理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
選択された号の論文の2036件中251~300を表示しています
口述演題
  • 木村 鷹介, 山田 実, 石山 大介, 西尾 尚倫, 國枝 洋太, 小山 真吾, 大路 駿介, 市川 雄大, 前堀 直美, 永江 浩史
    セッションID: O-4-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     アンドロゲン抑制療法(ADT)は、アンドロゲンの分泌を抑えて前立腺癌細胞の増殖を抑制する治療であり、前立腺癌における薬物療法の根幹をなす。一方で、ADTは男性ホルモンの分泌量を極端に抑制するため、加齢の影響以上に骨格筋の量的・質的な特性を変化させ、サルコペニア肥満を招きやすいと考えられている。しかし、本邦においてADT中の前立腺癌患者におけるサルコペニア肥満の有病率や骨格筋特性を調査した報告は少ない。そこで本研究の目的は、ADT施行前立腺癌患者におけるサルコペニア肥満の有病率および骨格筋特性を明らかにすることとした。

    【方法】

     対象は、ADT施行外来前立腺癌患者とし、重篤な骨関節疾患、中枢神経疾患を有する者は除外した。サルコペニアの判定は、AWGSの診断基準に従った。肥満の定義は、体脂肪率25%以上とし、サルコペニアと肥満の組み合わせによって対象を4群に分類した(①サルコペニア肥満、②サルコペニア単独、③肥満単独、④ノーマル)。調査項目は、基本属性、医学的情報、身体機能に加え、骨格筋特性として出力、質、量の指標を測定した。“出力の指標”では、徒手筋力計により膝伸展トルク(Nm)と膝伸展トルク体重比(Nm/kg)を測定した。“量の指標”では、生体電気インピーダンス法により計測した四肢骨格筋量(SMI)と大腿部筋体積量、超音波画像診断装置による大腿前面筋の筋厚を測定した。さらに“質の指標”では、膝伸展トルクと大腿前面筋厚よりmuscle quality(Nm/cm)を算出した。統計解析では、これら測定値を4群間で比較するために、一般線形モデルを用いて分析した(アウトカム:各測定項目、要因:4群)。さらに、有意差が認められた項目についてはBonferroni法による多重比較検定を行った。

    【結果】

     ADT施行前立腺癌患者89名(79.8±6.4歳、全例男性)が対象となり、内訳はサルコペニア肥満12名(85.9±4.4歳)、サルコペニア14名(82.9±4.2歳)、肥満34名(79.4±6.4歳)、ノーマル29名(76.2±6.4歳)であった。サルコペニア肥満の有病率は13.5%であった。一般線形モデルの結果では、大腿直筋の筋厚を除く全ての項目で有意差を認めた(p<0.05)。多重比較検定の結果では、“量の指標”であるSMIは、ノーマル・肥満と比較してサルコペニアおよびサルコペニア肥満で有意に低い値を示した(p<0.01)。筋体積量では有意な群間差はなかった。“質の指標”であるmuscle qualityと“出力の指標”である膝伸展トルク体重比では、いずれもサルコペニア肥満で最も低い値を示し、ノーマルと比較して有意に低かった(p<0.05)。

    【結論】

     ADT中の前立腺癌患者は、地域在住高齢者を対象とした先行研究と比べてサルコペニア肥満の有病率が高いことが示された。また、サルコペニア肥満を有する者は、骨格筋の質および出力の指標が顕著に低下した状態であることが示された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は筑波大学倫理審査委員会の承認を得たうえで、ヘルシンキ宣言に則って実施した。

  • ~回復期リハビリテーション病棟における検討~
    田中 拓樹, 中里 未央, 岩崎 留巳子, 石田 真奈, 高瀬 真衣, 増谷 拓治, 朽原 努, 竹本 朋子, 諫武 稔
    セッションID: O-4-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】近年、回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)におけるリハビリテーションと栄養の研究より、FIM利得に対して、入院時の低栄養、入院中の摂取エネルギーとの関連が報告されてきている。しかし、入院時FIM運動項目と食事摂取状況についての報告は十分と言えない。そこで今回、回復期リハ病棟の入院時FIM運動項目と食事摂取状況、筋量の指標である下腿最大周径(MCC)、体重、基本情報との関連調査を目的とした。

    【方法】対象は2015年6月~2016年5月の間に当院回復期リハ病棟に入院した患者345名の内、70歳未満、下肢免荷やベッド上指示の安静度制限者、非経口摂取者、糖尿病によるエネルギー制限者を除外した50名とした。

     調査項目は、年齢、性別、体重、BMI、入院疾患、発症(ope)からの日数、FIM運動項目、FIM移動項目、非患側MCC、認知症の有無(HDS-R20点以下を有)、食事摂取状況(摂取エネルギー/㎏/日、食事摂取割合)とし、全て入院時の値を後方視的に電子カルテより収集した。統計解析は、Spearmanの順位相関係数において、FIM運動項目と相関のあった上記調査項目と交絡因子となる年齢、発症からの日数を説明変数とし、FIM運動項目を目的変数とした重回帰分析を行った。統計解析ソフトはSPSS16を使用した。

    【結果】年齢83.3±6.6歳、男性率24%、疾患割合(整形疾患74%、脳血管疾患26%)、認知症率50%、FIM運動項目47.7±15.9点、FIM移動項目中央値1点(四分位範囲4)、体重47.0±6.6kg、BMI20.5±2.6kg/m2、MCC28.0±2.4cm、発症からの日数21.6±11.2日、摂取エネルギー/㎏/日29.3±7.0kcal/kg/日、入院時食事摂取割合中央値0.98%(四分位範囲0.17)であった。

     入院時FIM運動項目に対して、年齢、認知症の有無、MCC、FIM移動項目に相関が見られ、それらの変数において、交絡因子として年齢、発症からの日数で調整した重回帰分析を行った。最終的にMCC(標準偏回帰係数0.383 P<0.05)、FIM移動項目(標準偏回帰係数0.540 P<0.01)、調整済みR2乗0.507であった。多重共線性については、VIFが10を超える変数なく、残差の分析はダービン・ワトソンの検定2.215、シャピロ・ウィルク検定0.278と良い結果が得られた。

     また、食事摂取割合8割以上・未満を目的変数、以上調査項目を説明変数としたMann-WhitneyのU検定から入院時FIM移動項目に有意差がみられた(P=0.014)

     今回の対象者が発症からの日数21.6±11.2日という亜急性期患者であったため、入院時FIM運動項目に対して、摂取エネルギー/㎏/日の関連は認められず、筋量の指標であるMCCとFIM移動項目との関連が認められる結果となったことが考えられた。

    【結論】回復期リハ病棟入院時の段階では、FIM運動項目に関して、摂取エネルギーの影響よりも、元々のサルコペニアの影響が考えられ、FIM移動項目に関しては食事摂取割合の影響を受ける可能性が考えられた。

    【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言のもと、本研究を行った。また当院倫理委員会の承認後、研究を行った。

  • 山田 忠明, 雑賀 仁美, 中野 真也, 泉谷 健太朗, 笠原 克己, 入江 保雄, 高宮 尚武
    セッションID: O-4-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】高齢者の低栄養は非常に多く、栄養状態に合わせたリハビリテーション(以下、リハ)を実施する必要がある。生活への意欲もリハ効果や食事動作との関連が報告されている。また、在宅高齢者においては他職種を含めた包括的なケアが必要である。今回は訪問リハ利用者の摂食嚥下機能と栄養状態、自己の栄養状態の理解と生活への意欲について検討した。

    【方法】対象は、平成29年6月から10月まで、当院訪問リハを3か月以上継続実施した利用者61名(男性24名、女性37名で年齢80.7±7.4歳)とした。栄養状態はMini Nutritional Assessment-Short Form(以下、MNA-SF)を使用した。聖隷式嚥下質問紙を用いて、質問項目を「肺炎の既往」「栄養状態」「咽頭機能」「顎口腔機能」「食道機能」「声門防御機構」の6項目に分類し、各々リスクの有無で群分けし、リスクあり・なし群をMNA-SFおよび生活の意欲と比較した。生活の意欲の指標はVitality Index(以下、VI)を使用した。また、現在の栄養状態が十分足りていると思うかを本人に聴取した。検定はt検定を使用して有意水準は5%未満とした。

    【結果】咽頭機能および顎・口腔機能にリスクがない群がMNA-SFに有意に高値を示した。また、栄養状態が十分であると思っている群はVIが有意に高値を示した。その他は有意差を認めなかった。

    【結論】訪問リハ利用者では咽頭機能および顎・口腔機能にリスクがある場合にMNA-SFが低値であることがわかった。高齢者においてこれらの機能に問題が多いことはすでに報告されており、同様の結果となった。咽頭機能および顎・口腔機能の問題は、加齢により咀嚼嚥下関連筋力が衰えることも原因として挙げられ、摂食時の姿勢やポジショニングによっても引き起こされる可能性がある。また、栄養状態が十分であると理解している人ほどVIが高値を示すことからも、その人に合った食形態や食事内容を正しく指導することも重要であることがわかった。訪問リハにより咀嚼嚥下関連筋の機能向上やポジショニング等で摂食嚥下環境を整備することが低栄養防止につながる。在宅生活者への訪問栄養指導件数は非常に少ないため、必要時には言語聴覚士による摂食嚥下指導や管理栄養士による訪問栄養指導などの介入につなげ、包括的サポートが必要であると考えた。在宅で生活する利用者の環境を整え、摂食嚥下の機能向上を図ることは、低栄養防止とともに生活の意欲を向上させることに繋がると考えた。今後は訪問リハや訪問栄養指導などの包括的ケアが介入した場合の効果についての長期的な検討が必要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭にて研究の趣旨を十分説明し、了承を得られた者を対象とした。全対象者のデータは個人が特定できない様に配慮した。

  • 備瀬 隆広, 長野 文彦, 河崎 靖範, 槌田 義美, 吉村 芳弘
    セッションID: O-4-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】 全身性炎症は悪液質や生命予後に関連することが知られているが、脳卒中における知見は乏しい。本研究では脳卒中回復期における全身性炎症とサルコペニア、機能的予後との関連について検討した。

    【方法】 2年間(2015-2016年)に当該病棟に連続入院した脳卒中患者を対象とした後ろ向きコホート。発熱や急性感染症の患者は除外した。全身性炎症は血清AlbとCRPを組み合わせたmodified Glasgow Prognostic Score(mGPS)で評価した。サルコペニアの診断には体組成分析(InBody S10)による骨格筋指数(SMI)と握力を調査し、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の基準を用いた。年齢、性別、体格指数(BMI)、脳卒中病型、ADL(FIM運動)、認知(FIM認知)、栄養状態(MNA-SF、熱量蛋白摂取量)、摂食・嚥下状況レベル(FILS)、併存疾患重症度(CCI)、病前ADL自立度(mRS)、下肢麻痺の程度(下肢Br.S)、脳卒中歴、等を調査した。単変量解析および多変量解析を用いてmGPSとサルコペニア、退院時FIM運動との関連を調査した。

    【結果】 解析対象者は204人(男性109人, 女性95人、年齢73.6±12.3歳)で、脳梗塞127名、脳出血62名、クモ膜下出血15名。対象者のうち、123人(60.3%)がサルコペニアと診断された。mGPSスコアはmGPS 0(151人)、mGPS 1(40人)、mGPS 2(13人)。サルコペニアと診断された脳卒中患者では、Alb、栄養状態が有意に低く、CRPは有意に高かった。多変量解析では、脳卒中歴(オッズ比1.890、95%信頼区間1.127-4.110、p=0.027)、BMI(オッズ比0.858、95%信頼区間0.753-0.978、p=0.022)、mGPS(オッズ比1.380、95%信頼区間1.011-1.960、p=0.021)はサルコペニアと独立して関連していた。mGPSスコアによる退院時アウトカムの比較では、退院時のFIM運動、SMI、握力、AlbはmGPSスコア間で有意差を認めた。また、年齢、性、病型、入院日数、脳卒中歴、FILS、入院時FIM運動、入院時FIM認知、栄養状態、サルコペニアの有無、下肢Br.S、mRSで調整した多重回帰分析ではmGPSは退院時FIMと独立して関連していた(β=−0.130、p=0.038)。

    【結論】 全身性炎症は脳卒中回復期のサルコペニアおよび機能予後と独立して関連していた。脳卒中回復期患者の全身性炎症の把握と、全身性炎症を軽減する包括的な対策(リハビリテーション+栄養療法+薬物療法)が必要であると示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り、研究前に院内倫理委員会による承認を得た。また、全ての対象者から十分な説明の上の同意を口頭で取得した。障害などにより対象者本人から同意取得が困難な場合はその代理人より取得した。

  • 佐藤 圭, 三浦 遼平, 秋山 寛治, 貞松 俊弘
    セッションID: O-4-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    これまで大腿骨近位部骨折術後患者の治療成績に関して、Functional Independence Measure(以下FIM)や歩行能力に関する報告は多くされているが、入院期間と栄養状態を関連づけた報告は少ない。そこで本研究では大腿骨近位部骨折術後患者を対象に、栄養状態に関する様々な項目を用いて、入院期間と関連する因子を抽出することを目的とした。

    【方法】

    2016年9月から2017年1月までに大腿骨近位部骨折のために入院した者を対象とした。取り込み基準を、75歳以上の者、当院または他院で観血的骨接合術を施行した者、当院回復期を経由し自宅以外に退院した者とした。目的変数を入院期間とし、説明変数として栄養状態に関する項目である入院時のアルブミン・総蛋白・Body Mass Index(以下BMI)、回復期転棟時の左右握力・左右上腕周径・左右下腿最大周径を取り上げた。その他の説明変数として年齢、介護保険、入院時または回復期転棟時の改定長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)、回復期転棟までの日数・FIM(運動及び認知項目)・Barthel Index(以下BI)を取り上げた。これらの変数について単変量・及びに多変量解析を行い、入院期間と各因子との相関を算出した。統計ソフトはSPSS Statistics 17.0を用い、有意水準はp≦.05とした。

    【結果】

    対象期間中に同疾患で入院した29名の内、取り込み基準を満たした者は12名であった。

     入院期間と回復期転棟時の運動FIM(スピアマンの相関係数[以下ρ]ρ=.794,p=.002)、認知FIM(ρ=.647,p=.023)に有意な正の相関が見られた。栄養状態に関する項目ついては、利き手の握力(ρ=0.531,p=.076)、入院時のアルブミン(ρ=‐.520,p=0.83)に相関傾向が見られたが有意ではなかった。栄養状態に関する項目において有意な相関が見られなかった理由として、対象者数が少なかったこと、家族や退院先施設による日程調整の影響が考えられる。回復期転棟時の運動FIM、認知FIMと入院期間が有意な正の相関となったのは、回復期転棟時の能力が高いほど高い自立度が求められる施設に退院する傾向があり、その能力を獲得する必要があるためと考える。

    【結論】

    回復期を経由し自宅以外に退院した、大腿骨近位部骨折術後の75歳以上の者を対象に、入院期間に関する因子を抽出した。入院期間と正の相関が見られたのは、回復期転棟時の運動FIM、認知FIMであり、栄養状態に関する項目では有意な相関は見られなかった。栄養状態に関する項目のみでは入院期間と有意な相関は認められなかったが、自立度別もしくは栄養状態に関する評価別にグループ分けし、経過観察を行うことで有意差が出る可能性があるので今後の課題としたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、倫理的配慮の下行われた。

  • 井上 達朗, 三栖 翔吾, 田中 利明, 垣内 優芳, 筧 哲也, 岩田 健太郎, 坂本 裕規, 中馬 優樹, 小野 玲
    セッションID: O-4-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    大腿骨近位部骨折患者の発症後1年の死亡率は20-30%と高い。急性期病院退院時のADL能力が死亡率に影響すると報告されており、術後早期からのADL能力の改善は重要である。また、同疾患患者は術後の食事摂取量 (Energy Intake:以下EI) 低下が報告されている。その為、EIを増加させる為の多くの栄養介入が行われているが、2016年のCochrane reviewでは栄養介入が死亡率を減少させるとの根拠は不十分であるとしている。また、複数のRCTが栄養介入はADL改善に寄与しない事を報告している。しかし、これらのRCTは認知症患者や低栄養患者を除外する事が多く、一般的な同疾患患者における術後EIとADL改善の関連は明らかではない。本研究の目的は、大腿骨近位部骨折患者における術後EIが急性期病院入院中のADL能力改善に関連するかどうかを検討する事とした。

    【方法】

    本研究は前向き観察研究とした。対象は急性期病院3施設に入院した大腿骨近位部骨折患者のうち、入院前からの嚥下障害例、受傷前歩行不可例等を除外した200名とした。ADL能力の改善は術後のFIM効率(術後FIM運動項目利得/術後在院日数)を用いて評価した。対象者は以下の手順で3群に分類した。まず、術後翌日から7日目までの1日当たりのEI の平均値をカルテより算出した。次にHarris-Benedict式を用いて算出した基礎エネルギー必要量にストレス係数 (1.1)と活動係数 (1.2) を掛けた値を総エネルギー必要量 (Total Energy Expenditure: 以下TEE) として算出した。EIを TEEで除した値をエネルギー充足率とした。エネルギー充足率が70%未満を非充足群、 70%以上100%未満を中間群、100%以上を充足群とした。統計解析は、FIM効率を目的変数、エネルギー充足率による群分けを説明変数とし、年齢、性別、BMI、待機日数、握力、認知機能、受傷前歩行能力、MNA-SF、食種変更の有無、併存疾患、術後合併症を交絡変数とした重回帰分析を行った。

    【結果】

    非充足群 73名(36.5%)、中間群 92名(46.0%)、充足群 35名(17.5%)であった。FIM効率中央値は非充足群から順に0.85 (最小–最大値 0.44–1.45)、1.18 (0.77–1.77)、1.36 (0.88–1.87) point/day (P < 0.01)であった。重回帰分析の結果、エネルギー充足率とFIM効率は有意な関連を認めた(非充足群, standardizedβ= –0.14; reference: 充足群; P = 0.03; R2 = 0.25)。

    【結論】

    本研究により、エネルギー充足率が70%未満の患者はADL改善が小さくなっていたことが示された。本研究結果は術後理学療法において可変因子である食事摂取量に着目する事がADL改善の為に重要であることを示唆している。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に沿い実施された。また、本研究は各施設の倫理委員会の承認を得て実施した。

  • -地域住民を対象としたランダム化比較試験-
    陣内 裕成, 柿花 宏信, 北村 明彦, 松平 浩, 湊 百合子, 安田 望, 木山 昌彦, 羽山(寺田) 実奈, 岡 敬之, 磯 博康
    セッションID: O-5-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】慢性腰痛に対する運動療法の有効性は確立しているが、今後は運動指導の内容と提供方法の具体化が課題である(Babatund et al. 2017)。Haydenらの報告では、慢性腰痛の痛みと生活障害に対する有効性の高い運動療法の特徴として、1) 個別化された運動プログラム、2) 理学療法士等の専門家による指導、3) セルフエクササイズの実施、4) 合計1200分以上(例: 1回45分、週2回、約3ヵ月)の直接指導の提供を挙げているが、特に4)は、診療や健診の現場での導入を阻む最大要因となっている。本研究はこれまでの知見から、より短時間で提供できる指導方法を考案し、教材のみ(最小指導)と比べ、理学療法士等の個別指導を加えた強化指導の有効性の特徴を明らかにする。

