日本口蓋裂学会雑誌
Online ISSN : 2186-5701
Print ISSN : 0386-5185
ISSN-L : 0386-5185
3 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 森田 正人
    1978 年 3 巻 2 号 p. 1-15
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    正常な小児の口腔および鼻腔においては,それぞれ部位特有の常在微生物叢を有するが,口蓋裂児においては鼻腔と口腔が交通しているために相互に影響をうけるものと推定される.また,口蓋形成手術により口腔と鼻腔が遮断されることにより,微生物叢にも生態学的な変動を来たすと推察される.
    今回,当科を受診し,口蓋形成術を施行した完全口蓋裂児28名について鼻腔および口腔微生物叢に関して術前,術後にわたり経時的に追跡し生態学的検討をおこない,次の結果を得た.
    1)口蓋形成術前には鼻腔内の微生物叢は極めて口腔に近似していたが術後口腔と鼻腔が遮断されてからの検出率は通性嫌気性菌,偏性嫌気性菌が低下して,好気性菌優位となり,普通の鼻腔の微生物叢に近似する形に変化した.しかし生菌数の変動は全体的に見て大きくなかった.
    2)口蓋形成術前の口腔内微生物叢は正常な口腔の状態に近似しているが,術後は一層正常幼児の口腔状態に近似する形となった.しかし,生菌数は全体的に見て大きな変動はなかった.
    3)鼻腔も口腔も,術前術後を通じて常にStreptococcusの菌数が最も多く,Staph aureusの菌数が最も少なく,手術前後の感染防止に対して参考とすべきである.
  • 深井 仁子, 村山 紀子, 上田 昇, 大橋 靖
    1978 年 3 巻 2 号 p. 16-30
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    鼻咽腔閉鎖機能を解明する目的で, 正常成人25名を対象に,X線TVを用いて発声,blowing,吸引,嚥下の各機能時における鼻咽腔部の運動を側面から透視観察し,さらにVTRでその動態を計測分析し,検討を加えた.
    1.軟口蓋挙上度は嚥下が最大で,以下blowing ,発声の順であった.発声では高い方から子音,母音,通鼻音の順であり,5母音ではウが最も高く,以下イエオアの順であった.
    2.鼻咽腔の開放は安静時,吸引時,通鼻音発声時の全例,ア発声時の4例,オの1例,アの5秒連続発声時の開始時5例,終了時11例に認めた.その距離は安静時,吸引時,通鼻音発声時,ア発声時のいずれの間でも有意差を認めた.
    3.鼻咽腔閉鎖の垂直距離は,嚥下時には他の機能時に比べて有意に大きかった.
    4.咽頭後壁の運動はy平坦型(20例)と丘状型(5例)に大別され,他にアトラス下部のくびれ(8例),中咽頭下部から下咽頭上部の垂直上昇運動(9例)を認めた.また,いわゆるPassavant隆起は認めなかった.
    5.嚥下時の咽頭後壁の運動は他の機能時と比べ大きく,特に中,下咽頭部の運動が著明であった.
    6.発声時の運動様式は,軟口蓋に上咽頭,中咽頭上部が相関する1型(13例),中咽頭上部が相関するII型(8例),上咽頭が相関する皿型(4例)に分類しえた.
    7.blowingは発声とその様式は等しく,程度がやや大きい傾向であった.
    8.吸引時には鼻咽腔は開放し,軟口蓋は舌と密に接触する.
    9.嚥下時にはまず軟口蓋が挙上し,上咽頭部の後壁とで閉鎖が起こる.バリウムは舌と口蓋ではさまれて咽頭へ送り出される.その後,中咽頭では後壁と軟口蓋,さらに下方では舌も加わって密に閉鎖し,バリウムけ下咽頭へ流れる.
