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川井 誉清, 有阪 芳乃, 中嶋 良介, 原 素木, 水飼 優宏, 柴 雅也
セッションID: 1-P-D-3-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】
我々は先行研究において術後6ヶ月JOAスコアと関連する術前因子は肩外転MMT、ADL10項目(JOA)、棘上筋厚(MRI)であると報告した。しかし、腱板断裂患者の外転筋力評価は疼痛などの影響により拳上位での筋力評価が行えない症例も存在し、課題であった。そこで今回は、術後6ヶ月時における日本整形外科学会肩関節治療判定基準(以下JOA)に関連する術前因子について痛みや可動域の影響を受けにくい下垂位での筋力評価を追加して行い、検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院にて2017年4月~12月に肩関節専門医が腱板断裂と診断し、鏡視下骨孔腱板修復術を施行した53例(男性21名、女性32名、年齢66.3±9.7歳)とした。すべて完全断裂のみとし、断裂サイズは小断裂8名、中断裂33名、大断裂12名であった。術後の理学療法は当院プロトコールに準じ、術後翌日より介入した。測定項目は基礎情報として年齢、性別、術側、罹患期間、外傷の有無、疼痛を調査し、理学所見として、肩関節可動域(屈曲・外転・外旋・結帯)、肩関節筋力の測定は、徒手筋力計モービィ(酒井医療社製)を用いて筋力を測定した。下垂位外転0度(外旋位、中間位、内旋位)、内旋、外旋とした。外転0度での測定は上肢自然下垂位にて、水平面より基本軸を肩甲棘、移動軸を上腕骨内・外側上顆を結んだ線(以下 内外顆線)として設定し、肩甲棘と内外顆線が平行の場合を0°を中間位として内外顆線が外側に10°回旋した肢位を外旋位、内側に10°回旋した肢位を内旋位とした。測定は立位にて2回測定し、最大値を代表値とし、体重で正規化した。また術後6ヶ月時にJOAスコア(X線および安定性評価を除く80点満点)を評価した。統計学的検討にはEZRを用いて目的変数を術後6ヶ月JOAスコアとし、説明変数を検討項目とし、重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
術後6ヶ月JOAスコア(Y)に関連する術前因子は0度外旋位外転筋力(X1)、内旋筋力(X2)、断裂サイズ(X3)であった。回帰式はY=47.8+2.45X1+1.06X2-3.6X3となり、自由度調整決定係数R2は0.53であった。
【結論(考察も含む)】
今回の結果では、緒家らの報告と同様に断裂サイズが抽出されたことから腱板断裂術後患者に対する断裂サイズについては改めて影響を受けることが示唆された。また、0度外旋位外転筋力と内旋筋力が抽出された。術後の理学療法において、挙上初期では棘上筋および内旋筋が関与しており、機能回復に影響を与えている。そのため、術前の機能低下が術後成績にも影響を及ぼすと考えられる。腱板断裂患者の術前因子から術後6ヶ月を予測できれば理学療法の指針や患者指導に役立つと考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の趣旨と内容、方法、得られたデータは研究ならび発表の目的以外には使用しないこと、および個人情報の管理を十分に行うことを説明することについて説明し、紙面と口頭説明にて同意を得た上で研究を開始した。
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堀内 俊樹, 西田 裕介
セッションID: 1-P-D-3-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき課題である。野球肘の中でOCD(Osteochondritis dissecans:離断性骨軟骨炎)は特に予後が悪く、症状の出現時にはすでに病態が進行していることが多い。近年、日本では野球検診が行われる地域が増え、広まりつつある。しかし、評価内容に関して各々行われている。そこで本研究では、OCDのスクリーニング検査に有用な検査項目を抽出することを目的に当院において全国各地で行われている野球肘検診の評価表を調査し、収集した検査項目から評価表を作成し、OCD検出の妥当性について検討した。
【方法】
対象は山梨県全域の少年野球団,およびリトルリーグに所属する小学生と希望があった中学1年生の計165名とした。検診では全例に対し医師による超音波検査(肘関節外側)と、PT(Physical Therapist:理学療法士)・OT(Occupational Therapist:作業療法士)による理学所見を評価した。理学所見には、現在の痛み、ROM(Range of Motion:関節可動域)制限、ROM制限痛、圧痛(上腕骨小頭)、外反ストレステスト,MER(Maximal External Rotation:最大外旋位)テスト、ピストル肢位,前腕内側屈筋萎縮、橈骨頭肥大、リリーステストを横断的に実施した。当院以外の検診で使われている評価は各施設に問い合わせた。OCDが疑われた対象者は病院での受診を勧め2次的な受診でOCDが確定した。解析は感度と特異度でOCD検出の妥当性を評価した。今回は理学所見の精査のため超音波検査は除外とした。
【結果】
二次検診の結果からOCDが確定した対象者は4名(2.4%)であった。各理学所見の項目から解析した結果は、現在の痛み(感度25%、特異度91%)、ROM制限(感度50%、特異度58%)、ROM痛(感度50%、特異度93%)、圧痛(感度25%、特異度98%)、外反ストレステスト(感度25%、特異度90%)、MERテスト(感度50%、特異度98%)、ピストル肢位(感度50%、特異度55%)、前腕内側筋の萎縮(感度50%、特異度84%)、橈骨頭の肥大(感度50%、特異度92%)、リリーステスト(感度50%、特異度98%)となった。
【結論(考察も含む)】
肘関節は前腕の過度な回内の繰り返しにより、慢性的に過剰な負荷を受ける。腕橈関節には圧迫・剪断力が加わることでOCDが発生すると考えられる。今回の結果から、現在の痛み、ROM痛、圧痛、外反ストレステスト、MERテスト、橈骨頭の肥大、リリーステストが特異度90%を超え有用な検査項目であることが分かった。現在の痛み、ROM痛、圧痛、外反ストレステスト、橈骨頭の肥大は繰り返しの投球動作における腕頭関節の接触圧や上腕骨小頭への過剰なストレスが繰り返し起こることで肘関節の構造的変化が生じ、痛みを引き起こしているため特異度が高くなったと考える。また、MERテストとリリーステストは投球動作における直結した肢位となり、腕橈関節の接触圧が増加し痛みを引き起こすことが影響していると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の研究は、国際医療福祉大学の倫理申請のもと(承認番号16-Ig-134)事前に配布した検診内容の案内書に研究目的を明記し,各チームに配布した上で同意に基づいて参加申し込みをいただき,倫理的配慮を行った。
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西村 圭二, 田中 淳, 杉本 正幸
セッションID: 1-P-D-3-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに】
高齢社会に伴い平均寿命が延伸する中,骨粗鬆症が要因となる骨折は増大している。当院では,昨年4月より脆弱性骨折(大腿骨近位部骨折,椎体骨折,上腕骨近位部骨折,橈骨遠位端骨折)患者に対してチームとして介入していく,骨粗鬆症リエゾンチームを立ち上げた。主に骨折による術後患者を対象に,骨折の治療はもちろん,再骨折予防のための指導や治療継続率向上を目指し,他職種が連携して介入している。今回,人工股関節全置換術(以下THA)施行3年後に,転倒による大腿骨ステム周囲骨折を呈した患者の術後理学療法および骨粗鬆症マネージャーとして退院まで関わった結果,骨粗鬆症を念頭に置いたチームとしての介入の必要性を認識したため報告する。
【症例紹介】
70歳代後半女性。主婦。独居。左変形性股関節症により3年前に左THA施行。今回自宅で転倒し,左大腿骨ステム周囲骨折を受傷した。5年前からDXAにて骨密度低下を指摘され骨粗鬆症治療薬を服用していたが,副作用の出現により1年ほど休薬していた。入院翌日より,フォルテオ皮下注射および理学療法開始。 受傷半年前のDXAの結果では,骨密度は若年成人平均と比較し右大腿骨73%,腰椎正面83%であった。入院当初は保存療法の方向性であったが,左大腿骨痛や左下肢免荷による活動性低下,廃用進行などを考慮し,主治医,患者,理学療法士,看護師で相談した結果,入院7日目に左人工股関節再置換術を施行した。術式は側方アプローチであった。術翌日より理学療法を開始し,術後約5週間で退院となった。
【評価】
術前:左大腿外側部痛著明。握力右28.1Kg,左18.9Kg。FRI-21(転倒スコア)10点(転倒リスクあり)。左下肢免荷にて四点歩行器歩行近位監視。退院時:握力右24.6Kg,左18.3Kg。著明な疼痛はなし。TUG13.8秒。10m歩行12.7秒。歩行や段差昇降はT字杖にて自立。近距離であれば独歩も可能。FIM121点。
【介入内容および結果】
ステムのシンキングによる大腿骨骨折であり,骨粗鬆症を有していることから,通常のTHA術後の流れだけではなく,骨の脆弱化による再骨折を予防する目的で,骨粗鬆症リエゾンチームとしての関わりが必要であった。術後2週間は左下肢免荷であったため,免荷の段階から術創部に過負荷とならないように配慮しながら,全身的な機能向上を促した。また,薬物療法および食事療法の併用も骨粗鬆症治療には必須であるため,薬剤師および病棟看護師による継続的な自己注射指導や,管理栄養士による栄養状態の把握・指導も実施した。術後3週間目以降は疼痛に応じて活動範囲を拡大し,歩行能力向上やADL指導を通常のTHA術後の流れに沿って実施した。手術により骨折部の治療は得られても,骨粗鬆症治療は継続的に実施していく必要があるため,再転倒の予防および骨強度向上を念頭に置いた退院後の生活指導を十分に行った。入院中からパンフレットを作成し,自主トレーニングも反復指導した。また,大腿骨頚部骨折の地域連携パスに骨密度値や運動機能評価結果を記載し,地域への発信も実施した。
【考察】
本症例は約6週間で軽快退院したが,転倒スコアやTUG,10m歩行の結果から再転倒のリスクは残存している。そのため,退院後も引き続き外来通院や地域での継続的なフォローが必要である。骨粗鬆症は,骨折が生じるまで症状がなく,進行する疾患である。また,一度骨折すると再骨折のリスクが倍増し,状況によっては要介護状態になる割合が高いといわれている。脆弱性骨折による術後患者への再骨折予防の介入はもちろんであるが,通常のTHA目的での入院患者においても,骨密度の確認や転倒リスクの把握を常に行うことが転倒予防,骨折予防につながると考える。また,理学療法士が実施する運動機能評価の結果から転倒リスクを把握し,DXAの実施や投薬の必要性の有無を伝えていくことも,骨粗鬆症マネージャーとして重要であるといえる。
【倫理的配慮,説明と同意】
厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,本症例には趣旨を十分に説明し同意を得た。
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-股関節開排筋力の回復は遅延する-
三浦 俊之, 佐藤 和強, 笠井 太郎, 髙久 徳子, 岡田 公男, 角田 莉奈
セッションID: 1-P-D-3-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
当院では2015年頃より、前方進入法(以下DAAと略す)による人工股関節全置換術(以下THAと略す)が施行されるようになり,入院期間も短縮が図られている.入院中のリハビリや退院後の自主トレ指導を行う上で,入院期間中の下肢筋力の詳細な推移を把握することは,臨床的に極めて重要である.
【方法】
Hand-Held Dynamometerを用い,術前と退院時には両下肢の筋力,そして,術後5,7,9,14日目は術側下肢筋力のみの測定を行った.測定項目は股関節屈曲,股関節屈曲位での股関節外転(以下股関節開排と略す),膝関節伸展,足関節背屈の4項目とした.そして,各筋力値を術前値で除した術前比も算出した.術後理学療法は,手術翌日からリハビリを開始し,歩行練習に関しては原則的に術側下肢への荷重は疼痛に応じた全荷重で,可及的速やかに開始した.統計処理は,各下肢筋群内での各測定日間の筋力値の比較,そして,各測定日内での各下肢筋群間の術前比の比較をそれぞれ行うために,Friedman検定を用いた多重比較を行い、有意水準は5%とした.
【結果】
当院において2016年6月から2017年6月の期間に,変形性股関節症に対し,DAAによるTHAが施行された患者17名を対象とした.患者の年齢は70.4±7.7歳で,性別は男性2名,女性15名であった.
術側股関節屈曲筋力は,術前と比較して,術後5日目は低かったが,有意差が認められず,退院時は有意に高かった.術側股関節開排筋力は,術前と比較して,術後5日目,術後7日目,術後9日目はいずれも有意に低かった.また,有意差が認められなかったものの,術前と比較して,術後14日目,退院時も低かった.術側膝関節伸展筋力は,術前と比較して,術後5日目,術後7日目はやや低く,術後9日目,術後14日目,退院時は高かったが,いずれも有意差が認められなかった.術側足関節背屈筋力は,術前から退院時まで,ほぼ一定の値を示し,いずれも有意差が認められなかった.
術前比については,術後7日目から退院時に至るまで,術側股関節開排の術前比に比較して,術側股関節屈曲と術側膝関節伸展の術前比は有意に高かった.また,術側股関節開排の術前比だけが,退院時になっても100%以下であった.
【結論(考察も含む)】
術後2週間の筋力回復過程で,同じ股関節周囲筋群でありながら,股関節開排筋力は,股関節屈曲筋力に比べ,明らかに筋力低下をきたし,回復が遅延した.しかも,退院時においても,股関節開排筋力は術前値まで回復してないことが示唆された.股関節開排筋力の筋力低下と回復の遅延は,股関節周囲筋群の中でも,股関節伸展,外旋筋である大殿筋の関与が大きいと考えられ,従来のリハビリに加え大殿筋等の強化に着目した運動が必要と考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の倫理委員会の承認(承認番号29-88)を取得し,ヘルシンキ宣言に則り,患者には十分な説明を行った上で同意を得て,実施した.
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片田 昌志, 松村 福広, 伴 光正, 安中 正法, 亀山 祐, 穂高 桂
セッションID: 1-P-D-3-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】
大腿骨転子部骨折に対する髄内釘挿入は,大転子のリーミングにより中殿筋損傷が危惧される.しかしながら,従来の治療成績は筋力が加味されていないことが多く運動機能との関連も不明瞭である.本研究の目的は,大腿骨転子部骨折術後12か月の股関節外転筋力と運動機能の関連性を知ることである.
【方法】
2016 年10 月から2017年12 月までに髄内釘を用いて治療を行った大腿骨転子部骨折133例のうち下記除外基準に該当しない24例を対象とした。除外基準は術後12か月に追跡調査が困難であった者,重篤な合併症を有する者,重度認知症により筋力測定が困難であった者,既往歴に運動麻痺または下肢骨折を有する者とした.平均年齢は75.3歳(42~90歳),男性6例,女性18例であった.骨折型は中野3D-CT分類で2partA:4例,2partB:2,3partA:2例,3partB:8例,3part C:3例,4part:1例,TypeⅡ:4例であった.調査項目は術後12か月の股関節外転筋力のトルク体重比(Nm/kg),歩行再獲得率,Harris hip score, Time up and go(以下TUG)とした.なお,歩行再獲得率は受傷前の歩行様式と同じ水準が獲得できた者を歩行再獲得者とした.統計解析は股関節外転筋力の患側値と健側値の比較に対応のあるt-検定,股関節外転筋力の患健比(%)と歩行再獲得率にはMann Whitney検定,股関節外転筋力の患健比とHarris hip score,TUGの関連性にはSpearman相関係数を用いた.統計ソフトSPSSを用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】
術後12か月の股関節外転筋力は患側値0.6±0.4Nm/kg,健側値0.7±0.3Nm/kgであり,患側の股関節外転筋力が有意に低下していた(p<0.01).歩行再獲得率は67%(16例/24例中)であり,歩行再獲得に至らなかった者は股関節外転筋力の患健比が有意に低下していた(P<0.05).Harris hip score,TUGと股関節外転筋力は有意な相関はなかった.
【結論】
髄内釘挿入時のリーミングによる中殿筋損傷は20~50%と報告(澤内.2017,McConnell.2003)されているが,大腿骨転子部骨折術後の股関節外転筋力の報告は少なく,経過観察時期も一定では無い.本研究の結果から術後12か月の股関節外転筋力は有意に低下しており,長期的にみても筋力低下が残存することが分かった.また,大腿骨転子部骨折術後の歩行再獲得率は41~70%と報告されており(東原.2008),本研究も同様の結果であった.興味深いことは筋力と運動機能の関連性である.従来から使用されているHarris hip scoreやTUGは良好であっても,股関節外転筋力の低下がみられた.股関節外転筋力の低下があっても他の筋力で代償されれば全身的な運動機能は問題にならないが,他の筋力による代償が困難になった場合,股関節外転筋力の低下が表面化する可能性が推察される.本研究の限界として統計学的に母集団数が少なく,中野3D-CT分類別に統計解析を行えなかったことである。今後は骨折型,術後X線所見も含めた調査が課題となる.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言を遵守した上で十分な説明を行い,同意を得た.
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~足底版作成前後の歩行時痛軽減効果~
斉藤 嵩, 荒川 達也, 小野 誠
セッションID: 1-P-D-3-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】変形性股関節症(以下,Hip-OA)は関節炎や骨変形を主体とし,関節可動域制限と強い疼痛を認める事がある.これらは日常生活動作に制限をきたし,特に歩行時痛は大きな問題となる.歩行時痛の軽減には股関節へのメカニカルストレスを改善させる必要がある.今回,入谷式足底板(以下,足底板)を用いて,下肢にかかるメカニカルストレスを改善させ,Hip-OAの歩行時痛が軽減できたためここに報告する.
【方法】対象は当院に来院した,股関節屈曲角度90度未満のHip-OA患者12名,計15肢とした.(全例女性,平均年齢61.9±6.56歳).股関節の平均屈曲角度は65.3±14.64°であった.病期は日本整形外科学会の病期分類にて進行期10肢,末期5肢であった.方法は,歩行時痛はNumerical Rating Scale(以下,NRS)を用い,0~10の11段階にて足底板作成前後の歩行時痛を評価した.次に足底板の評価の特徴を検討した.評価は,距骨下関節(回外・回内誘導),第1列(底屈/回内・背屈/回外誘導)の肢位と内側楔状骨(拳上・なし)をテーピングにて,横アーチ部(中足骨前方部・後方部・楔状骨部)の高さはパッドにて評価した.また,評価の判断には歩行時痛の増減と歩容にて判定をした.統計学的処理はSPSS23.0,IBM社製を用い,疼痛の変化をwilcoxon signed-rank 検定にて検討した.有意水準は1%未満とした.
【結果】歩行時痛はNRSにて作成前では6.0±1.17であった.作成後では1.7±1.38であり,全例にて作成の前後で疼痛が軽減し有意差がみられた(p<0.01).足底板の特徴は全例で距骨下関節回外誘導,第1列底屈/回内誘導であった.内側楔状骨は14肢中7肢が拳上であった.横アーチ部は中足骨前方部分で0.2±0.23㎜,中足骨後方部分で0.26±0.24㎜,楔状骨部分で0.28±0.28㎜高さを上げた.
【結論】Hip-OAに対して,足底板を処方し,全例で歩行時痛が軽減した.歩行時痛軽減に至った足底板の特徴は全例にて距骨下関節回外誘導,第1列底屈/回内誘導であった.距骨下関節回外誘導は運動連鎖にて股関節を内旋にさせ,大腿骨頭と寛骨臼の被覆率を高め,股関節が安定する.また,距骨下関節回外誘導は足部を硬くし,第1列底屈/回内誘導は立脚期中期以降に下腿の前方移動を促す.この2点は,足関節底屈モーメントを高め立脚期後半の股関節伸展の代償として働く.これらの効果が歩行時痛の軽減に繋がったと考えられる.他項目は個人により差異があり,個々に合わせて処方が必要となる.足底板は進行期以上のHip-OAに対し,メカニカルストレスを改善させ,歩行時痛を軽減させるのに有用である.
