唇顎口蓋裂患者においては,歯の数,大きさ,形態等の異常が高頻度に認められるが,顎裂部に近接する歯では,さらに著しい位置の不正や歯軸の不正をも伴うため,臨床上その歯の処置判断に困惑することもある.
そこで著者らは,顎裂に近接する歯の異常,不正の種類,程度を調べ,さらにそれらの異常または不正に対し,どのような処置方針がとられたかを追跡調査し,今後の治療方針設定の一助とすることを目的とした.
東京医科歯科大学歯学部附属病院矯正科に来院した患者のうち,Hellmanの歯齢IIIA~IVAまでの片側性唇顎裂,片側性唇顎口蓋裂,両側性唇顎裂,両側性唇顎口蓋裂の計145名において,顎裂側の中切歯,側切歯,犬歯における歯軸の不正,位置の不正,歯数および形態の異常に関する検査を行なった.
その結果,中切歯では,舌側傾斜.顎裂側への傾斜,捻転の順に頻度が高く,正常と判断したのは,片側性唇顎口蓋裂における,僅か2.1%のみであった.側切歯では,欠如および楼小歯の頻度が最も高かった.正常と認めたものは,片側性唇顎裂における27.8%であった.犬歯では,顎裂側への傾斜,捻転を示す頻度が高かった.正常と判断された犬歯の頻度は他の2歯に比べて高かった.
次に,これらの不正を示す歯に対してとられた治療方針をみると,145例のうち,137例において積極的に矯正治療を行ない不正を治療する方針がとられており,残り8例は,そのままの状態で放置するか,抜歯する方針であった.
唇顎口蓋裂の治療にあたっては,特に顎裂に近接する歯はできる限り保存するように努め,成長期にある患者の上顎に対する外科的侵襲を最少限にとどめ,また将来の補綴処置にも不利にならないよう総合的な治療の観点から,処置方針をたてるべきであると考える.
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