日本口蓋裂学会雑誌
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22 巻, 4 号
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  • 上野 俊明, 上野 浩子, 鈴木 るり, 谷口 尚, 大山 喬史
    1997 年 22 巻 4 号 p. 149-163
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    重度の骨格性discrepancyが残存し,咬合位でのoverclosureが著しい両側性口唇裂口蓋裂患者に対し,前歯部12mm,臼歯部7mmの一気の咬合挙上を伴うoverlay dentureによる補綴治療を経験した.
    こうした急激な咬合位の変化は顎口腔機能に様々な障害を引き起こすものと思われるが,その一方で経時的な生体の適応反応もまた生じてくるものと思われる.そこで,随意性最大噛みしめ時の左右咬筋側頭筋前腹の表面筋電図を経時記録し,Activity Index(活動性指数),Asymmetry Index(非対称性指数),筋活動量の観点から分析検討した.その結果,以下の知見を得た.
    1.義歯装着翌日から約2週間の問,左側顎関節部に疹痛が認められたが,その後疹痛は認められなかった.
    2.Activity Indexに関して,義歯装着以前には咬筋に比べて側頭筋前腹の活動優位であったが,義歯装着後30週でほぼ同程度になった.
    3.Asymrnetry Indexに関して,義歯装着以前には左側に比べて右側の活動優位であったが,義歯装着後10週以降ほぼ左右対称な筋活動パターンを示すようになり,義歯装着後30週ではわずかに左側の活動優位となった.
    4.咀噛筋筋活動量は疹痛を訴えた期間に一致して一時的に減少したものの,疹痛の消退以降経時的に増加し,義歯装着後30週の時点で約1.5倍に達した.この内訳は咬筋,側頭筋前腹それぞれ約2倍,約1.3倍の増加であり,咬筋筋活動量の増加が大きかった.
    以上より,重度の骨格性discrepancyならびにoverclosureが残存する口唇裂口蓋裂患者に対する大幅かつ一気的な咬合挙上を伴う補綴治療は,患者の十分な適応反応が認められるとともに,筋電図による顎口腔機能の経時変化の分析・評価の重要性が示唆された.
  • 立石 千鶴, 三木 善樹, 天真 覚, 住谷 光治, 山本 照子
    1997 年 22 巻 4 号 p. 164-176
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    片側性完全口唇口蓋裂(UCLP)患者のうち,乳歯列期から早期矯正治療を行った症例の治療効果を形態学的に分析し,口唇口蓋裂症例の早期矯正治療に関する検討を行った.対象は,本学歯学部附属病院矯正科に来院したUCLP患者で,乳歯列期の反対咬合者のうち,乳歯列期から歯科矯正治療を開始したUCLP症例(+群)8名と,乳歯列期に歯科矯正治療を行っていないUCLP症例(-群)7名とした.両群とも,Hellmanの歯齢II C~III A期,平均年齢6歳(5~7歳)で,男女の側面頭部X線・規格写真と口腔模型を資料として分析し,以下のような結果を得た.
    1.上歯列弓の前方ならびに側方への拡大を行った結果,+群に上歯列弓長径および上下歯列弓幅径の有意な拡大とoverjetの有意な改善が認められた.また+群には,正中偏位および歯列の対称性に改善がみられた.
    2.側面頭部X線規格写真の分析において,有意な両群の差は認められなかったが,Ptm´-A´(FH),SNA,Angle of convexityは+群に改善傾向がみられた.
    3.側面頭部X線規格写真の軟組織の分析において,+群には上唇の陥凹感の改善傾向がみられた.
    乳歯列期からの矯正治療効果として,上顎骨,上下歯列弓および歯槽基底部や軟組織側貌に改善が認められたが,長期的な観点から早期治療の効果とその意義についての評価を下すためには,今後も継続して治療と観察を行う必要があると考えられる.
  • 北 浩樹, 幸地 省子, 三浦 幸雄, 三谷 英夫
    1997 年 22 巻 4 号 p. 177-183
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    片側口唇顎裂42症例の歯槽部骨欠損形態を,X線CTを用いて検討した結果,以下のような所見を得た.
    1.歯槽部骨欠損は,大きさ,形態ともに症例によって異なり,多様であった.しかし,ある特定の形態に集中して分布する傾向がみられた.
    2.水平面においては,歯槽頂部で前後的に同じ幅のものが,鼻腔側部では前後的に同じ幅のもの,ないしは前方の方が後方よりも広がっているものが多かった.
    3.前頭面においては,歯槽頂部,鼻腔側部ともに同程度の骨欠損幅のものが7割近くを占めた.
