臨床神経学
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
52 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
楢林賞
  • 岡澤 均
    2012 年 52 巻 2 号 p. 63-72
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    ハンチントン病ではハンチンチン遺伝子のCAGリピート伸長により,変異RNAと変異タンパクが産生され,神経細胞の機能障害と最終的な細胞死を誘発する.私たちは20年近く,網羅的アプローチ(オミックス)をもちいてハンチントン病ならびに関連するポリグルタミン病の分子病態を解析してきた.その結果,PQBP1,Ku70,HMGB,Maxer,Omiなどの新たな病態関連分子を同定し,転写,スプライシング,DNA損傷修復という核機能に深くかかわる新たな分子病態が存在することを,機能変化の面から明らかにしてきた.今後,これらのターゲット分子を介した分子標的治療の開発が期待できる.
症例報告
  • 久徳 弓子, 宮崎 裕子, 山下 陽三, 桑野 良三, 村上 龍文, 砂田 芳秀
    2012 年 52 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は45歳頃よりものわすれがあり当科入院した女性である.入院時WAIS-R FIQ 83,WMS-R一般的記憶63,注意/集中力107と健忘が主体であった.頭部MRIにて両側海馬領域と頭頂葉の軽度の萎縮をみとめた.健忘型MCIと暫定診断したが,認知機能は増悪し5年後にはパーキンソニズムと前頭葉徴候が出現した.タウ遺伝子変異IVS10 C>Tをみとめ,タウ遺伝子変異によるFTDP-17と確定診断した.典型的なFTDの臨床像を呈した妹にも同じ変異をみとめたが,表現型は姉妹間でことなった.本症は臨床症状が多様であり詳細な病歴聴取と経過観察,積極的な遺伝子解析を要する.
  • 徳重 真一, 前川 理沙, 能勢 頼人, 椎尾 康
    2012 年 52 巻 2 号 p. 79-83
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は45歳男性である.後頭部痛で発症,歩行のふらつき・右半身の発汗低下をきたし第6病日に来院した.頭部MRIで右延髄背外側に急性期梗塞をみとめ入院.尿閉のため膀胱カテーテルを留置した.第8病日のシストメトリーでは膀胱収縮能および尿意は正常であったが,膀胱カテーテルを抜去したところ自排尿は困難であった.原因として,排尿筋外括約筋協調不全(DSD)を考えた.第19病日には排尿は可能となっていた.延髄外側梗塞にともなう排尿障害の報告はしらべえたかぎりでは過去に5例のみと少なく,全例で膀胱収縮能の異常を呈した.膀胱収縮能が正常で排尿障害をきたした延髄外側症候群の例は本稿が初の報告となる.
  • 上野 亜佐子, 米田 誠, 木村 有一, 大越 忠和, 内木 宏延, 栗山 勝
    2012 年 52 巻 2 号 p. 84-89
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性である.糖尿病歴あり.副鼻腔を原発とし,眼窩への炎症浸潤がみとめられた.とくに両側内頸動脈が侵襲され,高度狭窄を生じ多発性脳梗塞をひきおこした.髄液β-D-glucan陰性.副鼻腔原発,強い血管侵襲性より接合菌症,またはアスペルギルス症がうたがわれ,アムホテリシンBリポソーム製剤,ボリコナゾール投与がおこなわれたが死亡.剖検では接合菌が確認された.接合菌症はまれで特異的マーカーに乏しく,診断困難な疾患である.とくにアスペルギルス症との鑑別が問題となるが,接合菌症はβ-D-glucan陰性で,糖尿病有病率が高率であることなどが特徴である.致死率が高く,より早期の適切な診断と治療が望まれる.
  • 細井 泰志, 内山 剛, 吉田 眞理, 武地 大維, 清水 貴子, 大橋 寿彦, 大月 寛郎
    2012 年 52 巻 2 号 p. 90-95
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は右ききの59歳女性である.53歳時,約1年前からの頭痛に対し撮影した頭部MRIにて,両側頭頂後頭葉白質にT2強調画像で高信号を呈する病変がみられた.合併する関節リウマチを考慮し,一時的にプレドニゾロンを内服したが,白質病変は増大し皮質下白質におよび,T2*強調画像で左後頭葉皮質および皮質下白質の微小出血をみとめた.原因検索のために右後頭葉から脳生検をおこない脳アミロイド血管症と診断した.自然経過で経過観察したところ,脳生検から約5カ月後の頭部MRIでは白質病変は縮小したが,微小出血は増加した.可逆性の大脳白質病変を呈する病態として脳アミロイド血管症を考慮する必要がある.