  • 柴崎 好伸, 大塚 純正, 服部 基一, 糖塚 重徳
    1978 年 3 巻 2 号 p. 31-43
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    ヒトの顎顔面蓋の形態は遺伝に強く支配を受け,さらに環境に修飾されて決定する.CL(P)(口唇裂で口蓋裂を伴うものと伴わないものを含む)の形質も不顕性から完全性に至る幅の広い変異が存在し,その発現は極めて多くの遺伝的および環境的因子の相互作用にあると言われている.
    一方CL(P)は家族集積性が強く,とりわけ両親では,最もCL(P)の伝幡力が高いと推定されるが,臨床的に診断不可能な程度の不全型のみを含んだ両親の顔面形態が,CLPの既手術者,口唇手術あるいは未手術者のそれと,どのような関係をもつのか,性差があるか否か,発端者の性別による父親間,母親間に差があるか否か未だに解明されていない.
    そこで本研究では,CLPの男児および女児それぞれ30名を発端者とし,その両親118名を被検者として,成人非裂者男女おのおの30名と,側貌頭部X線規格写真を用いて,頭蓋基底,上顎,下顎,上下顎関係などの分析を行い次の結果を得た.
    1)頭蓋基底各部は非裂者と実測長において差はないが,基底角は開大を示した.
    2)上顎骨体長および高さには多少短小傾向があったが,上顎骨前縁部の頭蓋基底に対する位置関係は比較的良好であった.
    3)下顎各部はや, 小さく,下顎角,下顎下縁の開大を示した.
    4)父親母親とも質的に近似の変異を示したが,量的には父親に,より大きな変異を示した.
    5)唇顎口蓋裂児(発端者)の性別による父親間,あるいは母親間には形態による差異はなかった.
  • 鈴木 あつ子, 青木 光夫, 石橋 まさ子, 西山 勝也, 松本 茂二, 鈴木 長明, 久保田 康耶
    1978 年 3 巻 2 号 p. 44-49
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    東京医科歯科大学歯学部附属病院における口腔外科のための全身麻酔のほとんどが,口唇,口蓋形成のための小児麻酔である.そこで我々は,本学歯科病院における1972年から1976年までの5年間の口唇,口蓋形成術のための全身麻酔に関して,統計的観察を行なった.
    口唇,口蓋形成術を受けた6才未満の患者を対象とした.本院におけるこの5年間の全身麻酔症例の総数は2,925例であり,そのうち1,338例(46%)が口唇,口蓋形成術の占める割合で,このうち693例(52%)が口唇形成術,645例(48%)が口蓋形成術であった.これらの症例のうち,その大半はGOF麻酔であり,笑気,酸素に非脱分極性筋弛緩剤を併用したいわゆるJackson-Rees法が次に多かった.ペントレンは,腎毒性の問題から本院でも1974年以降使用されていない.
    口唇,口蓋形成術の術中,術後の合併症をみると,そのほとんどは呼吸器系合併症である.術後は,術中よりも多くみられ,手術侵襲が大きく,麻酔時間も長くなる口蓋形成術に多く見られた.術前の手術危険度が高いもの程,術後合併症が多く起こった.消化器系合併症は口蓋形成術に嘔吐が多く見られ,これは血液嚥下によるものと思われる.これらの合併症を麻酔科医の経験年数からみると,経験の乏しい者に術後合併症が多くみられたが,経験豊富な麻酔科医でも術後合併症は皆無ではなかった.出血量にっいては麻酔法にはとくに差異は見られなかったが,循環器系のコントロールが行ないやすいGOF麻酔ではやや少ない傾向にあった.
  • 本田 光徳
    1978 年 3 巻 2 号 p. 50-59
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    大阪労災病院口腔外科において初回手術を行なった唇・顎・口蓋裂患者367名の356家系について臨床統計的観察を行なった.
    本院産科における本症の出生頻度は0.23%,1:425であった.
    本症の性比は殆んど差はないが,口唇裂および唇顎口蓋裂は男性が,口蓋裂単独では女性が優り,左右差では左側が優位であった.
    母親の出産時の年令は30才までが81.7%を占め,31才以上18.3%で,そのうち13例が36才以上の出産であった.
