独歩可能となって3~4週で退院となっている。診療録からの調査項目は,年齢,性別,疾患,手術から退院時評価までの日数(以下,術後日数),退院時の両側股関節可動域(以下,ROM),両側下肢筋力,独歩の可否,歩行時疼痛であった。退院時に1m/sec.の独歩が可能な群(以下,独歩群),不可能な群(以下,杖歩行群)に分類し,群間で調査項目について統計学的に比較し分析した。統計は対応のないt検定,カイ二乗検定用い,有意水準は5%未満とした。有意差が出た項目を独立変数,独歩の可否を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院倫理規定に基づいて実施された。【結果】独歩群57名(男性13名,女性44名,59.4±10.9歳,57.8±9.0kg,術後日数23.1±3.6日),杖歩行群49名(男性3名,女性46名,65.9±9.6歳,57.8±10.3kg,術後日数23.3±4.1日)となった。カイ二乗検定,対応のないt検定を用い,抽出された変数は年齢,性別,股関節屈曲(両側)・伸展(非術側)・外転(術側)・外旋(術側)ROM,両側の股関節屈曲・外転・膝関節伸展筋力,歩行時疼痛だった(p<0.05)。これを独立変数として投入したロジスティック回帰分析の結果,退院時の独歩獲得の可否を予測する因子として年齢,股関節外転ROM,股関節外転筋力が抽出された(p<0.05)。【考察】THA術後患者における,1m/sec.の退院時独歩獲得に影響を与える因子として年齢と股関節外転ROM・筋力が抽出された。60歳以上になると健常者でも歩行速度は顕著に低下するといわれている。杖歩行群では年齢による生理的因子に加え,罹患期間が長かったことにより,術前の関節症の進行やそれに伴う運動機能の障害が大きかったことが考えられる。THA術後患者は健常者と比較して明らかな歩行速度の低下とエネルギー消費効率が悪いとされる。その理由として荷重支持機能の低下に加え歩行時の体幹側方動揺や重心の上下・左右方向の動きが影響している。外転ROMや筋力は歩行立脚期における骨盤-大腿骨の安定に作用し,トレンデレンブルグ徴候などの跛行の原因のひとつである。それらの低下は下肢の荷重支持能力の低下や跛行を助長し,結果として歩行速度の低下を招く。今回の結果から実用レベルの独歩獲得のためには,外転ROMの拡大や外転筋力向上による歩容の安定が必要だと考えられる。杖なしで歩きたいという希望を持ちながらも,術後約23日の時点では獲得していない者もいる。今回の結果を術後リハビリテーションや退院時のホームエクササイズなどに活かし,今後は退院後の独歩獲得時期や長期的な運動機能の評価を行っていきたい。【理学療法学的研究としての意義】THA術後患者において退院時の独歩獲得に影響する因子が明らかになることで,より患者のニーズに合った,エビデンスの高いリハビリテーションプログラムの提供が可能になる。
  • 相羽 宏, 木下 一雄, 吉田 啓晃, 中島 卓三, 桂田 功一, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: 0183
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,入院期間の短縮に伴い,人工股関節全置換術(以下THA)の術後患者における理学療法は早期介入及び荷重により早期退院が可能となっている。当院においても2週間プロトコルを導入し,早期退院を図っている。その中で2週間プロトコルを達成する症例もいるが,退院が困難であり入院期間が延長する症例も見受けられる。本研究では,2週間プロトコル達成群と未達成群のTHA術前の身体機能を比較,検討し,THA後2週間プロトコルの適応基準を決定する一助とすることを目的とした。【方法】対象は本大学附属4病院にて2010年4月から2013年6月までに変形性股関節症を呈し,片側初回THAを施行した311例のうち,歩行自立にて自宅退院した149例149股とした。平均年齢65.6±10.5歳,男性19例,女性130例,術式は後方進入であった。術後15日までに退院が可能であった52例(以下達成群),2週間プロトコルから逸脱し術後22日から28日までに退院した97例(以下未達成群)の2群に分類した。また,週末退院など身体機能面以外の影響を考慮し,術後16日~21日に退院した者は除外した。評価項目は,基礎情報として年齢,性別,BMIを,身体機能項目として股関節の可動域(屈曲,外旋,外転),外転筋トルク(Nm/kg),5m歩行速度(m/min),日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOA)のADL項目,5段階(痛くない~激しく痛む)の自己記入式質問用紙による主観的歩行時痛をデータベースより後方視的に調査した。外転筋トルク(Nm/kg)は,Hand-held Dynamometer(アニマ社製,ミュータスF-1)を用い,背臥位股関節内外転中間位で5秒間の等尺性筋力を計測し大腿長を乗じ,体重で除し正規化した。2週間プロトコルの内容は手術翌日より車椅子乗車を許可,術後2日目から荷重制限を行わず起立,歩行を開始,退院基準は杖歩行自立となっている。統計処理は年齢・BMI・股関節可動域・外転筋トルク・5m歩行速度については2標本t検定を用い,性別,ADL,主観的歩行時痛についてはカイ二乗検定を用いた。また,2群間の比較検定で有意差が認められた項目についてロジスティック回帰分析を行い,抽出された因子に関してROC曲線を用いてカットオフ値を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当大学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】両群の基礎情報に関しては,平均年齢(達成群58.9±9.2歳,未達成群65±10歳)において有意差が認められた。両群における身体機能項目では,股関節可動域の外転(達成群17.9±10.1,未達成群14.4±8.1)および,外転筋トルク(達成群0.65±0.3,未達成群0.48±0.24)に有意差が認められた。また5m歩行速度(達成群78.0±10.5,未達成群76.5±150.5),主観的歩行時痛に有意差は認められなかった。JOAのADL項目(容易/困難/不可)では腰かけ(達成群:51/1/0,未達成群:85/12/0),立ち仕事(達成群:37/12/3,未達成群:37/40/20),車・バスの乗り降り(達成群:32/20/0,未達成群:45/42/10)で有意差が認められた。この結果から,達成の可否を目的変数とし,説明変数は年齢,外転筋トルク,外転,腰かけ,立ち仕事,車・バスの乗り降りとしロジスティック回帰分析を行った。その結果,年齢,外転筋トルク,立ち仕事に有意差を認めた。ROC曲線をもとにカットオフ値を算出すると,年齢は65.5歳であり,AUC0.66,感度0.51,特異度0.77であった。外転筋トルクではカットオフ値が0.49Nm/kgでありAUC0.33,感度0.4,特異度0.39であった。【考察】THA後の2週間プロトコルを実施するにあたり,適応基準は明らかとなっていない。今回の研究より,2週間プロトコル達成群と未達成群の術前身体機能において,年齢,外転筋トルク,立ち仕事が達成の指標となることが示唆された。早期退院に関わる過去の報告においても年齢,筋力は適応基準としており,先行研究を支持する結果となった。また,立ち仕事に関しても下肢の筋力を必要とする動作であると考えられる。比較的外転筋力の保たれている達成群においては家事動作が容易に行えており,術前のADL能力の高さが伺える。しかし,ROC曲線のAUCから判断した年齢や外転筋トルクの予測能は低い結果であり,術後の機能経過や家庭環境などの社会的要因が影響していると考えられる。そのため,今後は術前因子だけではなくこれらの因子を多面的に検討すべきであると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究より年齢,外転筋トルク,立ち仕事が,THA後患者における2週間プロトコル達成の可否および適応基準の一助になりうると考えられる。
  • 吉田 宏史, 中嶋 裕子, 金並 将志, 魚部 宏美, 坪内 健一, 定松 修一
    セッションID: 0184
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】全人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty,以下THA)術後では術側立脚相において,非術側骨盤下制が減少し体幹が術側へ傾くデュシェンヌ現象が特徴的な歩容として多く経験される。この傾向は,前額面上での歩容に影響を与えており,術側股関節内転角度との関連が注目されている。そこで今回,歩行中における前額面での股関節運動角度(以下,股内外転角度)を測定し,前額面での骨盤運動角度(以下,骨盤傾斜角度)および股関節内転関節可動域(以下,内転可動域),股関節外転筋力(以下,外転筋力),脚延長量との関係性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,THA術後にデュシェンヌ跛行を呈した男性2名,女性28名(年齢67.1±9.4歳),健常者男性5名,女性5名(年齢32.7±3.8歳)であった。THA患者は,片側変形性股関節症に対して初回THAを施行し股関節以外に疾患を有さないものとした。評価は,術前日(以下,術前)と術後35日(以下,5週)に実施した。歩行中の股内外転角度,骨盤傾斜角度の測定には,3軸加速度・3軸角速度計内蔵動作角度計(Microstone社製MVP-RF8,MVP-DA2-S,以下,センサ)を使用した。センサ位置は,股関節では大転子直上と大腿骨外側上顆,骨盤では第3腰椎部と上前腸骨棘とした。歩行環境は裸足,快適速度とした。運動角度の算出には,運動角度解析ウェアからCSVファイルに変換されたデータをグラフ化し,再現性のある波形と判断できたものを使用した。外転筋力の測定には,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製ミュータスF-1)を使用し,体重で除して標準化した。脚延長量は,X線像を基に涙痕間線を基準とした小転子までの垂線の距離を求めた。内転可動域は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定した方法を用いた。算出された運動角度は,術前・5週間,患者・健常者間で比較した。また,股内外転角度と骨盤傾斜角度,脚延長量,外転筋力との相関を求めた。さらに,内転可動域は正常歩行で認められる内転5°を基準に5°未満の低値群と5°以上の高値群に分け,両群で股内外転角度を比較した。統計解析は,正規性の検定を行った上で,2群の比較には対応のあるもしくは対応のないt検定を,2群の関係にはpearsonの相関係数を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の定める規定に従い,書面及び口頭にて参加者へ研究の趣旨を十分説明し,同意への署名を得た上で実施した。【結果】THA患者の股内外転角度は健側・術側の順に術前は,10.3±5.2°・8.1±3.7°,5週は10.7±4.2°7.9±3.2°,骨盤傾斜角度は,同様の順で6.7±2.6°・7.0±2.5°,4.9±2.2°・5.0±2.1°,健常者は,股内外転角度15.0±4.4°骨盤傾斜角度6.5±2.9°であった。股内外転角度は術前および5週とも両側においてTHA患者が健常者より有意に小さく,骨盤傾斜角度は術前では差が無く,5週では両側とも健常者より有意に小さかった(P<0.01)。股内外転角度は,非術側(p=0.01)術側(p<0.01)とも術前より5週が小さかった。股内外転角度,骨盤傾斜角度の関係では,術前では有意な関係はなく,5週では術側股関節と非術側骨盤(r=0.72,p<0.01),非術側股関節と術側骨盤(r=0.69,p<0.01)で有意な正相関が認められた。内転可動域は5週術側股関節が術前術側(p<0.01),術前非術側(p<0.01),5週非術側(p<0.01)よりも有意に小さかった。5週の術側股内外転角度は脚延長量と負相関を示し(r=-0.53,p<0.01),外転筋力と正相関を示した(r=0.40,p=0.04)。内転可動域によって分けた2群の比較では,高値群で股内外転角度が有意に大きかった(p=0.04)。【考察】今回の対象はデュシェンヌ跛行を呈しており,非術側骨盤傾斜角度が術前や健常者より低値を示した事は,術側立脚相での非術側骨盤下制の減少を反映している可能性があり,非術側骨盤傾斜角度の拡大の必要性が考えられた。また,非術側骨盤傾斜角度に関して,術側股内外転角度と相関が見られたことから,非術側骨盤傾斜角度拡大のためには,術側股内外転角度の拡大が重要であると考える。術側股内外転角度に着目する上で,関連する因子として脚延長量や外転筋力,内転可動域が示された。脚延長は軟部組織の静止張力増加による可動域制限が関与したと考えられる。外転筋力低下では重心線と骨頭を近づけるために,また内転可動域制限では立脚側へ骨盤外側移動の減少を相殺するために,体幹術側側屈とそれに伴う非術側挙上が生じると解釈することができ,これらの因子に関しても理学療法を実施する上で考慮する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の跛行の特徴が示せたことは,効果的な理学療法の展開に寄与すると考える。
