日本口蓋裂学会雑誌
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38 巻, 1 号
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シンポジウムI
  • 前川 圭子, 岩城 忍, 澤田 正樹, 山本 一郎
    2013 年 38 巻 1 号 p. 2-6
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    口唇口蓋裂治療でチーム医療を行う場合,同一施設所属のメンバーを中心に構成されることが多いが,高い専門性を要するが故に,同一施設内に専門家がいるとは限らない。今回は我々が行っている多施設連携型のチーム医療としての取り組みである,カンファランスと医療キャンプについて報告する。
    カンファランスは,複数施設の形成外科医,歯科医,言語聴覚士が一堂に会し,治療に難渋する患者を診察し,治療方針を決める会で,年に3回開催される。患者への問診,内視鏡,セファロX-Pなどを用いて診察後,治療法決定のための議論を行う。各職種の意見を集約して迅速に治療方針を決定でき,治療者同士の情報の正確な共有が可能になる。また若手や症例の少ない施設のスタッフも,検査所見解釈や治療方針立案などを学ぶ機会になる。
    医療キャンプは全人的な口唇口蓋裂治療を目指した取り組みで,年に1回開催される。スタッフにとって,患者のコミュニケーション能力や生活能力などを多面的に観察できる機会となっている。さらに患者・家族同士の交流は,疾患や治療に理解を深める機会となり,心理的安定の一助となっている。
  • 杠 俊介, 藤田 研也, 近藤 昭二, 松尾 清, 野口 昌彦, 山田 一尋, 倉田 和之, 内田 春生, 水野 均, 小幡 明彦, 砂原 ...
    2013 年 38 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    【目的】医療圏の面積が広く,居住地域が散在する長野県近隣では,多施設間連携を強くすることで口唇口蓋裂のチーム医療を展開してきた。われわれの取り組みの推移と課題について報告する。
    【方法】圏内のすべての患者が1時間以内で通院できるように,長野県の4地域(北,東,中,南)と山梨県の1地域に,入院手術を行う基幹施設を置き,1~2ヶ月に1回専門外来を開設。言語聴覚士,矯正歯科医,耳鼻科医による通院治療は各地域の医療施設にて行った。各専門家同士を結び付ける手段と場として以下の取り組みを行った。1998年,圏内の各分野の専門家が集う学会形式の研究会を発足し同時にメーリングリストを作成した。2003年,多施設共通の診療連絡手帳と情報公開のためのホームページを作成。大学間合同カンファレンスを3から5ヶ月に1回行った。
    【結果】本チームによる総診療患者は1067名。学会形式の研究会は2006年まで毎年行われた後,一時期休会し2012年に簡単な講演会交流会形式で再開した。メーリングリストは会員の異動に伴う更新が困難で限定的に使用された。診療手帳は継続した。ホームページは主に患者家族への教育に用いられた。各専門家同士を結び付ける様々な取り組みを10数年継続することで,地域に密着した専門家との間には相互理解と共通見解を作り出すことができた。
    【考察】多施設間チーム医療には,連携を強くするためのネットワークを整えることが重要である。従来の形式的な診療情報提供書に加えて,手帳,電話,メール,カンファレンス,研究会,ホームページなどあらゆる情報交換手段を用いるべきであるが,手間のかかる方法を維持するには困難も伴う。一時的でも集中的に情報交換と交流を図ることができ,専門家同士の信頼関係を築くことができれば,その後の情報交換は簡略化でき,円滑なチーム医療が実践できる。異動の多い専門家との簡単な連携の維持が今後の課題である。
  • ―特に島嶼県における治療連携について―
    新垣 敬一, 天願 俊泉, 砂川 元
    2013 年 38 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    当科は,2007年から口唇口蓋裂センターを設立し,当院全体で総合的に沖縄県における一貫治療施設としての役割を担っている。しかし,充実した診療体系を実施するには,当院が立地する沖縄本島内では実施可能であるが,離島地区においては手術やその後のフォローアップ体制が問題となってくる。そこで今回,当院の一貫治療を報告するとともに,離島地区,特に八重山地区との医療連携の問題点を具体化し,島嶼県の責務を考慮した一貫治療・連携について調査し,以下の結論を得た。
    離島地区においての経済的・精神的負担の軽減と一貫治療を充実させる方策としては,患者と家族を支える総合病院,口腔外科専門歯科医,一般歯科専門歯科医,親の会,支援団体そしてこれらを支える口唇口蓋裂センターとの連携が不可欠であることが判った。さらにデジタル通信ネットを活用した遠隔医療の構築を急ぐ必要があり,これらの仕組みが全て揃うことが離島地区における一貫治療の充実を生み,成功への鍵になるものと考えられた。
  • 益岡 弘, 河合 勝也, 三河内 章子, 竹内 真理子, 家森 正志, 別所 和久, 堀江 理恵, 岸本 正雄, 山本 一郎, 野瀬 謙介, ...