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言の一般原則にに基づいて,意義・方法・不利益などを書面と口頭で説明を行い同意を得た上で行った.
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畠山 和利, 木島 泰明, 小松 瞭, 樋口 諒, 鈴木 恒太郎, 渡邉 基起, 高橋 裕介, 大倉 和貴, 須田 智寛, 菊池 耀, 斉藤 ...
セッションID: 1-P-D-3-7
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【はじめに】寛骨臼形成不全症は大腿骨頭の骨性被覆の低下による不安定性や,それに伴う寛骨臼縁の応力増加が疼痛の要因となる.これまで我々は寛骨臼応力をシミュレーション解析し,減量や骨盤前傾位による寛骨臼縁の最大応力の減少を報告してきた.一方臨床上は,保存療法として股関節周囲筋の筋力トレーニングが行われている.これは筋力強化による大腿骨頭求心力増加に伴い,寛骨臼縁の応力が減少すると考えられているからである.本研究の目的はこのメカニズムをシミュレーション解析により検証することである.
【方法】3次元全身筋骨格モデルを使用し,静止立位時の大腿骨頭求心力を算出した.本モデルはANYBODY modeling systemを基盤に,MRIから全身の筋走行,筋断面積を再現した独自モデルである.3次元動作解析装置VICON MXで寛骨臼形成不全症例(35歳女性,161cm,54kg)の静的立位姿勢を計測し,モデルに反映させた.モデル上で中殿筋の筋力を50%,100%,150%,200%と変化させ,大腿骨頭求心力を算出した.さらに外旋筋群の筋力を全て同時に150%に変化させた際の変化も解析した.応力解析は有限要素解析ソフトMarc Mentat(MSC Softwere Co.)を用いた.境界条件は,骨盤の腸骨部および恥骨結合部を完全拘束とし,大腿骨遠位端から算出した骨頭求心力を集中荷重として加えた.さらに,筋力向上に伴う力の向きが応力に与える影響を検討するため骨頭求心力を一定にし,ベクトル成分のみの変化が臼蓋応力に与える影響も算出した.
【結果】通常の静止立位である中殿筋筋力を50%,100%,150%,200%と変化させた時の大腿骨頭求心力はそれぞれ56.7N,58.1N, 59.5N,60.4%と中殿筋の筋力に対応して増加した.また,内方化を示す内側ベクトルも33.5N,40.0N,42.6N,43.8Nと中殿筋筋力に応じて増加した.外旋筋群筋力150%増強時では59.5Nと中殿筋と同等であり,中殿筋筋力および外旋筋群筋力を同時に150%に増加した際は骨頭求心力が62.9N,内側ベクトルが46.1Nと更に増加した.寛骨臼縁の最大応力は通常時0.415MPa,中殿筋筋力および外旋筋群の筋力150%時では0.458MPaであった.骨頭求心力を一定にし,内方化の影響のみを考慮したモデルでは,応力が求心位に分散していたものの寛骨臼縁の最大応力は0.418MPaと変化しなかった.
【結論】中殿筋筋力増加は大腿骨頭求心力を増加させた.さらに外旋筋筋力増加が加わることで求心力を一層向上させた.これは中殿筋などの外転筋筋力向上が支点を作り,求心位を獲得しやすくなったと考えられる.筋力増強に伴い臼蓋応力は内方へ分散されたが,寛骨臼縁にかかる最大応力は大きく変化しなかった.つまり,中殿筋や外旋筋の筋力増強は応力の分散および骨頭安定化に影響を及ぼすが,寛骨臼縁にかかる最大応力は変化せず,筋力増強とともに減量と骨盤前傾化を含めた総合的アプローチが寛骨臼形成不全症に対する有効な保存治療と考えられる.
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下,対象者へ実施前に説明し,死守を理解したうえで書面にて同意を得た.
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山口 良平, 羽田 匡伸, 野澤 拓哉
セッションID: 1-P-E-3-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに】
大腿骨近位部骨折の発生数は、2030年に30万人と推計され、当院も運動器リハビリテーション施行患者全体の約3割を占めている。在院日数短縮が求められるなか早期の予後予測が必要とされている。白井らは、予後予測因子として歩行獲得の有無を報告したが、リハ介入初日の歩行能力を評価、検討した報告は少ない。そこで、リハ介入初日に平行棒内歩行獲得者の特徴を把握し、歩行獲得の予測に有用かを検討した。
【方法】
対象は2016年4月から翌年3月までに大腿骨近位部骨折を受傷し、当院で観血的治療を施し、リハビリテーションを行った36名(男性2名、女性34名)。内除外対象者は重篤な合併症で転院、病前移動が車いすの者2名。平均年齢86.7±9.4歳、平均在院日数(急性期、地域包括ケア病棟合算)55.7±23.3日。方法1:電子診療録から後方視的に、性別、年齢、術式、病前移動、HDS-R、認知症疑いの有無、患側荷重/体重比、手術待機日数、在院日数、術前血中Alb値、輸血、骨折型、術後1日目の介助立位可否、術後1週目歩行Barthel Indexスコア(以下1週目歩行B.I)を抽出。リハ介入初日に平行棒内歩行4mを介助で行えた群と2日目以降に行えた群に分け、各項目をMann-Whitheney検定、χ2検定で処理し、比較した。方法2:退院時院内歩行自立、非自立を従属変数、方法1の項目を独立変数として、ステップワイズロジスティック回帰分析にて検討した。各方法とも有意水準は5%未満とした。
【結果】
方法1は、年齢(P<0.01)1週目歩行B.I(P<0.05)退院時院内歩行自立(歩行器以上)(P<0.05)に有意差を認めた。方法2では、1週目歩行B.I(P=0.02 オッズ比1.53)患側荷重/体重比(P=0.06 オッズ比0.003)平行棒内歩行獲得日数(P=0.17 オッズ比0.12)認知症疑いの有無(P=0.05 オッズ比0.07)判別的中率74%であった。
【考察】
本研究では、リハ介入初日の平行棒内歩行可否が退院時歩行能力を予測する因子となるかを検討した。結果、年齢や認知機能、術後1週目の歩行能力に有意差を認め白井らの研究を支持した。退院時歩行B.I10点以上者数を対象者数で除した退院時歩行能獲得率は約90%。リハ介入初日平行棒内歩行獲得者は退院時歩行自立者数全体の約60%と2日目以降の獲得者に比べ多く、術後1週目歩行B.Iは10点以上であった。これらから、介入初日の歩行評価は、予後予測として重要な因子である、術後1週目の歩行能力を予測する可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、当院倫理委員会の承認を得、本人、家族へ研究趣旨を説明し、同意を得て行った。
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平田 靖典, 金子 秀雄
セッションID: 1-P-E-3-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
大腿骨近位部骨折(Hip Fracture:HF)は、85%以上が転倒を契機に受傷している。HF術後患者では、骨折や手術侵襲による股関節外転筋力低下、疼痛、廃用性の膝関節伸展筋力低下により患側立位下肢荷重率が減少し、立位バランス能力が低下する。加えて、転倒予測指標であるTimed Up & Go Test(TUG)が遅延し再転倒のリスクが増加する。実際、院内転倒状況の先行研究では36.3%が再転倒しているが、歩行時(14.6%)より座位および座位からの姿勢変換時(81.3%)の転倒が多いことが報告されている。座位では体幹機能が重要となるが、HF術後患者における体幹機能が転倒予測指標であるTUGと関連があるか否かは不明である。高齢者の座位時の体幹機能への影響として、座位での脊柱可動性低下や座位での側方リーチ動作距離の減少などが指摘されており、HF術後患者においても体幹機能の低下が再転倒と関連している可能性が考えられる。そこで、HF術後患者におけるTUGと体幹機能、下肢機能、疼痛との関連を検証することで、体幹機能がTUGに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は受傷前が独歩もしくは歩行補助具を使用して歩行自立レベルであり、転倒によるHFを本院にて手術された患者20名(男性6名、女性14名、平均年齢81±5歳)である。そのうち、整形外科的・神経学的障害がある者、クリニカルパス適応外、長谷川式簡易知能評価スケールで20点以下の者は除外した。測定項目は、転倒予測指標としてTUG(健側・患側回り)、下肢機能としてハンドヘルドダイナモメーターを用いた膝関節伸展筋力と股関節外転筋力、体重計を用いた下肢荷重率、疼痛評価として荷重時痛を測定した。体幹機能としてSpinal Mouseを用いた座位での脊柱アライメント(胸椎後弯角、腰椎前弯角)と脊柱可動角度(胸椎および腰椎の屈曲、伸展、側屈角度)、Functional Reach 測定器を用いた座位Functional Reach Test、座位Lateral Reach Test(LRT)をHF術後の3〜4週目に同一検者が測定した。統計方法はHF術後患者のTUGと座位における体幹機能、下肢機能、疼痛との関連性について、Pearsonの相関係数またはSpearmanの相関係数を用いた(p>0.05)。
【結果】
TUGと座位腰椎前弯角に有意な相関(TUG健側回りr=0.47、患側回りr=0.53)、患側の座位LRT距離、健側の股関節外転筋力、両側下肢荷重率との間に有意な相関(TUG健側回りr=−0.48〜−0.66、患側回りr=−0.48〜−0.57)がみられた。その他の測定項目では、有意な相関が認められなかった。
【結論(考察も含む)】
HF術後患者において、先行研究同様にTUGと立位下肢荷重率、外転筋力に関連が認められた。また、座位時の腰椎前弯角や患側の座位LRT距離は同等の相関を示したことから、HF術後患者において体幹機能(座位腰椎前弯角増大、患側の座位LRT距離減少)は再転倒のリスクを高める可能性が示された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本院の倫理審査委員会(218)の承認を得て実施した。
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往田 幸生
セッションID: 1-P-E-3-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
免荷平地歩行練習(以下BWSOT)は、歩行器などの歩行補助具を使用でき、通常歩行に近い状態で免荷歩行練習が行え、中枢神経疾患患者において歩行の改善が報告されている。免荷トレッドミル練習(以下BWSTT)は、中枢パターン発生器を賦活し、随意的な運動が行えずとも自動的にパターン化された歩行練習を行え、整形外科疾患に対し痛みや歩行に対する即時効果が報告されている。大腿骨近位部骨折術後患者の歩行練習として、BWSOTとBWSTTの有効性の違いを検証した研究の報告はされていない。本研究は、大腿骨近位部骨折患者に対し、BWSTTとBWSOTの前後で歩行能力、疼痛に対する即時効果やその違いを明らかにする。
【方法】
対象は回復期リハ病棟入院中の大腿骨近位部骨折術後患者25名(男性7名・女性18名、平均年齢80.7±8.6歳、術後71.5±23.6日、独歩3名・歩行補助具22名)、歩行補助具の使用有無に関わらず、10m歩行がFIM6以上の者。使用機器は安全懸架装置(株式会社モリトーSS450)、免荷システム付トレッドミル/アシスト・ウォーカー(Inter Reha株式会社TRC9000-BWS)。評価項目は10m歩行、TimeUp & Go Test(TUG)、Numerical Rating Scale(NRS)、6分間歩行距離(6MD)を実施。評価方法は、被験者25名はBWSTTとBWSOTを1日の間隔をあけて両方実施(順序はランダム)。それぞれ各被験者の体重の20%を免荷し、快適歩行速度で6MDを実施した。途中疲労を感じた場合は何度でも休憩を挟んでも良いこととした。免荷歩行練習実施前後で、10m歩行、TUG、NRSを計測した。統計処理は、エクセル統計を用いてフリードマン検定、対応のあるt検定を行い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
BWSTT群の10m歩行、TUG、NRSの介入前・介入後の平均値、6MDの平均値は、10m歩行(12.6±6.7秒・12.5±6.2秒)、TUG(15.8±7.6秒・15.1±6.9秒)、NRS(2.7±1.5・2.3±1.3)、6MD(122.0±50.0m)。BWSOT群は10m歩行(12.3±5.6秒・12.1±5.4秒)、TUG(14.6±5.9秒・14.6±5.9秒)、NRS(2.2±1.1・2.2±1.2)、6MD(210.2±61.9m)。10m歩行(p=0.91)、TUG(p=0.57)、NRS(p=0.91)は介入前後で有意差は見られなかったが、6MDでは両群間で有意差を認めた(p<0.01)。
【結論(考察も含む)】
10m歩行、TUG、NRSに対する介入前後での即時効果は見られなかった。しかし、6MDではBWSOTで有意に距離が長い結果となった。BWSTTは受動的で、一定速度で動く接地面に歩調を合わせる課題が付加するのに対し、BWSOTは、歩行補助具を使用し、能動的な歩行練習が可能である。そのため、本研究においてもBWSTTは難易度が高く、より通常歩行に近いBWSOTでこのような結果になったと考える。今回の結果からBWSOTはBWSTTに比べ、課題難易度を下げた状態で、同時間で多数歩歩行練習が可能である。また、BWSOTを使用した歩行練習は、歩行の再構築や能動的に反復した歩行練習を目的とした場合に有効であると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の承認を得た後、患者本人に書面と口頭で説明し同意を得た。
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―術前,術後の身体機能との関連―
能田 星香, 小川 英臣, 小川 貴久, 宮武 和正, 平尾 昌之, 岡安 健, 高田 将規, 酒井 朋子, 星野 ちさと, 請川 大, 猪 ...
セッションID: 1-P-E-3-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】
近年,人工股関節全置換術(以下,THA)後のQOL評価に患者立脚型で疾患特異的な尺度として日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下,JHEQ)が用いられている.JHEQの先行研究には術後JHEQの患者満足度との関連因子を検討したものや,術前,術後JHEQの推移などの報告が多い.一方,術前から術後にかけて身体機能を評価し,術後JHEQとの関連についての報告は少ない.そこで,我々は本研究の目的をTHA後3ヶ月のJHEQに影響を与える術前と術後の身体機能因子を明らかにすることとした.
【方法】
当院で平成29年4月6日から平成30年2月5日までにTHAを施行した115例を対象に,症例対照研究を行なった.両側THA施行例11例と測定項目に欠損値のあるもの51例は除外した.身体機能評価としてJHEQの項目と関連性があると予測される膝関節伸展筋力と股関節屈曲角度,Visual Analogue Scale(以下,VAS)を各々術側と非術側で評価した.各項目は術前と術後1週(以下,1W),術後3ヶ月(以下,3M)に評価を行った.膝関節伸展筋力は徒手筋力計(アニマ社製μ-tas)を用いて最大等尺性筋力を2回測定し,平均値を体重で割り筋力体重比を算出した.統計学的分析として,JHEQの中央値を求め,症例を中央値未満の群と中央値以上の群に分けた.各評価項目につき連続変数はt検定を,カテゴリ変数はカイ二乗検定を行なった.その結果,優位差を認めた膝関節伸展筋力とVASに加え,年齢と性別,BMIを調整し,ロジスティック回帰分析を行い,術前,術後の身体機能とJHEQの関連を検討した.有意水準はp<0.05とした.
【結果】
症例は平均年齢65歳,女性46例,男性7例,平均身長154.2cm,平均体重57kg,平均 BMI 23.8kg/m2であった.診断名は変形性股関節症47例,大腿骨頭壊死5例,THA後再置換1例で,術式は前方系アプローチ49例,後方系アプローチ4例であった.JHEQ高値は以下の項目と有意差を認めた.術前の非術側VAS高値(オッズ比:0.22,95%CI:0.06-0.76,P=0.02)と1Wの術側VAS高値(オッズ比:0.16,95%CI:0.04-0.57,P=0.01),3Mの術側VAS高値(オッズ比:0.26,95%CI:0.79-0.88,P=0.03),3Mの非術側VAS高値(オッズ比:0.27,95%CI:0.74-0.95,P=0.04)であった.膝関節伸展筋力についてはいずれも有意差を認めなかったが,術前と術後,術側と非術側を問わず膝関節伸展筋力が大きいほどJHEQの点数が高い傾向があった.
【結論】
今回の結果から,THA後3ヶ月のJHEQは術側VASとの関連が強いため,臨床現場において術直後の疼痛を遷延させないよう疼痛コントロールを行うことが重要であると示唆された.また,術後に限らず術前の膝関節伸展筋力が大きいとJHEQ合計点が高い傾向にあることが分かった.従って,術前より膝関節伸展筋力を強化することで術後の満足度が向上する可能性がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,研究の目的,主旨を十分に説明し同意を得ておこなった.