    両親の年令差では,2才差,1才差,3才差,4才差の順で,特に意義はなかった.出生順位も第1子と第2子に集っていたが,第3子以降は減少している.
    先天異常の合併は21.0%みられたが,Pierre-Robin syndrome,strabismusが多く合併していた.口蓋裂単独では36.4%という高い頻度の合併であった.近親婚は1.4%で,一般集団よりも低率であった.
    家族的発現は356家系中,38家系の10.7%にみられたが,いとこと,父親か母親のいずれかの片親罹患が9家系あった.口唇裂にて,両親と同胞,片親と同胞とおじ,いとことおじに発現した家系があった.
    同胞再現率は両親正常な場合は,口唇裂0.6%,唇顎口蓋裂3.4%,口蓋裂2.5%,の再現がみられた. 376同胞中,8症例21.3%の同胞再現になる.
    片親罹患の場合(父親罹患2家系,母親罹患7家系)に1家系(母親,おじ,姉罹患)において再現(弟)がみられたが,このような発現はわが国では報告がない.
    両親罹患の家系は,報告もみあたらないが,さらに同胞に全て再現した稀有な家系で,母親は左側不完全口唇裂であるが,父親と同胞(姉,弟,妹)は全て両側性口唇顎裂であった.双生児は6組あったが,全て不一致であった.
  • 待田 順治, 山岡 稔, 小松 正隆, 山本 一郎, 梅津 彰, 伊吹 薫, 浦出 雅裕, 西尾 順太郎, 久枝 健二
    1978 年 3 巻 2 号 p. 60-88
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    松本歯科大学口腔外科学第2教室では,昭和49年4月の講座開設以来,昭和53年3月までの4年間に総計57裂の口唇裂口蓋裂患者を経験した.我々は本疾患を,出生期より成年期に至るまでの一貫した治療システム,即ちteam approachとして取り扱うべく努力している.本報告はそれらの症例の裂型分類,本院における治療概要を総括し,併わせて実施したアンケート調査の回答をまとめ供覧したものである.
  • 福田 登美子, 後藤 友信, 溝川 信子, 和田 健, 松矢 篤三, 西尾 順太郎, 伊吹 薫, 元村 太一郎, 宮崎 正
    1978 年 3 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    成人口蓋裂未手術患者の異常構音に対し効果的な言語治療をするための諸因子を明確にするために,術前の構音状態,鼻咽腔閉鎖形態及び術後の吹き出しやうがいについて調査し検討した.
    16例の成人口蓋裂未手術者に対し咽頭弁形成術が施行され,その56%は1年-1年半の言語治療で正常構音を習得した.
    実験結果から以下の因子の重要性が指摘された.即ち, (1)声門破裂音や咽頭摩擦音が術前に存在しなかった患者は,術後正常な構音を習得することがわかった. (2)術前構音時にみられる鼻咽腔閉鎖形態がどの音に対しても同一であった患者は術後正常構音を習得した. (3)術後6ケ月以内に吹き出しやうがいが獲得された患者では, 1年-1年半後の判定で正常構音を習得することが明らかになった.これらの結果は次のことを示している.即ち,a.鼻腔漏出をせずに口腔内の呼気の調節をうまくControlする能力をみちびき出すこと,b.うがいを術後可及的早期に獲得させることなどが術後正常構音をえるためのより重要な因子である.
  • 渡辺 幸, 各務 和宏, 寺島 良治, 柘植 佑好, 山田 史郎, 高井 克悪, 冨田 陽二, 深谷 昌彦, 永井 巌, 阿部 本晴, 池畑 ...
    1978 年 3 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    開放性鼻声に対する音声言語学的研究は,共鳴周波数および音声の強さ,高さなど多面的に考えられなければならない.私達はそれらについて各研究を重ねて来たが,今回は音声の高さ(基本周波数)にっいて検討した. 最近10年間に当科を訪れた口蓋裂患者の中から無差別に選んだ4才から9才までの953症例および4才から6才の正常者56名を検査対象(被験者)とし,孤立的に発声された検査母音/a/および/i/についてsound spectrographによる周波数分析を行ない,その基本周波数を測定したところ,母音/a/および/i/共に開放性鼻声の程度と基本周波数との関係は認められなかった.
