理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 和田 朋子, 金子 秀雄, 鈴木 あかり, 内田 大, 平田 靖典, 中村 駿佑, 谷 和, 中村 将都
    セッションID: P-MT-38-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    慢性腰痛の身体的要因として呼吸筋である横隔膜や腹横筋の機能不全が挙げられる。特に慢性腰痛女性では胸椎可動性低下も指摘されており,胸椎可動性低下に伴う胸腹部可動性低下や呼吸筋機能低下は肺機能を低下させる可能性がある。しかし慢性腰痛と呼吸機能の関連を示した研究は少ない。そこで今回女性を対象に肺活量,呼吸筋力,胸腹部可動性,脊柱可動性を測定し慢性腰痛の有無によって違いがあるか,また呼吸機能と各項目の関連性を検討した。

    【方法】

    対象者は病院に勤務している看護師,看護助手,リハビリテーション部の女性にアンケートを行い,健常な女性10名(健常群:年齢23.2歳,BMI:19.42kg/m2)と,慢性腰痛のある女性10名(腰痛群:年齢22.7歳,BMI:19.83kg/m2)を対象とした。腰痛群は3ヵ月以上の慢性(反復性)腰痛がある者で,Oswestry Disability Indexのスコアが10点以上の者を選択した。整形外科的疾患,呼吸循環器疾患,神経疾患,妊娠の経験がある者は除外した。

    肺機能,呼吸筋力,胸腹部可動性,脊柱可動性を測定した。肺機能はスパイロメーターを使用し,努力性肺活量(FVC,%FVC)を座位にて3回測定し最大値を採用した。呼吸筋力は口腔内圧計を使用し,最大吸気圧(PImax)と最大呼気圧(PEmax)を測定した。3回測定し最大値を採用した。胸腹部可動性は呼吸運動測定器を使用し,深呼吸時の呼吸運動を9段階のスケール値(0~8)で表した。測定肢位は背臥位で,利き手の上部胸郭(第3肋骨),下部胸郭(第8肋骨),腹部の3か所で3回ずつ測定し最大値を採用した。脊柱可動性はスパイナルマウスを使用し直立位,前屈位,後屈位の3条件で第7頸椎から第3仙骨までの脊柱傍線上を移動させた。胸椎の角度と腰椎の角度を算出し,前屈位と後屈位の角度の差を求め,これを胸椎,腰椎可動性と定義した。各肢位で2回測定し平均値を採用した。

    肺機能,呼吸筋力,胸腹部可動性,脊柱可動性における健常群と腰痛群の比較にMann-WhitneyのU検定を用いた。各群のFCVと呼吸筋力,胸腹部可動性,脊柱可動性との相関を検討するためSpearmanの積率相関係数を算出した。

    【結果】

    腰痛群の%FVCは,健常群より有意な低値が認められた(p<0.05)。FVC,PImax,PEmax,呼吸運動測定スケール値(上部胸郭,下部胸郭,腹部),胸椎および腰椎可動角度は2群間に有意差は認められなかった。

    健常群はFVCと各項目の相関は認められなかった(rs­=0.04~-0.29)。腰痛群はFVCと上部胸郭(r­s=0.90),下部胸郭(rs­=0.71),腹部(rs­=0.64),胸腹部合計(rs­=0.83)に相関を認めた。

    【結論】

    慢性腰痛女性は,健常女性より%FVCが低下している可能性が示された。慢性腰痛女性ではFVCと上部胸郭スケール値に強い正の相関が認められたことからFVC低下の一因として胸郭可動性が関連している可能性が考えられる。

  • ~骨盤傾斜の違いによる検討~
    山崎 裕起, 浪本 慎也, 中林 幹治
    セッションID: P-MT-38-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    腰痛症の原因を調べるために,健常者との体幹筋力の比較や体幹筋力測定の方法について,多くの研究がなされているが,姿勢異常で見られる骨盤傾斜の違いによる体幹筋力の比較については,我々が渉猟した限り見当たらなかった。本研究の目的は当院を来院した腰痛症患者の体幹筋力を測定し,骨盤傾斜での違いについて比較検討を行った。

    【方法】

    腰痛を訴え受診した患者89例(男性34例,女性55例),年齢58.4±18.7歳を対象とした。立位単純X線撮影は下位胸椎,腰椎,骨盤を含む前後像撮影,側面での機能撮影(中間位,前屈位,後屈位)を施行した。圧迫骨折,移行椎のあるものは除いた。骨盤傾斜角は土井口らの方法に基づき21°未満を骨盤前傾(前傾群),21°以上を骨盤後傾(後傾群)と定義した。筋力測定はアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターを用い測定し,腹筋力,背筋力,E/F比を算出した。測定肢位は足部が接地しない座位とした。筋力測定は疼痛による影響を少なくする為,初診時は当院で指導している腰痛体操を1週間施行し,再診時に測定を行った。体操を指導する際,骨盤傾斜角と下肢筋伸張性との相関を見る為,臀踵間距離測定とSLRテストを行った。

    【結果】

    前傾群の年齢は53±17.7歳,身長は163.8±8.8cm,腰椎前弯角は44.9±11.5度,骨盤傾斜角は13.1±4.8度であり,後傾群の年齢は67.6±14.6歳,身長は156±9.5cm,腰椎前弯角は28.4±13.8度,骨盤傾斜角は30±6.2度であり,後傾群は高年齢,低身長,腰椎前弯角は減少し,前傾群と比べ高齢者の特徴を呈していた。SLRは前傾群71.3±12.9°,後傾群75.8±13.4°,臀踵間距離は前傾群3.4±5.3cm,後傾群5.6±7.1cmと有意差はみられなかった。腹筋力は前傾群141.3±39.3N,後傾群111.2±36.7N,と前傾群が有意に高く,背筋力は前傾群167.5±40.6N,後傾群129.4±36N,と前傾群が有意に高い結果になった。しかしE/F比においては前傾群1.22±0.28,後傾群1.21±0.30と有意差はみられなかった。骨盤傾斜角と体幹筋力及び下肢伸張性において,両群とも相関を認めなかった。

    【結論】

    腰痛を訴える患者を骨盤傾斜角度により,前傾群,後傾群に分類した。骨盤後傾群は低伸長となり,腰椎の生理的前弯の減少(後弯変形)を認め,高齢者の腰痛症の特徴を示していた。腰椎の生理的前弯が消失し,脊柱の後弯変形をきたすことで椎体へのストレスが増加し圧迫骨折のリスクが高まる。その為当院では,背筋力低下を認める高齢者に対し,トレーニングと姿勢指導を行い,腰痛治療並びに圧迫骨折の予防を行っている。臨床において,筋力測定は信頼性,安全性が高い方法が推奨されている。本研究の方法は,臥位で痛みがある者,後弯変形により肢位がとれない者にも関係なく測定でき,短時間での評価可能である。足底が接地しないことで下肢筋力の影響を受けず,純粋な体幹筋力として評価可能である為,有効であると考えた。

  • 吉田 啓晃, 三小田 健洋, 大沼 雄海, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: P-MT-39-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折術後患者において,立位での患側下肢最大荷重率を患肢の機能回復の目安とする報告は多い。一方でKneissら(2015)は,床反力計を用いて大腿骨近位部骨折患者の立ち上がり動作を分析し,Berg Balance Scale(BBS)や歩行速度などの動作能力指標と相関が強いことから立ち上がり動作評価を提唱している。しかし,患側下肢荷重率と立ち上がり動作における床反力垂直成分から得られる値の関係は明らかではない。そこで,床反力垂直成分に近い足圧分析装置を用いて,立ち上がり動作時の足圧から得られる値と立位患側荷重率との関連を示すとともに,バランス能力指標との関連を検討した。

    【方法】

    大腿骨近位部骨折術後患者15名(平均79.6±9.0歳,術後24.5日)を対象に,足圧分析装置を用いて椅子からの立ち上がり動作と患側荷重率を計測した。使用機器はWinFDM-T(Zebris社製)とし,高さ45cmの椅子から左右の下肢に均等に荷重して立ち上がることを課題とした。Kneissらの方法を参考に,第1相のRFD(rate of force development)[N/s/kg],第2相のPeak vGRF(vertical ground reaction force)[N/kg]を左右下肢で算出し,立位保持3秒間の平均GRF[N/kg]を求めた。最大荷重率は,立位で最大荷重した場合の荷重量を体重で除した値[%]とした。また,バランス能力指標としてBBSとTimed“Up and Go”test(TUG)を測定した。統計は,RFD,Peak vGRF,立位保持GRFの患側/健側比を求め,一元配置分散分析にて比較し,最大荷重率との関連についてpearson相関係数を求めた。また,立ち上がり,患肢荷重率の各指標とバランス能力指標との関連についてspearman順位相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    立ち上がり動作における患側のRFDは11.5±6.4N/s/kg,Peak vGRFは4.1±0.9N/kgで,立位保持のGRFは4.4±1.5N/kgであった。各指標の患側/健側比はRFD0.60,Peak vGRF0.65であり,立位保持GRF0.84に比べて,有意に低値を示した。

    立位での最大荷重率は77.4±16.8%で,RFDやPeak vGRFと有意な相関は認められなかった。バランス能力指標との相関は,患側RFDはBBS,TUGともにrs=0.6と有意な相関を示したが,Peak vGRF,最大荷重率はrs=0.1~0.4と相関は認められなかった。

    【結論】

    左右均等に荷重して立ち上がるような課題において,立位保持では比較的左右均等に荷重できていたとしても,立ち上がり動作においては差が生じていた。立位での患肢最大荷重率は簡便に計測でき,機能回復の指標として用いることが多いが,立ち上がり動作時の足圧から得られるRFDやPeak vGRFとの関連は低かった。つまり,立位で患側下肢に荷重できたとしても立ち上がり動作においては患側下肢の機能を十分に発揮できていないと考えられる。さらに,力発揮速度の評価とされるRFDはバランス能力指標と中程度の相関を示したことから,臨床的に有用である。

  • 林 洋暁, 山部 拓也, 美崎 定也
    セッションID: P-MT-39-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折の歩行能力に関して,荷重開始後1週の運動能力,術後1週の歩行能力などが予後や家庭復帰の目安になるとして報告されている。特に近年,在院日数の短縮にあわせ,術後早期に歩行能力に関する予後を予測する必要性がある。予後予測はより簡便な方法で明確な因子を用いることで,臨床で効率的に実施可能な指標になりえる。そのため,本研究では村田らの下肢荷重率測定法を使用し,歩行再獲得との関連を調査することを目的とした。

    【方法】

    対象の取り込み基準は,平成28年1月から平成28年10月までに大腿骨頚部骨折もしくは転子部骨折の診断で,人工骨頭置換術か観血的整復固定術を施行した患者とした。除外基準は,a)他部位に整形外科的既往歴のある者,b)重篤な併存疾患(心疾患,神経疾患等)を有する者,c)認知障害が有り評価困難である者,d)術後一週時点で移乗不可能な者,e)荷重制限がある者とした。測定項目は,ア)基本的患者属性(年齢,性別,術前待機日数,身長,体重,BMI,術式),イ)術後1週の等尺性股関節外転筋力体重比(以下,外転筋力)と等尺性膝関節伸展筋力体重比(以下,膝伸展筋力),ウ)術後1週座位での下肢荷重率(以下,荷重率),エ)当院退院時歩行能力とした。荷重率は45cm台に腰掛けて体重計に足を乗せ,殿部が浮かないように最大努力下で押すよう指示して測定した。安定して得られた数値を体重で除した値の百分率を荷重率とした。統計解析は,統計解析ソフトRコマンダーにて行い,記述統計で対象者の基本属性を確認した。術後2週時点で歩行が50m以上可能か否かで可能群・不可群の2群に分け,筋力と荷重率の群間の差をみるために分布に応じてt検定・Mann-WhitneyのU検定を適用した。また,Spearmanの順位相関分析を用いて,荷重率と他項目との関連を調査した。その際,有意水準は5%とした。

    【結果】

    取り込み基準と除外基準を満たしたものは,19名(男性9名・女性10名)であった。調査項目の平均値(標準偏差)は年齢74.9(10.7)歳,術前待機日数9.2(4.3)日,身長157.7(11.4)cm,体重52.0(8.8)kg,BMI20.9(2.2)kg/m2であった。術式は,人工骨頭置換術が17名・観血的整復固定術(γネイル)が2名であった。2群の差の検定の結果有意差があったものは,患側外転筋力(P値=0.0005)と患側膝伸展筋力(P値=0.001),健側膝伸展筋力(P値=0.0004),健側の荷重率(P値=0.01)であった。患側の荷重率はP値=0.15で有意差を認めなかった。また,患側の荷重率と筋力値は,患側股外転筋(r=0.49),患側膝伸展筋(r=0.43)で中等度の正の相関があった。

    【結論】

    今回の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力,座位での下肢荷重率は歩行能力と関連しており,歩行自立の危険因子である可能性が示唆された。今後,前向き研究を行うことで予測因子となり得るか,さらなる研究の継続が必要と考えられる。

  • ―逆応答反応と第一歩におけるCOPの前方移動距離および速度との関連―
    尾上 望実, 中村 潤二, 生野 公貴, 塩崎 智之, 久我 宜正, 庄本 康治
    セッションID: P-MT-39-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折患者(骨折者)は,歩行開始時に跛行を生じることが多く,歩行の実用性を低下させる。歩行開始時は,足圧中心(COP)の安静立位から一歩目の遊脚側後方への移動である逆応答反応が引き金となり,身体重心の前方移動に繋がる。しかし,骨折者の歩行開始時の逆応答反応と第一歩の関連性は明らかでない。そこで本研究の目的は,骨折者の逆応答反応と第一歩におけるCOPの前方移動距離,速度との関連を調査し,歩行開始時の力学的特性を検討することとした。

    【方法】

    対象は初回大腿骨近位部骨折術後患者6名(83.2±4.3歳,女性6名)とし,比較対照群として健常者9名(24.7±2.1歳,女性3名)を測定した。歩行分析には圧力計式歩行解析装置(床反力計)を用い,独歩にて計測した。計測は,床反力計上で5秒間の静止立位をとった後に,歩行を開始した。骨折者の第一歩は患側,健常者は右下肢からとし,5試行実施した内の3から5試行目のデータを平均した。逆応答反応は,開始5秒後から一側下肢が離れるまでのCOPの最大後方移動距離を算出した。第一歩における重心移動は,最初に足部が接地した位置から第一の床反力の最大値まで,第一から第二の床反力の最大値まで,第二の床反力の最大値までの3区間に分類し,それぞれの区間のCOPの前方移動距離と平均速度を求めた。統計学的解析は,両群の逆応答反応と第一歩におけるCOPの前方移動距離,平均速度の差をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した。また,骨折者の逆応答反応とCOPの平均速度の関係をSpearman順位相関係数にて求めた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    健常者と比べ骨折者では,逆応答反応の有意な低下を認めた(骨折者:18.1±7.2mm,健常者:30.7±10.5mm;p=.03)。COPの前方移動距離は,第一の床反力の最大値まででは有意に長く(骨折者:84.3±8.9mm,健常者:65.0±15.8mm;p=.03),第一から第二の床反力の最大値まででは有意に短縮していた(骨折者:75.3±60.8mm,健常者:123.9±14.7mm;p=.03)。第二の床反力の最大値までの距離に有意差は認めなかった(p>.05)。COPの平均速度は,第二の床反力の最大値まで(骨折者:213.2±99.9 mm/秒,健常者:288.6±27.8 mm/秒;p=.03)および,第一から第二の床反力の最大値までに有意な低下を認めた(骨折者:213.7±161.2 mm/秒,健常者:337.9±47.2 mm/秒;p=.03)。第一の床反力の最大値までに有意差は認めなかった(p>.05)。また,骨折者においては,逆応答反応と第二の床反力の最大値までのCOPの平均速度,および第一から第二の床反力の最大値までのCOPの平均速度に強い正の相関関係を認めた(いずれもρ=.83,p=.04)。

    【結論】

    本研究の結果から,骨折者は健常者と比較して逆応答反応が低下し,第一歩の円滑な前方への重心移動が停滞しており,骨折者においては逆応答反応と第一歩におけるCOPの平均速度と関連していることが歩行特性として抽出された。

  • 吉元 勇輝, 土井 剛彦, 平井 達也, 齋藤 雄太, 若月 勇輝, 石川 康伸, 藁科 弘晃, 金尾 和浩, 西村 隼
    セッションID: P-MT-39-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    転倒リスクを評価する指標として,歩行の安定性を評価する歩行変動が注目されており,近年は小型加速度センサを用いて,歩行周期時間の変動を簡便に計測できる方法が確立され研究が進んでいる。一方,高齢者において,転倒に伴う大腿骨近位部骨折が多くみられ,受傷後の再転倒についても問題となっている。そのため,高齢の大腿骨近位部骨折者に対しては,転倒リスクを的確に評価する必要があるが,評価の前提となる歩行周期変動の信頼性に関する検討は十分なされていない。そのため,本研究の目的は大腿骨近位部骨折者の歩行周期変動の信頼性を検討することとした。

    【方法】

    対象は,老人保健施設に通所もしくは入所している大腿骨近位部骨折者7名(年齢:82.3±2.5歳)で,リハビリテーション内で独歩練習を行っている者とした。両側踵に加速度計(Microstone社製,測定周期200Hz)を装着,快適歩行速度で10m歩行を8回計測し,得られた加速度から歩行周期平均時間と歩行周期時間変動を算出した。その後,1週間程度の間隔をあけ再測定を実施した。解析は,各試行における中央10ストライドを抽出し,健側,患側の計1120ストライドを計測データとして用いた。統計解析は,健側,患側に分けて実施し,20から80ストライドまで20ストライド毎に級内相関係数ICC(1,1),最小可変検知量(MDC)を用い,それぞれ再テスト信頼性として検討した。統計解析はすべてRコマンダーVer1.48を使用した。

    【結果】

    全実測値の平均において,10m歩行速度は0.79±0.2m/sec,歩数は25.2±3.4歩,歩行周期時間は健側1.01±0.1sec,患側1.01±0.1sec,歩行周期時間の変動係数は健側4.15±1.21%,患側4.21±1.33%であった。歩行周期平均時間ICCは,健側で0.97~0.99,患側で0.97~0.99であった。歩行周期時間変動におけるICCは,健側と患側両側ともに高値で以下の値であった(20ストライド[健側:0.86,患側:0.95],40ストライド[健側:0.90,患側:0.95],60ストライド[健側:0.94,患側:0.96],80ストライド[健側:0.96,患側:0.96])。MDC(%)は,20ストライド[健側:2.14,患側:3.27],40ストライド[健側:3.24,患側:3.27],60ストライド[健側:3.30,患側:3.64],80ストライド[健側:3.54,患側:3.63]で各値をとった。

    【結論】

    大腿骨近位部骨折後の高齢者における歩行周期変動の再テスト信頼性は高く,測定は20ストライドの計測を行うことで,信頼性の高いデータを入手できることが示された。本研究をふまえ,歩行変動の臨床的意義を明らかにするために,大腿骨近位部骨折患者における歩行変動の変化を縦断的に調査するなど,今後さらなる研究が必要である。