    2013 年 38 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    京都大学医学部附属病院では口唇裂口蓋裂診療チームを構成し,形成外科,歯科口腔外科,言語聴覚士,心理療法士,矯正歯科,耳鼻咽喉科,小児科,歯科衛生士,看護師,栄養士など多くの部署が関与して診療にあたっている。患者は近畿圏を始めとして北陸,中四国を含めた広い地域から集まり,新患者数は年間約70人,手術件数は年間120件に及ぶ。豊富な診療データに基づく的確な診断・治療指針と充実した診療体制の元,生活環境や心理的側面など患者の多様なニーズに合わせた利便性の高い診療を行うよう心がけている。
    我々のチームの概要を述べるとともに,片側唇顎口蓋裂患者を例にして診療の全体的な流れを提示し,チーム医療体制の確立のための様々な取り組みについて詳細を述べる。
  • ―チーム医療でのコーディネーターの役割―
    今村 基尊, 近藤 俊, 吉村 陽子, 奥本 隆行, 水谷 英樹, 佐藤 公治, 相澤 貴子, 小林 義和, 内藤 健晴, 堀部 晴司, 川 ...
    2013 年 38 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    藤田保健衛生大学病院では,1992年口唇口蓋裂センターを立ち上げ,口唇口蓋裂をはじめとする顎・顔面領域の先天異常の治療にあたってきた。
    口唇口蓋裂の治療では,種々の知識・技術が,長期間にわたり必要である。このような疾患のチーム医療では,そのチームの体制,さらにそのチームをどのように運営して行くかが重要である。その運営方式には,(a)リレー方式,(b)コンダクター方式,(c)コーディネーター方式,(d)アッセンブリー方式,などが考えられる。
    藤田保健衛生大学病院口唇口蓋裂センターでは,(c)コーディネーター方式で運営している。現在我々のセンターでは,1500人以上の口唇口蓋裂患者を治療してきた。今後も,より的確かつ効率的なチーム医療の在り方を模索する必要があると考えている。
  • 今井 啓道, 館 正弘, 佐藤 顕光, 今川 千絵子, 五十嵐 薫, 中條 哲, 徳川 宜靖, 横山 奈加子, 幸地 省子
    2013 年 38 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    唇顎口蓋裂の治療には,医科・歯科,メディカル・パラメディカルの垣根を越えた多くの専門家の結集が必要です。東北大学病院においても,形成外科と歯科・顎口腔機能治療部による医科と歯科の連携を徐々に構築し治療成績の向上をはかってきました。しかし,医学部附属病院と歯学部附属病院が道を挟んで別々であったことから,患者の動線はけっして良いものではありませんでした。また,耳鼻咽喉科や言語聴覚士との連携はグループ診療の域を超えず,治療成績の評価と治療法の改善を十分に行い得てはいませんでした。2009年の東北大学医学部附属病院と歯学部附属病院の統合による新外来棟の設置を機に,これまでの問題を解決するためにセンター化を計画し2010年に東北大学病院唇顎口蓋裂センターを発足しました。本センターでは専用の外来ブースを設置することはあえてしませんでした。代わりに形成外科,歯科・顎口腔機能治療部,歯科・言語療法室,小児科を同一フロアに集約して,患者の動線を単純化するとともに,各科の担当医が診療中に行き来することが可能な配置としました。また,耳鼻咽喉科には専任の担当医を配置し,口蓋裂滲出性中耳炎専門外来を他科と同一曜日に設置しました。センターを運用して1年半が経過しましたが,この外来形態により緊密な連携が実感され,患者の負担も軽減されています。
