日本口蓋裂学会雑誌
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6 巻, 2 号
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  • 三村 保, 大枝 直樹, 田中 勉, 椎原 保
    1981 年 6 巻 2 号 p. 1-7
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    Pushback法においては,口蓋前方部に残孔を生じることが少なくない.著者は,切歯弁(切歯動脈を茎とする島状弁)を用いることにより,十分なpush backを行いつつ,前方部を確実に閉鎖する方法を行っているので,その術式を報告した.
    切歯骨部に,上顎前歯口蓋側歯肉縁を底辺とし切歯孔の後方に頂点を持つ長い三角形の粘膜骨膜弁を形成する.切歯動脈周囲に付着する結合織を十分に剥離し,血管束を延長することにより,弁はこれを茎として移動・回転可能となる.鼻腔側の縫合線を覆うように弁をずらせた後,鼻腔側粘膜とmattress sutureする.弁の前方2ケ所を前歯口蓋側歯肉と,弁の後端を口蓋弁先端と夫々anchor sutureする.
    本法は,4-flap法等に比し次の利点を有する.(1) 弁の可動性が大きい.(2) 前後的に十分な長さを持った弁を作成できる.(3) 鼻腔側縫合線上を1枚の弁で覆うので創のし開がない.
  • ダイナミックパラトグラフィーを応用した舌運動様式の観察
    山下 夕香里, 鈴木 規子, 道 健一, 上野 正
    1981 年 6 巻 2 号 p. 8-29
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    われわれは口蓋裂患者にみられる異常構音の一種である側音化構音の本態を明らかにすることを目的として本研究を行った.被験者は早期手術により良好な鼻咽腔閉鎖機能が得られた口蓋裂術後症例7例であり,被験音はわれわれの定めた「発音時に呼気が日後部附近から口腔前庭を経て流出する異常な構音様式を側音化構音とする」という診断基準に従って,側音化構i音と診断された音260音および疑われた音33音である.研究方法は聴覚印象をコンフユージョンマトリックスにより分析し,舌運動様式をダイナミックパラトグラフィーおよび舌造影側方頭部X線規格写真等を用いて解析した.その結果次のような所見が得られた.
    1側音化構音はい列音,拗音,[s,ts,dZ]の各音と[ke,ge]にみられた.
    2舌運動様式は,音産生時に硬口蓋が舌により閉鎖されたままの閉鎖持続式であった.
    3最大接触時を含めた閉鎖時期はい列音では子音から母音,拗音では子音からわたり,/se,ze/をのぞく/s,t,z/では子音,の3時期にわけられたが,/se,ze,ke,ge/は症例によって不定であった.
    4最大接触パターンは舌が硬口蓋に広く接触するMax型が最も多く,次いでTb2型,T2型に多くみられた.
    5聴覚印象は歯音歯茎音は構音点がより後方の音に,[t/∫,d3]と[k,g],[∫]と[c]が相互に異聴される傾向であった.
    以上の所見から側音化構音は音産生時に硬口蓋と舌が広範囲に接触したままで,硬口蓋上に1呼気の開放が得られないために,呼気を臼後部附近から口腔前庭を経て口角部から流出させることにより,母音/i,e/,半母音/j/および子音/s,t,z/に生ずる異常構音であると推測された.
  • 咀噛時の口唇圧の変化
    野代 悦生, 佐藤 通泰
    1981 年 6 巻 2 号 p. 30-39
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇裂患者における口唇形成手術後の口唇圧の変化を知ることは,将来の顎の成長および歯列弓形態を予測する上で極めて重要であると思われる.
    著者は,前回カニクイザルの上口唇を実験的に縮小したときの安静時の口唇圧の経日的変化と,歯および歯周組織の変化について報告した.
    今回,前と同じ検体(成猿7頭)から得られた,咀囎時における口唇圧の経H的変化について検討を加え,先の安静時のそれとの関連について考察し次のような結果を得た.
    1・実験的上口唇縮小によって咀噛時の上口唇圧は,手術直後は急激に増大するが,以後漸時減少し,術後30日日には,術前の圧に近くなった.
    2.咀噛時の下口唇圧は手術直後にやや減少する.これは,上口唇縮小によって下口唇が弛緩したことによるもので,肉眼的にも明らかに認められる.その後15日目には術前の圧に近くなった.
    3,咀囎時の上・下口唇圧変化は,先に報告した安静時の口唇圧変化と同じような傾向を示したが圧力は高かった.