  • 森 孝之
    セッションID: P-MT-39-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    大腿骨転子部骨折のうち不安定型骨折である4Part骨折や後外側粉砕骨折に対するCompression Hip Screw(以下,CHS)の場合,術後の骨性支持が不十分な時期に荷重を行うと,過度なSlidingにより骨頭の短縮や内反股となる。今回,Evans分類Type1group4に対し,CHSを施行した症例の荷重時痛とCT,超音波画像所見(以下,エコー)の関連について報告する。

    【症例提示】

    89歳女性。自宅にて転倒し受傷。骨折分類はEvans分類Type1group4。CHS手術翌日から理学療法開始。術後6週時に憩室炎と診断され加療目的にて外科転科となった。外科加療中も理学療法は継続した。経過中の荷重時痛とCT,エコー所見ついて検討した。

    【経過】

    Tip-apex distance(以下,TAD)は17.2mm。術後2日目で(Visual Analog Scale(以下,VAS)で荷重時痛80mm。荷重は1/3荷重とした。術後24日目で荷重時痛VAS60mm,CT所見で後外側部に一部仮骨形成が確認でき1/2荷重に変更。術後35日目より2/3荷重としTAD11.3mmであった。術後42日目には荷重時痛VAS30mmとなり術後56日目に荷重時痛VAS20mmと軽減し術後8週時に全荷重とした。その後,荷重時痛は術後111日目までVAS20mmと残存していた。CTで確認すると大腿骨後外側部や大転子部,小転子部に仮骨形成を認めていたが,エコードプラでは骨折部の血流反応を認めた。そして術後126日目に荷重時痛は消失し,術後139日目のエコーでは後外側部のエコードプラ反応は消退した。

    【考察】

    本症例は,大腿骨の大転子や小転子骨折を含む4Part骨折であり,後外側粉砕骨折を呈したEvans分類のType1 group4である。治療はCHS術が行われた。一般的にCHSは,骨頭に力が加わるとsliding機構により頸部は短縮し安定するといわれている。しかし,不安定型骨折である4Part骨折や後外側粉砕骨折では過度な骨片間の圧着から荷重時痛を伴い,歩行獲得の阻害となる。本症例は術後111日目まで荷重時痛VAS20mmと残存し,CTにて仮骨形成が確認できたが,エコードプラでは粉砕骨折である後外側部に血流反応が確認できた。術後126日を経て荷重痛が消退し,荷重痛消退後にエコードプラによる血流反応が消失したことから,エコードプラの所見は骨折治癒過程の血流変化を反映していたものであると考えられる。荷重痛とCTおよびエコー所見の経時的変化を報告したが,理学療法への有用性について検証する必要がある。

    【結語】

    不安定型4Part骨折や後外側粉砕骨折を認めた症例の荷重時痛の消失には術後約18週,エコードプラ反応の消失は術後約20週を要した。

  • 白石 明継, 熊代 功児
    セッションID: P-MT-40-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    わが国の「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン」によると,大腿骨近位部骨折患者の入院中の死亡原因となる合併症は肺炎が最多で,30~44%を占めるとされる。また,金丸らは大腿骨近位部骨折患者における術後1年以内の死因のうち,術後に発症した合併症の死亡率が術前に比べて有意に高く,その原因として肺炎が最も多いと報告している。そのため,術後の肺炎予防は生命予後において非常に重要である。先行研究では大腿骨近位部骨折の手術待期日数が合併症と関連があるとされる一方,早期手術と術後合併症は関連がないとする報告も散見され,術後の肺炎発症の要因について一定の見解が得られていない。そこで本研究の目的は大腿骨近位部骨折患者における術後の肺炎発症に影響する因子を検討することとした。

    【方法】

    対象は2013年1月~2016年6月に大腿骨近位部骨折にて当院整形外科に入院した65歳以上の患者459例のうち,術前に肺炎を発症した23例を除いた436例とした。対象者を肺炎非発症群(非発症群)422例,術後肺炎発症群(術後発症群)14例に分類し,患者要因として年齢,性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無,医学的要因として受傷から手術までの日数(手術待期日数),血中ヘモグロビン濃度(Hb値),血清タンパク質値(TP値),血清アルブミン値(Alb値),理学療法要因として入院から理学療法開始までの日数(PT開始日数),手術から端座位開始までの日数(術後座位開始日数)を後方視的に調査した。統計解析は,非発症群と術後発症群間の比較を性別,神経学的疾患既往の有無,認知症の有無,呼吸器疾患既往の有無はχ2検定,年齢,手術待期日数,Hb値,TP値,Alb値,PT開始日数,術後座位開始日数は対応のないt検定またはMann-Whitney検定を用いて実施した。統計学的有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    非発症群と術後発症群の比較の結果,術後発症群で有意に男性が多く(p<0.05),Alb値が低かった(p<0.05)。

    【結論】

    本研究におけるAlb値は入院時に調査した値であり,骨折受傷前の状態を反映していると考えられる。金原らは栄養状態と生体防御機構は密接に関わり合い,低栄養状態下では免疫能が低下すると報告している。そのため,本研究においても低栄養状態で入院した患者は感染に対する抵抗力が弱く,肺炎発症のリスクが高くなったと考える。

    本研究では理学療法で介入可能な要因は抽出されなかった。しかし,術後座位開始日数の平均値は非発症群2.2日,術後発症群3.6日であった。肺炎発症の要因として,長時間の仰臥位が報告されており,男性で入院時より低栄養状態を呈している症例は術後の肺炎発症のリスクが高くなるため,より早期から離床を図り,術後肺炎発症の予防を行うことが重要であると考える。

  • 半田 和也, 熊代 功児, 小根田 夏子
    セッションID: P-MT-40-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    大腿骨近位部骨折は高齢化社会の急速な進行に伴って年々増加し,高齢者のADL低下,生命予後の悪化を招くとされている。これらの予後を悪化させる要因に関して合併症の発症が予後に影響し,死因は肺炎が最多と報告されている。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折後の誤嚥性肺炎の発症が急性期病院における生命予後及び機能予後に及ぼす影響を明らかにすることである。

    【方法】

    対象は2013年1月から2016年6月に大腿骨近位部骨折にて当院整形外科に入院した65歳以上の患者430例(男性97例,女性333例,平均年齢82.1±7.8歳)とした。保存療法,病的骨折,院内発症例は除外した。まず,誤嚥性肺炎の発症が生命予後に及ぼす影響を調査するために,誤嚥性肺炎の有無,当院退院時の転帰(自宅退院・転院・死亡)を調査した。統計解析は,対象者を誤嚥性肺炎発症群と非発症群に分類し,χ2検定を用いて転帰を比較した。次に,誤嚥性肺炎の発症が機能予後に及ぼす影響を調査するために,誤嚥性肺炎の有無,年齢,認知症の有無,受傷前および退院時歩行能力,術後在院日数を調査した。統計解析は,退院時歩行能力を従属変数,肺炎の有無,年齢,認知症の有無,受傷前歩行能力,術後在院日数を独立変数として強制投入したロジスティック回帰分析を行い,退院時歩行能力と独立して関連する要因を検討した。受傷前および退院時歩行能力は,歩行可否を判断基準とし,歩行補助具は問わなかった。統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】

    誤嚥性肺炎発症群は33例(発生率7.6%),当院退院時の転帰は,自宅退院21例,転院404例,死亡5例であった。χ2検定の結果,誤嚥性肺炎発症群で有意に死亡が多く,誤嚥性肺炎発症群の死亡率は15%であった(p<0.001)。ロジスティック回帰分析の結果,退院時歩行能力に影響する要因として,受傷前歩行能力(OR:6.074,95%CI:1.884-19.577),誤嚥性肺炎の有無(OR:4.441,95%CI:1.890-10.436),認知症の有無(OR:2.545,95%CI:1.556-4.164),年齢(OR:1.054,95%CI:1.023-1.087)が有意な項目として抽出され,術後在院日数は抽出されなかった(モデルχ2検定p<0.001)。

    【結論】

    先行研究と同様に誤嚥性肺炎発症群は非発症群に比べて死亡率は有意に高値であり,誤嚥性肺炎の発症は生命予後に影響することが示された。さらに急性期病院における退院時歩行能力に影響する要因として,術後在院日数に関わらず,誤嚥性肺炎の発症が大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインで報告されている認知症や年齢よりも影響が大きかった。急性期病院における生命予後,機能予後を改善させるためには大腿骨近位部骨折後の誤嚥性肺炎の発症を予防することが重要である。

  • 急性期病院における検討
    西川 真世, 上田 哲也, 辻田 聡司, 服部 玄徳
    セッションID: P-MT-40-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    急速に高齢化が進む本邦において,大腿骨近位部骨折受傷者数は増加の一途を辿っている。術後の転帰先に影響を及ぼす因子として,年齢,認知症の有無,脳卒中の既往,受傷前のADL自立度,術後歩行能力など様々な報告がある。また,近年,地域在住高齢者における種々の先行研究において生活の広がりが注目されてきているが,大腿骨近位部骨折患者の術後の転帰先に術前の生活の広がりが与える影響を検討した報告は見当たらない。

    そこで本研究では,先行研究からの転帰先予測因子に加え,大腿骨近位部骨折受傷前の生活の広がりにも着目し,転帰先に影響する要因を検討することを目的とした。

    【方法】

    研究デザインは,前向きコホート研究とした。対象は,平成27年6月から10月までに大腿骨近位部骨折により入院し,観血的治療を実施した患者22名とした。著明な認知機能低下がある者,重篤な神経症状を有する者は除外した。基本情報として年齢,性別,BMI,術式(骨接合術,人工骨頭置換術),術後入院期間,入院時の血液データ(Alb,Hb)を電子カルテより収集した。受傷前情報として独歩の可否,栄養状態(MNA-SF),生活の広がり(LSA)を聴取した。また,術後3日目のADL能力(FIM運動項目),認知機能(MMSE),握力を評価した。転帰先が自宅の者を自宅群,転院の者を転院群とし,各項目についてt検定およびχ2検定を用いて2群間で比較検討を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    自宅群12名(男性5名,女性7名,73.1±11.7歳),転院群10名(男性1名,女性9名,81.1±7.8歳)であり,2群間で年齢,性別に有意差は認められなかった。Alb値は自宅群3.5±0.4g/dl,転院群2.7±0.6g/dlであり,自宅群が優位に高値であった(p<0.01)。受傷前に独歩が可能であった者は自宅群10名(83%),転院群4名(40%)であり,自宅群では優位に多かった(p<0.05)。MNA-SFは自宅群11.6±1.5点,転院群7.3±4.0点であり,自宅群が優位に高値であった(p<0.01)。LSAは自宅群75.6±30.8点,転院群44.1±33.4点であり,自宅群が優位に高値であった(p<0.05)。術後3日目のFIM運動項目の得点は自宅群42.8±14.6点,転院群29.2±14.3点であり,自宅群が優位に高値であった(p<0.05)。MMSEの点数は自宅群28.1±2.9点,転院群24.2±4.0点であり,自宅群が優位に高値であった(p<0.05)。握力は自宅群19.0±7.4kg,転院群12.5±2.7kgであり,自宅群が優位に高値であった(p<0.05)。術式,術後入院期間,Hb値に有意差は認められなかった。

    【結論】

    大腿骨近位部骨折の転帰先には,栄養状態,受傷前の独歩の可否,生活の広がり,術後3日目のADL能力,認知機能,握力が関連していた。先行研究において報告されている項目に加え,受傷前の生活の広がりを評価することで早期の方向性決定につながると考えられる。

  • 井手 宗樹, 梅野 裕昭, 黒田 厚, 中川 慎也, 大西 直斗, 七森 和久
    セッションID: P-MT-40-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    高齢者の大腿骨近位部骨折は,地域包括ケアシステム構築において重要な対象疾患の一つであり,早期から在宅を見据えた歩行・ADLなどの動作介入は,術後合併症予防ならびに在院日数の短縮も期待される。自宅復帰に関わる因子として,年齢,受傷前の歩行能力,認知機能の程度,介護者の有無などの報告がされており,術後早期から活用できる指標が求められる。今後,当院における大腿骨近位部骨折の予後予測チャート作成に向け,今回,自宅復帰に影響する因子を後方視的に調査・検討することを目的とした。

    【対象と方法】

    対象は,平成26年1月から平成27年12月までに自宅で転倒受傷し当院で大腿骨近位部骨折に対して手術(人工骨頭挿入術または観血的骨接合術)を施行した75歳以上の女性72名(平均年齢85.1±5.78歳)とし,自宅に退院した群(自宅群)45名,自宅以外へ退院した群(非自宅群)27名の2群に分類した。検討項目は,カルテより年齢,BMI,手術後離床開始日数,手術後歩行開始日数,入院前の歩行・トイレ・入浴・更衣と退院時の歩行・トイレ・入浴・更衣,認知症の有無を抽出し2群間で比較した。ADLの項目に関してはBarthel Indexの点数を用いた。統計学的検討は,Mann-WhitneyのU検定とX2検定を行った。有意差がみられた項目に関して,ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は危険値5%未満とした。

    【結果】

    自宅群/非自宅群の平均値と標準偏差値は,年齢82.7±5.5/89.0±3.8歳,BMI 21.7±4.0/20.0±3.4,手術後離床開始日数2.5±1.6日/3.3±2.1日,手術後歩行開始日数5.5±3.2/5.9±3.1日,入院前の歩行14.2±1.8点/13.0±2.5点,トイレ9.8±1.0/8.3±2.4点,入浴3.9±2.1/1.7±2.4点,更衣9.8±1.0/8.1±2.5点,退院時の歩行12.9±3.1点/7.0±4.7点,トイレ9.0±2.0/6.5±2.7点,入浴1.9±2.5/0.0±0.0点,更衣9.2±1.8/5.4±2.7点であった。認知症の有無は,有り14/21名,無し31/6名であった。2群間で有意差がみられたのが,年齢,入院前の歩行・トイレ・入浴・更衣,退院時の歩行・トイレ・入浴・更衣と認知症の有無であった。ロジスティック回帰解析での自宅退院の因子は,退院時更衣動作が影響していた。

    【考察】

    今回の結果から年齢,入院前のADL,退院時のADL,認知症の有無が自宅復帰に影響する因子として挙げられた。これは,岡田らによるADL(着替え・入浴・排泄)が自立していることが,自宅で生活していることと有意な関連があるとした報告と同様の結果であった。これらの結果からも,早期から立位・歩行に併せトイレ動作・更衣動作の自立度を高めることは,自宅復帰の一要因になりうると考える。今後,術式による自宅復帰率の違いなども調査を行い,大腿骨近位部骨折の予後予測チャートを作成し,他職種間で共有できるよう努めたい。

  • 大岡 恒雄, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 島 俊也, 白川 泰山
    セッションID: P-MT-40-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    我が国は超高齢社会の進行に伴い,85歳あるいは90歳以上のいわゆる超高齢者(oldest old)が大腿骨近位部骨折を受傷することが多くなっている。当院では,超高齢者における大腿骨近位部骨折術後の運動療法の機会が増加している。超高齢者の大腿骨近位部骨折患者に関する先行研究では,術後の歩行再獲得率や自宅退院の関連因子などについて報告があるが,超高齢者を年齢別に分け身体機能や退院先を比較した報告は渉猟した限りでは見当たらない。

    本研究は,90歳以上の対象で他の年齢層と比較し身体機能や退院先に違いがあるかを明らかにし,効果的な理学療法の一助になることを目的とした。

    【方法】

    対象は,平成24年6月1日~平成28年10月1日の4年4カ月の期間,当院にて手術後に入院治療した80歳以上の大腿骨近位部骨折患者女性133名とした。対象を80歳から5歳ごとに3群に分けた(80~84歳群45名,85~89歳群48名,90歳以上群40名)。各群で退院先,年齢,身長,体重,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),入院時と退院時の10m歩行時間および術側の等尺性膝伸展筋力,機能的自立度評価表(FIM)などを調査した。統計学的分析は,3群の調査項目の比較は一元配置分散分析を行い,90歳以上群の自宅群と非自宅群の比較は対応のないt検定を行った。危険率は5%未満を有意とした。

    【結果】

    80~84歳群の退院先は自宅37名(87%),施設6名(10%),転院2名(3%),死亡0名であった。85~89歳群では同様に,自宅34名(65%),施設12名(32%),転院3名(3%),死亡0名であった。90歳以上群では自宅17名(42%),施設14名(34%),転院5名(12%),死亡5名(12%)であった。

    80~84歳群の10m歩行時間は,入院時14.2±7.5秒,退院時10.8±3.2秒となった(p<0.05)。85~89歳群では,入院時21.0±13.3秒,退院時14.2±6.1秒となった(p<0.05)。90歳以上群では,入院時28.7±15.1秒,退院時18.9±8.9秒となった(p<0.05)。80~84歳群の入院時のFIMは,入院時の85~89歳群と90歳以上群の値より有意に高かった(p<0.05)。80~84歳群と90歳以上群では体重,入院時と退院時の術側の等尺性膝伸展筋力,FIMで90歳以上群の方が有意に低値であった(p<0.05)。

    90歳以上の自宅群は非自宅群に比べ,体重,HDS-R,入院時と退院時の10m歩行時間,入院時と退院時の術側等尺性膝伸展筋力,入院時と退院時のFIMで有意な差がみられた(p<0.05)。

    【結論】

    80~84歳群の自宅復帰率(87%)に対し,明らかに90歳以上群は低かった(42%)。90歳以上群で自宅群と非自宅群を比較した結果,90歳以上群の自宅復帰率を高めるための関連項目が多く示された。認知機能の改善に対する理学療法のコンセンサスは不十分な反面,超高齢者に理学療法を実施するうえでポイントになると考えた。

  • 藤澤 俊介, 古谷 英孝, 山口 英典, 田澤 智央, 美崎 定也, 杉本 和隆
    セッションID: P-MT-41-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(TKA)を含む外科的手術による術創部の癒着は,疼痛,機能面に影響を及ぼすことが報告されている。TKAの術後成績を評価する上において術創部の柔軟性についても着目するべき点であると考える。Ferrieroらは,術創部の柔軟性の測定する器具としてAdheremeterを開発し,信頼性があることを報告した。今回,TKA後におけるAdheremeterの信頼性と妥当性を検証することとした。

    【方法】

    Adheremeterは,術創部を対象者が痛みに耐えうる範囲において上下内外方向へ最大伸張し,その最大位を結んだ4角形の可動面積{(内側+外側)×(上方+下方)÷2}を算出することによって術創部の柔軟性を評価する測定器具である。今回,術創部の柔軟性を示す変数として膝蓋上嚢部,膝蓋骨上部,膝蓋腱部の3点の合計面積を算出した。測定肢位は膝関節屈曲30°,90°,最終域とした。対象は,初回TKAを施行し,術後2ヵ月以上経過した者とした。除外基準は再置換術,骨関節の手術既往歴,皮膚疾患,火傷,リンパ浮腫を有する者とした。検者内信頼性は,2週間以内に同一患者に再測定を行い,検者間信頼性は,ランダムに選択された3名の理学療法士が同時期に同一患者に測定を行った。統計解析は検者内・間信頼性には級内相関係数,系統誤差の有無にはBland-Altman plotを用いた。外的基準として膝関節屈曲可動域,瘢痕に対する評価尺度であるVancouver Scar Scale(VSS),瘢痕を客観的因子及び主観的因子から評価するKyoto Scar Scale(KSS),手術した人工関節を意識しないで生活できている程度を評価する日本語版Forgotten Joint Score(JFJS-12),Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)疼痛項目,身体項目(WOMAC-P,-F),11段階のNumerical Rating Scaleによる最終屈曲位伸張感,階段昇降時伸張感とした。統計解析は単相関分析を用いた(有意水準5%)。

