口唇口蓋裂をもって生まれた児をもつ母親は直接授乳が出来ないばかりか,哺乳びんを使用しても授乳が困難なことがある.その問題点を明らかにし,授乳を容易にすることを目的としてアンケート調査を行った.対象は当院に通院中の口唇口蓋裂児の母親200名である.14項目からなる質問紙に対し161名から有効な回答が得られた.アンケートを分析したところ,以下の結果が得られた.
1)出産後母子の対面の時期は出産当日が39%と最も多かったが,5日以上遅延した例も20%あった.しかし,近年出産当日の対面は増加傾向にあった.
2)産前の授乳指導は約64%の母親が受けていた.産後,乳房の手当てや哺乳びんに関する指導は70%,児の抱き方や姿勢の指導は50%の母親が受けていた.
3)ホッツ床等の人工口蓋床(以下ホッツ床等)の指導は16%の母親しか受けていなかった.ホッッ床等を使用した母親の70%は授乳が容易になったと答えた.
4)多くの母親が母乳での育児,それも直接授乳での授乳を望んでいたが,成功例は少なかった.多くは医療技術によって直接授乳が可能になることを希望していた.
5)実際の授乳方法は人工乳を哺乳びんでの授乳(40.5%)が最も多く,搾乳して哺乳びん(36.9%),直接授乳(9.4%),鼻腔栄養チューブ(7.8%),スプーン(5.2%)の順であった.母親は,乳児の姿勢や与え方,哺乳びんや乳首の工夫等,様々な工夫をこらしていた.
6)授乳に際して困ったことは:1.鼻や口からミルクがよくこぼれた2.授乳に時間がかった3.母親のストレスが多かった等があった.
7)授乳困難時の相談相手は59%の人があったとし,その相手は看護師が最も多かった.しかし約40%の人が相談相手さえなかった.哺乳びんや飲ませ方に関する情報は役立ったが,同じ状況の母親から実際の情報を得られれば良かったという声もあった.
口唇口蓋裂児をもつ母親が授乳に際して多くの困難を経験し,種々の工夫を行っていることが分かった.一方で医療関係者から得られる情報は限られており,口蓋裂治療に携わる者として,授乳にも積極的に関わる必要があると考えた.
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