臨床神経学
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48 巻, 5 号
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総説
  • 木村 和美
    2008 年 48 巻 5 号 p. 311-320
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    わが国でも2005年10月に発症3時間以内の脳梗塞に対してrt-PAの使用がみとめられbrain attackの時代が到来した.2007年3月までに約5,700例に使用され,2,484例(平均70歳,投与前NIHSS中央値15)の解析によると,3カ月後の転帰でmRS0∼1 32%,死亡20%,症候性頭蓋内出血が5.2%であった.当院にて平成19年11月までに,63例(中央値74歳,NIHSSスコア中央値14)にrt-PA静注療法をおこなった.rt-PA投与直後のdramatic recoveryは8例(12.7%)で,7日目の転帰は,著効49.2%,改善15.9%,増悪12.7%であった.投与直後(1時間以内)の再開通率は43.5%で,再開通例では7日目の著効・改善が非再開通例とくらべ多かった(70% vs. 31%).非早期再開通の因子として心房細動があげられた.rt-PA投与前DWI所見をDWI-ASPECTSにて評価し,1週間後の転帰についてしらべると,転帰不良例はDWI-ASPECTSが5点以下では8例中6例,DWI-ASPECTSが6点以上では41例中2例であった(p<0.0001).以上よりrt-PA投与前のDWI-ASPECTSが5以下のばあいは,rt-PAの効果はあまり期待されないと考えられる.
症例報告
  • 白藤 俊彦, 大矢 寧, 中村 治雅, 尾方 克久, 小川 雅文, 川井 充
    2008 年 48 巻 5 号 p. 321-327
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    脳梁の脳表側と隣接した両側前頭葉に病変を呈し,生検で脱髄所見をみとめ,多発性硬化症(MS)がうたがわれた26歳女性を報告した.階段状に進行する右下肢の不全片麻痺と右下肢位置覚低下を呈した.MRIで脳梁脳表側と隣接する両側帯状回から左中心前回白質にガドリニウム(Gd)増強病変をみとめた.初発の5カ月後に延髄背側,10カ月後に右内包膝部・淡蒼球・尾状核の病変をみとめ,空間的,時間的多発性が確認された.MSの脳梁病変は一般に脳室側に生じるが,本例は脳表側で,大脳皮質に沿う病変と隣接していた.脳梁脳表側と大脳皮質下白質に連続してみえる病変は,とくに皮質下のGd増強効果をともなうばあい,MSを考える必要がある.
  • 辻 浩史, 望月 昭英, 保坂 愛, 吉澤 利弘, 玉岡 晃
    2008 年 48 巻 5 号 p. 328-332
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    症例は62歳女性で意識障害のため入院した.入院後,意識はすみやかに改善したが,血液検査で炎症所見,髄液蛋白高値をみとめた.頭部MRI上,拡散強調画像,T2強調画像にて脳梗塞様高信号域が散在していた.抗生剤,抗ウィルス薬を投与したが炎症反応は改善せず退院した.退院後,亜急性に異常行動が出現し,しだいに活動性が低下したため,再入院した.炎症反応の増悪と,頭部MRIにて脳梗塞様高信号域の増大をみとめた.脳生検にて,intravascular lymphomatosis(IVL)と診断し,rituximab併用多剤化学療法にて寛解しえた.RituximabはIVL治療において重要な追加薬剤となる可能性がある.
  • 伊藤 康幸, 森 麗, 米村 公伸, 橋本 洋一郎, 平野 照之, 内野 誠
    2008 年 48 巻 5 号 p. 333-337
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル 認証あり
    脳梗塞に続発した両側声帯麻痺の2例を報告した.症例1は,73歳,男性,脳底動脈高度狭窄によるアテローム血栓性脳梗塞.入院後,経時的に梗塞巣の拡大がみられ,両側声帯麻痺と診断されたが,声帯がほぼ閉鎖状態となり,気道閉塞音も出現したため,気管切開術を施行した.症例2は,82歳,女性,右中大脳動脈皮質領域の心原性脳塞栓症.リハビリ病院へ転院予定であったが,吸気性喘鳴がみられ,両側声帯麻痺と診断された.緊急気管内挿管を施行し,人工呼吸器管理とした後,気管切開術を施行した.脳梗塞に続発し,気道狭窄音をともなう呼吸不全では,気管切開術を必要とする両側声帯麻痺のばあいがあり,注意が必要である.
  • 高堂 裕平, 下畑 享良, 徳永 純, 河内 泉, 田中 惠子, 西澤 正豊
    2008 年 48 巻 5 号 p. 338-342
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    約1カ月前からの手指振戦と約2週前からの記憶障害を主訴に当科外来を受診した65歳男性例を報告した.記憶障害は約1カ月で軽快したが,検査入院後,ふたたび記憶障害が出現し,不眠も合併した.頭部MRI上,右側頭葉内側にT2強調画像高信号域をみとめ,辺縁系脳炎と診断した.低Na血症をみとめ,髄液細胞増多がないことより,抗VGKC抗体陽性辺縁系脳炎をうたがい,ステロイドパルス療法を施行した.低Na血症や振戦はすみやかに消失し,記憶障害や不眠も徐々に軽快した.後日,血清抗VGKC抗体陽性が判明し診断を確定した.抗VGKC抗体陽性辺縁系脳炎は自然軽快と再発がありうること,不眠や手指振戦を呈しうることを示す貴重な症例と考えられた.
