理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述演題
  • 池上 泰友
    セッションID: O-MT-18-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折は予後不良で寝たきりになる可能性のある疾患であり,手術前から低栄養状態である患者が半数以上いることが報告されている。このことより,大腿骨近位部骨折患者の身体状態を把握するためには入院時から体成分を検討する必要があると考える。近年,体成分の分析に生体インピーダンス法(Bioelectrical impedance analysis:BIA法)が考案され,臨床で非侵襲的に評価を行うことが可能となった。しかし,これまでにBIA法を用いた大腿骨近位部骨折患者の体成分に関する報告は少ない。そこで今回,回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)においてBIA法を用い大腿骨近位部骨折患者の体成分と退院時の歩行能力との関連について検討した。

    【方法】

    対象は2016年1月~9月までに大腿骨近位部骨折により回復期リハ病棟に入院した78名のうち,データー欠損者,65歳未満の者を除く61名(男性10名,女性51名,平均年齢83.5±7.1歳)とした。歩行自立の定義は「歩行補助具の使用は制限せずに安全に50m以上の歩行が可能」とし,退院時に介助なしに歩行が可能な者を自立群,介助が必要な者を非自立群に分類した。調査項目は年齢,手術後入院期間,体成分として基礎代謝量,骨格筋量,下肢筋量,タンパク質量,体細胞量とした。体成分は体成分分析装置(In Body社製,S10)を用いて入院時に測定した。解析は目的変数に歩行自立の可否,説明変数に単変量解析により有意であった変数を投入したロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)を行った。また,有意に抽出された変数においてはROC曲線を作成し,カットオフ値を算出した。

    【結果】

    歩行自立群は41名(平均年齢81.4±7.1歳),非自立群は20名(平均年齢87.0±5.9歳)で有意に非自立群の年齢が高かった(p<.01)。単変量解析によって抽出された説明変数は基礎代謝量(p<.05),骨格筋量(p<.05),下肢筋量(p<.05),体細胞量(p<.01)であり,いずれも自立群が有意に高かった。ロジスティック回帰分析の結果,体細胞量(OR 0.79,95%CI 0.65 -0.97)が有意な変数として抽出された(p<.01)。モデルの判別的中率は65.6%であった。体細胞量のROC曲線の曲線下面積は81.7%であり,最も有効なカットオフ値は19.0kg(感度55.3%,特異度78.2%)と判断できた。

    【結論】

    回復期リハ病棟における大腿骨近位部骨折患者の体成分を検討し,体細胞量が退院時の歩行能力に関連していることが示唆された。体細胞量は細胞内水分量とタンパク質量を合計した筋肉量で細胞外水分量は含まれておらず浮腫の影響を受けにくいと報告がある。一方,骨格筋量,下肢筋量は細胞外水分を含んだ測定値となるため浮腫の影響を受けた可能性が考えられる。したがって,手術後の炎症症状の残る時期において大腿骨近位部骨折患者のBIA法を用いた評価では,体細胞量が歩行自立可否の判断に有用であると考えた。

  • 神戸市急性期総合病院の理学療法士による多施設共同研究
    中馬 優樹, 田中 利明, 井上 達朗, 坂本 裕規
    セッションID: O-MT-18-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン(第2版)では大腿骨近位部骨折術後の歩行能力回復に影響する因子に年齢,受傷前歩行能力,認知症が挙げられているが,近年,栄養状態が歩行能力に影響するとの報告もされるようになってきた。しかし歩行以外の日常生活動作能力(以下,ADL能力)と栄養状態との関連に関する報告はまだ少ない。そこで今回,大腿骨近位部骨折患者において栄養状態が退院時ADL能力と関連があるのか,またADL能力のどのような項目に影響があるのかを検討した。

    【方法】

    第2・3次救急総合病院の3施設に2013年6月1日から2016年6月30日に入院した患者を調査対象とした。大腿骨近位部骨折の手術を施行した466名のうち,65歳未満例,死亡・術後急性増悪例,受傷前歩行不能例,術後免荷期間を要した例を除いた333名(男性64名,女性269名,83.4±7.4歳)を対象とした。

    ADL能力は術後と退院時にFIM運動項目(以下,mFIM)を,歩行能力は10m歩行速度,TUGを術後2週・退院時に測定した。栄養評価は術前・術後のAlb・Hbを記録した。また術前のAlb値を用いてGNRIを算出し,基準値である92未満を低栄養群,92以上を良好群とした。基本情報とmFIM各項目・歩行能力において2群間で比較を行った。数値項目にMann-Whitneyの検定と対応のないt-検定,カテゴリー項目にχ2検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    低栄養群は178名(83.8±7.3歳),良好群は155名(83.0±7.5歳)に分類され,年齢や骨折部位・在院日数・HDS-Rなどに差は認めなかった。低栄養群の退院時mFIMは整容(p<0.05),清拭(p<0.01),上衣更衣(p<0.05),トイレ(p<0.05),排尿管理(p<0.01),排便管理(p<0.01),合計点数(p<0.05)で有意に低値を示した。退院時10m歩行速度は低栄養群26.7±19.0秒,良好群17.8±6.7秒と低栄養群で有意に遅く(p<0.01),TUGも低栄養群43.3±25.3秒,良好群26.6±11.9秒と有意差を認めた(p<0.01)。

    【結論】

    10m歩行速度,TUGは低栄養群で有意に遅く,先行研究と同様の結果であった。退院時mFIM合計点数では低栄養群で有意に低値であり,栄養状態が退院時ADL能力に影響している可能性が示唆された。各項目でみると,更衣やトイレ動作など自宅復帰に影響する項目でも有意差を認めた。これらのADL項目には体幹機能や非術側下肢機能などが影響していると考えられるが,今回これらの評価は行えていないため,関連性については不明である。

    今回,低栄養を示した大腿骨近位部骨折患者を対象にFIMを用いて退院時ADLの特徴を検証した。整容・トイレ・上衣更衣・排尿排便管理において有意に低値を示し,低栄養は歩行能力のみならずセルフケアを含めたADL能力に影響があることが示唆された。これらは自宅復帰を目指すうえで重要な項目であり,今後さらに詳細な評価と関連性についての検証が必要であると思われる。

  • 血液データを用いて
    尾山 直樹, 中島 由美, 大西 徹也
    セッションID: O-MT-18-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    近年,リハビリテーション(以下リハ)栄養という言葉が使用されるようになりリハを進める上で栄養管理の重要性や関心度が高くなっている。臨床の中では大腿骨近位部骨折を受傷し低栄養を合併することで積極的にリハを行えない症例も散見される。そこで今回,大腿骨近位部骨折術後患者の栄養状態を示す血液データの中でも何が筋力と関係し低栄養の有無で筋力に差があるのか調査を実施した。

    【方法】

    平成24年10月~平成27年12月までに当院回復期リハ病棟を退院した大腿骨近位部骨折術後患者のうち認知症や運動麻痺により筋力測定ができない患者,診療録から目的とする血液データが抽出できなかった患者,腎,肝機能低下を有する患者,急変により転院した患者を除く47例(年齢85.6:69-97歳,男性12例,女性35例)を対象とした。筋力は個人の体格差をなくすため大腿四頭筋筋力を体重で除した体重支持指数(以下WBI)を用いた。大腿四頭筋筋力測定はハンドヘルドダイナモメーター,酒井医療(株)製mobieを使用し,回復期入退院時の健側,患側の測定を行いそれぞれ2回のうち最高値を採用している。それにより算出したWBIと回復期入院時の血清アルブミン値(以下Alb),半減期を考慮した入院2~4週目Alb,コリンエステラーゼ,総コレステロール,C反応性タンパクの相関を求め,相関係数の高いものに関して2群間の比較検定を行った。統計ソフトはR commanderを用い2標本t検定を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】

    相関係数が0.5以上の項目は入院時患側WBIと入院2~4週目Alb(r=0.57),退院時健側WBIと入院2~4週目Alb(r=0.53),退院時患側WBIと入院2~4週目Alb(r=0.61)であり,特に入院2~4週目Albが退院時WBIと関係することが示された。また,先行研究を参考に入院2~4週目Albが3.5mg/dl未満を低栄養群,3.5mg/dl以上を非低栄養群とし2群間の退院時WBIを比較した。その結果,低栄養群の退院時健側WBI0.34±0.09,非低栄養群の退院時健側WBI0.55±0.21(p<0.05),95%CI(0.1~0.31),低栄養群の退院時患側WBI0.25±0.08,非低栄養群の退院時患側WBI0.41±0.15,(p<0.05),95%CI(0.09~0.24)となり非低栄養群の方が低栄養群に比べ退院時のWBIが有意に高くなった。

    【結論】

    回復期リハ病棟において大腿骨近位部骨折術後患者の血液データの中でもAlb,特に入院2~4週目Albが退院時WBIと関係しており,非低栄養群は低栄養群に比べ退院時のWBIが健側,患側ともに有意に高かった。Albは半減期が約21日と長く,現在の栄養状態が血液データに反映されるのに時間がかかる事を考慮しなければならない。またCRPの上昇や腎,肝機能の低下でAlbは低下するためそれを踏まえて評価することが重要であると考えられる。また,栄養補助食品などを含め食事摂取に視点を向ける事,回復期へ入院した時点で,さらには急性期の段階で栄養状態を管理する事が必要とされる。

  • 中村 健士郎, 福田 真也, 中島 由美
    セッションID: O-MT-18-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    運動器疾患では大腿骨近位部骨折後の歩行獲得や転帰先等の予後予測は多いが,運動項目のFunctional Independence Measure(以下;M-FIM)に関する報告や,病前M-FIMを因子に列挙している報告は散見される程度である。今回M-FIM推移を後方視的に調査,術日を1病日とし,回復期リハビリテーション病棟(以下;回復期リハ病棟)の入院時,入院後1週間,1ヶ月,2ヶ月,3ヶ月各々の病日の5点を取り散布図から対数近似曲線との相関を調査した。R-square=0.947(0.606-0.998)となり,相関の可能性が示唆された。そこで今回,我々は指定病日数におけるM-FIM予後予測式を算出およびその妥当性を検証。病前M-FIMが予後予測に影響起因するのかを調査,また時期による点数推移を予測することにより,目標到達ADLに合わせた院内や家屋内における環境設定の考案等を予見することで円滑な在宅退院また介護保険下への移行に対する一助とすることを目的とした。

    【方法】

    平成25年4月から平成28年3月に入退院した初発大腿骨転子部骨折患者,かつ90病日まで経過を追えた者32例を対象とした。対象内訳として,年齢86(69-96)歳,病前M-FIM83.5(54-91)点,性別男性4例,女性28例,Evans分類にて安定型20例(type1group1-6例,group2-14例,術式CHS6例,γ-nail8例,PFNA6例),不安定型12例(type1group3-9例,group4-3例,術式CHS8例,γ-nail4例),受傷~回復期リハ病棟転院20(8-45)日,回復期リハ病棟在院日数87.5(78-92)日とした。

    目的変数を90病日M-FIM,説明変数を病前M-FIM,年齢とし重回帰分析を実施。相関を示した際,重回帰式を算出し得られた値を90病日M-FIM予測値とした。1病日のM-FIM13点,90病日のM-FIM予測値の2点から対数近似曲線を算出。

    また,算出式の実用性検証方法として,単純無作為法にて対象における回復期リハ病棟入院後1週間,1ヶ月,2ヶ月,3ヶ月各々の病日の4項目から1項目を抽出し,M-FIM予測値と実測値の相関係数を算出した。

    【結果】

    重回帰分析の結果,r=0.826,R-square=0.681(P<0.05)と相関が得られ,90日M-FIM予測値=53.54+(0.8256×病前M-FIM)+(-0.69×年齢)と算出。得られた重回帰式を用い算出された対数近似曲線式は,予測病日M-FIM=a×LN(x)+13,Slope関数にて係数a=Slope(13:90病日予測M-FIM,LN(1:90))を代入し予後予測式を算出。算出後,単純無作為法を実施した。Pearsonの相関係数は0.6863(P<0.05)となった。

    【結論】

    大腿骨転子部骨折におけるM-FIMは対数近似曲線と相関した推移をたどり,予測式を算出することにより,算出したい病日におけるM-FIMの予測が可能になる事が示唆された。なお年齢と病前のM-FIMは予測式に影響起因する為,情報収集は必須である。またM-FIM予測値を算出することで患者の円滑な在宅退院と,介護保険下のフォローへ繋げることが可能になると思われる。

  • SLR能力の獲得日数と大腿四頭筋筋力に着目して
    唄 大輔, 徳田 光紀, 冨田 恭治, 田中 康仁
    セッションID: O-MT-18-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    高齢者の大腿骨頚部骨折受傷後の歩行獲得因子として大腿四頭筋筋力が重要であることが報告されている。臨床においてはこの大腿四頭筋筋力を簡便に評価するために下肢伸展挙上(以下,SLR)能力が注目されている。また,過去の報告から術後早期より神経筋電気刺激治療(以下,NMES)を併用した筋力強化法が有用であることが示唆されているが,大腿骨頚部骨折術後症例に対するNMESの効果を示した報告は少ない。近年,大腿四頭筋筋力とSLR能力の関係性が機能的予後に影響を及ぼすといった報告が見受けられるなか,NMESを術後早期から併用することはより有用である可能性が考えられる。そこで,本研究は大腿骨頚部骨折術後症例に対して,NMESを術後早期から実施することでSLR能力の獲得日数と患側大腿四頭筋筋力に影響を及ぼすかどうかを検討することを目的とした。

    【方法】

    大腿骨頚部骨折受傷後に人工骨頭置換術を施行された24名を対象とした。無作為にNMES群とコントロール群に割り付け,通常の運動療法を全症例に実施した。NMESは術後翌日から開始し,電気刺激に合わせて膝伸展運動を毎日20分間実施した。電気刺激治療器(ESPURGE,伊藤超短波社製)を用いて二相性パルス波,パルス幅300μs,80pps,運動レベルの耐えうる最大強度でON:OFF時間=5:7秒に設定し,自着性電極(PALS 5cm×9cm,Axelgaard社製)を患側大腿四頭筋に4枚貼付した。評価項目として,SLR能力は背臥位,自動運動にて膝関節伸展位で股関節30°屈曲挙上可能なレベルを能力獲得とし,患側大腿四頭筋筋力をハンドヘルドダイナモメーター(μtasF-1,アニマ社製)で毎日計測し,体重で除した値を算出した。統計解析はSLR能力の獲得日数および患側筋力を群間比較するために対応のないt検定を用いた。尚,コントロール群の患側筋力はNMES群のSLR能力の平均獲得日数に合わせて,同じ日数で測定した筋力を採用した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    SLR能力の獲得日数に関してはNMES群が3.5±2.39日に対してコントロール群が7.25±4.65日であり,NMES群において有意に早かった(p<0.05)。また,NMES群のSLR能力の獲得日数の平均が術後3日目であり,その時点での患側大腿四頭筋筋力はNMES群・コントロール群それぞれで0.18±0.08,0.11±0.04kgf/kgでありNMES群において有意に高値を示した(p<0.05)。

    【結論】

    先行研究においてSLR獲得日数は本研究のコントロール群と同程度の術後7日前後と報告されているが,大腿骨頚部骨折術後翌日からNMESを併用した筋力強化を実施したことで,大腿四頭筋筋力が早期に改善し,SLR能力の早期獲得に繋がったと考えられる。今後はSLR能力獲得に関連した離床動作との関連や歩行能力の調査も必要であると考えている。

  • 渡邉 基起, 野坂 光司, 畠山 和利, 千田 聡明, 髙橋 裕介, 石川 順基, 斉藤 公男, 松永 俊樹, 島田 洋一
    セッションID: O-MT-18-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    リング型創外固定器(創外固定)は強固な固定により,難治性の骨折や変形が治療可能となる画期的な手段である。しかし,創外固定のリハビリテーションに関する報告はほとんどなく,統一された治療方針がない。臨床上,術直後から早期荷重や自立歩行が許可されるが,足関節を固定される症例では,特に踵部のワイヤー刺入部痛により,歩行時の踵接地が困難となることが多い。そのため,荷重や歩行獲得にはワイヤー刺入部痛を軽減するような足底装具が必要となる。痛みの原因として,ワイヤー刺入部周囲の軟部組織が変形することで生じるメカニカルストレスと考え,軟部組織の形状を維持する新しい足底装具を作製した。本研究の目的は,創外固定に装着可能な新しい足底装具が歩行能力や足圧分布に与える効果を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は内反型変形性足関節症に対し遠位脛骨斜め骨切り術を施行され,創外固定を装着した5例(男性2例,女性3例)であった。術後は疼痛に応じて全荷重歩行を許可された。また,術後3日目に装具を採型し,術後10日目から装具装着を開始した。我々が作成した足底装具は,ワイヤー刺入部の側壁を削り,円滑な体重移動を目的にロッカーバーとカットオフヒールを有する構造である。評価項目は,ワイヤー刺入部痛の疼痛評価テスト(NRS)と荷重率(最大荷重量/体重),10m歩行時間,足圧分布測定システム(ニッタ社製)による5歩行周期中の立脚期における最大荷重点とその部位におけるピーク圧力とし,各3回計測した。術後2週に裸足群と装具群の2群で比較した。統計解析は対応のあるt検定検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    NRSは裸足群で6.0±1.2(Mean±SD),装具群で4.0±1.4であり,装具群で有意に痛みが減少した(p<.05)。荷重率は裸足群が32.6±10.3%,装具群で69.6±6.1%であり,装具群は有意に荷重量が多かった(p<.05)。歩行時間は裸足群が26.2±3.1秒,装具群が24.2±3.5秒であり,装具群が有意に短かった(p<.05)。最大荷重点とピーク圧力は,健側では裸足群で踵部に2.0±0.2kg/cm2,装具群で踵部に2.5±0.3kg/cm2であり,有意差は認められなかった。一方,患側では裸足群で小趾中足骨頭に1.5±0.3kg/cm2,装具群で踵部に1.8±0.3kg/cm2であり,荷重点は健側と同様に踵へ移動した。

    【結論】

    今回作成した新しい足底装具は踵部の荷重痛を軽減させ,荷重率の増加や歩行時間の短縮をもたらした。足圧分布から,患側のワイヤー刺入部痛が踵部への荷重を阻害し,前足部接地を余儀なくされていた。しかし,足底装具によりワイヤー刺入部痛が軽減したことで,健側同様に最大荷重点を踵部に誘導したことを確認できた。本装具は創外固定器装着下で,より健常に近い状態での早期荷重や歩行獲得に貢献し,良好な治療成績につながる可能性がある。