    以上のことから,安静時の口唇圧同儀口唇形成手術の顎および歯列弓への影響は,口唇形成手術後初期にはある程度の発育抑制が起こることが考えられるが,一定期間後にはあまりないものと考える.
    また,上口唇縮小の影響が下口唇弛緩となって現われるが.比較的短期間に元にもどることが明らかとなった.
  • 大山 紀美栄, 本橋 信義, 黒田 敬之
    1981 年 6 巻 2 号 p. 40-49
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂患者においては,歯の数,大きさ,形態等の異常が高頻度に認められるが,顎裂部に近接する歯では,さらに著しい位置の不正や歯軸の不正をも伴うため,臨床上その歯の処置判断に困惑することもある.
    そこで著者らは,顎裂に近接する歯の異常,不正の種類,程度を調べ,さらにそれらの異常または不正に対し,どのような処置方針がとられたかを追跡調査し,今後の治療方針設定の一助とすることを目的とした.
    東京医科歯科大学歯学部附属病院矯正科に来院した患者のうち,Hellmanの歯齢IIIA~IVAまでの片側性唇顎裂,片側性唇顎口蓋裂,両側性唇顎裂,両側性唇顎口蓋裂の計145名において,顎裂側の中切歯,側切歯,犬歯における歯軸の不正,位置の不正,歯数および形態の異常に関する検査を行なった.
    その結果,中切歯では,舌側傾斜.顎裂側への傾斜,捻転の順に頻度が高く,正常と判断したのは,片側性唇顎口蓋裂における,僅か2.1%のみであった.側切歯では,欠如および楼小歯の頻度が最も高かった.正常と認めたものは,片側性唇顎裂における27.8%であった.犬歯では,顎裂側への傾斜,捻転を示す頻度が高かった.正常と判断された犬歯の頻度は他の2歯に比べて高かった.
    次に,これらの不正を示す歯に対してとられた治療方針をみると,145例のうち,137例において積極的に矯正治療を行ない不正を治療する方針がとられており,残り8例は,そのままの状態で放置するか,抜歯する方針であった.
    唇顎口蓋裂の治療にあたっては,特に顎裂に近接する歯はできる限り保存するように努め,成長期にある患者の上顎に対する外科的侵襲を最少限にとどめ,また将来の補綴処置にも不利にならないよう総合的な治療の観点から,処置方針をたてるべきであると考える.
  • 渡辺 哲章, 香月 武, 田代 英雄
    1981 年 6 巻 2 号 p. 50-54
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    上口唇に先天的にみられる小さい陥凹はslnus,dimpleeplt,flstulaなとと呼ばれ,まれな疾患とされ,上口唇発生との関係から注目されてきた.著者らか経験した先天性上口唇dimpleの3例は正中例2例,両側例1例て,2例に丘中上口唇裂を合併していたことなとから,本症と裂奇形のかかわり合いか示唆された.治療の対象となった2例に切除を行ない,良好な結果を得た.
  • 福田 登美子, 後藤 友信, 和田 健, 宮崎 正
    1981 年 6 巻 2 号 p. 55-62
    発行日: 1981/12/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂の治療に際しては,治療の心理状態を十分配慮した治療環境を早期から整備していくことが障害改善のための一貫した治療を確立し効果を高める上で必要である.このことから,われわれは治療の初段階において母親教室を開き,本疾患の原因や治療計画,予後の展望について説明している.
    この母親教室を受講した母親が,どのような心理的変遷をたどったか,当初の母親教室は母親の心理的安定にどのように関ったかを調査する目的でアンケート調査を実施した.
    対象は,現在も治療を継続している患児のなかから2~4歳児の母親100人とした.調査項目は,(A) 出産前のこど,(B) 出産後のこと,(C) 今後の問題に関する17問から構成した.回答は自由記述法と選択法を併用した.調査結果から次のことが明らかになった.
    a)本疾患児を出産する前の母親は,本疾患を何らかの形で知っていた.しかし疾患の理解の程度にはかなりの差異があった.
    b)子供と初めて出会った時,多くの母親は強い心理的衝撃を受け,“死”を考えるものがきわめて多かった.
    c)初診時に行なっている母親教室は,母親に本疾患に関する情報を与え,その情報は母親が疾患を理解する一際に役立った.
    d)本疾患に対する系統的治療の過程で,多くの母親は疾患を理解したがぐ今後遭遇する問題については情報を与えられていない.したがって,今後の治療プログラムはそれらの情報をきめ細まかに組込んで整備していく必要が示された.
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