    【方法】地域住民コホート(CIRCS研究)において慢性腰痛のあった40-74歳の男女251名のうち、介入研究に参加した52名(有症者の21%)を対象とした。ベースライン調査後にランダム割付けし、動画を含む教材を用いた個別運動指導(教材+個別指導、計100分)と、同一の教材のみによる指導(教材のみ)の2群に振分けた。個別指導は理学療法士等の運動療法の専門家が行った。介入開始4週後・12週後・24週後に、痛みの程度(numerical rating scale:NRS)、生活障害(Roland-Morris disability questionnaire:RDQ)、自己効力感(pain self-efficasy questionnaire:PSEQ)、QOLスコア(EuroQOL 5 dementions:EQ-5D)を評価した。統計には一般化線形混合効果モデルを用い、指導後の改善効果の群間差を検証した(有意水準5%未満)。

    【結果】NRSの改善効果については、教材+個別指導は、教材のみと比べて、介入開始4~24週後に平均で-0.6 (95%信頼区間:-1.5, 0.3)改善するが、有意ではなかった。一方で、教材+個別指導は、教材のみと比べて、RDQ、PSEQ、QOLスコアを有意に改善していた。すなわち、教材+個別指導は、教材のみと比べて、RDQについて、介入開始4~24週後に平均で-2.1 (-3.5, -0.7)減少、PSEQについては6.9 (1.7, 12.1)上昇、QOLスコアについては0.07 (0.02, 0.13)向上させていた。また、教材+個別指導は、教材のみと比べて、介入開始4週後のセルフエクササイズの実施頻度が有意に高かった(週4回以上の実施割合:個別指導73% v.s. 教材指導30%)。また、介入開始4~24週後までの主観的腰痛改善度および主観的満足度は有意に高かった。

    【結論】本研究では、痛みの程度については、教材のみによる指導と比べ、個別指導を加えても優越性は認められなかった。一方で、生活障害、自己効力感、QOLにおいて、個別指導を加えた場合に優れた成績が得られる可能性がある。また、理学療法士等の運動療法の専門家を介したセルフエクサイズの助言・指導は、教材のみよりも、セルフエクササイズの行動強化、主観的改善度と満足度を高める可能性がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」および「個人情報保護法」を遵守し、大阪がん循環器病予防センターおよび大阪大学の倫理審査委員会の承認を得た。参加者を募集する際には、研究開始前に事前説明会を開催し、研究の全容を説明した上で、参加への同意を得た。また、参加者が教材のみの群に割り付けられた場合は、追跡期間終了後に、希望者には個別指導を提供した。

  • 善明 雄太, 安藤 憲祥
    セッションID: O-5-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【序論】

     骨粗鬆症ガイドラインでは骨粗鬆症患者による椎体骨折の発生件数は最も多いと報告されている。また、既存椎体骨折がある骨密度低下例の新規椎体骨折リスクは、既存椎体骨折のない例と比較して役1.6倍高いと報告されている。当院でも多くの椎体骨折患者を加療している。外科的治療が必要な椎体骨折患者にはDXA検査等を行い、術式を検討している。リハビリは術前より介入し、術後のADL指導を実施することで術後トラブル、新規・再椎体骨折等の予防を行っている。今回我々は2015年1月から2017年12月までに脊椎後側方固定術、椎体形成術を施行した231例の術後トラブル件数を後方的に調査した。

    【方法】

     電子カルテより術後トラブルの有無を調査した。今回の調査での術後トラブルは、スクリュートラブル、入院加療中新規・再椎体骨折とした。

     行った指導は、術前より禁忌動作を含むADL指導パンフレットを配布し、リハビリスタッフが実施した。禁忌動作内容は、体幹の運動制限、腰椎後弯姿勢等の負荷をかけない運動方法、コルセットの着脱指導等である。また、個人の生活スタイル、自宅や職場での環境に応じて指導内容は変更している。

     リハビリスタッフが行っている指導内容は、看護師にも理解をしてもらっている。看護師が理解することで、入院中の入浴等のADLフォローに繋がっている。

    【結果】

     スクリュートラブルは5件、新規・再椎体骨折は0件であった。

     術後トラブルや新規・再骨折等になると更なるADL低下が懸念される。当院ではそれらの予防の為に指導をしている。パンフレットを使用することで患者だけでなく、看護師等の他職種も理解しやすくなる。その結果、負担が軽減し術後トラブル件数の減少を促せていると考えられる。また、硬性コルセットの装着指導や固定部を側方に変更することで胸・腰椎の負担軽減を促していると考えられる。

     栗森らによると脊椎多発骨折は呼吸機能の低下や胃・食道逆流現象を引き起こし悪循環となり、生活の質の低下だけでなく死亡リスクも高くなると報告している。また、骨粗鬆症患者の椎体骨折は、海綿骨での支持性が弱く後壁損傷のリスクが高くなると報告している。後壁損傷を伴う骨折は、下肢麻痺等の重度な障害を呈する可能性があり危険である。下肢麻痺を呈することで著明なADL低下がみられ、死亡リスクの向上が懸念される。このことから、骨粗鬆症が重度になるにつれ新規・再骨折の予防が重要になってくると考えられる。当院は腰椎後弯姿勢での運動を避けるように指導をしている為、後壁への負荷を軽減することが出来、新規・再骨折を予防出来ていると考えられる。

    【結論】

     今回は退院後の調査が出来ていない為、退院後も非外傷性の椎体骨折を防げているかを証明することが出来ていない。退院後の骨折予防の調査や取り組みが今後の課題になってくる。

    【倫理的配慮,説明と同意】

     当調査はヘルシンキ宣言に従い,個人を特定するような情報は提示しないように最大限の配慮をして行っている。

  • 金居 督之, 井澤 和大, 小林 実希, 大西 晶, 久保 宏紀, 野添 匡史, 間瀬 教史, 島田 真一
    セッションID: O-5-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、脳梗塞患者の再発予防に向けた身体活動の促進が注目されている。しかし、脳梗塞患者の多くは、退院後に不活動や座りすぎとなる傾向にある。また、脳梗塞患者への退院後の身体活動や運動に関する個人指導は、運動機能の向上や再発予防への効果が少ないことが示されている。そのため、これら患者に対しては、発症後早期からの身体活動の促進や再発予防に関する教育的介入が望まれる。先行研究において我々は、軽症脳梗塞患者に対してセルフ・モニタリングを指導することにより、入院中の身体活動量が増加することを報告した(Kanai et al., 2018)。しかし、その長期効果については不明である。一方、心疾患患者に対するセルフ・モニタリング指導の長期効果は示されている(Izawa et al., 2005, 2012)。それらの報告では、退院後の身体活動量には身体活動セルフ・エフィカシー(以下SEPA)が関連することが示されている(Izawa et al., 2005)。本研究の目的は、①軽症脳梗塞患者に対する入院中のセルフ・モニタリングの指導が退院後の身体活動量に与える影響について、②退院後の身体活動量とSEPAの関連について明らかにすることである。

    【方法】

    本研究は、上記の先行研究の追跡研究である。先行研究の方法は、以下の通りである。対象者は急性期病院入院中に通常のリハビリテーション(以下リハ)に加えセルフ・モニタリングの指導を受ける介入群と、通常のリハのみが実施される対照群の2群に無作為割付けされた。介入群に対するセルフ・モニタリングの具体的指導内容は、①身体活動を行動記録表に記載させる、②身体活動量に関する具体的な目標を決める、③理学療法士が、対象者に前日よりも多く歩くことを促す、等とした。

    本研究の対象は、退院後の身体活動量の測定についても同意が得られた者である。身体活動量の指標は、歩数(歩/日)および中高強度活動(MVPA)時間(分/日)で、測定にはFitbit One(Fitbit社製)が用いられた。また、退院後のSEPA尺度も調査された。我々は、両群における身体活動量およびSEPAを対応のないt検定により比較した。また、身体活動量とSEPAの関連には、Pearsonの積率相関係数が用いられた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    解析対象者は介入群13例、対照群17例であった。退院後の歩数、MVPA時間およびSEPAは、両群間に差はなかった(歩数:6176.8 vs. 6112.8歩/日,p=0.932,MVPA時間:22.0 vs. 16.8分/日,p=0.332,SEPA:67.5 vs. 67.1点,p=0.967)。また、全例での年齢調整後における歩数とSEPAは正相関を認め(r=0.404,p=0.030)、MVPA時間とSEPAにも正相関を認めた(r=0.450,p=0.014)。

    【結論】

    軽症脳梗塞患者に対する入院中のセルフ・モニタリングの指導は、退院後の身体活動量の増加には寄与しない可能性がある。また、軽症脳梗塞患者の退院後の身体活動量には、SEPAが関連することが明らかになった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、ヘルシンキ宣言に従って、対象者に研究の趣旨の説明を行い、書面による同意を得た。なお本研究は、当院研究倫理委員会の承認を得て実施された。

  • -共分散構造分析による検討-
    福元 裕人, 福島 洋樹
    セッションID: O-5-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】回復期病棟入院期間は再発予防のための運動指導や運動の習慣化の役割も担う。しかし、退院後に運動継続できているか確かめることは困難である。今回、退院前のアンケート調査と退院後の運動時間記録から、退院後の運動時間を予測する「運動継続予測尺度」を作成し、共分散構造分析により心理構造モデルを検討した。

    【方法】退院前アンケートを因子分析し、信頼性の評価としてα係数を求める。退院後の運動時間との相関分析により妥当性の検証を行う。運動時間に影響を及ぼす心理構造を明らかにするため、共分散構造分析を行い、モデルの適合を確認する。

     (1)退院前アンケート:運動行動継続に関する心理学の既存モデルや理論を元に作成した「退院前アンケート」を退院前一週間の期間に実施した。38項目を設定し、回答は1.全く当てはまらない、2.あまり当てはまらない、3.どちらとも言えない、4.まあ当てはまる、5.当てはまるの、5段階のリッカート尺度とした。

     (2)退院後の運動時間:運動時間10分もしくは30分につき一枚のシールを、A3のカレンダーに患者が貼るという方法で運動量を計測する。患者は退院時から一カ月後まで記録を行い、事前に渡された封筒に入れて返送する。

    【結果】

    (1) 退院前アンケート:100件のデータのうち欠損を除く96件のデータを分析対象とした。年齢63.2(±15.8)歳、男性61名女性35名、脳血管障害68名、骨折16名、その他12名、平均在院日数67.3(±34.3)日、FIM合計117.7(±8.6)だった。38項目に対して因子分析を行った。最尤法で因子抽出を行い、ガットマン基準で因子数を決定し、プロマックス回転後に因子負荷量が0.4未満の項目を除外した。25項目5因子に集約され、因子を構成する項目と因子負荷量から、5因子に『態度』、『主観的規範』、『行動の統制感』、『行動意図』、『他者による動機づけ』と命名した。各因子のα係数を算出し、値の低い『他者による動機づけ』を尺度から除外した。合計23項目のα係数はα=0.897となった。23項目4因子の尺度の信頼性は検証された。

     (2) 退院後の運動時間:42件中、返送があった35件のデータを分析対象とした。データの内訳は男性23名女性12名、年齢63.3(±15.9)歳、脳血管障害28名、骨折5名、その他3名、平均在院日数73.3(±36.3)日、FIM合計116.7(±9.2)だった。妥当性検証として、退院後の平均運動時間と「多淫前アンケート」についてPearsonの相関分析を行い、有意な正の相関 (r=.340,p<.05) が確認された。尺度の妥当性が検証された。

     (3) モデルの検証:Theory of Planned Behaviorのモデルに当てはめてパス解析を行った。さらに「退院後の平均運動時間」に対して「退院時のFIM」からのパスを加えたところ、R2値とモデル適合度の改善が得られた。

    【結論】回復期病棟入院患者を対象に、「運動継続予測尺度」を作成した。退院時の「運動継続予測尺度」の数値から、退院後一ヶ月の平均運動時間をある程度予想できる。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に則って計画し、富山県リハビリテーション病院・こども支援センター倫理委員会申請番号34にて迅速審査を行い、承認を得た。データ処理の際は匿名化と個人対照表を作成し、研究対象となった患者の情報は、個人情報を含まない測定結果のみ入力した電子媒体にて保管する。本研究で実施される「アンケート」と「運動時間記録」は危険を一切伴わない。参加への不同意により不利益は一切生じない。研究の参加は任意であり、同意された場合のみ実施される。同意後の取り消しも可能であることを明示する。

  • -性差の検討-
    三宅 理佳, 植田 拓也, 畠山 浩太郎, 井上 誠, 長田 美沙季, 柴 喜崇
    セッションID: O-5-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    本格的な高齢社会を迎えたわが国では,高齢者の疾病予防や介護予防など,高齢者の健康問題に関心が高まっている.「IADL実施能力(できるかできないか)」の低下は,要介護状態や生命予後の予測因子であるとされており(Jose CM,2010),地域在住高齢者の健康を考える上で重要な役割を担っている.一方「IADL実施頻度(しているかどうか)」の低下は,高齢者のIADL実施能力低下の早期の段階であるとされており(鈴木,2007),IADL実施頻度に着目することはIADL実施能力の低下を早期に予防する上で必要であると考えられる.IADL実施頻度については,横断研究において性差や年齢差は明らかとなっている(Hachisuka K,1999)が,縦断的な調査による,身体面,精神面,社会面との関連は明らかになっていない.そこで本研究は,運動習慣のある地域在住高齢者のIADL実施頻度の2年間の変化に影響する要因について,身体面,精神面,社会面から性別ごとに検討することとした.

    【方法】

    対象は,神奈川県内R公園でのラジオ体操会会員から募集し,2015年に実施したベースライン調査に参加した65歳以上の地域在住高齢者97名の内,2年後フォローアップ調査に参加した69名(男性34名,女性35名)とした.対象者には体力測定及び質問紙調査を実施した.調査項目はIADL実施頻度としてFAI,基本属性として年齢,性別,身体的要因として握力,開眼片脚立位時間,5m最速歩行時間,Timed Up and Go test(以下TUG),精神的要因としてWHO-5精神的健康状態表(以下WHO-5),社会的要因として日本語版Lubben Social Network Scale 短縮版を調査した.統計解析は,男女2群間でベースライン時のFAI得点を対応のあるt検定で比較した.次に各調査項目の2年間の変化量,⊿各調査項目を男女2群間で対応のあるt検定で比較した.また,性別ごとに⊿FAI得点と⊿各調査項目との相関をPearsonの積率相関係数を用いて算出し,⊿FAI得点を従属変数,⊿FAI得点と有意確率10%未満の相関を示した項目を独立変数,年齢,ベースライン時のFAI得点を調整変数として,重回帰分析を行った.

    【結果】

    男女2群間でのベースライン時のFAI得点の比較では,女性の方が有意に高い得点であった(男性27.5±5.4点,女性35.0±4.3点,P<0.01).FAI得点を従属変数とした重回帰分析では,男性では,⊿WHO-5得点(精神面)(非標準化回帰係数=0.39,P=0.03)が⊿FAI得点に寄与しており,女性では,⊿TUG(身体面)(非標準化回帰係数=-1.18,P=0.03)が⊿FAI得点に寄与していた.

    【結論】

    本研究により,地域在住高齢者におけるIADL実施頻度の2年間の変化と,男性において精神的健康度が,女性では身体機能がともに低下,向上することが明らかとなった.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は研究代表者の所属する機関の研究倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には口頭および書面にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.

  • 髭内 紀幸, 花田 健, 平塚 渉, 小島 希望, 山中 佑香, 織田 崇
    セッションID: O-5-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】

    橈骨遠位端骨折は他の脆弱性骨折に比べ初発骨折として発生する割合が高く,受傷年齢が低い。受傷後も活動量は維持されるが,再転倒による二次骨折の危険性があるとされる。しかし,その予防は適切に行われておらず,その予測因子も不明確である。本研究では,橈骨遠位端骨折受傷後5年を経過した症例を調査し,受傷後の転倒歴と体組成,身体機能を調査した。

    【方法】

    2010年4月からの24ヵ月間に橈骨遠位端骨折を受傷し掌側ロッキングプレート固定術を行った148例に,郵便・電話で評価を依頼し同意を得られた38例を対象とした。全例女性で評価時年齢は平均70.8歳(40−96歳),受傷後経過期間は平均68.9ヵ月(60−82ヵ月)であった。受傷後経過期間中の転倒の有無を聴取し,転倒群(9例,平均年齢76.1歳),非転倒群(29例,69.1歳)に分類した。身長および体重を測定してBMIを算出した。体組成として生体電気インピーダンス法(BIA)により骨格筋量と体脂肪量を測定し,骨格筋指数(SMI)を算出した。身体機能はTimed Up and Go test(TUG),Functional Reach test(FR),2ステップテスト,立ち上がりテストにより評価し,握力を測定した。Asian working group for sarcopenia(AWGS)のアルゴリズムを用い,両群のサルコペニア発症率を算出した。結果をStudent’s t-test,Welch’s t-test,Fisher’s exact testを用いて統計学的に解析した。

    【結果】

    BMIは転倒群21.4kg/m2,非転倒群22.2kg/m2(p=0.52)であった。骨格筋量は転倒群18.0kg,非転倒群19.2kg(p=0.19),体脂肪量は各々14.4kg,16.9kg(p=0.39)であった。SMIは各々5.8kg/m2,6.1kg/m2(p=0.29)であった。TUGは転倒群8.97秒,非転倒群6.89秒(p<0.01),FRは各々28.9cm,30.7cm(p=0.55)であった。2ステップ値(最大2歩幅cm/身長cm)は転倒群1.18,非転倒群1.34(p<0.05),立ち上がりテスト判定値は各々3.00,4.28(p<0.01),握力は各々17.3kg,20.5kg(p=0.10)であった。サルコペニアの発症率は転倒群2/9例:22.2%,非転倒群5/29例:17.2%(p=0.66)であった。

    【結論】

    対象の23.7%が橈骨遠位端骨折受傷後の5年間で転倒した経験があった。転倒群では歩行能力,下肢筋力が有意に低下しており,転倒による二次骨折の発生リスクの一因となる可能性が示唆された。橈骨遠位端骨折受傷者に対して,理学療法士が二次骨折予防を目的として身体機能向上の為に介入する意義があると考えられた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,全ての対象に研究内容,個人情報保護対策,研究参加の同意を紙面にて説明し,同意を得た上で行った。また済生会小樽病院倫理委員会の承認を得た。

  • 吉田 惇一, 江口 聖也, 黒木 航大, 井元 淳
    セッションID: O-6-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、超高齢社会となったわが国においてフレイルと低栄養は非常に注目されている。生活環境や身体機能が変化する高齢期では、身体機能低下が誘因となった栄養状態の悪化、栄養状態の悪化による身体機能の低下といったようにフレイルと栄養状態の関連は密接なものであると考えられる。しかし、フレイルと栄養状態との関連に焦点を置いて研究されたものは少ない。そのため、本研究では地域高齢者を対象とし、フレイルと栄養状態の関連を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象者は本研究の趣旨に同意の得られたA地区在住の65歳以上の高齢者35名(男性7名、女性28名)とした。 J-CHS indexを用いたフレイル評価(体重減少、疲労感、エネルギー使用量、歩行速度、握力)を実施し, 2群(健常者;該当項目なし、フレイル・プレフレイル;1項目以上該当)に分類した。栄養状態の評価はMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)を用い、食欲、体重減少、歩行、ストレス、神経・精神的問題、 BMI(Body mass index)、下腿周囲長の評価を行い、2群(良好群;12~14点,低栄養群;11点以下)に分類した。さらに基本項目(性別、年齢、身長、食事状況、現病歴、既往歴、服薬数)についても調査した。

    【結果】

    栄養状態、体重減少、疲労感、運動習慣、BMI、服薬数の項目において健常者群(n=21)、フレイル・プレフレイル群間(n=14)に有意差は認められなかった。年齢、歩行速度、握力の項目において両群間に有意差が認められ、フレイル・プレフレイル群では有意に低下していた。

    【結論】

    フレイルと栄養状態について関連はみられなかった。対象者の多くは自らが調理を行っていたため食事管理が十分にされており、食事状況が比較的良好であったと考えた。またフレイルの該当項目において歩行速度と握力が50%以上を占めており、今回の対象者では加齢に伴う身体機能や筋力低下におけるサルコペニアの要素が強いと考えた。さらに、サルコペニア群と低栄養には有意な差があり、関連性がみられた。よって、低栄養によるサルコペニアがフレイルへと移行していくことが考えられ、予防としてサルコペニアへの対処が必要であると言える。そのため、フレイルの予防・改善には身体機能面だけでなく栄養状態を考慮した生活を送ることが重要であると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、ヘルシンキ宣言を遵守し個人情報の取り扱いに配慮し、対象者の同意を得て実施した。

  • 安藤 雅峻, 上出 直人, 柴 喜崇, 佐藤 春彦, 坂本 美喜, 渡辺 修一郎
    セッションID: O-6-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    高齢者における社会参加は,将来の要介護状態の発生リスクを低減することが明らかにされている(Kanamori, et al.,2014).社会参加は幅広い範囲を含むが,なかでも地域における組織だった集団活動と定義される「地域活動」は,地域における互助の基盤として重要な要素である.その関連要因を多角的かつ詳細に検証することは,効果的な社会参加の促進のための有益な情報になると考えられる.本研究の目的は,地域在住自立高齢者において,地域活動の内容ごとに,それぞれ関連する要因を身体・精神心理・社会的要因から多角的に検証することとした.