  • 腰背部痛,ADL能力,精神心理面,椎体圧潰に着目して
    片岡 英樹, 池本 竜則, 吉村 彩菜, 後藤 響, 山下 潤一郎, 森田 馨, 坂本 淳哉, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: O-MT-19-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】非特異的急性腰背部痛において,発症初期の活動の維持が痛みや運動機能面の改善に好影響をもたらすとしたエビデンスが示されている(Cochrane Database Syst Rev. 2010)。われわれはこのような報告を参考に,第51回本学術大会において,脊椎圧迫骨折(VCF)受傷後早期の安静臥床期間における活動量が高いほど,腰背部痛(LBP)の軽減やADL能力の改善が得られやすいことを報告した。一方,実際の臨床では安静臥床期間の活動量に比べ,離床開始後に活動量が増加する者もいれば,しない者も存在し,活動量の変化は様々である。また,このような活動量の変化が上記のアウトカムに加え,精神心理面や椎体圧潰の進行におよぼす影響は不明である。そこで,本研究ではVCF患者の離床開始前後での活動量の変化がLBPやADL能力,精神心理面,椎体圧潰に与える影響について検討した。

    【方法】対象は保存療法を施行した新鮮VCF患者66例(男性10例,女性56例,81.7±7.5歳)である。対象者には入院時(baseline;BL)より単軸活動量計(Lifecorder GS,Suzuken)を装着させ,臥床期間であるBL~1週目(w)と離床開始となる1~2wの一日平均活動時間(1~9METs)の差を離床開始前後での活動量の変化値とした。また,安静時・立ち上がり時・歩行時のLBPを「全く痛くない:0」~「耐えられないほど痛い:4」の5段階のverbal rating scale(VRS)を用い,BL,2w,4wに評価した。さらに,ADLはfunctional independence measure運動項目(mFIM)を用いてBL,2w,4wに評価し,mFIM改善率を算出した(Koh GC-H, et al., 2013)。また,精神心理面の評価として,老年期うつ病評価尺度(GDS-15)ならびに痛みの破局的思考を評価するpain catastrophizing scale(PCS)をBL,2w,4wに評価した。椎体変形については,骨折椎体の前・中・後壁の圧潰率をBLと4wに計測し,BL~4wにおける圧潰進行率を算出した(Teng MM, et al., 2003)。分析として,活動量の変化値の中央値から高活動群と低活動群に分け,両群間で各評価項目を比較した。

    【結果】年齢,性別,BL~1wの活動時間,BLの各評価項目は両群間で有意差を認めなかった。2wにおいて,高活動群のmFIM得点,mFIM改善率は低活動群のそれらに比べ有意に高値を示したが,その他の評価項目は両群間に有意差を認めなかった。4wにおいても,高活動群のmFIM得点,mFIM改善率は低活動群のそれらに比べ有意に高値を示し,立ち上がり時VRSならびにGDS-15は高活動群が低活動群に比べ有意に低値を示した。一方,PCSは両群間に有意差を認めず,中・後壁の圧潰進行率は高活動群が低活動群に比べ有意に高値を示した。

    【結論】今回の結果から,VCF受傷後の離床前後での活動量が増加する者ほどLBPや精神心理面,ADL能力の改善は得られやすいことが示唆された。しかし,椎体変形の進行を惹起するリスクがあることも否めず,動作指導や活動量の調整を行うなどの配慮が必要である。

  • 1年間の前向きコホート観察研究
    竹中 裕人, 神谷 光広, 西浜 かすり, 伊藤 敦貴, 横地 恵太, 鈴木 惇也, 後藤 慎, 森 匡宏, 伴 留亜, 橋本 美紀, 鈴木 ...
    セッションID: O-MT-19-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    欧米において腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis(LSS))術後の治療成績の回復経過は,RDQ(Roland Morris Disability Questionnair)などを用いた機能障害やVASを用いた疼痛に関してのレビューが報告されている。本邦では日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOA Back Pain Evaluation Questionnaire(JOABPEQ))が開発されたが,JOABPEQの術後回復経過を検討した研究は少なく,歩行能力や体幹筋力を検証した研究は見当たらない。本研究では,LSS術後のJOABPEQと歩行能力,体幹筋力の回復経過を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    研究デザインは,1施設の前向きコホート観察研究である。対象は2013年11月から2016年3月までに,LSS手術を受けた121症例の内,術後1年まで観察可能であった44名(67.2±9.4歳,男性28名)とした。術式は,除圧術24名,除圧固定術20名であった。主要評価項目はJOABPEQ,副次的評価は,歩行能力を6分間歩行距離(6MD:6 Minute Walking Distance),体幹筋力,RDQ,疼痛を腰痛・下肢痛・下肢しびれのVASとした。測定時期は,術前,術後6ヶ月,12ヶ月とした。JOABPEQは,疼痛関連(疼痛),腰椎機能(腰椎),歩行機能(歩行),社会生活(社会),心理的障害(心理)から構成される質問紙評価である。体幹筋力は,徒手筋力計mobie(酒井医療社製)を用い,座位で伸展と屈曲の等尺性筋力を測定した。統計学的解析は,Rコマンダー2.8.1を用い,反復測定の分散分析を行った。また,有意水準は5%とした。

    【結果】

    JOABPEQ全ての項目は,術前に比べ6ヶ月,12ヶ月で有意に改善していた(p<0.01)。JOABPEQ得点の平均値の経過は(術前,6ヶ月,12ヶ月),疼痛(56,90,92),腰椎(65,82,82),歩行(39,86,86),社会(44,79,78),心理(52,72,72)であった。6MD,体幹伸展筋力,RDQ,腰痛・下肢痛・下肢しびれのVASも同様に,術前に比べ6ヶ月,12ヶ月で有意に改善しており(p<0.01),体幹屈曲筋力は,術前に比べ12ヶ月で改善傾向にあった(p=0.06)。

    【結論】

    JOABPEQと歩行能力,体幹筋力は,RDQ,疼痛と同様の回復経過であることが明らかとなった。Fritsch.(Eur Spine J.2016)は,LSS術後のRDQと疼痛は術後3ヶ月に回復し5年まで継続が期待できると報告しており,本研究も同様に,RDQ,疼痛の回復は術後6ヶ月から12ヶ月まで継続していた。本研究は観察研究のため,今後より良い回復経過を目指した,リハビリテーション介入研究を検討していく予定である。

  • 和田 崇, 松本 浩実, 谷島 伸二, 尾崎 まり, 萩野 浩
    セッションID: O-MT-19-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    腰痛は個人のquality of lifeを低下させるだけでなく,経済面に影響を及ぼす社会的な問題である。腰部脊柱管狭窄症(lumbar spinal stenosis,LSS)は,腰痛を生じる疾患の中でも頻度の高い疾患であり,下肢痛や腰痛,感覚低下および筋力低下を呈する。さらに,間欠性跛行により連続歩行距離が減少することで日常生活での活動範囲が制限される。近年,腰痛などの痛みに関連する因子として痛みをネガティブに捉える傾向を示す痛みの破局的思考が注目されており,痛みの強度や日常生活動作との関連が示唆されている。しかしながら,痛みの破局的思考と連続歩行距離の関連を示す報告はない。よって,本研究では,LSS患者における痛みの破局的思考と連続歩行距離の関連を明らかにすることを目的とする。

    【方法】

    2015年10月から2016年7月に入院した術前LSS患者30名(男性:16名,女性:14名,平均年齢:69.2±8.7歳)を対象とした。患者背景,LSSの罹患部位,罹病期間などをカルテより収集した。アンケートにてLSSによる下肢痛および腰痛の強度をnumerical rating scale(NRS)を用いて評価した。歩行負荷試験は,片道90mの歩行路を往復し,痛みなどにより歩行不可となるまでの連続歩行距離を測定した。完遂は500mとした。また,日本語版pain catastrophizing scale(PCS)を用いて痛みの破局的思考を評価した。まず,対象者全体におけるPCSと各変数間の相関分析をPearsonの積率相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いて行った。サブ解析として男女別に同様の解析を行い,PCSと有意な相関が認められた変数については制御変数を設定した偏相関分析を実施した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    対象者全体におけるPCSは平均34.4±8.9であった。対象者全体において,PCSは年齢(r=0.36,p=0.031)と有意な相関を認めた。サブ解析の結果,男性LSS患者において,PCSは罹患椎間数(r=0.66),腰痛NRS(r=0.54),連続歩行距離(r=-0.56)と有意な相関を認めた(p<0.05)。年齢,罹患椎間数,罹病期間,下肢痛NRS,腰痛NRSを制御変数とした偏相関分析の結果,男性LSS患者においてPCSは連続歩行距離(r=-0.67,p=0.025)と有意な相関を認めた。

    【結論】

    男性LSS患者において痛みの破局的思考が重度のものは,連続歩行距離が低下しており日常生活での活動範囲が減少している可能性がある。

  • 柏木 智一, 横山 徹
    セッションID: O-MT-19-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】腰部脊柱管狭窄症(以下LSS)では間欠性跛行が特徴的で歩行能力とQOLが阻害される。我々は第51回日本理学療法学術大会において術後1年までの経時的な変化について報告した。しかし,LSS患者の術後1年以降の間欠性跛行とQOLの経過と関連性については不明である。よって,本研究の目的はLSS患者の術前と術後2年における間欠性跛行とQOLの関連性について検討することである。

    【方法】当院において間欠性跛行を呈し,手術を施行した腰部脊柱管狭窄症20例(男性8例,女性12例,平均年齢76.5±4.2歳)を対象とした。術前から歩行困難な症例,15分間連続歩行可能だった症例は対象から除外した。評価項目は,連続歩行テスト(歩行距離と歩行時VAS),包括的健康関連QOL尺度であるMOS Short-Form 36-Item Health Survey日本語版ver.2(以下:SF-36)と患者立脚型の腰痛疾患特異的評価尺度である日本整形外科学会腰痛評価質問票(以下:JOABPEQ)とした。連続歩行テストでは快適歩行速度で15分を上限とする連続歩行可能距離を計測した。SF-36では下位尺度において国民標準値を用いてスコアリング(平均50点,標準偏差10点)した。評価は術前と術後2年に実施した。手術内容は全例部分腰椎椎弓切除術であった。術後の理学療法はおおむね3,4週間の入院期間中のみ実施した。統計的処理は術前と術後2年の比較においてはWilcoxonの検定を用い,術前と術後2年の間欠性跛行とQOLの関連性については,Spearmanの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】術前に比べ術後2年では,連続歩行距離,SF-36のBP(体の痛み),RE(身体機能-役割),JOABPEQの疼痛関連障害,社会生活障害において術後有意に改善されていた。関連性については,術前では歩行距離とSF-36のMH(心理,r=0.500)において相関が認められた。術後2年では連続歩行距離とSF-36のPF(身体機能,r=0.650),BP(体の痛み,r=0.474),VT(活力,r=0.532),JOABPEQの腰椎機能障害(r=0.594),歩行機能障害(r=0.645),社会生活障害(r=0.464)において有意な相関が認められた。その他の項目では有意な改善および相関が認められなかった。

    【結論】我々の先行研究では,術後3カ月をピークに間欠性跛行やQOLが改善されており,本研究結果から術後2年おいても間欠性跛行における連続歩行距離やQOL評価の身体機能面,痛み関連項目,社会生活などにおいて維持されていることがわかった。また関連性においては,間欠性跛行における連続歩行距離とQOLの身体機能面や痛み関連項目だけでなく,精神,心理面とも関連していることが示唆された。よって,間欠性跛行とQOLには強い関連があり,特に連続歩行距離の重要性が考えられる。

  • 岡田 匡史, 亀山 顕太郎, 岩永 竜也
    セッションID: O-MT-19-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    腰部脊柱管狭窄症(以下LSS)患者では間欠性跛行に代表されるように歩行機能障害を呈することが多い。歩行機能障害は術後3ヶ月時に改善することが多いが,どういった身体的特徴が歩行能力獲得に必要なのかを調査した報告は少ない。そこで本研究の目的はLSS術後患者における術後3ヶ月時の歩行能力に関与する身体的特徴を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は当院にて2016年1月~6月に脊椎専門医がLSSにて手術を施行した37名(平均年齢66.9歳,男性25名,女性12名)とした。術前,術後3ヶ月時に基礎情報,理学所見,JOA,JOABPEQを取得し,術後3ヶ月時のJOA「I-C.歩行能力に関して」の設問で「まったく正常に歩行が可能」であった患者を歩行能力良好と定義し良好群と不良群の2群に分けた。2群間の基礎情報(年齢,性別,身長,体重,BMI,有病期間,内科疾患・下肢疾患有無,処置椎間数),術前・術後3ヶ月時の理学所見(toe Walk・heel Walk可否,立ち上がりテスト,2ステップテスト(身長で除して正規化),10m歩行時間,腰痛・下肢痛・下肢しびれvisual analog scale(以下VAS)改善率(50%以下を改善と定義),術後3ヶ月時JOABPEQ歩行機能障害ドメイン獲得点数を比較した。統計学的検討ではStudent t-test,Mann-WhitneyのU検定,Fisherの正確確率検定を用いて有意水準は5%とした。

    【結果】

    術後3ヶ月時において良好群23名,不良群14名であり,基礎情報に有意差を認める項目はなかった。理学所見では術後3ヶ月時の立ち上がりテスト・2ステップテストに有意差を認めた。立ち上がりテストは「片脚40cmまたは両脚10cmが可能」において良好群が73%,不良群が14%であり,2ステップテストは「身長の1.15倍」をカットオフとして1.15倍以上の者の割合は良好群70%,不良群29%(感度58.8%特異度80.0%)であった。VAS改善率は全てに有意差を認め,それぞれ改善した者の割合は腰痛(良好群74%不良群36%),下肢痛(良好群91%不良群50%),下肢しびれ(良好群91%不良群43%)であった。JOABPEQ歩行機能障害ドメイン獲得点数に有意差を認め,良好群64.9±24.4,不良群30.6±22.7であった。

    【結論】

    村永らは立ち上がりテストと膝伸展筋力/体重比(体重支持指数WBI:weight bearing index)との関係について報告しており両脚で10cm台からの立ち上がり動作には片脚あたり51.9±14.0%,片脚で40cm台からの立ち上がり動作には62.3±14.3%必要と述べている。2ステップテストに関しても6分間歩行距離,平均歩行速度と正の相関があったと述べている。先行研究をふまえLSS術後患者が連続歩行を獲得するためには筋力が一つの因子であることが示唆された。術後3ヶ月時に連続歩行を獲得するためには「両脚で10cm台から立ち上がり動作可能」,「2ステップテストで身長の1.15倍以上ステップ可能」を具体的な目標として下肢筋力に介入することで術後3ヶ月時の歩行機能を改善することができると考える。

  • 術前後の検討
    石津 克人, 中山 裕子, 袴田 暢, 和泉 智博
    セッションID: O-MT-19-6
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    脊柱矢状面アライメント異常は腰痛の原因となるばかりではなく,腰椎疾患の術後遺残腰痛の原因となる。腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)症例は,安静立位時の腰椎前弯角が小さく骨盤後傾が大きい。さらに疼痛を回避するために体幹前傾を呈する。われわれは,腰椎疾患の術前における脊柱矢状面アライメントと立位重心動揺の関係を検討し,体幹前傾,骨盤後傾した症例では動揺が大きいことを報告した。しかし,疾患別の検討はできておらず,術後との比較もできていない。本研究の目的は,LCS症例における脊柱矢状面アライメントと疼痛,および立位重心動揺の術前後の関係について検討することである。

    【方法】

    対象は,2015年10月から16年7月に当院で術前後の評価を実施し,立位保持が可能であった腰部脊柱管狭窄症14例(男性10例,女性4例,平均年齢73.5±8.9歳)とした。検討項目は,術前と術後3ヶ月の脊柱矢状面アライメント,術前と退院時(術後2週)における立位重心動揺検査,腰痛・下肢痛のVisual Analogue Scale(以下VAS)とした。矢状面アライメントは,立位全脊柱X線側面像よりSagittal Vertical Axis(以下SVA),胸椎後弯角(以下TK),腰椎前弯角(以下LL),仙骨傾斜角(以下SS),骨盤回旋角(以下PT),骨盤形態角(以下PI)を測定した。重心動揺検査には,アニマ社製ツイングラビコーダGP-31Wを用い,開眼・閉眼での立位保持30秒間の外周面積,総軌跡長を計測した。腰痛は第2腰椎から仙骨までの殿筋を除外した部分,下肢痛は殿筋部,大腿以遠と定義した。統計学的検討は,術前と術後それぞれの矢状面アライメント,重心動揺検査,腰痛・下肢痛VASにおいて,対応のあるt検定を用い有意水準は5%とした。

    【結果】

    SVAは術前が56.6±43.8mm,術後は33.3±37.3mmであり両群間に有意差を認め,術後は良好なアライメントとされる0~40mmへと減少していた。TK,LL,SS,PT,PIは有意差を認めなかった。開眼時総軌跡長は術前が62.2±18.2cm,退院時は74.3±22.9cmで有意差を認め,退院時に動揺が増大していた。外周面積,閉眼時総軌跡長は有意差を認めなかった。腰痛VASは術前が39.6±26.8mm,退院時が17.1±14.6mm,下肢痛VASは術前が51.2±33.0mm,退院時は19.4±14.1mmであり,どちらも両群間に有意差を認め,退院時は疼痛が軽減していた。

    【結論】

    術後は腰痛・下肢痛VASが減少し,さらにSVAも減少していた。LCS症例は,体幹前傾位となり疼痛を緩和させる姿勢をとることから,疼痛が軽減したことにより体幹の前傾が減少したと考えられる。一方,開眼時総軌跡長は退院時の方が高値を示した。腰背部に筋疲労を生じると重心動揺が増大する報告もあり,本研究においては,手術侵襲により腰背部の筋力低下を生じ,総軌跡長が増大したと考える。術後の理学療法では,術部の保護と併行して筋力増強を行い,立位バランスの向上に努める必要がある。今後はさらに体幹の筋活動も含めて検討していきたい。

ポスター
  • ―ロコモ度における機能とバランス能力の比較―
    境 萌香, 佐々木 賢太郎, 坂本 恭一, 九木 佳苗, 岩上 倫太郎, 水江 猟, 岡田 智成
    セッションID: P-MT-01-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    運動器の障害による移動機能の低下,「ロコモティブシンドローム」を予防するため,「ロコモ度テスト」によるロコモ度の判定が普及し始めている。中でも,「立ち上がりテスト(ST)」は片脚立位での立ち上がりとその後3秒間の保持といった,筋力とバランス能力の要素が含まれており,高齢者の移動機能の低下を評価する上で有用なツールである。本研究では,STの結果からロコモ度で群分けし,ロコモ度と身体機能,バランス能力を比較し,ロコモ度の身体特性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は地域在住高齢者91人(男性29人,女性62人,年齢76.6±7.6歳,BMI23.7±3.0kg/m2)であった。計測項目はロコモ度テストとしてST行った。原法に従ってロコモ度を判定した。機能として,筋力は専用の装置を用いて下肢伸展拳上筋力(ASLR)と足趾把持筋力(TG),さらに5回椅子立ち座りテスト(CS-5),握力を計測した。感覚機能はモノフィラメントを用いて足底5ヶ所の触覚識別率を採用した。またバランス能力として片脚立位時間を計測した。