    【結果】

    対象は35名,男性7脚,女性42脚,平均年齢73±13歳であった。級内相関係数の結果,ICC(1,1):0.74(95%CI:0.54-0.87),ICC(2,1):0.84(95%CI:0.68-0.92)であり,Bland-Altman plotからも系統誤差は確認されなかった。単相関分析の結果,30°面積は最終屈曲位伸張感(r=-0.29),WOMAC-F(r=0.29),90°面積は階段昇降時伸張感(r=-0.41),屈曲可動域(r=0.39),WOMAC-F(r=0.33),最終屈曲位伸張感(r=-0.31),最終域面積は最終屈曲位伸張感(r=-0.37),階段昇降時伸張感(r=-0.35),VSS(r=-0.31),WOMAC-F(r=0.30),JFJS-12(r=0.28)にそれぞれ有意な相関を認めた。

    【結論】

    AdheremeterはTKA後の術創部の柔軟性を測定する上で信頼性,妥当性を兼ね備えた器具であることが示された。また,術創部の柔軟性が良いと屈曲可動域が良好であり身体機能が高く,膝を気にせず,階段昇降の伸張感も少ないことが確認された。

  • 階段昇降困難感との関連性・2施設間研究
    田澤 智央, 古谷 英孝, 山口 英典, 藤澤 俊介, 美崎 定也, 中村 睦美, 杉本 和隆
    セッションID: P-MT-41-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    人工膝関節置換術(Knee Joint Replacement:KJR)の治療成績は良好であるが,階段昇降動作時に困難感が残存する者が多いと報告されている。階段昇降能力を評価する上で下肢筋力や動作の質を評価することは重要であり,臨床上簡便に評価できる方法が望まれる。簡便に下肢筋力を評価できるパフォーマンステストとして片脚スクワットテスト(Single Leg Squat Test:SLST)があり,主に前十字靭帯損傷術後患者に用いられている。SLSTは片脚立位から支持側の膝関節を約50°まで屈曲させて開始肢位に戻る動作を連続5回行わせるものであり,KJR患者にも適応可能であると考える。そこで,本研究の目的はKJR患者を対象にSLSTが下肢筋力および階段昇降動作困難感と関連するものか信頼性を含めて検討することとした。

    【方法】

    対象は,2施設のいずれかで片側または両側の初回KJRを施行された者とした。除外基準は,階段昇降が一足一段で行えない者,レントゲン画像上大腿脛骨角が180°以上,170°以下の者,重篤な術後合併症がある者,心疾患・神経疾患・下肢関節疾患の手術既往がある者,認知障害がある者とした。片脚スクワット5回中3回以上膝関節が第2趾よりも内側に位置した場合をPoor,それ以外の場合をGoodと評価し,片側例Good,両側例のうち両側Goodの者を良好群,それ以外の者を不良群に分類した。対象者20名のSLSTを撮影し,動画をもとに評価を行い,信頼性の検討を行った。妥当性の検討における外的基準は,5段階の階段昇降動作困難感(1:困難なし,2:少し困難,3:中等度困難,4:困難,5:かなり困難),手術した人工関節を意識しないで生活できている程度の評価に用いる日本語版Forgotten Joint Score(JFJS-12),活動性の高い術後患者の評価に用いる日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS)とし,群間比較を行った。また,等尺性膝関節伸展筋トルク(筋力),5段階の階段昇降動作時の疼痛において,GoodとPoorの比較を行った(有意水準5%)。

    【結果】

    SLSTの信頼性は,検者内0.73,検者間0.83であった。妥当性の対象者は,良好群39名(平均年齢72.7歳,BMI25.3kg/m2,女性79%,Good61脚),不良群46名(71.7歳,26.7 kg/m2,女性91%,Good21脚,Poor63脚)であった。昇段動作困難感(良好群:1.5,不良群:1.8),JHAAS(8.8,7.8)に有意差は認められなかったが,降段動作困難感(1.7,2.2),JFJS-12(63.2点,49.5点)において良好群よりも不良群の方が有意に劣っていた。また,階段昇降動作時の疼痛(Good:1.6,Poor:1.8)に有意差は認められなかったが,筋力(1.1Nm/kg,0.8Nm/kg)においてGoodよりもPoorの方が有意に劣っていた。

    【結論】

    SLSTは信頼性が高い上,筋力,降段動作困難感,膝を気にする程度に関連するパフォーマンステストであることを示した。SLSTは治療の効果判定として臨床的意義があると考える。

  • 原 真希, 岩見 憲司, 林崎 拓也, 和田 直人, 豊田 章宏, 藤本 英作, 藤村 宜史
    セッションID: P-MT-41-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:以下TKA)は,主に膝痛改善とそれに伴う活動性の拡大を目的に施行され,活動量の増加とQOLの向上に一定の効果を得ている。しかしながら,術後に満足度が低い患者を度々経験する。満足度および疼痛や活動量は主観的要素により評価が難しい。先行研究によると術後の身体活動量では,残存痛と自己効力感が強く関与すると報告されているが,満足度と身体活動量との関連を検討した報告は見当たらない。満足度に影響する要因を明らかにすることは,理学療法プログラムを立案するうえで有用と考える。そこで,本研究は,TKA術後患者の満足度に対する身体活動量と筋力の関係性を明らかにすることとした。

    【方法】

    研究のデザインは横断研究である。対象は平成27年4月~9月までの間に当院にて同一術者によるTKAを施行した24例24膝関節とした。(平均年齢76.1±7.6歳,男性8例,女性16例)。測定項目は,The Knee Society Score(以下KSS),Physical Activity Scale for the Elderly(以下PASE),術側膝関節伸展筋力(以下伸展筋力)とした。測定時期は術後1年とし,測定者は担当理学療法士とした。KSSとPASEは面接式記述で実施し,伸展筋力測定には徒手筋力測定器(OG技研社製ISOFORCE GT-360)を使用し,膝関節60度屈曲位での最大等尺性筋力を1回のみ測定した。実測値を体重で除し,トルク体重比に変換した。KSSは,膝の症状,満足度,期待度,活動性の下位項目から構成される。これらの下位項目のうち満足度の質問5項目(座位,臥床時,起床時,家事動作,娯楽活動)の5段階の点数を抽出した。PASEは過去1週間の身体活動の実践状況を問うものであり,余暇活動,家庭内活動,仕事関連活動の下位項目から構成される。これらの下位項目の点数を算出した。

    統計解析はKSS満足度の質問5項目に対するPASE下位項目点数と伸展筋力の関連性を検証するためにSpearman相関係数を求めた。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    KSS満足度の質問5項目のうち,起床時(r=0.41,P<0.05),家事動作(r=0.45,P<0.05)がPASE余暇活動と相関を認めた。KSS満足度の質問5項目全てと伸展筋力に相関を認めた。(座位:r=0.69,P<0.05,臥床時:r=0.72,P<0.05,起床時:r=0.86,P<0.05,家事動作:r=0.86,P<0.05,娯楽活動:r=0.88,P<0.05)

    【結論】KSS満足度の質問5項目のうち,起床時と家事動作の2項目がPASE余暇活動と相関を認めた。KSS満足度の質問5項目全てと伸展筋力に相関を認めた。つまり,満足度の向上には伸展筋力の回復と実生活における活動量の増加が必要である。そのためには,日常生活の役割や趣味活動,外出の機会など積極的な活動を促す必要があると考える。

  • 上林 和磨, 田村 暁大, 三宮 将一, 坂本 篤則, 戸塚 裕亮, 山賀 恭介, 刀根 章浩, 赤坂 清和, 山本 邦彦
    セッションID: P-MT-41-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    変形性膝関節症(膝OA)患者は,身体活動量の低下により生活空間の範囲が狭小化することが報告されており,身体機能やQOLの低下を引き起こす可能性が高いことが示唆されている。また,重度の膝OA患者は人工膝関節全置換術(TKA)が適応となり,術後の身体機能やQOLが有意に改善することが報告されている。しかし,術前に生活空間が狭小化されていたTKA症例の術前後での身体機能やQOLの変化は明らかにされていない。そこで,本研究の目的は術前の生活空間の違いが術後の身体機能やQOLに及ぼす影響を明らかにすることとした。

    【方法】

    対象は2015年1月~2016年5月に片側または両側膝OAの診断にて手術目的で入院した43名から,併存疾患のため評価困難となった18名を除外した25名とした。術前の生活空間評価にはLife Space Assessment(LSA)を用いた。術前と退院時に身体機能とQOLを評価した。身体機能評価は,NRSにて術側膝関節の運動時・荷重時痛,術側膝関節屈曲・伸展ROM,術側膝関節伸展等尺性筋力(トルク体重比),術側片脚立位時間,TUG,6m歩行テスト,JOAスコアを測定した。QOL評価にはWOMAC機能・疼痛スコアを用いた。なお,入院期間中は全ての対象者に通常の理学療法プログラムが実施された。LSAの得点が56点以上を広範囲活動群(L群,n=14),56点未満を狭範囲活動群(S群,n=11)とし,各身体機能・QOL評価に対して,群と時期の2要因で分割プロットデザインの二元配置分散分析を実施した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    LSAの得点はL群が95.5±20.0点,S群が32.2±18.6点であった。WOMAC機能スコアは交互作用と時期において主効果を認めた(L群:術前68.0±12.7点,退院時79.3±15.0点,S群:術前54.3±16.7点,退院時69.1±20.7点)。疼痛スコアは時期において主効果を認めた(L群:術前50.4±21.3点,退院時72.9±13.1点,S群:術前46.0±13.9点,退院時65.5±14.6点)。身体機能評価では,膝関節伸展ROM(L群:術前-14.3±5.5°,退院時-0.7±1.8°,S群:術前-14.3±7.6°,退院時-1.5±2.4°),荷重時痛(L群:術前3.9±2.9,退院時1.8±1.4,S群:術前6.2±2.8,退院時1.8±1.6)は時期において主効果を認め,その他の評価項目では交互作用と主効果を認めなかった。

    【結論】

    本研究の結果から,術前の生活空間の範囲が狭いTKA術後症例において,術前での荷重時痛がQOLを低下させている可能性があるため,TKA術後に荷重時痛が軽減したことで退院時のQOLが改善したと考えられる。そのため,生活空間の範囲が狭い膝OA症例に対して,術前から疼痛軽減を図ることによりQOLを改善させることは,術後の身体機能やQOLに前向きな影響を及ぼすことが推測される。

  • 飛永 敬志, 岡 浩一朗, 谷澤 真, 斉藤 孝道, 東村 隆, 大関 覚
    セッションID: P-MT-41-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(TKA)は健康関連QOL(HRQOL)を向上し,術後3ケ月または術後6ケ月時点で著明に改善することが報告されているが,本邦での報告は少ない。運動や身体活動に関するセルフ・エフィカシー(SE)はHRQOLに関係するとされている。しかしながらTKA患者の身体活動SE及びHRQOLの回復過程やHRQOLに影響を及ぼす因子について明らかにされていない。本研究の目的はTKA患者の理学療法介入終了後の身体活動SE及びHRQOLの回復過程を把握し,HRQOLに影響を及ぼす因子について検討した。

    【方法】

    対象は2009年8月から2016年4月までに当院で理学療法を実施した初回片側TKA患者84例84膝,手術時年齢は73.1±7.7歳,BMI26.3±4.2 kg/m2,術後在院日数25.4±6.7日でした。評価は術前,術後3ヶ月と6ヶ月とした。

    膝の痛みと機能は準WOMAC,身体活動SEは虚弱高齢者の身体活動SE尺度(歩行,階段,重量物)を用いた。HRQOLの評価はSF-36v2の下位8尺度である身体機能,日常役割機能-身体,体の痛み,全体的健康感,活力,社会生活機能,日常役割機能-精神,心の健康を国民標準値に基づいたスコアリングで算出した。また身体的サマリースコア(PCS)と精神的サマリースコア(MCS)と役割/社会的サマリースコア(RCS)を用いた。

    統計解析は回復過程を一元配置分散分析とBonferroni多重比較,HRQOLに影響を及ぼす因子をステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計解析はSPSSver.19.0を用いて,有意水準は5%とした。

    【結果】

    各項目は術前(T1)→術後3ヶ月(T2)→術後6ヶ月(T3)の順に平均値±標準偏差で示した。

    準WOMACの機能は59.5±20.2→78.4±15.0→79.8±15.2点で,T1と比較してT2とT3で,T2と比較してT3で有意に改善した。歩行SEは12.4±5.0→14.9±6.4→15.9±5.3点,階段SEは9.2±4.6→12.6±5.2→12.9±5.3点,重量物SEは15.8±6.3→18.5±5.7→18.7±5.4点となり,T1と比較してT2とT3で有意に向上した。

    SF-36v2における下位8尺度は全尺度において,T1と比較してT2とT3で有意に改善した。PCSは19.6±11.9→30.3±12.1→30.8±11.9点でT1と比較してT2とT3で有意に改善した。MCSは55.1±10.8→57.0±9.2→56.0±9.0点で有意差はなかった。RCSは34.2±15.1→36.4±14.4→39.9±11.9点でT1と比較してT3で有意に改善した。

    重回帰分析の結果,術後6ケ月時点のHRQOLにおいてPCSは準WOMACの機能(β=0.625),MCSは重量物SE(β=0.370),RCSは歩行SE(β=0.424)が影響を及ぼす因子として抽出された。

    【結論】

    TKA患者の身体活動SEとHRQOLは術後3ケ月で有意に改善し,術後6ケ月まで維持されていた。HRQOLに影響を及ぼす因子として機能と身体活動SEが重要であることが示唆された。しかしながらPCSとRCSが術前と比較して有意に改善しているものの国民標準値と比較して低値であることから,HRQOLに関する理学療法介入の余地があるのではないかと考えられる。

  • 渡辺 裕介, 池田 真琴, 湯朝 友基, 張 敬範, 江本 玄
    セッションID: P-MT-42-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    全人工膝関節形成術(以下TKA)は安定した除痛効果が期待でき,術前よりも歩行能力の向上やADL動作獲得が可能である。今回,年代別に運動機能面の調査を行った。

    【対 象】

    当院にて2012年4月~2015年7月までに初回TKAを施行し,1年以上当院にて術後フォローが可能であった429例(男性120例,女性309例,平均年齢74.0歳)を対象とし,手術時年齢において,50代19例,60代84例,70代214例,80代以上112例に分けた。

    【方 法】

    手術前,3ヵ月,1年時における膝関節屈曲60°での等尺性膝伸展筋力,10m歩行時間,Time up and Go Test(以下TUG),術側片脚立位時間の調査を行った。

    【結 果】

    1年時,筋力は50代34.9kgf(術前27kgf,3ヵ月27.2kgf),60代37.2kgf(術前24.8kgf,3ヵ月24.9kgf),70代30.3kgf(術前21.1kgf,3ヵ月22.7kgf),80代27.3kgf(術前19.8kgf,3ヵ月21.4kgf)であった。

    10m歩行時間は50代7.6秒(術前9.7秒,3ヵ月8.3秒),60代8.4秒(術前10.0秒,3ヵ月9.3秒),70代10.2秒(術前11.7秒,3ヵ月10.6秒),80代11秒(術前13.6秒,3ヵ月11.3秒)であった。

    TUGは,50代7.8秒(術前8.9秒,3ヵ月7.8秒),60代8.3秒(術前9.2秒,3ヵ月8.5秒),70代10.2秒(術前11.7秒,3ヵ月10.3秒),80代11.1秒(術前14.6秒,3ヵ月10.2秒)であった。

    片脚立位時間は50代50.5秒(術前34.0秒,3ヵ月51.3秒),60代53.5秒(術前9.3秒,41.2秒),70代24.2秒(術前11.7秒,3ヵ月24.9秒),80代は13.5秒(術前8.5秒,3ヵ月12.8秒)であった。

    【結 論】

    今回の結果から,術後1年時において,各年代とも筋力,歩行,バランスの改善を認めた。術後3ヵ月時での改善は,片脚立位時間が50代,60代が70代,80代の高齢世代よりも著明であった。そのため,70代,80代の高齢世代に対して早期からのバランス機能への治療の立案や工夫が必要だと考える。

  • ―手術回避に関わる因子の検討―
    皆川 陽美, 弦巻 徹, 藤澤 汐里, 富田 樹, 齋藤 昭彦, 天本 藤緒
    セッションID: P-MT-42-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    自由が丘整形外科はセカンドオピニオン目的で来院される変形性膝関節症(以下,膝OA)の患者が多い。前医にて手術を勧められたが保存療法を希望し来院される方である。

    OARSIのガイドラインでは,非薬物療法と薬物療法の併用によって十分な疼痛緩和と機能改善が得られない膝OAの場合手術を考慮するとされている。このように手術適応には明確な定義がある訳ではなく,当院においては膝OAの重症度が高い例,保存療法(ステロイド注射,理学療法,生活指導)無効例,年齢に対し機能障害が高度な例を手術適応としている。

    そこで当院を受診し,手術を回避できた例と手術適応にて他院紹介となった例における割合と,保存療法が有効な膝OAの画像診断学的特徴の検討を行うことで膝OAの保存療法が有効である因子を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は2014年1月から2016年8月までの間に当院にて,膝OAまたは骨壊死の診断がついた例のうち,自己免疫疾患を合併している例を除き,医師より手術(人工関節置換術,高位脛骨骨切り術)目的で他院へ紹介した88人122膝(男:女=17:61,年齢67.51±9.83歳,身長1.58±0.08m,体重61.51±12.24kg,BMI24.21±4.43)(手術適応群)と当院にて保存療法を実施し手術を回避できている人のうち,無作為に148人202膝(男:女=23:125,年齢63.97±10.24歳,身長1.58±0.08m,体重56.84±9.59kg,BMI22.83±3.05)(手術回避群)を対象とした。

    画像所見にて,レントゲン上より重症度として,kellgren-lawrenceの分類(以下KL分類),大腿脛骨角,MRI上より骨髄浮腫・骨壊死・ACL損傷・リハ実施の有無を抽出し,手術適応群と手術回避群で比較することで保存療法が有効である因子の検討をした。統計学的解析はそれぞれ対応のないt検定,χ2検定にて処理し,有意水準は5%とした。

    【結果】

    膝OAまたは骨壊死の診断がついた全例(関節リウマチなどの自己免疫疾患を合併している例除外)のうち,手術を回避した例の割合は62.7%であった。

    骨壊死の有無では有意差がなかったが,KL分類,大腿脛骨角,骨髄浮腫・ACL損傷・リハ実施の有無では有意差が見られた(P<0.01)。上記の結果より手術回避群ではKL分類が低く,大腿脛骨角が小さく,骨髄浮腫・ACL損傷・リハ実施の有無に関係あることが示唆された。