    【方法】

    要支援・要介護認定を受けていない地域在住高齢者520名(71.4±4.6歳,男性135名)を対象とした.地域活動の調査には,JST版活動能力指標(Iwasa, et al.,2017)より関連する4項目(地域のお祭りや行事への参加(お祭り・行事);町内会・自治会での活動(町内会・自治会);自治会やグループ活動の世話役や役職(世話役・役職);奉仕活動やボランティア活動(奉仕・ボランティア))を用いた.身体的要因として5m歩行時間・Timed Up and Go・握力・Chair Stand Test・四肢骨格筋量,精神心理的要因として抑うつの有無・Trail Making Test A,社会的要因として対人交流頻度・IPAQ環境尺度日本語版,をそれぞれ調査した.さらに基本属性として,年齢,性別,体格指数,慢性疾患,疼痛,服薬状況,老研式活動能力指標を調査した.各地域活動と上記変数の偏相関(制御変数:年齢,性別)を分析した後,各地域活動をそれぞれ従属変数とし,性別・年齢および各地域活動と有意な偏相関を示した変数を独立変数とするロジスティック回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.

    【結果】

    各地域活動の実施率は,お祭り・行事57.1%,世話役・役職54.4%,町内会・自治会43.7%,奉仕・ボランティア30.6%であった.ロジスティック回帰分析の結果,「お祭り・行事」には,抑うつの有無・対人交流頻度・近所のバス停や駅の有無,「町内会・自治会」には,性別・5m快適歩行時間・抑うつの有無・対人交流頻度・近所の交通量,「世話役・役職」には,性別・5m快適歩行時間・対人交流頻度,「奉仕・ボランティア」には,性別・身長・対人交流頻度・抑うつの有無・近所のバス停や駅の有無,がそれぞれ関連要因として抽出された(全てp<0.05).

    【結論】

    地域活動には抑うつや対人交流が共通して関連していたが,「お祭り・行事」や「奉仕・ボランティア」にはバス停・駅などのインフラが,「町内会・自治会」や「世話役・役職」には歩行能力や近隣の交通量が関連することが示唆された.今後,活動内容による関連要因の違いを考慮した支援が必要と考えられた.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」に沿い,北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会(第2016-004号)の承認を得て実施した.調査対象者には本研究の目的・方法等を文書と口頭で説明し,文書による同意を得た.

  • 長谷川 大祐, 水田 喬士, 戸田 香, 保黒 政宏, 青木 良記
    セッションID: O-6-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】大腿骨近位部骨折を受傷する高齢者は年々増加の一途を辿っている.大腿骨近位部骨折は高齢者の生命予後に影響を及ぼす重大な外傷であり,手術により日常生活の復帰を目指す.退院後のQOLを大きく左右する因子としては歩行能力が挙げられる.そこで本研究は,大腿骨近位部骨折による入院患者(以下;骨折群)の術後の歩行に影響する因子を横断的に検討することを目的とした.

    【方法】骨折群10名(男性2名,女性8名,平均年齢82.3±5.8歳,BMI20.8±3.5)を対象とした.65歳以上で認知機能検査MMSE21点以上の者,転倒の定義に該当する者を適格基準とし,中枢性疾患や痺れなどの自覚症状を有する者を除外対象とした.骨折群には術後2週目に身体機能評価として握力測定,最大歩行速度,片脚起立時間,30秒椅子立ち上がりテスト(以下;CS-30),Functional Reach Test,触圧覚検査,振動覚検査(40Hz,128Hz,256Hz),Functional Ambulation Category(以下;FAC),歩行補助具,転倒回数,精神機能評価としてFall Efficacy Scale(以下;FES),Geriatric Depression Scale 15(以下;GDS)のデータを取得した.振動覚検査には小型スピーカーを用いた振動覚検査器具を独自に作成して使用した.統計学的分析はR2.8.1を使用した.歩行能力に直接影響すると思われるFAC,歩行補助具,精神機能に影響すると思われるFES,GDSを各々従属変数,他の項目を独立変数とし,分散分析を用いて有意差を確認の後,ステップワイズ法を用いた重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.

    【結果】分散分析の結果はp<0.05で,重回帰分析の結果は各変数がp<0.05で有意であった.FACではCS-30(β=0.58)と最大歩行速度(β=0.50)が抽出され,強い影響があった.歩行補助具では振動覚(非術側の256Hz,β=0.59)と転倒回数(β=0.97)が抽出され,強い影響があった.FES,GDSでは各々CS-30(β=0.78,β=-0.82)が抽出され,強い影響があった.

    【結論】下肢筋力の指標となるCS-30は,歩行自立度を示すFACや転倒恐怖感での指標であるFES,鬱病を示すGDSに影響を及ぼしており,大腿骨近位部骨折術後の身体・精神面の重要な評価指標と成り得ると考えられる.歩行補助具の影響因子として転倒回数以外に感覚系の要素である振動覚(256Hz)が影響することが示された.3種類の周波数の中で256Hz が選択的に抽出されており,高い周波数帯の振動覚低下が歩行能力に影響していることが示唆された.運動機能の評価のみでは,歩行に対する評価は不十分であり,感覚機能評価を含めた観察が必要であると考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,中部大学(承認番号:290041)と聖霊病院(承認番号:H29-8)の倫理審査委員会の承認を得て,対象者に研究の方法および内容を十分に説明し,書面及び口頭により同意を得た.

  • 丸谷 康平, 新井 智之, 細井 俊希, 荻原 健一, 森山 駿一郎, 志村 綾子, 藤田 博曉
    セッションID: O-6-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】近年、運動機能の低下と認知機能の低下が関連することが報告され、認知症予防の観点においても、身体活動量の向上や運動機能を高く保つことが重要視される。ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は運動器の障害により移動機能の低下を来した状態として定義された概念であるが、ロコモと認知機能の低下の関連性についてはまだ不明瞭な点が多い。今回は地域在住高齢者においてロコモ度の進行が認知機能の低下にどの程度影響するかを調査し、改めてロコモならびに認知機能低下の予防に対する運動介入の重要性を検討することを目的とした。

    【方法】地域の認知症予防教室に参加した257名を対象とした(男性33名、女性224名、平均年齢73.8±5.4歳)。本研究では、認知機能をRapid dementia screening test日本語版(以下、RDST-J)で評価し、7点以下を認知機能低下とした。ロコモの判定は2ステップテストを用い、最大二歩幅を身長で除した値(以下、2-step値)を求め、1.3未満をロコモ度Ⅰ、1.1未満をロコモ度Ⅱとした。解析は各状態の割合を求め、カイ二乗検定を実施するとともにリスク比を求めた。さらに認知機能低下の有無を従属変数、ロコモ度を独立変数とし年齢で調整したロジスティック回帰分析を実施した。統計解析はJMP ver.13.0 for Windows(SAS co.)を使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】RDST-Jの結果、257名中53名(20.6%)が認知機能低下に該当した。2-step値で判定したロコモの該当者は、ロコモ度Ⅰ68名(26.5%)、ロコモ度Ⅱ15名(5.8%)であった。ロコモ非該当群における認知機能低下の該当率は13.0%であり、ロコモ度Ⅰ群では35.3%、ロコモ度Ⅱは40.0%であり、ロコモ度が上がるにつれ有意に認知機能低下該当者が多かった。リスク比は、ロコモ非該当とロコモ度Ⅰで2.7倍、非該当とロコモ度Ⅱで3.1倍、ロコモ度Ⅰとロコモ度Ⅱでは1.1倍となった。ロジスティック回帰分析の結果、非該当からロコモ度Ⅰのオッズ比が2.52(95%CI:1.22-5.19)となった。

    【結論】軽度認知障害をはじめとする認知機能の低下は運動機能の低下と関連することが報告されている。今回、ロコモ度の進行が認知機能低下に影響を与えることが示唆された。また運動器の衰えはじめを意味するロコモ度Ⅰへと進行するだけで、認知機能低下の2倍以上のリスクとなるため、認知機能低下予防を考える上でも、より早期からの運動器の機能低下予防が重要であると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:137)。また対象者には研究の趣旨を説明し、文書による同意を得ている。

  • ~歩行機能の維持された地域在住高齢者での検討,横断研究~
    大島 賢典, 浅井 剛, 福元 喜啓, 久保 宏紀, 田實 裕嗣, 門條 宏宣, 小山 祥太
    セッションID: O-6-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    歩行能力低下は主要な転倒リスク要因であり,歩行速度低下は転倒発生と関連することが広く報告されている。しかし,多くの先行研究では,歩行速度の速い高齢者も高い転倒率を有し,運動機能レベルにより転倒状況や原因が異なる可能性を考慮したものは少ない。加えて,運動機能の維持されている高齢者の転倒リスク評価を適切に行うためには,単純な移動能力検査では限界があり,歩行速度以外の歩容指標を用いる必要があると考えられる。歩行時ステップ位置(歩幅,歩隔)は,支持基底面の大きさを決定し,歩行時直立位を保つために必要なバランス制御の一要因であると考えられているが,転倒リスクとの関連性は,未だ一定した見解が得られていない。これは,歩行機能と転倒リスクとの間には多数の交絡因子が存在し,転倒状況や原因の違いから,対象者特性によって研究結果が異なっている可能性が考えられる。したがって,本研究では,歩行機能の維持されている地域在住高齢者において,交絡因子の影響を取り除いた上で,歩行時ステップ位置と転倒リスクとの関連性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    本学主催の体力測定会に参加した60歳以上地域在住高齢者128名のうち,歩行速度が1.0m/秒以上の高齢者を包含し,神経性病変を有する者,眼鏡使用可での読書にて「あまり見えない,見えない」と回答した者,Rapid Dementia Screening Testにて認知機能低下が疑われる者の計18名を除外し,最終的に102名(年齢72±6.4歳, 女性64%)を解析対象とした。歩行計測は,光学式歩行解析装置を用い,快適歩行速度条件での8m歩行テストを2回試行し,中間6m区間の歩幅と歩隔の平均値及びそれらの積を算出した。統計学的解析は,身長で補正された歩幅,歩隔,歩幅と歩隔の積のそれぞれ各従属変数に対し,過去1年間の転倒歴を説明変数,交絡因子として年齢,性別,体重,歩行速度,5回立ち坐り時間,片脚立位時間,転倒恐怖感の有無で調整された重回帰分析を行った。

    【結果】

    本研究対象者は,歩行速度1.36±0.18m/秒,過去1年間の転倒率は16%で,その内63%が屋外での転倒であった。重回帰分析の結果,過去1年間の転倒歴は,歩幅( standardβ=0.14,p=0.04 ),歩隔( standardβ=0.24,p=0.02 ),歩幅と歩隔の積( standardβ=0.28,p<0.01 )と有意な関連を認めた。さらに,身長で補正された歩幅と歩隔の中央値で分類した4群(歩幅を長-短,歩隔を広-狭で示す)における過去1年間の転倒率は,長-広群で27.3%,長-狭群で6.9%,短-広群で13.8%,短-狭群で18.2%であった。

    【結論】

    歩行機能が比較的高い高齢者で統一された集団内において,過去1年間の転倒経験者は,歩幅が長く,歩隔が広い傾向にあることが示唆された。今後は,サンプルサイズをさらに大きくした縦断研究にて,対象者特性や転倒状況に応じて層別化し,歩行時ステップ位置が,どのような対象者の転倒リスク評価に有用であるか検討する必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に則り,神戸学院大学ヒトを対象とする研究等倫理委員会の承認を得て実施し,全ての対象者には本研究における目的や方法,個人情報保護等についての説明を口頭及び書面にて同意を得た上で実施した。

  • 佐藤 崇史, 篠原 美穂, 三宮 真琴, 河野 由衣, 永徳 研二, 常見 藍, 冨岡 和代, 藤井 猛, 小野 隆司
    セッションID: O-6-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     当院では排尿自立指導料算定チーム(以下、排泄チーム)を立ち上げ平成29年6月より排尿自立指導料の算定を開始した。今回、排泄チーム稼働の前後を比較し、チームアプローチの成果と課題を考察する。

     

    【方法】

     対象は排泄チームの稼働を開始した平成29年6月1日以降にリハ処方があり尿道カテーテル(以下、カテーテル)を留置した患者30名を介入群とし、比較対照は平成28年9月1日から平成29年6月1日の間、排泄チームが介入しなかった30名を抽出し非介入群とした。両群においてカテーテル抜去者の割合と年齢、性別、疾患、留置期間、カテーテル抜去後の排尿障害、入院時、入院後1か月、退院時のFIM得点(トイレ動作、排尿管理、トイレ移乗の3項目)を調査し両群間で比較検討した。分析はMann-WhitneyのU検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。

     

    【結果】

     カテーテルを抜去した患者は、非介入群21名(70.0%)、介入群18名(60.0%)となり有意差は認めなかった。年齢、性別も両群間で有意差は認めなかった。また、疾患別リハの内訳においても両群間で有意差は認めなかった。カテーテル留置期間は、非介入群では平均25.6±20.6日、介入群では平均12.5±8.6日と介入群で有意に短かった(p<0.01)。カテーテル抜去後の排尿障害は非介入群では失禁19名(90.5%)、尿路感染3名、排出障害2名、頻尿・過活動膀胱2名であった。介入群では失禁13名(72.2%)、尿路感染1名、排出障害5名、頻尿・過活動膀胱5名であった。入院時、入院後1か月、退院時のFIM得点の比較では、入院時は3項目全てで有意差は認めなかったが、入院後1か月では排尿管理とトイレ移乗での得点に有意差を認めた(p<0.05)。さらに、退院時ではトイレ動作とトイレ移乗に有意差を認めた(p<0.05)。

     

    【結論】

     排泄チームの稼働前後を比較した結果、介入群ではカテーテル留置期間の短縮を認めた。これまでは、安静や尿量測定が解除されてからカテーテル抜去にとりかかる傾向にあり、また、泌尿器の基礎疾患がある者は泌尿器科受診後の抜去となることも少なくなかった。しかし、排泄チームが介入する事でカテーテル抜去のタイミングの見通しを立て、抜去後の課題の予測と対応などを担当の医師、看護師、療法士とで協議できるようになった為、カテーテル留置期間の短縮や失禁の減少を認めたと考える。このような、排尿障害や一連の排泄動作の改善は、患者の心理的な変化やADLの早期向上が期待でき、介護予防にも波及するものと考える。なお、先行研究では、留置期間と尿路感染症や退院時の歩行能力の関連も指摘されており、今後は遅滞のないカテーテル抜去計画やADLの向上にむけて、随時回診が行える体制を作っていきたい。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は杵築市立山香病院の倫理委員会における承認を受けて実施した。対象者には研究の趣旨と内容および調査結果の取り扱い等について説明し、同意を得て実施した。

  • -縦断調査を用いた検討-
    松本 大輔, 高取 克彦, 田中 明美, 村上 愛実, 齊藤 新吾
    セッションID: O-7-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】健康日本21(第2次)において「健康格差の縮小」とソーシャルキャピタル(SC)などの「社会環境の質の向上」が明示され,地域の実情に応じた効果的・効率的な介護予防が求められるようになってきた。また、後期高齢者は多くの場合、フレイルに陥りやすいと考えられており、その一次、二次予防は喫緊の課題である。しかし、フレイルにおいて地域間格差とSCとの関係を示した報告はまだ少ない。そこで,本研究の目的は,地域在住の後期高齢者に対し,フレイルの地域間格差を小学校区レベルで把握し、縦断調査からその経過とSCとの関連性を検討することとした。

    【方法】対象は奈良県A市在住で,要支援・要介護認定を受けていない75歳以上の後期高齢者とし、基本チェックリストを含む自記式質問紙を配布し,同意が得られた平成27年度6517人、平成28年度7360人を分析対象とした。評価項目は基本チェックリスト(運動、栄養、口腔、閉じこもり、認知、うつについての25項目)を用い、各リスク該当数とSatakeらの基準に基づき、点数から8点以上をフレイルと判定した。また、SCとして社会参加(運動、地縁、趣味、ボランティア)についても聴取した。データ解析はフレイル有症率、SC等について小学校区間での比較をχ二乗検定、各年度・年度間の各項目の変化率との関連性についてはSpearmanの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】フレイル有症率は平成27年度20.6%(1343人)から平成28年度20.7%(1520人)で0.1%ポイント増加していた。小学校区間比較では平成27年度13.9-28.7%、平成28年度15.0-27.8%と両年度とも小学校区間で有意差が認められたが、地域間格差は縮小していた。また、小学校区レベルでの1年間の変化率でも、-1.8%~+4.1%と地域間で格差があり、心疾患(ρ=0.72)、運動機能低下(ρ=0.66)、栄養低下(ρ=0.64)の変化率との有意な相関関係が認められた。しかし、フレイルの有症率の変化とSCとの有意な相関関係はなかった。一方、リスクの中で認知機能低下の変化率にのみ、地縁SC(ρ=-0.71)、運動SC(ρ=-0.72)の変化率との有意な相関関係が認められた。

