日本口蓋裂学会雑誌
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14 巻, 3 号
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  • 伊藤 静代
    1989 年 14 巻 3 号 p. 333-342
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,口蓋裂児をもつ母親の関心の経年的変化について知る目的で行われた。正常児をもつ母親を対照群とした。調査対象は,口蓋裂児80名(口蓋裂単独43症例,唇顎口蓋裂37症例,3ヶ月-6歳)と正常児163名(2ヶ月-5歳11ヶ月)の母親であった。口蓋裂児についての母親の関心と正常児についての母親の関心について質問紙法と面接法を用いて調査を行った。口蓋裂児の母親に対する調査は,口唇形成手術時,口蓋形成手術時と口蓋形成術後1年から4年間,1年ごとに行われた。その結果は,次のようであった。
    1.口蓋裂群の母親の関心は,疾患に関連する事柄が多く,対照群と異なる傾向を示した。
    2.口蓋裂群の母親の関心は,子どもの年齢と治療の進展により変化し,裂型により異なる傾向を示した。
    3.口蓋裂群の母親の主な関心は,どの年齢段階においても「言語」に関することであった。子どもの発達に伴い,「社会性一特に集団生活への適応」,「むし歯」,「咬合異常」について関心を示す傾向がみられた。
    4.さらに唇顎口蓋裂児の場合,母親は「心理的影響」と「再手術」にも強い関心を示していた。
    これらのことから,治療過程における専門家と母親との話し合いの必要性が示唆された。こうした話し合いは,子どもの成長にともなう障害の予後についてと心身発達に対する母親の精神的準備性の形成や心理的成長をはかるために必要である。
  • -新開発したA/J -Wv/+/AG,CL/Fr-Wv/+/AG(Aichi-Gakuin)コンジェニックマウスを応用した検討-
    杉本 修一
    1989 年 14 巻 3 号 p. 343-357
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    妊娠母体の貧血が,口唇,口唇裂発生に及ぼす影響について検討するために,口唇,口蓋裂自然発生疾患モデルマウスであるA/J系,CL/Fr系マウスに遺伝性貧血モデルマウスであるC57BL6/J-Wv/+系マウスの貧血遺伝子を導入してA/J-Wv/+/AG,CL/Fr-Wv/+/AG2系統のコンジェニックマウス系統を開発してその血液性状,吸収胚数,死亡胎仔数,口唇,口蓋裂発現率を追及し,以下の結果を得た。
    1.新開発疾患モデルマウスの妊娠前の血液性状は,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。また本疾患発生に最も影響すると考えられる妊娠10日の血液性状も,貧血遺伝子供給源であるC57BL6/J-Wv/+系マウスと類似し,貧血を示していた。
    2.新開発疾患モデルマウスの生存胎仔数,吸収胚数,死亡胎仔数は,おのおの源系統であるAIJ系,CL/Fr系マウスとの比較において有意な差を認めなかった。
    3.A/J-Wv+/AG系マウスは源系統のA/J系マウスと同様に口唇裂単独は皆無であったが,片側性口唇・口蓋裂と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。CL/Fr-Wv/+/AG系マウスは源系統のCL/Fr系マウスに比し口唇裂単独の発現率に有意差を認めなかったが,口唇・口蓋裂の合計と口蓋裂は有意差をもって発現率が上昇した。
    4.以上より,母獣の貧血は口唇裂単独の発現率に関連を認めないが,口蓋裂の発現率を上昇させることが示唆された。
  • 井上 幸, 国吉 京子, 平野 信子, 川野 通夫, 中島 誠
    1989 年 14 巻 3 号 p. 358-365
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇裂口蓋裂児の一症例の喃語期の構音と心身の発達について検討した。対象は左側唇裂口蓋裂男児。6歳時の経過観察で知能は正常,構音指導なしで良好な鼻咽腔閉鎖機能と正常構音を獲得していることが確認された。生後6ヶ月から月1回,家庭を訪問し,1回30分,親と子の様子をビデオに録画し,筆記記録や写真撮影も随時行った。構音については,ビデオ30分間の録画時間中のすべての発声について1音ずつ判定した。発達については,ビデオ30分問の録画時間中の「母親の行動」「子どもの模倣行動」の回数を計測し,また各時期の発達上の特徴について,筆記記録や写真も含めて検討した。
    その結果,以下のことが確認された。
    1)声門音以外の両唇音・硬口蓋音・軟口蓋音の数を見ると,10ヶ月,反復哺語が盛んになった時期と15ヶ月,音声模倣が現れた時期に増加がみられるなど,口蓋裂児の場合も反復哺語や音声模倣の現れる時期に構音の分化や獲得がすすんでいた。