    一方,チーム医療を実現するためには,診療科間での信頼関係に基づく相互評価と情報の共有が必要です。そのため,カンファランスを充実させ定期的に治療成績を集計報告する体制を取るとともに,イントラネットを利用した治療情報の共有化を積極的に行っています。
    将来的には医科と歯科との連携を基礎研究まで含めた包括的連携に発展させるとともに,多施設間とも人材交流や情報の共有化を通じてチーム医療を構築できればと考えています。
シンポジウムII
  • 西尾 順太郎, 平野 吉子, 峪 道代, 並川 麻理, 山西 整, 小原 浩
    2013 年 38 巻 1 号 p. 42-53
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    【目的】口唇口蓋裂に対する口蓋裂手術の至適時期や術式に関して,今なお多くの議論がある。音声言語機能と顎発育の両面を充足する治療法として,早期二期的口蓋裂手術プロトコールが最近注目を浴びている。本研究では早期二期法適用例における顎発育や言語成績がpush back法適用例のそれらより優れているか否かについて検討した。
    【方法】非症候性口唇口蓋裂患者77人が研究対象である。一つは生後12ヶ月時のFurlow法による軟口蓋閉鎖と,18ヶ月時の硬口蓋閉鎖からなるETS群と生後12ヶ月時のpush back法による一期的口蓋裂手術を受けたPB群に大別された。上下顎石膏模型分析,セファロ分析および言語評価が4歳時,8歳時に行われた。
    【結果】4歳時における上顎歯列弓の前後径および幅径はETS群ではPB群に比して有意に大であった。5-Year-Old Indexを用いた咬合評価では,ETS群では48.2%が咬合良好と評価されたのに対し,PB群では8.0%が咬合良好と評価されたに過ぎなかった。セファロ分析ではETS群およびPB群とも,non-cleft群に比して,上下顎とも前頭蓋底に対して後方位にあった。ETS群ではPB群に比して,上顎前後径が有意に大であり,口蓋平面がより急峻であり,下顎骨体長が短く,かつ,良好な上下顎関係を示すことが明らかとなった。言語面に関しては,鼻咽腔閉鎖不全や構音異常の頻度に両群間に差はみられなかった。
    【結論】早期二期法は言語機能を損なうことなく,良好な上下顎関係をもたらすプロトコールであることが示された。
  • 須佐美 隆史, 大久保 和美, 井口 隆人, 岡安 麻里, 内野 夏子, 上床 喜和子, 高橋 直子, 髙戸 毅
    2013 年 38 巻 1 号 p. 54-61