    【結論】

    当院にて,膝OAまたは骨壊死と診断され,関節リウマチなどの自己免疫疾患を合併している例を除外した患者のうち6割程度の割合で人工関節置換術,高位脛骨骨切り術を回避できている。手術を回避した例は,手術適応となった例に比べ,骨壊死の有無には関係が見られなかったが,KL分類が低く,大腿脛骨角が小さく,骨髄浮腫・ACL損傷が無い場合,そしてリハを実施していた例が多いことが分かった。本検証より,膝OAまたは骨壊死と診断された例について,レントゲンよりKL分類・大腿脛骨角,MRIより骨髄浮腫・ACL損傷の有無を確認することで,保存療法が有効であるか予測することが可能であると示唆された。

  • 藤井 隆文, 速水 翔平, 竹村 享子, 吉川 雅夫, 中島 幹雄, 常徳 剛, 速水 英之
    セッションID: P-MT-42-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の理学療法において関節可動域(以下ROM)の獲得は非常に重要な課題の一つである。TKA術後のROM制限因子の1つに膝関節周囲の腫脹がある。TKA術後の腫脹がROMに影響するとの報告もあり,この腫脹の要因として,術後の出血量の影響が考えられる。当院では,人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の出血対策として,H28.2月よりステロイドとトラネキサム酸関節内投与を併用したドレーンクランプ法(以下DC法)を行っている。我々が独自で行った先行研究によりDC法と,これ以前に行っていた術中皮下浸潤麻酔に通常のドレーンを使用した方法(以下SC法)との比較において,DC法がより出血量が少ないことが分かった(P<0.05)。本研究では,術後出血量の差から生じる腫脹がROMに及ぼす影響について検討することを目的とした。

    【方法】

    H27.9からH28.7までに当院でFINE OMC CR型TKAを行った53例53膝のうちDC群29例(男性3例,女性26例,75.5歳±5.1)29膝。SC群24例(男性2例,女性22例,72.4歳±8.5)24膝を対象とした。当院のTKAデータベースを用い,データに不備があるものは除外した。検討項目は,自動および他動の膝関節屈曲・伸展ROM,疼痛(Visual Analogue Scale(以下VAS),Face Scale(以下FS)で評価)とし,術前,手術翌朝(DC群はドレーン解放直後),術後1日,3日,7日,14日の値をDC群とSC群で比較した。また,ADL評価として術後14日の機能的自立度評価法(以下FIM)各運動項目および運動項目合計を採点し比較した。2群をMann-Whitney検定を用いて統計解析を行い比較した。危険率は5%未満とした。

    【結果】

    手術翌朝他動膝関節屈曲ROMでは,DC群92.2°±13.8,SC群81.0°±16.4と有意差を認めた。術前,術後1日,3日,7日,14日の自動及び他動ROM,VAS,FS,各項目FIMでは,両群間で有意差を認めなかった。

    【結論】

    手術翌朝のROMに有意差を認めたことは,DC群において,術後出血量が少量であることで腫脹が軽減された結果,良好なROMを獲得できたと考える。入院期間の短縮が求められている近年,早期在宅復帰には術後早期から積極的な理学療法が必要となる。術後早期にROMを獲得することで術直後の離床に求められる基本動作(寝返り,起き上がり,起立)や移乗動作を容易にし,また早期から腫脹の影響を受けることなく積極的にROMや歩行を含めた各動作練習が可能となると考察される。術後1日目以降のROMや疼痛に有意差を認めなかったことから,術後出血量は,術後早期からの理学療法導入には有用であるが,機能回復や動作獲得を含めた長期的な経過においては,影響は少ないと考えられる。

  • 眞田 祐太朗, 椎木 孝幸, 今高 康詞, 森岡 銀平, 大澤 傑, 行岡 正雄
    セッションID: P-MT-42-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    関節可動域(ROM)は,人工膝関節全置換術(TKA)の術後成績を左右する重要な指標の一つである。ROMの改善を図っていく上では,術前ROMに基づいた予後予測を行い個別性に配慮していくことが重要である。一方,変形性膝関節症(膝OA)と関節リウマチ(RA)におけるTKA後の膝屈曲ROMの相違については,先行研究において統一した見解は得られていない。本研究では,膝OAおよびRA患者におけるTKA後の膝屈曲ROMを1年間縦断的に調査し,両疾患における術後ROMの改善率の相違について検討することを目的とした。

    【方法】

    対象は2012年~2014年に膝OAおよびRAを原疾患とし,当院にてTKAを施行した37名45関節とした。内訳は膝OA群が22名28関節(女性28関節,年齢72.5±5.8歳),RA群が15名17関節(女性13関節,男性4関節,年齢70.8±7.1歳)であった。膝OA群における罹患関節の内訳は,両側が18名,片側が2名,対側施行後が2名であった。使用機種は日本ストライカー社製で,膝OA群がTriathlonCS,RA群はTriathlonPSが8関節,ScorpioNRG PSが9関節であった。取り込み基準は60歳以上,同一の術者,術前ROMが110°以上,術前TUGが30秒未満の者とした。研究デザインは前向きコホート研究で,ベースライン調査として術前に年齢,BMI,疾患名,罹患期間,膝屈曲・伸展ROM,FTAを調査した。追跡調査として入院期間ならびに術後1・2・3・4週および3・6・12ヵ月における膝屈曲ROMを測定し,術前に対する術後12ヵ月の改善率(%)を算出した。統計学的処理は,まず膝OA群とRA群のそれぞれで,術後12ヵ月のROMおよび改善率とベースライン調査項目ならびに入院期間との相関係数を確認した。次に,術前ROMに基づいてすべての対象関節を130°以上の良好群と130°未満の中間群に分類し,その上で膝OA群とRA群の2群に分類した。そして,分類した2群間における術前ROMおよび術後改善率の相違を独立した2群の差の検定を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    術後12ヵ月のROMは術前ROM(膝OA群:r=0.73,p<0.01。RA群:r=0.64,p<0.01)と,術後改善率も術前ROM(膝OA群:r=-0.52,p<0.01。RA群:r=-0.86,p<0.01)との間にのみ有意な相関を認めた。術前ROMは,良好群と中間群のそれぞれで両疾患群間に有意差は認めなかった。術後改善率は,良好群では膝OA群(-3.6±4.8%)とRA群(-2.6±4.7%)に有意差は認めなかったものの,中間群では膝OA群(-0.6±4.6%)に比べRA群(6.2±5.4%)の方が有意に高値を示した(p<0.01)。

    【結論】

    中間群の術後ROMは,膝OA群は術前ROMと同程度であったのに対して,RA群は術前ROMを平均6%上回っていた。関節破壊の要因が退行変性に起因する膝OAと炎症に起因するRAでは,術後も温存される軟部組織の状態が異なることが推察される。そのため,関節破壊に至る両疾患の病態の相違が,術後ROMの改善率に影響した可能性が考えられる。

  • ―多価不飽和脂肪酸に着目して―
    高仲 理江, 久保 裕介, 杉浦 武, 杉山 秀平, 中嶋 仁美, 鈴木 友美, 小堀 かおり, 小堀 眞
    セッションID: P-MT-42-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【目的】

    近年,人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty:以下,TKA)に起因する大腿四頭筋の筋力低下(Quadriceps Weakness:以下,QW)に関連する因子として術部腫脹が挙げられた。また,腫脹の増大には駆血帯の利用による急性炎症(虚血再灌流障害)が関与することが示唆されている。そこで我々は,急性炎症の発生と収束に関わる多価不飽和脂肪酸のn6系不飽和脂肪酸(以下,n6)とn3系不飽和脂肪酸(以下,n3)に着目した。急性炎症の発生にはn6,収束にはn3が関与することから,術前の食事におけるn6の摂取量が多く,n3の摂取量が少ない対象者ほど腫脹が増大すると考えられる。本研究の目的は,食事摂取状況と腫脹,腫脹とQWとの関連を検討し,多価不飽和脂肪酸が腫脹を介してQWに関与することを明らかにすることである。

    【方法】

    対象は,2015年9月から12月にTKAを施行した患者で同意が得られた14名{男性2名,女性12名,年齢:74±6歳,BMI:25±3}とした。主な評価項目は,食事評価によるn6とn3の摂取量と大腿周径,大腿四頭筋筋力とした。食事評価は,術前3日間の食事内容を記録用紙に患者自身が記載し,それを検者がエクセル栄養君を用いて3日間のn6とn3の平均摂取量を算出した。大腿周径と大腿四頭筋筋力は,手術1週間前と術後4日目に測定した。大腿周径は,膝蓋骨上縁10cmの周径とし,術前後の周径差を術部腫脹とした。大腿四頭筋筋力は,Hand-Held Dynamometerを用いて,膝関節伸展時の最大等尺性随意収縮力を測定し,術前からの低下率(QW)を求めた。各評価項目の関連性は,ピアソンの積率相関係数を用いて検討した。なお,有意水準は危険率5%未満とした。

    【結果】

    各評価項目の平均値は,n6:10.8±3.4g,n3:2.9±1.2g,腫脹:3.0±1.8cm,QW:60±15%であった。各評価項目の関連性に関しては,n6と腫脹(r=0.56),腫脹とQW(r=0.58)に有意な正の相関関係が認められた(p<0.05)が,n3と腫脹との間には有意な相関関係は認められなかった(p>0.05)。

    【考察】

    n6と腫脹との間に有意な相関関係が認められたが,n3と腫脹との間に有意な相関関係が認められなかったことから,TKA後における術部腫脹の制御には急性炎症を収束に誘導するn3よりも急性炎症の発生に関与するn6が重要な役割を果たすことが示唆された。また,腫脹とQWとの間にも有意な相関関係が認められたことは,先行研究を支持するものであり,腫脹の抑制は重要課題であることが再認識された。本研究の成果により,術前指導の1つとしてn6の摂取量を減らす食事指導を実施する重要性が示唆された。

  • 加古 誠人, 鈴木 謙太郎, 寺井 千晶, 安田 尚太郎, 松山 美乃里, 佐藤 幸治, 門野 泉, 小嶋 俊久
    セッションID: P-MT-43-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    関節リウマチ(RA)は,自己免疫学的機序を背景に慢性増殖滑膜炎により関節の軟骨・骨破壊が生じる炎症性疾患である。RA治療は,生物学的製剤の導入により寛解が治療目標となっている一方で,長期罹患に伴い関節破壊が進行し,疼痛や歩行障害に対し,人工関節置換術が必要になるとされている。特に歩行能力は退院の可否の因子であるため,術前より退院時の歩行能力を予測し,適切なリハビリテーションを行うことが重要となる。そこで本研究は,人工関節術を施行したRA患者の退院時歩行速度に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。

    【方法】

    対象は,2015年5月から2016年5月までの期間に人工股関節置換術(THA)および人工膝関節置換術(TKA)を目的に当院へ入院したRA患者21例とした。歩行速度は,術前,退院時に10m最大歩行速度をそれぞれ2度測定し,速い値を採用した。年齢,罹患年数,身長,体重を診療録より抜粋し,体組成は体組成計(Inbody720)を用いて骨格筋量,体脂肪量,BMIを測定し,四肢筋肉量から骨格筋指数であるSkeletal Mass Index(SMI)を算出した。運動機能は,ハンドヘルドダイナモメータ(μtasF-100)を用い,術側,非術則の股関節外転および膝関節伸展筋トルクを算出した。術側,非術側の膝蓋骨近位10cmにおける大腿周径,下腿最大周径を測定した。痛みの評価は,痛みの程度をVisual analogue scale(VAS),痛みに対する破局的思考をPain catastrophizing scale(PCS)を用いて測定した。また,不安,抑うつをHospital anxiety and depression scale(HADS)を用いて測定した。統計処理は,退院時歩行速度に対する各指標間の関連をPeasonの相関係数を用いた。結果は,平均値±標準偏差で示し,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    対象者の内訳は,男性6例,女性15例,年齢66.8±11.6歳,身長152.6±8.8cm,体重51.0±9.0kgであり,THAは5例,TKAは16例であった。術前歩行速度は1.11±0.47m/sであり,退院時歩行速度は0.91±0.33m/sであった。術前骨格筋量(r=.640,p<0.01),術前SMI(r=.568,p=0.01)と有意な正の相関を示した。術前両側股関節外転筋力(術側:r=.814,p<0.01/非術側:r=.758,p<0.01),術前術側膝関節伸展筋力(r=.617,p<0.01)と有意な正の相関を示した。術前両側下腿最大周径(術側:r=.541,p=0.02/非術側:r=.482,p=0.04)と有意な正の相関を示した。

    【結論】

    RA患者の人工関節術後の退院時歩行速度に,術前の骨格筋量,SMI,股関節外転,膝関節伸展筋力,下腿最大周径など,筋力に関わる因子が関連することが明らかになった。一方,VAS,PCSなど術前の痛みや,術前の不安抑うつと有意な相関が認められなかったことより,術前の痛みや精神機能は退院時の歩行速度へ影響が少なく,筋力の影響が大きいことが示唆された。本研究の結果は,術前リハビリテーション介入方策の一助となる。

  • 東 直人, 福迫 剛, 上野 友愛, 神囿 純一, 砂原 伸彦
    セッションID: P-MT-43-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節置換術(以下,TKA)の件数は年々増加している中,急性期をはじめとした術後リハビリテーションを行う中で,術後約3週間時点の歩行機能はクリニカルパス上,退院後の転帰に直結しやすく,歩行機能の改善に要する期間も症例により多様である。そこで,TKA前後における歩行機能とそれに関わる因子について検討した。

    【方法】

    対象は平成28年6月から9月までの間に当院において片側TKAを施行された13名(男性3名,女性10名,年齢74.9±8.2歳,BMI25.6±2.4,原疾患:変形性膝関節症10例,関節リウマチ3例)とした。術前と術後約3週間の退院前に理学療法評価を行った。評価項目は術側,非術側の最大膝関節伸展筋力と最大股関節外転筋力,Functional Reach Test(以下,FRT)と片脚立位時間,術部Visual Analogue Scale(以下,VAS),10m歩行時間,Timed up and go test(以下,TUG),とした。筋力はHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-100)を使用し,トルク長と体重をもとに単位をkgm/kgとした。

    対象者を術前,術後約3週間とも独歩可能であった群(以下,独歩群),術前,術後いずれかに歩行補助具を要した群(以下,補助具群)の2群に群分けした。分析は評価項目ごとに術前,術後で対応のあるt検定を行い,有意水準を5%とした。また,各群で術前,術後の項目間でPearsonの相関係数を算出し,関連性について検討した。

    【結果】

    独歩群は5名,補助具群は8名であり,年齢,BMIにおいて群間での有意差は認めなかった。術前と術後約3週間において,独歩群では術側最大膝関節伸展筋力が有意に低下した(p<0.01)。補助具群では術部VASが有意に低下した(p<0.05)。その他の項目では有意差を認めなかった。

    独歩群では術後約3週間において術部VASの差(術前-術後約3週間)と術側最大膝関節伸展筋力に中等度の相関を認めた(r=0.62)。また,術側最大膝関節伸展筋力と術側FRT(r=0.59),術側片脚立位時間(r=0.69)に中等度の相関を認めた。補助具群では,術後約3週間において術部VASと10m歩行時間に中等度の相関(r=0.68),術部VASとTUGに強い相関を認めた(r=0.84)。

    これらより,独歩群では術部疼痛の軽減がバランス機能の改善などADL向上に関連しやすい傾向があるのに対し,補助具群ではADL拡大にあたり術部疼痛の軽減が歩行機能改善へと結びつきにくい傾向がある。

    【結論】

    人工膝関節置換術後,約3週間で独歩獲得が困難な症例においては,①術前より術部疼痛のため最大筋力の発揮が困難である傾向,または②疼痛の軽減が歩行機能の改善に結びつきにくい傾向があり,急性期リハビリテーションにおいては術前の時点から下肢機能へのアプローチを行うことが術後の歩行機能改善を図る上で重要であることが考えられる。

  • 土居 誠治, 楠 大吾, 白石 恵資, 石川 拓実, 上田 透
    セッションID: P-MT-43-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    人工膝関節全置換術(TKA)前後において,理学療法により身体機能が改善し歩行速度が向上することを経験するが,TKA前後における歩行速度増加が外部膝関節内反モーメント(KAM)に与える影響は解明されていない。本研究の目的は,歩行パラメーターから歩行速度増加のメカニズムを検討し,KAMへの影響を明らかにすることである。

    【方法】

    両変形性膝関節症(膝OA)30名(平均年齢73.8±6.7歳)で10m以上独歩可能な者を対象とし,三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社)と床反力計(AMTI社)を用いて,自由歩行5施行と最大歩行速度5施行をTKA前後で測定した。X線画像より大腿脛骨角(FTA)・K/L gradeを測定した。解析はPolygonを使用し,各5施行の立脚初期,中期,終期のKAM,歩行パラメーター(歩行速度,ケイデンス,歩幅,片脚・両脚支持時間)の平均値を算出した。KAMは体重で除した値とした。統計学的解析は正規分布を確認後,自由歩行と最大歩行速度の比較,術前後の比較に対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位和検定を用い,左右の比較は対応のないt検定,Mann-whitneyU検定を用いた。有意水準は5%未満とし,解析はSPSS21(IBM社)を使用した。

    【結果】

    TKA前のFTAは術側186.8±4.7°,非術側183.5±4.0°で,TKA後は術側で174.9±1.8°,非術側は183.5±4.0°であった。術前後の比較では自由歩行と最大歩行速度の両方で歩行速度に有意差は認めなかった。自由歩行と最大歩行速度(自由歩行:最大歩行速度)における歩行速度(m/sec)は,術前の増加率は1.26倍(0.81±0.17:1.02±0.22)で,術後の増加率は1.23倍(0.84±0.16:1.03±0.19)で有意に増加(p<0.01)していた。ケイデンス(steps/min)は術前(99.0±15.6:121.5±17.1),術後(103.8±12.6:121.8±13.0)で最大歩行速度にて有意に増加(p<0.01)していた。歩幅(m)は術前では自由歩行,最大歩行速度間で有意差がなく,術後は非術側にて最大歩行時(0.48±0.05:0.51±0.06)に有意に増加(p<0.01)していた。片脚・両脚支持時間はTKA前後で最大歩行時に有意に減少(p<0.01~0.05)していた。自由歩行と最大歩行速度におけるKAM(Nm/kg)に術前では有意差がなく,術後は非術側立脚中期(0.43±0.21)・終期(0.46±0.22)で有意に減少(p<0.05)していた。

    【結論】

    膝OAである術前の歩行速度の増加は,歩幅の延長ではなくステップスピードを増加させ,片脚・両脚支持時間の減少によりケイデンスが増加し,歩行速度を増加させる戦略を展開したことが示唆された。TKA後は術側の下肢機能の改善に伴い,非術側の歩幅が増加し骨盤帯や体幹の代償により非術側の立脚中期と終期においてKAMを減少させる歩行戦略が働いたと考えられ,今後更なる検証が必要である。研究意義として,TKA前後における身体機能の改善に伴う歩行速度増加は,ケイデンスの増加が主体であり,KAMの増加に影響しない可能性を提示したことである。