    ロコモ度「該当なし(0度)」,1,2の3群間で年齢,BMI,筋力,感覚機能,バランス能力を比較した。統計学的検討として,一元配置分散分析から多重比較検定としてTukey検定を用い,5%水準にて有意判定を行った。

    【結果】

    STでは0度が34人,1度が49人,2度が8人であった。3群間で年齢,BMI,機能・能力を比較した結果,年齢は0度と1度(p<0.0001),0度と2度(p<0.0001),1度と2度(p<0.0001)すべてに差が認められ,ロコモ度が高いほど高齢であった。ASLRでは0度と2度(p<0.05),1度と2度(p<0.05)に,TGは0度と2度(p<0.05),1度と2度(p<0.05)に,CS-5は0度と2度(p<0.0001),1度と2度(p<0.001)に,握力も0度と2度(p<0.01),1度と2度(p<0.05)に差が認められ,筋力はすべて0度と1度には差が認められず,2度において有意に筋力が低値を示した。一方,片脚立位時間は0度と2度(p<0.0001),1度と2度(p<0.001)に差が認められ,1度と2度には差が認められず,1度から有意に機能・能力が低下した。足底感覚には差が認められなかった。

    【結論】

    本研究結果より,加齢に伴いSTにおけるロコモ度が進行し,機能やバランス能力が低下することが明らかになった。ロコモ0度と1度には筋力に差が認められず,バランス能力では1度と2度に差が認められなかったことから,40cm台からの片脚立ち上がりには筋力よりもバランス能力が要求されることが,また20cm台から両脚で立ち上がりができない者は筋力が低下していることが示された。

  • 水江 猟, 佐々木 賢太郎, 坂本 恭一, 九木 佳苗, 岩上 倫太郎, 境 萌香, 岡田 智成
    セッションID: P-MT-01-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    固有感覚は運動技能の向上や動作の再獲得の観点において,リハビリテーション分野では重要な機能の1つである。しかし,これらを定量的に評価する装置は少なく,特に関節運動覚の評価では他動運動を一定の角速度で動かす装置が必要であり,大がかりな物となってしまう。このような背景から,我々は独自に運搬可能な装置を作成し,健常大学生を対象に計測信頼性を確認することができた。次に,本装置を地域へ持参し,地域在住高齢者を対象として関節運動覚を計測した。本研究では中・高齢者の関節運動覚とその他の身体機能,バランス能力との関連性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は60歳以上の地域在住中・高齢者101人(男27人,女74人,年齢72.7±6.9歳,BMI22.7±4.0 kg/m2)であった。全員,認知機能が維持されており,介護保険を利用している者はいなかった。計測項目は,関節運動覚に加えて,感覚機能として表在感覚を,筋力として下肢伸展挙上筋力(ASLR)と足趾把持筋力(TG)を,バランス能力として片脚立位時間を計測した。関節運動覚は独自に開発した装置を用い,膝関節90°屈曲位からの伸展方向(eJMS)と屈曲方向(fJMS)の他動運動(3mm/s)に対して,被験者が感知するまでの距離を閾値とし,2施行の平均値を採用した(計測信頼性:90°伸展ICC(1,1)=0.76(p<0.01),90°屈曲ICC(1,1)=0.84(p<0.0001))。

    表在感覚モノフィラメントを用いて足底5カ所を刺激した時の触覚識別率を算出した。ASLRは徒手筋力計を,TGは足指筋力測定器を用いて計測した。

    統計学的検討として,eJMS,fJMS各々と年齢,BMI,ASLR,TG,片脚立位時間の関連性について,Spearman順位相関係数を用いて5%水準にて有意判定を行った。

    【結果】

    eJMSは年齢(ρ=0.43,p<0.0001),足底感覚の識別率(ρ=-0.20,p<0.05),ASLR(ρ=-0.24,p<0.05),TG(ρ=-0.20,p<0.05),片脚立位時間(ρ=-0.28,p<0.01)と有意な相関関係が認められた。一方,fJMSは年齢(ρ=0.28,p<0.01)とASLR(ρ=-0.22,p<0.05)にのみ有意な相関関係が認められた。いずれも,加齢に伴い,あるいは身体機能,バランス能力の低下とともに関節運動覚の閾値が上昇した。

    【結論】

    本結果より,関節運動覚は他の機能と同様,加齢の影響を受けることが明らかになった。特に,eJMSは表在感覚や筋力,バランス能力と関連することが示された。関節運動覚を含む固有感覚は転倒の危険因子として知られている。今後は,地域における転倒予防活動の一環として,筋力やバランス能力とともに固有感覚の計測を経時的に行っていく。

  • 長森 広起, 北野 雅之, 半田 豊和, 工藤 慎太郎
    セッションID: P-MT-01-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    超高齢化社会を迎え運動器疾患患者が急増し,歩行・移動障害を抱えている。中でも,ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)やサルコペニアを原疾患に合併している患者は多いと考えられている。変形性膝関節症(以下,膝OA)もロコモの構成要素として挙げられる。また,Fukumotoらは膝OAにおいて,大腿四頭筋の筋輝度が高くなっていることを報告しており,サルコペニアの発生が疑われる。我々は膝OAにおいて,疼痛などの機能障害とサルコペニア,ロコモの関係性の理解が保存療法において重要と考えている。しかし,膝OAでは関節水腫の影響による内側広筋(VM)の萎縮や歩行中の異常な筋活動も生じるため,膝OAとロコモ,サルコペニアの関係は明らかではない。そこで,本研究の目的は膝OAにおけるVMの輝度とロコモとの関係を検討することとした。

    【方法】

    対象は1名の整形外科医により片側膝OAと診断された膝OA群12名24膝(年齢72.7±7.8歳,身長158.3±9.7cm,体重59.5±14.8kg)と下肢に既往のない健常高齢者13名の右13膝(年齢68.9±5.3歳,身長160.3±11.7cm,体重61.2±10.1kg)とした。膝OAの重症度はKellgren‒Lawrence分類のGradeIIが5名,GradeIIIが7名であった。VM筋輝度の測定には超音波診断装置(日立アロカ社製Noblus)を使用した。撮像はB-modeで,リニアプローブ(8~15MHz)を用いてGainなど画像条件は同一設定とした。VMの撮像部位はEngelinaらの方法に従い,VMの筋輝度を測定した。OA群は患側・健側に分け,患側と健側VM輝度とControl群のVM輝度を比較検討した。さらに村永の方法に準じて2ステップテストを実施し,OA群とControl群で比較検討した。統計学的手法には対応のないt検定を用い,有意水準を5%未満とした。また,患側と健側VMの輝度と2ステップテストの相関関係をPearsonの積率相関係数を用い検討した。

    【結果】

    患側VMの輝度は109.0±45.1,Control群77.1±29.6で有意差を認めた(p<0.05)。健側VMの輝度は83.4±35.9でControl群77.1±29.6と有意差を認めなかった。2ステップ値は,OA群0.90±0.16,Control群1.06±0.16で有意差を認めた(p<0.05)。患側VMの輝度と2ステップテストの関係はr=-0.39と弱い負の相関関係を認めた(p<0.05)。

    【結論】

    膝OA群は,2ステップ値に有意差があり,ロコモが進行していることが伺えた。また患側のみVMは高輝度となっており,VMに関しては,サルコペニアより疾患特異的な筋の質的変化が生じていると考えた。また,VM輝度と2ステップ値には弱い相関関係しか認めなかった。つまり,VM輝度が改善しても,ロコモの状態は改善されないことが示唆された。膝OAではVM以外の筋にも過活動や同時収縮の増強などの変化が生じるため,このような変化がロコモに関わっている可能性がある。すなわち,膝OAの保存療法では,疾患特異的な症状の改善と活動量の維持を独立して実施することが重要と考えた。

  • 田野 聡, 高岡 克宜, 徳元 義治, 安藝 友博, 鶯 春夫, 近藤 慶承
    セッションID: P-MT-01-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    ロコモティブシンドロームの判定のひとつに,2ステップテストが用いられている。2ステップテストは最大2歩幅を測定することにより,下肢筋力・バランス能力・柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価できる簡便なテスト法である。2ステップテストの測定については,2回実施し最大値を採用することが規定されているが,利き足,非利き足のどちらの足から踏み出しを行うかの規定はない。そこで本研究では,2ステップテストにおける踏み出し脚が利き足,非利き足の違いにより測定値に影響を及ぼすかどうかを検討することを目的とした。

    【方法】

    対象は,通所型介護予防事業に参加した二次予防事業対象者49名(男性7名,女性42名,平均年齢79.6±5.5歳,BMI23.8±2.7kg/m2)である。2ステップテストは2回実施し,1回目の踏み出し脚が利き足か非利き足かの選択は,検者がランダムに決定した。2回目の踏み出し脚は,1回目と反対側の足とした。2ステップの実測値は,開始肢位のつま先から最終肢位のつま先までの距離をメジャーで測定し,身長で除した値(2ステップ値)を算出した。また,1歩目のステップ(first step:以下,1st step)と2歩目のステップ(second step:以下,2nd step)のそれぞれの実測値および身長で除した値(身長比)を測定した。1st stepは,踏み出し脚の1歩目のつま先位置をビデオカメラで撮影後,パソコン上にて計測した。2nd stepは2ステップ実測値から1st stepを引いた値とした。なお,利き足はボールを蹴る側とした(右48名,左1名)。そして,踏み出し脚の利き足と非利き足の違いによる2ステップ値の他,1st step身長比および2nd step身長比の比較を行った。統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    2ステップ値は,踏み出し脚が利き足は1.07±0.16,非利き足は1.03±0.16であり,踏み出し脚が利き足の方が有意に大きかった(P<0.01,効果量r=0.50)。1st step身長比の利き足は0.54±0.09,非利き足は0.54±0.09で有意な差は無く,2nd step身長比の利き足は0.50±0.09,非利き足は0.53±0.08で非利き足の方が有意に高値を示した(P<0.01,効果量r=0.51)。

    【結論】

    2ステップテストは最大2歩で行われるため,踏み出し脚が右でも左でも影響はあまりないと考えられていたが,踏み出し脚が利き足の方が高い数値を示した者は34名(69.4%)で,2ステップ値は利き足が有意に高値を示した。1st step身長比は利き足と非利き足で差は無いため,2nd step身長比が2ステップ値に影響を与えると考えられた。この理由としては,2nd step時の非利き足の前方推進力の影響や支持脚となる利き足の支持性の影響などが考えられるが明確ではなく,今後の課題である。しかし,2ステップテストを行う際には踏み出し脚を利き足とした方が大きくなることが認められたため,本テストを施行する際には利き足と踏み出し脚を確認することが望ましいと考えられる。

  • 久木 佳苗, 佐々木 賢太郎, 坂本 恭一, 境 萌香, 岩上 倫太郎, 水江 猟, 岡田 智成
    セッションID: P-MT-01-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」予防の啓発と現在または将来のロコモの危険性を判定するための指針の必要性から「ロコモ度テスト」が策定された。このテストの1つである「2ステップテスト」は下肢の筋力やバランス能力などを含めた歩行能力を総合的に評価するテストである。しかし,2ステップ値と身体機能やバランス能力との関連性を実際に検討されたものは見当たらない。本研究では地域高齢者を対象として,2ステップ値と筋力,感覚機能,バランス能力の関連性について明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は地域在住高齢者91人(男性29人,女性62人,年齢76.6±7.6歳,BMI23.7±3.0kg/m2)であった。計測項目はロコモ度テストとして2ステップテストを行った。2ステップテストは原法に従い実施し,2歩幅を身長で正規化した値を2ステップ値とした。機能として,筋力は専用の装置を用いて下肢伸展拳上筋力(ASLR)と足趾把持筋力(TG),さらに5回椅子立ち座りテスト(CS-5),握力を計測した。感覚機能はモノフィラメントを用いて足底5ヶ所を刺激し,その触覚識別率を算出した。またバランス能力として片脚立位時間を計測した。統計学的検討として,2ステップ値と年齢,BMI,筋力,感覚機能,バランス能力の関連性について,Pearson積率相関係数を用いて検討した。次いで,2ステップ値を従属変数とし,単相関にて2ステップ値と有意な関連性が認められた項目を独立変数として,重回帰分析(ステップワイズ法)を用いて2ステップ値に影響を及ぼす因子を抽出した。すべて5%水準にて有意判定を行った。

    【結果】

    2ステップ値と有意な関連性が認められたのは,年齢(r=-0.63,p<0.0001),ASLR(r=0.52,p<0.0001),TG(r=0.44,p<0.0001),CS-5(r=-0.62,p<0.0001),握力(r=0.57,p<0.0001),片脚立位時間(r=0.54,p<0.0001)であった。重回帰分析の結果,2ステップ値の有意な独立変数として年齢(β=-0.50,p<0.0001)と握力(β=0.32,p<0.01)であった(R2=0.48,調整済みR2=0.47)。

    【結論】

    本研究結果より,2ステップテストの目的に記載されているとおり,2ステップ値は下肢筋力やバランス能力と相関関係が認められた。しかし,重回帰分析の結果,2ステップ値の有意な独立変数として年齢と握力のみが抽出された。本研究の対象者には80歳以上の高齢者も含んでおり,加齢に伴う筋力やバランス能力の低下が強く反映されたものと考える。握力は,立位バランスや歩行能力などの全身的な機能を反映する指標である。本結果より,80歳以上の高齢者を対象として移動能力を評価する場合,ロコモ度テストに加え,簡便に計測ができる握力の計測を追加することの有用性が示唆された。

  • 山科 俊輔, 原田 和宏, 和田 武浩, 足立 真澄, 宮本 愛, 吉田 康将, 玉利 光太郎
    セッションID: P-MT-02-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    変形性関節症の初発部位は膝関節で67%とされ(Buckwalter),変形性膝関節症(膝OA)罹患者が最も多いことがわかる。膝OAの臨床症状は疼痛や関節可動域制限であり,痛みによって歩行活動量が減少する活動制限モデルが報告されている(Dekker)。また,活動量低下に伴う循環器疾患発症リスクの増大が報告され(Hawker),今後より一層,生活健康問題の発生に対する関心が高まっていくことが推察される。膝OAの臨床研究では活動制限と膝関節内反モーメントとの関連性が報告され(Kito),歩行異常性に研究関心が注がれている。また,膝関節内反モーメントは他の関節で代償されることが知られている。つまりは,歩行異常性と活動量との関連性に関する報告が蓄積されれば,専門家の評価によって活動量を維持できる可能性がある。しかしながら,歩行異常性評価は信頼性・妥当性が確立していないため,活動制限との関連については未だ不明瞭である。本研究では構成概念妥当性,検者間・検者内信頼性が検証された歩行異常性評価を用いて,活動量との関連性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は膝OA者27例とした。歩行異常性指標には,I:歩行リズム,II:toe-out,III:toe-in,IV:足部の接地,V:立脚期の足関節運動,VI:膝関節の側方動揺性,VII:立脚期の膝関節運動,VIII:遊脚期の膝関節運動,IX:股関節の伸展範囲,X:体幹の側方動揺性の10項目を使用した。歩行は7.6mの歩行路を通常歩行で1往復し,ビデオカメラで前額面と矢状面を撮影した。それらを異常性なし,ありで採点し,2群に分類した。活動量の計測には3軸加速度計Active Style Pro(OMRON社製)を用いた。加速度計は腰部に装着し,睡眠時,入浴時,激しい接触のある運動時以外を除き,1日中装着し,7日間の歩数の計測を行った。計測した1日あたりの歩数と歩行時の異常性なし,ありの2群において10項目それぞれを対応のないt検定にて関連性を検討した。

    【結果】

    有意であった変数として,項目Iの異常性なしは3953±1835歩(平均±標準偏差),ありは1614±1424歩であった。項目IVの異常性なしは4094±1826歩,ありは1878±1430歩であった。項目Vの異常性なしは4137±1844歩,ありは1757±1092歩であった。項目VIIの異常性なしは4655±1686歩,ありは2466±1633歩であった。項目VIIIの異常性なしは4490±1685歩,ありは2619±1828歩であった。項目IXの異常性なしは4806±1683歩,ありは2491±1563歩であった。

    【結論】

    本研究の知見は歩行リズム,足部の接地,足関節の運動,立脚期・遊脚期の膝関節運動,股関節の運動範囲が活動量減少へ繋がる可能性を持った歩行異常性の因子であることを関連付けた。そのため,膝関節以外の歩行異常性も含めた評価の重要性を示した。

  • 深井 健司, 羽田 清貴, 加藤 浩, 井原 拓哉, 奥村 晃司, 杉木 知武, 川嶌 眞人
    セッションID: P-MT-02-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    我々は変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の膝関節における立脚初期の衝撃吸収作用に着目し,健常者と比較して膝伸展筋群を過剰に収縮させ衝撃吸収を行っていることを筋電図学的側面から報告した。この時期は床反力後方成分の制動区間に相当し,どのように床からの衝撃力を受けて運動量を変化させているのか明らかにされていない。そこで今回,力学的側面から立脚初期の衝撃吸収作用について床反力前後成分力積値及び床反力入射角度を用いて検討を行った。

    【方法】

    被検者は,膝OA患者14名(平均年齢70.0±7.9歳。以下,膝OA群)と健常成人15名(平均年齢35.0±11.7歳。以下,対照群)で全例女性であった。課題動作は5mの歩行路上の自由歩行とした。計測下肢から一歩目を踏み出し,床反力計を踏むように指示した。一歩目の歩幅の距離は被検者の身長の40%になるように設定し,5回実施した。計測は,赤外線カメラ8台を備えた三次元動作解析装置Vicon-MX13(Vicon Motion Systems社製)と床反力計(AMTI社製)1基を用いて実施した。床反力前後成分は体重で正規化し,後方成分を制動期平均力積値(Braking Mean Amplitude;以下,BA),前方成分を駆動期平均力積値(Propulsive Mean Amplitude;以下,PA)としそれぞれ求め,同時に立脚期時間も算出した。また,床反力前後成分と鉛直成分から初期接地時と後方成分ピーク値時の床反力入射角度を求め,90°以下を制動,90°以上を駆動と規定した。同時に,初期接地から後方成分ピーク値までの床反力入射角度の変化量も算出した。統計学的解析は,Dr.SPSSII for Windows11.0.1J(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,2群間の比較は2標本の差の検定,床反力入射角度と角度変化量,BA,PA,立脚期時間との関連性の検討はSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    初期接地の床反力入射角度[deg]は対照群で93.26±4.29,膝OA群で86.13±4.01と対照群が有意に高値を示した。角度変化量[deg]は対照群で9.77±4.46,膝OA群で3.33±3.91と対照群が有意に高値を示した。PA[N・s/kg]は対照群で0.29±0.05,膝OA群で0.12±0.09と対照群が有意に高値を示した。立脚期時間[sec]は対照群で0.61±0.02,膝OA群で0.66±0.03と膝OA群が有意に高値を示した。また,初期接地の床反力入射角度は角度変化量とPAに正の相関(r=0.93,p<0.01,r=0.56,p<0.01),立脚期時間に負の相間(r=-0.56,p<0.01)を認めた。