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    この20年間に口唇裂・口蓋裂患者に対する顎裂部への骨移植術や上顎骨延長を含めた顎矯正手術の結果が安定してきた。一方,予知性が高く,効率的な治療が世界的に強く求められるようになっている。東大病院における矯正歯科治療も,かつては上顎を拡大し治療後に補綴処置を行うことを考えたが,現在は上顎を出来るだけ拡大せず,最小限の補綴処置で治療を終了することを目標としている。術前顎矯正治療にはnasoalveolar molding plate (NAM)を用い,顎裂部への骨移植は乳歯列後期に行うことが多い。矯正歯科治療は原則として混合歯列前期に開始し,リンガルアーチとセクショナルアーチを基本装置とする。上顎前方牽引もしばしば行うが,その長期効果は予測困難なことに注意を要する。永久歯列期ではマルチブラケット装置を用い上顎第二大臼歯を含めた治療を行う。上下顎関係の著しく悪い症例では顎矯正手術が必須であるが,境界症例でも手術を推奨する。口蓋裂を伴う症例では側切歯や小臼歯の抜歯が必要なことが多く,犬歯の近心移動により顎裂部の空隙を閉鎖する症例が多い。一方,唇顎裂では必要に応じ歯冠修復を行い側切歯を配列することが多くなっている。保定は上顎前歯舌側のワイヤー固定と床装置を用いて行い,可能な限り長期間行う。顎裂部に空隙の残存する症例では,近年接着ブリッジを多用している。こうした治療の多くは,初回手術の改善により口蓋形態や上下顎関係が改善すれば不要となる可能性が大きく,変化が期待される。
  • 國吉 京子, 山本 一郎, 楠本 健司
    2013 年 38 巻 1 号 p. 62-70
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    筆者は言語聴覚士(以下ST)として口蓋裂診療に参加し,1)チーム医療の一員,2)STの立場における鼻咽腔閉鎖機能の正確な診断と治療技術の向上,3)構音指導法の研究,の3点にこだわってきた。今回は口蓋裂言語(Cleft Palate Speech)にたいするSTとしてのこだわりを以下のように報告した。
    (1)われわれは,口蓋裂例の正常構音習得時期を研究してきた。正常構音習得に必須の良好な鼻咽腔閉鎖機能とは,無声破裂子音の構音に必要な口腔内圧を上昇し得る能力で,われわれは,一般の幼児も習得の早い無声破裂子音[p]の構音時期を調べた。その結果は,唇裂口蓋裂例が幼児期初期の良好な構音発達能力,すなわち口腔内圧を上昇し得る能力の習得に術後1年から1年6ヶ月を要し,[p]の構音は習得の指標となることを示唆している。従って構音指導が必要な場合,この能力の習得を評価し,その後は正常な構音発達の順序に即した指導を基礎におく。
    (2)当院の鼻咽腔閉鎖機能不全に対する治療プログラムを,構音時側方頭部X線規格撮影検査(以下セファロ検査)を中心に紹介した。検査結果を計測し鼻咽腔の形態比と軟口蓋の運動性の結果をもとに閉鎖機能とことばを総合的に評価,診断し,医師が治療方針を決める。鼻咽腔の形態比1.1以下は手術適応となる。
    (3)セファロ検査の結果軟口蓋の運動性が悪い例は構音指導を試み,定期的に指導効果を検査で評価する。STとして指導法にこだわり,(1)軟口蓋挙上装置(PLP)を装用した指導,(2)音声障害の治療法をきっかけとしたチューブ法を用いた指導,を紹介した。
原著
  • 佐藤 公治, 相澤 貴子, 小林 義和, 近藤 俊, 今村 基尊, 水谷 英樹, 奥本 隆行, 吉村 陽子, 堀部 晴司, 内藤 健晴, 山 ...
