理学療法学Supplement
最新号
選択された号の論文の1179件中1~50を表示しています
第55回日本理学療法学術大会 一覧
第25回日本基礎理学療法学会学術大会
基礎と臨床の接点 ~理学療法における基礎研究の意義~
大会長基調講演
  • 藤澤 宏幸
    セッションID: A-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     理学療法は治療技術として発展してきた経緯があり,その科学的根拠の蓄積や理論的体系化については未だ十分とはいえない状況にあります。そのなかにあって,理学療法士養成教育が大学で行わるようになってから間もなく30年を迎えようとしており,現在では多様な研究手法を用いて理学療法の基礎研究が行われるようになってきました。その成果は着実にあがっており,臨床技術の裏付けや,理論の体系化に寄与する研究も増えております。そこで,本大会ではあらためて最新の基礎研究の知見と臨床との接点を確認しようということでテーマを設定しました。

     理学療法は基礎科学と人文社会学を土台(基礎),解剖学,生理学,生化学,栄養学,身体運動学,人間発達学などを柱(専門基礎)として,その上に築かれています。そのような専門基礎にあたる学問によって理学療法の基礎的なデータを積み上げ,治療の根拠を与えるのが基礎理学療法学の役割であります。さらに,私としては専門基礎に人間学を据え,EBPTをもとにした手順論(治療法)のみならず,対象者の人生や価値観をもとにした物語論を含有していると思っております。

     さて,対象者の運動行動を観る理学療法にとっては身体運動学が重要であることは論を俟ちません。私どもの研究室では“日常動作を身体運動学で科学する”ことをテーマにしております。一連の研究成果をもとに,理学療法評価において重要な運動動作分析を体系化し,さらに治療技術である因果的アプローチと運動学習論的アプローチへ応用するための研究を展開しています。最終的には理学療法モデルを提案し,評価と治療の円環を回してゆきたいと考えて取り組んでいるところです。本講演では具体例を通して,理学療法における基礎研究の臨床への応用について触れ,大会での議論の糸口としたいと考えております。

特別講演
  • 長崎 浩
    セッションID: A-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     バクテリアから人類まで生きるとは何よりも動作することである。生き物にとって動作は普遍的でありふれた現象ながら,研究対象とするには思ったより謎めいている。動作は課題を遂行するための身体運動であり,この「するため」という「意味」が動作には付着して離れない。だが科学研究は「意味」を嫌う。動作研究も動作を身体運動に切り詰めて俎上に載せてきた。脳あるいは心が身体運動を制御するという研究パラダイムである。これとは別に動作そのものに迫る研究手法はないものだろうか。動作の謎の一つとしてその柔軟性と定型性という矛盾した現象を取り上げる。運動パターンは自在に選べるのに,日常動作では運動の自由に制限を加えて特定の定型が維持されている。なぜだろうか。最も簡単な例としてリーチ動作を運動条件を変えて計測し,条件によらない定型的運動パターンを指先の軌道,速度そして加速度に関して抽出する。ケプラーの惑星運動三法則にならって,これを動作の運動学法則と呼ぶ。とはいえ運動研究の王道に反して,脳あるいは心に何か「ニュートンの万有引力法則」のごときを仮定して,運動学三法則を導くことはできない。運動学から帰納的推理によって脳や心に遡るだけである。別の種類の説明はないだろうか。ここでは力学法則が許す多様な運動に経済コストの制約が働いて,日常動作の定型が選ばれたと考える。コストの例としてジャーク(軌道の滑らかさ)を評価関数にした数学モデルを使い,リーチ動作の運動学三法則が導けることを示す。その上でこの説明の仕方が因果法則には当たらないこと,さらに動物生態学のモデルと同型であることを示して,むしろ行動パターンに関する生物進化論(自然選択説)に適合的であることを指摘する。かくして,最適化モデルを介した動作の進化論的説明が,因果法則とは別のもう一つの理論となることを期待したい。

  • ─脳神経疾患への応用─
    金子 文成
    セッションID: A-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     現在我が国では,モノとコトのスマート化により社会の課題を解決し,価値を創造する社会を目指すSociety5.0が推進されている。さらに,超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し,人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し,挑戦的な研究開発を推進する「ムーンショット型研究開発制度」が開始される。この企画は,2050年や2040年までに達成する目標を設定し,挑戦的な研究開発を推進するものである。理学療法における20~30年後の目標は,どのように設定することができるだろうか。

     理学療法が時代に適合し,科学技術の世界でガラパゴス化しない進化を遂げるために,この学問領域における基礎研究者の役割は重要であると考える。ここで,その“(理学療法のための)基礎研究者の役割”について考えたい。臨床において社会に理解される高品質のサービスを提供するには,技術シーズの蓄積にとどまることなく,シーズ開発の成果を臨床に帰結させることが必須となる。その観点から,理学療法のための基礎研究者が意識したいキーワードの一つに,トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)がある。橋渡し研究とは,「基礎研究で得られた成果を創薬,医療への応用へ結びつけるための研究」のことである。本講演では一例として,脳卒中後の感覚運動麻痺治療のためのXRシステム,および人工知能制御型アシストロボットの開発について,シーズ開発から,現在取り組んでいる臨床試験に至るまでの一連の過程を紹介する。また,現在参画している日本医療研究開発機構(AMED)の先端的医療機器・システム等技術開発事業(代表 牛場潤一,2019年度~2024年度)では,リハビリテーション医療のデジタル化推進として,様々なデータを統合活用するクラウドコンピューティングシステムを社会実装することを目指している。開発半ばではあるが,臨床環境の近未来ビジョンについて紹介する。