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折内 英則, 室井 宏育, 影山 喜也, 佐藤 純也
セッションID: 1-P-E-3-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】近年、我が国では高齢化に伴い大腿骨頸部骨折患者が増加傾向にある。その背景には虚弱や低栄養を呈した高齢者数の拡大が注目されている。body mass index(以下BMI)は対象者の栄養状態を示す指標として広く知られており、我々は過去に、急性期大腿骨頸部骨折患者の入院時BMIと急性期病院退院時ADLの関係について報告を行った。急性期病院退院時ADL能力を考える上でBMIが重要な因子である可能性が示唆されたが、栄養項目など各因子の検討が不十分であった。本研究では、サンプル数の見直しと栄養面をはじめ関連因子を再検討し、入院時の各種因子と急性期病院退院時のADLの関係について再考を行った。
【方法】2014年7月から2018年5月の間に当院へ搬送された大腿骨頸部骨折患者で観血的治療を行った65歳以上の高齢者97名(平均年齢82.6±7.6歳、男性26名、女性71名、人工骨頭置換術84名、固定術13名)を対象に、年齢、性別、入院時BMI、受傷前歩行能力(歩行自立・歩行要介助)、認知症の有無、入院時の血清アルブミン値(以下Alb値)、主観的包括的アセスメント(subjective global assessment以下SGA)、脳血管疾患既往の有無、パーキンソン病(以下PD)の有無、術後1週間時のADL能力をカルテ上から後方視的に調査した。退院時ADL評価はBarthel index(以下B・I)を用い、部分自立の基準といわれる60点以上を「ADL良好」群、60点未満を「ADL不良」群と定義づけ、これを従属変数とし、上記各因子を説明変数としてその関係を検討した。解析はロジスティック回帰を用い分析を行った。統計学的有意水準はp<0.05とした。
【結果】対象者97名中、「ADL良好」群が48名、「ADL不良」群が49名であった。退院時ADLと各項目の関係で、入院前歩行能力、認知症の有無、入院時Alb値、術後1週間時のADL能力、脳血管疾患既往の有無に統計学的有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】本研究より、同骨折術後における急性期病院退院時ADLを考える上で、入院前歩行能力と認知症の有無といった各因子に加え、入院時Alb値や術後1週間時のADL能力にもその関係が示唆された。認知症は食思不振や摂食能力にも影響を及ぼすとされ、低栄養に至るきっかけを作りやすいともいわれる。また、入院時の栄養状態が機能・能力予後に影響するという報告もあり、栄養指標の一つとされるAlb値は今回の結果と関連性を示すと考えられる。一方で、BMIと退院時ADLの関係は示されておらず、再考を要する結果となった。また、低栄養と各因子間の関係についても検討を重ねる必要があり今後の研究課題としたい。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は総合南東北病院倫理審査委員会の承認を得ている。
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白木 靖次郎, 森 俊樹
セッションID: 1-P-E-3-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
大腿骨近位部骨折は、高齢者の寝たきりや生命予後悪化の原因となることが知られている。昨今は、大多数の症例で手術的治療が選択されるが,重篤な合併症を持つ場合などではやむなく保存療法が選択されることがある。当院にリハビリテーション(以下、リハ)の目的で入院した大腿骨近位部骨折患者を保存群と手術群に分け、機能予後と転帰について比較し報告する。
【方法】
2016年2月から2018年5月までに、当院の回復期リハ病棟へ入院した大腿骨近位部骨折後の患者を対象とした。保存群は11例(男性3例、女性8例、平均年齢89.3±4.3歳)、手術群は51例(男性8例、女性43例、平均年齢85.0±6.7歳)であった。調査内容は、保存療法となった理由、転帰先、歩行能力、Functional Independence Measure(以下、FIM)での運動・認知項目、疼痛、変形拘縮の有無とし、診療録より後方視的に抽出した。歩行能力は、FIM移動(歩行)項目で5点以上を「歩行可能」、それ以外を「歩行不可能」とした。
【結果】
保存療法となった理由は、重篤な合併症による症例が6例、手術前に急性疾患を発症したことによる症例が2例、骨折が軽度であったことによるものが2例(うち1例は手術拒否)、未診断で放置された症例が1例であった。在宅復帰率は、保存群27.3%、手術群70.6%となった。
【結論(考察も含む)】
手術が施行できなかった保存群の転帰について、保存群と手術群の2群間の比較において、在宅復帰率(p<0.01)や歩行能力(p<0.05)は有意な差が認められた。保存群には、全身状態の悪い患者が多く含まれ、合併症の疾患管理を要し、機能予後や転帰先に影響したためと考えられた。
保存群のFIMは、手術群と比較し低値だったが、FIM利得では、歩行と認知機能以外は有意な差を認めなかった。集中的なリハでADLはある程度改善できると考えられた。
心不全により保存療法が選択された例は、独居での「在宅復帰」をしたが、わずか1カ月後に心不全の再発で再入院となった。骨折後の障害に加え、心不全は自己管理が難しく、独居での在宅復帰は困難であったと考えられた。手術群のようにADL運動項目の能力のみで転帰先が決められるのではなく、保存療法の原因となった合併症の状態を加味し検討する必要があると考えられた。
合併症の疾患管理も視野に入れた退院支援を実施し、特に独居の場合は、在宅サービスなどに配慮が必要であると考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本人、家族に研究の意義と目的について十分説明し同意を得ており、倫理的配慮を行った。
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齋藤 真紀子
セッションID: 1-P-F-3-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】
これまでの報告は、人工股関節全置換術(THA)術前後の下肢アライメントと外転筋力の術前後の変化について調査し、術後は下肢アライメントと筋力に着目することが考えられた。今回は、下肢アライメントと外転筋力、大殿筋、中殿筋の筋萎縮率、歩行機能の術前後の変化、筋力と筋萎縮率の関係について調査した。
【対象】
2016年7月~2017年10月に当院整形外科で初回THAを施行した38例38股関節、女性31例、男性7例、平均年齢64歳(48~85歳)とした。平均身長155.6±7.3㎝、平均体重59.8±9.3㎏、BMI24.9±4.1、手術方法は全例Dall法であった。
【方法】
術前と術後2週のX線から術前後の脚長差、FTA、オフセット長、CT画像から大殿筋、中殿筋の筋断面積を仙腸関節最下端での水平断面で測定し術側を非術側で除し筋萎縮率を算出した。外転筋力、10m歩行時間、TUGは術前、術後4週に測定し、術前と初回外来時のHHS(Harris Hip Score)を調査した。筋力は、アイソフォースGT-300を使用し背臥位で2回測定し最大値を用いて体重比を算出した。統計解析は、正規性を確認の上、術前後の各項目においてWilcoxon 符合付順位検定を用い、外転筋力と大殿筋、外転筋の筋萎縮率、オフセット長はSpearmanの順位相関係数を求め有意水準は5%未満とした。
【結果】
脚長差は術前5.8±13mm、術後3.9±8.6mm、FTAは術側術前175.2±2.9°術後175±3°、非術側術前175.6±2.9°術後176±2.8°、オフセット長は術前34.7±6.6mm術後39.5±5.5mm、筋萎縮率は大殿筋が術前0.84±0.24、術後0.87±0.25、中殿筋が術前0.91±0.13、術後1.03±0.34、10m歩行時間は術前13±9.3s術後12.3±3.8s、TUGは術前12.7±5.3s術後12.5±2.7s、外転筋力は術側術前1.1±0.43 N/㎏術後0.92±0.4 N/㎏、非術側術前1.31±0.41 N/㎏術後1.21±0.48 N/㎏、HHSは術前52.1±7.7点、術後75.1±9.1点、脚長差、オフセット長、HHSに有意差(P<0.01)がみられた。術前外転筋力と術前中殿筋萎縮率、術前後のオフセット長と中殿筋萎縮率に相関はみられなかった。
【考察】
FTAの術前後で大腿骨軸と脛骨軸の位置は変化せず安定した下肢アライメントでの荷重になっていると考えられる。正常歩行における立脚相では荷重反応期から立脚中期において大殿筋と中殿筋が主動作筋として骨盤の安定に作用しており、これらの筋力が低下するとトレンデレンブルグ徴候やデシャンヌ徴候といった歩容になることが知られている。術前後の大殿筋と中殿筋の萎縮率、外転筋力に有意差はなかったが大殿筋よりも中殿筋の改善率が高い傾向にあった。このことは術後有意に脚長やオフセット長が補正されていたことから脚延長などにより、大殿筋よりも中殿筋の機能改善率が高い可能性が示唆された。筋萎縮率と外転筋力に相関はみられず、術前後の歩行機能に有意差がなかったことは入院期間では術前までに回復の時期にあると考えられ、向上につなげるためには退院時に長期的に可能な運動内容を指導する必要があると考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には、ヘルシンキ宣言に則り、プライバシーの保護、研究の趣旨、目的を説明し同意を得て実施した。
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須田 智寛, 斎藤 明, 渡辺 伊吹
セッションID: 1-P-F-3-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】
投球動作はワインドアップ期,コッキング期(以下:TP),アクセラレーション(以下:BR),フォロースルー期の4期に分類される.投球動作は下肢から体幹,上肢へと力を伝え動作を遂行する運動連鎖である.そのため下肢や体幹の機能が破綻することで上肢への負担が増加し,投球障害を引き起こすとされている.先行研究では投球動作において踏み出した脚(以下:ステップ脚)の下腿外側傾斜は下肢の不安定性や体の開きを招き,体幹傾斜は水平外転位や肘下がりの原因になると報告されている.また,股関節に注目した研究では下腿の外側傾斜がみられた者ではステップ脚の内旋可動域が低下しているとの報告もある.しかし,股関節周囲筋力と投球時の下腿や体幹傾斜との関連性を明らかにした報告はない.本研究の目的は股関節周囲筋力と投球時の下腿や体幹傾斜との関連性を明らかにし,投球障害の予防の一助とすることである.
【方法】
対象者は準硬式野球部所属し,普段の練習や試合で疼痛のない大学選手18名とした.股関節周囲筋力の測定は筋力計ミュータス(アニマ株式会社)を使用し,神谷らの方法を参考に股関節屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋の筋力をそれぞれ測定した.ステップ脚および対側脚(以下:軸脚)をそれぞれ2回測定し,平均値を体重で除した.またステップ脚側・軸脚側それぞれ伸展筋力/屈曲筋力×100の計算式により屈曲筋力に対する伸展筋力の割合も算出した.同様に内転・外転,内旋・外旋の筋力も算出し,動筋・拮抗筋%とした.
投球フォーム撮影では,剣上突起,両上前腸骨棘,ステップ脚側の膝蓋骨中央,内果・外果の中点にマーカーを貼付し,18.44mの距離で全力投球を2回行った.その際に捕球者の後方1mのところにハイスピードカメラ(CASIO社製EXILIMEX-ZR1100)をセットし,投球動作240Hzで撮影した.動作解析には二次元動作解析ソフトDARTFISH(DARTFISH社製)を使用し,TP時とBR時にて膝蓋骨中央と内果・外果の中点から下腿傾斜角,BR時に剣上突起と両上前腸骨棘から体幹傾斜角を算出した.下腿傾斜角は基本軸より内側に傾斜しているものを正,外側に傾斜しているものを負とした.統計学的解析はPearsonの積率相関係数を求めた.解析ソフトはSPSS Statistics22(IBM社)を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】
軸脚側の外転筋力と体幹傾斜との間に有意な正の相関を認め(r=0.55,p=0.017)、ステップ側内転・外転%とTP時およびBR時の下腿傾斜角との間に有意な正の相関を認めた(それぞれr=0.53,p=0.023,r=0.55,p=0.018).
【結論】
軸脚外転筋力と体幹傾斜,ステップ脚内転・外転%とTP時およびBR時の下腿傾斜と正の相関を示したことから股関節周囲筋の筋力低下は投球障害を引き起こす一要因であると示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究目的や方法,データの取り扱いについて十分に説明し,書面にて同意を得た.
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上田 真也
セッションID: 1-P-F-3-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折手術の周術期は,深部静脈血栓症(以下,DVT)発生の高リスク群に位置づけられている.DVTは肺血栓塞栓症(以下,PTE)という致死的合併症を引き起こす可能性もあり,高齢者にとって生命を脅かす危険性がある.このため、DVT発生のリスク因子を熟知し,早期より予防策を行うことが重要である.今回,大腿骨近位部骨折受傷前の生活がDVT発生にどのように影響するか調査することを目的とした.
【方法】大腿骨近位部骨折を受傷後,当院にて入院,手術を行った患者のうち,術前にDVTがみられた患者,下大静脈フィルター留置術を行った患者,データに欠損があった患者を除外した100名を対象とした.対象を術後にDVTが検出された群をDVTあり群(41名),検出されなかった群をDVTなし群(59名)の2群に分類した.年齢,男女比,術式(人工骨頭挿入術・骨折観血的手術),BMI,大腿骨近位部骨折受傷前の歩行(自立・非自立),大腿骨近位部骨折受傷前の生活場所(自宅・施設)の2群間比較をMann-Whitney検定,χ2検定を用いて行った.
【結果】年齢は,DVTあり群では有意に高齢である結果となった(P<0.01).男女比は,DVTあり群の女性比が有意に多い結果となった(P<0.05).大腿骨近位部骨折受傷前の歩行は,DVTあり群は,歩行が非自立であった人数が有意に多い結果となった(P<0.01).大腿骨近位部骨折受傷前の生活場所は,DVTあり群は,施設で生活されていた方が有意に多い結果となった(P<0.01).
【結論】DVTが発生するリスク因子として,高齢,性別(女性),BMI高値(肥満),手術侵襲の大きさなどは多数報告されており,今回の結果においても,高齢,女性の因子が抽出されている.また,活動量低下がDVT発生の因子を高めるという報告や,入院前住居タイプとDVT発生についても有意差が認められたとの報告もある.今回の結果より,当院にてDVTあり群では,大腿骨近位部骨折受傷前に歩行が非自立であった方,大腿骨近位部骨折受傷前の生活場所が施設であった方が多い結果となった.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、 治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)にて,DVTを早期発見し,早期より治療を行うことが重要であることが述べられている.今回の結果より,大腿骨近位部骨折受傷前の生活を聴取することが,DVT有無のスクリーニングとして有用である可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は松阪市民病院倫理審査委員会の承認を得た後に実施した.事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た者を対象とし,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った.
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安藤 将孝, 池内 秀隆, 中原 浩喜, 石井 寛海, 日元 世菜, 森 淳一, 山口 豊
セッションID: 1-P-F-3-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】
臨床において大腿骨近位部骨折術後患者の中で歩行開始動作時に跛行を認める症例は少なくない。Hofら(2009)は動的な場面における安定性の程度を示す指標としてmargin of stability(以下、MoS)を提案している。MoSは支持基底面と質量中心の水平面における位置関係に加え、質量中心の速度の要因を考慮した指標である。本研究では大腿骨近位部骨折術後患者の歩行開始動作時の動的安定性についてMoSを用いて解析した。
【方法】
被験者は歩行に影響を与える整形外科疾患および中枢神経疾患の既往がなく独歩が可能な健常高齢者4名(年齢:66.3±1.9歳、身長:153.0±6.1cm、体重:59.9±14.0kg)(以下、対照群)と独歩が可能な大腿骨近位部骨折術後患者5名(年齢:75.8±10.5歳、身長:149.6±3.8cm、体重:48.7±6.0kg、大腿骨頚部骨折:3例、大腿骨転子部骨折:2例)(以下、患者群)であった。
課題動作は安静立位からの歩行開始動作とした。被験者の身体各部にPlug-in Gait modelに準じ39個の反射マーカーを貼付した。動作時の運動学的データおよび運動力学的データは、8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析システムVICON Nexus 2.5と4基の床反力計(AMTI社製)を用いて記録した。サンプリング周波数は,運動学的データは100[Hz]、運動力学的データは1,000[Hz]で計測した。第1歩目は各試行前に口頭にてランダムに被験者に伝え、対照群は左右各5試行(以下、条件RおよびL)、患者群は術側および非術側の各5試行(以下、条件Oおよび N)を実施した。
先行研究を参考に、第1歩目の下肢が床反力計から離れた瞬間におけるMoSを算出した。
統計学的解析にはSPSS version24を用いた。各群内の2条件間の比較には、データの正規性の有無に従って、適宜、対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付き順位検定を行った。2群間の比較は条件RとO、条件LとNの間で行った。2群間の比較には正規性および等分散性の有無に従って、適宜、2標本t検定、Welchの検定、Mann-Whitneyの検定を適応した。有意水準は5%とした。
【結果】
MoSは各群内の2条件間、2群間の比較において有意な差は認められなかった。
【結論(考察も含む)】
歩行開始動作時のMoSは患者群と対照群間で有意な差は認められなかった。この結果は患者群の動的安定性が低下していないことを示唆する。しかし、本研究の被験者数の少なさという制限もあり、今回使用したMoSという指標では大腿骨近位部骨折術後患者の歩行開始動作時の跛行を十分に定量化することができなかった可能性がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり、当院(承認番号:A0014)および大分大学理工学部研究倫理審査委員会(承認番号:3)の承認を得て計測を実施した。各被験者には説明文書を用いて研究内容を十分に説明し、書面にて同意を得た後に計測を行った。
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三田村 信吾, 片岡 亮人, 鬼澤 理紗, 安藤 貴法, 荒深 幹太, 藁科 秀紀, 加藤 充孝, 北村 伸二
セッションID: 1-P-F-3-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
股関節不安定性の評価は変形性股関節症の進行を予測する上で重要である。成人を対象とした寛骨臼に対する大腿骨頭位置の研究は報告されているが、超音波画像診断装置(US)を用いた報告は少ない。我々はUSを用いた大腿骨頭位置測定の妥当性およびレントゲン所見との関係を報告してきたが、寛骨臼に対する大腿骨頭の位置と関係する理学所見は不明なままである。そこで、本研究の目的は股関節可動域および股関節周囲筋力と大腿骨頭の前後位置の関係を明らかにすることとした。
【方法】
対象は片側変形性股関節症患者26名(年齢69 ± 10歳、BMI24 ± 4、女性22例、男性4例)とし、測定にはその反対側股関節を用いた。CE角20~25°の境界型寛骨臼形成不全の者は除外した。
測定機器はF37(日立アロカ社製)を用い、Bモード法にて4-13MHzのリニアプローブを使用した。測定肢位は背臥位、股関節軽度内旋位とした。US画像は、まず事前に触知した下前腸骨棘を描出し、下前腸骨棘と寛骨臼の連続性を確認したのちにプローブを尾側へと移動させ、寛骨臼と大腿骨頭の両者が写る位置を同定した。その位置からプローブを水平に外側に移動させ、寛骨臼が確認できる最外側を同定し撮像した。得られた画像から寛骨臼先端部および大腿骨頭最腹側部に水平線を引き、その間の垂直距離をImageJ1.49を用いて計測した。撮像は3回行い平均値を測定値とした。
理学所見は、股関節屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋可動域と股関節屈曲、伸展、外転筋力を計測した。筋力は、徒手筋力計(μTas F-1:アニマ社)を用いて等尺性筋力を3回計測し、最大値をトルク体重比で補正した。
統計解析は、USにおける垂直距離と股関節可動域および周囲筋力の関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
USにおける垂直距離は0.79 ± 2.09mmであった。股関節可動域は屈曲が106 ± 9°、伸展が11 ± 6°、外転が33 ± 9°、内転が11 ± 3°、外旋が34 ± 15°、内旋が17 ± 17°であった。股関節筋力は屈曲が1.07 ± 0.30Nm/kg、伸展が0.85 ± 0.29Nm/kg、外転が0.96 ± 0.21Nm/kgであった。USの垂直距離と屈曲可動域(r = 0.50、p = 0.013)に有意な正の相関関係が認められた。他の項目には有意差が認められなかった。
【結論】
USを用いて計測した寛骨臼に対する大腿骨頭が相対的に前方に位置することと屈曲可動域の広さが関係することが分かった。大腿骨頭が前方に位置している方が股関節深屈曲に有利になることが推察される。しかしながら、本研究では屈曲運動における大腿骨頭の動態は確認できていない。そのため、大腿骨頭が相対的に前方に位置することと深屈曲が可能なことにどのような因果関係があるかは不明なままである。因果関係を明らかにするために、今後は股関節屈伸における寛骨臼に対する大腿骨頭の動態撮影も検討していきたい。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究対象者の保護には十分に留意し、ヘルシンキ宣言に基づき研究の意義について事前に十分な説明を行い、研究対象者の自由意思による同意を得た。
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直江 祐樹, 南端 翔多, 小山 由貴, 長谷川 正裕, 湏藤 啓広
セッションID: 1-P-F-3-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに】人工股関節全置換術(THA)はインプラントや手術技術の進歩などにより入院期間は短くなり、当院でも2~3週間での退院となっている。術後の理学療法を効率よく行い、我々理学療法士は術後早期に退院時の機能や歩行能力、ADLを予測し退院支援を行っていくことが求められる。今回術前後の機能から退院時TUGに影響する要因について検討した。
【方法】2017.12月~2018.5月に当院にてTHA施行、術後クリニカルパスに沿って理学療法を行った22名(男7名、女15名)、年齢62.1歳、158.5㎝、59.3㎏、術前JOAスコア41.8、JHEQ21.3を対象とした。測定項目は、術前と術後理学療法最終実施日(退院時:15.3日)に、JOAスコア、JHEQ、TUG(通常速度・最大速度)、徒手筋力計(HHD)を用い股関節屈曲、外転、内転、外旋、内旋筋力、股関節ROMを測定した。術後1日目、4日目、7日目、14日目にはHHDにて屈曲、外転、内転筋力と、股関節屈曲、外転、内転ROMを測定した。筋力は3回測定し平均値の体重比を算出した。安静時と筋力測定時、最大の痛みをVASを用いて測定した。退院時TUGと各測定項目の間に関連があるかについて、Spermanの順位相関係数の検定を行った。術前、術後1・4・7・14日目、退院時の測定項目から、退院時TUGを予測できるかについてステップワイズ法による重回帰分析にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】術前の通常TUG16.0秒、最速TUG14.0秒であった。退院時JOAスコア67.7点、JHEQ69.6、通常TUG14.9秒、最速TUG 12.7秒であった。退院時通常TUGと4日目反対側屈曲筋力(r=-0.462、p=0.03)、14日目外転筋力(r=-0.456、p=0.03)、退院時反対側内転筋力(r=-0.490、p=0.02)、内旋筋力(r=-0.542、p<0.01)、反対側内旋筋力(r=-0.457、p=0.03)の間に有意な相関がみられた。最速TUGと14日目外転筋力(r=-0.497、p=0.02)、退院時反対側内転筋力(r=-0.436、p=0.04)、内旋筋力(r=-0.503、p=0.02)、反対側内旋筋力(r=-0.487、p=0.02)の間に有意な相関がみられた。JOAスコア、JHEQ、痛み、ROMに関しては有意な相関はみられなかった。退院時TUGを従属変数に、各測定項目を独立変数として退院時TUGが予測できるかを検討した結果、TUGに影響を与える要因として、退院時内旋筋力が抽出され、通常速度ではR2は0.329、p<0.01、最大速度ではR2は0.335、p<0.01であった。
【結論】術後早期の痛みやROMはTUGに影響を与えず、1日目反対側屈曲筋力、14日目外転筋力、退院時内転筋力、術側・反対側内旋筋力が関連があり、退院時内旋筋力が影響を与えるという結果となった。TUGは立ち上がりや座る動作、歩行、方向変換など多くの要素が含まれ、筋力も様々な要素が必要であるため、屈曲・外転・内転・内旋の様々な筋力と相関がみられたと考えた。股関節内旋筋は小殿筋前部線維、大腿筋膜張筋、中殿筋前部線維であり、外転筋としても働くこれらの筋の機能が内旋筋力に反映された結果ではないかと考えた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の趣旨と目的を説明し、研究への参加の同意を得た。
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~剪断波エラストグラフィを用いた軟部組織評価の試み~
木下 幸大, 小玉 裕治, 石田 和宏, 家入 章, 宮本 重範, 阿部 明宏, 井上 正弘, 安部 聡弥, 三上 貴司, 菅野 大己
セッションID: 1-P-A-4-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
当院の人工股関節全置換術(THA)は股関節の生体力学上の機能を考え、解剖学的な位置に設置している。そのため、亜脱臼位もしくは脱臼位の症例では股関節中心が下方へ引き下げられることで、股関節外転筋(外転筋)が伸張され術側への骨盤側方傾斜(側傾)が増加すると考えられている。しかし、実際にTHA前後の外転筋の伸張性の変化と骨盤側傾の関係を調査した報告はみあたらない。そこで今回、剪断波エラストグラフィにて非侵襲的に外転筋弾性率を測定することで、筋の伸張の程度を評価することを試みた。本研究の目的は、術前・術後1週時・退院時の各時期における外転筋弾性率と骨盤側傾の関連と、術後1週時から退院時での外転筋弾性率と骨盤側傾の改善率の関連を調査することである。
【方法】
2週パスの初回片側THAを実施した13例13股(女性12例、男性1例、平均年齢66.58±7.03歳、全例後側方アプローチ)を対象とした。検討項目は術前・術後1週時・退院時の術側の外転筋弾性率、X線正面像における骨盤側傾(正の値が術側への傾き)とした。退院時における改善率は術後1週時を基準に求めた。外転筋弾性率は、LOGIQ S8(GEヘルスケアジャパン社製)およびリニアプローブ(9MHz)を使用し、剪断波エラストグラフィを用いたデータから弾性係数をキロパスカル単位(kPa)で計測した。5回測定し平均値を用いた。測定肢位は疼痛と屈曲拘縮を考慮し背臥位で股関節屈曲10°、内外転・内外旋中間位とした。測定部位は上前腸骨棘と大転子を触診し、両部位の中点での筋縦断面とした。術前・術後1週時・退院時の外転筋弾性率と骨盤側傾の実測値、改善率(%)の関係をSpearmanの相関係数で求めた。
【結果】
実測値では外転筋弾性率は術前5.54±3.23kPa、術後1週時4.66±2.23kPa、退院時2.60±0.99kPaであり、骨盤側傾は術前1.31±2.54°、術後1週時5.17±2.60°、退院時3.42±1.70°であった。術前の外転筋弾性率と骨盤側傾(r=0.34、p=0.26)、術後1週時の外転筋弾性率と骨盤側傾(r=0.08、p=0.80)、退院時の外転筋弾性率と骨盤側傾(r=0.10、p=0.75)は、どの時期でも相関関係を認めなかった。術後1週時から退院時にかけての外転筋弾性率と骨盤側傾の改善率で有意な相関関係があった(r=0.58、p=0.04)。
【結論】
各時期における実測値での相関はなかった。術前では骨性や軟部組織の制限、術後1週時から退院時では術創部痛や外転筋弾性率以外の要因が骨盤側傾に影響していると考えられる。また、従来の報告どおり、外転筋弾性率が骨盤側傾の主因である場合には外転筋弾性率の改善と共に骨盤側傾も改善する可能性がある。一方、外転筋弾性率の低下と骨盤側傾の改善が関連しない症例もいたことから、今後は症例数を重ね、さらに外転筋弾性率と骨盤側傾に関連する因子を検討する必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、本発表に関する説明と同意を得た。プライバシーを守り他の目的に使用しないことを前提に研究データを保管した。また、本研究の結果により今後対象にとって間接的な利益となる可能性がある。なお、本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
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―表面筋電図を用いたTKA術後3症例での検討―
野口 裕貴, 鈴木 裕也
セッションID: 1-P-A-4-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
反重力トレッドミルは空気圧を利用した下半身陽圧負荷により体重を部分免荷し,下肢負担を軽減させた状態で歩行練習を行うことのできる部分免荷トレッドミルの一つである.