  • 上村 明子, 榊間 春利, 赤﨑 昭朗, 砂原 伸彦
    セッションID: 0185
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工股関節全置換術(以下,THA)後の理学療法を効果的に進めるには術前の運動機能から術後の歩行能力を予測することが重要となる。歩行の長期的な予後は様々な報告がなされているが,術後早期の歩行に及ぼす因子や時期による影響因子の違いを経時的に明らかにした報告はみられない。そこで,本研究の目的をTHA術後患者の歩行能力に影響を及ぼす因子を検討し,術後の時期による術前因子の影響の違いを明らかにすることとした。【方法】対象は一側性の変形性股関節症により初回THAを施行した女性患者48名(67.6±10.2歳)とした。評価項目は,術側下肢筋力,股関節機能,疼痛,歩行能力とし,測定時期は,術前と術後3週(退院時),15週,27週とした。評価,測定はすべて同一検者によって行われた。下肢筋力測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μ-TasF1)を使用し,股関節外転(以下,股外転),股関節伸展(以下,股伸展),および膝関節伸展(以下,膝伸展)における最大等尺性筋力3回の平均値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。股関節機能評価には,日本整形外科学会股関節治療判定基準(以下,JOAスコア)を使用した。また,疼痛評価として,術側股関節外転筋力測定時のVisual Analog Scale(VAS)を測定した。歩行能力の評価には,Timed up and go test(以下,TUG)を使用した。統計処理は,各時期の歩行能力(TUG)と術前評価項目との関連性は,ピアソンの相関係数を用いて検定した。さらに,有意な相関のみられた項目と年齢,BMIを説明変数,各時期のTUGを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,各評価項目の関与の程度を検討した。統計解析には,SPSS ver 20.0を使用し,いずれの検定も,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を受け,各対象者には研究参加に対する同意を得て実施した。【結果】術後3週時のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前JOAスコア(r=-0.485),術前膝伸展筋力(r=-0.483),術前TUG(r=0.480),術前股外転筋力(r=-0.382)であった。重回帰分析の結果,退院時TUGを決定する説明変数として,術前膝伸展筋力(β=-0.337),年齢(β=0.334)が選択された。重相関係数R=0.68,決定係数R2=0.41であった。術後15週のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前股外転筋力(r=-0.612),術前膝伸展筋力(r=-0.579),術前TUG(r=0.492),術前股伸展筋力(r=-0.476)であった。さらに重回帰分析の結果,術前外転筋力(β=-0.572),年齢(β=0.444)が選択され,重相関係数R=0.778,決定係数R2=0.57であった。また,術後27週のTUGと,術前TUG(r=0.668),術前膝伸展筋力(r=-0.598)が有意な相関がみられ,重回帰分析の結果,年齢(β=0.758),BMI(β=0.363)が選択され,重相関係数R=0.783,決定係数R2=0.561であった。【考察】THA術後の歩行能力に最も影響を及ぼす術前因子は,退院時,術後15週,術後27週(退院後半年)と時間経過に伴い,膝伸展筋力,股外転筋力,年齢へと変化することが示された。つまり,術後の時期により術前因子の影響は異なることが明らかとなった。本研究の結果は,退院後半年が経過すれば,筋力や歩行など術前の身体機能の影響より,年齢が強く関与している可能性を示唆している。従って,THA術後早期の歩行能力を経時的に予測するには,一つの因子からではなく,術後時期に応じた因子が関与することを念頭におき理学療法をすすめていく必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】THA術後患者の歩行能力の予測因子は,術後時期により異なることが明らかとなった。このことは,手術予定患者や術後早期の患者に対し,理学療法をすすめていくための根拠となることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられた。
  • ~免荷量及びトレッドミル歩行速度に着目して~
    森 輝, 遠藤 正英, 猪野 嘉一
    セッションID: 0186
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,脳卒中片麻痺患者に対する体重免荷式トレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下,BWSTT)が注目されており,脳卒中治療ガイドライン2009においてグレードBとなっている。しかし,どの程度の免荷量やトレッドミル歩行速度で行うことが適切であるか明確なプロトコルは見当たらない。本研究は,BWSTTにおける設定方法の違いが歩行速度に及ぼす影響を検討し,その傾向を示すことである。【方法】対象は平成24年9月から平成25年9月の間に当院回復期リハビリテーション病棟に入院していた脳卒中片麻痺患者のうち,理解と表出に問題がなく歩行が自立または監視で可能な9名(男性6名,女性3名,年齢61±26才,下肢Brunnstrom recovery stage3=1名,stage4=6名,stage5=2名,発症後98±49.4日)とした。BWSTTは体重免荷装置(バイオデックス社製可動式免荷装置アンウェイシステム)とトレッドミル(SportsArt社製トレッドミルT650MS)を用い,施行時間を6分間とした。20%免荷と40%免荷を1週間の間隔を空けて施行し,その順序は無作為に決定した。BWSTT前後の測定項目は加速期と減速期を除く10m間の最大歩行速度及び歩数とした。なお,トレッドミルの速度は一定の歩容を保ったまま最も速く歩くことができるものとし,その判断は4~5名の理学療法士で行った。統計学的検証は,各免荷量におけるBWSTT前後の結果を対応のあるt検定にて比較し,BWSTT前後の結果とトレッドミル歩行速度との関連をPearsonの積率相関係数にて算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院規定の承認を得て実施した。全対象に本研究の目的と方法を説明し協力の同意を得た。【結果】20%免荷における最大歩行速度は1.24±0.3m/sec,1.21±0.25m/sec(施行前後,以下同様),最大歩行歩数は1.64±0.22steps/m,1.74±0.23steps/mであり,いずれも有意な差を認めなかった。40%免荷における最大歩行速度は1.08±0.16m/sec,1.17±0.13m/sec,最大歩行歩数は1.72±0.29steps/m,1.64±0.25steps/mであり,いずれも有意な差を認めた(p<0.05)。トレッドミル歩行速度は20%免荷で1.8km/h(平均値,以下同様),40%免荷で2.2km/hであり40%免荷の方が有意に速い結果を示した(p<0.05)。また,40%免荷での10m最大歩行速度の即時効果とトレッドミル歩行速度に有意な正の相関を認めた(r=0.69,p<0.05)。【考察】一般的に脳卒中片麻痺患者は,麻痺側下肢のクリアランス低下や支持性低下によって重心が非麻痺側へ偏位することで左右非対称な歩行パターンとなる傾向にあり,これを正常に近づけるためには速度を上げた歩行練習が効果的であるとされている。また脳卒中片麻痺患者の歩行速度を増加させるには麻痺側下肢の振り出しが重要な因子の一つであるとの報告もあることから,40%免荷における歩幅の拡大及び10m最大歩行速度の増加は,より対称的な歩行パターンに近づき,麻痺側下肢の振り出しに改善を認めた可能性があることを示していると考える。40%免荷ではトレッドミル歩行速度が有意に速かったことから,歩行パターンを正常に近づけるための至適速度であったと思われ,20%免荷では歩行パターンを改善する程の歩行速度に達していなかったと推察する。さらに40%免荷でトレッドミル歩行速度とBWSTT前後での10m最大歩行速度の差に有意な正の相関を認めたことに対し,20%免荷では相関を認めなかったことからも,一定の歩容を保ったまま最も速く歩ける速度が,10m最大歩行速度の即時効果に影響することが示された。以上のことから,脳卒中片麻痺患者に対し,歩行パターンの改善を目的とするBWSTTにおいては至適免荷量及び至適歩行速度が存在する可能性が示唆された。しかし,本研究は20%と40%以外での検証を行っていないため,今後,広範囲に免荷量を検討しBWSTTにおいて最も効果的な設定方法を示していくことが課題である。【理学療法学研究としての意義】本研究において,BWSTTに至適免荷量及び至適歩行速度が存在する可能性が示唆されたことは,今後の研究によってBWSTTをより有効なアプローチとし得る一助になると考える。
  • 歩行恒常性に着目して
    佐藤 周平, 伊藤 優也, 皆方 伸, 佐川 貢一, 佐藤 雄一
    セッションID: 0187
