日本口蓋裂学会雑誌
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5 巻, 2 号
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  • 内山 健志
    1980 年 5 巻 2 号 p. 53-68
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    咽頭弁移植術は各種構音器官にかなりの形態的変化をきたすとともに,発声腔の形や大きさを変化させるものと考えられる.そこで著者は永井法およびSkoog法の上方基部弁法による咽頭弁移植術前後の安静時および母音発声時における側位頭部X線規格写真を用いて,構音器官の各種計測を行い,次の如き結果をえた.
    1発声時の軟口蓋挙上度は術後には術前よりも劣った.しかし発声時の軟口蓋運動量は術前術後で明らかな相関を示した.
    2咽頭弁基部は安静時には口蓋平面および術前における最小鼻咽腔開放部よりもやや下方に位置し,発声時にはわずかに上前方に移動した.また軟口蓋咽頭弁は発声時明らかな上方移動を示した.
    3咽頭後壁は術後には術前よりもやや前方に位置した.発声時には術前術後ともに上咽頭後壁は前方に,中および下咽頭後壁は後方に移動した.術後における発声時の咽頭後壁運動量は術前よりもやや小さかったが,中および下咽頭後壁の運動量は術前術後で明らかな相関を示した.
    4舌表面は術後安静時には術前よりも前方に位置し,舌前方部は上方に,舌後方部は下方に位置する傾向がみられた.また舌最高点は術後安静時には術前よりも前上方に,舌後方点は後下方に位置した.前方母音発声時の舌表面は術後には術前よりも後上方に,後方母音発声時の舌前方部は前上方に位置する傾向がみられた.なお最小舌軟口蓋狭窄距離は術後には,すべての母音で短縮していた.
    5舌骨は術後には術前よりも後下方に位置した.また発声時には術前術後ともに後下方に移動する傾向がみられた.
    6Skoog法による安静時の咽頭弁基部は永井法によるそれよりも上方に位置し,発声時の基部,軟口蓋および軟口蓋咽頭弁の運動量も大きかった.しかし咽頭後壁の位置および運動量には両法間で明らかな差はみられなかった.
  • 第2編サウンドスペクトログラフによる分析
    内山 健志
    1980 年 5 巻 2 号 p. 69-90
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    サウンドスペクトログラフを用いて咽頭弁移植術前後における音声変化を検索し,次の如き結果をえた.
    1 第1フオルマントは術後イを除く母音において帯域幅の縮小を,全母音において周波数の下降と相対強度の減弱を示した.
    2 第2フォルマントは術後工を除く母音において帯域幅の縮小と相対強度の減弱を示し,前方母音イ,エにおいて周波数の下降を,後方母音ア,オにおいて上昇を示した.
    3 有声破裂音および有声破擦音における先行波持続時間は術後短縮し,後続母音に対する相対強度は減弱した.
    4 通鼻音および弾音を除く子音における子音波出現率は術後増大し,異常子音波出現率は逆に低下した.
    5 子音部持続時間は破裂音および破擦音で術後短縮し,無声摩擦音で逆に延長した.後続母音に対する子音部相対強度は無声破裂音および通鼻音で術後減弱しa無声摩擦音,有声破裂音,破擦音,弾音などで増強する傾向がみられた.
    6 通鼻音および弾音を除く子音における後続母音に対する子音波相対強度は術後増強した.摩擦音と破擦音における子音波の最強調周波数は術後には術前よりも明らかに上昇した.
    7 無声破裂音における気音部出現率は術後明らかに増大し,無声子音における移行部低帯域ボイスバーは術後低下した.子音波に対する気音部相対強度および子音部に対する移行部相対強度は術後減弱する傾向が認められた.
    8 第2フオルマント始端周波数は術後一般に下降した.有声破裂音および弾音における第1フォルマント過渡部持続時間は術後一般に延長した.
    9 永井法とSkoog法による術前術後の音声変化にはほとんど差がみられなかった.
  • 謝 天愉
    1980 年 5 巻 2 号 p. 91-122
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    片側性口唇裂・口蓋裂患者108名(対照群10名)の顔面石膏模型を計測し,次の結果を得た.
    1 口唇裂と国蓋裂の両者の影響が大きいのは,披裂幅,鼻翼幅,鼻翼基部幅,鼻尖・講,側鼻翼最外側点間距離,患側鼻孔幅,鼻尖の外側偏位,鼻柱基部の外側偏位,健側鼻翼基部の外側偏位,患側鼻翼基部の外側・下方・後方偏位,患側cupid's bow peakの外側上方・後方偏位などである.
    2 口唇裂の影響がとくに大きいのは,cupid'sbow中点の外側偏位,患側鼻翼最外側点の外側・下方・後方偏位,健側cupid's bow peakの外側・前方偏位,健側cupid'sbow peakの対応点Cp'点の健側・上方・前方偏位などである.
    3 口蓋裂の影響がとくに大きいのは,内眼角幅,鼻翼幅,鼻尖・患側鼻翼最外側点間距離,患側鼻孔幅,健側鼻翼最外側点の側方偏位などである.