    【結論】今回、フレイル有症率は地域間格差が存在し、1年間でその格差は若干縮小されていたが、SCとの関係性は見いだせなかった。先行研究からフレイル有症率の変化を捉えるには1年間では短いことが考えられることと、Kamadaらによると、地域での運動習慣を定着させるために介入から5年後に有意な変化が認められたことから、さらに長期的に経過をみていく必要がある。しかし、1年間であっても認知機能低下の変化率とSCに関連性が認められたことから、認知機能低下への気づきが社会参加を高める、あるいは、SCにより認知機能低下を早期に発見でき、介入できる可能性があると考えられる。以上のことから、専門職による通いの場への関わりの可能性と長期的に関わる必要性があることが示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,研究参加者には本研究の目的、個人情報の取り扱い等について十分な説明を口頭で実施し,自由意志にて研究参加の同意を得た。また本研究は本学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号H27-02)。

  • 野口 泰司, 野嶌 一平, 渡邊 龍憲, 齊藤 浩太郎, 杉浦 英志
    セッションID: O-7-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    高齢期における抑うつ状態は、生活の質の低下だけでなく、認知症や生活機能障害の要因となることから、予防的対策が重要である。抑うつの予防には社会参加が有用であることが報告されているが、社会参加組織の種類について検討された報告は少ない。そこで本研究は、地域在住高齢者を対象に社会参加組織の種類と抑うつ状態との関連について検討することを目的とした。

    【方法】

    研究デザインは横断研究である。対象は、名古屋大学と愛知県東郷町が共同で実施している高齢者機能健診「東郷いきいき度チェック」に参加した65歳以上の高齢者のうち、認知症、精神疾患を持つ者、自立して外出できない者を除いた245人(73.9±5.3歳、女性47.4%)とした。抑うつの評価は、Geriatric depression scale 15項目版(GDS)を質問紙にて行った。社会参加は、厚生労働省による介護予防・日常生活圏域ニーズ調査の調査項目を参考に、ボランティアグループ、スポーツ関係のグループやクラブ、趣味関係のグループ、学習・教養サークル、老人クラブ、町内会・自治会、収入のある仕事の7種類についての参加状況を聴取した。統計解析にあたり、GDS得点が11点以上の者は重度の抑うつ状態とみなし解析から除外した。目的変数をGDS得点、説明変数を各組織への社会参加の有無、調整変数を年齢、性別、世帯構成、教育歴、等価所得、既往歴として線形回帰分析(強制投入法)を行った。この際、主要な変数に欠損のある対象を除外したcomplete case(n=157)による分析および、欠損データを多重代入法により補完したimputation case(n=245)による感度分析を実施した。統計ソフトはR(3.4.3 for Windows)を用い、統計学的有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    Complete caseにおける線形回帰分析の結果、趣味関係のグループへの参加ありがGDS得点と有意な負の関連を示した(偏回帰係数(b)=-1.19[95%信頼区間-2.16、-0.23]、p<0.05)。また、imputation caseでの分析においてもこの有意性は保たれた(b=-0.94[-1.84、-0.04]、p<0.05)。それ以外の社会参加については、有意な関係はみられなかった。

    【結論】

    社会参加の中でも、趣味関係のグループへの定期的な参加が、抑うつ状態の予防に繋がる可能性が示唆された。近年では、介護予防に関し「通いの場」の拡充が盛んに謳われ、立ち上げや運営に関わる理学療法士は増加している。本研究は、「通いの場」に関する行政施策やまちづくりについての、理学療法士による助言や施策提案のための基礎資料となると考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は名古屋大学生命倫理審査委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言を遵守し実施した。研究対象者には、対象者が研究に参加する前に同意説明文書を手渡し、口頭にて十分に説明を行った上で、研究参加についての同意を署名により得た。取得したデータは連結可能匿名化とし、個人情報保護法に従い取り扱いには十分配慮した。

  • -デイサービスに通所する地域在住高齢者に対する多施設共同後ろ向き研究-
    松田 徹, 山口 泰成, 堀内 信吾, 森元 幸太朗, 椎名 祐介, 間島 和志, 井幡 康明, 竹之内 健吾, 羽生 道成, 川間 健之介
    セッションID: O-7-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    地域在住高齢者の転倒リスク評価としてTimed Up& Go Test(以下,TUG)の使用を国内外ガイドラインは推奨している.しかし近年,予測精度について否定的な報告が多い.我々は,従来のTUGに動作の質的評価を加えた評価表開発を試みている.第18回リハビリテーション連携科学学会で,TUG180°方向転換時歩数と不安定性から転倒リスクを評価できる可能性を示唆した.本研究は,従来の時間計測に加え,方向転換時歩数と不安定性を同時にスコア化可能な評価表(以下,TUG+)を開発し,その予測妥当性を検証することを目的とした.

    【方法】

    対象は,国内10か所で事業展開しているデイサービスに通所する65歳以上の高齢者とし,中枢神経疾患・認知症を有する者を除外した.評価は,基本属性に関する情報収集と,改訂長谷川式簡易知能評価スケール,過去1年間の転倒歴・転倒回数,TUG(最大速度条件.時間計測と同時に方向転換時歩数と不安定性を評価),Functional Reach(以下,FR)等を行った.なおTUGの方向転換時質的評価の信頼性は予備調査で確認済みである.分析は,過去1年間の転倒有無を目的変数とし,従来のTUG時間(三分位した数値でカテゴリー化;<8秒,≧8秒 <11.5秒,≧11.5秒)と,「方向転換時歩数;2歩以下,3-4歩,5-7歩,8歩以上」と「方向転換時不安定性;なし,あり」を独立変数としたロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った.その後,算出された偏回帰係数を参考に重み付けを行うことで係数化し,TUG+をスコア化した.次に,受信者動作特性曲線(以下,ROC曲線)下の面積(以下,AUC)を算出した.またTUG+のカットオフ値を算出後,感度・特異度をTUG(>13.5秒), FR(≦15.3cm)と比較した.全ての統計解析はSPSS version 24.0Jを用い,有意水準を5%未満とした.

    【結果】

    分析対象は119名(男25女94名,平均年齢81.8±6.2歳,転倒あり38名).TUG時間・方向転換時歩数・不安定性ともに,過去の転倒歴に関連する有意な変数であり(判別的中率73.9%),TUG+は最小0点,最高5.5点の評価尺度となった.AUCは,TUG+ 0.761(95%信頼区間 0.650-0.871),TUG 0.657(95%信頼区間 0.535-0.780),FR 0.647(95%信頼区間 0.537-0.756)であった.感度/特異度は,TUG+:66.7%/67.3%(カットオフ値3.0点),TUG:23.8%/89.8%,FR:4.8%/92.9%であった.

    【結論】

    従来のTUGよりも,方向転換時歩数と不安定性の評価を加えたTUG+の予測精度が良好であった.今後は,多施設共同前向き研究によりTUG+の予測妥当性を検証する.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,筑波大学大学院研究倫理審査の承認を得て実施した(課題番号第東28-74号).対象高齢者は,口頭による検者の指示が理解でき全ての検査課題が実行できる者とした.また各事業所に在籍する共同研究者が,研究の目的および方法を書面および口頭により説明し,十分な同意と協力が得られた者とし,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。

  • 村田 峻輔, 中窪 翔, 伊佐 常紀, 坪井 大和, 奥村 真帆, 松田 直佳, 小野 玲
    セッションID: O-7-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     遂行機能と痛みについていくつか横断的研究で関連性が報告されているが、縦断的に検討した知見が乏しく、遂行機能が痛みの憎悪に影響を与えるのか、それとも痛みが遂行機能低下に影響を与えるのかといった相互関係が不明である。そこで本研究の目的を運動器慢性痛と遂行機能の相互関係を検討することした。

     

    【方法】

     本縦断研究の対象者はベースライン調査を受けた133名の内、除外基準を満たすものを除いた126名である。その内一年後の追跡調査に参加した地域在住高齢者64名 (平均年齢: 72.8 歳、女性: 68.8%) を解析対象者とした。除外基準はベースライン時のMini-mental state examinationが21点以下、ベースライン調査項目に欠損値を有するものとした。遂行機能検査としてTrail making test part A(TMT-A)とTMT part B (TMT-B)の所要時間、3か月以上続く運動器慢性痛の重症度としてNumeric rating scale (NRS)を用いた。それぞれベースライン時および追跡調査において調査し、連続変数として扱った。その他ベースライン時に年齢、性別、教育歴、抑うつ症状 (Geriatric Depression Scale)、鎮痛薬服用の有無を調査した。統計解析はLinear mixed modelを使用し個人IDをランダム効果として行った。目的変数をTMT-AもしくはTMT-B、説明変数をベースライン時のNRS、時間変数 (ベースラインと1年後の2値)、ベースライン時のNRSと時間変数の交互作用項を投入したモデルと目的変数をNRS、説明変数をベースライン時のTMT-AもしくはTMT-B、時間変数、ベースライン時のTMT-AもしくはTMT-Bと時間変数の交互作用項を投入したモデルを行った。それぞれ未調整モデルとその他の変数を交絡因子として調整した調整モデルを実施した。

     

    【結果】

     ベースライン時のTMT-AもしくはTMT-BがNRSの変化に与える有意な影響はみられなかった。一方、ベースライン時のNRSがTMT-Aに与える有意な影響はみられなかったが、ベースライン時のNRSが高いほど1年後TMT-B所要時間が有意に長くなっていた (TMT-Bとフォロー年数の交互作用項、未調整モデル: Beta=5.72、P=0.005、調整モデル: Beta=5.72、P=0.005)。

     

    【結論】

     縦断的な検討の結果、ベースライン時での運動器慢性痛の重症度が高いものは1年後遂行機能が低下しやすいことが明らかになった。高齢者において痛みを有する者は多いため、遂行機能低下を予防する観点においても運動器慢性痛の重症度が高い者に対する適切な介入の必要性が示唆されたと考えられる。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会により承認され、対象者に研究実施前に説明を行い、同意を得て実施した。

  • 佐久間 誠司, 福島 一雄
    セッションID: O-7-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】高齢者において筋力を維持増強することは、転倒・寝たきり予防に重要である。全身運動の中でも、歩行は手軽で効果が高い運動である。しかし歩行が困難な高齢者では実施できず、重垂バンドや徒手による抵抗運動などが行われている。これらの運動は単調なため高齢者には継続困難なときがある。「足こぎ車いす」は、足でペダルを回転させることで移動できる車いすである。自ら操作するため、運動に対する意欲の維持に役立つと期待される。本研究の目的は、自立歩行が困難な高齢者が「足こぎ車いす」を用いた運動を継続して行うことが可能か検討し、さらにその結果、下肢筋力の増強の有無、日常生活活動の維持、向上が可能であるか検討することである。

    【方法】自立歩行が困難な入所者で本研究への参加の同意が得られた6名(男性3名、女性3名、78歳~105歳、平均年齢90.3±8.7歳)に「足こぎ車いす」を用いた運動を実施した。研究期間は1年で、開始時及び6ヶ月後、1年後に、①下肢筋力(Weight Bear Index,WBI)、②日常生活活動(FIM得点)、③脈拍(安静時及び「足こぎ車いす」走行時、介助歩行が可能なときは歩行時)、④最大走行スピードを測定した。期間終了後にアンケートを実施した。統計解析はt検定を用いた。

    【結果】6名中、「足こぎ車いす」の自力走行が可能だったのは4名であり、2名は介助を受けながら走行した。また介助歩行が可能だったのは3名だった。運動頻度は開始から6ヶ月までが平均2.5回/週、6ヶ月から1年までが平均3.0回/週で有意に増加した(P=0.05)。下肢筋力(WBI左右平均)は開始時15%、6ヶ月後15%、1年後15%と、有意差はなかった。日常生活活動(FIM得点平均)は、開始時24.5点、6ヶ月後28.0点、1年後28.7点と改善傾向を示したが有意差はなかった(p=0.14)。6ヶ月時点での脈拍は、安静時(78.0±10.4)に比べ、「足こぎ車いす」走行時は平均+6増加、歩行時は平均+21増加と歩行時の脈拍は「足こぎ車いす」走行時に比べ有意に高かった(p=0.05)。最大走行速度は6ヶ月時点で平均0.75m/s、1年後時点で平均1.09m/sと有意に増加した(P=0.03)。アンケートでは、「足が強くなった」4名、「訓練が楽しかった」5名、「リハビリのやる気が出た」5名、また全員が「今後も乗りたい」と答えた。

    【結論】加齢による機能低下も推測されたが、1年間の研究期間中に下肢筋力や日常生活活動の有意な変化はなく、身体機能は維持できたと言える。この理由を脈拍変化から考察すると、「足こぎ車いす」の運動負荷は、安静時よりは高いものの、歩行時に比べると負荷が軽く、適度な負荷量で運動できたためと推察される。アンケート結果より、運動意欲の向上が読みとれ、継続可能な運動であった。以上より「足こぎ車いす」による運動は安全性も高く、高齢者の運動に対する意欲向上や身体機能の維持に役立つと考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、平成27年度国立駿河療養所倫理審査委員会の承認を得て実施された。対象者には文書による説明と書面による承諾を得た。

  • 市野 敏亮, 中江 誠, 筑後 佳華, 藤村 幸世, 杉原 啓介
    セッションID: O-7-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    今回、理学療法士等の配置されていない通所介護(以下、DS)の利用者に対して、介護職員への助言指導という間接的な介入が、利用者の身体動作能力に与える効果について報告すること。

    【方法】

    対象は、承諾をしたDSの利用者14名のうち、継続して実施できた8名(男1名・79歳、女7名・89.9±4.1歳)。評価項目は、体重、握力、5回起立着座時間(以下、5CST)、Timed Up & Go test(以下、TUG)、開眼片脚立位時間、5m歩行時間、基本チェックリストの運動項目)とした。介入期間は、平成28年11月~平成29年11月の1年間とした。初期評価後、理学療法士等が個別に運動プログラムを立案し、DSの介護職員が直接実施した。この間のDSの平均利用回数は2.8回/週であり、3ケ月毎の評価と弾力的なプログラムの修正を行い、利用者へフィードバックした。今回は、初期(平成28年11月)と最終評価(平成29年11月)時点の比較を行い、基本チェックリストの運動項目をwilcoxonの符号付順位和検定、その他の項目は対応あるt検定にて統計処理し、有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    体重(47.0㎏→46.9㎏)、握力(37.1㎏→35.5㎏)、開眼片脚立位時間(5.3秒→9.5秒)、基本チェックリストの運動項目(3.1点→3.8点)に有意差は認められなかった。5CST(13.2秒→10.3秒、P=0.0099)・TUG(14.2秒→11.7秒、P=0.0474)・5m歩行時間(6.35秒→4.9秒、P=0.0150)は有意な改善を認めた。

    【結論】

    DS利用者の脚力及び移動動作項目に改善を認めた。1年間の理学療法士等による助言指導で、他職種(介護職員)による個別プログラムの実施でも、一部の身体動作能力については改善することができた。平成30年度の介護報酬改定では、DSでの個別機能訓練に理学療法士等が関与する事に対して加算が新設された。今回の結果は、これを裏付けるものであり、地域における介護予防リハビリテーションマネジメントの観点から、利用者の身体動作能力向上のためには、利用者の個別の評価とプログラムの立案が重要であると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は当法人倫理委員会の承認番号を受理している(承認番号 第17-011号)。

  • -身体活動および身体活動規定因子に着目して-
    森山 信彰, 西間木 ます子, 大類 真嗣, 岩佐 一, 黒田 佑次郎, 小野 道子, 佐藤 紀子, 岡崎 可奈子, 髙村 元章, 安村 誠 ...
    セッションID: O-8-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故(原発事故)の被災者、特に高齢者では避難による生活の変化にさらされ、精神的健康度の低下をきたしやすいことが解決すべき健康問題の1つとしてあげられる。定期的な運動実践には肯定的な感情の改善効果があるとされており、避難高齢者の身体活動を促進させるヘルスプロモーションは有益である。本研究では、東日本大震災および原発事故により避難を余儀なくされた高齢者の精神的健康度に関連する因子を、身体活動量および身体活動規定因子に着目して探索した。それにより、予防理学療法の手段として多く用いられる、身体活動促進を目的とした介入を通して対象者の精神的健康度の向上させるための有効な戦略を検討することを目的とした。

    【方法】対象は、原発事故後に避難を経験した福島県A市に在住する65歳以上の男女34名(男性6名、女性28名、年齢73.9±5.8歳)であり、調査は2018年1月から2月に実施した。精神的健康度の尺度にはWHO-5 精神健康表日本語版(WHO–5–J;25点満点)を用いた。身体活動量の指標は連続7日間の1日平均歩数とし、デジタル万歩計EX-300(山佐時計計器株式会社)を用いて測定した。その他、身体活動の関連因子として、運動セルフエフィカシー(肉体的疲労・精神的ストレス・時間のなさ・悪天候、の運動実践が困難になる各状況下で運動する自信があるかを5件法で求め、20点満点で評価)と自宅周辺運動環境の認知(自宅用具・施設へのアクセス・近隣の安全性・景観・役割モデルの各観点で、自宅周辺に身体活動実践のための環境が整っていると感じるかを「はい」、「いいえ」の2件法で求め、5点満点で評価)を算出した。統計解析には、WHO–5–Jのスコアを従属変数、年齢・性別・1日平均歩数・運動セルフエフィカシー、自宅周辺運動環境の認知を独立変数とした重回帰分析を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】WHO–5–Jのスコアの平均値は16.9±4.3点であった。ステップワイズ法による重回帰分析の結果、精神的健康度の関連因子として自宅周辺運動環境の認知(標準偏回帰係数β=0.386、p=0.024)が抽出された。さらに、年齢・性別・自宅周辺運動環境の認知の各項目を独立変数として強制投入したところ、分散分析でp=0.176となり、モデルの有意性が認められなかった。

    【結論】本研究では因果関係の断定は困難だが、精神的健康度の高い者は、居住地の周辺環境が「身体活動の実践に適している」と評価する傾向が示された。一方、身体活動量と精神的健康度の関連は認められず、趣味活動やサロンのような社会参加などの高い身体活動量を伴わない活動が精神的健康に及ぼす影響も考慮する必要がある。サンプルサイズが小さいという限界はあるものの、避難高齢者の精神的健康度の向上には、居住地周辺で運動を実践するための具体的な方法を提示することなどが有効である可能性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は福島県立医科大学倫理委員会の承認を得たうえで実施した(一般29155)。また、本研究はヘルシンキ宣言を遵守して行い、研究への参加にあたり対象者には研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。

  • 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 笹代 純平, 竹内 拓哉, 利根川 直樹, 福井 一輝, 森山 信彰
    セッションID: O-8-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    スポーツ庁は、「スポーツの実施状況に関する2017年度の調査結果」で、週1回以上運動・スポーツをする成人の割合を51.1%としている。運動・スポーツは散歩を含むウォーキング(歩行)が突出している。生活習慣病の予防や介護予防の視点から、全世代が歩行に親しむことが推奨される。筆者らは、東日本大震災によって仮設住宅に避難した高齢者の歩行数が少ないことを示した(Moriyama N, et al. 2017)。一方、成人男性の平均歩数は約7,000歩、女性は約6,000歩である(平成28年国民健康・栄養調査)。今回、大学生がどの程度歩行しているかを示し、予防のためにウォーキングを習慣化するにはどのような工夫をすればよいか、考えたい。