    2013 年 38 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    Pierre Robin sequence(PRS)は小下顎,舌根沈下,上気道閉塞による呼吸障害を主要症状とする病態で,口蓋裂を合併することが多い。出生直後から呼吸,摂食管理を必要とし,周術期管理,言語,摂食嚥下訓練などに苦慮することがある。今回,2006~2010年に当センターを初診したPRS1次症例26例に対し,症候群合併の有無から,non syndromic(ns)PRS,syndromic(s)PRS,さらに症候群不明の多発先天異常を伴うunique(u)PRSの3群に分類し,後方視的検討を行ない以下の結果を得た。
    1.26例中男児10例,女児16例,ns PRS 14例,s PRS 10例,u PRS 2例であった。
    2.初診時日齢は1~291日,出生時体重は,ns PRS 2,932±447g,s PRS 2,850±571g,u PRS 1,607±804g,ns PRSとs PRS間に有意差はなかった。
    3.必要とした呼吸,摂食管理として,I期(新生児~6ヶ月)には,ns PRSで気管挿管を要したもの1例,経管栄養を要したもの10例,s PRSで気管切開を要したもの3例,経管栄養を要したもの8例,u PRSで気管挿管を要したもの1例,経管栄養を要したもの1例であった。II期(手術検討期;1歳~1歳6ヶ月)には,ns PRSでは呼吸・摂食とも管理不要となった。s PRSでは3例が気管切開のまま,6例で経管栄養が継続されていた。u PRSではいずれも管理不要であった。
    4.ns PRSでは月齢24.9±7.0ヶ月に全例口蓋形成術が施行された。u PRSでも月齢40.5±4.9ヶ月に2例とも口蓋形成術が施行された。一方,s PRSでは手術不要1例,施行1例,予定2例で,6例では手術未施行であった。周術期合併症としてns PRS 1例で術後出血を認めた。
  • ―構音正発率と構音点の後方化による評価―
    緒方 祐子, 手塚 征宏, 今村 亜子, 新中須 真奈, 松永 和秀, 西原 一秀, 中村 典史
    2013 年 38 巻 1 号 p. 77-85
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    口唇裂・口蓋裂の言語評価において,構音障害の重症度は判定する評価方法が少ない。そこで,構音障害の重症度を判定するため,構音検査での構音正発率算定と構音点に着目したbacking scoreの評点化を試みた。
    1.口蓋裂術後の構音障害の評価での構音正発率の算定
    口蓋形成術後の口唇裂・口蓋裂患者67例を対象に,構音検査法での単語検査での構音正発率を算定し,構音障害の種類や会話明瞭度との関連を検討した。構音障害と構音正発率をみると,いわゆる口蓋化構音と声門破裂音は,有意に他の構音障害と比して,低い結果であった(p < 0.01,0.05)。会話明瞭度では,「よくわかる」の1°は有意に構音正発率が高い結果であった(p < 0.01)。
    2.構音点のbacking scoreによる評価
    構音点が後方化する口唇裂・口蓋裂患者13例を対象に,構音点がどの程度,後退しているか数値化するbacking scoreの評価表を考案し,聴覚判定に基づく構音点の後方化の程度の評価を試みた。[s],[t],[ts]および[ɕ]産生時の聴覚判定が評価された。次に,正常構音と構音異常の構音点のズレをbacking sore(0~12点)とした。その結果,声門破裂音や軟口蓋化構音などはbacking scoreが大きく,本来の構音点より後方化がみられた。構音正発率とbacking scoreの関連をみると,backing scoreが大きいほど構音正発率が低下していた。構音正発率とbacking scoreは相関していた(r= -0.8)。
    以上のことから,共鳴の異常ではなく,構音点の同定が可能である構音障害であれば,構音正発率とbacking scoreで評点化することにより,構音訓練の効果を知ることが可能であることが判明した。それらは構音の重症度や明瞭度の客観的指標として有効なフィードバックとなるのではないかと考えられた。
