異常構音診断システムの開発の一環として,汎用型マイクロコンピュータ(NECPC9801VM21)を用いて,高速度パラトグラフィー(DP)を付属させた音声分析システムを開発し,歪音を対象として研究を行った。
被験者は機能的構音障害症例を含む口蓋化構音患者29名と正常構音を確認された健常者31名の計60名である。
検査音は口蓋化構音として認められる頻度の高い/ta/,/da/,/tsw/,/dzw/,/sa/の正常構音と臨床所見あるいはDPで口蓋化構音と診断された歪音,およびこれらの口蓋化構音が臨床的に異聴されやすい正常構音の軟口蓋音/ka/,/ga/,/kw/,/gw/とした。
これらの音について周波数領域および時間領域における音響特性について検討したところ,以下の特徴的な所見が認められた。
1.子音部スペクトル包絡上の高域部(5-7.5kHz)と低域部(1.5-4kHz)における平均デシベル値の差を現わす物理評価量SES(Spectrum Envelope Score)を求め,比較を行ったところ,/sa/の正常構音と口蓋化構音では明らかに異なったピークを示し,両者の分離が可能であったが,その他の音では分離が不可能であった。
2.子音部のスペクトル包絡上で最大のデシベル値を示す周波数値であるCPF(Consonant Peak Energy Frequency)について評価検討を行ったところ,/ta/,/da/,/tsw/,/dzw/の口蓋化構音は正常構音と明瞭に分離され,臨床的に異聴されやすい軟口蓋音とも高い確率で分離された。
3.子音部より後続母音定常部にかけての第2,第3ホルマントの遷移量の差である∠F2-∠F3について検討を行ったところ,/ta/,/da/,/tsw/,/dzw/の口蓋化構音は正常構音とは明らかに異なった所見を示した。しかし,臨床的に異聴されやすい軟口蓋音とは類似の所見を示した。
4.破裂音/ta/,/da/にっいて閉鎖解放と声帯振動開始との時間差であるVOT(Voice Onset Time)の検討を行ったところ,口蓋化構音は正常構音よりも,臨床的に異聴されやすい軟口蓋音に類似した所見を示したが,その分離傾向は他の物理評価量ほど明瞭ではなかった。
5.上記の結果から,口蓋化構音の定量評価に有効と思われた物理評価量CPF,∠F2-∠F3と,聴覚心理実験によって得られた主観評価量とについて重回帰分析を行ったところ,物理評価量と異聴傾向との間に高い相関が確認されたが,雑音との問には相関が認められなかった。
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