日本口蓋裂学会雑誌
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41 巻, 1 号
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原著
  • 日景 朱美, 野原 幹司, 杉山 千尋, 田中 信和, 高井 英月子, 上田 菜美, 深津 ひかり, 阪井 丘芳
    2016 年 41 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
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    【緒言】唇顎口蓋裂患者における構音障害の発現には,鼻咽腔閉鎖機能や口蓋形態が深く関与していることが知られているが,それらに大きな差がないにも関わらず,構音障害を発現する患者と発現しない患者が存在する。このことは構音障害の発現には鼻咽腔閉鎖機能や口蓋形態以外の要因が関与している可能性があることを示唆している。構音障害を認める者は協調運動にも問題があることが非唇顎口蓋裂患者において報告されているが,唇顎口蓋裂患者においては検討がなされていない。そこで我々は,唇顎口蓋裂患者の協調運動と構音障害の発現に関連があるか調査を行った。
    【対象と方法】2011年11月〜2012年4月の間に経過観察や言語訓練のために大阪大学歯学部附属病院を受診した唇顎口蓋裂患者61名を対象とした。保護者に,発達性協調運動障害のスクリーニング質問紙の記入を依頼した。対象を構音障害あり群/なし群の2群に分け,2群間の協調運動((1)総合得点(2)粗大運動得点(3)微細運動得点(4)全般的協応性得点)の差異の有無の判定を行った。
    【結果】(1)総合得点は,構音障害なし群においては基準値未満の者は7名,以上の者は25名であり,構音障害あり群においては基準値未満の者は14名,以上の者は15名であり,両群間に有意差を認めた(p<0.05)。
    (2)粗大運動得点および(3)微細運動得点では,構音障害なし群,構音障害あり群の両群間に有意差を認めなかった。
    (4)全般的協応性得点は,構音障害なし群においては基準値未満の者は5名,以上の者は27名であった。構音障害あり群において基準値未満の者は13名,以上の者は16名であった。両群間に有意差を認めた(p<0.05)。
    【考察】唇顎口蓋裂の構音障害の発現においては,構音器官という局所の問題以外に全身の協調運動障害も要因となる可能性が示された。
  • —唇顎口蓋裂40例の言語成績—
    木村 智江, 佐藤 亜紀子, 萬屋 礼子, 佐藤 昌史, 大久保 文雄, 槇 宏太郎, 吉本 信也
    2016 年 41 巻 1 号 p. 8-16
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    昭和大学形成外科にて1978〜1995年の間にpushback法による口蓋裂手術を1歳代で施行し,成人期まで音声言語の長期経過観察を行った40例(UCLP30例/BCLP10例)の言語成績を後方視的に調査した。評価時年齢は,幼児期(3〜5歳),学童前期(6〜7歳),学童後期(9〜12歳),青少年期 (13〜18歳),成人期(19歳以上)である。40例の結果は以下の通りである。
    1.鼻咽腔閉鎖機能(以下VPC)良好例は幼児期27例(67.5%)から成人期19例(47.5%)に減少し,ごく軽度不全例が6例(15.0%)から18例(45.0%)に増加した。成人期はこれらを合わせて37例(92.5%)が実用的なVPCを獲得した。
    2.学童前期から成人期にかけて,VPCの変化を31例(77.5%)に認め,悪化例は学童後期から青少年期,改善例は学童前期と成人期に多かった。
    3.正常構音は幼児期18例(45.0%)であり,学童前期以降9例に構音障害が出現したが,成人期は全例正常構音であった。
    4.構音障害の22例中21例(95.5%)は幼児期から構音訓練を受け,学童後期から成人期にかけて構音障害の半数が消失した。
    5.構音障害は口蓋化構音が最も多く幼児期に11例あり,成人期は6例に残存した。
    6.成人期正常構音は28例(70.0%)であった。
    成人期のVPCを幼児期の音声言語の判定のみで予測することはできない。今回の結果から,幼児期の判定に関わらず音声言語の再評価を10歳,16歳,治療が終了する20歳頃に行うことが望ましいと考える。
    構音障害については,構音訓練を終了した後も成人期まで長期にわたり改善する可能性があり,STが経過観察と指導を継続することは有用である。
  • 松田 美鈴, 中新 美保子, 西尾 善子, 古郷 幹彦
    2016 年 41 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    【目的】本研究は,複数回の手術を受けた口唇裂・口蓋裂児がそのことをどのように感じながら治療を受けているかについての体験を明らかにし,患児や家族の治療環境を改善していく基礎資料にすることを目的とした。