    【結論】

    初期接地の入射角度は膝OA群が小さく,90°以下では制動を示す。膝OA群は,初期接地より前方への加速を制動し,後方成分ピーク値まで角度変化量を減少させたまま維持されていた。これは立脚初期において床からの衝撃力を小さくし,前方への加速の制動を最優先させることで,立脚期後半での推進力を十分に発揮できず,立脚期時間を延長させることで歩行速度を維持している可能性が示唆された。

  • 羽田 清貴, 加藤 浩, 井原 拓哉, 阿南 雅也, 深井 健司, 中野 達也, 奥村 晃司, 杉木 知武, 川嶌 眞之, 川嶌 眞人
    セッションID: P-MT-02-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    我々は,第51回日本理学療法学術大会で,変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の歩き始め動作時の外部膝関節内反モーメント(以下,KAM)は健常者よりも有意に高値であり,胸椎や骨盤の回旋運動の低下はKAMを増大させる一要因になる可能性を報告した。そこで,今回は膝OA患者の歩き始め動作時の下肢体節間におけるセグメントトルクパワーを算出し,トルクパワーの極性を明らかにすることで,力学的エネルギーの流れについて詳細に定量化することを目的とした。

    【方法】

    対象は膝OA患者14名(平均年齢70.1±7.9歳:以下,膝OA群)と健常成人15名(平均年齢35.0±11.7歳:以下,対照群)で全例女性であった。課題動作は5mの歩行路上の自由歩行とした。計測下肢から一歩目を踏み出し,床反力計を踏むように指示した。一歩目の歩幅の距離は被検者の身長の40%になるように設定した。計測方法は,赤外線カメラ8台を備えた三次元動作解析装置Vicon-MX13(Vicon Motion Systems社製)と床反力計(AMTI社製)1基を用いて実施した。反射マーカーを身体51箇所に貼付し,得られたマーカー座標から8剛体リンクモデルを作成した。1歩行周期が100%になるように正規化し,解析区間は荷重応答期とし,その区間における関節パワー,セグメントトルクパワーの積分値を算出した。統計学的解析にはR2.8.1を用い,正規性の有無に従って,2群間の比較には2標本の差の検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    関節パワーは,股関節,膝関節,足関節はすべて負のパワーであり2群間で有意差は認められなかった。セグメントトルクパワーは,骨盤遠位では,膝OA群は0.24±0.01W・s/kg,対照群は-0.45±0.03W・s/kgで有意差が認められた(p<0.01)。また,下腿遠位では,膝OA群は0.75±0.03W・s/kg,対照群は1.82±0.05W・s/kgで有意差が認められた(p<0.05)。足部近位では,膝OA群は-1.03±0.04 W・s/kg,対照群は-1.95±0.06 W・s/kgで有意差が認められた(p<0.05)。

    【結論】

    股関節セグメントトルクパワーは,健常群では骨盤遠位は負のパワー,大腿近位は正のパワーを示したため,骨盤から大腿へ力学的エネルギーの流れが生じていた。一方,膝OA群ではその逆を呈した。すなわち,健常群は骨盤から大腿へと力学的エネルギーの流れが生じることで,股関節伸展モーメントを発生させているのに対して,膝OA群はそれが困難であることが示唆された。足関節セグメントトルクパワーでは,下腿遠位は正のパワー,足部近位は負のパワーを示したため,足部から下腿へと力学的エネルギーの流れが生じていた。しかし,膝OA群は力学的エネルギーの流れが有意に低値であったため,足関節背屈筋による足関節背屈モーメントの発生が不十分であることが示唆された。本研究より,各体節間での力学的エネルギーの流れを明らかにすることが可能であり,臨床にて有益な評価手段になり得ると考える。

  • 体幹運動速度に着目して
    佐野 佑樹, 和中 秀行, 杣友 ひかり, 安田 晴彦, 山本 沙紀, 小林 信吾, 岡本 健佑, 稲場 仁樹, 山原 純, 井上 純爾, ...
    セッションID: P-MT-02-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    高齢者にとって,歩行速度はADLの自立度や生命予後との関わりが示されている有用な指標である。歩行速度を規定する様々な要因の中で,近年,体幹機能と運動速度の重要性が指摘されており,このことから我々は,体幹を素早く動かす能力を評価するSeated Side Tapping test(SST)を開発し,検証を重ねてきた。さらに,TKA術後患者に対し,SSTをトレーニングとして実施することで歩行速度が改善することを本学会で報告した。これらのことに基づくと,TKAを実施せず保存的に加療されている変形性膝関節症(膝OA)患者の歩行においても,体幹の運動速度が重要であることが予想される。その関係性を明らかにすることは,膝OA患者の歩行速度を改善する,より効果的な運動療法を実施できる可能性を示唆すると考える。そこで本研究では,膝OA患者の体幹運動速度と歩行速度との関係を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    膝OAと診断された患者104名を対象とした。60歳以上,運動制限が必要な合併症がないことを対象者の選択条件とした。本研究では,年齢,身長,体重と,5mの最大歩行速度,術測膝伸展筋力,膝関節角度,歩行時の疼痛をVisual analog scale(VAS)を用いて測定した。体幹運動速度としてSSTを測定した。SSTは,座位で両上肢を側方に挙上し,10cm離した位置に設置したマーカーを交互にできるだけ速く10回叩き,要した時間を測定した。

    統計処理は以下の方法を用いて実施した。まず,歩行速度と各因子の関連性の検討にPearsonの相関係数を求めた。さらに歩行速度を従属変数,歩行速度と相関が認められた項目を独立変数として重回帰分析を行った。全ての統計解析には,SPSS Ver.24.0を用い,危険率5%未満を有意とした。

    【結果】

    対象者は,年齢76.0±7.2歳,身長152.0±7.6cm,体重60.3±9.5kg,性別は男性22例,女性82例であった。歩行速度の平均は1.17±0.43m/sec,SSTの平均は6.7±1.5secであった。歩行速度と有意な相関を認めた項目は,年齢(r=-0.21,p<0.05),身長(r=0.33,p<0.01),SST(r=-0.55,p<0.01),膝伸展筋力(r=0.54,p<0.01),膝関節屈曲角度(r=0.28,p<0.01),VAS(r=-0.28,p<0.01)であった。歩行速度を従属変数とし,重回帰分析を行った結果,SST(β=-0.40),膝伸展筋力(β=0.35),膝関節屈曲角度(β=0.22),VAS(β=-0.18)が有意な項目として選択され,自由度調整済み決定係数(R2)は0.50であった。

    【結論】

    膝OA患者の歩行速度と体幹運動速度及び膝関節機能に有意な相関が示され,さらに重回帰分析によってSSTが選択された。このことから,膝OA患者の体幹運動速度は歩行速度に影響を与える因子であることが明らかとなった。

    膝OA患者の保存的治療では,除痛や膝関節機能に着目した運動療法が推奨されている。今回の研究結果から,体幹運動速度にも着目し運動療法を実施することで,より効果的に歩行速度が改善する可能性が示唆された。

  • 山本 哲生, 山崎 裕司, 山下 亜乃, 片岡 歩, 中内 睦朗
    セッションID: P-MT-02-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】変形性膝関節症は,病期の進行に伴い疼痛,変形,関節拘縮,筋萎縮等の症状が進行し,歩行能力や動作能力の低下が生じる。一方,歩行能力は下肢筋力や立位バランスによって規定されることが知られ,適切な運動療法や日常生活指導によって筋力や立位バランス能力が維持された場合,病期が進行した変形性膝関節症患者でも歩行能力が維持される可能性がある。本研究では,変形性膝関節症の病期と身体機能が歩行能力に及ぼす影響について検討した。

    【方法】対象は60歳以上で変形性膝関関節症を有し,独歩での通院が可能な症例196名(男性13名,女性182名,年齢75.5±6.3歳)である。疾患内訳は,両変形性膝関節症112名,片側性変形性膝関節症84名であった。病期分類は,横浜市大分類を用いGrade1:3名,Grade2:41名,Grade3:108名,Grade4:42名,Grade5:2名で,両変形性膝関節症患者は左右で重度な側を採用した。体重,年齢,歩行速度,Functional Reach Test(FRT),膝伸展筋力(アニマ社製 徒手筋力計測器μTasF-1)の5項目を調査・測定した。膝伸展筋力は左右の平均値を体重で除したものを採用した。分析はまず上記計測項目で歩行速度と関連の強い項目を重回帰分析で算定した。病期はG1.2,G3,G4.5に分類した。歩行速度が1.0m/secを下回った者を不良群,それ以外を良好群とし,病期別にその割合を比較した。また良好群,不良群での身体機能の差を比較した。最後に病期別に歩行速度が1.0m/secを下回る症例の膝伸展筋力とFRTのcut-off pointをROC曲線によってもとめた。

    【結果】重回帰分析の結果,歩行速度との間に有意な偏相関係数を認めたのは,膝伸展筋力(r=-0.40)とFRT(r=-0.32)であった。病期別にみた歩行速度不良群の割合は,G1.2 11%,G3 19%,G4.5 25%であり,重症度が高い群で多い傾向であったが,統計学的には有意ではなかった。各病期における膝伸展筋力は良好群と不良群の順に,G1.2では0.35kgf/kg,0.23kgf/kg,G3では0.36kgf/kg,0.24kgf/kg,G4.5では0.30kgf/kg,0.24kgf/kgであり,いずれも不良群で低値を示した(p<0.05)。同様に,FRTは,G1.2では28.8cm,20.8cm,G3では26.6cm,22.2cm,G4.5では24.8cm,21.4cmであり,いずれも不良群で低値を示した(p<0.05)。病期別のcut-off pointは,G1.2で膝伸展筋力0.26kgf/kg以上,FRT24.0cm以上,G3は膝伸展筋力0.25kgf/kg以上,FRT25.0cm以上,G4.5は膝伸展筋力0.25kgf/kg以上,FRT24.5cm以上と病期による差を認めなかった。

    【結論】変形性膝関節症の重症度と歩行速度には明確な関連は認めなかった。いずれの病期においても歩行速度不良群の膝伸展筋力,立位バランス能力は低く,理学療法による身体機能の維持が変形性膝関節症患者の歩行能力を維持するうえで重要なことが明らかとなった。

  • 高橋 幸司, 澤崎 奈生, 山本 陽平, 関口 雄介, 田島 正視, 鈴木 英二
    セッションID: P-MT-03-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折術後回復期で,患側下肢支持性低下による跛行(股関節運動軸の逸脱,骨盤の過可動性)が問題となっていることを多く経験する。また,骨盤アライメントの異常や荷重時の骨盤の不安定性を有する症例も多く経験する。骨盤帯,特に仙腸関節は脊柱と下肢を連結する唯一の関節であり,脊柱と下肢に効率よく荷重を伝達するための重要な役割を担っている(Cohen2005)とされている。Leeらは臨床場面では,腰椎や骨盤帯,股関節における障害には,これら隣接する領域の障害が互いに影響しあっていることが非常に多いと述べている。しかし大腿骨近位部骨折術後の骨盤機能の報告はほとんどない。骨盤ベルトは骨盤の安定性向上に効果があると報告があり,実際に大腿骨近位部骨折術後患者に骨盤ベルトを試行すると歩行安定性の向上,歩行時痛の軽減などの効果がみられる。そこで今回は,大腿骨近位部骨折術後患者の骨盤機能を調査し,骨盤ベルト装着の効果を検証することを目的とした。

    【方法】対象は,当院に入院し術後4週以上経過した大腿骨近位部骨折患者11名(全例女性,年齢77.82±11.81歳)。選定基準はMMSE21点以上であり,術後介入に支障をきたす重大な合併症がない者。評価項目は,骨盤評価としてGillet test,下肢自動伸展挙上テスト(active straight leg raise:ASLR),骨盤内捻じれの有無を評価。骨盤ベルト装着前後で疼痛(NRS),筋力(酒井医療社製 徒手筋力計モービィMT-100P使用,股関節外転,膝関節伸展),下肢荷重移動検査(アニマ社製グラビコーダーG-620使用 最大荷重量,総軌跡長,外周面積),10m歩行(時間,歩数,ケイデンス)を測定。下肢荷重移動検査は,術側へ随意的に最大限重心移動させ10秒間測定。骨盤ベルトはThe Com-pressor(インターリハ社製)を使用し,骨盤アライメントの修正後に装着。統計処理は統計ソフトR3.2.0を使用し,骨盤ベルト装着の前後での測定結果の差をWilcoxon符号付順位和検定で算出した。

    【結果】Gillet test,ASLRは全例術側で陽性,骨盤内捻じれは全例でみられ,72.73%が術側方向へ骨盤内捻じれを認めた。骨盤ベルト装着前後での比較は,骨盤ベルト装着後に術側股関節外転筋力,膝伸展筋力,術側最大荷重量が有意に増加(P<0.01),10m歩行ではケイデンスが有意に増加した(P<0.05)。総軌跡長,外周面積,10m歩行時間,歩数には有意な変化はなかった。また,全例で「歩くのが楽になった。歩きが安定する。」などの主観的評価があった。

    【結論】大腿骨近位部骨折術後患者は骨盤アライメントの異常や骨盤の不安定性がある可能性が示唆された。また,骨盤ベルトの装着で下肢機能,荷重能力向上の可能性が示唆された。今回の結果から大腿骨近位部骨折術後では,骨盤ベルトが有効な治療ツールとなる可能性があることや術後から骨盤アライメント,骨盤の安定性に対するリハビリテーションも重要であると考えられる。

  • 藤森 由貴, 唄 大輔, 亀口 祐貴, 山田 祐嘉, 徳田 光紀
    セッションID: P-MT-03-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折は高齢者に好発する骨折の一つであり,術後の早期離床が合併症予防や歩行能力獲得に重要であると報告されているが,疼痛や筋力低下により円滑に離床できない症例を多く経験する。先行研究では,大腿骨近位部骨折術後症例を対象に電気刺激併用筋力強化法(Method of Electrical Stimulation for Muscle Strength:MEMS)を実施し,術後早期より筋力の改善に効果的に寄与することが示唆されているが,疼痛や日常生活動作(ADL)などに対する効果を示した報告は少ない。

    本研究の目的は,大腿骨近位部骨折症例に対する術後1週間のMEMSの効果を,股関節機能の全体的な評価である日本整形外科学会股関節機能判定基準(股関節JOAスコア)と,早期離床に必要な下肢伸展挙上(SLR),移乗動作獲得に着目して検討することとした。

    【方法】

    対象は当院で手術を施行した大腿骨近位部骨折36例(人工骨頭置換術14例,骨接合術22例)とした。無作為にMEMS群19名とコントロール群17名に割り付け,通常の理学療法を全症例に施行した。MEMSは電気刺激治療器(ESPURGE,伊藤超短波社製)で患側の大腿四頭筋に対して二相性非対称性パルス波,パルス幅300μs,周波数80pps,強度は運動レベルの耐えうる最大強度,ON:OFF=5:7秒に設定して術後翌日から毎日20分間実施した。評価は股関節JOAスコアを項目ごと(疼痛,可動域,歩行,ADL)に術後1,3,5,7日目に測定し,SLRの獲得,移乗動作自立までに要した日数を記録した。統計解析は各評価項目を測定日ごとに群間比較するため,Mann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    股関節JOAスコアの各項目に関して,疼痛は術後3,5,7日目,可動域は5,7日目,ADLは7日目でコントロール群よりMEMS群が有意に高値を示した。歩行は全測定日で有意差を認めなかった。また,SLRの獲得に要した日数はコントロール群よりMEMS群で有意に低値を示した。移乗動作自立までに要した日数は,両群に有意差を認めなかったが,コントロール群よりMEMS群で低値を示す傾向があった(p<0.06)。

    【結論】

    大腿骨近位部骨折術後症例に対するMEMSは,術後1週間での疼痛の軽減,可動域やADLの改善に寄与することが示唆された。また,疼痛に関しては術後3日目からMEMS群がコントロール群より改善していたことや,MEMS群の方がSLRや移乗動作を早期に獲得できたことから,MEMSは早期離床を円滑に行うための一手段として有用である可能性が示唆された。今回はMEMSの術後早期の治療効果として,股関節JOAスコアとSLR,移乗動作の獲得のみに着目したが,今後は筋力との関連性も検討していくことが課題である。

  • 吉村 彩菜, 片岡 英樹, 後藤 響, 森田 馨, 山下 潤一郎, 坂本 淳哉, 中野 治郎, 沖田 実
    セッションID: P-MT-03-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折(hip fracture;以下,HF)術後では痛みの程度といった感覚的側面のみならず,不安や抑うつといった情動的側面,痛みを過度にネガティブに捉えてしまう破局的思考といった認知的側面に問題を抱える患者も多い。われわれは,第51回本学術大会においてHF術後8週のADLの獲得状況が不良な患者では抑うつ傾向が強い一方で,痛みの程度には問題がないことから,痛みの情動的側面はADLの獲得状況と関連する可能性があることを報告した。一方,様々な外傷や運動器外科術後といった急性痛の段階において,破局的思考の問題を抱える患者は慢性痛に移行しやすく,機能・能力障害の回復が遅延しやすいことが報告されている。したがって,HF術後患者においても,痛みの認知的側面は術後のADLの獲得に影響を与える可能性が推測され,痛みの感覚的・情動的側面と合わせて検討する必要があると考えられる。そこで,本研究ではHF術後患者の痛みの多面性に着目し,ADL能力の獲得との関連性について検討することを目的とした。

    【方法】

    対象は認知症の診断のないHF術後の女性患者41例(平均年齢;84.8±6.7歳,受傷前bartel index:92.3±12.3点)とした。評価項目はfunctional independence measure運動項目(mFIM),動作時痛のverbal rating scale(VRS),geriatric depression scale(GDS)-15,pain catastrophizing scale(PCS)とした。なお,PCSは,反芻(痛みに過度に注意が向けられる),無力感(痛みのために何もできないと感じてしまう),拡大視(痛みの脅威を過大評価してしまう)の3つの下位項目からなり,痛みの破局的思考を評価する代表的な質問紙の一つである。各評価項目は術後2・4・8週で評価し,Spearmanの順位相関係数を用いて,術後8週のmFIMと術後2・4週のVRS,GDS-15,PCS下位項目の相関関係を分析した。その後,相関が認められた項目を独立変数,術後8週のmFIMを従属変数とし,ステップワイズ法にて重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。