  • 藤田 研也, 杠 俊介, 大坪 美穂, 栁澤 大輔, 戸澤 ゆき, 大畑 えりか, 高清水 一慶, 松尾 清
    2013 年 38 巻 1 号 p. 86-89
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル 認証あり
    【目的】口蓋裂手術後の哺乳瓶使用は口蓋裂手術創を圧迫し,創離開を生じる危険性があるため,哺乳瓶使用は制限されることが多く,術後経管栄養を推奨する報告も多い。今回我々は先端の短い形状の飲み口である「シリコンマルチキャップペットボトル用Kiss®2」(ICIデザイン研究所)(以下Kiss2)を口蓋裂術後の経口哺乳に利用した。
    【対象と方法】口蓋裂術後の1歳児12人を対象とした。内訳は口蓋裂単独(ICP)6例,片側唇顎口蓋裂(UCLP)5例,両側唇顎口蓋裂(BCLP)1例であった。口蓋裂形成手術翌日よりKiss2,あるいはスプーン,コップによる哺乳を許可した。
    【結果】12例中5例では手術翌日よりKiss2による哺乳が可能であった。他の7例については,Kiss2よりもスプーン,コップでの哺乳を好んだ。Kiss2が利用できなかったのは術前に十分な練習ができなかった症例であった。Kiss2使用の成否は,術後の口蓋瘻孔発生,補液必要日数,入院期間に影響を与えなかった。
    【考察】口蓋裂手術の縫合創は,哺乳の際に口蓋裂用乳首でちょうど圧迫される位置にある。Kiss2は先端が短い形状であるため,縫合部を直接圧迫しない。口唇で押す力の加減で,出る水分の量を微調整できるため,吸啜力の弱い口蓋裂児でも術前から哺乳が可能であった。使用には若干の慣れが必要であり,術前の練習が必要である。ただし,術後管理としての哺乳制限の必要性については,検討の余地がある。
  • 北野 市子, 鈴木 藍, 朴 修三, 加藤 光剛
    2013 年 38 巻 1 号 p. 90-96
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    【目的】有声blowing(以下VB)時の呼気鼻漏出の有無を確認する事が鼻咽腔閉鎖機能(VPF)の判定に有用であるかどうか検討した。
    【対象】平成22年12月から平成24年6月までに口蓋裂術後評価を実施した212名(男98名,女114名)を対象とした。評価時年齢は平均10±4歳で,知的障害,22q11.2欠失症候群,難聴,瘻孔残存例は除外した。これらに対し,1回ないし複数回の評価を行い,全データは363例であった。評価法は日本コミュニケーション障害学会口蓋裂言語検査法に準じ,併せてVB時の呼気鼻漏出を「なし」か「あり」で判定した。
    【結果】(1) blowingおよびVBに呼気鼻漏出が認められなかったのは363例中250例で,VPFの総合判定は良好207例,ごく軽度不全38例,軽度不全5例であった。
    (2) blowing時に呼気鼻漏出がみられず,VBに鼻漏出が認められたのは54例で,VPFは良好19例,ごく軽度不全28例,軽度不全7例であった。(1)と(2)におけるVPF判定結果の相違についてχ二乗検定し,有意差を認めた。
    (3) blowing時に呼気鼻漏出があり,VB時に認められなかったものは4例で,全例ごく軽度不全であった。
    (4) blowing時にもVB時にも両方に呼気鼻漏出が認められたものは55例で,VPFの総合判定は良好例なし,ごく軽度不全40例,軽度不全9例,不全6例であった。
    (5) 経年的な変化が把握できた111名の中には,VB 時の呼気鼻漏出が,その後のVPF悪化の予兆となっている例もみられた。
    【考察】VBはより語音産生に近いと思われ,その呼気鼻漏出を確認することは,blowing時に呼気鼻漏出が認められない症例のVPF判定を補完する有用性があると思われた。さらにVPFが良好と思われてもVBで鼻漏出が認められる場合は悪化する兆候である可能性が示唆された。
  • 新垣 敬一, 天願 俊泉, 牧志 祥子, 仲間 錠嗣, 後藤 尊広, 仁村 文和, 幸地 真人, 比嘉 努, 狩野 岳史, 砂川 元
    2013 年 38 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル 認証あり
