鼻咽腔閉鎖機能を解明する目的で, 正常成人25名を対象に,X線TVを用いて発声,blowing,吸引,嚥下の各機能時における鼻咽腔部の運動を側面から透視観察し,さらにVTRでその動態を計測分析し,検討を加えた.
1.軟口蓋挙上度は嚥下が最大で,以下blowing ,発声の順であった.発声では高い方から子音,母音,通鼻音の順であり,5母音ではウが最も高く,以下イエオアの順であった.
2.鼻咽腔の開放は安静時,吸引時,通鼻音発声時の全例,ア発声時の4例,オの1例,アの5秒連続発声時の開始時5例,終了時11例に認めた.その距離は安静時,吸引時,通鼻音発声時,ア発声時のいずれの間でも有意差を認めた.
3.鼻咽腔閉鎖の垂直距離は,嚥下時には他の機能時に比べて有意に大きかった.
4.咽頭後壁の運動はy平坦型(20例)と丘状型(5例)に大別され,他にアトラス下部のくびれ(8例),中咽頭下部から下咽頭上部の垂直上昇運動(9例)を認めた.また,いわゆるPassavant隆起は認めなかった.
5.嚥下時の咽頭後壁の運動は他の機能時と比べ大きく,特に中,下咽頭部の運動が著明であった.
6.発声時の運動様式は,軟口蓋に上咽頭,中咽頭上部が相関する1型(13例),中咽頭上部が相関するII型(8例),上咽頭が相関する皿型(4例)に分類しえた.
7.blowingは発声とその様式は等しく,程度がやや大きい傾向であった.
8.吸引時には鼻咽腔は開放し,軟口蓋は舌と密に接触する.
9.嚥下時にはまず軟口蓋が挙上し,上咽頭部の後壁とで閉鎖が起こる.バリウムは舌と口蓋ではさまれて咽頭へ送り出される.その後,中咽頭では後壁と軟口蓋,さらに下方では舌も加わって密に閉鎖し,バリウムけ下咽頭へ流れる.
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