    しかし,開放性鼻声を有する患者の基本周波数と正常者の基本周波数との関係は,母音/a/においては存在しないが母音/i/についてのみ多少の差がみられた.
  • 渡辺 哲章, 高口 秀夫, 香月 武, 大槻 寿朗, 田代 英雄
    1978 年 3 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    昭和28年1月より昭和53年2月までに当科を受診した先天性下唇痩は19例で,性別は男性11例,女性8例であった.19例中15例(78.9%)に口唇裂,口蓋裂の合併がみられ,過去の報告例と同様に高い率を示し, 本症と裂奇形の密接な関係が考えられた.同期間に当科に入院した口唇裂,口蓋裂患者は4108名で,そのうち12名が下唇痩を伴なっていたので,口唇裂,口蓋裂に下唇痩の合併する頻度は約0.30aであった.治療法として, 一般に痩を全摘出する方法が多く用いられている.著者らも,4例に痩孔周囲粘膜に紡錘状切開を加え,他2例に痩管の上方の粘膜に切開を加えることによって,唾液腺を含めた痩の全摘出を行ない,良好な結果を得た.
  • 元村 太一郎, 三村 保, 後藤 友信, 伊吹 薫, 浜村 康司, 福田 登美子, 宮崎 正
    1978 年 3 巻 2 号 p. 90-95
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    正常発音機構が確立された成人が突如,鼻咽腔閉鎖不全を与儀なくされた場合,一度獲得された調音機構にどの様な変化を来たし,言語発音が如何なる変遷をみるかは,まだ不明な点が多い.この点を究明することは,口蓋裂患者の言語改善機序を知る上で何らかの指針を与えるものと考えられる.今回,私達は, 片側軟口蓋切除によって,高度な言語障害を来たした2例に,術前より術後スピーチエイド装着に至るまでの鼻咽腔閉鎖機能及び言語の状態を,流体力学的検査,口蓋帆挙筋の筋電図検査, 発語明瞭度検査,鼻咽腔ファイバースコープによって観察し,年長者におけるその適応状態を検討した.
    その結果
    1.軟口蓋切除により,2例とも当初より,開鼻声を主とした言語障害を呈し,口蓋裂言語障害に酷似した症状を呈した.
    2.術後の軟口蓋筋の筋電図学的活動量は,発音時に比し,吹き出し時, 嚥下時に著明な増強を認めた.
    3.スピーチエイド装着により鼻咽腔閉鎖機能が改善されると,速やかに構音運動も正常化された.これらのことから,正常人においても絶対的鼻咽腔閉鎖不全の状態になると,口蓋裂患者と酷似した発音となり, 軟口蓋筋活動においては,嚥下時や吹き出し時に比し,発音時には,短期間に著明な変化を来たさないことが示唆された.このことは口蓋裂患者においても,短期間に発音時の鼻咽腔閉鎖運動の様式を変えることは容易でないことを示唆していると考えられた.
  • 加藤 仁市, 石岡 靖, 花田 晃治, 両川 弘道, 福原 達郎
    1978 年 3 巻 2 号 p. 96-100
    発行日: 1978/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂患者の治療のためにteam approachの必要性が指摘され,かなりの機関や人々によって実際に進められつつある. ところが,永久歯列の完成につれて著しい咬合の異常を有する患者が依然として多い.それゆえ,形成手術, 言語治療, 口腔衛生管理,矯正治療,補綴治療をはじめとした長期治療計画のためのteam approachが進められなければならないことは勿論であるが,一方永久歯列完成期における術後の咬合異常についても,それぞれの患者に相応しい治療を行いうる体制がteam approachの中で早急に確立されなければならないのが現状である. その一つの試みとして,新潟大学歯学部附属病院において矯正治療と補綴治療を関連して行なった症例を報告した0
feedback
Top