    【対象】中学生8名,高校生4名の12名であった。内訳は男子7名,女子5名,裂型は唇顎口蓋裂10名,口唇裂2名,総手術回数は3回から7回であった。
    【方法】複数回の手術を受けた子どもの体験について半構成面接を行い質的帰納的に分析した。「体験」は,子どもが手術を受けた際の印象に残る出来事と心身の状態と定義した。
    【結果】体験として,《いつもあった手術への不安や恐怖》《よくなりたいという期待》《手術直後の痛みと様々な制限がある不自由さ》《医療者の対応と母親・友達の支えで頑張った》《自責の念をもつ母への気づかい》《いじめやからかいに対処する難しさ》《生まれつきだから病気は特別なこととは思っていない》 《何度もの手術は仕方ない》の8つのカテゴリーが抽出された。
    【考察】医療者は,複数回の手術が続く最初の体験がその後の様々な場面に影響することを考慮し,子どもに詳細な説明やケアを行うことが求められる。そのためにプリパレーションやディストラクションを効果的に取り入れていく必要がある。また,子どもは母親が自責の念を抱いていること知り,望まない手術を受け入れていた。児の疾患が判った早期からの母親への受容支援が重要である。さらに,子ども自身がどのように病気に向き合っていくかが重要であり,そのためには子ども自身のセルフケア能力を高めるような支援が課題となる。
    【結論】医療者は複数回の手術を受ける本疾患の子どもたちの特徴を理解し,子どもが手術に主体的に取り組めるように治療環境を整える必要がある。
  • —第1報:診断と病態—
    大湊 麗, 小林 孝憲, 児玉 泰光, 小山 貴寛, 五十嵐 友樹, 飯田 明彦, 小野 和宏, 永田 昌毅, 髙木 律男
    2016 年 41 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    新潟大学医歯学総合病院顎顔面口腔外科において1982年から2012年の31年間に粘膜下口蓋裂と診断した84例を対象に,性別,出生時体重,初診時年齢,主訴,来院経路,合併症,Calnanの3徴候,治療内容および母親の出産時年齢について回顧的に検討した。なお,当科の粘膜下口蓋裂の診断基準は軟口蓋の筋層離開とした。
    その結果,以下の知見を得た。
    1) 性別は男性42例(50.0%),女性42例(50.0%)であり,性差はみられなかった。
    2) 初診時年齢は生後9日から49歳にわたり,平均4.6歳であった。
    3) 主訴は構音や言語発達などの言語の異常に関する訴えが最も多く,59例(70.2%)であった。
    4) 当科への来院は小児科からの紹介が26例(31.0%),他院歯科が21例(25.0%)であり,両者で半数以上を占めていた。
    5) 精神発達遅滞の合併は28例(33.3%)にみられた。
    6) Calnanの3徴候がすべて確認された症例は62例(73.8%)であった。
    7) 当科の初回手術は口蓋形成術とし,口蓋形成術を施行した症例は60例(71.4%),施行しなかった症例は24例(28.6%)であった。
統計
  • 西村 壽晃, 幸地 省子, 五十嵐 薫
    2016 年 41 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    1995年から2014年の20年間に東北大学病院顎口腔機能治療部を受診した口唇裂・口蓋裂の患者の実態を明らかにする事を目的に臨床統計調査を行い,以下の結果を得た。
    1.登録された口唇裂・口蓋裂は1,428例であった。男女比は1:0.93であった。
    2.来院患者の居住地域は仙台市と宮城県が平均で65.4%を占めており,その比率は増加傾向にあった。
    3.裂型分布は口唇口蓋裂40.0%,口唇顎裂30.0%,口蓋裂30.0%であった。口唇口蓋裂は男子に多く(P<0.01)口蓋裂は女子に多かった(P<0.01)。
    4.初診時年齢は0歳児が最も多く,平均年齢は3歳11ヶ月であった。
    5.一次症例において新患登録された口唇裂・口蓋裂は897名で男子475名,女子422名(男女比1:0.89)であった。居住地域は仙台市と宮城県が平均で74.2%を占めていた。総患者に対する結果と同様口唇口蓋裂は男子に多く(P<0.01),口蓋裂は女子に多かった(P<0.01)。一次症例における初診時の平均年齢は6ヶ月であった。
    6.897例中182例に他の先天異常が合併しており,全体の20.3%であった。
症例
  • 田邉 毅, 小薗 喜久夫
    2016 年 41 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    偽の正中唇裂は脳の形成異常から,てんかん,代謝内分泌異常を伴うことが多く,生命予後はよくないといわれている。しかし最近では,全身状態の改善,てんかん治療など小児科と連携することにより全身麻酔可能な状況であれば積極的に手術行なうという報告が散見される。今回われわれは,偽の正中唇裂の口蓋形成術を行ない,抜管直後にてんかん発作が頻発し,舌根沈下を起こし,マスク換気困難となり,再送管後,集中治療が必要となった1例を経験したので報告する。症例は1歳10ヶ月男児。生後よりてんかん発作,及び偽の正中裂を認めた。4ヶ月時に口唇鼻形成手術が行われ,1歳10ヶ月時に口蓋形成手術が行われたが,術後換気困難となり,再挿管が必要となった。その後集中治療,気管切開が行われ,呼吸が安定した。