    【方法】

    2013年からの5年間で、H大学の教養教育科目「健康スポーツ科学」を受講した1年生、480名を対象とした。講義開始時に全員に歩数計を配布し、約2~4か月間の歩行数を記録した。2017年からは、スマートフォンアプリ「SALKO」にも参加登録し、歩行数を記録した。講義の実施前後の歩数、終了後6か月後の継続率等を調査、比較した。

    【結果】

    講義開始時の平均歩行数は男性で3,900歩、女性で3,300歩だった。2か月後の講義終了時は男性で7,800歩、女性で6,400歩であった。6か月後にも「SALKO」を使用していた学生は、140名中12名であった。

    【結論】

    東日本大震災による仮設住宅在住の高齢者の歩行数は、男性で平均4,700歩、女性で4,200歩だったが、H大学の新入生はそれを下回っていた。一般に、歩行数は男性で20歳代が多く、女性では20~60歳代がほぼ等しいとされているが(平成28年国民健康・栄養調査)、若年成人にあたる大学生の歩行数が相当に少ないことが示された。「健康スポーツ科学」の講義では、ウォーキングが健康増進や疾病予防に大きな役割を果たすことを伝えることで、明らか歩行数が2倍近く増加することが確認できた。青少年に運動の重要性を説くことは、やはり必要なことと思われる。

     しかしながら、講義の終了後には徐々に歩行数が減少し、6か月後に歩行を意識していたのはわずかの学生のみであった。「ウォーキング愛好者」への行動変容を定着・継続させるには、大きな困難があるようだ。

     内閣府の「青少年のインターネット利用環境に関する2017年度の実態調査結果」でネット利用時間は平均2時間39分としている。H大学の1年生の講義前の歩行数を時間で表すと男性で約40分、女性で30分程度である。自動車や電車での移動、座業が多いこと、引きこもりなどが歩行数の減少につながる。これに加え、ネット利用時間が極端に長くなっていることも次なる問題であろう。

    【展望】

     1歩歩くことで、医療費低減効果は0.061円と計算されている(久野, 2015)。歩行数を増加させるためには、予防の教育は必要であるが、インセンティブやリワードといった利益を伴う政策が必要なのかもしれない。SALKOをはじめ全国でこのような試行が始まっている。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に則り、対象に書面と口頭にて説明を行い同意を得て実施した。

  • 大河原 和也, 大矢 敏之
    セッションID: O-8-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    平成29年度より総合事業は市町村の実情に応じて取り組むこととなり、民間のフィットネスクラブに業務委託する市町村は増えている。北海道上川郡鷹栖町では、平成29年5月に当法人と町が協同で高齢者向けのフィットネスクラブ(以下、当施設)を総合事業拠点施設として開設した。当施設は理学療法士1名が常駐し、マシントレーニングや体操教室を通した介護予防に取り組んでいる。フィットネスクラブでの介護予防事業は今後拡大することが予想され、提供するプログラムの効果検証はエビデンスの構築ならびに住民への利用促進を図る上でも重要である。今回、60歳以上の地域住民を対象に、週1回以上のマシントレーニングが身体機能に及ぼす影響について検討した。

    【方法】

    利用開始時の初期評価と、利用開始から半年後の半年後評価が実施可能であった当施設を利用している60歳以上の地域住民82名を対象とした。そのうち、半年間週1回以上当施設を利用した34名(男性5名、女性29名、平均年齢69.4±6.2歳)を運動習慣群(以下、習慣群)、2週間に1回未満の利用であった9名(男性3名、女性6名、平均年齢68.1±7.2歳)を運動非習慣群(以下、非習慣群)とした。当施設で提供するプログラムは、柔軟性を高める機器としてSDシリーズ(ミナト医科学社製)、筋力トレーニング機器としてウェルトニックシリーズ(ミナト医科学社製)、有酸素運動としてニューステップ(セノー社製)、トレッドミル(セノー社製)を使用したサーキットトレーニングで、運動時間は約1時間である。測定項目は最大等尺性膝関節伸展筋力(以下、伸展筋力)、Functional Reach(以下、FR)、Timed “Up and Go” test(以下、TUG)とした。伸展筋力はウェルトニックシリーズのレッグエクステンション機器のテストモードを使用し、測定値を体重で除した体重支持指数(Weight Bearing Index;以下、WBI)を算出した。統計学的解析について、各群において初期評価時と半年後評価時の身体機能の比較には、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。統計学的処理はEZR ver.1.36を使用し、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    習慣群において、右伸展筋力は初期30.6kgf(23.0-40.8)、半年後37.8kgf(28.6-44.6)、右WBIは初期0.60(0.47-0.73)、半年後0.69(0.57-0.81)、左伸展筋力は初期33.2kgf(26.8-39.3)、半年後36.7kgf(32.9-42.9)、左WBIは初期0.60(0.50-0.73)、半年後0.70(0.62-0.78)、TUGは初期7.3秒(6.3-8.2)、半年後6.6秒(6.4-7.2)と有意な改善が認められた(p<0.01、TUGのみp<0.05)。非習慣群では、全項目において有意差は認められなかった。

    【結論】

    半年間週1回以上筋力トレーニング、有酸素運動のマシントレーニングを行うことで、60歳以上の地域住民でも伸展筋力および複合的バランス能力が向上することが示唆された。今後は介護認定率や疾病罹患率との関連についても検討していく必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    対象者全員に対して、測定前に本研究の内容と対象者の有する権利、データの取り扱いについて口頭にて十分な説明を行い、参加の同意を得た上で行った。

  • -登山医学領域における予防の取り組み-
    下田 栄次, 松田 梓, 蛭田 啓介, 澤田 敦
    セッションID: O-8-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】丹沢山域では年間登山者数が30万人を超えた.遭難発生件数も100件を超え,転倒・滑落による遭難事故も増加傾向にある.秦野市丹沢登山遭難対策協議会では,地元の消防や警察との合同山岳救助訓練や安全登山の啓発活動に取り組んでいる.また平成28年度より理学療法士(以下,PT)の視点から,登山中の怪我や転倒に対する応急処置,登山における効率的な動作やトレーニング方法を登山教室にて提案している.

    転倒・滑落事故の予防と,ヘルスプロモーションの向上を目的に開催した登山教室における受講者アンケートからみた傾向や課題について報告する.

    【方法】受講者は各回15名とし,無作為抽選にて選出した.これまで5回開催し,計77名(男性40名,女性37名)であった.内訳は20歳代3名,30歳代4名,40歳代24名,50歳代22名,60歳代22名,70歳代2名であった.

     受講前後にてアンケートを実施,受講前アンケートでは,登山歴,登山中に発生した疼痛や怪我の既往歴,転倒・滑落経験の有無,転倒経験者に対しては,受傷機転や受傷時の状況を調査した.受講後アンケートでは,受講した感想,意見・要望を自記式で調査し,カテゴリー化して分析した.

    【結果】受講前アンケートより,登山歴は,未経験15名,5年未満33名,5年以上10年未満21名,10年以上8名であった.既往歴では,なし25名,捻挫13名,膝関節痛24名,腰痛12名,靭帯損傷5名,肩関節痛3名,骨折3名,その他6名であった.(複数回答,回答割合77.6%)転倒経験者は27名で,受傷機転は全員が下山時,うち18名が捻挫や骨折の経験あり,足関節捻挫は12名であった.年齢や捻挫・骨折の受傷経験と登山歴では,それぞれ有意差は認められなかった(p=0.22,p=0.23)が,性差と登山歴では,女性に有意差が認められた(P=0.046).

    受講後アンケートでは自由回答による意見・要望を52収集し,(複数回答,回答割合67.5%),断片化した94データから「自分自身の身体への気づき」,「予防やコンディショニングの重要性」,「登山教室で学んだ事を活かす」,「PTに関する内容」の4カテゴリー,18のサブカテゴリーを抽出した.

    【結論】受講前アンケートより登山歴5年未満の受講者が48名と多数を占め,登山中に発生した疼痛や怪我の既往は,下肢に集中していた.また転倒経験のある27名のうち,登山歴5年未満の女性に足関節捻挫が多い傾向がみられた.受講後アンケートでは,登山教室の講座内容に関する良好なフィードバックが得られ,実践練習型の学習内容により身体への気づきが促進されたと考えるが,転倒の原因や転倒時の捻挫および骨折に至った原因は多岐に渡る.本調査では受講者の傾向を概観するに留まり,ここが本調査における限界である.今後は,さらに丹沢山域における登山者の特性を調査し,登山中の転倒や怪我の予防に繋がるプログラムの作成に向けて,性差や年代別の追加調査,受傷機転に関わる詳細な分析が必要と考える.

    【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,受講者にはアンケートに先立ち本調査の趣旨,内容および危険性,研究への参加は自由意思であることについて文章ならびに口頭で十分な説明をした.また得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することを説明し,同意を得た上で実施した.

  • 田村 靖明, 三浦 哉, 出口 憲市, 橋本 祐司, 出口 純次, 福島 翔太, 森 智大
    セッションID: O-8-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】動脈硬化症の予防には,一般的に持続的トレーニング (CT) が推奨されている.近年,インターバルトレーニング (IT) は,CTと比較して同程度またはそれ以上に動脈機能を改善させ,さらに,総仕事量を減少させた場合においても動脈機能に対して有効であることが報告されている.一方で,主運動と完全休息を反復する運動を用いるレペティショントレーニング (RT) が,動脈機能に与える効果は十分に明らかにされていない.RTが動脈機能に対して有効であれば,新たな運動プログラムとして提案できる可能性がある.そこで,本研究は,RTが動脈スティフネスに及ぼす影響について検討した.

     

    【方法】被験者は,健康な成人男性19名であり,RT (RT群; 10名) およびCT (CT群; 9名) に無作為割賦した.自転車エルゴメータを用いて,RT群は,100%peak power output (Wmax) 強度で,20秒間の高強度運動と40秒間の完全休息を20回反復させる運動とし,CTは50%Wmax強度の持続的運動として,それぞれ20分間,週3回,6週間実施した.トレーニング期間前後に動脈機能の評価として,血圧脈波検査装置を用いて,約15分間の仰臥位安静後に収縮期血圧 (SBP),拡張期血圧 (DBP),心拍数 (HR),上腕-足首動脈間の脈波伝搬速度 (baPWV) を測定した.トレーニング効果を検討するために,反復測定による二元配置分散分析を行い,事後検定には,Bonferroni法をそれぞれ用いた.統計処理はSPSS ver24.0を使用し,有意水準5%をもって統計学的有意とした.

     

    【結果】トレーニング前後のbaPWVは,RT群で1142.9 ± 148.0 cm/sec,1110.9 ± 145.2 m/sec,CT群で1119.1 ± 91.8 cm/sec,1098.3 ± 45.7 m/secであり,RT群のトレーニング前後で有意差が認められた.SBPは,RT群で114.7 ± 7.8 mmHg,116.8 ± 7.7 mmHg,CT群で112.8 ± 5.4 mmHg,113.4 ± 5.2 mmHg,DBPは,RT群で63.8 ± 6.2 mmHg,61.1 ± 6.5 mmHg,CT群で63.7 ± 4.9 mmHg,62.2 ± 6.7 mmHg,HRは,RT群で62.1 ± 8.2 bpm,59.9 ± 7.5bpm,CT群で57.7 ± 7.3 bpm,58.0 ± 7.5 bpmであり,それぞれ有意な差は認められなかった.

     

    【結論】RT群において,トレーニング前と比較して,トレーニング後にbaPWVが低下した原因として,エンドセリン-1濃度の低下および一酸化窒素濃度の増加,さらに,血管壁の再構築といった器質的変化が影響したことが考えられる.CTおよびITに加えてRTも,動脈硬化の予防/改善を目的とした運動プログラムの選択肢の一つになる可能性が示唆された.

     

    【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,徳島大学総合科学部人間科学分野における研究倫理委員会の承諾を得たものであり,被験者には,事前に文章および口頭にて研究内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中断などについて説明し,書面にて承諾を得た後に実験を開始した (受付番号01).

  • 太田 啓介, 森田 智之, 松田 健太
    セッションID: O-8-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】脊髄損傷者(以下脊損者)には特有の合併症状があり,その一つに褥瘡がある.脊損者における褥瘡発生率に関して,様々な要因が先行研究により挙げられており,その一つに健康状態が関与するという報告もある.健常人では健康の維持増進に関する指針が活動量で提示されている.しかし,脊損者に対して健康の目安となる指針は見られなかった.また,脊損者に対して実際に活動量を計測した報告は見られなかった.

    本研究は,脊損者における移動距離計測方法の検証及び移動距離と活動量の関係性を検証することを目的とした.

    【方法】

    1 対象

    当院併設施設入所中で,日常の移動手段が車椅子の脊損者5名.

     2 方法

     被験者の車椅子の左右駆動輪にサイクルメーター(キャットアイ社製 VELO9 CC-VL820)を,クロスバーにスマートウォッチ(GARMIN社製 vivoactive J HR)を取り付けた.また,被験者の下衣の腹部に活動量計(オムロン社製 ActiveStylePro HJA-750C)を装着した.

     サイクルメーターで車椅子の移動距離と車椅子駆動時間,スマートウォッチで車椅子の移動距離と計測時間を,活動量計で被検者の1分ごとの活動量を計測した.

     計測は各人3日間連続して行い,8時から17時の計9時間を計測した.また,計測期間中に特別に運動や活動の制限は設けなかった.

     3統計処理

     統計処理は危険率5%未満を有意とし,左右のサイクルメーター,スマートウォッチの移動距離を一元配置分散分析,左右サイクルメーターの駆動時間に対応のあるt検定を行った.

     活動量は計測時間中の1分ごとの活動量から1日のエクササイズの総和を算出し,同日の移動距離との相関係数を求めた.

    また,被験者ごとに3日間の活動量の分布を算出し,平均値を代表値としてヒストグラムで示した.

    【結果】移動距離は左右のサイクルメーター,スマートウォッチの3者間に有意差は認められなかった.(p=0.12)

    車椅子駆動時間は左右サイクルメーター間に有意差は認められなかった.(p=0.94)

    エクササイズと,移動距離の間に有意な相関が認められた.(p=0.001 r=0.79)

    計測されたMETsはすべての被験者にて1より大きく,1,5以下の範囲の値が多く示された.

    【結論】脊損者の身体活動量の計測方法の検証を行った.今回の計測で得られた機器間の値に有意な差は認められず,左右駆動輪の間にも駆動距離に有意な差は認められなかったため,今後の計測では単一機器での計測が可能でないかと考えられた.また,エクササイズと移動距離の間に有意な相関がみられたが,計測されたMETsの値は歩行相当である3を超えるものは少なく,脊損者の活動量が向上する他の要因の検討も必要であることが分かった.

    本研究は平成29年度科学研究助成事業(科学研究補助金)(奨励研究)課題番号17H00721の交付を受けて行われた.

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得(承認番号:krh-2017-4),被験者には書面と口頭で説明し同意を得た.

  • 田中 暢一, 倉都 滋之
    セッションID: O-9-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    骨粗鬆症性骨折である大腿骨近位部骨折は、一度骨折を起こすと次の骨折を起こしやすくなるため、一次骨折予防と同様に二次骨折予防も重要である。骨折・手術後の運動機能低下は易転倒性となるだけでなく、骨密度の低下をも招く恐れがあり二次骨折を起こす危険因子になりうる。そのため、二次骨折予防には運動機能の改善が重要であるが、同骨折後の運動機能予後には受傷前の運動機能が影響するといわれている。よって、運動機能の改善に向けたリハビリテーションを円滑に進めていく上では、受傷前の運動機能を把握することが重要である。そこで今回の目的は、大腿骨近位部骨折症例に対しロコモティブシンドロームの評価ツールであるロコモ25を用いて受傷直前の運動機能を評価するとともに、骨粗鬆症性骨折と関連する因子がロコモ25に影響を及ぼすのか明らかにすることとした。

    【方法】

    対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷して当院に入院となった60歳以上の66例である。適格基準は、反対側に大腿骨近位部骨折の既往骨折はなく、受傷前から歩行が可能で、自記式質問紙の回答が可能であることとした。受傷前の運動機能の評価にはロコモ25を使用し、対象者に受傷前の状態を回想して回答するように依頼した。加えて骨密度(DXA法)、既往椎体骨折(SQ法)、骨粗鬆症治療薬の内服有無、過去1年間の転倒歴(今回の転倒は除く)、握力の5項目を評価した。検討事項は、まずロコモ25の合計点を算出し、対象者の運動機能の特性を把握し、次にロコモ25の合計点を従属変数、評価した5項目に性別、年齢、BMIを加えたものを独立変数とする重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した(有意水準5%)

    【結果】

    最終対象者は記入不備のあった5例を除いた61例(平均年齢79.8±7.2歳、女性48例、男性13例)であった。ロコモ25の合計点は中央値18.5(四分位範囲6.0〜40.8)点であり、ロコモ度2(移動機能の低下が進行している状態)に該当する16点以上は32例(53.3%)であった。重回帰分析では、年齢、過去1年間の転倒歴が有意な因子となった(p<0.01)。さらに追加検討として、過去1年間の転倒歴に及ぼす影響を追及(ロジスティック回帰分析)した結果、既往椎体骨折(グレード3)と握力が有意な因子となった(p<0.01)。

    【結論】

    大腿骨近位部骨折を起こす症例は、約半数が受傷前から運動機能が低下していることが確認され、その中でもさらに低下しているものは高齢で複数回の転倒を繰り返していたことがわかった。また、複数回の転倒歴には脊椎の重度な骨折(変形)と握力が影響しており、脊椎アライメントの変化によるバランス能力の低下が転倒率の上昇を招いている可能性が示唆された。よって、これらの特徴を有する症例に対しては、運動器および運動機能の詳細な評価と栄養指導や環境調整なども含めた多角的介入の考慮をより重要視し、早期から実施すべきであると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の目的,方法,研究への有無により不利益が生じないことを十分に説明を行い,同意を得た.また,得られたデータは個人が特定されないようにコード番号に置き換えて分析することで,個人情報管理に十分に留意した.

