日本口蓋裂学会雑誌
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40 巻, 1 号
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原著
  • 小久保 健一, 小林 眞司, 小野澤 久輔, 安岡 裕司, 平川 崇, 府川 俊彦
    2015 年 40 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
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    【目的】口蓋形成術においてFurlow法は口蓋に粘膜欠損部を形成しないため,上顎発育の抑制が少ない有用な方法である。しかし合併症として瘻孔が0~43%の頻度で発生すると報告されている。瘻孔発生を予防するためには術中に閉鎖可能かを判断し,緊張の強い口蓋粘膜の閉鎖を避ける事が重要である。我々は口蓋粘膜の直接閉鎖が可能か判定するために,術直前に上顎結節間距離,披裂高,披裂幅を測定し,閉鎖可能な最大披裂幅を算出するための公式を作成したので報告する。
    【方法】閉鎖可能な披裂幅の公式を作成するために,当院で施行した単独口蓋裂46例を用いてretrospectiveに検討した。
    術中に上顎結節間距離,上顎結節レベルでの披裂幅,上顎結節間のラインから披裂縁まで垂直におろした距離(以下,披裂高)を測定し,上顎結節間距離と披裂高より閉鎖可能な最大披裂幅を求めた。そして,実測披裂幅を用いて補正値を算出し,閉鎖判定の公式とした。
    【結果と考察】上顎結節間距離をX,披裂高をY,閉鎖可能な最大披裂幅をZとし,
    Z = X - {√(X2-4Y2)} + 0.27X
    と公式を算出した。これにより算出した最大披裂幅Zと実測披裂幅を比較し,Z≧実測披裂幅の場合には披裂の閉鎖が可能であると判定した。公式の補正値の要因には,粘膜の伸展性,曲面をもつ口蓋形態,palatal shelfの凹凸,口蓋の左右差などが考えられた。
  • 大槻 祐喜, 塗 隆志, 大谷 一弘, 岡田 雅, 上田 晃一
    2015 年 40 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
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    今回我々は,片側唇裂に対して逆U字切開法により二次的に外鼻形成を行った症例を,2007年に発表した唇裂外鼻に対するスコアリングシステムを用いて評価・検討を行った。症例は2000年1月から2010年5月までに二次的に逆U字切開法による外鼻形成術を行った症例である(n=29)。これらの症例を唇裂単独群,唇顎裂群,唇顎口蓋裂群の3群に分けて評価した。評価内容はまず口唇形成術後から外鼻形成術を行うまでの期間と,外鼻形成術を行った術後から最終評価日までの期間で,それぞれ症例の経時的スコアリングを行い,各群間でスコアの比較を行った。結果は外鼻形成術直前のスコアは唇裂単独群と唇顎口蓋裂群間では統計学的にも有意に唇裂群の点数が高かった(P=0.039)。また唇顎口蓋裂群では唇裂群と比較して術後点数がわずかではあるが,悪化する傾向であった(P=0.048)。しかしながら最終スコアは各群ともに近似した点数に収束し,全例で逆U字切開法による外鼻形成術で著明な形態の改善を認めた。本評価法は片側唇裂の外鼻形態に対して簡便で有用な評価法であると思われた。
  • 福重 雅美, 前田 綾, 上原 沢子, 植田 紘貴, 帆北 友紀, 中村 典史, 宮脇 正一
    2015 年 40 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    本研究の目的は,矯正治療中の口唇顎裂もしくは口唇口蓋裂を伴う患者の保護者における心理状態や関心事を明らかにすることである。鹿児島大学医学部・歯学部附属病院矯正歯科を受診した口唇顎裂もしくは口唇口蓋裂を伴う未成年患者の保護者86名を対象とし,歯科衛生士による質問紙調査を行った。VAS法を用いた質問では,保護者を患者の発達段階により5群(幼児期,学童期・小学校低学年,学童期・小学校高学年,青年前期・中学生,青年中期以降)に分類し,VAS値の差を統計学的に検討した。質問紙調査の結果,矯正治療の必要性を知った時は,「悲しみと怒りおよび不安」の心理状態を示した保護者が最も多く,そのほとんどが「矯正治療が長期に及ぶ」ことによる「不安」であった。また,保護者は「顔貌」などの審美的項目に対して特に高い関心を示し,「社会生活の不安」についても関心が高かった。一方,「矯正治療の期間」や「矯正歯科での1回の診療時間」において,青年中期以降群の保護者は,幼児期や学童期群の保護者と比較して,VAS値が有意に高く,保護者は長期間の矯正治療と長い診療時間に関して負担に感じていた。「矯正装置のトラブル」においては,学童期・小学校高学年群の保護者は,小学校低学年群と比較して,有意にVAS値が高く,トラブルが多いと回答した。使用中の矯正装置の種類は,ほぼ同じであることから,治療が長期化することで,保護者はトラブルの負担を感じやすいことが示唆された。以上から口唇顎裂もしくは口唇口蓋裂を伴う患者の保護者は,特に審美的な問題について関心が高く,矯正治療の期間や診療時間が長いことに対する不安や負担の程度は,患者の発育段階によって異なることが明らかとなった。
  • ―予後規定因子に関する検討―
    小林 義和, 佐藤 公治, 水谷 英樹, 北川 健, 相澤 貴子, 近藤 俊, 今村 基尊, 大西 智子, 奥本 隆行, 吉村 陽子, 山田 ...
