臨床神経学
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50 巻, 7 号
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総説
  • 伊東 大介, 八木 拓也, 二瓶 義廣, 吉崎 崇仁, 鈴木 則宏
    2010 年 50 巻 7 号 p. 449-454
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    2006年,Takahashiらにより発表された体細胞の初期化法は,数個の遺伝子導入により胚性幹細胞に匹敵する多分化能を有する人工多能性幹細胞を作成することを可能にした.このiPS細胞は,拒絶反応のない再生医療への応用が可能になるとして大きな注目を集めている.一方,神経疾患の研究においては,これまで生体よりの入手が困難であった疾患組織をiPS細胞から多量に作成することが可能となり,病態解明,創薬などに飛躍的進展をもたらすと期待されている.本稿では,神経疾患におけるiPS細胞研究の現状を概説し,病態解明,再生医療への可能性について論じる.
原著
  • 井上 泰輝, 稲富 雄一郎, 米原 敏郎, 橋本 洋一郎, 平野 照之, 内野 誠
    2010 年 50 巻 7 号 p. 455-460
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    急性期虚血性脳卒中患者のうち,発症前にワルファリンを内服していた連続197例を,脳卒中治療ガイドライン2004の推奨値に基づき,来院時PT-INRにより治療域群と非治療域群に分け,臨床像を比較した.今回発症時病型では,心原性脳塞栓症は非治療域群(61% vs 77%;p=0.03),ラクナ梗塞は治療域群(17% vs 6%;p=0.01)において,その比率が高かった.心原性脳塞栓症既往例では,治療域群において,入院時NIHSS(10 vs 18;p=0.005),退院時Barthel index(54 vs 33;p=0.03)とmodified Rankin Scale(3 vs 4;p=0.04)が良好であった.
症例報告
  • 上田 麻紀, 立石 貴久, 重藤 寛史, 山崎 亮, 大八木 保政, 吉良 潤一
    2010 年 50 巻 7 号 p. 461-466
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は31歳女性である.クローン病に対してインフリキシマブ投与開始11カ月後に無菌性髄膜炎を発症し一時軽快したが,その後に体幹失調や球麻痺が出現した.髄液検査では単核球優位の細胞数増多,ミエリン塩基性蛋白とIgG indexが上昇しており血清のEpstein-Barrウイルス(EBV)抗体は既感染パターンを示し,髄液・血液PCRにてEBV-DNAを検出した.MRIにて脳幹,大脳皮質下白質,頸髄に散在性にT2高信号病変をみとめ急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断した.各種免疫治療に抵抗性であったが,ステロイドパルス療法を反復し症状は改善した.抗TNF-α抗体製剤の副作用による脱髄が報告されているが,本症例は抗TNF-α抗体製剤投与中のEBV再活性化によって惹起されたADEMと考えられた.
  • 鮫島 祥子, 立石 貴久, 荒畑 創, 重藤 寛史, 大八木 保政, 吉良 潤一
    2010 年 50 巻 7 号 p. 467-472
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性である.74歳時に歩行困難,全身痙攣のため前医に入院したが,意識障害,四肢筋力低下が遷延し当科へ転院した.入院時に意識障害,遠位筋優位の筋萎縮,筋力低下をみとめ,頭部MRIで両側海馬にT2高信号域を,神経伝導検査で運動神経優位の末梢神経障害をみとめた.胸部CTにて肺門部のリンパ節腫脹と同部位へのFDG-PETでの集積をみとめた.血清抗Hu抗体,抗GluRε2抗体が陽性で,傍腫瘍性神経症候群による辺縁系脳炎,末梢神経障害が示唆された.免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)を施行し,臨床症状,検査所見ともに改善した.複数の抗神経抗体陽性例の報告はまれで,抗Hu抗体と抗GluRε2抗体の重複陽性例にてIVIgが有効である可能性が示唆された.