  • ~転倒内的因子との関係性~
    倉田 和範, 船着 裕貴, 安部 大昭, 小幡 賢吾
    セッションID: O-9-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    入院患者においては我々理学療法士がリハビリテーション(以下、リハ)を通じて早期離床を促し、病棟内歩行を早期に自立させることで、患者の活動性を維持することが重要であると考える。先行研究によると、入院患者の転倒は1日当たり1000人中1.2-10.1件発生し、このうち約1-3%は骨折などの有害事象が発生するとされている。これらのことから、歩行自立に際しては患者の転倒危険因子を評価する必要があると考える。転倒危険因子は外的因子と内的因子に分類され、このうち内的因子は過去1年間の転倒歴(転倒歴)、バランス能力低下、上肢または下肢筋力低下、高齢、視力低下、認知機能低下、ポリファーマーシー、起立性低血圧またはめまい、関節炎等が報告されている。しかし、入院患者の歩行自立とこれら転倒危険因子を検証した報告は少なく、入院患者においてどの因子が重要かは明らかにされていない。そこで、院内歩行自立と転倒危険因子との関係性を検証し、より関係性の高い因子を抽出することを本研究の目的とした。

    【方法】

    入院前に杖歩行または独歩が可能で、平成28年4月から平成29年8月の間に当院で入院リハを行った65歳以上の患者607名。本研究は歩行自立可否をアウトカムとするため、下肢筋力に明らかな左右差がある270名は除外した。また、認知症や精神疾患、急遽の退院等で評価困難、測定リスクが高いなど安全面の問題、退院時歩行困難などの181名も除外し、調査対象は156名とした。臨床的背景因子として年齢、性別、主疾患、服薬、身長、体重、入院前の転倒歴、視力低下、起立性低血圧またはめまい、関節痛およびMini Mental State Examination(MMSE)を診療録より抽出した。Functional Reach Test(FRT)、握力、膝伸展筋力、Short Physical Performance Battery(SPPB)を退院直前に評価した。退院時にFunctional Independence Measureの移動項目が6点または7点を自立群、5点以下を非自立群とした。統計学的解析として、まずwilcoxon検定またはχ2検定を用いて2群間を比較した。次にステップワイズ法にて有意差が得られた因子を独立変数、歩行可否を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。すべて危険率5%未満を有意差ありとした。

    【結果】

    自立群102名、非自立群54名であった。両群間に有意差を認めた因子は年齢、MMSE、握力、膝伸展筋力、FRT、SPPB、転倒歴、起立性低血圧またはめまいであった。ステップワイズ法にて抽出された独立変数はMMSE、膝伸展筋力、SPPB、転倒歴、起立性低血圧またはめまい、5種類以上の内服であった。多重ロジスティック回帰分析を行った結果、歩行自立可否に関係する因子として、MMSE、SPPB、転倒歴が抽出された。

    【結論】

    入院患者の歩行自立に関連する因子は転倒歴、SPPB、MMSEであることが示された。これらの因子を評価することで、歩行自立を検討する際の一助になるのではないかと考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言を遵守しており、当院倫理委員会の承認を得ている(承認番号2017-04)。また、患者に十分説明し同意を得たうえで評価を行った。患者が特定されないよう匿名化されたデータを用いた。

  • -Isotemporal Substitution Modelによる解析-
    出口 直樹, 井澤 渉太, 横山 一仁, 村木 啓人, 鴛渕 亮一, 高橋 慶悟, 平川 善之, 檜垣 靖樹
    セッションID: O-9-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】変形性膝関節術後患者の生活の質に,心理的障害が関連する。近年,抑うつの悪化と座位行動の増加の関連が明らかになっている。また,慢性腰痛患者では,抑うつと破局化思考が関連するが,座位行動と破局化思考の関連は不明である。本研究では,術後の高位脛骨骨切り術(HTO)患者の入院中の座位行動と疼痛,心理的要因,運動機能の関連を検討した。

     

    【方法】対象は,本院でHTOを施行し,術前の歩行が介助を要す者や精神科疾患,神経学的状態を有する者を除外した107名(年齢66±7歳,女性73%)とした。評価項目は,身体活動(三軸加速度計,Active style pro350),歩行時痛(Numerical Rating Scale: NRS),破局化思考(Pain Catastrophizing Scale: PCS),自己効力感(Pain Self-Efficacy Questionnaire: PSEQ),術側と非術側の等尺性膝伸展筋力の体重比(以下,膝伸展筋力),10m歩行時間(以下,10m歩行)を測定および調査した。各項目の測定時期は,術後3週(3W)および5週(5W)で,身体活動は,測定日に開始日の朝から翌日の朝まで腰部に24時間装着し,1.5METs以下の座位行動(SB),1.6~2.9METsまでの低強度(LPA),3.0METs~5.9METsの中強度(MPA)の時間(分;1単位=10分換算)に分類し,10時間以上のものを採用した。分析は,Isotemporal Substitution Modelを用い,1)従属変数を5WのNRS,PCS,PSEQ,膝伸展筋力,10m歩行の各項目とし,説明変数を3WのSB,LPA,MPA,2) 変化量(5W-3W;△)とし従属変数を△NRS,△PCS,△PSEQ,△膝伸展筋力,△10m歩行,説明変数を△SB,△LPA,△MPAをとした。1)と2)の共変量は,年齢,Body mass index,性別,術側X線重症度,罹患期間,患者教育,入院時期,合併症,術後要因,各説明変数における3Wのスコア,装着時間とした。統計学的分析は,SPSS(ver 25)を用い,共変量を強制投入した階層的重回帰分析にて解析した。

     

    【結果】3WのSB(600±151),LPA(318±95),MPA(6±8)で,変化量は△SB(-27±141),LPA(9±72),MPA(20±84)であった。1)3WのSB,LPA,MPAと5WのNRS,PCS,PSEQ,膝伸展筋力,10m歩行の関連は認めなかった。2)SBモデルでは,△PCSのみ関連し,△LPA(OR=-3.0,95%CI;-3.3,-2.7)および△MPA(OR=-3.5,95%CI;-3.8,-3.3)であった。LPAモデルでは,△PCSのみ関連し,△MPA(OR=-3.4,95%CI;-3.6,-3.1)であった。

     

    【結論】1)3Wの身体活動は,5Wの疼痛の強度,破局化思考,自己効力感,運動機能の予測因子ではなかった。2)3Wから5Wに座位行動を1日あたり10分間減少させ,低強度および中強度の10分間増加させることは,PCSの減少に独立して関連した。また,座位行動および低強度を10分減少させ,中強度を10分増加させることはPCSの減少に同程度貢献した。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言または臨床研究に関する倫理指針にしたがった。対象には趣旨を書面にて説明し,理解したうえで書面に同意を得た。また,得られたデータは個人が特定されないようにID化した。なお,福岡リハビリテーション病院および福岡リハ整形外科クリニックの倫理委員会の承認(受理番号FRH2016-R-020)を得て実施した。

  • -3年間の追跡調査を通して-
    佐藤 憲明, 椛島 寛子, 星木 宏之, 有吉 雄司, 津崎 裕司, 小笠原 聡美
    セッションID: O-9-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】心不全になると異化亢進、食欲不振、消化管浮腫、炎症性サイトカインなどにより栄養不良の状態になり体重減少しやすいことは知られている。近年、心不全患者はBody Mass Index(BMI)高値の方がBMI低値よりも予後が良好であるとの報告が散見されており、本邦でもJCARE-CARD研究やKomukaiらが同様の報告をしている。しかしながらBMI低値は年齢に関わらず予後不良因子であるかは明らかになっていない。そこで本研究では心不全患者の予後をBMIと年齢で区分して検討することを目的とした。

    【方法】対象は2009年1月〜2011年12月までに当院に入院した心不全患者243例とし、75歳以上群141例(平均年齢82歳 男性62例 女性79例)と75歳未満群102例(平均年齢64歳 男性72例 女性30例)に分類した。除外基準は入院中の死亡、退院時BMI不明とした。BMI低値の基準として、サルコペニア(下方ら、2012)や低栄養の診断定義(欧州臨床栄養代謝学会)で提唱されている18.5kg/m2未満を採用し、BMI25以上、18.5以上25未満、18.5未満の3群に分類した。primary endpointは全死亡または心不全による再入院(以下、event)とし、Kaplan-Meier法によりBMI毎のevent回避率を求め、generalized Wilcoxon testにより有意差を求めた。追跡期間は3年間とした。さらにCox比例ハザードモデルを用いて予後との関連因子を検討するとともに、調整ハザード比と95%信頼区間を算出した。説明変数は退院時BMIの他に、年齢、性別、高血圧有無、心房細動有無、糖尿病有無、虚血性疾患有無、LVEF、eGFR、心臓リハビリテーション有無とした。統計解析はSPSS ver21を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】75歳以上群では、BMI18.5未満が有意に予後不良であった(p<0.05)。一方75歳未満群ではBMI3群間で有意差を認めなかった。Cox比例ハザードモデルによるevent発生の有意な関連因子として、75歳以上群では年齢(HR1.070 95%信頼区間1.020-1.122)、eGFR(HR0.971 95%信頼区間0.957-0.985)、BMI(HR0.924 95%信頼区間0.854-0.999)が抽出され、75歳未満群では、eGFR(HR0.981 95%信頼区間0.966-0.997)、心房細動(HR0.482 95%信頼区間0.248-0.938)が抽出された。

    【結論】BMI低値は75歳未満の心不全患者には予後に対して影響は少ないが、75歳以上の心不全患者にとっては独立した予後不良因子となることが示唆された。一般的に心不全患者に対して医療従事者は、浮腫による体重増加には敏感に反応するが、体重減少にはあまり危機感を抱いていない傾向がある。特に後期高齢心不全患者には体重増加と同程度に体重減少にも注意していくことがevent発生の予防において重要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】全ての患者に研究の説明をしてデータを使用することの同意を得た。また個人情報が特定されないようにデータ管理には十分配慮した。

  • 森 和之, 田村 靖明, 出口 憲市, 小泉 貴裕
    セッションID: O-9-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】血液透析 (HD) 患者は,身体活動量が多いほど生命予後がよいと報告されているが,筋力低下および易疲労感により身体活動量が少なくなるため,筋力維持増強および廃用症候群の予防を目的として,透析中に筋電気刺激 (EMS) が使用されている.また,HD患者では,下肢の動脈硬化が進展しているために,足関節可動域制限により足部潰瘍が生じ,切断リスクが高まることが報告されているが,EMSによる他動的な筋収縮により筋血流を促すことで,柔軟性を維持,改善できれば, HD患者の切断リスクを予防できる可能性がある.そこで本研究では,HD患者に対して,6週間のEMSが柔軟性および筋力へ及ぼす影響を検討した.

    【方法】HD患者の男性5名を対象に,6週間の通常透析期間 (control) 後に,EMS介入を週2回,6週間実施した.EMSは,HD中にベルト電極式骨格筋電気刺激装置を用いて,最大耐性の電流強度で,大腿部および下腿部に周波数20Hzで,duty cycle を,刺激5秒,休止2秒に設定した30分間の筋電気刺激とした.control前およびEMS介入前後の透析終了後に,指床間距離 (FFD),最大等尺性膝伸展筋力,および国際標準化身体活動質問票 (IPAQ) にて身体活動量の評価を実施した.また,EMS介入効果を検討するために,反復測定による一元配置分散分析を行い,事後検定にはBonferroniを用いた.なお,統計解析はSPSSver24.0を使用し,危険率は5%未満とした.

    【結果】control前,EMS介入前後のFFDは,-24.5 ± 8.5cm,-28.7 ± 7.6cm,-23.7 ± 7.1cmであり,EMS介入前と比較して介入後において有意差が認められた (P<0.05).また,膝伸展筋力は,3.1 ± 1.0N/kg ,3.1 ± 1.2N/kg,3.5 ± 1.4N/kgであり,EMS介入後に上昇傾向を示した.IPAQは,control,EMS介入前後で有意な差は認められなかった.

    【考察】EMS介入前と比較して介入後にFFDが増加した原因として,他動的な筋収縮に伴う筋血流の増加が,柔軟性の改善に影響したことが考えられる.また,EMS介入後に,筋力増加傾向であった原因は,自動的な筋収縮と同様の抗炎症作用およびタンパク合成促進作用の影響が考えられる.EMS介入により,HD患者の柔軟性を改善し,切断リスクを予防できる可能性が示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は徳島県鳴門病院における研究倫理委員会の承諾を得て実施した(1333).対象者には,事前に研究内容および趣旨などについて説明し,インフォームドコンセントを得た後に研究を開始した.

  • -股関節屈曲運動を用いた検証-
    赤石 翔一, 小河原 由香, 大塚 智文
    セッションID: O-9-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    慢性腎臓病(以下CKD)は、終末期慢性腎臓病(以下ESKD)に至る前の、保存期CKDへの介入による進行予防が期待されている。特に、ESKDへの治療には、年間1.5兆円以上を要し、心血管疾患の合併による致死率が非常に高いため、新たな生活習慣病として注目されている。一方で、現在CKDに対し、腎機能を改善する運動療法に関する報告は少ない。我々の先行研究では、健常人において、腎筋膜との解剖学的な連結を持つ、大腰筋の作用による股関節屈曲運動が、股関節伸展運動と比較して優位に腎血流量を増加させることを報告した。さらに、保存期CKD患者においても同様の傾向が観察された。そこで本研究では、股関節屈曲運動の運動回数が、腎血流量に及ぼす影響に着目して検証を行った。

    【方法】

    対象は健常成人男女24名(平均年齢23.38±17.63歳、平均身長165.0±14.0cm、平均体重62.13±24.13㎏)。測定には超音波画像診断装置(東芝メディカルシステムズ製Xario)コンベックス型プローブ(8.4MHz)を用いた。測定肢位は背臥位にて膝関節屈曲90度とし、測定部位は腹部大動脈から後外側に走行する左腎動脈を測定し、入射角は60°に設定した。超音波の検査者は1名とし、測定は課題前後で実施した。課題は、背臥位にて、股関節、膝関節屈曲位とし、両下腿をレッドコードRを用いて吊った状態から股関節屈曲を行った。運動回数はそれぞれ、A群5回,B群10回,C群15回とし、代償の出現しない範囲で行える運動を実施した。統計処理は一元配置分散分析および、多重比較分析(Tukey法)を用い、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    一元配置分散分析では、優位差を認めた(p<0.05)。一方、Tukey法を用いた多重比較分析では、q=5.64とし、A-B群間=0.24、A-C群間=0.84、B-C群間=1.08となり、各郡間で優位差は認められなかった。これらから、母集団の平均値に一定の傾向はあるが、サンプル数が少ないことから、本研究では群間の優位差が得られなかったと考えられる。

    【結論】

    本研究では、運動回数による、腎血流量への影響が異なる傾向がみられた。先行研究では、保存期CKDに対するレジスタンストレーニングは8~12回が推奨されているが、高齢者や体力の低下したCKD患者には高負荷となる場合が多い。一方、腎血流量に着目した観点では、レッドコードRにて負荷を軽減した状態で股関節屈曲運動を行うことで、運動回数は5回以上でも効果を認める可能性が示唆される。これらから、保存期CKDに対して、股関節屈曲運動により大腰筋を収縮させることで腎血流量を増加させることが、体力の低下した方に対しても、比較的低負荷の運動によって腎機能の改善が期待されるため、より効果的な運動療法になり得ると考えられる。今後も増加が予想されるCKDに対し、本研究の結果が一助になると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究ではヘルシンキ宣言の基本原則、および追加原則を鑑み、予め説明した本研究の概要、公表の有無と形式、および個人情報の取扱いについて同意を得た上で実施した。

  • 代田 武大, 上出 直人, 坂本 美喜, 佐藤 春彦, 柴 喜崇
    セッションID: O-10-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】 近年,近隣環境と地域在住者の身体機能の関連性が報告されている.自宅から幹線道路までの距離が近いほど認知症発症リスクが増加する(Chen H,2017)ことや近隣に歩道が整備されている環境,商業施設へアクセスしやすい等の環境と身体活動量が高いことに関連が認められることが報告されている(Inoue S,2011).これらの先行研究から近隣環境は地域在住者の健康に影響を与える要因の一つであると認識され始めている.一方で,我が国では骨粗鬆症患者数は増加しており,重要な課題と言える.近隣環境と地域在住者の健康に関連が認められると報告されている現在,医学的な背景に加え環境因子も考慮すべきである.本研究の目的は,地域在住高齢者の1年間の骨密度の変化量と近隣環境の関連を調査することである.

    【方法】 対象者は,A市Bセンターで開催された体力測定会(2016年9月)に参加した要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者212名の内,1年後(2017年9月)の体力測定会に参加した者,121名(平均年齢 71.9±4.1歳)を解析対象者とした.自記式アンケートにより,年齢,身長,体重,主観的健康感,抑うつ評価,近隣環境評価:International Physical Activity Questionnaire Environmental Module(IPAQ-E)を調査した.IPAQ-Eの項目は①居住密度,②近隣のスーパーや商店街の数,③近隣の歩道の有無,④近隣の運動場所の有無,⑤近隣の交通量,⑥近隣の運動実施者の有無,⑦近隣の景観の良さである.これらの回答は先行研究(Inoue S,2009)を基に2群に分け解析に用いた.従属変数として骨密度の変化量(ベースライン及びフォローアップの測定値の差)を調査した.骨密度は, 超音波骨密度測定装置:Quantitative Ultrasound(QUS)を用いて,踵骨の超音波伝播速度:Speed of Sound(SOS)を測定した. 薬による影響を除くために,骨密度へ影響を与える可能性がある薬を服用している群と服用していない群に分けて分析した. 解析方法はIPAQ-E,主観的健康感,抑うつ評価,性別,服薬状況については対応のないt検定を用い,年齢,身長,体重,BMIについてはPearson の相関係数を用いて,骨密度の変化量と有意に関連する変数を分析した.

    【結果】 居住密度が高い群(n=40)の方が,居住密度が低い群(n=81)よりも有意に骨密度が上昇(11.8±9.5m/sec)していた(p=0.00).服薬状況及びその他の項目については有意差を認めなかった.

    【結論】 地域在住高齢者において,居住密度が高い場所に居住していることが骨密度を有意に上昇させる要因の1つであることが推察された.

    【倫理的配慮,説明と同意】 対象者には,本研究の目的,内容,個人情報の取り扱いについて口頭及び書面にて説明し,署名による同意を得た.また本研究内容及び研究手順は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会によって承認されたものである.