運動器分野では変形性関節症や人工関節置換術後,靭帯再建術後症例でその有効性が報告されているが,その部分免荷作用による筋活動変化については健常者データを元にした報告が多く,運動器疾患症例においてどのような筋活動変化が生じるかは不明確である.
そこで今回,TKA術後早期の3症例において,表面筋電図を用いて反重力トレッドミル歩行中の歩行時筋活動計測を行い,免荷量の違いによる筋活動変化を調査検討した.
【方法】
対象は膝OAにより片側TKA施行後2週の患者3名とした.表面筋電図計測装置テレマイオG2(Noraxon社)を使用し,サンプリング周波数1500Hzにて反重力トレッドミル(ALTER-G, 日本シグマックス社)歩行時の筋活動を計測した.被検筋は患側の大腿直筋(RF),大腿二頭筋長頭(LH)とし,荷重量を体重の100%,66%,33%と調整して,快適歩行速度にて歩行を実施した.波形の安定した連続5歩行周期を100ms間隔のRMSで平滑化し,加算平均を行った.各筋で5秒間の最大随意等尺性収縮を行い,500msずつの移動平均によって求めたMVCを用いて1歩行周期の%MVCを算出した.1歩行周期100%となるよう正規化し,各荷重量における1歩行周期中の各筋活動最大値及び平均値を求めた.
【結果】
各荷重量における3名の1歩行周期の筋活動(%MVC; max, mean)は,100% RF(29.0, 18.6) LH(41.2, 23.1),66% RF(22.4,13.2) LH(35.7, 14.0),33% RF(16.8, 12.1) LH(26.6, 13.1)であり,荷重量低下に伴ってRF,LH共に筋活動が低下する傾向があった.
症例別の結果は,症例①100% RF(35.5, 17.7 ) LH(63.7, 33.0),66% RF(19.2, 9.0) LH(39.1, 11.9),33% RF(13.4, 7.4 ) LH(36.6, 15.5),症例②100% RF(21.0, 14.6) LH(37.4, 21.8),66% RF(22.0, 12.7) LH(42.7, 16.1),33% RF(20.9, 10.6) LH(18.6, 9.8),症例③100% RF(33.8, 23.6) LH(34.0, 14.3),66% RF(26.9, 17.8) LH(35.9, 14.0),33% RF(28.3, 18.2) LH(31.0, 14.1であった.
【結論(考察も含む)】
健常者を対象とした先行研究では,反重力トレッドミルの部分免荷により歩行や走行における大腿前面や下腿後面の筋活動が低下することが示されているが,今回のTKA後3症例での検討では,RFだけでなくLHでも部分免荷による筋活動低下がみられた.また,3症例において100%荷重歩行中に高い筋活動を要している症例ほど,部分免荷により筋活動が低下する傾向があった.反重力トレッドミルでの部分免荷は,歩行時の大腿筋活動を低下させる傾向にあることから,TKA術後早期の筋力低下に対する歩行時の膝関節周囲筋の代償的過活動を減じた状態で歩行練習ができる有用な治療戦略になり得ると考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,被検者に目的および方法を十分説明し,研究参加に対する同意を得た.
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~回復期病棟退院時における調査~
竹中 裕, 吉井 秀仁, 松橋 彩
セッションID: 1-P-A-4-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】 大腿骨頚部骨折(以下:頚部)と大腿骨転子部骨折(以下:転子部)は大腿骨近位部骨折と総称され,術後の歩行予後には受傷前ADLと認知面が関与するとされている。しかし,病態と術式が異なる頚部と転子部術後各々における違いを明らかにした報告は見当たらない。両者を同一の骨折として評価することの正否を明らかにすることが本研究の目的である。
【方法】 対象は2014年4月~2017年10月の間に当院に入院した大腿骨近位部骨折術後患者231名のうち,術前に歩行が修正自立以上かつ入退院時に歩行評価が可能であった127名。内訳は頚部84名(平均78.6歳、男:女=20:64、術式:ハンソンピン3名、BHP81名),転子部43名(平均81.3歳、男:女=15:28、術式:gammaネイル17名,PFNA24名,その他2名)。調査項目は,急性期および入院日数,HDS-R,退院時歩行自立達成割合(歩行のFIM点数が6以上),TUG-T,10m最大歩行速度,6分間歩行距離とし,各項目間において頚部群・転子部群間での比較検討を行った。対象全体での両群の比較に加え,退院時歩行器歩行自立以上の患者間で比較を実施した。歩行評価は計測時「しているADL」として使用していた補助具を用い,マニュアルに沿った測定方法を習得した理学療法士によって実施された。統計処理はR2.8.1を用いて単変量解析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】 本研究内で調査を実施した項目について,全例では当院入院日数(頚部44(28-62)日・転子部58(45-71)日),退院時歩行自立達成割合(頚部83.4%(70名)・転子部65.1%(28名)),TUG-T(頚部13.5(9.5-20.8)秒・転子部17.7(10-35.2)秒)の3項目で頚部-転子部間に有意差がみられた。歩行器歩行自立以上例では,当院入院日数(41(26-60)日- 57(36-73)日)の項目のみ頚部-転子部間で有意差がみられ,退院時歩行機能評価においては差を認めなかった。(頚部‐転子部の順にTUG-T:12.3(9.2-16.7)秒-11.7(9.7-18.3)秒、10m最大歩行速度10.2(8.1-13.3)秒‐9.3(8.1-11.9)秒、6分間歩行距離:275(200-363)m- 299(240-351)m)。なお、当院入院時に荷重制限があった患者は頚部1名・転子部5名であった。
【結論】 転子部では歩行自立までに期間を要したことに加え,歩行非自立患者の転帰先決定に難渋するため在院日数に差が現れたと考えられる。また,歩行自立達成割合やTUG-Tの結果から,転子部は回復期退院時点では頚部と比較して移動に関わる機能面の回復で劣ることが示唆された。一方,大腿骨近位部骨折術後で回復期退院時に歩行自立していた患者については機能面で差を認めないと判断できる。今後の展望として,我々は大腿骨近位部骨折術後患者における退院後のフォローアップ調査を実施する予定であるが,歩行自立患者の歩行機能について頚部と転子部を同一の骨折として評価して差し支えないと考える。頸部・転子部間において疼痛の程度,ADLの差の有無を調査することが今後の課題である。
【倫理的配慮,説明と同意】本調査はヘルシンキ宣言に基づき、対象症例に対して書面と口頭で研究の意義、方法、不利益の説明を行い、同意を得た上で実施した。また、個人情報の保護には十分な配慮を行ったうえでデータ処理を行った。
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川端 悠士, 竹原 有紀, 三浦 千花子, 小川 浩司
セッションID: 1-P-A-4-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【はじめに】
大腿骨転子部骨折例は疼痛が遷延しやすく,術後経過や長期的な予後が不良であることが知られている.転子部骨折は安定型骨折と不安定型骨折に分類されるが,安定型骨折と不安定型骨折では骨折周囲の軟部組織損傷や整復の難易度も異なるため,術後の運動機能も異なることが推測される.また小転子骨片転位の有無も術後運動機能に影響を与えることが予測されるが,小転子骨片転位の有無と術後運動機能との関連を明らかにした報告は少ない.転子部骨折例の歩行能力に影響を与える要因としては,骨折型や小転子骨片転位の有無以外にも年齢,受傷前の日常生活自立度,認知症の程度,術式等の様々な要因が考えられる.過去の報告では,これらの交絡因子を調整した上で骨折型および小転子骨片転位の有無と術後運動機能との関連性が明らかにされていない.そこで本研究では転子部骨折例における骨折型および小転子骨片転位の有無が,年齢,受傷前の日常生活自立度,認知症の程度,術式といった交絡因子から独立して,術後運動機能(疼痛,関節可動域,下肢筋力,歩行能力)に影響を与えるか否かを明らかにすることを研究目的とする.
【方法】
対象は転子部骨折の診断で当院へ入院となった連続120例のうち,除外基準(重度認知症例,受傷前歩行不能例,中枢神経障害合併例,術後4週以内の退院例,保存的加療例)に該当する25例を除く95例とした.95例を骨折型によって安定型群47例,不安定型群48例に,小転子骨片転位の有無によって非転位群42例,転位群53例に分類した.調査項目として年齢,性別,受傷前における障害高齢者の日常生活自立度,認知症高齢者の日常生活自立度,骨折型,小転子骨片転位の有無,術式,免荷期間を調査した.術後運動機能(術後4週)として疼痛(安静時・荷重時),関節可動域(患側股屈曲・伸展・外転,患側膝屈曲),筋力(患側・健側股外転,患側・健側膝伸展),歩行能力(0:歩行不能・1:平行棒・2:歩行器・3:杖・4:独歩の5段階順序尺度)を評価した.従属変数を術後運動機能,独立変数を骨折型および小転子骨片転位の有無,共変量を年齢,受傷前の日常生活自立度,認知症高齢者の自立度等の交絡因子として共分散分析を行い,骨折型および小転子骨片転位の有無が術後運動機能に与える影響を検討した.
【結果】
共分散分析の結果,骨折型と有意な関連を認めた運動機能は荷重時痛,患側股屈曲可動域,患側膝屈曲可動域,患側股関節外転筋力,患側・健側膝関節伸展筋力,歩行能力であり,いずれも不安定型群で有意に運動機能が不良であった.また小転子骨片転位の有無と有意な関連を認めた運動機能は歩行能力であり,小転子骨片転位例で有意に歩行能力が不良であった.
【結論】
不安定型骨折例および小転子骨片転位を有する症例は,年齢や受傷前の自立度,認知症の程度等の交絡因子を考慮しても,運動機能が不良であることが明らかとなった.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には本研究の趣旨,研究参加の任意性について説明し同意を得た.なお本研究はJA山口厚生連周東総合病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:H28-14)
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饗庭 甲人, 武田 寧, 堺 研二, 今屋 健
セッションID: 1-P-A-4-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】前十字靭帯損傷後の患側の脛骨前方移動量は受傷からの期間と正の相関があるという報告もあれば、全くないという報告もある。今回、膝前十字靭帯(以下ACL)再建患者の術前の健側の脛骨前方移動量(以下健側AD)、患側の脛骨前方移動量(以下患側AD)、健側ADと患側ADの差(以下AD健患差)、受傷からの期間の4つの相関関係について報告する。
【方法】対象は平成23~29年までに初回片側ACL断裂と診断され反対側に既往のない245名(男性104名:16.8±1.2歳、女性141名:16.0±1.6歳)。屈曲可動域:Heel to Hipは全体0.5±1.4cm、男性0.4±1.2cm、女性0.5±1.5cm、伸展可動域:Heel Height Differenceは全体0.6±1.1cm、男性0.6±1.1cm、女性0.6±1.1cmで、男女間で有意差はなかった。Index社のKNEELAX3を使用し軽度屈曲位にて132Nの牽引力で健側AD、患側AD、AD健患差を計測した。算出結果と受傷からの期間について社会情報サービス社のエクセル統計を利用し、ピアソンの積率相関係数を求め、母相関係数の無相関の検定を行った。
【結果】受傷からの期間は全体124±208日、男性132±206日、女性120±210であった。健側ADは全体8.0±2.0mm、男性8.1±2.1mm、女性7.9±1.8mmであった。患側ADは全体12.2±2.3mm、男性12.1±2.5mm、女性12.3±2.2mmであった。AD健患差は全体4.2±2.0mm、男性4.0±2.1mm、女性4.4±1.9mmであった。受傷からの期間、健側AD、患側AD、AD健患差にいて男女間で有意差はなかった。全体、男女別で健側ADと患側ADの間に中等度の正の相関(全体r:0.58、男性r:0.59、女性r:0.59)(p<0.001)、患側ADとAD健患差との間に中等度の正の相関(全体r:0.59、男性r:0.57、女性r:0.61)(p<0.001)、健側ADとAD健患差に弱い負の相関(全体r:-0.31、男性r:-0.32、女性r:-0.28)(p<0.001)が認められた。受傷からの期間とAD健患差に相関は認められなかった。
【結論(考察も含む)】ACL損傷により患側ADは健側ADより大きくなるため、健側ADと患側ADの間に中等度の正の相関を示した。患側ADが大きければAD健患差も大きくなるので、患側ADとAD健患差との間に中等度の正の相関を示した。健側ADとAD健患差の弱い負の相関は、健側ADが小さければAD健患差は大きくなる傾向にあることを示した。今後、前方不安定性を制動する他の関節内因子について調査したい。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得た。開示すべき利益相反はない。
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-‘Screening for People Suffering Sarcopenia in Osteoarthritis cohort of Kobe study’ 研究第3報-
和田 治, 栗田 宣明, 紙谷 司, 水野 清典
セッションID: 1-P-A-4-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
大腿四頭筋筋力は変形性膝関節症(KOA)の動作能力を定める.一般に筋力は筋量に比例するが,KOAでは筋力と筋量が必ずしも比例しないと言われる.また,関節障害が進むほど大腿四頭筋筋力が低下すると言われる.従って,KOAでは筋力と筋量の比例関係は関節症が重症度なほど減弱しうるが,この仮説が疫学的に立証されたことない.本研究では, KOAの重症度が1) 下肢筋量と大腿四頭筋筋力の関係性を減弱させるか,2) 大腿四頭筋筋力と動作能力の関係性を減弱させるか, を調べる.
【方法】
SPSS-OKプロジェクトの横断研究.あんしん病院に来院したKOA 571名を対象とした.下肢筋量をBIA法(MC-780A, TANITA社)で1肢毎に測定した.大腿四頭筋筋力の等尺性筋力(Nm)を徒手筋力計 (μTas F1,ANIMA社)で測定した.動作能力の指標としてnew Knee Society Score(KSS)のfunctional movement項目の合計点と, Timed up & go test(TUG)を用いた.1肢毎のKOAの重症度(grade)はKellgren-Lawrence分類で測定した.一般線形モデルを用い,下肢筋量と大腿四頭筋筋力,および大腿四頭筋筋力と動作能力の関係性が、gradeによって異なるかどうかを調べた(交互作用).年齢・性別・糖尿病・脂肪量・KSSの痛み項目・術側・gradeで調整した.さらに個人の両肢を1肢単位で分析するためのクラスター分散補正を行った.有意水準は5%とした.
【結果】
欠測値を除外した結果,下肢筋量と大腿四頭筋筋力の関係では543名,大腿四頭筋筋力とKSSでは545名,大腿四頭筋筋力とTUGでは529名が解析対象となった.1肢の下肢筋量1kg分の増加あたりの筋力向上は, KOA grade 1/2, grade 3, grade 4でそれぞれ6.9 Nm,5.6 Nm,3.4 Nmでいずれも有意だった(交互作用のP = 0.006).KOAのgradeに関わらず,1肢の大腿四頭筋筋力が1Nm分の増加あたり,functional movementでは0.13点有意に増加,TUGでは0.05秒有意に減少した(交互作用のP = 0.30 及び 0.26).