  • 石川 拓実, 土居 誠治, 佐藤 久友, 楠 大吾, 白石 恵資, 上田 透, 石田 裕也, 渡邊 敦, 尾坂 良太
    セッションID: P-MT-43-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    外部膝関節内転モーメント(KAM)は変形性膝関節症(膝OA)の発症や進行,人工膝関節全置換術(TKA)のインプラント生存率に影響する。前額面の体幹・骨盤運動は膝関節のモーメントアームを変えKAMを変化させるが,TKA前後での体幹・骨盤運動は一貫した結果が得られていない。本研究の目的はTKA前後での歩行時の体幹・骨盤運動を明らかにし,KAMとの関係を調査することである。

    【方法】

    対象は膝OAと診断され,TKAを目的に当院へ入院した23人(年齢:72.8±7.1歳)とした。三次元動作解析装置VICON MX(Plug in Gait全身モデル35点マーカー)と床反力計を使用し,TKA前(術前)とTKA後6週(術後)で歩行解析を実施した。歩行解析は定常歩行を5回測定し,その平均値を算出した。測定項目は1st・2nd peak KAMと立脚期前半と後半(前半:1歩行周期の0~30%,後半:31~60%)における胸郭・脊柱・骨盤の側方傾斜角度と股関節・膝関節内外転角度,外部股関節内転モーメント(HAM)のpeak値とした。Wilcoxonの符号付順位和検定で術前と術後を比較し,Spearmanの順位相関係数により各項目とHAM,KAM間の相関関係を解析した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    術後にFTAは減少し,歩行解析ではKAMと股外転角度,膝内転角度は有意に減少した。前半の術側への脊柱傾斜は有意に減少し,後半では術側への骨盤傾斜は有意に増加したが,その他の胸郭,脊柱,骨盤角度に有意差は認められなかった。

    術前のKAMは股内転角度と有意な負の相関,膝内転角度と有意な正の相関を示したが,術後は相関を認めなかった。術前はKAMとHAM間の相関は認めず,術後では前半,後半の両方で有意な正の相関を認めた。また,術前は前半の脊柱と後半の胸郭,術後は前半の胸郭における術側への傾斜角度とHAM間で有意な負の相関を示し,後半の股内転角度はHAMと有意な正の相関を認めたが,KAMとの相関は認めなかった。

    【結論】

    術後はFTAの減少によりKAM,股外転角度,膝内転角度が有意に減少した。術前は股,膝関節角度がKAMとの相関を示したが,術後ではKAMとの相関を認めず,HAMは胸郭の術側への傾斜と負の相関,股内転角度と正の相関を認め,KAMと正の相関を認めた。術後は下肢アライメントの改善により,膝関節のモーメントアームが減少した為,胸郭・脊柱・骨盤運動が膝関節に与える影響が減少し,KAMとの相関を認めなかった可能性がある。さらに胸郭・脊柱・骨盤の傾斜方向にばらつきがあったこともKAMとの相関の有無に影響を与えたと考える。本研究の意義として,KAMの減少には膝OAは股関節・膝関節内外転角度,TKA後ではHAMが影響することが明らかとなり,TKA後は体幹,股関節機能を改善する必要性が示唆された。

  • ~免荷式リフトPOPOの役割に関する一考察~
    竹中 裕
    セッションID: P-MT-43-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに・目的】人工膝関節全置換術(以下:TKA)は,脳血管障害の既往に関わらず麻痺が軽度かつ術前検査で合併症のリスクが低いと判断された場合に実施されるが,非麻痺側TKA術後の経過を記録した報告は我々の渉猟し得る限り見当たらない。今回,術後に動作困難に陥った左片麻痺後右TKA患者に対し,歩行支援機器を用いて実用的な歩行の獲得を目指したので報告する。

    【方法】症例は70代後半女性。TKA施行14か月前に右被核出血(被核外側)発症,保存療法が選択され3か月でステッキ歩行可能となり自宅で生活されていた。術前評価として,膝関節可動域:左右共に屈曲130°,伸展-10°。筋力:右膝伸展0.5Nm/kg,左膝伸展0.55Nm/kg。SIAS-motor:4-4-4-4-4。疼痛:Numerical Rating Scale(以下:NRS)動作時7。Timed Up and Go Test(以下TUG-T):右手ステッキ使用85秒。長谷川式簡易知能評価スケール23点(記憶で減点)。FIM運動項目:69点。術中トラブルなかったが術後5日を経過しても端座位保持困難,立位保持最大介助であった。また,歩行は両下肢ならびに体幹の伸展位保持に最大介助が必要であり,右立脚期の運動制御課程において1人の療法士の徒手介助のみでは右膝折れを防止できず創部伸張痛を誘発していた。患者自身が能動的に誤差を修正するための負荷量調整ならびに反復回数の獲得を目的として免荷式リフトPOPO(以下:POPO)を使用した歩行練習を開始した。アシスト量について,右立脚期に膝折れする直前で自己にて膝伸展動作可能な負荷量を目視ならびに徒手感覚で判断して設定した。

    【結果】術後25日目にPOPOを前方へ軽く押す程度の介助で50mの連続歩行が可能になった。術後30日目に歩行器歩行とトイレ動作が監視で可能に,術後55日目に病棟内シルバーカー歩行自立となり,術後89日で自宅退院となった。退院時評価:疼痛:NRS動作時0~2。右膝関節可動域:屈曲115°,伸展-5°。筋力:右膝伸展0.39Nm/kg,左膝伸展0.6Nm/kg。TUG-T:71秒。6分間歩行距離:164m。FIM運動項目:74点。

    【結論】POPOが第3の手として療法士のハンドリングをアシストした結果,右立脚期の運動制御課題について膝折れせず重心を前方移動する運動の誘導を行い,且つ創部痛の発生を来すことなく反復して動作を遂行できた。方向転換時の足の踏みかえや着座前の後方移動時,荷重量を調整しながら視覚からの情報入力による自身と空間との位置関係を調整でき,同時に運動学習が可能なことはPOPO独自の機能である。前進のみの歩行練習に加え,ADL動作に近い環境で実施した正しい運動出力・感覚入力のループの再構築は,運動学習の定着ならびに実用的な移動への転移に繋がったと考える。

  • 小原 裕次, 黒川 貴志, 萩原 隆史, 粂原 由梨, 阿久津 優佳
    セッションID: P-MT-44-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】足趾把持力の強化は転倒予防の観点のみならず,全身動作のパフォーマンス向上においても効果があるとされており,足趾機能に関する報告は多い。測定肢位の違いによる足趾把持力の先行研究において,端座位では足関節中間位,股・膝関節90度屈曲位で有意に足趾把持力が発揮できるとされ,立位と座位では測定結果に有意差が認められないと報告されている。しかし体幹アライメントの違いによる報告は少ない。そこで今回は,体幹アライメントを円背指数で表し,足趾把持力への影響を明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象者は健常成人18名(男性6名,女性12名,平均年齢28.0±5.0歳,平均身長162.2±9.4cm,平均体重56.7±10.5kg)である。測定肢位は,股関節内外転・内外旋中間位,膝関節90°屈曲位,足関節底背屈中間位で調整した椅子座位を基本姿勢として,骨盤前後傾中間位で体幹垂直位(以下,中間位),骨盤前傾位で脊柱前弯位(以下,前弯位),骨盤後傾位で脊柱後弯位(以下,後弯位)の3条件とした。なお,前弯位は昇降可能なベッドに前腕部で,後弯位は椅子の背もたれに背部で上体を支持した。足趾把持力の測定は,足趾筋力測定器(竹井工業機器,T.K.K.3364)を使用した。休息を設けながら3条件で各2回ランダムに右足で測定し,その平均値を体重で正規化してデータとした。また自在曲線定規を使用して円背指数を各条件で求めた。統計処理は,条件間の足趾把持力と円背指数をそれぞれFriedman検定の後,Tukeyの方法で多重比較を実施した。さらに各条件の円背指数と足趾把持力の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。それぞれ有意水準を5%未満とした。

    【結果】足趾把持力は中間位17.6±10.6%(10.1±6.8kg),前弯位19.5±9.9%(11.1±6.4kg),後弯位15.8±8.8%(9.0±5.6kg)であり,前弯位と中間位の間,前弯位と後弯位の間に有意差を認めた(p<0.01)。円背指数は中間位5.0±2.4,前弯位2.9±1.9,後弯位12.8±3.3であり,前弯位と中間位との間(p<0.05),前弯位と後弯位,中間位と後弯位との間(p<0.01)に有意差を認めた。足趾把持力と円背指数との間に相関は認められなかった。

    【結論】円背指数が有意に差のあった各条件で,足趾把持力は前弯位が中間位,後弯位と比較し有意に強いという結果が得られた。足趾把持練習により全身動作遂行能が向上すると言われており,今回の結果は体幹機能と足趾機能の関連を示唆するものと考える。しかし,足趾把持力と円背指数との間に相関はみられないことから,個体間での比較よりも,個体内での円背指数の変化が足趾把持力に影響する可能性があると考えられた。また今回の検討は,骨盤と円背指数の関係は考慮していない。今後は骨盤前後傾と脊柱アライメントの条件分けによる足趾把持力への影響を検討し,足趾把持力の発揮にどう関連するのか明らかにする必要があると考えられた。

  • 岩永 竜也, 岡田 匡史, 亀山 顕太郎
    セッションID: P-MT-44-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】後足部を高くするヒールパッドは,立位矢状面での足部荷重や骨盤の動きに影響を及ぼす。臨床上,骨盤の前方移動に変化がみられるが,その変化の理由とヒールパッドの高さの影響は明らかになっていない。本研究の目的は,骨盤の前方移動する距離と足圧中心との関係,ヒールパッドの高さによって骨盤前方移動距離に及ぼす影響を明らかにすることである。

    【方法】対象は,下肢と体幹に障害のない健常成人20名(男性14名,女性6名,年齢27.6±4.2歳)とした。運動課題は開眼で安静立位姿勢から踵を床面から離さず,骨盤が最大限に前方移動する動作とし,骨盤の移動距離(以下:骨盤前方移動距離)を全例右側で計測した。基準線はレーザーレベルGLL 1P(BOSCH社)を使用して,レーザーラインを垂直に設定,被験者の外果部上の垂線とし,マーキングした大転子部とレーザーラインの骨盤前方移動距離をメジャーにて測定した。1)踵からの足圧中心距離(以下:COP距離)と,骨盤前方移動距離に相関について検討した。圧力分布測定装置(アニマ社製MD-1000)上で,骨盤最大前方移動時の安定した5秒間を測定した。2)ヒールパッドなし,高さ1mm,2mm,3mmの4条件として,各条件での骨盤前方移動距離の変化について調査した。ヒールパッドは縦10cm×横10cm(素材:ポロン),両側の踵骨隆起最後部より外果前縁下端までとした。4条件の測定順序は循環法を用いた。骨盤前方移動距離を身長で,COP距離を足長でそれぞれ正規化した。3)骨盤前方移動距離が最大となった各条件の人数を求めた。統計的手法はSPSS Ver17.0を使用し,1)骨盤前方移動距離とCOP距離の関係をPearsonの相関係数にて求めた。2)ヒールパッドの高さ4条件と骨盤最大移動距離を対応のある一元配置分散分析と多重比較検定を用いて比較した。有意水準は5%とした。

    【結果】骨盤前方移動時のCOP距離と骨盤前方移動距離に高い相関が認められた(r=0.81,p<0.01)。正規化した骨盤前方移動距離は,ヒールパッドなしで0.121±0.021,高さ1mmで0.120±0.021,高さ2mmで0.121±0.021,高さ3mmで0.120±0.021となり,4群間に有意差はみられなかった。最大骨盤前方移動距離の各群の人数は,ヒールパッドなしが5名,ヒールパッドの高さ1mmで4名,2mmで7名,3mmで4名であった。

    【結論】骨盤前方移動距離とCOP距離には高い相関が認められたことから,骨盤前方移動距離を長くするには,COPの前方移動を必要とすることが示唆された。ヒールパッドの高さによって,骨盤前方移動距離に有意差がみられないこと,また最大骨盤前方移動距離の各群の人数にもばらつきがみられたことから,ヒールパッドが高いほど骨盤の動きを促進や制御できるわけでないと考えられる。足部からのアプローチは,個々の足部形態や身体状況に応じて適合する高さを導き出すことで,必要とする骨盤移動を操作できるのではないだろうか。

  • ―自立高齢者と介護保険認定高齢者の比較―
    壇 順司, 竹下 真大
    セッションID: P-MT-44-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】踵部皮下組織は,線維脂肪組織が集合して構成され,一定の厚さを保ち荷重に対して形態を変化させて衝撃の吸収を行なっている。本研究では活動性に違いがある高齢者の踵部皮下組織の厚さに関与する要因について調査することを目的とした。

    【方法】

    対象:自立高齢者(自高群)60名(年齢72.4±6.2歳),介護保険認定高齢者(介高群)90名を介助が不要な介自立群50名(年齢78.8±8.8歳)介助が必要な介介助群40名(年齢76.2±8.6歳)とした。また介高群を下肢の麻痺・股・膝関節の手術の既往がある

    麻手有群(36名)麻手無群(54名)麻手有群を患側群(右麻痺・手術20名,左麻痺・手術16名)と健側群に分けた。

    計測:高さ17cmの台の天板にプローブヘッドと同サイズの穴を短軸方向に空け,ヘッド先端を天板上面と一致させ,固定した装置を作成した。平行棒内で座位から立位をとらせ超音波診断装置Viamo(東芝メディカルシステムズ社)にてプローブ(床)から踵骨隆起内側突起(内)・外側突起(外)下端までの距離を撮影した。立位時の左右の基準は,装置と同じ高さに体重計を置き1/2の荷重に調整し,前後の基準は,足圧中心位置を変化させ床内距離が最短な床内・床外の距離を計測した。その値を①a)自高群とb)介自立群とc)介介助群で,②介高群をd)麻手有群とe)麻手無群で,③麻手有群をf)患側群とg)健側群で比較した。統計は①kuskal-Wallis test②③Mann-Whitney testを用い有意水準を5%未満とした。

    【結果】①右床内a)10.2±1.9 b)9.8±2.2 c)11.7±2.9,左床内a)10.1±1.9 b)9.5±1.9 c)11.6±2.6,右床外a)14.4±3.1 b)14±2.9 c)15.5±2.9 左床外a)13.9±3.3 b)14.3±2.5 c)15.1±3.5であり,c)介介助群の床内が他群に比べて有意に厚かった(p<0.01)。②右床内d)12.1±3.0 e)9.95±2.2 左床内d)11.8±3.3 e)9.73±2.3 右床外d)15.9±3.7 e)14.1±2.8,左床外d)15.1±3.9 e)14.4±1.5であり,d)麻手有群の床内で麻手無群に比べ有意に厚かった(p<0.05)。③床内f)12.9±3.5 g)9.9±1.9 床外f)16.6±3.9 g)14.3±3.4であり,f)患側群の床内が健側群に比べ有意に厚かった(p<0.05)。(単位:mm)

    【結論】踵部の床への接点から踵骨隆起内側と外側突起までの距離の差から,内側突起を支点に荷重する可能性があり,踵部皮下組織は形態を柔軟に変化させて安定した荷重を行っていると考えられる。麻痺や手術の既往がある高齢者は活動量や荷重量が少ないことから,踵部皮下組織への圧縮力が減少し形態を変化させにくいため,組織の柔軟性が損なわれ厚くなったことが推察される。したがって要介助高齢者は,荷重時の衝撃の吸収や形態の変化による調整機能が失われ,バランスを崩す要因となることが考えられる。よって踵部皮下組織への柔軟性を促すアプローチは,安定した立位や歩行する上で必要な要素であると考える。

  • 小俣 訓子, 高倉 義幸, 窪田 健児, 濵本 和孝, 岸本 風汰, 飯田 美穂, 唄 大輔, 高倉 義典
    セッションID: P-MT-44-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】足関節の機能を評価する指標として足関節・後足部判定基準(JSSF scale)が日本足の外科学会で制定されている。これは疼痛,機能,アライメントの3大項目から成り,合計100点満点で構成されている。末期の変形性足関節症(OA)などにより日常生活動作(ADL)に支障を来す症例に対し,足関節固定術(固定術)や人工足関節全置換術(TAA)が行われる。現在までに固定術およびTAAの術前後や術式間において,JSSF scaleなどを用いて足関節の機能を定量的に評価した研究は極めて少ない。機能の改善には術前後における理学療法も重要であるため,当院ではこれらの手術例に対し,JSSF scaleの変化および機能向上の指標になる関節可動域(ROM)について,術前後あるいは術式間で比較検討したので考察を交えて報告する。

    【方法】対象は当院で2011年7月~2016年8月の期間に固定術あるいはTAAを行ったOAを中心とした49名49足(固定術20足,TAA29足)である。年齢35歳~89歳(平均70.02歳),男性15名,女性34名であった。術前の理学療法は患側の関節可動域運動(ROMex),足関節周囲筋の筋力向上運動を実施し,術後4週間のギプス固定期間中は足関節周囲筋の等尺性収縮運動,患部以外の運動,ギプス除去後は段階的に患側のROMex,さらに筋力向上運動を実施した。評価項目は,JSSF scaleと足関節のROMを術前と術後12か月で測定した。統計学的解析は,JSSF scaleの3大項目と合計点数,さらに足関節ROMについて術前後あるいは術式間でt検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】固定術ならびにTAAの術前後において,JSSF scaleの3大項目のすべてで術後有意に改善が認められた(p< 0.05)。OAに対する手術療法の目的は除痛とアライメント矯正であり,前述の改善を認めたことは手術の目的を果たしていた。そして,術式間の比較ではJSSF scaleの3大項目すべてにおいて有意差は認められなかった。つまり,いずれの術式においてもJSSF scaleによる機能評価では有意に改善していたと考えた。ROMに関しては,固定術およびTAAともにすべての方向において術前後で有意差が認められなかった。これは術前のROMが維持できていると考えられ,術前からの理学療法の効果と考える。また,術式間でのROM比較では,術後の底屈および背屈で固定術群に対してTAA群で有意に改善が認められた。これはTAA群では関節置換によりROMがより向上した結果と考えられる。

    【結論】JSSF scaleとROMの比較により,固定術およびTAAともに術前に比して術後にROM低下は認められず,ADLとROMの改善には術前後における理学療法が重要であると考える。

  • 野中 理絵, 原 耕介, 小保方 祐貴, 日尾 有宏
    セッションID: P-MT-44-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    外反母趾の手術に対する期待内容は外科医と患者間に乖離があると報告されている。医療者側の客観的評価による術後成績は多く報告されているが,QOLなど患者側の主観的評価による報告は散見しない。患者の要望も含めた術後理学療法を提供するためには,患者側の主観的評価も必要であると考える。そこで,本研究では足部足関節評価質問票(以下,SAFE-Q)を用いて術後外反母趾患者の健康関連QOL(以下,HRQOL)を評価し,客観的評価との関連性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は当院にて外反母趾と診断されLapidus変法を施行した男性1名,女性7名の計10足とし,平均年齢68.9±6.2歳であった。客観的評価として臨床評価指標であるAOFAS(the American Orthopaedic Foot and Ankle Society)scoreを術前,術後1年(以下,術後)に実施し,SAFE-QによるHRQOL評価を術後に実施した。