  • 和田 崇, 松本 浩実, 萩野 浩
    セッションID: O-10-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】オーダーメード型運動処方プログラムは既存パンフレットによる運動処方と比較し、運動習慣のない高齢者の運動に対する行動変容に本プログラムが有用であるかをランダム化比較試験にて検討すること。

    【方法】平成29年に鳥取県日野町の特定健診及び後期高齢者健診を受診したもののうち、研究に参加同意した運動習慣のない50名(男性:30名、女性20名:、平均年齢:69.0±2.5歳)を対象とした。乱数表を使用してオーダーメード型運動処方群(介入群)と既存のパンフレット群(対照群)にランダム割付を行った。介入群には本学が開発したオーダーメード型運動処方プログラムによる運動指導を行い、対照群は一般的なスクワット、片足立ちからなる運動指導を実施した。運動処方時、運動処方後3か月に運動に対する自己効力感および行動変容段階、運動実施率、ロコモ5、膝と腰の痛み(visual analogue scale)を聴取した。運動の自己効力感は、定期的に運動していく上で障害となる状況における運動をする自信を評価した。運動の行動変容段階は、①無関心期、②関心期、③準備期、④実行期、⑤維持期の5段階で構成された尺度を用いて評価した。運動実施率は、運動処方時にカレンダーを配布し運動を実施した日に印を付けることで調査した。そして、運動処方後3か月時点にカレンダーを回収した。運動処方時、3か月時点の各変数の群間比較をMann Whitney U testを用いて行い、各群内における各変数の変化の比較をWilcoxon testを用いて行った。有意水準は5%とした。

    【結果】介入群は26名(男性:11名、女性15名:、平均年齢:69.1±2.9歳)、対照群は24名(男性:9名、女性15名:、平均年齢:68.9±2.2歳)であった。運動処方時の各変数の群間比較において有意な差を認めなかった。3か月時点の追跡調査が可能であったのは介入群25名(96.2%)、対照群23名(95.8%)であった。3か月時点の各変数の群間比較において有意な差を認める変数はなかったが、群内比較において介入群は、運動処方時に比べ行動変容段階(②関心期→③準備期)が有意に向上した。対照群は、運動処方時に比べ膝痛(0mm→11mm)が有意に悪化した。

    【結論】運動処方の違いによる介入効果の差はみられなかったが、オーダーメード型運動処方プログラムでは3か月時点で有意に行動変容段階が向上し、膝や腰の痛みの悪化がみられなかった。個人の体力や痛みの度合いを考慮した運動プログラムは、運動習慣のない地域在住高齢者の運動習慣を改善させる可能性が示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得て行った(No1701B076)。また研究内容については書面と口頭にて対象者に説明し、署名にて参加の同意を得た。

  • 橋本 翔太, 久米 かすみ, 神林 努, 熊谷 健太郎, 松本 紗耶, 鈴木 耀介, 山本 美帆, 山本 祐司
    セッションID: O-10-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】当病院が所在する北海道札幌市南区において、地域住民の生活機能向上や活動範囲が拡大する関わりを検討する目的で、地域住民の生活満足度と生活に対するニーズを把握し、その要因を身体機能、生活機能から分析した。

    【方法】対象は、札幌市南区の自主運動サークル参加者で本研究に対する同意が得られた37名(平均年齢は76.2±12.8歳)とした。2017年5月~6月の期間で対象者に身体機能評価・生活機能評価・アンケート聴取を実施した。身体機能評価として、握力、立ち座りテスト(CS-30)、開眼片脚立ちテスト(OFT)、前方リーチテスト(FRT)、立位体前屈、5m最大歩行速度、Timed Up and Go(TUG)を測定した。生活機能評価として、E-SASを聴取した。アンケートでは、質問Ⅰ.望む生活を送れているか?(送れている、どちらかというと送れている、どちらかというと送れていない、送れていない)とその選択理由(自由記載)、Ⅱ.今後の生活へのニーズ(自由記載)、Ⅲ.日ごろの生活において気軽に誘える友人の数(0人、1~2人、3~4人、5~8人、9人以上)を聴取した。身体機能評価は、各項目の平均値を対象者の平均年齢に該当する値と比較した。生活機能評価は、各項目の平均値をE-SASで示されている一般高齢者の値と比較した。

     統計方法は、1標本t検定を使用し有意水準は5%未満とした。アンケート結果は、百分率を用いた。

    【結果】身体機能は、握力(p<.000)、CS-30(p<.000)、OFT(p<.000)、立位体前屈(p<.000)、5m最大歩行速度(p<.000)、TUG(p<.001)が年代別平均値より有意に高い結果となった。FRTは、有意差は認められなかったが年代別平均値より高い結果となった。生活機能は、「休まず歩ける距離」(p<.011)が一般高齢者より有意に高い結果となり、「生活のひろがり」は有意な差はないが高い結果となった。「転ばない自信」と「人とのつながり」は一般高齢者の値より低い結果となった。アンケートの質問Ⅰで、送れていると選択した対象者を満足、送れている以外を選択した対象者を不満足と分別した。その結果、満足が89%、不満足が11%となった。質問Ⅰの選択理由は、趣味に関する回答が30%、身体機能に関する回答が16%、その他の回答や未回答が54%であった。質問Ⅱは、身体機能向上に関する回答が40%、趣味活動に関する回答が27%、その他の回答が33%であった。質問Ⅲは、3~4人が35%、1~2人が33%、5~8人が19%、0人が8%、9人以上が5%であった。

    【結論】結果から今回の対象者は生活機能・身体機能が一定の水準を満たしており、他者との交流がある人の割合が多いことが分かった。また、生活満足度が高く、今後の生活に関するニーズとして、趣味活動の参加、身体機能の維持・向上に関することが多かった。今後の関わりとして、(1)趣味活動に繋がる運動教室の提供、(2)地域住民へクラブや活動の場の情報提供、(3)地域の関連機関との連携が必要と考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】対象者には、ヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行った。説明として研究協力承諾後も中断・拒否することができること、得られた情報は本研究以外で使用されることはなくデータから個人が特定できないようプライバシーに配慮すること、研究への参加はあくまでも自由であり不参加によって不利益(運動教室に参加できない等)がないことを説明した。研究の同意に関しては同意書に記載していただいた。なお、本研究は当院の倫理委員会から承認を得ている(承認番号:第2017-1号)。

  • 事柴 壮武, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 笹代 純平, 原 正文, 隅田 涼平
    セッションID: O-10-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    当院では野球肩を有している野球選手に対し,傷害の再発予防を目的にミニキャンプと称した運動療法中心の約1週間の短期入院保存治療を行っている.その中で野球選手の評価として原が考案した原テストや投球動作時の筋活動を測定している.筆者らはミニキャンプ入院時の投球動作時の棘下筋の筋活動はAcceleration phaseにおいて高い筋活動を示し,野球肩を有している選手では棘下筋に大きな負荷がかかっていることを報告した.そこで本研究の目的は,野球肩を有している選手における投球動作時の棘下筋の筋活動と原テストについて,ミニキャンプ入退院時での比較を行い,筋活動と理学所見の変化について検討することとした.

    【方法】

    対象は野球肩を有し,当院にてミニキャンプを行った野球選手31名とした.筋活動の測定には表面筋電図を用い,被験筋は棘下筋に加え,同じ肩外旋筋の比較として三角筋後部線維も同時に測定した.投球動作のEarly cocking,Late cocking,Acceleration,Follow through phaseの4相を解析区間とした.理学所見として,原テストの11項目(SSD・CAT・HFT・LOOSE・ET・EPT・SSC・ISP・SSP・HERT・Impinge)を投球動作の測定前に同一検者によって測定した.統計についてAcceleration phaseに対するその他のphaseの比較にはBonferroniの方法を用いた.また野球肩理学所見の各項目の比較にはMcNemar法を用いた.いずれも有意水準5%を有意差ありとした.

    【結果】

    入院時のAcceleration phaseにおける棘下筋と三角筋後部線維の筋活動は,他のphaseよりも有意に高値を示した.退院時において三角筋後部線維の筋活動は有意な変化はなかったが,棘下筋の筋活動はEarly cocking phaseとのみ有意差があった.これはAcceleration phaseに対してLate cockingとFollow through phaseで相対的に増大したことを示す.加えてAcceleration phaseからFollow through phaseへの最大値の変位を認めた.理学所見では,入院時と比較して退院時では可動域評価のCAT・HFT,肩甲骨アライメント評価のSSD,肩甲骨複合筋力評価のET・EPT,腱板筋機能評価のSSPの6項目で有意に陽性者数が減少していた.

    【結論】

    投球動作時の棘下筋について,JobeらはLate cocking phaseとFollow through phaseで最大値を示したと報告している.このデータは健常な選手を対象としており,入院時においてAcceleration phaseで最大値を示したことは野球肩の一特徴であることが考えられる.それに対し,退院時では腱板筋機能評価のISPやSSCにおいて,1週間の入院で有意な改善までは至らなかったが,その他の肩の理学所見の改善により,肩関節における求心位を保持しやすくなった結果,Late cockingとFollow through phaseにおいて棘下筋が機能するようになり,健常な選手の筋活動動態に近づいていきたことを示唆している.今後はスポーツ復帰状況と合わせて経過を調査することで傷害予防へとつなげていきたい.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は当院倫理委員会の承諾を得て(承認番号00004),ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行い実施した.対象には事前に研究内容について書面にて説明し,協力の同意を得た.

  • -子ども達の為のスポーツチャリティーイベントASSIST-
    中村 総克
    セッションID: O-10-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】 健康は、個人の自助努力のみで維持・増進できるものではない。個人の健康に様々な活動の場の環境が与える影響は大きい。特に高齢者や働く世代、子ども達にとって良好な環境提供は大変重要なものであると言える。

     健康増進と心身の機能の維持・向上を実現するのは、それぞれの場で行うRe-コンディショニングである。Re-コンディショニングとは、なんらかの原因により正常より低下した状態を再び望ましい状態に回復させることである。高齢者では介護予防となり、スポーツではスポーツ外傷・障害予防、企業では予防と再発防止(職業性腰痛予防、生活習慣病予防、労働災害予防)となる。

     Re-コンディショニングは地域や企業、そして医療が連携してこそ実現・達成できるポピュレーションアプローチであると考える。

    【方法】

     ①地域の自主的・主体的な地域づくりや地域の連携を深め作る各種地域活動の拠点施設(市民センター)において地域の健康サポート活動を行った。

     ②企業社員へ作業姿勢や環境を考慮した予防と再発防止の講演・運動指導、健康管理方法の手助けとなる活動を行った。

     ③スポーツチームへは怪我の予防や再発防止の教育や運動指導を行い子ども達の支えとなる活動を行った。

     ④コーディネーターとして①②③の連携を図り、①では市民センターや地域のママさんバレーを通じ“子ども達の為のスポーツチャリティーイベントASSIST”(以下、ASSIST)参加へ繋げ②ではASSISTへ理解を得た企業や企業団体と連携することで協賛を頂いた。③ではプロの競技に触れ子ども達に夢と希望を持ってASSISTへ参加を頂いた。

    【結果】

     ①市民センターでの講演延べ38回を通じて社会福祉連絡協議会の社員研修を行えた。研修者から地域への貢献活動を行えた。また、子ども達と世代間交流をしながら一緒に応援できるASSISTへの参加と繋がった。

     ②企業への講演6社より企業と企業団体との繋がりを得てASSISTへの支援と繋がった。

     ③スポーツチームへの講演21チームを通じて子ども達の健全育成と夢へ向かう姿勢の支援ができた。

     コーディネーターが①②③の連携を図り第6回ASISSTを迎え延べ125社の支援を頂き延べ1369名の子ども達に啓蒙活動を含むスポーツ外傷・障害予防を実施できた。

    【結論】 Re-コンディショニングが高齢者、企業、スポーツを繋ぐ「公的保険外サービス」の創出を示した。

     現在、スポーツチームと高齢者に対する活動はボランティアが多く、収益性の確保できるシステムが必要である。また、企業の健康管理を推進し理学療法士がコーディネーターの役割と効果的な配置・位置づけを進めていき雇用の拡大に繋げたい。

     今後の課題として企業に対する健康管理は社員の健康に維持・増進と生産性の向上を示す必要がある事。さらに人材育成には時間がかかり速やかな人材確保が困難である事が挙げられた。

    【倫理的配慮,説明と同意】説明と同意について、子ども達についてはスポーツ指導者又は、保護者の同意を得て同意書へサインを頂いた。また、企業の代表者に書面にて説明し同意書にサインを頂いた。

  • ~計測方法および再現性の検討~
    平山 雅教, 表 大志, 村上 亨, 伊藤 俊一
    セッションID: O-10-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     高齢者の転機や虚弱高齢者(フレイル)には、歩行速度評価の重要性が言われている。従来,臨床場面における一般的な歩行評価として,10m歩行を用いることが多いが、我が国の在宅では実施困難な場合が多い.また先行研究において,1.5m歩行測定の有用性が報告されているが,測定方法の詳細な検討はない.そこで,本研究の目的は,在宅で実施可能とされる1.5m歩行評価の妥当性を検討することである.

    【方法】

     対象者は,デイサービスに通う高齢者20名(平均83歳)とした.

     測定項目は,10m歩行(10m)・1.5m歩行(1.5m)とし各々2回ずつ歩行時間を測定した.なお,測定にはストップウォッチ(STW)とスマートフォンの動画(VD)を用い,動画解析にWindowsムービーメーカーを使用した.検討項目は,各測定の検者内再現性と検者間再現性,それぞれの最小可検変化量,1.5mにおけるカットオフ値について検討した.追加検討として,STWの測定において,検者に介護士2名も加えて同様に検討した.

     統計解析には,Wilcoxon検定,Spearmanの順位相関係数,Bland‐Altman検定,ROC曲線を用い有意水準5%未満とした.

    【結果】

     VD解析の検者内再現性(1.1)は,10m:0.99,1.5m:0.97であった.1回目‐2回目の検者内再現性(1.1)は,STW10m:0.94,VD10m:0.94,STW1.5m:0.94,VD1.5m:0.88であった.検者間でのVD解析の再現性(2.1)は,10m:0.99,1.5m:0.94であった.また各測定項目で,STWとVDの測定間の有意差は認めなかった.1.5mと各々の相関関係は, STW10mでr=0.84,VD10mでr=0.85であった(P<0.01).Bland‐Altman検定では,最小可検変化量がSTW1.5m:0.43秒,VD1.5m:0.57秒であった.10m10秒未満での群分けにおいてROC曲線では,カットオフ値1.75秒(AUC:0.88 感度:0.81 特異度:0.80)であった.

     介護士2名によるSTW測定では,検者内再現性(1.1)は1人目10m:0.92,1.5m:0.93,2人目10m:0.95,1.5m:0.96であった.検者間再現性(2.1)は10m:0.98,1.5m:0.72であった.また介護士2名における測定値の比較では,STW10mでは有意差を示さなかったが、STW1.5mでは有意差を認めた.(P<0.05).さらに,D研究の結果,ICC(2.k)>0.9はk=3.5であった.

    【結論】

     本研究の結果から,高齢者における1.5m歩行評価は,最小可検変化量に差がないことからSTWによる評価で問題なく,検者内・検者間ともに高い再現性を示す臨床上有用な評価法であると考えられた.しかし,1.5mのSTW計測は検者の評価技量も影響する可能性あることが示された.また,高齢者における1.5m歩行速度評価では,歩行速度別における検討の有用性も示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

     対象者には本研究の趣旨および目的を高騰と書面にて説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守して行った.また株式会社健康研究所にて倫理委員会の承認を得た(承認番号2018002).

  • 上村 一貴, 山田 実, 葛谷 雅文, 岡本 啓
    セッションID: O-11-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     動脈硬化は心血管・脳血管疾患の危険因子であるだけなく、高齢者の骨格筋量や認知機能が低下する要因となり、介護予防の観点からも着目すべき病変といえる。心臓足首血管指数(CAVI)は血圧に依存しない評価指標として、動脈硬化性疾患のリスクを反映する。一方、ヘルスリテラシーは健康情報を獲得・活用する能力を指し、運動や食習慣などの健康行動の実践に関与する。ヘルスリテラシーの低下は、糖尿病などの慢性疾患の自己管理不良や、入院・死亡のリスク増加につながるとされており、動脈硬化の進行にも影響を及ぼすことが予想される。本研究の目的は、地域在住高齢者のヘルスリテラシーがCAVIで測定した動脈硬化リスクに及ぼす影響を検討することであり、動脈硬化の進行予防に向けた理学療法介入の開発に寄与することが期待される。

    【方法】

     対象は、65歳以上の高齢者向け測定会に参加した300名のうち、閉塞性動脈硬化症の疑いがある者、データ欠損がある者を除いた288名(平均72.4歳、男性99名)とした。動脈硬化指標として、血圧脈波検査装置VS-1500(フクダ電子社製)を用いてCAVIを測定し、9.0以上を動脈硬化リスクありとして判定した。ヘルスリテラシーの評価には、European Health Literacy Survey Questionnaire (HLS-EU-Q47)日本語版を用いた。HLS-EU-Q47は、合計47項目からなる包括的尺度であり、総得点(0-50点)が高いほど、ヘルスリテラシーが高いことを指す。その他の測定項目は、基本属性(年齢,性,教育歴)、Mini–Mental State Examination、歩行速度、服薬数、飲酒・喫煙習慣、身体活動低下の有無とした。なお、国際標準化身体活動質問票に基づき、Inactiveと判定される場合を身体活動低下ありとした。統計解析は、HLS-EU-Q47総得点の四分位群(Q1-4)をカテゴリ化し、CAVI値、動脈硬化リスクありの割合、およびその他の測定項目を一元配置分散分析(2値変数はχ2検定)により比較した。さらに、動脈硬化リスクの有無を従属変数、カテゴリ化した四分位群(Q1-4)を独立変数とし、年齢・性別およびその他の測定項目で調整したロジスティック回帰分析を行った。

    【結果】

     最もヘルスリテラシーの低いQ1は、最も高いQ4に比較して、有意にCAVIが高値であり、教育歴が短く、身体活動低下の割合が高かった(p<0.05)。動脈硬化リスクありの割合は、Q1:67%、Q2:51%、Q3:49%、Q4:44%で、Q1が最も高かった(p<0.05)。最もヘルスリテラシーの低いQ1をリファレンスとすると、その他の変数による調整後も、Q4は有意に動脈硬化リスクの低下に関連していた(OR[95%CI]=0.44 [0.19-0.98])。

    【結論】

     ヘルスリテラシーの低下した地域在住高齢者では、年齢や身体活動の影響を除いても、動脈硬化リスクが高いことが示唆された。動脈硬化の進行による高齢者の疾病・介護の発生を予防するためには、ヘルスリテラシーに着目し、教育的支援を含めた理学療法介入が重要であると考えられた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に則り、対象者に研究の目的や検査内容、個人情報の保護について書面と口頭にて十分に説明した上で同意を得た。富山県立大学「人を対象とする研究」倫理審査部会の承認(H29-1)を受けて実施した。

  • 中園 哲治, 上出 直人, 戸崎 精, 佐藤 春彦, 坂本 美喜, 柴 善崇
    セッションID: O-11-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    等尺性膝伸展筋力は,一般的にHand Held Dynamometer(以下,HHD)を用いて測定される.しかし,地域や在宅では,HHDを用いた測定が必ずしも可能ではない場合もある.一方,特別な道具を使用せずに測定可能な5回椅子立ち上がりテスト(Five-time sit-to-stand test:FTSST)は,等尺性膝伸展筋力と関連性が高いことが報告されている.本研究では,地域在住高齢者を対象に,FTSSTの測定結果からHHDを用いずに等尺性膝伸展筋力を評価できる推定式を作成し,さらに推定式による膝伸展筋力推定値の妥当性を検証した.

    【方法】

    65歳以上で要介護認定のない地域在住高齢者512名を対象とした(男性135名,女性377名,平均年齢71.4±4.6歳).なお,認知症の疑いがある,膝関節に著しい疼痛がある,ペースメーカーおよび人工関節の手術歴がある場合は対象から除外した.対象者には,HHDによる等尺性膝伸展筋力およびFTSSTを測定した.また,生体インピーダンス法にて四肢筋量を測定した.四肢筋量はAsian Working Group for Sarcopenia(2014)の基準に従って,筋量低下の有無を判定した.その他,基本属性として,年齢,性別,身長,体重,既往歴、服薬状況,疼痛,転倒歴,老研式活動能力指標を調査した.統計学的解析として,等尺性膝伸展筋力を従属変数,FTSSTおよびその他の交絡因子を独立変数としたステップワイズ法重回帰分析を行い,等尺性膝伸展筋力の推定式を作成した.次に,等尺性膝伸展筋力について,HHDによる測定値と推定式による推定値の両者における,筋量低下の有無に対する識別能力をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて比較検討した.なお,統計学的有意水準は5%とした.