    【結果】術後8週のmFIMと術後2・4週のVRSは相関関係を認めなかったが,術後2・4週のGDS-15ならびにPCSのすべての下位項目との間には相関関係が認められた。また,ステップワイズ重回帰分析の結果,術後8週のmFIMの独立変数として術後2週ではPCSの無力感,術後4週ではGDS-15が抽出された。

    【結論】今回の結果から術後2週ではPCSの無力感,術後4週では抑うつがADL能力の獲得に関連が強いことが明らかとなった。したがって,HF術後患者のADLの獲得においては身体機能面への介入のみならず,痛みの認知・情動的側面も考慮したアプローチや関わり方が重要になることが示唆された。

  • 初回骨折時と再骨折時の比較
    山本 穂高, 有竹 洋平, 吉武 靖史, 横山 慧佑, 野口 雅夫
    セッションID: P-MT-03-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    高齢社会により,大腿骨近位部骨折(以下FNF)患者は増加することが予想される。ガイドラインによるとFNFの既往は,再転倒による対側骨折発生リスクが高まるとされている。骨折すれば歩行能力低下や生活範囲の狭小化が予想され,転帰に影響を及ぼす可能性も考えられる。再骨折後のリハビリテーション(以下リハビリ)においては,初回骨折時と比較してADLの改善が乏しい印象であるが,ADL各項目に対して初回時と再骨折時で検討した報告は少ない。

    そこで本研究は,両側FNFを受傷した症例において,初回時と再骨折時でADLの自立度や改善率の差を明らかにすることとした。

    【方法】

    対象は,2012年10月から2015年9月の期間にFNFにより2回以上当院回復期リハビリ病棟に入院した高齢者とした。入院中にリハビリの長期間の中止や転院した者は除外し,16名を調査対象とした。

    評価項目は,年齢,性別,再骨折までの期間,入院時と退院時の機能的自立度評価法(以下FIM)とFIMの改善度であるFIM利得,退院時歩行レベル,在院日数をカルテより収集した。初回時と再骨折時の2群間において,年齢,在院日数は対応のあるt検定,FIMはWilcoxonの符号付順位和検定を行い比較検討した。優位水準は5%未満とし,統計処理にはIBM SPSS Statistics 24を用いた。

    【結果】

    性別は女性13例,男性3例,再骨折までの期間は1.5±1.3年であった。在院日数は初回時77.8±25.5日,再骨折時76.4±36.3日,年齢は初回時86.5±5.5歳,再骨折時88.1±5.6歳で有意差はなかった。初回時と再骨折時のFIMを比較し,入院時FIMでは食事,更衣(上下),トイレ動作,排尿・排便コントロール,運動FIM合計,FIM総得点において有意差を認めた(p<0.05)。退院時FIMでは,食事,整容,清拭,更衣(上下),排尿・排便コントロール,移動,運動FIM合計,FIM総得点において有意差を認めた(p<0.05)。FIM利得,FIM効率においては有意差を認めなかった。歩行おいては初回時58.8%,再骨折時29.4%が自立であった。

    【結論】

    FNFの初回時と再骨折時では,すべての項目と総得点においてFIM利得,FIM効率に有意差を認めず,両側FNFにおいてもリハビリによりADLの改善は期待できる。

    移動は再骨折退院時で,初回退院時より有意に低下し,歩行レベルも低下する傾向にあった。先行研究では歩行レベルは低下するが,歩行自立は可能であると報告され,本研究の結果とは異なっていた。セルフケアにおいても,再骨折退院時の方が初回時より有意に低下していた。立位を要する項目だけでなく,座位レベルの項目も有意に低下した点は新たな知見だと考える。

    両側FNF患者において,初回時より退院時のADL低下が危惧される事から,歩行形態だけでなくセルフケアにも着目して早期より介入することが重要である。本研究は,ADLの検討のみあり,要因などは明らかに出来なかった。今後は,機能面や精神面による包括的な検討をする必要がある。

  • 森谷 伸樹, 丸谷 暁子, 憲 克彦
    セッションID: P-MT-03-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟は,入院患者に集中的なリハビリテーションを提供することで寝たきり予防や自宅退院率の向上などを目指すシステムである。近年の高齢社会において,転倒受傷による大腿骨近位部骨折の患者が増加しており,大腿骨近位部骨折患者のActivities of daily living(ADL)向上は重要な課題となっている。また,厚生労働省から,患者の入院日数やFunctional Independence Measure(FIM)の変化から求めた数値を回復期リハビリテーション病棟におけるADL改善の指標とする旨の提言が出された。本研究では,大腿骨近位部骨折の患者について,厚生労働省の提示する数値をADL改善の指標とし,数値に影響を及ぼす因子を検討した。

    【方法】平成21年度から平成27年度に当院回復期リハビリテーション病棟に入院した大腿骨近位部骨折患者のうち,データに欠損の無い456名(男性75名,女性381名,平均年齢84.0±8.02歳)を対象とした。当院で運用しているデータベースより,年齢,性別,発症から入院までの日数,入院時経口摂取可否,BMI,入院時血中アルブミン量,入院時FIM各項目点数,入院時病棟内移動手段を調査した。また,各患者の入院中のFIM運動項目利得を当該患者の回復期算定上限日数あたりの入院日数で除したものを便宜上FIM実績指数と定義した。調査項目を独立変数,FIM実績指数を従属変数とした重回帰分析を実施し,FIM実績指数に影響を及ぼす因子を検討した。性別については女性を0,男性を1,入院時移動手段については車椅子を0,補助具の有無に関わらず歩行を1,入院時経口摂取可否は経管を0,経口を1としてダミー変数を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】調査項目のうち,FIM実績指数に有意に影響を及ぼすものは年齢,食事,下衣更衣,排尿管理,浴槽移乗であった。入院時食事と排尿管理以外は,偏回帰係数が負の値であった。

    【結論】回復期リハビリテーション病棟において,入院時の年齢が低く,入院時FIMの食事と排尿管理が高く,入院時FIMの下衣更衣と入浴が低いとFIM実績指数が高くなることが示唆された。食事と排尿管理が高いと病棟内の活動量向上から能力向上に繋がり,下衣更衣と入浴が低いとそこが伸びしろとなりFIM実績指数の向上へと結びつくと考えられる。

  • 山田 真嗣, 内田 学, 山口 育子, 宮地 司, 宮城 春秀, 山根 達朗, 岩原 信一郎
    セッションID: P-MT-04-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    人工骨頭置換術後は早期に歩行練習が開始されるが,息切れが運動の制限を来たす事を時折経験する。手段を問わず歩行が自立していたにも関わらず急激に動くのが辛いという訴えに疑問を感じている。術後に発生する炎症を背景としたタンパク異化作用亢進などによる骨格筋の萎縮やタンパク由来の赤血球やヘモグロビンの減少も報告されている事から,活動制限に対して呼吸機能や血液・生化学所見も関連付けて考える必要があるものと考えられる。

    【対象】

    平成28年4月1日~平成28年9月30日までに大腿骨頸部骨折を呈し人工骨頭置換術を施行した患者11名(男性:3名,女性:8名)平均年齢79.18±2.74歳,平均身長155.3±2.81cm,平均体重48.74±3.14Kgで術前ADLは手段を問わず自立していた者とした。術後2週間までのクリティカルパスが順調に経過している事を統制条件とし,除外対象として術前・術後の輸血,呼吸器疾患の既往,指示理解が得られにくい者は除外した。尚,対象者全員に本研究の趣旨を文書で説明し,同意を得た後に測定を実施した。

    【方法】

    測定項目は運動機能として6MD,6MD後のBorgスケール,SpO2,膝伸展筋力/wtを求めた。個人特性としてはBMI,呼吸機能ではVC,%VC,TV,ERV,IRV,FVC,FVC1%PEFを測定した。血液・生化学検査ではTP,Alb,Hb,RBC,WBC,CRPを参考値とした。タンパク異化作用亢進による身体機能は栄養状態により左右されることから,TPの基準値を満たしている群(以下,高栄養群)と不足している群(以下,低栄養群)の2群に分類しそれぞれの項目間で比較検討を実施した。

    【結果】

    以下,高栄養群,低栄養群の順に記載する。TPは7.18±0.39,5.98±0.16であり高栄養群が高値を示した。Albは3.78±0.34,3.15±0.33であり,高栄養群が高値を示した。CRPでは0.24±0.07,0.94±0.41であり高栄養群が低値を示した。RBCは368.50±27.89,303.50±44.23であり高栄養群が高値を示した。WBCは5900±1116.54,5150±1082.13であり高栄養群が高値を示した,Hbは11.60±1.06,9.70±1.16であり高栄養群が高値を示した。6MDは186.65±145.16,166.76±83.52であり高栄養群が高値を示した。SpO2では97.0±0.82,98.33±1.51であり高栄養群が低値を示した。Borgスケールは13.0±2.83,14.33±3.27であり高栄養群が低値を示した。それ以外の項目について有意差は見られなかった。

    【考察】

    結果より,低栄養群は炎症反応が強くタンパク異化作用が亢進しておりタンパク由来のRBC,Hbが燃焼された事が示された。酸素運搬を行う為にRBC,Hbは重要な役割を担うが,低値を示すことから酸素運搬能は低下し運動の耐性が制限されている事が推察される。息切れを背景とした連続歩行距離の短縮や呼吸苦の増大につながるものと考える。術後の生体反応としての治癒でタンパクが使用されるため低栄養では全身状態の詳細な評価に基づく介入が必要である。

  • ―地域完結型急性期病院の地域連携クリティカルパス解析―
    吉永 龍史, 林田 祐醍, 田所 広太, 藤原 崇光, 宮川 恵輔, 渡邉 靖晃, 高野 雅弘, 前田 智
    セッションID: P-MT-04-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    近年の大腿骨近位部骨折患者に対する人工骨頭置換術(以下,BHA)後の理学療法は,術後初日から荷重制限を設けずに歩行練習が開始される。一方で,術後5日目で歩行器歩行練習を開始できた場合,経過が良いのか,あるいは悪いのかを判断する指標はあまり知られていない。そのため,臨床では理学療法を進行するにあたり,術後の歩行能力回復に影響を与える受傷前歩行能力や認知症の有無別に分類した歩行開始日の経過指標が役立つと考えられる。

    本研究目的は,受傷前の歩行能力と認知症の有無別に分類した患者の地域完結型急性期病院における歩行開始時期を比較し,その一般的経過指標を明らかにする。

    【方法】

    対象は,当院から地域連携クリティカルパスを使用して後方施設へ転院し,大腿骨近位部骨折に対してBHAを施行した336例である。除外基準は,骨接合術,長谷川認知症スケール(以下,HDS-R)未実施,受傷前歩行能力が車椅子レベル,術後荷重制限ありおよび運動麻痺ありとした。基本属性は,男性66名,女性270名,年齢82.3±9.2歳,診断名が大腿骨頚部骨折332例,転子部骨折4例であった。

    方法は,受傷前能力から独歩群と歩行補助群の2群と,HDS-Rから21点以上を認知症なし,20点以下を認知症ありと分類した2群を組み合わせてA群:独歩+認知症なし,B群:歩行補助+認知症なし,C群:独歩群+認知症あり,D群:歩行補助群+認知症ありの4群に振り分けた。歩行補助群とは,杖,押し車,歩行器および伝い歩きとした。検討項目は,術後から車椅子,平行棒内および歩行器歩行開始日数,および術後在院日数を後方視的に調査した。

    統計解析は,4群の検討項目それぞれについてKruskal-Wallis検定を適用後,多重比較Steel-Dwass法を用いた。いずれも有意水準は両側5%未満とした。

    【結果】

    車椅子開始日数および術後在院日数は,4群間で有意差を認めなかった。当院の術後在院日数の中央値(四分位範囲)は,10(8-13)日であった。平行棒内開始日数は,A群(n=86)が2(1-3)日,B群(n=51)が3(2-4)日,C群(n=99)が3(2-4)日およびD群(n=100)が3(2-5)日でA群とC群(p<0.05),A群とD群(p<0.01)の間に有意差を認めた。歩行器歩行開始日は,A群が3(2-5)日,B群が5(3-7)日,C群が5(4-7)日およびD群が5(4-7)日でA群とC群(p<0.01),A群とD群(p<0.01)の間に有意差を認めた。

    【結論】

    BHA患者の受傷前歩行能力と認知症の有無別に分類した場合,車椅子座位開始時期は4群全て同様であり,独歩+認知症なしが平行棒および歩行器歩行開始が最も早く,認知症を有した独歩群および歩行補助群ともに歩行開始が最も遅延していた。また,独歩+認知症なしと比較して,認知症を有すれば独歩群と歩行補助群ともに平行棒内あるいは歩行器歩行開始時期が同様な経過を示すことが明らかになった。

  • 石井 悠太郎, 原 歌芳里, 荒井 知野, 阿久津 美帆, 谷畑 和幸, 中澤 萌, 廣澤 暁, 齋藤 涼平, 望月 久
    セッションID: P-MT-04-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    整形外科手術を施行された患者において,術後の理学療法が歩行自立度に大きく影響することは明らかである。術後の歩行自立度に影響を及ぼす要因としてバランス能力や関節可動域が想定され,これらと術後の歩行自立度の回復過程との関係性を明らかとなれば,術後理学療法介入の方向性を示すことができると考える。本研究は整形外科手術後患者の歩行自立度とバランス能力,股関節可動域(以下ROM)の関係を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    本研究の対象は2016年8月から9月に当院にて股関節に対して整形外科的手術を施行された者10名(77.0±9.5歳)とした。荷重制限のある者,指示理解が困難である者は除外した。術後1週目に対象者の歩行自立度,ROM,バランス能力を測定した。バランス能力の指標としてIPS(Index of Posture Stability,望月ら(2000))を測定した。IPS測定では安定域の左右径,前後径,中央および前後左右への重心移動時の矩形動揺面積を記録した。測定には重心動揺検査装置(重心バランスシステムJK101II,株式会社ユニメック)を用いた。歩行自立度は,独歩,杖歩行,サークル歩行,ピックアップ歩行器歩行の4段階を順序尺度として数値化し,歩行自立度およびROMと,IPSおよびIPS測定の際に得られる諸変数(以下,諸変数)との関連性をSpearmanの順位相関係数,変数間の差を対応のあるt検定を用いて検討した。統計処理にはSPSS statistics 23を用い,有意水準は5%未満とした。本研究では足圧中心位置を重心位置とした。

    【結果】

    術後1週目の歩行自立度とIPSおよび諸変数との間に有意な相関は認められなかった。IPS測定時に得られる諸変数間の検討において,安定域の左右径と前後径との間にr=0.77(p<0.05)の有意な相関が確認された。患側および健側への重心移動時の矩形動揺面積の間に有意な差は認められなかったが,患側への重心移動距離(17.0±18.9mm)は健側への重心移動距離(49.4±14.3mm)より有意に小さかった。また,IPSと患側への重心移動距離との間にr=0.82(p<0.05)の有意な相関が認められた。

    【結論】

    今回の研究では,術後1週目の歩行自立度およびROMと,IPSおよび諸変数との間に相関は認められなかった。これは,術後1週目の歩行自立度がピックアップ歩行器に偏っていたこと(6/10),ROM以外の要因が大きく関連することが考えられる。今回の結果から,患側への重心移動距離が小さい者では,左右方向のみならず,前後方向への重心移動距離も減少していることが分かった。また,重心移動距離は患側が健側に対し有意に少なかったが,最大重心移動時の矩形動揺面積に有意差はみられなかった。これらから,患側への重心移動距離を増加させることで左右方向への重心移動量が増加し,前後方向への重心移動距離が増加すると推測される。このことは患側への荷重練習がバランス能力を向上させることを示唆している。今後は術後1週目以降の測定を行い,理学療法介入後の歩行自立度変化の要因を検討していきたい。

  • 佐藤 教文
    セッションID: P-MT-04-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    10m歩行テストは,歩行能力を評価する指標として広く用いられている。実際に評価する際には,歩行路を確保できても病棟等では他職種や患者様等が多く,声掛けや時間調整を行わなければならず困難なことも多い。そこで10m歩行テストができない場合の別法として,3m歩行テストが提案されている。しかし,先行研究では,高齢者に対して3m歩行速度評価は実施されているが,疾患を有した方を対象とした検討は少なかった。そこで本研究の目的は整形外科疾患患者を対象に,3m歩行テストを10m歩行テストの結果と比較検討することによりその妥当性を検討し,小スペースにおける歩行評価としての可能性を探ることである。

    【方法】

    本研究に同意を得られた健常成人10名(以下健常群),年齢23.8±1.4歳,整形外科疾患者10名(以下疾患群),年齢83.5±6.1歳を対象とした。疾患は,大腿骨頚部または転子部骨折の術後の方で,歩行能力がFIMで6点以上及びHDS-Rが21点以上の方を対象とした。健常群と疾患群に,10m歩行テストと3m歩行テストを行った。疾患群は必要に応じて杖を使用した。10m歩行テストは,計測区間10mの歩行路に開始線前と終了線後に3mの予備路を設けた計16mで行った。また,3m歩行テストは,計測区間3mの歩行路に開始線前と終了線後に1.5mの予備路を設けた計6mを用いて歩行を実施した。測定は快適歩行で行い,各条件を2回ずつ施行し,測定間に休憩をはさみ,主観的疲労度がない状態であることを確認した上で行った。

    統計解析は,各群の3m歩行データ(歩行速度と歩行率)と10m歩行データとの差の分析に対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    1,歩行速度

    健常群10m歩行78.4±10.4m/分,3m歩行75.3±9.8m/分。疾患群10m歩行40.1±16.2m/分,3m歩行42.5±14.5m/分。

    2,歩行率

    健常群10m歩行124.5±6.23歩数/分,3m歩行140.8±8.5歩数/分。疾患群10m歩行102.2±17.9歩数/分,3m歩行110.6±21.1歩数/分。

    統計解析の結果,両群ともに,歩行速度では10m歩行テストと3m歩行テスト間有意差は認められなかった(疾患群;p=0.370,健常者群p=0.1350)。しかし,歩行率では両群とも,有意差が認められた(両群ともp<0.01)。

    【結論】

    10mと3mの歩行テストの歩行速度は,両群ともに有意差は認められなかったが,歩行率では有意差が認められた。本研究の結果より,3mの距離でも疾患群の歩行速度を評価することは有用であると考える。

