日本口蓋裂学会雑誌
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47 巻, 3 号
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総説
  • —私の匠考察と講座における二段階口蓋形成術—
    内山 健志
    2022 年 47 巻 3 号 p. 183-193
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    1.唇顎口蓋裂手術の「匠」に対する私の考察
    唇顎口蓋裂手術を的確に成就させるための「匠の技」を長年,考え,学んできた。手術に向かう心構えのヒントになった以下の項目について考察した。
    ①Cleft Craft,②Als longa vita brevis,③感性と器具,④手術におけるこだわり,⑤謙虚な心構えと負けない手術,⑥From birth to maturityの一例から匠を学ぶ
    2.講座のPerko法による二段階口蓋形成術の概要
    著者が在籍していた教室では1982年以降,完全口蓋裂に対する口蓋裂の一次手術をチューリッヒシステムの顎発育を考慮するPerko法の二段階口蓋形成術をルーティーンに施行してきた。本法は,第1段階として1歳6ヶ月頃に粘膜弁法による軟口蓋形成術を実施し,二段階目として4歳6ヶ月から5歳頃に粘膜骨膜弁法による硬口蓋形成術を行うものである。
    本法のoutcomeは以下のごとくである。軟口蓋形成術が的確に施されれば,良好な鼻咽腔閉鎖機能が得られ,その後の硬口蓋形成術によって鼻咽腔閉鎖機能がさらに賦活化され,良好な構音運動と言語が獲得された。聴覚的判定の他にNasometerによる音響分析およびXテレビシステムによる解析などの客観的なデータからもその知見が導かれていた。本法施行の患児の石膏模型観察とそれを用いた三次元デジタイザーによる計測データを,一期的粘膜骨膜弁法を行った患児と比較した結果,良好な顎発育と咬合さらに深い口蓋を示す結果が得られていた。
    本法の長期経過を観察しえた193名のうち咽頭弁移植術の適応になったのは8例の4.1%,Le FortⅠ型骨切り術の施行にいたったケースは193名中5例2.6%であった。
    軟口蓋形成術を成功するためのコツとして,大口蓋神経血管束を損傷することなく血流のいい粘膜弁を作製する方法および口蓋帆挙筋の結合を図りながら軟口蓋全体の十分な後方移動を同時に図るテクニックなどを説明した。
  • 吉村 陽子
    2022 年 47 巻 3 号 p. 194-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    筆者が形成外科医としての40年間に経験してきた口唇裂・口蓋裂の治療法の変遷について述べた。
    そこから得た結論は,口唇裂・口蓋裂治療は患者の生涯にわたり影響するため,基本的に手術,言語,咬合および歯列矯正など,各分野の専門家からなるチームによる総合的医療として行われるべきだということである。その前提に立ち,筆者が所属した藤田医科大学口唇口蓋裂センターにおいて,形成外科医として担当した口唇裂の手術に関して会得した点は以下のとおりである。
    1)初回手術時が最も良い結果を残す機会であるが,その時点ですべて満足する結果を得られないこともある。
    2)組織の過剰切除は,後日の修正および追加手術を不可能にする。
    3)手術侵襲による瘢痕の存在は,組織の成長を阻害する。
    4)著しい瘢痕がない限り,経時的な変化および成長は,往々にしてより望ましい方向に働く。
    5)一人の卓越した術者の存在よりも,チームメンバー全員が平均的な結果を得られることが,患者に利することである。
    6)手術の手順を明確に示すことが,チームメンバーの技術向上に貢献する。
    7)手術結果に対するフォローアップと,真摯な反省に基づく術式の改良は継続的に行うべきである。
原著
  • —軟口蓋形成法および硬口蓋閉鎖時期の影響—
    結城 龍太郎, 児玉 泰光, Andrea Rei Estacio Salazar, 大湊 麗, 永井 孝宏, 山田 茜, 小林 亮太, 市 ...