【結論(考察も含む)】
KOAの重症度が高いほど,下肢筋量の増加が大腿四頭筋の筋力発揮につながりにくいことが示された.また,KOAの重症度に関わらず,大腿四頭筋筋力は動作能力と関連した.以上より,軽症KOAでは動作能力改善のため筋量増加を目的とした積極的な大腿四頭筋訓練が有効であるが,より重症のKOAでは,同程度の効果を得るために筋量増加以外の介入(減量など)の併用が必要になると思われた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認を得た. 対象者に研究内容を説明し,書面の同意を得た.
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~等運動性装置での評価報告との比較~
本間 有夏, 小南 由衣, 寺島 尚志, 小川 基
セッションID: 1-P-A-4-7
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】理学療法ガイドラインでは人工膝関節全置換術(以後TKA)後において、漸増的大腿四頭筋筋力増強運動は臨床結果に短期的にも長期的にも好影響を与えると示しており、術後早期からリハビリテーションを実施し膝伸展筋力の回復を図ることが重要と言える。膝伸展筋力の回復過程について、等運動性装置を使用した膝屈曲30°位での筋力は、中木らは術前と比較して術後1~2週で有意に低下し術前の状態までに回復するのに3週を要した、眞田らは術前に比べ術後1カ月と術後12カ月で有意に改善したと報告している。しかし等運動性装置は高価なため、装置を有さず簡便かつ客観的な測定方法があると望ましい。
また戸田らは、既成の膝蓋骨セッティング式筋力測定器の理論を応用して家庭用電子体重計とトイレットペーパーなどのロール紙を使用した膝伸展筋力測定方法を考案し、既成筋力測定器での測定値と有意な相関を示したと報告している。
そこで本研究では戸田らの方法を用い術前後の膝伸展筋力を家庭用電子体重計を用いて評価し、等運動性装置での報告と同様な筋力回復過程を示すかを調査した。
【対象】2015年9月から2017年4月に当院にてTKAを施行した26名32膝(女性21名26膝・男性5名6膝)とした。平均年齢76.2±7.86歳。除外項目は中枢神経疾患と神経疾患の既往のある者とした。
【方法】トイレットペーパーロール紙の芯にヘアスプレーを挿入し、家庭用電子体重計の上においた。まず、患者に圧迫力を加えずにロール紙の上に膝窩部を置かせて、大腿四頭筋非収縮時の下肢重量を計測した。この時の姿勢は、長坐位にて膝屈曲30°位とし両上肢は体側で体を支える程度とした。次いで、膝窩部でロール紙を押し付ける力を5秒間計測し、その期間の体重計計測値の最大値を記録した。体重計計測値の最大値から大腿四頭筋非収縮時の下肢重量を引いた値を、その患者の膝伸展筋力とした。3回計測し計測間に2分の休憩を設けた。3回計測の平均値と体重比を算出した。調査期間は術前、術後1カ月、術後1年とした。
統計学的解析は対応のある一元配置分散分析を行い、事後解析としてBonferroni法による多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】膝伸展筋力は術前では0.165±0.064㎏/weight、術後1カ月では0.188±0.059㎏/weight、術後1年では0.209±0.064㎏/weightであった。術前と比較し術後1カ月・術後1年の各々で有意な改善を認めた。膝伸展筋力の回復率は術後1カ月で121.4±32.2%、術後1年では135.2±42.6%であった。
【結論】家庭用電子体重計を用いて測定したTKA患者における膝伸展筋力は、術前より術後1カ月・術後1年で改善を示し、等運動性装置と同様の筋力評価が可能と言える。
【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た。本研究の主旨およびデータ利用に関する説明を対象へ口頭で行い了承を得た。
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~クロスオーバーデザインを用いた検証~
齊藤 真祐子, 井伊 佑輔, 有田 勲生, 岩城 隆久
セッションID: 1-P-B-4-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
脛骨高原骨折のような運動器疾患は、荷重制限による免荷期間が長期化することが多い。この間に歩行障害、筋力低下、関節可動域制限など二次障害を生じやすくなることが知られている。八幡らは体重免荷においてheel contactにおける大腿-下腿の相対位相にて、膝関節周囲の協調性が低下することを報告している。我々は第52回日本理学療法学術大会において、荷重制限がある期間中に大腿四頭筋とハムストリングスの協調性向上を図る目的で運動学習を行い、その結果、大腿四頭筋とハムストリングスの協調性向上が得られ、膝関節の受動的な運動や痛みが消失したことで二次障害予防の効果に繋がったことを報告した。今回はこの免荷期間中に大腿四頭筋とハムストリングスに対して運動学習の効果が二次障害予防へと繋がるのかを確認するために再検証した。
【方法】
対象は脛骨高原骨折を呈された2名(60歳代、男性)とした。研究デザインはクロスオーバーデザインを使用し、基礎水準測定期(A)は日本整形外科治療ガイドラインに基づき関節可動域練習、筋力練習、荷重練習を実施し、操作導入期(B)はA期間の理学療法に加え大腿四頭筋とハムストリングスを用いた運動学習を行った。各2名A期B期順序を変えて介入行う。運動学習課題は長座位の状態で膝窩部に血圧計のマンシェットを設置し最大圧を確認した後に、その最大圧から半分の圧力(1/2圧力)を運動学習する課題とした。試行回数は20回×5セットの頻度で行った。運動学習中のknowledge of result(KR)は正誤値に対して「強い、正解、弱い」とした。最大圧の1/2±5mmHgを正解としてKRを3施行に1回付与した。
【結果】
先行研究のA期から開始した対象者では運動学習の正答率が上昇するに伴い痛みの改善、過剰な筋活動の改善をもたらし、運動学習後歩行時に二重振り子の原理が出現するようになった。今回のB期から開始した対象者では運動学習の回数を重ねる事に、正答率に大きな変化は見られず、不正解の強い、弱いに変化が見られ「弱い」の誤りは低下し、「強い」の誤りは増加を示した。これは「弱い」からの正答値を探索するのではなく、「強い」から正答値を探索する協調性の向上が見られ、結果的に筋発揮が行いやすくなったことによる結果だと考えられる。また運動学習後には、痛みの変化をもたらし、防御性収縮が消失した。
【結論】
対象者2名共に大腿四頭筋とハムストリングスの筋協調性を伴う運動学習は長期化する免荷期間において有効に作用したと考えられる。今回の運動学習は、運動学習後から過剰な筋活動、関節可動域の改善、痛みの変化をもたらした。つまり、運動学習による大腿四頭筋とハムストリングスの協調性向上が免荷期間における二次障害予防の効果に繋がると言える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を鑑み、本研究の概要、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて事前に説明し、書面にて同意を得たのちに実施した。
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楫野 允也, 対馬 栄輝, 伊藤 成一
セッションID: 1-P-B-4-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
人工膝関節全置換術(TKA)術後長期経過症例における歩行時の上部体幹動揺の程度は動作時の疼痛や立ち上がり,しゃがみ動作などに関連するといわれる(楫野ら,2016).しかし,術前後における体幹を中心とした歩行動揺の変化は明らかでない.そこで,基礎的な知見としてTKA術後症例を対象とした術前および術後歩行時の体幹動揺を計測し,その経時的な変化について比較した.
【方法】
対象は2016年4月~2017年5月にTKAを施行された患者22例(女性17例,男性5例;年齢74.5±10.9歳)とした.術側は右5例,左17例(うち7名は両側)であった.被検者に平地10m路を歩行させ胸椎部と仙骨部の2箇所の加速度センサー(Microstone社製歩行動揺計THE WALKING)にて体幹動揺を測定した.歩行は快適とし杖の使用は許可した.計測は術前および術後3ヶ月,6ヶ月時に行った.3方向で記録された加速度データをもとにゼロ基準位置からの各方向へ変位した量を胸椎部と仙骨部それぞれより抽出した.3方向のうち,左右方向は術側,非術側それぞれに変位した量を折り返し量とした.上下方向は術側,非術側それぞれにおける上下の変位した量を上下移動量とした.前後方向は術側,非術側それぞれの立脚時における後方への変位した量を前後移動量として算出した.その後,胸椎部と仙骨部の相対的な動揺を把握するために,3方向それぞれの変位した量に対して,仙骨部データを胸椎部データで除した仙骨胸椎比(S/T比)を算出した.また,3方向それぞれの胸椎部と仙骨部から抽出した変位した量において,術側データから非術側データを除して対称性の程度を示す,非対称率とした.それぞれのデータは統計解析として反復測定の分散分析にて術前,術後3ヶ月,術後6ヶ月のデータを比較した.
【結果】
左右方向である折り返し量S/T比で術前と術後3ヶ月,6ヶ月の間に有意に差が得られ(p<0.05),術後は胸椎部よりも仙骨部の移動割合が増加していた.上下移動量では術側において術後に移動量の増加が見られた(p<0.05).前後移動量非対称率において差が得られ(p<0.05),術後は術側,非術側における前後移動量の非対称性が減弱していた.
【結論(考察も含む)】
TKA後はFTAの変化などアライメントが変化する.側方動揺においても股関節内転位への変化など骨盤帯による重心コントロールを必要とする変化が生じている.また,前後方向に関して術前は骨盤帯の動揺および非術側への変位が生じているが術後は均等化された.しかし,左右の均等化は術後6ヶ月においても得られず,股関節機能を含めた骨盤コントロールが歩容の安定化に必要であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究にあたり,対象者には研究の目的や意義,参加の任意性を説明し同意を得た.
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柳谷 百映, 対馬 栄輝, 石田 水里
セッションID: 1-P-B-4-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】Kendallら(1993)は矢状面からの立位姿勢を脊柱彎曲・骨盤傾斜・下肢アライメントから4つの典型的な姿勢に分類した.この分類は主観的であり,客観的な指標は提示されていない.例えば矢状面からみた立位に対して鉛直線を引き,いくつかの骨指標との距離という客観的指標をもとにした姿勢分類はできないだろうか.その試みが本研究の目的である.
【方法】対象は,運動器疾患のない健常成人23名(男性13名,女性10名;年齢20.7±1.0歳,身長167.0±6.5cm,体重60.2±9.2kg)とした.デジタルスチルカメラ(カシオ社製EX-FH100:カメラ)を用いて,被検者の利き手側(撮影側)矢状面から立位姿勢を撮影した.被検者の撮影側耳垂・肩峰・上前腸骨棘(ASIS)・上後腸骨棘(PSIS)・大転子・腓骨頭・外果に直径2cm及び2.5cmの赤色球マーカーを貼付した.被検者には撮影側矢状面を垂直にカメラに向けて,足幅10cm,両上肢を自然に垂らした安楽な立位姿勢となってもらった.カメラは三脚上に各被検者の立位時大転子の高さで水平に固定し,被検者から1.5m離して設置した.撮影した画像は画像解析ソフトImage J ver.50.1(フリーウェア)で再現し,ソフト上で各被検者の外果を通る鉛直線を引いた.その鉛直線から耳垂・肩峰・大転子・腓骨頭に対して垂線を引き,各々のピクセル距離を計測した.骨盤傾斜角度は画像上の水平線に対するASISとPSISを結ぶ線の傾きとした.全被検者の各パラメータ(鉛直線~腓骨頭・大転子・肩峰・耳垂の距離,骨盤傾斜角)の平均と標準偏差(sd)を求め,各パラメータごとに平均より小さい・大きい,平均±標準偏差をそれぞれ超えた4段階で評価した.これらのパラメータをもとにして被検者の姿勢を分類するために階層的クラスター分析を行った.クラスタリングの方法にはウォード法,距離測度にはユークリッド距離を用い,出力されたデンドログラムを観察して最も弁別しやすい階層段階でグループ分けした.以上の統計解析にはR2.8.1(CRAN)を使用した.
【結果】デンドログラムによる分類では,①鉛直線からの各パラメータ距離が前方に大きく骨盤前傾が大きい群(男性4名,女性2名),②鉛直線からの下肢の各パラメータの距離が前方に大きく骨盤後傾が大きい群(男性6名,女性2名),③鉛直線からの各パラメータの距離が小さい群(男性0名,女性3名),④鉛直線からの各パラメータの距離が小さく骨盤前傾が大きい群(男性3名,女性3名)の4グループに分けることができた.
【考察・結論】矢状面からの姿勢を分類するために,鉛直線からの骨指標の距離と骨盤傾斜角を利用することは有効と考える.今回の研究では,脊柱の彎曲に対する評価測定は行っていないが,脊柱の彎曲に対する評価方法も確立して加えることができれば,より明確な立位姿勢の分類が可能になると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,筆頭演者所属の倫理委員会により承認を得た(整理番号:HS2016-043).対象者には研究の目的・方法を十分説明した後,書面への署名によって研究参加への同意を得た.
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前田 貴哉, 五十嵐 林郷, 葛西 貴徹, 佐藤 輝, 佐々木 英嗣, 若井 裕司, 佐々木 知行
セッションID: 1-P-B-4-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに】ロボットスーツHAL ®自立支援用単関節タイプ(HAL-SJ)は装着者の意思に従った動作をアシストすることで随意的な運動を可能とするロボットスーツである。近年,HAL-SJを用いた介入が人工膝関節全置換術(TKA)術後早期に生じるExtension Lagを改善させることが報告されたが,筋力や歩行能力に与える影響は不明である。本研究ではTKA術後にHAL-SJでの介入が筋力や歩行能力に与える効果について検討した。
【方法】対象は初回TKA予定の内側型変形性膝関節症患者25名(72.8±7.0歳)とした。対象者は無作為にHAL群と対象群に振り分けた。介入は術後4日目より開始し,週5回の頻度で2週間施行した。HAL群はHAL-SJでアシストしながら膝関節伸展運動を行った。HALの設定について,Standardモード,Assist Gainは膝関節完全伸展が可能な強さ,Angle Rangeは伸展0°,屈曲は疼痛のない最大屈曲角度とした。対象群はHAL-SJを装着せずに膝関節伸展運動を行った。運動回数は両群とも10回×5セットとした。評価は術前,介入終了時,術後4週時点で施行した。評価項目は等尺性膝関節伸展筋力(膝伸展筋力,Nm/kg),10m最大歩行速度(MWS,m/sec),Timed up and Go test(TUG,sec)とした。統計解析では評価項目毎に介入と評価時期の2要因について2元配置分散分析を行い,事後検定を行った。
【結果】膝伸展筋力はHAL群が術前1.1±0.3,介入終了時0.7±0.2,術後4週0.9±0.2,対象群が術前1.1±0.4,介入終了時0.6±0.2,術後4週0.8±0.1であった。介入に主効果は無く(p=0.35),両群とも介入終了時は術前及び術後4週より有意に小さかった(ともにp<0.01)。MWSはHAL群が術前1.1±0.3,介入終了時1.1±0.3,術後4週1.2±0.3,対象群が術前1.0±0.3,介入終了時0.8±0.2,術後4週1.1±0.2であった。介入終了時ではHAL群が有意に早く(p=0.04),時期に主効果は無かった(p=0.14)。TUGはHAL群が術前10.6±3.2,介入終了時11.4±2.8,術後4週9.9±2.5,対象群が術前12.4±4.3,介入終了時14.2±3.5,術後4週11.4±2.5であった。介入終了時ではHAL群が有意に早く(p=0.03),時期に主効果は無かった(p=0.08)。
【結論】TKA術後にHAL-SJを用いた介入を行うことで,膝伸展筋力には明確な効果が認められなかったが,術後早期における歩行能力の改善を認めた。術後早期における膝伸展運動は筋力低下に加え,疼痛や関節腫脹などの神経性因子により困難となる場合が多い。しかし,HAL-SJを用いて膝伸展運動を行うことで正常な運動が可能となり,正しいフィードバックが行われた結果,術後早期における運動機能の改善につながったと考える。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って行われた。対象者には事前に十分に説明を行い,書面にて同意を得た。また,本研究は弘前記念病院倫理委員会の承認を受けた(承認番号29-14)。
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小林 裕生, 藤岡 修司, 廣瀬 和仁, 井窪 文耶, 刈谷 友洋, 田中 聡, 真柴 賛, 加地 良雄, 山本 哲司
セッションID: 1-P-B-4-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【はじめに,目的】
人工膝関節術後の定量的歩行分析において,速度や歩幅,歩行率といった時間距離因子は重要な指標である.時間距離因子は速度性を基準に歩行能力を評価するものであり,歩行効率までは把握できない.歩幅を歩行率で除したものを歩行比(m/steps/min)というが,正常歩行では速度を変化させても一定に保持され,エネルギー効率および協調性の観点から歩行分析が可能な指標である.歩行速度に依存しないため,性別と年代によって異なるが歩行比0.006のパターンが歩幅のばらつきが最も少なくなる.人工膝関節置換術後の理学療法において,歩行能力の改善は重要な課題であり,術後の歩行分析については多数報告されている.歩行比は臨床場面で簡便に評価可能な指標であるが,人工関節術後の経過についての報告はない.人工膝単顆置換術(UKA)後の歩行速度,歩幅,歩行率は健常レベルに近い改善を示すが,エネルギー効率の変化については明らかではない.本研究の目的は,UKA術後の歩行比の経時的変化を検討することとした.
【方法】
対象は,当院にて初回UKA施行された44名(年齢74±7.9歳,BMI25.0±3.6kg/m2,男性13名,女性31名)とした.歩行評価は,独歩,通常歩行速度にて10m歩行テストを行い2回の平均時間と歩数から,歩行速度と歩幅,歩行率,歩行比を算出した.測定時期は,術前,術後3カ月,術後6カ月とした.統計学的検定として,各時期の歩行指標を反復測定による分散分析およびFriedman検定にて比較した.
【結果】
歩行速度(m/s)は術前0.90±0.27と術後6カ月1.01±0.28(p=0.01),歩幅(m)は術前0.49±0.10,術後3カ月0.54±0.09,術後6カ月0.56±0.09すべての時期(p<0.01)で有意差を認めた.歩行率には有意差はなく,歩行比(m/steps/min)は術前0.0045±0.0010と術後3カ月0.0051±0.0011(p<0.01)および6カ月0.0054±0.0012(p<0.01)で有意差を認めた.
【結論】
UKA術後の歩行速度,歩幅,歩行率は先行研究と同様の経過を示した.歩行率は有意な変化はなかったが,歩幅は術後3カ月以降で有意に拡大しており,歩幅が術後の歩行速度の向上に寄与しているものと考えられる.歩行比に関して,健常な同年代男女平均の歩行比は0.0049であり,術前の歩行エネルギー効率は不良であったと考えられる.しかし,術後3カ月以降は同年代の平均値を上回り0.006に近づいたことから,UKA術後の歩行は歩幅拡大に伴い歩行速度だけではなく,エネルギー効率も改善することが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の承認(平成23-037,平成26-078)を受け,対象者には研究の趣旨・目的を説明し,書面にて同意を得た.
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上下 竜平, 小松 徹也, 植村 亮太, 藤井 靖晃, 相馬 遼輔, 長谷 菜穂, 小嶋 翔平, 金田 知江美, 山部 愛奈, 畑中 信吉, ...