  • 平田 尚久, 原田 香, 實延 靖, 杉原 和也, 廣江 健人, 中嶋 正明
    セッションID: P-MT-04-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨頚部・転子部骨折は骨粗鬆症を起因とした脆弱性骨折である。腎不全になるとビタミンD欠乏や低Ca血症などで骨密度が低下し,コラーゲンのAdvanced glycation end products(AGEs)化により,骨の材質・構造特性である骨質が低下する。そのため,腎不全を有する大腿骨頚部・転子部骨折術後患者では,日常生活自立度の予後にも影響を及ぼす事が予想されるが,これまでそのような報告はない。本研究の目的は,大腿骨頚部・転子部骨折術後患者の術後腎機能がFunctional Independence Measure(FIM)に影響を及ぼすかを明らかにする事である。

    【方法】

    平成24年2月から平成28年4月までに当院に入退院し大腿骨地域連携パスが適応された127例のデータを診療録より後方視的に収集した。腎機能低下の重症度の指標として推算糸球体濾過量(eGFR)を,術後の当院転院時のデータから取得した。127例のうち,eGFR未測定の15例,死亡退院の8例,年齢75才未満の5例,理学・作業療法総単位数が30単位以下または当院入院期間が15日以下の2例,診療録上欠損データのあった7例を除外した92例を抽出した。当院入院時のeGFRが60mL/分/1.73 m2以上の群(対照群49例)とeGFRが60mL/分/1.73 m2未満の群(腎不全群43例)の2群に分けた。基本情報(年齢,性別,身長,体重,BMI,診断名,受傷機転,受傷側,初発・再発,術式,連携パスの種類,受傷前生活場所,理学療法単位数,作業療法単位数,手術待機日数,総入院日数,退院先),血液データ(Alb,Hb,WBC,BUN,Cre),受傷前・転院時・退院時FIM(各合計・運動項目・認知項目)を比較した。統計処理はJ-STATを使用し,2群の比較は対応のないT検定,Mann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定を,3群比較はKruskal-Wallis Test・Scheffe多重比較を実施し,有意水準は5%で検討した。

    【結果】

    受傷前FIMの合計・運動項目,受傷前生活場所が自宅の割合は腎不全群より対照群が有意に低かった(p<0.05)。転院時BUN,Creは腎不全群より対照群が有意に低かった(p<0.01)。その他の2群の比較では有意差はみられなかった。時系列におけるFIM合計は,対照群で受傷前より転院時(p<0.01),退院時(p<0.05)が有意に低く,転院時より退院時が有意に高かった(p<0.05)。腎不全群では受傷前より転院時,退院時が有意に低かった(p<0.01)。

    【結論】

    腎不全群では術後にFIMが低下し,転院後のFIMの向上も少なく,受傷前の自宅生活が難しくなる傾向がみられた。腎不全群の腎機能は術後に低下したのかは定かではないが,大腿骨頚部・転子部骨折術後の腎不全との重複障害はFIM低下を予測する因子となる可能性が示唆された。

  • 重綱 玲南, 櫻井 理嵩
    セッションID: P-MT-05-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    2009年より当院では頸椎症性脊髄症(CSM)患者に対して頸部椎弓反転式拡大形成術(RLR)を施行し,2014年から術後理学療法としてノルディックウォーキング(PW)を取り入れ軸性痛緩和やロコモ対策を行っている。

    本研究ではRLR術前後におけるロコモ25値や2ステップ値,軸性痛の推移から頸椎術後PWの意義と有効性を検証した。

    【方法】

    対象:2015年5月から2016年5月までにRLRを施行後,徒手療法における頸部及び肩甲帯の筋力トレーニングや姿勢指導に加えて,術後翌日から術後1ヶ月時点までPWを行った群をPW実施(P)群20名とした。2016年6月から8月までPW以外の同様のプログラムを実施したPW未実施(N)群12名とし,上記2群で比較検討した。

    方法:2ステップを術後2日目,術後9日目(退院時),術後1ヶ月で計測。術後より軸性痛評価(NRS)施行。ロコモ25の調査は術前,術後1ヶ月で実施した。統計的処理はP群とN群の改善率の平均値比較をWelchのt検定で行った。

    【結果】

    2ステップは術前,術後,退院時,術後1ヶ月の順にN群1.28,1.15,1.28,1.37であり,各期間での改善率は-9%,12%,6%であった。P群では1.29,1.13,1.35,1.45であり,各期間での改善率は-12%,34%,7%であった。術後から術後1ヶ月においてN群と比較しP群の改善率が高値となった(p<0.09)。

    軸性痛評価は術後,退院時,術後1ヶ月の順にN群5.0,2.7,3.3,各期間での変化の差は-2.33,0.58,-1.75であった。P群では5.8,2.8,1.9であり,各期間での変化の差は-3.05,-0.9,-3.95であった。術後から術後1ヶ月にかけて有意な差を認めた(p<0.04)。

    ロコモ25では術前,術後1ヶ月でN群24.9,16.8,改善率は24%であった。P群では21.45,11.25,改善率は37%であり,N群と比較しP群の改善率が高値となった(p<0.23)。

    【結論】

    PWは歩行動作に対する不安解消及び運動効果の増加が報告されている。

    P群で軸性痛が術後から術後1ヶ月において有意な改善を認めたことから,通常の歩行と比較し,ポールを使用することで肩甲帯周囲筋群の手術侵襲や,肩甲帯の垂れ下がりを防ぎ,肩甲帯周囲筋へのリズミカルな収縮と弛緩の繰り返しにより,軸性痛発生部の局所循環や代謝が改善され頸部椎弓形成術後の疼痛が痛軽減されたものと推測する。

    P群の術後から術後1ヶ月までの2ステップ値とロコモ25値の改善率の大きさから,PWでの上下肢の連動した動きは神経筋協調性運動となり,CSM患者の低下した筋パワー能力の改善を目的とした訓練として有効であると言える。さらにPW使用によるバランス能力や筋パワーの向上が,日常の身体的活動性の改善に寄与したと考える。よってPWは頸椎疾患も含めた脊椎疾患合併ロコモ高値患者の活動力を向上させる有効な手段である。

  • 宮田 信彦, 岡田 航, 中川 佳久, 中岡 伶弥, 羽崎 完
    セッションID: P-MT-05-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】近年,Javanshirらが慢性頸部痛患者の頸長筋(以下LC)が萎縮していると報告して以来,LCに対し様々なトレーニングが行われている。そのトレーニングにThera-bandを用いることが多い。しかし,Thera-bandには様々な強度があるが,LCトレーニングに適した強度は明らかでない。本研究はThera-bandの強度の違いによるLC筋厚の変化を明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は頸部に問題のない男子大学生14名(平均年齢19.6±0.8歳)であった。測定肢位は背もたれのない椅座位とし,頭部は耳孔と肩峰結ぶ線が床面と垂直,フランクフルト平面が床と平行となる様にした。Thera-band(D&M社製)は強度の弱い順に淡,黄,赤,緑,青,黒,銀,金の8種類あり,それぞれ円周90cmの輪を作った。Thera-bandを頭部にかけ,前方および後方へそれぞれ10cm伸長させた時の右側のLC,頸椎椎体,総頸動脈,胸鎖乳突筋(以下SCM)を超音波画像診断装置(日立メディコ社製)にて撮像した。プローブ(10MHz,リニア型)は甲状軟骨より2cm外・下方かつ水平面上で内側に20°傾け,頸部長軸と平行にあてた。得られた画像から画像解析ソフトImage Jを用いLC筋厚,SCM筋厚を測定した。解析には伸長方向と強度を要因とした反復測定二元配置分散分析とBonferroniの多重比較を用いた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】LC筋厚の平均は安静時9.4±1.8 mm,淡,黄,赤,緑,青,黒,銀,金の順に前方への伸長時10.7±1.5mm,10.6±1.6mm,10.4±1.6mm,10.6±1.3mm,10.3±0.8mm,10.5±1.1mm,10.6±1.4mm,10.6±1.7mmとなり,後方への伸長時10.2±1.1mm,10.0±1.2 mm,10.2±1.4mm,10.6±1.2mm,10.0±1.2mm,10.5±1.3mm,10.0±1.6mm,10.1±1.8mmとなった。SCM筋厚の平均は安静時10.9±4.0mm,LC筋厚と同様の順に前方への伸長時12.3±4.3mm,12.4±3.9mm,12.4±3.0mm,12.2±3.3mm,12.0±3.6mm,11.6±3.8mm,13.3±4.2mm,12.8±3.9mmとなり,後方への伸長時11.7±2.4mm,11.8±3.1mm,12.2±2.6mm,13.4±2.6mm,14.0±3.6mm,14.3±3.3mm,15.3±2.9mm,16.0±3.6mmとなった。分散分析の結果,LCでは伸長方向および強度の主効果が有意にみられた。多重比較の結果,安静に比べすべての強度で有意に筋厚が増加した。SCMにおいても伸長方向および強度の主効果が有意にみられた。多重比較の結果,安静に比べ緑,青,黒,銀,金で有意に筋厚が増加し,淡に比べ青,黒,銀,金で有意に筋厚が増加し,黄に比べ黒,銀,金で有意に筋厚が増加し,赤に比べ銀,金で有意に筋厚が増加し,緑に比べ金で有意に筋厚が増加した。

    【結論】LCは安静と比べThera-bandのいずれの強度でも有意に筋厚が増加する一方で,強度間での差はなかった。したがってThera-bandを用いたLCトレーニングの強度選択はどの強度を用いても同様の効果が期待できる。しかし,SCMでは強度を高めるにつれ有意に筋厚が増加したため,より強い強度を用いる際にはSCMが代償すると考える。

  • 坪内 優太, 須藤 晴香, 橋本 成矢, 片岡 晶志, 津村 弘
    セッションID: P-MT-05-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    頸椎症性脊髄症(CSM)は,頸部脊柱管の狭小化により頸髄を圧迫することを特徴とする頸椎の変性疾患である。歩行障害は主症状の一つであり,痙性により拙劣で非効率的なパターンを呈すことが多い。そのため歩行分析は,理学療法アプローチの方針決定に重要となるが,臨床現場の多くは視診で行われており,経験による差や客観性の欠如など信頼性や再現性の問題がある。そこで今回,患者の身体的負担が少なく,場所も限定せずに長距離の時間変動も解析可能な加速度計を用いたことで改善に繋がった症例を提示し,その有用性を報告する。

    【方法】

    症例はCSMに対し第5-7頸椎椎弓形成術を施行した,建設業への復職を希望する40歳代男性である。左下肢優位に痙性を認め,歩行や階段昇降の際に左下肢の不安定性と支持性低下を自覚しており,転倒歴もある。また,方向転換時には動揺が著明で,高所や閉所での作業時には下肢の振り出しが困難となる。静止立位時の身体重心は右側に偏位しており,左下腿三頭筋の筋萎縮を認める。歩行時の左側への重心移動は体幹での代償が強く,左側mid-stanceからpre-swingにかけての不安定性も認められる。既往歴に心筋梗塞があり,心機能の低下を認めることから,安定且つ効率的な歩行の獲得が必要である。そこで通常の理学療法評価に加え,術前と術後2日目より毎週,重心動揺計による静的バランス評価と加速度計による歩行解析を取り入れ,症例に解析結果を提示しながら理学療法を進めた。歩行解析ではMicroStone社製3軸加速度計を第3腰椎棘突起と踵骨隆起に装着し,10歩行周期の体幹加速度データをサンプリング周波数200Hzで測定した。測定したデータの左右成分と鉛直成分より前額面上のLissajous Index(LI),踵骨隆起の加速度データより歩行周期の変動性を示すStride-to-stride Time Variability(STV)をそれぞれ算出した。

    【結果】

    以下に術後2日および術後3週の評価結果を示す。静止立位における左右方向動揺平均中心変位は0.25cmから-0.5cmと左側へ重心が変位した。Timed Up & Go test(TUG)は7.5secから6.2sec,LIは26.9%から1.82%,STVは3.44%から1.50%と,それぞれ大幅な改善を認め,術後28日に自宅退院となった。

    【結論】

    CSM患者では,単脚支持時間とストライド長の短縮,膝関節屈曲角度と足関節底屈角度の減少といった運動学的特徴に加え,pre-swingでの足関節powerの減少と股関節powerが増加するといった運動力学的な特徴を示す(A Malone, et al., 2012)。また,外科的減圧術後1年の時点で,足関節底屈モーメントの増加やpre-swingでの足関節底屈powerの増加など運動力学的な改善は認めるが,運動学的な改善には至らなかったと報告されている(A Malone, et al., 2015)。本症例では加速度計による歩行解析を導入したことで,歩行の状態を詳細に提示でき,運動力学的な改善を効率良く運動学的な改善に繋げることが可能であったと思われる。

  • 増田 智子, 高橋 浩平, 内田 学, 田村 哲郎
    セッションID: P-MT-05-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    アテトーゼ型脳性麻痺(以下,ACP)では二次障害として頸椎症性脊髄症を伴うことが多い。頸椎症性脊髄症の合併により,脊髄障害や筋力低下,筋萎縮などの神経根・前根障害が生じ,そのため日常生活動作(以下,ADL)が低下することがある。

    近年,リハビリテーション(以下,リハ)栄養の有用性が報告されており,特に運動と分岐鎖アミノ酸(以下,BCAA)摂取との併用は,筋量,筋力,身体機能の改善に有効であることが示されている。しかし,頸椎症性脊髄症を伴うACPに対するリハ栄養の報告はない。

    今回,ACPで頸椎症性脊髄症を合併し,重度の四肢麻痺,感覚障害,廃用症候群によりADLが著しく低下,体重,筋量も減少した症例に対し,運動療法後にBCAA含有の栄養補助食品を摂取したことで,体重,筋量,身体機能,ADLの改善など良好な成果が得られたので報告する。

    【方法】

    症例はACPの60歳代後半の男性。元々屋外歩行が自立していたが,2014年12月頃から四肢麻痺,感覚障害が出現し,徐々にADLが低下した。2016年2月に食事動作やトイレ動作が困難となり,3月に自宅ベッドからの転落を機に,さらに四肢麻痺,感覚障害が増悪し,ADLが全介助となった。MRI検査によりクリッペル-フェイル症候群と頸椎症性脊髄症と診断された。6月2日にC1椎弓切除及びC2椎弓形成術を施行した。6月16日に当院に転院し,理学療法を開始した。ADLは徐々に改善したが,体重減少や筋萎縮がみられた。そのため7月29日より体重,筋量,筋力の改善を目的にBCAA含有の栄養補助食品を追加した。栄養補助食品は運動療法直後に摂取した。それに伴い,運動負荷量を漸増した。

    【結果】

    以下,転院時(6月16日),BCAA摂取開始前(7月28日),退院時(9月26日)の順で各検査結果を示す。体重は38.4kg,36.0kg,40.1kg,握力は3.1kg,5.5kg,9.1kg,膝伸展筋力は0.11kgf/kg,0.12kgf/kg,0.37kgf/kg,大腿周径は,31.6cm,30.9cm,32.3cm,下腿最大周径は26.0cm,25.1cm,27.1cm,Barthel Indexは0点,30点,70点であった。

    【結論】

    ACPに頸椎症性脊髄症を合併した症例で手術により麻痺の改善は認めたが,体重減少や筋萎縮などの廃用症候群が生じた。運動療法後にBCAA含有の栄養補助食品を追加したことにより,運動療法の漸増負荷量調整に繋がり,その結果,体重,筋量,筋力,身体機能が向上し,ADLがより改善した。

  • 葉 清規, 対馬 栄輝, 大石 陽介, 村瀬 正昭, 伊藤 創
    セッションID: P-MT-05-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    頸椎変性疾患は,頸椎の退行性変化により,頸部痛,肩甲骨周囲痛,頸部可動域制限などの頸部障害や神経障害をきたす疾患であり,臨床で遭遇する機会は多い。

    本邦では,一般的に頸椎変性疾患に対する治療として薬物療法,装具療法,物理療法,運動療法等が行われているが,運動療法の効果について検証された報告はわずかである。

    本研究の目的は,頸椎変性疾患に対して,McKenzie法および頸部深層筋エクササイズを用いた運動療法の短期的効果を調査することである。

    【方法】

    対象は,2013年7月より2016年8月の期間で,頸部及び上肢帯の疼痛・痺れ等の症状で来院し,画像上で頸椎の退行性変化を認め,理学療法(主に運動療法,物理療法等)を施行した症例のうち,包含基準,除外基準より選択され,評価に不備がなかった頸椎変性疾患保存治療例106例である。包含基準は,薬物療法を併用,現在就労していること等,除外基準は,原因が明らかな急性発症例,他の整形外科疾患合併例等とした。診断名の内訳は,頸椎症性神経根症53例,頸椎椎間板ヘルニア34例,変形性頸椎症15例,頸椎症性脊髄症4例であった。

    運動療法は,McKenzie法を実施した群(76例),McKenzie法と頸部深層筋エクササイズを併用した群(30例)とした。

    McKenzie法による運動療法は,頸部の反復運動,姿勢保持等の評価から症状緩解が得られる運動方向を確認し,その方向への反復運動によるセルフエクササイズ(5-6回/2時間おき)とした。頸部深層筋エクササイズは,頸部深層屈筋運動を10秒×10回程度(2-3セット/日),頸部深層伸筋運動を10秒×5回程度(2-3セット/日)とした。

    評価項目は,頸部自動関節可動域(以下ROM),VAS(頸部,上肢症状),Neck Disability Index(以下NDI)のサブスケールおよび障害度,日本整形外科学会頸部脊髄症評価質問票の頸椎機能スコア(以下JOACMEQ),SF-8(下位尺度およびサマリースコア)をリハ初回時,1週間後,1ヶ月後に評価した。

    統計解析は,両群の治療経過の差の分析に線形混合モデルを適用した。主効果が有意な水準間に対しては多重比較法として,対応のあるt検定を適用し,Bonfferoni法で修正した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    両群ともにROM(屈曲,伸展,側屈,回旋),VAS,NDIのサブスケールおよび障害度,JOACMEQにおいてリハ初回時および1週間後と比較して,1ヶ月後に有意な改善がみられた。またSF-8のRP,BP,GH,RE,MH,PCS,MCSにおいて初回と比較して,1ヶ月後に有意な改善がみられた。群間での有意な差はみられなかった。

    【結論】

    頸椎変性疾患に対する運動療法開始1ヶ月後の効果として,McKenzie法に基づく運動療法とMcKenzie法に頸部深層筋エクササイズを併用した運動療法では,1週間後以降に症状面,所見面,心理面に改善が得られるが,両群における明らかな効果の差はみられない。