    統計処理は正規性の検定後,客観的評価における術後変化の検討にWilcoxonの符号付順位検定を,術後のHRQOLと客観的評価の関連性の検討にSpearmanの順位相関係数をそれぞれ用い,SPSSver.23を使用し有意水準は5%とした。

    【結果】

    AOFASscoreは術前/術後(平均±標準偏差)で,合計57.7±14.1/90.6±10.1点,下位項目では疼痛24.0±9.7/39.0±3.2点,機能32.1±3.2/38.1±5.6点,アライメント1.6±3.4/13.5±4.7点,全ての項目で術後に有意な改善が認められた(p<0.05)。術後のSAFE-Q(平均±標準偏差)は,「痛み・痛み関連」95.6±6.0点,「身体機能・日常生活の状態」92.7±6.2点,「社会生活機能」97.5±5.3点,「靴関連」95.0±7.5点,「全体的健康感」90.8±15.9点であった。術後のHRQOLと客観的評価の関連では,有意な相関は認められなかったが,「痛み・痛み関連」とAOFASscore合計点(r=0.44),「社会生活機能」とAOFASscore機能(r=0.43),アライメント(r=0.43)でそれぞれ中等度の相関傾向が認められた。「身体機能・日常生活の状態」とAOFASscore機能では低い相関傾向が認められた(r=0.36)。

    【結論】

    術後,AOFASscoreが有意に改善したことから,手術や術後理学療法が有効であったことが示されたと考える。

    「身体機能・日常生活の状態」とAOFASscore機能では,低い相関傾向を示した。AOFASscoreでは日常生活や靴への影響,足趾可動域が主な項目である。「身体機能・日常生活の状態」では,歩行,階段,坂道が主な項目で,特に階段や坂道で点数が低かった。これらの項目には可動域や筋力,バランスの影響が考えられるが,AOFASscoreでは筋力やバランスに関する項目が無いため,SAFE-Qと関連しなかったと考える。

    一方で,「社会生活機能」とAOFASscore機能では中等度の相関傾向が認められた。「社会生活機能」は外出や仕事が主な項目であり,これらの社会生活機能を向上させるために,術後理学療法では機能の向上が必要である可能性が示唆された。

  • 中原 義人, 横田 俊輔, 十鳥 献司, 工藤 悠平, 武田 かすみ
    セッションID: P-MT-45-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    我々は第51回日本理学療法学術大会において,健常成人の胸椎後彎角度は女性が有意に小さく運動器疼痛との関連が示唆されることを報告した。今回,上肢や胸郭と連結している肩甲骨のアライメントに着目し,運動器疼痛や姿勢自己認識との関連について検討したので報告する。

    【方法】

    対象は当院リハビリテーションセンターに勤務する職員と実習学生35名(男性21名,女性14名)。平均年齢は27.6(20-39)歳。全員が右利きであった。

    自然立位の対象者の両側の肩峰端を結ぶ水平面上に自在曲線定規を当て,背部彎曲の曲線を得た。曲線をA3用紙上に書き写し,両側の肩峰端を結んだ線分と曲線の距離(以下A[cm])が最大となる点で線分Xの左肩峰端との距離(以下X1[cm])と右肩峰端との距離(以下X2[cm])を求めた。A,X1,X2から背部体幹彎曲角度(以下α[°])をα=arc tan(A/X1)+arc tan(A/X2)の公式で算出した。また,肩甲骨内側縁と体幹正中線のなす角β[°]と肩甲棘と前額面のなす角γ[°]を左右それぞれ測定した。対象者の運動器疼痛の有無(9項目 いつもある5点~全くない1点の合計9~45点),頸部・腰部自動屈曲・伸展時の疼痛(NRSで0~10の合計0~40),姿勢自己認識(自分は猫背だと思うか,普段気を付けているか)について質問紙で聴取した。α,β,γ,疼痛の有無,NRSは男女間でt検定,疼痛有無とα,β,γをPearsonの相関係数,姿勢自己認識はχ2検定を用いて比較検討した(危険率5%未満)。

    【結果】

    αの平均値は男性36.1°,女性34.9°であった。βの平均値は男性が右5.8°/左0.3°,女性は右6.1°/左5.6°で男性の左が有意に小さかった(p<0.05)。γの平均値は男性が右19.0°/左20.8°,女性は右18.6°/左17.4°で女性の左が有意に小さかった(p<0.05)。疼痛の有無は平均22.5点(男性18.7点,女性28.2点),NRSは平均4.5(男性2.6,女性7.4)で女性が有意に高かった(p<0.01)。βの左右差の絶対値と疼痛の有無の間に相関係数-0.44の有意な負の相関が認められた。自分が猫背だと思う割合に差はなく(男性80%/女性79%),普段姿勢に気を付けている割合は女性が多かった(男性43%/女性71%)。

    【結論】

    αに男女差はないが,左のβ,γに男女差を認めた。上方回旋では左右差が小さい女性のほうが痛みを有する傾向が認められた。肩甲骨アライメントの左右差は利き手の活動に伴う肩甲骨周囲筋群の収縮などが影響したと考えられ,先行研究でも上肢や体幹,胸郭の左右差が報告されている。女性は日頃から「胸を張る,背筋を伸ばす」などの姿勢修正を行っている割合が高く,その結果非利き手側の肩甲骨周囲筋群の筋活動が増加し,過活動による疲労等が運動器疼痛の発現に影響した可能性も考えられる。健常成人の運動器疼痛には男女差が認められ,胸椎,肩甲骨のアライメントの他,姿勢自己認識に伴う習慣の影響も考えられ,理学療法士にはそれらを考慮した指導が求められる。

  • 大須賀 聡, 山中 正紀, 三浦 拓也, 齋藤 優輝, 上野 亮, 寒川 美奈, 齊藤 展士, 遠山 晴一
    セッションID: P-MT-45-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    体幹ローカル筋群に含まれる腹横筋や内腹斜筋は,体幹回旋を伴う上肢運動課題にて主動作筋よりも早期に筋活動を開始し腰仙部の安定性に貢献すると報告されているが,近年体幹回旋を伴わない上肢運動課題においては筋活動開始時点(onset)が主動作筋よりも遅延することが示された。このことから体幹回旋と体幹ローカル筋群のonsetは関連していることが推察されるが,この関連について検討した先行研究は少なく一致した見解は得られていない。よって,本研究の目的は体幹回旋を伴う異なる上肢運動時の体幹ローカル筋onsetについて調査することとした。

    【方法】

    対象は健常男女13名(21.4±1.5歳,167.2±9.6 cm,57.5±9.3 kg)とした。筋活動の測定にはワイヤレス表面筋電計(日本光電社製)をサンプリング周波数1000 Hzで使用し,対象筋は両側の三角筋前部線維,内腹斜筋-腹横筋重層部(IO-TrA)とした。動作課題は以下の7つとした;体幹右回旋を伴う課題として①右側肩関節屈曲運動,②右側肩関節屈曲+左側肩関節伸展運動,③両手に1 kgの重錘を把持した右側肩関節屈曲運動+左側肩関節伸展運動,体幹左回旋を伴う課題として④左側肩関節屈曲運動,⑤左側肩関節屈曲+右側肩関節伸展運動,⑥両手に1 kgの重錘を把持した左側肩関節屈曲+右側肩関節伸展運動,さらに非体幹回旋課題として⑦両側肩関節屈曲運動を行った。各課題を聴覚刺激後,最大速度にて5試行実施した。onsetはベースラインの筋活動を1SD上回り50 msec持続した始めの時点とし,三角筋前部線維のonsetからIO-TrAのonsetを特定した。統計解析は課題間での比較に反復測定一元配置分散分析を使用し,post-hoc testにはTukey法を用いた。統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】

    左側のIO-TrAのonsetは,体幹右回旋を伴う課題(動作課題①,②,③)において早期に生じた(p<0.05)。対照的に,右側のIO-TrAのonsetは,体幹左回旋を伴う課題(動作課題④,⑤,⑥)において早期に生じた(p<0.05)。しかし同方向の体幹回旋を伴う課題間にて有意差は認められなかった。

    【結論】

    本結果より,体幹回旋方向とは逆側のIO-TrAのonsetが他の課題におけるonsetよりも早期に生じることが示された。これは,回旋方向とは逆側のIO-TrAの筋活動を早期に開始することで腰仙部の安定性を獲得し,より安全な課題遂行に寄与した結果であるかもしれない。また本結果では同方向の体幹回旋を伴う課題間にて有意差は認められなかった。本研究において体幹回旋モーメントの算出はしていないが,先行研究により本研究で用いた課題間で体幹回旋モーメントが異なることが報告されていることから,IO-TrAのonsetは体幹回旋モーメントに依存しない可能性が考えられる。したがって,IO-TrAのonsetは体幹回旋方向に影響され,体幹回旋モーメントとは関連しないのかもしれない。

  • 冨田 龍也, 弓永 久哲, 池渕 充彦, 伊藤 陽一, 藤井 良憲
    セッションID: P-MT-45-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    近年,リバース型人工肩関節全置換術(以下RSA)が諸外国では盛んに行われるようになってきている。我が国においても2014年に認可された。RSA術後はリハビリテーションを行う必要が無いとの報告や三角筋の筋力強化を行うという報告もあり,RSA術後のリハビリテーションの有用性は一貫した見解は示されていない。そこで今回,RSA術後リハビリテーションの有用性を確認するためにRSA術後3ヵ月の肩甲骨動態解析を目的に,肩甲骨動態解析ソフトGANESHAを使用しRSA術後の肩甲骨を動態解析した。その結果,3群の運動パターンが確認され,RSA後のリハビリテーションの有用性が示唆されたため報告する。

    【方法】

    肩甲骨の動態解析には,大阪市立大学で開発された肩甲骨専用動態解析ソフトGANESHAを使用した。対象は平均78.4歳のRSA術後3ヵ月患者6人(男3名,女3名)の肩甲骨を透視下で肩関節外転時の肩関節を撮影。レントゲン写真を,GANESHAを使用し動態解析を行った。

    その結果,肩甲上腕関節の運動性が低下し,肩甲胸郭関節のみで動いている群を肩甲胸郭関節群(以下ST群)。肩甲胸郭関節の運動性は低下し,肩甲上腕関節のみで動いている群を肩甲上腕関節群(以下GH群)。肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節ともに動いている群を肩甲上腕・肩甲胸郭関節群(以下GS群)の3パターンの運動様式が確認された。また,リハビリテーションの有用性を検討するため肩関節外転可動域と肩関節外転筋力を測定した。

    【結果】

    肩甲骨の動態解析では,GH群では肩甲胸郭関節の運動性が低下し,ST群では肩甲上腕関節の運動性が低下しており,60°の上肢挙上しか実施できなかった。GS群は肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節が共に機能し90°以上実施可能であった。また,肩関節外転ROMは,GH群は術前50°,3ヵ月で70°,GS群は術前50°,3ヵ月で70°と20°の外転角度の増加が確認されたが,ST群では術前50°,3ヵ月で60°と10°の増加しか認められなかった。筋力においては,GH群では術前0.11N/kg,3ヵ月で0.09N/kg,ST群では術前測定不可,3ヵ月で0.10N/kgとなった。GS群で術前0.11N/kg,3ヵ月で0.17N/kgと向上し,GS群が他の2群より高値を示す結果となった。

    【結論】

    今回GANESHAを用いることで,肩甲骨の客観的評価が可能となり,RSA後に3つの運動様式のパターンがあることがわかった。GH群,ST群のように肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節のどちらかに可動性低下がある場合,上肢挙上が困難となる。一方,GS群のように肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節が共に機能することで,良好な上肢挙上が認められた。また,肩関節外転ROMと外転筋力においてもGS群が他の2群より高値を示す結果となった。これらから肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節が機能する群が良好な上肢挙上が可能になると考える。結果から,肩甲上腕関節,肩甲胸郭関節の運動性を客観的に評価できたことでリハビリテーション有用性が示唆された。今後は,効果的なリハビリテーションを実施しADLの向上へ繋げたいと考える。

  • 川合 慶, 佐々木 裕, 白井 智裕, 奥村 太朗
    セッションID: P-MT-45-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    リバース型人工肩関節全置換術(以下RSA)は,肩関節の回転中心を内下方に変化させることで,挙上が可能となる。三角筋の延長に伴い三角筋機能が向上するとされる(Sabesan,2016)が,術後の形態変化に伴う,筋硬度についての報告は少ない。また,術後リハビリテーションにおいて早期の自動挙上可動域獲得が目標となるが,早期の挙上角度と三角筋硬度との関連については,明らかにされていない。

    今回,術後の三角筋硬度の変化と術後早期の自動挙上可動域に関連する因子を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    2015年4月から2016年9月に当院でRSAを施行した11例11肩(全例女性,平均年齢78.0±3.4歳)を対象とした。

    三角筋硬度は,術前の健・患側,術後6週の健・患側の安静時三角筋中部線維を筋硬度計(NEUTONE TDM-N1,TRY-ALL社製)を使用し,測定した。測定部位は,肩峰先端と三角筋粗面を結んだ線分の中央とし,5回計測した最大最小値を除く平均値を算出した。筋硬度の単位はトーン(T)で,TRY-ALL社の任意単位とした。

    自動挙上可動域として,術前外転角度と術後外転角度を測定した。術後外転角度は,自動運動開始時の術後6週目における外転角度を測定した。比較検討項目は,三角筋硬度変化として,術前と術後の三角筋硬度の健患差を比較した(Wilcoxonの符号順位検定,有意水準5%未満)。また,術後外転角度と術前後三角筋硬度,年齢,術前外転角度との関係を検討した(Spearmanの順位相関係数,有意水準5%未満)。

    【結果】

    三角筋硬度は,術前は,健側18.7±5.4T,患側13.0±3.1T,術後6週は,健側15.5±5.9T患側18.7±6.0Tであり,術前に有意差を認めた(p<0.01)。

    術前外転角度は,61.8±21.7°,術後外転角度は,56.8±48.9 °であった。術前外転角度と術後外転角度に正の相関を認めた(r=0.63,p<0.05)。術前・後三角筋硬度,年齢には関係は認められなかった。

    【結論】

    今回,術後の三角筋中部線維筋硬度は,術前と比較し,増加する傾向を認めたが,術後の外転角度への関連性は認めなかった。これは,術後の三角筋延長に伴う筋硬度の増加や術後の装具固定や不動に伴う筋スパズムの増加の影響が考えられた。また,今回は安静時のみの測定であり,挙上に伴う三角筋の状態については明らかになっていない。筋硬度変化については,疲労や筋力との関連も報告されており(岩本ら,2003,中山,2010),挙上に伴う筋硬度変化は,今後の検討課題としたい。

    術後早期の自動外転角度との関係因子としては,術前外転角度のみに認められた。これは,術前の自動外転の主動作筋である三角筋中部繊維の機能が術後にも影響している可能性が考えられた。今回の結果から,術後の早期外転角度の関連因子としては,術前の外転角度が一指標となる可能性が示唆された。

  • 藤原 健太, 貴志 真也, 川上 基好, 柏木 孝介, 谷田 英明, 中根 康博, 原田 誠, 村本 佳代子
    セッションID: P-MT-45-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    今回,反転型人工肩関節置換術(以下RSA)における患者立脚型評価Shoulder36(以下Sh36)を基に術前後の成績を比較した。その中でも,複合動作を主とする結髪・結帯動作に着目し成績を報告する。

    【方法】

    2016年1月~6月にRSAを施行した10例中,3か月以上経過観察可能であった8例を対象とした。男性5例,女性3例,平均年齢76.2歳で全例腱板断裂性関節症であった。関節可動域検査(以下ROM)は日本整形外科学会が定める方法に準じて行い,自動での屈曲,外転,下垂位外旋,外転90°位外旋・内旋を計測した。結髪・結帯動作の計測はC7を基準とし検査側母指との距離を測定した。表記の仕方はFinger-Flower-Distanceの計測方法に基づき,C7の基準点までいかないものをプラスとし基準点を超えるものをマイナス表記とした。その際,結帯動作は椎体表記も行った。肩関節機能評価としてSh36を実施した。Sh36の中でも結帯動作では3項目目の[患側の手でズボンの後ろポケットに手を伸ばす](以下③),18項目目の[エプロンのひもを後ろで結ぶ](以下⑱),結髪動作では8項目目の[頭の後ろで両手を組む](以下⑧),10項目目の[自分で髪をとかす](以下⑩)動作におけるスコアを抽出した。各評価は術前と術後3か月で実施した。術前と術後成績においてt検定を用い,有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    患側術前/術後3か月ROMは屈曲(自動)115.7±26.2°/112.1±24.6°,外転102.1±32.8°/97.1±23.4°,外転90°位外旋51.4±14.5°/50.7±16.5°,外転90°位内旋26.4±8.7°/29.2±9.7°であった。屈曲や外転では優位に改善していた。(p<0.01)術前/術後3か月結帯動作は患側28.5±6.5cm/45.1±7.2cm,椎体表記ではTh11/L5であり,結髪動作は-6.6±4.2cm/-3.1±6.2cmであった。結帯動作では術前と比べ有意に低値を記し(p<0.01),結髪動作において有意差なしであった。Sh36の術前/術後3か月成績は,疼痛2.2±0.8/2.7±0.5,可動域2±0/3±0.6,筋力0.9±0/2.7±0.8,健康感2.3±1/3.1±0.4,日常生活2.2±0.9/3.2±0.5,スポーツ能力0.5±0.7/1.5±1.3であり,可動域,筋力,健康感,日常生活の4項目は優位に改善していた(p<0.05)。しかしSh36の結帯動作に関する③3±1.4/2.2±1.2⑱2.5±1/1.6±0.9と,結髪動作に関する⑧術前1.5±1.6/2.5±1.5,⑩2.3±1.2/2.6±0.9は有意差なしであった。

    【結論】

    Sh36における6項目のうち4項目は改善を記しており,患者立脚型における評価においては良好な成績であると考える。しかし,結髪や結帯動作などは改善率が乏しく複合運動における困難さを露呈している。今後,複合動作における要因を追求していき患者満足度へ反映させていく必要がある。

  • Bankart lesionの範囲と中心に着目して
    勝木 秀治, 戸渡 敏之
    セッションID: P-MT-46-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    反復性肩関節脱臼では不安定性の原因となるBankart lesionを有するにも関わらず,脱臼回避のための筋性防御などにより不安定性が出現しやすい外旋の可動域が制限されている場合が多い。このため,我々は第51回日本理学療法学術大会において,反復性肩関節脱臼の外旋可動域に影響を与える因子を調査した。その結果,反復性肩関節脱臼の外旋可動域にはBankart lesionに代表される関節構造の破綻の有無とは統計的な関連性はなく,利き手や肩甲骨アライメントなどの身体特性が影響していることが示唆された。しかし,先の研究は関節構造の破綻の有無のみの調査であり,その詳細については検討していなかった。そこで今回はBankart lesionの詳細(範囲や中心)を調査し,反復性肩関節脱臼の外旋可動域との関連を検討した。