    2)本症例の無意味音声の構音発達は,有意味語を話し始めた20ヶ月においても,まだ歯音または歯茎音,歯茎硬口蓋音を殆ど構音していないなど大幅に遅れている。本症例の20ヶ月時の構音は,健常児では6カ月ころから構音し始めており,歯音または歯茎音,歯茎硬口蓋音に限ってみると,分化が更に遅れていると考えられた。
    3)母親が出産時のショックや,治療や育児への不安を強く持っていたため,本症例に十分働き掛けられず,6ヶ月時の本症例の発遅は遅れていた。母親が安定し,働き掛けが増えると共に本症例の発達も促されたが,20ヶ月時においても,まだ遅れが認められた。母親が早く安定して子どもと関われるよう,早期より,カウンセリング,治療についての見通し,育児への助言等,母親への援助を行っていくことが重要である。
  • 高野 直久, 吉岡 弘道, 高野 英子, 大貫 善市
    1989 年 14 巻 3 号 p. 366-380
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    Hotzレジン床による治療を行ったCLP児32名とCL児15名の乳首内陰圧および陽圧,吸畷圧などを記録測定するとともに体重発育速度,週平均の1日哺乳量および規定哺乳時間を求め,これら各種計測値の多変量解析を行って哺乳様相の発達を総合的に比較検討し,次の如き結果を得た。
    1.因子分析により12変数からCL群,Hotzレジン床装着CLP群ともに3因子抽出され,CL群では第1因子は哺乳の未熟を示す因子,第2因子は哺乳の完成を示す因子,第3因子は哺乳の発達度に関する因子,CLP群では第1因子は哺乳の発達度,第2因子は哺乳の未熟,第3因子は哺乳の完成と解析され,両群とも吸畷率,乳首内陽圧,吸畷圧および吸畷活動時間率によって要約された。
    2.主成分分析では各群とも4成分が抽出され,CL群の第1成分は全般的な未発達度を示す成分,第2成分は吸畷メカニズム,哺乳の完成に関する成分,第3成分は1ヶ月未満における発育に関する成分,第4成分は1ヶ月以上における体力発達に関する成分,CLP群の第1成分は発達,第2成分は疲労と未熟,第3成分は哺乳の完成,第4成分は吸畷メカニズムの発達と解析された。
    3.クラスター分析では両群とも3クラスターに分けられ,CL群では生後1ヶ月の体重発育速度と吸畷率および3週の1日哺乳量とが,生後2ヶ月の体重発育速度と吸畷パターン,6週の1日哺乳量,乳首内陽圧および吸畷圧とが近い関係を示した。CLP群では生後1カ月および2カ月の体重発育速度と吸畷率,3週および6週の1日捕乳量とが関係が近く,CLP群がCL群よりも未熟な哺乳様相であることが示された。
    4.以上よりCL群では比較的良好な哺乳発達を示すのに対して,Hotzレジン床により治療されたCLP群の哺乳発達はCL群に比べてかなり劣っていることが示された。
  • 馬場 祥行, 本橋 信義, 須佐美 隆史, 宇治 正光, 森山 啓司, 重田 浩, 清水 博子, 馬 蓉蓉, 黒田 敬之
    1989 年 14 巻 3 号 p. 381-390
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    女子片側性唇顎口蓋裂患者(歯齢皿C以降)27名の上顎石膏模型から歯列弓模型および歯槽弓模型を作製し,歯槽頂線に対する個々の歯の偏位様相について,成人女子正常咬合者群(20名)と比較検討し,次のような所見を得た。
    1.すべての歯の70%以上が舌側への転位を示しており,特に major segment の両中切歯,側切歯,および第2小臼歯,また minor segment の側切歯および犬歯は,80%以上の高い割合で舌側への転位を示した。一方,半数以上の歯に唇(頬)側への転位がみられたのは minor segment の第2大臼歯のみであった。
    2.裂隙に近接する酋には高い頻度で近心への捻転がみられた。すなわち,裂隙に隣接する中切歯では92.6%, minor segment の側切歯では100%,犬歯では85.2%の高率であった。一方,遠心への捻転が高い頻度でみられたのは major segment の第2大臼歯であり,その割合は70.6%であった。
    3. major segment においては,いずれの歯にも転位と捻転の程度のあいだに相関がみられなかった。一方, minor segment においては,犬歯と第2小臼歯は舌側に転位するほど近心に捻転する傾向(犬歯:r=O.37,第2小臼歯:r=0.47)が有意にみられた(P<0.1)。また,舌側に転位するほど側切歯および第2大臼歯は遠心に捻転し,第1大臼歯は近心に捻転する相関(側切歯:r;-0.96,第2大臼歯:r=-0.33,第1大臼歯:r=0.27)がみられたがその有意性は低かった(P<0.2)。
  • 舘村 卓, 和田 健
    1989 年 14 巻 3 号 p. 391-401