     一般に基礎研究とは,「真理を探究し新たな知を発見・創造する活動」とされる。理学療法は歴史的に物理的手段による治療,すなわち医療の一部としてのはじまりをもつ。この事実を踏まえて橋渡し研究を紹介しつつ,理学療法のための基礎研究者や臨床教育システムのあり方についても考える端緒として話題提供したい。

教育講演
  • 河上 敬介
    セッションID: A-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年,痛みや関節可動域の改善を目的とした,筋膜に対する理学療法が注目を集めている。確かに,筋の剛性をつかさどるのは筋中のコラーゲンを主とした筋細胞間質領域(筋膜領域)であり,筋の痛み受容の入り口も,その領域に存在する求心神経の受容器である。ただ,長年筋の肉眼解剖学を経験してきた小生には,Massage TherapistでBodyworkを推奨するMyers Tの著書等で学んだ方々から,「筋膜は,ウエットスーツの様に全身を包み繋がっているのか?」とか,筋膜への徒手的治療技術を学んだ方々から「その筋膜は,徒手による力学刺激で,筋から剥がすことができるのか?」「また,治療効果ははがすことによるものと考えていいのか?」といった質問がよく舞い込む。正確な回答のために,質問者の頭の中で描く「筋膜」を覗くと,個々の方の注目している構造が異なっていると感じる。異なる構造を同じ名称で議論しても結論が導かれるはずがない。共通の用語を用いるべきである。医学,医療の世界では,解剖学という共通用語に従った名称を用いて議論すべきである。また,名称は,複数の構造を総称したものよりも,できるだけ限定された方が議論しやすい。

     そこで本教育公演では,我々が学生時代に解剖学で学んだ筋関連で「膜」の付く名称について,その基本構造を再確認する。これに加えて,我々が解剖学で学んだものとは異なる構造を「筋膜」という名称で示している書籍や報告について解説する。

     一方,治療効果等の議論に不可欠な皮膚・皮下組織を含めた,各種筋膜・筋組織の層構造は,からだの部位により異なり,いくつかのグループに分けられる。各層の組織間の連結状態もからだの部位により異なる。そこで,部位特異的な層構造とその連結について紹介し,前述した疑問に迫る。

     医療にエビデンスが求められている昨今,治療効果の基礎的・臨床的研究が急ピッチで求められる。治療対象組織や器官の想定を誤れば,理学療法のエビデンス構築も当然立ち遅れる。基礎科学の研究者が長年積み上げてきた事実を利用することもできない。長年臨床を経験していない私から「臨床への提言」というのもおこがましいと思うが,基礎研究者の端くれとして,これまで観察してきた事実を,意見や希望も含めて述べさせていただく。

  • 市橋 則明
    セッションID: A-5
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     運動学は理学療法にとって最も重要な基礎知識の1つである。特に関節モーメントの知識は動作分析や関節にかかる負担等を考慮する場合に必須であり,筋の作用の知識は筋力トレーニングやストレッチングを行う場合に重要である。本講演では,関節モーメント,人体のてこ,筋の構造と機能,関節の機能障害,ストレッチングを中心に話題を提供する。

     

    1.関節モーメントの重要性

     関節モーメントの知識は,筋力評価,動作分析,運動トレーニング,関節に負担のかからないADL指導等に重要である。関節モーメントを理解することで筋収縮により各関節にかかる圧縮力や剪断力がわかる。また,姿勢を観察することでどこの関節に負担がかかっているかを容易に理解することが可能となる。関節モーメントに関する基礎知識に関して解説する。

     

    2.人体のてこの間違い

     てこの原理は非常に重要な知識である。てこは3種類に分類され,これを人体に当てはめたものが運動学の教科書に数多く紹介されているが,間違っているものが多い。特に関節の遠位に筋が付着するから力発揮に有利で,関節の近位に筋が付着するから力発揮に不利という考えは間違っている。人体のてこの間違いについて解説する。

     

    3.筋の構造と機能

     筋の断面積が筋力に比例することはよく知られているが筋線維長が筋機能に与える影響についてはあまり知られていない。筋線維長が筋機能に与える影響を中心に解説する。

     

    4.関節の機能障害と運動学

     変形性膝関節症患者において,歩行中の膝関節への負荷が膝OAの進行に関連しているとされている。本講演では,特に歩行介入が外的膝関節内反モーメントに与える影響を中心に解説する。

     

    5.超音波を使ったストレッチング研究

     近年,超音波エラストグラフイーにより筋の柔軟性の評価が可能となった。この機器を使った最新のストレッチング研究を紹介する。

  • 中山 恭秀
    セッションID: A-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     「人が椅子から立ち上がれるのは,股関節を自由に動かすことができ,他の動物には見られないほど大腿四頭筋が発達しているためである」,これは本学会大会長,藤澤先生の著書“ヒトはなぜ坐れるのか?(北樹出版)”の一節である。動作は,関節可動域(ROM)や筋力の関係をもとに実環境で出来ないことを科学的にとらえる必要がある。この立ち上がりを達成させるためには「坐面の高さを調整する」という視点も重要である。これは膝関節伸展トルクをコントロールし,立ち上がる際に必要な体重心の前下方への移動をしやすくする調整である。このように,患者が動作に必要な判断力やROM,筋力,そして感覚などを持っているか,力学と身体機能の精巧なつながりを捉えることは理学療法士の業であり,理学療法評価をもとにした理学療法手法である。そのため,治療効果を判定するための各評価の基準は共通して使えるように整備する必要がある。

