重度の骨格性discrepancyが残存し,咬合位でのoverclosureが著しい両側性口唇裂口蓋裂患者に対し,前歯部12mm,臼歯部7mmの一気の咬合挙上を伴うoverlay dentureによる補綴治療を経験した.
こうした急激な咬合位の変化は顎口腔機能に様々な障害を引き起こすものと思われるが,その一方で経時的な生体の適応反応もまた生じてくるものと思われる.そこで,随意性最大噛みしめ時の左右咬筋側頭筋前腹の表面筋電図を経時記録し,Activity Index(活動性指数),Asymmetry Index(非対称性指数),筋活動量の観点から分析検討した.その結果,以下の知見を得た.
1.義歯装着翌日から約2週間の問,左側顎関節部に疹痛が認められたが,その後疹痛は認められなかった.
2.Activity Indexに関して,義歯装着以前には咬筋に比べて側頭筋前腹の活動優位であったが,義歯装着後30週でほぼ同程度になった.
3.Asymrnetry Indexに関して,義歯装着以前には左側に比べて右側の活動優位であったが,義歯装着後10週以降ほぼ左右対称な筋活動パターンを示すようになり,義歯装着後30週ではわずかに左側の活動優位となった.
4.咀噛筋筋活動量は疹痛を訴えた期間に一致して一時的に減少したものの,疹痛の消退以降経時的に増加し,義歯装着後30週の時点で約1.5倍に達した.この内訳は咬筋,側頭筋前腹それぞれ約2倍,約1.3倍の増加であり,咬筋筋活動量の増加が大きかった.
以上より,重度の骨格性discrepancyならびにoverclosureが残存する口唇裂口蓋裂患者に対する大幅かつ一気的な咬合挙上を伴う補綴治療は,患者の十分な適応反応が認められるとともに,筋電図による顎口腔機能の経時変化の分析・評価の重要性が示唆された.
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