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋弁後方移動術を併用した咽頭弁移植術法(unified velopharyngeal plasty)において,手術侵襲を軽減し良好な鼻咽腔閉鎖機能を賦与するために,口蓋粘膜弁法による口蓋弁の形成を行い,露出創面の被覆と口蓋弁の接着固定にフィブリン接着剤ティシールを用いる手術方法を考案し,18症例に適用した。
    本術式の概要は以下のとうりである。1)硬口蓋後方3分の1より骨膜ならびに大口蓋神経血管束を温存し,口蓋粘膜弁を挙上剥離する。2)軟口蓋鼻腔側粘膜に横切開を加え,充分な軟口蓋の後方移動をはかる。3)咽頭後壁より上茎咽頭弁を採取し,軟口蓋へ移植する。4)口蓋帆挙筋筋束を再構成した後,口蓋弁により咽頭弁ならびに軟口蓋部創面を被覆する。5)口蓋弁後方移動により硬口蓋に生じた露出創を保護するためにティシールにより被覆する。本法の特徴は,口蓋弁形成時に粘膜弁を作製することによって,骨口蓋への手術侵襲が軽減されること,口蓋神経血管束から遊離した口蓋粘膜弁は広く展開することができるため,手術野が直視下に明示され操作が正確にできること,鼻腔側粘膜に加える横切開に応じて軟口蓋の後方移動が充分達成出来ること,ティシールを用いることによって創の良好な被覆がはかられ治癒機転が促進されることである。
  • 氷室 利彦, 山口 敏雄, 大友 孝恒
    1989 年 14 巻 3 号 p. 402-411
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂症例の治療にあたっては,関連領域における複数診療科の有機的な連携が不可欠である。混合歯列後期から長期管理を実施した片側性唇顎口蓋裂症例の24歳までの経過について検討し,総合一貫治療と医療体制について考察した。症例は初診時年齢12歳4ヶ月の女子で左側完全唇顎口蓋裂であった。7歳頃に上顎右側側方歯部に連結帯環金属冠,上顎前歯部に可撤性部分床義歯の処置を受けた。顔貌は左右対称で,鼻変形,上赤唇縁の不一致を呈していた。側面観では,低鼻,鼻柱基底部の陥凹および下唇の突出が認められた。義歯を撤去すると,永久歯歯冠が著しく脱灰していた。上顎右側側切歯および上顎左側の中切歯,側切歯,第二小臼歯が欠如していた。頭部X線規格写真分析から,上顎は前方への劣成長を示していた。オトガイ部の前後的位置は正常範囲にあった。
    本症例の当科受診後の経過は,上顎側方拡大に引続きマルチブラケット装置による歯科矯正治療を22歳まで続けた。この間には外科矯正治療による下顎骨の後方移動や口唇修正手術,残孔閉鎖手術を実施した。本症例の問題点として,治療に対する保護者への適切な指導が極度に不足していたために保護者が不安を抱いていたこと,歯科医療担当者においても成長発育に対する認識が欠如していたことが推察された。当該症例の治療は,チームアプローチによる総合一貫治療が望まれるが,実際には専門的知識・技術が必要とされる時点でその時の担当者に判断が委ねられているのが実情と思われる。矯正歯科が治療に携わっている期間が圧倒的に長く,成長発育の視点からの検診に対応できることから,矯正歯科を中核として地域における各医療機関の組織化を図り,総合的に一貫性のある治療計画を遂行できる医療体制の確立が必要と考える。
  • 大平 章子, 吉増 秀實, 石渡 寿夫, 打田 年實, 大山 喬史
    1989 年 14 巻 3 号 p. 412-420
    発行日: 1989/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    成人に至ってから初回口蓋形成術を受け,術後も鼻咽腔閉鎖機能不全を呈したために,スピーチエイドを装着した37歳の口蓋裂症例に対し,鼻咽腔閉鎖機能賦活を目的として,バルブ部分に電極を埋め込んだスピーチエイドを用いた訓練を行った。装置は,スピーチエイドのバルブ部分にエレクトロパラトグラフの人工口蓋用の電極を9個埋め込んだものである。バルブと軟口蓋・咽頭壁との接触状態が画面に表示される。その結果,以下の知見を得た。
    1.20回の訓練で・文章レベルまでの鼻咽腔閉鎖運動を誘導することができ,対象はスピーチエイド装着者に限定されるが,鼻咽腔閉鎖機能賦活訓練として,有効であることが示された。
    2.鼻咽腔閉鎖は,嚥下,母音,子音の順に獲得された。
    3.同様の視覚的鼻咽腔閉鎖機能賦活訓練法である fiberscopic feedback 訓練法と比較して,簡便な方法であり,長時間の自然な状態での発話が得られ,また,自習も可能である点で優れていると考えられた。
    4.表示画面がバルブ部分に付着する分泌物等の影響を受け易く,訓練中にチェックが必要である等の難点があり,特に訓練初期には,ファイバースコープとの併用が望ましいと考えられた。
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