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中リハビリテーションにおいて,トレッドミルと懸垂装置を組み合わせ,歩行練習を行う,体重免荷トレッドミル歩行練習(Body Weight Supported Treadmill Training:BWST-T)が注目されている。脳卒中治療ガイドライン2009における歩行障害に対するリハビリテーションにおいて,起立―着席訓練や歩行訓練などの下肢訓練の量を多くすることは,歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)とされ,BWST-TもグレードBと位置付けされており,強く支持を受けている。脳卒中患者に対する歩行能力の改善の為には,歩行安定性を高める介入を行うことが必要不可欠である。歩行の安定性は①速度,②持久性,③恒常性の3要素から構成されている。BWST-Tの介入効果については諸家により,平地歩行困難な時期からの早期歩行練習の開始,歩行速度の増加,立脚時間の対称性の改善,連続歩行時間の延長等,数多く報告されているが,歩行恒常性の改善効果について着目された報告は少ない。近年,三軸加速度計による平地歩行中の1歩行周期毎の時間計測により歩行周期時間変動係数(以下変動係数)を求め,歩行恒常性を定量的に評価する試みがされており,高齢者や脳卒中患者の転倒リスクや歩行自立度と高い相関があることが報告されている。本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者を対象に,BWST-Tを実施した際,歩行恒常性を含む各歩行指標がどのように変化するのかを明らかにする事である。【方法】対象は,10m平地歩行が可能な初発脳卒中患者5名(発症より62.8±19.8日,脳梗塞3名,脳出血2名)とした。介入方法は,ABAデザインによる検討を行い,①A期(水準期)を最大努力下での平地歩行練習,②B期(操作導入期)をBWST-Tとし,さらに③A’期(水準期)を設け介入を行った。両期共に通常の理学療法介入に付加して,一日5分間の歩行練習を10回行った。BWST-Tの介入プロトコルは,免荷量を全体重の30%とし,設定速度はトレッドミル上で下肢の振り出しが可能な最大速度と設定した。評価項目を,各介入期間の前後での①10m最大歩行速度,②変動係数,③BergBalanceScale(以下BBS),④麻痺側下肢伸展筋力(以下伸展筋力)とした。なお変動係数に関しては,小型三軸加速度計を非麻痺側の足背面に設置し,10m快適歩行より算出した。統計処理としては,各期における評価項目をFriedman検定により分析した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には,本研究に対して書面による説明の後,同意を得た。【結果】歩行評価指標として,歩行速度はA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に増加した(p<0.001)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した(p<0.05)。変動係数も同様にA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に減少した(p<0.05)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に減少した(p<0.01)。BBSと伸展筋力に関してはA期,A’期前後において有意に増加したが(p<0.05),B期前後においては有意な変化を認めなかった。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した。(p<0.001)。【考察】先行研究と同様に,平地歩行練習と比較しBWST-T介入によって,歩行速度が増加した。また今回着目した変動係数においても,BWST介入においてのみ有意な減少が得られるという結果となった。BWST-Tのみ歩行速度,変動係数が改善された機序としては,懸垂装置により安定性を確保された状態で効率的に歩行練習が行われた事,トレッドミル上での一定した速度設定での歩行練習によりばらつきの無い,より安定した歩行パターンの学習が円滑に行われた事が考えられた。一方歩行能力との相関が高いBBSや伸展筋力において,BWST介入前後における有意な改善が得られなかった要因としては,懸垂装置により安定性が確保されている事,体重免荷による下肢筋活動量の低下により,平地歩行練習と比較すると短期的には十分な介入効果が得られ無かったことが考えられた。今回の検討により,脳卒中患者を対象としたBWST-T介入は,歩行安定性の一要素である歩行速度の増加だけではなく恒常性の改善に特異的な効果がある事が考えられ,BWST-T介入で,より高度な歩行能力を獲得することが示唆された。BWST-Tは歩行恒常性の改善を促す為にも有用な介入方法であるという事が考えられた。【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者を対象とした,BWST-T介入は平地歩行練習と比較し,歩行速度の改善に加え,歩行安定性の1要素である恒常性という側面に対しても効果的に寄与する事が明らかとなった。BWST-Tは脳卒中リハビリテーションにおいて有用なトレーニング方法であることを再確認する事が出来た。
  • 八幡 拓真, 真壁 寿
    セッションID: 0188
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,歩行障害を有する脳卒中患者に対して,体重を免荷させながらトレッドミル上を歩行するトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下BWSTT)が実施されている。BWSTTは関節運動範囲の拡大,両脚支持期の短縮や麻痺側単脚支持期の延長により歩行パターンが変化し,歩行の協調性が改善すると報告されている。歩行時の協調性は,複数の身体体節間の位置関係とその時間変化を周期的に維持する能力であると定義され,この2つの尺度から評価する必要がある。従来の評価では,BWSTT時に複数の関節や体節がどのような位置関係で動いているか明確ではない。位置情報と時間的情報の両方を含み,さらに定量的に協調性を評価する手法に連続相対位相解析がある。本研究は,BWSTT時の免荷量の違いによって,脳卒中患者の麻痺側下肢,非麻痺側下肢,健常者における下肢協調性がどのように変化するか連続相対位相解析を用いて定量的に調査することを目的とした。【方法】対象者は脳卒中片麻痺患者(年齢64.8±8.2才,下肢Brunnstrom stage5=3名,stage6=7名,発症経過8.5±7.5ヶ月)と健常高齢者(年齢64.3±7.5才)の男性で各群10名とした。各群ともに免荷装置で体重の0%,10%,20%,30%の免荷を施した状態でトレッドミル上を30秒間歩行した。トレッドミルの速度は,転子果長と重力加速度から最大歩行速度を算出するフルード速度を用いて,その20%,25%,30%の速度から快適歩行速度に近似する速度に設定した。データ算出には三次元動作解析装置(VICON MXT-20)を使用して,両下肢より20ストライドのデータを抽出した。連続相対位相解析は,マーカー座標より矢状面における大腿軸,下腿軸,足部軸それぞれに対する水平方向になす角度と角速度を算出し,下肢体節の位相図を求めた。そして位相図から逆正接関数を用いて位相角を求め,近位体節から遠位体節の位相角を減算することで大腿-下腿と下腿-足部の相対位相を求めた。さらに1ストライドが100ポイントになるように補間処理を行い,歩行周期を接踵期(HC期),立脚中期,足趾離地期(TO期),遊脚期の4相に分割し,各相の相対位相の平均値を算出した。統計処理はMardia Watson Wheeler testを用いて相対位相の平均値を免荷量による群間,群内での比較を行った。なお有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究協力施設の倫理委員会で承認され,参加者に口頭と書面で説明し同意を得て実施した。【結果】大腿-下腿の相対位相はHC期において,0%免荷時の脳卒中患者の麻痺側下肢と非麻痺側下肢の相対位相が健常者よりも大きい傾向にあった。免荷すると健常者と脳卒中患者ともに相対位相が増大する傾向を示し,特に麻痺側下肢の相対位相は健常者の0%免荷時と比較して有意に増大した。また30%免荷時に非麻痺側下肢の相対位相が麻痺側下肢よりも有意に大きかった。下腿-足部の相対位相はTO期において,0%免荷時に脳卒中患者は健常者よりも相対位相が大きく,麻痺側下肢は有意に大きかった。免荷すると健常者は変化しないが,脳卒中患者は両下肢の相対位相が減少傾向を示し,健常者の0%免荷時の相対位相と同程度となった。【考察】HC期における大腿-下腿の相対位相から,体重免荷によって膝関節周囲の協調性が低下することが示された。これは垂直方向への体重免荷はHC期の身体にかかる衝撃を緩和させるが,衝撃吸収に関与する下腿の前方傾斜や膝関節の屈曲動作の制御が乱れたためであると思われる。さらに脳卒中患者は30%免荷に麻痺側下肢と非麻痺側下肢の左右非対称性を示した。脳卒中患者における体重免荷は,HC期に膝関節周囲の協調性低下と左右非対称な動作を導き,協調的な膝関節運動の獲得を阻害する可能性がある。TO期における下腿-足部の相対位相から,軽症な脳卒中患者であっても0%免荷時に健常者より足関節周囲の協調性が低下していることが示され,さらに免荷することで健常者の0%免荷時の相対位相に近似する傾向を示した。BWSTT時は麻痺側下肢の立脚期が延長することが報告されており,立脚後期の足関節底屈の角度変化が緩やかになったことで,下腿-足部の相対位相が減少して健常者の値に近づいたと思われる。また非麻痺側下肢は,免荷することで非麻痺側下肢への荷重が減少して正常に近い足関節の運動を導いたことで足関節の協調性が健常者に近似したと思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,軽症な慢性期脳卒中患者を対象にBWSTT時の下肢協調性を調査した。免荷することで足関節周囲の協調性は健常者に近づき,膝関節周囲の協調性は正常パターンから逸脱するという利点と欠点が示された。脳卒中患者の下肢協調性を改善させるためには,この点を考慮して適応することが重要である。
  • 久賀 紘和, 田口 潤智, 笹岡 保典, 堤 万佐子, 山本 洋平, 中谷 知生
    セッションID: 0189
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,医療や介護の分野でリハビリロボットの活用は増え,有効性が注目されてきている。株式会社モリトーにより開発された免荷式リフトPOPO(以下,POPO)は左右独立懸架のSuspension Liftで体重を免荷し,安定した歩行を可能にする歩行器型のリハビリロボットである。理学療法診療ガイドライン(2011)においては,床上歩行での部分的体重免荷は,歩行速度やバランス能力,歩幅を改善させる,と報告しており,脳卒中患者の歩行能力改善へのPOPOの効果が期待される。今回,運動失行と両側麻痺を呈し歩行練習が困難な症例に対してPOPOを使用したことで歩行能力が大きく向上したため報告する。【方法】対象は当院入院中の脳卒中両側麻痺を呈した60歳代の男性である。平成22年2月に左頭頂葉出血,平成25年2月に右前頭葉出血を発症している。当院へは平成25年3月に入院し,理学療法を開始している。身長178.0cm,体重67.5kg,Brunnstrom Stageは右上肢4,手指4,下肢3,左上肢5,手指5,下肢4,高次脳機能障害として運動失行を認める。POPO介入前の歩行能力は,平行棒内最大介助であり,歩行器又は歩行補助具無しの歩行は介助をしても足を踏み出すことはできず遂行困難であった。POPOによる介入は平成25年4月から開始した。介入方法の概要は,POPOを使用した歩行練習(以下,POPO歩行)を6週間,週5回,1日20分実施した。介入初期の免荷量は最大介助のもと前進が可能であった20kgとした。進行方向の修正程度の軽介助で歩行が遂行できた場合,次の介入日から10kg免荷,免荷無し,と段階的に免荷量を減少させた。経過を観察するために,10m歩行テストを20kg免荷,10kg免荷,免荷無しの歩行が軽介助になった時点で実施した。評価項目は,所要時間,歩数,底屈トルクとした。