短報
  • 坂井 利行, 近藤 昌秀, 冨本 秀和
    2010 年 50 巻 7 号 p. 473-477
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    患者1は67歳男性で自動車を運転中に大声を出した直後に,患者2と患者3はそれぞれ66歳と68歳女性で活動中に,記憶障害が急激に出現したが,数時間以内に消失した.急性期の3.0 Tesla脳MRI拡散強調画像において,患者1は右海馬CA1領域に,患者2は左海馬CA1領域に,患者3は左海馬CA1領域と右海馬台に高信号域がみとめられた.頸静脈エコーにおいて患者2ではValsalva負荷時に内頸静脈の逆流をみとめた.自験例はValsalva様負荷による胸腔内圧の上昇や上肢の過度の運動による静脈還流増大が誘因となり,脳静脈還流圧上昇をきたし,虚血に脆弱な海馬CA1領域に静脈性虚血を生じた可能性が示された.
  • 正崎 泰作, 荒畑 創, 荒木 栄一, 古谷 博和, 藤井 直樹
    2010 年 50 巻 7 号 p. 478-481
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は52歳男性である.主訴は転倒する発作,右手の使いにくさとものわすれであった.神経学的に右上肢の不随意運動と巧緻運動障害,高次脳機能障害をみとめた.血清と髄液の梅毒反応は強陽性,左大脳半球は脳MRIで萎縮,脳血流シンチで血流低下,脳波で徐波化をみとめた.バルプロ酸ナトリウムの内服後に転倒発作は軽減した.Lissauer型進行麻痺(LNS)と診断し,PCG(2,400万単位/日)の2週間の投与後に,右上肢の巧緻運動障害と高次脳機能障害,血清と髄液の梅毒反応,画像所見が改善した.LNSは巣症状と限局性脳委縮を呈する神経梅毒のまれな亜型であり,非可逆的神経障害にいたる前の早期診断と治療が重要と考えられた.
  • 中村 憲道, 重藤 寛史, 磯部 紀子, 田中 正人, 大八木 保政, 吉良 潤一
    2010 年 50 巻 7 号 p. 482-484
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性.某年7月,左前腕に紫斑が出現.血小板数1.1万/μl ,血小板関連自己抗体陽性であり,特発性血小板減少性紫斑病と診断された.翌月初旬より左手指および左下腿の脱力と異常感覚,両下腿外側の異常感覚が出現した.来院時所見では,左尺骨神経領域の感覚障害と筋力低下,両側浅腓骨神経領域の感覚障害,左前脛骨筋の筋力低下をみとめ多発単神経障害の病像を呈していた.ステロイド治療による血小板数の増加とともに脱力,感覚障害も改善した.特発性血小板減少性紫斑病に関連した多発単神経障害と考えられ,免疫学的機序による障害が推察された.
  • 鴨川 賢二, 奥田 真也, 冨田 仁美, 岡本 憲省, 奥田 文悟
    2010 年 50 巻 7 号 p. 485-488
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性である.短時間の失声と無動をくりかえすため入院した.垂直方向の眼球運動制限,頸部・体幹の筋強剛,四肢のパラトニア,開脚小刻み歩行を呈していた.発作時には発語と動作が停止し,強直肢位をとり,吹き出し呼吸となって1分以内に回復した.発作中の意識は保たれていた.頭部MRIは進行性核上性麻痺とラクナ梗塞を示唆する所見であった.脳波では前頭葉徐波がめだち,123I-iomazenil SPECTの3D-SSPで補足運動野近傍の集積が低下していた.カルバマゼピンにより発作は消失した.陰性運動現象を主徴とする補足運動野発作が高齢者においても発症しうることには留意すべきである.
  • 小早川 優子, 田中 弘二, 松本 省二, 田中 公裕, 川尻 真和, 山田 猛
    2010 年 50 巻 7 号 p. 489-492
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は70歳女性である.4年前に慢性の頭痛があり,特発性肥厚性硬膜炎の診断で副腎皮質ステロイド剤治療にて軽快した.3年前に左耳痛,耳漏,難聴が出現し,1年前に真珠腫性中耳炎と診断され,3カ月前に左乳突削開術,鼓室形成術を受けた.術後耳症状は改善したが左側頭部痛を自覚し,術後3カ月の頭部MRIにて左前頭部を中心に肥厚性硬膜炎の再発をみとめた.副腎皮質ステロイド剤治療のみで改善したことから感染性の機序は否定的で,中耳炎にともなう慢性炎症や手術侵襲による炎症が再発に関与したと考えられた.特発性肥厚性硬膜炎は,耳科的炎症性疾患の合併または手術侵襲にともなって再発することがあり,注意深い経過観察が必要である.
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