セッションID: 1-P-B-4-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行した患者に対する自主トレーニング(以下自主トレ)について、関節可動域の改善に対する報告はあるが、運動の種類や実施回数、指導方法は様々で、術後の運動機能改善に対する詳細な報告はない。当院では術後早期から機能回復を図るため、自己記入式パンフレットを配布し、術翌日から開始できる自主トレを指導している。本研究は術後早期の自主トレの回数がTKA後2週目の運動機能に及ぼす影響について調査した。
【方法】対象は2016年4月~2018年2月の間に当院で片側のTKAを施行し、自己記入式パンフレットを用いて自主トレを指導した32例(男性2例、女性30例、年齢75.9±5.7歳)とした。自主トレは大腿四頭筋セッティング、足関節底背屈運動、膝関節屈伸運動の3種類とし、実施回数は患者に一任した。術翌日から術後2週目までに実施した自主トレの合計回数を14で除した数値を1日当たりの回数とし、その中央値(117.2回/日)で高頻度実施群(以下H群)と低頻度実施群(以下L群)に分けた。術前項目は、年齢とBMI、術側膝屈曲可動域(以下屈曲ROM)と運動機能評価とした。術後項目は、2日目、1週目、2週目のNRSで評価した疼痛スコア(以下Pain)と屈曲ROM、2週目の運動機能評価とその改善率とした。運動機能評価は、10m歩行時間(以下10m)、Time Up and Go テスト(以下TUG)、開眼術側片脚立位保持時間(以下ST)の3種類とし、STは最大計測時間を2分とした。2群間比較は、正規性を認めた項目はt検定、認めない項目または順序尺度はMann-WhitneyU検定で解析した(p<0.05)。
【結果】術前項目で有意差を認めなかった。術後項目はL群の術後2日目のPainが有意に高かった(p=0.04)。また、H群の2週目の10m(p=0.031)は有意に良好で、その改善率(p=0.043)が有意に高かった。その他の項目で有意差を認めなかった。
【考察】本研究は自主トレ回数の中央値でL群(64.4±35.7回/日)とH群(191.3±83.1回/日)に分け、術後の運動機能について調査した。結果から自主トレを積極的に行うには、術直の疼痛コントロールが重要である。また、TKA後2週目の運動機能は、術前と比べ一時的に低下する傾向にあるが、自主トレを1日平均117回実施したH群でその低下を抑えられる可能性が示された。今後は症例数を増やし、自主トレの実施回数や種類による群分けを再検討していき、至適な自主トレプログラムを開発していきたい。
【倫理的配慮,説明と同意】製鉄記念広畑病院倫理委員会の承認を得た。(承認番号:JIMU H28-0028)
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‐AFOの違いが歩行機能に与える効果の運動学的検証‐
村上 敏昭, 佐藤 弘樹, 小野寺 一也, 関 公輔
セッションID: 1-P-C-4-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【症例紹介】
20歳代男性(身長177.0cm、体重62.0kg)、職業は学校教諭。自動車運転中の事故で右大腿骨骨幹部骨折、右膝蓋骨開放骨折を受傷。第11病日に右大腿骨髄内釘固定術施行、第17病日に膝蓋骨にひまわり法を施行し、手術以降右下肢に下垂足が生じた。第53病日に2/3荷重となり、第64病日に当センター回復期リハ病棟へ入棟。入院時、荷重制限下での両松葉杖歩行で下垂足による鶏歩が観察されていたため、装具療法が適応となり数種類の短下肢装具(以下、AFO)を試行した。第85病日に全荷重となり、第105病日に底屈制動付き短下肢装具(以下、油圧式AFO)を作成、第117病日に退院となった。退院時は杖なし歩行が可能であったが、歩行時の右股関節、膝関節周囲の疼痛とデュシェンヌ現象を認め、鶏歩も観察された。一方、油圧式AFO装着下での歩行では裸足歩行と比べ疼痛の軽減と歩きやすさの実感があり、AFOの種類によっても歩容と疼痛に変化が見られた症例である。今回は、油圧式AFOの装着により歩容の改善と疼痛の軽減が認められたことから、三次元動作解析装置を使用して詳細な運動学的解析を行うことで、本症例に生じていた現象を把握し今後の下垂足歩行に対する装具適応の一助にすることを目的に報告する。
【評価とリーズニング】
評価・計測は第100病日に実施した。理学療法所見は、右足関節底屈30度のROM制限があり、右下肢筋力は股関節・膝関節がMMT4~5、足関節背屈は2であった。歩行は、右立脚中期(以下、Mst)で股関節外側部と膝周囲に、右立脚後期から遊脚期に移行する際には股関節前内側部に疼痛が出現し、Numerical Rating Scale(以下NRS)は8/10であった。観察上、裸足時はイニシャルコンタクト(以下、IC)時に下垂足の影響で踵接地(以下、HC)が消失しデュシェンヌ現象が観察された。裸足及び後方支柱型AFO(以下、一体型AFO)装着時と比較し、油圧式AFOでより歩容の改善が認められた。
【介入内容および結果】
計測条件は、裸足と一体型AFO、油圧式AFO 装着下での至適歩行とした。計測は、三次元動作解析装置(VICON社、赤外線カメラ8台)と床反力計(AMTI社製)6枚を使用し、サンプリング周波数は100Hzとした。身体標点は、頭部、上下肢、体幹に45点の反射マーカーを貼付し、3条件で練習後3回計測した。解析区間は右側のICから同側の次のICまでの1 歩行周期とし、歩行速度、歩幅、重複歩距離、両側股関節、膝関節、足関節の各関節角度と骨盤、胸郭の傾斜角度を算出し、条件間で比較した。
歩行解析による関節角度は、IC時右股関節屈曲(以下、単位°、裸足;19.4、一体型AFO;16.1、油圧式AFO;20.2)、右足関節背屈(裸足;-13.0、一体型AFO;-11.9、油圧式AFO;-8.0)、遊脚期の右股関節屈曲(裸足;34.7、一体型AFO;31.6、油圧式AFO;27.7)、右足関節背屈(裸足;-9.3、一体型AFO;-8.5、油圧式AFO;-7.5)であった。右Mstの骨盤傾斜角度(裸足;5.1、一体型AFO;5.4、油圧式AFO;4.3)、胸郭傾斜角度(裸足;3.6、一体型AFO;4.2、油圧式AFO;3.3)であった(+;右傾斜、-;左傾斜)。以上より、油圧式AFOでは右遊脚期での右股関節屈曲運動が少なく、足関節底屈角度が小さい状態でICが可能となり、より前方でHCが確認された。またデュシェンヌ現象の改善も認められた。歩行速度(単位m/min、裸足;73.7、一体型AFO;71.9、油圧式AFO;74.4)と重複歩距離(単位m、裸足;1.29、一体型AFO;1.28、油圧式AFO;1.33)にはわずかに変化が認められ、自覚的な歩きやすさは3条件の中で油圧式AFOが歩きやすく、疼痛はNRS4~6/10であった。
【結論】
本人の自覚的な歩きやすさと疼痛の軽減は、計測指標と一致していた。本症例に対し、油圧式AFOは、ICでのHCとその後の円滑な足関節底屈運動を実現し、理想とされる立脚初期の運動に有効な装具であった。また、右遊脚期の足部背屈補助機構は爪先のクリアランス確保を補償し、股関節屈曲による下肢の持ち挙げを小さくした結果、効率的な下肢の振り出しに反映していると分析した。以上の結果から、末梢神経障害等による足部の背屈運動障害に対し、立脚初期のHCの制御と同時に遊脚下肢の制御に装具機構が適応し、足部機能の補償が全身的な歩行姿勢の改善と疼痛軽減に寄与したものと考察し、今後の立脚、遊脚の関係から歩行機能や装具を検討し、運動障害に対する機能向上を図る一助としていきたい。
【倫理的配慮,説明と同意】
当センター倫理委員会の承認を得た後、対象者には書面と口頭にて研究内容について説明を行い、同意を得て実施した。
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-SF-36における3コンポーネント・サマリースコアを用いて-
井窪 文耶, 小林 裕生, 藤岡 修司, 廣瀬 和仁, 森田 伸, 板東 正記, 田中 聡, 真柴 賛, 加地 良雄, 山本 哲司
セッションID: 1-P-C-4-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】
人工膝単顆置換術(UKA)後において,健康関連QOL(HRQOL)を向上させることは重要な課題の一つである.MOS 36 Short-Form Survey(SF-36)は,包括的にHRQOL を評価できる国際的な尺度である.SF-36には8つの下位尺度得点があり,それらを身体的側面と精神的側面の2つのサマリースコアに要約することが可能である.本邦では,身体的健康(PCS)と精神的健康(MCS)に,役割/社会的健康(RCS)を加えた3コンポーネントに基づくスコアリング法が開発された.PCS は主に身体機能や日常役割に関する項目,MCS は心の健康や健康感,活力に関する項目,RCS は社会生活や身体・精神的役割に関する項目で構成されている.これまで,UKA 術前後のSF-36 における下位尺度得点の変化についての報告はあるが,UKA 術前後の3コンポーネント・サマリースコアの変化についての報告はなく,役割や社会参加を含めたHRQOLの変化は明らかではない.本研究の目的は,UKA 術前と術後3カ月のHRQOL の変化を検討することとした.
【方法】
対象は当院で初回片側UKAを施行され,術前,術後3カ月にSF-36の評価が可能であった17名(年齢73±5.2歳,BMI24.8±3.8kg/m²,男性5名,女性12名)とした.HRQOL の評価には,SF-36を用いた.36項目からなる身体的・精神的な健康状態についての質問に自己記入で回答して頂き,専用スコアリングプログラムでPCS,MCS,RCS の3コンポーネント・サマリースコアを算出した.得点は0~100点で構成され,合計得点が高いほどHRQOL が良好であることを示す.統計学的検定として,術前と術後3カ月のPCS,MCS,RCS を対応のあるt 検定で比較した.有意水準は5% とした.
【結果】
PCS は術前31.1±12.4点,術後3カ月37.9±13.1点と有意な増加を認めた(p=0.04).MCS は術前57.3±9.8点,術後3カ月59.5±10.7点,RCSは術前42.7±17.2点,術後3カ月42.0±15.2点で有意差はなかった.
【結論】
UKA 術後は3カ月以降で疼痛や運動機能は改善するとされており,PCS は術後3カ月において改善したことが考えられる.MCS が改善していないことに関して,自覚的な健康感や心の健康は身体機能の改善に伴い変化するものではなく,社会参加の程度や役割の達成度,活力の改善が必要であることが予想された.また,RCS ついて,UKA 術後の社会参加を含めた活動量は6カ月で改善すると報告されていることから,RCS は術後3カ月では改善に至らなかったと考える.今後は長期的な経過を調査し,PCS,MSC,RCSに関係する因子を明らかにする必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会の承認(平成26-078)を受け,対象者には研究の趣旨・目的を説明し,書面にて同意を得た.
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庄司 一希, 成瀬 廣亮, 久保田 雅史, 桑鶴 孝一郎, 今中 芙由子, 松尾 英明, 渡部 雄大, 前 友理, 北出 一平, 高橋 藍, ...
セッションID: 1-P-C-4-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】
人工膝関節置換術(TKA)後は,早期に歩行獲得が可能である一方で, 歩行遊脚期に膝関節屈曲角度が減少している特徴的な歩容を呈する症例を経験する.またTKA術後3ヵ月時では立脚期の膝関節屈曲角度が増加,伸展モーメントが増加すると報告されている.しかし,より早期の急性期病院退院時(術後2-3週)の歩行の特徴とそれに関連する因子については検討されていない.本研究の目的は, TKA術後早期における歩行パラメーターの特徴とそれに関連する因子を検討することとした.
【方法】
対象は,TKA目的に入院した内側型変形性膝関節症患者21例21膝とした(以下TKA群; 男性8例,女性13例,平均年齢76.1±4.9歳,Kellgren-Lawrence分類grade3 7例,grade4 14例,術前平均FTA184.6±5.1°).対照群は同年代健常高齢者(以下HC群; 男性2例,女性4例,平均年齢75.3±3.3歳)とした.アプローチ方法はmidvastusまたはparapatellar approach,機種は全例CSタイプであった.術翌日にドレーン抜去し荷重,歩行練習を開始した.評価は当院退院時(術後平均17.1±2.5日)とした.歩行分析は,三次元動作解析装置(VICON MX, Vicon Motion System社製)を用いて測定し裸足での自由歩行を測定した.反射マーカーはPlug-In-Gaitモデルに従い貼付した.歩行パラメーターは歩行速度,歩幅,ケイデンス,膝関節の最大屈曲角度(初期接地時,立脚中期,遊脚期),最大伸展角度(立脚期),遊脚期の運動範囲,最大屈曲および最大伸展モーメントを算出した.臨床所見は自動運動での膝関節屈曲及び伸展可動域,膝関節側方動揺性(Prosound 2, 日立アロカメディカル社製)および最大等速性膝関節屈曲及び伸展筋力(BIODEX system 4, BIODEX社製)を測定した.統計処理はSPSS ver. 22.0を使用.歩行パラメーターの群間比較は対応のないt検定を行い,その後TKA群において,有意差を認めた歩行パラメーターと関連性のある因子(年齢,性別,術前FTA,臨床所見)を検討するためにspearmanの順位相関係数を用い相関分析を行った.有意水準は5%とした.
【結果】
TKA群はHC群と比較して,初期接地時の最大屈曲角度が有意に高値を示し,歩行速度,歩幅,ケイデンス,最大伸展角度,遊脚期膝関節運動範囲が有意に低値を示した.しかし,遊脚期の最大屈曲角度に有意差はなかった.その後の相関分析では,遊脚期膝関節運動範囲と膝屈曲可動域に有意な正の相関関係を認めた(r=0.45,p=0.04)が,その他の因子では有意な相関を示さなかった.
【結論(考察も含む)】
急性期病院退院時のTKA後の歩行の特徴は,立脚期での膝関節屈曲角度の増加および遊脚期での膝関節運動範囲の減少であった.また遊脚期の膝関節運動範囲は術後の膝関節屈曲可動域と関連しており,急性期病院退院時では膝関節屈曲可動域の獲得がTKA後の歩容改善に重要である可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、福井大学医学系研究倫理審査委員会の承認を得て行い、全症例に対し研究の趣旨を口頭にて説明し、同意を得た。
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~術前膝伸展可動域、CRP値に着目して~
川﨑 亮佑, 堤 裕太郎
セッションID: 1-P-C-4-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
TKA術後の膝伸展制限が歩行時のエネルギー効率の低下や膝関節伸展モーメントの増大に伴う膝関節前面部痛の出現に関与するとの報告があり,膝伸展制限の予防,改善は臨床的に重要であると言える.TKA術後の膝伸展制限の要因として,冬賀らによると術前の可動域が関与するという報告がある一方でMullen,Schurmanらにより,術前の可動域の関与を否定された報告もある.また,HolmらはTKA術後の腫脹が膝機能に影響するとしているが伸展可動域については検討されていない.本研究ではTKA術前後の膝伸展可動域の関係と腫脹が伸展可動域に及ぼす影響について調べ,その他の術前因子,術中因子,術後因子からTKA術後の伸展制限の要因を追究する事を目的とした.
【方法】
平成28年10月1日から平成30年3月31日までに当院にて人工膝関節置換術を施行された52名とした(男性15名 女性37名 平均年齢74.9±6.1歳).対象を退院時の膝伸展0°から-5°の者を伸展良好群とし,-10°以上の者を伸展不良群とした.術前要因(性別・BMI・術前歩行形態・術前膝伸展可動域),術中要因(FTA術前後差・Joint line術前後差),術後要因(腫脹・歩行開始日・在院日数)をカルテより後方視的に調査した。FTA・Joint line術前後差はレントゲンにて計測し,腫脹はCRP値で評価した.各項目で群間比較を行い,統計学的検定にはMann-WhitneyのU検定,Fisherの直接確率法を用いた.有意水準はいずれも1%未満とした.統計ソフトはJSTAT for Windowsを使用した.
【結果】
術前の伸展可動域のみに有意差を認め(p=0.009),術前の伸展可動域が良好な者の方が術後の伸展可動域も良好であることが分かった.CRP値などその他の項目では有意差を認めなかった.
【結論(考察も含む)】
結果より術前の伸展可動域が術後の伸展可動域に関与することが示された.術中,術後の要因で有意な項目を認めなかったことから,術前より積極的に伸展制限の改善に努める事が重要であると示唆される.本研究の限界として術前の膝伸展可動域の要因は検討されておらず,腫脹に関してはCRP値のみの検討であった.また,退院時の膝伸展角度の計測時期が一定ではなく,術前のJOAスコアの評価は行っていない.今後はこれらの点を含めて検討したい.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従い実施した.
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―足底刺激による姿勢調節機構への影響の検討―
藤岡 大介, 対馬 栄輝, 遠藤 龍之介
セッションID: 1-P-C-4-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
足底にはメカノレセプターが豊富に存在し,レセプターからの感覚情報なしでは,姿勢調節が困難になるという報告(崎田ら,2006)がある.それに基づき足底のレセプターを刺激し感覚情報を増加させることで,静的・動的バランスの改善が見出されている(竹内ら,2002;大杉ら,2013).しかし従来の報告は一定の支持基底面の中で重心を動かす動的バランスであり,支持基底面を絶えず移動させていく歩行動作でのバランス(歩行バランス)で検証されているものは見当たらない.そこで足底刺激介入によって歩行バランスが変化するかどうか検証をすることを本研究の目的とした.
【方法】
対象は下肢に疾患がない男性健常者30人(平均年齢20.4±1.4歳)とした.足底刺激は,被験者に直径6mmのBB弾を敷き詰めた縦横40×40cmの板の上で立位とさせ,メトロノーム(120歩/分)に合わせ1分間足踏みを行わせた.対照条件は平地で同様の足踏みを行わせた.これら2条件を同一被験者に日時を変えてランダムな順番で行わせ,それぞれの足踏み前・直後・30秒後に課題としてタンデム歩行5m(タンデム),左右閉眼片脚立位10秒(左片脚,右片脚)を行なわせた.歩行バランスの測定として第3腰椎部にiPhone6(Apple社)を強固に装着し,本体内臓三軸加速度計を利用した加速度測定アプリケーション(REGREX Co.Ltd.)を用いて各課題時の体幹部の動揺を計測した.得られた経時的データをもとにR3.4.1(CRAN)による自作プログラムを使用し,タンデム・左右片脚の3方向(上下=X方向,左右=Y方向,前後=Z方向)それぞれの,加速度の標準偏差(SD)・変化の範囲(Range)を算出した.各課題で足踏み前・直後・30秒後におけるSD,Rangeそれぞれの差を分散分析にて検定し,post-hoc testは対応のあるt検定(Sheffer補正)を用いた.また,刺激・対照条件間では対応のあるt検定を適用した.
【結果】
足踏み前・直後・30秒後では,SDが刺激条件でタンデムY方向((p<0.05),右片脚Y方向(p<0.01),対照条件でのタンデムZ方向(p<0.05)のみ有意差が認められ,Rangeは刺激条件が右片脚Y方向(p<0.05),タンデムZ方向(p<0.05),対照条件で右片脚Z方向(p<0.01)に有意差が認められた.
条件比較では,SDは右片脚の足踏み後X方向(p<0.05),タンデムの30秒後Y方向(p<0.05)で有意差が認められた.Rangeは足踏み直後で右片脚X方向(p<0.05),タンデムの30秒後Y方向(p<0.05)で有意差が認められた.
【結論(考察も含む)】
介入前後の比較・条件別の比較ともに有意差を認めた項目に統一性はなかったため,足底刺激による動的バランスの改善は得られなかった.この原因として刺激強度が弱かったか,動的バランス測定の課題が平易であった可能性を考える.今回のデータ解析は三方向のSD,Rangeといった単純な差の比較であったが,体幹の揺れを経時的に3次元空間上で捉える方法も検討する必要があると考えた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆頭演者所属施設の倫理委員会承認を受けており,対象者には研究趣旨を十分に説明し,同意を得て行った.
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-部分置換術における前十字靭帯温存の影響-
浮城 健吾, 大越 康充, 三浦 浩太, 川上 健作, 鈴木 昭二, 井野 拓実, 吉田 俊教, 前田 龍智, 鈴木 航
セッションID: 1-P-C-4-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
現在,広く使用される人工膝関節全置換術(TKA)のほとんどは前十字靭帯(ACL)を切除するもの,すなわちACL不全膝である.ACL不全例では歩行において代償運動である,quadriceps avoidance gait,stiffening strategy, pivot-shift avoidance gaitによって膝を安定させている.本研究の目的は,部分置換術後の膝におけるACL温存が歩行動作に及ぼす効果を検討することである.