     ROM測定で角度を判断するエンドフィール,筋力検査で用いる抵抗感,痙縮評価の代表といえるmodified Ashworth scale(mAs)などはすべて感触で判定される。基本的な評価の数値を導くのは理学療法士の感触が重要であるが,どの理学療法士でも同じ結果が得られるように整えなければならない。そうなると,臨床で測定しやすい方法を吟味することや筋力測定の矛盾点を無くすこと,肘関節のみに対応させて作れたmAsを手関節や下肢に用いるべきかの吟味や,新たな方法を開発することは基礎的な課題である。医療における運動のプロフェッショナルとして,数値にこだわることはとても重要であり,誤差がそのまま理学療法の水準になるという認識は持つべきである。当然,我々の扱う論文の質にまで影響する可能性も高い。

     立ち上がり動作は,Functional Balance ScaleやTimed“Up & Go”Testにも含まれているため,理学療法との連結は比較的スムーズである。しかし数値が高い低いという結果のみを用いた分析は理学療法と正しく連結できない可能性がある。理学療法の基本的な判断をするうえで重要な理学療法評価学の確立のために,本学会が追求する意義は大きいと思う。

  • 大鶴 直史
    セッションID: A-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     痛みの定義は本年(2020年)7月に,国際疼痛学会で改訂がなされた。日本語訳としては,「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する,あるいはそれに似た,感覚かつ情動の不快な体験」と定義されている。痛みは感覚的要素だけでなく,情動的な要素を含み,生物学的・心理的・社会的要因によって大きく影響を受けることが知られている。そういった多面性を理解することが痛み治療にとっては重要であると考えられる。

     これまでに痛みの脳内メカニズムを探索するために,機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)や脳波および脳磁場計測などの脳機能イメージング手法を用いて,多くの研究が行われてきた。これらの研究によって,一次体性感覚野,二次体性感覚野,島皮質,前部帯状皮質,前頭前野など様々な脳領域が痛みの情報処理に関わっていることが明らかとなってきた。痛みの定義にもある通り,痛みは感覚的な側面(痛みの生じた場所や物理的な強さなど)と情動的な側面(不快,苦痛など)を有している。よって,感覚的な側面と情動的な側面が異なる脳領域で処理されていることを示しいる報告が多数ある。実際には,機能的なオーバーラップがあるが,痛みの脳内情報処理を理解するためには,それぞれの脳領域の機能的役割を知ることは有用であると思われる。

     そこで,本講演では痛みの脳内情報処理における各脳領域の機能的役割を概説する。また,心理的な要因や社会的な要因が痛みの脳内情報処理とどのように関与しているかに関しても概説する。まだまだ痛みの脳内処理に関しては不明な点も多いが,痛みを考える上で,様々な要素が脳内情報処理機構を修飾していることの重要性を議論したい。

  • 星 文彦
    セッションID: A-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     運動学は,人間運動の科学的研究である。一方,人間の運動行動は,生活環境下や社会状況などからのニーズの影響を受け,個人の心理的要因により発動されるため,運動行動の理解には多くの諸原理から選択され系統的な応用が必要である。いわゆる,生物心理社会的アプローチである。しかし,人間の運動行動を純粋に運動現象と捉えると,その現象は身体の構造と機能に基づく環境適応の結果として理解することができる。その観点から人間の運動を取り巻く諸原理は生物学と物理学であると言える。

     病態運動学は,人間の異常運動現象の要因を理解説明する応用的学問であり,次の3つの手続きに基づく。①運動現象の異常性を観察と計測を用いて運動学用語と物理量で記録する。②その現象を物理の法則に基づいて正常と比較し説明する。③その異常現象の因果的説明を疾病や機能障害に基づく生体活動,運動制御,心理的活動などの異常性に求める。つまり,病態運動学は人体の構造と機能と身体運動との関係を,特に疾病あるいは機能障害による機能的制限を対象とし,その因果関係について分析評価する。

     理学療法士は,理学療法施行にあたり解剖・生理学的システムとしての身体運動を展開させ,疾病により発現する症状や兆候を運動障害の視点から捉えた病態運動学を基盤とする処にアイデンティティーを自覚する。

     基礎研究は主に基本原理の解明や新たな知の発見,創出や蓄積などを志向し,「特別な応用,用途を直接考慮することなく,仮説や理論を形成するため又は現象や観察可能な事実に関して新しい知識を得るために行われる理論的又は実験的研究」と定義される。

     我が国の高等教育では,大学院へ進学する学生が減少傾向にある中,理学療法,作業療法関連の大学院進学者が急増している。これは,多様な社会状況が要因としても学問・職域に関する科学的指向性を示唆するものであり,理学療法学の基盤である病態運動学への基礎研究の役割を議論することは今日的テーマであると言える。