  • 竹内 雄一, 星野 雅俊, 辻尾 唯雄, 久野 剛史, 北川 明宏, 木村 祐介, 熊田 直也, 奥田 早紀, 西谷 輝, 関 昌彦
    セッションID: P-MT-06-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】腰部脊柱管狭窄症(LSS)は腰痛,下肢疼痛およびしびれにより活動量を低下させる。また,サルコペニアは骨格筋量と筋力,身体機能の低下を通じてQOLの低下を招くとされており,一次性は加齢性,二次性は身体能力性,疾患性,栄養性に分類される。LSS由来の腰痛および下肢症状は不活発な生活スタイルとなり,身体能力性サルコペニアになることが予測される。本研究の目的は,LSSによる腰痛,下肢疼痛およびしびれの程度,罹病期間がサルコペニアにおよぼす影響について調査することである。

    【対象・方法】対象は,LSSと診断され当院にて後方除圧術予定患者41例(男性31例:女性10例,73.4±5.4歳)とした。検討項目は,サルコペニア判定基準のため握力,最大歩行速度と筋力測定はTANITA MC-780Aを用い,安静時および歩行時の下肢疼痛,しびれ,腰痛の程度(VAS)と各症状の罹病期間,QOLとしてJOABPEQ(疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行能力障害,社会生活障害,心理的障害)を横断的に評価した。①筋量低下は四肢筋量指数Skeletal muscle index;SMIを用い<7.0kg/m2(男性)と<5.7kg/m2(女性)とし,②筋力低下は握力<26kg(男性)と<18kg(女性),③身体機能低下は歩行速度0.8m/sec以下とした。群分けは,①②③の3つを持つ者を重症サルコペニア群,①かつ②または③を持つ者をサルコペニア群,①のみのものをプレサルコペニア群,②あるいは③を持つ者をダイナペニア群とし,それら以外をNormal群とした。解析内容は,各群間と調査項目の比較検討を行い,有意水準は5%とした。

    【結果】Normal群は41.5%(17例,72.2±7.1歳),プレサルコペニア群は14.6%(6例70.5±4.7歳),ダイナペニア群は43.9%(18例,73.8±7.4歳),サルコペニア,重症サルコペニアと判定されたものは認めなかった。各群間の比較検討の結果,安静時下肢疼痛において,ダイナぺニア群とプレサルコペニア群はNormal群に比べ不良な傾向を示した(p=0.08ダイナぺニア群37mm:Normal群22mm,p=0.08プレサルコペニア群45mm:Normal群22mm)。歩行時腰痛と安静時腰痛においてダイナぺニア群はプレサルコぺニア群に比べ不良であった(p=0.03ダイナぺニア群58mm:プレサルコぺニア群28mm,p=0.04ダイナぺニア群36mm:プレサルコぺニア群10mm)。また,JOABPEQ歩行能力においてダイナペニア群はプレサルコペニア群に比べ不良な傾向を示した(p=0.07ダイナぺニア群21:プレサルコペニア群40)。その他の検討項目においては,全て有意差は認めなかった。

    【結論】

    本研究の結果,LSS患者において下肢疼痛の程度がダイナペニアとプレサルコペニアに影響を及ぼし,腰痛の程度がダイナペニアに影響することが示唆された。また,ダイナぺニアを有する患者は歩行能力が低下していた。

  • 桑原 渉, 田中 信弘, 中西 一義, 中村 遼, 浅枝 諒, 石井 陽介, 車谷 洋, 砂川 融
    セッションID: P-MT-06-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    腰部脊柱管狭窄症(LSS)の特有な臨床症状は神経症状由来の下肢痛,下肢しびれ,神経性間欠跛行であり,長距離歩行が困難となる。LSS患者の神経症状は姿勢により変化することが知られている。さらにLSS患者は除圧術後,腰痛が改善することが報告されており,その要因の一つに術後の脊柱・骨盤アライメントの変化が挙げられている。以上より,歩行により生じるLSS患者の臨床症状には歩行中の脊柱・骨盤アライメントが影響している可能性があると考えた。そこで本研究は,歩行負荷を行うことで増悪するLSS患者の下肢痛,腰痛に歩行時の脊柱・骨盤運動が影響を与えるか明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は腰部脊柱管狭窄症と診断され,神経性間欠跛行を呈した患者14名とした。歩行解析には赤外線カメラ16台を用いた三次元動作解析装置VIOCON MX(Vicon Motion Systems社,UK)と床反力計8基(AMTI社,USA)を使用した。課題動作は10 mの快適速度歩行とし,6分間歩行負荷試験前後で測定を行った。赤外線反射マーカーを対象の身体に計24箇所貼付した。得られたマーカー座標から体幹・胸椎・腰椎・骨盤前傾角度を算出し,それぞれの立脚期における最大前傾角度を解析に使用した。さらに歩行負荷前後での下肢痛,腰痛のVisual Analogue Scale(VAS)を聴取し,より下肢痛が強くなった対象を下肢痛群,腰痛が強くなった対象を腰痛群として分類した。統計学的解析は群(下肢痛群・腰痛群)と歩行負荷前後(負荷前・負荷後)における歩行時脊柱・骨盤運動の違いを明らかにするため線形混合モデル二元配置分散分析を用いて比較した。さらに歩行負荷前から後の下肢痛,腰痛VASの増加率を従属変数,各運動学データを独立変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。

    【結果】

    聴取したVASの結果,下肢痛群6名,腰痛群8名に分類された。各運動学データにおいて交互作用を認めなかった。胸椎前傾角度は有意な群の主効果を認め,歩行負荷前・後それぞれにおいて,下肢痛群の方が低値であった。腰椎前傾角度は有意な歩行負荷前後の主効果を認め,両群において歩行負荷後で前傾角度が増加した。重回帰分析の結果,下肢痛VASの増加率には歩行負荷前の胸椎前傾角度が有意に選択され,腰痛VASの増加率には,骨盤前傾角度の増加率(負荷後-負荷前)が有意に選択された。

    【結論】

    下肢痛群で歩行負荷前から示された胸椎前傾角度の低値は上半身重心を前方に移動させることができず,結果として腰椎に伸展ストレスを与えた可能性がある。歩行負荷後は腰椎前傾角度を増加させ,疼痛回避性の歩行を行っていることが考えられた。LSS患者の腰痛には,歩行負荷により増加する骨盤前傾角度が影響していることが示唆された。

  • 井川 達也, 保坂 亮, 松澤 克, 打越 健太, 綱島 脩, 鈴木 彬文, 櫻井 愛子, 石原 慎一, 角田 亘, 草野 修輔, 福井 康 ...
    セッションID: P-MT-06-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    腰部脊柱管狭窄症(以下,LSS)は下肢痛や間欠性跛行を伴う歩行能力低下によってADLが制限される疾患である。高齢症例においては体重や筋肉減少などを含めたフレイルも加わり,生活空間が狭小化する要因となる。この生活空間の評価として生活移動尺度(以下,LSA)が多く用いられ,類型分類にて活動狭小型とされた高齢者は,要介護度も高くLSA得点も低下する。しかしLSS症例の活動が狭小化する要因は明らかとなっていない。そこで本研究は高齢LSS保存症例において活動狭小型に分類される症例の身体要因を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は65歳以上の高齢LSS症例100例(女性51例,男性49例,年齢74.3±5.5歳)とした。対象者の選択基準は自力で屋内歩行が可能で,かつ検査に対する指示理解が良好な症例とした。本研究では,LSA得点を基に活動狭小群(56≧LSA),非活動狭小群(LSA>56)の2群に分類した。2群に独立した要因を検討するため年齢,性別,BMI,LSSに関する麻痺筋の有無,下肢筋力,10m歩行時間,LSS疾患特異的評価尺度ZCQにおけるサブスコア重症度と身体機能,腰痛特異的QOL評価尺度RDQスコア,腰痛および下肢痛のVASを評価指標として調査した。統計はLSA得点にて分類した2群を目的変数とし,その他の評価指標を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,活動狭小群に独立して影響を及ぼす要因について検討した。なお危険率5%を有意水準とした。

    【結果】

    活動狭小型に分類された症例は25例であった。変数の散布図において,著しく直線関係を示すような変数は存在しなかった。尤度比変数増加法による多重ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定結果はP<.01であり有意であった。また選択された有意な独立変数はZCQサブスコア身体機能,10m歩行時間の2項目(P<.01)であった。オッズ比はそれぞれ4.66(95%信頼区間,1.69-12.81),1.33(95%信頼区間,1.08-1.63)であった。Hosmer and Lemeshowの検定結果はχ2=9.93,P=.270であり,判別的中率は82.0%で良好であった。実測値に対して予測値が±3SDを超えるような外れ値は存在しなかった。

    【結論】

    ZCQサブスコア身体機能は歩行距離と歩行能力に対する質問5項目で構成されており,間欠性跛行の程度を反映している。本研究の結果より高齢LSS症例において間欠性跛行は活動範囲を狭小化させる要因となることが明らかとなった。間欠跛行を改善する方法として,小股および体幹前傾にて歩行することが挙げられ,これらの姿勢での歩行は脊髄硬膜外圧を減少させ症状を軽減させることも報告されている。また屋外歩行時には体幹前傾位を維持するための歩行補助具使用も有効であると考えられる。さらに10m歩行速度が速い症例では,LSAが高得点化することも明らかとなり,LSSに特異的な間欠跛行や疼痛等の評価に加え,短距離歩行能力も注目して評価する必要があることが示唆された。

  • ~歩行距離と体幹伸展筋力はJOABPEQ得点と関連がある~
    西浜 かすり, 神谷 光広, 竹中 裕人, 鈴木 惇也, 伊藤 敦貴, 鈴木 達也, 横地 恵太, 森 匡宏, 伴 留亜, 後藤 慎, 橋本 ...
    セッションID: P-MT-06-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    腰部脊柱管狭窄症(Lumber spiral canal stenosis:以下LSS)は,間欠性跛行を特徴とし,QOLが阻害される。患者立脚型QOL評価に用いられる日本整形外科学会腰痛評価質問票(Japanese Orthopaedic Association JOA Back Pain Evaluation Questionnaire:以下JOABPEQ)は,腰痛による生活能力障害の評価(Roland-Morris Disability Questionnarie日本語版:以下RDQ)やSF36などのQOL評価表と相関が高いが,運動機能との関連を示す報告は少ない。今回の目的は,術前のLSS患者QOLに関連する運動機能を明らかにするために,術前のJOABPEQ各項目の得点と運動機能との関連を調査した。

    【方法】

    本研究は手術予定のLSS患者60例(男性35例,女性25例,平均年齢69.0±10.9歳)を対象とした。運動機能項目は,体幹・四肢筋肉量,筋力(体幹屈曲筋力,体幹伸展筋力),柔軟性(FFD,SLR),6分間歩行距離(以下6MD)とした。体幹・四肢筋肉量の測定には体成分分析装置In Body(In Body JAPAN)を使用した。筋力測定には,徒手筋力計mobie(酒井医療)を使用した。JOABPEQにおける5項目の得点と運動機能項目それぞれとの相関をみた。統計処理には,ピアソンの相関係数もしくはスピアマンの順位相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    JOABPEQの各項目の平均点は,腰椎機能障害60.6±29.1,歩行機能障害37.1±29.4,社会生活障害42.2±22.8,心理的障害50.8±16.6,疼痛関連障害48.8±36.9であった。身体機能項目の各平均点は,体幹筋肉量19.6±6.0kg,四肢筋肉量17.4±5.2kg,体幹屈曲力15.6kg,体幹伸展筋力20.4kg,FFD 45.69±140cm,SLR 71.5±13.6°,6MD 259.83±148.6mであった。腰椎機能障害と相関がみられた運動機能項目は体幹筋肉量(r=0.3),四肢筋肉量(r=0.3),体幹伸展筋力(r=0.4),6MD(r=0.5)であった。歩行機能障害と相関がみられた項目は6MD(r=0.5),社会生活障害と相関がみられた項目も6MD(r=0.3)であった。心理的障害と相関がみられた項目は体幹伸展筋力(r=0.4)であった。疼痛関連障害と相関がみられた項目はSLR(r=0.4)であった。

    【結論】

    JOABPEQ各項目の得点と相関を示した運動機能項目は6MD,次いで体幹伸展筋力であった。術前のLSS患者のQOLに歩行距離や体幹筋力などの運動機能が関連していることが示唆された結果であった。術前や術後に歩行距離の拡大や体幹伸展筋力の向上を目指したリハビリテーション介入は我々理学療法士が寄与できる可能性があると考える。

  • ―年代別標準体幹筋力を基にした検討―
    伊藤 敦貴, 神谷 光広, 西浜 かすり, 竹中 裕人, 鈴木 惇也, 鈴木 達也, 横地 恵太, 森 匡宏, 伴 留亜, 後藤 慎, 橋本 ...
    セッションID: P-MT-06-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    当院では腰部脊柱管狭窄症患者(以下LSS)に対し,腰椎後方侵入椎体間固定術(以下除圧固定術),または棘突起縦割椎弓切除術(以下除圧術)を施行している。

    我々はこれまでに,早期理学療法介入が体幹筋力の低下を予防したことを明らかにした。しかし,LSS術後患者の体幹筋力特性を把握しリハビリテーション介入の効果を判定するには,年代別標準体幹筋力(以下標準値)を考慮する必要性がある。そこで本研究では,標準値を基に術式の異なるLSS患者の術前,術後1,3,6か月間の体幹筋力の推移をみたのでここに報告する。

    【方法】

    対象は,2013年11月から2016年3月のLSS手術ののち,術前後評価を行うことができた除圧固定群25名(男性12名,女性13名,平均68.6±9.2歳),除圧群34名(男性22名,女性12名,平均68.6±10.2歳)とした。術後リハビリテーションとして入院中と退院後の受診時(術後1,3,6か月)に体幹筋力測定を行い,その結果に基づいて活動性を高めるように指導を行った。体幹筋力測定は術前,術後1,3,6か月に,徒手筋力測定器mobie(酒井医療社製)を用い,端坐位にて体幹伸展と屈曲の等尺性筋力を測定した。そして,体幹筋力の値をmobie Project(酒井医療)により集計された各年代平均値で除した値(%)を使用した。統計解析ソフトは,Rコマンダー2.8.1を用いた。術前,術後1,3,6か月の筋力の比較には分割プロットデザインによる分散分析を用いた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    体幹屈曲筋力,伸展筋力共に交互作用は認められず,測定時期による主効果のみを認めた。

    体幹屈曲筋力(除圧群・除圧固定群)は,術前(93%・91%),術後1か月(98%・81%),術後3か月(104%・89%),術後6か月(103%・96%)であり,術前に比べ,術後6か月,術後1か月に比べ術後3か月,6か月の時点で有意に上昇した。(p<0.05)

    また,体幹伸展筋力(除圧群・除圧固定群)は,術前(88%・80%),術後1か月(96%・84%),術後3か月(105%・92%),術後6か月(105%・103%)であり,体幹伸展筋力は,術前に比べ術後3か月,6か月,術後1か月に比べ術後3か月,6か月の時点で有意に上昇した。(p<0.05)

    【結論】

    術式の異なるLSS術後患者の体幹筋力を標準値と比較した推移(術前,術後1,3,6か月)をみた。術式による差は認められなかったが,時期による差は認めた。術後3か月より有意に上昇した。統計学的有意差は認められなかったが,除圧固定群は体幹屈曲,伸展筋力共に術後6か月の時点でも標準値に達していなかった。

    除圧固定群が術後6か月の時点でも標準値に満たなかった理由としては,術後3か月間の硬性コルセット着用による体幹の運動制限が考えられる。

    また,当院での術後リハビリテーション介入は入院している1から2週間のみの実施であったため,今後は退院後のリハビリテーション実施よる介入効果を検討していきたい。

  • 足立 真澄, 吉村 洋輔, 山科 俊輔
    セッションID: P-MT-07-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    肩関節周囲炎は,肩関節構成体の退行変性を基盤として発生し,肩関節の疼痛と運動障害を主徴とする症候群である。それらの経過は,疼痛や可動域制限が残存することや頭上の棚の物に手が届く,結帯動作,引き戸の開閉というADL動作が困難となることが多いとされている。個人の特性でみると男性より女性で発症しやすいこと,60代から80代で年齢が上がるにつれて障害がみられ,仕事をしている人ほど障害が少なかった。そのため個人の生活背景,地域特性といった環境因子を考慮しなければならない。これらの個人特性を反映できる評価として患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver1.3(以下Sh36)があり,疼痛,自動可動域,筋力などと相関があると報告されている。しかし,個人特性の中の地域特性に関しては検討が希薄であるのが現状である。地域特性は,実際に他県の都市部,農村部,山間部の地区別では肩の障害発生に著明な差は認めないと報告されているが,個人の特性が環境に左右されているため検討が必要である。よって本研究は地域別に見た運動機能の違いを記述することを目的とした。

    【方法】

    対象は地域在住の肩関節周囲炎患者11例(平均73.8±9.2歳),男性5名,女性6名とした。発症より5か月以内の患者6名,5か月を超えている患者5名であった。在住地域の中で駅周辺の地域で人口2000人以上を都市群(4名),山間部の地域で2000人以下の地域を地方群(7名)と分けた。腱板損傷,外傷,神経症状を合併している症例は除外した。評価方法は,主観的評価はSh36を用い回答を得た。本評価表は36項目の質問を6つのドメインに分類し,各領域について重症度0から4の5段階の平均値を計算し,値が大きいほど困難なく動作が行える事を示す指標である。客観的評価は自動,他動可動域(肩関節屈曲,伸展,外転,外旋,内旋),疼痛にて地域によって運動機能に違いがあるかを調査した。疼痛は,安静時痛,運動時痛をVisual Analog Scale(VAS)にて評価した。今回,症例数が少数であるため統計解析は行わず2群間比較を行った。

    【結果】

    全体では自動,他動可動域の屈曲,外転,伸展よりも外旋,内旋で10°以上の制限がみられた。Sh36では疼痛3.7,可動域3.6,健康感3.7,日常生活機能3.7であったが,筋力3.1,スポーツ能力2.6と他の項目より低かった。年齢が上がるにつれてSh36の筋力の値が3.2以下と低下した。地域別では地方群に比較し都市群の方がSh36の筋力2.8,健康感3.6,スポーツ能力1.3と低かった。都市群では,地方群に比較し自動可動域の外転20°,外旋10°差があり低下がみられた。疼痛は安静時痛は0,運動時痛は5以上はなかった。

    【結論】

    地域ごとに体操やレクリエーションなどを行うことで肩関節周囲炎の発生予防につながると考える。外来初診時に地域別に改善項目を評価し,予防プログラムを考案することで肩関節周囲炎患者を早期に改善させられる可能性がある。