底屈トルクは荷重応答期の足関節底屈運動の有無を判定するために,川村義肢社製Gait Judge Systemを使用して計測した。また,各時期の病棟内における移動形態と歩行の介助量を明記することとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。【結果】介入初日から7日後に20kg免荷歩行が軽介助となり,13日後に10kg免荷歩行,42日後に免荷無し歩行がそれぞれ軽介助となった。10m歩行テストに関して,20kg免荷歩行は,所要時間31.87秒,歩数60歩,底屈トルクは足先接地に伴い生じた。病棟内の移動は車椅子介助とPOPO歩行介入前と変化はなかったが,歩行補助具を用いない歩行は最大介助で可能となった。10kg免荷歩行は,所要時間22.09秒,歩数58歩,底屈トルクは踵接地に伴い生じるようになった。病棟内移動は車椅子介助と変化はなく,歩行補助具を用いない歩行は中等度介助となった。免荷無し歩行は,所要時間23.80秒,歩数54歩,底屈トルクは足底全面接地のため生じなかった。歩行補助具を用いない歩行は軽介助となり,病棟内のトイレと食堂への実用的な歩行が可能となった。【考察】本症例は,POPOを使用した床上の歩行練習により歩行能力と実用性が大幅に改善した。荷重応答期の踵ロッカーの指標である底屈トルクは,当初足先接地に伴うもので足関節底屈筋群の過活動が考えられたが,13日後の10kg免荷歩行では踵接地に伴い生じるようになった。免荷無し歩行ではアライメントの保持が不十分なため足底全面接地となり生じなかったが,介入初期と比べ改善を認めた。歩行因子が改善した要因としてPOPOの免荷機能が挙げられる。ハーネスを骨盤帯に装着して上方へ牽引することで下肢への負担軽減と姿勢の安定化をもたらし,課題レベルが容易となることで反復した歩行練習が可能となる。また,免荷量の調節による段階的な課題レベルの引き上げにより運動学習の効果がより高まったものと考えられる。これまで,部分免荷トレッドミルの歩行練習に関しては,脊髄損傷患者や脳卒中患者に対する効果が数多く報告されてきた。一方,床上での部分免荷歩行練習の有効性を示したものは,Miller EWらによる床上とトレッドミルの歩行練習を併用したものなど散見する程度である。今回の結果は,床上の部分免荷歩行練習が脳卒中患者の歩行能力を向上させる手段として有効であること,運動失行を有する重度介助の症例に対しても量的な歩行練習が重要であることなどを示唆しており,今後の適応範囲の拡大が期待される。本研究においても,症例数を増やしていきPOPO歩行の効果や適応をより明確にしていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究はPOPOによる床上の部分免荷歩行練習の効果を示したものであり,脳卒中患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。
  • 膝関節自動伸展角度に着目して
    田代 伸吾, 小川 弘孝, 郷原 早織, 田中 亜憂美, 下川 善行, 石丸 寛人, 木村 沙那恵, 鉄川 恭子
    セッションID: 0190
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年ロボット工学の進歩に伴いリハビリテーション分野においてもその活用が期待されている。今回,佐世保中央病院(以下当院)において2013年4月よりサイバーダイン株式会社製ロボットスーツHAL福祉用単脚型®(以下HAL)を導入した。当院リハビリテーション部において,脳血管疾患患者に対してHALを用いたリハビリテーションを実施し,その前後での膝関節自動伸展角度を測定し,HALの効果を検証したので以下に報告する。【対象】当院脳神経外科へ緊急入院となり,リハビリテーションが処方された患者において,HALが実施可能であり,かつ本人の同意が得られた症例12名のうち,今回の研究目的である膝関節伸展運動が随意的に可能な9名(男性7名,女性2名,平均年齢68.4±11.4歳)を対象とした。【方法】HALを用いてのリハビリテーション(①膝関節屈曲伸展練習②起立着席練習③歩行練習)を実施する前後で,膝関節自動伸展角度を測定しその値を対応のあるt検定にて比較検証した。膝関節伸展角度はHAL実施前後に各3回ずつ測定し,その平均値を比較した。膝関節伸展角度の測定はダートフィッシュ・ジャパン株式会社製動画解析ソフト(ダートフィッシュ®)を使用し,膝関節自動最大伸展時の大腿骨と腓骨とのなす角を求めた。9名の対象者のうちHAL訓練を複数回実施しかつ動画撮影ができた症例が3症例おり,データ数としては12対のデータを今回の統計処理の対象とした。統計学的有意基準は5%未満とした。【倫理的配慮】当院倫理委員会の承認を得ており,患者本人もしくは家族へ書面にて説明し同意を得た。【結果】HALを実施する前の膝関節伸展平均角度(大腿骨と腓骨とのなす角)は153.7±12.0°,HAL実施後の膝関節伸展平均角度は160.8±10.6°であった。統計学的処理として対応のあるt検定において有意水準P<0.01(P=0.008)にて有意に膝関節伸展角度に差があることが証明された。【考察】HALの原理は,脳から体に流れる生体電位信号を,皮膚表面に貼ったセンサーにより検出しコンピュータに送られて解析され,その結果,各関節部のパワーユニットが動き装着者の意思に従って動作をアシストしている。また,関節の動きや姿勢,重心の位置などを装着者がモニター画面上にて確認することができる。今回の対象である脳血管疾患患者は,随意的に膝関節を最大伸展することが難しい症例であったが,本人の意思によるHALのアシストによって,不足している膝関節伸展のパワーを補いながら膝関節を最大伸展させることができた。加えて,実際の下肢の動きやモニターからの情報により,視覚的にも,体性感覚的にも脳へフィードバックされ脳内モデルの修正が行われたと考える。Sharmaらは,脳卒中後の運動機能回復に影響を与える要因の第一として,麻痺側に対する体性感覚フィードバックを挙げている。HALによる動作を繰り返すことで神経回路の収束が行われ膝関節自動伸展角度が改善したと考える。宮島らは,随意的な動作の反復を行うことで,非障害側脳からの脳梁を介した抑制刺激が相対的に過剰となることを防ぎ,連合反応・痙縮を予防することにより,機能回復を促す可能性があるとしている。本人の意思により麻痺側を動かすというHALの特徴も,障害側脳を活性化し半球間抑制の視点からも機能改善の一助となっていると考える。普段の理学療法場面におけるセラピストによる受動的な運動よりもHALにおける能動的な運動の方が効果があるのかもしれない。今後研究を重ねていき,能動的運動と受動的運動の差を検証していく必要性があると考える。【おわりに】現代医学の発展はめまぐるしく,また,ロボット工学も日々開発が進んでいる。理学療法士としてリハビリテーションを実施する上で「手」に頼るだけでなく,科学的,工学的知識も習得し,より効果的かつ経験値によらない安定したリハビリテーションを患者へ提供できるように日々研鑽を重ねていく必要があると考える。
  • 北地 雄, 鈴木 淳志, 高橋 美晴, 尾崎 慶多, 柴田 諭史, 原島 宏明, 新見 昌央, 宮野 佐年
    セッションID: 0191
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は抑うつ状態を評価でき,ポジティブ項目とネガティブ項目に分けることができる。CES-Dによって評価される感情の状態は脳卒中の発症(Ostir,2001),ADLや抑うつ(Ostir,2008),社会的サポート(Ciro,2012),急性イベントからの回復(Ostir,2002,2008)などと関連し,運動療法は脳卒中後の抑うつ症状を軽減する可能性が示唆(Lai,2006)されている。また,ベースラインの抑うつ状態とQOLは3か月後の日常生活自立度の指標であるmRS(modified Rankin Scale)と関連する。これらのことは感情状態の評価の必要性を示唆している。本研究の目的は脳卒中発症後回復期の感情の状態と身体機能,日常生活機能,QOLとの関連を検討することである。【方法】対象は2013年6月以降に脳卒中により当院回復期病棟に入院した,同意のもとCES-Dの聴取が可能であった連続症例23名(内訳:男性20名,女性3名,年齢69.9±13.8歳,発症からの期間27.6±19.5日,右半球病巣6名,左半球病巣6名,両側3名,脳幹6名,小脳2名,MMSE25.9±4.6点)であった。感情状態の評価としてCES-Dを,身体機能の評価としてFBS,10m歩行,TUG,膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom Stage),上肢FMA(Fugl-Meyer Assessment),ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を,日常生活の評価としてBI,mRSを,QOLの評価としてSS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)をその他にVitality Indexや自尊感情尺度などを調査した。統計学的解析はCES-Dのポジティブ項目,ネガティブ項目および各調査測定項目との関連を相関係数にて検討し,身体機能,ADL,QOLのいずれが感情状態に影響を及ぼすのか回帰分析(ステップワイズ法)にて検討した。また,年齢を制御変数とした偏相関,罹患半球の比較も行った。SPSS version 17.0を用い5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮】本研究は,当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。【結果】CES-Dの合計点はCES-Dのネガティブ項目,SS-QOL(下位項目では気分と視覚),自尊感情尺度と,CES-Dのポジティブ項目は自尊感情尺度と,CES-Dのネガティブ項目はABMS,BI,SS-QOL(下位項目は活動性,気分,パーソナリティ,セルフケア)と相関を認めた。以下は,より多くの変数との相関を認めたCES-Dのネガティブ項目についての更なる分析を示す。CES-Dのネガティブ項目と相関を認めた項目による回帰分析の結果,SS-QOLが抽出され(調整済みR2=0.401),ABMSとBIが除外された。また,CES-Dのネガティブ項目と相関を認めたSS-QOL下位項目による回帰分析ではパーソナリティと気分が抽出され(調整済みR2=0.558),活動性とセルフケアが除外された。また,年齢はSS-QOL,およびその下位項目である活気,社会的役割と負の相関を示した。年齢を制御変数とした偏相関の結果,CES-Dのネガティブ項目はSS-QOLと引き続き相関を認めるものの,ABMSおよびBIとの相関関係が認められなくなった。罹患半球の比較において,いかなる変数も有意差を認めなかった。【考察】脳卒中発症後回復期のポジティブおよびネガティブを含めた全体的な感情の状態はQOLおよび自尊感情と関連し,ネガティブな感情の状態は身体機能,ADL,およびQOLと関連した。Ostirらの報告はポジティブな感情との関連であるが,これはOstirらの検討時期がフォローアップ時(発症3か月後など)であることによる可能性が考えられる。ネガティブな感情状態は身体機能やADLよりもQOLに強く影響され,QOLの中でもパーソナリティと気分の影響が強いことが示された。また,加齢によって活気,社会的役割,およびQOLが低下することが示唆された。また,年齢を調整することでネガティブな感情状態に対する身体機能の関連は認められなくなるが,QOLは関連を保った。今回の結果をまとめると,加齢によりQOLは低下する傾向にあり,それに加え脳卒中発症時の年齢,パーソナリティや気分などの素因的影響,さらにその時の身体機能やADLが脳卒中発症後回復期のネガティブな感情および気分に複雑に影響を及ぼしあう可能性を示唆する。これらのことは,ガイドラインに従い脳卒中後の感情状態を,発症後早期から十分に評価・治療することの必要性を示唆している。しかし,本研究は少数例であるため,引き続き検討が必要であることが強調されなければならない。【理学療法学研究としての意義】脳卒中発症後回復期のネガティブな感情は,特にパーソナリティや気分によって強く影響され,QOLに大きな影響を及ぼすが,それは身体機能やADLとも複雑に影響を及ぼしあい形成されることが示唆された。