     講演では,理学療法の主要な対象である姿勢制御・バランス研究を反射,機能,認知のキーワードで概観し,併せて障害モデルの観点からテーマについて議論したい。

  • 樋口 貴広
    セッションID: A-9
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     神経科学の知見を根幹とするニューロリハビリテーションの発想が隆盛を極めている中,人間の知覚・認知機能に関する認知神経科学的知見についても,多くの関心が集まっている。運動制御や学習の問題に対して認知神経科学がもたらした重要な示唆の1つは,脳内情報処理のレベルにおいては,知覚・認知機能と運動機能が共通のシステムを利用しているという事である。その結果,知覚・認知にアクセスして運動機能を改善するという発想や,脳の運動系を介して知覚・認知機能を改善するという発想には,多くの支持が得られている現状にある。

     本講演ではこうした背景のもと,知覚・認知機能の観点から運動制御や学習にアプローチする考え方について,歩行に関する研究に基づいて概説する。身体状況や環境は常に変化しうる。このため,転倒せずに歩行し続けるためには,状況に応じて歩行を調整する力が求められる。調整に先立って状況を適切に把握し,正しい動作修正を選択することが,知覚・認知機能の重要な役割である。本講演では第1に,衝突回避場面における知覚・認知機能の役割に関する研究成果を紹介する。視覚情報に基づいて衝突の有無を予期するプロセス(アフォーダンス知覚)に着目し,加齢がもたらす様々な影響や,過度な回避動作(保守的方略)の弊害について説明する。また,環境に関する視覚入力が衝突の予期に重要であることから,視覚依存的な身体知覚・バランス方略が衝突予期の弊害となりうることについても報告する。第2に,運動遂行中の急速な動作修正に関する研究事例を紹介する。歩行開始時や方向転換時の動作修正について,内部モデルの概念に基づき構築した実験例を説明し,その学問的・応用的意義について議論する。これらの研究の成果に基づき,「知覚に根ざした運動制御・学習の理解と支援」に関する考えを述べたい。

シンポジウム1 運動器理学療法における基礎と臨床の接点
  • ─単純X線画像・CT画像・MRI画像を含めて─
    橋本 貴幸
    セッションID: A-10
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     単純X線画像(以下,X線像)をはじめとする画像評価は,診断にとても重要である。

     運動器疾患において画像から関節可動域制限を読み取ることができるものが少ないのは,疼痛,慢性疾患,変形性膝関節症などがある。これは,画像所見に異常があっても無症状の場合と画像所見に異常がなくても症状を有する場合とがあり,問題点の抽出や推測した部位が患者の訴えや症状に直結しないことがある。

     画像から関節可動域制限を読み取ることができるものが多いのは,外傷や骨折である。読み取るべき内容は,骨折の形(分類),加わった外力の向きと大きさ,損傷した軟部組織とその影響,術式と固定性,骨の状態(丈夫さ・変形・転移・癒合状態)である。

     しかしながら,臨床では疼痛が強いことも多く,問題点の抽出や推測した部位への治療展開に至らないこともある。

     シンポジウムでは,症例のX線像,CT画像およびMRI画像を含めた「画像から読み取る膝関節可動域制限について」イメージをしやすいように提示する。

     症例提示の順番は,読み取ることが少ない画像,読み取ることが多い画像とし,診察時,受傷時,術前,術後を含めた画像評価に主眼を置き,膝関節可動域制限因子を推測する。

     さらに,推測された膝関節可動域制限因子が,「伸展制限」,「屈曲制限」,「伸展制限および屈曲制限」の,どの運動方向へ関節可動域制限を生じるのかを読み取る。

     日々の臨床においては,画像と臨床症状との関連性を検討する思考過程が大変重要であり,患者様の治療への結びつきと臨床成績の向上を期待する。

  • ─骨運動と軟部組織の動態に着目して─
    江玉 睦明
    セッションID: A-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     膝関節屈曲や伸展可動域制限は,運動器疾患を対象とする上で頻回に遭遇する機能障害の一つである。膝関節は螺旋関節であり,膝関節を構成する大腿骨顆と脛骨関節窩の形状の違いから膝関節屈曲・伸展時に内側関節面と外側関節面では異なる骨運動を呈する。内側関節面では転がり運動と滑り運動が起こるため,関節周囲組織は短縮(縮じまる)方向の柔軟性が求められる。一方,外側関節面では転がり運動が大きくなるため関節周囲組織の伸張方向の柔軟性(伸張性)が求められる。したがって,内側関節面周囲に関しては,いわゆる挟みこみや短縮痛による可動域制限が,外側関節面周囲に関しては伸張性の低下や伸張時痛による可動域制限が生じる可能性が考えられる。このように,膝関節は内側と外側では関節可動域制限の要因が異なる。実際に遺体標本(膝関節周囲の筋群をすべて除去し,関節包や靭帯のみ残存した状態)を徒手にて膝関節屈曲・伸展方向に動かすと容易に滑り・転がり運動,終末強制回旋運動が再現できる。このことから,関節構造体に大きな問題がなければ筋性の問題が関節可動域制限に大きく関与していることが推察される。また,膝関節は広い可動域を有するため,膝窩筋などは深屈曲位では膝関節伸展作用を持つ可能性があり,膝窩部痛などの要因にもなると考えられる。さらに近年では,脂肪体(膝蓋下脂肪体)や膝蓋上包などの動態も明らかになってきており,関節可動域制限への関与が考えられている。