  • 前田 貴之, 室伏 祐介, 小田 翔太, 大石 大, 橋田 璃央, 細田 里南, 永野 靖典, 池内 昌彦
    セッションID: P-MT-07-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    肩の痛みは,関節可動域制限や筋力低下などの身体機能低下を招き,その結果,ALDおよびQOLを低下させる。臨床場面では,単に肩の痛みといっても肩関節のみならず,肩関節以外へ痛みが拡がる症例を目にすることが少なくない。しかし,これまで肩の痛みの拡がりに注目した報告はない。我々は,この肩の痛みの拡がりそれ自体が患者の身体機能・ADLを低下させると仮説を立て,肩の痛みの拡がりに関係する因子を検証した。本研究の目的は,肩の痛みを主訴とする患者を対象に肩関節由来の痛みの拡がりが患者の身体機能・ADLに関係することを明らかにし,痛みの拡がりを詳細に聴取することの有用性を検討することである。

    【方法】

    平成27年11月から平成28年10月間の肩関節手術待機患者で術前機能評価として,身体機能評価測定と質問紙表での聴取可能であった23名(男性15名,女性13名,平均年齢68.6±8.7)を対象に調査した。

    痛みの拡がりはPain drawing用シェーマを作成し,患者自身が痛みを感じている範囲を線で囲んで表した。身体機能として,患側肩関節屈曲・外転最大筋力をHand Held Dynamometerで測定し,疼痛強度は過去6週間の平均疼痛強度をNRSで測定した。また,質問紙表として,日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下,JOA),患者立脚肩関節評価法Shoulder36(以下,Shoulder36),米国肩肘関節外科スコア(以下,ASES),Quick DASHを聴取した。統計解析は,痛みの範囲と各評価項目をSpearmanの順位相関係数を用いて相関を求めた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    痛みの拡がりは,JOAの下位項目である機能(r=-0.49)・可動域(r=-0.41),合計点(r=-0.46)とShoulder36の下位項目である筋力(r=-0.45)と負の相関を示した。(p<0.05)しかし,NRSと肩屈曲・外転最大筋力との間には相関を示さなかった。

    【結論】

    痛みの拡がりは,各質問紙表における筋力や関節可動域などの日常生活活動に必要な機能と関連することが示されたが,痛みの強度への関連は見られなかった。痛みの拡がりは,単純な最大筋力ではなく日常生活上での動作を遂行するために必要な筋力に相関があるという事は新しい知見である。痛みの評価はこれまで,腱板断裂部位特異的な疼痛部位の報告があり疼痛部位や強度の評価が推奨されている。しかし,疼痛部位や強度だけではなく,痛みの拡がりを詳細に把握することは,痛みの強度とは別の視点である日常生活における肩の機能を簡便に評価できる可能性が示唆された。今後は,痛みの部位や強度だけでなく,痛みの範囲を詳細に評価することも,臨床における1つの評価になると考える。

  • 横断的研究結果
    伊藤 創, 葉 清規, 川上 照彦
    セッションID: P-MT-07-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    五十肩あるいは凍結肩とも呼ばれる肩関節周囲炎は,成人の2-5%が罹患するといわれている。肩関節周囲炎の特徴的な症状として夜間痛が挙げられる。夜間痛とは,夜間に起こる肩の疼痛の事を表し,患者の睡眠を妨げることで生活の質を著しく低下させると言われている。夜間痛の臨床的特徴に関して,統一された見解がなく,アライメントとの関連を検討した報告は散見される程度である。今回,肩関節周囲炎患者に対し,夜間痛に関連する因子を調査することにより,理学療法を行う上での一助とする事が研究の目的である。

    【方法】

    対象は当院で2015年11月~2016年6月の期間に理学療法介入を行った片側性肩関節周囲炎患者45名(男性23名,女性21名,平均年齢61.2±11.1歳)とした。評価者は14名(理学療法士12名,作業療法士2名)とし,対象者の評価は,各評価者が自己記入式の評価表に記載する方法で実施した。基本情報として,性別,年齢,罹病期間,評価項目として,夜間痛・安静時痛の有無,肩関節動作時痛の程度(Visual analogue scale,以下,動作時痛VAS),肩関節屈曲・伸展・外転・下垂位外旋の関節可動域(以下,ROM),結帯動作,特殊検査として,impingement-sign,painful-arcを評価した。また,カルテから初回診察時に撮影したレントゲン肩関節正面像を用いて,肩峰骨頭間距離(以下,AHI),肩峰烏口突起間距離を計測した。夜間痛の有無については,先行研究をもとに問診評価で行い,夜間就寝時に疼痛があり睡眠を妨げる程度の痛みがある症例を夜間痛有とした。ROMは,東大式ゴニオメーターを用いて患側,健側共に計測した。結帯動作は,C7-thumb-distanceを採用し,テープメジャーにて患側,健側共に計測をした。AHI,肩峰烏口突起間距離は,放射線画像情報システムSYNAPSEを用いて計測した。肩峰烏口突起間距離の計測は,予備研究を行い,角度が大きいほど肩甲骨前傾,小さいほど後傾と定義した。基本情報及びその他の評価項目で夜間痛あり群,なし群の2群間で有意差があった項目を独立変数,夜間痛の有無を従属変数として,ロジスティック回帰分析にて解析した。統計処理はR2.8.1(CRAN freeware)を使用し,有意水準は5%とした。

    【結果】

    夜間痛を有する症例は45例中17例であった。夜間痛あり群,なし群の2群間で差が認められた項目は,動作時痛VAS,肩関節下垂位外旋,impingement,AHI,肩峰烏口突起間距離であった(p<0.05)。差が認められた5項目を独立変数とし,ロジスティック回帰分析を行った結果,夜間痛に関連があった因子は,AHI(オッズ比:1.80,95%信頼区間:0.90-3.60),肩峰烏口突起間距離(オッズ比:1.69,95%信頼区間:1.20-2.37)であった。

    【結論】

    肩関節周囲炎患者の夜間痛を有する危険因子は,AHIが狭く,肩甲骨前傾位傾向であることであった。

  • 益満 俊宏, 中野 洋平, 川合 健太
    セッションID: P-MT-07-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    肩関節周囲炎による可動域制限に対しリハビリテーションを必要とする症例は多い。症例の中には,可動域制限が改善していく症例と,改善に難渋する症例がある。診療でよく行われる画像診断として単純X線画像があり,肩関節周囲炎患者のほとんどが施行されているが,改善・非改善の予後予測についての報告は少ない。今回我々は肩甲上腕関節のアライメントに着目し,X線画像と肩関節屈曲の改善度の関係を比較し検討したので若干の文献的考察を加え報告する。

    【方法】

    対象は当院で肩関節周囲炎と診断され,理学療法を施行した初診時肩関節屈曲120°未満の14例(男性3例3肩関節,女性11例11肩関節,年齢57.9±12.1歳,肩関節屈曲91.2°±23.0°)であった。上肢帯に骨折の既往のある者,腱板損傷が疑われる者,著明な石灰沈着を認める者,著明な円背を呈する者は対象から除外した。測定項目は初診時肩関節屈曲角度,肩関節外旋位でのX線前後像におけるgleno humeral angle(GHA)とした。GHAは上腕骨長軸と肩甲骨の関節上結節と関節下結節を結んだ線が成す角度で,3回計測した平均値を数値として用いた。また,150日間の理学療法施行後,120°以上に到達したものを改善群(7例),到達しなかったものを非改善群(7例)と分類し比較した。改善群・非改善群とGHAとの差については対応のないt検定を用い,危険率5%未満を有意とした。

    【結果】

    改善群のGHAは5.3°±2.4°で,非改善群は10.8°±4.3°だった。また,p<0.05で両者に有意差を認めた。

    【考察】

    林らはX線画像上で肩関節のアライメントを評価し,軟部組織の状態を予測し制限因子を特定する報告をしている。赤羽根は肩峰下滑液包や烏口上腕靭帯などの上方支持組織の癒着により肩甲骨が下方回旋位になるとGHAの値は増大すると報告している。また杉本らは,烏口上腕靭帯周囲は滑膜が豊富で炎症が波及しやすく,瘢痕化に伴い物理的特性が変化しやすくなると述べている。上方支持組織の癒着が生じると肩峰下での腱板の滑走が障害され,上腕骨大結節と烏口肩甲アーチとの間にインピンジメントが起こるとされる。本研究では非改善群のGHAが改善群と比較し大きかったため,肩関節上方支持組織の癒着の有無と肩関節屈曲の改善の予後に関連があることが示唆された。

  • 藤原 旭紘, 橋本 裕一, 川崎 怜美, 山名 孝治, 中嶋 遥佳, 山本 一平, 千葉 啓輔, 原 翔太, 白沢 ゆかり, 中島 慎一郎
    セッションID: P-MT-07-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    理学療法を行うにあたり,評価や治療は客観的評価が中心となりやすいが,患者の主観的評価も重要である。整形外科での高頻度疾患である肩関節周囲炎を対象に主観的評価を調査した。肩関節周囲炎は疼痛,運動制限,年齢的要素の三原則を主徴とする症候群である。主観的評価には疼痛の関与がこれまでに報告されているが,本研究では可動域制限が及ぼす影響について検討した。

    【方法】

    対象は2016年3月16日~10月17日に当院を受診し,肩関節周囲炎と診断された40名42肩(男性10名,女性30名)とした。平均年齢65.0±11.6歳,平均屈曲角度126.1±28.1°,平均外転角度120.7±34.6°,平均結帯動作L3-4レベル。この対象者を関節包と腱板の張力が一定となる屈曲120°,肩甲骨が上肢を支持する要支持関節初期角度の外転120°を基準値として群分けした。除外基準として腱板損傷,骨折,外傷,神経疾患を合併している者とした。対象者に対し,Shoulder36(以下,Sh36)を用い主観的評価を行った。客観的評価は同一の検者が行い,肩関節屈曲,外転,結帯動作(視診・触診)を自動可動域で測定した。Sh36の評価シートへの記述は,使用手引きに則し,バイアスの入りにくい待合室や自宅などで回答し,後日回収した。各領域間の重症度得点有効回答の平均値を算出し,各群の同領域比較は対応のないt検定を用い,領域間の相関係数にはSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    屈曲・外転とも120°以上の群(以下,広域群)と120°未満の群(以下,狭域群)に分け,Sh36を比較した。広域群は,平均年齢66.4±13.5歳,男性9名,女性12名の計21名,平均屈曲角度149.8±14.2°,平均外転角度151.0±16.9°結帯動作L2-3レベルであった。狭域群は,平均年齢63.5±9.1歳,男性2名,女性19名の計21名,平均屈曲角度102.4±16.1°,平均外転角度90.5±16.8°,結帯動作L4-5レベルであった。広域群と狭域群の同領域で比較した結果,全ての領域で有意差はなかった。各群6領域間全てに5%水準の相関関係を認めた。

    【結論】

    本研究結果から,肩関節疾患患者のQOLを反映するSh36の各領域は相互に影響を与えていると考える。先行研究からもSh36の各領域は独立することはないと報告されており同様の結果となった。Sh36に疼痛が影響している報告はみられる。しかし,本研究より,可動域制限の広狭は主観的評価に反映されず,2群の可動域領域の差も0.17点と低値であった。運動制限により明らかに困難なADL動作がある中で,痛みの生じない代償動作や,健肢や両側で動作を補っている可能性がある。患者の主観的評価として簡便なSh36のみを利用すると正しく評価出来ない可能性があり,ADL評価法も吟味して主観的評価を検討する必要があると考える。

  • ―疼痛症状,機能障害,精神心理的問題の関係性に関する検討―
    上甲 雄太郎, 島原 範芳, 内山 裕貴, 赤松 和紀
    セッションID: P-MT-08-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】生物学的製剤(以下Bio)の登場は関節リウマチ(以下RA)の治療に臨床的寛解という治療目標の大きな変革をもたらしたが,加療後も残存する疼痛と破局的思考は大きな課題である。ペインリハビリテーションの分野では破局的思考に対する自己効力感の存在が注目されているがRAの分野では散見される程度である。そこで今回,Bio使用中のRA患者の疼痛症状,機能障害,精神心理的問題について自己効力感の状態による比較検討を行うとともに,それらの関係性について検討したので若干の知見を交えて報告する。

    【方法】対象は研究の趣旨を説明し,同意を得られたBio使用中のRA患者14名(平均年齢59.71±4.61歳,平均罹病期間14.5±2.83年)とし,Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)とGeneralSelf-Efficacy Scale(GSES)の2項目から自己効力感が中途度以上の群(以下高SE群)と低い群(以下低SE群)の2群に分けた。評価項目は,疼痛強度をvisual analogue scale(VAS),疾患活動性をsimplified disease activity index(SDAI),機能障害をpain disability assessment scale(PDAS)とhealth assessment questionnaire(HAQ)とロコモ25,精神心理状態をpain catastrophizing scale(PCS:反芻,拡大視,無力感)とhospital anxiety and depressionscale(HADS:抑うつ,不安)とtampa scale for kinesiophobia(TSK)と自己効力感をPSEQとGSES,その他の項目としてeuroqol 5 dimension(EQ-5D)とし,各項目を比較検討するとともに各項目間の関係について調べた。統計学的解析は,群間比較にMann-WhitneyのU検定,各項目間の相関関係検討にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】SDAIは高SE群が低値を示したが,VAS,HAQに差はなかった。PDAS,ロコモ25は高SE群が有意に低値を示した。精神心理状態は反芻,拡大視,不安,TSKに差はなかったが,無力感,HADS,抑うつは高SE群が有意に低値を示した。各項目の相関関係については,PSEQはSDAIと高い負の相関を示し,PDASとロコモ25,GSESとは中等度の負の相関を示した。GSESは,PDASとロコモ25,反芻,無力感,拡大視,抑うつと中等度の負の相関を示した。PSEQ,GSESともにVASとは相関を示さなかった。

    【考察】RA患者の自己効力感は,疾患活動性や主症状である疼痛よりも生活活動全般における機能障害に影響されている可能性が示唆された。

  • ―疼痛症状,機能障害,精神心理的問題の関係性に関する検討―
    内山 裕貴, 島原 範芳, 上甲 雄太郎, 赤松 和紀
    セッションID: P-MT-08-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    生物学的製剤(以下Bio)の登場により,関節リウマチ(以下RA)は臨床的寛解が望めるようになった。しかしBio使用中の約25%の患者は強い痛みを訴え,破局的思考が影響しているとの報告もある。特に無力感(learned helplessness:以下LH)はRA患者の悲観的,受動的行動,抑うつを惹起する要因であり疾患活動性の状態を問わず高いとされる。今回,Bio使用中のRA患者の疼痛症状,機能障害,精神心理的問題について無力感の状態による比較検討を行うとともに,それらの関係性について検討したので若干の知見を交えて報告する。

    【方法】

    対象は,研究の趣旨を説明し同意を得られたBio使用中の女性RA患者14名(平均年齢59.71±4.61歳,平均罹病期間14.5±2.83年)とし,LHが高値を示した群を高LH群と低値を示した群を低LH群に分類した。評価項目は,疾患活動性をsimplified disease activity index(SDAI),疼痛強度をvisual analogue scale(VAS),機能障害をpain disability assessement scale(PDAS)とhealth assessment questionnaire(HAQ)とロコモ25,精神心理状態をpain catastrophizing scale(PCS:反芻,無力感,拡大視)とhospital anxiety and depression scale(HADS:抑うつ,不安)とtampa scale forkinesiophobia(TSK),その他評価としてpain self efficacy questionnnaire(PSEQ),general self-efficacy scale(GSES),euroqol 5 dimntion(EQ5D)とし比較検討した。さらに各項目間の関係について調べた。統計学的解析は,群間比較にMann-WhitneyのU検定,各項目間の相関関係検討にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    両群ともにSDAI,VASに差はなく,HAQにも差を認めなかったが,PDAS,ロコモ25は低LH群が有意に低値を示した。精神心理状態は反芻,無力感,不安,TSKが高LH群で有意に高値を示したが,PSEQ,GSES,EQ5Dでは差がなかった。各項目の相関関係については,無力感はSDAIとの相関は低く,VAS,HAQ,PDAS,ロコモ25とは中等度の相関を示した。また反芻,拡大視とは高い相関を示し,不安,抑うつ,TSKとも中等度の相関を示した。

    【考察】

    RA患者の無力感は,在宅生活に支障をきたさない程度の機能障害であっても,疾患活動性や疼痛強度よりも影響を受ける可能性が示唆された。

  • catastrophizing,特に無力感が及ぼす影響に関する検討
    島原 範芳, 中尾 聡志, 赤松 和紀, 内山 裕貴, 上甲 雄太郎, 澤田 直哉, 田中 由紀
    セッションID: P-MT-08-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】我々はこれまで関節リウマチ(以下RA)患者のcatastrophizingの無力感が疾患コントロール状態の如何を問わず高いこと,それが疾患活動性や疼痛症状,機能障害以外の病因に影響されていることを報告してきた。RA患者の悲観,抑うつ,受動的態度には無力感が影響するとされ,RA患者の行動様式に影響を及ぼすとの報告もある。今回,生物学的製剤(以下Bio)により疾患活動性鎮静化後も無力感の高い傾向をしめすRA患者を対象に,精神心理的問題に影響を及ぼす因子とその関係性について検討したので若干の知見を交えて報告する。

    【方法】対象は当院入院中に研究への参加に同意の得られた女性RA患者24名。平均年齢68.21±1.60歳。平均罹病期間13.63±2.44年とし,加療後に無力感に改善が認められる改善群と,改善が認められない非改善群に分けた。治療は全例がBio投与による内科的治療とともに理学療法介入を受けていた。評価項目はSteinbrocker stage/class,疾患活動性をsimplified disease activity index(SDAI),疼痛強度をvisual analogue scale(VAS),機能障害をpain disability assessement scale(PDAS)とhealth assessment questionnaire(HAQ),精神心理状態をpain catastrophizing scale(PCS:反芻,無力感,拡大視)とhospital anxiety and depression scale(HADS:抑うつ,不安)とし,入退院時で各項目を比較検討するとともに各項目間の関係について調べた。統計学的解析は,入退院時の比較にWilcoxonの符号付順位和検定を,2群間の比較にMann-WhitneyのU検定を,各項目間の相関関係分析にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。

    【結果】入院時に比べ退院時に,SDAIは両群で改善,VASは両群で軽減していた。PDAS,HAQは退院時に両群で改善していたが,PDASは有意差をしめさない一方で,HAQは改善群が有意に低値をしめした。精神心理項目については全群で有意に改善していたが,退院時にPCS,HADSが下位項目も含め非改善群が有意に高値をしめした。各項目の相関関係についてはSDAI,VAS,PDAS,HAQが精神心理項目と低~中等度の相関をしめしたが,無力感との相関は低かった。また,無力感は,HAQの下位項目,起立,歩行と高い相関をしめした。

    【結論】RA患者の無力感は疾患活動性や主症状である疼痛症状よりも生活の起点となる起立,歩行の障害と関係性が高かった。

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