    2015 年 40 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
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    近年,口唇口蓋裂患者に対する二次的顎裂部骨移植術の術後評価に,CT画像を用いた検討が報告されている。今回われわれは,二次的顎裂部骨移植術による骨架橋の成立に寄与する予後規定因子を明らかにするため,CT画像を用いた後方視的検討を行った。
    13例に対し,患側上顎中切歯の根尖部,歯根中央部,歯槽骨頂部の高さに相当する断層面において,唇側,歯槽中央,口蓋側の,計9ヶ所で術後の骨架橋について評価した。骨架橋は,歯根中央部唇側では全例で認められ,以下,歯根中央部歯槽中央9例(69.2%),根尖部唇側および歯槽骨頂部歯槽中央8例(61.5%),歯槽骨頂部唇側6例(46.2%),歯根中央部口蓋側5例(38.5%),歯槽骨頂部口蓋側4例(30.8%),根尖部歯槽中央および口蓋側3例(23.1%)と続いた。また,単変量ロジスティック回帰分析の結果,歯根中央部の高さにおいて,歯槽中央および口蓋側では術前の顎裂幅径が術後の骨架橋成立に対する予知性の高い指標となることも明らかとなった。
  • ―内視鏡検査,側方頭部X線規格写真との関連―
    佐藤 亜紀子
    2015 年 40 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    口蓋裂言語検査による鼻咽腔閉鎖機能の評価を行い,内視鏡および側方頭部X線規格写真(以下セファログラム)による軟口蓋,咽頭間の間隙の程度との関連性を調査した。対象は,2007年~2013年の間に4~7歳で鼻咽腔閉鎖機能を精査した口蓋裂初回手術後の48例で,裂型は唇顎口蓋裂40例,口蓋裂単独8例である。唇顎口蓋裂例は全例,顎裂部骨移植の手術前で未閉鎖の顎裂を認めた。口蓋裂言語検査の鼻咽腔閉鎖機能の判定は「良好」「ごく軽度不全」「軽度不全」「不全」の4段階と「判定保留」,軟口蓋,咽頭間の間隙の程度は「間隙なし」「間隙小」「間隙中」「間隙大」の4段階とした。口蓋裂言語検査と内視鏡,およびセファログラムによる判定の一致度の検討には重み付きカッパ値を用いた。
    1.口蓋裂言語検査での判定が可能だったのは48例中29例(60.4%),判定保留は19例(39.6%)であり,判定保留は全例顎裂の未閉鎖裂隙がある症例だった。
    2.口蓋裂言語検査と内視鏡,セファログラムによる軟口蓋,咽頭間の間隙の大きさについて,重み付きカッパ値による一致度は中等度~良好であり,口蓋裂言語検査の妥当性が示唆された。
    3.口蓋裂言語検査で「良好」と判定した場合も,内視鏡検査ではごくわずかな間隙が残存する場合や,セファログラム上は間隙を認めないが鼻雑音が聴取されることがあった。
    4.音声言語の聴覚判定の評価者間一致度を調べたところ,開鼻声は中等度,呼気鼻漏出による子音の歪みは良好な一致度を示した。
    5.口蓋裂言語検査での鼻雑音の取り扱い,ブローイング検査の位置づけ,未閉鎖裂隙や瘻孔の大きさと判定保留との関連についてはさらに検討が必要である。
  • 鈴木 藍, 北野 市子, 朴 修三, 加藤 光剛
    2015 年 40 巻 1 号 p. 38-40
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    静岡県立こども病院において咽頭弁形成術を施行した60例を口蓋裂術後症例,粘膜下口蓋裂症例,先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症例に分け,裂型ごとの長期的な成績を比較検討し以下の結果を得た。
    1)術後1年目の評価で,90%以上が改善していた。
    2)最終評価時の『良好』と『ごく軽度不全』を合わせた割合は90%以上で,裂型による差はなかった。
    3)咽頭弁形成術後の鼻咽腔閉鎖機能は長期にわたり安定していた。
    4)成長に伴う軽微な変化を認めた症例も存在した。
    これらの結果から,咽頭弁形成術はいずれの裂型においても安定した成績を示したが,同時に経年的な変化も認められ,長期的な経過観察の必要性が示唆された。
  • ―群馬県内における治療連携への発展―
    村松 英之, 林 稔, 徳中 亮平, 梅澤 和也, 加藤 清司, 内山 壽夫, 五味 暁憲, 二宮 洋, 松井 敦, 大竹 弘哲, 田村 教 ...