    また,水平面,前頭面での形態分類をもとに, A, B, C, D, (+), (//), (-)の記号列記による,簡便な歯槽部骨欠損形態の表記方法を呈示した.
  • 口蓋形成手術例と未手術例の比較
    若尾 二郎, 石川 博之, 安藤 葉介, 岩崎 弘志, 中村 進治, 工藤 元義, 福田 博, 山本 悠子
    1997 年 22 巻 4 号 p. 184-193
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    粘膜下口蓋裂は1825年にRouxにより初めて報告され,その後多くの研究により病態が明らかにされてきた.特に,構音障害の程度については多様なことから,症例によって口蓋形成手術の施行の有無および施行時期が異なる.従って,口蓋形成手術の顎顔面および歯列の成長発育に与える影響を評価する対象として有用な裂型と考えられる.本研究では北海道大学歯学部附属病院特殊歯科治療部口蓋裂外来を受診した粘膜下口蓋裂者11名(男子4名,女子7名)を選択し,これらの顎顔面形態および歯列弓形態について分析を行った.なお,手術例は6名で全て北海道大学歯学部附属病院口膣外科にて口蓋形成手術を施行されており,また手術の施行時期の範囲は1歳6カ月から4歳3カ月までであった.資料としてHellmanの歯齢III A(平均年齢8歳2カ月±8.3カ月)における側面頭部X線規格写真および歯列模型を用いて形態計測を行い,口蓋形成手術の顎顔面および歯列の成長発育に与える影響を検討した結果,以下の知見を得た.
    1)手術例では,口蓋形成手術の施行年齢によらず,上顎後方部の垂直的成長の抑制が認められた.
    2)未手術例では,上顎の成長は非裂健常者と差がないと考えられた.
    3)口蓋形成手術の施行年齢と上顎の前方成長の抑制ならびに上顎歯列弓前方部での側方成長の抑制との問には密接な関連があることが示唆された.
  • 柾 俊介, 松尾 清, 出口 敏雄
    1997 年 22 巻 4 号 p. 194-204
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    上顎の低形成,口膣鼻痩孔,顎裂部骨欠損および裂部粛牙離開を伴った成人の唇顎口蓋裂患者6人(片側5人・両側1人)に,顎裂閉鎖と上顎前方移動を同時に行うPosnickのLe Fort I上顎骨切り術を施行した.本手術法の一番の特徴は,顎裂部で2つのセグメントを接合させ,裂部の隣接歯牙を接触させるように上顎骨を移動させることである.全患者で骨切り移動によって生ずる骨裂隙,裂側鼻膣底あるいは顎裂部に腸骨海綿骨の移植が同時に行われた.上下顎の不均衡が著しい5人の患者には下顎矢状分割骨切り術が同時に行われた.
    口膣鼻痩孔はすべての患者で完全閉鎖できた.7顎裂中6顎裂で顎裂部に移植骨による十分な骨架橋ができた.裂部歯牙離開はすべての患者で外科的に閉鎖され,補綴処置を要したものは無かった.すべての患者で正の水平被蓋咬合を獲得でき,5人の患者で正の垂直被蓋を獲得できた.1人では同時骨切りした下顎枝の固定が十分できなかったため垂直被蓋が中間位となった.
    本手術法により,顎裂は狭くなり,裂部を被覆する粘膜骨膜弁にゆとりができるので,顎裂部移植骨の生着が安定し口膣鼻痩孔を確実に閉鎖できるものと考える.裂部での歯牙離開が手術により無くなるので,顎裂部に補綴処置をする必要がない.本手術を用いた治療法は,これら顎裂に起因する問題点と咬合,および顔面の審美的な問題点を一回の手術で解決することができ,患者の精神的,時間的,経済的負担を軽減する方法と考える.
  • 木村 正猿, 川麻 衣子
    1997 年 22 巻 4 号 p. 205-209
    発行日: 1997/10/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    Robinsequenceは小顎症を特徴とし,口蓋裂手術時には開口器の舌圧迫による浮腫で呼吸障害をきたす可能性が高い.このため顎が十分な大きさに発育してからの手術が望まれるが,この場合年長時まで口蓋裂を放置したための言語発達面の悪影響が心配される.このような相容れない条件の元での口蓋裂手術時期の決定に難渋することも多い.このためわれわれは以前の症例につき手術の可否や手術年齢,言語成績等を検討してみた.この結果順調に発育しているものに対しては,小児科・麻酔科との十分な術前検討の上一般の口蓋裂と同様の時期に手術を行なっても特に問題はないと思われた.
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