    【方法】

    対象疾患は一側の反復性肩関節脱臼とした。本研究の対象は2013年11月から2016年9月の期間に当院で肩関節脱臼制動術を施行し,筆者が術前理学療法を担当した症例のうち,Bankart lesionの詳細(範囲と中心)をカルテより後方視的に調査可能であった49名(男性42名,女7名,年齢28.0±13.2歳)とした。調査項目は(1)患側の肩関節外旋可動域(第1肢位,第2肢位),(2)Bankart lesionの範囲,(3)Bankart lesionの中心とした。(2)(3)は損傷部位を時計の文字盤を用いて表現し,右肩甲骨関節窩を正面から見たとき,上方を12時,前方を3時,下方を6時,後方を9時と定義した。例えば,Bankart lesionが3時~5時の場合,範囲を2(時間),中心を4(時)表記した。なお,患側が左肩関節の場合,180度反転して右肩関節と同様に前方を3時方向とした。(3)については,Bankart lesionの中心が4(時)未満と4(時)以上の2群に分類した。統計分析は,統計ソフト(SPSS statistics23 for Windows)を使用し,(1)と(2)との関連はPearsonの相関係数を用いて調査した。また(1)と(3)の関連は,(3)Bankart lesionの中心で分類した2群間で(1)に有意差があるかを平均値の差の検定を用いて調査した。いずれも有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    (1)患側の肩関節外旋可動域と(2)Bankart lesionの範囲には有意な相関はなかった。また(3)Bankart lesionの中心で分類した2群間で(1)患側の肩関節外旋可動域に有意差はなかった。

    【結論】

    Bankart lesionの範囲や中心が異なれば,不安定性を有する関節肢位が異なることが予測される。そのような理由から,仮説としてBankart lesionの範囲や中心の違いが第1肢位,第2肢位での外旋可動域に影響を与えると考えた。しかし,今回の結果からはその傾向は認められなかった。前回の研究も踏まえると,Bankart lesionなどの関節構造の破綻は肩関節の不安定性には関与するものの,外旋可動域は利き手や肩甲骨アライメントなどの身体特性の影響が表出されやすいと考えられた。今後は症例数を増やし,不安定性と可動域との関連についても検討していきたい。

  • ~自動運動開始初期における検討~
    川井 誉清, 中嶋 良介, 有阪 芳乃, 荻野 修平, 村田 亮, 石毛 徳之
    セッションID: P-MT-46-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    我々は先行研究において腱板断裂術後1年に再断裂がなく,かつ日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOAスコア)が90点の可否に影響を与える術後3ヶ月時の肩関節屈曲可動域はカットオフ値85°と報告した。術後の多くの場合,縫合部保護や疼痛による肩関節の評価制限を受けるため肩関節可動域以外の評価項目の検討を行うことで術後3ヶ月の可動域向上に貢献できると考えた。そこで,本研究の目的は術後3ヶ月自動屈曲の可動域低下に影響を与える自動運動開始初期に関連する評価項目を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は当院にて2016年2月より2016年7月までに当院肩専門医が腱板断裂と診断し,手術を施行した47例とし,対象の内訳は男性30名,女性17名,年齢64.7±8.2歳であった。断裂サイズは小断裂11名,中断裂36名であり,大断裂・広範囲断裂例は除外した。術後4週間装具装着を行った後,自動運動を開始した。装具を外し,自動運動開始した1週間後(術後5週)における評価を行った。評価項目は夜間痛の有無,肘関節自動屈曲・伸展および手指自動屈曲・伸展が最終域まで痛みなく運動可能の可否,手部浮腫の有無,頸部回旋左右差の有無,腰痛の有無,上肢下垂位における上腕骨回旋肢位(以下,上腕回旋肢位:上肢下垂位での肩甲棘に対する上腕骨の内・外側上顆の回旋肢位が内側に向いている場合を内旋位,平行より外側に向いている場合を外旋位と定義した)の10項目について調査した。また,術後3ヶ月の屈曲角度が85°以上を良好群,85°未満を不良群と定義した。統計学的検定にはSPSSを用いてフィッシャーの正確確率検定を行い,不良群に関連のある項目を抽出した。さらに術前評価項目(疼痛,肩関節屈曲可動域,外旋可動域,外転筋力,JOAスコア,shoulder36各ドメイン)について2群間においてMann-Whitney U検定を用いた。各々,有意水準は5%とした。

    【結果】

    良好群40名,不良群7名であった。術後3ヶ月における不良群と関連性のあった各項目は夜間痛あり(リスク比:2.4),手指伸展(リスク比:18.4),手指屈曲(リスク比:4.9),肘関節屈曲(リスク比:8.2),肘関節伸展(リスク比:6.1),上腕回旋肢位が外旋位(リスク比:3.3)であった。また,術前の各評価項目は2群間に有意差を認めなかった。

    【結論】

    術後3ヶ月自動屈曲の可動域低下に影響を与える肩関節自動運動開始初期の評価項目は夜間痛の有無,手指伸展制限および屈曲制限,肘関節伸展制限および屈曲制限,上腕回旋肢位外旋位であった。術後装具装着により末梢循環障害や手指の固有受容感覚の低下を呈することも考えられ,肩関節自動運動開始初期までにこれらの評価が陰性化となるようにアプローチしていく必要があることが示唆された。肩関節自動運動開始後は肩関節の可動域拡大のみならず,手や肘関節のコントロールが可能な状態を早期に獲得する必要があると考える。

  • 田島 泰裕, 畑 幸彦
    セッションID: P-MT-46-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    臨床場面において腱板断裂術後1年を経過しても腱板機能不全を認める症例をしばしば経験する。腱板機能に関して,筒井らは腱板機能が正常に働くためには肩甲骨保持機能が正常であることが不可欠であると述べており,雫田らは腱板断裂術後の腱板機能回復を阻害する因子の1つとして肩甲骨保持機能の異常を挙げており,ともに肩甲骨保持機能の重要性を示している。すなわち腱板機能の改善には良好な腱板修復とともに肩甲骨保持機能の正常化が必要であることが分かる。しかし,腱板修復の良否と肩甲骨保持機能の間に関連があるのかどうかについて述べた報告はわれわれが渉猟しえた範囲では無かった。今回,われわれは腱板修復の良否が肩甲骨保持機能に与える影響を明らかにする目的で調査したので報告する。

    【方法】

    対象は,広範囲腱板断裂を除く腱板全層断裂に対して腱板修復術施行後1年以上を経過した47例47肩とした。術後1年のMR画像を村上の分類に従って評価し,症例を腱板付着部が完全に修復された改善群32例(Type1)と,修復が不完全である非改善群15例(Type2とType3)の2群に分けて比較検討した。2群間で①性別,②年齢,③罹患側,④断裂サイズ,⑤運動時痛,⑥JOAスコア(日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準),⑦Spine-Scapula Distance差(以下,SSD差),⑧僧帽筋の%iEMG(以下,%iEMG)の8項目について比較検討した。統計学的解析は,性別および罹患側についてはχ2検定を用いて行い,年齢,断裂サイズ,運動時痛,肩関節可動域,SSD差および%iEMGについてはMann-Whitney U検定を用いて行い,それぞれ危険率0.05未満を有意差ありとした。

    【結果】

    性別,手術時年齢および罹患側については2群間で有意差を認めなかった。断裂サイズは非改善群が改善群より有意に大きかった(P<0.05)。運動時痛は非改善群が改善群より有意に強かった(P<0.05)。SSD差は非改善群が改善群より有意に大きく(P<0.05),肩甲骨が外転位にあることを示していた。JOAスコアは2群に有意差を認めなかった。僧帽筋の%iEMGについて,上部線維は非改善群が改善群より有意に大きく(P<0.05),中部線維は2群間で有意差を認めず,下部線維は非改善群が改善群より有意に小さかった(P<0.05)。

    【結論】

    腱板断裂サイズが大きい症例は術後1年の時点で腱板の修復が遅れ,その腱板修復の遅れが疼痛を残存させるとともに肩甲骨保持機能が低下し,腱板機能不全を引き起こしたと考えた。すなわち腱板修復が遅れている症例は腱板自体の機能不全だけでなく,肩甲骨保持機能の低下も伴うと思われた。

  • 近藤 晃弘, 安井 淳一郎, 舩戸 未央, 増岡 祐依, 澤田 将宏
    セッションID: P-MT-46-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    腱板修復術後の再断裂は16~90%と報告されており,そのほとんどが3ヶ月以内に生じる。術後3ヶ月の縫縮腱の強度は50%程度と脆弱であるため,活動量やリハビリテーションでの負荷量の設定に注意を要する。また,活動性が増加する時期であり,生活の質(QOL)の向上が重要である。我々は術後3ヶ月のQOLに関連する術前因子を検討し,術前QOLの重要性を報告した。また,術前QOLと関節可動域(ROM)が関連することを報告した。術後3ヶ月のQOLに関連する術後3ヶ月のROMは明らかになってない。本研究の目的を術後3ヶ月のQOLと術後3ヶ月のROMとの関連性を明らかにすることとした。

    【方法】

    院内倫理委員会の承認を得たのちに対象者のリクルートを開始した。当院にて関節鏡視下腱板修復術を施行した43名(男性25名,女性18名),年齢63.4歳±9.3歳が研究参加に同意した。除外基準は肩関節に手術既往のあるものとした。

    QOLは日本語版Western Ontario Rotator Cuff Index(WORC)のtotal scoreで評価した。他動ROMとして,肩関節屈曲,外転,内転,1st外旋,2nd外旋および内旋,3rd内旋を日本整形外科学会の基準に準じて測定した。加えて,Combined Abduction Angle(CAA),Horizontal Flexion Angle(HFA)も測定した。観察因子を術後3ヶ月のWORCとし,予測因子を術後3ヶ月の他動ROMとした。

    統計にはスピアマンの順位相関係数(rs)を用い,有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    術後3ヶ月のWORCと他動屈曲(p=0.01,rs=0.36),外転(p=0.005,rs=0.47),1st外旋(p=0.02,rs=0.33),2nd外旋(p=0.0006,rs=0.52)との間に有意な相関がみられた。内転(p=0.40,rs=0.13),2nd内旋(p=0.55,rs=0.09),3rd内旋(p=0.75,rs=0.04),CAA(p=0.22,rs=0.18),HFA(p=0.87,rs=0.02)との間には有意な相関がみられなかった。

    【結論】

    今回の結果から,術後3ヶ月のWORCには他動屈曲,外転,1st外旋,2nd外旋が関連した。術後3ヶ月は軽作業の仕事復帰やADLの活動量が増加する時期である。そのため,術後3ヶ月のQOLは重要である。再断裂が発生する時期でもあり,活動量の増加には注意を要する。ROM制限に関して,術後1年でROM制限が残存する例に対して受動術を施行することで,ROM制限がない例と同程度の臨床成績が得られると報告されている。しかしながら,術後2年での臨床成績であり,短期的なQOLとROMの関連性について検討されていない。今回の結果より術後早期よりROMを改善することの重要性が示唆された。

  • 加藤 雄樹, 可児 拓也, 近 良明
    セッションID: P-MT-46-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    近年,肩峰下インピンジメント症候群患者の腱板には変性が生じていることが報告され,外因的な棘上筋腱の圧迫や内因的要因,腱への過少負荷や過負荷などに起因する病理的な腱の変性(Rotator cuff tendinopathy:腱症)と考えられている。我々の先行研究において,肩峰下インピンジメント兆候を有する肩関節痛患者の患側の棘上筋腱厚は,健側および無症候群と比較して有意に増加していた。しかし,棘上筋腱の組織的変化と肩痛との関係性は明らかでない。よって今後の調査を前に症例集積研究として,患側の棘上筋腱厚が健側と比較して増加していた症例の棘上筋腱厚と疼痛による上肢障害度を縦断的に観察し,その関係性を検討したので報告する。

    【方法】

    肩関節痛を主訴に当院を受診した患者のうち,肩峰下インピンジメント兆候としてHawkins-Kennedy test,棘下筋抵抗テスト,Painful arc signのうち2つ以上が陽性であり,超音波画像診断にて腱板断裂の所見が無く,棘上筋長軸像において健側と比較して患側棘上筋腱厚が大きかった3症例を対象とした。なお,超音波画像診断装置による棘上筋腱厚の測定方法は,我々の先行研究にて検者内信頼性が確認されたThamらの方法に則った。調査項目は初回と症状改善時における棘上筋腱厚の患健差およびDASH機能スコア,運動習慣,発症から受診までの疼痛期間,治療期間とした。治療は個々の評価結果をもとに,日常生活およびスポーツ活動時の棘上筋腱への負荷調整,肩関節機能への介入,棘上筋遠心性収縮エクササイズを行った。

    【結果】

    以下に各症例についての要約を述べる。

    症例1(43歳女性,主婦)発症から1週間で受診。運動習慣はテニス,治療期間は1ヶ月(合計6回)であった。DASH機能スコアは初回30点,最終0点,棘上筋腱厚差は初回+0.9mm,最終±0mmであった。

    症例2(28歳男性,事務職)発症から3ヶ月で受診。運動習慣は野球。治療期間は3ヶ月(合計6回)であった。DASH機能スコアは初回11.7点,最終4点,棘上筋腱厚差は初回+1.3mm,最終+0.8mmであった。

    症例3(46歳男性,事務職)発症から6ヶ月で受診。運動習慣は無し。1ヶ月(合計5回)時点で中間評価を実施し,DASH機能スコアは初回25点,中間13.3点,棘上筋腱厚差は初回+1.1mm,中間+0.2mmであった。

    【結論】

    Cookらは,腱への過度な負荷により生じる反応性の変化(Reactive tendinopathy)は,負荷を調整することで正常な腱の状態へ回復する可逆的変化であると述べている。今回の症例はいずれも疼痛改善時に棘上筋腱厚の患健差が減少していた。よって反応性の棘上筋腱厚の増加が疼痛と関係していたと推察される。発表では症例を更に集積し,棘上筋腱厚の経時的変化について統計学的検討を加えて報告する。本結果を踏まえ,今後はRotator cuff tendinopathy患者の棘上筋腱病変と肩機能障害との関連,理学療法介入効果を検証していく。

  • 石井 陽介, 出家 正隆, 藤田 直人, 車谷 洋, 中前 敦雄, 石川 正和, 林 聖樹, 安達 伸生, 砂川 融
    セッションID: P-MT-47-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】内側半月板損傷は膝関節の疼痛を呈する。しかし,内側半月板自体に神経線維は少なく,内側半月板損傷の疼痛は他の要因が影響していると考えられる。内側半月板逸脱(medial meniscus extrusion:以下MME)は内側半月板付着部の損傷や伸長によって内側半月板がより内側に逸脱する現象で,膝関節内側部の衝撃吸収を破綻させ,内側大腿脛骨部の荷重負荷を増大させる。しかし,MMEと疼痛との関係は明らかにされておらず,荷重下でのMMEの逸脱量と疼痛に着目した報告は見られない。本研究は,内側半月板損傷者における荷重下MMEの逸脱量が疼痛を増加させるのかを明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は内側半月板損傷と診断された患者16名16膝(平均年齢57.6±9.5歳)を対象とした。内側半月板の逸脱量は超音波装置(Hivision Avius,HITACHI社)を用いて,内側半月板中節部で測定し,脛骨骨皮質の延長線から垂直に内側半月板の最大内側縁距離を逸脱量として計測した。測定は臥位と立位の2条件で行い,臥位と立位の逸脱量の差から,内側半月板移動量を算出した。先行研究を参考に,対象者を内側半月板の逸脱量が3mm以上の6名をLarge群,3mm未満の10名をSmall群に分類した。疼痛はVASとKOOSを用いて評価した。内側半月板の逸脱量の比較には,群間(Large群,Small群)と条件(臥位,立位)を2要因とした混合2元配置分散分析を行い,交互作用を認めた場合には単純主効果検定を行った。2群間における内側半月板移動量,VAS,およびKOOSの比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いた。統計解析には,SPSS Ver19.0(日本IBM社,東京)を用い,統計学的有意水準は5%未満とした。

    【結果】Large群,Small群ともに,内側半月板逸脱量は臥位よりも立位で有意に大きかった(Large群臥位:3.7±1.2mm,立位:4.5±1.0mm;Small群臥位:1.7±0.5mm,立位:2.1±0.7mm)。内側半月板移動量はLarge群がSmall群より有意に大きかった(Large群:0.9±0.3mm,non Small群:0.4±0.3mm)。VAS値はLarge群がSmall群より有意に高く,KOOSのpain scoreはLarge群がSmall群より有意に低かった。

    【結論】本研究の結果から,荷重下MMEの逸脱量が疼痛に影響を及ぼす一要因である可能性が示唆された。これは荷重に伴う内側半月板の逸脱が膝関内側部の負荷をより増大させたためと予想される。内側半月板損傷者の疼痛には,荷重下MMEの逸脱量が影響している可能性が示された点に関して,理学療法研究としての意義があると思われる。

  • 水島 健太郎, 久須美 雄矢, 水池 千尋, 三宅 崇史, 立原 久義, 山本 昌樹
    セッションID: P-MT-47-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】

    オスグッド・シュラッター病(OSD)は,大腿四頭筋の過緊張による膝蓋靭帯への牽引力が発症要因とされている。近年,大腿四頭筋の滑走に影響を与える膝関節周囲脂肪体の柔軟性低下が発症要因の一つとして注目されている。我々は,OSDでは健常者と比べて,大腿骨前脂肪体(PFP),膝蓋下脂肪体(IFP)の柔軟性が低下していることを明らかにした。OSDにおいて,PFPの柔軟性改善によって膝屈曲の関節可動域(ROM)が改善することを臨床で経験するものの,客観的に評価した報告は認められない。そこで本研究の目的は,OSDにおけるPFPの柔軟性を超音波エコー(US)にて評価し,PFPの柔軟性改善による膝屈曲ROMの変化について検討することである。

    【方法】

    対象は,OSD群11例20膝(男性8例,女性3例,平均年齢13.3歳)とし,PFP治療前後におけるPFP組織弾性,膝屈曲ROMを測定した。PFP組織弾性は,US(AIXPLORER,コニタミノルタ社製)のShear Wave Elastography用いて,膝伸展位(E)と膝90度屈曲位(F90)を各6回測定し,その平均値を算出した。検討項目は,PFP治療前後のPFP組織弾性および膝屈曲ROMを比較した。PFPの治療は,PFP柔軟性改善操作を5分間施行した。また,検査測定及び治療は,同一者が施行した。統計処理は対応のあるt検定,ウィルコクソン検定を用い,有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    PFP組織弾性(治療前:治療後)は,Eが3.12±0.68m/s:2.40±0.39m/s,F90が2.87±0.53m/s:2.08±0.41m/sであり,EおよびF90ともにPFP治療後に有意な低下を示した(p<0.01)。膝屈曲ROM(治療前:治療後)は,140.0±4.8°:147.7±4.3°であり,治療後に有意な改善を示した(p<0.01)。