     本セッションでは,実際の遺体標本(ホルマリン固定標本とThiel固定標本)を用いて骨運動と軟部組織の動態に着目することで膝関節屈曲・伸展制限の要因について考えていきたいと考えている。

  • 渡部 裕之
    セッションID: A-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     理学所見とは,視診や触診,腱反射など手や器具を使って刺激を入れて反応をみるものなど,五感を駆使して,患者さんの身体から情報収集することである。治療につながる病態把握には,五感を研ぎ澄ませ多くの情報を収集することが不可欠で,それらに基づき仮説と予測をたてる。さらにはそれに検査・評価による確率を加え,理学療法へとつなげていく。まさにこれが「理学療法士の腕であり,臨床の「技,アート」だといえる。しかし,腕に左右される理学所見は,技術さが大きい。近年はこの理学所見に,手の中の感覚で捉えていた見えない組織を可視化するエコー画像を用いることで,理学療法士間でより精度の高い理学療法を行うことが可能になった。理学所見から攻める「アート」は主観的な捉え方であり,画像所見から攻める「サイエンス」は客観的な捉え方である。したがって,この両者を融合させることがワンランク上の理学療法を進めていく上では重要である。

     運動器を扱う理学療法士の腕の見せ所は,関節拘縮に対する理学療法である。関節拘縮とは,長期的な関節の不動から関節周囲に存在する皮膚,筋,関節包などの軟部組織が関与した関節可動域の制限であると定義される。関節拘縮は大きく2つに分けられ,1つは皮膚や骨格筋,関節包などの関節周囲軟部組織にその原因がある場合,もう1つは骨・軟骨といった関節構成体そのものに原因がある場合である。我々が理学療法の対象として効果を期待できるものは,前者である。どの組織が伸びないのか,もしくはどの組織間の滑走が悪いのかを把握し理学療法を行うことで治療効果は向上する。ここでは,膝関節拘縮という多く遭遇する病態について,理学療法士間で技術差が出やすい理学所見を,どの組織のどの動きについて所見をとっているのか,その所見の客観性の有無に関して述べたい。

シンポジウム2 神経系理学療法における基礎と臨床の接点
  • 田尻 直輝
    セッションID: A-13
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     成熟哺乳類の中枢神経系に一度損傷が起きると,再生・修復が不可能とされてきた。しかしながら,近年,様々な種類の幹細胞を用いた再生医療の発展により,脳梗塞,頭部外傷,パーキンソン病,脳性麻痺,脊髄損傷などの中枢神経疾患モデル動物を対象に,機能的・神経組織学的改善が得られることが証明され,すでに世界中で臨床試験が開始され始めている。

     幹細胞は,自己複製能と多分化能を併せ持つ細胞と定義されており,造血系や皮膚など多くの組織に多能性幹細胞が存在することが知られている。また,神経系にも同様に神経幹細胞が存在し,自己複製能に加え,ニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトなどに分化する多分化能を備えていることも明らかにされている。現在,神経幹細胞や間葉系幹細胞を含む,様々な幹細胞療法の開発が国内外で精力的に進んでいる。

     一方,中枢神経疾患患者に対して,優れたリハビリをすることにより患者の状態が身体面はもちろん,精神心理面でも著しく好転することが経験され,リハビリは重要な治療の一つであることは明らかではあるが,その全容が未だ明らかにされていない。我々は,脳損傷後のリハビリが及ぼす作用機序に関しても,強い興味を持っている。近い将来,目まぐるしい再生医療の発展によって,仮に中枢神経が組織学的に修復できたとしても,身体機能面・精神心理面で効果,すなわち神経回路の形態的・機能的再編成が生じなければ意味がない。そこで重要な役割を果たしていくのが,神経機能の再教育とも言われているリハビリであり,移植治療においても重大な意義があると期待される。本講演では,これまで我々が取り組んできた中枢神経疾患に対する細胞移植治療やリハビリを利用した機能再生・再建の可能性について基礎研究面からご紹介させていただく。

  • ─これから展開されるであろう未来を踏まえて個々人で準備するべきこと─
    佐々木 雄一
    セッションID: A-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     現在,再生医療分野の進歩は目覚ましく,様々な臨床応用が行われている。特に,近年の細胞生物学の進歩とともに,さまざまな細胞の起源である幹細胞が発見され,神経再生へ向けた研究が急速に発展している。

     我々は1990年代よりさまざまの中枢神経疾患モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し行ってきた。その中でも2000年代から,骨髄由来の間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)を有用なドナー細胞として注目し,経静脈的に投与することで神経疾患に対して著明な治療効果が認められるという研究結果を多数報告してきた。これらの良好な基礎研究の結果に基づき,2007年より脳梗塞亜急性期の患者を対象とした自己培養MSCの静脈内投与について,安全性と治療効果を検討する臨床研究を行った。さらに,薬機法下で再生医療等製品としての実用化を目指し,医師主導治験を脳梗塞(第Ⅲ相:2013年3月~)および脊髄損傷(第Ⅱ相:2014年1月~2017年7月)に対して行った。脊髄損傷に対する治験の結果を受けて,厚生労働省は,2018年12月に本細胞製剤(再生医療等製品:ステミラック注,ニプロ株式会社)の製造販売を条件・期限付きで承認した。2019年5月より,札幌医科大学では,世界で初となる保険診療としての脊髄再生医療を開始した。