    2015 年 40 巻 1 号 p. 41-48
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    唇顎口蓋裂患者の治療には,出生後,あるいは出生前から成人に至るまで長期間に渡り各診療科の専門性を生かしたチームアプローチが不可欠であることはいうまでもない。前橋赤十字病院でも2009年より口唇口蓋裂センターを開設し各科の特色を活かした系統的な診療を開始している。定期的なセンター会議,院内治療マニュアルの作成,クリニカルパスの導入などで,院内各科における意識の統一と連携の強化を行い,さらにホームページの開設,年1回の親の会を開催する事で患者,家族へもわかりやすい治療の提供が可能となってきた。さらにその活動は院内の枠を超えて,群馬県内の口唇口蓋裂治療連携の強化へと進んでいる。現在は群馬県立小児医療センター,群馬大学歯科口腔外科との連携も強化され,術前顎矯正や顎裂部骨移植をはじめとする様々な治療において連携が行われてきている。最大の問題点は矯正治療を担当する各地域に散在する複数の開業矯正歯科医との連携であった。我々手術担当医との間での治療方針が一定せず,疑問点,問題点が存在してもお互いに話し合う機会はなかった。そのため,顎裂部骨移植をはじめとする顎矯正手術の成績も一定しなかった。県内の口唇口蓋裂治療方針の統一を目指して,形成外科と歯科共通の連携パスの導入と定期的なカンファレンスの開催を行い,また非常勤ではあるが口唇口蓋裂専門の矯正歯科医を院内に配置し,開業矯正歯科医と手術担当医師とのパイプ役,また指導役として機能してもらうことでこれまでの問題点は改善してきている。今後も更なる県内での施設間,そして医療者間の連携を深める事で口唇口蓋裂治療内容のレベルアップを図る事が出来ると考える。
症例
  • 片岡 美季, 中村 朋子, 鮎瀬 節子, 岡崎 恵子, 中納 治久, 槇 宏太郎
    2015 年 40 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    今回我々は,push back法による口蓋形成を施した片側性唇顎口蓋裂症例で,動的治療後12年経過した長期管理を経験したので報告する。初診時年齢14歳2ヶ月の左側唇顎口蓋裂の女性で,口唇形成術後,push back法により口蓋形成術を行い,その後矯正歯科治療を行った。動的治療開始時は,上顎骨の後方位,上顎歯列の前方および側方における重篤な狭窄,クロスバイトが認められた。動的治療終了後は,上顎骨の前後的位置関係に変化が認められず,上顎歯列は前方および側方に拡大され,クロスバイトが改善された。動的治療後12年経過した現在は,動的治療終了時と比較して骨格的変化は認められず,上顎前歯歯軸の舌側傾斜が確認された。
  • 齊藤 芳郎, 下平 修, 栗原 祐史, 秋月 文子, 近藤 誠二, 武井 良子, 高橋 浩二, 代田 達夫
    2015 年 40 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2015/04/25
    公開日: 2015/06/03
    ジャーナル 認証あり
    顎裂部への骨移植が困難と考えられた広範な顎裂を有する両側性口唇口蓋裂患者に対し,頰骨インプラントを用いて咬合再建を行ったところ,良好な結果が得られたのでその概要を報告する。
    患者は49歳,女性。他施設にて口唇形成術,口蓋形成術,鼻口唇修正術を受けたが,顎裂ならびに口蓋瘻孔の処置は放置されていた。義歯の不適合による咀嚼障害を主訴として2010年2月,当科初診となった。
    上顎の多数歯欠損,義歯の維持歯である左側中切歯の動揺を認め,広範な顎裂ならびに鼻口蓋瘻を認めた。顎裂部骨移植による瘻孔閉鎖は困難と診断し,頰骨インプラントならびに歯科インプラントを用いた補綴治療を計画した。手術は経鼻挿管全身麻酔下に上顎臼歯部へ歯科インプラント,上顎小臼歯部より頰骨へ頰骨インプラントを埋入し,埋入後6ヶ月目にアバットメント連結術を行い,仮義歯を装着した。その後,咬合調整等を繰り返し行った。インプラント植立後18ヶ月経過して仮義歯と周囲組織との適合および咬合状態が良好となったことを確認後,バーアタッチメントによるインプラント支持補綴装置を装着した。その結果,咀嚼ならびに言語機能は改善された。
    以上のことから,従来の補綴治療が困難な口唇口蓋裂に対しては,頰骨インプラントを適用したインプラント支持補綴装置は言語,咀嚼機能を改善する上で有用であると考えられる。
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