    【結論】

    PFPは,大腿骨と膝蓋上嚢の間に存在する脂肪組織である。PFPの機能は,大腿四頭筋の収縮効率化の補助,膝蓋大腿関節の内圧調節,膝関節屈伸運動時における膝蓋上の滑走性の維持で,膝関節の屈伸運動時に重要な役割をはたす。しかしながら我々の先行研究では,健常人と比べてOSDのPFP柔軟性が約25%減少していた。今回,OSD群に対するPFPの柔軟性改善により,膝屈曲ROMの拡大が認められた。これは我々の先行研究である,OSDに対するIFPの柔軟性改善による膝屈曲ROMの拡大と同様の結果となった。このことから,PFP柔軟性低下がOSDにおける膝屈曲ROM制限の一要因として挙げられ,PFP柔軟性の改善操作がOSDの運動療法として有効であると考えられた。

  • 1症例の長期経過
    岡 徹, 中川 泰彰, 岡本 剛
    セッションID: P-MT-47-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに】膝複合靱帯損傷は,高エネルギーによる外傷であり,内側や後外側支持機構をはじめとした合併損傷も多く,治療に難渋する1,2)。ACLとPCLおよびMCL同時再建術後の理学療法に関する長期経過の報告は少ない。今回,我々は同時再建術を施行した1症例の6年間に渡る長期経過についての報告をする。

    【方法】症例紹介,28歳男性。逮捕術の試合中に側方から接触し,左膝外反・軽度屈曲位で相手の体重が膝に加わり受傷する。膝の動揺性,疼痛のためにスポーツ困難となり,初診日より1ヵ月後にACL(患側STG),PCL(健側STG),MCL(LK)同時再建術を施行した。術前X-P・理学所見は前方引き出しテスト(+),sagging(+),gravity sag view(5mmの後方落ち込みあり),外反ストレステスト(+),Lysholn score(0点)理学療法はPCL単独損傷の術後プログラムをベースに進めた。術後2週間は伸展位ギプス固定し,術後3週よりヒンジ膝装具と移行した。ROM練習は術後3週より開始し,荷重は術後6週で全荷重とした。筋力強化はPCLへの負担を考慮したプログラムで施行した。評価として膝伸展筋力,膝屈曲ROM,Lysholn scoreを術前,術後6ヶ月,1,および6年で行った。

    結果膝伸展筋力は術前,術後6ヶ月,1,6年で健側比0,80,85,98%と回復し,Lysholn scoreは15,83,88,100点と向上した。膝屈曲ROMは術前30,術後6ヶ月135°と改善し後方落ち込みも出現していなかった。仕事は術後3ヵ月で復職し,スポーツ復帰は術後1年で現在の6年目も継続している。

    結論】複合靱帯再建術のリハビリプログラムに関して,Fanelliらや高橋らはROM練習の開始時期をPCL再建術後にあわせており,当院においてもPCL再建術後のプログラムですすめた。早期からの積極的なROM練習は関節動揺性を出現させる危険がある為,3週間の膝伸展位固定を行ない,その後,自動運動や自動介助運動を中心に装具にて段階的にゆっくり拡大していった。その結果,術後6年後も関節不安定性もなく可動域の獲得・維持につながったと考える。膝伸展筋力は術後6ヶ月で健側比80%,屈曲筋力は健側比77%まで改善し順調な回復であった。スポーツ競技復帰に関しては,当院では術後1年の時点で術部の不安定感や疼痛などの自覚症状がなく,膝筋力が健側比で伸展筋90%,屈曲筋80%以上であったので復帰を許可した。術後6年目の現在も自覚症状がなく競技を継続している。再建術後の目標は移植腱が骨孔との生物学的固着が得られ,関節動揺性を制御することである。術後理学療法は,特に再建PCLに負担をかけない入念な生活指導と装具の着用が重要であり,長期的なフォローが必要であると考える。

  • 入院中独歩獲得可能群と入院中独歩獲得不可能群の傾向
    知花 俊吾, 知念 由磨, 川平 大悟郎, 屋嘉部 愛子, 名護 零
    セッションID: P-MT-47-4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    当院では,前十字靱帯(以下ACL)再建術後5日目での退院をプロトコールとし,入院中独歩獲得を目標としている。リハビリは術前より介入,術後は術当日から開始し,術後1日目に荷重開始している。術後疼痛管理として術後2日目まで大腿神経ブロックを使用し,同時に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用している。

    本研究では当院に入院中の独歩獲得可能群と独歩獲得不可能群の傾向を明らかにする事を目的とする。

    【方法】

    当院で2016年5月から2016年9月までにACL再建術(BTB法)を施行された37名中,入院中独歩獲得可能(以下獲得可群)であった計32名(男22名,女10名:平均年齢22.7±9歳)と入院中独歩獲得不可能(以下獲得不可群)であった計5名(男2名女3名:平均年齢22±10.2歳)を対象とした。半月板損傷や非荷重例は除外した。調査項目は安静時Numerical Rating Scale(以下NRS),Pain Catastrophizing Scale(以下PCS),膝屈曲・伸展可動域(以下ROM),下肢荷重率,独歩獲得期間とした。調査時期は術前,術後1日目,術後5日目とした。統計学的解析にはJSTATversion17.1を使用し,wilcoxonの符号順位検定,対応のあるT検定,多重比較はKruskal-Wallis検定を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    獲得可群の独歩獲得期間は2.8±1日。NRSは,獲得可群で術後1日目(1.4±2.1)と術後5日目(0.2±0.6)で有意に低下し(p<0.05),獲得不可群では術後1日目(2.8±2.6)と術後5日目(2.8±3.1)で変化が少なく,術後5日目で獲得可群に比べ高い傾向があった。PCSにおいて,獲得可群では,術前(13.5±6.9)と術後1日目(13.5±6.9)で有意差なく(p>0.05),術後5日目(7.7±5.2)で有意に低下する(p<0.05)のに対し,獲得不可群では,すべての期間(術前16.8±9.5,術後1日目21.6±12.7,術後5日目21.6±12.7)において変化が少ない傾向があった。屈曲ROMは,獲得可群が術後1日目(93.1±16.6),術後5日目(117.2±15.2)に対し獲得不可群で術後1日目(70.0±19.7),術後5日目(89.0±7.4)に可動域制限があった。

    【結論】

    ACL損傷患者は受傷,再建術というイベントを機に様々な機能障害を生じる。その中でも術後鎮痛は早期リハビリを進める上で重要である。疼痛は感覚的側面だけでなく,情動,認知的側面も含めた概念とされており,結果から術前より疼痛に対する破局的思考が強い症例はさらに,術後疼痛,破局的思考を増強させる傾向があった。また,膝前面痛は膝伸展筋力に影響を与える事が報告されており,本研究でも同様に疼痛が歩行能力に影響した可能性がある。Vlaeyenらが報告した恐怖-回避モデルの悪循環への岐路は破局的思考だと言われ,急性期から疼痛管理をし,運動に対する不安を改善させる事が術後鎮痛や機能予後にも重要だと考える。

    今後も症例数を増やし,縱断的研究として獲得不可群と比較し早期理学療法の効果や機能予後因子,スポーツ復帰因子を明らかにしていきたい。

  • ―再手術に着目して―
    松本 拓也, 石田 修平, 馬庭 壯吉
    セッションID: P-MT-47-5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに・目的】前十字靱帯(以下ACL)損傷はスポーツ現場においてよく観察される外傷の一つである。現在,日本でのACL損傷の発生件数について越智らは3~4万件/年発生していると述べており,その多くの症例でACL再建術(以下ACLR)が施行されている。ACLRの目的は関節内合併症の予防,元の活動レベルへの復帰などが挙げられる。しかし一度ACLRを施行するとスポーツからの長期の離脱を余儀なくされる。スポーツ復帰をしても十分にパフォーマンスを発揮できないものや再断裂・再手術に至るものも少なくない。今回,当院でのACLRの動向について調査し,再手術者の属性などを知ることで,今後のACLR前後のリハビリテーションの内容を検討することを目的とした。

    【方法】対象は2010年4月1日から2014年3月31日の期間,ACLRを施行した242名とした。242名中,期間内に再手術に至った群を再手術群,初回の手術のみの群を非再手術群とした。対象患者の情報をカルテより後方視的に抽出した。基本属性として,年齢,性別,Body Mass Index(以下BMI),再手術群に関しては,再手術側,受傷機転,初回手術から再受傷までの日数も調査した。年齢,BMIは再手術群と非再手術群の性別で群分けし,t検定を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】242名中15名(6.4%)が5年間に再断裂し再手術に至った。15名のうち2名(13%)は3回の手術を実施していた。再手術群の内訳は男性7名(18.2±3.0歳),女性8名(18.6±5.5歳)であった。非再手術群の内訳は男性125名(29.1±12.3歳),女性102名(27.32±12.95歳)であった。また年齢に関しては男女ともに再手術群で有意に若年者が多くみられた(p<0.05)。BMIは再手術群の男性は21.4±2.6 kg/m2,再手術群の女性は22.3±2.9 kg/m2であった。非再手術群の男性は24.5±3.9kg/m2,非再手術群の女性は26.5±9.1 kg/m2であった。男性においては再手術群と非再手術群のBMIの間に有意な差を認めた(p<0.05)。再手術率は男性で5.6%,女性で7.8%であった。再手術群の中で同側再手術が10名(66%),対側手術が5名(33%)であった。再受傷時の受傷機転としては15名中11名(73%)がスポーツ活動中の受傷となった。また同側再手術者10名の初回手術から再受傷までの平均日数は393±193日であり,当院でスポーツ復帰が許可される9ヶ月を経過していた者が6名,経過していなかった者が4名であった。

    【結論】再手術率はわずかに女性に多い傾向にあった。再手術群において,若年者が多く,また再手術群の男性においてはBMIが有意に低く,やせ形の体型の方に再手術が多かった。再受傷時の受傷機転は初回受傷時と同様の受傷機転をきたしている者が多い傾向にあった。

  • 糟谷 明彦, 福元 善啓, 浅井 剛, 岡 智大, 久保 宏紀, 門條 宏宣, 大島 賢典, 北 潔, 岩井 信彦, 西村 行秀
    セッションID: P-MT-48-1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
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    【はじめに,目的】

    変形性膝関節症(膝OA)を有する患者数は年々増加しており,X線上での膝OA患者は2400万人と推定されている。膝OAでは膝関節のみでなく足部回内といった足部変形も生じることが知られている。内側型膝OAでは足部回内の代償により歩行時の膝内転モーメントを減少させる。舟状骨高は足部回内の指標の一つであり,内側型膝OA患者では健常者と比較して足部舟状骨沈下(Navicular Drop;以下N Drop)が大きいことが報告されている。一方,健常者のN Dropについては足内在筋による関与が報告されているが,膝OA患者を対象とした足部舟状骨と足部筋との関連を調べた報告は見当たらない。膝OA患者の足部舟状骨に影響する因子を明らかにすることによって,足部変形を予防する理学療法のための示唆を得ることができる。本研究の目的は膝OA患者の足部舟状骨高に影響する因子を明らかにすることとした。

    【方法】

    対象は内側型膝OA患者20名(平均年齢80.7±5.6歳,女性,両側OA)とし,OAの程度がより重度な下肢を計測対象とした。超音波画像診断装置(GEヘルスケア社製)を使用し,足外在筋(前脛骨筋,腓骨筋,腓腹筋),足内在筋(短趾屈筋,短母趾屈筋,母趾外転筋,小趾外転筋)と,大腿四頭筋の筋厚(cm)を測定した。膝関節形態測定としてFTA(°),膝関節他動可動域(°)を体表から測定した。端坐位および立位での舟状骨高(cm)を計測し,両者の変化率からN Drop(%)を算出した。また,日本版変形性膝関節症患者機能評価表(JKOM)を聴取した。Kellgren and Lawrence grade(K/Lgrade)は医師により分類した。

    統計学的検定として,K/Lgrade3以下の軽症群,K/Lgrade4以上の重症群の2群間のN dropの違いをt検定で比較した。また,舟状骨高およびN Dropと各測定項目とのピアソンの相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした

    【結果】

    舟状骨高は坐位3.6±0.4cm,立位3.3±0.6cmであり,N dropは9.6±11.6%であった。軽症群9名,重症群11名の舟状骨高とN Dropにおいて2群間に有意差はなかった。舟状骨高,N Dropと各測定項目との相関分析の結果,大腿四頭筋の筋厚と立位舟状骨高(r=0.49)および座位舟状骨高(r=0.47)との間に有意な正の相関を示したが,他の測定項目は舟状骨高,N Dropと有意な相関がなかった。

    【結論】

    本研究の結果,膝OA患者では健常者と異なり,舟状骨高には足内在筋・外在筋による影響は小さいことが示唆された。また膝OAの重症度や膝関節アライメントは舟状骨高と関連しておらず,大腿四頭筋の筋厚のみが有意に関連していた。大腿四頭筋による膝関節安定性が間接的に足部安定性に寄与する可能性が考えられる。膝OA患者においては,膝の重症度によらず大腿四頭筋の筋量を維持することが足部の正常なアライメント維持に重要であることが示唆された。大腿四頭筋と舟状骨高との関連性には他の因子が介在する可能性があるが,その介在因子の解明は今後の課題である。

  • 石本 亮, 神先 秀人
    セッションID: P-MT-48-2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    足部の内側縦アーチの低下により低アーチを呈した女性高齢者は,通常のアーチの人と比べて疲労を訴える人が多かったと報告されている。また,低アーチ群は通常アーチ群と比べて生理的コスト指数(Physiological Cost Index:PCI)が高く,歩行の効率性が悪いとの報告も見られるが,運動学的指標との関係は明らかにされていない。加えて,高アーチ群の歩行の効率性に関する報告は見当たらない。そのため,本研究の目的はアーチ高率の違いが歩行の機械的効率性に与える影響を明らかにすることとした。

    【方法】

    健常成人24名(21.6±0.7歳)を対象とし,鳴海らの分類をもとに低アーチ群(アーチ高率11%未満:以下L群)8名,中等度群(11%以上15%以下:以下N群)8名,高アーチ群(15%超過:以下H群)8名に分類した。計測は三次元動作解析装置及び床反力計を用いて,時間因子,下肢関節角度変化量,床反力データを測定した。床反力データを2回積分することで重心の速度及び変位,仕事率を求め,さらに仕事率を時間で積分することで一歩行周期中の仕事量(Wt)を算出した。歩行の機械的効率性を示す指標として,体重1kgを1m前進させるために必要とされる仕事量を意味するWt/kg/m(J/kg/m)を用いた。解析は各パラメータに対して3群間の比較を行った。また,Wt/kg/mに影響する変数を決定するために,アーチ高率及び身長,体重などの身体特性,歩行速度因子,垂直方向床反力ピーク値,3方向の重心移動幅,下肢関節角度変化量を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】

    Wt/kg/mにおいて,L群(0.75±0.12 J/kg/m)及びN群(0.69±0.10J/kg/m)と比べてH群(0.90±0.11 J/kg/m)は有意に高値を示し,L群とN群には差がなかった。前後,左右,上下方向の重心移動幅及び下肢関節角度変化量に有意差は認められなかった。重回帰分析の結果,Wt/kg/mに影響する因子として前後及び上下方向の重心移動幅とアーチ高率の3項目が抽出された(自由度調整済みR2=0.73)。

    【結論】

    飯田らの報告において,Wt/kg/mに歩調や歩幅による影響は認められないとされており,重回帰分析の結果からも歩行速度の影響は少ないと考えられる。Wt/kg/mに関して有意差が認められ,L群及びN群と比べてH群は歩行の機械的効率性の低下が示された。今回の結果からは重心移動幅に有意差が認められなかったが,H群の前後及び上下方向への重心移動幅は大きい傾向にあった。より大きな重心の移動に対して重心を上方や前方に移行させるために,より多くの筋活動が要求されたことによってWt/kg/mが増加したと考えられる。本研究により,アーチ高率が歩行の機械的効率性に影響を与えることが明らかとなった。その詳細を把握するために,筋活動量及び各関節のモーメントやパワーなどの運動学的側面からさらなる検討が必要である。

  • 拡散圧力波を用いて
    山田 将弘, 森寺 邦晃, 森 聡
    セッションID: P-MT-48-3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/04/24
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    拡散圧力波は2015年より保険適応で使用可能となり,当院では難治性の足底腱膜炎に対して拡散圧力波を取り入れた治療を行っている。

    足底腱膜炎に対しては体外衝撃波(集中衝撃波)の研究報告が世界で数例報告されている。しかし,本邦において足底腱膜炎への拡散圧力波による治療介入の報告は,我々が調査した限りでは見当たらない。

    そこで拡散圧力波を使用し,一定の結果と傾向が得られたため,その治療結果を文献的考察を含めここに報告する。

    【方法】

    足底腱膜炎と診断され拡散圧力波による介入を行った患者6名(男性1名72歳,女性7名67.80±11.71歳)7脚を対象とした。初診時の罹患期間は半年から一年半であった。調査期間はH28.5.16~H28.9.30とした。

    治療内容は,患部への拡散圧力波照射と足底筋に対するストレッチを行った。治療機器はGymna社製,Physio-ShockMasterを使用し,拡散圧力波を圧痛部位に疼痛閾値程度の刺激強度(1.5~4.0bar)で照射し,周波数は8~16Hz,shock数は2000shocks,で統一した。

    治療頻度はGerdesmeyerの先行研究に習い,週に1回(最小6日・最大14日)とした。

    痛みの程度をVisual analog scale(以下:VAS)を用いて評価した。初回,1週間ごとに計測し痛みの推移をみた。また拡散圧力波照射前後でVASを計測し,照射前後での痛みの変化を最大8週間計9回までみた。さらに患者の主観を内政調査で聴取した。

    拡散圧力波照射前後のVASに対し対応のあるt検定を使用し統計学的処理を行った。統計学的有意水準は5%(片側2.5%)未満とした。統計ソフトはStat flex Ver6.0を使用した。

    【結果】初回のVAS平均66.14±12.67mmであった。6名7脚全ての患者で1週ごとにVASは漸減傾向を示し,4名5脚で4週目でのVASが10mm以下となった。また残りの2名2脚においても8週目でVASは10mm以下となった。拡散圧力波の照射前後でのVASは有意に低下した(p<0.01)。

    口頭による内政調査では,4名において「朝の一歩目以外は痛くない」との回答が得られた。

    【結論】

    1週ごとにVAS値は漸減傾向を示し,4週目でVASが2名を除いた4名5脚においてほぼ0mmに近い値となり,良好な治療効果が得られた。残りの2名2脚に関しても8週目でVASが10mmを切る値となっていた。拡散圧力波の照射前後でVASは有意に低下しており,即時の除痛効果が期待できることが示唆された。

    拡散圧力波はクラスIIの機器であるため,クラスIIIの機器である体外衝撃波と比べて安全に使用しやすいと思われる。我々の拡散圧力波を用いた方法は拡散衝撃波を用いた諸家の報告と同等の治療効果が得られており,足底腱膜炎に対する拡散圧力波照射は有用な治療法であることが示唆された。

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