     また,我々は臨床から得られた疑問点を解明すべく,基礎研究も並行して進めている。初めに,MSC治療にリハビリテーションを付加した結果,運動能力のさらなる回復が得られ,その機能回復には神経可塑性が大きく関与していること示す基礎研究を報告した。MSC治療におけるリハビリテーションの重要性と今後の課題を再認識する結果となった。

     今後,我々理学療法士を取り巻く医療環境は目まぐるしく変化していくことが予想される。本シンポジウムでは,これからの医療に必要とされる理学療法の確立のために我々が備えるべきことを,当大学で行っている再生医療の取り組みの中から得られた経験をもとに私見を踏まえ提起する。

  • 愛知 諒
    セッションID: A-15
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     従来,脊髄を完全に損傷すると麻痺領域の神経機能の回復が困難とされてきましたが,『中枢神経は再生しない』という従来の常識は,今や明確な科学的エビデンスをもって覆されつつあります。現在では分子・細胞レベル,実験動物での神経再生に関する研究成果の蓄積を経てヒト臨床症例を対象とした治験が複数の手法で進められ,昨年には骨髄間葉系幹細胞に由来する製剤「ステミラック注」が薬価収載に至ったことに反映されるように,再生治療が現実的な選択肢となる可能性が高まりつつあると言えます。再生医療が現実味を帯びてきた一方で,これまで行われてきた再生医療の臨床試験では効果検証が臨床指標に留まっているものも多く,ヒトを対象とした治療効果についてのエビデンスが乏しい状態だと言えます。これらを踏まえ私が所属する国立障害者リハビリテーションセンター病院再生リハビリテーション室では大阪大学医学部付属病院が実施する自家嗅粘膜移植症例,札幌医科大学病院が実施する骨髄間葉系幹細胞投与症例を受け入れ,再生医療前後のリハビリテーションを実施,その過程での慢性期脊髄損傷者の身体機能の変化を捉えるために経頭蓋磁気刺激などの神経生理学的検査やロボティクスを用いた受動歩行中の下肢筋活動の経時的な変化を測定するなど包括的な機能評価を行い,改善の背景にある神経メカニズムを検証につながる精度・確度の高い効果検証を行うことを目指しています。従来の機能回復の限界を打ち破る可能性を秘める再生医療は,リハビリテーションのありかた,そこに関わる理学療法士の立場と役割にも変化をもたらすことが予想され,再生医療の実現を念頭においた時に,どのような認識と役割をもってリハビリテーションの臨床を進めていくのかを現実味をもって考える時期に入ってきたと言えるでしょう。本発表では,私たちがこれまでに実施してきた再生医療と連動したリハビリテーションの概要と視点を紹介し,再生医療の進歩に呼応したリハビリテーションのあり方を考えることで,新しい評価手法/介入方法の現場への実装について考える契機とできればと考えています。

シンポジウム3 内部障害系理学療法における基礎と臨床の接点
  • 上月 正博
    セッションID: A-16
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;CKD)は,サルコペニア,フレイル,骨粗しょう症,心血管肥大,血管石灰化などを呈する「早期老化モデル」の代表の1つとして,その予防,治療,管理は大きな関心を呼んでいる。なかでも,CKDといえばかつて安静にすることが治療のひとつだったが,最近では,透析患者も保存期CKD患者も「運動制限から運動療法へ」と考え方がコペルニクス的転回をみた。

     腎臓リハビリテーションは,腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートを行う,長期にわたる包括的なプログラムである。

     私は1990年代より,長期的運動による腎への影響について検討してきたが,ある種のCKD動物モデルでは,長期的運動が腎保護作用を有することを見出した。英語論文を継続して発信していくことで,その関心は徐々に高まり,2010年ごろから臨床でも,保存期CKD患者に対する運動療法の無作為比較試験で腎機能が改善することが報告された。また,運動療法としてのウォーキングがCKD患者の10年間の全死亡リスクや透析などの腎代替療法移行率を低下させることも報告されている。いまや,腎臓リハビリテーションが腎機能改善・透析移行防止のための新たな治療としての大きな役割が期待されている。臨床研究のさらなる発展には,組織の構築,ガイドラインの作成,診療報酬収載が重要であり,腎臓リハビリテーションに関しては,日本腎臓リハビリテーション学会(2011年設立),腎臓リハビリテーション指導士(2018年設立),「腎臓リハビリテーションガイドライン」(2018年),「腎不全患者指導加算」(2016年),「高度腎機能障害患者指導加算」(2018年)がそれにあたる。講演では,基礎から臨床までのこれらすべてにかかわった幸運な一人の研究者として腎臓リハビリテーションの歴史を紹介する。

  • 松本 泰治
    セッションID: A-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     骨粗鬆症は,骨強度の低下により骨折の危険性が増大する疾患である。骨粗鬆症により発症する骨折は患者の生活の質を低下させ,合併症の発症や高い死亡のリスクになることが知られている。前向きコホート研究において,急性心筋梗塞や心不全と骨粗鬆症の発症との間に関連があることが報告された。しかし,心疾患が直接的に骨粗鬆症を誘発するものかどうか,また,そのメカニズムについては未だ明らかにされていない。我々は,マウスの左冠動脈前下行枝結紮術により急性心筋梗塞を作成した心不全マウスモデルを用いて,心筋梗塞後の心不全で骨量が低下し,運動療法が心筋梗塞後の骨量低下を予防することを,分子生物学的機序も含めて明らかにした。心疾患と骨折の連関が疫学研究で報告される中,QOLと予後に大きく影響する「骨」の領域に着目した運動療法を中心にした心臓リハビリの重要性と有効性を裏付けた世界初の知見である。