  • 重村 友香, 上田 晃一, 妹尾 貴矢, 守屋 美奈
    2016 年 41 巻 1 号 p. 44-50
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    Robin sequenceは胎生期の下顎発育不全に由来する二次的な舌根沈下・気道閉塞などを呈する多発異常連鎖パターンであり,その結果もたらされる呼吸困難が出生時から最も危険な問題となる。今回われわれは高度の気道狭窄に対して6歳で下顎骨切り延長術を施行し生後初めて発声が可能となった症例を経験した。
    症例は6歳の女児,在胎34週0日,1890gで出生の双胎二子。出生時より気管内挿管での呼吸管理で,生後2ヶ月時に気道狭窄に対して気管切開術を施行となった。その後,小顎症に対して外科的治療をなされることなく経過した。骨延長を含めた今後の治療目的に当院を紹介となった。臨床所見からGoldenhar症候群を原疾患としたRobin sequenceと診断した。頭頸部CTでは下顎骨の著明な低形成及び欠損,高度の舌根沈下及び気管切開部周囲に著明に増生した肉芽様組織による気道狭窄を認めた。3Dモデルを作成し術前検討を行い,両側下顎体部骨切り延長術を施行した。術後4日目から1mm/日で骨延長を開始した。術後18日目(延長終了時)にカニューレ外孔部閉鎖時に発声を認め,術後23日目に初めてスピーチカニューレへの変更が可能となり言語訓練を開始した。CT画像上骨延長部の骨形成を確認のうえ,骨切り術後7ヶ月目に抜釘した。骨切り術後10ヶ月(抜釘術後3ヶ月)経過時点では延長部位の後戻りは認めることなく経過している。
    次の目標は気管切開からの離脱(抜管)であるが,6年間使っていなかった声帯や呼吸筋を鍛えるにはまだ時間を要し,気管切開からの離脱に至るには更なる年月がかかり,慎重に行わなければならないと考えている。またそのためには再度骨切り延長術もしくは骨移植術を要する可能性も考えている。
  • 井村 英人, 古川 博雄, 久保 勝俊, 新美 照幸, 早川 統子, 佐久間 千里, 前田 初彦, 夏目 長門
    2016 年 41 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    脂肪腫は成熟した脂肪細胞からなる非上皮性の良性腫瘍である。脂肪腫の頭頸部領域における発生頻度は約2〜8%といわれているが,顎裂部に発生することはまれである。今回,我々は,顎裂部に脂肪腫を認めた一例を経験したので報告する。患者は9歳の男児で,出生時より,左側口唇口蓋裂を認め,5ヶ月時に左側口唇形成術,1歳8ヶ月時に口蓋形成術を施行した.9歳時に,顎裂部腸骨移植術の術前に撮影したCT写真で,境界明瞭,類球形の均一な低濃度域を認めた。左側顎裂および顎裂部腫瘤と診断し,顎裂部閉鎖,腸骨移植術および腫瘤の切除術を行った。病理学的診断は,脂肪腫であった。脂肪腫を一塊として摘出でき,再発も非常に少ないことから,顎裂部骨移植を行った。現在,術後2年が経過するが経過良好である。
  • 佐久間 千里, 井村 英人, 新美 照幸, 森田 幸子, 早川 統子, 夏目 長門
    2016 年 41 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2016/04/25
    公開日: 2016/05/13
    ジャーナル 認証あり
    21trisomyは最も頻度の高い染色体異常の一つであるが,口唇口蓋裂を伴うことは稀である。今回我々は,重度の呼吸障害を認める21trisomyを合併した左側口唇口蓋裂児に対し,Hotz床の装着により呼吸障害の改善がみられた症例を経験したので報告する。
    患児は生後22日の男児。主訴は哺乳障害であった。父30歳,母27歳の第2子として,在胎38週3日,経膣分娩にて3220gで出生した。出生時,左側口唇口蓋裂ならびに新生児一過性多呼吸を認め,5日間NICUにて人工呼吸管理された。また,染色体検査にて21trisomyと診断された。日齢22日に口唇口蓋裂の加療目的で当センターへ紹介となった。初診時,Hotz床作製のため印象採得を行った。呼吸状態が不安定であったため,入院管理下に哺乳指導を行った。Hotz床を装着したところ,装置により舌位が安定し徐々に呼吸状態の改善を認め,経口哺乳も可能となったため退院となった。
    本症例では,Hotz床の装着により舌が前方位で安定したことにより舌根沈下が改善され,呼吸状態が改善したと考えられた。このようにHotz床の装着は口腔内環境に大きな変化をもたらすため,症例によっては装着により一時的に呼吸状態を悪化させる可能性もあり,装着時の十分なSpO2モニター等による呼吸管理が必要であると考える。
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