    4 premaxillaの回転は鼻構造と口唇各部の偏位を一層著明にしており,この現象は完全口唇裂群においてはっきりしている.
    5 各裂型における偏位度の中で,口唇裂と口蓋裂の影響がとくに大きいのは,側方偏位であり,その次は前後的偏位で,最も少いのは上下的偏位である.
    6 健・患側比の差は,口唇披裂度と口蓋裂の存在により大きくなり,さらにpremaxillaの回転によって著明となり変形を視覚的に感じさせる要因となっている.
  • 第1報鼻咽腔の印象採得法を中心に
    小松 世潮, 小浜 源郁
    1980 年 5 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋裂においては,鼻咽腔閉鎖機能不全による言語障害と術後の療痕による顎発育抑制が後遺し易く,従来よりこれらの問題を克服するために種々の手術法が報告されてきた.しかしながら手術侵襲の程度と顎の良好な発育とは相反することが多く,術後の言後成績と顎発育の両者を同時に満足させる口蓋裂手術法の開発は,必ずしも充分とは言い難い.
    著者らは,言語と顎発育の良好な成績を得るには,個々の症例に適した手術法を適応すべきであると考え,その診断基準として術前の口蓋咽頭周囲筋の動きとともに鼻咽腔の形態に注目した.今回は,札幌医科大学口腔外科を受診した軟口蓋裂児10名,唇顎口蓋裂児10名,計20名について,鼻咽腔形態の観察法と,その形態に関し検討を行った.
    1.鼻咽腔の形態観察は,シリコーン印象法により,石膏模型を作製し行った.シリコーン印象法によると,複雑な器具を要せず操作が簡便で再現性に富む印象が得られた.
    2.シリコーン印象材は,優れた流動性と弾力性を有するため,上顎,口蓋および鼻咽腔周囲を含めて一塊としての印象採得に適していた.
    3.鼻咽腔形態の観察は,口蓋垂基部から咽頭後壁に垂直に離断した断面部において行った.この断面は鼻咽腔の形状および大きさを表わすのに最も再現性のある部位と考えられた.
    4.鼻咽腔の大きさ,すなわち断面積は,軟口蓋裂群に比較して唇顎口蓋裂群に大きい症例が多くみられたが,破裂型との関係では,必ずしも一致しない症例もあり,各個に特有な形状と大きさを示すようであった.
    5.口蓋形成手術に際して,術前の鼻咽腔の形状とその大きさの検索は,破裂の型や程度,口蓋咽頭周囲筋の動きなどの検索と同様,有効な資料を提供し得る可能性が示唆された.
  • 第II報口蓋裂型と鼻咽腔形態の関連について
    小松 世潮, 小浜 源郁
    1980 年 5 巻 2 号 p. 131-144
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    第1報においては口蓋裂児の術前の鼻咽腔形態を明らかにする目的で,鼻咽腔の印象採得法を中心に述べたが,本報では,同様の方法を用いて,1歳2か月から3歳2か月までの軟口蓋裂児43名,唇顎口蓋裂児37名について,破裂型と鼻咽腔形態との関連性,さらに鼻咽腔形態分類からみた各種手術法の適応について検討したので,その結果を報告した.
    1.軟口蓋裂群においては,軟口蓋-咽頭後壁問距離(以下V-P distanceと略),咽頭側壁間距離,鼻咽腔の断面積および破裂幅の各平均値は,唇顎口蓋裂群に比較してやや小さい傾向にあり,とくにV-P distanceと破裂幅に関し,両群問に有意差が認められた.
    2.鼻咽腔の断面積とV-P distance,,咽頭側壁間距離破裂幅との相関をみると,軟口蓋裂群ではV-P distanceが最も高く,ついで咽頭側壁聞距離に相関性が認められた.唇顎口蓋裂群ではV-Pdistanceとの間に高い相関性がみられたが,咽頭側壁問距離との関係における相関性は低く,また破裂幅と断面積の関係では両群ともに相関性は低かった.
    3.鼻咽腔の形状とその断面積の特徴から,鼻咽腔の形態を以下の4型に分類した.(1)Type 1(normal type)はV-P distance,咽頭側壁間距離が共に小さく,断面積が100mm2以下のもので,modified Langenbeck法などの比較的手術侵襲の少ない手術法が適応され得るもの.(2)Type 2(longitudinal type),(3)Type 3(crosswise type)は断面積が10mm2-150mm2の間に分布する症例であり,Type 2はV-P distanceが優位なタテ長の鼻咽腔を有するもの,またType 3は咽頭側壁間距離が優位なヨコ長の鼻咽腔を有するものでWidmaier法など,硬口蓋にできるraw-surfaceの比較的少ない手術法が適応され得るもの.(4)Type 4(severe type)はV-P distance,咽頭側壁間距離ともに大きく,断面積が150mm2以上のもので,push back法によらなければ,術後の良好な鼻咽腔閉鎖機能は得がたいと考えられるタイプであった.