     また,器質的冠動脈硬化を成因とする虚血性心疾患に対する運動療法の有効性は確立されているが,機能的冠動脈疾患である冠攣縮性狭心症(VSA)に対しては不明である。そこで,VSA患者に対し,標準治療のCa拮抗薬に運動療法を上乗せした効果を検討した。前向き登録したVSA患者を,運動療法介入群(Ex群:週1回の通院と週3回以上の在宅での30分の自転車運動)と非介入群(Non-Ex群)に無作為化した。Ex介入前と3ヵ月後に,心肺運動負荷試験(CPX),dynamic CT perfusion(CTP),狭心症発作頻度の調査を実施し,2群間で比較した。3ヵ月後,嫌気性代謝閾値(AT)の変化率は,Non-Ex群に比しEx群において有意に増加した。VSAにおいて,標準薬物療法と運動療法の併用でさらなる症状改善が得られる可能性が初めて示された。

     さらに,我々は動脈硬化と類似した大動脈弁硬化・狭窄症(AS)に対する運動療法の予防効果について動物モデルを用いた検討を行った。定期的運動療法をしたマウスでは大動脈弁硬化が顕著に抑制されたが,非運動療法群と週に1回のみの運動療法群では抑制されなかった。定期的運動療法がASを予防した機序として,弁内皮細胞障害にひきつづく,炎症細胞浸潤や硬化病変における酸化ストレス産生減少,BMP‒2やrunx-2といった石灰化シグナル伝達抑制など,多面的な影響が考えられた。ヒトにおける検討が必要であるが,運動療法はASの一次予防として重要な役割を担う可能性が示唆された。重症ASに対する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の治療件数は増えており,高齢患者の多くはフレイルであり,認知機能障害やせん妄などの「精神・心理的フレイル」が存在し,TAVI患者のせん妄は入院期間や予後に影響を与えるため,せん妄は重要な臨床問題である。最後に,このせん妄に関しての最近の臨床研究結果もご紹介したいと思う。

  • 椿 淳裕
    セッションID: A-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     内部障害に関する日々の疑問の解決やそこから臨床研究へと繋げることを目的として,新潟市および近隣の理学療法士・作業療法士とともに,「新潟内部障害リサーチミーティングNiigata Research Meeting of Rehabilitation for Internal Diseases, ReMInd」と称する会の活動を開始した。日中から大学で研究活動を行うフルタイム大学院生と,日中は勤務先の病院等で臨床業務を行い勤務後に研究活動を行う社会人大学院生が徐々に増え,さらに修了生が本リサーチミーティングReMIndに参加することによる融合・親和を期待して活動を継続している。

     本学理学療法学科は,複数教員が研究室単位で学部の卒業研究やフルタイム大学院生の研究を指導する体制ができている。私が所属する運動生理Labには4名の教員が所属し,それぞれの研究実績に基づき,実験動物を対象とする研究から,ヒトを対象とする研究,疾患を有する方を対象とした臨床研究,大規模コホート研究までを指導できる体制にある。学部からストレートに大学院に進学する学生が継続的にいるが,自身の研究内容がどのように社会に還元できるかを見通しにくい点が課題であった。一方で,社会人大学院生やリサーチマインドを持つ理学療法士・作業療法士が研究を進めるにあたり,その機序や背景を考える基礎的な視点があることで,得た知見をより汎化させやすくなると考える。

     ReMIndの活動を通じて,学科での発表だけでなく,論文も出始めてきた。それらの紹介をするとともにその経緯を振り返り,理学療法研究として基礎と臨床とを融合・親和する意味や課題を再考したい。

     

    新潟内部障害リサーチミーティング

    Website:https://kazuki-hotta.wixsite.com/remind

    Twitter:https://twitter.com/NiigataRM

シンポジウム4 若手研究者(U39)による最先端研究紹介
  • 稲井 卓真
    セッションID: A-19
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     近年の先行研究によれば,変形性股関節症の進行を遅延させるために“立脚期の股関節内・外転モーメントインパルス”が低減された歩行様式を解明することが重要である。そのため,我々は立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスに与える要因をシステマティックレビューで報告した(Inai et al., 2018, Gait & Posture)。さらに,このシステマティックレビューを踏まえ,立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスに与えうる要因(対側杖の使用,歩行速度の低下)を実際に検討し報告した(Inai et al., 2019, Gait & Posture; Inai et al., 2019, PeerJ)。加えて,現在我々は歩幅やケイデンスが立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスに与える影響(Inai et al., under review),および立脚期の股関節内・外転モーメントインパルスと“股関節間力”との関係性(Inai et al., under review)に関する研究を進めている。本講演では,我々がバイオメカニクスを用いて明らかにしたこれらの知見を紹介するとともに,変形性股関節症の進行を遅延させるための臨床応用の可能性まで踏み込む。