    2022 年 47 巻 3 号 p. 200-209
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    新潟大学医歯学総合病院顎顔面口腔外科(以下,当科)では,1974年の開設以来,チームアプローチによる一貫した管理体制で口唇裂・口蓋裂治療にあたってきた。1983年からHotz床併用二段階口蓋形成手術法(以下,二段階法)を採用しているが,過去に2度,言語成績の向上を目的に手術プロトコールを変更してきた。これまで,言語評価と上顎歯列模型の形態分析から治療成績の向上を報告してきたものの,咬合という観点からは検討されていなかった。そこで,今回5-Year-Olds’Indexを用いて咬合関係を評価し,2度の手術プロトコール変更の妥当性を検証した。
    対象は,当科で治療した片側性唇顎口蓋裂の一次症例のうち,資料の整った97例とした。97例は,軟口蓋形成術の術式と硬口蓋閉鎖術の時期により,①P+5群:1983~1995年に軟口蓋形成術を1歳半にPerko法で施行し,硬口蓋閉鎖術を5歳半に鋤骨弁法で施行した23例,②F+5群:1996~2009年に軟口蓋形成術を1歳半にFurlow変法で施行し,硬口蓋閉鎖術を5歳半に鋤骨弁法で施行した49例,③F+4群:2010~2017年に軟口蓋形成術を1歳半にFurlow変法で施行し,硬口蓋閉鎖術を4歳に鋤骨弁法で施行した25例の3群に分類し,比較検討を行った。
    5-Year-Olds’Indexを用いた咬合評価の結果,各群のスコアは,P+5群:2.65,F+5群:2.77,F+4群:2.80であり,t検定においてP+5群とF+5群間,F+5群とF+4群間に有意差はなかった。一方,度数分布ではF+4群は他の群に比べ,G1の比率が有意に低かった。なお,いずれの群においてもGroup 5はなかった。
    以上のことから,当科で行った手術プロトコールは言語成績の向上にはたらくものの,硬口蓋閉鎖時期の早期化が上顎歯列の頬舌的な成長に抑制的な影響を与えている可能性も示唆され,咬合関係に留意すべき症例もあると考えられた。
統計
  • 髙木 律男, 児玉 泰光, 飯田 征二, 井上 直子, 小林 眞司, 阪井 丘芳, 須佐美 隆史, 須田 直人, 中村 典史, 宮脇 剛司, ...
    2022 年 47 巻 3 号 p. 210-219
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    一社・日本口蓋裂学会では,学術調査委員会の2020年度の事業として,2019年1年間の会員施設における新規患者について臨床的検討を行った。49施設より965例の登録があり,以下の結果を得た。1)症型別では唇裂110例(11.4%),唇顎裂206例(21.3%),唇顎口蓋裂388例(40.2%),口蓋裂193例(20.0%),粘膜下口蓋裂52例(5.4%),その他16例(1.7%)であった。2)罹患側では左側368例(52.2%),右側183例(26.0%),両側性160例(22.7%)。両側性は唇裂で少なく,唇顎口蓋裂で他の症型に比べて多かった。3)性別では女性432例(44.8%),男性533例(55.2%)。多くの症型で男性が多い中,口蓋裂では若干であるが,女性の方が多かった。4)出生時体重では,粘膜下口蓋裂で他の症型よりも低体重であった。5)出生前診断では,外表に変化のある口唇裂を含む症型で50%程度であった。6)両親の年齢では,全体に父親が母親よりも若干高年齢であったが症型間に差はなかった。7)血族内での出生では,いずれの症型も6~8%をしめていた。8)併発疾患および 9)症候群,染色体異常については,口蓋裂および粘膜下口蓋裂児において頻度が高かった。併発疾患については,1例で複数の併発がみられる場合が多かった。なお,症型間で統計処理(カイ二乗検定)を行い,性差,罹患側,生下時体重,併発疾患,症候群・染色体異常において有意差(p<0.05)を認めた。以上,1年間に出生した日本人の口唇裂・口蓋裂児の多数例の検討から有意義なデータが得られた。
症例
  • 青山 剛三, 黒坂 寛, 三原 聖美, 上松 節子, 相川 友直, 古郷 幹彦, 山城 隆
    2022 年 47 巻 3 号 p. 220-230