  • 清藤 恭貴, 北地 雄, 鈴木 淳志, 尾崎 慶多, 高橋 美晴, 柴田 諭史, 原島 宏明, 新見 昌央, 宮野 佐年
    セッションID: 0192
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】リハビリテーションには医学的,教育的,職業的,社会的リハビリテーションの分野があり,その基調は主体性,自立性,自由といった人間本来の生き方であって,必ずしも職業復帰や経済的自立のみが目標ではないとされる。したがって,機能障害や能力障害の医学的側面のみならず心理・社会的側面も含めた全人的アプローチが必要となる。本研究の目的は全人的アプローチの一角であるQOLを数量化するSS-QOLを用いて,脳卒中者のQOLと身体機能,日常生活機能,心理・社会的側面の関係を調査することである。【方法】対象は同意のもとSS-QOL(Stroke Specific Quality of Life)の聴取が可能であった脳卒中により当院回復期病棟に入院した連続症例23名(内訳:男性20名,女性3名,年齢69.9±13.8歳,発症からの期間27.6±19.5日,右半球病巣6名,左半球病巣6名,両側3名,脳幹6名,小脳2名,MMSE25.9±4.6点)であった。脳卒中者に特異的なQOLの評価としてSS-QOLを,感情状態の評価としてCES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を,身体機能の評価としてFBS,10m歩行,TUG,膝伸展筋力,下肢BS(Brunnstrom stage),上肢FMA(Fugl-Meyer Assessment),ABMS(Ability for Basic Movement Scale)を,ADLの評価としてBI,mRS(modified Rankin scale)を,その他Vitality Index,リハビリに対する期待度やお見舞い頻度なども調査した。統計学的解析はSS-QOLの合計得点,SS-QOLの下位項目(活気,家族的役割,言語,活動性,気分,パーソナリティ,セルフケア,社会的役割,思考,上肢機能,視覚,仕事),および各調査測定項目との関連を相関係数にて検討し,身体機能,ADL,および年齢のいずれがSS-QOLに影響を及ぼすのかを回帰分析(ステップワイズ法)にて検討した。また,SS-QOLの合計点と相関を認めた下位項目を用いて回帰分析(ステップワイズ法)を行い,SS-QOLに最も影響のある下位項目を抽出した。SPSS version 17.0を用い5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮】本研究は,当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。【結果】SS-QOLの合計点と相関を認めた項目は麻痺側膝伸展筋力,ABMS,FBS,BI,Vitality Index,年齢であり,SS-QOLの下位項目では言語,活動性,気分,セルフケア,社会的役割,思考,上肢機能,仕事であった。SS-QOLの下位項目である活気は年齢,活動性,気分と,言語は気分,思考,Vitality Indexと,活動性はおもに身体機能の評価項目とBIおよびセルフケア,社会的役割,仕事と,気分はVitality Index,リハビリに対する期待度,セルフケアと,パーソナリティは視覚と,セルフケアはVitality Index,MMSE,身体機能,ADL,社会的役割と,社会的役割は身体機能,BI,年齢と,思考はVitality Index,お見舞い頻度,上肢機能と相関を認めた。SS-QOLと相関を認めた麻痺側膝伸展筋力,ABMS,FBS,BI,Vitality Index,年齢による回帰分析の結果,麻痺側膝伸展筋力および年齢が抽出された(調整済みR2=0.492)。これにCES-Dのネガティブ項目を含めるとCES-Dのネガティブ項目,麻痺側膝伸展筋力が抽出された(調整済みR2=0.544)。SS-QOL合計点と相関を認めた下位項目による回帰分析の結果,活動性,思考,気分が抽出された(調整済みR2=0.842)。【考察】脳卒中に特異的なQOLを評価することのできるSS-QOLは身体機能,ADL,vitality,および年齢と関連し,なかでも麻痺側膝伸展筋力および年齢に強く影響を受けることが示唆された。しかし感情の状態を評価できるCES-Dを含めると,CES-Dのネガティブ項目と麻痺側膝伸展筋力が抽出されたことより,SS-QOLはネガティブな感情により強く影響されることが示唆された。また,SS-QOLは下位項目のなかでも特に活動性,思考,気分の影響を強く受けることが示された。SS-QOLの下位項目(活気,家族的役割,言語,活動性,気分,パーソナリティ,セルフケア,社会的役割,思考,上肢機能,視覚,仕事)はそれぞれ下位項目同士,および年齢,身体機能,ADL,認知機能,Vitality,リハビリに対する期待度やお見舞い頻度と関連を示した。以上をまとめると,多面的な要素を持つQOLを点数化するSS-QOLは脳卒中発症時の年齢,全体的な活動状態や気分の影響を強く受けるが,SS-QOLを構成する多面的な下位項目は日常生活に影響を及ぼすと考えられるすべてのことに強弱はあるものの影響を受けることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】QOLを客観的に点数化すること自体は難しいことであるが,今回の結果からSS-QOLに関してはさまざまな影響を受けながらも,年齢,全体的な活動性,気分の影響を強く受けることが示唆された。
  • 田中 直次郎, 飛松 好子, 出家 正隆, 岡村 仁
    セッションID: 0193
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)は制度開始から10年以上が経過しているが,回復期病棟を退院した脳血管障害患者の健康関連quality of life(HRQOL)を経時的に調査した報告は少ない。今回,回復期病棟退院時と退院半年後のHRQOLの変化を調査したので報告する。【方法】対象は2011年4月から2014年5月に当院回復期病棟へ入院した初発の脳血管障害患者であり,退院時の理解能力が機能的自立度評価法(FIM)4以上の者で,調査を依頼できた35名とした。そのうち以下の除外基準に該当しなかった18名を分析した。除外基準は脳血管障害を再発した者,運動麻痺を認めない者,退院先が病院・施設の者,既往に精神疾患をもつ者とした。調査項目はSF8 Health Survey(SF-8),老研式活動能力指標(TMIG),機能的自立度評価表(FIM),life-space assessment(LSA),退院後再発の有無とした。SF-8とFIMは退院時と半年後に評価し,その他の項目は半年後にアンケート調査した。SF-8はスタンダード版をNPO健康医療評価研究機構へ登録して使用し,半年後のFIMは青木らによるFlow-FIMを使用した。他に退院時データとしてカルテから年齢,性別,病型,在院日数,Brunnstrom-recovery-stage(BRS),退院時歩行能力として10m歩行に要する時間,Timed Up and Go test(TUG),6分間歩行テスト(6MD)を収集した。分析にはSPSS ver11を用い,1サンプルのt検定,Wilcoxonの符号付き順位検定,相関分析にはSpearmanの順位相関係数を使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】この調査は院内の倫理委員会の了承を得て実施し,各患者には面接と書面による同意を得た。【結果】対象となった18名は男性12名,女性6名で,平均年齢62±10歳であった。病型は脳梗塞13名,脳出血3名,クモ膜下出血2名であった。在院日数は111日±42日,退院から半年後の調査日の日数は209±25日で,その時点での要介護状態区分は不明もしくは認定無しが8名,要支援7名,要介護1が2名,要介護2が1名であった。退院時の下肢BRSは中央値が5で,退院時の10m歩行に要する時間は9.7±6.1秒,TUGは12.0±8.3秒,6MDは356±122mであった。半年後のTMIGは中央値が10点,LSAは合計点平均が75.9±33.6点であった。退院後半年間の変化について,FIMは退院時の運動項目合計が平均81.9±7.7点から半年後に85.3±5.5点へ有意(p=0.039)に改善し,認知項目合計は32.9±2.6点から33.5±3.2点と保たれていた。HRQOLは2つのサマリースコアと8つの下位項目で有意な変化なく,保たれていた。HRQOLを国民標準値と比較すると,退院時の身体的サマリースコア(PCS)は44.5±7.4点で有意に国民標準値より低く(p=0.007),下位項目ではPF(身体機能),RP(日常役割機能身体)が有意(それぞれp値が0.004,0.001未満)に低値であった。半年後も同様にPCSとPF,RPが有意(p=0.007,0.004,0.006)に低値であった。HRQOLと各変数の相関を検討すると,退院半年後のPFが半年後のFIM運動項目合計とFIM合計との間に有意(p=0.017,0.015)な正相関を示したが,TMIG,LSAとは相関しなかった。一方,LSAとTMIGは有意(p=0.003)な相関を認めた。退院半年後のTMIGと退院時変数を分析すると,BRS下肢(p=0.019),FIM運動合計(p=0.010),10m歩行に要する時間(p=0.017),TUG(p=0.003),6MD(p=0.011)が有意に相関していた。LSAにはFIM運動合計(p=0.014),10m歩行に要する時間(p=0.022),TUG(p=0.008),6MD(p=0.013)が有意に相関していた。【考察】今回の対象者は回復期病棟を退院した患者の中では比較的軽症の脳血管障害患者といえる。それでもADLや歩行能力,IADL,生活空間は一般高齢者よりも制限されていた。退院時および半年後のHRQOLは,どちらもPCS,PF,RFが国民標準値より低いことから,脳血管障害による身体的な制限が,HRQOLに影響していると思われる。RFとFIMとの相関関係から,ADL能力を改善することはHRQOLの改善につながる可能性がある。TMIGとLSAはHRQOLとは有意な相関を見出せなかったが,互いに相関を示しており,それらは退院時のADLや歩行速度とバランスおよび耐久性と相関していた。HRQOLに対する関与は不明だが,回復期入院時にADLや歩行能力に加え,バランスや耐久性を改善することがIADLや生活空間の広がりにつながることが示唆された【理学療法学研究としての意義】回復期病棟を退院した脳血管障害患者は,比較的軽症者であってもHRQOLの身体的健康度は国民標準値よりも有意に低値にとどまり,ADL,IADL,生活空間に制限があった。回復期病棟入院中にADL能力,歩行能力,バランス,耐久性を改善することはIADLや生活空間およびHRQOLの改善につながる可能性が示唆された。
  • ~Functional Independence Measure(FIM)を用いて~
    豊島 晶, 植村 健吾, 木曽尾 徹, 村上 嘉奈子, 廣瀬 俊彦, 叶 世灯, 青木 敦志, 姜 治求, 桑田 彩加