  • 中野 正子, 梅原 藤雄
    2012 年 52 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は40代女性である.2週間前から立位で増強する頭痛が出現した.頭部MRIで硬膜の全周性造影効果をみとめ,RI脳槽造影で腰椎レベルから髄液漏出をみとめたことから脳脊髄液漏と診断した.入院後,顔をみても誰かわからないという訴えがあった.Cambridge face memory testで正答率が著明に低下しており,相貌失認と判断した.頭部MRIで紡錘状回下面をふくむ多発性硬膜下血腫,SPECTで大脳全体,紡錘状回をふくむ側頭葉内側部での血流低下をみとめた.輸液・燐酸コデイン内服・止血剤で経過をみたところ,頭痛・相貌失認は軽快した.本例では,右紡錘状回をふくむ側頭葉―後頭葉移行部付近が相貌失認の病巣である可能性が示唆された.
  • 古木 美紗子, 大久保 卓哉, 太田 浄文, 石川 欽也, 横田 隆徳, 水澤 英洋
    2012 年 52 巻 2 号 p. 102-105
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は50歳男性である.亜急性に両側の視力低下・視野障害を呈し入院.視力0.07/0.09,両側中心視野欠損,右Marcus Gunn瞳孔,左前腕および左下腿の感覚障害をみとめた.眼底所見は異常をみとめなかった.頭部MRI T2強調画像では右視神経に高信号域,視交叉の前方で腫脹があり,両側視神経に淡い造影効果をみとめた.ステロイドパルス・血漿交換・免疫抑制剤により感覚障害は改善したが視力は改善しなかった.血液検体による遺伝子解析にてミトコンドリアDNA:G11778A点変異を確認しLHONと診断した.LHONでは亜急性期にまれに視神経にMRIで造影効果や腫脹をみとめることがあり視神経炎との鑑別が重要である.
短報
  • 植松 未帆, 飛澤 晋介, 長尾 雅裕, 松原 四郎, 水谷 俊雄, 澁谷 誠
    2012 年 52 巻 2 号 p. 106-110
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は50歳女性である.掌蹠膿疱症,右大腿骨骨髄炎,左胸肋鎖関節痛の既往があり,1年間にわたる高度の左側頭部痛にて受診した.赤沈亢進とCRP高値を呈し,頭部MRIで左側頭筋の腫脹および同部位と左頭頂骨・硬膜の造影効果,骨シンチグラフィで左頭頂部,左胸肋鎖関節,右大腿骨などの異常集積を示した.左頭頂骨の生検では側頭頭頂筋の筋束周囲の膠原線維増生,骨髄への炎症細胞浸潤,骨の間質の線維化をともなう壊死,慢性炎症細胞浸潤をみとめ,培養陰性であり,SAPHO症候群の頭部病変と診断した.無菌性の骨関節炎や過骨症・滑膜炎に掌蹠膿疱症や座瘡などの皮膚症状をともなうSAPHO症候群ではまれな頭部病変により重篤な頭痛を生じえる.
  • 宇野田 喜一, 伊藤 巧, 中嶋 秀人
    2012 年 52 巻 2 号 p. 111-113
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/02/22
    ジャーナル フリー
    症例は40歳男性である.左腰背部から臀部にかけて激痛が突発し,その後に左下肢の筋力低下が進行した.大腿四頭筋,前脛骨筋の筋力低下と筋萎縮をみとめ,左膝蓋腱反射は消失していた.針筋電図検査で左大腿四頭筋に脱神経電位をみとめ神経痛性筋萎縮症の所見と一致した.造影MRIにて第3-4腰椎レベルの左側脊髄神経から神経根部にかけてガドリニウム増強効果をみとめ,腰部神経根症と診断した.ステロイドパルス療法により疼痛は消失し,ひき続き施行した免疫グロブリン大量静注療法により筋力の改善をみとめた.本症のような症例では筋萎縮を防ぐために早期診断と治療が重要であり,造影MRIは病変部の把握と診断に有用であると考えられた.
feedback
Top