【方法】
内側および大腿膝蓋関節の二顆置換術19例20膝(BiKA群,70.8±8.6歳),Nexgen LPS-flex PS fixed 11例12膝(TKA群,72.1±7.9歳),そして健常24膝 (健常群,26.8±4.8歳)を対象とした.光学式モーションキャプチャー技術を用い,ポイントクラスター法にて歩行の膝キネマティクスを解析した.また,逆動力学計算により外的モーメントを算出し,統計学的に比較検討した.
【結果】
キネマティクスにおいては,BiKA群で症例間のばらつきが小さかった.TKA群では立脚期を通してより屈曲位であった.立脚期における膝屈伸変化量はTKA群とBiKA群に有意差は認められなかった.荷重応答期における膝伸展モーメント(%Nm/BW×Ht)はTKA群1.5±1.1,BiKA1.4群±1.9,健常群3.3±1.0で TKA群,BiKA群ともに有意に小さかった.また,立脚後期の脛骨内旋モーメント(%Nm/BW×Ht)はTKA群 0.01±0.31,BiKA群 0.24±0.26 ,健常群0.67±0.63でTKA,BiKA,健常の順に有意に小さかった.
【結論(考察も含む)】
TKA群,BiKA群ともに,健常群と比較するとキネマティクス,キネティクスに種々の異常が認められた.しかし,BiKA群においてはTKA群と比較してキネマティクスのばらつきが小さく,各モーメントは定性的に健常に類似していた.また,BiKA群においては立脚後期における脛骨内旋モーメントがTKA群より有意に大きかった.脛骨内旋モーメントの減少はACL損傷膝の代償運動の一つであり,これはBiKA膝におけるACL温存による効果である可能性が示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の生命倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に準拠し実施された.またすべての対象者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た.
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小松 徹也, 上下 竜平, 植村 亮太, 藤井 靖晃, 相馬 遼輔, 長谷 菜穂, 小嶋 翔平, 金田 知江美, 山部 愛奈, 畑中 信吉, ...
セッションID: 1-P-C-4-7
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【目的】変形性膝関節症(OA)に対し人工膝関節全置換術(以下TKA)が施行される症例は近年高齢化しており、術前にバランス能力や移動歩行能力が低下した運動器不安定症(以下MADS)の合併症例が増加している。TKA術後1年の患者満足度に年齢が影響を及ぼす事は報告されているが、術前MADSの合併が術後機能改善に及ぼす影響は明らかではない。本研究では、膝OAに対するTKA症例で、術前MADSの合併の有無により、TKA術後早期の運動機能、関節可動域、疼痛を比較することである。
【対象と方法】対象は2016年4月~2018年3月で、膝OAに対して片側のTKAが施行された43例(基本情報:女性38例、男性5例、年齢76.5±5.4歳、体重60.5±10.7kg、BMI26.6±3.8、入院日数29.2±6.6日)である。MADSは、開眼片脚立位保持時間(以下ST)が15秒未満、Timed Up & Go テスト(以下TUG)11秒以上のいずれか一つ以上で診断される。術前評価よりMADS群29例と非MADS群14例に分けた。運動機能を術前、術後2週、退院時に10m歩行時間(以下10m)、TUG、術側STで計測した。さらに、術前、術後1、2週目、退院時に膝関節屈曲可動域(以下屈曲ROM)を計測し、術後1、2週目にNRSで評価した疼痛スコア(以下pain)を記録した。2群間の比較には、正規性が認められる項目はunpaired-t検定、正規性が認められない項目および順序尺度はMann–Whitney U検定を使用した。各群内での経時的運動機能の比較にはFriedman検定を使用した。(P<0.05)
【結果】基本情報に有意差を認めなかった。運動機能評価では2週目の10mを除き、術前、2週、退院で非MADS群が有意に良好であった(P<0.05)。Painは術後1、2週目で非MADS群が有意に高かった(P<0.01)。屈曲ROMに有意差を認めなかった。経時的変化では、MADS群では2週目の10m・TUGに有意な増加を認めた(P<0.01)がST には有意差を認めず、退院時には全項目で有意差を認めなかった。一方、非MADS群は術後2週目の10mとTUGは有意に増加し、STは低下を認めた(P<0.01)が、退院時には有意差を認めなかった。
【結論】本研究結果により、非MADS群の運動機能は術前から退院までMADS群に比べて良好な値を示した。MADS群では術後2週目の10mとTUGが低下するものの、退院時は入院時と同じ値まで改善したが、非MADS群は2週目に全ての運動機能が低下したが、同様に退院時は入院時と同じ運動機能にまで回復していた。より術前運動機能の高い非MADS群は、手術侵襲により術後2週目では、全ての運動機能が術前より低下していたが、術後早期の疼痛が強い傾向が影響していたと考えられた。術後早期の疼痛コントロールや、リハビリ実施にあたり、患者に術後2週で一旦低下した運動機能が術後1ヶ月程度で術前の運動機能レベルまで回復することを事前に説明することが、術後早期のリハビリ意欲の向上には必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】製鉄記念広畑病院倫理委員会で承認を得た。(JIMU H28-0028)
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小池 祐輔, 対馬 栄輝, 石田 和宏, 木村 正一, 森 律明, 西尾 悠介, 田中 大介
セッションID: 1-P-D-4-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに・目的】
変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)は,除痛やQOLの向上など安定した成績が報告されている.しかし,入院期間中は膝関節機能が良好な経過を辿って退院に至った症例でも,退院後初回診察時(退院後1ヶ月)に歩行時痛が悪化する症例をしばしば経験する.そこで,退院後1ヶ月時の歩行時痛に影響する因子を探索した.
【方法】
2015年9月~2017年7月のTKA後患者のうち筆頭演者が理学療法を担当した65例中データを完備した30例(平均年齢は74.6歳(58歳~88歳),性別は女性25例,男性5例)を対象とした.認知機能の低下,術後せん妄を認めた症例,リウマチや外傷後のTKA症例は除外した.これらの症例に対し,Body Mass Index(BMI),在院日数,杖歩行自立までの日数,歩行時痛(Visual Analogue Scale;VAS),大腿周径(膝蓋骨直上),関節可動域(術側膝関節屈曲・伸展,足関節背屈,非術側膝関節伸展),10m最大歩行時間を評価した.測定は術前,退院時,退院後1ヶ月時とした.全症例とも後療法は翌日より理学療法開始,術後3週間で独歩または杖歩行での退院とする当院クリニカルパスに準じて行えた.退院後は自主的トレーニングを個別に指導し,外来通院による理学療法は行っていなかった.
統計解析は,従属変数を退院後1ヶ月時のVAS,独立変数をその他の検討項目としたステップワイズ法による重回帰分析を適用した.有意水準は5%とした.
【結果】
VASは術前65.5±25.6mm,退院時21.3±15.1mm,退院後1ヶ月時17.7±19.5mmであった.術側膝伸展角は術前-10.8±6.8°,退院時-1.3±5.9°,退院後1ヶ月時-4.1±6.1°であった.重回帰分析の結果,退院後1ヶ月時の術側膝関節伸展角(標準偏回帰係数0.41)のみが選択された(p≦0.05,R2=0.17).
【結論】
術側膝関節伸展角の悪化は,荷重時における膝関節へのメカニカルな負担を増加させるために,歩行時痛に影響したと推察する.以上より,TKA後は,膝関節屈曲角のみならず膝関節伸展角改善にも着目すべきであると考える.また,今後退院後の術側膝関節伸展角に影響する要因を明らかにするためには,歩容や隣接関節の機能,下肢アライメントを含めた多面的な評価が必要であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
既存のデータを用いる観察研究であり,対象から同意を得ることが不可能であるため簡略化した.プライバシーを守り他の目的にしないことを前提に研究データを保管した.また,本研究の結果により今後対象にとって間接的な利益となる可能性がある.必要な評価を利用した後ろ向き研究であるため,不利益は予測されない.
なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.
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武藤 智則, 大熊 一成, 谷川 英徳
セッションID: 1-P-D-4-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【背景】固有感覚受容器が筋や腱,皮膚,関節包,靭帯など関節および関節周囲に多く分布している(Kennendy et al.;1982)ことは広く知られている.TKA後の固有受容機能についてTKA後は固有感覚受容器を切除されるために固有感覚機能が低下する(Pap et al.;2000およびFuchs et al.;1999)とされるが,一方でTKA後に炎症と痛みが改善することにより固有感覚機能は軽度に改善する(Swanik et al.;2004およびWada et al.;2002)とする報告もあり,一定の見解は得られていないのが現状である.
【目的】変形性膝関節症(KOA)により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した患者の膝関節固有感覚の経過を明らかにしその要因について検討することを目的とする.
【方法】対象はTKAを施行した患者33名(男7名,女26名,33膝),神経疾患及び脊椎疾患,関節リウマチ患者は除外した.介入は術後翌日より起立・歩行練習を開始,早期よりLeg lunge等のCKC EXを施行した.評価項目としたKPはLepart(1996)らの方法に準じてBiodex System3(等速性運動装置)を使用し,設定値と実測値との差の絶対値を誤差角度とし3回の平均値を求めた.術前,退院時,術後2ヶ月(2POM)および3POMに測定した.統計解析は一元配置分散分析(p<0.05)を使用した.
【結果】KPは術前5.7±3.4°,退院時6.0±2.8°,2POM 5.0±2.2°,3POM 4.7±1.7°であった.退院時と3POMの間に有意差が認められた(p<0.05).
【考察】KPは退院時と比較し3POMに改善した.先行研究ではTKA後に炎症と痛みが改善することにより固有感覚機能は軽度に改善する(Swanik et al.;2004およびWada et al.;2002)とされており,本研究は同様の結果となった.しかしTKA後は固有感覚受容器を切除されるために術後における固有感覚機能が低下する(Pap et al.;2000およびFuchs et al.;1999)という結果とは一致しなかった.固有感覚に対する運動療法の影響について,標準的な運動療法は加齢による位置覚低下を軽減/回復することができる唯一の方法(Fernando et al;2010),KOAを対象として荷重位運動と非荷重位運動の膝関節覚における効果を検討し,荷重位運動は非荷重位運動より膝固有感覚が有意に改善したと報告(Mei-Hwa et al;2009)したとの報告がある.荷重下の運動は膝固有感覚によい影響をもたらすと考えられており,早期より荷重下で介入を行った本研究を支持していると考えられる.筋紡錘が関節位置覚に重要な役割を果たしている(Voight ML et al;1996)との報告もあり,これらを総括すると,浸襲によって関節包内組織は除去されてしまうが,TKAによって疼痛改善,変形矯正や膝関節滑動性が獲得されること,そして術後の活動性の向上に伴い関節包外組織に存在している多くの固有受容器の機能向上がKPの改善によい影響を与えたのではないかと考えた.
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はさいたま市立病院の倫理委員会にて承認を受け,十分な説明のもと同意の得られた患者を対象とした.
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池田 崇, 松永 勇紀, 田邊 紫織, 宮澤 僚, 神原 雅典, 高木 博, 中村 大輔
セッションID: 1-P-D-4-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】浮き趾と高齢者のバランス能力との関係性についての報告が近年増加している。変形性膝関節症を有する高齢者では膝関節の変形に加えて、外反母趾などの足部の機能障害を有することが多い。人工膝関節全置換術(TKA)は人工股関節全置換術と比べて高齢者の割合が高く、人工関節レジストリの発表でも75歳以上の後期高齢者が主であり、浮き趾を有する患者は一定数存在すると考えられる。本研究の目的は、TKAを施行した患者の浮き趾と術後バランス機能改善に及ぼす影響は明らかにすることである。
【方法】対象は、2017.3~2018.2までにTKAを施行し回復期病棟に入棟した女性患者28例(平均年齢77.5±7.1歳、Co-morbidity index(CMI) 2.2±2.5点、術側片側19例、両側9例)を対象とした。入棟時の術後日数は25.7±7.9日であった。重心動揺計(住友理工株式会社製、「転倒リスク発見システム」)を用いて静止立位時の足圧分布から両側足部の浮き趾の総数を評価した。対照群として整形外科疾患を有しない外来心リハ患者11名(平均年齢67.5±6.3歳、CMI 2.6±2.7点)を評価した。また、TKA患者においてTUG改善率(入棟時~退院時:約3週間)を従属変数とし、入棟時の浮き趾数、健側・患側膝伸展筋力、健側・患側の股関節外転筋力および術側膝伸展ROMを独立変数として、ステップワイズ重回帰分析を行い影響因子の抽出を行った。なお、両側同時TKAを行った患者は膝伸展筋力が高値である側を健側として扱った。
【結果】TKA患者の浮き趾数は2.5±2.6、対照群は5.5±3.2と外来心リハ患者で有意に多かった。TKA患者のTUG改善率は40.9±47.2%、健側および患側膝伸展筋力(健0.33±0.10、患0.19±0.05 kgf/kg)、健側および患側股関節外転筋力(健1.20±0.27、患0.65±0.23 Nm/kg)、術側膝伸展ROM -4.8±6.2°であった。TUG改善率への有意な影響因子は、術側股関節外転筋力のみであった。
【結論】TKA患者の浮き趾数は2.5本であったのに対し対照群の浮き趾は有意に多く、整形外科疾患の有無に関わらず高齢者では浮き趾が多く存在することが示唆された。また、TKA患者の動的バランス能力改善に浮き趾数および膝関節機能は影響しておらず、術側股関節外転筋力のみが有意な影響因子として抽出された。浮き趾は屋外ADLが自立している対照群でむしろ多いことからも動的バランス能力の改善に直接的に影響せず、術側股関節外転筋力は方向転換などの回旋動作を要求されるTUGの改善において重要であることが示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は昭和大学藤が丘病院臨床試験審査委員会の承認(F2017C72)を得た。患者に説明と同意を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。
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倉持 右京, 山上 拓, 上村 洋充
セッションID: 1-P-D-4-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
当院では2017年度より急性期病棟で休日にリハビリテーション(以下リハ)を実施している.現在,急性期病院で休日にリハを行っている施設の報告は少なく,その効果も明らかではない.そこで,本研究の目的として,急性期シームレスリハが人工膝関節置換術(以下TKA)患者の歩行機能に与える効果を検討することとする.
【方法】
2016年3月から2018年5月の期間に当院で初回TKA手術を施行した患者79例を対象とした.除外基準は,認知機能障害・膝関節以外の著明な機能障害を有するものとした.対象者を平日のみリハを行った従来群40名(年齢76.3±7.1歳,男性4名,女性36名)と休日もリハを行ったシームレス群39名(年齢76.6±8.3歳,男性13名,女性26名)の2群に分けた.2群における治療内容に差はなかった.
評価項目は,基本属性として年齢,性別,BMI,術前独歩自立の可否,術後在院日数,リハ実施日数,平均リハ単位数,屋内独歩自立日数をカルテより後方視的に収集した.身体機能評価として膝関節可動域角度(以下ROM)、Timed up and go test(以下TUG)を術前および術後1週,退院時に計測した.
統計解析は,各評価項目をMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を用いて2群間で比較した.また屋内独歩自立日数を目的変数,基本属性,シームレスリハの有無と術後1週ROM・術後1週TUGを説明変数として投入した重回帰分析を用いて要因分析を行った.有意水準は5%未満とした.
【結果】
術前の基本属性・身体機能評価において2群間で有意差は認めなかった.群間比較では,シームレス群でリハ実施日数が有意に多く(p<0.01),屋内独歩自立日数が有意に短縮(p<0.05),退院時ROM屈曲は小さい(p<0.05)結果となった.独歩自立日数を目的変数とした重回帰分析の結果,シームレスリハを行うことで負の作用(β=-0.43),術前独歩可能で負の作用(β=-0.27),術後1週目TUG(β=0.34)が選択された.(修正R2:0.39)
【結論(考察も含む)】
本研究の結果,急性期シームレスリハは従来群と比較して,より多くのリハを提供することができ,屋内独歩自立の獲得が早いことが示された.屋内独歩自立には,先行研究より,術前の身体機能やTUGが指標になると報告されており,本研究でも同様の結果となった.また本研究ではそれに加えて急性期シームレスリハを行うことが,屋内独歩自立の早期獲得に影響を与えることが示唆された.これは,急性期でもシームレスリハを行うことで,毎日の状態変化を鋭敏に捉えることができ,休日でも安静度の調整が可能となったためと考える.本研究の結果より,急性期シームレスリハは在院日数短縮化に則した運用であることが示唆された.また今後の課題・展望として急性期シームレスリハを行うことによる入院中の活動量の変化や退院後の身体機能の経時変化を調査する必要があると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対して本研究における評価の必要性を十分に説明し同意を得たうえで,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,使用データは匿名化処理をした後に解析しているため研究倫理上の問題はない.
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榊原 美里, 植草 泰憲, 佐々木 淳一, 原 杏奈
セッションID: 1-P-D-4-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
人工膝関節全置換術(TKA)は,疼痛の軽減や移動能力の改善,それに伴うQOLの向上が期待できる.TKA術後において多くの施設でクリニカルパスが導入されている.当院においても術後2週での退院を目標としたクリニカルパスが導入されており,効率的に膝関節機能や移動能力の改善を図る必要がある.そのためには術前から術後経過を予測することが重要である.
先行研究より術前の身体機能が術後の運動機能に影響すると報告されている.術後3~4週を退院として杖歩行獲得に要する期間と影響する術前因子について検討している報告は散見されるが,より短期間での退院を目標とした上での杖歩行自立獲得に影響を与える術前因子を検討した報告は少ない.
そこで今回,TKA後患者の杖歩行自立に要する期間に影響する術前因子について検討することを目的とした.
【方法】
対象は変形性膝関節症(膝OA)により当院で片側TKAを施行した8例(男性2例 女性6例)とした.除外基準としては,1年以内に他関節に手術歴を有するもの,認知症と診断されたものとした.
調査項目は,術前の荷重率,Timed up and go test(TUG),10m歩行,30回立ち上がりテスト(CS‐30),膝関節機能とした.荷重率はTANITAのアナログ体重計を用いて,患肢へ最大限に体重を偏位させ約5秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量を測定し体重で除した値とした.膝関節機能は日本語版膝関節症機能評価尺度(JKOM)を用いて評価した.杖歩行自立獲得期間は術後から理学療法士が病棟内杖歩行自立を許可するまでの期間とした.
統計処理は杖歩行自立獲得期間を目的変数, 術前の荷重率,TUG,10m歩行,CS30,JKOMを説明変数としStatcel2を使用し,強制投入法にて重回帰分析を行った.なお統計学的優位基準は危険率5%以下とした.
【結果】
杖歩行自立獲得期間は7日±1.4日であった.
杖歩行自立獲得期間を目的変数とした重回帰分析の結果(p<0.05, R*²=0.33)でありTUGと荷重率が説明変数として選択された.各説明変数は, TUG(p>0.05),荷重率(p>0.05)であり,目的変数と各説明変数の間に優位な関連は認められなかった.
【結論(考察も含む)】
今回の研究では症例数が少なく,杖歩行自立に要する期間に影響する因子について断定できる有意な結果は得られなかった.
しかし,今回の結果から先行研究と同様に術前のバランス機能の影響が大きい傾向にあるのではないかと考える.
今後の展望として,引き続きTKA後患者の評価を行い,杖歩行自立に要する期間に影響する因子を明確にし, 効率的に膝関節機能や移動能力の改善を図るアプローチをしていく必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した.また,当院規定の倫理委員会の承認を得た.さらに対象に研究の趣旨を十分に説明し文書にて同意を得た.