    【目的】顎裂部骨移植の目的の一つは,顎裂および瘻孔を閉鎖し,歯槽骨の連続性により側切歯(犬歯)の自然萌出あるいは歯科矯正治療または補綴治療により良好な咬合を構築することである。しかし,術後における移植骨の吸収の様相は様々で,本来の目的を達成しない症例も散見された。今回,当科で施行した骨移植後の咬合構築に至る移植骨の経過を評価し,今後の臨床に寄与することを目的に検討を行った。
    【対象および方法】骨移植を施行した202例のうち,咬合構築のための最終治療(歯科矯正,補綴治療)が終了し,検討に際し資料が十分であった132顎裂を対象とした。術後6ヶ月後の骨架橋評価に使用したEnemarkの分類を用いて顎裂部の状態と最終治療法について検討を行った。
    【結果】
    1)Enemark分類別の歯槽骨の状態としては,Level-1が55顎裂,Level-2は50顎裂,Level-3が23顎裂,Level-4が4顎裂で,歯の誘導が可能なLevel-1,2は105顎裂(79.6%)であった。
    2)骨移植後の咬合構築は,歯の自然萌出および矯正治療のみが56顎裂,歯科矯正治療による該当歯の誘導は41顎裂で,欠損補綴に頼らないのは97顎裂73.5%であり,欠損補綴治療が必要であったのは35顎裂26.5%であった。
    【結論】犬歯萌出前に骨移植を行った91.7%がLevel-1,2と良好であり,さらに骨移植術後はLevel-1,2において86.7%が欠損補綴治療なしに咬合構築されていることより,骨移植時期が成否の要素となることが示唆された。
  • ―Furlow法による軟口蓋形成術の評価―
    寺尾 恵美子, 高木 律男, 大湊 麗, 児玉 泰光, 飯田 明彦, 五十嵐 友樹, 小野 和宏
    2013 年 38 巻 1 号 p. 104-112
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
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    Furlow法を用いたHotz床併用二段階口蓋形成法により管理した42例の片側性唇顎口蓋裂症例(以下,F群)について,8歳までの言語発達への影響を検討した。さらに,PerkoのWidmaier変法(以下,P群:75例)を用いた結果と比較検討した。
    1.8歳時の鼻咽腔閉鎖機能獲得率はF群とP群で有意差はなかった。また,これまでの報告にある一段階法の獲得率と同程度であった。
    2.F群における鼻咽腔閉鎖機能は4歳から5歳時に著明な改善を示し,P群よりも早期に鼻咽腔閉鎖機能が改善していた。
    3.F群における8歳時までの正常構音獲得過程は,P群に比し異常構音の音韻数が少なく自然治癒も多かった。しかし両群ともに獲得のピークは硬口蓋閉鎖術後で,正常構音の獲得には言語聴覚士による構音訓練終了例が多数を占めた。
    4.近年私達は言語機能の発達が遅れることを回避するために,硬口蓋閉鎖手術の時期を早めて4歳頃で施行している。今後も症例を重ね言語機能,顎発育への影響について検討を行っていく予定である。
  • 仲宗根 愛子, 須佐美 隆史, 内野 夏子, 井口 隆人, 岡安 麻里, 上床 喜和子, 高橋 直子, 大久保 和美, 森 良之, 高戸 毅
    2013 年 38 巻 1 号 p. 113-119
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル 認証あり
    口蓋裂患者の顎顔面形態は,上顎後方位,下顎下縁平面の急傾斜,上顎前歯の舌側傾斜などの特徴を示すことが報告されてきた。しかし,個々の症例では,上顎前突を示すものから反対咬合を示すものまで臨床像は様々である。今回われわれは,東京大学医学部附属病院に来院した口蓋裂患者の矯正歯科治療開始前の顎顔面形態について検討した。
    対象は矯正歯科治療開始前の歯齢IIC~IIICの日本人口蓋裂患者50名(女性35名,男性15名)である。裂型分布は,硬軟口蓋裂28名(HS群),粘膜下口蓋裂11名(SM群),軟口蓋裂11名(SP群)で,平均年齢は8歳3ヶ月(5歳9ヶ月~11歳9ヶ月)であった。資料は側面頭部X線規格写真を用い,(1)SNA,(2)SNB,(3)ANB,(4)下顎下縁平面角(MPA),(5)上顎前歯歯軸傾斜角(U1-FH),(6)下顎前歯歯軸傾斜角(FMIA)を計測し,日本人基準値と比較検討した。