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    口唇裂・口蓋裂患者では口蓋形成術後の瘢痕に起因する上顎骨の低形成により,重篤な反対咬合を呈することが多い。著しい上顎骨の劣成長を伴う口唇裂・口蓋裂患者に対して,創外型上顎骨延長装置であるRigid External Distraction(RED)systemを用いた上顎骨延長術が応用されるようになったが,長期経過を追跡した報告は少ない。今回,われわれは上下顎骨の不調和に起因した成人反対咬合の症例に対してRED systemを用いた上顎骨仮骨延長術を行い,二期的に下顎骨骨切り術を行うことで,側貌の改善および緊密な咬合が得られた。さらに上顎骨仮骨延長術後8年を経過するが,安定した予後経過が得られているので報告する。患者は左側口唇口蓋裂を有する31歳2ヶ月の男性であり,咀嚼機能障害および審美障害を主訴に来院した。中顔面の陥凹感を認めるconcave typeであり,上顎右側第二小臼歯が先天欠如し,前歯部反対咬合,臼歯部交叉咬合を認め,Angle ClassⅢであった。上顎骨の後方位および下顎骨の前方位に起因する骨格性下顎前突を呈していた。32歳9ヶ月時にRED systemにより12.0mmの上顎骨仮骨延長術を行った。1年半の術前矯正治療を行い,34歳10ヶ月時に下顎枝矢状分割術を施行し,15.0mmの下顎骨の後方移動を行った。その後8ヶ月後に術後矯正治療を終了した。RED systemを用いた上顎骨仮骨延長術により,SNAは71.7°から81.0°に改善し,A点の前方移動および中顔面の陥凹感の改善を認めた。さらに下顎枝矢状分割術を行うことで,ANBは治療開始前の−19.1°から−1.5°に,over jetが−26.0mmから3.0mmへと改善し,調和のとれた顔貌および緊密な咬合を獲得できた。保定6年経過時においても,SNAの0.7°(7.5%)減少,A-McNamaraの0.4mm(4.0%)減少,Ptm-A/PPの2.0mm(17.0%)の減少および下顎骨の時計方向の回転を認めたものの,上下顎骨の前後的位置に著しい変化は認められず,骨の長期安定性が得られた。
  • —長期観察症例から得られたこと—
    石崎 朋美, 鮎瀬 節子, 鐘ヶ江 晴秀, 岡崎 恵子, 中納 治久, 槇 宏太郎
    2022 年 47 巻 3 号 p. 231-241
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/02
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    片側性唇顎口蓋裂は,上顎骨の発達や歯列形成などに問題が生じる。今回我々は,治療が良好に終了し,その後長期に安定している片側性唇顎口蓋裂患者を幼少期から成人に至るまで観察し,片側性唇顎口蓋裂の治療を行うにあたり,この疾病のもつ特性のどのようなことに注意し考慮すべきかを,長期観察症例の治療を振り返ることにより,検討した。
    患者は,左側唇顎口蓋裂の女性。生後3ヶ月時に口唇形成術を,1歳6ヶ月時にpushback法による口蓋形成術を行い,5歳0ヶ月時から矯正歯科にて管理を始めた。乳歯列期には上顎骨劣成長を示し,下顎骨が前方位を示す骨格性下顎前突であった。上顎歯列の前方および側方の重篤な狭窄が認められ,全歯列にわたり逆被蓋であった。舌位は常に低位であった。通法に従い第一期治療として上顎前方牽引装置およびリンガルアーチにより上顎骨の前方成長促進,中切歯被蓋の改善を行い,口腔筋機能療法を併用し正常な舌位の獲得および構音訓練を行った。第二期治療として,14歳10ヶ月時,正常咬合を獲得することを目的とし,上顎側方拡大,マルチブラケット法,口腔筋機能療法を行った。
    17歳9ヶ月時に動的治療を終了し,保定を開始した。動的治療終了後6年9ヶ月時overjet,overbiteの減少がみられ,わずかな後戻りが認められたが,口腔筋機能療法を再度行い,動的治療終了後10年1ヶ月経過した現在は,骨格的変化は認められず咬合はほぼ安定し,良好な状態が継続されている。
    本症例を振り返り,口蓋形成術の術式,上顎前方牽引開始時期,矯正治療開始時期,治療方針,目標の達成度,長期安定性など非破裂者とは違う多種多様な問題を総合的に判断し,治療方針を立案する必要があると考えられた。唇顎口蓋裂という状況下の治療について,特化した注意が必要であることを報告する。
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