    【結果】

    等尺性膝伸展筋力とFTSSTの単相関係数は-0.274(p<0.001)であった.FTSSTに加えて,等尺性膝伸展筋力と有意な関連が認められた変数でステップワイズ法重回帰分析を行った結果,FTSST・年齢・性別・体重による推定式が得られた(R2=0.342).筋量低下の識別能力については,HHDによる膝伸展筋力では曲線下面積(AUC)=0.692,推定式による膝伸展筋力ではAUC=0.716で,両者のAUCに統計学的差はなかった(p=0.43).

    【結論】

    本研究の結果,FTSSTと年齢・性別・体重の情報からHHDを使用せずに簡便に等尺性膝伸展筋力を推定する式を作成することができた.さらに,四肢筋量低下の識別能力については,推定式による等尺性膝伸展筋力とHHDによる実測値とは同等であり,推定式による結果には併存的妥当性があると考えられた.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    全対象者に,研究の目的,内容,個人情報の取り扱い等について口頭及び書面にて説明し,書面による同意を得た.また、本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理委員会の承認を得て実施したものである(承認番号2016-G021B).

  • 大泉 真一, 佐々木 賢太郎, 東 利紀, 浅野 慶祐, 木村 剛, 矢代 郷
    セッションID: O-11-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    「つまずき」による転倒の指標であるtoe clearanceの最小値(minimum toe clearance:MTC)と認知機能の関連性についてはよく知られていない.本研究ではMTCと注意・遂行機能の関連性を明らかにすることを目的とした.

    【方法】

    対象は地域在住の高齢者17名 (男性9名,女性7名,BMI:24.1±2.9,71.8±5.0歳)であった.3次元動作解析装置(VICON MX, Oxford Metrics 社製)を用い,最初に通常歩行(single-task:ST)を行い,その後記憶課題を付加した二重課題歩行(dual-task:DT)を実施した.各条件6回実施した.測定項目は歩行速度,ストライド長,ストライド時間,非利き足のMTCを抽出し,6回の平均値と,変動性の指標として標準偏差を求めた.

     注意機能の指標にはtrail making test partA(TMT-A),遂行機能にはtrail making test partB(TMT-B)を使用し,注意・遂行機能の両者を反映するdigit symbol substitution test(DSST)を使用した.

     歩行パラメータの平均値,標準偏差と注意・遂行機能の関連性について, Shapiro-Wilk検定を行い,関連性を検討する2つの項目の双方の正規性が認められればPearsonの積率相関係数を,認められなければSpearmanの順位相関係数を使用した.すべて有意水準は5%未満とした.

    【結果】

    MTC変動性とTMT-Aの間に有意な関連性が認められた(ρ=0.538,p=0.026).一方,DSSTとDTのMTC変動性には負の相関が見られた(ρ:-0.588,p=0.024).

    【結論】

    本研究の結果,MTCと注意機能の関係性が明らかになった.注意・遂行機能が低下するとMTCの変動性が増加するため,つまずきによる転倒の危険性が高くなることが示唆された.今後は地域在住高齢者の注意・遂行機能と歩行変動性との関係を縦断的に検討していく.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は研究開始前に金城大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.(通知番号第29-04号)

  • 篠原 智行, 齊田 高介, 田中 繁弥, 宮田 一弘, 山上 徹也
    セッションID: O-11-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    高齢者の転倒には筋力やバランス機能、認知機能などが関連するが、バランス機能には様々な因子が含まれている。BESTest(Horak,2009)はバランス機能を6つのシステムで構成しており、Ⅰ.生体力学的制約、Ⅱ.安定限界、Ⅲ.予測的姿勢制御、Ⅳ.反応的姿勢制御、Ⅴ.感覚機能、Ⅵ.歩行安定性の6つのセクションで評価する。転倒要因となるバランス機能を明らかにすることは予防介入の一助となる。今回、BESTestの短縮版であるBiref-BESTest(Padgett, 2014)を用いて、地域高齢者の転倒歴とBiref-BESTestの6セクションとの関連性を検証した。

    【方法】

    地域高齢者44名(男性10名、女性34名)を対象とした。過去一年間の転倒の有無を聴取した。身体機能としてBrief-BESTest、握力、ハンドヘルドダイナモメーター(μTasF-1)による大腿四頭筋筋力、体成分分析装置(InBodyJ10)による四肢骨格筋量を測定した。また、認知機能としてRapid Dementia Screening Test(RDST)を実施した。解析は有意水準を5%として、転倒なし群と転倒群の群間比較を行った。なお、身体機能は性差を考慮し、性別ごとに解析した。また、Brief-BESTestの各セクションの転倒歴への影響を検証するため、それぞれの効果量rを算出した。

    【結果】

    転倒歴があった対象者は9名(20.5%)あり、うち男性は1名であった。平均年齢は転倒なし群/転倒群の順に75.6/78.0歳であった。Brief-BESTestの中央値はⅠが2/1点、Ⅱが2/2点、Ⅲが5/3点、Ⅳが4/3点、Ⅴが3/2点、Ⅵが3/3点、合計で20/13点であった。身体評価の平均値は男性で握力が36.2/34.5kg、大腿四頭筋筋力体重比が0.43/0.63kgf/kg、四肢骨格筋量が7.3/6.9kg/m2であった。女性では握力が22.6/21.3kg、大腿四頭筋筋力体重比が0.35/0.26kgf/kg、四肢骨格筋量が5.7/5.5kg/m2であった。RDSTの中央値は10/9点であった。群間比較では全ての項目において有意差は認められなかった。効果量rはBrief-BESTestのⅠが0.23、Ⅱが0.17、Ⅲが0.23、Ⅳが0.11、Ⅴが0.20、Ⅵが0.19、合計が0.24であった。

    【結論】

    転倒の有無による群間比較では、身体および認知機能に有意な差が認められた項目はなかった。効果量より、Brief-BESTの中でもⅠ、Ⅲのセクションが転倒に関連する可能性が示唆された。Ⅰは筋力などの生体力学制約、Ⅲは予測姿勢制御を評価するものである。高齢者の転倒歴にはこれらの因子が関連していることが示唆された。また、ⅠとⅢはいずれも片脚立位を課題とした検査であり、片脚立位の安定を図ることが転倒予防に結びつく可能性があり、今後の介入の示唆を得ることができた。今回は過去の転倒歴における検証に留まるが、前向き調査による転倒予測評価としてのBrief-BESTestの有用性や、Brief–BESTestを用いた介入効果を検証していく。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言を順守した。また、高崎健康福祉大学の研究倫理審査を受審した(第2936号)。対象者には事前に研究の趣旨を説明し、書面にて同意を得た。

  • 福井 一輝, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 笹代 純平, 利根川 直樹, 島 俊也, 仁井谷 学
    セッションID: O-11-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    フレイルを早期発見し予防することは、要介護発生の予防につながる。フレイルの評価には国際的にCardiovascular Health Study(CHS)(Frid, et al., 2001)が広く使用されている中、日本では基本チェックリストという質問紙票がCHSの基準と高い関連を認めた(Satake, et al., 2017)。

     基本チェックリスト(満点25点)は合計点が8点以上でフレイル、4-7点でプレフレイル、3点以下でフレイルなしの3群に分類できる(Satake, et al., 2017)。CHS分類のフレイルの身体的特徴については明らかになっているが、基本チェックリスト3分類での身体的特徴は明らかになっていない。そこで本研究は、基本チェックリストでフレイル(以下;F群)、プレフレイル(以下;PF群)、フレイルなし(以下;NF群)に該当したそれぞれの高齢者の身体特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は、医療機関に外来通院または通所している、介助なしで歩行可能な65歳以上の70名(男性17名、女性53名、年齢79.5±7.9歳、身長153.1±9.7 cm、体重55.2±10.5 kg)であった。測定項目は基本チェックリスト、10m歩行時間、等尺性膝伸展筋力、握力とした。基本チェックリストにより対象を、F群、PF群、NF群の3群に群分けをした。3群間の比較にKruskal-Wallis検定を用い、多重比較検定としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    F群22名(31 %)、PF群28名(40 %)、NF群20名(29 %)であった。10m歩行時間は、F群13.1±6.1 s、PF群8.5±2.5 s、NF群6.7±1.6 sであり、F群とほかの2群の間に有意な差を認めた(p<0.05)。等尺性膝伸展筋力は、F群3.1±1.1 N/kg、PF群4.1±1.0 N/kg、NF群4.8±1.1 N/kgであり、F群とほかの2群の間に有意な差を認めた(p<0.05)。握力は、F群17.2±8.4 kg、PF群20.7±6.6 kg、NF群23.4±7.8 kgであり、F群とNF群の間に有意な差を認めた(p<0.05)。

    【結論】

    F群と比較しPF群、NF群に有意な差を認めた項目は10m歩行時間と等尺性膝伸展筋力であった。下肢筋力の低下は歩行速度低下の重要な因子である(甲斐ら、2008)ことから、下肢筋力の低下が歩行速度の低下に影響した要因であると考える。さらに、握力は全身の筋力の指標となるといわれている(村田ら、2007)。F群はNF群と比較し握力も有意に低下していたことから全身の筋力が低下している可能性が挙げられる。一方でPF群とNF群の間にはすべての項目で有意な差を認めなかった。フレイルには身体的要因以外に認知的要因や社会的要因など、他の要因からの影響を考慮する必要があるといわれている(牧迫ら、2017)。このことから、NF群とPF群の間には筋力以外の要因が存在している可能性が示唆された。以上のことより、基本チェックリストでPF群に該当した高齢者に対しては筋力の維持向上を行う必要があることが示された。今後は、PF群とNF群の違いについて明らかにしていきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、研究の目的および研究方法を口頭および書面にて十分に説明し、同意を得られた者を対象とした。なお本研究は、にいたにクリニック倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:NCL18001)。

  • -Isotemporal Substitutionモデルを用いた検証-
    永井 宏達, 玉城 香代子, 楠 博, 和田 陽介, 辻 翔太郎, 伊藤 斉子, 佐野 恭子, 下村 壯治, 新村 健
    セッションID: O-11-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

     身体不活動時間の増大は、さまざまな疾患の発症リスクを高めるとともに、将来的なフレイル発症にも影響を及ぼす。そのため、高齢期における身体的フレイルを予防するためには、身体活動量の維持および向上が重要である。しかしながら、身体不活動の時間を異なる強度レベルの身体活動に置き換えた際に、フレイルのリスクをどの程度軽減できるかに関しては、十分検証されていない。そこで本研究では、身体不活動の時間を身体活動に置き換えた際のフレイルリスクの軽減効果を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

     本研究のデザインは横断研究である。対象は地域在住の65歳以上の高齢者とし、認知機能障害、神経疾患等を有する対象者は除外した。J-CHSの5項目の基準(体重減少、筋力低下、疲労感、歩行能力低下、運動習慣欠如(活動低下))をもとに、1項目該当をプレフレイル、3項目以上該当をフレイルとして判定を行った。身体活動量の評価には、リストバンド型の身体活動量計Actiband (TDK社製)を使用し、2週間計測を行った。睡眠を除く身体不活動(1.5METs以下)の時間、低強度(1.5~3.0METs)および中強度以上(3METs以上)の活動時間を算出した。解析では、不活動時間を異なるレベルの活動時間に置き換えた際のフレイル該当のリスク変動を分析するため、Isotemporal substitution(IS)モデルを用いたロジスティック回帰分析を行った。本研究では、身体不活動時間30分を、低強度もしくは中強度以上の身体活動時間30分に置き換えた際のフレイル発症リスクの変化を分析した。非調整モデルによる解析の後、年齢、性別、教育歴を変数として投入した調整モデルの解析を行った。

    【結果】

     887人(平均年齢73.6±6.4歳)が解析対象となった。ロバスト群(360名: 40.6%)、プレフレイル群(477名: 53.8%)、フレイル群(50名: 5.6%)の1日あたりの不活動時間の平均は、それぞれ8.1時間、8.5時間、11.4時間、低強度活動時間は、それぞれ8.0時間、7.8時間、5.1時間、中強度以上活動時間は、それぞれ45分、41分、21分であった。フレイルの有無を従属変数としたISモデルによる解析の結果、非調整モデルでは、身体不活動時間30分を低強度活動に置き換えた場合のフレイルリスクは、オッズ比(OR) 0.84 (95%CI: 0.79 - 0.90, p < 0.01)、中強度以上の活動に置き換えた際のリスクは、OR 0.58 (95%CI: 0.37 - 0.92, p < 0.05)となった。調整モデルでは、それぞれOR 0.86 (95%CI: 0.80 - 0.93, p < 0.01)、OR 0.75 (95%CI: 0.48 - 1.18, p = 0.21)となった。

    【結論】

     身体不活動の時間を低強度活動に置き換えることで、フレイルのリスクの軽減につながることが示唆された。なお、因果関係の証明には今後の縦断的な調査が必要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】

     対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上、同意書に署名を得た。なお本研究は兵庫医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号201705-095)。

  • -骨格筋内脂肪の抑制に着目して:無作為化比較対照試験-
    山田 実, 木村 鷹介, 大路 駿介, 田中 友也, 小山 真吾, 佐藤 惇史, 音部 雄平, 市川 雄大, 小川 秀幸, 荒井 秀典
    セッションID: O-12-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    サルコペニアおよびダイナペニア高齢者の骨格筋はいずれも骨格筋内脂肪の蓄積が著しく、いわゆる質が低下した状態となっている。しかし、この骨格筋内脂肪をアウトカムとしたような介入研究は十分に実施されておらず、標準化された介入方法は存在しない。本研究の目的は、サルコペニア・ダイナペニア高齢者を対象に、運動療法と栄養療法を併用することによる骨格筋内脂肪抑制および筋力増強効果を検証することである。

    【方法】

    研究デザインは無作為化比較対照試験であり、Intention-to-treat解析にて分析を行った。対象は地域在住の要支援高齢者であり、まずサルコペニアおよびダイナペニアのスクリーニング検査を行い、操作的定義の基準(AWGSの握力低下もしくは歩行速度低下)を満たした上で除外基準に該当しない104名(84.0±5.6歳、女性66%)を研究対象とした。対象者は無作為に4群に分類し(運動+栄養群、運動単独群、栄養単独群、コントロール群)、それぞれ12週間の介入を実施した。運動介入としては、作成した運動指導用のパンフレットに基づき、週2回の頻度で1回30分間の教室型運動を実施するとともに、それ以外の日は自宅で同様の運動を実施するように指導した。運動内容は、上肢・下肢の主要な筋群に対する自重を用いた低負荷レジスタンス運動であった。栄養介入としては、高BCAA配合のタンパク質10gを毎日午前中に摂取するように指導した。介入前後には、大腿前面筋(大腿直筋、中間広筋)の超音波画像計測(得られた画像より各筋のエコー輝度(骨格筋内脂肪を反映する指標)を算出)、膝伸展筋力測定、体組成計測、各種身体機能測定を実施した。

    【結果】

    運動指導を実施した2群の運動アドヒアランス(運動+栄養群:中央値88.1%(IQR71.1-97.6%)、運動単独群:中央値81.1%(IQR52.4-96.7%))、栄養摂取を指導した2群の栄養アドヒアランス(運動+栄養群:中央値97.6%(IQR70.8-100.0%)、栄養単独群:中央値100.0%(IQR91.1-100.0%))は共に良好であった。いずれの介入にも特筆すべき有害事象は認められなかった。二元配置分散分析により有意な交互作用(介入前後×群)を認めたのは、大腿直筋のエコー輝度および膝伸展筋力であり、いずれも運動+栄養群で最も大きな改善を示した(P<0.05)。身体機能および体組成については、運動+栄養群および運動群で改善傾向は示したものの有意な交互作用は認められなかった(P>0.05)。

    【結論】

    サルコペニア・ダイナペニア高齢者に対し、運動および栄養の併用療法を実施することによって、骨格筋内脂肪を減少させ筋力を増強させる効果が認められた。しかし、身体機能や体組成を顕著に改善させるような高い効果は認められなかった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、筑波大学人間系研究倫理委員会の承認を得るとともに、対象者には書面および口頭にて十分な説明を行い実施した。

  • -8週間の介入試験-
    濵崎 愛
    セッションID: O-12-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】加齢に伴う脳の構造や機能の変化により、認知機能が低下する。認知機能低下は、認知症発症リスクを高めるため、認知機能の低下を予防することが重要である。認知機能を十分に発揮するためには、脳の酸素化動態が重要な働きをする。これまでに、運動習慣や乳製品の摂取は認知症発症と関連することが報告されているが、これらが認知機能や脳の酸素化動態に及ぼす影響は不明である。

    【目的】本研究は、運動トレーニングと乳由来のラクトトリペプチド(LTP)摂取が、中高齢者の認知機能と脳の酸素化動態に及ぼす影響を検討することを目的とした。

    【方法】健康な中高齢者64名を対象として、無作為化プラセボ対照二重盲検法により、運動なしのプラセボ群(Placebo; 18名)、運動を伴うプラゼボ群(Exercise; 15名)、運動なしのLTP群(LTP; 15名)、運動を伴うLTP群(Combined; 16名)の4群に群分けした。8週間の運動およびLTP摂取の介入前後において、認知機能と脳酸素化動態を測定した。認知機能の測定には、ストループ課題を用いて、非実行条件と実行条件における反応時間の差をストループ干渉時間として算出し、実行機能の指標とした。また、近赤外分光分析法を用いて、大脳皮質付近の神経活動に伴い変化する血中の酸素化ヘモグロビン濃度(oxy-Hb)の応答を、ストループ課題時の脳酸素化動態として、左右の前頭前野により測定した。

    【結果】8週間の介入後、Combined群のストループ干渉時間は有意に短縮した(P <0.01 )。左前頭前野のoxy-Hb応答は、Exercise群(P < 0.05)、LTP群(P < 0.01)、Combined群(P < 0.01)で有意に増加し、右前頭前野のoxy-Hb応答は、LTP群(P < 0.01)、Combined群(P < 0.01)で有意に増加した。LTP群およびExercise群のストループ干渉時間の変化量はPlacebo群と有意な差は認められなかったが、Combined群の変化量はPlacebo群より大きかった(P < 0.05)。また、介入による左前頭前野のoxy-Hb応答とストループ干渉時間の変化に有意な相関関係が認められたが(r = -0.39, P < 0.05)、右前頭前野のoxy-Hb応答との間に有意な相関関係は認められなかった。

    【考察】運動単独やLTP摂取単独では変化しない認知機能は、両者を併用することで向上することが示された。さらに、運動とLTP摂取の併用は、左前頭前野における脳活動の活性化を単独より増加させることで、認知機能の向上に関連することが示唆された。

    【結論】中高齢者における8週間の運動とLTP摂取の併用は、脳酸素化の増大および認知機能の向上に効果的であることが示された。

    【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の目的と内容を十分に説明した後に、研究参加の合意について自由意思にて署名の同意を得た。なお、本研究は筑波大学体育系研究倫理委員会の承認を受けて実施した。

feedback
Top