  • 佐伯 純弥
    セッションID: A-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     ランニングによって脛骨後内側縁に疼痛を生じるMedial Tibial Stress Syndrome(MTSS)の好発部位には,長趾屈筋が高い割合で付着していることが報告されており,MTSSには長趾屈筋や,足関節において長趾屈筋と同じ作用(内がえし・底屈)を持つ後脛骨筋や長母趾屈筋の力学的特性が関連する可能性が考えられる。このような背景から,我々は下腿後面筋の力学的特性や足趾底屈筋力の評価法を確立し,それらのランニングによる変化やMTSSとの関連について研究を行ってきた。本講演では,せん断波エラストグラフィを用いて測定した下腿後面筋の硬さの評価および新規開発した足趾底屈筋力測定装置を用いて測定した筋力の評価とそれらのMTSSとの関連に関する研究,さらに,ランニングによる下肢筋群への負荷にフットウェアが与える影響についての研究を中心に紹介する。

  • 田中 浩基
    セッションID: A-21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     トレーニング時の関節角度に依存して筋力が増強する関節角度特異性という法則がある。しかし,この法則は高負荷トレーニングでしか検討されていない点や,筋の伸長位では完全には成立しない点など一般化するには不十分な点が散見される。我々は関節角度特異性について筋束長に着目して検証を行ってきた。足関節底屈20°かつ最大筋力の30%負荷での等尺性トレーニングを行うと,底屈0°と10°のみで筋力増強が得られ,底屈20°の筋力は変化しないという関節角度特異性に反する興味深い結果が得られた。一方,超音波診断装置にて測定したトレーニング条件での内側腓腹筋の筋束長は,最大筋力が向上した条件での筋束長と一致していた。つまり低負荷でのトレーニングは同じ関節角度ではなく,筋束長が一致する筋の伸長位での最大筋力を向上させたと考えられた。我々はこの結果を筋束長に特異的な筋力向上として捉え,新たな筋力トレーニングの特異性として報告した(JSCR,2016)。さらにこの仮説は等尺性収縮だけではなく等張性収縮(Muscle Nerve,2017),足関節だけではなく股関節(JPFSM,2018)でも成り立つことが確認された。本シンポジウムでは筋束長特異性の着想に至った背景および実験結果を踏まえた臨床応用について述べる予定である。

  • 平林 怜
    セッションID: A-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     2000年より脊髄相反性抑制増強について注目され,研究報告が増加している。

     脊髄相反性抑制は,関節運動や歩行・走行を円滑に行うための重要な機能である。上位運動ニューロン障害患者や高齢者では,脊髄相反性抑制の機能が低下するため,脊髄相反性抑制増強は重要な介入法となる。演者は,脳刺激と末梢刺激による効果的な介入法を明らかにし,介入後の持続効果も得られたため紹介する(Hirabayashi et al., 2019a, 2019b, 2020)。介入法として,脳刺激では補足運動野,末梢では反復他動運動に着目した。補足運動野の活性は,網様体脊髄路の興奮性を増大させ,抑制性介在ニューロン(Ia抑制性介在ニューロン,一次求心性脱分極介在ニューロン)の活性に関与し,脊髄相反性抑制の増強を認めた。また,反復他動運動は,筋紡錘からの求心性インパルスがIa線維の発火を増加させ,抑制性介在ニューロンが活性し,脊髄相反性抑制の増強を認めた。演者は,これらの効果的な介入法を紹介する。

  • 木村 剛英
    セッションID: A-23
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     これまで認知課題は,認知機能の評価や向上に用いられてきた。しかし,我々はその枠組みを超え,認知課題の新たな可能性を模索している。

     現在までに我々は,特定の認知課題が,1)二重課題を行なった際に生じる課題成績の低下(二重課題干渉)を抑制し,2)運動学習を促進することを発見した。では,なぜ認知課題でこれらの成果が得られたのだろうか。また,認知課題の内容や実施回数などを変えると,より大きな効果を得ることはできるのだろうか。

     認知課題は安全で,安価に,誰でもどこでも実施できる。認知課題の有用性を証明し,具体的な実施方法を確立することができれば,リハビリテーションの現場のみならず,地域や自宅でも,我々の研究成果を活用することができる。今回の発表では,我々の研究成果を中心に認知課題の新たな可能性を紹介する。また,認知課題の臨床応用にむけて現在抱える問題点,将来の展望についても言及していきたい。

  • 髙橋 郁文
    セッションID: A-24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/24
    会議録・要旨集 フリー

     メカニカルストレス,特に荷重は関節軟骨にとって組織学的および機能的維持のために必要不可欠とされる。しかしながら,臨床では多くの疾患の治療において安静臥床が伴い,関節への荷重が減少する機会は多い。不動および低活動状態は骨格筋および骨に廃用性の組織学的変化を引き起こすことが報告されている。同様に,関節軟骨においても非荷重状態によって廃用性の組織学的変化が生じることが2019年に報告され,「関節軟骨における廃用性萎縮」として提唱された(Vincent T, 2019)。その組織学的変化は,軟骨の菲薄化と基質染色性の低下を主体とし,我々の研究グループにおいても4週間の非荷重環境によってラット内側脛骨大腿関節の軟骨に同様の組織学的変化を確認した(Takahashi I, et al., 2019)。本講演では,我々の研究グループが取り組んできた関節軟骨と荷重,変形性関節症に関する知見を述べ,さらに現在進行している研究結果を交えて紹介させていただく。

一般演題
feedback
Top