    セッションID: 0194
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中患者におけるActivities of Daily Living(以下ADL)評価法として,Functional Independence Measure(以下FIM)がある。急性期病院である当院も,刻々と変わる症状把握のため簡便で迅速な評価が必要とされるが,病状・合併症の影響もあり,FIMは使用困難な場合が多い。本研究では,より簡便に評価できるmodified Rankin Scale(以下mRS)に注目し,その有用性について検討を行った。【方法】対象は平成25年4月~10月の7か月間に当院を退院した,急性期脳卒中患者291名を対象とした(脳梗塞232名(79.7%)女性94名(40.5%),71.0±13.6歳,脳出血59名(20.3%)女性32名(54.2%),70.9±13.6歳)。なお,今回はクモ膜下出血を除外とした。分析項目は入院時・退院時のmRS,運動FIM,認知FIM,総合FIMとした。これらの分析項目に,入院時・退院時mRSと運動FIM,認知FIM,総合FIMの相関係数を算出し,さらにmRS,運動FIM,認知FIM,総合FIMそれぞれのリハ開始時と退院時の差(以下利得)の相関係数を算出し,1%を有意水準としてSpearmanの順位相関分析を用いて処理を行った。また,検者間の差を無くすため,mRSとFIMの評価方法については院内研修を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は入院時に同意を得てデータは匿名化処理をし,個人情報保護に配慮した。【結果】以下に平均値を示す。mRSは入院時2.8±1.4,退院時2.0±1.7,利得0.7±0.9,運動FIMは入院時51.0±27.1退院時72.1±25.7,利得20.9±19.6,認知FIMは入院時26.6±11.2,退院時28.6±9.6,利得1.9±6.1,総合FIMは入院時77.7±35.6,退院時100.7±34.0,利得22.8±22.2であった。mRSとFIMの相関係数の結果,入院時では,mRSと運動FIM(R=-.795),mRSと総合FIM(R=-.783),退院時では,mRSと運動FIM(R=-.776),mRSと総合FIM(R=-.788)において強い相関を認めた。また,入院時mRSと認知FIM(R=-.579),退院時mRSと認知FIM(R=-.650)では,中等度の相関を認めた。利得においては,mRSと総合FIM(R=-.404)と中等度の相関が得られ,mRSと運動FIM(R=-.389)と弱い相関が得られ,mRSと認知FIM(R=-.146)では,相関を認めなかった。【考察】mRSと運動FIM項目の合計点はおおむね相関することが報告されている。本結果でも入院時mRSと入院時運動・総合FIM,退院時mRSと退院時運動・総合FIMで強い相関を認めることができた。よってmRSは運動・総合FIMの代用として可能である。刻々と変わる症状を把握するのに,簡便で迅速な評価が求められる急性期病院では,mRSがFIMより有用と考える。利得について,mRSと総合FIMでは中等度の相関,運動FIMでは弱い相関を認めた。これは評価項目の内容や区分する幅,段階分けにmRSとFIMでは違いがあるため低い相関となったのではないだろうか。これについては今後さらに追跡調査を行い検討したい。また,認知FIMは入院時・退院時mRSともに,中等度の相関を認めた。利得は,mRSと認知FIMで,相関を認めなかった。mRSの評価で,認知面を網羅することは難しいといえる。患者把握するにはmRSに加えて,認知面の検査を含む評価を実施するべきと考える。結果としてmRSは,入院時や退院時の一時点での全体的な状態の把握として,運動・総合FIMの代用となる。日々変化する急性期の評価としてmRSは適しており,さらに院内・院外に関わらず,他部門への情報提供にふさわしい評価方法として有用である。【理学療法学研究としての意義】mRSは,総合・運動FIMの代用となり,急性期病院での簡便で迅速な評価方法と言える。またmRSと他の認知評価項目を用いることで,より評価の精度が増すと考えられる。
  • ~Gait Judge Systemを用いての健常者との比較~
    山木 健司, 大垣 昌之, 西濱 大輔, 加藤 美奈, 竹井 夕華, 坂口 勇貴, 竹下 優香, 藤本 康浩, 横山 雄樹, 富岡 正雄
    セッションID: 0195
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】脳卒中片麻痺患者に対する理学療法において歩行能力の改善は重要な目標の一つである。Perryは正常歩行の理論の一つとして立脚期における下肢のロッカー機能(rocker function)を提唱した。しかし,臨床場面において下肢のロッカー機能を客観的に数値化して評価するためには床反力計や三次元動作解析装置など高価な機器が必要であった。近年開発された川村義肢社製Gait Judge Systemは,踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントと遊脚前期の蹴り出しに伴う底屈モーメント,足関節角度を臨床場面において簡便かつ定量的に評価できる機器である。そこで本研究の目的は,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時の底屈モーメントと足関節角度の特性について健常者と比較検討することとした。【方法】対象は回復期病棟で入院中の脳卒中片麻痺患者で自立歩行もしくは見守り歩行が可能な9名(平均年齢は65±13.8歳,男性7名,女性2名,下肢Brunstrom Recovery StageIV5名,V4名,以下:片麻痺群)と,健常者9名(平均年齢26.7±4.9歳,男性7名,女性2名,以下:健常者群)とした。測定には川村義肢社製Gait Judge Systemを使用。Gait Solution付短下肢装具(油圧2.5)の足関節継手にGJSを装着し,足関節0°の設定(Zero Offset)は静止立位にて行い,ゴニオメーターを使用し確認を行った。測定は快適歩行速度で3歩行周期目~7歩行周期目までの5歩行周期とし,各歩行周期を加速度計の波形で踵接地時を推定し周期分けした。その際の底屈モーメント(Nm)と歩行周期中の最大底背屈角度(°)を計測した。底屈モーメントはLoading response時の底屈モーメント(以下1stピーク),Pre-swing時の底屈モーメント(以下,2ndピーク)のそれぞれ平均値を算出した。歩行能力として10m歩行時間(快適歩行速度)を計測した。得られた値から,1)片麻痺群と健常者群の1stピーク,2ndピーク,最大底背屈角度,歩行時間の比較,2)各群の1stピーク,2ndピークの比較についてT検定用いて検討した。本研究の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。【結果】1stピーク平均値は片麻痺群5.8±2.8Nm,健常者群9.6±1.3Nm,2ndピーク平均値は片麻痺群2.9±4.9Nm,健常者群9.1±3.8Nmであり,各ピーク値ともに片麻痺群が有意に低い値を示した(P<0.01)。最大底屈角度は片麻痺群4.1±2.3°,健常者群3.3±3.2°,最大背屈角度は片麻痺群11.3±4.3°,健常者群10.7±4.6°であり,各関節角度に有意な差はなかった(P>0.05)。10m歩行時間は片麻痺群16.3±4.9秒,健常者群6.6±1.0秒であり,健常者群が有意に低い値を示した(P<0.01)。また,各群それぞれの1stピークと2ndピークの比較では,片麻痺群は1stピーク(5.8±2.8Nm)に比べ,有意に2ndピーク(2.9±4.9Nm)が低い値を示した(P<0.05)のに対し,健常者群では1stピーク(9.6±1.3Nm)と2ndピーク(9.1±3.8Nm)に有意な差を認めなかった(P>0.05)。【考察】本研究の結果,片麻痺群と健常者群の比較において,1stピーク,2ndピークともに片麻痺群が有意に低い値であり,特に健常者群では1stピーク,2ndピークの値がほぼ同等であるのに対し,片麻痺群では1stピークに比べ,2ndピークが有意に低いことがわかった。1stピークは踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントであり,踵接地の適切さ,すなわちヒールロッカーが機能しているか否かを評価している(大塚,2012)とされており,1stピークが低値であった片麻痺群は適切なヒールロッカーが機能しておらず,結果的に歩行速度にも影響したと考えられる。次に2ndピークは立脚後期に下腿三頭筋のStretch Shortening Cycle(以下:SSC)によって発生されるモーメントが発生源といわれており,健常者において歩行速度との関連性が報告されている(Ohata,2011)。これらより歩行速度の遅かった片麻痺群において2ndピークが低値を示したことは,立脚後期に下腿三頭筋のSSCによって発生される底屈モーメントが不十分であることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時底屈モーメントは健常者に比べ1stピーク,2ndピークともに低値という特徴があり,歩行速度との関連性も示唆された。
口述
  • 健常若年成人における予備的検討
    大角 哲也, 原田 亮, 臼田 滋
    セッションID: 0196
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】二重課題(Dual-Task:DT)において,二つの課題のどちらをどのぐらい優先させるかといった戦略は,DTを転倒リスクの評価や転倒予防のための介入に適用する際に重要である。これまで,パーキンソン病患者はposture second strategyを用いること等が報告されているが,脳卒中患者における報告は散見する程度である。また,選択される戦略が,二次課題の難易度や異なる指示によってどのように影響を受けるかは不明である。本研究は予備的検討として,健常若年成人を対象にDTの成績に及ぼす二次課題の難易度と異なる指示の影響を分析することを目的とする。【方法】対象は健常若年成人31名とした。一次課題は快適速度でのTimed Up & Go Test(TUG)とし,二次課題は90から100の間の任意の数字から3または7ずつ引く2種類の減算課題(serial 3’s:S3,serial 7’s:S7)とした。減算課題は,安静座位にて30秒間の正答数を記録した。DTは減算課題を行いながらのTUGとし,2種類の減算課題の難易度(S3とS7)および2種類の課題の優先順位づけの指示(「歩行と減算課題の両方ともに集中して下さい」(no priority)と「主に減算課題に集中して下さい」(cognitive priority))の4条件で実施した。各条件はDT3N(S3,no priority),DT3C(S3,cognitive priority),DT7N(S7,no priority)およびDT7C(S7,cognitive priority)とし,減算課題の開始の数字は90から100の間の数字とし,毎回変更した。DTは1回練習後に順番をランダムに各条件1回ずつ実施した。TUGは時間を測定し,減算課題は正答数を記録して1秒当たりの正答数(回/秒)を算出した。さらにTUGおよび減算課題に対する自覚的な注意の配分を,11段階の多段階評価尺度(0~10)にて測定し,最も減算課題に注意した場合を10,TUGに注意した場合を0とした。また,DTのSingle-Task(ST)に対する変化率を(DT-ST)/ST×100として算出した。