    検討の結果,口蓋裂患者の平均顎顔面形態は,上顎後方位,骨格性III級,下顎下縁平面急傾斜,上下顎前歯の舌側傾斜の傾向を示したが,その程度は軽かった。一方,個々の症例をみると,著しい上顎前突を示すものから,著しい下顎前突を示すものまで幅広い分布を示し,上顎前突傾向を示すもの(ANB > 6°)が約3割認められた。この要因として,下顎が小さいことに起因して二次的に口蓋裂を発症するRobin sequenceの症例が多く含まれていることが考えられ,今後,口蓋形成前の裂や下顎の大きさの情報を得て明らかにしていくことが必要と思われた。
統計
  • 中新 美保子, 山内 泰子, 篠山 美香, 三村 邦子, 佐藤 康守, 森口 隆彦, 稲川 喜一
    2013 年 38 巻 1 号 p. 120-127
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル 認証あり
    近年,口唇裂・口蓋裂のチーム医療に遺伝専門職の参加を必要とする声が聞かれるようになってきた。今回,2009年10月から2010年12月の期間に,遺伝外来を受診した非症候群性の口唇裂・口蓋裂患児の母親26名を対象に,半構成的質問票による聞き取り調査を実施し,遺伝外来受診の効果と今後のあり方について検討した。
    母親は,患児のみならず同胞の将来の子どもや次子への再発率,その原因や予防法等多くの遺伝に関する心配事を抱えていた。しかし,7割の母親は誰に聞いてよいかわからない等の理由から医療者に尋ねていない状況があった。そして,これらの情報を妊娠中や出産直後の早い時期に提供してほしいと希望していた。
    今回の積極的な遺伝外来受診の効果については,「役立った」は24名(92.3%),その理由は,(1)遺伝に関する情報(再発率・予防法)を得た(2)母親の精神的サポートになった(3)遺伝情報を聞ける場所の知識を得た(4)情報の整理になった,であった。これらの母親は,遺伝外来について他者に「勧める・伝える」と回答した。「役立たなかった」は2名(7.7%),その理由は,新しい話が聞けなかった事であった。遺伝カウンセリングの方法や継続支援の必要性が課題となった。
    我々は今回の調査結果から,病状説明用リーフレットを改訂し,遺伝カウンセリングの存在や受診方法等を明記した。現在,リーフレットを用いて口頭でも説明を行っている。遺伝に関する事柄はデリケートな問題であり,必要時には遺伝専門職との情報交換を行い,治療段階における患児や家族の表情や言動に心を寄せ,適切に働きかけることに努めている。患児家族の生活を視野に入れた支援が求められる時代になってきた。チーム医療においては遺伝に関する支援の充実が必要であり,遺伝専門職との連携構築が望まれる。
症例
  • 小松 恵, 府川 靖子, 鳥飼 勝行, 大村 進, 小澤 知倫, 府川 俊彦
    2013 年 38 巻 1 号 p. 128-135
    発行日: 2013/04/25
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは,中間顎欠損および両側中切歯の欠損を伴う両側性唇顎口蓋裂症例において,歯槽骨骨延長術,骨移植,Le Fort I型骨延長術および歯の移植を施行し,良好な結果を得たので報告する。患者は初診時年令8歳7ヶ月の女児で,受け口を主訴として来院した。術前矯正治療にて上顎歯列弓形状を修正し,10歳9ヶ月時に,歯槽骨骨延長術によって骨欠損部の幅を狭めた。その後,11歳3ヶ月時に骨移植を行い,中間顎欠損部が再建された。ついで,術前矯正治療にて上下顎歯列弓幅径を調和させた後,12歳9ヶ月時にLe Fort I型骨延長術を施行し,上下顎関係を改善した。術後矯正治療中に,前歯部反対咬合を呈し,側貌においても下唇の翻転を認めたため,14歳8ヶ月時に再評価を行い,下顎両側第一小臼歯を抜歯して被蓋の改善を行った。その際,上顎両側側切歯は予後不良と判断して抜歯し,両側犬歯を近心移動して第一小臼歯の近心に抜歯した下顎小臼歯を移植した。術後矯正治療を継続し,良好な咬合を獲得した。その後,両側唇裂外鼻変形に対する,肋軟骨移植を用いた修正術を施行し,顔貌も改善された。治療期間は9年10ヶ月を要したが,治療終了後2年6ヶ月を経過しても良好な咬合が維持されていた。
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