  • 香月 武, 後藤 昌昭, 川野 芳春, 田代 英雄, 蔵田 副雄
    1980 年 5 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇裂鼻という言葉があるように,唇裂には殆んど外鼻の左右非対称性が随伴している.それゆえ外鼻の対称性を回復するのは,唇裂治療の重要な課題である.治療に先立ち,まずは,外鼻の非対称性の有無とその度合を判断する必要がある.従来は,これは検者の主観によって判断されていたが,客観的評価のために数値化することを試みた.
    ここに用いたモアレトポグラフィー法は,一枚の写真に三次元の情報を含んでいるので,物体の形状を記録するのに極めて有用である.被検者の顔の正面像をフジノンモアレカメラFM3012で撮影し,写真を実物の%倍に印画紙上に焼付けた.この写真上のモアレ稿を座標読み取り装置グラディコンで読みとり,Wang2200マイクロコンピューターで処理して,Symmetry index,Total symmetry index,Revised symmetry index,Total revised symmetry indexを算出した.
    まずはじめに,正常人26人について,4つのSymmetry indexを求め,正常者の外鼻の左右対称性の範囲を知った.
    33名の検者(九大歯学部口腔外科勤務者)に20名の唇裂鼻のカラースライドを見せ,高橋の分類に従って対称性の評点をつけさせ,同じ対象のTotal symmetry index,Total revised symmetry indexを計算し,二つの判定法の結果の回帰係数と相関係数を求めた結果,前者と二っのindexはよく一致することがわかった.
  • 岡崎 恵子, 加藤 正子, 鈴木 規子, 阿部 雅子
    1980 年 5 巻 2 号 p. 154-161
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋裂患者にみられる口蓋化構音に対し,ダイナミック・パラトグラフ(以下D.Pとする)による構音訓練が有効か否かを検討した.
    対象症例は口蓋裂の術後患者5例で,男子3例,女子2例,年齢は5歳から19歳であり,鼻咽腔閉鎖機能は良好であるが,歯音,歯茎音のすべてまたはその一部が口蓋化構音であった.
    D.Pによる構音訓練の結果,次の結論を得た.
    1.D.Pによる訓練で,すべての症例において構音は正常となった.訓練期間は3ケ月から1年2ケ月である.
    2.D.P.により口蓋化構音に特徴的な舌と口蓋の接触パタンを患者に明示することができ,その結果自己の誤り構音の把握が確実にできた.また,パラトグラムにより,正しい構音動作の誘導が容易であった.
    3.従来の構音訓練の方法と比較して,訓練期間は短縮されなかったが,今後,問題点を検討することにより訓練期間の短縮を図りたい.
    4.訓練実施上の留意点としては,口蓋の形態や歯の問題に対する配慮の必要性と,呼気操作の指導の併用が
  • 歯音・歯茎音における接触パターン分類の試み
    鈴木 規子, 道 健一, 高橋 正行, 片寄 清敬, 山下 夕香里, 上野 正
    1980 年 5 巻 2 号 p. 162-179
    発行日: 1980/12/30
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    口蓋裂に伴う構音障害は多様であり,そのうちでも特に舌運動の異常によるものが多いが,その判定は従来より聴覚的印象によるものが主であり,客観性に欠けることが多かった.そこで,より客観的な構音の判定法を確立し口蓋裂患者の構音治療に役立てることを目的として聴覚的に異常構音と診断され構音治療の対象となった口蓋裂術後患者20名(早期手術後鼻咽腔閉鎖良好例11例,その他9例)の歯音・歯茎音構音時の舌と口蓋の接触様式をダイナミック・パラトグラフィーによって観察し得られたパラトグラム・パターンの分類を試みた.
    分類項目は次の通りである.
    1.接触の連続性:開放型(S型,O型),閉鎖型(T型,Max型)
    2.接触部位:前方型:後方型(b型)
    3.接触の範囲:辺縁接触性(1型),広域接触性(2型)
    4.接触部位の対称性:対称性,非対称性('型)
    5.接触あ非連続の部位:正中開放性,側方開放性("型)
    これらの項目を組み合わせて歯音・歯茎音構音時の最大接触時および音産生時のパターンを分類したところ,大分類4型,小分類20型に分けることができた.
    最大接触時のパターンで健常人と異なった特徴的なものとして接触位置が硬口蓋後方へ変位したSb,Sb',Tb,Tb'型,舌が口蓋全体で接触するMax型,口蓋と接触しないO型などが多くみられた.
    最大接触時から音産生にかけての接触様式の変化としては開放持続式,閉鎖一開放式,閉鎖持続式,非接触式の4つの運動様式に大別され,健常入と異なるものとして閉鎖持続式,非接触式がみられた.
    これらの接触型,運動様式と聴覚的印象,裂型,咬合状態,口蓋形態,年令,鼻咽腔閉鎖機能,手術時期などとの関連が示唆された.
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