統計処理はSTおよび各DT条件の比較にはFriedman検定後に多重比較検定(Bonferroniの調整を用いたWilcoxonの符号付順位検定)を行い,STに対するDTの変化率の各条件間の比較には反復測定二元配置分散分析を行った。統計ソフトはSPSS ver. 19.0J for Windowsを使用し,有意水準は5%とした。【説明と同意】当院倫理委員会にて承認を受け,研究説明書に基づき対象者に研究内容を説明し,同意署名を得た。【結果】対象は男性17名,女性14名,年齢は24.3±2.2(平均±標準偏差)歳であった。各測定項目の平均値±標準偏差(最小値,最大値)は,TUGの時間(秒)はSTで8.0±0.9(6.3,10.8),DT3Nで10.2±2.5(6.3,17.4),DT3Cで12.2±4.2(6.8,22.6),DT7Nで11.2±3.6(5.9,18.7),DT7Cで13.5±5.2(6.7,28.4)であり,STとDTの比較において,S3では,ST-DT3N間,ST-DT3C間,DT3N-DT3C間でいずれも有意差を認め(p<0.001),S7ではST-DT7N間,ST-DT7C間,DT7N-DT7C間でいずれも有意差を認めた(p<0.001)。正答数(回/秒)は,S3のSTで0.7±0.4(0.2,2.0),DT3Nで0.6±0.4(0.3,2.0),DT3Cで0.6±0.3(0.2,1.6)でST-DT3C間でのみ有意差を認め(p<0.05),S7のSTで0.3±0.3(0.0,1.8),DT7Nで0.4±0.3(0,1.2),DT7Cで0.3±0.3(0,1.3)で各条件間に有意差は認めなかった。注意配分はDT3Nで5.5±0.8(4,7),DT3Cで7.8±1.2(6,10),DT7Nで6.1±0.9(4,7),DT7Cで8.2±0.9(6,10)であった。TUGの時間のSTに対するDTの変化率(%)は,DT3Nで27.3±27.1(-6.7,98.9),DT3Cで50.8±46.2(-13.4,167.7),DT7Nで39.6±40.6(-11.9,137.3),DT7Cで66.6±59.8(-6.7,238.2)であり,二元配置分散分析の結果,課題の優先順位づけの違いの主効果のみ有意であった(p<0.01)。【考察】STに対してDTにてS3,S7のいずれの条件においても有意なTUGの時間の低下が認められたことから,健常若年成人においても減算課題が付加された場合,さらに主に減算課題に集中するように指示した場合に歩行の安定性を優先するposture first strategyを用いる者が多いと考えられた。また,歩行時間のSTに対するDTの変化率は課題の難易度よりも課題の優先順位づけによる影響を受けやすいことが示唆された。さらに,歩行時間のSTに対するDTの変化率から,歩行能力や認知機能に問題のない健常若年成人においても歩行をどの程度犠牲にするかについて個人差があるということは興味深い点である。今後は脳卒中患者においても同様の検討を実施し,DTの戦略の特性や個別性の確認,戦略と歩行能力や機能障害との関連性を検討していきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】DTの戦略について検討することにより,DTの評価指標や介入方法としての有用性の向上の一助になると考えられる。さらに,脳卒中患者に応用してDTの戦略の特性を検討する事ができる。
  • 立本 将士, 山口 智史, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平, 田中 悟志
    セッションID: 0197
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動イメージは,実際の運動と類似した中枢神経系の活動を引き起こすことが報告されており(Facchini et al. 2002),脳損傷後患者の運動機能回復に有効な手法であると考えられている(Braun et al. 2006)。またYamaguchiら(2012)は運動イメージと末梢神経から感覚閾値の電気刺激を組み合わせた最中の大脳皮質の興奮性が,それぞれ単独の介入と比較し,有意に増加することを報告している。しかしながら,運動イメージと電気刺激の組み合わせによって,持続的な大脳皮質の可塑的変化が生じるかは明らかではない。大脳皮質の可塑的変化は脳卒中患者の機能回復に重要性な役割を果たすことが知られている(Sharma et al. 2012)。本研究では,運動イメージと電気刺激の組み合わせの反復による大脳皮質興奮性の可塑的変化について検討することを目的とした。【方法】健常成人7名(平均年齢25.0±3.7歳)を対象とした。実験条件は(1)運動イメージ課題のみ実施する条件(運動イメージ単独条件),(2)電気刺激のみ実施する条件(電気刺激単独条件),(3)運動イメージ課題と電気刺激を組み合わせて実施する条件(併用条件)の3つを行い,それぞれの条件で誘導される大脳皮質の可塑的変化の違いを比較した。実験条件は,2日以上の間隔で実施した。運動イメージ課題では,対象者は右手指の屈伸課題(3秒屈曲,2秒伸展)を10分間,計120回の屈伸イメージを行った。対象者の正面のモニタ上に課題ビデオを提示し,ビデオの動きに合わせてイメージするよう教示した。課題中は,筋電図を記録し,イメージ中に実際の筋活動は起こっていないことを確認した。電気刺激には,trio 300(伊藤超短波社製)を使用した。電極位置は,右手関節前面にて正中神経と尺骨神経部に貼付した。刺激強度は刺激を知覚できる最小強度の1.2倍,刺激周波数は10 Hz,パルス幅は100μsとし,10分間を持続的に通電した。電気刺激単独条件では,視覚入力を他の条件と統一するため,課題ビデオを同様に目視させ,かつ運動イメージは行わないよう教示した。大脳皮質の可塑的変化の指標には,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation:TMS)による運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を用いた。TMSは,左一次運動野を刺激し,右上肢第一背側骨間筋からMEPを記録した。TMSの安静時運動閾値は,50μVのMEPが50%の確率で誘発される強度とした。評価は介入前(PRE),介入終了直後(POST0),介入終了から15分後(POST15)の3回行った。それぞれの評価で,TMSにて10回刺激しMEPを測定した。データ解析は,MEPの最大振幅値の平均値を算出し,介入前の値との変化率にて比較した。先行研究(Yamaguchi et al. 2012)より,運動イメージと電気刺激を組み合わせることでMEPが増加するという仮説を持った。上記の仮説を検証するため,POST0およびPOST15において,条件間の比較を多重比較検定(Bonferroni法)にて実施した。有意確率は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】介入前と比較しPOST0におけるMEPの変化率は,運動イメージと電気刺激の併用条件では1.40±0.24,運動イメージ単独条件では0.94±0.25,電気刺激単独条件では0.98±0.41であった。POST15においては併用条件では1.30±0.74,運動イメージ単独条件では1.19±0.45,電気刺激単独条件では0.94±0.45であった。多重比較検定の結果,運動イメージと電気刺激の併用条件において,それぞれの単独条件と比較し,介入直後で有意にMEPの増大を認めた(p<0.05)。しかし,POST15では,併用条件と運動イメージ単独条件(p=0.76),併用条件と電気刺激単独条件(p=0.23)で有意な差を認めなかった。【考察】本研究の結果から,運動イメージと電気刺激を組み合わせることにより,それぞれ単独条件と比較し介入終了直後に有意な大脳皮質興奮性の可塑的変化を誘導することが明らかとなった。運動イメージにより皮質興奮性が高まっている最中に,電気刺激による末梢から感覚入力が入力されることで,より大きな大脳皮質の可塑性が誘導されたと考えられる。一方で,運動イメージと電気刺激による皮質興奮性の増大は15分後には条件間で有意な差がなくなっていた。今回の実験では,10分間という短い時間の介入であったため,比較的短時間で介入の効果が消失したと考えられる。今後,より効果的な介入時間や電気刺激のパラメータを検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】運動イメージと電気刺激の組み合わせによる大脳皮質興奮性の可塑的変化を初めて明らかにした。今後,中枢神経疾患に対するリハビリテーションに応用するための基礎的研究として意義がある。
  • 渕上 健, 中井 秀樹, 森岡 周
    セッションID: 0198
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,歩行能力障害に対する神経リハビリテーションのひとつとして,他者の運動観察を取り入れた介入の有効性が報告されている(Banty;2010)。さらに,この効果を高めるためには観察時により鮮明なイメージを作れるかが重要であるとされており,より自己の歩行をイメージしやすいように,他者の歩行映像のみでなく,自己の歩行映像も使用した介入の有効性が報告されている(Hwang;2010)。しかし,脳イメージング研究では,他者の運動を観察したときの報告がほとんどで,自己の運動を観察したときの脳活動を記録したものは見当たらない。よって,本研究の目的は,自己と他者の歩行観察における脳活動の違いとそれらのパフォーマンスに対する影響を調査することである。【方法】対象は右利きの健常成人13名(平均年齢20.5±0.8歳,男性6名,女性7名)とした。脳活動の計測にはfunctional near-infrared spectroscopy FOIRE3000(島津製作所製;以下,fNIRS)を用い,前頭葉から頭頂葉を含む51チャンネル(以下,ch)で測定した。条件は自己と他者歩行映像を各0.5,1.0,1.5倍速で再生し,計6条件とした。一つの条件の観察セッションが終了すると,その条件の歩行セッションへと移行した。観察セッション中の歩行観察時には,自身がVTRと同じように歩行するイメージをつくるよう教示した。観察後,イメージの鮮明度についてVASを記録した。歩行セッションでは,快適歩行を行うよう指示し,シート式足底接地足跡計測装置ウォークWay MW-1000(アニマ社製)にて,歩行速度と歩調,歩幅を同時計測した。fNIRSのデータは,各Chで平均Oxy-Hb量とEffect Size(以下,ES)を算出し,Region of Interest解析を実施した。統計処理において,ESとVASは二元配置分散分析し,主効果が見つかった場合Bonfferoni法を実施した。平均Oxy-Hb量は課題時と安静時で,歩行パラメーターは介入前と課題時でt検定を実施した。統計解析にはSPSS ver17.0を使用し,有意水準は0.05未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学研究倫理委員会に承認され(受付番号;H25-5),各参加者に充分な説明を行い,署名にて同意を得た。【結果】1.0倍速歩行観察条件の平均Oxy-Hb量において,自己では右の背側運動前野と上頭頂小葉が,他者では左の腹側運動前野と下頭頂小葉が安静時に比べ有意に増加した。1.0倍速歩行観察条件のESにおいて,右背側運動前野では自己が,左下頭頂小葉では他者が有意に大きかった。また,1.0倍速の自己歩行観察条件における右背側運動前野と右上頭頂小葉のESには強い相関が見つかった(r=0.89)。0.5倍速の自己歩行観察後の歩行時において,左背側運動前野のESが他者に比べ有意に大きかった。イメージの鮮明度のVASでは,0.5倍速と1.0倍速で自己が有意に高かった。歩行速度と歩調において0.5倍速の両群が介入前よりも有意に低下し,歩幅は自己でのみ有意に低下した。【考察】Naitoら(2009)は,身体表象を司る前頭・頭頂ネットワークにおいて,右半球が自己身体表象に関係し,左半球が他者や外界と相互作用とする身体表象に関係すると報告している。これより,自己観察条件では,自己身体表象ネットワークである右前頭・頭頂ネットワークが活動し,他者観察条件では,ミラーニューロンシステムを含んだ外界と相互作用する身体表象ネットワークである左前頭・頭頂ネットワークが活動したと考える。VASの結果から,自己の方が有意に鮮明なイメージができることが示された。よって,より鮮明なイメージをするためには,右前頭・頭頂ネットワークを賦活させることができる自己映像が効果的であると考える。0.5倍速の自己観察後の歩行中のESにおいて,左背側運動前野で有意に大きく,このとき歩幅は自己のみが有意に小さくなっていた。背側運動前野は,上頭頂小葉と連絡し空間における肢の動きに関連している。よって,この活動が歩幅を調整した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】システマティックレビューでは,イメージ介入における効果は一定ではないことが報告されている(Langhome;2009)。その要因の一つにイメージの鮮明度の問題が挙げられる。本研究から,自己と他者の歩行観察における脳内処理が異なることが明らかとなり,右前頭・頭頂ネットワークの賦活がより鮮明なイメージを導くことが示唆された。したがって,これらの知見を考慮することで,より効果的な運動イメージ介入の展開が期待できると考える。