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冨岡 真光, 原田 和宏, 宇治村 信明, 山崎 倫
セッションID: 1-P-D-4-6
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】変形性股関節症術後患者における歩行中の不良姿勢の構築は,跛行の残存,難治化へ陥りやすいことが報告されている。そのため,変形性股関節症患者の歩行異常性に対しては先行研究で多くの歩行解析が報告され,中でも前額面上での観察される現象として,トレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ跛行が広く知られている。それらの歩行異常性に影響する機能的要因としては,いずれも股関節外転筋力の機能不全があるとされ,またデュシェンヌ跛行においては,股関節内転可動域の低下も示唆されている。しかし,これらの先行研究においては,実際に現象間に機能的要因の差が存在するかは明らかにされていない。現象間の機能的要因の差を明確にすることは,歩行異常性に対する後療法において,効果的な治療戦略への一助になり得ると考える。そこで,変形性股関節症術後患者の歩行異常性を前額面上で観察される現象別に分け,現象間における機能的要因の差を比較検討することとした。
【方法】対象は,変形性股関節症術後患者26名(男性2名,女性24名,年齢53.7±15.4歳)とした。除外対象は,70歳以上の者,他の整形外科的疾患を有する者,構造的脚長差が2㎝以上の者とした。方法は,対象者に10m歩行の歩行動画撮影を行い,動画より前額面上における患側立脚中期の静止画を切り出し,Image-Jを用いて体幹傾斜角及び骨盤傾斜角を抽出した。次に,抽出した角度をもとに,前額面上の歩行異常性として先行研究より報告されている現象別へ群分けを行った。機能的要因に対する評価は,患側股関節外転筋力と患側股関節内転可動域を測定した。統計学的解析は,群分けを行った歩行異常性の現象別における,股関節外転筋力の結果と股関節内転可動域の結果に対し独立サンプルのT検定を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】Image-Jの結果より,26名中分類が可能であったのはデュシェンヌ型群(以下,D群)12名(患側への体幹傾斜角:3.1±1.4°,健側への骨盤傾斜角:3.7±1.6°),デュシェンヌ型+逆トレンデレンブルグ型群(以下,混合群)12名(患側への体幹傾斜角:5.6±3.0°,患側への骨盤傾斜角:3.7±2.6°)であった。股関節外転筋力の結果は,有意差を認めなかった(D群:0.2±0.1kgf/kg,混合群:0.2kgf/kg)。股関節内転可動域の結果は,D群(16.3±6.4°)が混合群(9.2±5.6°)より有意に高い値を認めた(p<0.01)。
【結論】D群と混合群間では,混合群にて股関節内転可動域の制限が影響していることが示唆された。今後,対象者数を増やし,トレンデレンブルグ徴候,デュシェンヌ型+トレンデレンブルグ型跛行の観察される現象も含めた,比較検討を行う必要があると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,松山リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者へは参加による不利益が起こらないこと,個人情報が守られることが記載された同意書に,本人の直筆のサインにて同意を得た。個人情報保護に関しては,対象者のコード化を行い,データは研究責任者のみが取り扱うよう配慮した。
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荒川 皓輔
セッションID: 1-P-E-4-1
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
近年,人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:以下,THA)は術後の早期退院に向けた理学療法の関わりが要求されている.THA術後早期は,手術侵襲による患側股関節外転筋の筋力低下が理学療法の阻害因子となることが多い. 交叉教育(Cross Education:以下,CE)は両側性の運動転移による運動学習と筋力増強の両面が含まれたトレーニング方法として広く知られており,術後の外固定や疼痛による運動制限を要する場合に有用であると報告されている.THA術後患者において,患側股関節外転筋に対するトレーニング方法は多く散見されるが,CEによる効果を検討した報告は非常に少ない.そこで,本研究の目的をTHA術後患者の股関節外転筋に対するCEが患側股関節外転筋力の変化率に与える影響について検討することとした.
【方法】
当院で2017年4月から2018年3月の間に変形性股関節症に対してTHAを行った患者を対象とし,2週で自宅退院または転院する当院のクリティカルパスから外れた者を除外した.そのうち,2017年4月〜8月の者を非CE群,2017年9月〜2018年3月の者をCE群とした.各対象者に対し,術直前介入日および退院前最終介入日にハンドヘルドダイナモメーター(μTas F-1, アニマ社製)を用いて患側股関節外転筋力を測定した.介入内容としては両群ともに通常の理学療法介入を行い,CE群には通常介入に加えて健側股関節外転筋に対して最大等尺性収縮の60%強度での股関節外転運動を,10回1セットとして合計3セット実施した.統計解析は,術直前介入日と退院前最終介入日の患側股関節外転筋力(%N・m/kg)から変化率を算出し, Mann-Whitney U検定を用いて検討した.統計にはSPSS statistics23を用い,有意水準は5%とした.
【結果】
対象者は47名であり,CE群32名(年齢:67.5±9.5歳,女性27名,BMI:23.1±4.5)と非CE群15名(年齢:69.4±11.1歳,女性12名,BMI:22.5±6.5)であった.年齢,性別,BMI,術前患側股関節外転筋力において,両群間に有意差は認められなかった.Mann-Whitney U検定の結果,両群間における患側股関節外転筋力の変化率には有意な差が認められなかった(CE群 vs.非CE群 =‐0.4[‐62.0 – 200.0] vs.‐24.0 [‐69.5 – 79.2] , 中央値 [最小 – 最大],p=0.41).
【結論(考察も含む)】
本研究においては,THA術後のCEによる患側股関節外転筋力の変化率に有意な差は認められなかった.先行研究では介入4週以降における効果を示している報告が多いが,本研究における介入は2週であり,効果を示すには短期間であったこと,また,先行研究と比較して各群の症例数が少なかったことが要因として考えられる.今後はより長期間での効果の検証を,症例数を増やして行う必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は対象者に目的・趣旨を説明し,同意を得た上で実施した.また,本研究は当院の倫理委員会における審査(審査No.zn180704)を受けた上で,規定に従い実施した.
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宮地 諒, 森 健太郎, 出口 美由樹, 米倉 佐恵, 波 拓夢
セッションID: 1-P-E-4-2
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【はじめに、目的】
臨床上,自動下肢伸展挙上運動や歩行など種々の課題の中で大腿骨頭の腹側への偏移を有する症例は多く,それに対し股関節安定化運動を実施する場面はしばしばみられる.しかし,副運動の制御についての報告は少なく,股関節安定化運動時の筋活動については明らかにされていない.そのため,本研究は大腿骨頭の腹側方向への負荷に対して股関節安定化運動を行った際の筋厚を測定し,関与する筋を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は下肢や脊柱に関節障害などの既往がなく,日常生活に影響する疼痛がない健常成人男性10名(25.2±4.3歳)とした.測定肢位は背臥位にてベルトで骨盤と大腿骨遠位部を固定した肢位とした.大腿骨頭の腹側方向への負荷は坐骨結節より遠位の大腿部に空気の抜いたボールを挿入し,空気入れでボールに空気を入れた際に10kgfの負荷となるように調節し,負荷を与えた.被験者には負荷が加わった際に負荷に対して負けない程度に保持することを指示した.測定は腸腰筋,小殿筋前部線維,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋を安静時と負荷抵抗時に超音波画像診断装置(LOGIQ e,GE ヘルスケアジャパン社) のBモードにてリニアプローブ(10MHz)を使用し撮像した.腸腰筋は鼠径部中央,小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋は上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の遠位1/3部にて測定した.取得した画像から画像解析プログラムImage Jを使用して各筋の筋厚を計測した.統計解析はSPSSVer.19(日本アイ・ビーエム社)を使用し,安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較は対応のあるt検定,各筋の筋厚変化率(安静時/負荷抵抗時)の比較は反復測定分散分析と下位検定にTukey法を行った.
【結果】
安静時と負荷抵抗時の筋厚の比較では小殿筋前部線維のみ有意に低値(P<0.05)を示したが,その他の筋では有意差を認めなかった.各筋の筋厚変化率の比較では小殿筋前部線維が中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋よりも有意に高値(P<0.05)を示した.
【結論】
大腿骨頭の腹側方向への負荷に対する抵抗時には小殿筋前部線維の筋厚変化が腸腰筋,中殿筋前部線維,大腿筋膜張筋と比較して大きい.そのため,大腿骨頭の腹側偏移に対する股関節の安定化には小殿筋の関与が考えられ,小殿筋にも着目したエクササイズの検討が必要であることが示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には事前にヘルシンキ宣言に基づいて文書と口頭にて研究の意義,方法,不利益等について十分に説明し参加の同意署名を得た上で実施した.
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~股関節の適切な屈曲と伸展運動の獲得と歩行時のトレンデレンブルク徴候の改善を目指して~
指宿 輝, 德田 一貫, 今岡 信介, 大塚 未来子
セッションID: 1-P-E-4-3
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
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【症例紹介】変形性股関節症(以下、股OA)の診断後5年経過し、人工股関節全置換術(以下、THA)を施行した症例を担当した。症例は70代女性。平成25年10月に右股OAと診断され、平成30年5月にTHAを施行した。術前より歩行時のトレンデレンブルク徴候と疼痛回避による代償運動が観察された。理学療法介入後に股関節運動時や歩行時の疼痛軽減と代償運動が改善したため、以下に報告する。
【評価とリーズニング】主訴は、痛みなく歩けるようになりたい。疼痛は、安静時痛(−)、夜間時痛(−)、運動時痛(股関節運動時、歩行立脚中期に股関節深層部の疼痛+)。術前評価のROMでは右股関節屈曲85°(疼痛、以下P)、伸展5°(P)、外転30°、内旋−15°(P)。MMTは右股関節屈曲2(P)、伸展2(P)、外転3、内転2、内旋2(P)、膝関節屈曲2、伸展3(P)、底屈2+(腹臥位での測定)。Thomas testは右側で陽性。股関節屈曲や伸展と内旋では、股関節深層部の疼痛を認めた。X線評価はCE角17°、Sharp角46°、AHI 61%であった。股関節屈曲ROMでは、外腹斜筋の収縮に伴う骨盤挙上運動が見られた。股関節伸展のROMは伸展と内旋に伴う骨盤前傾が見られず、MMTでは膝屈曲位で行う大殿筋の単独の筋収縮を促した運動では、大腿二頭筋の収縮による代償運動を認めた。歩行では、変形性股関節症の罹患期間の長期化に伴い、股関節部の疼痛による疼痛回避の跛行や疼痛による荷重不足に伴う下肢機能の低下を招き、不適切な下肢体幹筋群の収縮や運動パターンを形成したと考えられた。右立脚初期では、骨盤左回旋位で股関節軽度外旋位にて屈曲減少が観察され、股関節屈曲と内旋のROM制限に加えて立脚初期で求められる大殿筋の筋力低下によるものと推察した。右立脚初期から中期は、骨盤水平位を保持できずに右側骨盤の挙上を認め、トレンデレンブルク徴候が観察され、中殿筋の遠心性収縮の筋機能低下によるものと推察した。右立脚中期から後期では、体幹軽度屈曲と右回旋位で右側骨盤挙上に伴う右回旋位となり、股関節伸展と内旋のROM制限と腸腰筋の遠心性収縮の筋機能低下により股関節の伸展減少と軽度外旋位となり、下腿三頭筋の遠心性収縮の筋機能低下により足関節背屈が減少していたと推察した。右遊脚終期では、股関節屈曲のROM制限や外腹斜筋の収縮に伴う体幹軽度屈曲、骨盤左回旋の代償運動となり、股関節内旋のROM制限により軽度外旋位となり、大腿四頭筋の筋力低下による膝関節伸展運動の減少と推察した。
【介入内容および結果】最終評価時(術後18日後)の股関節ROMでは、術後に構造学的な問題が改善されると共に股関節深層部の疼痛が消失し、屈曲は外腹斜筋の収縮による骨盤運動を抑制しながら屈曲を促すことで、ROMが105°まで改善した。股関節の内旋では、股関節外旋筋群のストレッチとリリースを実施し、内旋のROMが10°まで改善した。股関節伸展は腸腰筋の柔軟性低下に対するストレッチを行うことで柔軟性が向上し、Thomas testが陰性となり、骨盤の前傾と股関節の内旋を促すことで伸展のROMが20°まで改善した。歩行時の右立脚初期では、大殿筋の筋力増強を図ることでMMTが4まで改善し、内旋のROMが改善したことにより代償運動が消失した。右立脚初期から中期にかけて、中殿筋の遠心性収縮を促すことでMMTが4まで改善し、骨盤挙上の減少に伴いトレンデレンブルク徴候が改善したと考えられる。右立脚中期から後期では、股関節伸展と内旋のROMが拡大したことと腸腰筋の遠心性収縮機能の改善を促したことにより、歩行時の股関節伸展が観察され、下腿三頭筋の遠心性収縮機能の改善を促すことでMMTが4まで改善し、歩行の立脚後期の足関節背屈が観察された。右遊脚終期では、適切な股関節屈曲運動の獲得とROMが拡大したことにより、外腹斜筋の収縮に伴う体幹と骨盤の代償運動による振り出しが消失した。また股関節内旋のROMが拡大したことにより股関節軽度外旋運動が消失し、大腿四頭筋の筋力増強を図ることでMMTが4まで改善し、膝関節伸展が観察された。
【結論】変形性股関節症の罹患期間の長期化に伴い、歩行時の代償運動が出現したと考えられる症例に対しては、現病歴の経過を適切に捉え、股関節機能に加えて膝関節や足関節の下肢機能にも焦点をあてアプローチする必要がある。
【倫理的配慮,説明と同意】対象症例には、目的や内容、測定データの取り扱いに関しての説明を十分に行い、書面での同意を得た。
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村田 宙, 佐々木 幹, 石川 雅樹, 高窪 祐弥, 髙木 理彰
セッションID: 1-P-E-4-4
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
日本整形外科学会股関節疾患質問票(以下JHEQ)は股関節疾患を有する患者において、近年日本の生活に沿った臨床的な評価方法として普及し股関節・膝関節機能や歩行速度などの関連性が報告されてきた。Hip Spine Syndromeの観点から、股関節との隣接関節である骨盤や腰椎は、股関節機能を推し量る上で重要な要素であると考えられる。しかし、体幹の機能との関連性を示した報告は渉猟した限り認められない。そこで本研究の目的は変形性股関節症患者における体幹運動機能とJHEQとの関連性を検討することとした。
【方法】
2015年から2016年までに当院にて人工股関節全置換術(以下THA)を受けた24名を対象とした。内訳は片側例が12名、両側例が12名(片側のみ初回6名、片側THA済み6名)であった。
評価は、X線学評価として術前の立位腰椎コブ角を計測した。体幹の機能評価として、田篭らが提唱した坐位側方傾斜刺激とした。方法は両側方に15度傾斜する傾斜板を水平にし、その上に端坐位をとらせ予告なく傾けて立ち直り反応を動画撮影した。予め対象者には第7頸椎棘突起、第12胸椎棘突起、第5腰椎棘突起、両側の後上腸骨棘にマーカーを貼付し、刺激前後での各マーカーのなす角から得られる胸椎と腰椎の側屈角度を動画解析し計測した。左右2ずつ測定し胸椎、腰椎の側屈角度の平均を測定値とした。得られた測定値から左右の胸腰椎側屈角度に対する腰椎の側屈角度の割合を求めた。測定時期は術前時と術後5週時点とし、同時にJHEQに関しても回答を求めた。
統計解析は、術前後における腰椎側屈割合とJHEQスコアの比較検討と、腰椎側屈割合とJHEQスコアの相関関係を求めた(スピアマンの順位相関係数)。統計ソフトはR(ver.2.8.1)を使用し統計学的有意差は5%未満とした。
【結果】
術前後における各評価の結果、術後全ての評価について有意に改善を示した。
有意であった相関関係は、術前腰椎側屈割合と術前JHEQスコア「不満度」、「動作」、「合計」で相関係数はそれぞれ-0.51、0.45、0.42(p>0.05)であり、術後JHEQスコア「動作」、「メンタル」、「合計」においてもそれぞれ0.42、0.47、0.46(p>0.05)と相関関係を認めた。術後腰椎側屈割合からは有意な関連性は認めなかった。
術前腰椎側屈割合の低値を示した症例の多くは両側例であり両側例の半数は術前立位コブ角が10°以上であった。
【結論(考察も含む)】
本研究の結果、術前腰椎側屈割合と術前後JHEQスコアとの関連性が示唆された。要因としては、両側例の腰椎側屈割合が低値を示す傾向があり、かつ、両側例の半数はコブ角が大きく、初回片側のみTHAの症例が6名入っていることで片側例に比べて臨床成績が低下したことが考えられる。以上のことから両側例については術後体幹運動機能が改善しても臨床成績が十分に回復しないことが考えられる。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は山形大学医学部倫理委員会の承認を得た。(承認番号283)全ての対象者に書面にて研究の趣旨を説明し同意を得た上で署名を取得した。
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~術後1週時の患肢荷重率に着目して~
吉池 章吾, 櫻井 進一, 林 有理
セッションID: 1-P-E-4-5
発行日: 2019年
公開日: 2019/08/20
会議録・要旨集
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【はじめに、目的】
近年急性期病院では在院日数の短縮化が進んでおり、当院大腿骨近位部骨折(以下FNF)術後患者の平均在院日数は19.9日,リハ平均実施日数は15.2日であり、早期からの転帰先や予後予測の検討が必要とされている。
FNFの歩行再獲得予後予測因子として年齢,受傷前歩行能力,認知機能低下,術式,CVA既往,骨折型等が挙げられている。また転帰先を決定する際、移動能力の再獲得が特に重要である。術後早期での歩行再獲得の予後予測に関してはセラピストの経験則に基づいていることが多い。
谷らはFNF術後4週以内で受傷前歩行を再獲得した群としなかった群において、受傷前歩行能力の再獲得に最も関連する要因は患肢荷重率であり、術後1週時患肢荷重率は受傷前歩行能力の早期再獲得を予測する指標になり得る可能性を示唆している。
本研究では、在院日数約2週間の当院において術後1週時患肢荷重率が移動能力予後予測因子として有用かを検討した。
【方法】
2017年1月~2018年3月に当院で手術,PT施行となったFNF患者118例のうち、受傷前杖なしまたは杖歩行が可能で、認知機能の低下やCVAの既往,術後荷重制限や骨折治癒の問題のない19例を対象とした。
患肢荷重量の計測は、術後1週時に平行棒内で行った。測定肢位は上肢支持なしで行い、支持なしで測定困難な場合は片手支持,両手支持へ適宜変更して行った。立位保持時間は5秒間とし3回計測を行ない、そのうちの最大値を用いた。得られた荷重量(kg)を体重(kg)で除し、算出した値を患肢荷重率(%)とした。
対象19例を後方視的に当院退院時移動能力で杖歩行以上の群6名(以下 杖以上群)と歩行器歩行以下の群13名(以下 歩行器以下群)の2群に分け、有意水準を5%としLeveneの検定とt検定を用いて比較した。統計処理ソフトはJMP13を使用した。
【結果】
術後1週時の患肢荷重率の平均値は杖以上群65%,歩行器以下群64.2308%であった。2群間においてP値=0.9247(>0.05)であり、有意差は認めなかった。
【結論(考察も含む)】
退院時移動能力が杖以上群と歩行器以下群の2群間において、術後1週時の患肢荷重率に有意差は認められず、当院の在院日数の中での術後1週時の患肢荷重率は転帰先・歩行能力再獲得の予測には有用でない可能性が示唆された。石橋は骨折部の疼痛は1週から2週で消失し、骨折時に生じた軟部損傷や手術侵襲による軟部組織の疼痛は通常3週間以内に軽減するとしている。疼痛と患肢荷重率に負の相関があることは他の研究でもすでに報告されており、今回差が出なかった要因としてこれらの影響も考えられる。
また、今回対象例が少なく統計的に差が出にくかったことも考えられるため、更に対象例数を増やし検討する事が必要である。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究についてはヘルシンキ宣言を遵守し、当院倫理審査委員会の規定に基づいて実施された。また個人情報保護のため得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。
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