短報
  • 新井 憲俊, 大淵 麻衣子, 松久 顕之, 高橋 祐二, 高津 成美
    2008 年 48 巻 5 号 p. 343-346
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル 認証あり
    高齢発症の呼吸障害をともなった延髄外側梗塞2例を報告した.症例1:86歳,男性.歩行障害,構音障害で発症した.第5病日夜呼吸不全を呈し,気管切開され,人工呼吸器管理を受けた.退院時まで同様であった.症例2:83歳,女性.嚥下障害で発症した.第3病日夜呼吸不全により呼吸器管理を受け,気管切開が施行された.発症8カ月後もCO2は貯留していた.MRI上,病変部位は症例1では比較的大きいが,症例2では小さく,呼吸障害の発症には病変の大きさは関与しないことが示唆された.むしろ嚥下障害をともなうことが特徴的であった.高齢者に生じた嚥下障害をともなう延髄外側梗塞では,発症後数日間は呼吸不全を呈することがあり注意を要する.
  • 松村 博史, 渡辺 保裕, 河本 勝之, 吉本 祐子, 古和 久典, 中島 健二
    2008 年 48 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    症例は49歳の男性である.43歳時にパーキンソン病を発症し,しばらくして嚥下時に右頸部の膨隆と咽頭部違和感に気づいた.神経学的所見上,右上肢振戦,右上下肢優位の筋強剛をみとめパーキンソン病(Yahr II)度と診断した.右頸部に嚥下時にのみ顕在化する3×3cmの膨隆をみとめた.頸部超音波,MRIより頸部の膨隆は肩甲舌骨筋症候群によるものと診断した.パーキンソン病による筋緊張の異常が,肩甲舌骨筋症候群の発症に関与した可能性が考えられた.
  • 三瀧 真悟, 福田 準, 木谷 光博
    2008 年 48 巻 5 号 p. 351-354
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性である.視力障害,全身性痙攣のため入院した.来院時CT上右横静脈洞内に高吸収域をみとめ,頭部MRI拡散強調像では両側後頭葉,頭頂葉皮質に高信号をみとめた.両側後頭葉病巣から視力障害は皮質盲と考えられた.静脈洞血栓症と診断しヘパリンナトリウム,エダラボン,浸透圧利尿薬にて加療,入院後のMRVでは左横静脈洞の描出は不良であったが,CTで高信号を呈した右横静脈洞は描出されていた.入院翌日には視力は回復,頭部CTでは右横静脈洞内の高吸収域は改善した.本症例は元来左横静脈洞が低形成であり,今回優位側である右横静脈洞に血栓および血流鬱滞がおこったが再開通したものと考えた.
  • 古賀 優子, 磯部(黒木) 紀子, 立石 貴久, 小副川 学, 大八木 保政, 吉良 潤一
    2008 年 48 巻 5 号 p. 355-358
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル フリー
    症例は56歳女性である.雷鳴頭痛を主訴に当院へ救急搬送されるも,頭部CT,髄液検査で異常なく帰宅した.しかし数日後,ふたたび雷鳴頭痛が出現し当院へ搬送され,来院時左下肢の痙攣をみとめた.MRIにて両側後頭葉を中心にADC値上昇をともなうT2延長領域をみとめ,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と診断した.高血圧や免疫抑制剤の使用歴はなかった.MRAにて両側後大脳動脈を中心に脳血管攣縮をみとめたため,Ca拮抗薬を投与し,約2週間でMRI所見と共にMRA所見も改善し,ほぼ後遺症なく回復した.雷鳴頭痛およびPRESの発症に,脳血管攣縮が強く関与していることが示唆された.
  • 杉江 正行, 石原 健司, 清水 祐樹, 大野 英樹, 河村 満
    2008 年 48 巻 5 号 p. 359-362
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/25
    ジャーナル 認証あり
    症例は34歳の男性である.思春期より下肢遠位筋の筋力低下,筋萎縮および足の変形をみとめ,病歴や各種所見よりX連鎖性Charcot-Marie-Tooth病(CMTX)と推定した.経過中,頭部MRIにて一過性の脳梁膨大部異常信号を呈したが,脳梁離断症状はともなわなかった.これまで,CMTXにおける類症が少数例報告されており,本例の病態には乏突起膠細胞上のgap junctionを形成するconnexin32蛋白の発現異常に加え,星状膠細胞の一過性機能障害の関与も推定された.
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