  • 隠明寺 悠介, 窪田 慎治, 田中 恩, 平野 雅人, 上原 一将, 守下 卓也, 船瀬 広三
    セッションID: 0199
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床で運動療法を実施する際,セラピストは患者に適切な運動を誘導するために言語指示を与えることがある。言語理解や発声の中枢であるBroca野や,運動前野腹側部(PMv)と一次運動野手指筋支配領域との間には,機能的な連結があると報告されており(Pulvermuller et al., 2005),言語野が手の機能と密接な関係があるのではないかと推測される。そのため,言語発声に伴う一次運動野手指筋支配領域(Lt-M1 hand area)の興奮性変化を評価することで,言語野と手の機能との関連性を示す基礎的知見が得られると考えた。我々は昨年の第48回日本理学療法学術大会にて,単語発声によりLt-M1 hand areaの興奮性が高まることを報告した。しかし,発声内容や発声中の時間による興奮性変化,また興奮性増大の背景にある皮質内神経回路網の動態は不明である。そこで,本研究では経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて,発声に伴うLt-M1 hand areaの興奮性変化について,発声内容,発声中の時間,発声条件による変化(実験1)と,発声中の短潜時皮質内抑制回路(SICI)動態(実験2)について検討することを目的とした。【方法】刺激には8の字コイルを用いた。被験筋は右手第一背側骨間筋(FDI)とし,刺激部位は,被験筋から運動誘発電位(MEP)が得られる最適部位とした。発声音量はすべての条件において口元からの距離50cmで約80dbとした。尚,文章は主語,目的語,述語からなる構文とした。実験1は,被験者は右利き健常成人9名。課題は,安静状態に加え,手,脚の動作に関する文章,動作と無関係な文章,それぞれ約3秒での音読及び黙読を実施した。TMSの刺激強度は,RMTの1.2~1.3倍とし,刺激のタイミングは,文章発声開始後1000msec,2000msec後とした。実験2は,被験者は右利き健常成人10名。課題文章は手の動作に関する文章のみとし,音読,黙読,口の動きのみの3条件実施した。刺激のタイミングは文章発声開始後2000msec後とした。刺激方法は単発刺激,2連発刺激とした。単発刺激の刺激強度は安静時運動閾値(RMT)の1.2倍とした。2連発刺激では,条件刺激はRMTの0.8倍,試験刺激は約1mVのMEPが得られる強度とし,刺激間隔は3msecで実施した。FDIから導出されるMEP波形の平均振幅値をM1の興奮性指標として用いた。統計処理は,実験1では,発声内容,発声条件,刺激のタイミングの3要因について3元配置分散分析を行い,実験2では,発声条件の1要因について1元配置分散分析を行った。実験1,2ともに,post-hoc testとしてBonferroni testを行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,ヘルシンキ宣言に基づいて実施され,所属研究機関倫理委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を行い,書面にて同意を得た上で実施した。【結果】実験1では,発声条件間においてのみ単純主効果を認め,すべての言語内容において,黙読条件に比べ音読条件で有意なMEP振幅の増加を認めた(p<0.01)。実験2では,単発刺激の結果は,音読条件と口の動きのみの条件で,安静時に比べてMEP振幅が有意な増加を認めた(音読:p<0.01,口の動きのみ:p<0.05)。SICIは課題条件間で有意差は認めなかった。【考察】本研究の結果から,発声内容や時間に関わらず,発声することによりLt-M1 hand areaの興奮性が増加することが示された。言語情報を処理し発声を制御している44野の活動と,発声器官である口腔や咽頭などの活動が組み合わさることで,M1 hand areaの興奮性が増大すると考えられた。またその背景には,SICIに差が認められなかったことから,皮質内においてはSICI以外の他の回路が関与していると考えられる。他の要因として,基底核を含めた皮質下領域との関連(Cardona et al., 2013)や,PMvから脊髄に対する直接経路の存在(Dum and stick et al., 2002)の可能性が考えられる。今後はさらに発声に伴うLt-M1の興奮性増加の背景メカニズムについて検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から,言語発声に伴いLt-M1 hand areaの興奮性が増加することが示された。この結果は,言語発声と手の機能との関連性を示す基礎的知見であると考える。今後,さらに本研究結果の背景にあるメカニズムを明らかにすることで,脳卒中患者における上肢機能回復のための一助となり得るのではないかと考える。
  • 上銘 崚太, 鵜飼 正紀, 前野 友希, 釼持 のぞみ, 溝口 なお, 城 由起子, 松原 貴子
    セッションID: 0200
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】疼痛は,恐怖,不安,不快感のような情動や記憶などの情報をもとに認知過程を経て統合される感覚・情動体験であり多面性を有するため,侵害受容-疼痛の種類・内容が違えば疼痛の感じ方やとらえ方(認知)も異なる。したがって,疼痛マネジメントにおいては,疼痛の感覚的側面だけでなく,情動的・認知的側面を含めた多角的かつ包括的な視点が必要となる。近年,疼痛の情動的・認知的側面を反映する解析として,脳波や自律神経反応を用いた検証がなされている。脳波を用いた神経科学的研究によると,前頭部脳波のδ波やθ波パワー値の増大が不快情動を,β波パワー値の増大が疼痛感覚を反映するといわれている(Chang 2002)。また,自律神経反応については,疼痛発生時に交感神経活動が増大すること(Arai 2008)や,慢性痛患者では安静時の副交感神経活動低下,交感神経過活動(Gockel 2008,Backer 2008),運動時の交感神経反応性低下(Shiro 2012)が報告されている。しかし,異なる侵害受容-疼痛の種類・内容による疼痛感覚の認知と情動変化の違い,つまり疼痛の多面性への影響について,脳波や自律神経反応をもとに複合的に解析した報告はない。そこで今回,異なる侵害刺激(熱または冷刺激)による疼痛感覚と不快情動の変化を脳波と自律神経解析を用いて比較検討した。【方法】対象は健常若年男性60名(20.2±1.1歳)とし,水温8.0℃(冷痛:CP群),46.5℃(熱痛:HP群),不感温度32.0℃(sham群)に左手を1分間浸漬する3群に無作為に分類した。評価項目は,左手の浸漬中の主観的疼痛強度(NRS),前頭部脳波および自律神経反応の指標として心拍変動(HRV)とした。NRSは浸漬前(pre),浸漬10秒目(exp 1),1分目(exp 2)および浸漬終了5分後(post)に測定した。前頭部脳波は,バイオフィードバック治療用の簡易脳波計(Mindset,Neuro Sky社)を用いて実験中経時的に記録し,算出した各周波数帯のパワー値から,今回は不快情動の指標としてδ波(0.50~2.75 Hz)とθ波(3.50~6.75 Hz),疼痛感覚の指標としてβ波(18.00~29.75 Hz)パワー値を用いた。HRVは携帯型HRV記録装置(AC-301,GMS社)を用いて経時的に記録した心電図R-R間隔の周波数解析から,低周波成分(LF:0.04~0.15 Hz),高周波成分(HF:0.15~0.40 Hz,副交感神経活動指標)およびLF/HF比(LF/HF,交感神経活動指標)を算出した。なお,前頭部脳波とHRVは,NRSと同時点各10秒間の平均値を測定値とした。統計学的解析は,経時的変化の比較にFriedman検定,群間比較にKruskal-Wallis検定,また多重比較検定にはそれぞれTukey-typeおよびDunn’s法を用い,有意水準は全て5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認(番号:12-01)を得た上で実施した。全対象者に対して研究内容を十分に説明し,同意を得た。また実験に際しては,安全管理および個人情報保護に努めた。【結果】NRSのピーク値は両群間で差を認めず,CP群でexp 2,HP群でexp 1にピークを示した。脳波はpre,postの安静に比べてCP群でδ波とθ波がexp 1,2で,β波がexp 2で増大し,HP群ではδ波,θ波,β波すべてがexp 1で増大した。HRVはpreに比べてHP群でHFがexp 1で減少し,LF/HFは両群ともexp 1で上昇した。sham群は全項目で変化を示さなかった。【考察】侵害的な熱刺激では刺激開始直後,冷刺激では刺激後半に疼痛強度がピークとなり,ピーク時期に違いがあったが,その値に差はなく同程度の疼痛感覚強度であった。脳波について,β波は両刺激ともこれら疼痛強度と同様の変化を示し,また,δ波とθ波は熱刺激では疼痛強度と同様の変化を示したが,冷刺激では疼痛強度の変化と異なり刺激開始直後より増大した。自律神経活動は温度変化にともなう生理的応答を示すにとどまった。疼痛は記憶などの疼痛関連情報をもとに認知過程を経て統合される体験であることから,火傷などの経験・記憶をともなう熱痛では疼痛強度の変化に対応して恐怖や不安など負の情動をもたらした一方,身体に危険を及ぼすような侵害受容経験の少ない冷痛では,温度変化にともなう不快感が疼痛の認知に先行して生じた可能性が示唆される。以上より,同程度の疼痛感覚であっても,認知や情動は異なる反応を示したことから,疼痛はその多面性においてさまざまな病態を反映し統合,表出される生体情報であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,侵害受容-疼痛の内容・種類の違いによって,認知や情動の影響を受け疼痛の感じ方やとらえ方が異なることを明確にした点で意義深い。
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